IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】コムギのゲノム編集方法、及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20241217BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20241217BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20241217BHJP
【FI】
C12N15/09 100
A01H1/00 A ZNA
A01H5/00 A
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020151998
(22)【出願日】2020-09-10
(65)【公開番号】P2021061824
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2019186472
(32)【優先日】2019-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 科学研究費助成事業 2018年度研究成果報告書、令和2年3月30日発行 https://kaken.nii.ac.jp/ja/report/KAKENHI-PROJECT-17K19249/17K19249seika/
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】柳楽 洋三
(72)【発明者】
【氏名】濱田 晴康
(72)【発明者】
【氏名】三木 隆二
(72)【発明者】
【氏名】田岡 直明
(72)【発明者】
【氏名】今井 亮三
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 祐也
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-000260(JP,A)
【文献】特開2017-205104(JP,A)
【文献】国際公開第2017/195906(WO,A1)
【文献】特開2013-202023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00- 3/00
C12N 1/00- 7/08
A01H 1/00-17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノム編集手段により、Rht遺伝子に変異を有する半矮性コムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入する工程を含むことを特徴とする半矮性コムギのゲノム編集方法。
【請求項2】
前記Rht遺伝子に変異を有する半矮性コムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入する工程が、前記ゲノム編集手段が被覆された微粒子を前記Rht遺伝子に変異を有する半矮性コムギの茎頂に撃ち込む工程である、請求項1に記載の半矮性コムギのゲノム編集方法。
【請求項3】
前記ゲノム編集手段が、前記Rht遺伝子に変異を有する半矮性コムギのSD1遺伝子を標的とするガイドRNA、又は前記Rht遺伝子に変異を有する半矮性コムギのSD1遺伝子を標的とする前記ガイドRNAをコードする核酸のいずれかと、核酸代謝酵素、又は前記核酸代謝酵素をコードする核酸のいずれかと、を含む、請求項1から2のいずれかに記載の半矮性コムギのゲノム編集方法。
【請求項4】
前記核酸代謝酵素が、ヌクレアーゼ、又はデアミナーゼである、請求項3に記載の半矮性コムギのゲノム編集方法。
【請求項5】
前記微粒子の平均粒径が、0.3μm以上1.5μm以下である、請求項2から4のいずれかに記載の半矮性コムギのゲノム編集方法。
【請求項6】
前記Rht遺伝子に変異を有する半矮性コムギの茎頂は、完熟種子胚の茎頂であり、前記完熟種子胚の茎頂が、完熟種子から胚乳、鞘葉、葉原基、及び余分な胚盤を除去し、露出させた茎頂である、請求項2から5のいずれかに記載の半矮性コムギのゲノム編集方法。
【請求項7】
前記Rht遺伝子に変異を有する半矮性コムギの茎頂は、未熟胚の茎頂であり、前記未熟胚の茎頂が、受粉後8日から35日の未熟種子から胚乳、鞘葉、葉原基、及び余分な胚盤を除去し、露出させた茎頂である、請求項2から5のいずれかに記載の半矮性コムギのゲノム編集方法。
【請求項8】
ABD全ゲノムにおいて、前記SD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入する、請求項1から7のいずれかに記載の半矮性コムギのゲノム編集方法。
【請求項9】
前記ガイドRNAは、配列番号11で表される配列又は配列番号11で表される配列と90%以上の配列同一性を有する配列、配列番号12で表される配列又は配列番号12で表される配列と90%以上の配列同一性を有する配列、若しくは配列番号13で表される配列又は配列番号13で表される配列と90%以上の配列同一性を有する配列である、請求項3から8のいずれかに記載の半矮性コムギのゲノム編集方法。
【請求項10】
前記Rht遺伝子に変異を有する半矮性コムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入する工程により、稈長が75cm以下の半矮性コムギを得る、請求項1から9のいずれかに記載の半矮性コムギのゲノム編集方法。
【請求項11】
ゲノム編集手段により、Rht遺伝子に変異を有する半矮性コムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入する工程と、
前記Rht遺伝子に変異を有する半矮性コムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入した組織を生育させ、植物体を得る工程と、を含むことを特徴とするSD1遺伝子変異を有する半矮性コムギの作製方法。
【請求項12】
前記Rht遺伝子に変異を有する半矮性コムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入する工程が、前記ゲノム編集手段が被覆された微粒子を前記Rht遺伝子に変異を有する半矮性コムギの茎頂に撃ち込む工程である、請求項11に記載のSD1遺伝子変異を有する半矮性コムギの作製方法。
【請求項13】
前記植物体からゲノム編集された植物体を選択する工程をさらに含む、請求項11から12のいずれかに記載のSD1遺伝子変異を有する半矮性コムギの作製方法。
【請求項14】
前記ゲノム編集された植物体を成長させる工程をさらに含む、請求項13に記載のSD1遺伝子変異を有する半矮性コムギの作製方法。
【請求項15】
前記Rht遺伝子に変異を有する半矮性コムギが、Rht-B1遺伝子に変異を有する半矮性コムギである、請求項11から14のいずれかに記載のSD1遺伝子変異を有する半矮性コムギの作製方法。
【請求項16】
前記SD1遺伝子変異を有する半矮性コムギの稈長が75cm以下である、請求項11から15のいずれかに記載のSD1遺伝子変異を有する半矮性コムギの作製方法。
【請求項17】
Rht遺伝子に変異を有し、SD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換が導入されており、
稈長が75cm以下であることを特徴とするSD1遺伝子変異を有する半矮性コムギ。
【請求項18】
ABD全ゲノムにおいて、前記SD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換が導入されている、請求項17に記載の半矮性コムギ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コムギのゲノム編集方法、SD1遺伝子変異を有するコムギの作製方法、及びSD1遺伝子変異を有するコムギに関する。
【背景技術】
【0002】
コムギの収量、及び品質の低下を引き起こす倒伏は、コムギの稈長に相関することが知られている(例えば、非特許文献1から3参照)。
「緑の革命」は,コムギ農林10号に由来する半矮性遺伝子Rht-B1を世界中の品種に育種的に導入し、大幅な短稈化とそれに伴う増収を世界規模でもたらした。Rht-B1遺伝子は、植物生長ホルモン、ジベレリンの受容に関わるタンパク質をコードしており、ジベレリンに対して不感応性を示すことから、短稈化がもたらされた。
その後、イネにおいても「緑の革命」が起きたが、コムギとは別の遺伝子が利用された。6倍体のコムギと異なり、2倍体であるイネにおいては、Rht相同遺伝子変異は極矮性となり、育種利用できなかった。イネにおいては、別のSD1遺伝子が利用された。SD1遺伝子はジベレリンの生合成酵素をコードしており、変異型SD1ではその合成が抑えられるため半矮性となる(例えば、特許文献1参照)。
Rht遺伝子変異をもつ半矮性コムギ品種を更に短稈化することができれば、更なる増収が見込まれる。SD1遺伝子はその候補となるが,コムギにおけるSD1変異は未だ見出されていない。
また、近年、新しい形質転換技術として、標的遺伝子を特異的に改変させることができるゲノム編集技術が開発されている。
【0003】
しかしながら、6倍体であるコムギにおいては、ABD全ゲノムのSD1遺伝子が全て破壊されて初めて半矮性の形質転換体が得られることより、従来の技術を用いて半矮性の形質転換体を作製することは、非常に長期間を要するものであり技術的に不可能であると考えられていた(例えば、非特許文献4参照)。
【0004】
したがって、短期間で効率良くコムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入することのできるコムギのゲノム編集方法、及び、短期間で効率良くコムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入し、倒伏耐性を有するコムギを得ることのできるSD1遺伝子変異を有するコムギの作製方法は未だ提供されておらず、その速やかな提供が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-000260号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】日本作物学会記事 2014 83:136-142
【文献】農研機構研究報告 2017 1:1-13 「日本のコムギコアコレクション」の作成と評価
【文献】関東東海北陸農業 研究成果情報 2015 関東東海・水田畑作物部会 [技術] 9 硬質小麦「タマイズミ」の高タンパク質化のための栽培法
【文献】Proc Natl Acad Sci U S A. 2017 114:E913-E921
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、短期間で効率良くコムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入することのできるコムギのゲノム編集方法、及び、短期間で効率良くコムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入し、倒伏耐性を有するコムギを得ることのできるSD1遺伝子変異を有するコムギの作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ゲノム編集手段により、コムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入する工程を含むコムギのゲノム編集方法を採用することにより、短期間で効率良くコムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入することのできる、コムギのゲノム編集方法が提供でき、ゲノム編集手段により、コムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入する工程と、前記コムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入した組織を生育させ、植物体を得る工程と、を含むSD1遺伝子変異を有するコムギの作製方法を採用することにより、短期間で効率良くコムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入し、倒伏耐性を有するコムギを得ることのできるコムギの作製方法が提供できることを知見した。
【0009】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
<1> ゲノム編集手段により、コムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入する工程を含むことを特徴とするコムギのゲノム編集方法である。
<2> ゲノム編集手段により、コムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入する工程と、前記コムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入した組織を生育させ、植物体を得る工程と、を含むことを特徴とするSD1遺伝子変異を有するコムギの作製方法である。
<3> SD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換が導入されていることを特徴とするSD1遺伝子変異を有するコムギである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、短期間で効率良くコムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入することのできる、コムギのゲノム編集方法、及び、短期間で効率良くコムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入し、倒伏耐性を有するコムギを得ることのできるコムギの作製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A図1Aは、実施例1における、SD1遺伝子ファミリーの系統樹を示す図である。
図1B図1Bは、実施例1における、コムギのA、B、及びDゲノムにおける各SD1のアミノ酸配列を示す図である。
図1C図1Cは、実施例2における、ゲノム編集のターゲット部位を示す図である。
図2A図2Aは、実施例3における、In vitro消化解析の結果を示す図である。レーンMはマーカー、レーン1はターゲット1及び3を含むDNA断片、レーン2はターゲット1の生成物、レーン3はターゲット3の生成物、レーン4はターゲット2を含むDNA断片、レーン5はターゲット2の生成物を示す。
図2B図2Bは、実施例4における、露出後のコムギ茎頂を示す写真である。
図2C図2Cは、実施例4における、In planta法による変異導入についての茎頂段階でのCAPS解析結果を示す図である。レーンMはマーカー、レーン#1から#5は各ターゲットについての各5サンプルの茎頂由来のDNA(制限酵素の添加あり)、レーンWT(+)は変異導入していない茎頂由来のDNA(制限酵素の添加あり)、レーンWT(-)は変異導入していない茎頂由来のDNA(制限酵素の添加なし)を示す。
図3A図3Aは、実施例5における、T0(5葉)段階でのAゲノム(上段)、Bゲノム(中段)、及びDゲノム(下段)についてのCAPS解析結果を示す図である。レーンH1からH16は、各サンプル、WT/DはWild-Type/Digested、WT/UはWild-Type/Untreatedを示す。
図3B図3Bは、実施例5における、T0(5葉)段階での各サンプル(H1、H3、H4、及びH7)のDNAシーケンス結果を示す図である。
図4A図4Aは、実施例6における、T1植物(T1種子)段階でのCAPS解析結果を示す図である。
図4B図4Bは、実施例6における、T1植物(T1種子)段階でのDNAシーケンス結果を示す図である。
図4C図4Cは、実施例7における、T1植物(T1種子)段階でのRT-PCRによるSD1遺伝子の発現量の解析結果を示す図である。
図5A図5Aは、実施例8における、野生型株とT2植物の草丈を示す写真である。
図5B図5Bは、実施例8における、野生型株とT2植物の草丈を測定した結果を示す図である。
図5C図5Cは、実施例8における、野生型株とT2植物から収穫した種子数とその重量を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(コムギのゲノム編集方法)
本発明のコムギのゲノム編集方法は、ゲノム編集手段により、コムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入する工程を含み、さらにその他の工程を含むことができる。
【0013】
<ゲノム編集手段により、コムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入する工程>
前記ゲノム編集手段により、コムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入する工程としては、特に制限はなく、公知の遺伝子工学的手法を用いることができ、例えば、アグロバクテリウム法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、PEG-リン酸カルシウム法、リポソーム法、マイクロインジェクション法、ウィスカー法、プラズマ法、レーザーインジェクション法などによる工程が挙げられる。
【0014】
前記アグロバクテリウム法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エレクトロポレーション法により、ゲノム編集手段をアグロバクテリウムに導入し、コムギの茎頂、カルス、胚盤などに前記アグロバクテリウムを感染させる方法などが挙げられる。
【0015】
<<ゲノム編集手段>>
前記ゲノム編集手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ガイドRNA、又は前記ガイドRNAをコードする核酸のいずれかと、核酸代謝酵素、又は前記核酸代謝酵素をコードする核酸のいずれかと、の組合せなどが挙げられる。
これらの中でも、ゲノム編集効率の点から、SD1遺伝子を標的とするガイドRNA、又は前記SD1遺伝子を標的とするガイドRNAをコードする核酸のいずれかと、核酸代謝酵素、又は前記核酸代謝酵素をコードする核酸のいずれかと、の組合せが好ましく、SD1遺伝子を標的とするガイドRNAと、核酸代謝酵素と、の組合せがより好ましい。
【0016】
前記SD1のアミノ酸配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イネSD1のアミノ酸配列(配列番号1)のコムギオルソログなどが挙げられる。
【0017】
前記イネSD1のアミノ酸配列のコムギオルソログとしては、例えば、TRIAE CS42 3AL TGACv1 194412 AA0632590.1(配列番号2)、TRIAE CS42 3B TGACv1 223804 AA0787660.1(配列番号3)、及びTRIAE CS42 3DL TGACv1 249609 AA0852340.1(配列番号4)、並びにこれらのホモログなどが挙げられる。
【0018】
前記ホモログとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、配列番号1の配列との配列同一性が、70%以上の配列同一性が好ましく、75%以上の配列同一性がより好ましく、80%以上の配列同一性がさらに好ましく、85%以上の配列同一性が特に好ましく、配列番号2から4のいずれかの配列との配列同一性が、80%以上の配列同一性が好ましく、85%以上の配列同一性がより好ましく、90%以上の配列同一性がさらに好ましく、95%以上の配列同一性が特に好ましい。
【0019】
前記ガイドRNAの長さの下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、15ヌクレオチド以上が好ましく、16ヌクレオチド以上がより好ましく、17ヌクレオチド以上がさらに好ましく、18ヌクレオチド以上が特に好ましく、19ヌクレオチド以上がさらに特に好ましく、20ヌクレオチド以上が最も好ましい。
前記ガイドRNAの長さの上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、30ヌクレオチド以下が好ましく、25ヌクレオチド以下がより好ましく、22ヌクレオチド以下がさらに好ましく、20ヌクレオチド以下が特に好ましい。
前記ガイドRNAは、tracr配列に融合しているガイド配列を含んでいてもよい。
【0020】
前記SD1遺伝子を標的とするガイドRNAとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、下記のプライマーセットを用いて製造されるもの、下記のプライマーセットの配列に対して配列同一性を有するプライマーセットを用いて製造されるもの、下記のターゲット配列1~3のいずれかで表される配列、及び下記のターゲット配列1~3の配列に対して配列同一性を有する配列などが挙げられる。
これらの中でも、プライマーセット2を用いて製造されるもの、プライマーセット2の配列に対して配列同一性を有するプライマーセットを用いて製造されるもの、ターゲット配列2、及びターゲット配列2の配列に対して配列同一性を有する配列が好ましい。
【0021】
前記配列同一性としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、80%以上の配列同一性が好ましく、85%以上の配列同一性がより好ましく、90%以上の配列同一性がさらに好ましく、95%以上の配列同一性が特に好ましい。
【0022】
プライマーセット1(F):TAATACGACTCACTATAGCGCGGTGTACGACCTCCGGA(配列番号5)
プライマーセット1(R):TTCTAGCTCTAAAACTCCGGAGGTCGTACACCGCG(配列番号6)
プライマーセット2(F):TAATACGACTCACTATAGGGCTGGAGGTCCTCGTCGA(配列番号7)
プライマーセット2(R):TTCTAGCTCTAAAACTCGACGAGGACCTCCAGCC(配列番号8)
プライマーセット3(F):TAATACGACTCACTATAGACGTGGGCGTGCTGCGCAA(配列番号9)
プライマーセット3(R):TTCTAGCTCTAAAACTTGCGCAGCACGCCCACGT(配列番号10)
【0023】
ターゲット配列1:CGCGGTGTACGACCTCCGGAGGG(配列番号11)
ターゲット配列2:GGGCTGGAGGTCCTCGTCGACGG(配列番号12)
ターゲット配列3:GGGCTGGAGGTCCTCGTCGACGG(配列番号13)
【0024】
前記SD1遺伝子は、切断した部位の間に、組換えによる外来DNA挿入又は置換することによる変異を導入してもよい。
【0025】
前記核酸代謝酵素としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、ヌクレアーゼ、又はデアミナーゼなどが挙げられる。前記核酸代謝酵素は、1つ以上の核局在化シグナル(NLS)を含んでいてもよい。
【0026】
前記ヌクレアーゼとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、CRISPR-CASシステムのCASヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ活性を発現するタンパク質、TAL effector nuclease(TALEN)、TARGET AID、メガヌクレアーゼなどが挙げられる。また、前記ヌクレアーゼは、由来する生物種が異なるものであってもよく、例えば、動物、植物、微生物、ウイルスなどの遺伝子や、人工合成遺伝子を用いることができる。
【0027】
前記CASヌクレアーゼとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、I型CRISPR系酵素、II型CRISPR系酵素、III型CRISPR系酵素などが挙げられるが、II型CRISPR系酵素であるCas9が好ましい。
前記Casヌクレアーゼは、真核細胞中の発現のためにコドン最適化されていてもよい。前記Casヌクレアーゼは、標的配列の局在における1つ、又は2つの鎖の開裂を指向し得る。本発明の他の側面において、遺伝子産物の発現を減少させ、遺伝子産物はタンパク質である。
【0028】
前記Cas9としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)のCas9、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)のCas9、S.サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)のCas9、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のCas9などが挙げられるが、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)のCas9が好ましい。また、これらの生物に由来する突然変異Cas9であってもよく、ニッカーゼ(一方のDNA鎖のみにnickを入れるDNA切断酵素)として機能することが知られているCas9のD10A変異体であってもよく、Cas9ホモログ、又はオルソログであってもよい。
【0029】
前記デアミナーゼとしては、脱アミノ化酵素活性を有するものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、CRISPR-CASシステムから、ヌクレアーゼ活性を除去したものに付加して使用することができる。
【0030】
前記ガイドRNAをコードする核酸、又は前記核酸代謝酵素をコードする核酸は、ベクターに組み込まれたものを使用することができる。
【0031】
前記ベクターの種類としては、環状のプラスミドでも良く、プラスミドを制限酵素等で切断した線状DNA、線状プラスミド、導入するDNA断片のみを切り出した核酸カセット断片、又は、カセット断片の一方もしくは両方の端に0.8kb以上、1.2kb以下の核酸が付加されたDNA断片であってもよい。これらのDNA断片は、PCRによって増幅されたDNA断片であってもよい。この場合、付加される核酸としては、特に制限されず、ベクター由来の配列であってもよいが、導入の標的部位の配列がより好ましい。
前記カセット断片の端に付加される核酸の長さの下限としては、0.5kb以上が好ましく、0.8kb以上がより好ましく、1.0kb以上がさらに好ましい。
前記カセット断片の端に付加される核酸の長さの上限としては、3.0kb以下が好ましく、2.0kb以下がより好ましく、1.5kb以下がさらに好ましい。
【0032】
前記ベクターとしては、例えば、pAL系(pAL51、pAL156など)、pUC系(pUC18、pUC19、pUC9など)、pBI系(pBI121、pBI101、pBI221、pBI2113、pBI101.2など)、pPZP系、pSMA系、中間ベクター系(pLGV23Neo、pNCATなど)、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、インゲンマメモザイクウイルス(BGMV)、タバコモザイクウイルス(TMV)などが挙げられる。
【0033】
前記ベクターに目的配列を挿入する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、精製された核酸を適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトなどに挿入してベクターに連結する方法などが挙げられる。また、二重交叉組換え(double cross-over)により中間ベクターに目的配列を挿入してもよく、TAクローニング、In-Fusionクローニングなどを用いてもよい。
【0034】
前記ベクターには、前記ガイドRNAをコードする核酸、又は前記核酸代謝酵素をコードする核酸のほかに、例えばプロモーター、エンハンサー、インシュレーター、イントロン、ターミネーター、ポリA付加シグナル、選抜マーカー遺伝子などを連結することができる。
【0035】
前記プロモーターとしては、植物体内、又は植物細胞において機能し、構成的に発現するか、植物の特定の組織内あるいは特定の発育段階において発現を導くことのできるDNAであれば、植物由来のものでなくてもよい。具体例としては、例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター、El2―35Sオメガプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター(Pnos)、トウモロコシ由来ユビキチンプロモーター、イネ由来のアクチンプロモーター、タバコ由来PRタンパク質プロモーター、ADHプロモーター、RuBiscoプロモーターなどが挙げられる。翻訳活性を高める配列、例えば、タバコモザイクウイルスのオメガ配列を用いて翻訳効率を上げることができる。また、翻訳開始領域としてIRES(internal ribosomal entry site)をプロモーターの3’-下流側で、翻訳開始コドンの5’-上流側に挿入することで複数のコーディング領域からタンパク質を翻訳させることもできる。
【0036】
前記ターミネーターとしては、前記プロモーターにより転写された遺伝子の転写を終結でき、ポリA付加シグナルを有する配列であればよく、例えば、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子のターミネーター、オクトピン合成酵素(OCS)遺伝子のターミネーター、CaMV 35S ターミネーターなどが挙げられる。
【0037】
前記選抜マーカー遺伝子としては、例えば、除草剤耐性遺伝子(ビアラホス耐性遺伝子、グリフォセート耐性遺伝子(EPSPS)、スルホニル尿素系耐性遺伝子(ALS)など)、薬剤耐性遺伝子(テトラサイクリン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子など)、蛍光、又は発光レポーター遺伝子(ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニターゼ(GUS)、グリーンフルオレッセンスプロテイン(GFP)など)、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(NPT II)、ジヒドロ葉酸レダクターゼなどの酵素遺伝子が挙げられる。
ただし、本発明によれば選抜マーカー遺伝子を導入しなくても形質転換体の作製は可能である。
【0038】
前記ベクターに挿入する目的配列は1ベクターあたり複数種であってもよく、前記微粒子に被覆する組換えベクターも1微粒子あたり複数種であってもよい。また、前記ガイドRNAをコードする核酸、及び/又は前記核酸代謝酵素をコードする核酸を含む組換えベクターと、薬剤耐性遺伝子を含む組換えベクターとを別々に作製し、混合して微粒子を被覆して植物組織に撃ち込んでもよい。
【0039】
ゲノム編集の目的遺伝子は2以上であってもよく、2以上の目的遺伝子を切断できるようにベクターを構築してもよい。その場合、2種類以上のベクターを作製してもよく、1つのプラスミド上に複数のガイドRNAを発現するように挿入してもよい。
【0040】
前記ガイドRNA、及び核酸代謝酵素は、天然に存在するもの(組合せ)であってもよく、天然には存在しない組合せであってもよい。
【0041】
<<ゲノム編集手段により、コムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入する方法>>
【0042】
前記コムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入する組織としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、茎頂、カルス、胚盤などが挙げられる。
【0043】
前記コムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記ゲノム編集手段が被覆された微粒子をコムギの茎頂に撃ち込む方法が好ましい。
【0044】
前記茎頂とは、茎の先端の成長点(茎頂分裂組織)、並びに成長点、及び成長点から生じた数枚の葉原基からなる組織を含む。本発明においては、前記葉原基を除去した半球状(ドーム状)の成長点のみを茎頂として用いても良く、前記成長点、及び前記葉原基を含む茎頂や該茎頂を含む植物組織を用いてもよいが、ウイルスフリーの組織が得られる点から、前記葉原基を除去した成長点を用いることが好ましい。
【0045】
前記導入の対象となる細胞としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、茎頂分裂組織の細胞が好ましく、茎頂分裂組織中のL2層におけるL2細胞がより好ましく、茎頂分裂組織中の生殖細胞系列に移行する細胞がさらに好ましい。
前記生殖細胞系列とは、生殖細胞の源である始原生殖細胞から最終産物である卵細胞や精細胞に至るまでの生殖細胞の総称であり、前記L2層とは、茎頂分裂組織の外側から2番目の細胞層である。
【0046】
前記茎頂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、完熟種子胚の茎頂、又は未熟胚の茎頂が好ましい。
前記完熟種子胚(完熟胚)とは、完熟種子の胚であり、前記完熟種子とは、受粉後の登熟過程が終了して種子として完熟しているものをいう。なお、前記登熟過程が終了したか否かは、種子の水分含量が35%以下であるか否かで判別することができる。
前記未熟胚とは、未熟種子の胚であり、前記未熟種子とは、種子として完熟していないものをいう。未熟種子であるか否かは、上記のとおり、種子の登熟度(種子の水分含量が35%より大きい)により判別することができる。
【0047】
前記未熟胚の茎頂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、受粉後8日~35日の胚の茎頂が好ましく、受粉後10日~20日の胚の茎頂がより好ましく、受粉後15日~20日の胚の茎頂がさらに好ましい。
【0048】
前記種子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、天然種子、人工種子などが挙げられるが、天然種子が好ましい。
前記天然種子としては、天然、又はそれに近い条件下で栽培(又は培養)して得られる種子や、温室栽培により得られる種子や、インビトロ苗などの組織培養物から得られる種子などが挙げられる。
前記人工種子は、形質転換可能な茎頂が取得できるものであれば、将来開発されるものも含む。
【0049】
前記茎頂の露出方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、完熟種子、又は未熟種子から胚乳、鞘葉、葉原基、及び余分な胚盤を除去する方法が挙げられる。具体的には、完熟種子、又は未熟種子から鞘葉及び葉原基を除去することで、茎頂を露出させ、次いで、胚乳及び余分な胚盤部分を切除し、露出した茎頂を含む胚及び胚盤を寒天培地上に、茎頂を上向きに置床する。
【0050】
前記鞘葉及び葉原基、又は種皮及び子葉を除去する手段としては、実体顕微鏡下において、鞘葉及び葉原基、又は種皮及び子葉を除去することができるものであれば特に限定されず、例えば、直径0.2mm程度の針などの穿設するための器具、ピンセット、ピペット、注射器、並びにメス、及びカッターなどの切断器具が挙げられる。
前記胚乳及び余分な胚盤部分を切除する手段としては、例えば、メスなどの切断器具が挙げられる。ウイルスフリーの茎頂を得る点から、茎頂を切り出す最終段階でメスを新規な滅菌メスに取り替えることが好ましい。この場合はウイルスフリーの形質転換体を得ることができる。
【0051】
<<微粒子をゲノム編集手段により被覆する方法>>
前記ゲノム編集手段が被覆された微粒子をコムギの茎頂に撃ち込む方法における、前記ゲノム編集手段が被覆された微粒子は、微粒子を前記ゲノム編集手段により被覆することにより、得ることができる。
前記微粒子(マイクロキャリア)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、撃ち込み時における細胞内への貫通力を高める点から、高比重で、かつ、化学的に不活性であり生体に害を及ぼしにくいものが好ましく、例えば、金属微粒子、セラミック微粒子、ガラス微粒子などが挙げられる。
前記金属微粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、金属単体微粒子、合金微粒子などが挙げられる。
前記金属単体微粒子としては、金粒子、タングステン粒子などが好ましい。
【0052】
前記微粒子の平均粒径の下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.3μm以上が好ましく、0.4μm以上がより好ましく、0.5μm以上がさらに好ましく、0.6μmが特に好ましい。
前記微粒子の平均粒径の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.5μm以下が好ましく、1.4μm以下がより好ましく、1.3μm以下さらに好ましく、1.2μm以下が特に好ましく、1.1μmがさらに特に好ましく、1.0μm以下が最も好ましい。
前記平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、個数平均粒径などが挙げられる。
【0053】
前記微粒子の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、球形、立方体、ロッド状、板状などが挙げられるが、これらの中でも球形が好ましい。
【0054】
前記被覆の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記微粒子を、洗浄滅菌し、該微粒子、核酸(組換えベクター、直鎖状DNA、RNAなど)及び/又はタンパク質、CaCl、スペルミジン等をボルテックスミキサーなどで攪拌しながら加えて、核酸及び/又はタンパク質を微粒子にコーティング(被覆)し、エタノール、又はリン酸緩衝生理食塩水(PBSなど)で洗浄する方法などが挙げられる。
【0055】
前記微粒子は、ピペットマンなどを用いてマクロキャリアフィルムに可能な限り均一に塗布した後、クリーンベンチなどの無菌環境中で乾燥させることができる。タンパク質をコートした微粒子の場合は、親水性のマクロキャリアフィルムを用いるのが好ましい。
【0056】
前記親水性のマクロキャリアフィルムは、マクロキャリアフィルムに親水性フィルムを貼付しても良いし、親水性コーティングを施しても良い。
フィルムを親水化する手法としては、界面活性剤や光触媒、親水性ポリマーを利用する手法などが挙げられる。
【0057】
前記親水性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジヒドロキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ビニルピロリドン、アクリル酸、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、グルコキシオキシエチルメタクリレート、3-スルホプロピルメタクリルオキシエチルジメチルアンモニウムベタイン、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、1-カルボキシジメチルメタクリロイルオキシエチルメタンアンモニウム等の親水性モノマーの重合体が挙げられる。
【0058】
前記微粒子の被覆率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記微粒子の全表面であってもよいし、一部であってもよい。
【0059】
前記微粒子を撃ち込む手段としては、微粒子を植物細胞に撃ち込むことができるものであれば特に制限はなく、パーティクルガン法におけるパーティクルガン(遺伝子銃)などが挙げられる。植物体への導入効率から、パーティクルガン法を用いて完熟種子胚、又は未熟種子胚に導入する方法が好ましい。パーティクルガン法は、前記微粒子に前記ゲノム編集手段をコーティングして細胞組織に撃ち込む方法であり、単子葉植物のようにアグロバクテリウムの感染効率が低い場合に有効である。
【0060】
前記パーティクルガン法を用いたゲノム編集方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、微粒子が塗布されたマクロキャリアフィルム、ターゲットの完熟胚、又は未熟胚の茎頂を置床したプレートをパーティクルガン装置に設置し、ガス加速管から高圧ガスをマクロキャリアフィルムに向かって発射する方法が挙げられる。マクロキャリアフィルムはストッピングプレートで止まるが、マクロキャリアフィルムに塗布されていた微粒子はストッピングプレートを通過して、ストッピングプレートの下に設置したターゲットに貫入し、目的遺伝子が導入される。
【0061】
前記高圧ガスとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヘリウムなどが挙げられる。
【0062】
前記パーティクルガン装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Biolistic(登録商標) PDS-1000/He Particle Delivery System(BIO-RAD)などが挙げられる。
【0063】
前記ストッピングプレートとターゲットとなる茎頂との距離の上限値としては、例えば、9cm以下が好ましく、8cm以下がより好ましく、7cm以下がさらに好ましく、6cm以下が特に好ましい。
前記ストッピングプレートとターゲットとなる茎頂との距離の下限値としては、例えば、2cm以上が好ましく、3cm以上がより好ましく、4cm以上がさらに好ましい。
【0064】
前記パーティクルガン装置のガス圧としては、微粒子の種類、例えば、1,100~1,600psiが好ましく、1,200~1,500psiがより好ましい。
【0065】
前記茎頂に微粒子を撃ち込む回数の下限値としては、2回以上が好ましく、3回以上がより好ましく、4回以上がさらに好ましい。
前記茎頂に微粒子を撃ち込む回数の上限値としては、20回以下が好ましく、15回以下がより好ましく、10回以下がさらに好ましい。
【0066】
本発明のゲノム編集方法では、微粒子を撃ち込まれた細胞中では、前記ゲノム編集手段に含まれる前記ガイドRNA、前記核酸代謝酵素、又はこれらをコードする核酸等が微粒子から遊離し、核酸の場合は、核酸が核に移行して核酸代謝酵素を発現することでゲノムDNAを切断し、その修復の過程で変異が起こりゲノム編集された細胞が得られる。核酸代謝酵素の場合は、核移行シグナル(オルガネラ移行シグナルであってもよい)により核(オルガネラ)に移行し、DNAを切断することにより、ゲノム編集が起こる。
前記微粒子を撃ち込まれた細胞中では、前記ゲノム編集手段が微粒子から遊離し、核酸等がゲノムDNAにインテグレートすることで形質転換細胞を得ることもできる。ただし、ジェミニウイルスのようなプラスミド状で増殖する核酸や人工染色体を導入した場合はインテグレートせずに形質転換する場合もあり得る。
【0067】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、茎頂露出前の吸水工程などが挙げられる。
【0068】
-茎頂露出前の吸水工程-
茎頂露出前において、完熟種子、又は未熟種子を吸水させることができる。必要により吸水前に春化処理(休眠打破)をしてもよい。
吸水は、種子を水に浸種し、インキュベートすることにより行われる。また、胚乳等を除いた胚を寒天培地上でインキュベートして行ってもよい。
吸水温度は、15~25℃が好ましい。この際、一度以上、水を交換してもよい。吸水期間は、幼根が伸長を開始する前まで(1mm以下の根)、又は新しい葉原基が形成される前までが好ましい。吸水時間で表すと、種子の休眠状態にもよるが、吸水後16時間未満であり、好ましくは12時間である。この吸水工程により、種子を柔らくすることで茎頂を露出させ易くすることができる。
【0069】
前記春化処理としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、4℃で2日間処理することができる。
【0070】
(SD1遺伝子変異を有するコムギの作製方法)
本発明のSD遺伝子変異を有するコムギの作製方法は、ゲノム編集手段により、コムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入する工程と、前記コムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入した組織を生育させ、植物体を得る工程と、を含み、さらにその他の工程を含むことができる。
【0071】
ゲノム編集手段により、コムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入する工程は、前述のとおりである。
-コムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入した組織を生育させ、植物体を得る工程-
【0072】
前記生育方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記導入処理した完熟胚、又は未熟胚の茎頂、カルス、胚盤などの組織を寒天培地上で1ヶ月程度生育させた後、土へ移植する方法が挙げられる。茎頂への導入の場合、薬剤などによる選択圧をかけずに(抗生物質、植物ホルモンなどを含まない)通常の培地で生育させることによっても形質転換体を得ることができるが、薬剤耐性遺伝子をさらに導入してもよい。本発明のゲノム編集方法では、ヌクレアーゼと薬剤耐性遺伝子を同時に導入することでゲノム編集個体を選択することもできる。薬剤耐性遺伝子を導入した場合は、薬剤により形質転換細胞を選択的に培養することができる。茎頂培養に適した選択薬剤としては、例えば、スルホニル尿素系除草剤クロロスルフロン(変異型ALS遺伝子(アセト酪酸合成酵素遺伝子)導入により耐性獲得可能)などが知られている。
【0073】
薬剤耐性遺伝子を導入する場合、該薬剤耐性遺伝子は目的遺伝子、又はヌクレアーゼ遺伝子と同じベクター上にあってもよく別のベクター上にあってもよい。別々のベクター上に挿入した場合は、それらが別々の染色体に組み込まれた場合、自家受粉や戻し交配を行って後代を取ることにより目的遺伝子が導入された植物個体、又はゲノム編集された植物個体と薬剤耐性遺伝子を有する植物個体とに分離できるというメリットがある。
【0074】
<その他の工程>
-植物体からゲノム編集された植物体を選択する工程-
前記植物体からゲノム編集された植物体を選択する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記導入後の個体、又は前記導入後の生育個体について、DNAを抽出して、PCR法及び/又は電気泳動、サザンブロット法、又はCAPS解析により、目的遺伝子がゲノム編集された個体を選択する方法、目的遺伝子から発現されたRNAの有無を調べる方法、目的遺伝子から発現されたタンパク質の有無を調べる方法などが挙げられる。
前記RNAの有無は、例えばRT-PCR法などで確認することができる。ノザンブロッティングにより検出してもよい。
前記タンパク質の有無は、例えば植物片の染色、電気泳動、ELISA法、RIA、ドットイミュノバイディングアッセイ、及び/又はウエスタンブロット法などで確認することができる。
【0075】
-ゲノム編集された植物体を成長させる工程-
前記ゲノム編集された植物体を成長させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、発芽後の種子を20℃、長日環境下(16hL/8hD)人工気象室内で生育させることができる。
【0076】
以上の手法により、ゲノム編集された植物体を作出することができ、さらに前記植物体を成長させることができる。また、このようにして作出された植物は、安定的に目的遺伝子、又はゲノム編集された遺伝子の形質が発現し、又は、目的遺伝子の発現が抑制され、後代に正常に遺伝する(伝達される)。
【0077】
コムギのゲノム編集効率は、前記導入後の個体、又は前記導入後の生育個体からDNAを抽出して、PCR法及び/又は電気泳動、サザンブロット法、又はCAPS解析により、目的遺伝子がゲノム編集されたか否かを検出することができ、導入に用いた外植片数と目的遺伝子がゲノム編集された生育個体数から、ゲノム編集効率を算出する。
【0078】
インプランタ形質転換法とは、一般には組織培養の操作を含まない形質転換法であり,植物が成長する状態のまま成長点部位の細胞を形質転換させる方法である。ただし、本明細書においては、インプランタ形質転換法は、茎頂培養を用いる組織培養方法のみは含み、その他の組織培養の操作を含む方法は含まれないという意味で使用する。インプランタ法(In plant法)も同様の意味である。
【0079】
(SD1遺伝子変異を有するコムギ)
本発明のSD1遺伝子変異を有するコムギは、前述のコムギのゲノム編集方法、又は前述のSD1遺伝子変異を有するコムギの作製方法により得ることができる。
本発明のSD1遺伝子変異を有するコムギは、SD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換が導入されている。
前記SD1遺伝子変異を有するコムギとしては、ABD全ゲノムにおいて、SD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換が導入されていることが好ましい。
【0080】
前記SD1遺伝子変異を有するコムギの稈長の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、85cm以下が好ましく、80cm以下がより好ましく、75cm以下がさらに好ましい。
前記SD1遺伝子変異を有するコムギの稈長の下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、60cm以上が好ましい。
【実施例
【0081】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0082】
<実施例1:コムギSD1遺伝子配列の取得>
Grameneデータベース(http://www.gramene.org/)を使用して、コムギGA20oxのタンパク質配列情報を取得し、イネのGA20ox1、GA20ox2、GA20ox3、及びGA20ox4と比較した。neighbor-joining法により系統樹を作成したところ、系統樹はコムギ(A、B、及びDゲノム)並びにイネのタンパク質から構成される4つのクレードに分類された(図1A)。なお、ブートストラップ値は1,000で計算した。
コムギのA、B、及びDゲノムにおける各SD1のアミノ酸配列である、TRIAE CS42 3AL TGACv1 194412 AA0632590.1(配列番号2)、TRIAE CS42 3B TGACv1 223804 AA0787660.1(配列番号3)、及びTRIAE CS42 3DL TGACv1 249609 AA0852340.1(配列番号4)は、イネSD1(配列番号1)と77~78%の同一性を示した(図1B)。
【0083】
<実施例2:ゲノム編集の標的配列の選定>
図1Cに示すとおり、コムギのSD1は3つのエキソンからなり、そのうち、コムギのA、B、及びDゲノムにおける各SD1遺伝子に共通する配列から、ゲノム編集のターゲット部位として、下記のターゲット配列1、ターゲット配列2、及びターゲット配列3で表されるターゲット1~3を決定した(図1C)。
ターゲット1及び3はエキソン1に、ターゲット2はエキソン2に設計した。ターゲット配列1、2及び3において、それぞれ制限酵素認識配列がPAM配列に近接する形で設計した。
【0084】
ターゲット配列1:CGCGGTGTACGACCTCCGGAGGG(配列番号11)
ターゲット配列2:GGGCTGGAGGTCCTCGTCGACGG(配列番号12)
ターゲット配列3:GGGCTGGAGGTCCTCGTCGACGG(配列番号13)
【0085】
<実施例3:In vitro消化解析>
設計したsgRNAの効率を、in vitro消化により確認した。
【0086】
<<実施例3-1:PCRによるターゲット配列を含むDNA断片の増幅>>
コムギのゲノムDNAを用いて、A、B及びDゲノムに共通する配列を選択し、各ターゲットサイトを含む約300 bpのPCR断片を増幅した。
PCR反応液には、ゲノムDNA20ng、TaKaRa LA Taq with GC buffer(登録商標、TaKaRa)0.25U、2X GC Buffer I 5.0μL、2.5mM dNTPs、下記のプライマー対各2.5pmolを加え、滅菌蒸留水で合計10μLにフィルアップした。
【0087】
プライマーの配列(F)(ターゲット1及び3):TCCCAGCATTGACCCGTTCG(配列番号14)
プライマーの配列(R)(ターゲット1及び3):ACACCTGGAAGAACCCGTGC(配列番号15)
プライマーの配列(F)(ターゲット2):CGGACAGCAGCTCCATCATG(配列番号16)
プライマーの配列(R)((ターゲット2):GGTGTCGCCGATGTTGATGA(配列番号17)
【0088】
<<実施例3-2:sgRNAの調製>>
sgRNAはGeneArtTM Precision gRNA synthesisキット(Thermo Fisher Scientific、USA)を用いて前記キットのプロトコルに従って作製した。sgRNAのターゲット1、2及び3について、下記のプライマーセットを用いた。
【0089】
プライマーセット1(F):ターゲット1:
TAATACGACTCACTATAGCGCGGTGTACGACCTCCGGA(配列番号5)
プライマーセット1(R):ターゲット1:
TTCTAGCTCTAAAACTCCGGAGGTCGTACACCGCG(配列番号6)
プライマーセット2(F):ターゲット2:
TAATACGACTCACTATAGGGCTGGAGGTCCTCGTCGA(配列番号7)
プライマーセット2(R):ターゲット2:TTCTAGCTCTAAAACTCGACGAGGACCTCCAGCC(配列番号8)
プライマーセット3(F):ターゲット3:
TAATACGACTCACTATAGACGTGGGCGTGCTGCGCAA(配列番号9)
プライマーセット3(R):ターゲット3:TTCTAGCTCTAAAACTTGCGCAGCACGCCCACGT(配列番号10)
【0090】
<<実施例3-3:CRISPR/Cas9RNPの調製>>
Cas9 タンパク質(0.2 μg)、及びsgRNA(0.2 μg)を混合し、25℃で10分間インキュベートした。その後、1、4-ビス(3-オレオイルアミドプロピル)ピペラジンとヒストンH1タンパク質混合物(比率3:1)(1μL)を加えて25℃で5分間インキュベートした。
Cas9 タンパク質は、大腸菌を用いて、SpCas9のリコンビナントタンパク質を生産し、その後、菌体を破砕し精製を行ったものを使用した。
【0091】
<<実施例3-4:In vitro消化>>
前記CRISPR/Cas9RNP、及びターゲット配列1、2、又は3を含むDNA断片(100-200 ng)に、CutSmart buffer(登録商標、New England BioLabs)を1.0μL加えて合計10μLとし、37℃で1時間インキュベートした。反応は100℃で5分間の加熱により停止した。
生成物を、3%のアガロースゲルを用いて電気泳動して確認したところ、ターゲット配列1を含むDNA断片はほとんど分解されておらず(図2Aのレーン2)、ターゲット配列3を含むDNA断片はわずかに分解された(図2Aのレーン3)。ターゲット配列2を含むDNA断片は完全に分解された(図2Aのレーン5)。
以上から、In vitro消化ではターゲット2を切断するCRISPR/Cas9RNPが効率的であることが分かった。
【0092】
<実施例4:In plant法による茎頂段階での変異導入の確認>
植物体での変異導入効率を検討するため、前記ターゲット1、2及び3について、パーティクルガンを用いたin plant法による茎頂段階での変異導入について検討した。
【0093】
<<実施例4-1:成熟胚の調製>>
コムギ(春よ恋)の前記完熟種子をハイター(次亜塩素酸濃度6%、花王株式会社)に浸漬し、25℃で10分間振とう後、クリーンベンチ内で滅菌水で洗浄した。洗浄後、滅菌水で湿らせたキムタオルに載せ、休眠打破のため4℃にて2日間インキュベートした。その後、25℃で約12時間インキュベートし、以下の実験に用いた。
【0094】
<<実施例4-2:完熟種子胚中の茎頂の露出>>
実体顕微鏡下において、上記発芽種子の胚部分の鞘葉及び第1葉原基から第3葉原基を針(直径0.20mm)の先端を用いて除去した。その後、滅菌済みナイフを用いて、胚乳及び余分な胚盤部分を除去し、茎頂部分を完全に露出させた。露出後のコムギ茎頂を示す写真を図2Bに示した。なお、図2Bでは、茎頂にGFP遺伝子を導入している。導入遺伝子は蛍光レポーター遺伝子GFP(S65T)を含むプラスミドDNA(pUC系プラスミド)を用いた。当該遺伝子は、トウモロコシのユビキチンプロモーターと第一イントロンの制御下で発現するよう設計されたものである。ターミネーターとしては、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子のターミネーターが付加されている。
プレートの中心から直径1.0cmの円をつくるように、前記茎頂部分を完全に露出させた胚をMS-maltose培地(4.3g/L MS salt、×1MS vitamin(Sigma)、30g/L マルトース、0.98g/L MES、3%PPM(plant preservative mixture、ナカライテスク)、7.0g/L phytagel(登録商標、シグマアルドリッチ、pH5.8)に置床した(30個/プレート)。
【0095】
<<実施例4-3:金粒子の調製>>
平均粒径0.6μmの金粒子90mg(InBio Gold、 Australia)をはかり取り、70%エタノール500μLを加え、ボルテックスにてよく懸濁した。その後、遠心により金粒子を沈殿させ、エタノールを除去した。その後、RNAフリー水500μLを加えRNAフリー金粒子溶液とした。
【0096】
<<実施例4-4:sgRNAの調製>>
実施例3-2と同様にして行った。
【0097】
<<実施例4-5:CRISPR/Cas9RNP-金粒子の調製>>
Cas9 タンパク質(12μg)、sgRNA(5μg)、RNase Inhibitor(40 U)(登録商標、TaKaRa)、及びCutSmart Buffer(5μL)(登録商標、New England BioLabs)を混合し、25℃で10分間インキュベートし、CRISPR/Cas9RNPを調製した。
Cas9 タンパク質は、大腸菌を用いて、SpCas9のリコンビナントタンパク質を生産し、その後、菌体を破砕し精製を行ったものを使用した。
その後、1、4-ビス(3-オレオイルアミドプロピル)ピペラジンとヒストンH1タンパク質混合物(比率3:1)(5μL)を加えて25℃で5分間インキュベートし、さらに、前記平均粒径0.6μmの金粒子(270μg)を加えて氷上で10分間インキュベートした。その後、遠心分離を行い、上清を除去した金粒子に再度RNAフリー水(20μL)を加えた。クリーンベンチ内でマクロキャリア(Bio-rad社製)の中央に6μLずつ注ぎ、風乾させた。
【0098】
<<実施例4-6:遺伝子導入>>
パーティクルガン(Biolistic(登録商標) PDS-1000/He Particle Delivery System(BIO-RAD))を使用し、前記金粒子を1シャーレにつき3回ずつ撃ち込んだ。撃ち込み時の圧力は約94.9kgf/cm2(1,350psi)とし、標的組織までの距離は6cmとした。撃ち込み後、22℃、暗所において一晩静置した。
【0099】
<<実施例4-7:茎頂組織におけるCRISPR/Cas9による変異導入の検討>>
in planta particle bombardment(iPB)法による変異導入を確認するため、iPB(撃ち込み)2日後、茎頂からゲノムDNAを抽出してCAPS解析により確認した。各ターゲットにつき、茎頂を5個サンプルリングし、それを1つのサンプル(例えば、#1)として解析した(図2Cの#1から#5)。
【0100】
<<<実施例4-7-1:ゲノムDNAの抽出>>>
植物体から針を用いて茎頂を取り出し、バッファー(0.1M Tris-HCl(pH 9.5)、1M KCl、10mM EDTA)10μLを加えて、95℃で10分間加熱したものをPCRのテンプレートとして使用した。
【0101】
<<<実施例4-7-2:PCRによるターゲット配列を含むDNA断片の増幅>>>
実施例3-1と同様にして行った。
【0102】
<<<実施例4-7-3:Cleaved amplified polymorphic sequences (CAPS)による変異導入の確認>>>
PCRにより増幅したDNA断片2μL、CutSmart Buffer0.5μL、制限酵素(ターゲット1:BspEI;ターゲット2:SalI;ターゲット3:FspI)(登録商標、New England BioLabs)0.2μL、を滅菌水で5μLにフィルアップし、37℃で5時間消化した。
消化物を、3%のアガロースゲルを用いて電気泳動して確認したところ、ターゲット1及びターゲット3のサンプルでは変異が確認できなかった(図2Cの上段、及び下段)。ターゲット2のレーン4(M4)ではDNA断片の切れ残りが確認できた(図2Cの中段)。
以上から、In plant法において、ターゲット2の標的配列を用いた場合に、効率的にゲノム編集されることが分かった。
【0103】
<実施例5:T0(5葉)段階での変異導入の確認>
<<実施例5-1~5-6>>
実施例4-1~4-6と同様にして、成熟胚の調製、完熟種子胚中の茎頂の露出、金粒子の調製、sgRNAの調製、CRISPR/Cas9RNP-金粒子の調製、遺伝子導入を行った。
【0104】
<<実施例5-7:T0(5葉)段階におけるCRISPR/Cas9による変異導入の検討>>
iPB法による茎頂組織への変異導入後の、T0(5葉)における変異導入を確認するため、ターゲット2を用いてiPB後、5葉がでるまで生育し、そこからゲノムDNAを抽出してCAPS解析を行った。
【0105】
<<<実施例5-7-1~5-7-2>>>
PCRによるターゲットを含むDNA断片の増幅は、実施例4-7-1及び4-7-2と同様にして行った。
【0106】
<<<実施例5-7-3:Cleaved amplified polymorphic sequences (CAPS)による変異導入の確認>>>
PCRにより増幅したDNA断片2μL、CutSmart Buffer0.5μL、制限酵素(SalI)(登録商標、New England BioLabs)0.2μL、を滅菌水で5μLにフィルアップし、37℃で5時間消化した。
消化物を、3%のアガロースゲルを用いて電気泳動して確認した。
【0107】
上記の通り、iPB法でCRISPR/Cas9RNPを茎頂組織に導入し、生育後5葉からゲノムDNAを抽出し、下記のA、B、及びDゲノムに特異的なプライマー(配列番号16、18~20)を用いてDNA断片を調製し、各ゲノムDNAに対する変異導入をCAPS法で確認した。なお、各ゲノムにつき、16サンプル(H1~H16)について解析した。
A、B、及びDゲノムをそれぞれCAPS解析したところ、変異導入による切れ残りが生じたものが確認できた(図3A)。そのうち、H1、H3、H4、及びH7のDNAシーケンスをサンガー法により確認した(図3B、配列番号21~32)。それらの多くが1塩基挿入の置換であったが、H3-Dゲノムには3塩基欠損(配列番号25)、H7-Aゲノムには73塩基欠損などが確認できた。このようにiPB法で茎頂組織を変異導入することでその後の分化で生じた植物体にも変異が生じていることが確認できた。
【0108】
Aゲノム(F):CGGACAGCAGCTCCATCATG(配列番号16)
Aゲノム(R):CTGATACGAGCAGCAGTAGC(配列番号18)
Bゲノム(F):CGGACAGCAGCTCCATCATG(配列番号16)
Bゲノム(R):GCAAGGAAGGTGACCCAATT(配列番号19)
Dゲノム(F):CGGACAGCAGCTCCATCATG(配列番号16)
Dゲノム(R):AGCAACGCTGAGAGAGGAGT(配列番号20)
【0109】
<実施例6:T1植物(T1種子)段階での変異導入の確認>
実施例6で得られた植物体の変異導入がT1種子に受け継がれているか確認するため、T1種子を発芽させて、そこから生じた第1葉からゲノムDNAを抽出し、実施例6と同様にして、A、B、及びDゲノムに特異的なプライマーを用いてDNA断片を調製し、各ゲノムDNAに対する変異導入をCAPS法で確認した。
植物体H7_1ではA、B、及びDゲノムの全てについて、CAPS解析において切れ残りが確認された(図4A)。それらのシーケンスについて、サンガー法により確認したところ、Aゲノムにアデニン1塩基の挿入置換(配列番号33)、Bゲノムにチミン1塩基の挿入置換(配列番号34)、及びDゲノムにアデニン1塩基の挿入置換(配列番号35)が確認できた(図4B)。
【0110】
<実施例7:T1植物(T1種子)段階でのRT-PCRによるSD1遺伝子の発現量の確認>
T1種子を発芽させて、土へ移植して生育させた後、葉の成長に差異が見られた5葉からRNAを抽出してRT-PCRによりSD1遺伝子の発現を確認した。
RNAはRNeasy Mini kit (Qiagen)により抽出し、PrimeScript II Reverse Transcriptase (TaKaRa) を用いてcDNAを作製した。
PCR反応液には、ゲノムDNA20ng、TaKaRa LA Taq with GC buffer(登録商標、TaKaRa)0.25U、2X GC Buffer I 5.0μL、2.5mM dNTPs、下記のプライマー対各2.5pmolを加え、滅菌蒸留水で合計10μLにフィルアップした。
【0111】
プライマー(SD1;F):TCATCAACATCGGCGACACC(配列番号36)
プライマー(SD1;R):GCACGTGGGCTGGTCCCGACA(配列番号37)
プライマー(18s rRNA;F):GTGACGGGTGACGGAGAATT(配列番号38)
プライマー(18s rRNA;R):GACACTAATGCGCCCGGTAT(配列番号39)
【0112】
RT-PCRの増幅産物について、3%アガロースゲルを用いて電気泳動して確認した(図4C)。
ターゲット2はSD1のエキソン2を対象としている。RT-PCR用のプライマーはエキソン2の変異部位の下流からイントロンを挟みエキソン3を増幅するように設計した(図4C)。上記のとおり、WT、及び変異体において成長の違う5葉からRNAを抽出し逆転写したcDNAを用いてRT-PCRを行ったところ、ポジティブコントロールの18s rRNAはWT、及び変異体共に同様なバンドが確認できたが、SD1はWTでは明確なバンドがあるのに対して、変異体ではバンドが検出されなかった。
【0113】
コムギのゲノム編集方法における変異導入効率を表1に示した。完熟種子232個に対してSD1遺伝子のターゲット2を変異導入するCRISPR/Cas9RNPを茎頂組織に導入した。T0の5葉のうち、16個(6.7%)に変異導入が確認された。それらのT1種子に変異が見られたのは2個(0.9%)であった(表1)。
【0114】
【表1】
【0115】
<実施例8:T2植物における稈長と収量性の確認>
実施例7のT1植物から得られたT2種子(sd1変異体)、及び、原品種「春よ恋」の発芽後の種子を20℃、長日環境下(16hL/8hD)人工気象室内で約120日間生育させ、T2植物の草丈を図5A及び図5Bに示した。
図5Aの左2株はsd1変異体(sd1)であり、右2株は野生型株(WT:春よ恋)である。図5Bの左のバーはsd1変異体(sd1)であり、右のバーは野生型株(WT:春よ恋)である。
【0116】
T2植物から収穫した種子数とその重量、及び原品種「春よ恋」の種子数とその重量を測定した結果を図5Cに示した。
図5A、及び図5Bに示したとおり、sd1変異体は半矮性になるにも関わらず、図5Cの結果より、種子の収穫量(種子数と重量)は、原品種「春よ恋」と比較して、差がないことがわかった。
【0117】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> ゲノム編集手段により、コムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入する工程を含むことを特徴とするコムギのゲノム編集方法である。
<2> 前記コムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入する工程が、前記ゲノム編集手段が被覆された微粒子をコムギの茎頂に撃ち込む工程である、前記<1>に記載のコムギのゲノム編集方法である。
<3> 前記ゲノム編集手段が、SD1遺伝子を標的とするガイドRNA、又は前記SD1遺伝子を標的とするガイドRNAをコードする核酸のいずれかと、核酸代謝酵素、又は前記核酸代謝酵素をコードする核酸のいずれかと、を含む、前記<1>から<2>のいずれかに記載のコムギのゲノム編集方法である。
<4> 前記核酸代謝酵素が、ヌクレアーゼ、又はデアミナーゼである、前記<3>に記載のコムギのゲノム編集方法である。
<5> 前記微粒子の平均粒径が、0.3μm以上1.5μm以下である、前記<2>から<4>のいずれかに記載のコムギのゲノム編集方法である。
<6> 前記コムギの茎頂は、前記完熟種子胚の茎頂であり、前記完熟種子胚の茎頂が、該完熟種子から胚乳、鞘葉、葉原基、及び余分な胚盤を除去し、露出させた茎頂である、前記<2>から<5>のいずれかに記載のコムギのゲノム編集方法である。
<7> 前記コムギの茎頂は、未熟胚の茎頂であり、前記未熟胚の茎頂が、受粉後8日から35日の未熟種子から胚乳、鞘葉、葉原基、及び余分な胚盤を除去し、露出させた茎頂である、前記<2>から<5>のいずれかに記載のコムギのゲノム編集方法である。
<8> ゲノム編集手段により、コムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入する工程と、前記コムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入した組織を生育させ、植物体を得る工程と、を含むことを特徴とするSD1遺伝子変異を有するコムギの作製方法である。
<9> 前記コムギのSD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換を導入する工程が、前記ゲノム編集手段が被覆された微粒子をコムギの茎頂に撃ち込む工程である、前記<8>に記載のコムギのゲノム編集方法である。
<10> 前記植物体からゲノム編集された植物体を選択する工程をさらに含む、前記<8>から<9>のいずれかに記載のSD1遺伝子変異を有するコムギの作製方法である。
<11> 前記ゲノム編集された植物体を成長させる工程をさらに含む、前記<8>から<10>のいずれかに記載のSD1遺伝子変異を有するコムギの作製方法である。
<12> SD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換が導入されていることを特徴とするSD1遺伝子変異を有するコムギである。
<13> ABD全ゲノムにおいて、SD1遺伝子に欠失、挿入、又は置換が導入されている、前記<12>に記載のコムギである。
<14> 稈長が85cm以下である、前記<12>から<13>のいずれかに記載のコムギである。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
【配列表】
0007605390000001.app