(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】宝石用ジェット材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
A44C 27/00 20060101AFI20241217BHJP
A44C 17/00 20060101ALI20241217BHJP
B02C 23/08 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
A44C27/00
A44C17/00
B02C23/08 Z
(21)【出願番号】P 2018047471
(22)【出願日】2018-03-15
【審査請求日】2021-03-05
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】502391079
【氏名又は名称】久慈琥珀株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【復代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新田 久男
(72)【発明者】
【氏名】清水 友治
【合議体】
【審判長】柿崎 拓
【審判官】北村 英隆
【審判官】関口 哲生
(56)【参考文献】
【文献】特公昭55-46968(JP,B2)
【文献】特公昭57-25481(JP,B2)
【文献】特開昭50-113506(JP,A)
【文献】特開平10-95669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44C 1/00-3/00,7/00-27/00
B02C 9/00-11/08,19/00-25/00
C01B 32/00
C04B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジェットの原材料から所要形状に成形された成形体からなる宝石用ジェット材料を製造する宝石用ジェット材料の製造方法であって、
ジェットの原材料を粉砕して粉粒体にする粉砕工程と、
該粉砕工程で得られた粉粒体を、目開きが300μm以下の篩により篩上と篩下に分離する篩工程と、
該篩工程で篩い分けされた篩下のジェットの粉粒体を成形型に入れ、成形温度になるまで昇温する型内調整工程と、
該型内調整工程後に成形型内のジェットの粉粒体を加温及び加圧して所要形状の成形体に成形する成形工程と、
該成形工程後に、上記成形体を成形型内で徐冷する徐冷工程と備え、
上記成形工程での成形温度Tを、220℃≦T≦400℃にし、
上記成形工程での成形圧力Pを、120MPa≦Pにし、
上記成形工程での加圧保持時間tを、2min≦t<10minにし、
上記
所要形状の成形体
は、上面,該上面に連続する側面及び該側面に連続する下面を有するとともに、上記上面と側面との間のコーナ部に上側面取り面を有し、上記下面と側面との間のコーナ部に下側面取り面を有した形状
であり、
上記所要形状の成形体の上側面取り面及び下側面取り面
は、カット寸法Cが、0.1mm≦C≦1mmのカット面、若しくは、半径Rが、0.1mm≦R≦1mmの曲面
であり、
上記成形工程において、上記成形型により、上記成形体の上面から下面に向けて加圧して、上記所要形状の成形体を成形することを特徴とする宝石用ジェット材料の製造方法。
【請求項2】
上記ジェットの原材料として、岩手県久慈産のジェットを用い、
上記篩工程で、上記粉砕工程で得られた粉粒体を、目開きが100μm以下の篩により篩上と篩下に分離し、
上記成形工程での成形温度Tを、300℃≦T≦350℃にし、
上記成形工程での成形圧力Pを、300MPa≦Pにし、
上記成形工程での加圧保持時間tを、6min≦t<10minにしたことを特徴とする請求項1記載の宝石用ジェット材料の製造方法。
【請求項3】
上記
所要形状の成形体の側面は順次連続する3以上の平面を有し、該
所要形状の成形体
は、その側面の隣接する平面間のコーナ部に側部面取り面を有した形状
であり、
上記成形工程において、上記成形型により、上記
所要形状の成形体を成形することを特徴とする請求項1または2記載の宝石用ジェット材料の製造方法。
【請求項4】
上記
所要形状の成形体の側部面取り面
は、カット寸法Cが、0.1mm≦C≦1mmのカット面、若しくは、半径Rが、0.1mm≦Rの曲面
であることを特徴とする請求項3記載の宝石用ジェット材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色系の宝石に係り、特に、炭素を主体としたジェット(英名「Jet」,和名「黒玉」)を原材料にした宝石用ジェット材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ジェット(英名「Jet」,和名「黒玉」)は、木が化石化した褐炭と関連のある漆黒色,帯渇黒色の天然炭化化石木である。その成分は不純物を含有する有機起源の炭素であり、非晶質で、モース硬度が2.5~4.0、比重が1.30~1.35の性状を呈する。ジェットは、宝石として取り扱われ、ネックレス等の身飾り品をはじめ種々の宝飾品、装飾品として用いられている。
【0003】
ところで、ジェットの加工においては、加工に供しない小さいジェット、あるいは、加工の際に生じる切削屑や製品から分離した小片等は、そのままでは製品化することがほとんどできない。そのため、これを、大きな塊に成形し、ジェット材料として利用することが考えられるが、炭素を主成分とすることから、その技術は未だ確立されていない。
【0004】
従来、例えば、黒色系の宝石として、その成分や硬さは全く異なるが、特開2007-196019号公報に掲載されたブラックシリカ(黒鉛珪石)の利用技術がある。これは、ブラックシリカを粒子径が5μmの粉末体に加工し、これにポリウレタン樹脂のような熱硬化性樹脂を混合し、この混合物を軟化させ、鋳型に流し込み適宜の温度で焼結する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このブラックシリカの利用技術は、そもそもジェットとはその成分や硬度が異なるブラックシリカを、樹脂とともに鋳型に流し込んで焼結する技術なので、これを、炭素を主成分とするジェットに単に適用しても、できた製品が、ジェット本来の性状とは大きく異なり、特に、炭素を主成分とするジェット特有の質感や色を発現できないという問題がある。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みて為されたもので、小さくてそのままでは使用に供されないジェットを、可能な限りジェット本来の性状を呈する大きな塊に成形する宝石用ジェット材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的を達成するための本発明の宝石用ジェット材料の製造方法は、ジェットの原材料から所要形状に成形された成形体からなる宝石用ジェット材料を製造する宝石用ジェット材料の製造方法であって、ジェットの原材料を粉砕して粉粒体にする粉砕工程と、該粉砕工程で得られたジェットの粉粒体を成形型に入れて加温及び加圧して所要形状の成形体に成形する成形工程とを備えた構成としている。
【0009】
これにより、宝石用ジェット材料を製造するときは、粉砕工程で、ジェットの原材料を粉砕して粉粒体にする。ここでは、粉砕機で粉砕する。本発明で用いるジェット原材料としては、加工に供しない小さいジェット、あるいは、加工の際に生じる切削屑や製品から分離した小片等を用いる。それから、成形工程において、粉砕工程で得られたジェットの粉粒体を成形型に入れて加温及び加圧して所要形状の成形体に成形する。この場合、製品価値としては、バインダは添加しないことが望ましい。粉粒体に含まれる多少の不純物がバインダの役目をするものと推察され、粉粒体が強固に結合していく。これにより、宝石用ジェット材料に発現される質感や色などの性状が原石に近いものとなり、小さくてそのままでは使用に供されないジェットを、原材料に対して忠実度の高い大きな塊に成形することができ、ジェットを無駄なく有効に利用することができるようになる。
尚、宝石用ジェット材料に発現される性状が原石に近いものとなるのであれば、あるいは、任意の物性値に変化させる必要がある場合には、多少の添加剤を添加しても良い。
【0010】
そして、必要に応じ、上記粉砕工程で得られた粉粒体を、目開きが300μm以下の篩により篩上と篩下に分離する篩工程を備え、上記成形工程において、篩下の粉粒体を用いて成形する構成としている。好ましくは、200μm以下の篩、より好ましくは、150μm以下の篩、より一層好ましくは、100μm以下の篩、更に好ましくは、80μm以下の篩である。篩は段階的に用いて良い。より細かい方が、強度が高くなり、より好ましい。これにより、粉粒体を確実に強固に結合させることができる。
また、上記成形工程前に、上記篩工程で篩い分けされた篩下のジェットの粉粒体を成形型に入れ、成形温度になるまで昇温する型内調整工程を備えることができる。
【0011】
また、必要に応じ、上記成形工程での成形温度Tを、220℃≦T≦400℃にした構成としている。好ましくは、250℃≦T≦400℃、より好ましくは、300℃≦T≦350℃である。220℃に満たないと粒子の結合が不十分になる。400℃を超えると、成分が変質し易くなり好ましくない。これにより、粉粒体をより一層確実に強固に結合させることができる。
【0012】
更に、必要に応じ、上記成形工程での成形圧力Pを、120MPa≦Pにした構成としている。好ましくは、150MPa≦P、より好ましくは、300MPa≦Pである。120MPaを下回ると粒子の結合が弱くなり、かつ緻密な組織とならない。これにより、粉粒体をより一層確実に強固に結合させることができる。
【0013】
上記成形工程での加圧保持時間tを、2min≦t<10minにした構成としている。好ましくは、3min≦t<10min、より好ましくは、6min≦t<10minである。2minを下回ると、粒子の結合が弱くなる。これにより、粉粒体をより一層確実に強固に結合させることができる。
【0014】
そしてまた、上記成形工程後に、上記成形体を成形型内で徐冷する徐冷工程を備えることが有効である。これにより、成形のサイクルタイムを短縮することが可能となる。
また、必要に応じ、上記成形に用いる粉粒体に添加剤を添加することができる。添加剤としては、例えば、各種バインダ,色素等種々のものが挙げられる。
【0015】
また、必要に応じ、上記成形体を、上面,該上面に連続する側面及び該側面に連続する下面を有するとともに、上記上面と側面との間のコーナ部に上側面取り面を有し、上記下面と側面との間のコーナ部に下側面取り面を有した形状にし、上記成形工程において、上記成形型により、上記成形体の上面から下面に向けて加圧して、該成形体を成形する構成としている。
これにより、成形型による成形時に、上側面取り面及び下側面取り面が形成された成形体が成形される。この場合、成形型から成形体を取出した際に、加圧により成形される上面と側面との間のコーナ部、下面と側面との間のコーナ部は、特に、小さな欠けが生じ易くなるが、これらのコーナ部には、上側面取り面及び下側面取り面が形成されているので、欠けが生じにくくなっており、そのため、欠けにより損傷が発生する事態を防止することができ、宝石用ジェット材料の品質を向上させることができる。
【0016】
この場合、上記成形体の上側面取り面及び下側面取り面を、カット寸法Cが、0.1mm≦C≦1mmのカット面、若しくは、半径Rが、0.1mm≦R≦1mmの曲面にしたことが有効である。好ましくは、0.2mm≦Rである。小さい寸法の面取りにより、全体形状を保持して角部の損傷を防止することができる。
この構成において、具体的には、上記ジェットの原材料として、岩手県久慈産のジェットを用い、
上記篩工程で、上記粉砕工程で得られた粉粒体を、目開きが100μm以下の篩により篩上と篩下に分離し、
上記成形工程での成形温度Tを、300℃≦T≦350℃にし、
上記成形工程での成形圧力Pを、300MPa≦Pにし、
上記成形工程での加圧保持時間tを、6min≦tにしている。
【0017】
また、必要に応じ、上記成形体の側面は順次連続する3以上の平面を有し、該成形体を、その側面の隣接する平面間のコーナ部に側部面取り面を有した形状にし、上記成形工程において、上記成形型により、上記成形体を成形する構成としている。
これにより、成形型による成形時に、側部面取り面が形成された成形体が成形される。側面においても、隣接する平面間のコーナ部に側部面取り面が形成されるので、それだけ、欠けが生じにくくなり、そのため、欠けにより損傷が発生する事態を防止することができ、宝石用ジェット材料の品質を向上させることができる。
【0018】
この場合、上記成形体の側部面取り面を、カット寸法Cが、0.1mm≦C≦1mmのカット面、若しくは、半径Rが、0.1mm≦Rの曲面にしたことが有効である。好ましくは、0.2mm≦Rである。小さい寸法の面取りにより、全体形状を保持して角部の損傷を防止することができる。
【0019】
また、本発明に係る宝石用ジェット材料は、ジェットの原材料の粉粒体を加温及び加圧することにより所要形状に成形された成形体からなり、硬さH(ロックウェルスーパーフィシャルHR15Y)が、60(HR15Y)≦Hである構成としている。好ましくは、70(HR15Y)≦Hである。より好ましくは、75(HR15Y)≦Hである。
【0020】
この場合、上記粉粒体の粒径は、300μm以下であることが好ましい。より具体的には、岩手県久慈産のジェットの原材料の粉粒体であって粒径が100μm以下の粉粒体を用い、該粉粒体を成形型により加温及び加圧することにより所要形状に成形された成形体にする。
また、添加剤を含むことができる。
【0021】
また、必要に応じ、上記成形体を、上面,該上面に連続する側面及び該側面に連続する下面を有するとともに、上記上面と側面との間のコーナ部に上側面取り面を有し、上記下面と側面との間のコーナ部に下側面取り面を有した形状にした構成としている。
これにより、上側面取り面及び下側面取り面が形成された成形体が成形される。この場合、上面と側面との間のコーナ部、下面と側面との間のコーナ部は、特に、小さな欠けが生じ易くなるが、これらのコーナ部には、上側面取り面及び下側面取り面が形成されているので、欠けが生じにくくなっており、そのため、欠けにより損傷が発生する事態を防止することができ、宝石用ジェット材料の品質を向上させることができる。
【0022】
この場合、上記成形体の上側面取り面及び下側面取り面を、カット寸法Cが、0.1mm≦C≦1mmのカット面、若しくは、半径Rが、0.1mm≦R≦1mmの曲面にしたことが有効である。好ましくは、0.2mm≦Rである。小さい寸法の面取りにより、全体形状を保持して角部の損傷を防止することができる。
【0023】
また、必要に応じ、上記成形体の側面は順次連続する3以上の平面を有し、該成形体を、その側面の隣接する平面間のコーナ部に側部面取り面を有した形状にした構成としている。
これにより、側面においても、隣接する平面間のコーナ部に側部面取り面が形成されるので、それだけ、欠けが生じにくくなり、そのため、欠けにより損傷が発生する事態を防止することができ、宝石用ジェット材料の品質を向上させることができる。
【0024】
この場合、上記成形体の側部面取り面を、カット寸法Cが、0.1mm≦C≦1mmのカット面、若しくは、半径Rが、0.1mm≦Rの曲面にしたことが有効である。好ましくは、0.2mm≦Rである。小さい寸法の面取りにより、全体形状を保持して角部の損傷を防止することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、宝石用ジェット材料に発現される質感や色などの性状が原石に近いものとなり、小さくてそのままでは使用に供されないジェットを、原材料に対して忠実度の高い大きな塊に成形することができ、ジェットを無駄なく有効に利用することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施の形態に係る
宝石用ジェット材料の製造方法を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る
宝石用ジェット材料を示し、(a)は縦断面図、(b)は横断面図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る
宝石用ジェット材料の製造方法を示す工程図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る
宝石用ジェット材料の製造方法において、型内調整工程,成形工程及び徐冷工程における温度変化を示すグラフ図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係る
宝石用ジェット材料の製造方法で用いる成形型の構成例を示し、(a)は縦断面図、(b)は横断面図である。
【
図6】本発明の試験例1に係る
宝石用ジェット材料の製造方法を示す図である。
【
図7】本発明の試験例に係る
宝石用ジェット材料の製造方法で用いる原材料(「岩手県久慈産ジェット」)の粉粒体の顕微鏡写真である。
【
図8】本発明の試験例1の
宝石用ジェット材料に係り、成形圧力P(MPa)と各成形圧力における硬さの平均値(HR15Y)との関係を示すグラフ図である。
【
図9】本発明の試験例1の
宝石用ジェット材料に係り、成形温度T(℃)と各成形温度における硬さの平均値(HR15Y)との関係を示すグラフ図である。
【
図10】本発明の試験例1の
宝石用ジェット材料に係り、加圧保持時間t(min)と各加圧保持時間における硬さの平均値(HR15Y)との関係を示すグラフ図である。
【
図11】本発明の試験例1の
宝石用ジェット材料(成形体)に係り、
宝石用ジェット材料の表面の状態を示す顕微鏡写真(a)(b)(c)である。
【
図12】本発明の試験例2の
宝石用ジェット材料に係り、上側面取り面及び下側面取り面の、欠けの状態を示す表図である。
【
図13】本発明の試験例2の
宝石用ジェット材料に係り、(a)は上側面取り面に欠けがなかった成形体の写真、(b)は上側面取り面に欠けが生じた成形体の写真である。
【
図14】本発明の実施の形態に係る
宝石用ジェット材料の別の例を示し、(a)は縦断面図、(b)は横断面図である。
【
図15】本発明の実施の形態に係る
宝石用ジェット材料のまた別の例を示し、(a)は縦断面図、(b)は横断面図である。
【
図16】本発明の実施の形態に係る
宝石用ジェット材料の更にまた別の例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施の形態に係る
宝石用ジェット材料の製造方法をについて詳細に説明する。
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る
宝石用ジェット材料の製造方法は、ジェットの原材料Sから所要形状に成形された成形体1からなる
宝石用ジェット材料Jを製造する方法である。上述もしたように、一般に、ジェット(英名「Jet」,和名「黒玉」)は、木が化石化した褐炭と関連のある漆黒色,帯渇黒色の天然炭化化石木である。その成分は不純物を含有する有機起源の炭素であり、非晶質で、モース硬度が2.5~4.0、比重が1.30~1.35の性状を呈する。ジェットは、宝石として取り扱われ、ネックレス等の身飾り品をはじめ種々の宝飾品、装飾品として用いられている。
【0028】
本発明の実施の形態に係る
宝石用ジェット材料の製造方法によって製造される
宝石用ジェット材料Jは、
図1及び
図2に示すように、原材料Sから所要形状に成形された正四角柱状の成形体1からなる。成形体1は、正四角形の上面2,上面2に連続する側面3及び側面3に連続する正四角形の下面4を有するとともに、上面2と側面3との間のコーナ部に上側面取り面5を有し、下面4と側面3との間のコーナ部に下側面取り面6を有した形状に成形されている。また、成形体1の側面3は、順次連続する3以上の平面(実施の形態では4つの矩形の平面)を有し、成形体1は、隣接する平面間のコーナ部に側部面取り面7を有した形状に成形されている。
【0029】
成形体1は、例えば、最大幅Dが、5mm≦D≦100mm、高さHが、1mm≦H≦100mmの大きさに形成される。成形体1の上側面取り面5及び下側面取り面6は、カット寸法Cが、0.1mm≦C≦1mmのカット面、若しくは、半径Rが、0.1mm≦R≦1mmの曲面に形成される。実施の形態では、カット面に形成されている。また、成形体1の側部面取り面7は、カット寸法Cが、0.1mm≦C≦1mmのカット面、若しくは、半径Rが、0.1mm≦Rの曲面に形成されている。実施の形態では、曲面に形成されている。
【0030】
そしてまた、宝石用ジェット材料Jを構成する成形体1は、硬さH(ロックウェルスーパーフィシャルHR15Y)が、60(HR15Y)≦Hになる。
【0031】
本発明の実施の形態に係る
宝石用ジェット材料の製造方法は、
図1及び
図3に示すように、ジェットの原材料Sとして、ジェットの加工に供しない小さいジェット、あるいは、加工の際に生じる切削屑や製品から分離した小片等を用い、これらの原材料Sから
宝石用ジェット材料Jを製造するもので、(1)粉砕工程、(2)篩工程、(3)型内調整工程、(4)成形工程、(5)徐冷工程を備えている。以下、各工程について詳細に説明する。
【0032】
(1)粉砕工程
周知の粉砕機等を使用して、ジェットの原材料Sを粉砕して粉粒体Fにする。例えば、粒径が300μm以下のものを多く含むように粉砕する。
【0033】
(2)篩工程
粉砕工程で得られた粉粒体Fを、目開きが300μm以下の篩により篩上と篩下に分離する。好ましくは、200μm以下の篩、より好ましくは、150μm以下の篩、より一層好ましくは、100μm以下の篩、更に好ましくは、80μm以下の篩である。篩は段階的に用いて良い。より細かい方が、強度が高くなり、より好ましい。これにより、粉粒体Fを確実に強固に結合させることができる。
図7に、篩い分けられた粉粒体Fの一例の顕微鏡写真を示す。300μmを超えると、成型時の粒子の結合に不具合が生じるため、より細かい方が、強度が高くなり、より望ましい。
【0034】
(3)型内調整工程
図4に示すグラフ図も参照し、篩工程で篩い分けされたジェットの粉粒体Fを成形型Kに入れ、成形工程の温度になるまで昇温する。
図5に示すように、成形型Kは、粉粒体Fが入れられ成形体1の側面3を成形するシリンダ状のダイ20と、ダイ20内の粉粒体Fを上から加圧して成形体1の上面2を成形するピストン状の上パンチ21と、ダイ20内の粉粒体Fを下から加圧して成形体1の下面4を成形するピストン状の下パンチ22とから構成されている。上パンチ21には、成形体1の上面2と側面3との間のコーナ部に上側面取り面5を成形する上面取り型面23が形成され、下パンチ22には、成形体1の下面4と側面3との間のコーナ部に下側面取り面6を成形する下面取り型面24が形成されている。また、ダイ20の内面には、成形体1の側面3の隣接する平面間のコーナ部に側部面取り面7を成形する側部面取り型面25が形成されている。更に、図示しないが、成形型Kを加熱して粉粒体Fを加温するヒータが設けられている。この型内調整工程においては、成形型Kによる加圧を行っても行わなくても良い。また、予め成形工程の温度になるまで昇温し、それから、ジェットの粉粒体Fを成形型Kに入れても良い。この際、実施の形態では、バインダ等の添加剤は添加しない。
【0035】
(4)成形工程
図4に示すグラフ図も参照し、
図5に示す成形型Kに入れられ所定温度に昇温されたジェットの粉粒体Fを加温及び加圧して所要形状の成形体1に成形する。実施の形態では、バインダを添加していないが、粉粒体Fに含まれる多少の不純物がバインダの役目をするものと推察され、粉粒体Fが強固に結合していく。
【0036】
成形工程での成形温度Tは、220℃≦T≦400℃に設定される。好ましくは、250℃≦T≦400℃、より好ましくは、300℃≦T≦350℃である。220℃に満たないと粒子の結合が不十分になる。400℃を超えると、組成が変質し易くなり好ましくない。
【0037】
また、成形工程での成形圧力Pは、120MPa≦Pに設定される。好ましくは、150MPa≦P、より好ましくは、300MPa≦Pである。120MPaを下回ると粒子の結合が弱くなり、緻密な組織とならない。
【0038】
更に、成形工程での加圧保持時間tは、2min≦t<10minに設定される。好ましくは、3min≦t<10min、より好ましくは、6min≦t<10minである。2minを下回ると、粒子の結合が弱くなって適正な硬さが得られにくく、割れが生じ易くなり好ましくない。
【0039】
(5)徐冷工程
図4に示すグラフ図も参照し、成形工程後に、成形体1を成形型K内で徐冷する。この場合、加圧を行っても行わなくても良い。徐冷後に、成形型Kから成形体1を取出す。
【0040】
このような製造方法により製造された成形体1からなる宝石用ジェット材料Jは、硬さH(ロックウェルスーパーフィシャルHR15Y)が、60(HR15Y)≦Hになる。この宝石用ジェット材料Jは、バインダ等の添加剤を添加していないので、宝石用ジェット材料Jに発現される質感や色などの性状が原石に近いものとなる。また、小さくてそのままでは使用に供されないジェットを、原材料Sに対して忠実度の高い大きな塊に成形することができ、ジェットを無駄なく有効に利用することができるようになる。
【0041】
また、成形型Kによる成形時に、上側面取り面5及び下側面取り面6が形成されるとともに、側部面取り面7が形成された成形体1が成形される。この場合、成形型Kから成形体1を取出した際に、加圧により成形される上面2と側面3との間のコーナ部、下面4と側面3との間のコーナ部は、特に、小さな欠けが生じ易くなるが、これらのコーナ部には、上側面取り面5及び下側面取り面6が形成されているので、欠けが生じにくくなっており、そのため、欠けにより損傷が発生する事態を防止することができ、宝石用ジェット材料Jの品質を向上させることができる。また、側面3においても、隣接する平面間のコーナ部に側部面取り面7が形成されるので、それだけ、欠けが生じにくくなり、そのため、欠けにより損傷が発生する事態を防止することができ、この点でも、宝石用ジェット材料Jの品質を向上させることができる。
【0042】
この場合、成形体1の上側面取り面5及び下側面取り面6は、カット寸法Cが、0.1mm≦C≦1mmのカット面になっているので、小さい寸法の面取りにより、全体形状を保持して角部の損傷を防止することができる。また、成形体1の側部面取り面7は、半径Rが、0.1mm≦Rの曲面になっているので、これによっても、小さい寸法の面取りにより、全体形状を保持して角部の損傷を防止することができる。
【0043】
次に、試験例について説明する。
<試験例1>
図6に示すように、試験例1においては、岩手県久慈産のジェットを用い、先ず、これを粉砕して篩にかけた粉粒体Fを作成した。
図7に、この粉粒体Fの顕微鏡写真を示す。篩は、目開きが90μmのものを用いた。そして、この粉粒体Fについて、成形工程での成形圧力P,成形温度T,加圧保持時間tの条件を夫々変えて成形し、直径13mm,厚さ3mmの種々の成形体1からなる
宝石用ジェット材料Jを作成した。
【0044】
そして、作成された各
宝石用ジェット材料Jの硬さH(ロックウェルスーパーフィシャルHR15Y)を測定した。この結果に基づいて、成形圧力P(MPa)と各成形圧力における硬さの平均値(HR15Y)との関係、成形温度T(℃)と各成形温度における硬さの平均値(HR15Y)との関係、加圧保持時間t(min)と各加圧保持時間における硬さの平均値(HR15Y)との関係を、夫々、グラフ化した。結果を
図8乃至
図10に示す。
【0045】
この結果から、成形圧力は120MPa以下では成形不可で、300MPa以上で良好な成形条件となり、成形温度は220℃以下では成形不可で、300℃以上で良好な成形条件となり、保持時間は2分以下では成形不可で、6分以上で良好な成形条件となるということが分かった。
【0046】
また、
図11に、これらの
宝石用ジェット材料Jのいくつかの表面の顕微鏡写真を示す。この結果から、天然ジェットと略同等の
宝石用ジェット材料が得られることが分かる。
【0047】
<試験例2>
図1に示すように、試験例2においては、上記と同様の岩手県久慈産のジェットを用い、先ず、これを粉砕して篩にかけた粉粒体Fを作成した(
図7の顕微鏡写真参照)。
図12に示すように、篩は、目開きが80μm,150μm,180μmのものを用い、粒度の異なる3種類の粉粒体Fを用意し、これら各粒度の異なる粉粒体Fについて、成形工程での成形圧力Pを、P=500Mp、成形温度Tを、T=340℃、加圧保持時間tを、t=6分の条件で、1辺10mm,高さ(厚さ)5mmの正四角柱からなる成形体1を成形した。また、各粒度の異なる粉粒体Fに係る成形体1において、夫々、側部面取り面7のRを、R=0.5mmとし、上側面取り面5及び下側面取り面6の、カット寸法Cが、C=0(無し),C=0.2mm,C=0.3mm,C=0.4mmと異なる、4種類の成形体1からなる
宝石用ジェット材料Jを作成した。
【0048】
そして、各成形体1の、上側面取り面5及び下側面取り面6の、欠けを見た。結果を
図12に示す。
図12において、×は欠けがあったもの、〇は欠けがなかったものを示す。側部面取り面7においては、いずれも欠けは生じなかった。
図13(a)には、目開きが150μm篩下の粉粒体Fで成形し、C=0.3mmの成形体1で、欠けがなかった成形体1の写真を示す。
図13(b)には、目開きが150μm篩下の粉粒体Fで成形し、C=0.2mmの成形体1で、欠けがあった成形体1の写真を示す。
【0049】
この結果から、上側面取り面5及び下側面取り面6が、C=0(無し)のものでは、いずれも欠けが見られた。目開きが80μm篩下の粉粒体Fで成形した成形体1においては、上側面取り面5及び下側面取り面6が、C=0.2mm以上では、いずれも欠けが無く、優れていることが分かった。いずれにしろ、上側面取り面5,下側面取り面6,側部面取り面7を設けることが有効であることが分かった。
【0050】
尚、上記の実施の形態においては、成形体1を上側面取り面5,下側面取り面6,側部面取り面7を設けた正四角柱状に形成し、試験例1においては、上側面取り面5及び下側面取り面6を設けない円盤状に形成したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば、
図14に示すように、上側面取り面5及び下側面取り面6を設けた円盤状に形成し、
図15に示すように、上側面取り面5,下側面取り面6,側部面取り面7を設けた三角柱状に形成し、あるいはまた、
図16に示すように、
図14に示す成形体1の中心に孔8を貫通形成し、この孔8の開口縁にも、面取り面9を設ける等、成形体1は、どのような形状に形成しても良い。また、上記実施の形態では、成形体1の上側面取り面5及び下側面取り面6を、カット面に形成したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、曲面に形成しても良く、適宜変更して差支えない。更に、上記実施の形態では、成形体1の側部面取り面7を、曲面に形成したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、カット面に形成しても良く、適宜変更して差支えない。
【0051】
更にまた、上記実施の形態の成形工程で用いる成形型Kにおいて、ダイ20内の粉粒体Fを下から加圧して成形体1の下面を成形するピストン状の下パンチ22を備えて構成したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、下パンチ22をダイ20と一体化しても良く、成形型Kの構成は、適宜変更して差支えない。また、上記実施の形態においては、バインダ等の添加剤を用いないで原材料Sの粉粒体Fを成形したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、宝石用ジェット材料Jに発現される性状が原石に近いものとなるのであれば、多少のバインダ等の添加剤を添加しても良い。しかしながら、可能な限り、バインダ等の添加剤は用いないことが望ましい。本発明は、上述した本発明の実施の形態に限定されず、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施の形態に多くの変更を加えることが容易であり、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
最近、岩手県久慈地方でも、ジェットが産出されることが分かった。この久慈産ジェットは中生代の琥珀と同じ地層から採掘され、琥珀と同じ地層から採掘される事は世界的に極めて稀である。本発明に係る宝石用ジェット材料の技術により、原石はもとより、小さくてそのままでは使用に供されないジェットを、原材料に対して忠実度の高い大きな塊に成形することができるので、ネックレス等の身飾り品をはじめ種々の宝飾品、装飾品として、有効に利用することが期待される。
【符号の説明】
【0053】
J 宝石用ジェット材料
S 原材料
F 粉粒体
(1)粉砕工程
(2)篩工程
(3)型内調整工程
(4)成形工程
(5)徐冷工程
1 成形体
2 上面
3 側面
4 下面
5 上側面取り面
6 下側面取り面
7 側部面取り面
8 孔
9 面取り面
K 成形型
20 ダイ
21 上パンチ
22 下パンチ
23 上面取り型面
24 下面取り型面
25 側部面取り型面