(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】コンクリート構造物のPCグラウト充填状態の評価を行なうための計測装置及びこれを用いたPCグラウト充填状態の評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/24 20060101AFI20241217BHJP
G01N 29/04 20060101ALI20241217BHJP
G01N 27/72 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N29/04
G01N27/72
(21)【出願番号】P 2021169944
(22)【出願日】2021-10-15
【審査請求日】2023-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】514250078
【氏名又は名称】中日本高速技術マーケティング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【氏名又は名称】平山 一幸
(74)【代理人】
【氏名又は名称】柿本 恭成
(74)【代理人】
【識別番号】100178906
【氏名又は名称】近藤 充和
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 広基
(72)【発明者】
【氏名】服部 晋一
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】稲熊 唯史
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 紳一郎
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-158620(JP,A)
【文献】特開2007-333577(JP,A)
【文献】国際公開第2006/090727(WO,A1)
【文献】服部晋一,電磁的入力方法により励起されるシースおよび鋼棒の電磁場応答を用いたPCグラウト充填評価手法に関する基礎的検討,プレストレストコンクリート,2019年11月,Vol.61 No.6,pp.83-91
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
G01N 27/72-27/9093
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励磁状態で互いに極性の異なる二つの磁極端面が計測対象物の計測面に対向するように配置された励磁コイルと、 前記励磁コイルにパルス電流を印加するパルス発生部と、 前記励磁コイルの二つの磁極端面を含む平面上で前記二つの磁極端面を結ぶ軸から離隔して配置された検出コイルと、 前記検出コイルに発生する誘導電流を計測する計測部と、 前記計測部で計測された誘導電流
と当該誘導電流の時間積分との積により推定電磁力信号を計測データとして演算する演算部と、 前記計測データを登録すると共に前もって参照データが登録されている記憶部と、 前記計測データと前記記憶部から読み出した参照データとを比較して前記計測対象物の状態を評価する評価部と、 前記評価部による評価結果及び前記計測データを表示する表示部と、を含
み、
前記パルス発生部が、充電回路と、該充電回路により充電されると共に放電スイッチ回路を介して前記励磁コイルに並列に接続されるコンデンサを含む放電回路と、から構成され、 前記コンデンサは、所定の耐圧を有するコンデンサを直並列接続した複数のコンデンサからなると共に、該複数のコンデンサの合計耐圧が前記所定の耐圧以上とされ、 前記放電回路が臨界減衰条件を満たすように、前記放電回路の配線抵抗rと前記コンデンサの容量Cとが選定され、 前記励磁コイルと前記検出コイルとが位置関係が変化しないように一体化され、 前記検出コイルが周回導線から構成され、前記周回導線により画成される検出面が前記計測面と平行に配置され
、 前記励磁コイルの磁極端面が、前記計測面に対して所定の間隙をあけて配置されるか、又は所定の厚さの非磁性、非導電性の固体スペーサを介して隔置され、 前記間隙又は前記固体スペーサの厚さが、前記計測面に対して調整可能に構成されることを特徴とする、計測装置。
【請求項2】
前記励磁コイル,
前記検出コイル,前記パルス発生部,前記計測部,前記演算部,前記記憶部及び前記評価部が、一つの筐体の内部に収容されていると共に、前記表示部が前記筐体の表面に設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記固体スペーサ
が非弾性であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の計測装置。
【請求項4】
前記検出コイルが、前記計測対象物としてのシースにPC鋼材を埋設してグラウト材を充填したポストテンション方式のコンクリート構造物の前記PC鋼材の長手方向に対して直角方向に拡大したコイル形状を有する
ことを特徴とする、請求項1から
3の何れかに記載の計測装置。
【請求項5】
前記検出コイルが、前記計測対象物としてのシースにPC鋼材を埋設してグラウト材を充填したポストテンション方式のコンクリート構造物の前記PC鋼材の長手方向に対して直角方向に複数のコイルから構成される
ことを特徴とする、請求項1から
4の何れかに記載の計測装置。
【請求項6】
請求項1から
5の何れかの計測装置を使用して、 前記計測対象物としてのシースにPC鋼材を埋設してグラウト材を充填したポストテンション方式のコンクリート構造物のシースに近接する計測面に対して、前記励磁コイルの双方の磁極端面をシースの長手方向に対向させた状態で前記パルス発生部により前記励磁コイルにパルス電流を印加し、前記コンクリート構造物に衝撃を与える第一の段階と、 前記衝撃によって電磁場応答で前記検出コイルに発生する誘導電流を計測部により計測し、演算部により計測データを演算する第二の段階と、 前記評価部によりこの計測データと前記参照データとを比較して、前記コンクリート構造物のシース内におけるPCグラウト充填状態を評価する第三の段階と、 その評価結果を前記表示部に表示する第四の段階と、を備えることを特徴とする、コンクリート構造物におけるPCグラウト充填状態の評価方法。
【請求項7】
前記参照データが、前もってPCグラウトが充填していることが判明している計測点における計測データであって、 前記評価部が、前記計測データ及び参照データを比較して計測対象物である前記コンクリート構造物のシース内におけるPCグラウト充填状態を評価することを特徴とする、請求項
6に記載の評価方法。
【請求項8】
前記評価部が、前記計測データ及び参照データの差を第一の評価指標値として、この第一の評価指標値と前もって設定されたしきい値とを比較することにより、PCグラウト充填状態を充填,充填不良又は未充填と評価することを特徴とする、請求項
7に記載の評価方法。
【請求項9】
前記コンクリート構造物に対して、前記シースの長手方向に沿って複数箇所の計測点にてそれぞれ前記励磁コイルへのパルス電流の印加,前記検出コイルに発生する誘導電流の計測及び計測データが演算され、 前記評価部が、各計測点における計測データと当該計測点の位置情報から成る二次元座標情報を作成し、 前記評価部が、この二次元座標と前記第一の評価指標値の分布から、第二の評価指標値を生成し、前記第二の評価指標値に基づいてPCグラウトの充填又は未充填の範囲を評価することを特徴とする、請求項
8に記載の評価方法。
【請求項10】
前記評価部が、計測点毎に、前記第一の評価指標値及びPCグラウト充填状態の評価結果を表示部に表示させることを特徴とする、請求項
9に記載の評価方法。
【請求項11】
前記コンクリート構造物に対して、前記シースの長手方向に沿って複数箇所の計測点にて、それぞれ前記励磁コイルへのパルス電流の印加,前記検出コイルに発生する誘導電流の計測及び計測データの演算が行なわれ、 前記評価部が順次に各計測点について第一の評価指標値を生成し、第一の評価指標値が連続してしきい値を超えた場合に、PCグラウト充填状態が未充填又は充填不良と評価することを特徴とする、請求項
8に記載の評価方法。
【請求項12】
前記複数の計測点に関して、シースの曲げ上げ部の領域で、下方から上方に向かって順次に、前記励磁コイルへのパルス電流の印加,前記検出コイルに発生する誘導電流の計測及び計測データの演算、そして第一の評価指標値の生成が行なわれ、 前記評価部が、各計測点での第一の評価指標値を順次に前記しきい値と比較して第一の評価指標値が連続して前記しきい値を超えた場合に、PCグラウト充填状態が未充填又は充填不良と評価することを特徴とする、請求項
9又は
10に記載の評価方法。
【請求項13】
前記複数の計測点に関して、PCグラウト充填状態が未充填又は充填不良と評価された計測点とその前後のPCグラウト充填状態が充填と評価された計測点との間で、計測点間のピッチが短く選定されることを特徴とする、請求項
11又は
12に記載の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばシース及びPC鋼材を埋め込んだポストテンション方式のコンクリート構造物におけるPCグラウト充填状態の評価を行なうための計測装置及びこれを用いたPCグラウト充填状態の評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図12(A)に示すように、シース21及びPC鋼材22を埋め込んだポストテンション方式のコンクリート構造物20においては、一般にシース内部にPCグラウト21aを充填し、シース21内のPC鋼材22を安定的に保持することでPC鋼材22の腐食を抑制すると共に、PC鋼材22,シース21及びコンクリート部材を一体化している。従って、
図12(B)及び(C)に示すように、シース21内へのPCグラウト21aの充填が十分に行なわれないと、コンクリート構造物20の耐久性及び安全性が損なわれることになってしまう。
【0003】
例えば、非特許文献1では、電磁的入力方法により励起されるシース及び鋼棒の電磁場応答を用いたPCグラウト充填評価が報告されている。この論文によれば、パルス電流発生装置によりパルス状の励磁電流が励磁コイルに流され、励磁コイルにて急峻な磁場が励起される。この磁場によりシース及び鋼棒に電磁力が作用し、シース及び鋼棒に振動が発生する。PCグラウトが充填されている場合には鋼棒が拘束され振動は小さいが、PCグラウトが未充填であると振動が大きくなるため、これを電磁場応答により検出することでPCグラウト充填状況を評価する。ここで、シース,鋼棒近傍の磁束密度は、シース,鋼棒それぞれに設置したサーチコイルにより検出する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】服部晋一・木部大紀・寺澤広基・鎌田敏郎、「論文 電磁的入力方法により励起されるシースおよび鋼棒の電磁場応答を用いたPCグラウト充填評価」、コンクリート工学年次論文集,Vol.41,No.1,2019,P1793-1798
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シース埋設深さに対してシース直径が小さい場合など、シース内のグラウト充填状態を十分に把握することが困難な場合がある。また、従来の衝撃弾性波法では、シースに対して衝撃を付与するための励磁コイル及び当該衝撃波による振動に基づいて誘導電流を検出するための検出コイルを、それぞれコンクリート構造物に対して位置決めし固定保持する必要があることから、計測のために必要な作業が煩雑で、PCグラウト充填状態を把握するまでに多くの時間を要する。
【0006】
さらに、非特許文献1の場合には、鋼棒の振動と共にシースの振動を検知するために、コンクリート面上に計測点ごとに設置したサーチコイルの検出信号を処理する必要があり、二つのサーチコイルの検出信号をそれぞれ処理しなければならないため構造が複雑になり、シースの長手方向に沿って複数箇所の計測点でそれぞれPCグラウト充填状態の評価を行なうためには作業時間が長くなってしまう。
【0007】
本発明は以上の点に鑑み、簡単な構成で容易に且つ短時間で測定可能で、シース直径が小さい場合等であっても正確にPCグラウト充填状態を把握することができる計測装置及びこの計測装置を使用したPCグラウト充填状態評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第一の構成では、励磁状態で互いに極性の異なる二つの磁極端面を計測対象物の計測面に対向配置した励磁コイルと、励磁コイルにパルス電流を印加するパルス発生部と、励磁コイルの二つの磁極端面を含む平面上で二つの磁極端面を結ぶ軸から離隔して配置した検出コイルと、検出コイルに発生する誘導電流を計測する計測部と、計測部で計測した誘導電流に基づいて当該誘導電流の時間積分との積により推定電磁力信号を計測データとして演算する演算部と、計測データを登録すると共に前もって参照データを登録している記憶部と、計測データと記憶部から読み出した参照データとを比較して計測対象物の状態を評価する評価部と、評価部による評価結果及び計測データを表示する表示部と、を含み、パルス発生部が、充電回路と、該充電回路により充電されると共に放電スイッチ回路を介して励磁コイルに並列に接続されるコンデンサを含む放電回路と、から構成され、コンデンサは、所定の耐圧を有するコンデンサを直並列接続した複数のコンデンサからなると共に、該複数のコンデンサの合計耐圧が所定の耐圧以上とされ、放電回路が臨界減衰条件を満たすように、放電回路の配線抵抗rとコンデンサの容量Cとが選定され、励磁コイルと検出コイルとが位置関係が変化しないように一体化され、検出コイルを周回導線から構成し、周回導線により画成した検出面を計測面と平行に配置され、励磁コイルの磁極端面が、計測面に対して所定の間隙をあけて配置されるか、又は所定の厚さの非磁性、非導電性の固体スペーサを介して隔置され、間隙又は固体スペーサの厚さが、計測面に対して調整可能に構成されることを特徴とする。
【0009】
上記構成において、好ましくは、励磁コイル,検出コイル,パルス発生部,計測部,演算部,記憶部及び評価部を一つの筐体の内部に収容し、表示部を筐体の表面に設ける。 固体スペーサが、好ましくは、非弾性である。 検出コイルが、好ましくは、計測対象物としてのシースにPC鋼材を埋設してグラウト材を充填したポストテンション方式のコンクリート構造物のPC鋼材の長手方向に対して直角方向に拡大したコイル形状を有している。 検出コイルが、好ましくは、計測対象物としてのシースにPC鋼材を埋設してグラウト材を充填したポストテンション方式のコンクリート構造物のPC鋼材の長手方向に対して直角方向に複数のコイルから構成される。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の第二の構成では、上述した計測装置を使用して、計測対象物としてのシースにPC鋼材を埋設してグラウト材を充填したポストテンション方式のコンクリート構造物のシースに近接する計測面に対して励磁コイルの双方の磁極端面をシースの長手方向に対向させた状態でパルス発生部により励磁コイルにパルス電流を印加しコンクリート構造物の計測面に衝撃を与える第一の段階と、衝撃によって電磁場応答で検出コイルに発生する誘導電流を計測部により計測し演算部により計測データを演算する第二の段階と、評価部により計測データと参照データとを比較してコンクリート構造物のシース内におけるPCグラウト充填状態を評価する第三の段階と、評価結果を表示部に表示する第四の段階と、を備えることを特徴とする。
【0011】
上記方法において、好ましくは、参照データが、前もってPCグラウトが充填していることが判明している計測点における計測データであって、評価部が、計測データ及び参照データを比較して、計測対象物であるコンクリート構造物のシース内におけるPCグラウト充填状態を評価する。
評価部は好ましくは、計測データ及び参照データの差を第一の評価指標値として、この第一の評価指標値と前もって設定されたしきい値とを比較することによりPCグラウト充填状態を充填,充填不良又は未充填と評価する。
好ましくは、コンクリート構造物に対してそのシースの長手方向に沿って複数箇所の計測点にてそれぞれ励磁コイルへのパルス電流の印加,検出コイルに発生する誘導電流の計測及び計測データが演算され、評価部が、各計測点における計測データと当該計測点の位置情報から成る二次元座標情報を作成し、評価部が二次元座標と第一の評価指標値の分布から第二の評価指標値を生成し、第二の評価指標値に基づいてPCグラウトの充填又は未充填の範囲を評価する。評価部は、好ましくは計測点毎に第一の評価指標値及びPCグラウト充填状態の評価結果を表示部に表示させる。
好ましくは、コンクリート構造物に対してそのシースの長手方向に沿って複数箇所の計測点にてそれぞれ励磁コイルへのパルス電流の印加,検出コイルに発生する誘導電流の計測及び計測データの演算が行なわれ、評価部が順次に各計測点について第一の評価指標値を生成し、第一の評価指標値が連続してしきい値を超えた場合にPCグラウト充填状態が未充填又は充填不良と評価する。
好ましくは、複数の計測点に関して、シースの曲げ上げ部の領域では、下方から上方に向かって順次に励磁コイルへのパルス電流の印加,検出コイルに発生する誘導電流の計測及び計測データの演算、そして第一の評価指標値を生成し、評価部により各計測点での第一の評価指標値を順次にしきい値と比較し、第一の評価指標値が連続してしきい値を超えた場合にPCグラウト充填状態が未充填又は充填不良と評価する。複数の計測点に関して、PCグラウト充填状態が未充填又は充填不良と評価された計測点と、その前後のPCグラウト充填状態が充填と評価された計測点との間で、計測点間のピッチが短く選定されることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡単な構成で容易に且つ短時間で測定可能であると共に、シース直径が小さい場合等であっても正確にPCグラウト充填状態を把握できる計測装置及びこの計測装置を使用したPCグラウト充填状態評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明による計測装置の一実施形態の全体構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1の計測装置における(A)励磁コイルの概略側面図、(B)励磁コイルの概略底面図及び(C)検出コイルの概略平面図である。
【
図3】
図1の計測装置におけるパルス発生部の構成例を示す配線図である。
【
図4】
図2のパルス発生部により発生するパルスの波形を示すグラフである。
【
図5】
図1の計測装置における計測部,演算部及び評価部の各処理を示す説明図である。
【
図6】
図1の計測装置の、(A)は概略平面図,(B)は使用状態の概略正面図、(C)は計測対象物のコンクリート構造物に対する位置関係を示す概略斜視図である。
【
図7】
図1の計測装置の計測作業時における励磁コイル及び検出コイルのコンクリート構造物の計測面に対する位置関係を示し、(A)は拡大側面図,(B)は正面図、(C)は要部拡大平面図である。
【
図8】
図1の計測装置の計測作業時における(A)励磁コイルによる磁場発生,(B)電磁力発生及び(C)誘導電流発生を説明する説明図である。
【
図9】
図1の計測装置による(A)複数箇所の計測点とPCグラウトの未充填及び充填不足の部分Bを模式的に示す図及び(B)各計測点での計測により得られる評価値の二次元座標位置を示すグラフである。
【
図10】
図1の計測装置における(A)検出コイルの検出面とコンクリート構造物のシースとの距離dを示す概略図及び(B)距離dによる計測データとの関係を示すグラフである。
【
図11】コンクリート構造物のシース曲げ上げ部に対する
図1の計測装置による計測点を示す概略図である。
【
図12】コンクリート構造物の(A)断面図,(B)PCグラウト充填不良の一例及び(C)PCグラウト充填不良の他の一例を示す拡大断面図である。
【
図13】検出コイルの変形例を示し、(A)は長方形の検出コイル、(B)及び(C)は多点計測のために検出コイルの直径を小さくした検出コイルを示す図である。
【
図14】検出コイルとPC鋼材との位置関係を示し、(A)はコンクリート構造物の構造、(B)は検出コイルがPC鋼材の直上に存在する場合、(C)は検出コイルがPC鋼材から10mm偏心する場合を示す図である。
【
図15】検出コイルで検出した誘導起電力を示し、(A)は検出コイルがPC鋼材の直上及び10mm偏心した場合、(B)は検出コイルを直角方向Aに80mm移動した場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、
図1から
図11に示した実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明による計測装置10の一実施形態の構成を示している。ここでは、計測対象物として、シース21及びPC鋼材22を埋め込んだポストテンション方式のコンクリート構造物におけるPCグラウト充填状態を評価するために、この計測装置10を使用する場合について説明する。ここで、PC鋼材22は、PC鋼棒、PC鋼より線等のポストテンション方式のコンクリート構造物に使用する材料を総称する。
図1に示すように、計測装置10は、筐体11と、励磁コイル12と、パルス発生部13と、検出コイル14と、計測部15と、演算部16と、評価部17と、記憶部18と、表示部19と、から構成される。
【0015】
筐体11は、
図6(A)乃至(C)に示すように、ほぼ直方体状の外形を備え、内部に励磁コイル12,パルス発生部13,検出コイル14,計測部15,演算部16及び評価部17を収容すると共に、その上面に表示部19を露出させている。筐体11は、その底面に開口部(図示せず)を備え、この開口部を介して、励磁コイル12及び検出コイル14が下方に向かって露出する。
【0016】
これにより、各構成要素が一つの筐体11内に収容され一体化されているので、計測対象物の計測面23(
図7参照)に対して計測を行なう場合、筐体11を計測面23に対して位置決めするだけの簡単な作業で、各構成要素、特に励磁コイル12及び検出コイル14が当該計測面23に対して正確に位置決めされることで作業性が向上し、複数の計測点に関して順次に計測を行なう場合に作業時間が低減する。
【0017】
筐体11は、シース21及びPC鋼材22を埋め込んだコンクリート構造物20に関して、そのPCグラウト充填状態を評価するために、
図6(B)に示すようにコンクリート構造物20のシース21に近接する表面(以下、計測面という)23に対してその底面が当接される。これにより、
図6(C)に示すように、計測装置10の励磁コイル12及び検出コイル14が、コンクリート構造物20のシース21に近接する計測面23に対向される。筐体11は、
図6(B)に示すようにその上側にハンドル11aを備え、可搬型として構成されてもよい。
【0018】
ここで、記憶部18は、所謂SDカード18aとして筐体11の上面に設けられたスロット18cに挿入して使用される。記憶部18は、SDカード18aに加えて又はSDカード18aの代わりに筐体11の内部にHDDやSSD等の記憶媒体として備えられていてもよい。記憶部18は、後述する演算部16で演算された計測データ16aが読み書き可能に登録されると共に、前もって参照データ16bが読み書き可能に登録されている。また、記憶部18は、後述するように参照データを格納するための第一の記憶領域18aと評価指標値を格納するための第二の記憶領域18bとを備えていてもよい。
【0019】
励磁コイル12は、
図2(A)及び(B)に示すように横方向に長く伸びた本体部12aと、本体部12aの両端から一側(図示の場合、下側)に伸びた磁極端部12b,12cを備え、磁極端部12b,12cにそれぞれ巻線12d,12eが巻回される。図示の場合、例えば本体部12aの全長250mm,高さ50mm,幅50mmでなり、各磁極端部12b,12cの高さ50mmに選定されている。これにより、コイル寸法200×100×50mm,コイル断面50×50mm,コイル磁路長300mmとなっている。また、各巻線12d,12eの巻数は、例えばそれぞれ8ターンである。
【0020】
さらに、励磁コイル12は、計測時にはその磁極端部12b,12cの端面(磁極端面と呼ぶ)12f,12gが計測対象物の計測面23に対して、
図7(A)に示すように所定距離Dだけ間隙を空けて配置され、好ましくはこの間隙内、固体スペーサSが配置されることで計測対象物の計測面23に対して非接触にて隔置される。
【0021】
固体スペーサSは、例えば非磁性、非導電性且つ非弾性の材料、特に励磁コイル12による衝撃を伝播しない特性を有する材料、例えばポリウレタンフォームから構成され、励磁コイル12が計測面23に対して距離Dの位置に配置されたとき、固体スペーサSの圧縮によって計測面23に対して一定の圧力で押圧すると共に、圧縮された形状を保持し、励磁コイル12のパルス電流による衝撃を吸収することができる。この構成によれば、励磁コイル12の磁極端面12f,12gが計測面23に対して確実に隔置されて計測作業が非接触で行なわれる。特に、固体スペーサSが在る場合には、固体スペーサSによってパルス電流による衝撃で発生する振動が抑制され、計測がより正確に行なわれる。
【0022】
なお、上述した間隙又は固体スペーサによる距離Dは、計測対象物であるコンクリート構造物20内に埋め込まれたシース21及びPC鋼材22までの距離(所謂かぶり)に応じて、適宜に調整可能に構成される。これにより、コンクリート構造物20における鋼棒の埋設深さやシース21及びPC鋼材22の直径等に各種要素に応じて、適宜に間隙又は固体スペーサSの厚さが調整されて計測が最適に行なわれる。
【0023】
パルス発生部13は、
図3に示すように充電回路13aと放電回路13bとから構成される。充電回路13aはそれ自体公知の回路構成であって、商用電源(AC100V)又は電源ユニット等の電源13cから充電制御回路13d,昇圧トランス13e及びブリッジ型整流回路13fを介して給電を行なうと共に、電圧設定部13gにより充電制御回路13dを制御して所定の出力電圧Vが得られるようになっている。
【0024】
放電回路13bは、励磁コイル12に対して並列接続された充電用コンデンサCと、励磁コイル12と、励磁コイル12と充電用コンデンサCの-側で直列に接続された放電スイッチ回路13iと、から構成される。充電用コンデンサCは、所定の耐圧を有するコンデンサを直並列接続した複数のコンデンサからなる。充電用コンデンサCに充電された電荷は、放電スイッチ回路13iのオン操作によって励磁コイル12に対して一気に放電され、パルス電流が励磁コイル12に印加される。
【0025】
ここで、パルス発生部13の放電回路13bに関して、できるだけ低い充電電圧でより大きなパルス電流が得られるように、放電回路13bを構成する配線の配線抵抗rc及び励磁コイル12の抵抗rcoilをできるだけ小さく設定すると共に、充電用コンデンサの容量Cをできるだけ大きく設定する。その際、充電用コンデンサとしては、等価直列抵抗rESRの小さいコンデンサを選定し、容量を確保するために必要であれば並列接続する。
【0026】
放電回路13bの配線抵抗rをできるだけ小さくすることによって、充電電圧が低くて済むと共に、コンデンサの容量Cをできるだけ大きくすることによって、より大きなパルス電流を得ることができ、大きい磁場を発生させることが可能になる。また、充電用コンデンサCの耐圧を供給電圧Vより高く設定する必要があることから、この耐圧が十分ではない場合には、コンデンサを所定の段数だけ直列接続すればよい。つまり、充電用コンデンサCの耐圧は、所定の耐圧を有するコンデンサの耐圧(V)×直列接続の段数となる。
【0027】
さらに、放電回路13bにおける臨界減衰条件として、
(r/2)2=L/C又は(r/2)2<L/C
を満たす必要があり、この臨界減衰条件が満たされるまで、各段におけるコンデンサについて複数個並列接続する。臨界減衰条件を満たすことで最適なパルス電流が得られる。
【0028】
図3では、互いに並列及び直列に接続された四本のコンデンサC
1,C
2,C
3及びC
4により充電用コンデンサCが構成されている。一般的に、大容量のコンデンサとしてはアルミ電解コンデンサが使用されるが、アルミ電解コンデンサは内部に電解液があって、電荷を伴うイオンの移動度があることから等価直列抵抗が大きいという問題がある。従って、充電用コンデンサCは、アルミ電解コンデンサよりも等価直列抵抗が小さいフィルムコンデンサを使用して等価直列抵抗を低下すると共に、耐圧を確保するために所定の段数で直列接続すればよい。
このような構成のパルス発生部13は、充電回路13aにより充電用コンデンサCが充電された後、放電スイッチ回路13iのオン操作によって励磁コイル12に対して一気に放電されることにより、励磁コイル12には、例えば
図4のグラフに示すようなパルス電流が流れる。
【0029】
検出コイル14は、
図2(C)に示すように、所定の巻数の周回導線14aと周回導線14aの両端から引き出された接続配線14b,14cとから構成され、
図7に示すように、この検出コイル14は、励磁コイル12の二つの磁極端面12f,12gを含む平面上で、これら二つの磁極端面12f,12gを結ぶ軸Xから一側に(図示の場合、上側に)離隔して配置されている。図示の場合、検出コイル14は、例えばコイル巻数5ターン,コイル直径20mmに選定されている。
【0030】
計測部15は、
図1に示すように検出コイル14に発生する誘導電流iを検出して演算部16に出力する。演算部16は
図5に示すように、計測部15で計測された誘導電流iを時間積分して磁束密度Bを演算すると共に、誘導電流Iと磁束密度Bとの積により推定電磁力信号を計測データ16aとして演算する。この推定電磁力信号は、後述するPCグラウト充填状態が未充填又は充填不良の場合により変化する(非特許文献1参照)。
【0031】
評価部17は、演算部16で演算された計測データ16aと記憶部18の第一の記憶領域18aから読み出した参照データ16bとを比較し、計測対象物であるコンクリート構造物20のPCグラウト充填状態を評価する。具体的には、評価部17は計測データ16aと参照データ16bを比較して、その差により第一の評価指標値17aを生成する。
【0032】
評価部17は、この第一の評価指標値17aを記憶部18の第二の記憶領域18bに登録すると共に、前もって設定されたしきい値17bと比較してPCグラウト充填状態を評価する。即ち、評価部17は、第一の評価指標値17aがしきい値17b以下であるときにはPCグラウト充填状態が充填であると評価し、また第一の評価指標値17aがしきい値17bを超えたときにはPCグラウト充填状態が未充填又は充填不良と評価し、この評価結果17cを表示部19に出力する。
【0033】
また、評価部17は、コンクリート構造物20のシース21の長手方向に沿った複数箇所の計測点で、上述した計測及び評価処理を行なう場合には、順次に各計測点についてそれぞれ演算部16により作成された計測データ16aに基づいて参照データ16bとの比較により第一の評価指標値17aを生成し、記憶部の第二の記憶領域18bに登録すると共に、前もって設定されたしきい値17bと比較してPCグラウト充填状態を評価し、評価結果17cを計測データ16aと共に表示部19に出力する。この場合、評価部17は、二つの連続する計測点で、第一の評価指標値17aがしきい値17bを超えた場合にPCグラウト充填状態が未充填又は充填不良と評価する。
【0034】
これにより、シース21の長手方向に沿って複数箇所の計測点で計測を行なって、第一の評価指標値17aを生成し、互いに隣接する計測点にて共に第一の評価指標値17aがしきい値17bを超えた場合、PCグラウト充填状態が未充填又は充填不良とすることで、計測部15による誘導電流の計測にエラーが発生した場合であっても、より確実にPCグラウト充填状態の未充填又は充填不良を評価することができる。
【0035】
また、評価部17は、計測点毎にその計測点での位置情報17dを取得して、第一の評価指標値17aと関連付けることにより、二次元座標情報17eとして表示部19に出力する。これにより表示部19はこの二次元座標情報17eに基づいて二次元グラフ19aを表示する。そして、評価部17は、二次元座標情報17eにおける第一の評価指標値17aの曲線の傾きの変化から、曲線の傾きが所定角度以上になった場合に第二の評価指標値17fを生成して表示部19に出力する。
【0036】
さらに、評価部17は、コンクリート構造物20のシース21の曲げ上げ部の領域24(
図11参照)の複数箇所の計測点で、上述した計測及び評価処理を行なう場合、曲げ上げ部の下方から上方に向かって順次に各計測点についてそれぞれ演算部16により作成された計測データ16aに基づいて、参照データ16bとの比較により第一の評価指標値17aを生成し、記憶部18の第二の記憶領域18bに登録すると共に、第一の評価指標値17aの変化によってPCグラウト充填状態を評価し、評価結果17cを計測データ16aと共に表示部19に出力する。
【0037】
表示部19は筐体11の上面に設けられ、評価部17から出力される計測データ17a及び評価結果17cを表示すると共に、二次元座標情報17eに基づいて二次元グラフ19aを表示し、また第二の評価指標値17fに基づいてPCグラウト充填状態が未充填又は充填不良の旨の注意喚起表示を行なう。
【0038】
次に、本発明実施形態による計測装置10を用いて、計測対象物としてシース21及びPC鋼材22を埋め込んだコンクリート構造物20のPCグラウト充填状態の評価を行なう場合の評価方法を説明する。
図6(B)に示すように、コンクリート構造物20のシース21に近接した計測面23に対して計測装置10を当接する。励磁コイル12及び検出コイル14を筐体11内で一体化していることで、それぞれ計測面23に対して位置決めする必要がなく、さらに計測装置10内に必要な構成要素がすべて内蔵され、容易に評価を行なうことができる。
【0039】
この状態で、励磁コイル12にパルス発生部13からのパルス電流を印加すると、
図8(A)に示すように、励磁コイル12にパルス状の磁場A1が発生する。従って、励磁コイル12からの磁場によって、
図8(A)及び(B)に示すようにシース21及びPC鋼材22に誘導電流A2が発生する。この誘導電流A2と励磁コイル12の磁場A1によってシース21及びPC鋼材22に電磁力Fが発生する。
【0040】
従って、シース21及びPC鋼材22に関して、その励磁コイル12側の磁場と反対側の磁場の差により電磁力に差ΔFが生ずるので、シース21及びPC鋼材22には励磁コイル12とは反対側に力が作用し、シース21及びPC鋼材22が振動する。この振動により、
図8(C)に示すようにシース21及びPC鋼材22に流れる誘導電流が発生して、新たに磁界A3が発生する。その際、シース21内でのPCグラウト充填状態が未充填又は充填不良の場合には、充填の場合と比較してPCグラウト22aによるシース21及びPC鋼材22の拘束力が弱いことから、シース21及びPC鋼材22の振動が大きくなり、発生する磁界A3もより大きくなる。従って、この磁界A3により検出コイル14に誘導電流iが発生する。
【0041】
この誘導電流iを計測部15により計測し、演算部16によってこの誘導電流iと当該誘導電流の時間積分との積により、検出コイル14に作用する推定電磁力信号を計測データ16aとして演算する。演算部16では、この計測データ16aを記憶部18の第一の記憶領域18aに登録する。その後、評価部17は、この計測データ16aと前もって記憶部18の第一の記憶領域18aに登録されている参照データ16bとを比較し、その差により第一の評価指標値17aを生成する。
【0042】
評価部17は、第一の評価指標値17aを記憶部18の第二の記憶領域18bから読み出したしきい値17bと比較して、PCグラウト充填状態を評価する。即ち、評価部17は、第一の評価指標値17aがしきい値17b以下であるときにはPCグラウト充填状態が充填であると評価し、また第一の評価指標値17aがしきい値17bを超えたときにはPCグラウト充填状態が未充填又は充填不良と評価し、この評価結果17cを表示部19に出力する。
【0043】
このようにして、一つの計測点におけるPCグラウト充填状態の評価が終了すると、続いて、複数箇所の計測点に対して順次に計測装置10を移動させ、各計測点で上述したPCグラウト充填状態の評価が繰り返し行なわれる。そして、計測点毎に計測データ16a,第一の評価指標値17aを作成し、第一の評価指標値17aをしきい値17bと比較して評価結果17cを作成し、計測データ16a及び評価結果17cを表示部19に出力する。これにより、表示部19では計測点毎に逐次計測データ16a及び評価結果17cが表示される。従って、作業者は、計測点毎に計測装置10を移動させることにより、その都度、当該計測点における計測データ16a及び評価結果17cを一次評価として視認することができる。なお、評価部17は、連続する二つの計測点において、第一の評価指標値17aがしきい値17bを超えたときに、PCグラウト充填状態が未充填又は充填不良と評価するようにしてもよい。
【0044】
計測装置10によれば、計測対象物、例えばシース21及びPC鋼材22を埋め込んだポストテンション方式のコンクリート構造物20に関して、シース21内に挿通されPCグラウト22aを充填されたPC鋼材22に近接する表面を計測面23として、励磁12の二つの磁極端面12f,12gをこの計測面23に対向させた状態で、パルス発生部13によりパルス電流を発生させて励磁コイル12に印加する。これにより、励磁コイル12がパルス電流により励磁されて、コンクリート構造物20のシース21及びPC鋼材22に衝撃が付与される。この衝撃によって電磁場応答で検出コイル14に誘導電流が発生し、この誘導電流が計測部15により計測され、演算部16がこの誘導電流に基づいて計測データ16aを演算する。評価部17において、計測データ16aと記憶部18に登録された参照データ16bとを比較して、コンクリート構造物20のシース21内におけるPCグラウト充填状態を評価し、表示部19がこの評価結果17c及び計測データ16aを表示する。
【0045】
これにより、シース21及びPC鋼材22を埋め込んだポストテンション方式のコンクリート構造物20において、シース21内におけるPCグラウト充填状態が容易に評価される。また、例えばシース埋設深さに対してシース直径が小さい場合等であっても、シース21内におけるPCグラウト充填状態が確実に評価される。さらに、PC鋼材22の振動のみを検出コイル14に発生する誘導電流で検出すればよいので、部品点数が少なくて済むと共に、処理内容及び処理時間が短縮され、より効率的にPCグラウト充填状態の評価を行なうことが可能になる。
【0046】
図9(A)は、各計測点の位置(コンクリート構造物20におけるPC鋼材22の端部からの距離)と、計測データ16aとの関係を示している。PC鋼材22の端部側(
図9(A)にて左方)に、PCグラウト充填状態が未充填及び充填不足の部分Bがある場合には、PCグラウト充填状態が充填である場合と比較して計測データ16aが急激に大きくなっていることが分かる(
図9(B)参照)。従って、PCグラウト充填状態が充填である場合の計測データ16aを標準値として前もって作成し、参照データ16bとして記憶部18に登録しておくことで、各計測点における計測データ16aを参照データ16bと比較することにより、当該計測点におけるPCグラウト充填状態の評価を行なうことが可能である。
【0047】
ここで、計測データ16aと参照データ16bとの差を第一の評価指標値17aとして、第一の評価指標値17aがしきい値17bを超えた場合に、計測データ16aの参照データ16bとの差が標準値の許容範囲から外れるものとして、PCグラウト充填状態が未充填又は充填不良と評価する。こうして、各計測点における評価が計測時に即座に行なわれ、表示部19に表示される。この構成によれば、一つの計測点にて、計測データ16a及び参照データ16bの差をしきい値17bと比較することによって、当該計測点におけるPCグラウト充填状態を充填,充填不良又は未充填と評価することができる。さらに、各計測点で計測を行なう毎にその都度、計測データ16aとしての第一の評価指標値17a及び評価結果17cが表示部19に表示される。
【0048】
例えば
図10(A)に示すように、計測装置10による測定時に、その筐体11の底面が、コンクリート構造物20のシース21までの距離dが変化することにより、
図10(B)に示すように、検出コイル14により検出される誘導電流そして磁束密度が変化したとしても、この変化に対応して、各計測点における計測データ16aの変化が、参照データ16bとの差、即ち第一の評価指標値17aとして、しきい値17bと比較することにより、PCグラウト充填状態を確実に評価することができる。この方法によれば、参照データ16bとして、前もってPCグラウト充填状態が判明している計測点における計測データ16aを採用することによって、PCグラウト充填状態のより正確な評価を行なうことが可能である。これにより、例えばシース埋設深さに対してシース直径が小さい場合であっても、第一の評価指標値17aをしきい値17bと比較して評価を行なうことにより、確実にPCグラウト充填状態の評価が可能となる。
【0049】
さらに、評価部17は、評価すべきコンクリート構造物20のシース21の長手方向に沿って複数箇所の計測点で、それぞれ上述した計測データ16aの計測を行なう際に、当該計測点の位置情報17dを取得して、計測データ16a又は、第一の評価指標値17aと位置情報17dから成る二次元座標情報17eを作成し、すべての計測点での計測が終わった後、すべての計測点における二次元座標情報17eを表示部19に送出する。この場合、全計測点におけるPCグラウト充填状態の評価、即ちPC鋼材22全体を俯瞰するような二次評価を行なうことができる。
【0050】
上記方法によれば、複数箇所の計測点でそれぞれ計測を行なうと共に、その計測データ16aに位置情報17dを付加して二次元座標情報17eを作成することで、複数箇所の計測点における計測データ16aに関して、シースの長手方向に沿って、計測データ16aの変化を統合的に第一の評価指標値の分布として把握し、この第一の評価指標値の分布から第二の評価指標値17fを生成して、PCグラウト充填状態を評価、即ち充填,充填不良又は未充填と評価することができる。つまり、第二の評価指標値に基づいてPCグラウトの充填又は未充填の範囲を評価することができる。さらに、第一の評価指標値の分布が曲線となる場合には、この曲線の傾きの変化から第二の評価指標値17fを生成してもよい。
これにより、表示部19はこれらの二次元座標情報17eに基づいて、例えば横軸に測定位置、縦軸に計測データ16a又は第一の評価指標値17aを表す二次元グラフ19aを表示する。従って、作業者は計測装置10の表示部19に表示される二次元グラフ19aを視認することによって、PCグラウト充填状態を視覚的に瞬時に把握することが可能である。
【0051】
この場合、評価部17は、第一の評価指標値の分布又は二次元座標情報17eにおける第一の評価指標値17aの曲線の傾きの変化から、この曲線の傾きが所定角度以上になった場合に第二の評価指標値17fを生成して、表示部19に出力する。これを受けて表示部19は、第二の評価指標値17fに基づいてPCグラウト充填状態が未充填又は充填不良となった旨の注意喚起表示を行なう。これにより、作業者は表示部19における注意喚起表示を視認して、PCグラウト充填状態が未充填又は充填不良となったことを把握することができる。
【0052】
図11は、コンクリート構造物20内のシース21及びPC鋼材22の曲げ上げ部の領域24での計測作業を示している。曲げ上げ部の領域24では、下方24a(
図11にて左方)に比べて、上方24b(
図11にて右方)で、PCグラウト充填時の先流れ現象などによってPCグラウトの未充填又は充填不足が発生しやすいことが知られていることから、
図11の矢印Yで示すように、下方24a側から順次に計測点での計測・評価を行なう。
【0053】
即ち、評価部17は、コンクリート構造物20の曲げ上げ部の領域24の複数箇所の計測点で、下方24aから上方24bに向かって順次に各計測点について、それぞれ計測・評価を行なって、各計測点での第一の評価指標値17aを生成する。
第一の評価指標値17aがしきい値17b以下の場合には、PCグラウト充填状態が充填と評価すると共に、第一の評価指標値17aがしきい値17bを超えたとき、PCグラウト充填状態が未充填又は充填不良と評価して、その評価結果17cを表示部19に出力する。これを受けて表示部19は、各計測点における計測データ16a及び評価結果17cを表示する。
【0054】
ここで、評価部17は、連続する二つの計測点で第一の評価指標値17aがしきい値17bを超えたとき、PCグラウト充填状態が未充填又は充填不良と評価するようにしてもよい。これによりノイズ等の発生による計測エラー等でPCグラウト充填状態が誤って未充填又は充填不良と評価されることが回避される。PC鋼材22の曲げ上げ部の領域24で、上方側でよりPCグラウト充填状態が未充填又は充填不良となる可能性が高いことに着目して、下方から上方に向かって順次に計測を行なうことで、より確実にPCグラウト充填状態が充填から充填不良又は未充填となる部分を確実に評価することが可能である。
【0055】
(検出コイルの変形例)
次に、検出コイルの変形例について説明する。
図13は、検出コイル14の変形例を示し、(A)は長方形の検出コイル14A、(B)及び(C)は多点計測のために検出コイルの直径を小さくした検出コイル14B,14Cを示す図である。
図13(A)に示す検出コイル14Aは、
図2(C)に示す円形の検出コイル14に比較して、その形状を点線(PC鋼材位置)で示すコンクリート構造物20内のPC鋼材22の長手方向に対して直角方向に拡大して、例えば短辺を2cm、長辺を4cmとした長方形のコイル形状を有している。検出コイル14Aは、長方形のコイル形状を所定の回数だけ巻回したコイルとしてもよい。検出コイル14Aによれば、PC鋼材22の位置と検出コイル14Aの位置との誤差が生じても、PC鋼材22の長手方向に対して直角方向において平均化した磁場を計測することができる。検出コイル14Aは、励磁コイル12との位置関係が変化しないように、励磁コイル12と一体化されていてもよい。
【0056】
図13(B)に示す検出コイル14Bは、
図2(C)に示す単一の円形の検出コイル14と異なり、コンクリート構造物20内のPC鋼材22の長手方向に対して直角方向に検出コイル14Bの直径を小さく(10mm)して、複数個、図示の場合には4つの検出コイル14B1~14B4を、PC鋼材22の長手方向の異なる位置の2列に配置する構成を有している。検出コイル14Bは、樹脂で固定化されていてもよい。
これらのコイル検出コイル14B1~14B4のそれぞれから検出される誘導起電力を比較して、最も誘導起電力の大きい検出コイル14Bを検出し、該検出コイル14Bに作用する推定電磁力信号、つまり、計測データ16aを取得することができる。検出コイル14Bによれば、PC鋼材22の位置と検出コイル14Bの位置との誤差が生じても、PC鋼材22の長手方向に対して直角方向に、複数の検出コイル14B1~14B4を配置することで、狭い範囲の磁束を多点で計測することによって最も誘導起電力の大きい、つまり、最大の磁束となる検出コイル14Bを容易に選択することができる。検出コイル14Bは、励磁コイル12との位置関係が変化しないように、励磁コイル12と一体化されていてもよい。
【0057】
図13(C)に示す検出コイル14Cが、
図13(B)に示す検出コイル14Bと異なるのは、コンクリート構造物20内のPC鋼材22の長手方向に対して直角方向に、直径の小さい4つの検出コイル14C1~14Cを、1列に配置している点である。検出コイル14Cは、樹脂で固定化されていてもよい。検出コイル14Cも検出コイル14Bと同様に、検出コイル14C1~14Cのそれぞれから検出される誘導起電力を比較して、最も誘導起電力の大きい検出コイル14Bを検出することで、狭い範囲の磁束を多点で計測することによって、最も誘導起電力の大きい、つまり、最大の磁束となる検出コイル14Cを選択することができる。検出コイル14Cは、励磁コイル12との位置関係が変化しないように、励磁コイル12と一体化されていてもよい。以下、具体的な実施例について説明する。
【0058】
(実施例)
シース21及びPC鋼材22を埋め込んだポストテンション方式のコンクリート構造物20を模した試験体を用意した。PC鋼材22の芯かぶり深さを163mmとした。
図2(A)及び(B)で示した励磁コイル12を、
図3で説明した放電回路に接続し、励磁コイル12と検出コイル14(
図2(C)参照)とを試験体に設置した後、励磁コイル12にブリッジ型整流回路13fを介して900Vの電圧を給電し、
図4に示すパルス波を印加した。パルス波の印加後に検出コイル14に生じる誘導電流による誘導起電力を測定した。
【0059】
図14は、検出コイル14とPC鋼材22との位置関係を示し、(A)はコンクリート構造物20の構造、(B)は検出コイル14がPC鋼材22の直上に存在する場合、(C)は検出コイル14がPC鋼材22から10mm偏心する場合を示す。なお、励磁コイル12と検出コイル14との間隔は、40mmとした。
図14に示すように、検出コイル14は、PC鋼材22の真上から長手方向に対して直角方向Aに真上の-10mmから70mm迄の80mmの距離を、10mmずつ移動して9点の測定をした。
【0060】
図15は、検出コイル14で検出した誘導起電力を示す図であり、(A)は検出コイル14がPC鋼材22の直上及び10mm偏心した場合、(B)は検出コイル14を直角方向Aに80mm移動した場合を示す。
図15(A)において横軸は時間(sec)、縦軸は検出コイル14の誘導起電力(V)である。
図15(B)の横軸はPC鋼材22と検出コイル14との距離(mm)であり、縦軸は検出コイル14の誘導起電力(V)である。なお、
図15(B)に示す各距離における誘導起電力は、
図15(A)に示す波形のように誘導起電力のプラス側とマイナス側に生じる最大値をそれぞれプロットしたものである。
図15(A)及び(B)から、検出コイル14は、PC鋼材22の直上にある場合には、検出コイル14を直角方向Aに10mm偏心した場合よりも約2倍の誘導起電力が得られることが判明した。
【0061】
本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施することができる。
例えば、上述した実施形態においては、計測点は、シース21の長手方向に沿って、例えば一定間隔で設定されるが、これに限らず、例えばPCグラウト充填状態が未充填又は充填不良と評価された計測点と、その前後の計測点との間で、より短いピッチで追加の計測点を設定して、追加の各計測点についてPCグラウト充填状態の評価を行なうことにより、PCグラウト充填状態が充填から未充填又は充填不良となる位置をより正確に特定することが可能となる。これにより、PCグラウト充填状態が未充填又は充填不良と評価された計測点と、その前後の充填と評価された計測点との間で、計測点のピッチを短くすることにより、PC鋼材22の長さ方向に関して、PCグラウト充填状態が充填から充填不良又は未充填となる境界位置をより精度良く検出することが可能となる。
【符号の説明】
【0062】
10 計測装置
11 筐体
11a ハンドル
12 励磁コイル
12f,12g 磁極端面
13 パルス発生部
13a 充電回路
13b 放電回路
13c 電源
13d 充電制御回路
13e 昇圧トランス
13f ブリッジ型整流回路
13g 電圧設定部
14,14A,14B,14C 検出コイル
14a 周回導線
14b,14c 接続配線
15 計測部
16 演算部
16a 計測データ
16b 参照データ
17 評価部
17a 第一の評価指標値
17b しきい値
17c 評価結果
17d 位置情報
17e 二次元座標情報
17f 第二の評価指標値
18 記憶部
19 表示部
19a 二次元グラフ
20 コンクリート構造物
21 シース
22 PC鋼材
22a PCグラウト
23 計測面
24 曲げ上げ部分の領域
S 固体スペーサ