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特許7605459リベリバクター属細菌を植物に感染させる方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】リベリバクター属細菌を植物に感染させる方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20241217BHJP
   A01H 6/78 20180101ALN20241217BHJP
   A01H 6/82 20180101ALN20241217BHJP
   A01H 6/06 20180101ALN20241217BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A01H6/78
A01H6/82
A01H6/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020210983
(22)【出願日】2020-12-21
(65)【公開番号】P2022097818
(43)【公開日】2022-07-01
【審査請求日】2023-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100150142
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 礼路
(74)【代理人】
【識別番号】100174849
【弁理士】
【氏名又は名称】森脇 理生
(72)【発明者】
【氏名】藤原 和樹
(72)【発明者】
【氏名】藤川 貴史
(72)【発明者】
【氏名】冨村 健太
【審査官】藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-130058(JP,A)
【文献】特開昭61-210005(JP,A)
【文献】特開2002-233246(JP,A)
【文献】特開2007-262015(JP,A)
【文献】特表2018-534947(JP,A)
【文献】特開2017-163968(JP,A)
【文献】Plant Pathology,2014年,Vol.63, No.2 ,p.290-298
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00 - 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リベリバクター属細菌を植物に感染させる方法であって、
前記リベリバクター属細菌を含む細菌含有液を前記植物の根部に接触させることを含み、
前記細菌含有液の菌密度が1×10 0 ~1×10 8 細胞/mlであり、
前記根部が、挿し木により発根させた根部または実生苗の根部である、方法。
【請求項2】
前記細菌含有液が、前記リベリバクター属細菌の培養液、前記リベリバクター属細菌に感染した植物の粗汁液または前記リベリバクター属細菌を保菌する媒介昆虫の粗汁液である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記植物が、ミカン科、ナス科またはセリ科の植物である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記細菌含有液が、注射器を用いて前記根部に注入される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リベリバクター属細菌を植物に感染させる方法に関し、より詳細には、カンキツグリーニング病原細菌を含む難培養性細菌のリベリバクター属細菌を、宿主および非宿主植物に感染させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くのリベリバクター属細菌は、様々な植物に感染することが知られている。たとえば、カンキツグリーニング病 (citrus greening, huanglongbing) は、カンキツに壊滅的な被害を及ぼす病害であることが知られている。カンキツグリーニング病は、篩部局在性の細菌である‘Candidatus Liberibacter spp.’(以下、「リベリバクター属細菌」と称する)のいくつかによって引き起こされる。なかでも、‘Candidatus Liberibacter asiaticus (Las)’が、アジアを中心に主要な病原細菌となっている(非特許文献3)。本病原菌は、ミカンキジラミ(Diaphorina citri)により媒介され伝搬される。この病害による世界のカンキツ生産における被害は大きい(非特許文献4)。日本では現在、鹿児島県の徳之島、沖永良部島および与論島、加えて沖縄県全域でカンキツグリーニング病の発生が確認されており、カンキツ主要産地への侵入が警戒されている。
【0003】
また、カンジダタス・リベリバクター・ソラナケアルム(Candidatus Liberibacter solanacearum(Lso))は、ジャガイモの塊茎部(芋)に縞状の病徴を示すゼブラチップ病およびセリ科植物で黄化や萎縮症状を引き起こすことが知られている。Lsoは、ジャガイモトガリキジラミなどによって媒介され伝搬される。
【0004】
しかしながら、これらの病原細菌の生物学的な特徴および病原性といった知見はごくわずかである。さらにこの病害に対する宿主植物の生化学的な応答および抵抗性についての情報も限られている。そのため、抵抗性品種の育種や治療薬等の防除技術の開発はほとんど進展していない。
【0005】
特許文献1には、難培養性のリベリバクター属細菌を安定的に培養することが可能な培地が開示されている。また、特許文献2には、カンキツグリーニング病無病徴感染樹の早期診断を可能にする方法として、植物の一部を挿し床に挿して挿し木を行うことにより発根させる発根工程と、発根した根を用いて病原体の有無を検出する第一の検出工程とを含む、植物の病原体による感染を診断する方法が開示されている。
【0006】
リベリバクター属細菌が宿主とするカンキツ類は、ウンシュウミカンおよびユズなどの栽培品種、生垣に利用されるゲッキツなどの非栽培品種、ならびにカンキツ近縁野生種の3つに大別される。リベリバクター属細菌のカンキツへの感染については、栽培品種だけでなく、ミカン科ゲッキツ属植物においても報告されている。一方で、ゲッキツ等においては、リベリバクター属細菌は一過的にのみ感染し、ゲッキツ体中では長期間にわたり生存できないことが経験的に知られている。さらに、ゲッキツではカンキツグリーニング病の発病は認められない。また、カンキツ近縁野生種におけるリベリバクター属細菌の感染については報告が無い。従って、ゲッキツ等の非栽培品種およびカンキツ近縁野生種には、リベリバクター属細菌に対する高い免疫応答が存在すると考えられている。そのため、これらの種は、リベリバクター属細菌の感染生理機構の解明、抵抗性品種の育種および治療薬等の防除技術の開発における新素材として有用性が高いとされている。
【0007】
リベリバクター属細菌の植物への感染は、ミカンキジラミの虫媒伝搬に加えて、接ぎ木接種法および寄生性植物であるアメリカネナシカズラ(Cuscuta campestris)を介した接種法を用いた人工接種により可能である。たとえば、非特許文献5には、リベリバクター属細菌を保菌したミカンキジラミを健全カンキツ上で飼育することで感染カンキツを作出する方法が開示されている。非特許文献6には、リベリバクター属細菌に感染した植物組織を健全カンキツに接ぎ木することで感染カンキツを作出する方法が開示されている。非特許文献7には、リベリバクター属細菌に感染したカンキツと健全カンキツとを、ネナシカズラを介してリベリバクター属細菌を接種することで感染カンキツを作出する方法が開示されている。
【0008】
しかし、上述したいずれの伝搬様式においても、リベリバクター属細菌を含む昆虫生体または植物組織を接種源として利用するため、供試する保菌ミカンキジラミまたは感染カンキツごとにリベリバクター属細菌の菌密度が異なる。ミカンキジラミに保菌されるリベリバクター属細菌の菌密度は、個体ごとに異なっている。感染カンキツでは、リベリバクター属細菌は局在するため、植物部位ごとに菌密度が異なる。そのため、従来の方法では、一定の菌密度条件下でリベリバクター属細菌の感染を再現することは不可能である。
【0009】
また、カンキツにおいても、ミカンキジラミの嗜好性の違いによりカンキツ近縁野生種への接種は困難を極めている。さらにカンキツ類の間での親和性の違いにより接ぎ木接種ができない組み合わせがあるため、現在のところ非栽培品種およびカンキツ近縁野生種を対象としたリベリバクター属細菌の人工接種は技術的に実施できていない。
【0010】
ネナシカズラを介したリベリバクター属細菌の接種方法においても、感染カンキツにおける植物部位ごとにリベリバクター属細菌の菌密度が異なるため、一定の菌密度条件下でリベリバクター属細菌の感染を再現することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2018-130058号公報
【文献】特開2017-163968号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】Fujiwara et al., Front Microbiol, 2018, Vol.9, Article 3089
【文献】Li et al., J Microbial Methods, 2006, Vol.66, p.104-115
【文献】Bove JM, Journal of Plant Pathology, 2006, Vol.88, p.7-37
【文献】United States Department of Agriculture,(米), Citrus:World Markets and trade,2015年7月
【文献】Ammar et al., PLoS ONE, 2016, Vol.11, e0159594
【文献】Lopes SA and Frare GF., Plant Disease, 2008, Vol.92, p.21-24
【文献】Garnier G and Dove JM., Phytopathology, 1983, Vol.73, p.1358-1363
【文献】Fujikawa et al., PlosOne, 2013, Vol.8, e57011
【文献】Wells et al., Applied and Environmental Microbiology, 1981, Vol.42, 357-363
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、従来の方法では、リベリバクター属細菌を含む昆虫生体または植物組織を接種源として利用するため、菌密度がばらつき、一定の菌密度条件下で植物へのリベリバクター属細菌の感染を再現することができていなかった。また、ミカンキジラミの嗜好性およびカンキツ類の間での親和性の違いにより、従来の方法では、非栽培品種およびカンキツ近縁野生種を対象としたリベリバクター属細菌の人工接種が困難であった。
【0014】
そこで、本発明は、一定の菌密度条件下において、非栽培品種および近縁野生種にも安定的にリベリバクター属細菌を感染させることが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、リベリバクター属細菌の培養菌体および感染植物粗汁液を接種源とする手法に着目した。また、本発明者らは、リベリバクター属細菌の感染初期には根部に優先的に蓄積する性質に着目した。そこで、植物の幼苗の根元にリベリバクター属細菌を接種したところ、リベリバクター属細菌を植物に安定的に感染させることができることを見出した。また、この方法であれば、ゲッキツ等の非栽培品種およびカンキツ近縁野生種に対してもリベリバクター属細菌を感染させることが可能であることを見出した。本発明者らは、これらの知見をもとに、本発明を完成させた。
【0016】
本発明は、リベリバクター属細菌を植物に感染させる方法であって、リベリバクター属細菌を含む細菌含有液を植物の根部に接触させることを含む、方法を提供する。
【0017】
本発明はまた、上記方法において、細菌含有液が、リベリバクター属細菌の培養液、リベリバクター属細菌に感染した植物の粗汁液またはリベリバクター属細菌を保菌する媒介昆虫の粗汁液である、方法を提供する。
【0018】
本発明はまた、上記方法において、細菌含有液の菌密度が1×100~1×108細胞/mlである、方法を提供する。
【0019】
本発明はまた、上記方法において、植物が、ミカン科、ナス科またはセリ科の植物である、方法を提供する。
【0020】
本発明はまた、上記方法において、根部が、挿し木により発根させた根部または実生苗の根部である、方法を提供する。
【0021】
本発明はまた、上記方法において、細菌含有液が、注射器を用いて前記根部に注入される、方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の方法を用いれば、一定の菌密度条件下において、非栽培品種およびカンキツ近縁野生種にも安定的にリベリバクター属細菌を感染させることができる。そのため、これまでゲッキツおよびカンキツ野生種におけるリベリバクター属細菌に対する免疫応答に関する知見は皆無であったが、本発明の方法を利用することにより、たとえばリベリバクター属細菌の感染生理機構の解明、抵抗性品種の素材選抜およびカンキツグリーニング病に対する抵抗性品種の開発などが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】挿し穂の準備について説明するための図。
図2図2Aは、菌密度1×107 cells/mlの罹病葉由来の細菌含有液を接種した接種ラフレモンの葉におけるリベリバクター属細菌(グリーニング病菌)の菌密度を示し、図2Bは、接種ラフレモン20株におけるカンキツグリーニング病の発病株数を示す。
図3図3Aは、菌密度5×105 cells/mlの罹病葉由来の細菌含有液を接種した接種ラフレモンの葉におけるリベリバクター属細菌(グリーニング病菌)の菌密度を示し、図3Bは、接種ラフレモン5株におけるカンキツグリーニング病の発病株数を示す。
図4図4Aは、菌密度5×100 cells/mlの罹病葉由来の細菌含有液を接種した接種ラフレモンの葉におけるリベリバクター属細菌(グリーニング病菌)の菌密度を示し、図4Bは、接種ラフレモン5株におけるカンキツグリーニング病の発病株数を示す。
図5図5Aは、培養菌体由来の細菌含有液を接種した接種ラフレモンの葉におけるリベリバクター属細菌(グリーニング病菌)の菌密度を示し、図5Bは接種ラフレモン14株におけるカンキツグリーニング病の発病株数を示す。
図6図6Aはトマトの幼苗を示し、図6Bは播種トマト4株におけるリベリバクター属細菌の検出の有無を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、リベリバクター属細菌を植物に感染させる方法を提供する。本発明の方法は、リベリバクター属細菌を含む細菌含有液を植物の根部に接触させることを含む。
【0025】
本発明において、リベリバクター属細菌には、たとえばカンジタダス・リベリバクター・アシアティクス(Candidatus Liberibacter asiaticus ;Las)、カンジダタス・リベリバクター・アフリカヌス(Candidatus Liberibacter africanus)、カンジダタス・リベリバクター・アメリカヌス(Candidatus Liberibacter americanus)、カンジダタス・リベリバクター・ソラナケアルム(Candidatus Liberibacter solanacearum ;Lso)、カンジダタス・リベリバクター・エウロパエウス(Candidatus Liberibacter europaeus)およびリベリバクター・クレセンス(Liberibacter crescens)などが含まれる。
【0026】
カンジタダス・リベリバクター・アシアティクス(Las)、カンジダタス・リベリバクター・アフリカヌスおよびカンジダタス・リベリバクター・アメリカヌスは、カンキツグリーニング病菌として知られている。また、カンジダタス・リベリバクター・ソラナケアルム(Lso)は、ジャガイモゼブラチップ病菌として知られている。本発明の方法は、リベリバクター属細菌が引き起こすこれらの植物病害の診断および研究のために用いることができる。
【0027】
本発明において感染させる植物は、リベリバクター属細菌によって感染し得るミカン科ミカン属の植物(Citrus spp.)であることができる。また、本発明において感染させる植物は、たとえば、ボロニア属(ボロニア・ヘテロフィラ(Boronia heterophylla)、ボロニア・メガスティグマ(Boronia megastigma)、ボロニア・ピンナータ(Boronia pinnata Sm.))、キンカン属(マルミキンカン(Fortunella japonica = Citrus japonica))、コレオネマ属(コレオネマ・プルクルム(Coleonema pulchrum))、クロウエア属(クロウエア・サリグナ(Crowea saligna Andrews)、クロウェア・エクサラータ(Crowea exalata F.Muell.)、クロウェア・アングスティフォリア(Crowea angustifolia Sm.))、アワダン属(アツバシロテツ(Melicope grisea var. crassifolia))、ゲッキツ属(ゲッキツ(Murraya paniculata Jack))、キハダ属(キハダ(Phellodendron amurense))、フィロセカ属(フィロセカ・ミオポロイデス(Philotheca myoporoides))、カラタチ属(カラタチ(Poncirus trifoliata))、ヘンルーダ属(ヘンルーダ(Ruta graveolens))、ミヤマシキミ属(ミヤマシキミ(Skimmia japonica))、ゴシュユ属(ハマセンダン(Tetradium glabrifolium var. glaucum))、およびサンショウ属(サンショウ(Zanthoxylum piperitum))のミカン科の植物;ソラナム属(トマトSolanum lycopersicum L.))、トウガラシ属(トウガラシ(Capsicum annuum L.))、タバコ属(ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana Domin))、チョウセンアサガオ属(チョウセンアサガオ(Datura metel L.))、キダチチョウセンアサガオ属(キダチチョウセンアサガオ (Brugmansia suaveolens L.))、ホオズキ属(ホオズキ(Physalis alkekengi L. var. franchetii))、イガホオズキ属イガホオズキ(Physaliastrum echinatum (Yatabe) Makino))、ハダカホオズキ属(ハダカホオズキ(Tubocapsicum anomalum (Franch. et Sav.) Makino))、ペチュニア属(ペチュニア((Petunia x hybrida))、ハシリドコロ属(ハシリドコロ(Scopolia japonica Maxim.))、ヒヨス属ヒヨス(ヒヨス Hyoscyamus niger L.))ベラドンナ属(ベラドンナ(Atoropa belladonna L.))、マンドレイク属(マンドレイク(Mandragora officinarun L.))、クコ属(クコ(Lycium rhombifolium(Moench) Dippel))、およびカリブラコア属(カリブリコアハイブリッド(Calibrachoa × hybrida))などのナス科の植物、ならびに;シシウド属(シシウド(Angelica pubescens Maxim. var. pubescens))、シャク属(シャク(Anthriscus sylvestris (L.) Hoffm.))、ホタルサイコ属(ホタルサイコ(Bupleurum longiradiatum Turcz.))、ツボクサ属(ツボクサ(Centella asiatica (L.) Urb.))、セントウソウ属(セントウソウ(Chamaele decumbens (Thunb.) Makino))、ドクゼリ属(ドクゼリ(Cicuta virosa L.))、ハマゼリ属(ハマゼリ(Cnidium japonicum Miq.))、ミツバ属(ミツバ(Cryptotaenia canadensis DC. subsp. japonica (Hassk.) Hand.-Mazz.))、マツバゼリ属(マツバゼリ(Cyclospermum leptophyllum (Pers.) Sprague))、ノラニンジン属(ノラニンジン(Daucus carota L.))、セリモドキ属(セリモドキ(Dystaenia ibukiensis (Y.Yabe) Kitag.))、ウイキョウ属(ウイキョウ(Foeniculum vulgare Mill.))、ハマボウフウ属(ハマボウフウ(Glehnia littoralis F.Schmidt ex Miq.))、ハナウド属(ハナウド(Heracleum sphondylium L. subsp. sphondylium var. nipponicum (Kitag.) H.Ohba))、イブキボウフウ属(イブキボウフウ(Libanotis coreana (H.Wolff) Kitag.))、セリ属(セリ(Oenanthe javanica (Blume) DC subsp. Javanica))、ヤブニンジン属(ヤブニンジン(Osmorhiza aristata (Thunb.) Rydb. var. aristata))、ヤマゼリ属(ヤマゼリ(Ostericum sieboldii (Miq.) Nakai))、ボタンボウフウ属(ボタンボウフウ(Peucedanum japonicum Thunb.))、オオカサモチ属(オオカサモチ(Pleurospermum uralense Hoffm.))、ウマノミツバ属(ウマノミツバ(Sanicula chinensis Bunge))、ムカゴニンジン属(ムカゴニンジン(Sium ninsi L.))、カノツメソウ属(カノツメソウ(Spuriopimpinella calycina (Maxim.) Kitag.))およびヤブジラミ属(ヤブジラミ(Torilis japonica (Houtt.) DC.))などのセリ科の植物であることができる。
【0028】
細菌含有液は、たとえば、リベリバクター属細菌の培養液であることができる。リベリバクター属細菌は難培養性であるが、たとえば特許文献1に記載の培地において培養した培養液を細菌培養液として用いることができる。たとえば、リベリバクター属細菌は、グルコースおよび/またはグルコースを含むオリゴ糖と、ケトグルタル酸とを含有する培地において培養することができる。リベリバクター属細菌を培養するための培地には、さらに以下の成分を含有させてもよい:グルコースおよびグルコースを含むオリゴ糖以外の糖質;CoA、CoA誘導体、グリセロリン酸塩およびグリセロールからなる群より選択される少なくとも1つ;バリン、イソロイシン、プロリン、オルニチン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジンおよびシステインからなる群より選択される少なくとも1つ、ならびに;抗生物質。
【0029】
リベリバクター属細菌を培養する培地の一例としては、たとえば非特許文献8(Fujikawa et al., PlosOne, 2013, Vol.8, e57011)に記載の培地および非特許文献9(Wells et al., Applied and Environmental Microbiology, 1981, Vol.42, 357-363)に記載のBYCE培地を用いることができる。
【0030】
また、細菌含有液は、たとえば、リベリバクター属細菌に感染した植物の粗汁液またはリベリバクター属細菌を保菌する媒介昆虫の粗汁液であることができる。粗汁液は、たとえば、リベリバクター属細菌に感染した植物の葉またはリベリバクター属細菌を保菌する媒介昆虫の一部などを滅菌水内においてホモジェナイザー等ですり潰し、フィルターでろ過して得た沈殿物に滅菌水を添加して再懸濁することによって調製することができる。
【0031】
細菌含有液の菌密度は、特に限定されないが、たとえば1×100~1×108 cells/mlであることができる。菌密度は、たとえば非特許文献1(Fujiwara et al., 2018. Front Microbiol 9:3089)に記載の方法に従い、Las931/Lssプライマーを用いてリアルタイムPCRを行うことにより定量することができる。
【0032】
リベリバクター属細菌の媒介昆虫には、たとえばミカンキジラミ(Diaphorina citri Kuwayama)、ジャガイモトガリキジラミ(Bactericera cockerelli)、Trioza apicalisForster、Bactericera trigonica HodkinsonおよびBactericera nigricornisが含まれる。
【0033】
細菌含有液を植物の根部に接触させる方法として、特に限定されないが、たとえば植物の篩部(師部)に菌体を注入する方法を用いることができる。たとえば、細菌含有液は、注射器を用いて植物の根部に注入されてもよい。注射器で根部に注入する方法では、たとえば注射器に取り付けた注射針より注射器内の細菌含有液を根部の篩部に注入することができる。
【0034】
細菌含有液を接触させる植物の根部は、挿し木により発根させた根部であってもよい。たとえば、植物の一部を挿し床に挿して挿し木を行うことにより発根させた根部であることができる。「植物の一部」とは、挿し木を行うためのいわゆる挿し穂であり、挿し木を行ったときに発根する部分であればよく、たとえば植物の茎、枝、葉および根などであることができる。
【0035】
挿し木により発根させる方法には、特に限定されず、従来公知の挿し木法を好適に用いることができる。たとえば、まず植物の一部(挿し穂)を採取して、発根させるための挿し床に挿すことにより、当該植物の一部から発根させることができる。発根を促進させるための薬剤(発根促進剤)を用いてもよく、発根促進剤には、従来公知の任意の発根促進剤を用いることができる。
【0036】
挿し床は、挿し穂から発根させることができるものであればよく、たとえば用土、培地、マット材、保水材および水等を用いることができる。用土には、たとえば赤玉土、鹿沼土、ピートモス、バーミキュライト、パーライトおよびココピート等を用いることができる。また、挿し床は、無菌の挿し床であることができる。無菌の挿し床は、たとえば滅菌処理された土壌(用土)であってもよい。
【0037】
また、細菌含有液を接触させる植物の根部は、植物の取り木または実生苗の根部であってもよい。「取り木」とは、枝および茎などの一部を人為的に傷付けるか、あるいは土に埋めるなどにより、新しい根を発生させたものである。「実生苗」とは、種子をまいて育てた植物の苗である。実生苗の根部に接種する場合、たとえば種を播種して1~1.5ヶ月の幼苗の根部(地ぎわ部)の表皮内側0.5mm~5mmの内部細胞に菌液を接種することができる。
【0038】
本発明の方法は、リベリバクター属細菌の人工接種を行うことができるため、リベリバクター属細菌による植物病害の発病メカニズムの解明等のアカデミック分野での研究活動および新たな抵抗性品種の開発の応用分野の両方で利用可能である。本発明の方法は、国内だけでなく、カンキツグリーニング病、近縁リベリバクター属細菌が引き起こすジャガイモゼブラチップ病およびニンジンLso病によって深刻な被害を受けている国々において利用可能である。本発明の方法により抵抗性品種が開発され、カンキツグリーニング病発生地における抵抗性品種の導入が可能になれば、感染樹の新たな発生を防ぐことができ、感染拡大のリスクを最小限に抑えることが可能になると期待される。
【実施例
【0039】
〔実施例1〕
(挿し穂の準備)
健全なラフレモンの若い枝や茎等を回収し、葉を含む挿し穂を準備した。挿し穂は、切断面が乾燥しないように、市販の発芽・発根促進剤であるメネデール(メネデール株式会社)の希釈溶液に漬けておいた。
【0040】
あらかじめ高圧滅菌処理(121℃、15分)した砂質土壌(鹿沼土)をプラスチックポットに入れた。
【0041】
挿し穂の切断面に、市販の発根誘導剤であるルートン(住友園芸化学株式会社)を塗布し、砂質土壌(鹿沼土)に挿した。メネデール水溶液を鹿沼土に加え、十分に挿し穂の地下部が浸漬するようにした。鹿沼土の水分が切れないよう、こまめに水分調節を行うとともに、水分過剰にならないように注意した。また、挿し穂を袋等で覆い過湿気味にして管理した(図1A)。
【0042】
1ヶ月後、鹿沼土から無病徴の挿し穂(挿し木幼苗)をやさしく抜き出し、発根しているものを使用した(図1B)。
【0043】
(細菌含有液の調製)
リベリバクター(Liberibacter)属細菌の感染葉(罹病葉)および培養菌体から接種源(細菌含有液)を作出した。接種源の作出方法は、非特許文献1(Fujiwara et al., 2018. Front Microbiol 9:3089)に記載の方法に従った。
【0044】
具体的には、リベリバクター・アシアティクス(Las)に感染したラフレモン葉の主脈を切り出し、滅菌水内において市販のディスポーザブルホモジェナイザー(バイオマッシャーIII(ニッポンジーン))を用いてすり潰した。すり潰した試料をカラム付きフィルター(バイオマッシャーIIIの付属品(ニッポンジーン))に入れ、7000rpmで2分間遠心分離した。上清を廃棄し、沈殿物に滅菌水を添加し再懸濁した。遠心分離および再懸濁を3回繰り返し、細菌含有液を得た。細菌含有液の一部をリアルタイムPCRにより定量し、菌密度を調べた。具体的には、非特許文献1(Fujiwara et al., 2018. Front Microbiol 9:3089)に記載の方法に従い、Las931/Lssプライマーを用いて、インターカレーター法によるリアルタイムPCRを行った。この細菌含有液を、リベリバクター属細菌の菌密度が1×107 cells/ml、5×105 cells/mlまたは5×100cells/mlとなるように調整し、罹病葉由来の接種源とした。
【0045】
また、罹病葉から得た細菌含有液を、液体培地に添加して培養した。液体培地は、非特許文献1(Fujiwara et al., 2018. Front Microbiol 9:3089)に記載の方法に従い、ペプトン0.5g、イーストエクストラクト0.2g、グルコース0.1g、フルクトース0.1g、スクロース0.1g、可溶性デンプン0.1g、α-ケトグルタル酸0.1g、MEM 必須アミノ酸溶液 (×50) 0.5ml、MEM 非必須アミノ酸溶液 (×100) 1ml、グルタミン0.1g、メチオニン0.1g、システイン0.1g、シスチン0.1g、グリセロリン酸ナトリウム0.5g、コエンザイムA 0.1g、グリセロール1 ml、およびブロモメチレンブルー0.001gを100mLの水に溶解し、10規定の水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調整した後、オートクレーブ滅菌(121℃、15分)を行い、次いでオキシテトラサイクリンを終濃度1000ppmとなるよう添加して調製した。1ヶ月後の培養液を、リベリバクター・アシアティクス(Las)の菌密度が1×105 cells/mlとなるように希釈し、培養菌体由来の接種源とした。菌密度は、接種源の一部をリアルタイムPCRにより定量することによって調べた。
【0046】
(植物への接種)
上記接種源をシリンジに充填した。準備した挿し木幼苗の発根部位に、挿し木幼苗につき100μlの接種源を接種した。接種した幼苗は、高圧滅菌処理(121℃、15分)済みの育苗土壌(健苗(八江農芸株式会社))に移植し栽培を行った。
【0047】
(罹病葉由来の接種源による接種)
菌密度1×107 cells/mlに調整した罹病葉由来の接種源を用いた接種では、接種ラフレモン20株を対象に、栽培2ヶ月後から12ヶ月後まで2ヶ月毎に接種ラフレモンの葉を採取し、リベリバクター属細菌の菌密度を調べた。リベリバクター属細菌の菌密度は、非特許文献2(Li et al., 2006. J Microbial Methods 66:104-115)に記載の方法を用いて、リアルタイムPCRにより行った。具体的には、HLBas/HLBrプライマーおよびHLBpプローブを用いて、Taqman probe法によるリアルタイムPCRを用いた。
【0048】
菌密度1×107 cells/mlの罹病葉由来の細菌含有液を接種したラフレモンの葉におけるリベリバクター属細菌(グリーニング病菌)の菌密度を図2Aに示す。また、接種ラフレモン20株におけるカンキツグリーニング病の発病株数を図2Bに示す。図2Aに示すように、接種2ヶ月以降の葉からリベリバクター属細菌が検出された。また、図2Bに示すように、接種10ヶ月後から、接種ラフレモンにおいてカンキツグリーニング病の病徴が認められた。
【0049】
菌密度5×105 cells/ml または5×100cells/mlにそれぞれ調整した接種源を用いた接種では、各接種条件下において接種ラフレモン5株を対象に、栽培2ヶ月後から16ヶ月後まで2ヶ月毎に接種ラフレモンの葉を採取し、リベリバクター属細菌の菌密度を調べた。リベリバクター属細菌の菌密度は、非特許文献2(Li et al., 2006. J Microbial Methods 66:104-115)に記載の方法を用いて、リアルタイムPCRにより行った。具体的には、HLBas/HLBrプライマーおよびHLBpプローブを用いて、Taqman probe法によるリアルタイムPCRを用いた。
【0050】
菌密度5×105 cells/mlの細菌含有液を接種したラフレモンの葉におけるリベリバクター属細菌(グリーニング病菌)の菌密度を図3Aに示す。菌密度5×100cells/mlの細菌含有液を接種したラフレモンの葉におけるリベリバクター属細菌(グリーニング病菌)の菌密度を図4Aに示す。また、それぞれの接種ラフレモン5株におけるカンキツグリーニング病の発病株数を図3Bおよび4Bに示す。図3Aに示すように、接種菌密度を5×105cells/mlとした場合には、接種2ヶ月以降の葉からリベリバクター属細菌が検出された。また、図3Bに示すように、接種10ヶ月後から、接種ラフレモンにおいてカンキツグリーニング病の病徴が認められた。図4Aに示すように、接種菌密度を5×100cells/mlとした場合には、接種2ヶ月以降の葉からリベリバクター属細菌が検出された。また、図4Bに示すように、接種16ヶ月後から、接種ラフレモンにおいてカンキツグリーニング病の病徴が認められた。
【0051】
(培養菌体由来の接種源による接種)
培養菌体由来の接種源を用いた接種では、接種ラフレモン14株を対象に、栽培2ヶ月後から16ヶ月後まで2ヶ月毎に接種ラフレモンの葉を採取し、上述した方法によりリベリバクター属細菌の菌密度を調べた。
【0052】
培養菌体由来の細菌含有液を接種したラフレモンの葉におけるリベリバクター属細菌(グリーニング病菌)の菌密度を図5Aに示す。また、接種ラフレモン14株におけるカンキツグリーニング病の発病株数を図5Bに示す。図5Aに示すように、接種4ヶ月以降の葉からリベリバクター属細菌が検出された。また、図5Bに示すように、接種14ヶ月後から、接種ラフレモンにおいてカンキツグリーニング病の病徴が認められた。
【0053】
これらの結果から、リベリバクター属細菌を含む細菌含有液をカンキツ類の根部の師部へ接触させることにより、リベリバクター属細菌をカンキツ類に感染させることができることが示された。
【0054】
〔実施例2〕
実施例1における罹病葉由来の接種源を用いて、トマトへの接種を行った。
【0055】
トマト種子を播種した後、1ヶ月後の幼苗4株を得た(図6A)。これらの幼苗の地ぎわ部に、上述した罹病染葉由来の接種源を実施例1と同様に接種した。接種1ヶ月後の葉を採取し、リベリバクター・アシアティクス(Las)を検出した。具体的には、非特許文献8(Fujikawa et al., PlosOne, 2013, Vol.8, e57011)に記載の方法に従い、Las606/LSSプライマーを用いて、アニーリング温度55℃の条件下でPCRを行い、アガロースゲル電気泳動を行った。アガロースゲル電気泳動の結果を図6Bに示す。図6Bに示すように、接種トマト4株全ての葉からリベリバクター属細菌が検出された。
【0056】
この結果から、リベリバクター属細菌を含む細菌含有液をトマトの根部の師部へ接触させることにより、リベリバクター属細菌をトマトに感染させることができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、リベリバクター属細菌の宿主および非宿主認識機構の解明、抵抗性品種の素材選抜およびカンキツグリーニング病に対する抵抗性品種の開発などに利用可能である。
図1
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図3
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図5
図6