(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】基板処理装置および基板処理方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20241217BHJP
【FI】
H01L21/304 651Z
H01L21/304 648K
H01L21/304 648G
(21)【出願番号】P 2020178315
(22)【出願日】2020-10-23
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100106655
【氏名又は名称】森 秀行
(72)【発明者】
【氏名】井原 亨
(72)【発明者】
【氏名】田中 暁
(72)【発明者】
【氏名】五師 源太郎
(72)【発明者】
【氏名】山下 剛秀
(72)【発明者】
【氏名】山中 励二郎
(72)【発明者】
【氏名】神代 英明
【審査官】今井 聖和
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-126974(JP,A)
【文献】特表2003-510801(JP,A)
【文献】特開2019-201201(JP,A)
【文献】特開昭63-069227(JP,A)
【文献】特開2008-182034(JP,A)
【文献】特開2020-025013(JP,A)
【文献】特開2007-175559(JP,A)
【文献】特開2018-081966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B08B 3/00
B08B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に液体が付着した基板を、超臨界状態の処理流体を用いて乾燥させる基板処理装置であって、
前記基板を収容する処理容器と、
前記処理容器内で前記表面を上向きにして前記基板を水平に保持する基板保持部と、
前記処理容器に設けられた第1流体供給部に接続され、前記処理容器内に処理流体を供給する第1供給ラインと、
前記処理容器に設けられた排出部に接続され、前記処理容器から処理流体を排出する排出ラインと、
前記第1供給ラインに設定された第1分岐点において前記第1供給ラインから分岐するとともに前記排出ラインに設定された接続点において前記排出ラインに接続され、前記第1供給ラインを流れる処理流体の少なくとも一部を前記処理容器を通さずに前記排出ラインに排出することを可能とするバイパスラインと、
前記バイパスラインを開閉するバイパス開閉弁と、
前記排出ラインに設けられ、前記処理容器内の圧力を調整する圧力調整弁と、
を備
え、
前記バイパスラインが前記排出ラインに接続される前記接続点は、前記処理容器と前記圧力調整弁との間に設定されており、
前記処理容器に設けられた第1流体供給部は、前記基板を保持する前記基板保持部の下面に向けて処理流体を前記処理容器内に吐出するように設けられており、
前記処理容器にさらに、前記基板保持部に保持された前記基板の上方の領域に向けて、前記基板の表面に概ね沿う方向に吐出するように構成された第2流体供給部が設けられており、
前記基板処理装置は、超臨界状態の処理流体を供給する処理流体供給源に接続された主供給ラインをさらに備え、前記主供給ラインは、前記主供給ラインに設定された第2分岐点において、前記第1供給ラインと第2供給ラインとに分岐し、前記第2供給ラインは前記第2流体供給部に接続されており、
前記基板処理装置は、
前記第2分岐点と前記第1分岐点との間に設けられた第1開閉弁と、
前記第2分岐点と前記第2流体供給部との間に設けられた第2開閉弁と、
前記排出部と前記接続点との間に設けられた第3開閉弁と、
前記基板処理装置の動作を制御する制御部と、
をさらに備え、
前記制御部は、第1期間に、前記第1開閉弁および前記バイパス開閉弁を開き、かつ、前記第2開閉弁および前記第3開閉弁を閉じた第1状態として、前記第1供給ラインから前記処理容器に供給される処理流体により前記処理容器内の圧力を前記処理流体の臨界圧力以上の圧力まで上昇させ、
前記制御部は、前記第1期間に続く第2期間に、前記第2開閉弁および前記第3開閉弁を開き、かつ、前記第1開閉弁および前記バイパス開閉弁を閉じた第2状態として、前記処理容器内の圧力を前記処理流体の臨界圧力以上の圧力に維持しつつ、前記第2供給ラインから前記処理容器に処理流体が供給されるとともに前記排出部から前記処理流体が排出されるようにし、
前記圧力調整弁の下流側において前記排出ラインに設けられた1つ以上の第4開閉弁をさらに備え、前記制御部は、前記1つ以上の第4開閉弁を、前記第1期間の少なくとも終期に閉じ、これにより前記排出ラインの少なくとも前記第3開閉弁から前記第4開閉弁に至るまでの区間を、前記バイパスラインから当該区間に流入する処理流体により充填して、当該区間内の圧力を高め、
前記制御部は、前記1つ以上の第4開閉弁を、前記第1期間の少なくとも初期に開き、これにより前記バイパスラインから前記排出ラインに流入した処理流体が、前記排出ラインの前記1つ以上の第4開閉弁よりも下流側に流れることを可能とする、基板処理装置。
【請求項2】
前記処理容器内の圧力を直接的または間接的に検出する圧力センサをさらに備
え、
前記制御部は、前記第2期間に、前記処理容器内の圧力の設定値と、前記圧力センサによる圧力の測定値との偏差に基づいて、前記処理容器内の圧力が前記設定値となるように前記圧力調整弁の開度をフィードバック制御するように構成されている、請求項
1に記載の基板処理装置。
【請求項3】
前記圧力調整弁の開度のフィードバック制御は、前記偏差に基づいて、前記処理容器内の圧力が前記設定値となるように、前記圧力調整弁の弁体の位置をアクチュエータにより調節することにより実施され、
前記制御部は、前記フィードバック制御の開始時における前記圧力調整弁の弁体の初期位置を、過去に実行された基板処理における前記第2期間において前記圧力調整弁の開度が安定状態にあるときの前記圧力調整弁の弁体の位置に設定する、請求項
2に記載の基板処理装置。
【請求項4】
過去に実行された基板処理とは、現在実行中の基板処理の直前の基板処理である、請求項
3に記載の基板処理装置。
【請求項5】
前記第1分岐点よりも上流側において前記第1供給ラインに設定された分岐点において前記第1供給ラインから分岐する逃がしラインと、
前記逃がしラインに設けられた開閉弁
と、
をさらに備え、
前記制御部は、前記第1供給ラインから前記処理容器に供給される処理流体により前記処理容器内の圧力を上昇させてゆくときに、前記バイパス開閉弁と前記逃がしラインの開閉弁とを開いて、前記第1供給ラインを前記処理容器に向けて流れる処理流体の一部を前記逃がしラインに排出させるとともに、前記第1供給ラインを前記処理容器に向けて流れる処理流体の他の一部を前記バイパスラインを介して前記排出ラインに排出させる、請求項1
に記載の基板処理装置。
【請求項6】
表面に液体が付着した基板を、超臨界状態の処理流体を用いて乾燥させる基板処理装置であって、
前記基板を収容する処理容器と、
前記処理容器内で前記表面を上向きにして前記基板を水平に保持する基板保持部と、
前記処理容器に設けられた第1流体供給部に接続され、前記処理容器内に処理流体を供給する第1供給ラインと、
前記処理容器に設けられた排出部に接続され、前記処理容器から処理流体を排出する排出ラインと、
前記第1供給ラインに設定された第1分岐点において前記第1供給ラインから分岐するとともに前記排出ラインに設定された接続点において前記排出ラインに接続され、前記第1供給ラインを流れる処理流体の少なくとも一部を前記処理容器を通さずに前記排出ラインに排出することを可能とするバイパスラインと、
前記バイパスラインを開閉するバイパス開閉弁と、
前記排出ラインにおいて前記接続点よりも下流側に設けられ、前記処理容器内の圧力を調整する圧力調整弁と、
前記排出ラインにおいて前記排出部と前記接続点との間に設けられた開閉弁と、
前記排出ラインにおいて前記圧力調整弁の下流側に設けられた開閉弁と、
前記基板処理装置の動作を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記第1供給ラインから前記処理容器に供給される処理流体により前記処理容器内の圧力を上昇させてゆく昇圧工程の少なくとも初期に、前記排出部と前記接続点との間に設けられた開閉弁を閉じるとともに前記バイパス開閉弁および前記圧力調整弁の下流側に設けられた前記開閉弁を開き、これにより、前記第1供給ラインを前記処理容器に向けて流れる処理流体の一部が、前記バイパスライン、前記接続点、前記圧力調整弁およびその下流側の前記開閉弁を介して、当該開閉弁の下流側に流れるようにする、基板処理装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記昇圧工程の少なくとも終期に、前記圧力調整弁の下流側に設けられた前記開閉弁を閉じ、これにより、前記排出ラインの、少なくとも、前記排出部と前記接続点との間に設けられた開閉弁と前記圧力調整弁の下流側に設けられた前記開閉弁との間の区間を、前記バイパスラインから当該区間に流入する処理流体により充填して、当該区間内の圧力を高める、請求項6に記載の基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板処理装置および基板処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハ(以下、ウエハという)などの基板の表面に集積回路の積層構造を形成する半導体装置の製造においては、薬液洗浄あるいはウエットエッチング等の液処理が行われる。近年ますます微細化が進みつつあるパターンの倒壊をより確実に防止するため、近年では、液処理の最終工程である乾燥工程において超臨界状態の処理流体を用いた乾燥方法が用いられつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、基板の表面に形成されたパターンの倒壊をより確実に抑制することができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
基板処理装置の一実施形態は、表面に液体が付着した基板を、超臨界状態の処理流体を用いて乾燥させる基板処理装置であって、前記基板を収容する処理容器と、前記処理容器内で前記表面を上向きにして前記基板を水平に保持する基板保持部と、前記処理容器に設けられた第1流体供給部に接続され、前記処理容器内に処理流体を供給する第1供給ラインと、前記処理容器に設けられた排出部に接続され、前記処理容器から処理流体を排出する排出ラインと、前記第1供給ラインに設定された第1分岐点において前記第1供給ラインから分岐するとともに前記排出ラインに設定された接続点において前記排出ラインに接続され、前記第1供給ラインを流れる処理流体の少なくとも一部を前記処理容器を通さずに前記排出ラインに排出することを可能とするバイパスラインと、前記バイパスラインを開閉するバイパス開閉弁と、を備えている。
【発明の効果】
【0006】
上記実施形態によれば、基板の表面に形成されたパターンの倒壊をより確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】基板処理装置の一実施形態である超臨界処理装置の構成を示す配管系統図である。
【
図2A】第1実施形態に係る乾燥方法における昇圧工程の減速昇圧段階を説明するための概略図である。
【
図2B】第1実施形態に係る乾燥方法における昇圧工程の通常昇圧段階を説明するための概略図である。
【
図2C】第1実施形態に係る乾燥方法における流通工程を説明するための概略図である。
【
図2D】第1実施形態に係る乾燥方法における排出工程を説明するための概略図である。
【
図3】昇圧工程から排出工程に至るまでの処理容器内の圧力変化の一例を示すグラフである。
【
図4A】昇圧工程から流通工程への移行時に生じ得る処理容器内の圧力変化について説明するグラフである。
【
図4B】昇圧工程から流通工程への移行時に生じ得る処理容器内の圧力変化について説明するグラフである。
【
図5】圧力調整弁の構成の一例を示す概略断面図である。
【
図6A】第2実施形態に係る乾燥方法における昇圧工程の減速昇圧段階を説明するための概略図である。
【
図6B】第2実施形態に係る乾燥方法における昇圧工程の通常昇圧段階を説明するための概略図である。
【
図7A】第3実施形態に係る乾燥方法における昇圧工程の減速昇圧段階を説明するための概略図である。
【
図7B】第3実施形態に係る乾燥方法における昇圧工程の減速昇圧段階の他の態様を説明するための概略図である。
【
図7C】第3実施形態に係る乾燥方法における昇圧工程の通常昇圧段階を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
基板処理装置の一実施形態として超臨界処理装置を、添付図面を参照して説明する。この超臨界処理装置は、表面に液体(例えばIPA)が付着した基板を、超臨界状態の処理流体を用いて乾燥させ超臨界乾燥処理を行うために用いることができる。
【0009】
図1に示すように、超臨界処理装置は、内部で超臨界乾燥処理が行われる処理ユニット10を備えている。処理ユニット10は、処理容器12と、処理容器10内で基板を保持する基板保持トレイ14(以下、単に「トレイ14」と呼ぶ)とを有している。
【0010】
一実施形態において、トレイ14は、処理容器12の側壁に設けられた開口を塞ぐ蓋部16と、蓋部16に連結された水平方向に延びる基板支持プレート(基板保持部)18(以下、単に「プレート18」と呼ぶ)とを有する。プレート18の上には、表面(デバイス形成面)を上向きにした状態で、水平に基板Wが載置される。プレート18は、例えば長方形または正方形である。プレート18の面積は基板Wより大きく、プレート18上の所定位置に基板Wが載置されたときにプレート18を真下から見ると、基板Wはプレート18に完全に覆われる。
【0011】
トレイ14は、図示しないトレイ移動機構により、処理位置(閉位置)と、基板受け渡し位置(開位置)との間で水平方向に移動することができる。処理位置では、プレート18が処理容器12の内部空間内に位置し、かつ蓋部16が処理容器12の側壁の開口を閉鎖する(
図1に示す状態)。基板受け渡し位置では、プレート18が処理容器12の外に出ており、プレート18と図示しない基板搬送アームとの間で基板Wの受け渡しを行うことが可能である。トレイ14の移動方向は、例えば、
図1の左右方向である。トレイ14の移動方向は、
図1の紙面垂直方向であってもよく、この場合、蓋部16はプレート18の図中奥側または手前側に設けることができる。
【0012】
トレイ14が処理位置にあるとき、プレート18により、処理容器12の内部空間が、処理中に基板Wが存在するプレート18の上方の上方空間12Aと、プレート18の下方の下方空間12Bとに分割される。但し、上方空間12Aと下方空間12Bとが完全に分離されているわけではない。処理位置にあるトレイ14の周縁部と処理容器12の内壁面との間には、上方空間12Aと下方空間12Bとを連通させる連通路となる隙間が形成されている。さらに蓋部16の近傍において、上方空間12Aと下方空間12Bとを連通させる貫通孔がプレート18に設けられていてもよい。
【0013】
上述したように、処理容器12の内部空間が、上方空間12Aと下方空間12Bとに分割され、かつ、上方空間12Aと下方空間12Bとを連通させる連通路が設けられているならば、トレイ14(プレート18)は処理容器12内に移動不能に固定された基板載置台(基板保持部)として構成されていてもよい。この場合、処理容器12に設けられた図示しない蓋を開けた状態で、図示しない基板搬送アームが容器本体内に侵入して、基板載置台と基板搬送アームとの間で基板の受け渡しが行われる。
【0014】
処理容器12は、処理容器12の内部空間に加圧された処理流体、本実施形態においては超臨界状態にある二酸化炭素(以下、簡便のため「CO2」とも記載する)を受け入れるための第1流体供給部21と第2流体供給部22とを有している。
【0015】
第1流体供給部21は、処理位置にあるトレイ14のプレート18の下方に設けられている。第1流体供給部21は、プレート18の下面に向けて、下方空間12B内にCO2を供給する。第1流体供給部21は、処理容器12の底壁に形成された貫通孔により構成することができる。第1流体供給部21は処理容器12の底壁に取り付けられたノズル体であってもよい。
【0016】
第2流体供給部22は、処理位置にあるトレイ14のプレート18上に載置された基板Wの側方に位置するように設けられている。第2流体供給部22は、例えば、処理容器12の一つの側壁(第1側壁)またはその近傍に設けることができる。第2流体供給部22は、基板Wのやや上方の領域に向けて、上方空間12A内にCO2を供給する。
【0017】
第2流体供給部22は、水平方向(例えば
図1の紙面垂直方向)に並んだ複数の吐出口により構成することができる。より具体的には、第2流体供給部22は、例えば、複数の孔が穿たれた水平方向に延びるパイプ状部材からなるヘッダーとして形成することができる。第2流体供給部22は、基板Wの直径全体にわたって、基板Wの上方の領域にほぼ均等に、基板Wの上面(表面)に沿ってCO2を流すことができるように構成されていることが好ましい。
【0018】
処理容器12は、処理容器12の内部空間から処理流体を排出する流体排出部24をさらに有している。流体排出部24は、第2流体供給部22と同様に複数の孔が穿たれた水平方向に延びるパイプ状部材からなるヘッダーとして形成することができる。流体排出部24は、例えば、第2流体供給部22が設けられている処理容器12の第1側壁とは反対側の側壁(第2側壁)またはその近傍に設けることができる。
【0019】
流体排出部24は、第2流体供給部22から処理容器12内に供給されたCO2がプレート18上にある基板Wの上方の領域を通過した後に流体排出部24から排出されるような位置であれば、任意の位置に配置することができる。すなわち、例えば、流体排出部24は、第2側壁近傍の処理容器12の底部に設けられていてもよい。この場合、CO2は、上方空間12A内の基板Wの上方の領域を通過して流れた後に、プレート18の周縁部に設けられた連通路(あるいはプレート18に形成された貫通孔)を通って下方空間12Bに流入した後、流体排出部24から排出される。
【0020】
次に、超臨界処理装置において、処理容器12に対してCO2の供給および排出を行う供給/排出系について説明する。
図1に示した配管系統図において、丸で囲んだTで示す部材は温度センサ、丸で囲んだPで示す部材は圧力センサである。符号OLFが付けられた部材はオリフィス(固定絞り)であり、その下流側の配管内を流れるCO2の圧力を所望の値まで低下させる。四角で囲んだSVで示す部材は安全弁(リリーフ弁)であり、不測の過大圧力により配管あるいは処理容器12等の超臨界処理装置の構成要素が破損することを防止する。符号Fが付けられた部材はフィルタであり、CO2中に含まれるパーティクル等の汚染物質を除去する。符号CVが付けられた部材はチェック弁(逆止弁)である。丸で囲んだFVで示す部材はフローメーター(流量計)である。四角で囲んだHで示す部材はCO2を温調するためのヒータである。参照符号VN(Nは自然数)が付けられた部材は開閉弁であり、
図1には10個の開閉弁V1~V10が描かれている。
【0021】
超臨界処理装置は超臨界流体供給装置30を有する。本実施形態では、超臨界流体は超臨界状態にある二酸化炭素(以下、「超臨界CO2」とも呼ぶ)である。超臨界流体供給装置30は、例えば炭酸ガスボンベ、加圧ポンプ、ヒータ等を備えた周知の構成を有している。超臨界流体供給装置30は、後述する超臨界状態保証圧力(具体的には約16MPa)またはそれ以上の圧力で超臨界CO2を送り出す能力を有している。
【0022】
超臨界流体供給装置30には主供給ライン32が接続されている。超臨界流体供給装置30から超臨界状態でCO2が主供給ライン32に流出するが、その後の膨張あるいは温度変化により、ガス状態にもなり得る。本明細書において、「ライン」と呼ばれる部材は、パイプ(配管部材)により構成することができる。
【0023】
主供給ライン32は分岐点33において、第1供給ライン34と第2供給ライン36とに分岐している。第1供給ライン34は、処理容器12の第1流体供給部21に接続されている。第2供給ライン36は、処理容器12の第2流体供給部22に接続されている。
【0024】
処理容器12の流体排出部24に、排出ライン38が接続されている。排出ライン38には、圧力調整弁40が設けられている。圧力調整弁40の開度を調整することにより、圧力調整弁40の一次側圧力を調節することができ、従って、処理容器12内の圧力を調節することができる。
【0025】
図1に概略的に示された制御部100が、処理容器12内の圧力の測定値(PV)と設定値(SV)とのの偏差に基づいて、処理容器12内の圧力が設定値に維持されるように、圧力調整弁40の開度(具体的には弁体の位置)をフィードバック制御する。処理容器12内の圧力の測定値としては、例えば、
図1に示されたように、排出ライン38の開閉弁V3と処理容器12との間に設けられた参照符号PSが付けられた圧力センサの検出値を用いることができる。つまり、処理容器12内の圧力は、処理容器12内に設けた圧力センサにより直接的に測定してもよく、処理容器12の外(排出ライン38)に設けた圧力センサ(PS)により間接的に測定してもよい。
【0026】
制御部100は、たとえばコンピュータであり、演算部101と記憶部102とを備える。記憶部102には、超臨界処理装置(または超臨界処理装置を含む基板処理システム)において実行される各種の処理を制御するプログラムが格納される。演算部101は、記憶部102に記憶されたプログラムを読み出して実行することによって超臨界処理装置の動作を制御する。プログラムは、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体に記録されていたものであって、その記憶媒体から制御部100の記憶部102にインストールされたものであってもよい。コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体としては、たとえばハードディスク(HD)、フレキシブルディスク(FD)、コンパクトディスク(CD)、マグネットオプティカルディスク(MO)、メモリカードなどがある。
【0027】
第1供給ライン34上に設定された分岐点42において、第1供給ライン34からバイパスライン44が分岐している。バイパスライン44は、排出ライン38に設定された接続点46において、排出ライン38に接続されている。合流点46は、圧力調整弁40の上流側にある。
【0028】
圧力調整弁40の上流側において排出ライン38に設定された分岐点48において、排出ライン38から分岐排出ライン50が分岐している。分岐排出ライン50の下流端は、例えば、超臨界処理装置の外部の大気空間に開放されているか、あるいは工場排気ダクトに接続されている。
【0029】
排出ライン38に設定された分岐点52において、排出ライン38から2つの分岐排出ライン54,56が分岐している。分岐排出ライン54,56の下流端は再び排出ライン38に合流する。排出ライン38の下流端は、例えば、流体回収装置(図示せず)に接続されている。流体回収装置で回収されたCO2に含まれる有用成分(例えばIPA(イソプロピルアルコール))は、適宜分離されて再利用される。
【0030】
分岐点42と処理容器12との間において第1供給ライン34に設定された合流点60にパージガス供給ライン62が接続されている。パージガス供給ライン62を介して、パージガスを処理容器12に供給することができる。
【0031】
分岐点33のすぐ上流側において主供給ライン32に設定された分岐点64から、排気ライン66が分岐している。
【0032】
・乾燥方法の第1実施形態
次に、上記の超臨界処理装置を用いて実行される乾燥方法(基板処理方法)の第1実施形態について
図2A~
図2Dおよび
図3も参照して説明する。以下に説明する乾燥方法は、記憶部102に記憶された処理レシピ及び制御プログラムに基づいて、制御部100の制御の下で、自動的に実行される。
【0033】
図2A~
図2Dにおいて、黒く塗りつぶされた開閉弁は閉状態,塗りつぶされていない開閉弁は開状態である。
図2A~
図2Dにおいて、CO2が流れているラインが太実線で示され、CO2がある程度の圧力を有した状態で滞留しているラインが太破線で示されている。
【0034】
図3のグラフの横軸は時間であり、縦軸は処理容器12の内圧である。
図3のグラフの横軸において、「2A」は昇圧工程の減速昇圧段階、「2B」は昇圧工程の通常昇圧段階、「2C」は流通工程、「2D」は排出工程にそれぞれ対応している。
【0035】
[搬入工程]
半導体ウエハ等の基板Wが、その表面のパターンの凹部内がIPAに充填されかつその表面にIPAのパドルが形成された状態で、図示しない基板搬送アームにより、基板受け渡し位置で待機しているトレイ14のプレート18上に載置される。なお、この基板Wは、例えば、図示しない枚葉式洗浄装置において(1)ウエットエッチング、薬液洗浄等の薬液処理、(2)薬液をリンス液により洗い流すリンス処理、(3)リンス液をIPAに置換してIPAのパドルを形成するIPA置換処理が順次施されたものである。基板Wが載置されたトレイ14が処理位置に移動すると、処理容器12内に密閉された処理空間が形成され、基板Wは処理空間内に位置する。
【0036】
[昇圧工程]
次に昇圧工程が実施される。昇圧工程は、初期の減速昇圧段階と、減速昇圧段階に続く通常昇圧段階とを含む。
【0037】
なお、昇圧工程の開始時点から減圧工程の終了時点までの間、開閉弁V9は常時開状態、開閉弁V10,V11は常時閉状態であり、これらの開閉弁V9~V11への言及は行わない。なお、開閉弁V8は昇圧・流通工程では常時閉とし、減圧工程にて開状態としてもよい。昇圧工程の開始時点から減圧工程の終了時点まで開閉弁V8は常時閉状態としてもよく、必要に応じて適宜のタイミングで開状態としてもよい。開閉弁V8を開状態とした場合には、圧力調整弁40を通過させずに排気を行うことができるため、排気または減圧時間を短縮することができる。なお、以下の説明では、開閉弁V8は常時閉状態である前提で説明を行う。
【0038】
<減速昇圧段階>
まず、
図2Aに示すように、開閉弁V2およびV3を閉状態とし、開閉弁V1,V4~V7を開状態とする(
図3の時点t1)。この減速昇圧段階では、圧力調整弁40の開度は、例えば、後述する流通工程における初期開度に固定してもよい。超臨界流体供給装置30から主供給ライン32に超臨界状態で送り出されたCO2は、第1供給ライン34に流入し、その一部(例えば30~60%程度)が第1流体供給部21を介して処理容器12内に流入する。また、第1供給ライン34を流れてきたCO2の残部は、処理容器12には向かわずにバイパスライン44を通って排出ライン38に流入し、排出ライン38を流れた後に、工場排気ダクトに廃棄されるか再利用のため回収される。
【0039】
なお、圧力調整弁40の開度を変更することにより、処理容器12内に流入するCO2の流量と、バイパスライン44を流れるCO2の流量の比を調整することも可能である。このため、減速昇圧段階の開度は、後述する流通工程における初期開度と異なっていても構わない。
【0040】
減速昇圧段階の開始直後において、超臨界流体供給装置30から超臨界状態で送り出されたCO2の圧力は、常圧状態にある比較的体積の大きな処理容器12内に流入するときに大きく低下する。すなわち、処理容器12へのCO2の導入初期においては、処理容器12内におけるCO2の圧力は臨界圧力(例えば約8MPa)より低くなるため、CO2はガス状態となる。第1供給ライン34内の圧力と常圧状態にある処理容器12内の圧力との差は非常に大きいため、減速昇圧段階の開始直後ではCO2が高流速で処理容器12内に流入する。CO2(特に高速でガス状態のCO2)が基板Wに衝突するかあるいは基板Wの近傍を流れると、基板Wの周縁部にあるIPAのパドルの崩壊(局所的蒸発または揺らぎ)が生じ、パターン倒壊が生じるおそれがある。
【0041】
本実施形態では、第1供給ライン34にオリフィス(OLF)が設けられているため、第1流体供給部21から処理容器12に流入するときのCO2の流速は、オリフィスが無い場合に比べて低くなる。このため、上記のメカニズムによるパターン倒壊を抑制することができる。
【0042】
また、本実施形態では、第1流体供給部21から処理容器12に流入したCO2は、トレイ14のプレート18に衝突した後、プレート18を迂回して基板Wが存在する上方空間12Aに入る(
図2A中の矢印を参照)。従って、ガス状態のCO2が基板W近傍に到達するときには、CO2の流速は比較的低くなっている。このため、上記のメカニズムによるパターン倒壊を抑制することができる。
【0043】
上記に加えて、本実施形態では、減速昇圧段階つまり処理容器12へのCO2の導入初期において、第1供給ライン34を流れるCO2の一部をバイパスライン44に逃がし、第1流体供給部21から処理容器12に流入するCO2の流速をさらに低下させている。上記のメカニズムによるパターン倒壊をより確実に防止することができる。
【0044】
第1流体供給部21から処理容器12内に流入するCO2の流速が高いと、
図2Aにおいて矢印で示したように上方空間12Aに流入して基板Wの周縁の近傍に到達した時点におけるCO2の流速が、上記のメカニズムによるパターン倒壊を生じさせる程度に高い可能性もある。本実施形態では、この可能性を排除するため、第1供給ライン34を流れるCO2の一部をバイパスライン44に逃がすことにより、第1流体供給部21から処理容器12に流入するCO2の流速を低下させている。
【0045】
上記のメカニズムによるパターン倒壊が生じ得るのは処理容器12へのCO2の導入初期のみである。処理容器12の内圧が高まるに従って、第1流体供給部21を介して処理容器12に流入するCO2の流速は減少してゆくからである。従って、減速昇圧段階は比較的短時間例えば10~20秒程度実行すれば十分である。
【0046】
減速昇圧段階を設けることによる他の利点として、例えば、第1供給ライン34のオリフィス(OLF)の径を極端に小さくする必要がなくなるということが挙げられる。これにより第1供給ライン34から処理容器12にCO2を供給するときの昇圧時間を短縮することが可能となる。
【0047】
<通常昇圧段階>
次に、
図2Bに示すように、開閉弁V5~V7を閉状態にする(
図3の時点t2)。この切り替えは、例えば、処理容器12内の圧力の検出値が予め定められた閾値を超えたときに行うことができる。これに代えて、減速昇圧段階の開始から予め定められた時間(例えば前述した10秒程度)が経過したときに、切り替えを行ってもよい。この通常昇圧段階においては、後述する流通工程への円滑な移行のため、圧力調整弁40の開度を後述する流通工程における初期開度に固定しておくことが好ましい。
【0048】
上記の開閉弁の切り替えに伴い、バイパスライン44から排出ライン38に流入し、排出ライン38および分岐排出ライン54,56を流れていたCO2が開閉弁V5~V7によりせき止められるようになる。また、閉状態にある開閉弁V8によりライン50も閉鎖されている。従って、ライン44,38,50,54,56内にCO2が充填されてゆき、当該ライン内の圧力が上昇してゆく。すると、第1供給ライン34からバイパスライン44に流入するCO2の流量も減少し、処理容器12内の圧力は減速昇圧段階よりも高い昇圧速度で上昇してゆく。
【0049】
処理容器12内の圧力がCO2の臨界圧力(約8MPa)を越えると、処理容器12内に存在するCO2(IPAと混合されていないCO2)は、超臨界状態となる。処理容器12内のCO2が超臨界状態となると、基板W上のIPAが超臨界状態のCO2に溶け込み始める。
【0050】
処理容器12内の圧力がCO2の臨界圧力を超えた後、基板W上の混合流体(CO2+IPA)中のIPA濃度および温度に関わらず、処理容器12内のCO2が超臨界状態に維持されることが保証される圧力(超臨界状態保証圧力)となるまで上記の通常昇圧段階が継続される。超臨界状態保証圧力は概ね16MPa程度である。処理容器12内の圧力が上記の超臨界状態保証圧力に到達したら、基板Wの面内における混合流体の局所的な相変化(例えば気化)によるパターン倒れはもはや生じることはない。なお、このような局所的な相変化は、基板Wの面内における混合流体中のIPA濃度の不均一に起因して生じ、特に臨界温度が高くなるIPA濃度を呈する領域において生じ得る。
【0051】
[流通工程]
処理容器12内の圧力が上記の超臨界状態保証圧力に到達したことが圧力センサにより確認されたら、
図2Cに示すように、開閉弁V2,V3,V5~V7を開状態とし、開閉弁V1,V4を閉状態とし、圧力調整弁40の開度制御をフィードバック制御に切り替え、流通工程に移行する(
図3の時点t3)。開閉弁V5~V7の開放は、開閉弁V3の開放と同時か、開閉弁V3の開放のやや後に行うことが好ましい。
【0052】
上記の開閉弁の開閉切り替え直前まで開閉弁V5~V8が閉じていたため、ライン44,38,50,54,56内の圧力は概ね上記の超臨界状態保証圧力となっている。勿論、第1供給ライン34内の圧力も概ね上記の超臨界状態保証圧力となっている。このため、開閉弁V3の開放直後に処理容器12内の圧力が一時的に低下することを防止することができ、上記の開閉弁の切り替え前後での処理容器12内の圧力の急激な変化を防止または大幅に抑制することができる。
【0053】
なお、上記の開閉弁の切り替え直前の時点において、ライン44,38,50,54,56内の圧力が例えば常圧であったとしたら、開閉弁V3の開放直後に処理容器12内の超臨界状態にあるCO2の一部がライン44,38,50,54,56に急激に流出することにより、処理容器12内の圧力が一時的に急激に低下する(例えば1MPa程度の低下)。この現象が
図4Aのグラフにおいて、参照符号Pdで示されている。一方、本実施形態では、この現象が生じておらず、そのことが
図4Bのグラフより明らかである。なお、低下後の圧力が混合流体(CO2+IPA)の臨界圧力よりも小さくなったとしたならば、パターン倒壊が生じる恐れがある。
【0054】
なお、上述したように処理容器12内の圧力が一時的に低下すると、その直後にフィードバック制御により処理容器12内の圧力が上昇して設定値を超えるオーバーシュートが生じ得る。このことは制御の安定性の観点から好ましくないが、本実施形態によれば、そのような事象は生じないか、生じても無視できる程度に小さい。
【0055】
また、制御部100は、流通工程の開始直前(フィードバック制御が開始される直前)まで、圧力調整弁40に対して開度を初期開度(流通工程開始時点において圧力調整弁40が実現すべき開度を意味する。以下同じ。)に維持するような指令を送っている。制御部100は、流通工程の開始とほぼ同時に、圧力調整弁40の開度調整をフィードバック制御に切り替える。これにより、圧力調整弁40の開度は、参照符号PSが付けられた圧力センサの測定値に基づいた前述したフィードバック制御により制御されるようになる。
【0056】
上記の初期開度は、例えば、これから開始される流通工程の直前の1回(複数回でもよい)の流通工程(別の基板Wの処理における流通工程)において、処理容器12内の圧力が安定して設定値(設定圧力)となっているときの圧力調整弁40の開度(以下「安定時開度」とも呼ぶ)とすることができる。この安定時開度は、流通工程の最後の所定期間(例えば最後の10秒間)の弁開度の平均値であってもよく、あるいは、流通工程の開始直後を除く流通工程中の弁開度の平均値であってもよい。新品の(一度も使用していない)圧力調整弁40を用いるときは、圧力調整弁40の製造者から提供される仕様表に基づいて、あるいは運転試験により初期開度を決定することができる。
【0057】
上記のように圧力調整弁40の初期開度を定めることにより、フィードバック制御の開始時点における処理容器12内の圧力の変動を抑制することができ、制御が安定する。不適当な初期開度に設定すると、フィードバック制御の開始直後に処理容器12内の圧力の変動が生じ、制御が不安定となる(例えばハンチングが生じる)。また、上記のように圧力調整弁40の初期開度を定めることにより、圧力調整弁40の経時劣化に対応することができるという利点もある。
【0058】
以下上記の利点について詳細に説明する。圧力調整弁40の構造の一例が
図5に示されている。テーパー状の弁体401が弁体401と相補的なテーパー状の弁座402に挿入されている。アクチュエータ403が弁体401を上下に移動させることにより圧力調整弁40の開度が変化する。弁体401が上方(下方)に変位すると弁体401の外周面と弁座402の内周面との間の隙間が大きく(小さく)なり、つまり弁開度が大きく(小さく)なる。弁開度が大きく(小さく)なると入口ポート404から出口ポート405へのCO2の流れが増大(減少)し、これに伴い入口ポートに排出ライン38を介して接続されている処理容器12の内圧が減少(増大)する。
【0059】
制御部100は、処理容器12内の圧力が設定値に維持されるように、処理容器12内の圧力の測定値(PV)と設定値(SV)とのの偏差に基づいて圧力調整弁40の位置をある距離(操作量(MV))だけ変化させるフィードバック制御を行う。このため、アクチュエータ403には、弁体401の位置を検出するための図示しない弁位置センサ(これは操作量(MV)のセンサである)が内蔵されている。
【0060】
互いに対向する弁体401と弁座402の表面は、使用時間とともに摩耗してゆく。摩耗に伴い、同じ弁体位置(図中の上下方向位置)に対する実際の弁開度(弁体と弁座の隙間)が徐々に大きくなってゆく。従って、長期使用した圧力調整弁40において流通工程の開始時における初期開度の指令値(弁体位置の指令値)を、新しい圧力調整弁40に対するものと同じにしたら、流通工程の開始時の圧力調整弁40の実際の初期開度(弁体と弁座の隙間)が過大となり、フィードバック制御の開始直後に処理容器12内の圧力が一時的に低下する問題が生じ得る。この圧力低下が前述した超臨界状態保証圧力を下回るとパターン倒壊が生じるおそれがある。また、フィードバック制御の開始直後に制御が安定しないという問題が生じうる。
【0061】
これに対して、本実施形態では、比較的近い過去例えば直前に実施した流通工程における圧力調整弁40の安定時開度に対応する弁体401の位置を(前記弁位置センサにより検出されたもの)を記憶しておき、この記憶された弁体401の位置を、これから実行する流通工程における圧力調整弁40の初期位置(初期開度)として用いている。これによりフィードバック制御の開始直後の上記の圧力低下および圧力制御の不安定さという問題を解消することができる。
【0062】
流通工程では、第2流体供給部22から処理容器12内に供給された超臨界CO2が基板の上方領域を流れ、その後流体排出部24から排出される。このとき、処理容器12内には、基板Wの表面と略平行に流動する超臨界CO2の層流が形成される。超臨界CO2の層流に晒された基板Wの表面上の混合流体(IPA+CO2)中のIPAは超臨界CO2に置換されてゆく。最終的には、基板Wの表面上にあったIPAのほぼ全てが超臨界CO2に置換される。
【0063】
流体排出部24から排出されたIPAおよび超臨界CO2からなる混合流体は、排出ライン38(および分岐排出ライン54,56)を流れた後に回収される。混合流体中に含まれるIPAは分離して再利用することができる。なお、流通工程において開閉弁V6,V7は、所望流量等に応じて、開状態にしてもよいし閉状態にしてもよい。
【0064】
[排出工程]
IPAから超臨界CO2への置換が完了したら、
図2Dに示すように、開閉弁V2を閉じて処理容器12への超臨界CO2の供給を停止し、また、処理容器12の設定圧力を常圧まで下げる(
図3の時点t4)。このとき、バイパスライン44の開閉弁V4を開いてもよい。これにより圧力調整弁40の開度が大幅に大きくなり(例えば全開となり)、処理容器12内の圧力が常圧まで低下してゆく。これに伴い、基板Wのパターン内にあった超臨界CO2が気体となりパターン内から離脱し、気体状態のCO2は処理容器12から排出されてゆく。処理容器12の設定圧力を常圧まで下げることに代えて、制御部100から圧力調整弁40の開度を大きくする指令信号を圧力調整弁40に与えてもよい。排出工程において、処理容器12の設定圧力を段階的に常圧まで下げていってもよい。以上により基板Wの乾燥が終了する。
【0065】
[搬出工程]
乾燥した基板Wを載置しているトレイ14のプレート18が処理容器12から出て基板受け渡し位置に移動する。基板Wは、図示しない基板搬送アームによりプレート18から取り出され、例えば図示しない基板処理容器に収容される。
【0066】
・乾燥方法の第2実施形態
次に
図6Aおよび
図6Bを参照して乾燥方法の第2実施形態について説明する。第2実施形態は、昇圧工程のみが前述した第1実施形態と異なるため、昇圧工程のみについて説明する。第2実施形態では、第1実施形態では利用しなかった排気ライン66および開閉弁V10を利用する。なお、第2実施形態では、第1実施形態と同様に、昇圧工程において開閉弁V9は常時開状態、開閉弁V11は常時閉状態である。また、開閉弁V8は常時閉状態であるものとする。
【0067】
<減速昇圧段階>
減速昇圧段階では、
図6Aに示すように、開閉弁V2,V3,V5~V7を閉状態とし、開閉弁V1,V4,V10を開状態とする。減速昇圧段階では、超臨界流体供給装置30から主供給ライン32に超臨界状態で送り出されたCO2の一部が排気ライン66に流入し、残りの部分が第1供給ライン34に流入する。排気ライン66に流入したCO2は、工場排気ダクトに廃棄されるか再利用のため回収される。主供給ライン32を流れてきたCO2の一部が排気ライン66に逃がされるため、第1供給ライン34に流入するCO2の流量は減少する。排気ライン66は、減速昇圧段階における処理容器12への処理流体の所望の流入流量あるいは処理容器12の所望の昇圧レートに対して過剰な処理流体を逃がす意味において、「逃がしライン」とも呼ばれる。
【0068】
第1供給ライン34に流入したCO2は、第1流体供給部21を介して処理容器12内に流入するとともに、バイパスライン44にも流入する。第1供給ライン34を流れるCO2の一部がバイパスライン44に逃がされるため、第1供給ライン34から処理容器12に流入するCO2の流量はさらに減少する。
【0069】
バイパスライン44に流入したCO2は、開閉弁V5~V8が閉状態となっているため、開閉弁V5~V8のところでせき止められる。つまり、ライン44,38,50,54,56内にCO2が充填されてゆく。ライン44,38,50,54,56の内圧が高まるまでは、第1供給ライン34に流入したCO2の一部が、バイパスライン44を介してライン38,50,54,56に逃げてゆく。ライン44,38,50,54,56の内圧は比較的短時間で高まるが、それまでの間は、第1供給ライン34に流入したCO2の一部がバイパスライン44に逃げてゆく。従って、減速昇圧段階の初期においては、主供給ライン32を流れてきたCO2の一部を排気ライン66に逃がすことに加えて、第1供給ライン34に流入したCO2の一部をバイパスライン44に逃がすことにより、第1供給ライン34から処理容器12に流入するCO2の流量をかなり低く抑えることができる。ライン44,38,50,54,56の内圧が高まった後も、主供給ライン32を流れてきたCO2の一部が排気ライン66に逃がされているため、第1供給ライン34から処理容器12に流入するCO2の流量は(やや高くなるが)引き続き低く抑えられる。なお、
図6Aは、ライン44,38,50,54,56の内圧が高まった後の状態を示している。
<通常昇圧段階>
次に、
図6Bに示すように、開閉弁V10を閉状態に切り替えて減速昇圧段階から通常昇圧段階へと移行する。
図2Bと
図6Bとを比較対照することにより理解できるように、第2実施形態における通常昇圧段階におけるCO2の流動/滞留の状態は、第1実施形態における通常昇圧段階と同じである。第2実施形態においても、減速昇圧段階から通常昇圧段階への移行は、例えば、処理容器12内の圧力の検出値が予め定められた閾値を超えたときに行うことができ、これに代えて、減速昇圧段階の開始から予め定められた時間(例えば前述した10秒程度)が経過したときに行ってもよい。通常昇圧段階から流通工程への移行は、第1実施形態と同様の手順で行うことができる。第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、後述する流通工程への円滑な移行のため、圧力調整弁40の開度を後述する流通工程における初期開度に固定しておくことが好ましい。
【0070】
・乾燥方法の第3実施形態
次に
図7A、
図7Bおよび
図7Cを参照して乾燥方法の第3実施形態について説明する。第3実施形態も、昇圧工程のみが前述した第1実施形態と異なるため、昇圧工程のみについて説明する。第3実施形態でも、第1実施形態では利用しなかった排気ライン66および開閉弁V10を利用する。なお、第3実施形態でも、第1実施形態と同様に、昇圧工程において開閉弁V9は常時開状態、開閉弁V11は常時閉状態である。また、開閉弁V8は常時閉状態であるものとする。
【0071】
<減速昇圧段階>
減速昇圧段階では、
図7Aに示すように、開閉弁V4~V7を閉状態とし、開閉弁V1~V3,V10を開状態とする。減速昇圧段階では、前述した第2実施形態と同様に、超臨界流体供給装置30から主供給ライン32に超臨界状態で送り出されたCO2の一部が排気ライン66に流入し、残りの部分が第1供給ライン34に流入する。排気ライン66に流入したCO2は、工場排気ダクトに廃棄されるか再利用のため回収される。主供給ライン32を流れてきたCO2の一部が排気ライン66に逃がされるため、第1供給ライン34に流入した後に処理容器12内に流入するCO2の流量は減少する。このため、第1供給ライン34から処理容器12に流入するCO2の流量はかなり低く抑えられ、また、処理容器12の内圧の昇圧速度も低く抑えられる。
【0072】
開閉弁V3が開状態となっているので、処理容器12内に流入したCO2は排出ライン38に流出する。このため、減速昇圧段階の初期に処理容器12内に流入したCO2により舞い上がったパーティクルが処理容器12の外に排出される。このパーティクルは、処理容器12の内壁面あるいはトレイ14の表面に付着していたものである。排出ライン38に流入したCO2は、閉状態となっている開閉弁V5~V8のところでせき止められる。また、開閉弁V4が閉じているため、開閉弁V4の両側でCO2がせき止められる。このため、ライン44,38,50,54,56内にCO2が充填されてゆく。ライン44,38,50,54,56の内圧は比較的短時間で高まる。
【0073】
なお、
図7Bに示すように、第3実施形態の減速昇圧段階の少なくとも初期において開閉弁V5~V7のうちの少なくとも1つ(全部でもよい)を開状態とし、その後開閉弁V5~V7を閉状態にしてもよい。開閉弁V5~V7の少なくとも一つが開状態となっていると開いているとライン38,54,56のうちの少なくとも1つを通ってCO2がスムーズに下流側に流れるため(開閉弁V5~V7の全てが閉状態となっていてライン38,54,56がせき止められている場合に比べて)、上述した処理容器12からのパーティクルの排出を促進することができる。減速昇圧段階の全期間で開閉弁V5~V7のうちの少なくとも1つを開状態とし、通常昇圧段階への移行と同時に開閉弁V5~V7の全てを閉状態としてもよい。なおこの場合、圧力調整弁40の設定圧力を可能な限り低くしておくことが好ましい。そうすることにより減速昇圧段階の開始直後(このとき圧力調整弁40の一次側圧力は低い)に処理容器12から排出ライン38に流出したCO2が圧力調整弁40を容易に通過することができる。
<通常昇圧段階>
次に、
図7Cに示すように、開閉弁V3,V10を閉状態に切り替えて減速昇圧段階から通常昇圧段階へと移行する。なお、
図7Bに示すように減速昇圧段階の終了時に開閉弁V5~V7の少なくとも一つが開状態となっていたならば、その開状態となっている開閉弁(V5~V7)を閉状態に切り替える。第3実施形態においても、減速昇圧段階から通常昇圧段階への移行は、例えば、処理容器12内の圧力の検出値が予め定められた閾値を超えたとき、あるいは減速昇圧段階から予め定められた時間(例えば前述した10秒程度)が経過したときに、行うことができる。
図7Cは、
図2Bに対して開閉弁V4が閉状態となっている点が異なるが、ライン44,38,50,54,56内に高圧のCO2が充填されている点は
図2Bと同じである。従って、
図7Cに示した状態から開閉弁V1を閉状態に切り替え、かつ開閉弁V2,V5~V7を開状態に切り替えることにより、通常昇圧段階(昇圧工程)から流通工程にスムーズに移行することができる。第3実施形態においても、第1実施形態と同様に、後述する流通工程への円滑な移行のため、圧力調整弁40の開度を後述する流通工程における初期開度に固定しておくことが好ましい。
【0074】
なお、第3実施形態の実行にあたっては、バイパスライン44および開閉弁V4は必ずしも必要ではなく、バイパスライン44および開閉弁V4を省略することも可能である。バイパスライン44が無くても減速昇圧段階において主供給ライン32を流れてきたCO2の一部を排気ライン66に逃がすことにより、パターン倒壊防止を達成することが可能である。
【0075】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【0076】
処理対象である基板Wは、半導体ウエハに限定されるものではなく、その他の基板、例えばガラス基板、セラミック基板等、半導体装置製造に用いられる任意の種類の基板であってよい。
【0077】
上記実施形態では、処理容器12に2つの流体供給部(21,22)を設けて、昇圧工程および流通工程においてこれら2つの流体供給部を使い分けた。この構成および運用は前述した理由により好ましいのであるが、これに限定されるものではない。すなわち、例えば、処理容器12に唯一の流体供給部を設け、昇圧工程および流通工程の両方を前記唯一の流体供給部を介して処理容器に処理流体を供給することにより行ってもよい。この場合も、前記唯一の流体供給部に接続された供給ラインにバイパスラインを設け、処理流体(CO2)の一部をバイパスラインを介して排出ラインに逃がしながら減速昇圧工程を行ってもよい。
【0078】
なお、本明細書においては、説明の便宜上、分岐点33を境界として、供給ラインの名称を「主供給ライン32」、「第1供給ライン34」、「第2供給ライン36」と区別しているが、これはあくまで説明の便宜のためであり、この解釈に限定されない。例えば、主供給ライン32および第1供給ライン34を、超臨界流体供給装置30と処理容器12とを接続する一連の(第1)供給ライン(または主供給ライン)と見なし、分岐点33において一連の第1供給ライン(32+34)から第2供給ライン36が分岐しているものと見なすこともできる。同様の他の解釈も成立しうる。特に第2実施形態および第3実施形態の解釈においては、上記の点に留意されたい。なお、第2実施形態および第3実施形態において排気ライン66すなわち逃がしラインは、
図1に示した位置に設けることに限定されるものではなく、例えば、第1供給ライン34の分岐点33と分岐点42との間に設定された分岐点に接続してもよい。
【符号の説明】
【0079】
12 処理容器
18 基板保持部(プレート)
21 第1流体供給部
24 流体排出部
34 第1供給ライン
38 排出ライン
42 第1分岐点
44 バイパスライン
46 接続点
V4 バイパス開閉弁