(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】加熱劣化臭の抑制方法、加熱劣化臭が抑制された容器詰組成物及び加熱劣化臭抑制用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20241217BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
(21)【出願番号】P 2021051167
(22)【出願日】2021-03-25
【審査請求日】2023-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2021025285
(32)【優先日】2021-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】岡村 岳
(72)【発明者】
【氏名】大野 直土
【審査官】楠 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-083028(JP,A)
【文献】特開昭59-039242(JP,A)
【文献】Sang Mi Lee et.al,Determination of Key Volatile Compounds Related to Long-Term Fermentation of Soy Sauce,Journal of Food Science,2019年,Vol.84, Iss.10,2758-2776
【文献】吉沢淑 ら,醸造・発酵食品の事典,2002年,p416-421
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00
A23L 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】
(I)
(式中、nは2~6の整数を表わす)
で示されるγ-ラクトン類からなる群から選ばれる少なくとも1種のγ-ラクトン類を含み、かつ加熱前の食材とともに容器に詰めて加熱するように使用される、食材による加熱劣化臭抑制用組成物
であって、
前記γ-ラクトン類は、含有量が30ppb~3,000ppbである、前記組成物。
【請求項2】
前記食材は、調味料成分、野菜類、肉類及び魚介類からなる群から選ばれる少なくとも1種の食材である、請求項
1に記載の組成物。
【請求項3】
前記食材は、しょうゆ、牛肉、豚肉、鶏肉、魚肉及び大豆たんぱくからなる群から選ばれる少なくとも1種の食材である、請求項
1に記載の組成物。
【請求項4】
前
記組成物は、容器詰調味用組成物又は容器詰加工食品である、請求項
1~
3のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱劣化臭の抑制方法、加熱劣化臭が抑制された容器詰組成物及び加熱劣化臭抑制用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
食品又は調味料を、パウチなどの耐熱性容器に充填及び密封し、レトルト装置でレトルト殺菌処理する方法が広く用いられている。レトルト殺菌法は、100℃を超える高い温度で加圧加熱して殺菌する方法である。一般的なレトルト殺菌法として、容器をレトルト槽内に並べ、レトルト槽の温度を蒸気及び熱水などの熱媒体により120℃程度まで上昇させて、容器内部の食品中央部において120℃で4分間又はそれと同等以上の熱がかかる状態に加圧加熱して殺菌する方法が挙げられる。
【0003】
レトルト殺菌などの加熱殺菌処理に供すると、容器内の食品及び調味料を常温で保存可能なものとすることができる。しかし、加熱殺菌処理に供した容器詰の食品及び調味料は、密閉された空間内で加熱されることにより、独特な加熱劣化臭を発生することが多い。これにより、加熱された容器詰製品は品質が低下するという問題がある。
【0004】
一方、香りを付与するために用いられているアルコール、脂肪酸エステル、環状エーテルなどの香気成分を用いて、調味料及び食品の風味及び香りを改善する方法がこれまでに知られている。例えば、環状エーテルを用いるものとしては、特許文献1にはα-メチル-γ-ブチロラクトンを10μg/mL以上100μg/mL以下含むことを特徴とする醤油様調味料が記載されている。特許文献2には、γ-ブチロラクトンを呈味改善の有効成分として使用することを特徴とする飲食物の製造方法が記載されている。特許文献3には、加工段階で味覚的に劣化した醤油に製造直後の醤油本来の香味を取戻すために、γ-ラクトンを醤油に0.1ppt~10ppbの濃度範囲で添加することを特徴とする醤油の醤油香味改善方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6479380号
【文献】特許第4939464号
【文献】特開2014-83028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~3に記載の調味料及び方法は、環状エーテルであるラクトン類を調味料又は食品に添加することを特徴とする。したがって、特許文献1~3に記載の調味料及び方法は、ラクトン類を加熱前の食材とともに容器に詰めて加熱するように使用するものではない。
【0007】
仮にラクトン類を加熱前の食材とともに加熱する場合であっても、通常の調理方法に従えば、鍋、フライパンなどの調理器具を用いて開放系で加熱される。そして、特許文献1~3には、ラクトン類を加熱前の食材とともに容器に詰めて密閉系で加熱した場合にもたらされる事象について、何ら記載が無い。
【0008】
また、密閉された空間内で加熱された容器詰の食品及び調味料について、含有する食材による加熱劣化臭を抑制する方法は、これまでほとんど知られていない。
【0009】
そこで、本発明は、密閉された空間内で、食材を含む容器詰組成物を加熱することによって感じられる、食材による加熱劣化臭を抑制する方法を提供することを、本発明が解決しようとする第1の課題とする。また、食材による加熱劣化臭を抑制する方法を応用して、加熱された容器詰組成物及びその製造方法並びに食材による加熱劣化臭抑制用組成物を提供することを、本発明が解決しようとする第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を積み重ね、1,000種以上あるとされている香気成分を含む数多くの成分を適宜組み合せて、加熱殺菌処理などの加熱処理後であっても、含有する食材に基づく加熱劣化臭がほとんど感じられないような食品及び調味料を得ようと試行錯誤した。
【0011】
そして、数々の失敗を重ねた結果、驚くべきことに、食材とともに、γ-ラクトン類を含有させることにより、食材に基づく加熱劣化臭が抑制されることを本発明者らは見出した。さらに驚くべきことに、γ-ラクトン類を含有させた場合、加熱劣化臭のみならず、加熱処理によって感じられるようになるえぐ味、渋味、食材の臭みといった不快な風味を抑制し、さらにしょうゆの醤油香といった加熱処理によって損なわれる食材が有する好ましい風味が向上した。このような知見の下で、本発明者らは、本発明の課題を解決するものとして、食材と、γ-ラクトン類とを含む容器詰組成物を加熱することにより、該食材による加熱劣化臭を抑制する工程を含む、加熱劣化臭の抑制方法;加熱された容器詰組成物及びその製造方法;食材による加熱劣化臭抑制用組成物を創作することに成功した。本発明はこのような知見及び成功例に基づいて完成するに至った発明である。
【0012】
したがって、本発明の各一態様によれば、以下の方法及び組成物が提供される:
[1]食材と、下記一般式(I)
【化1】
(I)
(式中、nは2~6の整数を表わす)
で示されるγ-ラクトン類からなる群から選ばれる少なくとも1種のγ-ラクトン類とを含む容器詰組成物を加熱することにより、該食材による加熱劣化臭を抑制する工程を含む、加熱劣化臭の抑制方法。
[2]食材と、上記一般式(I)で示されるγ-ラクトン類からなる群から選ばれる少なくとも1種のγ-ラクトン類とを含む容器詰組成物を加熱することにより、該食材による加熱劣化臭が抑制された容器詰組成物を得る工程を含む、加熱された容器詰組成物の製造方法。
[3]前記γ-ラクトン類は、含有量が30ppb~3,000ppbである、[1]~[2]のいずれか1項に記載の方法。
[4]前前記食材は、調味料成分、野菜類、肉類及び魚介類からなる群から選ばれる少なくとも1種の食材である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の方法。
[5]前記食材は、しょうゆ、牛肉、豚肉、鶏肉、魚肉及び大豆たんぱくからなる群から選ばれる少なくとも1種の食材である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の方法。
[6]前記容器詰組成物は、容器詰調味用組成物又は容器詰加工食品である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の方法。
[7]食材と、上記一般式(I)で示されるγ-ラクトン類からなる群から選ばれる少なくとも1種のγ-ラクトン類とを含み、かつ、
加熱劣化臭が、該食材を含み、かつ該γ-ラクトン類を実質的に含まない容器詰組成物を加熱したものより抑制されている 、加熱された容器詰組成物。
[8]上記一般式(I)で示されるγ-ラクトン類からなる群から選ばれる少なくとも1種のγ-ラクトン類を含み、かつ加熱前の食材とともに容器に詰めて加熱するように使用される、食材による加熱劣化臭抑制用組成物。
[9]前記γ-ラクトン類は、含有量が30ppb~3,000ppbである、[7]~[8]のいずれか1項に記載の組成物。
[10]前記食材は、調味料成分、野菜類、肉類及び魚介類からなる群から選ばれる少なくとも1種の食材である、[7]~[9]のいずれか1項に記載の組成物。
[11]前記食材は、しょうゆ、牛肉、豚肉、鶏肉、魚肉及び大豆たんぱくからなる群から選ばれる少なくとも1種の食材である、[7]~[9]のいずれか1項に記載の組成物。
[12]前記容器詰組成物は、容器詰調味用組成物又は容器詰加工食品である、請求項[7]~[11]のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様である方法及び組成物によれば、密閉された容器の空間内で、食材を含む容器詰組成物を加熱することによって感じられる、食材による加熱劣化臭を抑制することができる。また、本発明の一態様である方法及び組成物によれば、密閉された容器内の食材が加熱処理されることによって感じられるようになる不快な風味を抑制し、さらに加熱処理によって損なわれる食材が有する好ましい風味を向上することができる。したがって、本発明の一態様である方法及び組成物によれば、密閉された容器内での加熱処理による食材の劣化を低減して、食材に期待される風味が発出した嗜好性の高い加熱済みの容器詰調味料及び容器詰加工食品が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の各態様の詳細について説明するが、本発明は、本項目の事項によってのみに限定されず、本発明の目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0015】
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、食品分野の当業者により通常用いられている意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。また、本明細書においてなされている推測及び理論は、本発明者らのこれまでの知見及び経験によってなされたものであることから、本発明はこのような推測及び理論のみによって拘泥されるものではない。
【0016】
「組成物」は、通常用いられている意味のものとして特に限定されないが、例えば、2種以上の成分が組み合わさってなる物である。
「ppb」は、通常知られている意味のとおりの単位であり、具体的には1ppbは1/109であり、グラム換算では1ng/gであり、概ね1μg/lと換算できる。
「及び/又は」との用語は、列記した複数の関連項目のいずれか1つ、又は2つ以上の任意の組み合わせ若しくは全ての組み合わせを意味する。
「含有量」は、濃度と同義であり、組成物の全体量に対する成分の量の割合を意味する。本明細書では、別段の定めがない限り、含有量の単位は「質量%(wt%)」を意味する。ただし、成分の含有量の総量は、100質量%を超えることはない。
数値範囲の「~」は、その前後の数値を含む範囲であり、例えば、「0質量%~100質量%」は、0質量%以上であり、かつ、100質量%以下である範囲を意味する。
「含む」は、含まれるものとして明示されている要素以外の要素を付加できることを意味する(「少なくとも含む」と同義である)が、「からなる」及び「から本質的になる」を包含する。すなわち、「含む」は、明示されている要素及び任意の1種若しくは2種以上の要素を含み、明示されている要素からなり、又は明示されている要素から本質的になることを意味し得る。要素としては、成分、工程、条件、パラメーターなどの制限事項などが挙げられる。
【0017】
食材による「加熱劣化臭」は、レトルトパウチなどの密封容器に封入した、食材を含む食品及び調味料を加熱した後、開封して該食品及び調味料を喫食した際に口腔内から鼻へぬけて感じる不快臭及びムレ臭(もわっと鼻が蒸れる感覚のある臭い)をいう。例えば、食材が肉である場合、肉中の脂質の動物特有の獣臭と、warmed―over flavor(wof)と呼ばれている加熱による肉の脂質酸化によって生じる不快臭との複合的な臭いをいう。また、食材が大豆たんぱくである場合、大豆の青臭さ、きな粉様の臭い及び大豆を密閉系で加熱した際に生成する特有の好ましくない臭いの複合的な異臭をいう。「食材による加熱劣化臭を抑制する」とは、加熱処理によって発生した加熱劣化臭を感じにくくすることをいうが、加熱劣化臭が発生することを阻止する可能性を妨げない。
【0018】
「F値」は、昇温から降温まで全ての加熱殺菌処理工程における殺菌効果を、基準温度での殺菌時間(分)で表したものであり、以下の数式により算出できる(例えば、東京都立食品技術センターだより No.15などを参照)。
F=t×10^((T-To)/Z)
T :加熱殺菌処理時の温度(℃)
To:基準温度(℃)
t :時間(分)
Z :D値(生菌数を1/10にする時間(分))を1/10にする温度(℃)
F値は基準温度及び微生物の耐熱性のパラメーターZ値により変わる。そこで、基準温度を121.1℃とし、Z値を10℃としたときのF値を「Fo値」とよぶ。Fo値は以下の数式により算出される(例えば、容器詰食品の加熱殺菌(理論および応用)(公益社団法人日本缶詰びんレトルト食品協会発行)などを参照)。
Fo=t×10^((T-121.1)/10)
Fo値は、湿熱滅菌における微生物不活化能力の指標になる。例えば、110℃、9分間の加熱殺菌処理のFo値は、上記式にあてはめて、0.70である。なお、この値は、瞬時に110℃に達温し、9分間後に瞬時に冷却した場合の値である。実際には、Fo値は、加熱殺菌処理中に加熱殺菌機により一定時間毎に計算及び出力されるので、加熱殺菌機が0.70のFo値を示したとしても、温度及び時間が上記した数値になったとは限らない。後述する実施例における加熱殺菌処理のうち、Fo値の記載があるものは、加熱殺菌機により示されるFo値が所定の値になるように温度及び時間を調整してなされ、参考として上記数式により算出した温度及び時間を付記した加熱殺菌処理を表し、温度及び時間の記載があるものはその温度に達温した後、所定の時間に維持するように制御することによりなされた加熱殺菌処理を示す。
【0019】
整数値の桁数と有効数字の桁数とは一致する。例えば、1の有効数字は1桁であり、10の有効数字は2桁である。また、小数値は小数点以降の桁数と有効数字の桁数とは一致する。例えば、0.1の有効数字は1桁であり、0.10の有効数字は2桁である。
【0020】
[食材及びγ-ラクトン類を含む容器詰組成物]
本発明の一態様の組成物は、食材及びγ-ラクトン類を含む、加熱された容器詰組成物である。通常、しょうゆ、肉類、大豆たんぱくなどの食材を含む調味料及び食品を加圧下の高温加熱処理、例えば、レトルト殺菌に供すると、食材による加熱劣化臭が生じる。しかし、本発明者らは、食材とともに、γ-ラクトン類を含むものは、食材による加熱劣化臭が感じられにくくなることを見出した。したがって、本発明の一態様の組成物は、食材とともに、γ-ラクトン類を含むことにより、加熱されたものでありながら、食材による加熱劣化臭が抑制された組成物であり得る。
【0021】
本発明の一態様の組成物は、食材とともに、γ-ラクトン類を含むことにより、該食材を含み、かつ該γ-ラクトン類を実質的に含まない場合と比べて、食材による加熱劣化臭が抑制されている。本発明の一態様の組成物は、食材を加工する際に味を調える目的で使用される容器詰調味用組成物及び食材を加工して得られる、それ自体で喫食可能である容器詰加工食品であることが好ましい。
【0022】
γ-ラクトン類は、下記一般式(I)
【化2】
(I)
(式中、nは2~6の整数を表わす。)
で示されるγ-ラクトン類からなる群から選ばれる少なくとも1種のγ-ラクトン類である。すなわち、本発明の一態様の組成物は、一般式(I)において、nが2であるγ-ヘプタノラクトン、nが3であるγ-オクタノラクトン、nが4であるγ-ノナラクトン、nが5であるγ-デカノラクトン、nが6であるγ-ウンデカノラクトンのいずれか1種、2種、3種、4種又は5種を含む。
【0023】
本発明の一態様の組成物は、食材を含みつつも、γ-ラクトン類を含むことにより、食材による加熱劣化臭が抑制されたものである。そこで、本発明の一態様の組成物におけるγ-ラクトン類の含有量は、食材による加熱劣化臭を抑制し得る量であればよい。後述する実施例に記載があるとおり、本発明者らが調べたところによれば、食材の種類に限らず、30ppb以上のγ-ラクトン類を含む場合、食材による加熱劣化臭が抑制される。そこで、本発明の一態様の組成物におけるγ-ラクトン類の含有量の下限は、組成物の全体量に対して、30ppb以上であることが好ましい。
【0024】
一方、γ-ラクトン類はそれ自体で香りをするものが多い。例えば、γ-ノナラクトンは南国フルーツ様の甘いフルーティーな香りがする。本発明者らが調べたところによれば、γ-ラクトン類の含有量が3,000ppbより多い組成物は、γ-ラクトン類の香りが強過ぎることに起因して、喫食した際に所望としない異質な香りが感じられる傾向にある。そこで、本発明の一態様の組成物におけるγ-ラクトン類の含有量の上限は、組成物の全体量に対して、3,000ppb以下である。本発明の一態様の組成物におけるγ-ラクトン類の含有量が3,000ppb以下である場合、ラクトンの香りは他の食材の香りと調和して全体として良好な香りを醸す。
【0025】
上記のとおり、本発明の一態様の組成物におけるγ-ラクトン類の含有量は、30ppb~3,000ppbであるが、食材による加熱劣化臭をより抑制するためには、好ましくは30ppb~2,500ppbであり、より好ましくは50ppb~2,500ppbであり、さらに好ましくは100ppb~2,500ppbであり、なおさらに好ましくは100ppb~1,500ppbである。なお、「30ppb~3,000ppbであるγ-ラクトン類」とは、例えば、調味用組成物 100gに対して、3μg~300μgであるγ-ラクトン類を意味する。
【0026】
なお、本発明者らが調べたところによれば、例えば、Fo値10相当の加圧加熱殺菌によって、γ-ノナラクトンが分解されて4割程度が分解することがわかっている。そこで、γ-ラクトン類の含有量の上記範囲は、加熱する前の量であることが好ましい。また、加熱後の組成物についてγ-ラクトン類の含有量を測定した場合に、上記範囲から下回る値が特定されるときであっても、加熱殺菌前の値を類推適用して、γ-ラクトン類の含有量は上記範囲に含まれるとみなしてもよい。
【0027】
γ-ラクトン類は、上記したとおり、食材による加熱劣化臭に加えて、加熱による食材の風味の劣化(不快な風味の発生及び好ましい風味の減少)を抑制するという観点では、γ-ヘプタノラクトン、γ-オクタラクトン、γ-ノナラクトン、γ-デカノラクトン及びγ-ウンデカノラクトンである。
【0028】
γ-ラクトン類は、γ-ラクトン類自体を用いてもよいし、γ-ラクトン類を含むγ-ラクトン類含有物を用いてもよい。γ-ラクトン類自体を使用する場合は、香料として市販されているものを使用することができる。γ-ラクトン類含有物としては、以下に示す食材のうち、γ-ラクトン類を含有する食材などが挙げられる。γ-ラクトン類含有物は、γ-ラクトン類を含む限りその供給源の形態は特に限定されないが、例えば、γ-ノナラクトンを含む発酵醸造物(しょうゆ、みそ、ワイン、清酒、ウイスキーなど)や果汁などであってもよい。
【0029】
γ-ラクトン類含有物の具体例としては、例えば、後述する実施例における例13に記載のγ-ラクトン含有液体発酵調味料などが挙げられる。γ-ラクトン含有液体発酵調味料は、通常のしょうゆの製造方法によって乳酸発酵を行った後に得られる醤油諸味を固液分離し、さらに液体部分を珪藻土などのろ過材、UF膜及びMF膜などの各種透過膜などを用いたろ過処理に供して醤油諸味液汁を得て、次いで該醤油諸味液汁を醤油酵母により酵母発酵に供することを含む方法などにより製造できる。該方法では、通常の醤油の製造方法と違って、乳酸発酵後の醤油諸味を連続的に酵母発酵に供するのではなく、酵母発酵に供する前に醤油諸味を不溶性固形部分(醤油諸味濃縮物)と液体部分(醤油諸味液汁)とに分けて、次いで醤油諸味液汁について酵母発酵を実施することを含む。したがって、該方法では、醤油諸味を得る工程と、醤油諸味液汁を得る工程と、酵母発酵を実施する工程とを含む。このようにして得られる液体発酵調味料は、例えば、γ-ノナラクトンの含有量が50ppb~2,000ppbである液体発酵調味料であり得る。そこで、γ-ラクトン類含有物は、醤油諸味液汁の酵母発酵物からなり、かつγ-ノナラクトンを含む液体発酵調味料であることが好ましく、醤油諸味液汁の酵母発酵物からなり、かつγ-ノナラクトンの含有量が50ppb~2,000ppbである液体発酵調味料であることがより好ましい。
【0030】
醤油諸味を得る工程は、通常知られているとおりの醤油の製造方法のうち醤油諸味を得るまでの工程であれば特に限定されない。なお、醤油は、本醸造方式の場合、加熱変性した大豆などのタンパク質原料及び加熱によりα化した小麦などのデンプン質原料の混合物に、麹菌を含む種麹を接種及び培養して製麹して醤油麹を得て、次いで得られた醤油麹を食塩水に仕込んで乳酸発酵及び熟成することにより醤油諸味を得て、次いで得られた醤油諸味を酵母発酵及び熟成することにより熟成諸味を得て、次いで得られた熟成諸味を圧搾処理やろ過処理に供することにより生醤油を得て、次いで得られた生醤油を火入れすることなどによって製造される。
【0031】
醤油諸味を得る工程の一態様としては、例えば、蒸煮変性した大豆、炒熬割砕した麦などの混合物である醤油原料に種麹を接種し、20℃~40℃で、1日間~4日間程度で通風製麹して醤油麹を得て、次いで醤油麹を食塩濃度が20%(w/v)~30%(w/v)である食塩水に仕込み、さらに任意に醤油乳酸菌を加えたものを、10℃~40℃で適宜撹拌しながら10日間~200日間、好ましくは15日間~40日間、乳酸発酵及び熟成することにより醤油諸味を得る工程などが挙げられる。
【0032】
醤油原料は特に限定されないが、例えば、丸大豆や脱脂加工大豆などの大豆、小麦、大麦、裸麦、はと麦などの麦、麦グルテン、米、トウモロコシなどが挙げられる。
【0033】
種麹は、通常醤油の製造の際に利用される麹菌であれば特に限定されないが、例えば、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(A.sojae)などのアスペルギルス属微生物などが挙げられる。醤油乳酸菌は、通常醤油の製造の際に利用される醤油乳酸菌であれば特に限定されないが、例えば、テトラジェノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)などの耐塩性乳酸菌などが挙げられる。
【0034】
醤油諸味を得る工程において、醤油原料のうち、小麦や米等のデンプン質原料の量が少ないと、還元糖の含有量が少なくなり、酵母発酵を適切に実施し得る醤油諸味を得ることができない可能性がある。そこで、醤油原料のうち、小麦や米等のデンプン質原料の量は、還元糖の含有量が多い醤油諸味を得ることができる程度の量であることが好ましい。ただし、醤油諸味に還元糖成分、例えば、グルコース、フルクトース、マルトースなどを添加することにより還元糖の含有量が多い醤油諸味を得る場合は、この限りではない。
【0035】
醤油諸味液汁を得る工程では、大豆や小麦などの醤油原料由来の不溶性固形分を含む醤油諸味(乳酸発酵物)から不溶性固形分を除いて醤油諸味の液汁を得る。醤油諸味から不溶性固形分を除いて醤油諸味液汁を得る方法は特に限定されないが、例えば、通常知られている固液分離方法などが挙げられ、具体的には醤油の製造方法で通常使用される圧搾処理、ろ過処理などが挙げられ、より具体的にはろ布を用いたプレス機を用いた圧搾ろ過処理;珪藻土などのろ過材、UF膜やMF膜などの各種透過膜を用いた膜ろ過処理などが挙げられる。このとき、醤油諸味の液汁に醤油乳酸菌が多く残っていると、酵母発酵が適切に行われない可能性がある。そこで、醤油諸味液汁を得る際には、不溶性固形分とともに、醤油乳酸菌の大部分を除去できるような方法を採用することが好ましい。醤油諸味の液汁における乳酸菌の含有量は特に限定されないが、例えば、1.0×108個/ml以下であることが好ましく、1.0×107個/ml以下であることがより好ましく、1.0×106個/ml以下であることがさらに好ましい。
【0036】
酵母発酵を実施する工程は、醤油諸味液汁について、通常知られているとおりの醤油を製造する際に使用する醤油酵母を用いて、醤油酵母の種類や菌数などに応じた条件によって常法の酵母発酵を実施する。醤油酵母は、通常醤油の製造の際に用いられる酵母であれば特に限定されないが、例えば、ジゴサッカロミセス・ルキシー(Zygosaccharomyces rouxii)、ジゴサッカロミセス・バイリー(Z.bailli)、カンディダ・エトケルシー(Candida etchellsii)、カンディダ・ヴェルスティリス(C.versatilis)などの耐塩性酵母などが挙げられる。
【0037】
酵母発酵の期間は、発酵液中の一般式(I)で示されるγ-ラクトン類が生成する期間、好ましくはγ-ノナラクトンが生成する期間、より好ましくはγ-ノナラクトンの含有量が所定の量になる期間、さらに好ましくはγ-ノナラクトンの含有量が50ppb以上の量になる期間であれば特に限定されないが、例えば、醤油酵母としてZygosaccharomyces rouxiiを用いる場合は、15℃~30℃で、10日間~1年間程度、好ましくは20日間~8ヵ月間程度、より好ましくは約60日間~約6ヵ月間程度である。さらに、酵母発酵の期間は、エタノールの生成量が最大になる期間であることが好ましい。
【0038】
なお、酵母発酵を実施する工程は、例えば、酵母発酵に適しており、さらに酵母発酵後に直ちに発酵液を使用し得るような醤油瓶に、醤油諸味液汁及び醤油酵母を入れて、室温で静置して酵母発酵することなどにより簡便に実施できる。
【0039】
酵母発酵を実施する工程では、予め不溶性固形分が除かれた醤油諸味液汁を用いていることから、酵母発酵後に得られるものは固形分が少ない酵母発酵液であり、それ自体を液体調味料としてもよい。また、該酵母発酵液中にある酵母や残渣を除くなどの目的のために、該酵母発酵液について、圧搾、ろ過、火入れなどの通常の醤油の製造方法で用いられる酵母発酵の後段の処理などに供して得られる液体部分を液体調味料としてもよい。
【0040】
γ-ラクトン含有液体発酵調味料を用いる場合、食材はγ-ラクトン含有液体発酵調味料のみであってもよく、γ-ラクトン含有液体発酵調味料とともに別の食材を併用してもよい。
【0041】
食材は、加熱することにより加熱劣化臭が感じられる食材であれば特に限定されない。食材としては、例えば、しょうゆ、みそ、カレー、食肉加工成分(例えば、チキンパウダー、ミートパウダー、フィッシュパウダー)などの調味料成分;大根、玉ネギ、長ネギ、にんじん、牛蒡、れんこん、生姜、ニンニク、キャベツ、ピーマン、トマト、コーン、タケノコなどの野菜類;牛、豚、鶏、羊、山羊、馬、トナカイ、スイギュウ、ヤク、ラクダ、ロバ、ラバ、ウサギ、アヒル、七面鳥、ホロホロチョウ、ガチョウ、ウズラ、カワラバトなどの肉類;まぐろ(ツナ)、イカ、ホタテ、カニ、鮭などの魚介類;豆腐、油揚げ、こんにゃく、大豆たんぱくなどの加工食品などが挙げられ、これらの1種単独でもよいし、2種以上の組合せであってもよい。これらの食材は、すりおろしたり、ペースト状にしたり、粉砕したり、細切りしたり、ダイス状、短冊状などの形状にカットしたりして、用いてもよい。
【0042】
上記のうち、しょうゆは、醤油、しょう油などと表記して通常知られているとおりのものであれば特に限定されず、例えば、農林水産省により示されている「しょうゆ品質表示基準」において定義付けされているものなどを挙げることができる。しょうゆの具体例としては、例えば、濃口醤油、淡口醤油、たまり醤油、再仕込醤油、白醤油、だし醤油、照り醤油、生揚げ醤油、生醤油などが挙げられるが、食材に対してしっかりとしたしょうゆ風味を付与するために濃口醤油であることが好ましい。しょうゆの形態は特に限定されず、液体状であっても、粉末状及び顆粒状などの固形状であっても、どちらでもよい。しょうゆは、しょうゆ本来の風味を有するために、例えば、HEMFの含有量は、20ppm以上であることが好ましく、30ppm以上であることがより好ましい。なお、本醸造方式により得られるしょうゆは、通常、20ppm以上のHEMFを含む。例えば、淡口醤油のHEMF含有量は20ppm以上であり、濃口醤油のHEMFの含有量は30ppm以上である。
【0043】
肉類は、食用可能な肉であれば特に限定されないが、例えば、上記した動物の肉などが挙げられるが、日本国において常用されている牛や豚などの畜肉及び鶏などの家禽肉が好ましい例として挙げられる。肉類の保存条件は特に限定されず、生肉、冷蔵肉、冷凍肉、乾燥肉など、いずれのものも用いることができる。また、肉類はこれらを炒める、焼く、煮るなどの加熱加工したものであってもよい。肉類の形態は特に限定されず、ひき肉、薄切り肉、塊肉など、いずれのものも用いることができる。魚介類は、上記した魚介類など、市場にて入手できるものなどが挙げられるが、魚肉が好ましい。魚介類の保存条件、加工、形態などは肉類に準ずることができる。
【0044】
大豆たんぱくは大豆に由来するタンパク質であれば特に限定されないが、例えば、大豆から大豆油を抽出した後の脱脂大豆を濃縮処理及び精製処理などの処理に供して製造されるものなどが挙げられる。また、豆乳及びその濃縮物は、タンパク質以外の成分も含まれるが、これらを精製などせずに、大豆たんぱくとして用いてもよい。
【0045】
大豆たんぱくの形態は特に限定されず、例えば、粒状、粉末状、塊状、フレーク状、棒状、サイコロ状、液体状などが挙げられるが、食品及び調味料としてよく用いられる粒状及び粉状であることが好ましい。大豆たんぱくの大きさは限定されず、例えば長径約5mm~約20mmである。大豆たんぱくは、市販されているものを用いてもよく、公知の方法により製造されたものを用いてもよい。大豆たんぱくとして市販されているのものとして、「ニューソイミーF 2010」、「ニューソイミーS10」、「ニューソイミーS11」、「ニューソイミーS20F」、「ニューソイミーS21F」、「ニューソイミーS22F」、「ニューソイミーS31B」、「ニューソイミーS50」、「ニューコミテックスA-301」、「ニューコミテックスA-302」、「ニューコミテックスA-318」、「ニューコミテックスA-320」(それぞれ、日清オイリオグループ社製)、「ニューフジニック58」、「ニューフジニック59」、「ニューフジニックAR」、「ニューフジニック61N」、「ニューフジニックBSN」(それぞれ、不二製油社製)などが挙げられる。例えば、粒状大豆たんぱくは、大豆の抽出液を組織化及び粒状化して乾燥組織状にすることにより製造できる。また、粉状大豆たんぱくは、大豆の抽出液を分離及び殺菌して噴霧乾燥して粉状にすることにより製造することができる。なお、粒状及び粉状の大豆たんぱくは、揚げ、がんもどき、ソーセージ、かまぼこの安定剤として、及び肉類の代替物としてハンバーグ、ミンチボール、餃子、焼売などの調理に使用されている。
【0046】
食材は、上記のうち、加熱することにより加熱劣化臭が強く感じられることから、しょうゆ、みそ、にんじん、牛肉、豚肉、鶏肉、魚肉及び大豆たんぱくであることが好ましい。
【0047】
本発明の一態様の組成物は、加熱することにより加熱劣化臭が感じられる食材に加えて、風味、香り、栄養価、食感などを組成物及び組成物を用いて得られる調理物に付与するために、その他の食材を含むことができる。
【0048】
その他の食材は、食品及び調味料の成分として用いられているものであれば特に限定されないが、例えば、シソ、パセリ、セロリ、ニラ、ミツバなどの香辛野菜類;椎茸、マッシュルーム、エノキ、シメジなどのキノコ類;リンゴ、ナシ、キウイ、パイナップル、梅などの果実類;ゴマ、ナッツ、栗などの種実類;ひじき、昆布、ワカメなどの海藻類;鶏卵、うずら卵などの卵類;固形調味料成分として、食塩、糖類(砂糖、ぶどう糖、果糖、水飴、異性化液糖など)、穀類成分(パン粉、小麦粉、オートミールなど)、香辛料(生姜、唐辛子、こしょう、バジル、オレガノ、ジンジャー、ミックススパイスなど)、増粘剤(カラギーナンなどの増粘多糖類、でん粉、加工でん粉、ガム類など)、化学調味料(グルタミン酸ナトリウム、グリシン、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムなど)、フレーバー、カレー粉;液体調味料成分として、水、アルコール、甘味成分(みりん、液糖、水飴など)、酸味成分(食酢、りんご、ゆず、レモンといった香酸柑橘など)、油脂成分(ごま油、オリーブオイル、サラダ油、大豆油、ラー油、バター、牛脂、ラードなど)、酒類成分(ワイン、清酒など)、果汁(りんご果汁など);鰹、鰹節、ホタテなどから得られる魚介類エキス;昆布などから得られる海藻エキス;鶏、豚、牛などの肉類から得られる肉エキス;ニンニク、生姜、椎茸などの野菜から得られる野菜エキス;酵母エキス;タンパク質加水分解物;鰹節、宗田節、鯖節、鮪節、鰯節などの魚節類の粉砕物及び削り節、鰯、鯖、鯵、エビなどを干して乾燥した煮干し類の粉砕物、昆布、ワカメなどの海藻類、椎茸などのキノコ類などを、熱水、エタノールなどの溶媒で抽出して得られるダシ汁などが挙げられる。その他の食材は、上記の1種単独でもよいし、2種以上の組合せであってもよい。その他の食材は、すりおろしたり、ペースト状にしたり、粉砕したり、細切りしたり、ダイス状、短冊状などの形状にカットしたりして、用いてもよい。
【0049】
食材の具体例として、便宜的に、加熱することにより加熱劣化臭が感じられる食材と、その他の食材とをそれぞれ分けて列挙したが、その他の食材の中には加熱することにより加熱劣化臭が感じられる食材であるものがあり、その他の食材が加熱することにより加熱劣化臭が感じられる食材たり得ることを排除していると解釈してはならない。
【0050】
食材の含有量は特に限定されず、所望の風味に合わせて適宜設定できる。例えば、食材の含有量は、本発明の一態様の組成物の全体量に対して、1.0質量%以上99質量%以下である。ただし、モモ、あんず及びジャスミンオイルはγ-ノナラクトンの含有量が多いことから、これらの食材を含まないことが好ましい。
【0051】
本発明の一態様の組成物は、その形態については特に限定されないが、例えば、調味料及び食品として用いられるためには、液状、懸濁状、ペースト状などの液状又は半固形状の組成物及び具の入った液状及び半固形状の組成物であることが好ましい。
【0052】
本発明の一態様の組成物は、容器に充填して封止することにより密封した容器詰組成物である。容器はレトルト殺菌などの加熱処理に耐性があり密封できる素材及び形状のものであれば特に限定されないが、例えば、アルミなどの金属、PETやPTPなどのプラスチック、1層又は積層(ラミネート)のフィルム、ガラスなどを素材とするパウチ、小袋、ボトル、缶、瓶などの包装容器が挙げられる。具体的には、内側にポリプロピレン、ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂からなる熱溶着可能な樹脂層を設け、外側にポリエステル、ポリアミドなどのガスバリア性の高い樹脂及び/又はアルミ箔などからなる層を設けて、積層加工(ラミネート加工)したフィルムでできた容器などが挙げられる。
【0053】
本発明の一態様の組成物は、加熱された容器詰組成物である。加熱の程度は、含有する食材において加熱劣化臭が感じられるようになる程度であれば、特に限定されない。本発明の一態様の組成物の加熱条件は、加圧の有無、温度、時間、Fo値などを指標に適宜設定すればよく、例えば、長期保存が可能な状態に組成物を加熱殺菌できる条件などが挙げられる。具体的には、加圧下で、110℃~130℃、好ましくは約120℃で、2分間~60分間、好ましくは4分間~30分間で行う加熱条件;Fo値が0.1~60、好ましくは0.2~30、より好ましくは0.2~10として測定される加熱条件などが挙げられる。
【0054】
本発明の一態様の組成物は、加熱された組成物であるが、保存性を考慮すれば、加熱殺菌処理などの腐敗防止を意図した加熱処理に供されたものであることが好ましい。本発明の一態様の組成物は、調味料及び食品を殺菌する際に通常採用されている条件での加熱殺菌処理に供された組成物であることが好ましく、例えば、100℃以下で加熱殺菌した組成物であってもよいが、レトルト殺菌(Fo値4.0以上)に供された組成物であることが好ましい。なお、後述する実施例に記載があるとおり、110℃、4.8分間(Fo値0.37)で加熱しても、γ-ラクトン類による食材による加熱劣化臭抑制効果は発揮され得る。
【0055】
本発明の一態様の組成物が有する食材による加熱劣化臭の抑制作用は、同種及び同量の食材を含みつつも、γ-ラクトン類を含まない容器詰組成物を加熱した場合に感じられる食材による加熱劣化臭を完全又は部分的に抑制する作用をいう。本発明の一態様の組成物が有する食材による加熱劣化臭の抑制作用は、後述する実施例に記載の方法により確認できる。例えば、加熱劣化臭を官能評価により5段階にて、点数が低いほど加熱劣化臭が感じられると評価する場合に、本発明の一態様の組成物が有する食材による加熱劣化臭の抑制作用は、同種及び同量の食材を含みつつも、γ-ラクトン類を含まない容器詰組成物において感じられる食材による加熱劣化臭よりも、1点でも高いと評価される程度の作用であればよく、好ましくは2点、より好ましくは3点、さらに好ましくは4点高いと評価される程度の作用である。
【0056】
本発明の一態様の組成物の具体的態様として、調味用組成物が挙げられる。本発明の一態様の調味用組成物の使用量は、調味用組成物が供すべき食材及び加工食品の種類などに応じて適宜設定でき、特に限定されない。例えば、本発明の一態様の調味用組成物を肉豆腐を調理するために用いる場合は、豆腐 1丁(約350g)に対して、本発明の一態様の組成物 100g~200gで使用すればよい。
【0057】
本発明の一態様の調味用組成物は、例えば、所望の加工食品を得るために、野菜類、香辛野菜類、キノコ類、果実類、種実類、肉類、魚介類、海藻類、卵、食肉加工品、加工食品などの食材と混合して、常温にて、又は加熱して、調理するように使用できる。本発明の一態様の調味用組成物とともに用いられる食材は、一口サイズに切断すること、焼くこと、炒めることなどの加熱することなどして、前処理したものであることが好ましい。本発明の一態様の調味用組成物は、食材による加熱劣化臭のみならず、加熱調理による加熱劣化臭も抑制し得ることから、加熱調理食品を得るために用いられることが好ましい。
【0058】
本発明の一態様の調味用組成物を利用して加熱調理する方法は特に限定されず、使用する食材の種類及び量、加熱調理食品の種類などに応じて適宜設定することができる。加熱調理としては、炒める、揚げる、焼く、蒸す、電子レンジを用いて加熱する、熱風により加熱する、熱水中で加熱するなどの通常の加熱調理方法が挙げられ、これらの加熱調理方法を適宜組合せて実施してもよい。加熱調理による加熱劣化臭は、より高温で加熱されることになる炒め調理において問題になる傾向があることから、本発明の一態様の調味用組成物は炒め調理に使用されることが好ましい。
【0059】
本発明の一態様の調味用組成物を利用して得られる加熱調理食品は特に限定されないが、例えば、肉豆腐、豚キムチ、鶏大根、肉じゃが、そぼろあんかけ、みぞれ炒め、みぞれ煮、オムレツ、肉野菜炒め、煮物、ゴーヤチャンプル、牛丼、カレー、ギョウザなどが挙げられる。
【0060】
本発明の一態様の調味用組成物の具体的な使用方法としては、例えば、加熱調理食品が肉豆腐である場合は、サラダ油などの油をひいて熱したフライパンに豆腐を加えて焼き色がつく程度に炒め、次いで所望の野菜を加えて少し炒めた後、又は野菜を加えずに、本発明の一態様の調味用組成物を加えて、数十秒~数分間炒めることを含む方法などが挙げられる。本発明の一態様の調味用組成物と混合する前に、食材をあらかじめ炒めるなどして加熱しておくことが好ましい。加熱調理食品は、本発明の一態様の調味用組成物による加熱調理食品に対する調味作用を発揮せしめるために、加熱調理後速やかに、又は室温下に数分間おいた後に喫食することが好ましい。
【0061】
本発明の一態様の調味用組成物を用いた加熱調理食品の製造方法の具体的態様としては、例えば、豆腐を用いた以下の方法などが挙げられるが、これに限定されない。すなわち、豆腐を一口大に切る。次いで、フライパンに適量の油を熱し、中火で豆腐を両面に焼き色がつくまで数分間炒め、さらに野菜類を加えて、中火で数分間炒める。次いで、本発明の一態様の調味用組成物を加えて数十秒間~数分間炒めることにより、肉豆腐として加熱調理食品を得る。
【0062】
本発明の一態様の組成物の具体的態様として、加工食品が挙げられる。本発明の一態様の加工食品は、それ自体で喫食可能なものであり、加熱することにより加熱劣化臭が感じられる食材及びγ-ラクトン類に加えて、野菜類、香辛野菜類、キノコ類、果実類、種実類、肉類、魚介類、海藻類、卵、食肉加工品、加工食品などの種々の食材を原料として含む。本発明の一態様の加工食品は、食材及びγ-ラクトン類を用いて調理されたものであることにより、食材による加熱劣化臭が抑制された、風味及び香りが優れた嗜好性の高いものであり得る。
【0063】
本発明の一態様の加工食品としては、例えば、上記した本発明の一態様の組成物を利用して得られる加熱調理食品を容器に詰めたものに加えて、その他の容器入りの惣菜、弁当、肉入り麺、焼きそば、焼きうどん、シーフードパスタ、シチューなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
[容器詰組成物の製造方法]
本発明の別の一態様は、容器詰組成物を製造する方法である。本発明の一態様の方法は、食材とγ-ラクトン類とを含む容器詰組成物を加熱することにより、該食材による加熱劣化臭が抑制された容器詰組成物を得る工程を含む。食材とγ-ラクトン類との混合方法は特に限定されず、例えば、通常知られているとおりの各成分を混ぜ合わせて調味料及び加工食品を製造する方法などが挙げられ、具体的には食材及びγ-ラクトン類、並びに必要に応じてその他の成分を、室温下又は加温下で撹拌処理などの混合手段に供して混合することを含む方法などを挙げることができる。食材及びその他の成分は、細断すること、粉砕すること、膨潤すること、加熱することなどの処理に供して、前処理したものであってもよい。
【0065】
[加熱劣化臭の抑制方法]
本発明の別の一態様は、γ-ラクトン類が食材による加熱劣化臭を抑制することに着眼して、容器詰組成物を加熱する際に感じられるようになる食材による加熱劣化臭を抑制する方法である。本発明の一態様の方法は、食材とγ-ラクトン類とを含む容器詰組成物を加熱することにより、該食材による加熱劣化臭を抑制する工程を含む。容器詰組成物は、食材とγ-ラクトン類とを合わせて含有することにより、γ-ラクトン類の作用により、食材による加熱劣化臭は抑制される。
【0066】
[γ-ラクトン類を含む加熱劣化臭抑制用組成物]
本発明の別の一態様は、γ-ラクトン類が食材による加熱劣化臭を抑制することに着眼して、γ-ラクトン類を含み、適用される食材による加熱劣化臭を抑制するために用いられる組成物である。本発明の一態様の組成物は、加熱前の食材とともに容器に詰めて加熱するように使用される。
【0067】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例】
【0068】
例1 市販しょうゆのγ-ノナラクトン含有量の測定
[1-1.γ-ノナラクトンの測定方法]
各市販しょうゆに含まれるγ-ノナラクトンの含有量は、下記のとおり、GC-MSにより測定した。市販しょうゆは、「キッコーマン 特選 丸大豆しょうゆ」(キッコーマン食品社製)及び「有機丸大豆の吟選しょうゆ」(ヤマサ醤油社製)を用いた。
【0069】
<γ-ノナラクトンの抽出処理>
各市販しょうゆを、食塩(NaCl)1.0gを添加した20mL容量のヘッドスペースバイアルに2.0g秤量した。次いで、ヘッドスペース-固相マイクロ抽出(HS-SPME)法により、気相中の香気成分をファイバーに吸着させた。SPMEファイバーとしてDivinylbenzen/Carboxen/Polydimethylsiloxane(DVB/CAR/PDMS)ファイバー(75mm、DVB/CAR/PDMS、fused silica、24Ga;Merck社製)を使用し、平衡条件を40℃、5分間の条件とし、吸着条件を40℃、20分間の条件とした。
【0070】
捕集した香気成分をオートサンプラー「AOC5000」(島津製作所社製)を用いて、GC-MS「GCMS QP 2010 Ultra」(島津製作所社製)に導入して分析した。分析はn=4で実施した。GC-MSにおける条件は以下のとおりとした。
【0071】
<γ-ノナラクトンの測定:GC-MS条件>
測定モード:Scan
カラム:DB-WAX(長さ60m、口径0.25mm、膜厚0.25μm)(Agilent Technologies社製)
注入口温度:240℃
温度条件:40℃(3min)保持 → 110℃まで5℃/min昇温 → 240℃まで10℃/min昇温 → 5min保持
キャリア:高純度ヘリウム
制御モード:線速度40cm/min
圧力:233.3kpa
スキャン質量範囲:m/z 40.0~250.0
イオン化方式:EI
【0072】
上記のとおりにGC-MSにて、しょうゆ中のγ-ノナラクトンのピークを測定した。ピーク面積は、以下のm/zを用いて求めた。標準物質(純度98%γ-ノナラクトン(東京化成社製))を用いた標準添加法により、得られたピーク面積から各しょうゆ中のγ-ノナラクトンの含有量(濃度)を算出した。
γ-ノナラクトン:m/z 85
【0073】
[1-2.測定結果]
市販しょうゆのγ-ノナラクトンの含有量の測定結果を表1に示す。表1に示すように、市販の特選丸大豆しょうゆ(キッコーマン食品社製)におけるγ-ノナラクトンの含有量は8.1ppbであった。また、市販の有機丸大豆の吟選しょうゆ(ヤマサ醤油社製)のγ-ノナラクトンの含有量は3.4ppbであった。これらの結果から、市販しょうゆにはγ-ノナラクトンが微量含まれているものの、その量は10ppb未満であることがわかった。また、上記の市販しょうゆは火入れしょうゆであり、後述する例12の結果から火入れにより多くとも半分の量のγ-ノナラクトンが分解することを鑑みれば、火入れしていないしょうゆにおけるγ-ノナラクトンの量は20ppb未満であると推測される。
【0074】
【0075】
例2 しょうゆに対する、γ-ノナラクトンが有する加熱劣化臭抑制作用及び風味改善作用の評価
[2-1.試験調味液の調製]
100ml容メスフラスコに純度98%γ-ノナラクトン(東京化成社製) 1gを加え、95%エタノールでメスアップして、γ-ノナラクトン原液を調製した(1g/100ml)。次いで、各試験調味液に添加する量を100μlに統一し、かつ各試験調味液におけるγ-ノナラクトンの含有量が所定の量になるように、γ-ノナラクトン原液を水で希釈して、各試験調味液を各所定の濃度になるように調整したγ-ノナラクトン溶液を調製した。
【0076】
下記表2に示すように、市販のしょうゆである「キッコーマン 特選 丸大豆しょうゆ」(γ-ノナラクトン 8.1ppb;HEMF 30ppm以上;キッコーマン食品社製)に、γ-ノナラクトン溶液を混合して、全体で100gになるように水で調整することにより、試験調味液2-1~2-4を調製した。
【0077】
また、γ-ノナラクトン溶液に代えて、水 100μlを用いることにより、コントロール試験調味液2-1~2-2を調製した。
【0078】
調製した試験調味液 100gをアルミパウチに充填し密封した。これをレトルト殺菌機「熱水スプレー式 ROS-60SPXG」(日阪製作所社製)を用いて、加熱殺菌(120℃、10分間)に供した。ただし、コントロール試験調味液2-1は、加熱殺菌の条件を85℃、5分間とした。
【0079】
[2-2.官能評価方法]
加熱殺菌に供した試験調味液について、加熱劣化臭、醤油香、えぐ味といったしょうゆの風味及び香りの評価に秀でたパネル(A~Cの3名)に対して、常温とした試験調味液を匙にとって喫食させて、下記のとおりに喫食時に口腔内から鼻へぬける加熱劣化臭、醤油香及びえぐ味の強度を試験調味液間で6段階の順位付けをした。この際、各項目について、コントロール試験調味液1-1の順位を1とし、コントロール試験調味液1-2の順位を6とするようにした。なお、官能試験を実施するにあたり、該パネル(訓練期間:10~20年)に対して、各評価項目の討議及び評価訓練を行った。具体的には、各評価項目について、パネル間で討議して、すり合わせを行うことで、各パネリストが共通認識を持つようにした。また、官能試験の妥当性を担保するために、いくつかの試験調味液を用いて、該パネルに評価訓練をさせ、各パネリストにおける評価の再現性を確認した。これらを行った後、該パネルを用いて、各試験調味液について官能評価を行った。
【0080】
加熱劣化臭は、口に含んだ際に感じる、高温で加熱殺菌された調味液独特の不快臭及びムレ臭(もわっと鼻が蒸れる感覚のある臭い)とした。試験調味液間の順位は、加熱劣化臭を感じないコントロール試験調味液2-1を順位1として、加熱劣化臭が弱い順から順位付けした。
【0081】
醤油香は、口に含んだ際に、加熱殺菌に供していない火入れ醤油(すなわち、市販のしょうゆ)で感じるさわやかでフルーティーな香りとした。試験調味液間の順位は、醤油香を感じるコントロール試験調味液2-1を順位1として、醤油香が強い順から順番付けした。
【0082】
えぐ味は、喫食した後に口中に残る収斂味様の風味とした。また、試験調味液間の順位は、えぐ味を感じないコントロール試験調味液2-1を順位1として、えぐ味が弱い順から順番付けした。
【0083】
[2-3.官能評価結果]
試験調味液の官能評価結果を表2に示す。表2に示すように、γ-ノナラクトン溶液を添加していないコントロール試験調味液2-2は、加熱殺菌による加熱劣化臭及びえぐ味を非常に強く感じ、醤油香が弱まった。しかし、γ-ノナラクトン溶液を添加することにより、濃度依存的にこれらの官能評価項目を改善できることがわかった。特に、γ-ノナラクトンの含有量が100ppb以上である試験調味液2-3は、加熱劣化臭及びえぐ味がほとんど感じられず、市販の火入れしょうゆで感じる爽やかでフルーティーなしょうゆらしい香りが十分に感じられた。
【0084】
それに対して、試験調味液2-2はコントロール試験調味液2-2と比較するといずれの評価項目でも改善効果が認められたが、試験調味液2-3と比較するとかなり弱い改善効果であった。
【0085】
したがって、加熱殺菌によって生じる加熱劣化臭及びえぐ味並びに加熱殺菌によって減弱する醤油香は、γ-ノナラクトンを28.1ppbより多く含むことにより改善され、100ppb以上含むことによりさらに改善できることがわかった。
【0086】
ただし、γ-ノナラクトンは、それ自体で桃のような南国フルーツ様の甘いフルーティーな香りを有する。γ-ノナラクトンの含有量が3,000ppbより多い試験調味液2-4は、加熱劣化臭及びえぐ味を抑制し、市販の火入れしょうゆで感じる爽やかでフルーティーなしょうゆらしい香りを感じるものの、桃のような香りがわずかに感じられ、若干異質なものに感じられた。そこで、γ-ノナラクトンの含有量は3,000ppb以下であることが好ましいことがわかった。
【0087】
以上の結果より、加熱殺菌することにより、加熱劣化臭、えぐ味及び醤油香を良好なものとし、γ-ノナラクトンの香りに由来する異質な風味を付与しないためには、しょうゆを含む調味液において、γ-ノナラクトンの濃度は、30ppb~3,000ppbの範囲内にあることが好ましいことがわかった。
【0088】
【0089】
例3 牛肉及びしょうゆを含む調味液に対する、γ-ノナラクトンが有する加熱劣化臭抑制作用及び風味改善作用の評価
[3-1.試験調味液の調製]
例2と同様にして、γ-ノナラクトン原液及びγ-ノナラクトン溶液を調製した。
【0090】
例2と同様にして、下記表3に示すように、牛ひき肉、しょうゆ、砂糖、昆布エキス及びγ-ノナラクトン溶液を混ぜ合わせて、全量が100gになるように水で調整することにより各試験調味液を調製し、アルミパウチに充填及び密封した後、加熱殺菌に供した。なお、昆布エキスは、「コブコン日高P」(キッコーマン食品社製)を用いた。また、牛ひき肉は、豪州産グラスフェッド牛のひき肉(長径サイズ 約5mm)を用いた。
【0091】
[3-2.官能評価方法]
例2と同様にして、加熱殺菌に供した試験調味液について、加熱劣化臭、渋味、醤油香及び畜肉臭といったしょうゆ及び肉料理の風味及び香りの評価に秀でたパネル(A~Cの3名)に対して、官能評価を実施した。
【0092】
渋味は、喫食した後に残る肉の灰汁様の不快な味とした。また、試験調味液間の順位は、渋味を感じないコントロール試験調味液3-1を順位1として、渋味が弱い順から順位付けした。
【0093】
畜肉臭は、口に含んだ際に感じる、加熱による肉の獣臭、脂質などの酸化臭及び生臭みを合わせた不快な臭いとした。また、試験調味液間の順位は、畜肉臭を感じないコントロール試験調味液3-1を順位1として、畜肉臭が弱い順から順位付けした。
【0094】
[3-3.官能評価結果]
試験調味液の官能評価結果を表3に示す。表3に示すように、γ-ノナラクトン溶液を添加していないコントロール試験調味液3-2は、加熱殺菌による加熱劣化臭、渋味及び畜肉臭を非常に強く感じ、醤油香が弱まった。しかし、γ-ノナラクトン溶液を添加することにより、濃度依存的にこれらの官能評価項目を改善できることがわかった。特に、γ-ノナラクトンの含有量が100ppb以上である試験調味液3-3は、加熱劣化臭、渋味及び畜肉臭がほとんど感じられず、市販の火入れしょうゆで感じる爽やかでフルーティーなしょうゆらしい香りが十分に感じられた。
【0095】
それに対して、試験調味液3-1はコントロール試験調味液3-2と比較するといずれの評価項目でも改善効果が認められたが、試験調味液3-3と比較するとかなり弱い改善効果であった。
【0096】
したがって、加熱殺菌によって生じる加熱劣化臭、渋味及び畜肉臭並びに加熱殺菌によって減弱する醤油香は、γ-ノナラクトンを20.81ppb以上含むことにより改善され、100ppb以上含むことによりさらに改善できることがわかった。
【0097】
一方、例2と同様に、γ-ノナラクトンの含有量が3,000ppbより多い試験調味液3-4は、加熱劣化臭、渋味及び畜肉臭を抑制し、市販の火入れしょうゆで感じる爽やかでフルーティーなしょうゆらしい香りを感じるものの、桃のような香りがわずかに感じられ、若干異質なものに感じられた。そこで、γ-ノナラクトンの含有量は調味液に対して3,000ppb以下であることが好ましいことがわかった。
【0098】
以上の結果より、加熱殺菌することにより、加熱劣化臭、渋味、醤油香及び畜肉臭を良好なものとし、γ-ノナラクトンの香りに由来する異質な風味を付与しないためには、牛肉及びしょうゆを含む調味液において、γ-ノナラクトンの濃度は、30ppb~3,000ppbの範囲内にあることが好ましいことがわかった。
【0099】
【0100】
例4 牛ひき肉の水煮に対する、γ-ノナラクトンが有する加熱劣化臭抑制作用及び風味改善作用の評価(1)
[4-1.試験食品の調製]
例2~3と同様にして、γ-ノナラクトン原液及びγ-ノナラクトン溶液を調製した。
【0101】
例2~3と同様にして、下記表4に示すように、牛ひき肉及びγ-ノナラクトン溶液を混ぜ合わせて、全量が100gになるように水で調整することにより各試験食品を調製し、アルミパウチに充填及び密封した後、加熱殺菌に供した。なお、加熱殺菌に供した後の調味液を牛ひき肉の水煮とした。
【0102】
[4-2.官能評価方法]
例2~3と同様にして、加熱殺菌に供した試験食品について、加熱劣化臭、渋味及び畜肉臭といった肉料理の風味及び香りの評価に秀でたパネル(A~Cの3名)に対して、官能評価を実施した。
【0103】
[4-3.官能評価結果]
試験食品の官能評価結果を表4に示す。表4に示すように、γ-ノナラクトン溶液を添加していないコントロール試験食品4-2は、加熱殺菌による加熱劣化臭、渋味及び畜肉臭を非常に強く感じた。しかし、γ-ノナラクトン溶液を添加することにより、濃度依存的にこれらの官能評価項目を改善できることがわかった。特に、γ-ノナラクトンの含有量が食品に対して100ppb以上である試験食品4-3は、加熱劣化臭、渋味及び畜肉臭がほとんど感じられなかった。
【0104】
それに対して、試験食品4-1はコントロール試験食品4-2と比較するといずれの評価項目でも改善効果が認められたが、試験食品4-3と比較するとかなり弱い改善効果であった。
【0105】
したがって、加熱殺菌によって生じる加熱劣化臭、渋味及び畜肉臭は、γ-ノナラクトンを20ppb以上含むことにより改善され、100ppb以上含むことによりさらに改善できることがわかった。
【0106】
以上の結果より、加熱殺菌することにより、加熱劣化臭、渋味及び畜肉臭を良好なものとし、γ-ノナラクトンの香りに由来する異質な風味を付与しないためには、牛肉を含む食品において、γ-ノナラクトンの濃度は、20ppb~3,000ppbの範囲内にあることが好ましいことがわかった。
【0107】
【0108】
例5 しょうゆに対する、γ-ノナラクトン及びフェネチルアセテートが有する加熱劣化臭抑制作用及び風味改善作用の評価
[5-1.試験調味液の調製]
例2~4と同様にして、γ-ノナラクトン原液及びγ-ノナラクトン溶液を調製した。また、γ-ノナラクトンに代えて、純度98%フェネチルアセテート(シグマアルドリッチ社製)を用いることにより、フェネチルアセテート原液及びフェネチルアセテート溶液を調製した。
【0109】
例2~4と同様にして、下記表5に示すように、しょうゆ、水、γ-ノナラクトン溶液及びフェネチルアセテート溶液を混ぜ合わせて、各試験調味液を調製し、アルミパウチに充填及び密封した後、加熱殺菌に供した。なお、使用したしょうゆ(「キッコーマン 特選 丸大豆しょうゆ」)において、フェネチルアセテートは検出されなかった。
【0110】
[5-2.官能評価方法]
加熱殺菌に供した試験調味液について、加熱劣化臭、醤油香、えぐ味といったしょうゆの風味及び香りの評価に秀でたパネル(A~Cの3名)に対して、常温とした試験調味液を匙にとって喫食させて、下記の指標に基づいて、喫食時に口腔内から鼻へぬける加熱劣化臭、醤油香及びえぐ味の強度を5段階で評価した。この際、評価基準として、コントロール試験調味液5-1の評点を「5」とし、コントロール試験調味液5-2の評点を「1」とし、さらに試験調味液5-1を「3」として提示した。なお、官能試験を実施するにあたり、該パネル(訓練期間:10年~20年)に対して、各評価項目の討議及び評価訓練を行った。具体的には、各評価項目について、パネル間で討議して、すり合わせを行うことで、各パネリストが共通認識を持つようにした。また、官能試験の妥当性を担保するために、いくつかの試験調味液を用いて、該パネルに評価訓練をさせ、各パネリストにおける評価の再現性を確認した。これらを行った後、該パネルを用いて、各試験調味液について官能評価を行った。
【0111】
<加熱劣化臭>
1:非常に強く感じる(コントロール試験調味液5-2)
2:感じる
3:やや感じる(試験調味液5-1)
4:ほぼ感じない
5:感じない(コントロール試験調味液5-1)
【0112】
<醤油香>
1:好ましくない(コントロール試験調味液5-2)
2:やや好ましくない
3:やや好ましい(試験調味液5-1)
4:好ましい
5:最も好ましい(コントロール試験調味液5-1)
【0113】
<えぐ味>
1:非常に強く感じる(コントロール試験調味液5-2)
2:感じる
3:やや感じる(試験調味液5-1)
4:ほぼ感じない
5:感じない(コントロール試験調味液5-1)
【0114】
<項目評価>
試験調味液の各評価項目について、パネル3名の評点の合計点が、3点~9点である場合は「-」、10点~11点である場合は「+-」、12点~13点である場合は「+」、14点~15点である場合は「++」として評価した。また、試験調味液について、各評価項目のうち、最も悪い評価を基準として総合評価をした。
【0115】
[5-3.官能評価結果]
試験調味液の官能評価結果を表5に示す。表5に示すように、所定量のγ-ノナラクトンには加熱殺菌により生じる加熱劣化臭及びえぐ味の発生並びに醤油香の減少を抑制する作用を有することがわかった。具体的には、含有量が28.1ppbより多くなるようにγ-ノナラクトンを添加したしょうゆは、加熱殺菌によるしょうゆの劣化を抑制した。さらに、γ-ノナラクトンの含有量が28.1ppbより多い場合に、加熱殺菌で感じるこもったような重たい風味が軽減され、100ppb以上である場合には加熱劣化臭及びえぐ味がほぼ感じなくなり、1,000ppb以上である場合は、好ましい醤油香がして、強いフルーティー感があった。
【0116】
しかし、γ-ノナラクトンをしょうゆに対して3,000ppb以上になるように添加したところ、加熱劣化臭及びえぐ味の発生は抑制されたが、γ-ノナラクトンが有する桃様の香りが強くなり、醤油香としては若干異質に感じるようになり、10,000ppb以上を添加した場合は明確に異質に感じた。
【0117】
一方、フェネチルアセテートもまた加熱殺菌で感じる加熱劣化臭及びえぐ味の発生を濃度依存的に抑制する傾向にあったが、醤油の香りについてはそのような傾向は認められず、醤油香の劣化の抑制効果は低いことがわかった。また、フェネチルアセテートは、しょうゆの加熱劣化によるこもったような重たい風味を軽減した。
【0118】
一方、試験調味液5-2、試験調味液5-8及び試験調味液5-11の結果を比較すると、γ-ノナラクトン及びフェネチルアセテートを混合して使用した場合は加熱劣化臭及びえぐ味の発生並びに醤油香の減少を相乗的に抑制することがわかった。
【0119】
なお、試験調味液5-12に示すように、γ-ノナラクトンに代えてδ-ノナラクトンをしょうゆに対して100ppbで添加したところ、δ-ノナラクトンに特有のココナッツ様の香りがして、醤油香としては異質に感じた。
【0120】
【0121】
例6 牛肉及びしょうゆを含む調味液に対する、γ-ノナラクトン及びフェネチルアセテートが有する加熱劣化臭抑制作用及び風味改善作用の評価
[6-1.試験調味液の調製]
例2~5と同様にして、γ-ノナラクトン原液及びγ-ノナラクトン溶液、並びにフェネチルアセテート原液及びフェネチルアセテート溶液を調製した。
【0122】
例2~5と同様にして、下記表6に示すように、牛ひき肉、しょうゆ、砂糖、昆布エキス、γ-ノナラクトン溶液及びフェネチルアセテート溶液を混ぜ合わせて、全量が100gになるように水で調整することにより各試験調味液を調製し、アルミパウチに充填及び密封した後、加熱殺菌に供した。
【0123】
[6-2.官能評価方法]
例5と同様にして、加熱殺菌に供した試験調味液について、加熱劣化臭、渋味、醤油香及び畜肉臭といったしょうゆ及び肉料理の風味及び香りの評価に秀でたパネル(A~Cの3名)に対して、官能評価を実施した。この際、評価基準として、コントロール試験調味液6-1の評点を「5」とし、コントロール試験調味液6-2の評点を「1」とし、さらに試験調味液6-1を「3」として提示した。なお、渋味及び畜肉臭の評点の指標は以下のとおりである。
【0124】
<渋味>
1:非常に強く感じる(コントロール試験調味液6-2)
2:感じる
3:やや感じる(試験調味液6-1)
4:ほぼ感じない
5:感じない(コントロール試験調味液6-1)
【0125】
<畜肉臭>
1:非常に強く感じる(コントロール試験調味液6-2)
2:感じる
3:やや感じる(試験調味液6-1)
4:ほぼ感じない
5:感じない(コントロール試験調味液6-1)
【0126】
[6-3.官能評価結果]
試験調味液の官能評価結果を表6に示す。表6に示すように、所定量のγ-ノナラクトンには加熱殺菌により生じる加熱劣化臭、畜肉臭及び渋味の発生並びに醤油香の減少を抑制する作用を有することがわかった。具体的には、含有量が30ppb~3,000ppbになるようにγ-ノナラクトンを添加した調味液は、加熱殺菌による調味液の劣化を抑制した。
【0127】
しかし、γ-ノナラクトンを調味液に対して2,500ppb以上になるように添加したところ、加熱劣化臭、畜肉臭及び渋味の発生は抑制されたが、γ-ノナラクトンが有する桃様の香りが感じられるためか調味液としてはフルーティー感が強く感じられるようになり、さらに3,000ppbを添加した場合は醤油香としては若干異質に感じるようになり、10,000ppbを添加した場合は明確に異質に感じた。
【0128】
一方、フェネチルアセテートもまた加熱殺菌で感じる加熱劣化臭、畜肉臭及び渋味の発生を濃度依存的に抑制する傾向にあったが、醤油の香りについてはそのような傾向は認められず、醤油香の劣化の抑制効果は低いことがわかった。また、フェネチルアセテートは、しょうゆの加熱劣化によるこもったような重たい風味を軽減した。
【0129】
また、試験調味液6-1、試験調味液6-9及び試験調味液6-12の結果を比較すると、γ-ノナラクトン及びフェネチルアセテートは加熱劣化臭、畜肉臭及び渋味の発生並びに醤油香の減少を相乗的に抑制することがわかった。
【0130】
なお、試験調味液6-13及試験調味液8-14に示すように、γ-ノナラクトンに代えてδ-ノナラクトンをしょうゆに対して100ppbで添加したところ、δ-ノナラクトンに特有のココナッツ様の香りがして、醤油香として異質に感じたことから、100ppbを超えて添加すると醤油香との乖離が大きくなり異質感が増すと考えられる。
【0131】
【0132】
例7 牛ひき肉の水煮に対する、γ-ノナラクトンが有する加熱劣化臭抑制作用及び風味改善作用の評価(2)
[7-1.試験食品の調製]
例2~6と同様にして、γ-ノナラクトン原液及びγ-ノナラクトン溶液を調製した。
【0133】
例2~6と同様にして、下記表7に示すように、牛ひき肉及びγ-ノナラクトン溶液を混ぜ合わせて、全量が100gになるように水で調整することにより各試験食品を調製し、アルミパウチに充填及び密封した後、加熱殺菌に供した。
【0134】
[7-2.官能評価方法]
例5~6と同様にして、加熱殺菌に供した試験食品について、加熱劣化臭、渋味及び畜肉臭といった肉料理の風味及び香りの評価に秀でたパネル(A~Cの3名)に対して、官能評価を実施した。この際、評価基準として、コントロール試験食品7-1の評点を「5」とし、コントロール試験食品7-2の評点を「1」とし、さらに試験食品7-1を「3」として提示した。
【0135】
[7-3.官能評価結果]
試験食品の官能評価結果を表7に示す。表7に示すように、γ-ノナラクトンには加熱殺菌により生じる加熱劣化臭、畜肉臭及び渋味の発生を抑制する作用を有することがわかった。具体的には、含有量が30ppb~3,000ppbになるようにγ-ノナラクトンを添加した食品は、加熱殺菌による食品の劣化を抑制した。また、コントロール試験食品7-2は、脂質の酸化臭があったが、γ-ノナラクトンを30ppbで添加することにより脂質の酸化臭が感じられず、牛肉の旨味を強く感じるようになり、100ppbで添加した場合は、牛肉の旨味を強く感じるようになった。
【0136】
しかし、γ-ノナラクトンを調味液に対して2,500ppbにて添加したところ、加熱劣化臭、畜肉臭及び渋味の発生は抑制されたが、γ-ノナラクトンが有する桃様の香りがわずかに感じられるようになり、さらに3,000ppbを添加した場合は水煮としては若干異質に感じるようになり、10,000ppbを添加した場合は明確に異質に感じた。そこで、γ-ノナラクトンを3,000ppb及び10,000ppbで添加した試験食品7-7及び7-8については総合評価をしなかった。
【0137】
【0138】
例8 γ-ノナラクトンの有する加熱劣化臭抑制作用に対する加熱強度の影響評価
[8-1.試験調味液の調製]
例2~7と同様にして、γ-ノナラクトン原液及びγ-ノナラクトン溶液を調製した。
【0139】
例2~7と同様にして、下記表8に示すように、しょうゆ、水及びγ-ノナラクトン溶液を混ぜ合わせて、各試験調味液を調製し、アルミパウチに充填及び密封した後、種々の条件の加熱殺菌に供した。
【0140】
なお、100℃以下の条件の加熱殺菌に供した試験調味液には、恒温水槽「DIGITAL WATER BATH SB-651」(EYELA社製)を用いた湯煎殺菌処理を行った。また、100℃以上の条件の加熱殺菌に供した試験調味液には、レトルト殺菌機「熱水スプレー式 ROS-60SPXG」(日阪製作所社製)を用いた殺菌処理を行った。
【0141】
各加熱殺菌は、センサー温度計を容器内に設置し、調味液の実体温度を測定しながら加熱温度及び時間を調整し、目標のFo値になる条件を設定して、加熱殺菌を行った。表8には、調味液が供されたFo値、並びに該Fo値の殺菌価に相当する殺菌温度及び時間を記載した。
【0142】
[8-2.官能評価方法]
例5~7と同様にして、加熱殺菌に供した試験調味液について、加熱劣化臭といったしょうゆの風味及び香りの評価に秀でたパネル(A~Cの3名)に対して、官能評価を実施した。この際、評価基準として、Fo値=0.000078(80℃、1分)の加熱条件にて加熱殺菌したコントロール試験調味液8-1の評点を「5」とし、Fo値=10(121.1℃、10分)の加熱条件にて加熱殺菌したコントロール試験調味液8-1の評点を「1」とし、さらにFo値=10(121.1℃、10分)の加熱条件にて加熱殺菌した試験調味液8-1を「3」として提示した。
【0143】
[8-3.官能評価結果]
試験調味液の官能評価結果を表8に示す。表8に示すように、しょうゆはFo値=0.37(110℃、4.8分)以上の加熱条件において加熱劣化臭が生じ、Fo値=0.51(110℃、6.5分)以上の加熱条件ではしょうゆの加熱劣化臭が顕著になった。
【0144】
Fo値が10以下である場合、γ-ノナラクトンの含有量が28.1ppbより多くなるように添加したところ、加熱殺菌によって発生したしょうゆの加熱劣化臭を総じて抑制できることがわかった。
【0145】
【0146】
例9 しょうゆに対する、γ-ラクトン類が有する加熱劣化臭抑制作用及び風味改善作用の評価
[9-1.試験調味液の調製]
例2~8と同様にして、γ-ノナラクトン原液及びγ-ノナラクトン溶液を調製した。また、同様に、純度96%以上のγ-バレロラクトン(関東化学社製)、γ-ヘキサノラクトン(東京化成工業社製)、γ-ヘプタノラクトン(東京化成工業社製)、γ-オクタノラクトン(東京化成工業社製)、γ-デカノラクトン(Alfa Aesar社製)、γ-ウンデカノラクトン(東京化成工業社製)及びγ-ドデカノラクトン(富士フイルム和光純薬社製)を用いて、それぞれのγ-ラクトン類原液及びγ-ラクトン類溶液を調製した。
【0147】
例2~8と同様にして、下記表9に示すように、しょうゆ、水及びγ-ラクトン類溶液を混ぜ合わせて、各試験調味液を調製し、アルミパウチに充填及び密封した後、加熱殺菌に供した。
【0148】
[9-2.官能評価方法]
例5~8と同様にして、加熱殺菌に供した試験調味液について、加熱劣化臭、醤油香、えぐ味といったしょうゆの風味及び香りの評価に秀でたパネル(A~Cの3名)に対して、官能評価を実施した。この際、評価基準として、コントロール試験調味液9-1の評点を「5」とし、コントロール試験調味液9-2の評点を「1」とし、さらにγ-ノナラクトンを約8ppb含むしょうゆに5ppb添加した試験調味液9-1を「3」として提示した。
【0149】
[9-3.官能評価結果]
試験調味液の官能評価結果を表9に示す。表9に示すように、総炭素数が7(C7)であるγ-ヘプタノラクトンからC11のγ-ウンデカノラクトンまでのγ-ラクトン類をしょうゆにγ-ラクトン類の総含有量が28.1ppb以上になるように添加して加熱殺菌に供したところ、いずれのγ-ラクトン類でも加熱殺菌による加熱劣化臭及びえぐ味の発生及び醤油香の劣化を抑制する効果が認められた。
【0150】
【0151】
例10 食品素材及びしょうゆを含む調味液に対する、γ-ノナラクトンが有する加熱劣化臭抑制作用の評価
[10-1.試験調味液の調製]
例2~9と同様にして、γ-ノナラクトン原液及びγ-ノナラクトン溶液を調製した。
【0152】
例2~9と同様にして、下記表10に示すように、にんじん(15mm×15mm×15mm)、まぐろ赤身(20mm×20mm×3mm)、とり肉(20mm×20mm×20mm)及び大豆たんぱく(「ニューソイミーF 2010」(日清オイリオグループ社製))といった具材、しょうゆ及びみそといった発酵調味料、砂糖、昆布エキス及びγ-ノナラクトン溶液を混ぜ合わせて、全量が100gになるように水で調整することにより各試験調味液を調製し、アルミパウチに充填及び密封した後、加熱殺菌に供した。
【0153】
[10-2.官能評価方法]
例5~9と同様にして、加熱殺菌に供した試験調味液について、加熱劣化臭といった各具材の調理品の風味及び香りの評価に秀でたパネル(A~Cの3名)に対して、官能評価を実施した。この際、評価基準として、具材ごとに、85℃、5分間で加熱殺菌した具材あるいは発酵調味料を含むコントロール試験調味液の評点を「5」とし、γ-ノナラクトンを含まず、かつ120℃、10分間で加熱殺菌した具材あるいは発酵調味料を含むコントロール試験調味液の評点を「1」として提示した。なお、各具材の加熱劣化臭の評点の指標は以下のとおりである。
【0154】
<にんじん>
加熱殺菌により生じる、土臭い臭い、芋様の臭い、蒸れた臭い、こもったような不快な風味といった不快な風味を総合してにんじんの加熱劣化臭とした。
1:非常に強く感じる(コントロール試験調味液10-1-2)
2:感じる
3:やや感じる
4:ほぼ感じない
5:感じない(コントロール試験調味液10-1-1)
【0155】
<まぐろ赤身>
加熱殺菌により生じる、魚の生臭い臭い、蒸れた臭い、油の酸化した臭い、えぐ味といった不快な風味を総合してまぐろ赤身の加熱劣化臭とした。
1:非常に強く感じる(コントロール試験調味液10-2-2)
2:感じる
3:やや感じる
4:ほぼ感じない
5:感じない(コントロール試験調味液10-2-1)
【0156】
<とり肉>
加熱殺菌により生じる、畜肉臭、生臭い臭い、蒸れた臭い、えぐ味といった不快な風味を総合してとり肉の加熱劣化臭とした。
1:非常に強く感じる(コントロール試験調味液10-3-2)
2:感じる
3:やや感じる
4:ほぼ感じない
5:感じない(コントロール試験調味液10-3-1)
【0157】
<大豆たんぱく>
加熱殺菌により生じる、蒸れた臭い、大豆の青臭さ、きなこ様の異味といった不快な風味を総合して大豆たんぱくの加熱劣化臭とした。
1:非常に強く感じる(コントロール試験調味液10-4-2)
2:感じる
3:やや感じる
4:ほぼ感じない
5:感じない(コントロール試験調味液10-4-1)
【0158】
<みそ>
加熱殺菌により生じる、カラメル様の焦げ甘い臭い、大豆の蒸れた臭い、酸味、えぐ味といった不快な風味を総合してみその加熱劣化臭とした。
1:非常に強く感じる(コントロール試験調味液10-5-2)
2:感じる
3:やや感じる
4:ほぼ感じない
5:感じない(コントロール試験調味液10-5-1)
【0159】
<しょうゆ及びみそ>
加熱殺菌により生じる、しょうゆの加熱劣化臭及びみその加熱劣化臭を総合的に評価した。
1:非常に強く感じる(コントロール試験調味液10-6-2)
2:感じる
3:やや感じる
4:ほぼ感じない
5:感じない(コントロール試験調味液10-6-1)
【0160】
[10-3.官能評価結果]
試験調味液の官能評価結果を表10に示す。表10に示すように、含有量が100ppb以上である場合のγ-ノナラクトンが有する加熱劣化臭抑制作用は、食品素材を含有させたしょうゆを含む調味液において、しょうゆによる加熱劣化臭だけではなく、調味液に含まれる野菜や魚などの具材による加熱劣化臭に対しても有効であることがわかった。また、100ppb以上のγ-ノナラクトンが有する加熱劣化臭抑制作用は、しょうゆだけではなく、みそといった他の発酵調味料に対しても有効であることがわかった。
【0161】
すなわち、γ-ノナラクトンを100ppb以上になるように添加することにより、にんじんを含む調味液は加熱殺菌後であっても加熱劣化臭が感じられず、むしろ新鮮なにんじんの甘い風味が感じられ;まぐろ赤身を含む調味液は加熱殺菌後であっても加熱劣化臭が感じられず、むしろ魚の旨味が増長され;とり肉を含む調味液は加熱殺菌後であっても加熱劣化臭が感じられず、むしろとり肉の旨味が増長され;大豆たんぱくを含む調味液は加熱殺菌後であっても加熱劣化臭が感じられず;みそを含む調味液は加熱殺菌後であっても加熱劣化臭が感じられず、新鮮なみその風味が感じられた。
【表10】
【0162】
例11 食品素材を含む調味液に対する、γ-ノナラクトンが有する加熱劣化臭抑制作用の評価
[11-1.試験調味液の調製]
例2~10と同様にして、γ-ノナラクトン原液及びγ-ノナラクトン溶液を調製した。
【0163】
例2~10と同様にして、下記表11に示すように、にんじん、まぐろ赤身、とり肉及び大豆たんぱくといった具材並びにγ-ノナラクトン溶液を混ぜ合わせて、全量が100gになるように水で調整することにより各試験調味液を調製し、アルミパウチに充填及び密封した後、加熱殺菌に供した。
【0164】
[11-2.官能評価方法]
例5~10と同様にして、加熱殺菌に供した試験調味液について、加熱劣化臭といった各具材の調理品の風味及び香りの評価に秀でたパネル(A~Cの3名)に対して、官能評価を実施した。この際、評価基準として、具材ごとに、85℃、5分間で加熱殺菌した各具材を含むコントロール試験調味液の評点を「5」とし、γ-ノナラクトンを含まず、かつ120℃、10分間で加熱殺菌した各具材を含むコントロール試験調味液の評点を「1」として提示した。
【0165】
[11-3.官能評価結果]
試験調味液の官能評価結果を表11に示す。表11に示すように、含有量が100ppbである場合のγ-ノナラクトンが有する加熱劣化臭抑制作用は、牛ひき肉のみならず、野菜、魚、大豆たんぱくなどの具材による加熱劣化臭に対しても有効であることがわかった。
【表11】
【0166】
例12 加熱殺菌後の調味液におけるγ-ノナラクトン含有量の評価
[12-1.試験調味液の調製]
例2と同様にして、γ-ノナラクトン原液及びγ-ノナラクトン溶液を調製した。
【0167】
例2~11と同様にして、下記表12に示すように、しょうゆ、水及びγ-ノナラクトン溶液を混ぜ合わせて各試験調味液を調製し、アルミパウチに充填及び密封した後、加熱殺菌に供した。
【0168】
[12-2.γ-ノナラクトンの測定方法]
各試験調味液に含まれるγ-ノナラクトンの測定方法は、上記1-1に記載と同じ方法により、GC-MSにより測定した。
【0169】
[12-3.測定結果]
測定結果より、コントロール試験調味液12-1の測定サンプルのピーク面積値を基準として各測定サンプルのピーク面積値を相対的に示した結果を表12に示す。表12に示すように、γ-ノナラクトンは高温での加熱殺菌後も一定量残存することがわかった。
【0170】
【0171】
例13 発酵により生成したγ-ノナラクトンが有する加熱劣化臭抑制作用の評価
[13-1.γ-ノナラクトン及びの測定方法]
液体発酵調味料に含まれるγ-ノナノラクトン及び内部標準物質として用いた1-ペンタノール溶液の含有量は、下記の酢酸エチルを用いた抽出処理に供して得た抽出液について、GC-MSにより測定した。
【0172】
<γ-ノナラクトンの抽出処理>
食塩 2.0g及び1-ペンタノール溶液(30ppm) 100μLを添加した試験発酵調味液 5.0gに対し、酢酸エチル 1.0mLを添加し、5分間激しく撹拌した後、有機溶媒層を抽出した。この操作を3回繰り返し、得られた有機溶媒層を無水硫酸ナトリウムで脱水して、測定サンプルを得た。
【0173】
得られた測定サンプルは、下記の条件でGC-MS「6890GC/5973MSD」(Agilent Technologies社製)に導入して分析した。分析はn=2で実施した。
【0174】
<γ-ノナラクトンの測定:GC-MS条件>
測定モード:SIM
カラム:DB-FFAP(長さ60m、口径0.25mm、膜厚0.25μm)(J&W)
注入口温度:250℃
温度条件:40℃(3min)保持 → 250℃まで6℃/min昇温 → 15min保持
キャリア:高純度ヘリウム、線速度モード
線流速:30cm/秒
圧力:121.088kpa
イオン化方式:EI
【0175】
上記のとおりにGC-MSにて、試験発酵調味液中のγ-ノナノラクトンのピーク面積並びに内部標準物質のピーク面積を測定した。ピーク面積は、γ-ノナラクトン及び内部標準物質である1-ペンタノールについて、以下のm/zを用いて求めた。
γ-ノナラクトン:m/z 85
1-ペンタノール:m/z 42
ピーク面積値を内部標準物質による標準化を行い、各試験発酵調味液中のγ-ノナラクトンの含有量(濃度)を算出した。
【0176】
[13-2.γ-ラクトン含有液体発酵調味料の製造]
蒸煮した大豆と割砕した焙煎小麦とを5:5の割合で混合した混合物に、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)の種麹を接種し、常法により43時間製麹して醤油麹を得た。
【0177】
得られた醤油麹100質量部を、94質量部の食塩水(食塩濃度24%(w/v))に仕込み、さらに醤油乳酸菌(Tetragenococcus halophilus)を加えたものを、15℃~25℃で、適宜撹拌しながら20日間常法に従って乳酸発酵を行った。乳酸発酵終了後の醤油諸味を固液分離し、液汁をUF膜で処理して、透過液(乳酸発酵液汁)を得た。1L容のDURANねじ口瓶において、得られた乳酸発酵液汁に耐塩性酵母(Zygosaccharomyces rouxii)を添加し、栓をして、撹拌を行わずに20℃~30℃で約60日間、酵母発酵を行った。得られた酵母発酵物を、常法に従って火入、ろ過及び除菌処理に供して、液体発酵調味料Aを得た。
【0178】
[13-3.試験調味液の調製]
例1~11と同様にして、下記表13に示すように、液体発酵調味料A、しょうゆ、砂糖及び昆布エキスを混ぜ合わせて、全量が100gになるように水で調整することにより各試験調味液を調製し、アルミパウチに充填及び密封した後、加熱殺菌に供した。
【0179】
[13-4.官能評価方法]
例5~11と同様にして、加熱殺菌に供した試験調味液について、加熱劣化臭といったしょうゆの風味及び香りの評価に秀でたパネル(A~Cの3名)に対して、官能評価を実施した。この際、評価基準として、コントロール試験調味液13-1-1の評点を「5」とし、試験調味液13-4-2の評点を「1」として提示した。
【0180】
[13-5.官能評価結果]
試験調味液の官能評価結果を表13に示す。表13に示すように、γ-ノナラクトンを含む液体発酵調味料それ自体の試験調味液及びγ-ノナラクトンを含む液体発酵調味料を添加した試験調味液においても、加熱殺菌による加熱劣化臭が抑制されることがわかった。すなわち、γ-ノナラクトンは、その供給源の形態に依らずに、加熱劣化臭抑制作用を有することがわかった。
【0181】
【産業上の利用可能性】
【0182】
本発明の一態様の組成物は、加熱殺菌によって感じられるようになる食材による加熱劣化臭を付与することなく、所望の優れた風味を有する嗜好性の高い加工食品であり、又は該加工食品を調理する際に利用できるものであることから、食品の食材に由来する人体に好適な栄養素から、広く人々の健康に貢献できるものである。また、本発明の一態様の方法は、本発明の一態様の組成物を工業的規模で生産するために利用することができる。本発明の一態様の方法及び組成物によって得られる加工食品は、飲食店での提供が可能なものであることから、様々なシーンで利用される食品として有用なものである。