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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】多結晶シリコンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/035 20060101AFI20241217BHJP
   F16K 5/06 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C01B33/035
F16K5/06 H
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021558243
(86)(22)【出願日】2020-10-27
(86)【国際出願番号】 JP2020040170
(87)【国際公開番号】W WO2021100415
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2019210568
(32)【優先日】2019-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】箱守 明
(72)【発明者】
【氏名】梶田 岳司
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102120577(CN,A)
【文献】中国実用新案第203360011(CN,U)
【文献】国際公開第2011/158404(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104999732(CN,A)
【文献】特開2009-123795(JP,A)
【文献】特開2010-216577(JP,A)
【文献】国際公開第2019/098344(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
F16K
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶シリコンを析出する反応炉と、
前記反応炉からの、塩化水素およびシラン類の少なくともいずれか一方が含まれる排出ガスの排出経路の開閉を制御する排出バルブと、を備えており、
前記排出バルブは、弁体と、前記弁体と気密的に接触可能な受けシートと、を有しており、
前記弁体および前記受けシートの少なくともいずれか一方は、前記排出ガスとの接触面が耐食材料により形成されており、
前記耐食材料は、コバルトを25質量%以上含む合金であることを特徴とする多結晶シリコンの製造装置を用い、
前記反応炉に、水素およびシラン類を含む反応ガスを供給して、前記多結晶シリコンを析出する析出工程と、
前記反応炉から前記排出ガスを排出する排出工程と、を含み、
前記析出工程では、前記排出バルブを閉じた状態で、前記反応炉に、不活性ガスおよび/または前記反応ガスを構成する少なくとも一種である待機ガスを封入して待機し、その後前記多結晶シリコンの析出を開始するに際して、前記排出バルブを開放し、前記待機ガスが封入された状態の前記反応炉への前記反応ガスの供給を開始することを特徴とする、多結晶シリコンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコンの製造装置および多結晶シリコンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バルブは、化学プラント等の設備中を流れるガス等の流体の動きを制御するための主要な部材である。当該ガスが高温高圧である場合、バルブには耐熱性および強度が求められる。例えば非特許文献1には、耐熱性および耐摩耗性に優れた金属により肉盛された弁体を有するバルブが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】バルブの耐熱硬化肉盛溶接(溶接学会誌1971年40巻10号 p.988-994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多結晶シリコンの製造では、多結晶シリコンの反応炉から塩化水素およびシラン類等の腐食性成分を含むガスが発生する。反応炉から排出されるこのようなガスは、反応炉からのガスの排出を制御するバルブを腐食させる原因となる。
【0005】
本発明者らは、当該バルブの腐食が、反応炉中に析出された多結晶シリコンの汚染原因となり得ることを見出した。したがって、バルブは耐食性に優れたものであることが好ましい。非特許文献1には、バルブの耐熱性および耐摩耗性等については示されているが、化学物質に対するバルブの耐食性については開示されていない。特に、塩化水素およびシラン類等による腐食の防止に有効なバルブについては不明である。
【0006】
本発明の一態様は、塩化水素およびシラン類による腐食が生じにくい排出バルブを用いることで、反応炉中の多結晶シリコンの汚染を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る多結晶シリコンの製造装置は、多結晶シリコンを析出する反応炉と、前記反応炉からの、塩化水素およびシラン類の少なくともいずれか一方が含まれる排出ガスの排出経路の開閉を制御する排出バルブと、を備えており、前記排出バルブは、弁体と、前記弁体と気密的に接触可能な受けシートと、を有しており、前記弁体および前記受けシートの少なくともいずれか一方が、前記排出ガスとの接触面が耐食材料により形成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、塩化水素およびシラン類による腐食が生じにくい排出バルブを用いることで、反応炉中の多結晶シリコンの汚染を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係る多結晶シリコンの製造装置の一部を示す模式図である。
図2図1に示す製造装置が備える排出バルブを模式的に示す断面図である。
図3】実施例および比較例に係るそれぞれの製造装置が備える排出バルブの、長期運用後における、各弁体を煮沸後、水分を拭き取り処理した後の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔多結晶シリコンの製造装置〕
(製造装置の構成)
本発明の一実施形態について、図1から図3を参照して以下に説明する。図1に示すように、多結晶シリコンの製造装置1は、反応炉10と、供給経路11と、排出経路12と、供給バルブ20と、排出バルブ30と、を備えている。
【0011】
反応炉10は、内部で多結晶シリコンを析出する部材である。反応炉10はベルジャー型の反応炉であるが、反応炉10の形状はこれに限られない。反応炉10は、内部に多結晶シリコンを析出するための反応容器であればよい。反応炉10には、供給経路11および排出経路12が接続されている。
【0012】
供給経路11は、水素およびシラン類を含む反応ガスを反応炉10に供給する配管である。前記シラン類としては、具体的には、モノシラン、トリクロロシラン、テトラクロロシラン、モノクロロシラン、ジクロロシラン等のシラン化合物が使用され、一般的には、トリクロロシランガスが好適に使用される。排出経路12は、反応炉10から排出される排出ガスが流れる配管である。図1に示す矢印は、反応ガスおよび排出ガスの流れる方向を示している。
【0013】
排出ガスには、反応ガスに含まれているガス成分に加え、反応炉10での反応時に生成されたガス成分が含まれている。具体的には、排出ガスには塩化水素またはトリクロロシランおよびテトラクロロシラン等のシラン類の、少なくともいずれか一方が含まれている。排出ガスにはさらに、水素および他の反応副生成物等が含まれていてもよい。
【0014】
供給バルブ20は、供給経路11の経路上に配置されている。供給バルブ20は、開閉によって供給経路11から反応炉10への反応ガスの供給を制御する。供給バルブ20が閉状態となっている場合、供給バルブ20は供給経路11を気密的に遮断する。
【0015】
排出バルブ30は、排出経路12の経路上に配置されている。排出バルブ30は、開閉によって反応炉10から排出経路12への排出ガスの排出を制御する。排出バルブ30が閉状態となっている場合、排出バルブ30は排出経路12を気密的に遮断する。供給バルブ20および排出バルブ30の両方が閉状態となっている場合、反応炉10は気密状態となり、反応炉10に反応ガスまたは排出ガスが封入された状態となる。
【0016】
(多結晶シリコンの製造方法)
製造装置1を用いた多結晶シリコンの製造方法としては、例えばシーメンス法または溶融析出法(VLD法、Vapor to Liquid Deposition法)等が挙げられる。ここでは、シーメンス法を例に挙げて多結晶シリコンの製造方法を説明する。
【0017】
シーメンス法では、反応炉10の内部にシリコン芯線13を立設する。この状態の反応炉10に、排出バルブ30を閉じると共に供給バルブ20を開放して、供給経路11から、不活性ガスおよび/または前記反応ガスを構成する少なくとも一種のガスを待機ガスとして供給する。待機ガスは、不活性ガスであれば窒素ガスが好ましく、前記の反応ガスを構成するガスであれば水素が好ましい。このようにして所定量の待機ガスを反応炉10に供給後、供給バルブ20を閉じ、反応炉10に反応ガスを封入することで、多結晶シリコンの析出を開始するまでの待機状態にする。
【0018】
そして、多結晶シリコンの析出を開始する際には、再び排出バルブ30を開放する(排出工程)とともに供給バルブ20を開放して、供給経路11から反応炉10に反応ガスを供給し、さらに、シリコン芯線13をシリコン析出温度以上の温度に加熱する。このような温度は、例えば600℃以上1250℃以下であり、より好ましくは900℃以上1200℃以下である。これにより、反応炉10でシリコン芯線13の周りにシリコンが析出し、多結晶シリコンが得られる(析出工程)。
【0019】
なお、シリコン芯線13をシリコン析出温度以上の温度に加熱する操作は、反応炉10内に待機ガスが封入されている待機状態で実施してもよい。すなわち、当該待機状態で、シリコン芯線13をシリコン析出温度以上の温度に加熱し、その後に、排出バルブ30を開放するとともに供給バルブ20も開放して、反応炉10内に反応ガスを供給し、シリコン芯線13へのシリコンの析出を進行させてもよい。
【0020】
ここで、上述の析出工程では、前記の待機状態において、反応炉10は気密状態となり、反応炉10に待機ガスが封入された状態となる。しかしながら、排出バルブ30を長期に渡って運用すると、排出バルブ30に腐食が生じる。当該腐食により、排出バルブ30を閉じていても排出経路12を完全に遮断できず、排出バルブ30にガス漏れが生じる場合がある。
【0021】
排出バルブ30が閉じられて反応炉10内が気密状態にあると、排出経路12から反応炉10への待機ガスの逆流が生じる。加えて、当該待機ガスの反応炉10への逆流は、排出バルブ30に腐食が生じ、ガス漏れが発生してその気密性が低下すると、より程度が激しくなる。ここで、当該逆流した待機ガスには、排出バルブ30の腐食に由来する金属汚染物質が含まれ得る。そのため、排出バルブ30が腐食した状態で多結晶シリコンを製造すると、得られる多結晶シリコンは析出の初期において、当該逆流した待機ガスに含まれる金属汚染物質により汚染されることが、発明者らの鋭意研究の結果、新たな知見として見出された。
【0022】
特に、反応炉10内に待機ガスを封入する操作は、反応炉10内のガスの昇降圧を伴うガス置換作業を複数回繰り返して実施することにより行われることが多い。この場合、排出経路12から反応炉10への待機ガスの逆流が生じると、当該逆流した待機ガスに含まれる金属汚染物質の量はより増大する。従って、得られる多結晶シリコンの金属汚染物質による汚染は一層顕著になる。
【0023】
このような、排出バルブ30の腐食に起因する多結晶シリコンの汚染を防止するため、本実施形態に係る製造装置1が備える排出バルブ30は、以下に示す構成を備えている。
【0024】
〔排出バルブの構成〕
(基本的構造)
排出バルブ30の構造について、図2を参照して詳細に説明する。図2には、排出バルブ30の開状態201および閉状態202を示している。図2に示すように、排出バルブ30は排出経路12の経路上に配置されている。排出バルブ30は、弁体31と、バルブシート(受けシート)32と、ステム33と、本体部34と、を備えている。排出バルブ30の各部の構造および機能について、排出バルブ30を閉じるときの動作とともに以下に説明する。
【0025】
弁体31には、開口部31aが形成されている。排出バルブ30が開状態201の場合、開口部31aと排出経路12とは空間的に接続される。したがって、排出経路12の内部を流れる排出ガスは、開口部31aに囲まれた空間を通過する。
【0026】
弁体31にはステム33が取り付けられている。ステム33は、弁体31の方向を回転させる部材である。ステム33が回転すると弁体31も回転し、弁体31の方向が変化する。これに伴い排出経路12に対する開口部31aの位置が変化する。これにより、開口部31aと排出経路12との空間的な接続状態が変化し、排出バルブ30の開閉が入れ替わる。弁体31は、排出バルブ30が閉状態202の場合には、開口部31aと排出経路12との間の空間的な接続が遮断される方向を向いている。
【0027】
弁体31と本体部34との間には、バルブシート32が配置されている。バルブシート32は弁体31と気密的に接触している。そのため、排出バルブ30内で排出ガスが通過できるのは、開口部31aに囲まれた空間のみである。したがって、開口部31aと排出経路12とが空間的に接続されていなければ、排出ガスは排出バルブ30を通過できない。
【0028】
本実施形態では、バルブシート32は一方の排出経路12側(図2では紙面に向かって右側)にのみ配置されている。しかしバルブシート32の配置は、弁体31と本体部34とが気密的に接触する配置であればよい。このような配置として、例えばバルブシート32が配置されるのは排出バルブ30における他方の排出経路12側(図2では紙面に向かって左側)であってもよく、排出バルブ30の両側であってもよい。
【0029】
なお、排出バルブ30はこのような構成に限られない。排出バルブ30は例えば、弁体31が回転しているときは、弁体31とバルブシート32とが接触しない無摺動バルブであってもよい。言い換えれば、弁体31とバルブシート32とは気密的に接触可能に配置されていればよい。このような構成であれば、弁体31の回転に起因して生じる摩擦による、弁体31およびバルブシート32の摩耗が大きく低減できる。そのため、排出バルブ30の耐用期間を延長できる。
【0030】
(弁体およびバルブシートの組成)
排出バルブ30は、上述の通り排出経路12の経路上に配置されている。排出経路12には、塩化水素およびシラン類等が含まれている排出ガスが流れる。したがって、排出バルブ30は、金属が腐食する大きな原因となる塩化水素、および金属のシリサイド化の原因となるシラン類等の腐食性成分に曝されるため、腐食しやすい。
【0031】
特に、反応炉10からの排出ガスには、塩化水素が0mol%以上5mol%以下含まれており、多くの場合には塩化水素が0.5mol%以上3mol%以下である。また、反応炉10からの排出ガス中には、シラン類が0mol%以上20mol%以下含まれており、多くの場合にはシラン類が5mol%以上15mol%以下である。このような濃度の塩化水素および/またはシラン類が含まれている排出ガスは、金属を腐食させやすい。
【0032】
さらに、反応炉10からの排出ガスは、シリコン芯線13の加熱に伴い、例えば略500℃の高温となっている。温度が高いほど、塩化水素およびシラン類による金属の腐食は進行しやすい。したがって、排出バルブ30は特に腐食が起こりやすい環境で使用されているといえる。当該腐食を低減するため、弁体31は、排出ガスとの接触面が耐食材料により形成されている。
【0033】
具体的には、弁体31は、表面全体が耐食材料であるステライト(登録商標)により被覆されており、その内部である本体部分はステンレス鋼により形成されている。当該本体部分は、ステンレス鋼に限られず、耐食材料により形成されていてもよく、耐食性を有さない金属等の材料により形成されていてもよい。
【0034】
弁体31の被覆部分を形成する耐食材料は、上述のステライトのように、合金としてのコバルト含有量が25質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、45質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。このような耐食材料であれば、塩化水素およびシラン類等に対する耐食性が特に優れており、排出バルブ30の腐食を効果的に防止できる。
【0035】
表1に、コバルトを25質量%以上含む合金の例として、種々のステライト(No.1、6、12、21)の組成を示している。ただし、コバルトを25質量%以上含む合金は、表1に示す金属に限られない。
【0036】
【表1】
【0037】
また、弁体31の被覆部分を形成する耐食材料は、コバルトを25質量%以上含む合金に限られない。表2に、コバルトを25質量%以上含む合金以外の耐食材料の例として、Ni-Cr-B-Si合金(金属A1)、クロム鋼(金属A2)および析出硬化型ステンレス鋼(金属A3)の組成を示している。ただし、弁体31の被覆部分を形成する耐食材料はこれに限られない。
【0038】
【表2】
【0039】
弁体31の排出ガスとの接触面に形成されているこのような耐食材料は、厚さが1.5mm以上であることが好ましい。また、耐食材料の厚さは特に制限なく、例えば弁体31の全体が耐食材料により形成されていてもよい。ただし、弁体31の製造の容易さおよび製造コスト等の観点から、耐食材料の厚さは10mm以下であることが好ましい。このような厚さであれば、耐食材料により弁体31の腐食を効果的に低減できる。
【0040】
バルブシート32は、グラタイト(登録商標)等の特殊グラファイト材、カーボン、その他の樹脂製品または金属等により形成されていてよい。弁体31とバルブシート32との間の気密性を容易に確保する観点から、バルブシート32の材料は前記の特殊グラファイト材などの、加工が容易な程度に柔らかい材料であることが好ましい。このような材料であれば、バルブシート32の弁体31との接触部分について、弁体31の形状に合わせた形状に容易に加工できる。したがって、弁体31とバルブシート32との間の気密性を容易に精度よく確保できる。
【0041】
なお、弁体31ではなく、バルブシート32の排出ガスとの接触面が、耐食材料により形成されていてもよい。この場合、バルブシート32の排出ガスとの接触面に形成される耐食材料の組成および厚さ等は、弁体31の排出ガスとの接触面に形成される耐食材料と同様であってよい。また、弁体31およびバルブシート32の排出ガスとの接触面が、いずれも耐食材料により形成されていてもよい。言い換えれば、弁体31およびバルブシート32の少なくともいずれか一方が、排出ガスとの接触面が耐食材料により形成されていればよい。弁体31の排出ガスとの接触面と、バルブシート32の排出ガスとの接触面とは、同一の耐食材料により形成されていてもよく、それぞれ異なる耐食材料により形成されていてもよい。
【0042】
バルブシート32の、排出ガスとの接触面以外の部分(本体部分)は、例えばグラタイト等の特殊グラファイト材、カーボン、その他の樹脂製品または金属等であってよい。バルブシート32の排出ガスとの接触面が耐食材料により形成されている場合、当該耐食材料の組成および厚さ等は、上述の弁体31に用いられる耐食材料と同様であってよい。
【0043】
なお、供給バルブ20については、排出バルブ30と同様の構成であってもよく、または従来一般的なバルブを用いてもよい。供給ガスには、排出ガスと比べて塩化水素がほとんど含まれておらず、また温度も多くの場合200℃以下である。そのため供給バルブ20は、排出バルブ30に比べて腐食しにくい。
【0044】
(耐食材料による効果)
このように、弁体31および/またはバルブシート32の排出ガスとの接触面が耐食材料により形成されている構成によれば、弁体31および/またはバルブシート32が排出ガスに曝されても腐食が極めて発生しにくい。したがって、弁体31および/またはバルブシート32の腐食に起因した、排出バルブ30からのガス漏れが発生しにくい。また、このように弁体31および/またはバルブシート32が腐食しにくいと、多結晶シリコンの製造を継続しても、待機状態の反応炉10において、排出経路12から反応炉10に逆流する待機ガスへの金属汚染物質の混入を抑制できる。また、腐食により排出バルブ30の気密性が損なわれることがないため、そもそもこの排出経路12から反応炉10へ逆流する排出ガスの量が低く抑えられる。その結果、反応炉10に析出した多結晶シリコンが、排出バルブ30の腐食に由来する金属汚染物質により汚染される虞を大きく低減できる。
【0045】
なお、反応炉10での多結晶シリコンの析出前に、供給経路11から水素ガスを供給し続けることで、排出経路12から反応炉10への排出ガスの逆流は防止できる。しかしながら、この場合には多量の水素ガスが必要となり、多結晶シリコンの製造コストが上昇する。一方、排出バルブ30が腐食しにくい構成によれば、製造コストを上昇させる多量の水素ガスを用いずとも、排出経路12から反応炉10への排出ガスの逆流および排出バルブ30の腐食に由来する金属汚染物質による多結晶シリコンの汚染を低減できる。
【0046】
製造装置1では、多結晶シリコン析出に伴い、金属の腐食原因となる塩化水素およびシラン類が多く発生するため、特に排出バルブ30が腐食しやすい環境に曝される。一方、半導体および太陽電池等の原料となる多結晶シリコンには、極めて高い純度が求められる。これは特に、多結晶シリコンが半導体の原料となる場合に顕著である。
【0047】
排出バルブ30の腐食により、排出ガスのガス漏れが生じるだけでなく、反応炉10の待機状態において、排出経路12からの待機ガスの逆流による金属汚染物質の発生が起こり、これにより多結晶シリコンの汚染原因となり得る。この事実は、長期間多結晶シリコンの製造を行ってきた発明者による新規な知見である。従来一般的には、排出経路12から反応炉10への排出ガスの逆流が起こることは知られておらず、排出バルブ30の腐食が多結晶シリコンの汚染原因となることは全く想定されていなかった。したがって、製造装置1が備える排出バルブ30を、腐食が発生しにくい本実施形態の構成とすることは、多結晶シリコンの製造に特有の高度な汚染防止という課題を、前記の新規な知見に基づいて効果的に解決するものである。
【0048】
また、排出バルブ30が腐食しにくい構成によれば、排出バルブ30のメンテナンス頻度を大きく低減できる。排出バルブ30のメンテナンス中には、製造装置1を稼働できない。排出バルブ30の、弁体31および/またはバルブシート32の洗浄、修復および交換等のメンテナンスには時間を要する。そのため、排出バルブ30のメンテナンスを高頻度で行う場合には、多結晶シリコンの製造機会損失が大きな問題となる。排出バルブ30のメンテナンス頻度を低減できることで、排出バルブ30の保守管理コストを低減できるだけでなく、多結晶シリコンの製造機会損失も低減できる。
【0049】
また、弁体31およびバルブシート32は弁体31の回転に起因して生じる摩擦により、弁体31およびバルブシート32の摩耗が生じやすい。弁体31またはバルブシート32の耐食材料により形成されている面は、摩耗が生じた部分に耐食材料によるめっき等を施すことにより、容易に修復できる。そのため、排出バルブ30は、低コストおよび短時間で、容易にメンテナンスを完了できる。
【0050】
〔まとめ〕
本発明の一態様に係る多結晶シリコンの製造装置は、多結晶シリコンを析出する反応炉と、前記反応炉からの、塩化水素およびシラン類の少なくともいずれか一方が含まれる排出ガスの排出経路の開閉を制御する排出バルブと、を備えており、前記排出バルブは、弁体と、前記弁体と気密的に接触可能な受けシートと、を有しており、前記弁体および前記受けシートの少なくともいずれか一方が、前記排出ガスとの接触面が耐食材料により形成されている。
【0051】
多結晶シリコンの製造では、反応炉での多結晶シリコンの析出後、反応炉から塩化水素およびシラン類等を含むガスが排出される。塩化水素およびシラン類は金属材料を腐食させる大きな原因となるため、当該ガスの排出経路に設けられる排出バルブは腐食しやすい。多結晶シリコンの析出前に気密状態となる反応炉では、排出バルブの弁体または受けシートに腐食が生じているとガス漏れが生じ、排出バルブからガスが反応炉に逆流してしまう虞がある。逆流したガスには、排出バルブの腐食に由来する金属汚染物質が含まれ得る。そのため、多結晶シリコンが当該金属汚染物質により汚染されてしまう可能性があることが、発明者らの鋭意研究の結果、新たな知見として見出された。
【0052】
しかし前記の構成によれば、排出バルブが有する弁体および受けシートの少なくともいずれか一方は、塩化水素との接触面が耐食材料により形成されている。そのため、排出バルブの腐食が効果的に防止される。したがって、排出バルブの腐食に由来する金属汚染物質が生じにくい。また、排出バルブから反応炉へのガスの逆流が起こりにくいため、反応炉に析出した多結晶シリコンが、排出バルブの腐食に由来する金属汚染物質により汚染される虞を大きく低減できる。
【0053】
本発明の一態様に係る多結晶シリコンの製造装置は、前記耐食材料は、コバルトを25質量%以上含む合金であってもよい。前記の構成によれば、耐食材料の耐食性が特に優れている。そのため、排出バルブの腐食をより効果的に防止できる。
【0054】
本発明の一態様に係る多結晶シリコンの製造方法は、上述のいずれかの多結晶シリコンの製造装置を用い、前記反応炉に、水素およびシラン類を含む反応ガスを供給して、前記多結晶シリコンを析出する析出工程と、前記反応炉から前記排出ガスを排出する排出工程と、を含んでいる。
【0055】
本発明の一態様に係る多結晶シリコンの製造方法は、前記析出工程では、前記排出バルブを閉じた状態で、前記反応炉に、不活性ガスおよび/または前記反応ガスを構成する少なくとも一種のガスを封入し、その後多結晶シリコンの析出を開始するに際して、前記排出バルブを開放し、前記反応炉への前記反応ガスの供給を開始してもよい。
【0056】
前記の構成によれば、多結晶シリコンの析出工程では、反応炉に反応ガスを供給して、多結晶シリコンの析出を開始するまでの前工程において、排出バルブが閉じている。このとき反応炉には、不活性ガスおよび/または反応ガスを構成する少なくとも一種のガスが気密状態で封入されている。ここで、排出バルブの弁体または受けシートに腐食が生じていると、気密状態が保ちにくい。また、排出バルブから反応炉に排出ガスが逆流してしまう虞がある。逆流した排出ガスには、排出バルブの腐食に由来する金属汚染物質が含まれ得るため、後に多結晶シリコンの析出を行うと、特に当該析出の初期において、得られる多結晶シリコンへの当該金属汚染物質による汚染が生じる。
【0057】
しかしながら、前記の製造方法によれば、排出バルブが有する弁体および受けシートの少なくとも一方は、ガスとの接触面が耐食材料により形成されているため、排出バルブの腐食が起こりにくい。したがって、排出バルブから反応炉へのガスの逆流が起こりにくいため、反応炉に析出した多結晶シリコンが、排出バルブの腐食に由来する金属汚染物質により汚染される虞を大きく低減できる。
【0058】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0059】
(弁体の組成)
本発明の一実施例に係る製造装置および比較例に係る製造装置をそれぞれ一定期間運用し、それぞれの製造装置が備える排出バルブから弁体を回収し、腐食の程度を観察した。
【0060】
表3に、実施例および比較例に係る弁体の組成を示している。表3に示すように、実施例に係る弁体は本体部分および被覆部分からなり、当該本体部分の表面全体が被覆部分により被覆されている。当該被覆部分は耐食材料により形成されている。また、比較例に係る弁体は、表3に示す本体部分のみからなり、被覆部分を備えていない。
【0061】
【表3】
【0062】
(弁体の腐食評価)
多結晶シリコンの製造装置1は図1に示した構造のものを使用した。多結晶シリコンの析出工程において、排出バルブ30を閉じた状態で、反応炉10に、待機ガスを一旦封入し、50時間保持した。その後に排出バルブ30を開放し、反応炉10に反応ガスを供給して多結晶シリコンの析出を開始することにより、多結晶シリコンを製造した。かかる多結晶シリコンの製造は、実施例では3年間運用(バッチ数:105回)し、比較例では9ヶ月運用(バッチ数:33回)した。
【0063】
待機ガスは水素ガスであり、当該水素ガスの反応炉10内への封入は、反応炉10内のガスの昇降圧を伴うガス置換作業を複数回繰り返すことで実施した。多結晶シリコンの析出温度は900℃以上1100℃以下の間を推移した。
【0064】
前記の各多結晶シリコンの製造後、実施例に係る弁体および比較例に係る弁体をそれぞれ回収して煮沸し、水分を布により拭き取り処理した後に、各弁体の外観を観察した。結果は、図3に示すように、3年間運用した実施例に係る弁体は、表面の平滑性が保持されていたが、9か月間運用した比較例に係る弁体は、表面の腐食による粗雑化が激しく、部分的に剥落が認められた。
【0065】
(多結晶シリコンの汚染評価)
次に、それぞれ1年間運用した実施例に係る製造装置および比較例に係る製造装置を用いて、多結晶シリコンの析出を行った。
【0066】
表4に、各製造装置を用いて多結晶シリコンの析出を行った後、シリコン芯線と析出層との境界部分を含む箇所をサンプリングして金属汚染物質量の分析を行った。具体的には、得られた直径150mmのロッド形状である多結晶シリコンのそれぞれについて、ロッドにおける長手方向の中間の位置付近で、当該長手方向に直交する水平方向に、直径10mm、長さ150mmの円柱体をくり抜いた。当該円柱体は、当該水平方向に延伸するものである。
【0067】
この円柱体について、シリコン芯線と析出層との境界部分から、半径方向に前後2mmの位置で前記円柱体を垂直に切断し測定用サンプルを得た。各測定用サンプルの金属含有量を、フッ硝酸混合溶液に溶解させることにより得られた溶解液の各金属元素量を、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)にて分析することにより測定した。結果を表4に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
Cr、FeおよびNiによる汚染量はいずれも、比較例に係る製造装置により得られた多結晶シリコンの方が、実施例に係る製造装置により得られた多結晶シリコンよりも多かった。これは、比較例に係る製造装置では、反応炉10の待機状態において、排出経路からの待機ガスの逆流が生じ、排出バルブ30の腐食に由来する金属汚染物質が多結晶シリコンを汚染したためと考えられる。
【符号の説明】
【0070】
1 製造装置
10 反応炉
12 排出経路
30 排出バルブ
31 弁体
32 バルブシート(受けシート)
図1
図2
図3