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  • 特許-オーツミルク及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】オーツミルク及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/104 20160101AFI20241217BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20241217BHJP
   A23C 11/10 20210101ALI20241217BHJP
   A23L 11/60 20210101ALI20241217BHJP
   A23L 11/65 20210101ALI20241217BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
A23L7/104
A23L2/38 J
A23C11/10
A23L2/00 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023216776
(22)【出願日】2023-12-22
【審査請求日】2023-12-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003753
【氏名又は名称】弁理士法人シエル国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立道 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】今澤 陸
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-074308(JP,A)
【文献】特開2009-207359(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第115590073(CN,A)
【文献】特開2018-075029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーツ麦の粉砕物を含む原料液を酵素処理した酵素処理液に、副原料を添加し、滅菌処理して得られるオーツミルクであって、
前記オーツ麦由来のたんぱく質を0.7質量%以上、
前記オーツ麦由来の食物繊維を0.3質量%以上、
外添カルシウムを0.1445質量%未満(0質量%を含む)、
前記酵素処理に由来するアミラーゼ、グルコアミラーゼ、セルラーゼ及びプロテアーゼを含有し、
前記プロテアーゼの含有量が0.01~0.1質量%であり、
pHが6.0~6.8であるオーツミルク。
【請求項2】
外添カルシウムを実質的に含まない請求項1に記載のオーツミルク。
【請求項3】
オーツ麦の粉砕物を含む原料液に酵素を添加して酵素処理する工程と、
前記酵素処理後の液に副原料を添加する工程と、
副原料添加後の液を、121~150℃の温度条件下で5~300秒間加熱して滅菌する工程と、
を有し、
前記酵素処理する工程では、前記酵素としてアミラーゼ、グルコアミラーゼ、セルラーゼ及びプロテアーゼを用い、
前記酵素処理後に遠心分離処理を行わず、
オーツ麦由来のたんぱく質の含有量が0.7質量%以上、オーツ麦由来の食物繊維の含有量が0.3質量%以上、外添カルシウムの含有量が0.1445質量%未満(0質量%を含む)、前記酵素処理に由来するプロテアーゼの含有量が0.01~0.1質量%であり、pHが6.0~6.8であるオーツミルクを得るオーツミルクの製造方法。
【請求項4】
滅菌後及び/又は滅菌前に前記液を均質化する工程を行う請求項3に記載のオーツミルクの製造方法。
【請求項5】
前記液を均質化する工程において高圧式又は回転式のホモジナイザーを用いる請求項に記載のオーツミルクの製造方法。
【請求項6】
前記副原料としてカルシウムを含む成分を添加せず、外添カルシウムを実質的に含まないオーツミルクを得る請求項3に記載のオーツミルクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーツ麦から製造されるオーツミルク及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オーツミルクは、オーツ麦を原料とした植物性飲料であり、豆乳やアーモンドミルクなどの他の植物性ミルクと同様に、牛乳などの動物性ミルクの代替品として注目されている。一般に、オーツミルクは、原料であるオーツ麦の粉砕物を水に分散させた原料液を、特定の温度条件下で酵素処理した後、必要に応じて水で希釈したり、各種成分を添加したりすることで製造されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、オーツ麦は、食物繊維などの不溶性成分を多く含むため、酵素処理後の原液や成分調整後のオーツミルクにざらつきが発生しやすい。そこで、従来、オーツミルクのざらつきを低減して、食感を向上させる方法が提案されている(特許文献2~4参照)。例えば、特許文献2には、原料となる穀物粉の粒度分布を特定の範囲にすることにより、ろ過処理やホモジナイザー処理を行わずに、ざらつきが少なく、通液性に優れた穀物糖化液を製造する方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献3には、穀物全粒の粉砕物の懸濁液を、αアミラーゼでの処理と、エキソセルラーゼ及びエンドキシラナーゼを含む酵素組成物での処理を行うことで、粘度及びざらつきを改善した液体穀物ベースの製造方法が記載されている。更に、特許文献4に記載の全粒オーツ麦液状飲食品の製造方法では、全粒オーツ麦の破砕物を含む液状組成物を、αアミラーゼ、グルコアミラーゼ、セルラーゼ及びペクチナーゼで処理する酵素処理工程を行うことで食感改善を図っている。
【0005】
一方、焙煎したオーツ麦を原料に用いることで、甘味の原因となる遊離糖の増加を抑えつつ、液化物を低粘度化する方法も提案されている(特許文献5参照)。特許文献5に記載の穀類液化物の製造方法では、焙煎した麦類を含む原料液を、(1)4-α-グルカノトランスフェラーゼ及び/又はマルトトリオヒドロラーゼ、(2)セルラーゼ、並びに(3)プロテアーゼで酵素処理し、粘度が500mPa・s以下であり、かつ、当該穀類液化物の総遊離糖含量を糖度で除した値が0.30以下の穀類糖化物を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-207359号公報
【文献】特開2023-74308号公報
【文献】特開2023-91789号公報
【文献】特開2023-146935号公報
【文献】特開2021-40553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述した従来の方法でオーツミルクを製造すると、滅菌処理の際にたんぱく質が凝集してざらつきが生じたり、装置内に焦げ付きが発生したりするという問題点がある。これらの問題点のうち、たんぱく質の凝集によるざらつき発生は、例えば、原料であるオーツ麦の使用量を減らしたり、酵素処理後に遠心分離処理などを行ってたんぱく質を分離・除去したりすることで防止できるが、その場合、製造されるオーツミルク中のたんぱく質量や食物繊維量が少なくなってしまう。
【0008】
また、装置内での焦げ付きは、液を高温で処理する直接滅菌法を適用した場合に特に発生しやすいことから、低温で長時間加熱する間接滅菌法を採用することが考えられるが、その場合、原料である穀物由来のオフフレーバが強くなり、オーツミルクの風味が低下することがある。
【0009】
そこで、本発明は、オーツ麦由来のたんぱく質及び食物繊維を豊富に含み、かつ、ざらつきが少なく、風味が良好なオーツミルク及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るオーツミルクは、オーツ麦由来のたんぱく質を0.7質量%以上、オーツ麦由来の食物繊維を0.3質量%以上、外添カルシウムを0.1445質量%未満(0質量%を含む)、前記酵素処理に由来するアミラーゼ、グルコアミラーゼ、セルラーゼ及びプロテアーゼを含有し、前記プロテアーゼの含有量が0.01~0.1質量%であり、pHが6.0~6.8である。
本発明のオーツミルクは、外添カルシウムを実質的に含まない構成とすることもできる。
【0011】
本発明に係るオーツミルクの製造方法は、オーツ麦の粉砕物を含む原料液に酵素を添加して酵素処理する工程と、前記酵素処理後の液に副原料を添加する工程と、副原料添加後の液を、121~150℃の温度条件下で5~300秒間加熱して滅菌する工程とを有し、前記酵素処理する工程では、前記酵素としてアミラーゼ、グルコアミラーゼ、セルラーゼ及びプロテアーゼを用い、前記酵素処理後に遠心分離処理を行わず、オーツ麦由来のたんぱく質の含有量が0.7質量%以上、オーツ麦由来の食物繊維の含有量が0.3質量%以上、外添カルシウムの含有量が0.1445質量%未満(0質量%を含む)、前記酵素処理に由来するプロテアーゼの含有量が0.01~0.1質量%であり、pHが6.0~6.8であるオーツミルクを得る
発明のオーツミルクの製造方法では、滅菌後及び/又は滅菌前に前記液を均質化する工程を行うこともできる。その場合、前記液を均質化する工程では、高圧式又は回転式のホモジナイザーを用いてもよい。
本発明のオーツミルクの製造方法では、前記副原料としてカルシウムを含む成分を添加せず、外添カルシウムを実質的に含まないオーツミルクを得てもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、滅菌処理におけるたんぱく質の凝集や焦げ付きの発生を抑制できるため、オーツ麦由来のたんぱく質及び食物繊維を豊富に含み、かつ、ざらつきが少なく、風味も良好なオーツミルクが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態のオーツミルクの製造工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本発明の実施形態に係るオーツミルクは、オーツ麦由来のたんぱく質を0.7質量%以上及びオーツ麦由来の食物繊維を0.3質量%以上と高濃度に含有する一方で、外添カルシウム含有量は0.1445質量%未満(0質量%を含む)に抑制され、pHは6.0~6.8の範囲に調整されている。また、本実施形態のオーツミルクは、前述した各成分に加えて、例えば0.01~0.1質量%の範囲でプロテアーゼを含有していてもよい。
【0016】
[外添カルシウム:0質量%以上0.1445質量%未満]
外添カルシウムとは、オーツ麦に由来しないカルシウムであり、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム及び硫酸カルシウムとしてオーツミルクに添加されている。前述したカルシウムを含む成分(以下、「カルシウム成分」という。)は、pH調整、食品の安定化及び食品の栄養強化などの目的で、必要に応じて添加されるため、本実施形態のオーツミルクは、実質的に外添カルシウムを含まない、即ち外添カルシウム含有量が0質量%の場合もある。
【0017】
一方、オーツミルク中の外添カルシウム量が多くなると、滅菌処理の際にたんぱく質の凝集や焦げ付きの発生しやすくなるため、本実施形態のオーツミルクでは外添カルシウム含有量を0.1445質量%未満に規制する。なお、本実施形態のオーツミルクの外添カルシウム含有量は、700質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは70質量ppm以下である。ここでいう「外添カルシウム含有量」は、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム及び硫酸カルシウムの総含有量から求めた値(換算値)である。
【0018】
[pH:6~6.8]
オーツミルクのpHが6未満の場合、保存安定性や風味が劣化しやすくなり、また、pHが6.8を超えると、加熱によりたんぱく質が凝集しやすくなる。よって、本実施形態のオーツミルクでは、pHは6~6.8とする。これにより、保存安定性や風味を劣化させることなく、たんぱく質の凝集を抑制し、焦げ付きを発生しにくくすることができる。
【0019】
[プロテアーゼ:0.01~0.1質量%]
本実施形態のオーツミルクは、製造工程で行う酵素処理に由来するプロテアーゼを0.01~0.1質量%の範囲で含有していることが好ましい。これにより、たんぱく質の凝集が抑制され、焦げ付きが発生しにくくなると共に、苦味を抑えることもできる。
【0020】
[製造方法]
次に、本実施形態のオーツミルクの製造方法について説明する。図1は本実施形態の製造工程を示すフローチャートである。図1に示すように、本実施形態のオーツミルクは、原料液を酵素で処理する酵素処理工程S1と、酵素処理後の液に副原料を添加する調合工程S2と、副原料添加後の液を滅菌する滅菌処理工程S3と、必要に応じて滅菌後及び/又は滅菌前の液を均質化する均質化処理工程S4を行い、オーツ麦由来のたんぱく質の含有量が0.7質量%以上、オーツ麦由来の食物繊維の含有量が0.3質量%以上、外添カルシウムの含有量が0.1445質量%未満(0質量%を含む)であり、pHが6.0~6.8であるオーツミルクを得る。
【0021】
<酵素処理工程S1>
酵素処理工程S1では、原料であるオーツ麦の粉砕物を含む原料液を酵素で処理して、オーツ麦を液化及び/又は糖化する。ここで、原料液としては、例えばオーツ麦の粉末を水に分散したものなどが用いられる。原料液に配合されるオーツ麦の粉砕物の大きさは、特に限定されるものではないが、舌触りやなめらかさの観点から、体積基準の平均粒子径が10~100μm程度のものを用いることが好ましい。また、原料液のオーツ麦粉砕物含有量も、特に限定されるものではないが、呈味や風味の観点から、5.0~15.0質量%にすることが好ましい。
【0022】
酵素処理工程S1では、少なくともプロテアーゼ用いて処理する。これにより、たんぱく質が小分子化するため、たんぱく質の凝集や焦げ付きの発生を防止することができる。酵素処理に用いるプロテアーゼは、特に限定されるものではないが、例えばセリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、スレオニンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、メタロプロテアーゼ及びアスパラギンペプチドリアーゼなどを用いることができる。また、至適pH(酵素が作用を発揮する最適のpH)に基づく分類では、酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ及びアルカリ性プロテアーゼを用いることができる。これらは単独で使用しても、複数種を組み合わせて使用してもよい。前述したプロテアーゼの中でも、至適pHの観点から、中性プロテアーゼ又はアルカリ性プロテアーゼが好ましい。
【0023】
プロテアーゼの使用量は、前述した効果が得られる範囲で適宜設定することができるが、製造されるオーツミルクに残留するプロテアーゼの量が0.01~0.1質量%の範囲になるようにすることが好ましい。これにより、苦味やえぐみが抑制されたオーツミルクを製造することができる。
【0024】
また、酵素処理工程S1では、前述したプロテアーゼの効果を阻害しない範囲で、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ、マルトトリオヒドロラーゼ、トランスグルコシダーゼ、ヘミセルラーゼ、ヌクレアーゼ、β-グルコシダーゼ、タンナーゼ、セルラーゼ及びペクチナーゼなどの他の酵素を併用することができる。特に、プロテアーゼに、アミラーゼ、グルコアミラーゼ及びセルラーゼを加えた4種の酵素を用いて処理すると、アミラーゼによりデンプンが小分子化され、グルコアミラーゼによりグルコースが生成し、セルラーゼによりオーツ麦に含まれる食物繊維が分解されるため、食物繊維によるざらつきが発生せず、口あたり及び風味に優れたオーツミルクが得られる。
【0025】
なお、オーツ麦の「液化」と「糖化」は、その両方を同時又は連続して行ってもよいが、いずれか一方のみ行ってもよい。例えば、「液化」のみ行う場合は、プロテアーゼとα-アミラーゼを用いて酵素処理すればよく、また、「糖化」のみ行う場合は、プロテアーゼと共に、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ又はマルトトリオヒドロラーゼを用いて酵素処理すればよい。そして、「液化」と「糖化」を同時又は連続して行う場合は、これらの酵素を一度に又は順次添加して処理すればよい。
【0026】
酵素処理の条件は、各酵素が作用する温度及び時間に応じて適宜設定することができるが、例えば40~70℃で、10分間~8時間とすることができる。そして、酵素処理を終了する際は、例えば液を急速に昇温させることで各酵素を失活させればよい。その場合の液温は、少なくとも1分以内に各酵素が失活する温度にすることが好ましく、15秒以内に各酵素が失活する温度にすることがより好ましい。
【0027】
<調合工程S2>
調合工程S2では、酵素処理工程S1で得た酵素処理液に副原料を添加する。その際、後述する滅菌処理工程S3及び均質化処理工程S4を経て得られるオーツミルクのpHが6.0~6.8、外添カルシウム含有量が0.1445質量%未満(0質量%を含む)になるよう、副原料の添加量を調整する。ここで、酵素処理液に添加される副原料としては、例えば植物油脂、粉末たんぱく、砂糖、果汁、塩、食物繊維、pH調整剤、甘味料、着色料、増粘安定剤、酸化防止剤、乳化剤、栄養強化剤、香料などが挙げられる。
【0028】
また、得られるオーツミルクの外添カルシウム含有量を前述した範囲にするには、副原料として添加される塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム及び硫酸カルシウムなどのカルシウム成分の添加量を調整すればよく、これらのカルシウム成分は添加しないことが好ましい。一方、得られるオーツミルクのpHを前述した範囲にするには、副原料としてpH調整剤を添加すればよい。
【0029】
<滅菌処理工程S3>
滅菌処理工程S3では、副原料添加後の液を、121~150℃の温度条件下で、5~300秒間加熱することにより、商業的無菌性を維持できる状態にする。滅菌処理の方法は、特に限定されるものではないが、液を蒸気に接触させないで加熱する間接加熱方式、及び、液を蒸気に接触させて加熱する直接加熱方式のいずれでもよいが、蒸気を接触させることにより液を直接加熱する直接滅菌方式が好ましい。これにより、オーツ麦に由来するオフフレーバが低減され、風味が良好なオーツミルクを製造することができる。
【0030】
<均質化処理工程S4>
本実施形態のオーツミルクの製造方法では、ホモジナイザーなどを用いて、滅菌処理後の液及び/又は滅菌処理前の液を均質化してもよい。均質化処理に用いるホモジナイザーは、高圧式及び回転式のいずれでもよく、処理対象の液の粘度や量に応じて適宜選択することができる。また、均質化処理工程S4を行う時期は、滅菌処理工程S3の前又は滅菌処理工程S3の後のいずれでもよいが、口あたり及び風味の改善の観点から、滅菌処理工程S3の後に行うことが好ましく、滅菌処理工程S3の前後で行うことがより好ましい。
【0031】
<その他の工程>
本実施形態のオーツミルクの製造方法では、遠心分離処理などによって食物繊維やたんぱく質などの不溶性成分を取り除く工程は実施しない。これにより、成分濃度が高いオーツミルクが得られる。
【0032】
以上詳述したように、本実施形態のオーツミルクは、調合工程において液のpH及び外添カルシウム量を調整しているため、その後の滅菌処理工程において高温で加熱してもたんぱく質の凝集や装置内での焦げ付きが発生しにくい。その結果、原料液の濃度を低くしたり、酵素処理後に不溶性成分を取り除いたりしなくても、オフフレーバを低減可能な条件で滅菌処理を行うことが可能となるため、オーツ麦由来のたんぱく質及び食物繊維を豊富に含み、かつ、ざらつきが少なく、風味も良好なオーツミルクが得られる。
【0033】
また、本実施形態のオーツミルクの製造方法は、少なくともプロテアーゼを用い、それにアミラーゼ、グルコアミラーゼ及びセルラーゼを併用して酵素処理を行うことで、ザラツキを更に低減することができるため、従来品よりも成分濃度が高く、口あたり及び風味が優れたオーツミルクを製造することが可能である。更に、本実施形態のオーツミルクは、保存期間中の沈殿発生が抑制されているため、良好な品質を長期間維持することができる。
【実施例
【0034】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例では、pH及び外添カルシウム含有量を変えて実施例及び比較例のオーツミルクを製造し、ざらつき及び風味を官能評価した。
【0035】
〔試料の調製〕
先ず、オーツ麦パウダー(全粒オーツ麦の粉砕物、体積基準の平均粒子径が10~100μm)400gを、約80℃のお湯:600gに分散して原料液を調整した。この原料液に下記表1,2に示す濃度でアルカリプロテアーゼを添加すると共に、Bacilus属由来のα-アミラーゼを終濃度で0.01質量%、Trichoderma属由来のセルラーゼを終濃度で0.1質量%、Rhizopus属由来のグルコアミラーゼを終濃度で0.1質量%添加し、55℃で1時間酵素処理した。
【0036】
次に、酵素処理液に副原料として、外添カルシウムである炭酸カルシウム、アルカリ剤である炭酸水素ナトリウム及びリン酸水素二ナトリウムを所定量添加し、下記表1~3に示すpH及び外添カルシウム含有量の液を得た。引き続き、副原料添加後の液を、総たんぱく質濃度が1.2質量%、食物繊維濃度が0.4質量%となるように水で希釈した後、121℃の温度条件下で5分間加熱して滅菌して評価用オーツミルクを得た。
【0037】
〔評価方法〕
(1)凝集
前述した方法で調製された評価用オーツミルクについて、訓練された4人のパネラー(訓練期間:8~27年)により、官能評価を行った。凝集性は、目視により下記の4段階で評価し、全体の総意に基づき各試料の評価を決定した。
◎(優):凝集物が非常にきめ細かであったもの
○(良):凝集物が細かであったもの
△(可):凝集物がやや細かであったもの
×(不可):凝集物が粗かったもの
【0038】
(2)ざらつき・風味
ざらつき及び風味は、訓練された4人のパネラー(訓練期間:8~27年)が評価用オーツミルク試飲して、下記の4段階で官能評価した。その際、全体の総意に基づき各試料の評価を決定した。
【0039】
<ざらつき>
◎(優):ざらつきを感じなかったもの
○(良):ざらつきをほとんど感じなかったもの
△(可):ざらつきがやや感じられたもの
×(不可):ざらつきが感じられたもの
【0040】
<風味>
◎(優):苦味が感じられなかったもの
○(良):苦味がごくわずか感じられたもの
△(可):苦味が感じられたもの
×(不可):強い苦味を感じたもの
【0041】
以上の結果を下記表1,2に示す。なお、下記表1,2に示す実施例及び比較例の各液のpHは堀場製作所製 卓上型水質計 LAQUA F-2000により測定した値であり、外添カルシウム量は炭酸カルシウムの添加量から換算した値である。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
上記表1,2に示すように、プロテアーゼを用いて酵素処理を行い、pHが6.0~6.8、外添カルシウム含有量が0質量%であるNo.5~8,10~12,14~16の試料は、滅菌処理におけるたんぱく質の凝集や焦げ付きの発生が抑制され、ざらつきが少なく、風味も良好であった。これに対して、pHが6.8を超え、外添カルシウム含有量も0.1445質量%であるNo.1~3の試料は、滅菌処理でたんぱく質の凝集や焦げ付きが発生し、得られたオーツミルクにもざらつきが感じられた。また、酵素処理の際にプロテアーゼを用いなかったNo.4,9,13の試料は、得られたオーツミルクにざらつきが感じられた。
【0045】
以上の結果から、本発明によれば、オーツ麦由来のたんぱく質及び食物繊維を豊富に含み、かつ、ざらつきが少なく、風味が良好なオーツミルクが得られることが確認された。
【0046】
なお、本発明は、以下の構成を採ることもできる。
〔1〕
オーツ麦由来のたんぱく質を0.7質量%以上、
オーツ麦由来の食物繊維を0.3質量%以上、
外添カルシウムを0.1445質量%未満(0質量%を含む)
含有し、
pHが6.0~6.8であるオーツミルク。
〔2〕
プロテアーゼを0.01~0.1質量%含有する〔1〕に記載のオーツミルク。
〔3〕
外添カルシウムを実質的に含まない〔1〕又は〔2〕に記載のオーツミルク。
〔4〕
オーツ麦の粉砕物を含む原料液に酵素を添加して酵素処理する工程と、
前記酵素処理後の液に副原料を添加する工程と、
副原料添加後の液を、121~150℃の温度条件下で5~300秒間加熱して滅菌する工程と、
を有し、
前記酵素処理する工程では、前記酵素として少なくともプロテアーゼを用い、
オーツ麦由来のたんぱく質の含有量が0.7質量%以上、オーツ麦由来の食物繊維の含有量が0.3質量%以上、外添カルシウムの含有量が0.1445質量%未満(0質量%を含む)であり、pHが6.0~6.8であるオーツミルクを得るオーツミルクの製造方法。
〔5〕
前記酵素処理する工程において、前記酵素としてアミラーゼ、グルコアミラーゼ、セルラーゼ及びプロテアーゼを用いる〔4〕に記載のオーツミルクの製造方法。
〔6〕
滅菌後及び/又は滅菌前に前記液を均質化する工程を行う〔4〕又は〔5〕に記載のオーツミルクの製造方法。
〔7〕
前記液を均質化する工程において高圧式又は回転式のホモジナイザーを用いる〔6〕に記載のオーツミルクの製造方法。
〔8〕
酵素処理後に遠心分離処理を行わない〔4〕~〔7〕のいずれかに記載のオーツミルクの製造方法。
〔9〕
前記副原料としてカルシウムを含む成分を添加しない〔4〕~〔8〕のいずれかに記載のオーツミルクの製造方法。
【要約】
【課題】オーツ麦由来のたんぱく質及び食物繊維を豊富に含み、かつ、ざらつきが少なく、風味が良好なオーツミルク及びその製造方法を提供する。
【解決手段】オーツ麦の粉砕物を含む原料液に酵素を添加して酵素処理する酵素処理工程S1と、酵素処理後の液に副原料を添加する調合工程S2と、副原料添加後の液を、121~150℃の温度条件下で5~300秒間加熱する滅菌工程S3と、滅菌後及び/又は滅菌前に前記液を均質化する均質化工程S4とを行ってオーツミルクを製造するにあたり、酵素処理工程S1において酵素として少なくともプロテアーゼを用い、オーツ麦由来のたんぱく質の含有量が0.7質量%以上、オーツ麦由来の食物繊維の含有量が0.3質量%以上、外添カルシウムの含有量が0.1445質量%未満(0質量%を含む)であり、pHが6.0~6.8であるオーツミルクを得る。
【選択図】図1
図1