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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】リサイクル正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 7/00 20060101AFI20241217BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20241217BHJP
   C22B 1/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C22B7/00 C
H01M10/54
C22B1/00 101
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024054019
(22)【出願日】2024-03-28
【審査請求日】2024-10-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100160897
【弁理士】
【氏名又は名称】古下 智也
(72)【発明者】
【氏名】吉丸(原) 央江
(72)【発明者】
【氏名】杉内 瑞穂
(72)【発明者】
【氏名】鈴江 真士
【審査官】山口 大
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-184546(JP,A)
【文献】特開2021-140996(JP,A)
【文献】特開2005-026088(JP,A)
【文献】特開2003-206132(JP,A)
【文献】特開2005-011698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 7/00
H01M 10/54
C22B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を備える、リサイクル正極活物質の製造方法。
工程(1):正極活物質を含有する正極合材と、1種又は2種以上のアルカリ金属化合物を含む活性化処理剤と、を混合して混合物を得る工程
工程(2):加熱空間1Lあたり流量0L/min超0.400L/min以下の窒素の存在下で、前記混合物を前記活性化処理剤の溶融開始温度以上の温度に加熱して加熱後の混合物を得る工程
工程(3):前記加熱後の混合物から加熱後の正極活物質を回収する工程
【請求項2】
前記工程(2)における前記窒素の前記流量が0.050~0.400L/minである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程(2)の雰囲気ガスにおける前記窒素の割合が70体積%超80体積%以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記工程(2)において前記混合物を600~1000℃に加熱する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記活性化処理剤が、カリウム化合物及びナトリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記正極活物質がリチウム化合物を含み、
前記活性化処理剤が、カリウム化合物及びナトリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物と、リチウム化合物とを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記正極活物質が、下記元素群1から選択される少なくとも1種の元素と、下記元素群2から選択される少なくとも1種の元素とを含有する複合酸化物を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
元素群1:Ni、Co、Mn、Fe、Al、及びP
元素群2:Li、Na、K、Ca、Sr、Ba、及びMg
【請求項8】
前記正極活物質が、下記式(A)で表される化合物を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
Li1+a 2+d (A)
ただし、Mは、Na、K、Ca、Sr、Ba、及びMgからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
は、Ni、Co、Mn、Fe、Al、及びPからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
は、Ni、Co、Mn、及びFeを除く遷移金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
Xは、O及びPを除く非金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
-0.4<a<1.5、0≦b<0.5、0≦c<0.5、-0.5<d<1.5、及び0≦e<0.5を満たす。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクル正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電池の正極活物質にはコバルト、ニッケル、マンガン、リチウム等の希少金属成分が含有されており、特に非水電解質二次電池の正極活物質には、上記希少金属成分を主成分とする化合物が利用されている。希少金属成分の資源を保全するために、二次電池の電池廃材から希少金属成分をリサイクル(再生産)する方法が求められている(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-34021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
正極活物質における希少金属成分をリサイクルする観点から、廃正極から得られる正極活物質に対して各種処理を施すことによりリサイクル正極活物質を得ることが考えられる。リサイクル正極活物質に対しては、電池において使用した際に優れた初回充放電効率を得ることが求められる場合がある。
【0005】
本発明の一側面に係る課題は、優れた初回充放電効率を得ることが可能なリサイクル正極活物質の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、いくつかの側面において、下記の[1]~[8]等に関する。
[1]下記工程を備える、リサイクル正極活物質の製造方法。
工程(1):正極活物質を含有する正極合材と、1種又は2種以上のアルカリ金属化合物を含む活性化処理剤と、を混合して混合物を得る工程
工程(2):加熱空間1Lあたり流量0L/min超0.400L/min以下の窒素の存在下で、前記混合物を前記活性化処理剤の溶融開始温度以上の温度に加熱して加熱後の混合物を得る工程
工程(3):前記加熱後の混合物から加熱後の正極活物質を回収する工程
[2]前記工程(2)における前記窒素の前記流量が0.050~0.400L/minである、[1]に記載の製造方法。
[3]前記工程(2)の雰囲気ガスにおける前記窒素の割合が70体積%超80体積%以下である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]前記工程(2)において前記混合物を600~1000℃に加熱する、[1]~[3]のいずれか一つに記載の製造方法。
[5]前記活性化処理剤が、カリウム化合物及びナトリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む、[1]~[4]のいずれか一つに記載の製造方法。
[6]前記正極活物質がリチウム化合物を含み、前記活性化処理剤が、カリウム化合物及びナトリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物と、リチウム化合物とを含む、[1]~[4]のいずれか一つに記載の製造方法。
[7]前記正極活物質が、下記元素群1から選択される少なくとも1種の元素と、下記元素群2から選択される少なくとも1種の元素とを含有する複合酸化物を含む、[1]~[6]のいずれか一つに記載の製造方法。
元素群1:Ni、Co、Mn、Fe、Al、及びP
元素群2:Li、Na、K、Ca、Sr、Ba、及びMg
[8]前記正極活物質が、下記式(A)で表される化合物を含む、[1]~[7]のいずれか一つに記載の製造方法。
Li1+a 2+d (A)
ただし、Mは、Na、K、Ca、Sr、Ba、及びMgからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
は、Ni、Co、Mn、Fe、Al、及びPからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
は、Ni、Co、Mn、及びFeを除く遷移金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
Xは、O及びPを除く非金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
-0.4<a<1.5、0≦b<0.5、0≦c<0.5、-0.5<d<1.5、及び0≦e<0.5を満たす。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一側面によれば、優れた初回充放電効率を得ることが可能なリサイクル正極活物質の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0009】
本実施形態に係るリサイクル正極活物質の製造方法は、下記工程を備える。
工程(1):正極活物質を含有する正極合材と、1種又は2種以上のアルカリ金属化合物を含む活性化処理剤と、を混合して混合物を得る工程
工程(2):加熱空間1Lあたり流量0L/min超0.400L/min以下の窒素の存在下で、前記混合物を前記活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)以上の温度に加熱して加熱後の混合物を得る工程
工程(3):前記加熱後の混合物から加熱後の正極活物質を回収する工程
【0010】
本実施形態に係るリサイクル正極活物質の製造方法によれば、リサイクル正極活物質を電池において使用した際に優れた初回充放電効率(例えば、リチウムイオン電池の初回充放電効率)を得ることが可能であり、後述の実施例に記載の評価方法において、例えば91.4%以上(好ましくは、91.5%以上、92.0%以上等)の初回充放電効率を得ることができる。
【0011】
活性化処理剤が正極活物質に接触すると、正極活物質を活性化させることが可能であり、正極活物質の結晶構造の劣化を抑制することができる(場合によっては、結晶構造の修復作用を得ることもできる)。特に、工程(2)では、加熱前の混合物を活性化処理剤の溶融開始温度以上の温度に加熱することにより活性化処理剤が溶融(融解)し、活性化処理剤(溶融状態の活性化処理剤)と正極活物質との接触性が向上することで正極活物質の活性化が促進される。
また、結着材及び/又は電解液(例えば、電解液中の電解質)に由来するフッ素化合物(フッ素を含む化合物)を加熱前の混合物が含有する場合には、溶融状態の活性化処理剤がフッ素化合物と接触することにより、フッ素成分がアルカリ金属フッ化物として安定化される。これにより、正極活物質の活性を落とし得る腐食性のフッ化水素の発生が防止される。
リサイクル正極活物質を得るに際して正極活物質以外の成分を充分に除去する必要があることから、工程(2)では、正極活物質以外の成分が酸化分解して二酸化炭素等の酸性ガスが発生し得る。しかしながら、過剰量の窒素の存在下で加熱処理が行われると、正極活物質以外の成分の不完全燃焼によって一酸化炭素が発生し得る。この場合、一酸化炭素が正極活物質中の金属成分に作用して初回充放電効率等の電池特性が劣化し得る。一方、本実施形態に係るリサイクル正極活物質の製造方法によれば、活性化処理剤を含有する混合物を上記特定流量の窒素の存在下で加熱することにより、一酸化炭素の発生が抑制されることから、優れた初回充放電効率を得ることができる。但し、優れた初回充放電効率が得られる要因は上記要因に限られない。
【0012】
本実施形態に係るリサイクル正極活物質の製造方法の一態様によれば、優れた放電レート特性(例えば、リチウムイオン電池の放電レート特性)を得ることが可能であり、後述の実施例に記載の評価方法(放電レート試験:3C)において、例えば135mAh/g以上(好ましくは、140mAh/g以上、142mAh/g以上等)の放電容量を得ることができる。
本実施形態に係るリサイクル正極活物質の製造方法の一態様によれば、優れた放電容量維持率(例えば、リチウムイオン電池の放電容量維持率)を得ることが可能であり、後述の実施例に記載の評価方法において、例えば60%以上(好ましくは、70%以上、80%以上、85%以上等)の放電容量維持率を得ることができる。
本実施形態に係るリサイクル正極活物質の製造方法の一態様によれば、結晶子サイズの大きなリサイクル正極活物質を得ることが可能であり、後述の実施例に記載の評価方法において、例えば50nm以上(好ましくは、60nm以上、80nm以上、85nm以上、90nm以上、95nm以上、100nm以上等)の結晶子サイズを得ることができる。
【0013】
本実施形態に係るリサイクル正極活物質は、本実施形態に係るリサイクル正極活物質の製造方法により得られるリサイクル正極活物質(本実施形態に係るリサイクル正極活物質の製造方法により最終的に得られるリサイクル正極活物質)である。本実施形態に係るリサイクル正極活物質の製造方法を用いることで電池合材等から得られたリサイクル正極活物質は、未使用活物質と同様に再利用することができる。リサイクル正極活物質を用いて正極又は電池を製造する方法としては、周知の方法を用いることができる。本実施形態に係るリサイクル正極活物質及びその製造方法は、各種電池に用いてよく、非水電解質電池(例えば非水電解質二次電池)に用いてよく、リチウムイオン電池(例えばリチウムイオン二次電池)に用いてよい。本実施形態に係るリサイクル正極活物質は、リチウム電池用正極活物質であってよい。本実施形態に係るリサイクル正極活物質の放電容量は、例えば150mAh/g以上であってよい。
【0014】
本実施形態に係るリサイクル正極活物質の結晶子サイズは、下記の範囲であってよい。結晶子サイズは、50nm以上、60nm以上、80nm以上、85nm以上、90nm以上、95nm以上、100nm以上、又は、105nm以上であってよい。結晶子サイズは、120nm以下、110nm以下、100nm以下、95nm以下、90nm以下、85nm以下、80nm以下、又は、60nm以下であってよい。これらの観点から、結晶子サイズは、50~120nm、50~110nm、50~100nm、60~120nm、60~110nm、60~100nm、80~120nm、80~110nm、80~100nm、100~120nm、又は、100~110nmであってよい。結晶子サイズは、実施例に記載の方法により測定可能であり、CuKα線を線源とするX線回折スペクトルにおける回折ピークを用いて、Scherrer式により求めることができる。結晶子サイズの測定では、例えば、「X線構造解析-原子の配列を決める-」(2002年4月30日第3版発行、早稲田嘉夫、松原栄一郎著)を参照することができる。
【0015】
本明細書において、工程(1)~(3)を経た正極活物質を「リサイクル正極活物質」と呼ぶ。工程(1)~(3)を経たリサイクル正極活物質は、正極等の製造に好適に用いることができる。本実施形態に係るリサイクル正極活物質の製造方法は、工程(1)~(3)の前後に、追加の工程を備えることができる。本明細書において、工程(1)~(3)及びその後の追加の工程を経た正極活物質も「リサイクル正極活物質」と呼ぶ。工程(1)~(3)以外の追加の工程の例としては、工程(1)の前に実施される後述の正極合材の準備工程及び正極合材の洗浄工程;工程(3)の後に実施される後述の工程(4)及び工程(5)等が挙げられる。
【0016】
以下、本実施形態に係るリサイクル正極活物質の製造方法における各工程について詳細に説明する。
【0017】
(正極合材の準備工程)
本実施形態に係るリサイクル正極活物質の製造方法は、工程(1)の前に、正極活物質を含有する正極合材を準備する正極合材の準備工程を備えてよい。
【0018】
正極合材は、正極活物質に加えて、炭素含有材料を含有してよく、結着材、導電材及び電解質からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有してよい。正極合材が結着材を含有する場合、正極活物質の粒子が結着材により互いに結着されていてよい。正極合材が結着材及び導電剤を含有する場合、正極活物質の粒子及び導電材が結着材により互いに結着されていてよい。電解質は、電池の電解液に由来して正極合材に含浸される成分である。正極合材は、結着材及び/又は電解液(例えば、電解液中の電解質)に由来するフッ素化合物を含有してよい。
【0019】
[正極活物質]
正極活物質の例としては、リチウム、酸素、フッ素、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、イットリウム、ニオブ、モリブデン、銀、インジウム、タングステン等の1種又は2種以上を構成元素として含む複合化合物などが挙げられる。
【0020】
正極活物質は、単一の化合物のみからなってもよく、複数の化合物から構成されてもよい。
【0021】
正極活物質は、優れた初回充放電効率を得やすい観点から、下記元素群1から選択される少なくとも1種の元素と、下記元素群2から選択される少なくとも1種の元素とを含有する複合酸化物を含むことが好ましい。
元素群1:Ni、Co、Mn、Fe、Al、及びP
元素群2:Li、Na、K、Ca、Sr、Ba、及びMg
【0022】
正極活物質は、優れた初回充放電効率を得やすい観点から、下記式(A)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0023】
Li1+a 2+d (A)
ただし、Mは、Na、K、Ca、Sr、Ba、及びMgからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
は、Ni、Co、Mn、Fe、Al、及びPからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
は、Ni、Co、Mn、及びFeを除く遷移金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
Xは、O及びPを除く非金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
-0.4<a<1.5、0≦b<0.5、0≦c<0.5、-0.5<d<1.5、及び0≦e<0.5を満たす。
【0024】
は、優れた初回充放電効率を得やすい観点から、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、Ca、Sr、Ba、Ge、Cr、Sc、Y、La、Ta、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、及びInからなる群から選択される少なくとも1種の元素であることが好ましい。Xの例としては、F、S、Cl、Br、I、Se、Te、N等が挙げられる。
【0025】
正極活物質は、優れた初回充放電効率を得やすい観点から、少なくともLi及びNiを含有する複合酸化物を含むことが好ましい。
【0026】
正極活物質において、MにおけるNiのモル分率は、優れた初回充放電効率を得やすい観点から、0.3~0.95であることが好ましい。
【0027】
正極活物質(例えば複合酸化物)の結晶構造は、特に制限はないが、優れた初回充放電効率を得やすい観点から、層状構造が好ましく、六方晶型又は単斜晶型の結晶構造がより好ましい。
【0028】
六方晶型の結晶構造は、P3、P3、P3、R3、P-3、R-3、P312、P321、P312、P321、P312、P321、R32、P3m1、P31m、P3c1、P31c、R3m、R3c、P-31m、P-31c、P-3m1、P-3c1、R-3m、R-3c、P6、P6、P6、P6、P6、P6、P-6、P6/m、P6/m、P622、P622、P622、P622、P622、P622、P6mm、P6cc、P6cm、P6mc、P-6m2、P-6c2、P-62m、P-62c、P6/mmm、P6/mcc、P6/mcm、及びP6/mmcからなる群から選択されるいずれか一つの空間群に帰属する。
【0029】
単斜晶型の結晶構造は、P2、P2、C2、Pm、Pc、Cm、Cc、P2/m、P2/m、C2/m、P2/c、P2/c、及びC2/cからなる群から選択されるいずれか一つの空間群に帰属する。
【0030】
正極活物質の結晶構造は、優れた初回充放電効率を得やすい観点から、六方晶型の結晶構造に含まれるR-3m、又は、単斜晶型の結晶構造に含まれるC2/mの空間群に帰属することが好ましい。
【0031】
正極活物質の結晶構造は、CuKα線を線源とする粉末X線回折測定により得られる粉末X線回折図形から同定できる。
【0032】
正極合材中の正極活物質の粒径は、特に制限はないが、0.001~100μm程度であってよい。正極活物質の粒度分布は、レーザー回折散乱粒度分布測定装置(例えば、マルバーン社製、マスターサイザー2000)を用いて測定できる。粒度分布から体積基準の累積粒度分布曲線を作成し、微小粒子側から50%累積時の粒径(D50)の値を正極活物質の平均粒径とすることができる。
【0033】
正極合材中の正極活物質の含有量に特に制限はない。
【0034】
[結着材]
結着材の例としては、熱可塑性樹脂等が挙げられ、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(以下、「PVdF」ということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体等のフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;スチレンブタジエン共重合体(SBR)などが挙げられる。結着材は、1種単独で使用してよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
正極合材中の結着材の含有量は、特に制限はないが、正極活物質100質量部に対して下記の範囲であってよい。結着材の含有量は、0.5質量部以上、1質量部以上、又は、2質量部以上であってよい。結着材の含有量は、30質量部以下、10質量部以下、又は、5質量部以下であってよい。これらの観点から、結着材の含有量は、0.5~30質量部、1~10質量部、1~5質量部、又は、2~5質量部であってよい。
【0036】
[導電材]
導電材の例としては、金属粒子等の金属系導電材;炭素材料からなる炭素系導電材などが挙げられる。
【0037】
炭素系導電材の具体例としては、黒鉛粉末(グラファイト)、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)、繊維状炭素材料(例えば、黒鉛化炭素繊維及びカーボンナノチューブ)等が挙げられる。
【0038】
炭素系導電材は、単一の炭素材料であってもよく、複数の炭素材料から構成されてもよい。
【0039】
炭素系導電材として用いられる炭素材料の比表面積は、0.1~500m/gであってよい。炭素系導電材は、比表面積30m/g以上の炭素材料を含む態様であってよく、比表面積30m/g以上の炭素材料のみからなる態様であってよく、比表面積30m/g以上のカーボンブラックを含む態様であってよく、比表面積30m/g以上のカーボンブラックのみからなる態様であってよく、比表面積30m/g以上のアセチレンブラックを含む態様であってよく、比表面積30m/g以上のアセチレンブラックのみからなる態様であってよい。酸化力を有するアルカリ金属化合物を含む後述の活性化処理剤を用いる場合、炭素系導電材の酸化処理の速度を高めることができ、比表面積が小さい炭素材料であっても酸化処理することができる場合がある。
【0040】
正極合材中の導電材の含有量は、特に制限はないが、正極活物質100質量部に対して下記の範囲であってよい。導電材の含有量は、0質量部以上、0質量部超、1質量部以上、3質量部以上、又は、5質量部以上であってよい。導電材の含有量は、50質量部以下、40質量部以下、30質量部以下、20質量部以下、又は、10質量部以下であってよい。これらの観点から、導電材の含有量は、0~50質量部、0質量部超40質量部以下、1~30質量部、1~10質量部、3~20質量部、又は、5~10質量部であってよい。
【0041】
[電解質及び溶媒]
電解質の例としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiN(SOCF、LiN(SOF)、LiCFSO等が挙げられる。正極合材に含有される電解質の含有量は、特に制限はないが、0.0005~7質量%であってよい。
【0042】
正極合材は、電解液に由来する溶媒を含んでもよい。溶媒の例としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等が挙げられる。
【0043】
[正極合材の回収]
正極合材は、集電体と正極合材層とを有する廃正極から正極合材層を分離して回収することにより得ることができる。
【0044】
「廃正極」とは、廃棄された電池から回収された正極、及び、正極又は電池の製造の過程で発生する正極の廃棄物であってよい。廃棄された電池は、使用済みの電池であってもよく、未使用であるが規格外品の電池であってもよい。正極の廃棄物は、電池の製造工程で発生する正極の端部、又は、規格外品の正極であってよい。正極合材として、集電体に貼り付けられていない正極合材の廃棄品(正極合材製造工程で生じる廃棄品)を用いることもできる。
【0045】
廃正極は、アルミニウム箔、銅箔等の金属箔である集電体と、当該集電体上に設けられた正極合材層とを有する。正極合材層は、集電体の片面に設けられてもよく、両面に設けられてもよい。
【0046】
集電体と正極合材層とを有する廃正極から正極合材層を分離する方法の例としては、集電体から正極合材層を機械的に剥離する方法(例えば、集電体から正極合材層を掻き落とす方法)、集電体と正極合材層との界面に溶剤を浸透させて集電体から正極合材層を剥離する方法、アルカリ性又は酸性の水溶液を用いて集電体を溶解して正極合材層を分離する方法等が挙げられる。好ましくは、集電体から正極合材層を機械的に剥離する方法である。
【0047】
(正極合材の洗浄工程)
正極合材が電解質を含有する場合、本実施形態に係るリサイクル正極活物質の製造方法は、正極合材の準備工程の後に、正極合材から電解質の少なくとも一部(一部又は全部)を除去する洗浄工程(正極合材の洗浄工程)を備えてよい。正極合材の洗浄工程では、正極合材に対して電解質洗浄溶媒を接触させて正極合材から電解質の少なくとも一部を除去することが好ましい。具体的には、正極活物質及び電解質を含有する正極合材を電解質洗浄溶媒と接触させて、固体成分と液体成分とを含有するスラリーを得た後、スラリーを固体成分と液体成分とに分離する。
【0048】
固液分離は、スラリーを固体成分と液体成分とに分離する操作である。固液分離の方法の例としては、従来公知の方法でよく、ろ過、遠心分離法等が挙げられる。
【0049】
電解質洗浄溶媒に特に制限はない。電解質洗浄溶媒の例としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等の炭酸エステル類;水;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類などが挙げられる。
【0050】
正極合材に対して電解質洗浄溶媒を接触させることは、粉体と液体との公知の接触装置(例えば攪拌槽)で行うことができる。
【0051】
正極合材を電解質洗浄溶媒と接触させる工程において、正極合材と電解質洗浄溶媒とを攪拌してスラリーを得ることが好ましい。
【0052】
正極合材の洗浄工程において、固液分離した後、固体成分のリンスを実施してもよい。リンスは、固体成分に再び電解質洗浄溶媒を接触させてスラリーを得た後、スラリーを再び固体成分と液体成分とに分離する操作である。正極合材の洗浄工程では、リンスを複数回実施してもよい。リンスにおけるスラリー濃度は任意に調整できる。リンスにおいても、上記のようにスラリーの攪拌を行うことができる。
【0053】
上記洗浄により正極合材から電解質を十分に除去できる。例えば、電解質が残っていると、下記の反応が起こり、正極活物質の構造が層状岩塩構造からスピネル構造に変化してしまう場合がある。
LiPF+16LiMO+2O → 6LiF+LiPO+8LiM
【0054】
また、活性化処理剤が炭酸リチウムを含む場合、下記の反応によるリチウムの消費が起こる場合もある。
LiPF+4LiCO → 6LiF+LiPO+4CO
【0055】
分離された固体成分に対して、必要に応じて、減圧及び/又は加熱により電解質洗浄溶媒の乾燥を行うことができる。加熱温度は、50~200℃であってよい。
【0056】
(工程(1):活性化処理剤混合工程)
工程(1)(活性化処理剤混合工程)は、正極活物質を含有する正極合材(例えば、正極合材の洗浄工程で得られた正極合材)と、1種又は2種以上のアルカリ金属化合物を含む活性化処理剤と、を混合して混合物を得る工程である。
【0057】
正極合材と活性化処理剤との混合方法は、乾式混合及び湿式混合のいずれであってもよく、これらの混合方法の組み合わせでもよい。正極合材と活性化処理剤との混合順序は、特に制限されない。
【0058】
混合の際には、ボール等の混合メディアを備えた混合装置を用いて粉砕混合する工程を経ることが好ましく、これにより、混合効率を向上させることができる。
【0059】
混合方法としては、簡便に混合を行いやすい観点から、乾式混合が好ましい。乾式混合においては、V型混合機、W型混合機、リボン混合機、ドラムミキサー、攪拌翼を内部に備えた粉体混合機、ボールミル、振動ミル、又は、これらの装置の組み合わせを用いることができる。
【0060】
乾式混合に用いる混合装置としては、攪拌翼を内部に備えた粉体混合機が好ましく、具体的には、レーディゲミキサー(株式会社マツボー製)等が挙げられる。
【0061】
以下、本工程で使用される活性化処理剤について詳細に説明する。
【0062】
[活性化処理剤]
活性化処理剤は、1種又は2種以上のアルカリ金属化合物を含む。活性化処理剤は、正極活物質の活性化効果を更に高める観点から、カリウム化合物及びナトリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。活性化処理剤は、カリウム化合物及び/又はナトリウム化合物以外に、Li等の他のアルカリ金属を含有するアルカリ金属化合物を含んでよい。
【0063】
活性化処理剤における全アルカリ金属化合物の割合は、アルカリ金属化合物の種類、対象となる正極活物質の種類等を考慮して適宜設定されるが、活性化処理剤の全質量に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0064】
アルカリ金属化合物中に含有されるアルカリ金属のうち、カリウム及びナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属の濃度は、0~100モル%で任意に調整できるが、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上であり、好ましくは90モル%以下であり、より好ましくは80モル%以下である。
【0065】
活性化処理剤の成分であるアルカリ金属化合物の例としては、アルカリ金属の水酸化物、ホウ酸塩、炭酸塩、酸化物、過酸化物、超酸化物、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、塩化物、バナジウム酸塩、臭酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩等が挙げられる。これらは、活性化処理剤の成分として、1種単独で使用でき、複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0066】
好適なアルカリ金属化合物の具体例としては、
LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH等の水酸化物;
LiBO、NaBO、KBO、RbBO、CsBO等のホウ酸化物;
LiCO、NaCO、KCO、RbCO、CsCO等の炭酸塩;
LiO、NaO、KO、RbO、CsO等の酸化物;
Li、Na、K、Rb、Cs等の過酸化物;
LiO、NaO、KO、RbO、CsO等の超酸化物;
LiNO、NaNO、KNO、RbNO、CsNO等の硝酸塩;
LiPO、NaPO、KPO、RbPO、CsPO等のリン酸塩;
LiSO、NaSO、KSO、RbSO、CsSO等の硫酸塩;
LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl等の塩化物;
LiBr、NaBr、KBr、RbBr、CsBr等の臭化物;
LiVO、NaVO、KVO、RbVO、CsVO等のバナジウム酸塩;
LiMoO、NaMoO、KMoO、RbMoO、CsMoO等のモリブデン酸塩;
LiWO、NaWO、KWO、RbWO、CsWO等のタングステン酸塩などが挙げられる。
【0067】
活性化処理剤は、正極活物質の活性化効果を更に高める観点から、カリウム化合物及びナトリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物と、正極合材中の正極活物質に含有されるアルカリ金属元素と同一のアルカリ金属元素を含有する化合物(カリウム化合物及びナトリウム化合物を除く)と、を含むことができる。
【0068】
例えば、正極合材中の正極活物質がリチウム化合物(リチウムを含む化合物。例えばリチウム複合酸化物)を含む場合には、活性化処理剤は、カリウム化合物及びナトリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物と、リチウム化合物とを含むことが好ましい。好適なリチウム化合物の例としては、LiOH、LiBO、LiCO、LiO、Li、LiO、LiNO、LiPO、LiSO、LiCl、LiVO、LiBr、LiMoO、LiWO等が挙げられる。
【0069】
活性化処理剤は、必要に応じて、アルカリ金属化合物以外の化合物を含んでもよい。アルカリ金属化合物以外の化合物の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属元素を含有するアルカリ土類金属化合物などが挙げられる。アルカリ土類金属化合物は、活性化処理剤の溶融開始温度をコントロールする目的で、アルカリ金属化合物と共に活性化処理剤中に含まれてよい。
【0070】
活性化処理剤中のアルカリ金属化合物以外の化合物の含有量は、活性化処理剤の全質量の50質量%未満であってよい。
【0071】
正極合材及び活性化処理剤の混合物中における活性化処理剤の含有量は、正極合材が含有する正極活物質の質量に対して、0.001~100倍が好ましく、0.05~1倍がより好ましい。
【0072】
正極合材及び活性化処理剤の混合物における活性化処理剤において、正極合材が含有する正極活物質(例えば、上記式(A)で表される化合物)のモル数を1としたときに、活性化処理剤中のアルカリ金属化合物におけるアルカリ金属元素のモル数は、0.001~200倍であってよい。
【0073】
混合物中の活性化処理剤の割合を適切に制御することで、正極合材からの正極活物質の回収にかかる費用を低減でき、炭素系導電材、結着材等の処理速度(酸化分解処理速度)を高めることができる。また、工程(2)における腐食性ガスの発生を防止する効果を向上させることができる。さらに、本実施形態に係るリサイクル正極活物質の製造方法により得られるリサイクル正極活物質を用いて製造される電池の放電容量を更に高めることができる。
【0074】
活性化処理剤に含まれるアルカリ金属化合物の少なくとも1種は、水に溶解させた場合にアルカリ性を示すアルカリ金属化合物であることが好ましい。このようなアルカリ金属化合物を含む活性化処理剤を純水に溶解して得られる溶液のpHは、7よりも大きくなる。以下、このような活性化処理剤を「アルカリ性の活性化処理剤」と称す場合がある。
【0075】
アルカリ性の活性化処理剤を使用することにより、工程(2)における腐食性ガスの発生を更に抑制することができるため、本実施形態に係るリサイクル正極活物質の製造方法により得られるリサイクル正極活物質を用いて製造される電池の放電容量を更に高めることができる。また、アルカリ性の活性化処理剤を使用することにより、炭素系導電材、結着材等の処理速度を高めることもできる。
【0076】
水に溶解させた場合にアルカリ性を示すアルカリ金属化合物の例としては、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、酸化物、過酸化物、超酸化物等が挙げられる。このようなアルカリ金属化合物の具体例としては、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH等の水酸化物;LiCO、NaCO、KCO、RbCO、CsCO等の炭酸塩;LiHCO、NaHCO、KHCO、RbHCO、CsHCO等の炭酸水素塩;LiO、NaO、KO、RbO、CsO等の酸化物;Li、Na、K、Rb、Cs等の過酸化物;LiO、NaO、KO、RbO、CsO等の超酸化物などが挙げられる。水に溶解させた場合にアルカリ性を示す1種又は2種以上のアルカリ金属化合物が活性化処理剤に含まれてよい。
【0077】
正極合材に含有される導電材が炭素系導電材を含む場合、活性化処理剤に含まれるアルカリ金属化合物の少なくとも1種は、工程(2)の温度において炭素系導電材を酸化分解する酸化力を有するアルカリ金属化合物であってもよい。以下、このようなアルカリ金属化合物を含む活性化処理剤を「酸化力を有する活性化処理剤」と称す場合がある。
【0078】
このような酸化力を有する活性化処理剤を用いると、炭素系導電材等の導電材の二酸化炭素への酸化を促進すると共に、炭化水素材料等の結着材の二酸化炭素及び水蒸気への酸化を促進することに特に効果を発揮し、本実施形態に係るリサイクル正極活物質の製造方法により得られるリサイクル正極活物質を用いて製造される電池の放電容量を更に高めることができる。また、工程(2)における腐食性ガスの発生を防止する効果を向上させることができる場合もある。
【0079】
炭素系導電材又は炭化水素材料を二酸化炭素及び水蒸気へと酸化するために必要な酸化力を有するアルカリ金属化合物の例としては、アルカリ金属の過酸化物、超酸化物、硝酸塩、硫酸塩、バナジウム酸塩、モリブデン酸塩等が挙げられる。このようなアルカリ金属化合物は、1種単独で使用してよく、2種以上を併用してもよい。
【0080】
アルカリ金属化合物の具体例としては、Li、Na、K、Rb、Cs等の過酸化物;LiO、NaO、KO、RbO、CsO等の超酸化物;LiNO、NaNO、KNO、RbNO、CsNO等の硝酸塩;LiSO、NaSO、KSO、RbSO、CsSO等の硫酸塩;LiVO、NaVO、KVO、RbVO、CsVO等のバナジウム酸塩;LiMoO、NaMoO、KMoO、RbMoO、CsMoO等のモリブデン酸塩などが挙げられる。
【0081】
(工程(2):加熱工程)
工程(2)(加熱工程)は、工程(1)で得られた混合物(以下、「加熱前の混合物」と呼ぶ場合がある。)を活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)以上の温度(例えば保持温度)に加熱して混合物(以下、「加熱後の混合物」と呼ぶ場合がある。)を得る工程である。工程(2)では、加熱前の混合物が結着材を含有する場合には、溶融状態の活性化処理剤が結着材と接触することにより結着材の酸化分解の速度を向上させることが可能であり、加熱前の混合物が炭素系導電材を含有する場合には、溶融状態の活性化処理剤が炭素系導電材と接触することにより炭素系導電材の酸化分解の速度を向上させることもできる。工程(2)では、活性化処理剤が、正極活物質と同じアルカリ金属を含有する場合、不足するアルカリ金属を正極活物質に対して供給することができる。
【0082】
工程(2)では、加熱空間1Lあたり流量0L/min超0.400L/min以下の窒素の存在下(当該流量の窒素を含有する雰囲気中)で加熱前の混合物を加熱する。窒素の流量が0L/min超0.400L/min以下であることにより、優れた初回充放電効率を得ることができる。
【0083】
加熱空間1Lあたりの窒素の流量(単位:L/min。以下、場合により、各種流量の単位の表示を割愛する)は、上記のとおり0超0.400以下であり、優れた初回充放電効率を得やすい観点、優れた放電レート特性を得やすい観点、優れた放電容量維持率を得やすい観点、又は、結晶子サイズの大きなリサイクル正極活物質を得やすい観点から、下記の範囲であってよい。窒素の流量は、0.030以上、0.050以上、0.060以上、0.070以上、0.080以上、0.090以上、0.100以上、0.150以上、0.200以上、0.250以上、0.300以上、又は、0.350以上であってよい。窒素の流量は、0.350以下、0.300以下、0.250以下、0.200以下、0.150以下、0.100以下、0.090以下、0.080以下、又は、0.070以下であってよい。これらの観点から、窒素の流量は、0超0.300以下、0超0.200以下、0超0.100以下、0超0.070以下、0.050~0.400、0.050~0.300、0.050~0.200、0.050~0.100、0.050~0.070、0.070~0.400、0.070~0.300、0.070~0.200、0.070~0.100、0.100~0.400、0.100~0.300、0.100~0.200、0.200~0.400、0.200~0.300、又は、0.300~0.400であってよい。
【0084】
工程(2)では、優れた初回充放電効率を得やすい観点、優れた放電レート特性を得やすい観点、優れた放電容量維持率を得やすい観点、又は、結晶子サイズの大きなリサイクル正極活物質を得やすい観点から、加熱空間1L及び加熱前の混合物1gあたり下記流量(単位:L/min)の窒素の存在下(当該流量の窒素を含有する雰囲気中)で加熱前の混合物を加熱してよい。窒素の流量は、0超、1.0×10-3以上、2.0×10-3以上、2.5×10-3以上、3.0×10-3以上、4.0×10-3以上、5.0×10-3以上、6.0×10-3以上、7.0×10-3以上、8.0×10-3以上、又は、9.0×10-3以上であってよい。窒素の流量は、1.2×10-2以下、1.0×10-2以下、9.0×10-3以下、8.0×10-3以下、7.0×10-3以下、6.0×10-3以下、5.0×10-3以下、4.0×10-3以下、3.0×10-3以下、又は、2.5×10-3以下であってよい。これらの観点から、窒素の流量は、0超1.2×10-2以下、0超8.0×10-3以下、0超5.0×10-3以下、0超3.0×10-3以下、2.0×10-3~1.2×10-2、2.0×10-3~8.0×10-3、2.0×10-3~5.0×10-3、2.0×10-3~3.0×10-3、3.0×10-3~1.2×10-2、3.0×10-3~8.0×10-3、3.0×10-3~5.0×10-3、5.0×10-3~1.2×10-2、5.0×10-3~8.0×10-3、又は、8.0×10-3~1.2×10-2であってよい。
【0085】
窒素の流量は、窒素のみ(例えば窒素ガス)を供給することにより調整してよく、窒素と他の成分とを含有する混合物(例えば、酸素及び窒素を含有する空気)を供給することにより調整してよい。窒素の流量は、加熱空間に供給される窒素の供給量であってよい。
【0086】
工程(2)の雰囲気ガスにおける窒素の割合(単位:体積%)は、優れた初回充放電効率を得やすい観点、優れた放電レート特性を得やすい観点、優れた放電容量維持率を得やすい観点、又は、結晶子サイズの大きなリサイクル正極活物質を得やすい観点から、雰囲気ガスの全体積を基準として、下記の範囲であってよい。窒素の割合は、0%超、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、50%超、60%以上、70%以上、70%超、75%以上、又は、80%以上であってよい。窒素の割合は、80%以下、75%以下、70%以下、60%以下、50%以下、50%未満、又は、40%以下であってよい。これらの観点から、窒素の割合は、0%超80%以下、20~80%、50~80%、70~80%、70%超80%以下、75~80%、0%超50%以下、又は、20~50%であってよい。
【0087】
工程(2)では、酸素及び窒素の存在下(酸素及び窒素を含有する雰囲気中)で加熱前の混合物を加熱してよい。これにより、優れた初回充放電効率を得やすいと共に、リサイクル正極活物質の結晶子サイズを増加させやすい。工程(2)では、酸素が存在しない雰囲気下で加熱前の混合物を加熱してもよい。
【0088】
工程(2)では、優れた初回充放電効率を得やすい観点、優れた放電レート特性を得やすい観点、優れた放電容量維持率を得やすい観点、又は、結晶子サイズの大きなリサイクル正極活物質を得やすい観点から、加熱空間1Lあたり下記流量(単位:L/min)の酸素の存在下(当該流量の酸素を含有する雰囲気中)で加熱前の混合物を加熱してよい。酸素の流量は、0超、0.010以上、0.020以上、0.030以上、0.040以上、0.050以上、0.060以上、0.070以上、0.080以上、0.090以上、0.100以上、0.110以上、又は、0.120以上であってよい。酸素の流量は、0.300以下、0.250以下、0.200以下、0.150以下、0.130以下、0.120以下、0.110以下、0.100以下、0.090以下、0.080以下、0.070以下、0.060以下、0.050以下、0.040以下、0.030以下、又は、0.020以下であってよい。これらの観点から、酸素の流量は、0超0.300以下、0超0.200以下、0超0.150以下、0超0.120以下、0超0.100以下、0超0.080以下、0超0.050以下、0超0.040以下、0.010~0.300、0.010~0.200、0.010~0.150、0.010~0.120、0.010~0.100、0.010~0.080、0.010~0.050、0.010~0.040、0.020~0.300、0.020~0.200、0.020~0.150、0.020~0.120、0.020~0.100、0.020~0.080、0.020~0.050、0.030~0.300、0.030~0.200、0.030~0.150、0.030~0.120、0.030~0.100、0.030~0.080、0.030~0.050、0.040~0.300、0.040~0.200、0.040~0.150、0.040~0.120、0.040~0.100、0.040~0.080、0.040~0.050、0.050~0.300、0.050~0.200、0.050~0.150、0.050~0.120、0.050~0.100、0.050~0.080、0.080~0.300、0.080~0.200、0.080~0.120、0.080~0.100、0.100~0.300、0.100~0.200、又は、0.100~0.150であってよい。
【0089】
工程(2)では、優れた初回充放電効率を得やすい観点、優れた放電レート特性を得やすい観点、優れた放電容量維持率を得やすい観点、又は、結晶子サイズの大きなリサイクル正極活物質を得やすい観点から、加熱空間1L及び加熱前の混合物1gあたり下記流量(単位:L/min)の酸素の存在下(当該流量の酸素を含有する雰囲気中)で加熱前の混合物を加熱してよい。酸素の流量は、0超、1.0×10-4以上、3.0×10-4以上、5.0×10-4以上、6.0×10-4以上、7.0×10-4以上、8.0×10-4以上、1.0×10-3以上、1.2×10-3以上、1.5×10-3以上、1.8×10-3以上、2.0×10-3以上、2.5×10-3以上、又は、3.0×10-3以上であってよい。酸素の流量は、1.0×10-2以下、9.0×10-3以下、8.0×10-3以下、7.0×10-3以下、6.0×10-3以下、5.0×10-3以下、4.0×10-3以下、3.5×10-3以下、3.0×10-3以下、2.5×10-3以下、2.0×10-3以下、1.8×10-3以下、1.5×10-3以下、1.2×10-3以下、又は、1.0×10-3以下であってよい。これらの観点から、酸素の流量は、0超1.0×10-2以下、0超4.0×10-3以下、0超3.0×10-3以下、0超2.0×10-3以下、0超1.5×10-3以下、5.0×10-4~1.0×10-2、5.0×10-4~4.0×10-3、5.0×10-4~3.0×10-3、5.0×10-4~2.0×10-3、5.0×10-4~1.5×10-3、1.5×10-3~1.0×10-2、1.5×10-3~4.0×10-3、1.5×10-3~3.0×10-3、1.5×10-3~2.0×10-3、2.0×10-3~1.0×10-2、2.0×10-3~4.0×10-3、2.0×10-3~3.0×10-3、3.0×10-3~1.0×10-2、又は、3.0×10-3~4.0×10-3であってよい。
【0090】
酸素の流量は、酸素のみ(例えば酸素ガス)を供給することにより調整してよく、酸素と他の成分とを含有する混合物(例えば、酸素及び窒素を含有する空気)を供給することにより調整してよい。酸素の流量は、加熱空間に供給される酸素の供給量であってよい。
【0091】
工程(2)の雰囲気ガスにおける酸素の割合(単位:体積%)は、優れた初回充放電効率を得やすい観点、優れた放電レート特性を得やすい観点、優れた放電容量維持率を得やすい観点、又は、結晶子サイズの大きなリサイクル正極活物質を得やすい観点から、雰囲気ガスの全体積を基準として、下記の範囲であってよい。酸素の割合は、20%以上、25%以上、30%以上、40%以上、50%以上、50%超、又は、60%以上であってよい。酸素の割合は、100%未満、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、50%未満、40%以下、30%以下、30%未満、25%以下、又は、20%以下であってよい。これらの観点から、酸素の割合は、20%以上100%未満、20~80%、20~50%、20~30%、20%以上30%未満、20~25%、50%以上100%未満、又は、50~80%であってよい。
【0092】
工程(2)では、優れた初回充放電効率を得やすい観点、優れた放電レート特性を得やすい観点、優れた放電容量維持率を得やすい観点、又は、結晶子サイズの大きなリサイクル正極活物質を得やすい観点から、加熱空間1Lあたり下記合計流量(単位:L/min)の酸素及び窒素の存在下(当該合計流量の酸素及び窒素を含有する雰囲気中)で加熱前の混合物を加熱してよい。酸素及び窒素の合計流量は、0超、0.050以上、0.100以上、0.150以上、0.200以上、0.250以上、0.300以上、0.350以上、0.400以上、又は、0.450以上であってよい。酸素及び窒素の合計流量は、3.000以下、2.500以下、2.000以下、1.500以下、1.000以下、0.900以下、0.800以下、0.750以下、0.700以下、0.650以下、0.600以下、0.550以下、0.500以下、0.450以下、0.400以下、0.350以下、0.300以下、0.250以下、0.200以下、0.150以下、又は、0.100以下であってよい。これらの観点から、酸素及び窒素の合計流量は、0超3.000以下、0超0.800以下、0超0.600以下、0超0.500以下、0超0.400以下、0超0.300以下、0超0.200以下、0.050~3.000、0.050~0.800、0.050~0.600、0.050~0.500、0.050~0.400、0.050~0.300、0.050~0.200、0.100~3.000、0.100~0.800、0.100~0.600、0.100~0.500、0.100~0.400、0.100~0.300、0.200~3.000、0.200~0.800、0.200~0.600、0.200~0.500、0.200~0.400、0.200~0.300、0.300~3.000、0.300~0.800、0.300~0.600、0.300~0.500、0.300~0.400、0.400~3.000、0.400~0.800、0.400~0.600、又は、0.400~0.500であってよい。
【0093】
工程(2)では、優れた初回充放電効率を得やすい観点、優れた放電レート特性を得やすい観点、優れた放電容量維持率を得やすい観点、又は、結晶子サイズの大きなリサイクル正極活物質を得やすい観点から、加熱空間1L及び加熱前の混合物1gあたり下記合計流量(単位:L/min)の酸素及び窒素の存在下(当該合計流量の酸素及び窒素を含有する雰囲気中)で加熱前の混合物を加熱してよい。酸素及び窒素の合計流量は、0超、1.0×10-3以上、2.0×10-3以上、2.5×10-3以上、3.0×10-3以上、4.0×10-3以上、5.0×10-3以上、6.0×10-3以上、7.0×10-3以上、8.0×10-3以上、9.0×10-3以上、又は、1.0×10-2以上であってよい。酸素及び窒素の合計流量は、1.0×10-1以下、5.0×10-2以下、3.0×10-2以下、2.0×10-2以下、1.8×10-2以下、1.5×10-2以下、1.2×10-2以下、1.0×10-2以下、9.0×10-3以下、8.0×10-3以下、7.0×10-3以下、又は、6.0×10-3以下であってよい。これらの観点から、酸素及び窒素の合計流量は、0超1.0×10-1以下、0超1.5×10-2以下、0超1.0×10-2以下、0超8.0×10-3以下、5.0×10-3~1.0×10-1、5.0×10-3~1.5×10-2、5.0×10-3~1.0×10-2、5.0×10-3~8.0×10-3、8.0×10-3~1.0×10-1、8.0×10-3~1.5×10-2、8.0×10-3~1.0×10-2、1.0×10-2~1.0×10-1、又は、1.0×10-2~1.5×10-2であってよい。
【0094】
酸素及び窒素の合計流量は、酸素のみ(例えば酸素ガス)を供給することにより調整してよく、窒素のみ(例えば窒素ガス)を供給することにより調整してよく、酸素と他の成分とを含有する混合物(例えば、酸素及び窒素を含有する空気)を供給することにより調整してよく、窒素と他の成分とを含有する混合物(例えば、酸素及び窒素を含有する空気)を供給することにより調整してよい。酸素及び窒素の合計流量は、加熱空間に供給される酸素及び窒素の合計の供給量であってよい。
【0095】
工程(2)の雰囲気ガスにおける窒素に対する酸素の比率(酸素/窒素:体積基準)は、優れた初回充放電効率を得やすい観点、優れた放電レート特性を得やすい観点、優れた放電容量維持率を得やすい観点、又は、結晶子サイズの大きなリサイクル正極活物質を得やすい観点から、下記の範囲であってよい。窒素に対する酸素の比率は、0.25以上、0.30以上、0.50以上、0.80以上、1.00以上、1.00超、1.20以上、又は、1.50以上であってよい。窒素に対する酸素の比率は、3.00以下、2.50以下、2.00以下、1.50以下、1.20以下、1.00以下、1.00未満、0.80以下、0.50以下、0.30以下、又は、0.25以下であってよい。これらの観点から、窒素に対する酸素の比率は、0.25~3.00、0.25~2.00、0.25~0.50、0.25~0.30、0.50~3.00、又は、0.50~2.00であってよい。
【0096】
加熱空間には、酸素及び窒素以外の成分が存在してよい。このような成分の例としては、アルゴン、二酸化炭素等が挙げられる。
【0097】
工程(2)では、加熱手段の加熱空間において加熱前の混合物を加熱することができる。加熱手段の例としては、特に限定されないが、ガス炉、電気炉、赤外加熱炉、プラズマ熱処理炉、重油炉、経由炉、水素熱処理炉、誘導加熱炉等の加熱炉などが挙げられる。加熱炉は、バッチ炉であってよく、連続炉であってよい。「加熱空間」は、加熱対象の混合物が収容される空間であり、閉鎖空間であってよく、混合物を搬入又は搬出するための開放口を有する開放空間であってもよい。加熱空間では、雰囲気ガスを排出しつつ雰囲気ガスが供給されてよく、加熱空間の容積は、雰囲気ガスが存在し得る空間の容積として、加熱空間における雰囲気ガスの供給部から排出部までの容積であってよい。
【0098】
「活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)」は、活性化処理剤の一部が液相を呈する最も低い温度を意味する。
【0099】
活性化処理剤の溶融開始温度は、示差熱測定(DTA)により求めた値である。具体的には、活性化処理剤5mgを用いた示差熱測定(昇温速度10℃/min)にて、DTAシグナルが吸熱のピークを示す温度を活性化処理剤の溶融開始温度とする。活性化処理剤が2種以上の化合物を含む場合、DTAシグナルが吸熱のピークを示す最も低い温度を活性化処理剤の溶融開始温度とする。活性化処理剤の溶融開始温度は、アルカリ金属化合物の溶融開始温度であってよい。
【0100】
活性化処理剤の溶融開始温度は、700℃以下、650℃以下、600℃以下、又は、550℃以下であってよい。活性化処理剤の溶融開始温度は、150℃以上、200℃以上、250℃以上、300℃以上、350℃以上、400℃以上、450℃以上、500℃以上、又は、550℃以上であってよい。これらの観点から、活性化処理剤の溶融開始温度は、150~700℃、150~650℃、150~600℃、300~700℃、300~650℃、300~600℃、500~700℃、500~650℃、又は、500~600℃であってよい。
【0101】
正極合材と活性化処理剤とを混合することで、活性化処理剤の溶融開始温度は、活性化処理剤の融点より低くなる。活性化処理剤の融点は、活性化処理剤のみを加熱したときに活性化処理剤の一部が液相を呈する最も低い温度を意味する。
【0102】
活性化処理剤の融点は、示差熱測定(DTA)により求めた値である。具体的には、活性化処理剤5mgを用いた示差熱測定(昇温速度10℃/min)にて、DTAシグナルが吸熱のピークを示す温度を活性化処理剤の融点とする。
【0103】
加熱温度(加熱工程の温度)は、100℃以上、200℃以上、300℃以上、400℃以上、500℃以上、550℃以上、600℃以上、650℃以上、又は、700℃以上であってよい。加熱温度は、1500℃以下、1200℃以下、1000℃以下、900℃以下、850℃以下、800℃以下、750℃以下、又は、700℃以下であってよい。これらの観点から、加熱温度は、100~1500℃、100~1000℃、100~800℃、400~1500℃、400~1000℃、400~800℃、600~1500℃、600~1000℃、又は、600~800℃であってよい。
【0104】
上記加熱温度における保持時間は、10分~24時間であってよい。加熱温度及び保持時間は、正極合材を構成する成分(正極活物質;活性化処理剤に含まれるアルカリ金属化合物及びその他の化合物;導電材;結着材等)におけるそれぞれの種類及び組み合わせにより適宜調節することができる。加熱温度までの昇温速度は、特に限定されない。
【0105】
加熱温度は、活性化処理剤に含まれるアルカリ金属化合物の融点よりも高い温度であることが好ましい。アルカリ金属化合物の融点は、複数種の化合物を混合することで、各化合物の単体の融点よりも下がることがある。活性化処理剤が2種以上のアルカリ金属化合物を含む場合には、共晶点をアルカリ金属化合物の融点とする。
【0106】
工程(2)における雰囲気の圧力は、特に制限はないが、大気圧であってよく、減圧雰囲気であってよく、加圧雰囲気であってよい。
【0107】
加熱前の混合物の量;加熱前の混合物を収容する容器;容器における加熱前の混合物の層厚;雰囲気ガスの供給方法及び供給位置等は、特に限定されない。
【0108】
工程(2)における加熱の後、必要に応じて、加熱後の混合物を任意の温度(例えば、室温(25℃:以下同様)程度)にまで冷却することができる。
【0109】
(工程(3):正極活物質回収工程)
工程(3)(正極活物質回収工程)は、工程(2)の後に、加熱後の混合物から加熱後の正極活物質を回収する工程である。工程(3)では、加熱後の混合物からアルカリ金属化合物の少なくとも一部(一部又は全部)を除去して加熱後の正極活物質を回収してよい。
【0110】
加熱後の混合物は、加熱後の正極活物質の他、活性化処理剤に由来する成分(アルカリ金属化合物等)、未分解の導電材及び結着材、その他の正極合材の未分解物などを含有してよい。フッ素成分を含有する電解質を正極合剤が含有している場合には、加熱後の混合物は、電解質に由来するフッ素成分を含有してよい。
【0111】
加熱後の混合物から加熱後の正極活物質を分離回収する方法の例としては、加熱後の混合物と水等の溶媒とを混合してスラリー化させた後に固液分離する固液分離法;加熱後の混合物を加熱して、加熱後の正極活物質以外の成分を気化して分離する気化分離法などが挙げられる。以下では、固液分離法を行う固液分離工程について説明する。
【0112】
[工程(3a):固液分離工程]
工程(3a)は、加熱後の混合物と、水を含む液体とを混合して(接触させて)、固体成分及び液体成分を含有するスラリーを得た後、スラリーを固体成分と液体成分とに分離する工程である。加熱後の混合物から加熱後の正極活物質を分離回収するために、加熱後の混合物と、水を含む液体とを混合してスラリー化させた後に固液分離して固体成分と液体成分とに分離する。
【0113】
スラリー化に用いる液体は、水を含む限り特に制限はない。液体における水の量は、50質量%以上であってよい。水溶性成分の溶解度を高めたり、処理速度を高めたりするために、液体に水以外の成分を添加してpHを調整してもよい。
【0114】
水を含む液体の好適例としては、純水、アルカリ性洗浄液等が挙げられる。アルカリ性洗浄液の例としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種の無水物並びにその水和物の水溶液等が挙げられる。アルカリとしてアンモニアを使用することもできる。
【0115】
スラリーは、主として加熱後の正極活物質を含む固体成分と、正極活物質以外の水溶性成分を含む液体成分とを含有してよい。液体成分は、活性化処理剤に由来するアルカリ金属成分;結着材及び/又は電解液(例えば、電解液中の電解質)に由来するフッ素成分等を含んでよい。
【0116】
加熱後の混合物と混合される液体の量は、加熱後の混合物に含有される成分(加熱後の正極活物質、正極活物質以外の水溶性成分等)のそれぞれの量を考慮して適宜決定できる。
【0117】
工程(3a)において、加熱後の混合物と、水を含む液体とを攪拌してスラリーを得ることが好ましい。これにより、水溶性成分の溶解が促進される。
【0118】
スラリーは、固液分離に供される。固液分離は、スラリーを固体成分と液体成分とに分離する操作である。固液分離の方法の例としては、従来公知の方法でよく、ろ過、遠心分離法等が挙げられる。
【0119】
工程(3a)において、固液分離した後、固体成分のリンスを実施してもよい。リンスは、固体成分に、再び、水を含む液体を接触させてスラリーを得た後、スラリーを再び固体成分と液体成分とに分離する操作である。工程(3a)では、リンスを複数回実施してもよい。リンスにおけるスラリー濃度は任意に調整できる。
【0120】
(工程(4):乾燥工程)
本実施形態に係るリサイクル正極活物質の製造方法は、工程(3)の後に、工程(3a)で得られた固体成分を含有する未乾燥物を乾燥する工程(4)(乾燥工程)を備えてよい。工程(4)は、工程(3a)で得られた固体成分を含有する未乾燥物を加熱及び/又は減圧環境に曝して、未乾燥物から水を除去する工程である。未乾燥物が水を含有しない場合、本実施形態に係るリサイクル正極活物質の製造方法は、工程(4)を備えなくてよい。
【0121】
工程(4)における加熱温度は、水を除去しやすい観点から、80℃以上、90℃以上、又は、100℃以上であってよい。加熱温度は、900以下、900℃未満、700℃以下、500℃以下、300℃以下、200℃以下、又は、100℃以下であってよい。これらの観点から、加熱温度は、100~900℃であってよい。
【0122】
減圧の到達圧力範囲は、例えば1.0×10-10~1.0×10Paであってよい。
【0123】
(工程(5):アニール(再焼成)工程)
本実施形態に係るリサイクル正極活物質の製造方法は、固体成分(例えば、工程(4)で得られた固体成分)を熱処理する工程(5)(アニール工程)を備えてよい。工程(5)は、好ましくは、固体成分を900℃未満で熱処理する工程である。本実施形態に係るリサイクル正極活物質の製造方法は、工程(5)を備えなくてもよい。
【0124】
工程(5)における熱処理の雰囲気は、特に制限はないが、空気等の酸素含有雰囲気であることが好ましい。熱処理の温度(例えば保持温度)は、例えば100℃以上であってよい。熱処理の保持時間は、例えば1分~24時間であってよい。特に、工程(5)では、350℃以上の温度(例えば保持温度)にて0.1~5時間で加熱することが好ましい。
【実施例
【0125】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0126】
<活性化処理剤混合工程>
90質量部のLiNi0.33Co0.33Mn0.33(正極活物質)、3質量部のPVdF(結着材)、4質量部のグラファイト(導電材)及び3質量部のカーボンブラック(導電材)を混合することにより正極合材(模擬合材)を作製した。この正極合材100質量部に、活性化処理剤としてLiCO10.3質量部及びKCO19.3質量部を混合して混合物A(加熱前の混合物)を得た。活性化処理剤の溶融開始温度は550℃であった。
【0127】
<加熱工程>
40gの混合物Aをアルミナ製の容器(角型匣鉢、寸法:90mm×90mm×25mm)に入れてこの容器を電気炉(加熱空間容積:2.4L)に設置した。容器内における混合物Aの層厚は5mmであった。大気圧下、室温から700℃まで昇温速度300℃/時間で昇温し、混合物Aを保持温度700℃で6時間(昇温時間を含まず)加熱処理(活性化処理)した。室温まで自然冷却した後、加熱後の混合物を回収した。加熱処理において、雰囲気ガスを排気しつつ、実施例1~2、4~5及び比較例1において空気を下記流量で加熱空間に供給し、実施例3において空気及び酸素ガスを下記流量で加熱空間に供給した。加熱空間1Lあたりの酸素流量、窒素流量及びこれらの合計流量、並びに、雰囲気ガスにおける酸素及び窒素の割合を表1に示す。空気は、20体積%の酸素及び80体積%の窒素からなる混合物であると仮定して酸素流量及び窒素流量を算出した。
【0128】
実施例1:空気0.2L/min
実施例2:空気0.5L/min
実施例3:空気0.25L/min及び酸素ガス0.25L/min
実施例4:空気0.8L/min
実施例5:空気1.1L/min
比較例1:空気1.5L/min
【0129】
<固液分離工程>
加熱後の混合物を粉砕した後に水(5℃)と混合することにより濃度2質量%のスラリーを得た。スターラーの回転速度500rpmで5分間スラリーを攪拌した後、スラリーを5分かけてろ過することで固体成分と液体成分とに分離した。
【0130】
<乾燥工程>
上記固体成分を100℃で1時間減圧乾燥した。
【0131】
<アニール工程>
乾燥後の固体成分をアルミナ製の容器に入れてこの容器を電気炉に設置した。大気圧下で、雰囲気ガスを排気すると共に空気を供給しつつ、室温から700℃まで昇温速度300℃/時間で昇温し、固体成分を保持温度700℃で1時間(昇温時間を含まず)加熱処理した。室温まで自然冷却した後、リサイクル正極活物質を回収した。
【0132】
<結晶子サイズの測定>
まず、粉末X線回折測定(線源:CuKα、回折角2θの測定範囲:10~90°、サンプリング幅:0.02、スキャンスピード:4°/min)を行うことによりX線回折スペクトル(回折パターン)を得た。このX線回折スペクトルから、2θ=18.5±1°の範囲内の最大の回折ピークを決定した。粉末X線回折測定におけるX線回折装置としてBruker社製のD8 Advanceを用いた。上記最大の回折ピークの半値幅を算出し、Scherrer式「L=Kλ/Bcosθ」(L:結晶子サイズ、K:Scherrer定数、B:回折ピークの半値幅)を用いることで結晶子サイズを算出した。結果を表1に示す。
【0133】
<正極の製造>
上記リサイクル正極活物質92質量部と、結着材(株式会社クレハ製、品番:PVdF#1100)3質量部と、カーボンブラック(導電材、デンカ株式会社製、品番:HS100)5質量部と、を混合することにより混合物を得た。結着材であるPVdFとしては、予めPVdFをNMPに溶解したバインダー溶液を用いた。正極合材ペースト中の正極活物質、結着材及び導電材の質量の合計が52質量%となるようにNMPを添加して調整した。上記混合物をメノウ乳鉢で混練することにより正極合材ペーストを調製した。
【0134】
厚さ20μmのリチウムイオン二次電池正極集電体用アルミニウム箔1085(日本製箔株式会社製)の一方面に、正極活物質量が10.0±0.2mg/cmとなるように正極合材ペーストを塗布した後、60℃で1時間温風乾燥し、0.5MPaでプレスを行ってから、150℃で8時間真空乾燥することにより正極を得た。この正極の電極面積は1.65cmであった。
【0135】
<電池の製造>
上記正極と、電解液と、セパレータと、負極とを組み合わせてコイン型電池(非水電解質二次電池)を製造した。電池の組み立ては、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。電解液としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートの30:35:35(体積比)混合液に、LiPFを1.0mol/Lとなる割合で溶解した溶液を用いた。セパレータとして、多孔質フィルム(ポリエチレン製)の上に耐熱多孔層を積層した積層フィルムセパレータを使用した。負極として、金属リチウムを使用した。
【0136】
<電池特性>
上記コイン型電池を用いて下記の充放電試験(25℃)を行った。放電レート特性及び放電容量維持率は、実施例1~5についてのみ評価した。結果を表1に示す。
【0137】
(放電レート特性)
1サイクルずつ放電電流を順に変化させつつ、電流1Cで定電流充電を4.3Vまで行った後に定電流放電を2.5Vまで行う充放電を繰り返した。放電電流は、0.2C、0.5C、1C、2C及び3Cの順に変化させた。3Cの放電後の放電容量(単位:mAh/g)を測定した。
【0138】
(放電容量維持率)
電流1Cで定電流充電を電圧4.3Vまで行った後に電流2Cで定電流放電を電圧2.5Vまで行う充放電を50サイクル行い、1サイクル目及び50サイクル目の放電容量を測定した。そして、1サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量の割合([50サイクル/1サイクル]×100%)を放電容量維持率として算出した。
【0139】
(初回充放電効率)
電流0.2Cで定電流充電を4.3Vまで行った後に電流0.2Cで定電流放電を2.5Vまで行った。充電容量及び放電容量を測定し、充電容量に対する放電容量の割合([放電容量/充電容量]×100%)を初回充放電効率として算出した。
【0140】
【表1】
【要約】
【課題】優れた初回充放電効率を得ることが可能なリサイクル正極活物質の製造方法を提供する。
【解決手段】下記工程を備える、リサイクル正極活物質の製造方法。
工程(1):正極活物質を含有する正極合材と、1種又は2種以上のアルカリ金属化合物を含む活性化処理剤と、を混合して混合物を得る工程
工程(2):加熱空間1Lあたり流量0L/min超0.400L/min以下の窒素の存在下で、前記混合物を前記活性化処理剤の溶融開始温度以上の温度に加熱して加熱後の混合物を得る工程
工程(3):前記加熱後の混合物から加熱後の正極活物質を回収する工程
【選択図】なし