(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 81/02 20060101AFI20241217BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20241217BHJP
C08K 5/5415 20060101ALI20241217BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C08L81/02
C08K3/013
C08K5/5415
C08K7/14
(21)【出願番号】P 2024544270
(86)(22)【出願日】2023-08-29
(86)【国際出願番号】 JP2023031136
(87)【国際公開番号】W WO2024048558
(87)【国際公開日】2024-03-07
【審査請求日】2024-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2022139353
(32)【優先日】2022-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】立堀 良祐
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-149797(JP,A)
【文献】特開2011-185340(JP,A)
【文献】特開2015-105359(JP,A)
【文献】特開2022-109212(JP,A)
【文献】特開平08-012886(JP,A)
【文献】国際公開第2021/157162(WO,A1)
【文献】特開2020-084027(JP,A)
【文献】特開2021-024883(JP,A)
【文献】特開2006-328291(JP,A)
【文献】国際公開第2018/180591(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 81/00-81/10
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂
を含む熱可塑性樹脂(但し、ポリエーテルイミド樹脂を除く)、
(B)長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤、及び
(C)アルコキシシラン化合物を含み、
前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂の降温結晶化温度(Tc)が215℃以上であり、但し前記降温結晶化温度(Tc)は前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂を示差走査熱量計にて340℃まで昇温し溶融させてから、10℃/分の速度で降温した際に観察される結晶化に伴う発熱ピーク温度であり、
前記(B)長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤の含有量が、前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して55~180質量部であり、
前記(C)アルコキシシラン化合物の含有量が、前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して
0.6~4.5質量部である、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項2】
前記(C)アルコキシシラン化合物が、エポキシ基、アミノ基、ビニル基、(メタ)アクリル基、イソシアネート基及びメルカプト基から選択される1以上を有するアルコキシシラン化合物を1以上含む、請求項1に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤が、ガラス繊維を含む、請求項1又は2に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンサルファイド樹脂に代表されるポリアリーレンサルファイド樹脂は、耐熱性、機械的物性、耐化学薬品性、寸法安定性、難燃性に優れていることから、電気・電子機器部品材料、自動車部品材料、化学機器部品材料等に広く使用されている。
【0003】
ポリアリーレンサルファイド樹脂成形品の機械的強度を高めるために、扁平な断面形状を有するガラス繊維を配合する技術(例えば特許文献1)や、アルコキシシラン化合物で表面処理された充填剤を配合する技術(例えば特許文献2)等が検討されている。
【0004】
【文献】国際公開第2021/157162号
【文献】特開平08-012886号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明は、曲げ強度及び衝撃強度が優れる成形品を与えることができるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を提供することを課題とする。
【0006】
本発明は以下の態様を有する。
[1](A)ポリアリーレンサルファイド樹脂、(B)長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤、及び(C)アルコキシシラン化合物を含み、
前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂の降温結晶化温度(Tc)が215℃以上であり、但し前記降温結晶化温度(Tc)は前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂を示差走査熱量計にて340℃まで昇温し溶融させてから、10℃/分の速度で降温した際に観察される結晶化に伴う発熱ピーク温度であり、
前記(B)長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤の含有量が、前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して55~180質量部であり、
前記(C)アルコキシシラン化合物の含有量が、前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して0.5~10質量部である、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
[2]前記(C)アルコキシシラン化合物が、エポキシ基、アミノ基、ビニル基、(メタ)アクリル基、イソシアネート基及びメルカプト基から選択される1以上を有するアルコキシシラン化合物を1以上含む、[1]に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
[3]前記(B)長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤が、ガラス繊維を含む、[1]又は[2]に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【0007】
本発明によれば、曲げ強度及び衝撃強度が優れる成形品を与えることができるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はここで説明する一実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができる。また、特定のパラメータについて、複数の上限値及び下限値が記載されている場合、これらの上限値及び下限値の内、任意の上限値と下限値とを組合せて好適な数値範囲とすることができる。数値範囲を示す「X~Y」との表現は、「X以上Y以下」であることを意味している。一実施形態について記載した特定の説明が他の実施形態についても当てはまる場合には、他の実施形態においてはその説明を省略している場合がある。
【0009】
[ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物]
本実施形態に係るポリアリーレンサルファイド樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ともいう)は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂、(B)長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤、及び(C)アルコキシシラン化合物を含み、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂の降温結晶化温度(Tc)が215℃以上であり、但し前記降温結晶化温度(Tc)は(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂を示差走査熱量計にて340℃まで昇温し溶融させてから、10℃/分の速度で降温した際に観察される結晶化に伴う発熱ピーク温度であり、(B)長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤の含有量が、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して55~180質量部であり、(C)アルコキシシラン化合物の含有量が、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して0.5~10質量部である。本実施形態に係る樹脂組成物によれば、曲げ強度及び衝撃強度が優れる成形品を与えることができる。
【0010】
<(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂>
(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂は、以下の一般式(I)で示される繰り返し単位を有する樹脂である。
-(Ar-S)- ・・・(I)
(但し、Arは、アリーレン基を示す。)
【0011】
アリーレン基は、特に限定されないが、例えば、p-フェニレン基、m-フェニレン基、o-フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’-ジフェニレンスルフォン基、p,p’-ビフェニレン基、p,p’-ジフェニレンエーテル基、p,p’-ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基等を挙げることができる。(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂は、上記一般式(I)で示される繰り返し単位の中で、同一の繰り返し単位を用いたホモポリマーの他、用途によっては異種の繰り返し単位を含むコポリマーとすることができる。
【0012】
ホモポリマーとしては、アリーレン基としてp-フェニレン基を有する、p-フェニレンサルファイド基を繰り返し単位とするものが好ましい。p-フェニレンサルファイド基を繰り返し単位とするホモポリマーは、極めて高い耐熱性を持ち、広範な温度領域で高強度、高剛性、さらに高い寸法安定性を示すからである。このようなホモポリマーを用いることで非常に優れた物性を備える成形品を得ることができる。
【0013】
コポリマーとしては、上記のアリーレン基を含むアリーレンサルファイド基の中で異なる2種以上のアリーレンサルファイド基の組み合わせが使用できる。これらの中では、p-フェニレンサルファイド基とm-フェニレンサルファイド基とを含む組み合わせが、耐熱性、成形性、機械的特性等の高い物性を備える成形品を得るという観点から好ましい。p-フェニレンサルファイド基を70mol%以上含むポリマーがより好ましく、80mol%以上含むポリマーがさらに好ましい。なお、フェニレンサルファイド基を有する(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂は、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)である。
【0014】
一般にポリアリーレンサルファイド樹脂は、その製造方法により、実質的に線状で分岐や架橋構造を有しない分子構造のものと、分岐や架橋を有する構造のものが知られているが、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂としてはその何れのタイプを用いてもよい。
【0015】
(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂の310℃及びせん断速度1200sec-1で測定した溶融粘度は、成形加工性及び靭性を高める観点から、好ましくは3~250Pa・sであり、より好ましくは5~150Pa・sであり、さらに好ましくは8~80Pa・sである。
【0016】
(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂の降温結晶化温度(Tc)は、215℃以上であり、好ましくは215℃を超え、より好ましくは216℃以上であり、さらに好ましくは220℃以上であり、特に好ましくは230℃以上である。(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂の降温結晶化温度(Tc)が215℃以上であることにより、驚くべきことに、後述する(C)アルコキシシラン化合物との併用による相乗効果が十分に得られ成形品の曲げ強度及び衝撃強度を高めることができる。
(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂の降温結晶化温度(Tc)の上限値は、好ましくは260℃以下であり、より好ましくは250℃以下であり、特に好ましくは240℃以下である。
一実施形態において、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂の降温結晶化温度(Tc)は、215~260℃であってもよく、215℃を超え260℃以下であってもよく、216~250℃であってもよく、216~240℃であってもよい。一実施形態において、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂の降温結晶化温度(Tc)は219℃であってもよく、これを上記数値範囲の上限値又は下限値とする範囲であってもよい。
【0017】
降温結晶化温度(Tc)は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂を示差走査熱量計にて340℃まで昇温し溶融させてから、10℃/分の速度で降温した際に観察される結晶化に伴う発熱ピーク温度とする。
(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂の降温結晶化温度(Tc)を215℃以上に調整する方法としては、重合後の洗浄処理による手法がプロセス上簡便で好ましいが、必ずしもこの方法に限定されるわけではない。洗浄処理による方法としては、例えば、重合後のポリマーを適当な酸性度の酸性水溶液で洗浄する方法が挙げられる。この場合、酸性水溶液として使用する酸としては、塩酸、硫酸、塩化アンモニウム等の無機酸;酢酸、蟻酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸等の飽和脂肪酸;アクリル酸、クロトン酸、オレイン酸等の不飽和脂肪酸;安息香酸、フタル酸、サリチル酸等の芳香族カルボン酸;シュウ酸、マレイン酸、フマル酸等のジカルボン酸;メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等が挙げられるが、中でも塩酸、酢酸、塩化アンモニウムが好ましい。また、酸性水溶液による洗浄の前後に、必要に応じてアセトン等の有機溶剤や水で洗浄してもよい。例えば、降温結晶化温度(Tc)が低い場合は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂を上記した化合物(例えば酢酸、塩化アンモニウム等)で洗浄処理することによって、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂の降温結晶化温度(Tc)を215℃以上に高めることができる。
【0018】
(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂の製造方法は、特に限定されず、従来公知の製造方法によって製造することができる。例えば、低分子量のポリアリーレンサルファイド樹脂を合成後、公知の重合助剤の存在下で、高温下で重合して高分子量化することで製造することができる。また、複数種類のポリアリーレンサルファイド樹脂を配合して製造してもよい。この場合、上記溶融粘度の異なるポリアリーレンサルファイド樹脂を組み合わせて製造することもできる。溶融粘度の異なるポリアリーレンサルファイド樹脂を組み合わせる場合には、得られる樹脂の溶融粘度が上記範囲内であることが好ましい。また、得られる樹脂の降温結晶化温度(Tc)が215℃以上となる範囲において、降温結晶化温度(Tc)が異なるポリアリーレンサルファイド樹脂を2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0019】
一般的な重合方法により製造されたポリアリーレンサルファイド樹脂は、通常、副生不純物等を除去するために、水又はアセトン等の有機溶剤を用いて数回洗浄される。上記のとおり、一実施形態において、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂は、その後さらに酢酸、塩化アンモニウム等で洗浄されることができる。
【0020】
一実施形態において、樹脂組成物中の(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂の含有量は、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは35質量%以上である。一実施形態において、樹脂組成物中の(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂の含有量は、30~70質量%であってもよく、30~65質量%であってもよく、35~60質量%であってもよい。
一実施形態において、樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂中の、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上が(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂であり得る。一実施形態において、樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂が(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂のみからなるように構成することもできる。
【0021】
<(B)繊維状無機充填剤>
樹脂組成物は、長手方向に直角な断面の長径と短径との比(断面の長径/断面の短径)である異径比(以下、単に「異径比」ともいう。)が3.0以上である繊維状無機充填剤(以下、単に「(B)繊維状無機充填剤」ともいう。)を含む。
【0022】
「長手方向に直角の断面の長径」は、繊維の長手方向に直角の断面における最長の直線距離であり、「長手方向に直角の断面の短径」は、当該断面における長径と直角方向の最長の直線距離である。異径比は、初期形状(溶融混練前の形状)の異径比をいう。異径比は、走査型電子顕微鏡及び画像処理ソフトを用いて算出することができ、10本の(B)繊維状無機充填剤について測定した算術平均値とする。異径比は、メーカー値(メーカーがカタログ等において公表している数値)を採用することもできる。
【0023】
一般に、樹脂成形品の機械的強度の指標として、成形品に引張力が与えられたときの強度を示す引張強度、成形品に曲げ荷重が与えられたときの強度を示す曲げ強度、及び成形品に衝撃が与えられたときの強度を示す衝撃強度等がある。これらの指標は、いずれも、力が与えられる方向や力が与えられる方法が異なるので、いずれかの指標が優れていれば他の指標も優れているという関係にはない。例えば、引張強度が優れていても曲げ強度が必ずしも優れているわけではない。本実施形態に係る樹脂組成物は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂に、(B)所定の異径比を有する繊維状無機充填剤と、後述する(C)アルコキシシラン化合物とを所定量で併用することによって、成形品の機械的強度のうち、特に曲げ強度及び衝撃強度が優れる成形品を与えることができる。
【0024】
(B)繊維状無機充填剤の異径比は、3.0以上であり、好ましくは3.5以上であり、より好ましくは3.8以上である。異径比の上限値は、10.0以下であり、好ましくは8.0以下であり、より好ましくは6.0以下である。一実施形態において、(B)繊維状無機充填剤の異径比は、3.0~10.0であってもよく、3.5~8.0であってもよく、3.8~6.0であってもよい。一実施形態において、(B)繊維状無機充填剤の異径比は、4.0であってもよく、これを上記した数値範囲の上限値又は下限値とする範囲であってもよい。
【0025】
(B)繊維状無機充填剤としては、例えば、繊維の長手方向に直角な断面形状が、長円形、半円、繭形(長円形の長手方向の一部が内側に窪んだ形状)、矩形又はこれらの類似形である繊維状の無機充填剤を挙げることができる。
【0026】
(B)繊維状無機充填剤の長手方向に直角の断面の長径は、好ましくは10~40μmであり、より好ましくは20~30μmである。
(B)繊維状無機充填剤の長手方向に直角の断面の短径は、好ましくは1~20μmであり、より好ましくは3~10μmである。
長手方向に直角の断面の長径及び短径は、いずれも、走査型電子顕微鏡及び画像処理ソフトを用いて算出することができ、10本の(B)繊維状無機充填剤について測定した算術平均値とする。また、長手方向に直角の断面の長径及び短径は、いずれも、メーカー値(メーカーがカタログ等において公表している数値)を採用することもできる。
【0027】
(B)繊維状無機充填剤の平均繊維長は、成形品の曲げ強度及び衝撃強度をより高める観点から、樹脂組成物中に溶融混練する前の平均繊維長(カット長)として、好ましくは0.01~3.5mmであり、より好ましくは0.05~3.5mmであり、さらに好ましくは0.1~3.5mmであり、特に好ましくは0.5~3mmである。平均繊維長は、走査型電子顕微鏡及び画像処理ソフトを用いて算出することができ、1000本の(B)繊維状無機充填剤について測定した算術平均値とする。平均繊維長は、メーカー値(メーカーがカタログ等において公表している数値)を採用することもできる。
【0028】
成形品内の(B)繊維状無機充填剤の平均繊維長としては、成形品の曲げ強度及び衝撃強度をより高める観点から、好ましくは50~1000μmであり、より好ましくは100~900μmである。成形品内の(B)繊維状無機充填剤の平均繊維長は、成形品を600℃で3~5時間加熱して灰化した残渣3mgを5%ポリエチレングリコール水溶液に分散させ、よく攪拌した後、10mLをシャーレに移し、画像測定機を用いて算出することができ、1000本の(B)繊維状無機充填剤について測定した算術平均値とする。
【0029】
(B)繊維状無機充填剤の断面積は、製造しやすさの点で、1×10-5~1×10-3mm2であることが好ましく、1×10-4~5×10-4mm2であることがより好ましい。「断面積」は、走査型電子顕微鏡及び画像処理ソフトを用いて測定した(B)繊維状無機充填剤の断面の最長の直線距離を長径とし、最短の直線距離を短径とした場合に、長径を2で除した値と、短径を2で除した値とを乗じた値に、さらに円周率πを乗じた値とすることができる。断面積は、10本の(B)繊維状無機充填剤について測定した算術平均値とする。
【0030】
(B)繊維状無機充填剤の材料としては、ガラス繊維、カーボン繊維、酸化亜鉛繊維、酸化チタン繊維、ウォラストナイト、シリカ繊維、シリカ-アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化ケイ素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維、等の鉱物繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維、チタン繊維、銅繊維、真鍮繊維等の金属繊維状物質等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることが好ましい。中でも、ガラス繊維を含むことがより好ましい。また、樹脂組成物の比重を軽くする等の目的で、(B)繊維状無機充填剤として中空の繊維を使用することもできる。
【0031】
(B)繊維状無機充填剤は、一般的に知られているエポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物、脂肪酸等の各種表面処理剤により表面処理されていてもよい。表面処理により、(A)ポリアリーレンサルファイド系樹脂との密着性を向上させることができる。表面処理剤は、材料調製の前に予め(B)繊維状無機充填剤に適用して表面処理又は収束処理を施しておくか、又は材料調製の際に同時に添加してもよい。
【0032】
(B)繊維状無機充填剤の含有量は、(A)ポリアリーレンサルファイド系樹脂100質量部に対して55~180質量部であり、好ましくは58~170質量部であり、より好ましくは60~160質量部であり、さらに好ましくは65~155質量部である。(B)繊維状無機充填剤の含有量が、(A)ポリアリーレンサルファイド系樹脂100質量部に対して55~180質量部であることにより、後述する(C)アルコキシシラン化合物との併用による相乗効果が十分に得られ成形品の曲げ強度及び衝撃強度を高めることができる。
一実施形態において、(B)繊維状無機充填剤の含有量は、(A)ポリアリーレンサルファイド系樹脂100質量部に対して68~153質量部であり得る。一実施形態において、(B)繊維状無機充填剤の含有量は、(A)ポリアリーレンサルファイド系樹脂100質量部に対して68質量部であってもよく、101質量部であってもよく、102質量部であってもよく、153質量部であってもよく、これらを上限値又は下限値とする範囲であってもよい。
【0033】
(B)繊維状無機充填剤の含有量は、樹脂組成物中に、好ましくは35~65質量%であり、より好ましくは36~64質量%である。一実施形態において、(B)繊維状無機充填剤の含有量は、樹脂組成物中に、40~61質量%であってもよい。
【0034】
樹脂組成物は、後述するように、必要に応じて、(B)繊維状無機充填剤以外のその他の無機充填剤等を含み得るが、全無機充填剤中の(B)繊維状無機充填剤の含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。一実施形態において、無機充填剤は、(B)繊維状無機充填剤からなるように構成することもできる。
【0035】
<その他の無機充填剤>
樹脂組成物は、必要に応じて、(B)繊維状無機充填剤に加えて、その他の無機充填剤を含み得る。その他の無機充填剤としては、(B)繊維状無機充填剤以外の繊維状無機充填剤や、非繊維状無機充填剤等が挙げられる。
【0036】
(B)繊維状無機充填剤以外の繊維状無機充填剤としては、長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が、3.0未満、2.0未満又は1.5以下である繊維状充填剤が挙げられる。(B)繊維状無機充填剤以外の繊維状無機充填剤としては、例えば、繊維の長手方向に直角な断面形状が丸形又は正方形である繊維状無機充填剤があげられる。(B)繊維状無機充填剤以外の繊維状無機充填剤の材質は、限定されず、上記した(B)繊維状無機充填剤において例示した繊維状充填剤を挙げることができ、それらから選ばれる1以上を含み得る。(B)繊維状無機充填剤と(B)繊維状無機充填剤以外の繊維状無機充填剤とは、材質が同じであってもよく異なっていてもよい。その他の繊維状無機充填剤の平均繊維長及び平均繊維径は限定されない。
【0037】
非繊維状無機充填剤としては、粉粒状無機充填剤、板状無機充填剤等を挙げることができる。
粉粒状無機充填剤としては、カーボンブラック、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、タルク(粒状)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、珪藻土等のケイ酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ等の金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩、その他炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化硼素、各種金属粉末等が挙げられ、これらから選択される1以上を含み得る。板状無機充填剤としては、例えば、ガラスフレーク、タルク(板状)、マイカ、カオリン、クレイ、アルミナ、各種の金属箔等が挙げられ、これらから選択される1以上を含み得る。非繊維状無機充填剤の平均粒子径(D50)は、限定されず、例えば0.1~100μmとすることができる。
【0038】
その他の無機充填剤の含有量は、限定されず、例えば、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して、0~50質量部とすることができ、40質量部未満とすることもできる。一実施形態において、その他の無機充填剤は少ないほうが好ましい。
一実施形態において、長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が、3.0未満である繊維状充填剤の含有量は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して1質量部未満であることが好ましく、0.5質量部未満であることがより好ましく、0.1質量部未満であることがさらに好ましい。一実施形態において、長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が、3.0未満である繊維状充填剤を含まないように構成することもできる。
【0039】
<(C)アルコキシシラン化合物>
樹脂組成物は、(C)アルコキシシラン化合物を含む。(C)アルコキシシラン化合物は、エポキシ基、アミノ基、ビニル基、(メタ)アクリル基、イソシアネート基及びメルカプト基から選択される1以上を有するアルコキシシラン化合物を1種又は2種以上含有することが好ましい。
【0040】
一実施形態において、(C)アルコキシシラン化合物は、以下の式(II)で表されることが好ましい。
R1
nSi(OR2)4-n (II)
式(II)において、R1は、エポキシ基、アミノ基、ビニル基、(メタ)アクリル基、イソシアネート基又はメルカプト基を有する炭素原子数が1~18(好ましくは1~10)のアルキル基であり、R2は炭素原子数1~4のアルキル基であり、nは1~3の整数である。
【0041】
(C)アルコキシシラン化合物としては、例えば、エポキシアルコキシシラン、アミノアルコキシシラン、ビニルアルコキシシラン、(メタ)アクリルアルコキシシラン、イソシアネートアルコキシシラン、メルカプトアルコキシシラン等のアルコキシシランが挙げられ、これらの1種又は2種以上を含むことが好ましい。なお、アルコキシ基の炭素原子数は1~10が好ましく、特に好ましくは1~4である。(C)アルコキシシラン化合物は、1種又は2種以上を含むことができる。
【0042】
エポキシアルコキシシランとしては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0043】
アミノアルコキシシランとしては、例えば、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ジアリルアミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ジアリルアミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0044】
ビニルアルコキシシランとしては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン等が挙げられる。
【0045】
(メタ)アクリルアルコキシシランとしては、例えば、γ-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0046】
イソシアネートアルコキシシランとしては、例えば、γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0047】
メルカプトアルコキシシランとしては、例えば、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0048】
これらの内、エポキシアルコキシシラン及びアミノアルコキシシランから選択される1以上を含むことがより好ましく、γ-アミノプロピルトリエトキシシランを含むことが特に好ましい。
【0049】
(C)アルコキシシラン化合物の含有量は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して0.5~10質量部であり、好ましくは0.6~8質量部であり、さらに好ましくは0.7~4.5質量部である。(C)アルコキシシラン化合物の含有量が、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して0.5~10質量部であることにより、(B)繊維状無機充填剤との併用による相乗効果が十分に得られ成形品の曲げ強度及び衝撃強度を高めることができる。
一実施形態において、(C)アルコキシシラン化合物の含有量は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して、0.5質量部であってもよく、1.0質量部であってもよく、1.2質量部であってもよく、1.5質量部であってもよく、これらを上限値又は下限値とする範囲であってもよい。
【0050】
上記したように、(B)繊維状無機充填剤はシラン系化合物等で表面処理され得る。一実施形態において、(B)繊維状無機充填剤がアルコキシシラン化合物で表面処理されている場合は、(C)アルコキシシラン化合物の含有量には、表面処理剤に由来するアルコキシシラン化合物の含有量が含まれ得る。この場合においても、(C)アルコキシシラン化合物の含有量は上記範囲内であることが好ましい。
【0051】
(その他の添加剤等)
樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、その目的に応じた所望の特性を付与するために、一般に熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂に添加される公知の添加剤を、要求性能に応じ含有することができる。添加剤としては、バリ抑制剤、離型剤、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、結晶化促進剤、結晶核剤、各種酸化防止剤、熱安定剤、耐候性安定剤、及び腐食防止剤等を挙げることができる。離型剤としては、ポリエチレンワックス、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド等を挙げることができる。結晶核剤としては、窒化ホウ素、タルク、カオリン、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等を挙げることができる。腐食防止剤としては、酸化亜鉛、炭酸亜鉛等を挙げることができる。上記添加剤の含有量は、全樹脂組成物中5質量%以下にすることができる。
【0052】
また、樹脂組成物には、その目的に応じ前記成分の他に、他の熱可塑性樹脂成分を補助的に少量併用することも可能である。ここで用いられる他の熱可塑性樹脂としては、高温において安定な樹脂であれば何れのものでもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の、芳香族ジカルボン酸とジオール、或いはオキシカルボン酸等からなる芳香族ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ABS、ポリフェニレンオキサイド、ポリアルキルアクリレート、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、フッ素樹脂、液晶ポリマー、環状オレフィンコポリマー等を挙げることができる。また、これらの熱可塑性樹脂は、2種以上混合して使用することもできる。他の熱可塑性樹脂成分の含有量は、例えば、全樹脂組成物中20質量%以下にすることができる。
【0053】
(ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の製造方法)
樹脂組成物の製造方法は、特に限定されず、公知の方法によって上記各成分を溶融混練して製造することができる。例えば、各成分を混合した後、押出機により練り込み押出してペレットを調製する方法、一旦組成の異なるペレットを調製し、そのペレットを所定量混合して成形に供し、成形後に目的組成の成形品を得る方法、成形機に各成分の1又は2以上を直接仕込む方法等、いずれも使用できる。
【0054】
樹脂組成物は、成形品の引張強度(TS)が、好ましくは195MPa以上であり、195MPa以上であれば、従来と同等又はそれ以上の引張強度を有しているといえる。本実施形態に係る樹脂組成物によれば、従来と同等以上の引張強度を有した成形品を与えることができる。引張強度(TS)は、樹脂組成物のペレットを140℃で3時間乾燥後、射出成形により、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で、ISO3167:93に準じたA型試験片(幅10mm、厚み4mmt)を作製し、この試験片を用い、ISO527-1,2に準じて測定した値とする。
【0055】
樹脂組成物は、成形品の曲げ強度(FS)が、好ましくは290MPa以上であり、より好ましくは300MPa以上である。本実施形態に係る樹脂組成物によれば、従来よりも曲げ強度が向上した成形品を与えることができる。曲げ強度(FS)は、樹脂組成物のペレットを140℃で3時間乾燥後、射出成形により、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で、ISO316に準じた試験片(幅10mm、厚み4mmt)を作製し、この試験片を用い、ISO178に準じて測定した値とする。
【0056】
樹脂組成物は、成形品のシャルピー衝撃強度(ノッチ付き)が、好ましくは11.0kJ/m2以上であり、より好ましくは11.5kJ/m2以上であり、さらに好ましくは15.0kJ/m2以上である。本実施形態に係る樹脂組成物によれば、従来よりもシャルピー衝撃強度が向上した成形品を与えることができる。シャルピー衝撃強度は、樹脂組成物のペレットを140℃で3時間乾燥後、射出成形により、シリンダー温度320℃、金型温度150℃でISO316に準じた試験片(幅10mm、厚み4mmt、ノッチ付き)を作製し、この試験片を用い、ISO179-1に準じて測定した値とする。
【0057】
(用途)
本実施形態の樹脂組成物は、曲げ強度及び衝撃強度が優れる成形品を与えることができるので、電気・電子機器部品用、自動車部品用、化学機器部品用等の各種用途に用いることができる。
【実施例】
【0058】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0059】
[実施例1~7、比較例1~11]
以下に示す材料を用いて、表1に示す組成及び含有割合で、ポリアリーレンサルファイド樹脂、繊維状無機充填剤、及びアルコキシシラン化合物をドライブレンドした。これをシリンダー温度320℃の二軸押出機に投入して(ガラス繊維は押出機のサイドフィード部より別添加)溶融混練することで、実施例及び比較例の樹脂組成物ペレットを得た。
【0060】
(ポリアリーレンサルファイド樹脂)
PPS-1:ポリフェニレンサルファイド樹脂、(株)クレハ製「フォートロンKPS」(溶融粘度:30Pa・s(せん断速度:1200sec-1、310℃)、Tc:219℃)
PPS-2:以下の方法で合成したポリフェニレンサルファイド樹脂(Tc:183℃)
【0061】
(PPS-2の合成方法)
20LのオートクレーブにNMP5700gを仕込み、窒素ガスで置換後、撹拌機の回転数を250rpmで撹拌しながら、約1時間かけて100℃まで昇温した。100℃に到達後、濃度74.7重量%のNaOH水溶液1170g、硫黄源水溶液1990g(NaSH21.8モル及びNa2S0.50モルを含む)、及びNMP1000gを加え、約2時間かけて、徐々に200℃まで昇温し、水945g、NMP1590g、及び0.31モルの硫化水素を系外に排出した。
上記脱水工程の後、170℃まで冷却し、p-DCB3459g、NMP2800g、水133g、及び濃度97重量%のNaOHを23g加えたところ、缶内温度は130℃になった。引き続き、撹拌機の回転数250rpmで撹拌しながら、180℃まで30分間かけて昇温し、さらに、180℃から220℃までの間は60分間かけて昇温した。その温度で60分間反応させた後、230℃まで30分間かけて昇温し、230℃で90分間反応を行い、前段重合を行った。
前段重合終了後、直ちに撹拌機の回転数を400rpmに上げ、水340gを圧入した。水圧入後、260℃まで1時間で昇温し、その温度で5時間反応させ後段重合を行った。後段重合終了後、反応混合物を室温付近まで冷却してから、内容物を100メッシュのスクリーンで粒状ポリマーを篩別し、次いで、アセトン洗いを3回、水洗を5回行い、洗浄した粒状ポリマーを得た。粒状ポリマーは、105℃で13時間乾操した。このようにして得られた粒状ポリマーは、溶融粘度(せん断速度:1200sec-1、310℃)が30Pa・sであった。この操作を5回繰返し、必要量のポリマー(PPS-2)を得た。
【0062】
(PPS樹脂の溶融粘度の測定)
上記PPS樹脂の溶融粘度は以下のようにして測定した。(株)東洋精機製作所製キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmLのフラットダイを使用し、バレル温度310℃、せん断速度1200sec-1での溶融粘度を測定した。
【0063】
(Tcの測定方法)
上記PPS樹脂のTcは以下のようにして測定した。
PPS樹脂約5mgを秤量し、パーキンエルマー社製示差走査熱量計DSC-8500を用い、昇温速度10℃/分で昇温し、340℃で5分間保持後、10℃/分の速度で降温させ、得られたDSCチャートから結晶化ピーク(発熱ピーク)温度を読み取ることによりTcとした。
【0064】
(繊維状無機充填剤)
GF1:ガラス繊維、日本電気硝子(株)製、フラットガラスファイバ ESC03T-760-FGF、断面が長円形、長径28μm、短径7μm、長径/短径の比4.0、平均繊維長3mm
GF2:ガラス繊維、日東紡績(株)製、異形断面チョップドストランド CSG 3PA-830、断面が長円形、長径28μm、短径7μm、長径/短径の比4.0、平均繊維長3mm
比較GF:ガラス繊維、日本電気硝子(株)製、チョップドストランド ECS03T-717、断面が略円形、長径13μm、短径13μm、長径/短径の比1.0、平均繊維長3mm
【0065】
(アルコキシシラン化合物)
アルコキシシラン化合物:γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、信越化学工業(株)製「KBE-903P」
【0066】
[測定]
(引張強度:TS)
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物ペレットを140℃で3時間乾燥後、射出成形により、成形シリンダー温度320℃、金型温度150℃で、ISO3167:93に準じたA型試験片(幅10mm、厚み4mmt)を作製した。この試験片を用い、ISO527-1,2に準じて引張強さ(MPa)を測定した。結果を表1に示した。引張強度が195MPa以上である場合、従来と同等又はそれ以上の引張強度を有していると評価される。
【0067】
(曲げ強度:FS)
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物ペレットを140℃で3時間乾燥後、射出成形により、成形シリンダー温度320℃、金型温度150℃で、ISO316に準じた試験片(幅10mm、厚み4mmt)を作製した。この試験片を用い、ISO178に準じて曲げ強さ(MPa)を測定した。結果を表1に示した。曲げ強度が290MPa以上の場合、曲げ強度が優れていると評価される。
【0068】
(シャルピー衝撃強度(ノッチ付き))
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物ペレットを140℃で3時間乾燥後、射出成形により、成形シリンダー温度320℃、金型温度150℃で、ISO316に準じた試験片(幅10mm、厚み4mmt)を作製した。この試験片を用い、ISO179-1に準じてシャルピー衝撃強度(ノッチ付き)(kJ/m2)を測定した。結果を表1に示した。シャルピー衝撃強度が11.0kJ/m2以上である場合、衝撃強度が優れていると評価される。
【0069】
【0070】
表1に示すように、実施例1~7の樹脂組成物は、曲げ強度がいずれも290MPa以上、かつシャルピー衝撃強度がいずれも11.0kJ/m2以上であり、曲げ強度及び衝撃強度が優れる成形品を与えることができる。また、引張強度がいずれも195MPa以上であり、従来と同等以上の引張強度を実現することができる。
これに対して、比較例1~6の樹脂組成物は、異径比が3.0未満である繊維状無機充填剤を用いており、比較例1~3のようにアルコキシシラン化合物を含んでいても、優れた曲げ強度と衝撃強度とを両立することができない。
比較例7の樹脂組成物は、アルコキシシラン化合物の含有量がポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して0.5質量部未満であり、曲げ強度が劣る結果となった。
比較例8の樹脂組成物は、ポリアリーレンサルファイド樹脂の降温結晶化温度(Tc)が215℃未満であり、曲げ強度が劣る結果となった。
比較例9~11の樹脂組成物は、アルコキシシラン化合物を含んでおらず、異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤を用いても、曲げ強度が劣る結果となった。
なお、比較例1、7、8、10、11に示すように、引張強度が195MPaを超えている高い場合であっても、曲げ強度を向上する効果は得られない。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本実施形態の樹脂組成物は、曲げ強度及び衝撃強度が優れる成形品を与えることができるので、電気・電子機器部品材料、自動車部品材料、化学機器部品材料等に好適に用いることができ、産業上の利用可能性を有している。