(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/66 20060101AFI20241218BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
F16C33/66 Z
F16C19/06
(21)【出願番号】P 2021063725
(22)【出願日】2021-04-02
【審査請求日】2024-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】渡部 速人
(72)【発明者】
【氏名】石田 和也
(72)【発明者】
【氏名】平野 広昭
(72)【発明者】
【氏名】繁原 秀孝
(72)【発明者】
【氏名】繁原 秀和
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-090713(JP,A)
【文献】実開昭55-181021(JP,U)
【文献】特開2017-172711(JP,A)
【文献】特開2006-118527(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0017109(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/66
F16C 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の軌道輪及び複数の転動体を有する転がり軸受と、
前記軌道輪の側面に配置され、前記複数の転動体及び当該軌道輪の軌道面に潤滑用のオイルを供給するためのオイル供給体であって、前記軌道輪と協働して前記オイルが充満するオイル溜空間を構成するオイル供給体と
、
前記オイル供給体の姿勢を保持するための姿勢保持部とを備え、
前記オイル供給体の外周側には、前記オイル溜空間に前記オイルを供給するためのオイル流入部、及び前記オイル溜空間内の前記オイルを排出させるためのオイル流出部それぞれが少なくとも1つずつ設けられており、
前記オイル供給体は、前記転がり軸受の中心軸線方向の位置を決めるスペーサであり、
前記オイル溜空間は、少なくとも前記転動体側が開放された
環状の空間であ
って、かつ、全周に亘って前記転動体側が開放され、
さらに、前記姿勢保持部は、前記オイル流入部又は前記オイル流出部に設けられている軸受装置。
【請求項2】
前記オイル供給体のうち前記軌道輪側には、前記オイル溜空間の少なくとも一部を構成するとともに、当該軌道輪と反対向きに窪んだ環状の凹み部が設けられており、
前記オイル供給体は環状に構成されているとともに、当該オイル供給体の内径寸法は、前記転がり軸受の内径寸法より大きく、
さらに、前記凹み部は、前記オイル供給体の内周側空間に連通している請求項1に記載の軸受装置。
【請求項3】
前記軌道輪は、前記複数の転動体に対して径方向外側に配置された外輪及び前記複数の転動体に対して径方向内側に配置された内輪を有して構成され、
前記オイル供給体の内径寸法は、前記内輪の外径寸法より大きい請求項2に記載の軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、転がり軸受を備える軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載の軸受装置では、転がり軸受に潤滑用のオイルを供給している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、転がり軸受に潤滑用のオイルを供給するための具体的な構成の一例を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
軸受装置は、例えば、以下の構成要件のうち少なくとも1つを備えることが望ましい。すなわち、当該構成要件は、環状の軌道輪(11)及び複数の転動体(12)を有する転がり軸受(10)と、軌道輪(11)の側面に配置され、複数の転動体(12)及び当該軌道輪(11)の軌道面に潤滑用のオイルを供給するためのオイル供給体(20)であって、軌道輪(11)と協働してオイルが充満するオイル溜空間(30)を構成するオイル供給体(20)とを備え、オイル溜空間(30)は、少なくとも転動体(12)側が開放された空間であることである。
【0006】
これにより、当該軸受装置では、オイル溜空間(30)から転がり軸受(10)にオイルが供給される。したがって、例えば、特許文献1に記載されたオイルジェット潤滑に比べて、オイルが転がり軸受(10)全体に安定的に供給され得る。延いては、当該軸受装置であれば、高回転で回転するモータ軸やギヤシャフト等の回転軸を安定的に支持することが可能となり得る。
【0007】
因みに、上記各括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的構成等との対応関係を示す一例であり、本開示は上記括弧内の符号に示された具体的構成等に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係る軸受装置を示す図である。
【
図2】第1実施形態に係る軸受装置の構造を示す図である。
【
図3】第1実施形態に係る軸受装置の構造を示す一部拡大図である。
【
図4】第1実施形態に係るオイル供給体を示す図である。
【
図5】第2実施形態に係る軸受装置の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の「発明の実施形態」は、本開示の技術的範囲に属する実施形態の一例を示すものである。つまり、特許請求の範囲に記載された発明特定事項等は、下記の実施形態に示された具体的構成や構造等に限定されない。
【0010】
なお、各図に付された方向を示す矢印及び斜線等は、各図相互の関係及び各部材又は部位の形状を理解し易くするために記載されたものである。したがって、本開示に示された発明は、各図に付された方向に限定されない。斜線が付された図は、必ずしも断面図を示すものではない。
【0011】
少なくとも符号が付されて説明された部材又は部位は、「1つの」等の断りがされた場合を除き、少なくとも1つ設けられている。つまり、「1つの」等の断りがない場合には、当該部材は2以上設けられていてもよい。本開示に示された軸受装置は、少なくとも符号が付されて説明された部材又は部位等の構成要素、並びに図示された構造部位を備える。
【0012】
(第1実施形態)
<1.軸受装置の概要>
本実施形態は、電動車両等の輸送機器に用いられる電動機に本開示に係る軸受装置の一例が適用されたものである。なお、本願に係る電動車両とは、電動機のみで走行可能な車両、及び電動機と内燃機関とを併用して走行可能な車両等をいう。
【0013】
軸受装置1は、
図1に示されるように、少なくとも1つ(本実施形態では、2つ)の転がり軸受10、及び少なくとも1つのオイル供給体20等を備える。なお、2つの転がり軸受10は、同一の転がり軸受である。
【0014】
すなわち、各転がり軸受10は、環状の軌道輪11、複数の転動体12及び保持器(図示せず。)等を少なくとも有して構成されている。軌道輪11は、複数の転動体12が転がり接触する軌道面を構成する部材である。
【0015】
各転動体12は、軌道面に転がり接触する回転体である。なお、本実施形態に係る各転動体12は、鋼球で構成され、かつ、軌道輪11の中心軸線を中心とする仮想円上に配置されている。
【0016】
本実施形態に係る軌道輪11は、外輪11A及び内輪11Bにて構成されている。外輪11Aは、転動体12に対して径方向外側に配置されている。内輪11Bは、転動体12に対して径方向内側に配置されている。以下、外輪11A及び内輪11Bを総称して軌道輪11と記す。
【0017】
保持器は、軌道輪11の側面の両側に配置されている。すなわち、保持器は、軌道輪11に対して2つ設けられている。当該各保持器は、各転動体12の位置を保持して隣り合う転動体12が接触することを規制する。なお、軌道輪11の側面とは、軌道輪11の中心軸線Lo(
図2参照)と直交する仮想面に対向する面をいう。
【0018】
オイル供給体20は、軌道輪11の側面に配置され、各転動体12及び軌道面に潤滑用のオイル(以下、潤滑油という。)を供給するため部材である。なお、本実施形態に係るオイル供給体20は、
図2に示されるように、2つの転がり軸受10の間に配置されて、当該転がり軸受10の中心軸線Lo方向の位置を決めるスペーサとしての機能も兼ね備えている。
【0019】
<2.オイル供給体の詳細構造>
本実施形態に係るオイル供給体20は、
図2に示されるように、中心線L1に対して略対称な構造である。つまり、オイル供給体20は、紙面左側の転がり軸受10に面する側の形状と紙面右側の転がり軸受10に面する側の形状とが中心線L1に対して対称な形状である。
【0020】
以下の説明は、オイル供給体20のうち、主に紙面右側の転がり軸受10に面する側の形状に関する説明である。
【0021】
オイル供給体20は、
図3に示されるように、軌道輪11及び転動体12と協働してオイル溜空間30(二点鎖線の斜線が付された部分)を構成する。オイル溜空間30は、潤滑油が充満する空間であって、少なくとも軌道輪11側、つまり転動体12側が開放された空間である。
【0022】
換言すれば、軌道輪11及び転動体12が配置された空間とオイル溜空間30とは、直接的又は間接的に連通している。このため、オイル溜空間30に充満している潤滑油は、軌道輪11及び転動体12が配置された空間に供給される。
【0023】
本実施形態に係るオイル溜空間30は、第1オイル溜空間31及び第2オイル溜空間32等を有して構成されている。第1オイル溜空間31は、外輪11Aと内輪11Bとの間に構成される環状の空間であって、転動体12とオイル供給体20とに面した空間である。
【0024】
第2オイル溜空間32は、オイル供給体20に設けられた凹み部21(
図4参照)により構成されている。凹み部21は、オイル供給体20のうち軌道輪11側に設けられ、当該軌道輪11と反対向きに窪んだ環状の凹部である(
図3参照)。
【0025】
このため、本実施形態に係るオイル溜空間30、つまり第1オイル溜空間31及び第2オイル溜空間32は、
図3に示されるように、環状、かつ、全周に亘って転動体12側が開放された空間となっている。
【0026】
なお、第1オイル溜空間31には、保持器(図示せず。)が配置されている。つまり、本実施形態に係るオイル溜空間30は、中心線L1(
図3参照)方向における保持器と軌道輪11との隙間を介して間接的に転動体12及び軌道面側に繋がっている。
【0027】
オイル供給体20の外周側には、
図4に示されるように、オイル流入部22及びオイル流出部23それぞれが少なくとも1つずつ設けられている。オイル流入部22は、凹み部21、つまりオイル溜空間30に潤滑油を供給する供給口である。
【0028】
オイル流出部23は、オイル溜空間30内の潤滑油を排出させるための排出口である。なお、オイル流入部22又はオイル流出部23(本実施形態では、オイル流出部23)には、オイル供給体20の姿勢を保持するための姿勢保持部24が設けられている。
【0029】
姿勢保持部24は、オイル供給体20の外周面から径方向に突出した突起状の部位である。当該姿勢保持部24が、モータハウジング(図示せず。)の凹部に嵌め込まれることにより、オイル供給体20の姿勢が維持される。
【0030】
本実施形態では、オイル供給体20から排出された潤滑油は、フィルタ(図示せず。)にて濾された後、オイルクーラ(図示せず。)にて冷却される。そして、当該冷却された潤滑油は、再び、オイル供給体20に供給される。
【0031】
なお、本実施形態では、オイル流入部22から供給された潤滑油は、内輪11Bの回転に伴う巻き込み作用によりオイル溜空間30内に供給される。このため、本実施形態では、比較的低い圧力にて潤滑油が供給されるとともに、回転速に応じた油量が自動的に供給され得る。
【0032】
<3.本実施形態に係る軸受装置の特徴>
本実施形態に係る軸受装置1は、軌道輪11と協働して潤滑油が充満するオイル溜空間30を構成するオイル供給体20を備え、かつ、オイル溜空間30は、少なくとも転動体12側が開放された空間である。
【0033】
これにより、当該軸受装置1では、オイル溜空間30から転がり軸受10に潤滑油が供給される。したがって、例えば、特許文献1に記載されたオイルジェット潤滑に比べて、潤滑油を転がり軸受10全体に安定的に供給することが可能となり得る。延いては、当該軸受装置1であれば、高回転で回転する電動機のロータ軸やギヤ軸等の回転軸を安定的に支持することが可能となり得る。
【0034】
本実施形態に係るオイル溜空間30は、環状の空間であって、かつ、全周に亘って転動体12側が開放された空間である。これにより、本実施形態では、潤滑油を転がり軸受10全体により安定的に供給することが可能となり得る。
【0035】
本実施形態に係る軸受装置1では、オイル供給体20のうち軌道輪11側には、当該軌道輪11と反対向きに窪んだ環状の凹み部21が設けられ、かつ、当該凹み部21は、オイル溜空間30の少なくとも一部を構成する。これにより、凹み部21が省略された構成と比較してオイル溜空間30に充満する潤滑油の量が増えるため、潤滑油が転がり軸受10全体により安定的に供給され得る。
【0036】
さらに、オイル溜空間30に充満する潤滑油の量が増えたことに伴い、当該オイル溜空間30に充満する潤滑油の熱容量が増加するため、凹み部21が省略された構成と比較して、高速回転に伴う軸受10の焼き付きの抑制効果が高い。したがって、軸受装置1は、回転支持することのできる回転数域が広い。
【0037】
(第2実施形態)
上述の実施形態に係るオイル溜空間30は、第1オイル溜空間31及び第2オイル溜空間32に構成されていた。これに対して、本実施形態に係る軸受装置1では、第2オイル溜空間32が廃止され、第1オイル溜空間31のみにてオイル溜空間30が構成されている。
【0038】
このため、本実施形態に係るオイル供給体20には、凹み部21が設けられていない。なお、上述の実施形態と同一の構成要件等は、上述の実施形態と同一の符号が付されている。このため、本実施形態では、重複する説明は省略されている。
【0039】
(その他の実施形態)
上述の実施形態に係る転がり軸受10では、外輪11A及び内輪11Bにて軌道輪11が構成されていた。しかし、本開示はこれに限定されない。すなわち、当該開示は、例えば、外輪11A及び内輪11Bのうちいずれか一方が廃止され、その廃止された輪がモータハウジング等を利用して構成されていてもよい。
【0040】
上述の実施形態に係る転がり軸受10は、アンギュラ玉軸受であった。しかし、本開示はこれに限定されない。すなわち、当該開示に係る転がり軸受は、例えば、ラジアル玉軸受、ラジアルころ軸受又は円錐ころ軸受等であってもよい。
【0041】
上述の実施形態に係るオイル溜空間30は、環状の空間であって、かつ、全周に亘って転動体12側が開放されていた。しかし、本開示はこれに限定されない。すなわち、当該開示は、例えば、一部のみが転動体12側に向けて開放された円弧状開口部を有する環状の空間であってもよい。
【0042】
上述の実施形態に係るオイル供給体20はスペーサを兼ねるものであった。しかし、本開示はこれに限定されない。すなわち、当該開示は、例えば、モータハウジングの一部がオイル供給体20を兼ねるものであってもよい。
【0043】
上述の実施形態では、2つの転がり軸受10を有していた。しかし、本開示はこれに限定されない。すなわち、当該開示は、例えば、2つの転がり軸受10のうちいずれか一方の転がり軸受のみであってもよい。
【0044】
上述の実施形態において、保持器は軌道軸11にして2つ設けられていた。しかし、本開示はこれに限定されない。すなわち、当該開示は、例えば、1つ設けられる場合であってもよい。保持器が軌道軸11にして1つの場合であっても、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0045】
上述の実施形態に係るオイル供給体20は、中心線L1に対して略対称な構造であった。しかし、本開示はこれに限定されない。すなわち、当該開示は、例えば、中心線L1に対して非対称な構造であってもよい。
【0046】
上述の実施形態に係る転動体12は鋼球であった。しかし、本開示はこれに限定されない。すなわち、当該開示は、例えば、転動体12が軌道輪11と同様の素材である構成、又は転動体12が軌道輪11と異なる素材である構成でもよい。
【0047】
さらに、本開示は、上述の実施形態に記載された開示の趣旨に合致するものであればよく、上述の実施形態に限定されない。したがって、上述した複数の実施形態のうち少なくとも2つの実施形態が組み合わせられた構成、又は上述の実施形態において、図示された構成要件もしくは符号を付して説明された構成要件のうちいずれかが廃止された構成であってもよい。
【符号の説明】
【0048】
1… 軸受装置 10…軸受 11… 軌道輪
11A… 外輪 11B…内輪 12… 転動体
20… オイル供給体 21…凹み部
30… オイル溜空間 31…第1オイル溜空間
32… 第2オイル溜空間