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特許7606114非水系電解質二次電池用正極活物質及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用正極活物質及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20241218BHJP
   C01G 51/00 20060101ALI20241218BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20241218BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G51/00 A
H01M4/505
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023026081
(22)【出願日】2023-02-22
(62)【分割の表示】P 2020165260の分割
【原出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2023059951
(43)【公開日】2023-04-27
【審査請求日】2023-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】松本 早騎
(72)【発明者】
【氏名】宮下 義智
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/177328(WO,A1)
【文献】特開2018-56034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積累積粒度分布における50%粒径である50が、0.1μm以上3.2μm未満であり、層状構造を有する第1のリチウム遷移金属複合酸化物と、液媒体とを含む組成物を準備することと、
前記組成物を造粒することにより体積累積粒度分布における50%粒径である50が前記50よりも大きい第2のリチウム遷移金属複合酸化物を得ることと、を含み、
前記第2のリチウム遷移金属複合酸化物は、液媒体中での超音波処理の前後で異なる体積累積粒度分布を有し、
超音波処理前に測定される体積累積粒度分布における90%粒径である90に対する、超音波処理後に測定される体積累積粒度分布における90%粒径である90の比(9090)が、0.53以下であり、
前記第1のリチウム遷移金属複合酸化物は、下記式(1)又は(2)で表される組成を有する、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
Li Co (1)
(式(1)中、0.9≦p≦1.2、0<x≦1、0≦y≦0.1、x+y≦1である。M は、Ni、Mn、Al、Mg、Ca、Ti、Zr、Nb、Ta、Cr、Mo、Fe、Cu、Si、Sn、Bi、Ga、Y、Sm、Er、Ce、Nd、La、Cd及びLuからなる群より選択される少なくとも1種である。)
Li Ni Co Mn Al (2)
(式(2)中、1.0≦p≦1.5、0.3≦x<1、0≦y≦0.7、0≦z≦0.7、0≦w≦0.7、0≦u≦0.02、x+y+z+w+u≦1である。M はZr、Ti、Mg、Ta、Nb及びMoからなる群より選択される少なくとも1種である。)
【請求項2】
前記造粒は、組成物を噴霧乾燥して液媒体の少なくとも一部を除去することにより行われる請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記第2のリチウム遷移金属複合酸化物は、前記90が3.6μmより大きい請求項1又は2に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記第2のリチウム遷移金属複合酸化物は、超音波処理後に測定される体積累積粒度分布における50%粒径である50が3.2μm未満である請求項1から3のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記50に対する前記第2のリチウム遷移金属複合酸化物の超音波処理後に測定される体積累積粒度分布における50%粒径である50の比(5050)が、0.8以上2以下である請求項1から4のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
液媒体中での超音波処理後に体積累積粒度分布が変化する、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含み、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、超音波処理前に測定される体積累積粒度分布における90%粒径である90に対する、超音波処理後に測定される体積累積粒度分布における90%粒径である90の比(9090)が、0.53以下であり、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、下記式(1)又は(2)で表される組成を有する、非水系電解質二次電池用正極活物質。
Li Co (1)
(式(1)中、0.9≦p≦1.2、0<x≦1、0≦y≦0.1、x+y≦1である。M は、Ni、Mn、Al、Mg、Ca、Ti、Zr、Nb、Ta、Cr、Mo、Fe、Cu、Si、Sn、Bi、Ga、Y、Sm、Er、Ce、Nd、La、Cd及びLuからなる群より選択される少なくとも1種である。)
Li Ni Co Mn Al (2)
(式(2)中、1.0≦p≦1.5、0.3≦x<1、0≦y≦0.7、0≦z≦0.7、0≦w≦0.7、0≦u≦0.02、x+y+z+w+u≦1である。M はZr、Ti、Mg、Ta、Nb及びMoからなる群より選択される少なくとも1種である。)
【請求項7】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、前記90が3.6μmより大きい請求項6に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項8】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、超音波処理後に測定される累積粒度分布の50%粒径である50が3.2μm未満である請求項6又は7に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水系電解質二次電池用正極活物質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車等の大型動力機器用途の非水系電解質二次電池用正極活物質には、高い出力特性が求められている。高い出力特性を得るには多くの一次粒子が凝集した二次粒子の構造を有する正極活物質が有効とされている。例えば、特許文献1には異なる組成を有する2種の正極活物質の一次粒子から構成される二次粒子を含む正極活物質が記載され、広範囲の充電状態(SOC)において高出力が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-130272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高い出力特性を得る手法として、正極活物質の粒径を小さくして、比表面積を大きくすることが考えられる。しかしながら、正極活物質の粒径を小さくすると正極活物質の粉体としての流動性が低下するため、生産性が低下する傾向があった。本開示の一態様は、正極形成時の出力特性が改善され、粉体としての流動性が改善される非水系電解質二次電池用正極活物質及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1態様は、体積累積粒度分布における50%粒径である50が、0.1μm以上3.2μm未満である第1のリチウム遷移金属複合酸化物と、液媒体とを含む組成物を準備することと、前記組成物を造粒することにより体積累積粒度分布における50%粒径である5050よりも大きい第2のリチウム遷移金属複合酸化物を得ることと、を含む非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。第2のリチウム遷移金属複合酸化物は、液媒体中での超音波処理の前後で異なる体積累積粒度分布を有し、超音波処理前に測定される体積累積粒度分布における90%粒径である90に対する、超音波処理後に測定される体積累積粒度分布における90%粒径である90の比(9090)が、0.53以下である。
【0006】
第2態様は、液媒体中での超音波処理後に体積累積粒度分布が変化するリチウム遷移金属複合酸化物を含み、リチウム遷移金属複合酸化物は、超音波処理前に測定される体積累積粒度分布における90%粒径である90に対する、超音波処理後に測定される体積累積粒度分布における90%粒径である90の比(9090)が、0.53以下である非水系電解質二次電池用正極活物質である。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、正極形成時の出力特性が改善され、粉体としての流動性が改善される非水系電解質二次電池用正極活物質及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、非水系電解質二次電池用正極活物質及びその製造方法を例示するものであって、本発明は、以下に示す非水系電解質二次電池用正極活物質及びその製造方法に限定されない。
【0009】
非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、体積累積粒度分布における50%粒径である50が、0.1μm以上3.2μm未満である第1のリチウム遷移金属複合酸化物と、液媒体とを含む組成物を準備する準備工程と、準備される組成物を造粒することにより、体積累積粒度分布における50%粒径である5050よりも大きい第2のリチウム遷移金属複合酸化物を得る造粒工程とを含む。ここで、第2のリチウム遷移金属複合酸化物は、液媒体中での超音波処理の前後で異なる体積累積粒度分布を有し、超音波処理前に測定される体積累積粒度分布における90%粒径である90に対する、超音波処理後に測定される体積累積粒度分布における90%粒径である90の比(9090)が、0.53以下である。
【0010】
比較的小さい粒径(体積累積粒度分布における50%粒径である50が、0.1μm以上3.2μm未満)を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む一次粒子(第1のリチウム遷移金属複合酸化物)と液媒体とを含む組成物を造粒することにより、一次粒子が集合した比較的大きな粒径(体積累積粒度分布における50%粒径である50が前記50よりも大きい)を有する二次粒子(第2のリチウム遷移金属複合酸化物)が形成される。二次粒子は粒径が大きいことにより粉体としての流動性が改善されるので、二次粒子を含んだ正極活物質の生産性が向上する。ここで生産性とは、例えば、フルイの目詰まりが抑制されること等を意味する。また、造粒により形成された二次粒子は、液媒体中での超音波処理の前後で異なる体積累積粒度分布を有し、超音波処理前に測定される体積累積粒度分布における90%粒径である90に対する、超音波処理後に測定される体積累積粒度分布における90%粒径である90の比(9090)が、0.53以下を示すことから、液媒体中で超音波処理されると一次粒子が再生されると考えられる。一般に電極活物質層は、正極活物質を含む液状の電極組成物から形成される。造粒された二次粒子を含む正極活物質を用いて電極組成物を調製すると、電極組成物中に一次粒子が再生される。そのため、電極組成物から形成される正極活物質層には一次粒子である正極活物質が含まれることになる。一次粒子である正極活物質は、その粒径に起因して比較的大きな比表面積を有し、電池において高い出力特性を達成することができると考えられる。
【0011】
準備工程では、体積累積粒度分布における50%粒径である50が、0.1μm以上3.2μm未満である第1のリチウム遷移金属複合酸化物と、液媒体とを含む組成物を準備する。第1のリチウム遷移金属複合酸化物の50%粒径である50は、電池を構成する場合の出力特性の観点から、好ましくは0.12μm以上2.5μm以下であり、より好ましくは0.13μm以上2μm以下である。なお、50%粒径は、体積累積粒度分布において、小粒径側からの体積累積50%に対応する粒径として求められる。
【0012】
第1のリチウム遷移金属複合酸化物の体積累積粒度分布における90%粒径である90は、例えば電池を構成する場合の出力特性の観点から、0.13μm以上5μm以下であり、好ましくは0.15μm以上3μm以下である。なお、90%粒径は、体積累積粒度分布において、小粒径側からの体積累積90%に対応する粒径として求められる。
【0013】
第1のリチウム遷移金属複合酸化物の50%粒径である50および90%粒径である90は、第1のリチウム遷移金属複合酸化物の製造時における原料となる複合酸化物の粒径や熱処理条件を適宜選択することで制御することができる。また、50が、3.2μm以上のリチウム遷移金属複合酸化物を所望の粒度分布になるよう粉砕処理してもよい。粉砕処理は、例えば、ボールミルなどによる液媒体中での湿式粉砕であってよいし、ジェットミルなどによる乾式粉砕であってもよい。
【0014】
第1のリチウム遷移金属複合酸化物は、例えば、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、オリビン構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物等のいずれであってもよい。
【0015】
層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、コバルトを含むリチウム遷移金属複合酸化物は、コバルト酸リチウムであってよい。コバルト酸リチウムは、リチウムとコバルトの他に金属元素Mの少なくとも1種を含んでいてよい。金属元素Mとしては、例えば、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、タリウム(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、ビスマス(Bi)、ガリウム(Ga)、イットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、エルビウム(Er)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、ランタン(La)、カドミウム(Cd)、ルテチウム(Lu)等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種であってよい。
【0016】
層状構造を有するコバルトを含むリチウム遷移金属複合酸化物における、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比は、例えば、1以下であってよい。
【0017】
層状構造を有するコバルトを含むリチウム遷移金属複合酸化物が金属元素Mを含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対する金属元素Mのモル数の比は、例えば、0.1以下であってよい。
【0018】
層状構造を有するコバルトを含むリチウム遷移金属複合酸化物における、リチウム以外の金属の総モル数に対するリチウムのモル数の比は、例えば、0.9以上であってよく、1.2以下であってよい。
【0019】
層状構造を有するコバルトを含むリチウム遷移金属複合酸化物は、例えば、下記式(1)で表される組成を有していてよい。
LiCo (1)
式(1)中、0.9≦p≦1.2、0<x≦1、0≦y≦0.1、x+y≦1である。Mは、Ni、Mn、Al、Mg、Ca、Ti、Zr、Nb、Ta、Cr、Mo、Fe、Cu、Si、Sn、Bi、Ga、Y、Sm、Er、Ce、Nd、La、Cd及びLuからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0020】
層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、ニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物は、少なくともリチウム(Li)とニッケル(Ni)とを含む。ニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムとニッケルの他にコバルト(Co)、マンガン(Mn)及びアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。また、ニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物は、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン及びアルミニウムの他に金属元素Mを含んでいてよい。金属元素Mは、例えば、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)及びモリブデン(Mo)等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種であってよい。
【0021】
層状構造を有するニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物における、リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比は、例えば、0.3以上であってよく、1未満であってよい。
【0022】
層状構造を有するニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物がコバルトを含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比は、例えば、0.7以下であってよい。
【0023】
層状構造を有するニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物がマンガンを含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対するマンガンのモル数の比は、例えば、0.7以下であってよい。
【0024】
層状構造を有するニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物がアルミニウムを含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対するアルミニウムのモル数の比は、例えば、0.7以下であってよい。
【0025】
層状構造を有するニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物が金属元素Mを含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対する金属元素Mのモル数の比は、例えば、0.02以下であってよい。
【0026】
層状構造を有するニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物における、リチウム以外の金属の総モル数に対するリチウムのモル数の比は、例えば1.0以上であってよく、1.5以下であってよい。
【0027】
層状構造を有するニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物は、例えば、下式(2)で表される組成を有していてもよい。
LiNiCoMnAl (2)
式(2)中、1.0≦p≦1.5、0.3≦x<1、0≦y≦0.7、0≦z≦0.7、0≦w≦0.7、0≦u≦0.02、x+y+z+w+u≦1である。MはZr、Ti、Mg、Ta、Nb及びMoからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0028】
オリビン構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、鉄を含むリチウム遷移金属複合酸化物は、少なくともリチウム(Li)と鉄(Fe)とリン(P)とを含む。鉄を含むリチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムと鉄とリンの他に金属元素Mを含んでいてもよい。金属元素Mとしては、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びニッケル(Ni)等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種であってよい。また、鉄を含むリチウム遷移金属複合酸化物は、リチウム、鉄、リン及び金属元素Mの他に金属元素Mを含んでいてもよい。金属元素Mは、例えば、モリブデン(Mo)、マグネシウム(Mg)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、セリウム(Ce)及びクロム(Cr)等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種であってよい。
【0029】
オリビン構造を有する鉄を含むリチウム遷移金属複合酸化物における、リチウム以外の金属の総モル数に対する鉄のモル数の比は、例えば、0超であってよく、1以下であってよい。
【0030】
オリビン構造を有する鉄を含むリチウム遷移金属複合酸化物が、金属元素Mを含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対する金属元素Mのモル数の比は、例えば、1未満であってよい。
【0031】
オリビン構造を有する鉄を含むリチウム遷移金属複合酸化物が、金属元素Mを含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対する金属元素Mのモル数の比は、例えば、0.3以下であってよい。
【0032】
オリビン構造を有する鉄を含むリチウム遷移金属複合酸化物における、リチウム以外の金属の総モル数に対するリチウムのモル数の比は、例えば0.9以上であってよく、1.3以下であってよい。
【0033】
オリビン構造を有する鉄を含むリチウム遷移金属複合酸化物は、例えば、下式(3)で表される組成を有していてもよい。
LiFe PO (3)
式(3)中、0.9≦p≦1.3、0<x≦1、0≦y<1、0≦z≦0.3、x+y+z≦1である。Mは、Co、Mn及びNiからなる群から選択される少なくとも1種である。MはMo、Mg、Zr、Ti、Al、Ce及びCrからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0034】
スピネル構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、マンガンを含むリチウム遷移金属複合酸化物は、少なくともリチウム(Li)とマンガン(Mn)とを含む。マンガンを含むリチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムとマンガンの他に金属元素Mを含んでいてよい。金属元素Mとしては、例えば、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)及びガリウム(Ga)等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種であってよい。
【0035】
スピネル構造を有するマンガンを含むリチウム遷移金属複合酸化物における、リチウム以外の金属の総モル数に対するMnのモル数の比は、例えば、0超であってよく、2以下であってよい。
【0036】
スピネル構造を有するマンガンを含むリチウム遷移金属複合酸化物が、金属元素Mを含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対する金属元素Mのモル数の比は、例えば、0.2以下であってよい。
【0037】
スピネル構造を有しマンガンを含む型リチウム遷移金属複合酸化物における、リチウム以外の金属の総モル数に対するリチウムのモル数の比は、例えば1以上であってよく、1.4以下であってよい。
【0038】
スピネル構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物は、例えば、下式(4)で表される組成を有していてもよい。
LiMn (4)
式(4)中、1≦p≦1.4、0<x≦2、0≦y≦0.2、x+y≦2である。Mは、Al、Mg、Si、Ti、Cr、Fe、Co、Cu、Zn及びGaからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0039】
スピネル構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、ニッケルおよびマンガンを含むリチウム遷移金属複合酸化物は、少なくともリチウム(Li)とニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)とを含む。ニッケルおよびマンガンを含むリチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムとニッケルおよびマンガンの他に金属元素Mを含んでいてよい。金属元素Mとしては、例えば、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)及びガリウム(Ga)等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種であってよい。
【0040】
スピネル構造を有するニッケルおよびマンガンを含むリチウム遷移金属複合酸化物における、リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比は、例えば、0.3以上であってよく、0.6以下であってよい。
【0041】
スピネル構造を有するニッケルおよびマンガンを含むリチウム遷移金属複合酸化物における、リチウム以外の金属の総モル数に対するマンガンのモル数の比は、例えば、1.2以上であってよく、1.7以下であってよい。
【0042】
スピネル構造を有するニッケルおよびマンガンを含むリチウム遷移金属複合酸化物が、金属元素Mを含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対する金属元素Mのモル数の比は、例えば、0.2以下であってよい。
【0043】
スピネル構造を有するニッケルおよびマンガンを含むリチウム遷移金属複合酸化物における、リチウム以外の金属の総モル数に対するリチウムのモル数の比は、例えば1以上であってよく、1.4以下であってよい。
【0044】
スピネル構造を有するニッケルおよびマンガンを含むリチウム遷移金属複合酸化物は、例えば、下式(5)で表される組成を有していてもよい。
LiNiMn (5)
式(5)中、1≦p≦1.4、0.3≦x≦0.6、1.2≦y≦1.7、0≦z≦0.2、x+y+z≦2である。Mは、Al、Mg、Si、Ti、Cr、Fe、Co、Cu、Zn及びGaからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0045】
組成物が含む液媒体は、第2のリチウム遷移金属複合酸化物の粒子同士の結着性の点より、水が好ましく、水に加えてアルコール、アセトン等の水溶性有機溶剤を更に含んでいてよい。組成物は、流動性を有するスラリーとして構成されてよい。組成物における第1のリチウム遷移金属複合酸化物の固形分濃度は、例えば、5質量%以上30質量%以下であってよく、好ましくは10質量%以上20質量%以下である。
【0046】
組成物は、第1のリチウム遷移金属複合酸化物及び液媒体に加えて第2のリチウム遷移金属複合酸化物の粒子同士の結着性に応じてその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、結着剤、分散剤等を挙げることができる。組成物がその他の成分を含む場合、その含有率は、例えば10質量%以下であってよく、好ましくは5質量%以下より好ましくは1質量%以下である。含有率の下限は例えば、0.01質量%以上であってよい。
【0047】
組成物は、第1のリチウム遷移金属複合酸化物と液媒体とを混合することで調製することができる。例えば、撹拌羽根を備える混合装置で混合することで組成物を調製することができる。また、混合によって得られる組成物には分散処理を行ってもよい。分散処理は、例えばボールミルを用いて湿式で行うことができる。
【0048】
造粒工程では、準備される組成物を造粒することにより体積累積粒度分布における50%粒径である5050よりも大きい第2のリチウム遷移金属複合酸化物を得る。得られる第2のリチウム遷移金属複合酸化物は、液媒体中での超音波処理の前後で異なる体積累積粒度分布を有し、超音波処理前に測定される体積累積粒度分布における90%粒径である90に対する、超音波処理後に測定される体積累積粒度分布における90%粒径である90の比(9090)が、0.53以下である。
【0049】
造粒工程では、準備される組成物を乾燥することにより液媒体の少なくとも一部を除去して、体積累積粒度分布における50%粒径である5050よりも大きい第2のリチウム遷移金属複合酸化物を乾燥物として得る。組成物を乾燥する方法としては、噴霧乾燥、流動層乾燥等が挙げられる。第2のリチウム遷移金属複合酸化物の粒径調整が容易である点から噴霧乾燥が好ましい。
【0050】
第2のリチウム遷移金属複合酸化物の50%粒径である50は、粉体としての流動性の観点から、例えば、2μm以上であってよく、好ましくは2.3μm以上であり、より好ましくは2.5μm以上である。また50は、例えば、50μm以下であってよく、好ましくは30μm以下、より好ましくは15μm以下である。なお、50%粒径は、体積累積粒度分布において、小粒径側からの体積累積50%に対応する粒径として求められる。
【0051】
第2のリチウム遷移金属複合酸化物の体積累積粒度分布における90%粒径である90は、粉体としての流動性の観点から、3.6μmより大きければよく、好ましく5μm以上であり、より好ましく6μm以上である。また50は、例えば、55μm以下であってよく、好ましくは35μm以下、より好ましくは25μm以下である。なお、90%粒径は、体積累積粒度分布において、小粒径側からの体積累積90%に対応する粒径として求められる。
【0052】
第1のリチウム遷移金属複合酸化物の50%粒径に対する第2のリチウム遷移金属複合酸化物の50%粒径の比(5050)は、粉体としての流動性の観点から、例えば、1より大きく、好ましくは1.5以上である。また比(5050)は、例えば、500以下であってよく、好ましくは300以下である。
【0053】
第1のリチウム遷移金属複合酸化物の90%粒径に対する第2のリチウム遷移金属複合酸化物の90%粒径の比(9090)は、粉体としての流動性の観点から、例えば、1より大きく、好ましくは1.5以上である。また比(9090)は、例えば、500以下であってよく、好ましくは300以下である。
【0054】
第2のリチウム遷移金属複合酸化物は、液媒体中での超音波処理の前後で異なる体積累積粒度分布を有する。第2のリチウム遷移金属複合酸化物は、一次粒子である第1のリチウム遷移金属複合酸化物の造粒物(二次粒子)として形成される。造粒物は、その物理的強度が低いため、適当なエネルギーを加えることで少なくとも一部が崩壊して一次粒子を再生する。したがって、第2のリチウム遷移金属複合酸化物に液媒体中で超音波を照射することにより、造粒物を構成する一次粒子の少なくとも一部が再生されて粒度分布が変化することになる。例えば、正極活物質を構成する第2のリチウム遷移金属複合酸化物の体積累積粒度分布における50%粒径である50及び90%粒径である90はそれぞれ、第2のリチウム遷移金属複合酸化物を液媒体中で超音波処理した後に測定される50%粒径である50及び90%粒径である90よりも大きな値を示す。ここで、本明細書における超音波処理の条件は、0.05gの第2のリチウム遷移金属複合酸化物を、ヘキサメタリン酸ナトリウム0.05質量%を含む、200mlの水に分散した状態で、周波数40kHz、出力110Wの超音波照射装置を用いた20℃、20秒間の超音波照射である。
【0055】
第2のリチウム遷移金属複合酸化物は、液媒体中で超音波処理した後に測定される50%粒径である50が、電池を構成する場合の出力特性の観点から、例えば、0.1μm以上3.2μm未満であり、好ましくは0.11μm以上2.5μm以下である。なお、50%粒径は、体積累積粒度分布において、小粒径側からの体積累積50%に対応する粒径として求められる。
【0056】
第2のリチウム遷移金属複合酸化物は、液媒体中で超音波処理した後に測定される90%粒径である90が電池を構成する場合の出力特性の観点から、例えば、0.1μm以上5μm以下であり、好ましくは0.15μm以上3μm以下である。なお、90%粒径は、体積累積粒度分布において、小粒径側からの体積累積90%に対応する粒径として求められる。
【0057】
第2のリチウム遷移金属複合酸化物は、電池を構成する場合の出力特性の観点から、90に対する90の比(9090)が、例えば0より大きく0.53以下であってよく、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下である。
【0058】
第2のリチウム遷移金属複合酸化物は、電池を構成する場合の出力特性の観点から、50に対する50の比(5050)が、例えば0より大きく0.53以下であってよく、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下である。
【0059】
第1のリチウム遷移金属複合酸化物の体積累積粒度分布における50%粒径である50に対する、第2のリチウム遷移金属複合酸化物の液媒体中で超音波処理した後に測定される50%粒径である50の比(5050)は、電池を構成する場合の出力特性の観点から、例えば0.8以上1.5以下であり、好ましくは0.95以上1.1以下である。
【0060】
第1のリチウム遷移金属複合酸化物の体積累積粒度分布における90%粒径である90に対する、第2のリチウム遷移金属複合酸化物の液媒体中で超音波処理した後に測定される90%粒径である90の比(9090)は、電池を構成する場合の出力特性の観点から、例えば0.8以上2以下であり、好ましくは0.95以上1.5以下である。
【0061】
第2のリチウム遷移金属複合酸化物は例えば、組成物を噴霧乾燥することによって形成される。噴霧乾燥の条件、装置等は適宜選択すればよい。例えば、組成物を導入するためのノズルを1つ以上、気流用のノズルを1つ以上備える噴霧装置の乾燥室内に組成物を分散させ、組成物から液媒体の少なくとも一部を除去することで、目的の乾燥物が得られる。各ノズルの流量、各ノズル間の流量比、乾燥室の温度等の条件は、50よりも大きい50を有し、液媒体中での超音波処理前に測定される体積累積粒度分布における90%粒径である90に対する、超音波処理後に測定される体積累積粒度分布における90%粒径である90の比(9090)が0.53以下となるように調整すればよい。
【0062】
噴霧乾燥の具体的な条件は、例えば、組成物の供給量に対する気体の供給量の比が、例えば、500以上4000以下であってよく、好ましくは800以上2000以下である。また、乾燥温度は、例えば、100℃以上170℃以下であってよく、好ましくは130℃以上160℃以下である。
【0063】
噴霧乾燥で得られる第2のリチウム遷移金属複合酸化物には、追加の熱処理を行わないことが好ましい。ここで追加の熱処理とは、第2のリチウム遷移金属複合酸化物に対して例えば、250℃以上、好ましくは300℃以上の熱を加えることを意味する。追加の熱処理を行うと一次粒子間の接着力が向上して、二次粒子の崩壊が抑制される場合がある。
【0064】
非水系電解質二次電池用正極活物質
非水系電解質二次電池用正極活物質は、液媒体中での超音波処理後に体積累積粒度分布が変化するリチウム遷移金属複合酸化物を含む。リチウム遷移金属複合酸化物は、超音波処理前に測定される体積累積粒度分布における90%粒径である90に対する、超音波処理後に測定される体積累積粒度分布における90%粒径である90の比(9090)が、0.53以下である。
【0065】
液媒体中での超音波処理後に体積累積粒度分布が変化するリチウム遷移金属複合酸化物を含んで正極活物質が構成されることで、正極活物質の粉体としての流動性に優れる。また、超音波処理後に体積累積粒度分布が変化して比(9090)が0.53以下であることから、非水系電解質二次電池を構成する場合に、高い出力特性を達成することができる。
【0066】
正極活物質を構成するリチウム遷移金属複合酸化物は、例えば、既述の製造方法で製造される第2のリチウム遷移金属複合酸化物であってよい。第2のリチウム遷移金属複合酸化物の詳細については既述の通りである。
【0067】
非水系電解質二次電池用電極
非水系電解質二次電池用電極は、集電体と、集電体上に配置され、前記製造方法で製造される非水系電解質二次電池用正極活物質を含む正極活物質層とを備える。係る電極を備える非水系電解質二次電池は、高い初期効率及び高い耐久性を達成することができる。
【0068】
集電体の材質としては例えば、アルミニウム、ニッケル、ステンレス等が挙げられる。正極活物質層は、上記の正極活物質、導電材、結着剤等を溶媒と共に混合して得られる正極組成物を集電体上に塗布し、乾燥処理、加圧処理等を行うことで形成することができる。導電材としては例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、アセチレンブラック等が挙げられる。結着剤としては例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミドアクリル樹脂等が挙げられる。
【0069】
非水系電解質二次電池
非水系電解質二次電池は、上記非水系電解質二次電池用電極を正極として備える。非水系電解質二次電池は、非水系電解質二次電池用電極に加えて、非水系電解質二次電池用負極、非水系電解質、セパレータ等を備えて構成される。非水系電解質二次電池における、負極、非水系電解質、セパレータ等については例えば、特開2002-075367号公報、特開2011-146390号公報、特開2006-12433号公報(これらは、その開示内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)等に記載された、非水系電解質二次電池のためのものを適宜用いることができる。
【実施例
【0070】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
まず以下の実施例及び比較例における物性の測定方法について説明する。5050及び50並びに、9090及び90については、レーザー回折式粒径分布測定装置(MASTER SIZER)を用いて体積基準の累積粒度分布を測定し、小径側からの累積50%及び90%に対応してそれぞれの50%粒径及び90%粒径を求めた。なお、50及び90については、準備したリチウム遷移金属複合酸化物を超音波処理(周波数:40kHz、出力:110W、20℃、20秒、純水200mLに対してヘキサメタリン酸ナトリウム分散剤0.05質量%を添加)したものについて測定した。また、50及び90については、50を測定したリチウム遷移金属複合酸化物を超音波処理(周波数:40kHz、出力:110W、20℃、20秒、純水200mLに対してヘキサメタリン酸ナトリウム分散剤0.05質量%を添加)したものについて測定した。
【0072】
実施例1
前駆体の調製
撹拌している純水中に、60℃、回転数650rpmで撹拌しながら、硫酸コバルト水溶液を滴下した。同時にpH=8.0となるように7.9モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下した。硫酸コバルト水溶液の滴下が終了した後、水酸化ナトリウム水溶液のみをpHが9.4以上9.8以下になるまで滴下しつづけ、コバルトを含む沈殿物を得た。得られた沈殿物をろ過、水洗後、330℃で17時間熱処理し、コバルトを含む複合酸化物を得た。
【0073】
リチウム遷移金属複合酸化物の調製
コバルトを含む複合酸化物に含まれるコバルトに対して、リチウムのモル数の比が1.01倍になるように炭酸リチウムを秤量し、コバルトを含む複合酸化物及び炭酸リチウムを乾式混合してリチウム混合物を得た。得られたリチウム混合物を大気雰囲気中、700℃で5時間熱処理した後、連続して800℃で5時間、熱処理し、焼結体を得た。
【0074】
分散処理
得られた焼結体を純水に投入し、スラリー濃度が20質量%となるスラリーを作製した。得られたスラリーをボールミル(φ0.65mm、酸化ジルコニウムペレット)により150分間分散し、分散物スラリーを得た。得られた分散物スラリー中の第1のリチウム遷移金属複合酸化物の物性(5090)を表1に示す。
【0075】
噴霧乾燥
得られたリチウム遷移金属複合酸化物を含む分散物スラリーを16mL/min、空気を30L/minの流量でスプレーノズルに導入し、乾燥温度250℃で噴霧乾燥を行い、第2のリチウム遷移金属複合酸化物を含む実施例1の正極活物質を得た。得られた実施例1の第2のリチウム遷移金属複合酸化物の物性(50905090)を表1に示す。
【0076】
比較例1
実施例1と同様にして第1のリチウム遷移金属複合酸化物を含む分散物スラリーを得た。得られた分散物スラリーを、ブフナーロートにて濾過(濾紙:ADVANTEC定性ろ紙、5C、285mm)を行い、得られた濾過物を乾燥温度150℃にて静置乾燥を行い、比較例1のリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質を得た。比較例1のリチウム遷移金属複合酸化物の物性(50905090)を表1に示す。
【0077】
比較例2
リチウム混合物の熱処理条件を大気雰囲気中、700℃で5時間熱処理した後、連続して行う熱処理を880℃で5時間に変更したこと以外は実施例1と同様にして焼結体を得た。得られた焼結体を乾式振動ミル(中央化工機・B-2型、UX-Φ25Fe芯)にて15分間分散処理した後、得られた分散物を純水に投入し、スラリー濃度が20質量%となる分散物スラリーを作製した。得られた分散物スラリー中のリチウム遷移金属複合酸化物の物性(5090)を表1に示す。
【0078】
上記で得られた分散物スラリーを比較例1と同様に乾燥処理して、比較例2のリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質を得た。比較例2のリチウム遷移金属複合酸化物の物性(50905090)を表1に示す。
【0079】
比較例3
実施例1と同様にして噴霧乾燥した後、続いて更に大気中400℃にて熱処理することにより、比較例3のリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質を得た。比較例3のリチウム遷移金属複合酸化物の物性(50905090)を表1に示す。
【0080】
フルイ速度
実施例1および比較例1から3で得られたリチウム遷移金属複合酸化物300gを70μm目開きの直径30cmのフルイにて60秒間ふるい(ジャイロシフター、60Hz)を行い、単位面積あたりの通過量(kg/h・m)を測定した。結果を表1に示す。
【0081】
(正極の作製)
実施例1および比較例1から3で得られたリチウム遷移金属複合酸化物11.6gと、ポリフッ化ビニリデン(以下PVDF)をN-メチル-2-ピロリドン(以下NMP)に溶解した溶液1.5g(PVDFとして0.12g)とを混合し、続いてアセチレンブラック(以下AB)液1.2g(ABとして0.24g)を更に加えて混合し正極組成物を得た。正極組成物の濃度が58質量%となるようにNMPと混合してNMPスラリーを調製した。得られたNMPスラリーを集電体としてのアルミニウム箔に塗布して乾燥し、乾燥品を得た。乾燥品をロールプレス機で圧縮成形した後、所定のサイズに裁断することにより、正極を作製した。
【0082】
(負極の作製)
負極活物質として、黒鉛材料を用いた。負極活物質97.5質量部、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)1.5質量部及びスチレンブタジエンゴム(SBR)1.0質量部を水に分散し、混練して負極ペーストを調製した。これを銅箔からなる集電体に塗布し乾燥させ、乾燥後ロールプレス機で圧縮成形した後、所定のサイズに裁断することにより、負極を作製した。
【0083】
[非水電解液の作製]
エチルカーボネートとメチルエチルカーボネートを体積比3:7で混合し、混合溶媒を
得た。得られた混合溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウムを、その濃度が1.0mol
%となるように溶解させ、非水電解液を得た。
【0084】
[非水電解液二次電池の組み立て]
上記正極と負極の集電体に、それぞれリード電極を取り付けたのち120℃で真空乾燥
を行った。次いで、正極と負極との間に多孔性ポリエチレンからなるセパレータを配し、
袋状のラミネートパックにそれらを収納した。収納後60℃で真空乾燥して各部材に吸着
した水分を除去した。真空乾燥後、ラミネートパック内に、上記非水電解液を注入、封止
し、評価用電池としてのラミネートタイプの非水電解質二次電池を得た。得られた評価用電池を用い、以下の電池特性の評価を行った。
【0085】
[平均電圧]
満充電電圧4.45V、充電レート0.2Cで定電流定電圧充電した後、放電電圧2.0Vで、放電レート2Cにて定電流放電を行った。放電レート2Cにて定電流放電を行った際の電池電圧について、その時間平均を平均電圧とした。結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1に示されるように、実施例1において造粒した二次粒子を形成することで、フルイ速度に優れる正極活物質を得ることができた。また実施例1においては、造粒した二次粒子を用いて電極を作製する際に一次粒子が再生されることで平均電圧が高くなったことから出力特性に優れる正極活物質を得ることができた。