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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】受光素子および光受信回路
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/10 20060101AFI20241218BHJP
   H01L 31/02 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
H01L31/10 H
H01L31/02 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023515893
(86)(22)【出願日】2021-04-19
(86)【国際出願番号】 JP2021015875
(87)【国際公開番号】W WO2022224308
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神田 淳
(72)【発明者】
【氏名】中西 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】吉松 俊英
(72)【発明者】
【氏名】名田 允洋
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-036615(JP,A)
【文献】特開2001-267620(JP,A)
【文献】特開2003-232967(JP,A)
【文献】特開2012-256853(JP,A)
【文献】特開2016-018799(JP,A)
【文献】特開2013-005014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/0392
H01L 31/08-31/119
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受光素子であって、
基板の一方の面上に構成された、
光信号の受光部と、
前記受光部のアノードに接続されたアノード電極パッドと、
前記受光部のカソードに接続されたカソード電極パッドと、
前記基板の素子構成面とは反対の面であって、前記受光部の中心を通る前記素子構成面の法線との交点に中心を有し、前記受光部に集光する光が入射可能な開口領域の外に形成された接地パターンと
を備え、
前記アノード電極パッド、前記受光部および前記カソード電極パッドは、直線に沿って配置され、
前記接地パターンは、前記開口領域の両脇に、前記直線に平行な帯状の形状を有することを特徴とする受光素子。
【請求項2】
前記開口領域内に入射した前記光信号が、前記基板の内部を透過して前記受光部で受光されることを特徴とする請求項1に記載の受光素子。
【請求項3】
前記開口領域にレンズが形成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の受光素子。
【請求項4】
前記受光部、前記アノード電極パッドおよび前記カソード電極パッドが単位素子を構成し、複数個の前記単位素子が配列されたことを特徴とする請求項1乃至いずれかに記載の受光素子。
【請求項5】
光受信回路であって、
表面がメタライズされたサブキャリア、
前記サブキャリアの上の受光素子であって、
基板の一方の面上に構成された、
光信号の受光部と、
前記受光部のアノードに接続されたアノード電極パッドと、
前記受光部のカソードに接続されたカソード電極パッドと、
前記基板の素子構成面とは反対の面で、前記受光部の中心を通る前記素子構成面の法線との交点に中心を有し、前記受光部に集光する光が入射可能な開口領域の外に形成された接地パターンとを備えた、受光素子、並びに、
前記アノード電極パッドと電気的に接続される信号入力パッド、および、
前記サブキャリアの前記メタライズされた接地面に電気的に接続されるグランドパッドを有する
トランスインピーダンス・アンプ
を備え、
前記カソード電極パッドから前記信号入力パッドへ流れる信号電流に対して、リターン電流が、前記グランドパッドから前記接地パターンを含む経路を流れることを特徴とする光受信回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光通信に関し、より具体的には受光素子および光受信回路に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信システムに求められる伝送速度は、年々増加している。伝送速度の高速化とともに、光信号を電気信号に変換する受光素子およびこれを用いた光受信回路に対しても、広帯域化に対する要求が高まっている。この要求に対し、1チャネル当たりの伝送速度を増大する技術に加え、複数のチャネルの電気信号を並列処理し、対応する光信号を波長分割等で多重化して伝送速度を増大させる技術が進んでいる。受光素子に目を向ければ、多チャネルの光信号を1つの受光素子で受光して、1つの光受信回路で一括して電気信号に変換する技術が求められている。
【0003】
上述の光受信回路は、受光素子に加え、受光素子で得られた電流信号を電圧信号に変換して増幅出力するトランスインピーダンス・アンプ(TIA)などから構成される。高速光通信用の受光素子としては、専らフォトダイオード(PD)が用いられている。複数のPDをアレイ化して1つのPDアレイチップ上に搭載し、多チャネルの光信号を多チャネルの電気信号に変換する集積化技術も進んでいる。PDアレイチップを用いた多チャネル光受信回路は、複数の入出力信号端子を備えた多チャネルTIAを用い、1つのTIAチップで多チャネルの電流信号を電圧信号に変換して、増幅出力できる。(特許文献1)
図11は、従来技術の高速光伝送用の裏面入射型PDの構成を示す図である。図11の(a)は、裏面入射型PDの素子構成面(x-y面)を上方から見た上面図、(b)は素子構成面の裏側を見た図、(c)は(a)のXIc―XIc線で基板面に垂直に切断した断面図である。図11の(a)を参照すれば、PD1の上面には、光信号を受光する受光部15と、アノードと接続されているアノード電極パッド11と、カソードと接続されているカソード電極パッド12が形成されている。(c)に示したように、PD1の下面側から入射された光信号2は、PD内を透過し、上面に形成された受光部15で光信号から電気信号に変換され、電気信号がアノード電極およびカソード電極から出力される。図11の裏面入射型PDで光受信回路を構成する場合、後述するように、貫通孔が設けられたPDサブマウント上にPDチップを搭載し、貫通孔を通過して光信号を入射する実装形態が用いられる。したがって、図11の(b)に示した光が入射されるPD1の下面(裏面)側は、サブマウントへの搭載面となり、電極等は形成されない。
【0004】
図12は、従来技術における高速伝送用の光受信回路の実装例を示す図である。図12の(a)は、PDチップ他が搭載される側の上面図を、図12の(b)は、(a)の上面図で線XIIb―XIIbで光受信回路を切断した断面図である。図12の光受信回路は、受信装置や光モジュールなどの様々な形態で、基板面などの上に構成されるため、図12ではベースとなる基板は示していない。後述する他の光受信回路の図においても同様である。図12では、1チャネルの光信号2を入力して1チャネルの電気信号を出力するPD1を用いる光受信回路の実装形態が示されている。光受信回路は、大別して、PDサブマウント40およびTIAキャリア42の各部分で構成されている。裏面入射型PD1およびチップコンデンサ30が、表面メタライズされたPDサブマウント40の上に搭載されている。TIA20が、表面メタライズされたTIAキャリア42の上に搭載されている。
【0005】
PDサブマウント40には、PD1の下面から光信号2を入射するための貫通孔41が設けられている。通常、反射戻り光の影響を避けるために、光信号2はPD受光部15に対して法線方向から角度をずらして入射させる。最適な角度は、PDの光学系構成や材料、光の波長、PDの扱う伝送速度など設計条件によって変わる。PD1のサブマウント40に対する実装位置には、実装条件や製造条件に応じてある程度の自由度(マージン)も求められる。したがって貫通孔41の寸法は、PD受光部15の受光径に対して十分に大きくなければならない。
【0006】
TIA20は、電気信号をPD1から入力するためのシグナルパッド21、差動電気信号を外部に出力するためのシグナルパッド22a、22b、グランドパッド23a~23eおよび電源供給、TIAの動作制御、モニタを行うための電源・制御・モニタパッド24を備えている。
【0007】
PDサブマウント40上には、カソード電極パッド12と接続されたチップコンデンサ30も搭載している。チップコンデンサ30は、直流電圧を外部からPD1のカソード電極12に印加する中継端子であり、交流成分と直流成分を分離し、交流信号が外部に漏洩するのを遮断するよう動作する。
【0008】
ボンディングワイヤ51は、PD1のアノード電極パッド11とTIA20の入力シグナルパッド21との間を電気接続する。ボンディングワイヤ52は、PD1のカソード電極パッド12とチップコンデンサ30との間を電気接続する。ボンディングワイヤ57は、TIA20のグランドパッド23とPDサブマウント40のグランド電位との間を電気接続する。
【0009】
図13は、従来技術の高速光伝送用の裏面入射型PDの別の構成を示す図である。図11と同様に、図13の(a)は、裏面入射型PDの素子構成面(x-y面)を上方から見た上面図、(b)は素子構成面の裏側を見た図、(c)は(a)のXIIIc―XIIIc線で基板面に垂直に切断した断面図である。
【0010】
図11に示したPDの構成との相違点は、素子下面側において、受光部15と対応する位置にレンズ17を備えることである。レンズ17は、素子下面側から入射された光信号2が受光部で集光される曲率を有している。PD1にレンズ17を集積することによって、光結合効率を向上し、実装トレランスの低下を防ぐことができる。レンズとPDとの間のアライメントが不要となるため、光受信回路の実装コストを減らすことができる。
【0011】
図14は、従来技術の高速光伝送用の裏面入射型PDのさらに別の構成を示す図である。図11と同様に、図14の(a)は、裏面入射型PDの素子構成面(x-y面)を上方から見た上面図、(b)は素子構成面の裏側を見た図、(c)は(a)のXIVc―XIVc線で基板面に垂直に切断した断面図である。図14に示したPDは、PDアレイチップ101であって、図11で示した裏面入射型PD1を4つ配列して1つのチップに集積化したものである。1つのPDアレイチップ101によって、4チャネルの光信号を4チャネルの電気信号に変換することができる。4つのPDを1つのチップに集積化することによって、4個のPDチップを別々に実装する場合に比べて、光受信回路の実装コストを減らすことができる。
【0012】
図15は、PDアレイチップによる高速伝送用の光受信回路の実装例を示す図である。図15の(a)は、PDチップアレイ他が搭載される側の上面図を、図15の(b)は、(a)の上面図でXVb―XVb線で光受信回路を切断した断面図である。図12に示した1チャネルのPDを用いた光受信回路に対し、図15ではPDアレイチップ101を用い多チャネルの光信号を入力して多チャネルの電気信号を出力する光受信回路を示している。PDアレイ101およびチップコンデンサ300は、表面メタライズされたPDサブマウント400の上に搭載されている。TIA200は、表面メタライズされたTIAキャリア420の上に搭載されている。
【0013】
PDサブマウント400には、PDアレイ101の裏面から4チャネルの光信号2を入射するために4チャネル分の貫通孔をまとめた大きな単一の貫通孔410が設けられている。既に図12についても述べたように、光信号2がPD受光部に対して法線方向から角度をずらして入射させ、PDアレイ101のサブマウント400に対する実装位置にある程度の自由度が求められる。加えて、PDサブマウント400の材料であるセラミック加工精度や、加工可能な貫通孔サイズの問題から、貫通孔410の端部および短辺の寸法はPD受光部の受光径に対して十分に大きくなければならない。
【0014】
TIAチップ200は、4系統の増幅回路を備えた多チャネルTIAであり、4チャネル分の入力シグナルパッド210、出力シグナルパッド220a、220b、グランドパッド230a~230e、および電源・制御・モニタパッド240を備えている。ボンディングワイヤ510は、PDアレイ101の4つのアノード電極パッド110とTIA200の4つの入力シグナルパッド210との間を電気接続する。ボンディングワイヤ520は、PDアレイ101の4つのカソード電極パッド120と4つのチップコンデンサ300との間をそれぞれ電気接続する。ボンディングワイヤ570は、TIA200の4系統の各増幅回路のグランドパッド230a、230bと、PDサブマウント400のグランド電位面との間を電気接続する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特許第5296838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、光通信システムの伝送速度が上がるにしたがって、PDの実装上の制限が光受信回路における高周波特性に悪影響を与える問題が顕在化していた。従来技術のPDを用いた上述のいずれの光受信回路においても、高周波信号の経路で電磁界の乱れが生じる。高周波信号の電磁界の乱れは、PDからTIAへの高周波伝送特性を劣化させ、不要な共振や放射ノイズが発生しやすくなるなどの問題を生じていた。これらの問題は、多チャネル化されたPDアレイを用いた光受信回路において特に影響が著しかった。光受信回路におけるボンディングワイヤはアンテナとして機能し、隣接チャネルのボンディングワイヤから輻射されたクロストーク信号により伝送品質が劣化する問題もあった。
【0017】
本発明は上述の課題を鑑みてなされたもので、その目的とするところは、良好な高周波伝送特性を持つ受光素子および光受信回路を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の1つの実施態様は、受光素子であって、基板の一方の面上に構成された、光信号の受光部と、前記受光部のアノードに接続されたアノード電極パッドと、前記受光部のカソードに接続されたカソード電極パッドと、前記基板の素子構成面とは反対の面であって、前記受光部に対応する位置にある開口領域の外に形成された接地パターンとを備えたことを特徴とする受光素子である。
【発明の効果】
【0019】
高周波伝送特性が良好で、不要な共振や放射ノイズを抑え、チャネル間クロストークを低減した受光素子および光受信回路を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態1の受光素子の構成を示す図である。
図2】実施形態1の受光素子を用いた光受信回路の実装例を示す図である。
図3】実施形態1の光受信回路におけるリターン電流の経路を説明する図である。
図4】実施形態1の受光素子の別の構成を示す図である。
図5】実施形態2の受光素子の構成を示す図である。
図6】実施形態2の受光素子を用いた光受信回路の実装例を示す図である。
図7】実施形態3の受光素子の構成を示す図である。
図8】実施形態3の受光素子を用いた光受信回路の実装例を示す図である。
図9】実施形態3の光受信回路におけるリターン電流の経路を説明する図である。
図10】実施形態3の受光素子の別の構成を示す図である。
図11】従来技術の高速光伝送用の裏面入射型PDの構成を示す図である。
図12】従来技術の裏面入射型PDによる光受信回路の実装例を示す図である。
図13】従来技術の裏面入射型PDの別の構成を示す図である。
図14】従来技術の裏面入射型PDのさらに別の構成を示す図である。
図15】PDアレイチップによる光受信回路の実装例を示す図である。
図16】従来技術のPDによる光受信回路のリターン電流経路の図である。
図17】PDアレイチップによる光受信回路のリターン電流経路の図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本開示の受光素子は、リターン電流の経路を最短化する構成を採用することで、良好な高周波伝送特性を実現する。発明者らは、受光素子からTIAへと伝送される高周波信号の往復の経路に着目した。本開示の受光素子では、光受信回路が処理する高周波電気信号の信号経路だけではなく、アース側を戻るリターン電流の経路がストレート化される。PDからの高周波信号に対して逆向きに流れるリターン電流が、PDサブマウントのグランド電位に接触している、PD下面に形成された接地パターンを流れる。このPD下面の接地パターンは良好な高周波伝送特性を実現し、特に多チャネル化されたPDアレイでは、不要な共振や放射ノイズを抑え、チャネル間クロストークを効果的に低減する。
【0022】
以下、まず従来技術の受光素子における問題点についてさらに詳細に説明を行い、引き続いて、従来技術の構成と対比をしながら、本開示の受光素子の構成について説明する。
【0023】
図16は、従来技術の裏面入射型PDを用いた光受信回路におけるリターン電流の経路を説明する図である。図16では、図12に示した従来技術のPD1で発生する光電流と、この光電流に対応するリターン電流を、ボンディングワイヤを描かずに矢印で示している。PD受光部15において信号光2から発生した光電流は、高周波信号電流61として、PDアノード電極パッド11からボンディングワイヤ51を経由しTIA入力シグナルパッド21に流れ込む。TIA20に向かう信号電流61の伝送に対して、逆向きに、TIA20からリターン電流67、69が流れる。リターン電流67、69は、グランドパッド23a、23bからそれぞれのボンディングワイヤ57を経て、PDサブマウント40のグランド電位面に流れ込む。
【0024】
PDサブマウント40の表面は、金属膜を蒸着して金属で覆われて(メタライズされて)おり、少なくともPD1が搭載される部分とその周辺、好ましくは全面がメタライズされている。このメタライズされた金属表面は、電気的には光受信回路における基準のグランド電位を持ち、本明細書では、メタライズされた金属表面をグランド電位面とも呼ぶこととする。図16に示したPDサブマウント40上の点線矢印で示したリターン電流67、69は、上述のグランド電位面を流れている。
【0025】
PDサブマウント40がPD1の直下から信号光2を入射する貫通孔41を持っているため、リターン電流67、69は貫通孔41の周りのグランド電位面を流れることになる。すなわち、リターン電流は直進することを妨げられて、貫通孔41の周囲を迂回するように流れる。このリターン電流経路の迂回は、高周波伝送特性を劣化させ、不要な共振や放射ノイズの発生の原因となり得る。この問題は、多チャネル化されたPDアレイを用いた光受信回路においてさらに影響が大きくなる。
【0026】
図17は、従来技術の裏面入射型PDアレイを用いた光受信回路におけるリターン電流の経路を説明する図である。図17では、図15に示した従来技術のPDアレイ101で、4つのチャネル601~604で発生する光電流と、この光電流に対応するリターン電流を、ボンディングワイヤを描かず矢印で示している。4つのPDの各受光部150において信号光2から発生した光電流は、信号電流610として、PDアノード電極パッド110からボンディングワイヤ510を経由しTIA入力シグナルパッド210に流れ込む。TIA200に向かう4つの高周波信号電流610の伝送に対して、それぞれ逆向きに、TIA200からリターン電流691~694が流れる。
【0027】
図17のTIAチップ左側のチャネル601に着目すると、リターン電流691は、グランドパッド230a、230bからボンディングワイヤ570を経て、PDサブマウント400のグランド電位面に流れ込む。リターン電流691は、PDサブマウント400の貫通孔410の左端をまわりこむ様に迂回して、グランド電位面を流れる。図17の右側のチャネル604についても、リターン電流694は、リターン電流691とは左右対称に、貫通孔410の右端をまわりこむ様に迂回して、グランド電位面を流れる。
【0028】
図17の内部側のチャネル602に着目すると、リターン電流692は、グランドパッド230a、230bからボンディングワイヤ570を経て、PDサブマウント400のグランド電位面に流れ込む。リターン電流692は、PDサブマウント400のグランド電位面を、ボンディングワイヤ接続点から貫通孔の長手方向に沿い、さらに貫通孔の左端をまわりこむ様に迂回して流れる。PDアレイチップの周辺近くにあるチャネル601に比べれば、チップ内部側にあるチャネル602のリターン電流の迂回の程度は著しい。PDアレイチップのPDの数が増えれば、高周波信号のグランド基準点となるチップコンデンサ300のからシグナルパッド210に至る信号電流経路と、リターン電流経路によって、大きな開口の電流ループを形成することになる。リターン電流の迂回の問題は、とりわけPDアレイチップにおいて重大な問題となる。
【0029】
セラミック加工精度上の理由から、PDサブマウント400の単一の貫通孔410の代わりに、各チャネルに対し別々の小さな貫通孔を4つ配列する構造として形成するのは困難である。図17に示したように4チャネル分の貫通孔を1つの大きな孔にまとめた構造を採らざるを得ない。上述のように、多チャネル光受信回路のチップ内側(中心側)のチャネルでは、リターン電流の迂回距離が大きくなる。このため、従来技術のPDアレイチップを用いた光受信回路では、特に内側のチャネルにおいて、高周波伝送特性の劣化が著しく、不要な共振や放射ノイズが発生しやすかった。
【0030】
PDおよびTIA間の信号伝送経路において共振が起きることによって、PDからの検波出力において、特定の周波数のエネルギーの反射や吸収が起こり得る。すなわち特定の周波数の伝達特性が急激に劣化(減衰)したり、逆に特定の周波数が励起されてスパイク状にピークを持ったりする。また自チャネルにおけるピーク信号が、他チャネルにノイズとして作用したりする。リターン電流の迂回は、このような高周波伝送特性の劣化をもたらす。
【0031】
また図15に示したような多チャネル化されたPDアレイを用いた光受信回路では、隣接するチャネル間の距離は、ボンディングワイヤ長と同程度(例えば0.5mm程度)にまで接近する。ボンディングワイヤは、送信アンテナおよび受信アンテナとして機能する。不要な共振や放射ノイズがあるチャネルで発生すれば、そのチャネルのボンディングワイヤから輻射された電磁波を、隣接するチャネルのボンディングワイヤで拾いやすくなる。隣接チャネルから漏洩した信号は自チャネルの信号に重畳し、いわゆるクロストークの影響を受けやすくなる。例えば10Gbaud程度以上の伝送速度を有する信号では、自由空間における1/4波長は、ボンディングワイヤ長と同程度またはそれ以下の長さになる。このように、ボンディングワイヤがアンテナとして機能し、隣接チャネルからのクロストークによって伝送品質が劣化する問題点があった
以下では、本開示の受光素子および光受信回路の構成と、高周波信号および対応するリターン電流について説明する。
【0032】
[実施形態1]
図1は、実施形態1の受光素子の構成を示す図である。図11と同様に裏面入射型PD10を示しており、(a)は、受光素子の構成面(x-y面)を上方から見た上面図、(b)は構成面の裏側を見た背面図、(c)は(a)のIc―Ic線で基板面に垂直に切断した断面図である。
【0033】
高速光通信用受光素子であるPD10の上面には、光信号を受光する受光部15と、アノードと接続されているアノード電極パッド11と、カソードと接続されているカソード電極パッド12が形成されている。(c)に示したように、PD10の下面側から入射された光信号2は、PD内を透過し、上面に形成された受光部15で光信号から電気信号に変換される。電気信号は、アノード電極およびカソード電極から出力される。後述するように、カソード電極はチップコンデンサを介して接地されることで、高周波信号電流がアノード側から外部へ取り出される。図11と同様に、裏面入射型PD10で光受信回路を構成する場合、貫通孔が設けられたPDサブマウント上にPDチップを搭載し、貫通孔を通過して光信号を入射する実装形態が用いられる。本実施形態の受光素子10で従来技術の構成と異なるのは、光信号を入射する開口領域16を除いたPDの下面全体に、接地パターン18が形成されていることである。
【0034】
図1に示した裏面入射型PD10では、光信号をPDチップで受光部や電極パッドが形成される素子構成面の反対側(PDの下面)から信号光を入射する。したがって、PDの下面において他の信号を入出力する必要性がなく、PDサブマウント上にPDを実装するための障害になる。また敢えて信号パッドなどを形成しても、チップ構造が複雑になり、チップ作製コストが増えるだけである。したがって、PDの下面側には素子要素や電極は形成されず、PDチップの基板材料がそのままむき出しになっていた。発明者らは、これまで利用されることのなかったPD下面に、あえて接地パターンを構成することでリターン電流の経路として利用する着想を得た。PDの基板材料は、通常は半導体であり、半導体の表面に金属膜などを蒸着して表面をメタライズするのは、簡単な工程で済む。高周波電流に対するアース電位の形成には、薄い金属膜で十分である。また、PD下面の接地パターンは、PDをPDサブマウントに搭載する工程にも影響を及ぼさない。
【0035】
したがって本開示の受光素子10は、基板の一方の面上に構成された、光信号の受光部15と、前記受光部のアノードに接続されたアノード電極パッド11と、前記受光部のカソードに接続されたカソード電極パッド12と、前記基板の素子構成面とは反対の面であって、前記受光部に対応する位置にある開口領域16の外に形成された接地パターン18とを備えたものとして実施できる。この接地パターン18は、前記開口領域を除いて、前記反対の面の全面に形成されることができる。
【0036】
図2は、実施形態1の受光素子を用いた光受信回路の実装例を示す図である。図2の(a)は、PDチップ他が搭載される側の上面図を、図2の(b)は、(a)の上面図でIIb―IIb線で光受信回路を切断した断面図である。図2の光受信回路は、光受信装置や光受信モジュールなどの様々な形態で、基板面などの上に実装・構成されるため、図2ではベースとなる基板は示していない。図2の光受信回路では、1チャネルの光信号2を入力して1チャネルの電気信号を出力するPD10の実装形態が示されている。光受信回路は、大別して、PDサブマウント40およびTIAキャリア42の2つの部分で構成されている。裏面入射型PD10およびチップコンデンサ30が、表面メタライズされたPDサブマウント40の上に搭載されている。TIA20が、表面メタライズされたTIAキャリア42の上に搭載されている。
【0037】
PDサブマウント40には、PD10の下面から光信号2を入射するための貫通孔41が設けられている。通常、反射戻り光の影響を避けるために、光信号2はPD受光部15に対して法線方向から角度をずらして入射させる。従来技術においても述べたように、最適な入射角度はPDの光学系構成や材料、光の波長、PDの扱う伝送速度など設計条件によって変わり、PD10の実装位置にはある程度の自由度も求められる。したがって貫通孔41の寸法は、PD受光部15の受光径に対して十分に大きくなければならない。
【0038】
TIA20およびはPDサブマウント40上のそれぞれの配置、接続構成は、図12で説明した従来技術の光受信回路と同じであり、詳細な説明は省略する。従来技術の図12の光受信回路と、実施形態1の受光素子を用いた図2の光受信回路の構成の違いは、PD10の下面、すなわちPDサブマウント40と接触する側の面に、開口領域16を除いて接地パターン18が形成されていることである。
【0039】
図3は、実施形態1の受光素子を用いた光受信回路におけるリターン電流の経路を説明する図である。図3では、図2に示した実施形態1の受光素子で発生する光電流と、この光電流に対応するリターン電流を、ボンディングワイヤを描かずに矢印で示している。PD受光部15において信号光2から発生した光電流は、高周波信号電流61として、PDアノード電極パッド11からボンディングワイヤ51を経由しTIA入力シグナルパッド21に流れ込む。カソード電極パッド12は、チップコンデンサ30を介して高周波的にPDサブマウント40のグランド電位面に接地されている。TIA20に向かう信号電流61の伝送に対して、逆向きに、TIA20からリターン電流が流れる。リターン電流67a、67bは、グランドパッド23a、23bからそれぞれのボンディングワイヤ57を経て、PDサブマウント40のグランド電位面に流れ込む。
【0040】
ボンディングワイヤ57から流れ込んだリターン電流67a、67bは、PDサブマウント40のグランド電位面に接触する、PD10の下面に形成された接地パターン18を、さらにリターン電流68a、68bとして流れる。従来技術の光受信回路で図17に示した貫通孔41を迂回する経路のリターン電流69a、69bと比較すれば、違いは明らかである。図3において、PD下面の接地パターン18を流れるリターン電流68a、68bは、迂回することなく最短距離でチップコンデンサ30のグランド電位面まで到達する。信号電流およびリターン電流は、それぞれ最短距離で、最小の開口の電流ループを形成するように流れる。貫通孔41で生じていたリターン電流の迂回を、PD下面の接地パターン18で解消することにより、高周波伝送線路の電磁界の乱れによる不要な共振や放射ノイズを抑えて、フラットな高周波伝送特性が得られる。
【0041】
したがって本発明は、光受信回路であって、表面がメタライズされたサブキャリア40、前記サブキャリア上の受光素子10であって、基板の一方の面上に構成された、光信号の受光部15と、前記受光部のアノードに接続されたアノード電極パッド11と、前記受光部のカソードに接続されたカソード電極パッド12と、前記基板の素子構成面とは反対の面で、前記受光部に対応する位置にある開口領域16の外に形成された接地パターン18とを備えた、受光素子、並びに、前記アノード電極パッドと電気的に接続される信号入力パッド21、および、前記サブキャリアの前記メタライズされた接地面に電気的に接続されるグランドパッド23a、23bを有するトランスインピーダンス・アンプ20を備え、前記カソード電極パッドから前記信号入力パッドへ流れる信号電流61、62に対して、リターン電流が、前記グランドパッドから前記接地パターンを含む経路68a、68bを流れるものとしても実施できる。
【0042】
本開示の実施形態1の受光素子では、PD10の下面で、受光部15に対応する位置に同心円状に開口領域16を開けて、開口領域16を除いた全面を接地パターンとする構成を示した。図3に示したように貫通孔によるリターン電流の迂回を解消し、最短経路となるようにリターン電流68a、68bの経路を確保すれば、高周波伝送線路の電磁界の乱れが解消される。したがって、PD10の下面における接地パターンの構成は図1に示したものには限られない。
【0043】
図4は、実施形態1の受光素子の別の接地パターンによる構成を示す図である。図4の(a)は、受光素子の構成面(x-y面)を上方から見た上面図、(b)は構成面の裏側を見た背面図、(c)は(a)のIVc―IVc線で基板面に垂直に切断した断面図である。図1のPDの構成との相違点は、PDの下面の接地パターン19の形状だけである。図4の(b)で示したように、アノード電極11とカソード電極12を結ぶ線に概ね平行に、ブリッジ状にPDチップ端の間を接続した帯状の部分的な接地パターン19a、19bを設けることによっても、リターン電流経路の迂回を解消できる。図3の光受信回路の構成を参照すれば、信号電流62、61が流れる向きは、アノード電極パッド11、受光部15およびカソード電極パッド12を結ぶ直線に沿ったものである。リターン電流もこの信号電流の流れと平行・逆向きとなるように、PDの下面で接地パターンがあれば、電流ループの最小化、最短化が実現される。この点で、アノード電極パッド11、受光部15およびカソード電極パッド12ができるだけ一直線に配置されるのが好ましい。
【0044】
したがって本開示の受光素子は、アノード電極パッド11、受光部15およびカソード電極パッド12は、直線に沿って配置されており、前記接地パターンは、前記開口領域の両脇に、前記直線に平行な帯状の形状19a、19bを有するものとして実施できる。アノード電極パッド11、受光部15およびカソード電極パッド12の配置は、概ね直線上にあれば良く、図3に示したように信号電流とリターン電流が直線的に、最小の電流ループを形成すれば良い。
【0045】
通常、表面メタライズされたPDサブマウントの上に、裏面入射型PDを固定するには、導電性接着剤やはんだ等が用いられる。図4の(b)に示したように、接地パターン19a、19bと、開口領域16との間に間隔を設けることによって、導電性接着剤やはんだ等が開口領域16内へ流れ込むのを避けることもできる。
【0046】
[実施形態2]
図5は、実施形態2の受光素子の構成を示す図である。図5の(a)は、受光素子の構成面(x-y面)を上方から見た上面図、(b)は構成面の裏側を見た背面図、(c)は(a)のVc―Vc線で基板面に垂直に切断した断面図である。光信号2から電気信号を出力する構成・動作は、図1に示した実施形態1の受光素子10と同じであり、図1の構成との相違点のみを説明する。
【0047】
図1で示した実施形態1の受光素子との相違点は、PD10の下面の開口領域に対応する領域に、入射された光信号2が受光部15において集光される曲率を有するレンズ17が形成されていることである。またPD10の下面には、レンズ17を除いた領域の全体に接地パターン18が形成されている。端的には、図1の開口領域16の位置のPD基板の下面上にレンズ17が形成されている。
【0048】
図6は、実施形態2の受光素子を用いた光受信回路の実装例を示す図である。図6の(a)は、PDチップ他が搭載される側の上面図を、図6の(b)は、(a)の上面図でVIb―VIb線で光受信回路を切断した断面図である。TIA20およびPDサブマウント40上のそれぞれの配置、相互の接続構成は、図12で説明した従来技術の光受信回路と同じであり、詳細な説明は省略する。図12の従来技術の光受信回路と、実施形態2の受光素子を用いた光受信回路との構成の相違点は、PD10の下面、すなわちPDサブマウント40と接触する側の面に、レンズ17が形成される領域を除いて接地パターン18が形成されていることである。実施形態1では単なる開口領域16であったのに対し、本実施形態では同じ領域がレンズ17となっている点を除けば、図6で示した実施形態2と図2で示した実施形態1は同じ形態で光受信回路が構成されている。
【0049】
本実施形態の受光素子でも、図3に示した実施形態1におけるリターン電流と全く同じ最短化されたリターン電流経路が得られる。すなわち、PD10の受光部15で発生する高周波信号電流61は、PDアノード電極パッド11からボンディングワイヤ51を経由しTIA入力シグナルパッド21に流れ込む。TIA20に向かう信号電流61の伝送に対して、逆向きに、TIA20からリターン電流が流れる。リターン電流67a、67bは、グランドパッド23a、23bからそれぞれのボンディングワイヤ57を経て、PDサブマウント40のグランド電位面に流れ込む。
【0050】
ボンディングワイヤ57から流れ込んだリターン電流67a、67bは、さらに、PDサブマウント40のグランド電位面に接触する、PD10の下面に形成された接地パターン18を、リターン電流68a、68bとして流れる。図5のPD下面でレンズ17の周りの接地パターン18を流れるリターン電流は、図3に示したように迂回することなく最短距離でチップコンデンサ30のグランド電位面まで到達する。信号電流およびリターン電流は、それぞれ最短距離で、最小の開口の電流ループを形成するように流れる。貫通孔41で生じていたリターン電流の迂回を、PD下面のレンズ17の周りの接地パターン18で解消することにより、高周波伝送線路の電磁界の乱れによる不要な共振や放射ノイズを抑えて、フラットな高周波伝送特性が得られる。
【0051】
さらに本実施形態では、PD10にレンズ17を集積することによって、信号光と受光部との光結合効率を向上させ、実装トレランス(実装位置の許容差)の低下を防ぐことができる。さらに図2の光受信回路では示していなかったレンズを、予め受光素子と一体に集積しておくことで、レンズとPD10と間でアライメント作業が不要となり、実施形態1の光受信回路に比べて実装コストを減らすことができる。
【0052】
本実施形態では、PD10の下面において、レンズ17と同じ形状で、受光部15と同心円状に接地パターンのメタルを取り除いた開口領域16とした。すなわち、PD10の下面の開口領域16を除いて、全面がメタライズされた接地パターン18である。図3に示したように貫通孔によるリターン電流の迂回を解消し、最短経路となるリターン電流の経路が確保されれば、高周波伝送線路の電磁界の乱れが解消される。したがって、PDの下面における接地パターンの構成は図5のものに限られない。上述の図4に示したような接地パターンの変形が可能であり、ブリッジ状に接続した部分的な接地パターン19a、19bであっても良い。
【0053】
上述の各実施形態は、1チャネルの光信号を入力して1チャネルの電気信号を出力する1チャネル受光素子の場合を示した。本開示の受光素子の構成は、複数のチャネルの光信号を入力して対応する電気信号を出力するPDアレイチップに適用することで、さらに優れた高周波伝送特性を実現する効果を発揮する。
【0054】
[実施形態3]
図7は、実施形態3の受光素子の構成を示す図である。図7の(a)は、受光素子の構成面(x-y面)を上方から見た上面図、(b)は構成面の裏側を見た背面図、(c)は(a)のVIIc―VIIc線で基板面に垂直に切断した断面図である。本実施形態の受光素子は、PDアレイ100であって、図1に示した裏面入射型PD10を4つ配列して1つのチップに集積化したものである。
【0055】
それぞれのPDは、受光部150と、アノード電極パッド110と、カソード電極パッド120を備えており、同じ構成の4つのPDがアレイ化されている。PDアレイ100の下面側から入射された光信号2は、PD内を透過して上面に形成された受光部150で光信号から電気信号に変換され、電気信号がアノード電極およびカソード電極から出力される。図15に示した従来技術のPDアレイ101との相違点は、PDアレイ100の下面において、光信号を入射する4つの開口領域160を除いた下面の全体に、一体の接地パターン180が形成されていることである。
【0056】
図8は、実施形態3のPDアレイチップを用いた光受信回路の実装例を示す図である。図8の(a)は、PDチップアレイ他が搭載される側の上面図を、図8の(b)は、(a)の上面図でVIIIb―VIIIb線で光受信回路を切断した断面図である。この光受信回路は、4チャネルの光信号2を入力して4チャネルの電気信号を出力する。PDアレイ100およびチップコンデンサ300は、表面メタライズされたPDサブマウント400の上に搭載されている。TIA200は、表面メタライズされたTIAキャリア420の上に搭載されている。
【0057】
PDサブマウント400には、PDアレイ100の裏面から4チャネル分の光信号を入射するために、1つにまとめた大きな貫通孔410が設けられている。図2で実施形態1の単一受光素子の光受信回路についても述べたように、反射戻り光の影響を避けるため、光信号2はPD受光部150に対して法線方向から角度をずらして入射させる。最適な入射角度はPDの光学系構成や材料、光の波長、PDの扱う伝送速度など設計条件によって変わり、PDアレイ100の実装位置にはある程度の自由度も求められる。加えて、PDサブマウント400の材料であるセラミックの加工精度や、加工可能な孔のサイズの問題から、貫通孔410の端部および短辺側の寸法はPD受光部の受光径に対して十分に大きくなければならない。
【0058】
TIAチップ200は4系統の増幅回路を備えた多チャネルTIAであり、図15で説明をした従来技術のTIAと同じ構成を持ち、従来技術と同様にPDアレイ100と電気的に接続されている。図15の従来技術の光受信回路と、本実施形態の光受信回路との相違点は、PDアレイ100下面、すなわちPDサブマウント400と接触する側の面に、光信号2を入射する4つの開口領域160を除いて、全面に接地パターン180が形成されていることである。
【0059】
図9は、実施形態3のPDアレイを用いた光受信回路におけるリターン電流の経路を説明する図である。図9では、図8に示した実施形態3のPDアレイ100で、4つのチャネル601~604で発生する光電流と、これらの光電流に対応するリターン電流を、ボンディングワイヤを描かず矢印で示している。4つのPDの各PD受光部150で信号光2から発生した光電流は、信号電流610として、PDアノード電極パッド110からボンディングワイヤ510を経由しTIA入力シグナルパッド210に流れ込む。カソード電極パッド120は、チップコンデンサ300を介して高周波的にPDサブマウント40のグランド電位面に接地されている。TIA200に向かう4つの高周波信号電流610の伝送に対して、それぞれ逆向きに、リターン電流がTIA200からPDに向かって流れる。
【0060】
実施形態3のPDアレイ100による光受信回路では、図17で示した従来技術の光受信回路の場合とは大きく異なり、TIAチップ200の4つのチャネル601~604のいずれのチャネルでも同様に、直線的に最短距離でリターン電流が流れる。例えば、図9の右端のチャネル604に着目すれば、リターン電流670a、670bは、グランドパッド230a、230bからそれぞれのボンディングワイヤ570を経て、PDサブマウント400のグランド電位面に流れ込む。ボンディングワイヤ570から流れ込んだリターン電流670a、670bは、まずPDサブマウント400のグランド電位面に流れ込む。さらに、グランド電位面に接触する、PD100の下面に形成された接地パターン180を、直進してリターン電流680a、680bとして流れる。
【0061】
図17に示した従来技術の光受信回路で貫通孔410を迂回するリターン電流694と比較すれば、図9でPD下面の接地パターン180を流れるリターン電流680a、680bは、迂回することなく最短距離で直進し、チップコンデンサ300の直下のグランド電位面まで到達する。信号電流およびリターン電流は、それぞれ最短距離で流れ、最小の開口の電流ループを形成するように流れる。リターン電流は、PDアレイチップの内部側にある他のチャネル602、603においても、チャネル604とまったく同様に、最短距離で、最小の開口の電流ループを形成するように流れる。これは、図17のPDアレイチップの内部側のチャネル602、603で、リターン電流693が貫通孔を大きく迂回していたのと非常に対照的である。貫通孔410のために生じていたリターン電流の極端な迂回を、PD下面の接地パターン180で解消することにより、高周波伝送線路の電磁界の乱れによる不要な共振や放射ノイズを抑えて、フラットで良好な高周波伝送特性が得られる。
【0062】
多チャネルを含む光受信回路の内側(中心側)のチャネルにおいては、図17で示したように接地パターン180が無い従来技術の場合のリターン電流経路の迂回量が大きかった。本実施形態の光受信回路では、光受信回路の内側(中心側)のチャネルにおいて、リターン電流の迂回が解消されることによる高周波伝送特性の改善効果が大きい。また多チャネル光受信回路の内側にあるチャネルでは、チップの端の外側のチャネルに比べて、両チャネルからのクロストークが重畳する。このためチップの内側にあるチャネルで、クロストークによる伝送品質の劣化量が多くなる。本実施形態の多チャネルの光受信回路では、いずれのチャネルでも同等にリターン電流が流れるため、多チャネル光受信回路の内側のチャネルにおいて著しい伝送品質の改善ができる。
【0063】
具体的には、図15に示した従来技術のPDアレイを用いた4チャネル光受信回路の伝送特性で、内側のチャネル602~603における自チャネル信号と隣接チャネルからの漏洩信号との比(クロストーク)は、10GHzにおいて約25dBであった。これに対し、図8に示したPDアレイの下面に接地パターンを有する受光素子による実施形態3の光受信回路では、クロストークは10GHzにおいて約50dBとなった。従来技術の構成の光受信回路と比較して、実施形態3の光受信回路では、チップ内側のチャネルにおけるクロストークで、25dBもの大幅な改善を確認することができた。
【0064】
図7の実施形態3の受光素子では、4つの受光部150のそれぞれについて、受光部に対応する位置に、同心円状の開口領域160を残して、全面をメタルの接地パターンとした。貫通孔によるリターン電流の迂回を解消し、最短経路となるようにリターン電流の経路を確保できれば、高周波伝送線路の電磁界の乱れが解消される。したがって、PDアレイの下面における接地パターンの構成は、図7のものに限られない。例えば、接地パターンの開口領域の形状は必ずしも同心円状である必要はなく、入射光に必要な開口が得られれば形状は問わない。また接地パターンも、開口領域を除いた全面である必要はない。
【0065】
図10は、実施形態3の受光素子の別の構成を示す図である。図10の(a)は、受光素子の構成面(x-y面)を上方から見た上面図、(b)は構成面の裏側を見た背面図、(c)は(a)のXc―Xc線で基板面に垂直に切断した断面図である。図10の変形例の受光素子は、PDアレイ100であって、図7に示したPDアレイと概ね同じ構成を持つ。図7のPDアレイとの相違点は、PDアレイの下面の接地パターンが、開口領域160の両脇に、アノード電極パッド、受光素子、カソード電極パッドを結ぶ直線に平行な帯状190a、190bに形成されていることである。
【0066】
上述の素子要素を結ぶ直線に平行な、PDアレイチップの両辺を結ぶ帯状の接地パターン190a、190bにより、TIAチップから、PDサブマウントおよびPDアレイを経て、チップコンデンサに至るまでの直線的なリターン電流経路を構成できる。PDアレイの下面で、PDアレイチップの両辺をブリッジ状に接続した部分的な接地パターン190a、190bを設けることによって、リターン電流経路の迂回が解消される。通常、裏面入射型PDを表面メタライズされたPDサブマウントの上に固定するには、導電性接着剤やはんだ等が用いられる。図10のように接地パターン190a、190bと開口領域160との間に間隔を設けることによって、導電性接着剤やはんだ等の開口領域160への流れ込みを避けることできる。
【0067】
実施形態3の受光素子では、4チャネルの光信号を4チャネルの電気信号に変換する4素子(4チャネル)の受光素子を例にして説明したが、PDアレイ内に備える受光素子の数には、何ら限定は無い。PDアレイの複数のチャネルに対して1つの大きな貫通孔を設ける構成である限り、リターン電流の迂回はチャネル数に関係なくPDアレイの共通問題である。受光素子の数が2以上であれば、PDアレイの下面の接地パターンを備えることによって、リターン電流の迂回問題を解消する。
【0068】
以上詳細に説明をしたように、本開示の受光素子および光受信回路によって、良好な高周波伝送特性を実現する。多チャネル化されたPDアレイでは、不要な共振や放射ノイズを抑え、チャネル間クロストークを効果的に低減する。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、光通信に利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17