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特許7606137管理装置、管理方法、及び、管理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】管理装置、管理方法、及び、管理プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/0452 20170101AFI20241218BHJP
   H04B 7/0413 20170101ALI20241218BHJP
【FI】
H04B7/0452
H04B7/0413 200
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023522139
(86)(22)【出願日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2021019244
(87)【国際公開番号】W WO2022244210
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】工藤 理一
(72)【発明者】
【氏名】村上 友規
(72)【発明者】
【氏名】高橋 馨子
(72)【発明者】
【氏名】小川 智明
【審査官】齊藤 晶
(56)【参考文献】
【文献】MANZANILLA-SALAZAR, Orestes et al.,A Machine Learning Framework for Sleeping Cell Detection in a Smart-City IoT Telecommunications Infrastructure,IEEE Access,2020年03月25日,VOLUME 8,pp.61213-61225
【文献】ZHANG, Yong et al.,An Indoor Passive Positioning Method Using CSI Fingerprint Based on Adaboost,IEEE Sensors Journal,2019年03月25日,VOL.19, NO.14,pp.5792-5800
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/0452
H04B 7/0413
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境に固定された固定端末と無線通信を行い、又は前記固定端末及び位置推定対象と無線通信を行い、無線通信を行う無線通信部の状態を管理する管理装置において
記固定端末に具備された複数の無線通信部から無線信号をそれぞれ受信し、又は前記固定端末及び前記位置推定対象に具備された複数の無線通信部から無線信号をそれぞれ受信し、受信した複数の無線信号から電波伝搬に関する複数のチャネル情報を取得する1つ以上の無線通信部と、
前記固定端末の無線通信部と前記位置推定対象の無線通信部と前記管理装置の無線通信部のうちいずれかの複数の無線通信部に対応する前記複数のチャネル情報を機械学習モデルに入力可能な複数の入力特徴量に変換する入力特徴量生成部と、
前記複数の入力特徴量を、前記位置推定対象の位置情報と入力特徴量との関係性を機械学習によりモデル化した位置推定モデルに入力することで、前記位置推定対象の位置を推定計算する位置推定モデル利用部と、
前記複数の入力特徴量を、前記固定端末と前記位置推定対象と前記管理装置の無線通信部毎に生成された個別管理モデルであって、前記複数の無線通信部に係る各個別管理モデルにそれぞれ入力することで、前記固定端末の無線通信部と前記位置推定対象の無線通信部と前記管理装置の無線通信部のうちいずれかに異常が生じているか否か判定、又は前記判定のための指標を出力するモデル評価部と、
を備える管理装置。
【請求項2】
前記個別管理モデルは、
1つの固定端末の無線通信部に対応するチャネル情報、1つの位置推定対象の無線通信部に対応するチャネル情報、管理装置の1つの無線通信部に対応するチャネル情報、又は固定端末と位置推定対象と管理装置の無線通信部の中から選択された複数の無線通信部に対応するチャネル情報と、前記位置推定対象の位置情報と、の関係性を機械学習によりモデル化した位置推定モデルであって、1つのチャネル情報の入力特徴量が入力されることで、1つのチャネル情報に基づく前記位置推定対象の位置情報を出力し、
前記モデル評価部は、
複数の前記個別管理モデルから出力された複数の位置情報を用いて、異常が生じている無線通信部の判定を行い、又は前記判定のための指標を出力する請求項1に記載の管理装置。
【請求項3】
前記モデル評価部は、
前記複数の位置情報の集合において外れ値となる値の位置情報を異常と判定し、又は前記外れ値の外れ度を出力する請求項2に記載の管理装置。
【請求項4】
前記個別管理モデルは、
1つの固定端末の無線通信部に対応するチャネル情報、1つの位置推定対象の無線通信部に対応するチャネル情報、管理装置の1つの無線通信部に対応するチャネル情報、若しくは固定端末と位置推定対象と管理装置の無線通信部の中から選択された複数の無線通信部に対応するチャネル情報に係る正常時のデータ、又は正常時と異常時のデータを機械学習して異常を検出する異常検出アルゴリズムであって、
前記モデル評価部は、
前記個別管理モデルで検出された異常検出結果を用いて、前記固定端末の無線通信部と前記位置推定対象の無線通信部と前記管理装置の無線通信部のうちいずれかに異常が生じているか否かを判定、又は前記判定のための指標を出力する請求項1に記載の管理装置。
【請求項5】
前記モデル評価部は、
前記個別管理モデルで検出された異常検出結果に加え、前記位置推定モデル利用部で推定計算された位置情報を更に用いて、前記固定端末の無線通信部と前記位置推定対象の無線通信部と前記管理装置の無線通信部のうちいずれかに異常が生じているか否かを判定、又は前記判定のための指標を出力する請求項1乃至4のいずれかに記載の管理装置。
【請求項6】
前記入力特徴量生成部は、
前記入力特徴量として、前記無線信号の受信電力、信号電力、受信電力又は信号電力の移動平均から得られる電力比情報、前記チャネル情報のチャネル行列、前記チャネル行列の相関行列、前記チャネル行列を信号処理して得られる演算行列、前記相関行列を信号処理して得られる演算行列、複数の周波数に対応する前記チャネル行列又は前記相関行列を信号処理して得られる演算行列、前記チャネル行列を線形演算して得られるユニタリ行列、前記相関行列を線形演算して得られるユニタリ行列、前記演算行列を線形演算して得られるユニタリ行列、前記チャネル行列を線形演算して得られる対角行列、前記相関行列を線形演算して得られる対角行列、前記演算行列を線形演算して得られる対角行列、前記チャネル行列を線形演算して得られる三角行列、前記相関行列を線形演算して得られる三角行列、前記演算行列を線形演算して得られる三角行列に関する特徴量のうち、1つ以上の特徴量の位相、振幅、実数成分、虚数成分の値、及び当該1つ以上の値の係数の範囲を規格化した値を生成する請求項1乃至5のいずれかに記載の管理装置。
【請求項7】
環境に固定された固定端末と無線通信を行い、又は前記固定端末及び位置推定対象と無線通信を行い、無線通信を行う無線通信部の状態を管理する管理方法において
理装置において、
1つ以上の無線通信部が、前記固定端末に具備された複数の無線通信部から無線信号をそれぞれ受信し、又は前記固定端末及び前記位置推定対象に具備された複数の無線通信部から無線信号をそれぞれ受信し、受信した複数の無線信号から電波伝搬に関する複数のチャネル情報を取得するステップと、
入力特徴量生成部が、前記固定端末の無線通信部と前記位置推定対象の無線通信部と前記管理装置の無線通信部のうちいずれかの複数の無線通信部に対応する前記複数のチャネル情報を機械学習モデルに入力可能な複数の入力特徴量に変換するステップと、
位置推定モデル利用部が、前記複数の入力特徴量を、前記位置推定対象の位置情報と入力特徴量との関係性を機械学習によりモデル化した位置推定モデルに入力することで、前記位置推定対象の位置を推定計算するステップと、
モデル評価部が、前記複数の入力特徴量を、前記固定端末と前記位置推定対象と前記管理装置の無線通信部毎に生成された個別管理モデルであって、前記複数の無線通信部に係る各個別管理モデルにそれぞれ入力することで、前記固定端末の無線通信部と前記位置推定対象の無線通信部と前記管理装置の無線通信部のうちいずれかに異常が生じているか否か判定、前記判定のための指標を出力するステップと、
を行う管理方法。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載の管理装置としてコンピュータを機能させる管理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管理装置、管理方法、及び、管理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な機器がインターネットに繋がるIOT(Internet of things)の実現が進んでいる。自動車、ドローン、建設機械車両等、様々な機器が無線で接続されつつある。無線通信規格についても、標準化規格IEEE 802.11で規定される無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、LTEや5Gによるセルラー通信、IOT向けのLPWA(Low Power Wide Area)通信、車両用の通信に用いられるETC(Electronic Toll Collection System)、VICS(Vehicle Information and Communication System)、ARIB-STD-T109等、サポートする無線通信規格も発展しており、今後の普及が期待されている。
【0003】
無線通信機器は、高いスループットや信頼性能を確保するため、複数のアンテナを用いたMIMO(Multiple input multiple output)通信技術が導入されている。MIMO通信技術は、送信側と受信側との間でどのように電波が伝搬しているかを示すチャネル情報を利用することで、スループットや信頼性能を向上できる。例えば、送信側の無線通信機器には、受信側の無線通信機器に対してチャネル情報を伝えるフィードバック信号の送信機能がサポートされている(非特許文献1参照)。
【0004】
また、電波伝搬に関するチャネル情報を無線通信機器の位置を推定するために用いる技術が知られている(非特許文献2、3参照)。例えば、複数の基地局と無線通信した無線信号の到達時間やレベル等を基に、無線通信機器の位置を特定する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】“Part 11: Wireless LAN Medium Access Control (MAC) and Physical Layer (PHY) Specifications”、IEEE Computer Society、IEEE Std 802.11、2016年、p.2396-p.2400
【文献】Y. Tao、外1名、“A Novel System for WiFi Radio Map Automatic Adaptation and Indoor Positioning”、in IEEE Transactions on Vehicular Technology、vol. 67、 no. 11、2018年11月、p.10683-p.10692
【文献】H. CAO、外5名、“Indoor Positioning Method Using WiFi RTT Based on LOS Identification and Range Calibration”、in Proc., ISPRS International Journal of Geo-Information、2020年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、固定端末の無線通信部から送信される無線信号のチャネル情報を用いて、当該固定端末と同じ環境内に位置する位置推定対象の位置を推定できる。また、位置推定対象の無線通信部から送信される無線信号のチャネル情報を更に用いて、当該位置推定対象の位置を推定できる。
【0007】
しかしながら、複数の無線通信端末(複数の固定端末、又は、1つ以上の固定端末及び1つ以上の位置推定対象)に対応する複数のチャネル情報を用いて位置推定対象の位置を推定する場合において、当該複数の無線通信端末のうちいずれかの無線通信端末で異常が生じた場合には、位置推定精度が低下し、異常原因の特定が困難であるという課題があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、複数のチャネル情報を用いて位置推定対象の位置を推定する位置推定装置において、無線信号を送信している個別の無線通信端末(固定端末、位置推定対象)、又は無線信号を受信する自装置の個別の無線通信部の状態を管理可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様の管理装置は、環境に固定された固定端末と無線通信を行い、又は前記固定端末及び位置推定対象と無線通信を行い、無線通信を行う無線通信部の状態を管理する管理装置において、前記固定端末又は前記位置推定対象の無線通信部の数と自装置の無線通信部とのうち少なくとも一方は、複数であって、前記固定端末に具備された無線通信を行う無線通信部、又は前記固定端末と前記位置推定対象に具備された無線通信部からの無線信号を受信し、前記無線信号から電波伝搬に関する複数のチャネル情報を取得する1つ以上の無線通信部と、前記複数の無線通信部に対応するチャネル情報を機械学習モデルに入力可能な複数の入力特徴量に変換する入力特徴量生成部と、前記複数の入力特徴量を、前記位置推定対象の位置情報と入力特徴量との関係性を機械学習によりモデル化した位置推定モデルに入力することで、前記位置推定対象の位置を推定計算する位置推定モデル利用部と、前記複数の無線通信部の入力特徴量の各入力特徴量を、前記固定端末毎若しくは前記位置推定対象毎に、自装置の無線通信部毎に、又は前記固定端末と前記位置推定対象と前記自装置の無線通信部の中から選択された複数の無線通信部に対して、生成された個別管理モデルにそれぞれ入力することで、固定端末若しくは位置推定対象、又は自装置の無線通信部のうちいずれかに異常が生じているか否かの判定、又は前記判定のための指標を出力するモデル評価部と、を備える。
【0010】
本発明の一態様の管理方法は、環境に固定された固定端末と無線通信を行い、又は前記固定端末及び位置推定対象と無線通信を行い、無線通信を行う無線通信部の状態を管理する管理方法において、前記固定端末又は前記位置推定対象の無線通信部の数と自装置の無線通信部とのうち少なくとも一方は、複数であって、管理装置において、1つ以上の無線通信部が、前記固定端末に具備された無線通信を行う無線通信部、又は前記固定端末と前記位置推定対象に具備された無線通信部からの無線信号を受信し、前記無線信号から電波伝搬に関する複数のチャネル情報を取得するステップと、入力特徴量生成部が、前記複数の無線通信部に対応するチャネル情報を機械学習モデルに入力可能な複数の入力特徴量に変換するステップと、位置推定モデル利用部が、前記複数の入力特徴量を、前記位置推定対象の位置情報と入力特徴量との関係性を機械学習によりモデル化した位置推定モデルに入力することで、前記位置推定対象の位置を推定計算するステップと、モデル評価部が、前記複数の無線通信部の入力特徴量の各入力特徴量を、前記固定端末毎若しくは前記位置推定対象毎に、自装置の無線通信部毎に、又は前記固定端末と前記位置推定対象と前記自装置の無線通信部の中から選択された複数の無線通信部に対して、生成された個別管理モデルにそれぞれ入力することで、固定端末若しくは位置推定対象、又は自装置の無線通信部のうちいずれかに異常が生じているか否かの判定、又は前記判定のための指標を出力するステップと、を行う。
【0011】
本発明の一態様の管理プログラムは、上記管理装置としてコンピュータを機能させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数のチャネル情報を用いて位置推定対象の位置を推定する位置推定装置において、無線信号を送信している個別の無線通信端末(固定端末、位置推定対象)、又は無線信号を受信する自装置の個別の無線通信部の状態を管理可能な技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本実施形態に係る無線通信システムの全体構成を示す図である。
図2図2は、位置推定モデル管理部の構成を示す図である。
図3図3は、管理装置の動作を示す図である。
図4図4は、実験環境エリアを示す図である。
図5図5は、実験環境エリアの分割例を示す図である。
図6図6は、位置推定誤差の測定結果を示す図である。
図7図7は、管理装置のハードウェア構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付し説明を省略する。
【0015】
[発明の概要]
本発明は、複数のチャネル情報を機械学習モデルに入力可能な複数の入力特徴量に変換し、変換した複数の入力特徴量の各入力特徴量を、無線信号を送信している無線通信端末(固定端末、位置推定対象)毎、無線信号を受信する自装置の無線通信部毎、又は複数の無線通信部の中から選択され任意に組み合わせた複数の無線通信部毎に生成された機械学習の各個別管理モデルにそれぞれ入力することで、各無線通信端末(固定端末、位置推定対象)、又は自装置の各無線通信部の正常又は異常をそれぞれ判定し、又は判定のための指標を出力する。つまり、固定に設置した無線基地局等の固定端末を複数用いて(複数のチャネル情報を用いて)位置推定を行う場合に、いずれかの固定端末がずれてしまったり、故障したりしたことを検出するため、個々のチャネル情報の利用も同時に行いながらモニタする。
【0016】
このように、本発明は、チャネル情報から生成される入力特徴量を、個別の無線通信端末毎、若しくは無線信号を受信した個別の無線通信部毎、又は、複数の無線通信部の中から選択され任意に組み合わせた複数の無線通信部毎に予め生成した個別管理モデルにより、無線通信端末又は無線通信部が異常であるかを判定し、又は判定のための指標を出力するので、無線通信端末、又は自装置の無線通信部の状態を個別に管理可能な技術を提供できる。
【0017】
なお、チャネル情報とは、送信側の無線通信端末と受信側の無線通信端末との間でどのように電波が伝搬しているか、及び無線通信の通信品質に関する情報である。例えば、無線通信における受信電力や電波伝搬係数、MIMO(Multiple Input Multiple Output)通信技術において、送信側の無線通信端末の備える複数のアンテナと受信側の無線通信端末の備える複数のアンテナとの間での電波伝搬の状態を表すチャネル行列、信号対雑音干渉電力に関する情報である。
【0018】
入力特徴量とは、チャネル情報を機械学習モデルに入力可能に変換したチャネル情報の特徴量である。例えば、入力特徴量は、変換しないチャネル情報そのもの、チャネル情報に様々な演算を施して得られる数値である。例えば、無線信号の受信電力、信号電力、受信電力や信号電力の移動平均から得られる電力比情報、複数のアンテナ間の電波伝搬係数からなるチャネル行列、チャネル行列の相関行列、チャネル行列を信号処理して得られる演算行列、相関行列を信号処理して得られる演算行列、複数の周波数に対応するチャネル行列若しくは相関行列を信号処理して得られる演算行列、チャネル行列を線形演算して得られるユニタリ行列、相関行列を線形演算して得られるユニタリ行列、演算行列を線形演算して得られるユニタリ行列、チャネル行列を線形演算して得られる対角行列、相関行列を線形演算して得られる対角行列、演算行列を線形演算して得られる対角行列、チャネル行列を線形演算して得られる三角行列、相関行列を線形演算して得られる三角行列、演算行列を線形演算して得られる三角行列に関する特徴量のうち、1つ以上の特徴量の位相、振幅、実数成分、虚数成分の値、及び当該1つ以上の値の係数の範囲を規格化した値である。
【0019】
位置推定対象とは、無線通信端末と同じ環境内に位置する移動可能な物体である。位置推定対象の位置とは、例えば、位置推定対象が移動している経路上の位置、2次元空間内(地図等)の位置、3次元空間内の位置である。これらの位置情報に加え、向きや速度等、より詳細な物理的な状態を更に推定してもよい。
【0020】
[無線通信システムの全体構成]
図1は、本実施形態に係る無線通信システムの全体構成を示す図である。
【0021】
無線通信システムは、管理装置1と、固定端末3-1~3-Mと、位置推定対象2-1~2-Qと、を備える。
【0022】
管理装置1は、位置推定対象2-1~2-Qの位置を推定する位置推定装置であり、かつ、無線信号を送信する固定端末3-1~3-M、無線信号を送信する位置推定対象2-1~2-Q、無線信号を受信する自装置の無線通信部1-1~1-Rの状態を管理する管理装置である。
【0023】
管理装置1は、複数の固定端末3-1~3-Mのうち少なくとも1つの固定端末から送信される無線信号のチャネル情報を収集することで、固定端末3-1~3-Mと同じ環境内に位置する複数の位置推定対象2-1~2-Qのうち少なくとも1つの位置推定対象の位置を推定する。また、管理装置1は、複数の位置推定対象2-1~2-Qのうち少なくとも1つの位置推定対象から送信される無線信号のチャネル情報を更に収集することで、複数の位置推定対象2-1~2-Qのうち少なくとも1つの位置推定対象の位置を推定する。管理装置1は、固定端末のチャネル情報のみを用いて位置推定対象の位置を推定可能であり、位置推定対象のチャネル情報を更に用いて位置推定対象の位置を推定可能である。
【0024】
固定端末3-1~3-Mは、無線通信部3-1-1~3-M-1を備える。1つの固定端末は、1つ以上の無線通信部を備える。位置推定対象2-1~2-Qは、無線通信部2-1-1~2-Q-1を備えてもよいし、無線通信部のない単なる位置推定対象でもよい。固定端末3-1~3-M、及び位置推定対象2-1~2-Qにおいて具備される位置推定に用いる無線通信部を、端末又は無線通信端末の無線通信部と定義する。1つの位置推定対象は、1つ以上の無線通信部を備えてもよい。無線通信部3-1-1~3-M-1及び無線通信部2-1-1~2-Q-1は、それぞれ、送受で既知となるパイロット信号、又は、任意の無線通信部との間のチャネル情報を含む無線信号を送信する。任意の無線通信部とは、管理装置1に備わる無線通信部1-1~1-R(Rは1以上の整数)、又は、それ以外の無線通信部である。
【0025】
本実施形態で説明する管理装置1は、複数の端末の無線通信部(3-i-1又は2-j-1)、又は複数の自身の無線通信部(1-1~1-R)を有する場合に適用される。端末の無線通信部(3-i-1又は2-j-1)の数と、管理装置1の無線通信部(1-1~1-R)と、のうち少なくとも一方は、複数である。端末の無線通信部が1つである場合には、複数の自身の無線通信部(1-1~1-R)のうちいずれかが異常になっているかいないかを確認でき、自身の無線通信部(1-1~1-R)が1つの場合には、端末の無線通信部(3-i-1又は2-j-1)に異常がないかを確認でき、いずれも複数である場合には、管理装置1及び端末の無線通信部の双方の異常を確認できる。
【0026】
管理装置1は、無線通信部1-1~1-Rを介して、1つ以上の端末の無線通信部(3-i-1(1≦i≦M)又は2-j-1(1≦j≦Q))からの無線信号を受信する。又は、管理装置1は、無線通信部1-1~1-Rを介して、1つ以上の端末の無線通信部からの無線信号を受信する。
【0027】
そして、管理装置1は、受信した複数の無線信号から、1つ以上の端末の無線通信部(3-i-1又は2-j-1)と任意の自身の無線通信部1-1~1-Rとの間の複数のチャネル情報を取得する。
【0028】
そして、管理装置1は、取得した複数のチャネル情報を入力特徴量生成部1-2に入力する。入力特徴量生成部1-2は、複数のチャネル情報を機械学習モデルへの入力に適した複数の入力特徴量に変換し、変換した複数の入力特徴量を位置推定モデル利用部1-3に入力する。
【0029】
その後、位置推定モデル利用部1-3は、1つ以上の端末の無線通信部(固定端末3-i又は位置推定対象2-j)から収集した複数のチャネル情報の入力特徴量を、位置推定対象の位置情報とチャネル情報の入力特徴量との関係性を機械学習によりモデル化した位置推定モデルに入力することで、位置推定対象2-jの位置を推定する。
【0030】
その後、位置推定モデル管理部1-0は、入力特徴量生成部1-2で生成された複数のチャネル情報のうち、個別の端末の無線通信部のチャネル情報に対応する個別の入力特徴量を用いて、固定端末又は位置推定対象の正常異常を判断したり、異常を判断するための指標を出力する。
【0031】
具体的には、位置推定モデル管理部1-0は、入力特徴量生成部1-2で生成された端末の無線通信部のチャネル情報に対応する複数の入力特徴量の各入力特徴量を、無線信号を送信した端末の無線通信部毎、又は無線信号を受信した自装置の無線通信部1-r(1≦r≦R)毎、又は、送信した端末若しくは自装置の無線通信部の複数の組み合わせに対応して予め生成された機械学習の個別管理モデルにそれぞれ入力することで、端末の無線通信部(3-i-1又は2-j-1)、又は自装置の各無線通信部1-rの正常又は異常をそれぞれ判定したり、異常を判断するための指標を出力する。
【0032】
[固定端末の構成]
固定端末3-iは、無線通信部3-i-1を備え、所定環境内に設置された無線通信端末である。固定端末3-iは、例えば、壁、床、天井等に固定され、動かないように固定されていることが望ましい。固定端末3-iは、特殊な専用装置を用いて実現してもよいし、スマートフォン、PC等の無線通信部を内蔵する任意の端末を用いて実現してもよい。1つの固定端末3-iが複数の無線通信部3-i-1を備えてもよい。固定端末3-iは、複数でもよい。
【0033】
[位置推定対象の構成]
位置推定対象2-jが無線通信部2-j-1を備える場合、固定端末3-iと同じ環境内に位置する移動可能な無線通信端末であり、かつ位置推定対象となる。例えば、位置推定対象2-jは、自律走行ロボットである。管理装置1は固定端末3-jのチャネル情報のみを用いて位置推定対象2-jの位置を推定できるので、位置推定対象2-jは、無線通信部2-j-1を備えなくてもよい。1つの位置推定対象2-jが複数の無線通信部2-j-1を備えてもよい。位置推定対象2-jは、複数でもよい。
【0034】
[管理装置の構成]
管理装置1は、例えば、主要場所に設置された基地局である。管理装置1は、固定端末3-iや位置推定対象2-jと通信可能な無線通信部、又は、固定端末3-iや位置推定対象2-jから送信される無線信号を復号可能な無線通信部を備えるいかなる構成でもよい。管理装置1は、無線信号を送信する機能は必ずしも必要ではない。管理装置1は、無線通信部1-1~1-Rのアンテナ部が固定である方が、位置推定精度を向上するために望ましい。
【0035】
管理装置1は、図1に示したように、例えば、無線通信部1-1~1-Rと、入力特徴量生成部1-2と、位置推定モデル利用部1-3と、位置推定モデル訓練部1-4と、位置推定モデル管理部1-0と、を備える。
【0036】
無線通信部1-1~1-Rは、無線通信を行うか、無線信号の受信を行う通信部である。無線通信部1-1~1-Rは、複数の周波数、複数の周波数帯域、又は、複数の無線通信システムに対応してもよい。図1では、無線通信部1-1~1-Rは、M台の固定端末3-1~3-Mから送信された無線信号を受信する構成を示す。
【0037】
無線通信部1-1~1-Rのうちいずれかは、端末の無線通信部(3-i-1又は2-j-1)と通信を行う基地局であってもよい。例えば、端末の無線通信部は、図1に示されていない任意の基地局と通信し、自身が当該任意の基地局へ送信する無線信号を受信してもよい。それらを混合した構成であってもよい。受信側の無線通信部1-1~1-Rは、単一の搬送波周波数による無線信号を復号可能なので、端末の無線通信部は、無線信号を同じ周波数で送信することで、無線通信部1-1~1-Rの回路の複雑性を軽減してもよい。位置推定対象2-1~2-Qについても同様である。
【0038】
複数の無線通信部1-1~1-Rは、1つ以上の固定端末3-1~3-Mの複数の無線通信部3-1-1~3-M-1から送信される複数の無線信号を受信し、受信した複数の無線信号から、固定端末3-iと管理装置1との間の電波伝搬に関する複数のチャネル情報を取得し、又は、固定端末3-i以外の無線通信機器と管理装置1との間の電波伝搬に関する複数のチャネル情報を取得する機能を備える。無線通信部1-1~1-Rは、固定端末3-iに対応する複数のチャネル情報を取得すると、取得した複数のチャネル情報を入力特徴量生成部1-2へ入力する。
【0039】
また、複数の無線通信部1-1~1-Rは、固定端末3-1~3-Mの無線通信部3-1-1~3-M-1と位置推定対象2-1~2-Qの無線通信部2-1-1~2-Q-1のうち、少なくとも固定端末の無線通信部を含むいずれかの複数の無線通信部から送信される複数の無線信号を受信し、受信した複数の無線信号から、端末の無線通信部(3-i-1又は2-j-1)と管理装置1との間の電波伝搬に関するチャネル情報を取得する機能を備える。無線通信部1-1~1-Rは、固定端末3-i又は固定端末3-iと位置推定対象2-jに対応する複数のチャネル情報を取得すると、取得した複数のチャネル情報を入力特徴量生成部1-2へ入力する。
【0040】
入力特徴量生成部1-2は、入力された複数のチャネル情報を、機械学習モデルに入力可能な複数の入力特徴量に変換する機能を備える。入力特徴量生成部1-2は、変換後の複数のチャネル情報の入力特徴量を位置推定モデル利用部1-3と位置推定モデル管理部1-0へ入力する。
【0041】
位置推定モデル利用部1-3は、入力された複数の入力特徴量を、電波伝搬に関するチャネル情報と位置推定対象2-jの位置情報との関係性を機械学習によりモデル化した位置推定モデルに入力することで、複数のチャネル情報に基づく位置推定対象2-jの位置を推定計算する機能を備える。
【0042】
このように、位置推定モデル利用部1-3は、チャネル情報を基に位置推定対象2-jの位置を計算する。ここで、チャネル情報を基に位置情報を計算する場合、固定端末3-iの位置、向きや指向性等のアンテナ条件、固定端末3-iの無線通信部3-i-1や管理装置1の無線通信部1-rの回路構成や設定内容に変化がないことが高い推定精度を得るために必要となる。これは機械学習により生成されるモデルが入力されるデータと出力の関係に再現性を必要とするためである。
【0043】
同様に、管理装置1の無線通信部1-rも、静的で変化がないようにする必要がある。位置がずれたり、アンテナの向きや接続条件が変わったり、固定端末3-iの無線通信部3-i-1や管理装置1の無線通信部1-rの回路内に問題が生じると、チャネル情報と位置情報の関係が変化し、位置推定モデルは正しい位置情報を出力できなくなる。特に、複数の端末の無線通信部からチャネル情報を取得したり、複数の管理装置1の無線通信部1-r(r≧2)で受信したり、その両方である場合には、何が原因で位置情報の精度が悪くなったのか、切り分けることが困難となる。
【0044】
位置推定モデル管理部1-0は、図2に示すように、複数の個別管理モデル1-0-1-1~1-0-1-Pと、モデル評価部1-0-2と、を備える。位置推定モデル管理部1-0は、入力特徴量生成部1-2で生成された複数のチャネル情報の入力特徴量のうち、無線信号を送信した固定端末3-iの個別の無線通信部3-i-1、無線信号を送信した位置推定対象2-jの個別の無線通信部2-j-1、無線信号を受信した自装置の個別の無線通信部1-r、又は固定端末3-iと位置推定対象2-jと無線通信部1-rとの中から選択した複数の組み合わせ(複数の無線通信部)に対応する入力特徴量のみを用いて、予め学習された個別管理モデルにより、入力された入力特徴量に異常を判断するための情報を出力し、モデル評価部1-0-2において、個別管理モデルからの出力を用いて、入力特徴量に対応する無線通信部に異常がないかを判定したり、異常を判定するための指標を出力する。例えば、個別管理モデルを位置推定モデルとすることで、位置推定対象2-1~2-Pのうち少なくとも1つの位置推定対象2-jの位置情報をそれぞれ出力し、モデル評価部1-0-2が、無線通信部が正常状態か異常状態かを判定したり、異常を判定するための指標を出力できる。
【0045】
異常を判定するための情報として、位置情報を個別管理モデル1-0-1-1~1-0-1-Pから出力する場合には、モデル評価部1-0-2は、位置情報の出力結果を一旦記憶部に記憶しておき、所定のタイミングで記憶部から位置情報を読み出して、読み出した位置情報と別途用意した正確な位置推定対象2-jの位置情報とを比較することで、位置情報の出力結果が正しいか否かをオフライン評価することもできる。
【0046】
又は、位置推定モデル利用部1-3による位置情報の出力結果と、個別管理モデルとして生成した、個別の無線通信部に対応する入力特徴量と位置情報の間の関係性から生成された位置推定モデルを用いて予測された位置情報の出力結果を、モデル評価部1-0-2が比較する。そして、いずれかの個別管理モデルの出力が、大きくずれる不正確な値となってないかをリアルタイムで評価したり、3つ以上の個別管理モデルを具備することで、他の個別管理モデルからの出力と大きくずれたり、異なる振る舞いをする個別管理モデルを検出したり、機械学習の技術として検討されている異常検知のアルゴリズムにより、個別管理モデルから、異常の判定または異常を判定するための指標を出力し、モデル評価部において、無線通信部の異常を検知したり、異常を判定するための指標を出力できる。例えば、正常時のデータの特徴とのずれを値として出力し、別のシステムや人間が出力の値から、別途異常を判断したり、異常の種類や特徴を分析したりできる。
【0047】
無線通信部の異常の判定は、個別管理モデルが単一の無線通信部に対応する入力特徴量であれば、その個別管理モデルが対応する無線通信部が異常、又は異常の疑いに関する指標を出力できる。個別管理モデルが複数の無線通信部に対応する入力特徴量であれば、異常を判定していたり、異常の疑いが強い指標を出力する個別管理モデルが対応する無線通信部に対し、異常、又は異常の疑いに関する指標を出力できる。例えば、複数の個別管理モデルの出力が異常を示しており、用いられる入力特徴量に共通して含まれる無線通信部があれば、当該無線通信部が異常値を出している可能性が高いと判定できる。
【0048】
前述の位置推定モデル利用部1-3からの出力との比較では、位置推定モデルの結果そのものが、いずれかの無線通信部が異常データを出すことで大きくずれることも想定されるため、位置推定モデル利用部1-3の出力も、個別管理モデル1-0-1-1~1-0-1-Pの出力と同様、機械学習による異常検知を適用し、個別管理モデルからの個別の出力を用い、より詳細に異常の原因を分析してもよい。例えば、時間や本発明による管理装置以外の情報との関連性を用い、異常の原因を分析してもよい。
【0049】
複数の個別管理モデル1-0-1-p(1≦p≦P)は、それぞれ、1つの端末の無線通信部(3-i-1又は2-j-1)、又は自装置の1つの無線通信部1-r、のチャネル情報から生成される入力特徴量と、位置推定対象2-jの位置情報と、の関係性を機械学習によりモデル化した位置推定モデルとすることができる。各個別管理モデル1-0-1-pは、1つの無線通信部に対応する入力特徴量が入力され、位置推定対象2-jの位置情報を出力する。
【0050】
又は、個別管理モデルは、複数の端末の無線通信部(3-i-1又は2-j-1)、又は複数の無線通信部1-rのチャネル情報から生成される入力特徴量から、位置情報を出力するように訓練された位置推定モデルを用いてもよい。
【0051】
個別管理モデルに、複数の端末(固定端末、位置推定対象)の無線通信部や複数の無線通信部に対応する入力特徴量を用いることで、出力される異常を判定するための情報の精度を高めることができる。個別管理モデルに位置推定モデルを用いた例では、単一の無線通信部から位置予測を行うと位置予測精度が低く、異常の判定が難しい場合がある。異常検知により、数値化された異常度を出力する場合においても、入力される情報に再現性が高ければ、異常性の判断の精度も高められることが期待できる。デメリットとして、複数の無線通信部に対応する個別管理モデルを有する場合は、異常がどの無線通信端末にあるかの特定には至らない可能性があるが、少なくともいくつかの無線通信端末のうちいずれかが異常であることは分かる他、様々な組み合わせの無線通信端末の入力特徴量から位置情報を出力する個別管理モデルを用意することで、異常のある無線通信端末の特定を行うこともできる。
【0052】
モデル評価部1-0-2は、入力された1つの無線通信部に対応するチャネル情報から推定される位置推定対象2-jの位置情報と、位置推定モデル利用部1-3が出力した複数の無線通信部に対応するチャネル情報を用いて推定された位置推定対象2-jの位置情報とを比較し、比較した2つの位置情報の差(誤差)が閾値を上回る場合や、誤差の傾向が特定の条件を満たす場合、入力されたチャネル情報に対応する無線通信部を異常と判定したり、異常を判定するための指標を出力する機能を備える。例えば、モデル評価部1-0-2は、複数の位置情報の集合において外れ値となる値の位置情報を異常と判定したり、集合からの値のずれを異常と判定するための指標を出力したり、外れ値の外れ度(外れているレベル)を出力する。
【0053】
個別管理モデル1-0-1として機械学習の異常検出アルゴリズムを用いる場合には、固定端末3-i、若しくは位置推定対象2-j、又は自装置の無線通信部1-rのうち1つ以上の無線通信装置のチャネル情報から生成される入力特徴量であって、正常状態におけるデータを用いて、異常検出アルゴリズムの個別管理モデルを構築することができる。異常検出アルゴリズムは、正常状態におけるデータ系列を学習することで、予め把握している正常なパターンから外れることを検出できる。又は、無線通信部やアンテナの位置がずれたデータ、装置が故障する等の異常データ、それら異常を想定して予め作成した疑似異常データを用いて、特定の異常を検出できるようにしてもよい。モデル評価部1-0-2は、個別管理モデルからの異常に関する情報が入力され、どの無線通信部がどのような異常を有するかについて、異常判定や判定に用いることための指標を出力することができる。
【0054】
つまり、正常時における無線通信部(固定端末、位置推定対象、管理装置の各無線通信部)のチャネル情報を与えて予め異常検出アルゴリズムを生成しておいてもよい。例えば、各個別管理モデルがそれぞれ単一の無線通信部に関する入力特徴量を入力とする場合には、モデル評価部1-0-2において、異常判定や異常を示す指標を出力する個別管理モデルに対応する無線通信部を、異常状態として検出することもできる。
【0055】
また、個別管理モデル1-0-1又はモデル評価部1-0-2に、位置推定モデル利用部1-3の出力である位置情報を合わせて入力してもよい。又は、本発明による管理装置1以外の異常の判定に有効な情報を同時に入力してもよい。チャネル情報に影響がある取得可能なパラメータ(例えば、温度、湿度、時間、混雑度、物体の位置情報、構造物の状態情報等)を位置推定モデルに入力することで、位置予測、位置予測に基づく異常検知、入力特徴量の異常検知、の精度を高めることができる。例えば、個別管理モデル1-0-1として位置推定モデルを用いる場合には、出力される位置情報と位置推定モデル利用部1-3の予測した位置情報と比較することで、モデル評価部1-0-2で異常を判定することができる。
【0056】
また、個別管理モデルを別途生成するのではなく、位置推定モデル利用部1-3における位置推定モデルの一部としてもよい。例えば、位置推定モデルはすべての無線通信部に対応するチャネル情報を用いて構築される深層学習によるニューラルネットワークだったとして、中間層として、個別の無線通信部からの入力特徴量のみを用いた層を有し、中間層の出力が当該特定の無線通信部からの入力特徴量を用いた位置予測結果に収束するように訓練することで、位置推定モデルの一部を、個別管理モデルとして機能させてもよい。
【0057】
なお、位置推定モデル利用部1-3が用いる位置推定モデル、位置推定モデル管理部1-0が備える個別管理モデル(位置推定モデル、異常検出アルゴリズム)は、予め生成済みのモデルを用いてもよいし、新たに生成されたデータで、ファインチューニングやトランスファーラーニング等によりアップデートされてもよい。個別管理モデルに位置推定モデルを用いる場合には、位置推定モデル訓練部1-4で生成されアップデートされるモデルを用いてもよい。位置推定モデルとは、固定端末3-iと同じ環境内に位置する位置推定対象2-jの位置情報と、固定端末3-iや位置推定対象2-jから取得される電波伝搬に関するチャネル情報(≒入力特徴量)と、の関係性を、機械学習により訓練することで生成した位置推定モデルである。その他、位置推定モデルは、デジタルツイン技術等により、シミュレーション空間に実空間と同等の空間を生成し、仮想的に生成した位置推定対象とシミュレーションにより計算したチャネル情報との間の関係性を用いて生成してもよい。位置推定モデルは、他の位置推定部で計測したチャネル情報と位置推定対象との関係性から作成した位置推定モデルを用いてもよい。
【0058】
位置推定モデル訓練部1-4は、位置推定対象2-jの位置情報に関するデータを別途取得し、取得した位置情報とチャネル情報との関係性を基に位置推定対象2-jの位置を推定可能な推定位置推定モデルを訓練することで、位置推定モデルを生成する機能を備える。また、位置推定モデル訓練部1-4は、生成した位置推定モデルをアップデートする更に機能を備える。アップデートの方法としては、例えば、深層学習で知られるファインチューニングやトランスファーラーニングを用いることができる。
【0059】
位置推定対象2-jの位置情報については、位置推定対象2-jに搭載された位置測定機能による位置測定データを何らかの手段で定期的に収集することで取得してもよい。また、所定の機械学習モデルを用いることで、位置推定対象2-jの位置情報と固定端末3-iから得られるチャネル情報との間の関係性を推定学習可能である。何らかの手段とは、位置推定対象2-jに搭載されたセンサ、カメラ、無線測位、SLAM(Simultaneous Localization And Mapping)、GPS(Global Positioning System)等である。管理装置1は、位置推定対象2-jにより得られた位置推定対象2-jの位置及び時間情報を記憶部に記憶し、その位置及び時間情報を定期的に一括して位置推定モデル訓練部1-4へ入力することで、位置推定モデルを訓練するための教師データとすることができる。
【0060】
位置推定モデル訓練部1-4は、入力された位置推定対象2-jの位置及び時間情報と、同じく記憶部に記憶しているチャネル情報及び時間情報とを、同じ時間軸で比較することで、両者の関係性を学習することで、位置推定モデルを訓練できる。又は、位置推定モデル訓練部1-4は、管理装置1に搭載されたカメラ、センサ、無線測位等の情報から位置推定対象2-jの位置情報を取得し、同一時刻・同一時間帯のチャネル情報との関係性を学習することで、位置推定モデルを訓練できる。
【0061】
[管理装置の動作]
図3は、管理装置1の動作を示す図である。
【0062】
予め、複数の端末の無線通信部(3-i-1又は2-j-1)と、管理装置1の無線通信部との間で無線通信を行い、複数の無線通信部に対応する無線信号を受信し、位置推定対象の位置を出力しつつ、いずれかの無線通信機器に異常が生じないかを管理できる。
【0063】
まず、管理装置1の無線通信部1-1~1-Rが、固定端末3-i又は固定端末3-iと位置推定対象2-jに具備される1つ以上の無線通信部から送信された無線信号を受信し、受信した無線信号から端末の無線通信部に対応するチャネル情報を取得する(ステップS1)。ここで、取得した無線通信部の数が複数であるか、あるいは管理装置1の無線通信部が複数であるか、いずれかであるときに、本発明による管理装置1が機能する。
【0064】
次に、入力特徴量生成部1-2が、取得した無線通信部に対応するチャネル情報を、位置推定モデルへの入力に適した入力特徴量に変換し、位置推定モデル利用部1-3と位置推定モデル管理部1-0へ入力する(ステップS2)。入力特徴量とは、例えば、無線信号の受信電力、信号電力、受信電力や信号電力の移動平均から得られる電力比情報、複数のアンテナ間の電波伝搬係数からなるチャネル行列、チャネル行列の相関行列、チャネル行列を信号処理して得られる演算行列、相関行列を信号処理して得られる演算行列、複数の周波数に対応するチャネル行列若しくは相関行列を信号処理して得られる演算行列、チャネル行列を線形演算して得られるユニタリ行列、相関行列を線形演算して得られるユニタリ行列、演算行列を線形演算して得られるユニタリ行列、チャネル行列を線形演算して得られる対角行列、相関行列を線形演算して得られる対角行列、演算行列を線形演算して得られる対角行列、チャネル行列を線形演算して得られる三角行列、相関行列を線形演算して得られる三角行列、演算行列を線形演算して得られる三角行列に関する特徴量のうち、1つ以上の特徴量の位相、振幅、実数成分、虚数成分の値、及び当該1つ以上の値の係数の範囲を規格化した値である。入力特徴量の具体的な計算方法については、後述する。
【0065】
次に、位置推定モデル利用部1-3が、変換後の入力特徴量を位置推定モデルに入力することで、チャネル情報に基づく位置推定対象2-jの位置情報を推定計算して出力する(ステップS3)。
【0066】
また、位置推定モデル管理部1-0が、個別の無線通信部ごとに、入力特徴量を分離し、個別管理モデル1-0-1-1~1-0-1-Pにおいて、それぞれの無線通信部に対応する入力特徴量で位置推定対象2-jの位置推定を実施するように訓練された位置推定モデルにより、位置推定対象2-jの位置情報をそれぞれ推定計算し、モデル評価部1-0-2へ出力する。又は、個別管理モデルにおいて、それぞれの無線通信部に対応する入力特徴量に異常検知アルゴリズムを用いて、異常度を表す指標を出力する(ステップS4)。
【0067】
その後、モデル評価部1-0-2は、個別の無線通信部のチャネル情報に基づく入力特徴量を用いた位置推定対象2-jの位置情報の推定結果、又は異常検知の結果から、いずれかの無線通信部に対応する位置推定モデルに異常がないかを判定したり、異常を判定するための指標を出力する(ステップS5)。位置情報の推定結果を用いる場合には、モデル評価部1-0-2において、ステップS3による位置推定結果を用いてもよいし、3つ以上の個別管理モデルの出力の比較から、ずれた位置情報を出力している無線通信端末を検出してもよいし、別途取得した位置推定対象2-jの位置情報の測定結果を用いてもよいし、前述したチャネル情報に影響がある取得可能なパラメータを用いてもよいし、機械学習による異常検知のアルゴリズムを用いて入力される位置情報の推定結果から、異常検知を行ってもよい。また、個別管理モデルからの入力をもとに、異常の種類の判別を行ってもよい。
【0068】
[チャネル情報の収集方法、入力特徴量の計算方法]
チャネル情報の収集方法、入力特徴量の計算方法の例を以下説明する。
【0069】
[チャネル情報の収集方法、入力特徴量の計算方法(第1例)]
第1の方法では、固定端末3-i、又は、位置推定対象2-jは、送受で既知となるパイロット信号を送信する。予め、既知のパターンを送信することで、管理装置1の無線通信部1-rは、自身の無線通信部1-rのアンテナ(受信アンテナ数:Mr)と、パイロット信号を送信した無線通信部3-i-1又は無線通信部2-j-1のアンテナ(送信アンテナ数:Ni)と、の間のチャネル行列を取得できる。様々な無線通信システムで利用されているOFDM(直交波分割多重方式)であれば、複数の周波数に対応するサブキャリアのチャネル行列を得ることが可能である。
【0070】
このようにして得られた「送信アンテナ数Ni×受信アンテナ数Mr」のチャネル行列Hから、位置推定モデル利用部1-3に入力する入力特徴量を生成する。例えば、OFDMにより複数のサブキャリアに対してチャネル行列を得る場合、η番目のサブキャリアのチャネル行列をHηと定義する。そして、入力特徴量に変換する方法としては、まず、式(1)のように、チャネル行列Hηを、予め定めたノルムで規格化した規格化チャネル行列Gηと、振幅情報γη又は電力情報γη 2と、に分離する。
【0071】
【数1】
【0072】
Gηは、例えば、||Gη||F=1となるように設定できる。||・|| Fは、フロベニウムノルムを表す。γηは、一般に大きな振れ幅を持ち、10の5乗やそれ以上の値の変化がありうる。このため、γηやγη 2をdBに変換し、その最大値と最小値を規定し、その範囲を0~1の範囲内等で規格化した値で表現するように変換した値を用いてもよい。これを異なる周波数条件やアンテナ条件に対して複数選択したり平均したりした値γallを用いてもよい。
【0073】
その他、式(2)のように、振幅情報γηをアンテナ毎に分離し、ノルム値をある値に規格化した各列ベクトルg1,η~gMr,ηと、その振幅値γ1,η~γMr,ηと、を得るようにしてもよい。
【0074】
【数2】
【0075】
ga,ηは、例えば、||ga,η||F=1となるように規定ベクトルとして設定できる。γa,ηやγa,η 2をdBに変換し、その最大値と最小値を規定し、その範囲を0~1の範囲内等で規格化した値で表現するように変換した値を用いてもよい。これをηに対して複数選択したり平均したりしたa番目の列ベクトルに対応する値γa,allを用いてもよい。
【0076】
その他、式(3)のように、振幅情報γηをアンテナ毎に分離し、ノルム値をある値に規格化した各行ベクトルg’1,η~g’Ni,ηと、その振幅値γ’1,η~γ’Ni,ηと、を得るようにしてもよい。
【0077】
【数3】
【0078】
g’b,ηは、例えば、||g’b,η||F=1となるように規定ベクトルとして設定できる。γ’b,ηやγ’b,η 2をdBに変換し、その最大値と最小値を規定し、その範囲を0~1の範囲内等で規格化した値で表現するように変換した値を用いてもよい。これをηに対して複数選択したり平均したりしたb番目の列ベクトルに対応する値γ’b,allを用いてもよい。
【0079】
チャネル行列Hη、規格化チャネル行列Gη、規格化ベクトルga,η、規格化ベクトルg’b,ηは、各要素の実部と虚部をそれぞれ入力特徴量としたり、虚数のまま入力情報としたり、角度情報等の別形式に変換したり、量子化したりすることができる。
【0080】
また、チャネル行列Hηを用いて生成される相関行列HηHη H、Hη HHηを用いることができる。規格化チャネル行列Gηを用いて生成される相関行列GηGη H、Gη HGηを用いることができる。チャネル行列Hη、規格化チャネル行列Gη、それらの相関行列HηHη H、Hη HHη、GηGη H、Gη HGηを、複数の周波数に対して和や平均をとった行列ΣHη、ΣGη、ΣHηHη H、ΣHη HHη、ΣGηGη H、ΣGη HGηを用いることができる。これら行列のQR分解、SVD(Singular value decomposition)、固有ベクトル分解等をすることで得られる固有値、対角行列、ユニタリ行列を用いることができる。
【0081】
また、上記行列ΣHη、ΣGη、ΣHηHη H、ΣHη HHη、ΣGηGη H、ΣGη HGηを用いて、到来波方向推定技術により得られる、通信機に対する到来方向に対する電力特性を入力特徴量としてもよい。例えば、ベクトル成分に、(1,exp(jdθ),exp(j2dθ),…,exp(jNdθ))をそれぞれ乗算して得られる値をθに対して計算できる。0~2πまでのθを任意の角度間隔で生成し、複数のθに対しての出力を入力特徴量とすることもできる。dは、予め定めた定数である。Nは、ベクトルの要素数である。
【0082】
つまり、入力特徴量生成部1-2は、入力特徴量として、無線信号の受信電力、チャネル情報のチャネル行列、チャネル行列の相関行列、チャネル行列を信号処理して得られる演算行列、相関行列を信号処理して得られる演算行列、複数の周波数に対応するチャネル行列若しくは相関行列を信号処理して得られる演算行列、チャネル行列を線形演算して得られるユニタリ行列、相関行列を線形演算して得られるユニタリ行列、演算行列を線形演算して得られるユニタリ行列、チャネル行列を線形演算して得られる対角行列、相関行列を線形演算して得られる対角行列、演算行列を線形演算して得られる対角行列、チャネル行列を線形演算して得られる三角行列、相関行列を線形演算して得られる三角行列、演算行列を線形演算して得られる三角行列に関する特徴量のうち、1つ以上の特徴量の位相、振幅、実数成分、虚数成分の値、及び当該1つ以上の値の係数の範囲を規格化した値を生成する。入力特徴量生成部1-2は、このような入力特徴量を時系列のデータとして記憶し、過去から現在までの複数の時間に対応する入力特徴量を位置推定モデルに出力する。
【0083】
等化技術を用いる無線通信システムであれば、到来する電気信号のパスの到来時間と電力と位相条件を推定することができる。このように時系列で得られたチャネル情報であっても、電力の規格化、周波数成分への変換、既存の到来波方向技術で抽出される特徴量や角度情報を用いて位置推定モデルの入力特徴量とすることができる。
【0084】
[チャネル情報の収集方法、入力特徴量の計算方法(第2例)]
第2の方法では、固定端末3-i、又は、位置推定対象2-jは、ある特定の無線基地局と通信を行い、当該特定の無線基地局から送信され受信するパイロット信号からチャネル情報を推定し、何らかの形で量子化してフィードバック情報を生成し、生成したフィードバック情報を含む無線信号を送信する。管理装置1の無線通信部1-rは、当該無線信号を受信し、受信した無線信号の中に含まれる特定の無線基地局と固定端末3-i又は位置推定対象2-jとの間のチャネル情報を取得する。
【0085】
まず、特定の無線既知基地局から、送受で既知となるパイロット信号を送信する。予め、既知のパターンを送ることで、固定端末3-iの無線通信部3-i-1又は位置推定対象2-jの無線通信部の2-j-1は、自身の受信するアンテナ(受信アンテナ数:Ni)と、パイロット信号を送信した特定の無線基地局のアンテナ(送信アンテナ数:Mt)と、の間のチャネル行列を取得できる。様々な無線通信システムで利用されているOFDMであれば、複数の周波数に対応するサブキャリアのチャネル行列を得ることができる。
【0086】
このようにして得られた「送信アンテナ数Mt×受信アンテナ数Ni」のチャネル行列Hαから、位置推定モデル利用部1-3に入力する入力特徴量を生成する。例えば、OFDMにより複数のサブキャリアに対してチャネル行列を得る場合、η番目のサブキャリアのチャネル行列をHα,ηと定義する。ここで、特定の無線基地局が管理装置1の無線通信部1-rである場合、送信アンテナ数Mtは、第1の方法において無線通信部1-rに対して定義した受信アンテナ数Mrと等しい。また、この場合、チャネル行列Hα,ηは、チャネル行列Hηの転置行列に対応する。
【0087】
そこで、入力特徴量に変換する方法としては、第1の方法と同じように、式(4)のように、チャネル行列Hα,ηを、予め定めたノルムで規格化した規格化チャネル行列Gα,ηと、振幅情報γα,η又は電力情報γη 2と、に分離する。
【0088】
【数4】
【0089】
Gα,ηは、例えば、||Gα,η||F=1となるように設定できる。||・||Fは、フロベニウムノルムを表す。γα,ηやγα,η 2をdBに変換し、その最大値と最小値を規定し、その範囲を0~1の範囲内等で規格化した値で表現するように変換した値を用いてもよい。これを複数選択したり平均したりした値γα,allを用いてもよい。γα,allを平均化して得る場合には、真値で平均化してもよいし、dBにしてから平均にしてもよいし、真値で平均化したものをdB単位にしてもよい。
【0090】
その他、式(5)のように、振幅情報γα,ηをアンテナ毎に分離し、ノルム値をある値に規格化した各列ベクトルgα,1,η~gα,Ni,ηと、その振幅値γα,1,η~γα,Ni,ηと、を得るようにしてもよい。
【0091】
【数5】
【0092】
gα,a,ηは、例えば、||gα,a,η||F=1となるように規定ベクトルとして設定できる。γα,a,ηやγα,a,η 2をdBに変換し、その最大値と最小値を規定し、その範囲を0~1の範囲内等で規格化した値で表現するように変換した値を用いてもよい。これをηに対して複数選択したり平均したりしたa番目の列ベクトルに対応する値γα,a,allを用いてもよい。
【0093】
その他、式(6)のように、振幅情報γα,ηをアンテナ毎に分離し、ノルム値をある値に規格化した各行ベクトルg’α,1,η~g’α,Mt,ηと、その振幅値γ’α,1,η~γ’α,Mt,ηと、を得るようにしてもよい。
【0094】
【数6】
【0095】
g’α,b,ηは、例えば、||g’α,b,η||F=1となるように規定ベクトルとして設定できる。γ’α,b,ηやγ’α,b,η 2をdBに変換し、その最大値と最小値を規定し、その範囲を0~1の範囲内等で規格化した値で表現するように変換した値を用いてもよい。これをηに対して複数選択したり平均したりしたb番目の列ベクトルに対応する値γ’α,b,allを用いてもよい。
【0096】
チャネル行列Hα,η、規格化チャネル行列Gα,η、規格化ベクトルgα,a,η、規格化ベクトルg’α,b,ηは、各要素の実部と虚部をそれぞれ入力特徴量としたり、虚数のまま入力情報としたり、角度情報等の別形式に変換したり、量子化したりすることができる。
【0097】
また、チャネル行列Hα,ηを用いて生成される相関行列Hα,ηHα,η H、Hα,η HHα,ηを用いることができる。規格化チャネル行列Gα,ηを用いて生成される相関行列Gα,ηGα,η H、Gα,η HGα,ηを用いることができる。チャネル行列Hα,η、規格化チャネル行列Gα,η、それらの相関行列Hα,ηHα,η H、Hα,η HHα,η、Gα,ηGα,η H、Gα,η HGα,ηを、複数の周波数に対して和や平均をとった行列ΣHα,η、ΣGα,η、ΣHα,ηHα,η H、ΣHα,η HHα,η、ΣGα,ηGα,η H、ΣGα,η Hα,ηを用いることができる。これら行列のQR分解、SVD、固有ベクトル分解等をすることで得られる固有値、対角行列、ユニタリ行列を用いることができる。
【0098】
一例として、無線LAN規格であるIEEE 802.11n/ac/axで用いられているチャネル情報のフィードバックを用いる場合を示す。これは、上述の例のうちチャネル行列Hα,ηのSVDで得られる右特異行列を角度情報に圧縮し、量子化したものを複数の周波数に対応して生成し、フィードバックするものである。ユニタリ行列は、Compressed beamforming feedback matrixとして角度φとψに変換され、SNR情報と合わせてフィードバックされる。詳細は非特許文献に記載されているが、式(7)のように、角度情報を用いて行列演算を行うことで、チャネル行列の右特異行列に対応するV行列を得ることができる。
【0099】
【数7】
【0100】
Niは、受信アンテナ数である。Mtは、送信アンテナ数である。この表現は、ある周波数に注目して表記しており、式(7)のV行列は、指定されたサブキャリア数分存在し、サブキャリア毎に角度情報が生成される。更に、チャネル行列の固有値に対応する情報から、NiとMtとのいずれか小さい方のアンテナ数のSNR情報とともに、指定された量子化ビット数で量子化され、無線信号に格納されて送信される。管理装置1の無線通信部1-rは、この角度情報及びSNR情報を得ることができ、更には当該無線信号のRSSI情報を得ることができる。
【0101】
角度情報は、そのまま入力特徴量としてもよい。角度情報から算出した正弦と余弦成分を入力特徴量としてもよい。式(7)を用いて、角度情報を右特異行列に戻した行列を用いてもよい。角度情報を右特異行列に戻した後、右特異行列又はその相関行列を周波数方向に平均化した平均化行列を用いてもよい。平均化行列に更にQR分解等の信号処理を加えた行列を用いてもよい。
【0102】
上述の形式で、角度情報として圧縮した右特異行列の各列ベクトルの最後の要素の虚部は必ず0になるため、右特異行列をM×Niの行列として得たとすると、各要素の実部と虚部の数値から、2×Mt×Ni-Niの数値が意味のある情報となる。例えば、右特異行列を4×1の行列とした場合、実部4、虚部3の計7つの要素が意味のある情報であり、4×2の行列を得た場合は、実部8、虚部6の計14つの要素が意味のある情報である。各列の最後の要素の虚部は0であるため、各列の最後の要素は用いなくてもよい。
【0103】
[実験結果]
具体的な例と屋内実験結果を交えて、本実施形態の位置推定方法とその効果を説明する。
【0104】
図4に示す屋内の実験環境エリア内に、4台の固定端末3-1~3-4と、1台の位置推定対象2-1と、2つの無線通信部1-1、1-2が接続された管理装置1と、を配置した。位置推定対象2-1は、実験環境エリア内の中央部を8の字で走行している。固定端末3-1~3-4は、アクセスポイントである基地局APと無線通信を行っている。
【0105】
固定端末3-1~3-4と位置推定対象2-1は、基地局APから100ms毎にチャネル情報の報告を求められており、無線LANの標準化規格IEEE 802.11acで定められたチャネル情報のフィードバック方法によりチャネル情報の角度情報をフィードバック送信している。基地局APのアンテナ数は、4つである。固定端末3-1~3-4と位置推定対象2-1と無線通信部1-1と1-2のアンテナ数は、2つである。20MHzの帯域幅を用い、5.66GHzの搬送波周波数による通信を行った。
【0106】
2つの無線通信部1-1、1-2は、固定端末3-1~3-4と基地局APとの間のチャネル行列の右特異行列から生成した角度情報、SNR、及び、固定端末3-1~3-4からの無線信号の無線通信部1-1、1-2におけるRSSIの値を得ることができる。無線通信部1-1、1-2からのRSSIは、各1つ取得した。
【0107】
入力特徴量生成部1-2は、前述の数式に従い角度情報からユニタリ行列を算出し、算出したユニタリ行列を周波数で平均化する。これにより、実部8、虚部6の計14つの成分が得られる。また、2つのSNR情報のdB値を0から1の範囲で分布するように規格化したものと、無線通信部1-1、1-2の受信アンテナにおけるRSSIのdB値を0から1の範囲で分布するように規格化したものと、の14+2+2=18の入力特徴量が、固定端末毎に100ms周期で取得される。
【0108】
具体的な例と屋内実験結果を交えて、本実施形態の位置推定方法とその効果を説明する。
【0109】
図4に示す屋内の実験環境エリア内に、4台の固定端末3-1~3-4と、1台の位置推定対象2-1、4-1と、2つの無線通信部1-1、1-2が接続された管理装置1と、を配置した。位置推定対象2-1、4-1は、実験環境エリア内の中央部を8の字で走行している。固定端末3-1~3-4は、アクセスポイントである基地局(AP:Access Point)と無線通信を行っている。
【0110】
本実施形態に係る位置推定モデルを生成するため、屋内の実験環境エリア内において、位置推定対象2-1である自律走行ロボットを8時間走行させた。図4における8の字状に残る線がロボットの実際の経路であり、まったく同じ経路は通らないように、60cmの区間にランダムに設定された途中ゴールを通過しながら走行するように、走行データを設定した。この際、位置推定モデル訓練部1-4は、位置推定対象に具備されたLIDAR(light detection and ranging)とタイヤの制御情報とから得られる高精度な自律走行ロボットの位置情報と、上述の伝搬伝搬に関する入力特徴量と、を200ms周期で同じ時系列で整理した訓練データを生成する。前述のように、入力特徴量の生成周期は100msであるが、200ms周期で区切った時間幅で得られる最新の情報を選択して用いて訓練データを生成した。
【0111】
そして、生成した訓練データを用いて、GRU(Gated Reccurent Unit)と直接結合とを用いた深層ニューラルネットワークによる位置推定モデルを訓練した。学習率は0.0002、最適化アルゴリズムはADAMを用いた。GRUは隠れ層1、次元を35とし、入力35、出力35の2つの直接結合層と、入力35、出力2の1つの直接結合層と、を用いて、実験環境エリア内におけるX座標とY座標情報を出力するように、重みとバイアスを逆伝搬により更新した。更新後の位置推定モデルを用いた。
【0112】
位置推定モデル利用部1-3は、固定端末3-1~3-4及び位置推定対象2-1を用いて位置推定対象2-1の位置を推定した。また、実験環境エリアを図5に示すようにArea A~Fの6つに分割し、評価した。
【0113】
位置推定を行った出力を実際の値からの誤差を単位をmとして整理した結果を図6に示す。ここで、一番右の列が位置推定モデル利用部による位置情報の出力結果であり、それ以外が個別管理モデルによる位置情報の出力に対応している。一番右の2-1、3-1~3-4と記載された列は、すべての無線通信部からのチャネル情報を用いて入力特徴量を生成しており、いずれの場所でも20cm以下の高い推定精度が得られていることがわかる。
【0114】
それ以外に、2-1,3-1,3-2,3-3,3-4,{2-1,3-1},{2-1,3-2},{2-1,3-3}, {2-1,3-4}の無線通信部に対応する個別管理モデルを生成した。まず、単一の無線通信部に対応する個別管理モデルの位置推定誤差は、20cmから、2.7 mまで非常に幅広い分布を持っていることがわかる。単一の無線通信部を個別管理モデルとして異常検出する場合、位置推定精度そのものが悪いことがあることを注意する必要がある。例えば、固定端末3-2を用いた場合、位置推定対象がArea E又はFにいる場合、平均の位置予測誤差は2mを超えている。出力を、別の方法で測定された位置情報(教師データ)や、位置予測モデル利用部の出力と比較した場合、大きな誤差が検出されるが、実際には、固定端末3-2の無線通信部は壊れていない。つまり、位置推定対象の予測性能が高い条件となる、Area AやCにおいて異常を判断するのがよい。単なる位置情報による比較を行う場合でも、異常検出判断を特定の位置条件で行うなどが必要となる。
【0115】
さらに、複数の無線通信部を組み合わせた個別管理モデルの位置予測性能を見ると、位置予測結果は非常に高く、30cm以下の精度で検出できていることがわかる。このように、出力制度を高めることで異常検知アルゴリズムの精度を高めることができる。{2-1,3-1},{2-1,3-2},{2-1,3-3},{2-1,3-4}を個別管理モデルとし、いずれか一つの出力が異常であれば、対応する固定端末3-iが異常の原因だと特定できる。ここでの結果は無線通信部1-1と1-2での両方の受信信号を用いた結果であるが、用いる無線通信部1-1と1-2を分離することで、いずれかの管理装置1の無線通信部に問題があったことも検出できる。
【0116】
[本実施形態の効果]
本実施形態によれば、環境に固定された固定端末と無線通信を行い、又は前記固定端末及び位置推定対象と無線通信を行い、無線通信を行う無線通信部の状態を管理する管理装置1において、前記固定端末又は前記位置推定対象の無線通信部の数と自装置の無線通信部とのうち少なくとも一方は、複数であって、前記固定端末に具備された無線通信を行う無線通信部、又は前記固定端末と前記位置推定対象に具備された無線通信部からの無線信号を受信し、前記無線信号から電波伝搬に関する複数のチャネル情報を取得する1つ以上の無線通信部1-1~1-Rと、前記複数の無線通信部に対応するチャネル情報を機械学習モデルに入力可能な複数の入力特徴量に変換する入力特徴量生成部1-2と、前記複数の入力特徴量を、前記位置推定対象の位置情報と入力特徴量との関係性を機械学習によりモデル化した位置推定モデルに入力することで、前記位置推定対象の位置を推定計算する位置推定モデル利用部1-3と、前記複数の無線通信部の入力特徴量の各入力特徴量を、前記固定端末毎若しくは前記位置推定対象毎に、自装置の無線通信部毎に、又は前記固定端末と前記位置推定対象と前記自装置の無線通信部の中から選択された複数の無線通信部に対して、生成された個別管理モデルにそれぞれ入力することで、固定端末若しくは位置推定対象、又は自装置の無線通信部のうちいずれかに異常が生じているか否かの判定、又は前記判定のための指標を出力するモデル評価部1-0-2と、を備える。つまり、チャネル情報の入力特徴量を、個別の無線通信端末(固定端末、位置推定装置)毎、無線信号を受信した個別の無線通信部毎、無線通信端末と位置推定対象と管理装置の無線通信部の中から選択された複数の無線通信部毎に予め生成した個別管理モデルにより、当該個別の無線通信端末又は当該個別の無線通信部が正常であるかを判定するので、無線通信端末、又は自装置の無線通信部の状態を個別に管理可能な技術を提供できる。
【0117】
[その他]
本発明は、上記実施形態に限定されない。本発明は、本発明の要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【0118】
上記説明した本実施形態の管理装置1は、例えば、図7に示すように、CPU901と、メモリ902と、ストレージ903と、通信装置904と、入力装置905と、出力装置906と、を備えた汎用的なコンピュータシステムを用いて実現できる。メモリ902及びストレージ903は、記憶装置である。当該コンピュータシステムにおいて、CPU901がメモリ902上にロードされた所定のプログラムを実行することにより、管理装置1の各機能が実現される。
【0119】
管理装置1は、1つのコンピュータで実装されてもよい。管理装置1は、複数のコンピュータで実装されてもよい。管理装置1は、コンピュータに実装される仮想マシンであってもよい。管理装置1用のプログラムは、HDD、SSD、USBメモリ、CD、DVD等のコンピュータ読取り可能な記録媒体に記憶できる。管理装置1用のプログラムは、通信ネットワークを介して配信することもできる。
【符号の説明】
【0120】
1:管理装置
1-0:位置推定モデル管理部
1-0-1-1~1-0-1-P:個別管理モデル
1-0-2:モデル評価部
1-1~1-R:無線通信部
1-2:入力特徴量生成部
1-3:位置推定モデル利用部
1-4:位置推定モデル訓練部
2-1~2-Q:位置推定対象
2-1-1~2-Q-1:無線通信部
3-1~3-M:固定端末
3-1-1~3-M-1:無線通信部
901:CPU
902:メモリ
903:ストレージ
904:通信装置
905:入力装置
906:出力装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7