(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】繊維複合材とその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 1/08 20060101AFI20241218BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20241218BHJP
D06M 15/05 20060101ALI20241218BHJP
D06M 101/06 20060101ALN20241218BHJP
【FI】
C08L1/08
C08K7/02
D06M15/05
D06M101:06
(21)【出願番号】P 2021067076
(22)【出願日】2021-04-12
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】504145308
【氏名又は名称】国立大学法人 琉球大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152180
【氏名又は名称】大久保 秀人
(72)【発明者】
【氏名】柴田 信一
(72)【発明者】
【氏名】山田 昌宏
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-136851(JP,A)
【文献】特開2012-240326(JP,A)
【文献】特開2003-253011(JP,A)
【文献】特開2016-079370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基
、または、エポキシ基から選択される少なくとも一種の反応性基と9,9-位にアリール基を有するフルオレン化合物とセルロースが結合したフルオレン変性セルロースナノファイバーでコーティングされた一方向に配向する竹繊維が、熱プレス成形されていることを特徴とする竹繊維複合材。
【請求項2】
カルボキシル基
、または、エポキシ基から選択される少なくとも一種の反応性基と9,9-位にアリール基を有する、「化1」(1)で表されるフルオレン化合物とセルロースが結合したフルオレン変性セルロースナノファイバーでコーティングされた一方向に配向する竹繊維が、熱プレス成形されていることを特徴とする竹繊維複合材。
【化1】
[「化1」(1)中、環Zはアレーン環、Xは「化2」の(2-1)又は(2-2)
【化2】
(R
1は水素原子又はアルキル基、R
2はアルキレン基、m1は0又は1以上の整数、m2は0又は1以上の整数を示す)で表される基を示し、
nは1~3の整数、R
3及びR
4は置換基を示し、pは0又は1以上の整数、kは0~4の整数を示す]
【請求項3】
「化1」(1)において、環Zが単環式アレーン環、多環式アレーン環又は環集合アレーン環であり、R
1が水素原子又はC
1-4アルキル基、R
2がC
2-6アルキレン基、R
3がC
1-4アルキル基、C
1-4アルコキシ基、R
4がシアノ基、ハロゲン原子、C
1-4アルキル基、カルボキシル基又はC
1-4アルコキシ-カルボニル基、m1が0又は1~4の整数、m2が0又は1~5の整数、nが1又は2、pが0~2の整数、kが0~2の整数であるフルオレン変性セルロースナノファイバーであることを特徴とする請求項2記載の竹繊維複合材。
【請求項4】
「化1」(1)において、環Zがベンゼン環、ナフタレン環又はビフェニル環であり、Xが「化2」(2-2)で表される基であり、R
2がC
2-4アルキレン基、R
3がC
1-3アルキル基、R
4がC
1-3アルキル基、カルボキシル基又はC
1-2アルコキシ-カルボニル基、m2が0又は1、nが1又は2、pが0~2の整数、kが0又は1であるフルオレン変性セルロースナノファイバーであることを特徴とする請求項2または3記載の竹繊維複合材。
【請求項5】
竹繊維をコーティングする、請求項1から4のいずれかに記載のフルオレン変性セルロースナノファイバーの重量割合が、竹繊維の2.5~10%であることを特徴とする請求項1から4
のいずれかに記載の竹繊維複合材。
【請求項6】
竹繊維をコーティングする、請求項1から5のいずれかに記載のフルオレン変性セルロースナノファイバーの重量割合が、竹繊維の2.5~10%であり、180~250度で熱プレス成形されていることを特徴とする請求項1から5
のいずれかに記載の竹繊維複合材。
【請求項7】
竹繊維をコーティングする、請求項1から6のいずれかに記載のフルオレン変性セルロースナノファイバーの重量割合が、アルカリ処理された竹繊維の2.5~10%であり、180~250度で熱プレス成形されていることを特徴とする請求項1から6
のいずれかに記載の竹繊維複合材。
【請求項8】
一方向に配向する竹繊維を、カルボキシル基
、または、エポキシ基から選択される少なくとも一種の反応性基と9,9-位にアリール基を有するフルオレン化合物とセルロースが結合したフルオレン変性セルロースナノファイバーでコーティングし、熱プレス成形して得られることを特徴とする竹繊維複合材の製造方法。
【請求項9】
一方向に配向する竹繊維を、カルボキシル基
、または、エポキシ基から選択される少なくとも一種の反応性基と9,9-位にアリール基を有する、「化3」(1)で表されるフルオレン化合物とセルロースが結合したフルオレン変性セルロースナノファイバーでコーティングし、熱プレス成形して得られることを特徴とする竹繊維複合材の製造方法。
【化3】
[「化3」(1)中、環Zはアレーン環、Xは「化4」の(2-1)又は(2-2)
【化4】
(R
1は水素原子又はアルキル基、R
2はアルキレン基、m1は0又は1以上の整数、m2は0又は1以上の整数を示す)で表される基を示し、
nは1~3の整数、R
3及びR
4は置換基を示し、pは0又は1以上の整数、kは0~4の整数を示す]
【請求項10】
「化3」(1)において、環Zが単環式アレーン環、多環式アレーン環又は環集合アレーン環であり、R
1が水素原子又はC
1-4アルキル基、R
2がC
2-6アルキレン基、R
3がC
1-4アルキル基、C
1-4アルコキシ基、R
4がシアノ基、ハロゲン原子、C
1-4アルキル基、カルボキシル基又はC
1-4アルコキシ-カルボニル基、m1が0又は1~4の整数、m2が0又は1~5の整数、nが1又は2、pが0~2の整数、kが0~2の整数であるフルオレン変性セルロースナノファイバーであることを特徴とする請求項9記載の竹繊維複合材の製造方法。
【請求項11】
「化3」(1)において、環Zがベンゼン環、ナフタレン環又はビフェニル環であり、Xが「化4」(2-2)で表される基であり、R
2がC
2-4アルキレン基、R
3がC
1-3アルキル基、R
4がC
1-3アルキル基、カルボキシル基又はC
1-2アルコキシ-カルボニル基、m2が0又は1、nが1又は2、pが0~2の整数、kが0又は1であるフルオレン変性セルロースナノファイバーであることを特徴とする請求項9または10記載の竹繊維複合材の製造方法。
【請求項12】
一方向に配向する竹繊維を、竹繊維に対して2.5~10%の重量割合の請求項8から11のいずれかに記載のフルオレン変性セルロースナノファイバーでコーティングし、熱プレス成形して得られることを特徴とする請求項8から11
のいずれかに記載の竹繊維複合材の製造方法。
【請求項13】
一方向に配向する竹繊維を、竹繊維に対して2.5~10%の重量割合の請求項8から12のいずれかに記載のフルオレン変性セルロースナノファイバーでコーティングし、180~250度で熱プレス成形して得られることを特徴とする請求項8から12
のいずれかに記載の竹繊維複合材の製造方法。
【請求項14】
水酸化ナトリウム水溶液でアルカリ処理した竹繊維を、一方向に配向し、竹繊維に対して2.5~10%の重量割合の請求項8から13のいずれかに記載のフルオレン変性セルロースナノファイバーでコーティングして、180~250度で熱プレス成形して得られることを特徴とする請求項8から13
のいずれかに記載の竹繊維複合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバー(CNF)をバインダーとする繊維複合材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生分解性樹脂に植物由来のバイオマスを混合したグリーンコンポジットといわれる生分解性複合材に関する研究が注目されており、繊維強化複合材は、軽量化による燃費向上が求められる自動車や航空機の内装部品などの構造用途で使用されている。
特に、炭素繊維複合材は、軽金属合金と比較して、航空機部品の重量を最大40%削減する可能性があり、エアバスA380、ボーイング787「ドリームライナー」などは、複合材が金属合金に代わることで、少なくとも25%の構造質量を実現している。
繊維強化複合材の用途は、スポーツ用品、電子機器、各種家電製品などで増加しているが、整形外科医療や義肢装具の分野でも有望であるため、盛んに研究がされており、複合材としての天然繊維や合成ポリマーは、自動車部品や携帯電話などにも応用されている。
【0003】
自然界には、バガス、竹、コアー、亜麻、麻、ジュート、サイザルなど、古代から利用されてきた繊維が豊富に存在するが、発明者は、熱帯・亜熱帯地域に生育する早生草の一つで、固有強度300~600MPa、引張弾性率20~50GPaという高い機械的特性と、温度安定性に優れる竹を用いて、繊維複合材の開発を行った。
【0004】
なお、特許文献1には、フルオレン骨格を有する化合物が結合した修飾セルロースナノ繊維で軽量性及び高温での機械的特性を向上できるポリアミド組成物及びその製造方法が開示されており、同文献には、フルオレン化合物によって化学修飾するセルロースナノ繊維の例として「竹」が開示されている。
しかし、竹繊維に対し、カルド構造をもつフルオレン誘導体によるフルオレン変性セルロースナノファイバー(FCNF)をバインダーとして製造した複合材の機械的特性までは、明らかにされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、竹繊維に対し、カルド構造をもつフルオレン誘導体によるフルオレン変性セルロースナノファイバー(FCNF)をバインダーとして製造した複合材の機械的特性を明らかし、その産業利用可能性を示すことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、竹繊維に対し、セルロースナノファイバー(CNF)、竹繊維を細かく粉砕したカーボンナノファイバー(CBF)、カルド構造をもつフルオレン誘導体によるフルオレン変性セルロースナノファイバー(FCNF)の3種類をバインダーとして製造した複合材を比較した。
【0008】
その結果、カルド構造をもつフルオレン誘導体によるフルオレン変性セルロースナノファイバー(FCNF)をバインダーとして使ったFCNF竹繊維複合材は、3種類のバインダーの中で最大の曲げ強さを示すことが分かった。
この結果は、竹繊維とフルオレン変性セルロースナノファイバー(FCNF)の化学反応による強い結合によるものと推定された。
【0009】
そして、繊維の配向精度が複合材の機械的特性に及ぼす影響を調べたところ、竹の繊維を、繊維同士が交差しないように一方向に配向させた場合、繊維同士が交差していた複合材と比較して、機械的特性が約2倍向上することが分かった。
また、繊維同士が交差しないように一方向に配向させた場合、ホットプレス成形時の圧縮応力によって繊維の断面が大きく変形し、繊維間の隙間が減少した結果、界面の密着性が向上した。
【0010】
さらに、次の「化5」で表される化合物であるカルド構造をもつフルオレン誘導体によって、エポキシ基の片方をセルロースの水酸基に反応させた、次の「化6」で表される化合物であるフルオレン変性セルロースナノファイバー(FCNF)と竹繊維の複合材の最大弾性率と強度は、230~250℃付近であり、270℃以上では竹繊維の熱劣化によって機械的性質が急速に低下することがわかった。
【化5】
【化6】
【0011】
このように、カルド構造をもつフルオレン誘導体によるフルオレン変性セルロースナノファイバー(FCNF)は、高い分散性と樹脂との相溶性を有しており、グリーンコンポジットの補強剤としての可能性を秘めていることから、カルド構造をもつフルオレン誘導体によるフルオレン変性セルロースナノファイバー(FCNF)と竹繊維の複合材を開発した。
【0012】
(フルオレン骨格を有する化合物)
フルオレン化合物は、9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有し、カルボキシル基又はエポキシ基から選択される少なくとも一種の反応性基を有している。前記カルボキシル基としては、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などのC1-4アルコキシ-カルボニル基など)、酸ハライド基(酸クロライド基、酸ブロマイド基などのハロホルミル基)などが例示できる。エポキシ基は、オキシラン環を含む限り、グリシジル基であってもよい。
このようなフルオレン化合物は、例えば、9,9-ビスアリール-2,7-ジカルボキシフルオレン又は9,9-ビスアリール-2,7-ジ(グリシジルエステル)フルオレンなどであってもよい。
【0013】
代表的なフルオレン化合物は、次の「化7」で表される。
【化7】
[「化7」(1)中、環Zはアレーン環、Xは次の「化8」の(2-1)又は(2-2)で表される基を示し、nは1~3の整数、R
3及びR
4は置換基を示し、pは0又は1以上の整数、kは0~4の整数を示す]
【化8】
[R
1は水素原子又はアルキル基、R
2はアルキレン基、m1は0又は1以上の整数、m2は0又は1以上の整数を示す]
【0014】
前記「化7」(1)において、環Zで表されるアレーン環として、ベンゼン環などの単環式アレーン環、多環式アレーン環などが挙げられ、多環式アレーン環には、縮合多環式アレーン環(縮合多環式炭化水素環)、環集合アレーン環(環集合芳香族炭化水素環)などが含まれる。
【0015】
縮合多環式アレーン環としては、例えば、縮合二環式アレーン(例えば、ナフタレンなどの縮合二環式C10-16アレーン)環、縮合三環式アレーン(例えば、アントラセン、フェナントレンなど)環などの縮合二乃至四環式アレーン環などが挙げられる。好ましい縮合多環式アレーン環としては、ナフタレン環、アントラセン環などが挙げられ、特に、ナフタレン環が好ましい。なお、2つの環Zは同一の又は異なる環であってもよい。
【0016】
環集合アレーン環としては、ビアレーン環、例えば、ビフェニル環、ビナフチル環、フェニルナフタレン環(1-フェニルナフタレン環、2-フェニルナフタレン環など)などのビC6-12アレーン環、テルアレーン環、例えば、テルフェニレン環などのテルC6-12アレーン環などが例示できる。好ましい環集合アレーン環としては、ビC6-10アレーン環、特にビフェニル環などが挙げられる。
【0017】
前記「化7」(1)において、R1で表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキル基が例示できる。好ましいアルキル基は、C1-4アルキル基、特にC1-2アルキル基である。m1は0又は1以上の整数(例えば、1~6,好ましくは1~4,さらに好ましくは1~2程度)であってもよい。m1は、通常、0又は1~2であってもよい。
【0018】
アルキレン基R2には、直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基が含まれ、直鎖状アルキレン基としては、例えば、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基などのC2-6アルキレン基(好ましくは直鎖状C2-4アルキレン基、さらに好ましくは直鎖状C2-3アルキレン基、特にエチレン基)が例示でき、分岐鎖状アルキレン基としては、例えば、プロピレン基、1,2-ブタンジイル基、1,3-ブタンジイル基などの分岐鎖状C3-6アルキレン基(好ましくは分岐鎖状C3-4アルキレン基、特にプロピレン基)などが挙げられる。
【0019】
オキシアルキレン基(OR2)の数m2は、0又は1以上の整数(例えば、0~15、好ましくは0~10)程度の範囲から選択でき、例えば、0~8(例えば、1~8)、好ましくは0~5(例えば、1~5)、さらに好ましくは0~4(例えば、1~4)、特に0~3(例えば、1~3)程度であってもよく、通常、0~2(例えば、0又は1)であってもよい。なお、m2が2以上である場合、アルキレン基R2の種類は、同一又は異なっていてもよい。また、置換基R2の種類は、同一の又は異なる環Zにおいて、同一又は異なっていてもよい。
【0020】
前記「化7」(1)において、基Xの置換数nは、環Zの種類に応じて、同一又は異なって1以上の整数であればよく、例えば、1~4、好ましくは1~3、さらに好ましくは1又は2、特に1であってもよい。なお、置換数nは、それぞれの環Zにおいて、同一又は異なっていてもよい。
【0021】
なお、基Xは、環Zの適当な位置に置換でき、例えば、環Zがベンゼン環である場合には、フェニル基の2-,3-,4-位(特に、3-位及び/又は4-位)に置換している場合が多く、環Zがナフタレン環である場合には、ナフチル基の5~8-位である場合が多く、例えば、フルオレンの9-位に対してナフタレン環の1-位又は2-位が置換し(1-ナフチル又は2-ナフチルの関係で置換し)、この置換位置に対して、1,5-位、2,6-位などの関係(特にnが1である場合、2,6-位の関係)で基Xが置換している場合が多い。また、nが2以上である場合、置換位置は、特に限定されない。また、環集合アレーン環Zにおいて、基Xの置換位置は、特に限定されず、例えば、フルオレンの9-位に結合したアレーン環及び/又はこのアレーン環に隣接するアレーン環に置換していてもよい。例えば、ビフェニル環Zの3-位又は4-位がフルオレンの9-位に結合していてもよく、ビフェニル環Zの4-位がフルオレンの9-位に結合しているとき、基Xの置換位置は、2-,3-,2’-,3’-,4’-位のいずれであってもよく、通常、2-,3’-,4’-位、好ましくは2-,4’-位(特に、2-位)に置換していてもよい。
【0022】
前記「化7」(1)において、置換基R3としては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-10アルキル基、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキル基、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5-10シクロアルキル基など)、アリール基[フェニル基、アルキルフェニル基(メチルフェニル(トリル)基、ジメチルフェニル(キシリル)基など)、ビフェニル基、ナフチル基などのC6-12アリール基]、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基など)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-10アルコキシ基など)、シクロアルコキシ基(例えば、シクロへキシルオキシ基などのC5-10シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基などのC6-10アリールオキシ基など)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基などのC6-10アリール-C1-4アルキルオキシ基など)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、n-ブチルチオ基、t-ブチルチオ基などのC1-10アルキルチオ基など)、シクロアルキルチオ基(例えば、シクロへキシルチオ基などのC5-10シクロアルキルチオ基など)、アリールチオ基(例えば、チオフェノキシ基などのC6-10アリールチオ基など)、アラルキルチオ基(例えば、ベンジルチオ基などのC6-10アリール-C1-4アルキルチオ基など)、アシル基(例えば、アセチル基などのC1-6アシル基など)、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基などのC1-4アルコキシ-カルボニル基など)、ニトロ基、シアノ基、ジアルキルアミノ基(例えば、ジメチルアミノ基などのジC1-4アルキルアミノ基など)、ジアルキルカルボニルアミノ基(例えば、ジアセチルアミノ基などのジC1-4アルキル-カルボニルアミノ基など)などが例示できる。
【0023】
これらの置換基R3のうち、代表的には、ハロゲン原子、炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基)、アルコキシ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基などが挙げられる。好ましい置換基R3としては、アルコキシ基(メトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルコキシ基など)、特に、アルキル基(特に、メチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルキル基)が好ましい。なお、置換基R3がアリール基であるとき、置換基R3は、環Zとともに、前記環集合アレーン環を形成してもよい。置換基R3の種類は、同一の又は異なる環Zにおいて、同一又は異なっていてもよい。
【0024】
置換基R3の係数pは、環Zの種類などに応じて適宜選択でき、例えば、0~8程度の整数であってもよく、0~4の整数、好ましくは0~3(例えば、0~2)の整数、特に0又は1であってもよい。特に、pが1である場合、環Zがベンゼン環、ナフタレン環又はビフェニル環、置換基R3がメチル基であってもよい。
【0025】
置換基R4として、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基などのC1-4アルコキシ-カルボニル基など)、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基などのC1-6アルキル基)、アリール基(フェニル基などのC6-10アリール基)などが挙げられる。
【0026】
これらの置換基R4のうち、直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルキル基(特に、メチル基などのC1-3アルキル基)、カルボキシル基又はC1-2アルコキシ-カルボニル基、シアノ基、ハロゲン原子が好ましい。置換数kは0~4(例えば、0~3)の整数、好ましくは0~2の整数(例えば、0又は1)、特に0である。なお、置換数kは、互いに同一又は異なっていてもよく、kが2以上である場合、置換基R4の種類は互いに同一又は異なっていてもよく、フルオレン環の2つのベンゼン環に置換する置換基R4の種類は同一又は異なっていてもよい。また、置換基R4の置換位置は、特に限定されず、例えば、フルオレン環の2-位乃至7-位(2-位、3-位及び/又は7-位など)であってもよい。
【0027】
「化8」(2-1)で表される基Xを有する具体的なフルオレン化合物としては、n=1、p=k=0、m1=0である9,9-ビス(カルボキシアリール)フルオレン、例えば、9,9-ビス(3-カルボキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-カルボキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(5-カルボキシナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-カルボキシナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC6-10アリール)フルオレン;n=1、p=k=0、m1=1~3である9,9-ビス(カルボキシアルキル-アリール)フルオレン化合物、例えば、9,9-ビス(4-(カルボキシメチル)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-カルボキシエチル)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(3-(カルボキシメチル)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(5-(カルボキシメチル)ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-(カルボキシメチル)ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC1-6アルキルC6-10アリール)フルオレンなどが例示できる。これらのフルオレン化合物は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0028】
「化8」(2-2)で表される基Xを有する具体的なフルオレン化合物としては、n=1、p=k=0、m2=0である9,9-ビス(グリジシルオキシアリール)フルオレン、例えば、9,9-ビス(3-グリジシルオキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-グリジシルオキシフェニ)フルオレン、9,9-ビス(5-グリジシルオキシナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-グリジシルオキシナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(グリジシルオキシC6-10アリール)フルオレン;n=1、p=k=0、m2=1~5である9,9-ビス(グリジシルオキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン、例えば、9,9-ビス(4-(2-グリジシルオキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-グリジシルオキシプロポキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(5-(2-グリジシルオキシエトキシ)ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-(2-グリジシルオキシエトキシ)ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(グリジシルオキシ(ポリ)C2-4アルコキシC6-10アリール)フルオレン;n=1、p=1、k=0、m2=0である9,9-ビス(アルキル-グリジシルオキシアリール)フルオレン、例えば、9,9-ビス(3-メチル-4-グリジシルオキシフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(C1-4アルキル-グリジシルオキシC6-10アリール)フルオレン;n=1、p=1、k=0、m2=1~5である9,9-ビス(アルキル-グリジシルオキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン、例えば、9,9-ビス(3-メチル-4-(2-グリジシルオキシエトキシ)フェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(C1-4アルキル-グリジシルオキシ(ポリ)C2-4アルコキシC6-10アリール)フルオレン;n=1、p=0、k=0、m2=0である9,9-ビス(アリール-グリジシルオキシアリール)フルオレン、例えば、9,9-ビス(4-フェニル-3-グリジシルオキシフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(C6-10アリール-グリジシルオキシC6-10アリール)フルオレン;n=1、p=0、k=0、m2=1~5である9,9-ビス(アリール-グリジシルオキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン、例えば、9,9-ビス(4-フェニル-3-(2-グリジシルオキシエトキシ)フェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(C6-10アリール-グリジシルオキシ(ポリ)C2-4アルコキシC6-10アリール)フルオレン;n=2、p=0、k=0、m2=0である9,9-ビス(ジ(グリジシルオキシ)アリール)フルオレン、例えば、9,9-ビス(3,4-ジ(グリジシルオキシ)フェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(ジ(グリジシルオキシ)C6-10アリール)フルオレン;n=2、p=0、k=0、m2=1~5である9,9-ビス(ジ(グリジシルオキシ(ポリ)アルコキシ)アリール)フルオレン、例えば、9,9-ビス(3,4-ジ(2-グリジシルオキシエトキシ))フェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(ジ(グリジシルオキシ(ポリ)C2-4アルコキシ)C6-10アリール)フルオレンなどが例示できる。これらのフルオレン化合物は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0029】
なお、前記 「化8」の(2-2)で表される基を有するフルオレン化合物は、単量体であってもよく、多量体(例えば、二量体、三量体など)であってもよい。グリシジル基を有するフルオレン化合物は、通常、少なくとも単量体を含む場合が多く、例えば、単量体、二量体及び三量体の混合物などであってもよい。
【0030】
好ましいフルオレン化合物は、9,9-ビス(グリジシルオキシC6-10アリール)フルオレン、9,9-ビス(グリジシルオキシ(ポリ)C2-4アルコキシC6-10アリール)フルオレン、9,9-ビス(C1-4アルキル-グリジシルオキシC6-10アリール)フルオレン、9,9-ビス(C1-4アルキル-グリジシルオキシ(ポリ)C2-4アルコキシC6-10アリール)フルオレン、9,9-ビス(C6-10アリール-グリジシルオキシC6-10アリール)フルオレン、9,9-ビス(C6-10アリール-グリジシルオキシ(ポリ)C2-4アルコキシC6-10アリール)フルオレンなどから選択された少なくとも一種の単量体を含む。
【0031】
なお、前記「化8」の(2-2)で表される基を有するフルオレン化合物は、多量体を含め、次の「化9」で表すことができる。
【化9】
[「化9」中、Aは「化10」の二価基を示し、qは0又は1以上の整数を示し、環Z、R
2,m2,R
3,p、R
4及びkは前記に同じ]
【化10】
【0032】
前記フルオレン化合物は、市販品を使用してもよく、慣用の方法で調製でき、例えば、前記「化8」の(2-1)で表される基Xを有するフルオレン化合物は、9-フルオレノン類と、前記「化8」の(2-1)で表される基Xと環Zとを有するアレーン化合物との反応により調製でき、前記「化8」の(2-2)で表される基Xを有するフルオレン化合物は、環Zに基[HO-(R2O)m-]が置換したフルオレン類とエピクロルヒドリンとの反応により調製できる。
【発明の効果】
【0033】
1)フルオレン変性セルロースナノファイバー(FCNF)をバインダーとすることで、セルロースナノファイバー(CNF)、竹繊維を細かく粉砕したカーボンナノファイバー(CBF)をバインダーとする竹繊維複合材よりも機械的特性に優れる竹繊維複合材を得られる。
2)また、竹繊維を一方向に配向することで、竹繊維を均しただけの不整列な複合材よりも機械的特性に優れる竹繊維複合材を得られる。
3)軽量化による燃費向上が求められる自動車や航空機の内装部品などの多くの用途で使用可能な機械的特性に優れる竹繊維複合材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】アルカリ処理後に得られた天然竹繊維(a)、バインダーコーティング前の一方向に配向した竹繊維(b)、をそれぞれ撮影した写真
【
図2】セルロース繊維((a)FCNF、(b)CBF、(c)CNF)の電子顕微鏡写真
【
図3】竹繊維とバインダーをホットプレス成形するときのイメージ図
【
図4】バインダーごとの竹繊維複合材の曲げ弾性率と強度を比較したグラフ
【
図5】竹繊維複合材の曲げ試験における変位と荷重の関係を示したグラフ
【
図6】竹繊維複合材((a)CNF、(b)FCNF)の顕微鏡写真
【
図7】一方向に配向した竹繊維複合材と、均しただけの不整列な竹繊維複合材の曲げ弾性率と強度を比較したグラフ
【
図8】FCNFコーティング後の一方向に配向した竹繊維(a)、均しただけの不整列な竹繊維(b)、(a)をホットプレスした後の竹繊維複合材の断面(c)、(b)をホットプレスした後の竹繊維複合材の断面(d)、をそれぞれ撮影した顕微鏡写真
【
図9】FCNF竹繊維複合材のホットプレス温度と曲げ弾性率・強度の関係を示したグラフ
【
図10】一方向に配向したFCNF竹繊維複合材のFCNFの混合重量割合を変えた場合の曲げ弾性率を示したグラフ
【
図11】一方向に配向したFCNF竹繊維複合材のFCNFの混合重量割合を変えた場合の強度を示したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0035】
本実施例では、徳島県西部に自生している孟宗竹、長さ約15mのうち下部2m以下の竹稈を使用した。
竹稈の節間を長さ22cmに切断し、皮を剥いだ。
皮を剥いだ残りを竹稈断面から見て放射状に上下左右対称の形状をした16本の竹に切断した。
【0036】
1枚ずつの竹を3重量%濃度の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液で80℃2時間煮沸してアルカリ処理した後、
図1(a)の状態になるまで、手で繊維を解いた。
これらの繊維は、長さ約22cm、直径約0.2~0.5mmであった。
これら個々の繊維は、それぞれ直径0.01~0.015mm程度の細い繊維の束で構成されているため、厳密には「繊維束」であるが、以下、まとめて「竹繊維」という。
【0037】
バインダーは、9,9-bis(aryl)フルオレン変性セルロースナノファイバー(FCNF)、セルロースナノファイバー(CNF)、微粉砕竹繊維(CBF)の3種類を使用した。
それぞれの電子顕微鏡写真は、
図2のとおりである。
9,9-bis(aryl)フルオレン変性セルロースナノファイバー(FCNF)、セルロースナノファイバー(CNF)は、大阪ガスケミカル株式会社から乾燥状態で提供を受けたものを使用した。
微粉砕竹繊維(CBF)は、アルカリ処理直後の竹繊維を、希釈重量比が1:99になるようにイオン交換水200mLで希釈して、電動ジューサーミキサーで粉砕して得られたものを使用した。
【0038】
各バインダーにイオン交換水200mLを希釈重量比1:99の割合で添加し、メカニカルホモジナイザーで8000rpm、20分間混合し、懸濁液(バインダー希釈液)を得た。
竹の繊維方向が一方向に配向するように、
図1(b)のように、ステンレストレイに竹繊維20gを入れてバインダー希釈液を流し込み、ステンレストレイを80℃の電気オーブンで24時間乾燥させた。
【0039】
なお、事前に、一方向に配向した繊維を用いた複合材は、離散的に配向した繊維、特に竹やケナフを用いた複合材と比較して、2.5倍以上の高い曲げ強度を示すことを確認できていたため、今回の実施例では、竹繊維の方向を一方向に配向させたものを使用した。
【0040】
乾燥させてシート状になった竹繊維(本実施例では、この状態にすることを「コーティングする」という。)を、
図3に示すように、ステンレス板の間に積層し、金型温度230℃、圧力10MPaで5分間ホットプレスした。
その後、幅13mm、長さ29mmの大きさの試験片にダイヤモンドカッターで切断して、曲げ試験を行った。
【0041】
曲げ試験は、万能試験機(島津製作所製、EZ-test、日本)を用いて、3種類のバインダーごとに作成した3つの竹繊維複合材のそれぞれを試験片として、同一条件でISO178に準拠して実施した。
曲げ強度は、曲げ試験中の最大荷重を用いて計算した。
曲げ弾性率は、荷重~変位曲線の初期(最大荷重の0~15%)の傾きの最大値から計算した。
試験条件は、支点間距離22mm、クロスヘッド速度1mm/minとした。
使用した試験片は、長さ29mm、幅13mm、厚さ1.0~1.5mmである。
【0042】
図4は、9,9-bis(aryl)フルオレン変性セルロースナノファイバー(FCNF)、セルロースナノファイバー(CNF)、微粉砕竹繊維(CBF)の3種類のバインダーを、竹繊維に対する混合重量割合がそれぞれ10%含まれる竹繊維複合材(以下、「〇〇(〇〇は竹繊維との混合重量割合の数値)%〇〇(〇〇はバインダー名)竹繊維複合材」のように表現する。)における曲げ弾性率と強度を示している。
図4によれば、10%FCNF竹繊維複合材は、他の2種類のバインダーよりも機械的特性が優れていた。
【0043】
図5は、10%FCNF竹繊維複合材と、10%CNF竹繊維複合材の曲げ試験時における荷重と変位の関係を示すグラフである。
10%FCNF竹繊維複合材は、215MPaで繊維が破断した。
一方、10%CNF竹繊維複合材は、91MPaから層間剥離が始まった。
【0044】
図6は、230℃でホットプレス成形した直後の10%FCNF竹繊維複合材と10%CNF竹繊維複合材の表面を撮影した顕微鏡写真である。
CNFでコーティングされた竹繊維は、
図6(a)のとおり、一部の繊維が接着せず、互いに分離しているのに対し、FCNFでコーティングされた竹繊維は、
図6(b)のとおり、バインダーと竹繊維が一体化していることが確認できる。
これは、変性フルオレン中にエポキシ基を有するFCNFが、セルロースのヒドロキシ基と互いに反応しただけではなく、FCNF同士も互いに反応して一体化したためと推定される。
【0045】
図7は、一方向に配向した10%FCNF竹繊維複合材と、均しただけの不整列な10%FCNF竹繊維複合材の曲げ弾性率と強度の比較を示す。
一方向に配向した10%FCNF竹繊維複合材は、均しただけの不整列な10%FCNF竹繊維複合材に比べて、曲げ弾性率と強度の両方とも約2倍高い値を得られた。
【0046】
竹繊維複合材の微細構造を、ミクロスケール(μm)とマクロスケール(mm)の両方で観察した。
ミクロスケールの観察には、日立ハイテクのSEM-EDX(Miniscope(登録商標)TM3030)を使用した。
マクロスケールの観察には、キーエンス社製VHX-950Fを用いた。
試料片を10mmの長さに切断し、断面が観察できるようにエポキシ樹脂で埋め込み、マルトー社製ML150-Pにより鏡面になるまで研磨した。
【0047】
図8は、一方向に配向した竹繊維(a)と、均しただけの不整列な竹繊維(b)に、10%FCNFでコーティングした状態を撮影した写真である。
写真中の白色に見える部分は竹繊維である。
一方向に配向した竹繊維(a)は、竹繊維同士が交差しないように慎重に配列されているが、均しただけの不整列な竹繊維(b)は、ほぼ一方向性であるものの竹繊維の一部が交差している。
【0048】
図8の(c)及び(d)は、
図8の(a)と(b)の10%FCNFでコーティングした状態の竹繊維を、それぞれホットプレス成形した後の断面を撮影した顕微鏡写真である。
図8(c)は、竹の繊維が、明らかに水平方向、すなわち圧縮方向と直交する方向に変形しているように見える。
一方、
図8(d)は、竹の繊維が元の形状をしているようで、結果的に繊維間の隙間が広くなっている。
この繊維の間隙の違いは、繊維の変形が繊維自身の交差により抑制された結果であると考えられる。
【0049】
繊維の変形が不十分であると、繊維とバインダーとの接触面積が不足して隙間ができ、繊維強化複合材として効率的な応力の伝達ができないと考える。
これが、一方向に配向した繊維の複合材が、均しただけの不整列な繊維の複合材に比べて、約2倍高い機械的特性を示した理由であると考える。
特に、天然繊維の割合が高い複合材の場合、繊維間の隙間に依存した接触面積が、繊維の変形が重要な因子となり得ると考える。
【0050】
図9は、10%FCNF竹繊維複合材の積層体におけるホットプレス温度と曲げ弾性率および強度の関係を示している。
ホットプレス温度は、150℃から270℃までの7段階に設定した。
曲げ弾性率、強度ともに270℃が最も高いが、この温度は、一般的な繊維複合材であれば、焦げて黒くなり、他の機械的特性、例えば、脆さの劣化が起こることが知られている。
【0051】
特に、繊維中に残ったいくつかの炭化水素は、水、ペクチン、ヘミセルロースおよび非結晶性セルロースの間で相互作用し、250℃の設定温度でも見られる。
そのため、230℃を最適なホットプレス温度として設定した。
なお、250℃以上では、曲げ弾性率と強度が明らかに低下した。
これは天然繊維の熱分解が起こるためであると考える。
【0052】
図10は、一方向に配向した竹繊維複合材の、FCNFの混合重量割合を変えた場合の曲げ弾性率の関係を示したグラフであり、
図11は、一方向に配向した竹繊維複合材の、FCNFの混合重量割合を変えた場合の強度を示したグラフである。
一方向に配向した竹繊維複合材の機械的性質は、FCNFの竹繊維に対する混合重量割合が2.5~10.0%のとき、曲げ弾性率28000~33000MPa、曲げ強度300~340MPaであり、同じ混合重量割合の均しただけの不整列な竹繊維複合材よりも、大きな機械的性質を有することが確認できた。
また、一方向に配向した竹繊維複合材の、FCNFの竹繊維に対する混合重量割合が2.5%未満である1.25%のときは、曲げ弾性率19000MPa、曲げ強度280MPaであり、2.5~10.0%の混合重量割合に比べて低かった。
FCNFの混合重量割合が少ないと、竹繊維の間隙を埋めて竹繊維同士を密着させる役割を十分に果たすことができないことが原因であると考えられる。
【0053】
また、FCNFの混合重量割合が10%と5%のときの、竹繊維の配向が違う竹繊維複合材と機械的強度の測定結果を表1に示す。
一方向に配向した竹繊維複合材は、FCNFの混合重量割合が10%と5%のときとでは、曲げ弾性率、曲げ強度ともに大きな違いはなかったが、均しただけの不整列な竹繊維複合材は、FCNFの混合重量割合が5%のときは、10%のときに比べると、曲げ弾性率、曲げ強度ともに、大きな差が見られた。
このような違いが見られたのは、一方向に配向した竹繊維複合材は、均しただけの不整列な竹繊維複合材に比べて、竹繊維間の間隙が小さくなることから、竹繊維同士を密着させるために必要なFCNFの量が少なく済むためであると考えられる。
【0054】
【0055】
以上の結果から、FCNF、CNF、CBFの3種類のバインダーを使用して作った竹繊維複合材のうち、FCNF竹繊維複合材が、最も高い曲げ強度と曲げ弾性率を示した。
これは、バインダーと繊維との間に強い界面接着力があり、また、エポキシ基を有するFCNFが互いに化学的に活性化して結合するためであると考えられる。
【0056】
また、竹繊維を一方向に配向した竹繊維複合材の曲げ弾性率と強度は、均しただけの不整列な竹繊維複合材と比べて、曲げ弾性率と強度のそれぞれで約2倍の高い値を示した。
一方向に配向した竹繊維複合材では、繊維同士が交差することなく、竹繊維が劇的に変形することがわかった。
繊維が変形することで繊維間の隙間が狭くなり、高い曲げ弾性率と強度が得られた。
【0057】
なお、ホットプレス温度が異なると、竹繊維複合材の曲げ弾性率と強度にかなりのばらつきが見られた。
これは、FCNFのエポキシ基が化学反応に適した温度を持っていることを示している。
しかし、250℃以上では、天然繊維の熱分解が起こり、曲げ弾性率と強度が低下するため、これ以下の温度でプレスする必要がある。