(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】糖鎖結合性ポリペプチド、それをコードするポリヌクレオチド及びそれを含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
C07K 14/42 20060101AFI20241218BHJP
C12N 15/29 20060101ALI20241218BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20241218BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
C07K14/42
C12N15/29 ZNA
A61K38/16
A61P31/12
(21)【出願番号】P 2020105638
(22)【出願日】2020-06-18
【審査請求日】2023-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2019129500
(32)【優先日】2019-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】堀 貫治
(72)【発明者】
【氏名】平山 真
(72)【発明者】
【氏名】坂口 剛正
【審査官】松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】Mar Biotechnol,2016年,Vol.18, No.1,p.144-160
【文献】PNAS,2011年,Vol.108, No.34,p.14079-14084
【文献】Retrovirology,2015年,Vol.12,Article number: 6, p.1-14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紅藻Kappaphycus alvarezii由来レクチンKAA1の4リピート配列のタンデムリピートを有するポリペプチドであって、
配列番号1のアミノ酸配列、または該配列番号1のアミノ酸配列
と少なくとも90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を少なくとも2つ含み、
糖鎖結合性を有することを特徴とするポリペプチド。
【請求項2】
前記タンデムリピート間にリンカー配列を有することを特徴とする請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
配列番号2のアミノ酸配列、または該配列番号2のアミノ酸配列
と少なくとも90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
請求項1~3に記載のポリペプチドをコードすることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリペプチドを含むことを特徴とする高マンノース型糖鎖を表面に有するウイルスが原因となるウイルス疾患の治療用又は診断用医薬組成物。
【請求項6】
前記ウイルスは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、インフルエンザウイルス、C型肝炎ウイルス(HCV)、SARSコロナウイルス(SARS-CoV)又は単純ヘルペスウイルスであることを特徴とする請求項5に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖鎖結合性ポリペプチド、それをコードするポリヌクレオチド及びそれを含む医薬組成物に関し、特に天然のレクチンよりも糖鎖結合性が増大するように改変された糖鎖結合性ポリペプチド、それをコードするポリヌクレオチド及びそれを含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞表面や体液中に存在する糖タンパク質や糖脂質等の複合糖質の糖鎖は、一種の情報素子として機能し、発生、免疫、がん、感染等の重要な生命現象に深く関わっている。一方、糖鎖結合性タンパク質であるレクチンは糖鎖認識分子として機能し、糖鎖と同様に生物学的に重要な役割を担っている。
【0003】
これまでに、海藻類又は藻類(淡水産藍藻)から多くの種類のレクチンが単離され、その生化学的性質が明らかにされている。藻類レクチンは、その結合性に基づいて高マンノース型糖鎖特異的レクチン、複合型糖鎖特異的レクチン、両糖鎖に結合するレクチンの3グループに分類される。レクチンの一部は、例えばヒト免疫不全ウイルス(HIV)、インフルエンザウイルス等のウイルスに特異的に結合することが知られている(非特許文献1~12)。藍藻Oscillatoria agardhii 由来レクチンであるOAA(Oscillatoria agardhii agglutinin)、紅藻Kappaphycus alvarezii由来レクチンであるKAA(Kappaphycus alvarezii agglutinin)、緑藻Boodlea coacta由来レクチンであるBCA(Boodlea coactaagglutinin)及び紅藻Meristotheca papulosa由来レクチンであるMPL(Meristotheca papulosa lectin)は高マンノース型糖鎖との強い結合特異性からHIVやインフルエンザウイルスといった表面に高マンノース型糖鎖を有するウイルスを認識できると期待されている。特に、非特許文献12には、KAAはHIVのエンベロープ糖タンパク質であるgp120を認識することが開示されており、抗HIV活性を示し、医薬素材としての活用が期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Boyd, M. R. et al., Antimicrob. Agents Chemother.41, 1521-1530, 1997.
【文献】O’Keefe, B. R.et al., Antimicrob. Agents Chemother. 47, 2518-2525, 2003.
【文献】Helle, F., .et al., J. Biol. Chem.281, 25177-25183, 2006.
【文献】Barrientos, L. G., et al., Antiviral. Res. 58, 47-56, 2003.
【文献】Dey, B., et al., J. Virol. 74, 4562-4569, 2000.
【文献】O’Keefe, B. R.et al.,J. Virol. 84, 2511-2521, 2010.
【文献】Hori,K. et al., Glycobiology, 17, 479-491, 2007.
【文献】Sato,Y., Okuyama, S., and Hori, K., J. Biol. Chem. 282, 11021-11029, 2007.
【文献】Sato,Y., Morimoto,K., Hirayama, M.,and Hori, K. Biochem. Biophys. Res. commun. 405, 291-296, 2011.
【文献】佐藤雄一郎、平山 真、藤原佳史、森本金治郎、堀 貫治 (2010) 第13回マリンバイオテクノロジー学会大会講演要旨 (2010. 5.29発表)
【文献】Sato,Y., Hirayama, M., Morimoto,K.,Yamamoto, N., Okuyama, S., and Hori, K. J. Biol. Chem. 286, No.22, 19446-19458, 2011.
【文献】Hirayama, M., Shibata, H., Imamura, K., Sakaguchi, T., and Hori, K. Mar Biotechnol. 18, issue 2, 215-231, 2016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようなレクチンを実際に抗ウイルス薬剤等のための医薬素材として活用するためには、エンベロープ等のウイルス表面に存在する高マンノース型糖鎖とのより強い結合が求められる。このために、レクチンの糖鎖結合性を増強するようにレクチンを改変することが考えられており、そのような改変によって糖鎖結合性を増強できた報告はあるものの、未だ更に強い活性が求められている。
【0006】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、上記のようなウイルスが原因の疾患の治療や診断のための薬剤として利用できるように、高マンノース型糖鎖に対して顕著に高い結合性を示す改変されたレクチン変異体(ポリペプチド)を提供できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究の結果、紅藻Kappaphycus alvarezii由来レクチンKAA1の糖鎖結合部位を高度多価化することによって、糖鎖結合性が顕著に増強することを見出して、本発明を完成した。
【0008】
具体的に、本発明に係るポリペプチドは、紅藻Kappaphycus alvarezii由来レクチンKAA1(67アミノ酸からなるドメインの4リピート配列をもつ)のタンデムリピートを有することを特徴とする。
【0009】
本発明に係るポリペプチドは、タンデムリピート間にリンカー配列を有してもよい。
【0010】
本発明に係るポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列、または該配列番号1のアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を少なくとも2つ含んでいてもよい。
【0011】
本発明に係るポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列、または該配列番号2つのアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含んでいてもよい。
【0012】
本発明に係るポリヌクレオチドは、上記本発明に係るポリペプチドをコードすることを特徴とする。
【0013】
本発明に係るウイルス疾患の治療用又は診断用医薬組成物は、上記本発明に係るポリペプチドを含むことを特徴とし、当該ウイルス疾患の原因ウイルスは高マンノース型糖鎖を表面に有するウイルスである。本発明に係る医薬組成物は、高マンノース型糖鎖と結合するポリペプチドの糖鎖結合性が顕著に増強された上記本発明に係るポリペプチドを含むため、高マンノース型糖鎖を表面に有するウイルスを原因とする疾患の治療や診断への利用が可能である。当該高マンノース型糖鎖を表面に有するウイルスとしては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、インフルエンザウイルス、C型肝炎ウイルス(HCV)、SARSコロナウイルス(SARS-CoV)又は単純ヘルペスウイルスなどが挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るポリペプチドは、糖鎖結合性が顕著に増強され、高マンノース型糖鎖と強く結合できるため、高マンノース型糖鎖を表面に有するウイルスを原因とする疾患の治療や診断へ利用できる可能性があり、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】KAA1の4つの糖結合部位を含む4リピート配列を示す図である。
【
図2】実施例2におけるKAA1/KAA1に対して行ったSDS-PAGEの結果を示す写真である。
【
図3】実施例4におけるSARSコロナウイルスに対するKAA1の不活化効果を検討した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用方法或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0017】
本発明の一実施形態は、紅藻Kappaphycus alvarezii由来レクチンであるKAA1における4リピート配列の直列反復(タンデムリピート)を有するポリペプチドである。KAA1は、藍藻Oscillatoria agardhii由来レクチンOAAと60.6%の相同性を示し、同じOAAファミリーに属する。OAAは、システインを含まない132残基のアミノ酸からなり、67アミノ酸の2リピート配列を有し、この重複配列間には約75%の相同性が認められている。また三次構造においては、上記重複配列間が一部入れ換わったドメインスワップ構造をとり、これにより形づくられた2つのドメインがそれぞれ1つの糖結合部位を持つ。KAA1は約67アミノ酸の4リピート配列を有し、OAAが2つ連なったような構造からなる。OAA及びKAA1は、ともに極めてよく似た性状、機能を示す。すなわち、単糖結合性を示さず、認識する最少糖構造はMan(α1-3)Man(α1-6)Man(β1-4)であり、N型糖鎖のうち、D2アームの(α1-3)Man残基が露出した高マンノース型糖鎖に特異的に結合する。1分子あたり、OAAは2つ、KAA1は4つの糖結合部位を持ち、細胞を架橋・凝集する。従って、それらは、エンベロープ等のウイルス表面に高マンノース型糖鎖が存在する種々のウイルスを認識できると考えられる。実際に、上記非特許文献12には、KAAがHIVのエンベロープ糖タンパク質gp120が有する高マンノース型糖鎖との強い結合を示し、抗HIV活性を示すことが開示されている。HIV以外にウイルス表面に高マンノース型糖鎖が存在するウイルスとしては、インフルエンザウイルス、HCV、SARS-CoV、単純ヘルペスウイルス等が知られている。
【0018】
本実施形態に係るポリペプチドは、KAA1の4つの糖結合部位に該当する4リピート配列をタンデムリピートさせた改変がなされており、これにより、糖鎖結合部位が多価化されている。このため、本発明に係るポリペプチドの糖鎖結合性は、顕著に増大されている。上記4リピート配列を
図1に示す。
図1では、4リピート配列において互いに同一のアミノ酸を有するアミノ酸位置を黒色マーカーで示し、2種のアミノ酸が存在するアミノ酸位置を灰色マーカーで示している。
図1に示すように、当該4リピート配列は、65~68アミノ酸のリピート配列であり、互いに完全に同一の配列ではないものの、高い配列同一性を示すものである。本実施形態に係るポリペプチドは、当該4リピート配列の繰り返し配列を有するものであり、配列の反復数は特に限定されないが、2回の反復で十分に糖鎖結合性の顕著な増強が得られる。また、本実施形態に係るポリペプチドにおいて、糖鎖結合性が低減しない限り、
図1に示す4リピート配列において1又は数個のアミノ酸の変異を含んでも構わない。
【0019】
本実施形態において、反復される配列同士の間には所定のリンカー配列が挿入されていても構わない。用いられるリンカー配列は、ポリペプチドの糖鎖結合性に負の影響を及ぼさない配列であれば特に限定されず、周知の種々のリンカー配列を用いることができる。
【0020】
本実施形態に係るポリペプチドは、原核生物宿主又は真核生物宿主(例えば、細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞及び哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された産物、及び化学合成手順の産物を含む。組換え産生手順において用いられる宿主に依存して、本発明に係るタンパク質は、グリコシル化され得るか又は非グリコシル化され得る。さらに、本発明に係るタンパク質は、宿主媒介プロセスの結果として、開始の改変メチオニン残基を含み得る。
【0021】
一実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、例えばKAA1ポリペプチドのアミノ酸配列である配列番号1のアミノ酸配列を少なくとも2つ含むことが好ましく、又は配列番号1のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸の変異を含むアミノ酸配列を少なくとも2つ含んでいてもよい。さらに、本実施形態に係るポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列を含むものでもよく、配列番号2のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸の変異を含むアミノ酸配列を含んでいてもよい。
【0022】
変異体としては、欠失、挿入、逆転、反復、及びタイプ置換(例えば、親水性の残基の別の残基への置換、しかし通常は強く親水性の残基を強く疎水性の残基には置換しない)を含む変異体が挙げられる。特に、ポリペプチドにおける「中性」アミノ酸置換は、一般的にそのポリペプチドの活性にほとんど影響しない。
【0023】
ポリペプチドのアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、このポリペプチドの構造又は機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけではく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造又は機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。
【0024】
当業者は、周知技術を使用してポリペプチドのアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸を容易に変異させることができる。例えば、公知の点変異導入法に従えば、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の塩基を変異させることができる。また、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の部位に対応するプライマーを設計して欠失変異体又は付加変異体を作製することができる。さらに、本明細書中に記載される方法を用いれば、作製した変異体が、糖鎖結合性を有する所望の変異体であるか否かを容易に決定し得る。
【0025】
上記「1又は数個のアミノ酸」の変異とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ポリペプチド作製法により置換、欠失、挿入、若しくは付加できる程度の数(好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1個から5個、特に好ましくは1個から3個)のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されていることを意味する。
【0026】
他の実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、融合タンパク質のような改変された形態で組換え発現され得る。例えば、本発明に係るポリペプチドの付加的なアミノ酸、特に荷電性アミノ酸の領域が、宿主細胞内での、精製の間又は引き続く操作及び保存の間の安定性及び持続性を改善するために、ポリペプチドのN末端に付加され得る。
【0027】
組換え生成は、当該分野において周知の方法を使用して行なうことができ、例えば、以下に詳述されるようなベクター及び細胞等を用いて行なうことができる。
【0028】
本発明は、上述したように、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は「核酸」又は「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。本明細書中で使用される場合、用語「塩基配列」は、「核酸配列」又は「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、C及びTと省略される)の配列として示される。
【0029】
本発明に係るポリヌクレオチドは、RNA(例えば、mRNA)の形態、又はDNAの形態(例えば、cDNA又はゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖又は一本鎖であり得る。一本鎖DNA又はRNAは、コード鎖(センス鎖としても知られる)であり得、又は、非コード鎖(アンチセンス鎖としても知られる)であり得る。
【0030】
本明細書中で使用される場合、用語「オリゴヌクレオチド」は、ヌクレオチドが数個ないし数十個結合したものが意図され、「ポリヌクレオチド」と交換可能に使用される。オリゴヌクレオチドは、短いものはジヌクレオチド(二量体)、トリヌクレオチド(三量体)といわれ、長いものは30マー又は100マーというように重合しているヌクレオチドの数で表される。オリゴヌクレオチドは、より長いポリヌクレオチドのフラグメントとして生成されても、化学合成されてもよい。
【0031】
また、本発明に係るポリヌクレオチドは、その5’側又は3’側で上述のタグ標識(タグ配列又はマーカー配列)をコードするポリヌクレオチドに融合され得る。
【0032】
本発明はさらに、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの変異体に関する。変異体は、天然の対立遺伝子変異体のように、天然に生じ得る。「対立遺伝子変異体」によって、生物の染色体上の所定の遺伝子座を占める遺伝子のいくつかの交換可能な形態の1つが意図される。天然に存在しない変異体は、例えば当該分野で周知の変異誘発技術を用いて生成され得る。
【0033】
このような変異体としては、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列において1又は数個の塩基が欠失、置換、又は付加した変異体が挙げられる。変異体は、コード若しくは非コード領域、又はその両方において変異され得る。コード領域における変異は、保存的若しくは非保存的なアミノ酸欠失、置換、又は付加を生成し得る。
【0034】
本発明はさらに、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又は当該ポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、単離したポリヌクレオチドを提供する。
【0035】
なお、上記「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも90%以上の同一性、好ましくは少なくとも95%以上の同一性、最も好ましくは97%以上の同一性が配列間に存在する時にのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。
【0036】
上記ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法のような周知の方法で行なうことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同なポリヌクレオチドを取得することができる。
【0037】
ハイブリダイゼーションの条件としては、従来公知の条件を好適に用いることができ、特に限定しないが、例えば、42℃、6×SSPE、50%ホルムアミド、1%SDS、100μg/ml サケ精子DNA、5×デンハルト液(ただし、1×SSPE;0.18M 塩化ナトリウム、10mMリン酸ナトリウム、pH7.7、1mM EDTA。5×デンハルト液;0.1%牛血清アルブミン、0.1%フィコール、0.1%ポリビニルピロリドン)が挙げられる。
【0038】
本発明に係るポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖及びアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAやRNAを包含する。またDNAには例えばクローニングや化学合成技術又はそれらの組み合わせで得られるようなcDNAやゲノムDNAなどが含まれる。さらに、本発明に係るポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドは、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列を含むものであってもよい。
【0039】
本発明に係るポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドを取得する方法として、公知の技術により、本発明に係るポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドを含むDNA断片を単離し、クローニングする方法が挙げられる。例えば、本発明におけるポリヌクレオチドの塩基配列の一部と特異的にハイブリダイズするプローブを調製し、ゲノムDNAライブラリーやcDNAライブラリーをスクリーニングすればよい。このようなプローブとしては、本発明に係るポリヌクレオチドの塩基配列又はその相補配列の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするプローブであれば、いずれの配列及び/又は長さのものを用いてもよい。
【0040】
あるいは、本発明に係るポリヌクレオチドを取得する方法として、PCR等の増幅手段を用いる方法を挙げることができる。例えば、本発明におけるポリヌクレオチドのcDNAのうち、5’側及び3’側の配列(又はその相補配列)の中からそれぞれプライマーを調製し、これらプライマーを用いてゲノムDNA(又はcDNA)等を鋳型にしてPCR等を行い、両プライマー間に挟まれるDNA領域を増幅することで、本発明に係るポリヌクレオチドを含むDNA断片を大量に取得できる。
【0041】
また、本発明は上記ポリペプチドを含むことを特徴とする高マンノース型糖鎖を表面に有するウイルスを原因とする疾患の治療用又は診断用医薬組成物を提供する。
【0042】
本発明に係る医薬組成物は経口製剤、非経口製剤のいずれであってもよい。また、剤型は特に限定されるものではなく、常法に従い、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、エリキシル剤、シロップ剤、マイクロカプセル剤あるいは懸濁液剤等に製剤化して用いることができる。
【0043】
非経口的に投与する場合には、例えば、本発明に係るポリペプチドを含有する溶液を点鼻噴霧することや、注射剤として投与することができる。経口的に投与する場合には、食前、食後、食間のいずれに投与してもよい。
【0044】
本発明に係る医薬組成物は、必要に応じて、担体、賦形剤、結合剤、膨化剤、潤滑剤、甘味剤、香味剤、防腐剤、安定剤、被覆剤等の材料を含有することができる。
【0045】
本発明に係る医薬組成物において、例えば錠剤、カプセル剤等に含有することができる具体的な成分としては、トラガント、アラビアゴム、コーンスターチ及びゼラチンのような結合剤;微晶性セルロース、結晶セルロースのような賦形剤; コーンスターチ、前ゼラチン化デンプン、アルギン酸、デキストリンのような膨化剤; ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤;微粒二酸化ケイ素のような流動性改善剤; グリセリン脂肪酸エステルのような滑沢剤; ショ糖、乳糖及びアスパルテームのような甘味剤; ペパーミント、ワニラ香料及びチェリーのような香味剤等を挙げることができる。
【0046】
調剤単位形態がカプセル剤である場合には上記のタイプの材料にさらに油脂のような液
状担体を含有することができる。
【0047】
また、種々の他の材料を、被覆剤として又は調剤単位の物理的形態を変化させるために含有させることができる。錠剤の被覆剤としては、例えば、シェラック、砂糖又はその両方が挙げられる。シロップ剤又はエリキシル剤は、例えば、甘味剤としてショ糖、防腐剤としてメチルパラベン及びプロピルパラベン、色素及びチェリー又はオレンジ香味等を含有することができる。その他、各種ビタミン類、各種アミノ酸類を含有しても良い。
【0048】
本発明に係る医薬組成物の投与量は、適用対象が必要とする量を確保できるように設定すればよく、製剤化して用いたり、飲食品に配合して上記医薬組成物を用いることができる。
【実施例】
【0049】
以下に、本発明に係るポリペプチド及びそれをコードするポリヌクレオチドについて詳細に説明するための実施例を示す。
【0050】
[実施例1:KAA1のタンデムリピートによる糖鎖結合部位の高度多価化ポリペプチド(KAA1/KAA1)の作製]
(KAA1/KAA1発現大腸菌株の構築)
KAA1/KAA1発現コンストラクトを構築するための発現ベクターとしてpET-28a(+)(Novagen)及びpColdI(タカラバイオ)、発現用大腸菌株としてSHuffle T7 Express(Novagen)を用いた。
【0051】
まず、KAA1発現コンストラクトを鋳型に、高正確性DNAポリメラーゼKOD Plus Neo(TOYOBO)及び下記表1に記載の各プライマーを用い、KAA1/KAA1コード領域を増幅した。なお、KAA1発現コンストラクトとしては、上記非特許文献12に記載のpET28a-rKAA1を用い、それは、pET-28a(+)ベクターに6-His及びトロンビン切断サイトをN末端側に含むKAA1をコードする配列が挿入されたものである。これにより発現される6-His及びトロンビン切断サイトをN末端側に含むKAA1のアミノ酸配列は配列番号3に示す。KAA1/KAA1コード領域の増幅において、KAA1/KAA1(pET28a(+))発現コードDNAはKAA-pET-1F及びKAA-pET-1R、KAA-pET-2F及びKAA-pET-2Rを、KAA1/KAA1(pColdI)はKAA-pCold-1F及びKAA-pET-1R、KAA-pET-2F及びKAA-pCold-2Rを用い増幅を行った。PCRの反応系はKOD plus NeO用10×PCR緩衝液を5μl、2mMのdNTPmixを5μl、10μMフォワードプライマー及び10μMリバースプライマーをそれぞれ1.5μl、25mMのMgSO4を3μl、KAA1発現コンストラクトを1μl、KOD Plus Neoを1μl及び超純水を加えて反応液を50μlとし、十分に混合した後、PCRに供した。PCRはT Gradienter 96 Thermocycler(Biometra)を用いて94℃で2分間、98℃で10秒間、60℃で30秒間及び増幅反応を68℃で15秒のサイクルを35回繰り返し行った。最後に68℃で5分間保持し、反応を終了した。
【0052】
【表1】
下線:ベクター相同配列 二重下線:リンカー配列
太字:FactorXa認識配列 波下線:終止コドン
斜体:レクチン遺伝子相同配列 点下線:フレームシフト防止挿入配列
【0053】
In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)を用いて、制限酵素NdeI及びXhoIにより切断した発現用ベクターpET-28a(+)(Novagen)及びpColdI(タカラバイオ)へ増幅産物を挿入し、得られたコンストラクトを用いて大腸菌株SHuffle T7 Express及び大腸菌株SHuffle Expressを形質転換した。各形質転換体をLB/Kan+(pET-28a(+))又はLB/Amp+寒天培地(pColdI)に適量塗布し、37℃で一晩培養した。単一コロニーを対象にインサートチェックを行った。
【0054】
インサートチェックはpET-28a(+)又はpColdIベクターに特異的なプライマー対を用いたPCRにより行った。具体的に、pET-28a(+)ベクター特異的プライマー対として、T7プライマー(5’-TAATACGACTCACTATAGGG-3’:配列番号10)及びT7ターミネータプライマー(5’-GCTAGTTATTGCTCAGCGG-3’ :配列番号11)を用い、ただし、pColdIベクター特異的プライマー対としてpCold-Fプライマー(5’-ACGCCATATCGCCGAAAGG-3’:配列番号12)及びpCold-Rプライマー(5’-GGCAGGGATCTTAGATTCTG-3’ :配列番号13)を用いた。PCRの反応系はBlend Taq用10×PCR緩衝液を5μl、2mMのdNTPmix溶液を5μl、10μMのプライマーをそれぞれ1μl、DNA合成酵素Blend Taq(TOYOBO)を0.5μL及び超純水を加えて反応液を50μlとし、十分に混合した後、10μlずつ分注し、コロニーから一部採取した菌体を懸濁し、PCRに供した。PCRはT Gradientr 96 Thermocycler(Biometra)を用いて94℃で5分間の熱変性の後、熱変性を94℃で30秒間、アニーリング60℃で30秒間及び伸長反応を72℃で1分間のサイクルを35回繰り返し行った。最後に72℃で5分間保持し、反応を終了した。
【0055】
得られたPCR産物5μlを10×ローディング緩衝液と混合し、アガロース電気泳動用の試料とした。泳動用緩衝液としてTAE(40mM Tris-HCl、40mM 酢酸、1mM EDTA)を、泳動用ゲルとしてエチジウムブロマイドを含む1%アガロースゲルを用いて、一定電圧100Vで電気泳動に供し、UVトランスイルミネーターを用いてバンドの検出を行った。目的サイズにバンドが検出された陽性クローンにつき、Hi Yield Plasmid Mini Kitを用い、添付のマニュアルに従ってプラスミドを精製した。精製プラスミドを鋳型に、ベクター特異的プライマーを用いてBig Dye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kitによりラベリング後、ジェネティックアナライザ3130xl(Applied Biosystems)を用いて塩基配列分析に供した。なお、塩基配列解析は、Applied Biosystems Sequence Scanner Software ver.1.0により行った。塩基配列を確認したクローンにつき、LB/Kan+(pET-28a(+))又はLB/Amp+(pColdI)液体培地に植菌し37℃で一晩培養後、等量の40%グリセロール(終濃度20%)を加えてグリセロールストックを調製し、使用するまで-80℃で保存した。
【0056】
(KAA1/KAA1の発現及び精製)
上記のようにして得られたKAA1/KAA1発現株のグリセロールストックにつき、LB/Kan+(pET-28a(+))又はLB/Amp+液体培地(pColdI)3mlに植菌し37℃で一晩培養した。同終夜培養液をLB/Kan+又はLB/Amp+液体培地250mLにそれぞれ加え、さらに37℃で対数増殖期中期になるまで振とう培養した。OD600が0.5に達したところで、終濃度が0.5mMとなるようにIsopropyl β-D-1-thiogalactopyranoside(IPTG)を添加することで発現誘導を開始し、KAA1/KAA1発現株(pET-28a(+))は20℃で16時間、KAA1/KAA1発現株(pColdI)は15℃で24時間振とう培養した。これを遠心分離(10,000×g、4℃、15分)により集菌し、培養液に対し1/20容の超音波破砕用緩衝液(20mMリン酸緩衝液(pH 7.4)、500mM NaCl、20mM イミダゾール)に懸濁した後、超音波破砕を行った。破砕後、再度遠心分離(10,000×g、4℃、15分)し、上清を可溶性画分、残渣を不溶性画分として回収した。
【0057】
本実施例において得られた組換え体はいずれもHisタグ融合体として発現される(得られた組換え体のアミノ酸配列は、配列番号2で示される。)。そこで、可溶性画分に含まれるHisタグ融合組換え体を、ニッケルキレートカラム(Vt=1ml、His Gravi Trap、GE ヘルスケア)により精製した。すなわち、平衡化緩衝液(20mM リン酸緩衝液(pH 7.4)、500mM NaCl、20mMイミダゾール)にて十分に平衡化したカラムへ可溶性画分を添加し、組換え体を結合させた。同平衡化緩衝液で十分に洗浄後、溶出用緩衝液(20mMリン酸緩衝液(pH 7.4)、500mM NaCl、500mMイミダゾール)を5ml添加し組換え体を溶出させた。イミダゾール除去のため、超純水で十分に透析したものを精製標品とし、以下の試験に供した。なお、KAA1/KAA1(pET-28a(+))及びKAA1/KAA1(pColdI)精製標品の収量は、培養液1Lあたりそれぞれ52mg及び42mgであったので収量がより多かったKAA1/KAA1(pET-28a(+))を以降の試験に供した。
【0058】
[実施例2:KAA1/KAA1に対するSDS-PAGEを用いた分析]
(方法)
SDS-PAGEはSchagger and Jagow(1987)の方法に準じ、電気泳動装置(AE-6530、ATTO)に電気泳動用アクリルアミドゲル(12.5%)をセットし、100Vの定電圧で行った。分子量マーカーにはタンパク質分子量マーカーII(テフコ)を用いた。試料液としての上記精製製品に等量の2×SDSローディング緩衝液(4%(w/v)SDS、12%(w/v)グリセロール、及び0.01%(w/v)ブロモフェノールブルーを含む50mM トリス-塩酸緩衝液(pH 6.8))を添加した後、100℃で5分間加熱処理し、非還元下での泳動用試料を調製した。また、還元条件下での泳動用試料としては、上記等量の2×SDSローディング緩衝液、及び2%(w/v)メルカプトエタノールを加えたものを用いた。それぞれの試料を泳動後、ゲルをクマシーブリリアントブルー(CBB)R-250で染色し、タンパク質バンドを確認した。なお、泳動には、精製標品は3μg相当量を用いた。その結果を
図1に示す。
図1のMは分子量マーカー、1は非還元下のKAA1、2は非還元下のKAA1/KAA1、3は還元下のKAA1、4は還元下のKAA1/KAA1をそれぞれ示す。
【0059】
(結果)
図1に示すように、KAA1/KAA1は、還元下及び非還元下のいずれのSDS-PAGEにおいても約60kDaの付近にバンドが確認された。野生型KAA1(Hisタグ融合体)の分子量が30.2kDaであり、その直列反復の構造を持つKAA1/KAA1の理論分子量は58.9kDaであることから、得られた上記精製標品は確かにKAA1/KAA1であると確認された。
【0060】
[実施例3:KAA1/KAA1の赤血球凝集活性の測定]
(方法)
赤血球凝集活性(hemagglutination activity(HA))はマイクロタイター法を用いて測定した。すなわち、各試料の16μM溶液から生理食塩水中連続2倍希釈液各25μlをマイクロタイタープレート上に作製し、各希釈液に2%トリプシン処理ウサギ赤血球浮遊液(trypsin-treated rabbit blood cell(TRBC))を25μl加えて軽く攪拌し、室温にて3時間以上静置後、凝集能を観察した。凝集能は肉眼で判定し、赤血球の50%以上が凝集している場合を陽性とした。HAの強さは凝集素価(力価)、すなわち陽性を示した検液の希釈倍率で表した。なお、TRBCは以下のように調製した。市販されているウサギ無菌保存血(広島動物実験所)につき赤血球2ml相当量を約50mlの生理食塩水で3回洗浄後、生理食塩水を加えて、45mlにメスアップし、2%ウサギ赤血球浮遊液を調製した。これに1/10容の0.5%トリプシンを含む生理食塩水を加え、37℃で60分静置(30分ごとに攪拌)した。トリプシン処理赤血球を50mlの生理食塩水で4回洗浄後、生理食塩水を加えて45mlとし、2%TRBCとした。赤血球凝集活性試験の結果を表2に示す。
【0061】
【0062】
(結果)
表2に示すように、KAA1/KAA1は濃度が高くなるにつれて、劇的に活性が上昇することが確認された。0.25μM溶液では、KAA1の力価が27であるのに対し、KAA1/KAA1は28であり、大きな差は見られなかったが、8μM溶液では、KAA1の力価が219であるのに対し、KAA1/KAA1の力価は258であった。さらに、16μM溶液では、KAA1の力価が220であるのに対し、KAA1/KAA1の力価は>2144とさらなる活性強度の劇的な上昇が認められた。
【0063】
[実施例4:KAA1/KAA1のSARSコロナウイルス不活化効果の検討]
次に、実際にKAA1/KAA1がウイルスの不活化作用を示すか否かについて検討するために、SARSコロナウイルス(SARS-CoV)に対してKAA1/KAA1を処理してSARS-CoVの細胞感染能を評価した。その方法及び結果を以下に説明する。
【0064】
まず、10μLのSARS-CoV-2(2019-nCoV/Japan/AI/I-004/2020株(国立感染症研究所):2.0×10
8TCID50/mL)と、90μLのKAA1(10μM)又はKAA1/KAA1(10μM)とを混合した。なお、これらとは別にコントロールとしてレクチンを含まないDMEMとSARS-CoV-2とを混合した。その後、30分間室温で反応させた後に、細胞維持液DMEMで10倍に稀釈して反応を停止した。さらに10段階系列希釈して、種々の濃度のウイルス含有液を準備した。そして、予め96ウェルプレートに播種されたVero/TMPRSS2細胞(JCRB1819(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所JCRB細胞バンク))に当該各濃度のウイルス含有液を接種して(50μl/well、各濃度4wellずつ)、1時間吸着させた後に、接種液を吸引除去して、100μl/wellのDMEMを加えた。なお、その3日後に細胞変性効果が広がったところで、各ウェルを顕微鏡により観察して感染の有無を評価し、感染価を測定した。感染価の単位は、50%細胞感染濃度(TCID50)/mlである。その結果を
図3に示す。
【0065】
図3に示すように、KAA1又はKAA1/KAA1により処理されたSARS-CoV-2はコントロール(DMEM)と比較して、不活化して感染価が低下した。また、KAA1を処理した場合と比較して、KAA1/KAA1を処理した場合では、その感染価がより低いことが明らかとなった。KAA1又はKAA1/KAA1によりSARS-CoV-2が不活化して感染価が低下しているのは、KAA1又はKAA1/KAA1がSARS-CoV-2粒子の表面の糖鎖に結合して、立体障害又はウイルス同士の凝集が生じたためであると考えられる。KAA1と比べてKAA1/KAA1の不活化能が強いのはKAA1と比較して糖鎖結合部位が多い(2倍)ためであり、SARS-CoV-2の凝集を強く起こしているためであると考えられる。この結果から、KAA1/KAA1は、SARS-CoVに起因する疾患の治療又は診断に有用であると考えられ、また、SARS-CoVと同様に高マンノース型糖鎖を表面に有するウイルス疾患の治療又は診断に有用であると考えられる。
【0066】
以上の結果から、KAA1の糖鎖結合部位のタンデムリピートにより高度多価化されたKAA1/KAA1は、野生型KAA1と比較して糖鎖結合性が劇的に増強されることが示唆された。KAA1は、上述のようにHIVのエンベロープ糖タンパク質gp120が有する高マンノース型糖鎖と結合するため、糖鎖結合性が顕著に増強されたKAA1/KAA1は、上記高マンノース型糖鎖と強く結合できてHIV治療やHIV診断への利用可能性があるので極めて有用である。さらに、HIV以外のSARS-CoV等の高マンノース型糖鎖を表面に有するウイルス疾患にも有用であると考えられる。
【配列表】