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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】ブルーム抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20241218BHJP
   A23G 1/36 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
A23D9/00 518
A23G1/36
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020076250
(22)【出願日】2020-04-22
(65)【公開番号】P2021170965
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 喬比古
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-088269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 9/00-9/06
A23G 1/00-1/56
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の条件(A)~(C)を満たす油脂αを有効成分として含有する複合チョコレートの低温ブルーム抑制剤。
(A)TAG中に占めるS3の割合が2~15質量%である。
(B)S3中に占める混酸型のS3の割合が40~62質量%である。
(C)25℃における固体脂含量SFC-25(%)に対する35℃における固体脂含量SFC-35(%)の比(SFC-35/SFC-25)が0.22~0.45である。
但し、TAGはトリアシルグリセロールを意味し、Sは飽和脂肪酸残基を意味し、S3はトリ飽和トリグリセリドを意味する。
【請求項2】
さらに、油脂αが以下の条件(D)、(E)のいずれか一つ以上を満たすことを特徴とする、請求項1記載の低温ブルーム抑制剤。
(D)TAG中に占めるS2Uの割合が50~75質量%である。
(E)S2U中に占める混酸型のS2Uの割合が28~46質量%である。
但し、Sは飽和脂肪酸残基を意味し、Uは不飽和脂肪酸残基を意味し、S2Uはジ飽和-モノ不飽和トリグリセリドを意味し、混酸型のS2Uは2つの飽和脂肪酸残基が互いに異なるS2Uを意味する。
【請求項3】
条件(A)について、TAG中に占めるS3の割合が8.5質量%以上である、請求項1又は2に記載の低温ブルーム抑制剤。
【請求項4】
条件(C)について、SFC-25が24~42%である、請求項1~3の何れか1項に記載の低温ブルーム抑制剤。
【請求項5】
テンパー型チョコレート用である、請求項1~の何れか1項に記載の低温ブルーム抑制剤。
【請求項6】
請求項1~の何れか1項に記載の低温ブルーム抑制剤を含有する複合チョコレート。
【請求項7】
請求項1~の何れか1項に記載の低温ブルーム抑制剤を用いる、複合チョコレートのブルーム抑制方法。
【請求項8】
低温ブルーム抑制剤の使用量が、ココアバター及びココアバター代用脂を合わせたもの1質量部に対し0.07~0.25質量部である、請求項に記載の複合チョコレートのブルーム抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョコレートの品質低下につながるブルームの発生、特に低温ブルームの発生を抑制することのできるブルーム抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
チョコレートは、保管中にその表面や内部が白色化し、極端な場合はなめらかな食感が失われ、ざらついた食感になってしまう現象が観察されることがある。この白色化は、ファットブルーム又は単にブルームと称され、油脂が分離したり溶解したりした後に再結晶した油脂結晶によりチョコレートの表面が粗面化したり、あるいは粗大結晶が生成することにより光の乱反射が起き、白く見えているものである。
【0003】
チョコレートに発生するブルームにはいくつか種類があるが、チョコレートと他の食品素材とを組み合わせて製造される複合チョコレートにおいては、該複合チョコレートを低温に保管した場合にブルームが発生しやすい(以下、斯かるブルームを「低温ブルーム」という)。低温ブルームは、他の食品素材からチョコレート部分への油分移行あるいは水分移行(まとめてミグレーションという)によって溶解したり押し出されたりしたチョコレート中の固形脂の再結晶化に起因するとされている。
【0004】
この低温ブルームの発生機構についてさらに詳しく述べると、例えば、ナッツ類とチョコレートとの複合チョコレートや、シェルチョコレートのような、ガナッシュやセンターチョコレートとチョコレートとの複合チョコレートでは、ナッツ類やガナッシュ、センターチョコレート等に含まれる液状油成分がチョコレートの油脂中に移行し、そこでチョコレート中の油脂を溶解し、チョコレート表面に押し出し、再結晶化させることにより発生すると考えられている。
【0005】
低温ブルームは、テンパリングを適正に行い、さらに流通・保管温度を適正に保ったとしても2~5週間という比較的短い期間で発生し、その発生機構がミグレーションであることから、チョコレート製造時の温度条件の制御のみで完全に防止することは極めて困難である。
【0006】
また、油脂結晶の成長を原因とする他のブルームに対して有効な手段の一つである、油脂結晶成長を抑制する乳化剤を使用すると、チョコレート表面に押し出される油脂が増加し、低温ブルームは逆に悪化してしまう。
【0007】
そして、最近はチョコレート製造時の温度管理はもちろん、流通・販売時の温度管理をみても、冷蔵配送の一般化や、販売箇所での空調や保冷の徹底、さらには、消費者がチョコレートを購入後の家庭での保管の際にも十分な温度管理がなされることが一般的になってきたため、相対的に低温ブルーム耐性が重要視されるようになってきている。
【0008】
複合チョコレートの低温ブルームを防止する方法については、多くの検討がなされており、各種提案されている。例えば特定のグリコシルジグリセリドを含有することを特徴とするファットブルーム防止剤(特許文献1)や、1,3-ジベヘノイル-2-オレイルグリセリド(BOB)を特定量含有するテンパリング型ハードバター油脂組成物を含有することを特徴とするチョコレート類(特許文献2)、特定のトリグリセリド組成の油脂を2種含有することを特徴とする油脂組成物(特許文献3)、構成脂肪酸組成における炭素数20の飽和脂肪酸含量と炭素数22以上の飽和脂肪酸含量の含量がそれぞれ特定条件を満たすことを特徴とする低温ブルーム防止剤(特許文献4)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2001-029014号公報
【文献】特開2017-176029号公報
【文献】国際公開第2013/065726号
【文献】特開2011-182732号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】「菓子の事典」、小林彰夫、村田忠彦、朝倉書店、361~363頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
低温ブルームは、その発生機構からわかるように、チョコレートに液状油脂を使用し、複合させた食品素材との間での液状油成分の濃度勾配を小さくして油脂の再結晶化を防止することによって、基本的には解決可能である。しかし、液状油脂を使用する方法は極めて高い低温ブルーム防止効果があるが、液状油脂はたとえ少量の使用であってもチョコレート表面がべとつきやすく、使用量が多い場合はチョコレート自体が軟化してしまう問題がある。
【0012】
また、従前提案されてきた低温ブルームの発生を抑制する方法には、次のような課題があった。
特許文献1記載の手法は、抽出されたグリコシルジグリセリドを使用するため、抽出の対象によって、得られるチョコレートの風味に影響をおよぼす場合があった。特許文献2記載の手法は、高エルシン酸菜種脂の極度硬化油由来の脂肪酸エステル等を原料としてエステル交換することにより得られた1,3-ジベヘノイル-2-オレイルグリセリド(BOB)を有効成分とするものであるため、得られるチョコレート生地の製造コストが他の手法と比較して上昇しやすかった。特許文献3記載の手法は、26℃で液状である油脂を使用するため、保管条件によっては低温ブルームが発生する場合があった。特許文献4記載の手法は、構成脂肪酸組成中に炭素数20の脂肪酸および炭素数22以上の脂肪酸を含有するトリグリセリドを有効成分として使用するものであり、チョコレート生地の製造時の作業性に影響をおよぼす場合があった。
したがって、従前提案されてきた低温ブルームの抑制方法については改良の余地があった。
【0013】
本発明の課題は、チョコレート生地の製造時の作業性に影響をあたえることなく、チョコレートにおけるブルーム、とりわけ複合チョコレートにおける低温ブルームの発生を抑制する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者が鋭意検討を行った結果、特定の組成を有する油脂をチョコレートに少量含有させることで、ブルームの発生が抑えられ、特に低温ブルームの発生が抑制されることを知見した。
【0015】
すなわち、本発明は以下の(1)~(8)に関するものである。
(1)以下の条件(A)~(C)を満たす油脂αを有効成分として含有するブルーム抑制剤。
(A)TAG中に占めるS3の割合が2~15質量%である。
(B)S3中に占める混酸型のS3の割合が40~65質量%である。
(C)25℃における固体脂含量SFC-25(%)に対する35℃における固体脂含量SFC-35(%)の比(SFC-35/SFC-25)が0.20~0.45である。
但し、TAGはトリアシルグリセロールを意味し、Sは飽和脂肪酸残基を意味し、S3はトリ飽和トリグリセリドを意味する。
(2)さらに、油脂αが以下の条件(D)、(E)のいずれか一つ以上を満たすことを特徴とする、(1)記載のブルーム抑制剤。
(D)TAG中に占めるS2Uの割合が50~75質量%である。
(E)S2U中に占める混酸型のS2Uの割合が28~46質量%である。
但し、Sは飽和脂肪酸残基を意味し、Uは不飽和脂肪酸残基を意味し、S2Uはジ飽和-モノ不飽和トリグリセリドを意味し、混酸型のS2Uは2つの飽和脂肪酸残基が互いに異なるS2Uを意味する。
(3)低温ブルーム用である、(1)又は(2)に記載のブルーム抑制剤。
(4)テンパー型チョコレート用である、(1)~(3)の何れかに記載のブルーム抑制剤。
(5)複合チョコレート用である、(1)~(4)の何れかに記載のブルーム抑制剤。
(6)(1)~(5)の何れかに記載のブルーム抑制剤を含有するチョコレート。
(7)(6)に記載のチョコレートを用いてなる複合チョコレート。
(8)(1)~(5)の何れかに記載のブルーム抑制剤を用いる、チョコレートのブルーム抑制方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、チョコレート生地の製造時の作業性に影響をあたえることなく、チョコレートにおけるブルーム、とりわけ複合チョコレートにおける低温ブルームの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、各構成要素は本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0018】
[ブルーム抑制剤]
本発明のブルーム抑制剤は、下記条件(A)~(C)の全てを満たす油脂αを有効成分として含有する。
(A)TAG中に占めるS3の割合が2~15質量%である。
(B)S3中に占める混酸型のS3の割合が40~65質量%である。
(C)25℃における固体脂含量SFC-25(%)に対する35℃における固体脂含量SFC-35(%)の比(SFC-35/SFC-25)が0.20~0.45である。
但し、TAGはトリアシルグリセロールを意味し、Sは飽和脂肪酸残基を意味し、S3はトリ飽和トリグリセリドを意味する。
【0019】
まず、この条件(A)~(C)について述べる。
なお、本発明において「油脂αを有効成分として含有する」とは、上記条件(A)~(C)を満たす油脂αの有無と、ブルーム現象の発生の有無との間に顕著な相関があり、上記条件(A)~(C)の全てを満たす油脂αを、チョコレートに含有する場合にブルーム現象、特に低温ブルーム現象の発生が抑制されることを意味する。
【0020】
<条件(A)>
条件(A)は、油脂αの構成TAG中に占めるS3の割合に関する。本発明のブルーム抑制剤においては、油脂α中のTAGに含まれるS3の割合が2~15質量%であることが必要である。後述する条件(B)、(C)との組み合わせにおいて、TAGに含まれるS3の割合を2~15質量%とすることで、チョコレート生地の製造時の作業性に影響をあたえることなく、ブルームの発生を抑制することができる。とりわけ、複合チョコレートにおける低温ブルームの発生を好ましく抑制することができる。
【0021】
本発明のブルーム抑制剤のブルーム防止の効果を維持しながら、チョコレート生地調製時の作業性をより良好なものとする観点から、油脂α中のTAGに含まれるS3の割合は好ましくは3質量%以上、より好ましくは4質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、6質量%以上又は7質量%以上、さらにより好ましくは7.5質量%以上、8質量%以上又は8.5質量%以上である。同様の観点から、該S3の割合の上限は、好ましくは13質量%以下、より好ましくは12質量%以下、さらに好ましくは11質量%以下、さらにより好ましくは10質量%以下である。
【0022】
なお、ブルームをより効果的に抑制する観点から、油脂α中のTAGに含まれるS3を構成する飽和脂肪酸残基が、実質的にパルミチン酸残基とステアリン酸残基からなることが好ましい。本発明において、「油脂α中のTAGに含まれるS3を構成する飽和脂肪酸残基が、実質的にパルミチン酸残基とステアリン酸残基からなる」とは、S3におけるパルミチン酸残基とステアリン酸残基以外の飽和脂肪酸残基を含有する混酸型トリ飽和トリグリセリドの含有量が5質量%以下であることを意味する。パルミチン酸残基とステアリン酸残基以外の飽和脂肪酸残基としては、ラウリン酸残基やベヘン酸残基等を挙げることができる。
【0023】
本発明において、条件(A)や後述する条件(B)をはじめとする、油脂α中のTAG組成は、例えば、逆相HPLCで行われるTAG分子種分析等により分析することが可能である。この逆相HPLCは、日本油化学会制定「基準油脂分析試験法2.4.6.2」に則って実施することができる。
【0024】
<条件(B)>
条件(B)は、油脂αの構成S3中に占める混酸型のS3の割合に関する。本発明のブルーム抑制剤においては、油脂α中のS3中に占める混酸型のS3の割合が40~65質量%であることが必要である。
【0025】
ここで、本発明における混酸型のS3とは、トリパルミチンやトリステアリンのように、グリセリン骨格に結合した3つの飽和脂肪酸が単一の種類のトリグリセリドではなく、1,2-ジ-パルミトイル-3-ステアレートや、1,3-ジ-パルミトイル-2-ステアレートのように、異なる2種以上の飽和脂肪酸をその構成脂肪酸残基として有しているトリ飽和トリグリセリドを指す。
【0026】
なお、例えばトリパルミチンやトリステアリンのようにグリセリン骨格に結合した3つの飽和脂肪酸が単一の種類のトリグリセリドを、以下、単に、単一型のS3と記載する場合がある。
【0027】
条件(A)や後述する条件(C)との組み合わせにおいて、油脂α中のS3中に占める混酸型のS3の割合は、とりわけ複合チョコレートにおけるブルームの発生、特に複合チョコレートにおける低温ブルームの発生を効果的に抑制する観点から、好ましくは42質量%以上、より好ましくは44質量%以上、さらに好ましくは45質量%以上、さらにより好ましくは46質量%以上、47質量%以上、48質量%以上又は49質量%以上である。同様の観点から、該混酸型のS3の割合の上限は、好ましくは64質量%以下、より好ましくは63質量%以下、さらに好ましくは62質量%以下、さらにより好ましくは61質量%以下である。
【0028】
なお、本発明のブルーム抑制剤の効果を一層高める観点から、油脂α中のS3中における、混酸型のS3を1質量部としたとき、単一型のS3の量は0.3~1.5質量部であることが好ましく、0.4~1.3質量部であることがより好ましく、0.5~1.2質量部であることがさらに好ましい。
【0029】
<条件(C)>
条件(C)は、油脂αの固体脂含量(SFC:Solid Fat Contents)に関する。本発明のブルーム抑制剤においては、油脂αの、25℃における固体脂含量(「SFC-25」と記載する場合がある)に対する35℃における固体脂含量(「SFC-35」と記載する場合がある)の比(SFC-35/SFC-25)が0.20~0.45であることが必要である。条件(A)、(B)との組み合わせにおいて、比SFC-35/SFC-25がこの範囲にあることで、製造時の作業性に影響を与えずにブルームの発生、とりわけ、複合チョコレートにおける低温ブルームの発生を長期にわたって抑制することが可能になる。
【0030】
ブルームの発生においては、チョコレートの保管温度の変化が要因の一つであるところ、温度変化に対する耐性が得られやすくなり、ブルームの発生を効果的に抑制することが可能となるため、当該比は、好ましくは0.22以上、より好ましくは0.24以上、さらに好ましくは0.25以上である。同様の理由から、当該比の上限は、好ましくは0.44以下、より好ましくは0.42以下、さらに好ましくは0.40以下、さらにより好ましくは0.38以下、0.36以下、0.35以下又は0.34以下である。
【0031】
油脂αのSFCが上記条件を満たすことにより、チョコレート生地の製造時の作業性に影響を与えずに、ブルーム、特に低温ブルームの発生が抑制される理由については明らかとなっていないが、以下のとおり推察している。
すなわち、低温ブルームはチョコレートについて適切な温度管理を施した場合であっても生じ、その主原因がミグレーションにあると見られているところ、常温域(25℃前後)でのSFCが一定程度で高い油脂をチョコレート生地中に含有させることで、常温域で保管された状態であれば、ブルーム抑制剤由来の油脂結晶が、食品素材由来の油分または水分のチョコレート中への移行を妨げ、または抑制することができるためであると考えている。
【0032】
他方、口中温度域(35℃前後)でのSFCが一定程度で低い油脂を、本発明のブルーム抑制剤に含まれる油脂αとして選択することで、得られる口溶けに影響を与えることなく、チョコレートのブルーム現象の発生を抑制することができるものと考えている。
【0033】
なお、油脂αのSFC-25は、20~50%であることが好ましく、24~46%であることがより好ましく、28~42%であることがさらに好ましい。
【0034】
また、油脂αのSFC-35は、好ましくは5~20%であり、より好ましくは8~18%であり、最も好ましくは、8~15%である。
【0035】
SFCの値は、所定温度における油脂中の固体脂の含有量を示すもので、常法により測定することが可能であるが、本発明においては、AOCS official methodのcd16b-93に記載のパルスNMR(ダイレクト法)にて、測定対象となる試料のSFCを測定した後、測定値を油相量に換算した値を使用する。即ち、水相を含まない試料を測定した場合は、測定値がそのままSFCとなり、水相を含む試料を測定した場合は、測定値を油相量に換算した値がSFCとなる。(以下、SFCの測定について同様である。)
【0036】
本発明においては更に、一層好ましく低温ブルームの発生を抑制する観点から、油脂αが上記条件(A)~(C)に加えて、以下の条件(D)または(E)のいずれか一つ以上を満たすことが好ましく、上記条件(A)~(C)に加えて、条件(D)および(E)のいずれも満たすことがより好ましい。
(D)TAG中に占めるS2Uの割合が50~75質量%である。
(E)S2U中に占める混酸型のS2Uの割合が28~46質量%である。
但し、Sは飽和脂肪酸残基を意味し、Uは不飽和脂肪酸残基を意味し、S2Uはジ飽和-モノ不飽和トリグリセリドを意味し、混酸型のS2Uは2つの飽和脂肪酸残基が互いに異なるS2Uを意味する。
【0037】
<条件(D)>
条件(D)は、油脂αの構成TAG中に占めるS2Uの割合に関する。本発明のブルーム抑制剤においては、油脂αが条件(A)~(C)を満たすことに加えて、油脂αのTAG中に占めるS2Uの割合が50~75質量%の範囲にあることが好ましい。これにより、低温ブルームの発生をより一層好ましく抑制することができる。
【0038】
チョコレート生地の製造時の作業性に影響を与えることなく、より一層良好なブルーム抑制効果、とりわけ長期にわたる低温ブルーム抑制効果を得る観点から、油脂α中のTAG中のS2Uの割合は、より好ましくは52質量%以上、さらに好ましくは53質量%以上、さらにより好ましくは54質量%以上、55質量%以上、56質量%以上、57質量%以上、58質量%以上又は59質量%以上である。同様の観点から、該S2Uの割合の上限は、より好ましくは74質量%以下、さらに好ましくは72質量%以下、さらにより好ましくは70質量%以下、68質量%以下又は66質量%以下である。
【0039】
なお、本発明においては、油脂α中のS2Uにおいて、SSU(1,2-ジ飽和-3-モノ不飽和-トリグリセリド)とSUS(1,3-ジ飽和-2-モノ不飽和トリグリセリド)の質量比が、前者対後者で75:25~50:50であることが好ましく、72:28~55:45であることがより好ましく、69:31~60:40であることがさらに好ましい。すなわち、SSUとSUSの質量比は、SUS/SSUで、好ましくは0.33~1、より好ましくは0.38~0.82、さらに好ましくは0.44~0.67である。
【0040】
<条件(E)>
条件(E)は、油脂αの構成S2U中に占める混酸型のS2Uの割合に関する。本発明のブルーム抑制剤においては、油脂αが条件(A)~(C)を満たすことに加えて、油脂αのS2U中に占める混酸型のS2Uの割合が25~50質量%の範囲にあることが好ましい。これにより、低温ブルームの発生をより一層好ましく抑制することができる。
【0041】
ここで、本発明における混酸型のS2Uとは、例えば1-パルミトイル-2-オレオイル-3-ステアレートのように、異なる2種の飽和脂肪酸をその構成脂肪酸残基として有しているジ飽和モノ不飽和トリグリセリドを指す。
【0042】
なお、例えば1,2-ジパルミトイル-3-オレオレートのように、グリセリン骨格に結合した2つの飽和脂肪酸が単一の種類のトリグリセリドを、以下、単に単一型のS2Uと記載する場合がある。
【0043】
S2U中に占める混酸型のS2Uの割合は、とりわけ複合チョコレートにおけるブルームの発生、特に複合チョコレートにおける低温ブルームの発生を効果的に抑制する観点から、より好ましくは26質量%以上、さらに好ましくは28質量%以上、さらにより好ましくは30質量%以上又は32質量%以上である。同様の観点から、該混酸型のS2Uの割合は、より好ましくは48質量%以下、さらに好ましくは46質量%以下、さらにより好ましくは45質量%以下、44質量%以下、42質量%以下又は40質量%以下である。
【0044】
なお、本発明のブルーム抑制剤の効果を一層高める観点から、油脂α中の、S2U中の混酸型のS2Uを1質量部としたとき、単一型のS2Uの量は1.0~3.0質量部であることが好ましく、1.3~2.5質量部であることがより好ましく、1.5~2.0質量部であることがさらに好ましい。
【0045】
上述のとおり、条件(A)~(C)、好ましくはさらに条件(D)、(E)のいずれか一つ以上を満たす油脂αを含有させたブルーム抑制剤を、チョコレートを製造する際に用いることで、ブルームの発生を抑制でき、特に複合チョコレートにおける低温ブルームの発生を好ましく抑制することができる。
【0046】
特に複合チョコレートにおいて、好ましく低温ブルームの発生を抑制しうる理由は現段階では不明であるが、S3とS2Uはいずれも油脂結晶を構成する成分であるところ、脂肪酸鎖長の異なる飽和脂肪酸を含む混酸型のS3やS2Uが一定量含まれることで、結晶構造が複雑なものとなり、複合させた食品素材とチョコレートとの間でのミグレーションが抑制されるためであると推定している。
【0047】
<ブルーム抑制剤に用いられる油脂α>
本発明では、上記条件(A)~(C)を満たし、好ましくはさらに、上記条件(D)、(E)のいずれか一つ以上を満たすものであれば、任意の油脂、及び油脂配合物を、油脂αとして使用することができる。
【0048】
例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、カカオ脂、シア脂、マンゴー核油、サル脂及びイリッペ脂等の植物油脂、牛脂、乳脂、豚脂、魚油及び鯨油等の動物油脂、並びにこれらの油脂に水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂が挙げられる。本発明においては、これらから選択された油脂の1種を単独使用することができ、2種以上の油脂を組合せて使用することもできる。
【0049】
本発明のブルーム抑制剤においては、条件(A)~(C)を満たし、好ましくはさらに条件(D)、(E)のいずれか一つ以上を好ましく満たす油脂αが容易に得られることや、本発明のブルーム抑制剤を用いてチョコレートを製造する際の作業性を低下させない観点から、油脂α中にエステル交換油脂を含有することが好ましく、ランダムエステル交換油脂を含有することがより好ましい。
【0050】
本発明においては、エステル交換油脂として、エステル交換処理の後、更に水素添加や分別を行ったエステル交換油脂を用いることができる。本発明ではこの水素添加や分別を行ったエステル交換油脂もエステル交換油脂として扱う。
【0051】
ここで、油脂αにおいて、後述のようにして得られる、ランダムエステル交換油脂の低融点部又は中融点部の含有量は、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90~100質量%であることがさらに好ましい。即ち本発明においては、後述のようにして得られたランダムエステル交換油脂の低融点部又は中融点部を、そのまま本発明のブルーム抑制剤として好ましく用いることができる。
【0052】
また、本発明のブルーム抑制剤中の、油脂αの含量は、本発明の効果を十分に得る観点から、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。尚、ブルーム抑制剤中における油脂αの含量の上限は特に制限されず、100質量%であってよい。
【0053】
<油脂αの好ましい製造方法>
ここで、本発明のブルーム抑制剤において、油脂αとして好ましく用いられるランダムエステル交換油脂について詳述する。
【0054】
上記条件(A)~(C)を満たし、好ましくはさらに条件(D)、(E)のいずれか一つ以上を好ましく満たすランダムエステル交換油脂は、所定の油脂配合物をランダムエステル交換して得られた油脂をさらに分別し、分別軟部油又は分別中部油として得ることができる。この分別軟部油又は分別中部油は、例えば、以下に示す方法に則って得ることができる。
【0055】
先ず、構成脂肪酸中の飽和脂肪酸のうち、ステアリン酸とパルミチン酸との含有量の和が好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上であり、構成脂肪酸中のステアリン酸とパルミチン酸の質量比(St/P)が、好ましくは0.1~2.0、より好ましくは0.1~1.5、さらに好ましくは0.3~1.0である油脂配合物を調製する。
【0056】
このような油脂配合物を得るために用いられる油脂としては、特に制限されず、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、カカオ脂、シア脂、マンゴー核油、サル脂及びイリッペ脂等の植物油脂、牛脂、乳脂、豚脂、魚油及び鯨油等の動物油脂、並びにこれらの油脂に水素添加、分別及びエステル交換から選択される一又は二以上の処理を施した油脂のうちから、1種又は2種以上を選択し、混合して、上記の油脂配合物とすることができる。
【0057】
上記油脂配合物の原料油脂として極度硬化油脂を用いる場合、本発明のブルーム抑制剤にトランス脂肪酸含量を実質的に含有させない観点から、沃素価が好ましくは3以下、より好ましくは1以下である極度硬化油脂を用いることがより好ましい。上記油脂配合物の原料油脂として用いることのできる極度硬化油脂としては、例えばパーム油の極度硬化油脂、大豆油の極度硬化油脂、菜種油の極度硬化油脂、ハイオレイックヒマワリ油、ハイエルシン菜種油の極度硬化油脂などが挙げられる。
【0058】
特に複合チョコレートにおいて、ミグレーションをより効果的に抑制するために、構成脂肪酸組成中のステアリン酸及びパルミチン酸の含量を高め、St/Pを上記の好ましい範囲に調整する観点から、パーム油、パーム極度硬化油脂及びパーム分別硬部油からなる群から選択される少なくとも1種以上の油脂を含むことが好ましい。
【0059】
同様の観点から、上記油脂配合物は、パーム油、パーム極度硬化油脂及びパーム分別硬部油からなる群から選択される少なくとも1種以上の油脂を、30~100質量%含有することが好ましく、40~100質量%含有することがより好ましく、50~100質量%含有することがさらに好ましい。
【0060】
次に、調製した油脂配合物に対して、ランダムエステル交換を行う。
ランダムエステル交換は化学的触媒を用いる方法であってもよく、或いは酵素を用いる方法であってもよい。上記化学的触媒としては、ナトリウムメチラート等のアルカリ金属系触媒等が挙げられ、上記酵素としては、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、リゾープス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、ペニシリウム(Penicillium)属等に由来するリパーゼ等が挙げられる。尚、該リパーゼは、イオン交換樹脂或いはケイ藻土やセラミック等の担体に固定化して、固定化リパーゼとして用いることもできるし、粉末の形態で用いることもできる。
【0061】
ランダムエステル交換された油脂配合物は、後述する分別を効率よく行う観点から、固体脂含量比SFC-35/SFC-25が、0.4~1.3であることが好ましく、0.5~1.1であることがより好ましく、0.5~0.9であることがさらに好ましい。
【0062】
尚、本発明において、好ましく用いられるランダムエステル交換油脂が、条件(A)~(C)について好ましい範囲を満たし、好ましくはさらに、上記条件(D)、(E)のいずれか一つ以上を満たすようにするために、ランダムエステル交換された油脂配合物を、以下に詳述する溶剤分別又は晶析により分別することによって得られた低融点部又は中融点部を用いることがより好ましい。
【0063】
尚、本発明において低融点部とは、分別により高融点部分を分離除去して得られた低融点画分のことを意味する。また、中融点部とは、分別により高融点部分と低融点画分とを分離除去して得られた中融点画分のことを意味する。
分別方法としては、例えば、アセトン分別やヘキサン分別等の溶剤分別、晶析等の無溶剤分別等が挙げられる。
【0064】
上記のランダムエステル交換された油脂配合物の分別は、1回実施しても複数回実施してもよい。分別を複数回実施する際には、溶剤分別を、条件を変えて2段階或いは3段階以上行ってもよく、晶析を、条件を変えて2段階或いは3段階以上行ってもよく、溶剤分別と晶析を組合せてもよい。
【0065】
<溶剤分別について>
溶剤分別を行う際は、用いる溶剤については、分別に供する、ランダムエステル交換された油脂配合物が溶解する溶剤であれば特に限定されないが、得られた分別油脂を食用に供することから、アセトン若しくはヘキサンを選択することが好ましい。
【0066】
使用する溶剤の量については、特に限定されないが、工業的生産性の点から、分別に供する、ランダムエステル交換された油脂配合物100質量部に対して、好ましくは50質量部以上、より好ましくは100~1000質量部、さらに好ましくは200~500質量部の溶剤を用いる。
【0067】
ランダムエステル交換された油脂配合物を溶剤に溶解させる際は、分別によって除去する高融点画分を一旦十分に溶かしておく必要があるため、50~70℃となるように加熱しておくことが好ましい。
【0068】
溶剤に溶解させたランダムエステル交換された油脂配合物を冷却し、保持する温度(冷却温度)については、有機溶剤の種類によって異なるが、例えば、アセトンを用いた場合は0~30℃が好ましく、ヘキサンを用いた場合は-10℃~20℃が好ましい。
【0069】
冷却温度で保持する時間(冷却時間)については、高融点画分を十分に析出させる観点から、0.1時間~100時間が好ましく、0.5~50時間がより好ましい。
【0070】
更に冷却速度は、低融点画分、中融点画分の抱き込みを防ぎながら、高融点画分を効率よく析出させる観点から、20℃/h以下が好ましく、工業的生産性の点から0.1~15℃/hであることが好ましい。
【0071】
尚、冷却操作は、ジャケット冷却若しくは熱交換器等により行うことができる。冷却操作は、静置下で行っても、撹拌下で行ってもよいが、析出した結晶の分散を良好に保ち、系全体を均一に冷却する点から、撹拌下で行うことが好ましい。尚、シード剤の添加の有無は適宜選択され、添加する場合は任意のタイミングで加えることができる。
【0072】
分別については、常法により、冷却により生じた高融点画分の結晶のみを濾別した後、加熱等により溶剤を除去することで、低融点部、又は中融点部を得る。
【0073】
尚、冷却結晶化する方法は特に限定されるものではなく、例えば、(i)撹拌しながら冷却結晶化する方法、(ii)静置下で冷却結晶化する方法、(iii)撹拌しながら冷却結晶化した後、更に静置下で冷却結晶化する方法、(iv)静置下で冷却結晶化した後、機械的撹拌により流動化する方法を挙げることができるが、結晶部と液状部の分離が容易な結晶化スラリーを得る点において、(i)、(iii)及び(iv)のいずれかの方法を採ることが好ましく、より好ましくは(i)の方法を選択する。
【0074】
結晶化温度は、結晶化スラリー中の結晶部の割合、即ち、結晶化温度でのSFC(固体脂含量)が、後述の<晶析について>欄に記載する好適範囲となる温度に設定することが好ましい。
【0075】
<晶析について>
晶析においては、冷却結晶化により得られる結晶化スラリー中の結晶部の割合、即ち、結晶化温度でのSFCを10~70%とすることが好ましく、30~60%とすることが好ましく、35~55%とすることがさらに好ましい。
【0076】
SFCが上記範囲外である場合には、本発明のブルーム抑制剤として有用な油脂成分を選択的に分離する際の効率が低下する場合がある。
【0077】
尚、冷却結晶化する方法は特に限定されず、上記の(i)~(iv)のいずれの方法をとることもでき、結晶部と液状部の分離が容易な結晶化スラリーを得る点において、(i)、(iii)及び(iv)のいずれかの方法を採ることが好ましく、より好ましくは(i)の方法が選択される。
【0078】
冷却温度や時間については、分別に供するランダムエステル交換された油脂配合物のSFCが上記範囲となるような条件であれば特に限定されないが、分別に供するランダムエステル交換された油脂配合物が完全溶解した状態から、30分~30時間かけて、25~60℃(好ましくは30~50℃)まで冷却し、該温度で30分~80時間(好ましくは1~70時間)保持することにより、好ましく上記範囲のSFCを満たすことができる。
【0079】
加えて、晶析においては、完全溶解された状態から、上記範囲のSFCとなるまで冷却する際には、急冷してもよく、徐冷してもよく、又はこれらを組合せて冷却してもよいが、得られた結晶化スラリーの結晶部と液状部の分離を容易にし、且つ得られる液状部の収率を向上させるために、油脂結晶が析出する温度帯以下においては徐冷することが好ましい。
【0080】
尚、晶析において急冷する場合、その冷却速度は5℃/h以上であることが好ましく、5~20℃/hであることがより好ましく、徐冷する場合、その冷却速度は0.3~3.5℃/hであることが好ましく、0.5~3.0℃/hであることがより好ましい。
【0081】
ここで、油脂結晶が析出する温度帯以下においては、上記好適範囲のSFCが得られる温度まで冷却する過程の中で、1回又は2回以上、冷却により析出した結晶の熟成工程を経ることが、収率の向上の観点と、好ましいブルーム抑制効果を有する油脂を得る観点から好ましい。
【0082】
本発明において、結晶の熟成工程とは、結晶をより均一なものにすると同時に更に結晶化を進めて、結晶部と液状部をより濾別しやすい結晶状態とし、結果として収率を向上させる操作をさす。
【0083】
具体的には、好ましくは25~60℃(より好ましくは30~50℃)の任意の温度で、定温の状態で、30分~80時間保持することが挙げられる。尚、熟成工程の回数の上限は特に制限はないが、通常は5回、好ましくは4回である。
【0084】
晶析の対象となる油脂の組成に応じて、晶析条件は適宜調整されるが、本発明においては、好ましい晶析条件の一つとして、例えば完全溶解の状態から47~50℃まで1~2時間で到達するよう急冷した後、38~44℃で結晶化スラリーを得るまでの間に、任意の温度で1回又は2回以上の熟成工程を経る晶析条件が挙げられる。尚、各熟成工程間の温度移行は徐冷により行うことが好ましい。
【0085】
結晶部と液状部とを分離する方法としては、例えば、自然濾過、吸引濾過、圧搾濾過、遠心分離、及びこれらの組合せが挙げられる。分離操作を簡便に、且つ効率的に行うために、フィルタープレスやベルトプレスなどを用いた圧搾濾過を選択することが好ましい。
【0086】
油脂の結晶化の際に、結晶化温度でのSFCが高く、高粘度の結晶化スラリーであったり、塊状体が存在したりする場合等においては、濾過時に加わる圧力によってスラリー化させることが容易なので、特に圧搾濾過が適している。
【0087】
圧搾濾過によって分別を行う場合の圧力は、好ましくは0.2MPa以上、より好ましくは0.5~5MPaである。尚、圧搾時の圧力は圧搾初期から圧搾終期にかけて徐々に上昇させることが好ましく、その圧力の上昇速度は好ましくは1MPa/分以下、より好ましくは0.5MPa/分以下、さらに好ましくは0.1MPa/分以下である。圧力の上昇速度が1MPa/分より大きいと、得られる油脂の低融点部、又は中融点部の収率が低下するおそれがある。
【0088】
上記のように溶剤分別、晶析等の分別を行い、本発明のブルーム抑制剤において好ましく用いることのできるエステル交換油である、ランダムエステル交換油の低融点部、又は中融点部が得られる。
【0089】
<その他原料>
本発明のブルーム抑制剤は、本発明の効果を阻害しない範囲において、一般的にチョコレート製造に使用することのできる各種原材料、例えば、乳化剤、酸化防止剤、糖類、糖アルコール、デキストリン、オリゴ糖、澱粉、小麦粉、無機塩及び有機酸塩、ゲル化剤、乳製品、卵製品、その他各種食品素材全般、香料、調味料等の呈味成分、着色料、保存料、pH調整剤等を含有してよい。
【0090】
上記乳化剤としては、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、酵素処理レシチン等の乳化剤の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0091】
<用途>
本発明のブルーム抑制剤は、チョコレートの製造時に、該ブルーム抑制剤を、その原料の一つとして含有させることで、ブルームの発生を効果的に抑制することができる。特に、ミグレーションに伴う低温ブルームの発生を効果的に抑制することができるため、低温ブルームの発生を抑制する用途(低温ブルーム用)に好ましく用いられる。
【0092】
また、本発明のブルーム抑制剤は、テンパー型チョコレート用のブルーム抑制剤として好適に使用することができる。ブルームのうちでも特に低温ブルームは、チョコレート中のテンパリングがとれているココアバターのV型結晶が、ミグレーションに伴って一度溶解され、テンパリングのとれていないココアバターが経日的に再結晶することが、発生に大きく関与すると推定され、本発明のブルーム抑制剤をテンパー型チョコレートに対して用いることで、ブルームの発生を効果的に抑制することができる。
【0093】
さらに、本発明のブルーム抑制剤は、特に複合チョコレート用のブルーム抑制剤として好適に使用することができる。ブルームの中でも特に低温ブルームは、複合チョコレートにおいて顕著に発生する現象であるところ、特に低温ブルームに対して高い抑制効果を有する本発明のブルーム抑制剤を使用することによって、複合チョコレートの低温ブルームの発生をより効果的に抑制することができる。
【0094】
なお、本発明のブルーム抑制剤はテンパー型チョコレートに対して好適に用いることができることから、本発明のブルーム抑制剤をテンパー型のハードバターの製造に際し、原料の一つとして含有させることもできる。
【0095】
テンパー型のハードバターを製造する際に、ブルーム抑制剤を含有させる方法としては特に限定されないが、例えば、原料とする全ての油脂と本発明のブルーム抑制剤とを60℃程度に加熱して溶解した後に混合して撹拌する方法が挙げられる。
【0096】
[チョコレート]
先述のとおり、本発明のブルーム抑制剤を用いてチョコレートを製造することができる。本発明は、斯かるチョコレートも提供する。
【0097】
本発明のチョコレートは、本発明のブルーム抑制剤を含有する。本発明のチョコレートは本発明のブルーム抑制剤を含有することにより、ブルームの発生が抑制されている。とりわけ、後述の複合チョコレートにおいてチョコレート表面に発生する、低温ブルームの発生が抑制されている。
【0098】
本発明のチョコレートの製造に用いられる、ブルーム抑制剤の含有量は、上記条件(A)~(C)を全て満たす油脂αが、チョコレート中の、ココアバター及びココアバター代用脂(CBEとも称される1,3―ジ飽和―2―モノ不飽和トリグリセリドに富むハードバター)を合わせたもの1質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.04質量部以上、さらに好ましくは0.07質量部以上となる量である。ブルーム抑制剤の含有量を上記の範囲とすることで、特に低温ブルームの発生が抑制されたチョコレートが得られる。
【0099】
本発明のチョコレートの製造に用いられる、本発明のブルーム抑制剤の含有量の上限は、ココアバターとの相溶性の問題に起因する共晶によるブルームが発生しない範囲であれば特に限定されないが、本発明のブルーム抑制剤中に含まれる油脂αが、チョコレート中の、ココアバター及びココアバター代用脂を合わせたもの1質量部に対して、好ましくは0.35質量部以下、より好ましくは0.25質量部以下、さらに好ましくは0.15質量部以下となる量である。
【0100】
したがって好適な一実施形態において、本発明のブルーム抑制剤に含有される油脂αの含有量は、チョコレート中の、ココアバター及びココアバター代用脂を合わせたもの1質量部に対して0.01~0.35質量部となる量である。
【0101】
本発明においてチョコレートとは、全国チョコレート業公正取引協議会で規定されたチョコレート、準チョコレートだけでなく、カカオマス、ココアバター、ココアパウダー等のカカオ原料を利用した生チョコレート、ホワイトチョコレート、カラーチョコレート等の油脂加工食品も包含する概念であり、カカオマス、ココアパウダー、粉乳等の各種粉末食品、油脂類、糖類、乳化剤、香料、色素等の中から選択した原料を任意の割合で混合し、常法により、ロール掛け、コンチング処理して得たものを広く指す。
【0102】
ブルームはチョコレートにおいて一般的に発生する現象ではあるが、ブルームの中でも特に低温ブルームは、複合チョコレートを製造する際にテンパー型チョコレートを用いた場合において発生しやすい現象である。そのため、本発明のチョコレートはテンパー型であることが、本発明のブルーム抑制剤の効果を大きく得られるため好ましい。
【0103】
さらに、本発明のチョコレートの製造方法について述べる。
本発明のブルーム抑制剤のチョコレート生地への添加方法については任意の添加方法を選択することができるが、大別すると下記(a)、(b)の2つの方法があり、これらのどちらの方法を用いてもよく、両方の方法を用いてもよい。
(a)本発明のブルーム抑制剤を、チョコレート生地の原材料として使用し、常法によりチョコレート生地を製造する方法。
(b)本発明のブルーム抑制剤を、常法により製造したチョコレート生地に添加する方法。
【0104】
尚、チョコレートがテンパー型であって(b)の方法を選択する場合、テンパリングを行う時期は、本発明のブルーム抑制剤の添加前であっても添加後であってもよいが、ブルーム抑制剤の添加後にテンパリングを行うことが好ましい。これは以下の理由による。すなわち、テンパリング工程を経たチョコレートについて、通常、品温を上昇させる操作を行うことはない。そのため、テンパリング後に本発明のブルーム抑制剤を混合する場合、ブルーム抑制剤を、テンパリングをとった温度以下に調温しておく必要がある。しかし、当該温度帯においては、ブルーム抑制剤中の油脂αが部分的に結晶化し粘度が上昇するため、均一に混合・結晶化しにくい可能性があるためである。
【0105】
[複合チョコレート]
本発明のチョコレートを用いて複合チョコレートを製造することができる。本発明は、斯かる複合チョコレートも提供する。
【0106】
本発明の複合チョコレートは、本発明のチョコレートを用いてなり、詳細には、本発明のチョコレート、すなわち本発明のブルーム抑制剤を含有するチョコレートと、他の食品素材(以下、単に「食品素材」ともいう。)とを組み合わせ、複合させて得られる菓子である。
【0107】
複合チョコレートの製造に用いられる食品素材としては特に制限されないが、本発明のブルーム抑制剤の働きにより複合チョコレートに発生しやすい低温ブルームの発生を抑制することができることから、油分及び/又は水分を多く含有する食品素材が好適に挙げられる。通常、食品素材中の水分及び油分の合計含量が12質量%以上であると、食品素材からチョコレートへのミグレーションが起きやすくブルームが発生しやすい。
【0108】
該水分及び/又は油分を多く含有する食品素材としては、例えば、ガナッシュ、センターチョコレート、ナッツ類、クッキー・サブレ・バターケーキ・シュー・パイ等の焼菓子類、ブリオッシュ・デニッシュ等のパン類、ジャム、ゼリー類、漬け果実、糖液、クリーム、マジパン、キャラメル、ジャンデューヤ等が挙げられる。
【0109】
本発明の複合チョコレートにおいて、本発明のチョコレートと食品素材との比率は特に限定されず食品素材の種類に応じて決定してよいが、具体的には下記のとおりとすることが好ましい。
【0110】
本発明のチョコレートと、油分含量の高い食品素材(例えば、ナッツ類やガナッシュ、センターチョコレート等)とを複合した複合チョコレートの場合、チョコレート100質量部に対し、食品素材は好ましくは10~200質量部、より好ましくは20~100質量部である。
【0111】
本発明のチョコレートと、ベーカリー食品(例えば、焼菓子類、パン類等)とを複合した複合チョコレートの場合、チョコレート100質量部に対し、ベーカリー食品は好ましくは10~1000質量部、より好ましくは20~400質量部である。
【0112】
本発明のチョコレートと、水分含量の高い食品素材(例えば、ジャム、ゼリー類、糖漬け果実、糖液、クリーム等)とを複合した複合チョコレートの場合、チョコレート100質量部に対し、食品素材は好ましくは10~200質量部、より好ましくは20~100質量部である。
【0113】
複合の方法としては、特に限定されず、例えば、(1)上記食品素材をチョコレート中に分散する、(2)上記食品素材の一部又は全体をチョコレートでエンローバー又はコーティングする、(3)上記食品素材をトリュフ、シェルチョコレート等のチョコレートのセンターに使用する等の方法を挙げることができる。
【0114】
より具体的には、本発明のチョコレートと、油分含量の高い食品素材とを複合した複合チョコレートの場合、チョコレート製造の際に、ナッツ類を添加混合したり、センターとしてナッツ類やガナッシュ、センターチョコレート等の、油分含量の高い食品素材を使用したりする方法等を挙げることができる。
【0115】
本発明のチョコレートと、ベーカリー食品とを複合した複合チョコレートの場合、チョコレート製造の際に焼菓子類の破砕物を添加混合したり、センターとして焼菓子を使用したり、あるいは焼菓子にチョコレートをエンローバー又はコーティングしたりする方法等を挙げることができる。
【0116】
本発明のチョコレートと、水分含量の高い食品素材とを複合した複合チョコレートの場合、チョコレート製造の際に水分含量の高い食品素材の破砕物を添加混合したり、センターとして水分含量の高い食品素材を使用したり、あるいは水分含量の高い食品素材にチョコレート類をエンローバー又はコーティングしたりする方法等を挙げることができる。
【0117】
とりわけ、チョコレートトリュフやシェルチョコレートにおいては、その他の複合チョコレートと異なり、組み合わせる食品素材が連続相を油相とするものが殆どである。そのため、チョコレートの油相と食品素材の油相とが直接接触するためにミグレーションが起きやすく、特に低温ブルームが起きやすいものである。よって、その他の複合チョコレートと比較して、これらチョコレートトリュフやシェルチョコレートは特に好適に本発明を適用することができる。
【0118】
[チョコレートのブルーム抑制方法]
本発明のブルーム抑制剤を用いてチョコレートのブルームを抑制することができる。本発明は斯かるチョコレートのブルーム抑制方法も提供する。
【0119】
本発明のチョコレートのブルーム抑制方法(以下、単に「本発明のブルーム抑制方法」ともいう。)は、本発明のブルーム抑制剤、すなわち上記条件(A)~(C)を少なくとも満たし、好ましくは条件(A)~(C)に加えて条件(D)、(E)のいずれか一つ以上を満たし、より好ましくは条件(A)~(E)を全て満たす油脂αを有効成分として含有するブルーム抑制剤を、チョコレートの製造に際して、原料の一つとして用いることを特徴とする。
【0120】
チョコレートの製造を行う際に、ブルーム抑制剤をチョコレート生地に添加する方法としては、任意の添加方法を選択することができるが、大別すると下記(a)、(b)の2つの方法があり、これらのどちらの方法を用いてもよく、両方の方法を用いてもよい。
(a)本発明のブルーム抑制剤を、チョコレート生地の原材料として使用し、常法によりチョコレート生地を製造する方法。
(b)本発明のブルーム抑制剤を、常法により製造したチョコレート生地に添加する方法。
【0121】
尚、チョコレートがテンパー型であって(b)の方法を選択する場合、テンパリングを行う時期は、本発明のブルーム抑制剤の添加前であっても添加後であってもよいがブルーム抑制剤の添加後にテンパリングを行うことが好ましい。これは以下の理由による。テンパリング工程を経たチョコレートについて、通常、品温を上昇させる操作を行うことはない。そのため、テンパリング後に本発明のブルーム抑制剤を混合する場合、ブルーム抑制剤を、テンパリングをとった温度以下に調温しておく必要がある。しかし、当該温度帯においては、ブルーム抑制剤中の油脂αが部分的に結晶化し粘度が上昇するため、均一に混合・結晶化しにくい可能性があるためである。
【0122】
本発明のブルーム抑制方法は、ブルームのうちでも特に低温ブルームの発生を抑制するのに有効である。このため、本発明のブルーム抑制方法が適用されたチョコレートは、複合チョコレートに好ましく用いることができる。
【0123】
なお、チョコレートの製造にあたり、本発明のブルーム抑制方法を適用する場合の、ブルーム抑制剤の使用量については特に制限されないが、該ブルーム抑制剤に含まれる油脂αが、チョコレート中の、ココアバター及びココアバター代用脂を合わせたもの1質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.04質量部以上、さらに好ましくは0.07質量部以上となる量である。
【0124】
また、本発明のブルーム抑制剤の含量の上限は、本発明のブルーム抑制剤中に含まれる油脂αが、チョコレート中の、ココアバター及びココアバター代用脂を合わせたもの1質量部に対して、好ましくは0.35質量部以下、より好ましくは0.25質量部以下、さらに好ましくは0.15質量部以下となる量である。
【実施例
【0125】
以下、本発明について、実施例を示して具体的に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0126】
<検討1>
(製造例1)
先ず、パーム油に沃素価が1以下となるまで水素添加を行ったパーム極度硬化油45質量部、及びパーム油55質量部をそれぞれ融解した状態で撹拌混合し、油脂配合物を得た。この油脂配合物を四口フラスコ内で液温を90℃に調整し、油脂配合物100質量部に対し0.2質量部の割合でナトリウムメトキシドを加えた後、真空下で1時間、加熱しながら撹拌混合した。この後、クエン酸を添加してナトリウムメトキシドを中和し、常法により精製し、ランダムエステル交換油脂である、エステル交換油脂E-1(以下、単に「E-1」と記載する場合がある)を得た。
このE-1を、ジャケット付ガラス製晶析槽に投入し、完全に溶解された状態から、40rpmで撹拌しながら、油脂温度が45℃となるまで8.3℃/hで急冷し、油脂温度が45℃で3時間の熟成工程を経て、39.5℃で結晶化スラリーを得た。尚、45℃から39.5℃への温度移行は1℃/hでの徐冷により行った。この結晶化スラリーを濾過分別、及び圧搾に供し、得られた分別軟部油を、分別軟部油EF-1として得た。
尚、EF-1はエステル交換油脂E-1の低融点部である。
【0127】
(製造例2)
先ず、パーム油に沃素価が1以下となるまで水素添加を行ったパーム極度硬化油42質量部、及びパーム油27.5質量部、パーム分別軟部油(ヨウ素価57)30.5質量部をそれぞれ融解した状態で撹拌混合し、油脂配合物を得た。この油脂配合物を、製造例1と同様にして、ナトリウムメトキシドを触媒とするランダムエステル交換反応、及び精製に付し、ランダムエステル交換油脂である、エステル交換油脂E-2(以下、単に「E-2」と記載する場合がある)を得た。
このE-2を、ジャケット付ガラス製晶析槽に投入し、完全に溶解された状態から、50rpmで撹拌しながら、油脂温度が46℃となるまで7.0℃/hで急冷し、油脂温度が46℃に達温してから、5時間の熟成工程を経て、更に油脂温度が35.0℃となるまで2.2℃/hで徐冷した。そして、油脂温度が35℃に達温してから11時間の熟成工程を経て、結晶化スラリーを得た。この結晶化スラリーを濾過分別、及び圧搾に供し、得られた分別軟部油を、分別軟部油EF-2として得た。
尚、EF-2はエステル交換油脂E-2の低融点部である。
【0128】
(製造例3)
パームステアリン45質量部、パーム油に沃素価が1以下となるまで水素添加を行ったパーム極度硬化油35質量部、及びパーム油20質量部をそれぞれ融解した状態で撹拌混合し、油脂配合物を得た。この油脂配合物を、製造例1と同様にして、ナトリウムメトキシドを触媒とするランダムエステル交換反応、及び精製に付し、ランダムエステル交換油脂である、エステル交換油脂E-3(以下、単に「E-3」と記載する場合がある)を得た。
このE-3を、ジャケット付ガラス製晶析槽に投入し、完全に溶解された状態から、40rpmで撹拌しながら、48℃まで15℃/hで急冷し、48℃、44℃、42℃の各温度でそれぞれ4時間の熟成工程を経て、結晶化スラリーを得た。尚、48℃から44℃への温度移行は2℃/hでの徐冷により行い、44℃から42℃への温度移行は1℃/hでの徐冷により行った。この結晶化スラリーを濾過分別、及び圧搾に供し、得られた分別軟部油を、分別軟部油EF-3として得た。
尚、EF-3はエステル交換油脂E-3の低融点部である。
【0129】
(製造例4)
先ず、パーム油に沃素価が1以下となるまで水素添加を行ったパーム極度硬化油35質量部、及びパーム油65質量部をそれぞれ融解した状態で撹拌混合し、油脂配合物を得た。この油脂配合物を、製造例1と同様にして、ナトリウムメトキシドを触媒とするランダムエステル交換反応、及び精製に付し、ランダムエステル交換油脂である、エステル交換油脂E-4(以下、単に「E-4」と記載する場合がある)を得た。
【0130】
上記のように得られたEF-1~3、E-4に加えて、以下の油脂F-1~F-3、EFH-1を表1の配合に則って、融解した状態で撹拌・混合を行い、ブルーム抑制剤A~Lを製造した。
【0131】
F-1:シアステアリン(シア脂の分別硬部油、ヨウ素価34)
F-2:パーム分別中部油(パーム油を溶剤分別により2段分別して得られた中融点画分、ヨウ素価44)
F-3:パーム分別中部油(パーム油を晶析により2段分別して得られた中融点画分、ヨウ素価35)
EFH-1:ランダムエステル交換されたパーム分別軟部油の極度硬化油(ヨウ素価1)
【0132】
【表1】
【0133】
なお、得られたブルーム抑制剤の各種パラメータは表2のとおりである。
【0134】
【表2】
【0135】
得られたブルーム抑制剤A~Lを用いて、以下のとおり、シェル部にブルーム抑制剤を含有し、センター部として生チョコレートを包含する、シェル部とセンター部からなるシェルチョコレートを製造した。
【0136】
(シェル部に用いるテンパー型チョコレート生地の製造)
カカオマス(油分含有量55質量%、含有される油脂はココアバター)42質量部、砂糖40.67質量部、レシチン0.3質量部、ココアバター13質量部、及びブルーム抑制剤A~Lのいずれか1種を4質量部、を、卓上ミキサーに投入し、ビーターを用いて中速で3分間混合し、更に、常法により、ロール掛け、コンチングして、シェル部に用いるテンパー型のチョコレート生地を得た。尚、カカオマスは55℃に調温し、ココアバター及びブルーム抑制剤A~Lは55℃で溶解した。
得られたテンパー型チョコレートは、含有されるココアバター1質量部に対し、ブルーム抑制剤A~Lが0.11質量部含まれるものであった。なお、含有されるココアバター(CB)の総量は36.1質量部であった。
【0137】
(センター部に用いるテンパー型チョコレート生地の製造)
砂糖37.6質量部、ココアバター34.0質量部、脱脂粉乳20.0質量部、レシチン0.4質量部、及び、F-2とパーム分別軟部油(ヨウ素価57)とパーム分別中部油(ヨウ素価35)をこの順で70:20:10の比率で混合した油脂配合物8質量部を、卓上ミキサーに投入し、ビーターを用いて中速で3分間混合し、更に、常法により、ロール掛け、コンチングして、センター部に用いるテンパー型のチョコレート生地を得た。尚、ココアバター及び上記の油脂配合物は55℃で溶解した。
【0138】
(シェルチョコレートの製造)
テンパー型チョコレート生地について、常法により、シードテンパリングを行った。次いで、シェルチョコレート製造用の、サイコロ状の凹みのついた金属製のモールドに、得られたチョコレート生地を流し込んで、5℃の冷蔵庫で冷却し、サイコロ状(縦1cm横1cm高さ1cm)のカップ型のチョコレートを得た。
このサイコロ型のカップ型のチョコレートの内部に、センター部用のチョコレート生地を流し込んで冷やし固め、カップ型の蓋になるように上記のテンパー型チョコレート生地を薄く流して、冷却し、シェルチョコレートA~Lを調製した。尚、シェルチョコレートA~Lのナンバリングについては、シェル部のチョコレート生地の製造に使用したブルーム抑制剤A~Lと対応している。
【0139】
また、シェル部を製造する際に使用したブルーム抑制剤を、ココアバターで置換した他はシェルチョコレートA~Lと同様に製造したものをコントロール(Cont.)として調製した。
【0140】
[試験・評価方法]
シェル部を製造する際のチョコレート生地の製造時の作業性と、経日的なブルームの発生の2点について、以下の手順で試験・評価を行った。
【0141】
<チョコレート生地の製造時の作業性の評価>
シェル部に用いるテンパー型チョコレートの製造時に、下記の評価基準に則って、チョコレート生地の製造時の作業性について評価を行った。その結果を表3の「製造作業性」欄に記載した。
尚、本評価においては、+、±の評価が得られたブルーム抑制剤を、良好な作業性を有するものとした。
【0142】
チョコレート生地の製造時の作業性の評価基準:
+:コントロールと同様の生地粘度であり、モールドに流し込む際の作業性は良好である。
±:コントロールよりもやや粘度が高いが、モールドに流し込む際において問題なく作業することができる。
-:コントロールと比較して粘度が高く、撹拌が困難であり、また、モールドに流し込む際において作業性に問題がある。
【0143】
<経日的なブルームの発生の評価>
上記手法で製造したシェルチョコレートについて、以下の手順でブルーム試験を実施し、経日的なブルームの発生を評価した。詳細には、保管条件を18℃と27℃を交互に12時間ずつ経るように設定されたプログラム恒温槽内で、試料(シェルチョコレート)を、その製造日より16週間、静置保管した。そして、製造日より2、4、6、8、10、12、14、16週経過時点において、試料表面を目視観察し、下記評価基準に従ってブルームを評価した。
尚、本評価においては、6週経過時点で+の評価を得ているものを、合格品として扱った。
【0144】
ブルーム評価基準:
+:チョコレートの表面にブルームがみられず、ツヤがある
±:チョコレートの表面にブルームはみられないが、ツヤがない
-:チョコレートの表面の一部にブルームがみられる
--:チョコレートの表面に激しいブルームがみられる
【0145】
【表3】
【0146】
はじめに、条件(A)~(C)を全て満たす油脂を含有するブルーム抑制剤A~D、K及びLを用いて製造されたシェルチョコレートA~D、K及びLは、何れも製造日より少なくとも10週経過時点まではブルームの発生が確認されず、コントロールに比し、ブルームの発生、詳細には複合チョコレートにおける低温ブルームの発生を大幅に抑制できることが確認されている。また、これらシェルチョコレートA~D、K及びLは、チョコレート生地の製造時の作業性も良好であることが確認されている。
中でも、条件(A)~(C)が何れも好適範囲にあり、さらに条件(D)及び(E)も満たす油脂を含有するブルーム抑制剤A及びLを用いて製造されたシェルチョコレートA及びLは、製造日より16週経過時点においてもブルームの発生が確認されず、ブルームの発生、詳細には複合チョコレートにおける低温ブルームの発生を一際顕著に抑制できることが確認されている。
他方、条件(A)~(C)の少なくとも一つを充足しない油脂を含有するブルーム抑制剤E~Jを用いて製造されたシェルチョコレートE~Jは、何れも製造日より6週経過時点あるいはそれ以前に表面の艶がなくなり、その後、ブルームも発生することが確認された。特に条件(A)~(C)の三つ全てを充足しない油脂を含有するブルーム抑制剤Hを用いて製造されたシェルチョコレートHは、チョコレート生地の製造時の作業性も不良であることが確認されている。
【0147】
<検討2>
検討1の結果、良好な試験結果を示すことが確認されたブルーム抑制剤A及びLを用い、シェル部のチョコレートを製造する際に用いるブルーム抑制剤の量とブルーム抑制効果との関係について確認した。
【0148】
(シェルチョコレートの製造)
ココアバターとブルーム抑制剤A又はLの配合量を表4に則って調整した他は、<検討1>における「(シェル部に用いるテンパー型チョコレート生地の製造)」と同様の配合・手順で、シェル部用のテンパー型チョコレート生地を製造した。
また、<検討1>における「(センター部に用いるテンパー型チョコレート生地の製造)」と同様の配合・手順で、センター部用のテンパー型チョコレート生地を製造した。
そして得られたシェル部用及びセンター部用の各チョコレート生地を用いて、<検討1>と同様の手順で、シェルチョコレートA-1~A-5、L-1~L-5を製造した。
また、コントロール(Cont.)は、<検討1>で製造したものと同じである。
【0149】
【表4】
【0150】
得られたシェルチョコレートに対して、<検討1>と同様に「製造作業性」及び「経日的なブルームの発生の評価」を行った。その結果を表5に示す。
【0151】
【表5】
【0152】
シェルチョコレートA-1~A-5、L-1~L-5は、何れも製造日より少なくとも12週経過時点まではブルームの発生が確認されず、コントロールに比し、ブルームの発生、詳細には複合チョコレートにおける低温ブルームの発生を大幅に抑制できることが確認されている。よって、条件(A)~(C)を全て満たす油脂を含有するブルーム抑制剤を用いてチョコレートを製造することにより、製造時に用いるブルーム抑制剤の量によらず、ブルームの発生を抑制することが確認された。
中でも、ブルーム抑制剤に含まれる、条件(A)~(C)を全て満たす油脂αが、チョコレート中の、ココアバター(CB)の総量を1質量部としたとき、0.07~0.15質量部の好適範囲内にあるシェルチョコレートA-3及びL-3は、製造日より16週経過時点においてもブルームの発生が確認されず、ブルームの発生、詳細には複合チョコレートにおける低温ブルームの発生を一際顕著に抑制できることが確認されている。