(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】二液型重合性液晶組成物
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20241218BHJP
C09K 19/38 20060101ALI20241218BHJP
C09K 19/54 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
G02B5/30
C09K19/38
C09K19/54 Z
(21)【出願番号】P 2020146093
(22)【出願日】2020-08-31
【審査請求日】2023-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】乾 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】幡中 伸行
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-300698(JP,A)
【文献】特表2008-521924(JP,A)
【文献】特開2017-197602(JP,A)
【文献】特開2009-280771(JP,A)
【文献】国際公開第2018/198793(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/003846(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に重合性基及び活性水素反応性基を有する反応性添加剤ならびに溶剤を含むA剤と、重合性液晶化合物及び溶剤を含むB剤とから構成される二液型重合性液晶組成物の保管方法であって、
前記A剤中の溶剤は、以下の式(1)
【数1】
[式中、δ
D(W)は、水のハンセン溶解度パラメータの分散項を表し、δ
D(S)は、溶剤の加重平均に基づく溶剤全体のハンセン溶解度パラメータの分散項を表し、δ
P(W)は、水のハンセン溶解度パラメータの極性項を表し、δ
P(S)は、溶剤の加重平均に基づく溶剤全体のハンセン溶解度パラメータの極性項を表し、δ
H(W)は、水のハンセン溶解度パラメータの水素結合項を表し、δ
H(S)は溶剤の加重平均に基づく溶剤全体のハンセン溶解度パラメータの水素結合項を表す]
で表されるRaの値がRa>37.0を満たし、
保管温度0~50℃で、前記A剤及びB剤を別々に保管
し、
前記A剤を、乾燥不活性ガス雰囲気下、プラスチック製容器又は金属製容器中で保管する、
保管方法。
【請求項2】
前記B剤中の溶剤は、前記式(1)で表されるRaの値がRa≦37.0を満たす、請求項1に記載の保管方法。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の保管方法で保管された二液型重合性液晶組成物を構成する、前記A剤とB剤とを混合する工程を含む、重合性液晶組成物の製造方法。
【請求項4】
基材上に配向膜を形成する工程、
請求項1~
3のいずれかに記載の保管方法で保管された二液型重合性液晶組成物を構成する、前記A剤とB剤とを混合して、重合性液晶組成物を得る工程、
前記配向膜上に、前記混合後の重合性液晶組成物を塗布して塗膜を得る工程、及び
前記塗膜を硬化させる工程
を含む、液晶硬化膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二液型重合性液晶組成物及びその保管方法、重合性液晶組成物の製造方法ならびに液晶硬化膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像表示装置の薄型化に伴い、重合性液晶化合物を基材又は配向膜上に塗布し、配向状態で硬化させることにより得られる液晶硬化層を備える偏光膜を使用した偏光板及び位相差板等の光学フィルムが開発されている。このような光学フィルムの製造においては、成膜性及び取扱性等の観点から、通常、重合性液晶化合物は、該重合性液晶化合物を溶媒等に溶解した重合性液晶組成液として、基材又は配向膜上に塗布される。基材又は配向膜上に組成物を塗布することで光学フィルムを製造する場合、当該基材又は配向膜と、得られる光学フィルムとの間の密着性がより高いと、加工時の剥離などが生じないことから高品質の光学フィルムが得られやすいため好ましいことが知られており、高密着性の光学フィルムを与える特性を備えた組成物が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、かかる組成物を、長期的に保管後に液晶硬化膜を形成すると、配向欠陥が生じ、必ずしも良好な配向性が得られないという課題があることがわかった。したがって、本発明の目的は、長期保管した後も良好な光学性能を有する液晶硬化膜を得ることができる、重合性液晶組成物及びその保管方法、該組成物の製造方法ならびに液晶硬化膜の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、前記課題を解決するために詳細に検討を重ねた結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕分子内に重合性基及び活性水素反応性基を有する反応性添加剤ならびに溶剤を含むA剤と、重合性液晶化合物及び溶剤を含むB剤とから構成され、前記A剤中の溶剤は、以下の式(1)
【数1】
[式中、δ
D(W)は、水のハンセン溶解度パラメータの分散項を表し、δ
D(S)は、溶剤の加重平均に基づく溶剤全体のハンセン溶解度パラメータの分散項を表し、δ
P(W)は、水のハンセン溶解度パラメータの極性項を表し、δ
P(S)は、溶剤の加重平均に基づく溶剤全体のハンセン溶解度パラメータの極性項を表し、δ
H(W)は、水のハンセン溶解度パラメータの水素結合項を表し、δ
H(S)は溶剤の加重平均に基づく溶剤全体のハンセン溶解度パラメータの水素結合項を表す]
で表されるRaの値がRa>37.0を満たす、二液型重合性液晶組成物。
〔2〕前記B剤中の溶剤は、前記式(1)で表されるRaの値がRa≦37.0を満たす、〔1〕に記載の二液型重合性液晶組成物。
〔3〕前記A剤中に含まれる前記反応性添加剤の量は、前記重合性液晶化合物100質量部に対して0.5質量部以上10質量部以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の二液型重合性液晶組成物。
〔4〕前記A剤及びB剤を別々に保管する、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の二液型重合性液晶組成物の保管方法。
〔5〕前記A剤をプラスチック製容器又は金属製容器中で保管する、〔4〕に記載の保管方法。
〔6〕前記A剤を乾燥不活性ガス雰囲気下で保管する、〔4〕又は〔5〕に記載の保管方法。
〔7〕〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の二液型重合性液晶組成物を構成する、前記A剤とB剤とを混合する工程を含む、重合性液晶組成物の製造方法。
〔8〕基材上に配向膜を形成する工程、
〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の二液型重合性液晶組成物を構成する、前記A剤とB剤とを混合して、重合性液晶組成物を得る工程、
前記配向膜上に、前記混合後の重合性液晶組成物を塗布して塗膜を得る工程、及び
前記塗膜を硬化させる工程
を含む、液晶硬化膜の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、長期保管した後も良好な光学性能を有する液晶硬化膜を得ることができる、重合性液晶組成物及びその保管方法、該組成物の製造方法ならびに液晶硬化膜の製造方法を提供することができる。さらに、本発明の重合性液晶組成物から得られた液晶硬化膜は、密着性が高く優れた外観を有する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更をすることができる。
【0008】
本発明の二液型重合性液晶組成物は、分子内に重合性基及び活性水素反応性基を有する反応性添加剤ならびに溶剤を含むA剤と、重合性液晶化合物及び溶剤を含むB剤とから構成され、前記A剤中の溶剤は、以下の式(1)
【数2】
[式中、δ
D(W)は、水のハンセン溶解度パラメータの分散項を表し、δ
D(S)は、溶剤の加重平均に基づく溶剤全体のハンセン溶解度パラメータの分散項を表し、δ
P(W)は、水のハンセン溶解度パラメータの極性項を表し、δ
P(S)は、溶剤の加重平均に基づく溶剤全体のハンセン溶解度パラメータの極性項を表し、δ
H(W)は、水のハンセン溶解度パラメータの水素結合項を表し、δ
H(S)は溶剤の加重平均に基づく溶剤全体のハンセン溶解度パラメータの水素結合項を表す]
で表されるRaの値がRa>37.0を満たす。
【0009】
本発明の二液型重合性液晶組成物は、反応性添加剤及び重合性液晶化合物、ならびにそれらを溶解する溶剤を必須の成分とし、上記反応性添加剤及び重合性液晶化合物をそれぞれA剤及びB剤中に別々に配合する。
【0010】
<A剤>
〔反応性添加剤〕
反応性添加剤とは、一般に液晶硬化膜の密着性を向上させるために重合性液晶組成物に添加される物質を指す。A剤に含まれる反応性添加剤が有する重合性基とは、重合反応に関与する基を意味する。重合性基とは、例えば炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合等の炭素-炭素不飽和結合であってよく、具体的には例えばビニル基、(メタ)アクリル基、ビニルオキシ基、1-クロロビニル基、イソプロペニル基、4-ビニルフェニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、オキシラニル基、オキセタニル基等が挙げられる。
【0011】
A剤に含まれる反応性添加剤が有する活性水素反応基とは、カルボキシ基(-COOH)、水酸基(-OH)、アミノ基(-NH2)等の活性水素を有する基に対して反応性を有する基を意味し、エポキシ基、グリシジル基、オキサゾリル基、カルボジイミド基、アジリジニル基、イミド基、イソシアネート基、チオイソシアネート基、無水マレイン酸基、アルコキシシリル基等がその代表例である。反応性添加剤において、活性水素反応性基が少なくとも2つ存在することが好ましく、この場合、複数存在する活性水素反応性基は同一でも、異なるものであってもよい。
【0012】
反応性添加剤が有する、重合性基及び活性水素反応性基の個数は、通常、それぞれ1~20個であり、好ましくはそれぞれ1~10個である。
【0013】
好ましい一実施態様において、反応性添加剤は、重合性基としてビニル基及び/又は(メタ)アクリル基を含むことが好ましく、活性水素反応性基として、エポキシ基、グリシジル基、イソシアネート基及びアルコキシシリル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を含むことが好ましく、アクリル基とイソシアネート基とを有する反応性添加剤又はアクリル基とアルコキシシリル基とを有する反応性添加剤がより好ましい。
【0014】
反応性添加剤の具体例としては、メタクリロイルオキシグリシジルエーテルやアクリロイルオキシグリシジルエーテル等の、(メタ)アクリル基とエポキシ基とを有する化合物;オキセタンアクリレートやオキセタンメタクリレート等の、(メタ)アクリル基とオキセタニル基とを有する化合物;ラクトンアクリレートやラクトンメタクリレート等の、(メタ)アクリル基とラクトン基とを有する化合物;ビニルオキサゾリンやイソプロペニルオキサゾリン等の、ビニル基とオキサゾリル基とを有する化合物;イソシアナトメチルアクリレート、イソシアナトメチルメタクリレート、2-イソシアナトエチルアクリレート及び2-イソシアナトエチルメタクリレート等の、(メタ)アクリル基とイソシアネート基とを有する化合物;3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等の、(メタ)アクリル基とアルコキシシリル基とを有する化合物のオリゴマー等が挙げられる。また、メタクリル酸無水物、アクリル酸無水物、無水マレイン酸及びビニル無水マレイン酸等の、ビニル基やビニレン基と酸無水物とを有する化合物等が挙げられる。中でも、メタクリロイルオキシグリシジルエーテル、アクリロイルオキシグリシジルエーテル、イソシアナトメチルアクリレート、イソシアナトメチルメタクリレート、ビニルオキサゾリン、2-イソシアナトエチルアクリレート、2-イソシアナトエチルメタクリレート、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン及び上記のオリゴマーが好ましく、イソシアナトメチルアクリレート、2-イソシアナトエチルアクリレート、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン及び上記のオリゴマーが特に好ましい。
【0015】
反応性添加剤には、市販品をそのまま又は必要に応じて精製して用いることができる。市販品としては、例えば、Laromer(登録商標)PR9000(BASF社製)、カレンズAOI(登録商標)(昭和電工(株)製)、KBM-5103(信越化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0016】
A剤中に含まれる前記反応性添加剤の量は、後述する重合性液晶化合物100質量部に対して好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは1.5質量部以上、よりさらに好ましくは2質量部以上であり、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下、さらに好ましくは6質量部以下、よりさらに好ましくは4質量部以下である。前記反応性添加剤の量が前記下限値以上及び上限値以下であると本発明の二液型重合性液晶組成物から製造される液晶硬化膜の配向性を損なうことなく、密着性が向上しやすい。反応性添加剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上の反応性添加剤を用いる場合、前記反応性添加剤の量はその合計量を表す。
【0017】
〔溶剤〕
A剤中に含まれる溶剤は、以下の式(1)
【数3】
[式中、δ
D(W)は、水のハンセン溶解度パラメータの分散項を表し、δ
D(S)は、溶剤の加重平均に基づく溶剤全体のハンセン溶解度パラメータの分散項を表し、δ
P(W)は、水のハンセン溶解度パラメータの極性項を表し、δ
P(S)は、溶剤の加重平均に基づく溶剤全体のハンセン溶解度パラメータの極性項を表し、δ
H(W)は、水のハンセン溶解度パラメータの水素結合項を表し、δ
H(S)は溶剤の加重平均に基づく溶剤全体のハンセン溶解度パラメータの水素結合項を表す]
で表されるRaの値がRa>37.0を満たす。溶剤の加重平均に基づく溶剤全体のハンセン溶解度パラメータの分散項は、A剤中に含まれる各溶剤のハンセン溶解度パラメータの分散項及び各溶剤の体積分率から以下の式(1-1)
【数4】
[式(1-1)中、δ
D(S1)は、A剤中に含まれる溶剤1のハンセン溶解度パラメータの分散項を表し、c
S1はA剤中に含まれる溶剤1の体積分率を表し、δ
D(S2)は、A剤中に含まれる溶剤2のハンセン溶解度パラメータの分散項を表し、c
S2はA剤中に含まれる溶剤2の体積分率を表す]
から求めることができる。
【0018】
同様に、溶剤の加重平均に基づく溶剤全体のハンセン溶解度パラメータの極性項及び水素結合項は、以下の式(1-2)
【数5】
[式(1-2)中、δ
P(S1)は、A剤中に含まれる溶剤1のハンセン溶解度パラメータの極性項を表し、c
S1はA剤中に含まれる溶剤1の体積分率を表し、δ
P(S2)は、A剤中に含まれる溶剤2のハンセン溶解度パラメータの極性項を表し、c
S2はA剤中に含まれる溶剤2の体積分率を表す]
及び(1-3)
【数6】
[式(1-3)中、δ
H(S1)は、A剤中に含まれる溶剤1のハンセン溶解度パラメータの水素結合項を表し、c
S1はA剤中に含まれる溶剤1の体積分率を表し、δ
H(S2)は、A剤中に含まれる溶剤2のハンセン溶解度パラメータの水素結合項を表し、c
S2はA剤中に含まれる溶剤2の体積分率を表す]
から求めることができる。各溶媒のδ
D、δ
P及びδ
Hは例えば書籍:“Hansen Solubility Parameters: A user's handbook, Second Edition”, Hansen, Charles(2007)や、ソフトウェア:HSPiP等を用いて算出することができる。
【0019】
A剤中に含まれる溶剤の、前記式(1)で表されるRaがRa>37.0を満たさない場合、長期保管後に配向性が優れた液晶硬化膜を得ることは難しい。A剤中に含まれる溶剤の前記式(1)で表されるRaは好ましくは37.3以上、より好ましくは37.5以上、さらに好ましくは38.0以上、よりさらに好ましくは39.0以上である。A剤中に含まれる溶剤の、前記式(1)で表されるRaが上記値を満たす場合、長期保管後も配向性に優れる液晶硬化膜を得やすい。また、長期保管後も液晶硬化膜の密着性及び外観が良好なものとなる。A剤中に含まれる溶剤の、前記式(1)で表されるRaは通常45.0以下である。
【0020】
A剤中に含まれる溶剤の具体例としては、例えばメタノール、エタノール、ブタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、シクロヘキサノール及びフェノール等のアルコール系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート及び乳酸エチル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン及びメチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;ペンタン、ヘキサン及びヘプタン等の非塩素系脂肪族炭化水素溶剤;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶剤;トルエン、アニソール、トリメチルベンゼン及びキシレン等の非塩素系芳香族炭化水素溶剤;アセトニトリル等のニトリル系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン及びジメトキシエタン等のエーテル系溶剤;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロトルエン、クロロホルム、クロロベンゼン及びジクロロベンゼン等の塩素系溶剤;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン及び1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等のアミド溶剤;ピリジン等のヘテロ環溶剤等が挙げられる。上記の中でも特に好ましくは、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン、メチルイソブチルケトン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、トルエン、アニソール、トリメチルベンゼン、キシレン、ジクロロエタン、クロロトルエン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン及びピリジンである。
【0021】
溶剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上を組み合わせて用いる場合、Ra≦37.0である溶剤が含まれることを否定するものではなく、上記の通り溶剤全体のRaがRa>37.0を満たせばよい。しかし、A剤中に含まれる溶剤全ての各RaがRa>37.0を満たすことが好ましい。
【0022】
A剤中の溶剤の含有量は、A剤中に含まれる全成分の総質量に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上であり、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下、さらに好ましくは97質量%以下である。A剤中の溶剤の含有量が上記下限値以上及び上記上限値以下であると、反応性添加剤等の比較的粘度の高い固形分を均一に溶解しやすく、後述する液晶硬化膜の製造方法において、均一な塗膜の形成が可能になるため、外観が良好な液晶硬化膜を得やすい。
【0023】
A剤は、前記反応性添加剤、前記溶媒及び場合により後述する任意の成分を混合することによって調製することができる。混合方法、温度及び時間等の条件は特に限定されず、A剤中に含まれる成分の種類及び量によって適宜選択することができる。
【0024】
A剤の粘度(25℃)は、好ましくは0.1~15mPa・s、より好ましくは0.1~10mPa・sである。A剤の粘度が前記範囲内であると、取扱性に優れ、その後のB剤との混合が容易となりやすい。
【0025】
上述の通り、本発明の二液型重合性液晶組成物は、前記反応性添加剤をA剤中に、後述する重合性液晶化合物をB剤中にそれぞれ別々に配合する。したがって、A剤は、後述する重合性液晶化合物を実質的に含まない。「重合性液晶化合物を実質的に含まない」とは、A剤中の重合性液晶化合物の含有量が、反応性添加剤100質量部に対して好ましくは0.5質量部未満、より好ましくは0.1質量部未満、さらに好ましくは0.05質量部未満であることを意味する。好ましくは、A剤中の重合性液晶化合物の含有量は、0質量部である。
【0026】
<B剤>
〔重合性液晶化合物〕
本発明の二液型重合性液晶組成物のB剤は、重合性液晶化合物を含む。重合性液晶化合物とは、重合性基を有し、かつ液晶状態を示す化合物であり、該重合性液晶化合物としては、例えば位相差フィルムの分野において従来公知の重合性液晶化合物を用いることができる。重合性基とは、該重合性液晶化合物の重合反応に関与する基を意味し、光重合性基であることが好ましい。ここで、光重合性基とは、後述する光重合開始剤から発生した活性ラジカルや酸等によって重合反応に関与し得る基のことをいう。重合性基としては、ビニル基、ビニルオキシ基、1-クロロビニル基、イソプロペニル基、4-ビニルフェニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、オキシラニル基、オキセタニル基等が挙げられる。中でも、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニルオキシ基、オキシラニル基及びオキセタニル基が好ましく、アクリロイルオキシ基がより好ましい。液晶性はサーモトロピック液晶でも、リオトロピック液晶でもよい。
【0027】
本発明において、重合性液晶化合物が示す液晶性はサーモトロピック性液晶であってもよいし、リオトロピック性液晶であってもよいが、緻密な膜厚制御が可能な点でサーモトロピック性液晶が好ましい。また、サーモトロピック性液晶における相秩序構造としてはネマチック液晶でもスメクチック液晶でもよい。重合性液晶化合物として、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
該重合性液晶化合物は、その単独重合体が正波長分散性を示すものでもよく、逆波長分散性を示すものでもよい。正波長分散性を示す化合物としては、例えば特開2010-31223号公報、特開2010-270108号公報、特開2011-6360号公報及び特開2011-207765号公報に記載されているような化合物を使用することができる。
【0029】
重合性液晶化合物が逆分散性を示す化合物である場合、逆波長分散性発現の観点からT字型あるいはH型にメソゲン構造を有する液晶が好ましく、より強い分散が得られる観点からT字型液晶がより好ましく、T字型液晶の構造としては、下記(1)~(4)の特徴を有する化合物であることが好ましい。
(1)ネマチック相を形成し得る化合物である;
(2)該重合性液晶化合物の長軸方向(a)上にπ電子を有する。
(3)長軸方向(a)に対して交差する方向〔交差方向(b)〕上にπ電子を有する。
(4)長軸方向(a)に存在するπ電子の合計をN(πa)、長軸方向に存在する分子量の合計をN(Aa)として下記式(i)で定義される重合性液晶化合物の長軸方向(a)のπ電子密度:
D(πa)=N(πa)/N(Aa) (i)
と、交差方向(b)に存在するπ電子の合計をN(πb)、交差方向(b)に存在する分子量の合計をN(Ab)として下記式(ii)で定義される重合性液晶化合物の交差方向(b)のπ電子密度:
D(πb)=N(πb)/N(Ab) (ii)
とが、
0≦〔D(πa)/D(πb)〕≦1
の関係にある〔すなわち、交差方向(b)のπ電子密度が、長軸方向(a)のπ電子密度よりも大きい〕。
なお、上記(1)~(4)を全て満たす重合性液晶化合物は、配向膜上に塗布し、相転移温度以上に加熱することにより、ネマチック相を形成することが可能である。この重合性液晶化合物が配向して形成されたネマチック相では通常、重合性液晶化合物の長軸方向が互いに平行になるように配向しており、この長軸方向がネマチック相の配向方向となる。
そのような化合物としては、具体的には例えば、下記式(A1)
【化1】
で表される化合物が挙げられる。
【0030】
式(A1)中、Arは置換基を有していてもよい芳香族基を有する二価の基を表す。ここでいう芳香族基とは、例えば後述する(Ar-1)~(Ar-23)で例示されるようなAr基を、2個以上有していてもよい。該芳香族基中には窒素原子、酸素原子、硫黄原子のうち少なくとも1つ以上が含まれることが好ましい。二価の基Arに含まれる芳香族基は1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。二価の基Arに含まれる芳香族基が2つ以上である場合、2つ以上の芳香族基は互いに単結合、-CO-O-、-O-などの二価の結合基で結合していてもよい。
G1及びG2は、それぞれ独立に、二価の芳香族基又は二価の脂環式炭化水素基を表す。ここで、該二価の芳香族基又は二価の脂環式炭化水素基に含まれる水素原子は、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のフルオロアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、シアノ基又はニトロ基に置換されていてもよく、該二価の芳香族基又は二価の脂環式炭化水素基を構成する炭素原子が、酸素原子、硫黄原子又は窒素原子に置換されていてもよい。
L1及びL2、B1及びB2はそれぞれ独立に、単結合又は二価の連結基である。
k、lは、それぞれ独立に0~3の整数を表し、1≦k+lの関係を満たす。ここで、2≦k+lである場合、B1及びB2、G1及びG2は、それぞれ互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
E1及びE2は、それぞれ独立に、炭素数1~17のアルカンジイル基を表し、ここで、炭素数4~12のアルカンジイル基がより好ましい。また、アルカンジイル基に含まれる水素原子は、ハロゲン原子で置換されていてもよく、該アルカンジイル基に含まれる-CH2-は、-O-、-S-、-COO-で置換されていてもよく、-O-、-S-、-COO-を複数有する場合は互いに隣接しない 。
P1及びP2は、それぞれ独立に、重合性基又は水素原子を表し、P1及びP2のうちの少なくとも1つは重合性基である。
【0031】
G1及びG2は、それぞれ独立に、好ましくは、ハロゲン原子及び炭素数1~4のアルキル基からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されていてもよい1,4-フェニレンジイル基、ハロゲン原子及び炭素数1~4のアルキル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されていてもよい1,4-シクロヘキサンジイル基であり、より好ましくはメチル基で置換された1,4-フェニレンジイル基、無置換の1,4-フェニレンジイル基、又は無置換の1,4-trans-シクロヘキサンジイル基であり、特に好ましくは無置換の1,4-フェニレンジイル基、又は無置換の1,4-trans-シクロへキサンジイル基である。
また、複数存在するG1及びG2のうち少なくとも1つは二価の脂環式炭化水素基であることが好ましく、また、L1又はL2に結合するG1及びG2のうち少なくとも1つは二価の脂環式炭化水素基であることがより好ましい。
【0032】
L1及びL2は、それぞれ独立に、好ましくは、単結合、炭素数1~4のアルキレン基、-O-、-S-、-Ra1COORa2-、-Ra3COORa4-、-Ra5OCORa6-、Ra7OC=OORa8-、-N=N-、-CRc=CRd-、又は-C≡C-である。ここで、Ra1~Ra8はそれぞれ独立に単結合、又は炭素数1~4のアルキレン基を表し、Rc及びRdは炭素数1~4のアルキル基又は水素原子を表す。L1及びL2はそれぞれ独立に、より好ましくは単結合、-ORa2-1-、-CH2-、-CH2CH2-、-COORa4-1-、又はOCORa6-1-である。ここで、Ra2-1、Ra4-1、Ra6-1はそれぞれ独立に単結合、-CH2-、-CH2CH2-のいずれかを表す。L1及びL2はそれぞれ独立に、さらに好ましくは単結合、-O-、-CH2CH2-、-COO-、-COOCH2CH2-、又は-OCO-である。
【0033】
B1及びB2は、それぞれ独立に、好ましくは、単結合、炭素数1~4のアルキレン基、-O-、-S-、-Ra9ORa10-、-Ra11COORa12-、-Ra13OCORa14-、又はRa15OC=OORa16-である。ここで、Ra9~Ra16はそれぞれ独立に単結合、又は炭素数1~4のアルキレン基を表す。B1及びB2はそれぞれ独立に、より好ましくは単結合、-ORa10-1-、-CH2-、-CH2CH2-、-COORa12-1-、又は-OCORa14-1-である。ここで、Ra10-1、Ra12-1、Ra14-1はそれぞれ独立に単結合、-CH2-、-CH2CH2-のいずれかを表す。B1及びB2はそれぞれ独立に、さらに好ましくは単結合、-O-、-CH2CH2-、-COO-、-COOCH2CH2-、-OCO-又は-OCOCH2CH2-である。
【0034】
k及びlは、逆波長分散性発現の観点から2≦k+l≦6の範囲が好ましく、k+l=4であることが好ましく、k=2かつl=2であることがより好ましい。k=2かつl=2であると対称構造となるため好ましい。
E1及びE2はそれぞれ独立に、炭素数1~17のアルカンジイル基が好ましく、炭素数4~12のアルカンジイル基がより好ましい。
【0035】
P1又はP2で表される重合性基としては、エポキシ基、ビニル基、ビニルオキシ基、1-クロロビニル基、イソプロペニル基、4-ビニルフェニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、オキシラニル基、及びオキセタニル基等が挙げられる。P1又はP2のうち、少なくとも1つはアクリロイル基又はメタクリロイル基であることが好ましく、P1及びP2はいずれもアクリロイル基又はメタクリロイル基がより好ましく、アクリロイル基がさらに好ましい。
【0036】
Arは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、置換基を有していてもよい芳香族複素環、及び電子吸引性基から選ばれる少なくとも1つを有することが好ましい。当該芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等が挙げられ、ベンゼン環、ナフタレン環が好ましい。当該芳香族複素環としては、フラン環、ベンゾフラン環、ピロール環、インドール環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、トリアゾール環、トリアジン環、ピロリン環、イミダゾール環、ピラゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、チエノチアゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、及びフェナンスロリン環等が挙げられる。なかでも、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、又はベンゾフラン環を有することが好ましく、ベンゾチアゾール基を有することがさらに好ましい。また、Arに窒素原子が含まれる場合、当該窒素原子はπ電子を有することが好ましい。
【0037】
式(A1)中、Arに含まれるπ電子の合計数Nπは8以上が好ましく、より好ましくは10以上であり、さらに好ましくは14以上であり、特に好ましくは16以上である。また、好ましくは32以下であり、より好ましくは30以下であり、さらに好ましくは26以下であり、特に好ましくは24以下である。
【0038】
Arで表される芳香族基としては、例えば以下の基が挙げられる。
【0039】
【0040】
式(Ar-1)~式(Ar-23)中、*印は連結部を表し、Z0、Z1及びZ2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~12のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~12のアルキルスルフィニル基、炭素数1~12のアルキルスルホニル基、カルボキシル基、炭素数1~12のフルオロアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数1~12のアルキルチオ基、炭素数1~12のN-アルキルアミノ基、炭素数2~12のN,N-ジアルキルアミノ基、炭素数1~12のN-アルキルスルファモイル基又は炭素数2~12のN,N-ジアルキルスルファモイル基を表す。また、Z0、Z1及びZ2は、重合性基を含んでいてもよい。
【0041】
Q1及びQ2は、それぞれ独立に、-CR1’R2’-、-S-、-NH-、-NR1’-、-CO-又は-O-を表し、R1’及びR2’は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。
【0042】
J1及びJ2は、それぞれ独立に、炭素原子、又は窒素原子を表す。
【0043】
Y1、Y2及びY3は、それぞれ独立に、置換されていてもよい芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表す。
【0044】
W1及びW2は、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、メチル基又はハロゲン原子を表し、mは0~6の整数を表す。
【0045】
Y1、Y2及びY3における芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ビフェニル基等の炭素数6~20の芳香族炭化水素基が挙げられ、フェニル基、ナフチル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。芳香族複素環基としては、フリル基、ピロリル基、チエニル基、ピリジニル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基等の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を少なくとも1つ含む炭素数4~20の芳香族複素環基が挙げられ、フリル基、チエニル基、ピリジニル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基が好ましい。
【0046】
Y1、Y2及びY3は、それぞれ独立に、置換されていてもよい多環系芳香族炭化水素基又は多環系芳香族複素環基であってもよい。多環系芳香族炭化水素基は、縮合多環系芳香族炭化水素基、又は芳香環集合に由来する基をいう。多環系芳香族複素環基は、縮合多環系芳香族複素環基、又は芳香環集合に由来する基をいう。
【0047】
Z0、Z1及びZ2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~12のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~12のアルコキシ基であることが好ましく、Z0は、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、シアノ基がさらに好ましく、Z1及びZ2は、水素原子、フッ素原子、塩素原子、メチル基、シアノ基がさらに好ましい。また、Z0、Z1及びZ2は重合性基を含んでいてもよい。
【0048】
Q1及びQ2は、-NH-、-S-、-NR1’-、-O-が好ましく、R1’は水素原子が好ましい。中でも-S-、-O-、-NH-が特に好ましい。
【0049】
式(Ar-1)~(Ar-23)の中でも、式(Ar-6)及び式(Ar-7)が分子の安定性の観点から好ましい。
【0050】
式(Ar-16)~(Ar-23)において、Y1は、これが結合する窒素原子及びZ0と共に、芳香族複素環基を形成していてもよい。芳香族複素環基としては、Arが有していてもよい芳香族複素環として前記したものが挙げられるが、例えば、ピロール環、イミダゾール環、ピロリン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、インドール環、キノリン環、イソキノリン環、プリン環、ピロリジン環等が挙げられる。この芳香族複素環基は、置換基を有していてもよい。また、Y1は、これが結合する窒素原子及びZ0と共に、前述した置換されていてもよい多環系芳香族炭化水素基又は多環系芳香族複素環基であってもよい。例えば、ベンゾフラン環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環等が挙げられる。
【0051】
本発明の二液型重合性液晶組成物中に含まれる前記重合性液晶化合物の量は、好ましくはB剤中の固形分100質量部に対して、例えば70質量部以上、好ましくは80質量部以上、より好ましくは85質量部以上、さらに好ましくは90質量部以上であり、例えば99.5質量部以下、好ましくは99質量部以下、より好ましくは98質量部以下、さらに好ましくは95質量部以下である。重合性液晶化合物の含有量が上記下限値以上及び上記上限値以下であれば、得られる液晶硬化膜の配向性の観点から有利である。ここで、固形分とはB剤中の成分から溶剤を除いた成分の合計量のことをいう。
【0052】
〔溶剤〕
B剤中に含まれる溶剤は、前記式(1)で表されるRaの値が、Ra≦37.0を満たすことが好ましい。B剤中に含まれる溶剤の、前記式(1)で表されるRaの値が、Ra≦37.0を満たすとき、重合性液晶化合物の溶解が容易となりやすい。B剤中に含まれる溶剤の、前記式(1)で表されるRaの下限値は通常20.0である。そのような溶剤は特に限定されないが、重合性液晶化合物に対して不活性であり、該化合物を完全に溶解し得る溶剤であることが好ましい。B剤中に含まれる溶剤は単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。2種以上を混合して使用する場合、A剤に使用した溶剤と同じ溶剤を含んでもよい。
【0053】
B剤中の溶剤の含有量は、B剤中に含まれる成分の総質量に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上であり、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは88質量%以下である。B剤中の溶剤の含有量が上記下限値以上及び上記上限値以下であると、前記重合性液晶化合物を均一に溶解しやすく、後述する液晶硬化膜の製造方法において、均一な塗膜の形成が可能になるため外観が良好な液晶硬化膜を得やすい。
【0054】
そのような溶剤の具体例としては、例えばメタノール、エタノール、ブタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、シクロヘキサノール及びフェノール等のアルコール系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート及び乳酸エチル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン及びメチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;ペンタン、ヘキサン及びヘプタン等の非塩素系脂肪族炭化水素溶剤;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶剤;トルエン、アニソール、トリメチルベンゼン及びキシレン等の非塩素系芳香族炭化水素溶剤;アセトニトリル等のニトリル系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン及びジメトキシエタン等のエーテル系溶剤;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロトルエン、クロロホルム、クロロベンゼン及びジクロロベンゼン等の塩素系溶剤;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド溶剤;ピリジン等のヘテロ環溶剤等が挙げられる。これら有機溶剤は、単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
上述の通り、本発明の二液型重合性液晶組成物は、前記反応性添加剤をA剤中に、前記重合性液晶化合物をB剤中にそれぞれ別々に配合する。したがって、B剤は、前記反応性添加剤を実質的に含まない。「反応性添加剤を実質的に含まない」とは、B剤中の反応性添加剤の含有量が、重合性液晶化合物100質量部に対して好ましくは0.5質量部未満、より好ましくは0.1質量部未満、さらに好ましくは0.05質量部未満であることを意味する。好ましくは、B剤中の反応性添加剤の含有量は、0質量部である。
【0056】
B剤は、前記重合性液晶化合物、前記溶媒及び場合により後述する任意の成分を混合することによって調製することができる。混合方法、温度及び時間等の条件は特に限定されず、B剤中に含まれる成分の種類及び量によって適宜選択することができる。
【0057】
B剤の粘度(25℃)は、好ましくは0.1~15mPa・s、より好ましくは0.1~10mPa・sである。B剤の粘度が前記範囲内であると、取扱性に優れ、その後のA剤との混合が容易となりやすい。
【0058】
本発明の二液型重合性液晶組成物は、上記の成分以外に、重合開始剤、増感剤、重合禁止剤、レベリング剤等の任意の成分を含んでもよい。
【0059】
〔重合開始剤〕
本発明の二液型重合性液晶組成物は重合開始剤を含有してよい。重合開始剤は、重合性液晶化合物等の重合反応を開始し得る化合物である。重合開始剤としては、光の作用により活性ラジカルを発生する光重合開始剤が好ましい。本発明の二液型重合性液晶組成物を構成するA剤もしくはB剤のうち一方、又は両方が重合開始剤を含有してよい。
【0060】
重合開始剤としては、サーモトロピック液晶の相状態に依存しないという観点から、光の作用により活性ラジカルを発生する光重合開始剤が好ましい。
光重合開始剤は、重合性液晶化合物の重合反応を開始し得る化合物であれば、公知の光重合開始剤を用いることができる。具体的には、光の作用により活性ラジカル又は酸を発生できる光重合開始剤が挙げられ、中でも、光の作用によりラジカルを発生する光重合開始剤が好ましい。光重合開始剤は単独又は二種以上組み合わせて使用できる。光重合開始剤は、光源から発せられるエネルギーを十分に活用でき、生産性に優れるため、極大吸収波長が300nm~400nmであると好ましく、300nm~380nmであるとより好ましく、中でも、α-アセトフェノン系重合開始剤、オキシム系光重合開始剤が好ましい。
光重合開始剤としては、公知の光重合開始剤を用いることができ、例えば、活性ラジカルを発生する光重合開始剤としては、自己開裂型のベンゾイン系化合物、アセトフェノン系化合物、ヒドロキシアセトフェノン系化合物、α-アミノアセトフェノン系化合物、オキシムエステル系化合物、アシルホスフィンオキサイド系化合物、アゾ系化合物等を使用でき、水素引き抜き型のベンゾフェノン系化合物、アルキルフェノン系化合物、ベンゾインエーテル系化合物、ベンジルケタール系化合物、ジベンゾスベロン系化合物、アントラキノン系化合物、キサントン系化合物、チオキサントン系化合物、ハロゲノアセトフェノン系化合物、ジアルコキシアセトフェノン系化合物、ハロゲノビスイミダゾール系化合物、ハロゲノトリアジン系化合物、トリアジン系化合物等を使用できる。酸を発生する光重合開始剤としては、ヨードニウム塩及びスルホニウム塩等を使用することができる。低温での反応効率に優れるという観点から自己開裂型の光重合開始剤が好ましく、特にアセトフェノン系化合物、ヒドロキシアセトフェノン系化合物、α-アミノアセトフェノン系化合物、オキシムエステル系化合物が好ましい。
【0061】
ベンゾイン系化合物としては、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル及びベンゾインイソブチルエーテル等が挙げられる。
【0062】
アセトフェノン系化合物としては、例えば、ジエトキシアセトフェノンなどのジアルコキシアセトフェノン系化合物;2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1,2-ジフェニル-2,2-ジメトキシエタン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル〕プロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン及び2-ヒドロキシ-2-メチル-1-〔4-(1-メチルビニル)フェニル〕プロパン-1-オンのオリゴマー等のヒドロキシアセトフェノン系化合物;2-メチル-2-モルホリノ-1-(4-メチルチオフェニル)プロパン-1-オン、2-ジメチルアミノ-2-ベンジル-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン等のα-アミノアセトフェノン系化合物等が挙げられる。
【0063】
オキシムエステル系化合物としては、例えば、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)フェニル-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)等の化合物等が挙げられる。
【0064】
アシルホスフィンオキサイド系化合物としては、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド及びビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0065】
ベンゾフェノン系化合物としては、例えばベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’-テトラ(tert-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン及び2,4,6-トリメチルベンゾフェノン等が挙げられる。
【0066】
アルキルフェノン系化合物としては、例えばジエトキシアセトフェノン、2-メチル-2-モルホリノ-1-(4-メチルチオフェニル)プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1,2-ジフェニル-2,2-ジメトキシエタン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル〕プロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン及び2-ヒドロキシ-2-メチル-1-〔4-(1-メチルビニル)フェニル〕プロパン-1-オンのオリゴマー等が挙げられる。
【0067】
トリアジン系化合物としては、例えば2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-(4-メトキシナフチル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-(4-メトキシスチリル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-〔2-(5-メチルフラン-2-イル)エテニル〕-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-〔2-(フラン-2-イル)エテニル〕-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-〔2-(4-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル)エテニル〕-1,3,5-トリアジン及び2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-〔2-(3,4-ジメトキシフェニル)エテニル〕-1,3,5-トリアジン等が挙げられる。
【0068】
重合開始剤として市販のものを用いることができる。市販の重合開始剤としては、イルガキュア(Irgacure)(登録商標)907、184、651、819、250及び369(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製);セイクオール(登録商標)BZ、Z及びBEE(精工化学株式会社製);カヤキュアー(kayacure)(登録商標)BP100及びUVI-6992(ダウ・ケミカル株式会社製);アデカオプトマーSP-152及びSP-170(株式会社ADEKA製);TAZ-A及びTAZ-PP(日本シイベルヘグナー株式会社製);並びに、TAZ-104(株式会社三和ケミカル製);等が挙げられる。重合開始剤は、1種類でも良いし、光の光源に合わせて2種類以上の複数の重合開始剤を混合しても良い。
【0069】
重合開始剤の含有量は、重合性液晶化合物の種類及びその量に応じて適宜調節できるが、重合性液晶化合物の含有量100質量部に対して、通常0.1~30質量部、好ましくは1~20質量部、より好ましくは1~15質量部である。重合開始剤の含有量が上記範囲内であると重合性基の反応が十分に進行し、かつ、重合性液晶化合物の配向を乱し難い。
【0070】
〔増感剤〕
本発明の二液型重合性液晶組成物は、増感剤を含有してもよい。本発明の二液型重合性液晶組成物を構成するA剤もしくはB剤のうち一方、又は両方が増感剤を含有してよい。増感剤としては、光増感剤が好ましい。該増感剤としては、例えばキサントン及びチオキサントン等のキサントン化合物(例えば、2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン等);アントラセン及びアルコキシ基含有アントラセン(例えば、ジブトキシアントラセン等)等のアントラセン化合物;フェノチアジン及びルブレン等が挙げられる。
【0071】
前記増感剤の含有量は、重合性液晶化合物の含有量100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.05~5質量部、さらに好ましくは0.1~3質量部である。増感剤の含有量が前記範囲内であると、重合性液晶化合物の重合反応を促進しやすい。
【0072】
〔重合禁止剤〕
本発明の二液型重合性液晶組成物は、重合反応を安定的に進行させる観点から、前記組成物は重合禁止剤を含有してもよい。本発明の二液型重合性液晶組成物を構成するA剤もしくはB剤のうち一方、又は両方が重合禁止剤を含有してよい。重合禁止剤により、重合反応の進行度合いをコントロールすることができる。
【0073】
前記重合禁止剤としては、例えばハイドロキノン、アルコキシ基含有ハイドロキノン、アルコキシ基含有カテコール(例えば、ブチルカテコール等)、ピロガロール、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシラジカル等のラジカル捕捉剤;チオフェノール類;β-ナフチルアミン類及びβ-ナフトール類等が挙げられる。
【0074】
二液型重合性液晶組成物が重合禁止剤を含有する場合、重合禁止剤の含有量は、重合性液晶化合物の含有量100質量部に対して、好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは0.5~10質量部、さらに好ましくは0.5~8質量部である。重合禁止剤の含有量が、上記範囲内であると、重合性液晶の配向を乱すことなく重合を行いやすい。
【0075】
〔レベリング剤〕
本発明の二液型重合性液晶組成物は、レベリング剤を含有してもよい。レベリング剤とは、当該組成物の流動性を調整し、当該組成物を塗布して得られる膜をより平坦にする機能を有するものであり、例えば、界面活性剤を挙げることができる。本発明の二液型重合性液晶組成物を構成するA剤もしくはB剤のうち一方、又は両方がレベリング剤を含有してよい。
【0076】
レベリング剤としては、例えば、有機変性シリコーンオイル系、ポリアクリレート系及びパーフルオロアルキル系のレベリング剤が挙げられる。具体的には、DC3PA、SH7PA、DC11PA、SH28PA、SH29PA、SH30PA、ST80PA、ST86PA、SH8400、SH8700、FZ2123(以上、全て東レ・ダウコーニング(株)製)、KP321、KP323、KP324、KP326、KP340、KP341、X22-161A、KF6001(以上、全て信越化学工業(株)製)、TSF400、TSF401、TSF410、TSF4300、TSF4440、TSF4445、TSF-4446、TSF4452、TSF4460(以上、全てモメンティブ パフォーマンス マテリアルズ ジャパン合同会社製)、フロリナート(fluorinert)(登録商標)FC-72、同FC-40、同FC-43、同FC-3283(以上、全て住友スリーエム(株)製)、メガファック(登録商標)R-08、同R-30、同R-90、同F-410、同F-411、同F-443、同F-445、同F-470、同F-477、同F-479、同F-482、同F-483(以上、いずれもDIC(株)製)、エフトップ(商品名)EF301、同EF303、同EF351、同EF352(以上、全て三菱マテリアル電子化成(株)製)、サーフロン(登録商標)S-381、同S-382、同S-383、同S-393、同SC-101、同SC-105、KH-40、SA-100(以上、全てAGCセイミケミカル(株)製)、商品名E1830、同E5844((株)ダイキンファインケミカル研究所製)、BM-1000、BM-1100、BYK-352、BYK-353及びBYK-361N(いずれも商品名:BM Chemie社製)等が挙げられる。中でも、ポリアクリレート系レベリング剤及びパーフルオロアルキル系レベリング剤が好ましい。
【0077】
本発明の二液型重合性液晶組成物がレベリング剤を含有する場合、重合性液晶化合物の含有量100質量部に対して、好ましくは0.01~5質量部、より好ましくは0.01~5質量部、さらに好ましくは0.05~3質量部である。レベリング剤の含有量が上記範囲内であると、重合性液晶を水平配向させることが容易であり、かつ得られる液晶硬化膜がより平滑となる傾向があるため好ましい。なお、レベリング剤を2種以上含有していてもよい。
【0078】
<保管方法>
本発明の二液型重合性液晶組成物を保管する場合、A剤及びB剤は別々に保管する。別々に保管するとは、例えば独立した2つの容器にA剤及びB剤をそれぞれ保管する態様又は、間に仕切りを有し2剤が保管中に混合しないような1つの容器中にA剤及びB剤を保管する態様等が挙げられる。本発明においては、A剤及びB剤を独立した2つの容器中で保管する態様が好ましい。
【0079】
A剤を保管する容器としては、プラスチック製容器、金属製容器及びガラス製容器が挙げられ、プラスチック製容器又は金属製容器であることが好ましい。A剤を保管する容器がプラスチック製容器又は金属製容器であると、A剤中の反応性添加剤の副反応が起こりにくいため好ましい。プラスチック製容器の材質としては、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ノルボルネン系ポリマー、ポリスチレン、ポリアミド、ポリ(4-メチルペンテン-1)、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、アクリロニトリルーブタジエン-スチレン共重合体、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、セルロースエステル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、環状オレフィンポリマー又は環状オレフィンコポリマー等の環状ポリオレフィン、非晶性ポリアリレートなどのポリオレフィン、ポリエステル、テフロン等が挙げられるが、これらに限定されない。金属製容器の材質としては、例えばSUSなどのスチール、ブリキ、アルミニウム等が挙げられるが、これらに限定されない。A剤を保管する容器がプラスチック製容器である場合、組成物の劣化を引き起こし得る紫外線等の影響を受けにくいことから、遮光性のあるプラスチック製容器(例えば褐色のプラスチック製容器)であることが好ましい。また、容器の外部表面にコーティング等を施してもよい。
【0080】
B剤を保管する容器としては、特に限定されず、容器の材質として、例えばプラスチック、金属、ガラス等が挙げられる。B剤を保管する容器は、上記同様に遮光性のある容器であることが好ましい。
【0081】
A剤及びB剤を保管する容器の形状は特に限定されない。例えば一斗缶、ポリタンク等の六面体形状、ペール缶、下げ缶等の円筒形状等が挙げられる。また、A剤及びB剤の容量も特に限定されず、所望の量を容器中に保管することができる。
【0082】
A剤を保管する場合、A剤は乾燥不活性ガス雰囲気下で保管することが好ましい。本明細書において、乾燥ガスとは一般に露点が-50℃以下のガスを指し、不活性ガスとは、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム等の反応性の低いガスを指す。乾燥不活性ガス雰囲気下で保管するとは、例えば保管容器中の気相部を乾燥不活性ガスで満たした後密封して保管する態様、保管容器自体を乾燥不活性ガスで満たした空間に保管する態様等が挙げられる。乾燥不活性ガス雰囲気下で保管することにより、周囲雰囲気中の水分等とA剤中の反応性添加剤が有する活性水素反応基との副反応が避けられるため、本発明の二液型重合性液晶組成物から得られる液晶硬化膜の密着性を高めやすいほか、長期保管後の光学性能が良好となりやすい。
【0083】
B剤を保管する場合の雰囲気は特に限定されないが、乾燥不活性ガス雰囲気下で保管することが好ましい。
【0084】
保管する容器容量に対するA剤及びB剤の充填量は特に限定されないが、A剤及びB剤の充填量は、通常、保管容器容量の30%以上、好ましくは50%以上であり、混合時の扱いやすさの観点から通常90%以下である。
【0085】
A剤及びB剤を保管する温度は特に限定されないが、温度が高すぎると重合性液晶化合物の重合反応が開始される可能性があり、温度が低すぎるとA剤及びB剤中の固形分が析出する可能性があるため、保管温度は通常0~50℃、好ましくは10~40℃、さらに好ましくは15~35℃である。
【0086】
A剤とB剤とを混合した状態で3~6か月程度保管すると、良好な光学性能を有する液晶硬化膜を製造することが難しいことがある。本発明の二液型重合性液晶組成物は、長期間保管した後も良好な光学性能を有する液晶硬化膜を得られる点で有利である。A剤及びB剤を保管する期間は特に限定されないが通常3年以内である。
【0087】
本発明の二液型重合性液晶組成物は、上記の様に反応性添加剤と重合性液晶化合物とを別々に保管することにより、長期間保管後も良好な光学性能を有する液晶硬化膜を得ることができる。このことについて本発明者らの検討によると、二液型重合性液晶組成物において、反応性添加剤が含まれる溶剤がRa>37.0を満たす場合に、長期保管後の液晶硬化膜の光学性能の悪化の原因となる重合性液晶化合物の分子配向の乱れが起きにくく、良好な光学性能を有する液晶硬化膜が得られ、さらに該液晶硬化膜は密着性や外観にも優れることを見出した。
【0088】
<重合性液晶組成物の製造方法>
本発明において、重合性液晶組成物は、二液型重合性液晶組成物を構成するA剤とB剤とを混合することによって得ることができる。なお、本明細書において「二液型重合性液晶組成物」とは、二液型重合性液晶組成物を構成するA剤とB剤とが別々に分かれた状態にある組成物のことを指し、A剤とB剤とが混合された状態にある組成物を、「重合性液晶組成物」とする。
【0089】
本発明の二液型重合性液晶組成物のA剤及びB剤を混合するタイミングは、A剤中の反応性添加剤とB剤中の溶剤に含まれ得る水分との反応が進まない程度の期間である限り限定されず、含まれる反応性添加剤及びB剤中の溶剤の種類及び量、混合条件及び環境等に応じて適宜決定すればよい。
【0090】
A剤及びB剤を混合する方法は、特に限定されず、既知の混合方法を用いることができる。例えばプラネタリーミキサー、ニーダーミキサー等の撹拌翼を有する混合装置を用いて混合する方法や、スタティックミキサー等を用いて静的混合する方法が挙げられる。
【0091】
A剤及びB剤を混合する際の周囲温度は、特に限定されないが、好ましくは0~50℃、より好ましくは15~40℃、さらに好ましくは20~35℃で混合する。湿度(相対湿度)も特に限定されないが、好ましくは30~60%RH、より好ましくは40~55%RHである。また、混合は通常、常圧(大気圧)下で実施する。
【0092】
混合する時間も特に限定されず、二液型重合性液晶組成物に含まれる成分の種類及び量によって適宜調整できる。混合時間は、通常0.5~12時間、好ましくは0.5~6時間である。
【0093】
<液晶硬化膜の製造方法>
本発明の液晶硬化膜の製造方法は、
基材上に配向膜を形成する工程、
本発明の二液型重合性液晶組成物を構成する、A剤とB剤とを混合して、重合性液晶組成物を得る工程、
前記配向膜上に、前記混合後の重合性液晶組成物を塗布して塗膜を得る工程、及び
前記塗膜を硬化させる工程
を含む。
【0094】
〔基材〕
液晶硬化膜の形成に使用する基材としては、ガラス基材及びプラスチック基材が挙げられる。Roll-to-Roll加工が可能であり、生産性が高いという点でガラス基材よりもプラスチック基材の方が好ましい。プラスチック基材を構成するプラスチックとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ノルボルネン系ポリマー等のポリオレフィン;環状オレフィン系樹脂;ポリビニルアルコール;ポリエチレンテレフタレート;ポリメタクリル酸エステル;ポリアクリル酸エステル;トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース及びセルロースアセテートプロピオネート等のセルロースエステル;ポリエチレンナフタレート;ポリカーボネート;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリエーテルケトン;ポリフェニレンスルフィド及びポリフェニレンオキシド;等のプラスチックが挙げられる。
【0095】
市販のセルロースエステル基材としては、“フジタックフィルム”(富士写真フイルム株式会社製);“KC8UX2M”、“KC8UY”及び“KC4UY”(以上、コニカミノルタオプト株式会社製)等が挙げられる。
【0096】
市販の環状オレフィン系樹脂としては、“Topas”(登録商標)(Ticona社(独)製)、“アートン”(登録商標)(JSR株式会社製)、“ゼオノア(ZEONOR)”(登録商標)、“ゼオネックス(ZEONEX)”(登録商標)(以上、日本ゼオン株式会社製)及び“アペル”(登録商標)(三井化学株式会社製)が挙げられる。このような環状オレフィン系樹脂を、溶剤キャスト法、溶融押出法等の公知の手段により製膜して、基材とすることができる。市販されている環状オレフィン系樹脂基材を用いることもできる。市販の環状オレフィン系樹脂基材としては、“エスシーナ”(登録商標)、“SCA40”(登録商標)(以上、積水化学工業株式会社製)、“ゼオノアフィルム”(登録商標)(オプテス株式会社製)及び“アートンフィルム”(登録商標)(JSR株式会社製)が挙げられる。
【0097】
基材の厚さは、実用的な取り扱いができる程度の質量である点では、薄い方が好ましいが、薄すぎると強度が低下し、加工性に劣る傾向がある。基材の厚さは、通常、5~300μmであり、好ましくは20~200μmである。
【0098】
〔配向膜〕
本発明において配向膜は、高分子化合物からなる膜であり、重合性液晶化合物を所望の方向に液晶配向させる、配向規制力を有するものである。
【0099】
配向膜は、重合性液晶化合物の液晶配向を容易にする。水平配向、垂直配向、ハイブリッド配向、傾斜配向等の液晶配向の状態は、配向膜及び重合性液晶化合物の性質によって変化し、その組み合わせは任意に選択することができる。例えば、配向膜が配向規制力として水平配向を発現させる材料であれば、重合性液晶化合物は水平配向又はハイブリッド配向を形成することができ、垂直配向を発現させる材料であれば、重合性液晶化合物は垂直配向又は傾斜配向を形成することができる。水平、垂直等の表現は、液晶硬化膜平面を基準とした場合の、配向した重合性液晶の長軸の方向を表す。水平配向とは、液晶硬化膜平面に対して平行な方向に、配向した重合性液晶の長軸を有する配向である。ここでいう「平行」とは、液晶硬化膜平面に対して0°±20°の角度を意味する。垂直配向とは、液晶硬化膜平面に対して垂直な方向に、配向した重合性液晶の長軸を有することである。ここでいう垂直とは、液晶硬化膜平面に対して90°±20°のことを意味する。
【0100】
配向規制力は、配向膜が配向性ポリマーから形成されている場合は、表面状態やラビング条件によって任意に調整することが可能であり、光配向性ポリマーから形成されている場合は、偏光照射条件等によって任意に調整することが可能である。また、重合性液晶化合物の、表面張力や液晶性等の物性を選択することにより、液晶配向を制御することもできる。
【0101】
配向膜としては、配向膜上に液晶硬化膜を形成する際に使用される溶剤に不溶であり、また、溶剤の除去や液晶の配向のための加熱処理における耐熱性を有するものが好ましい。配向膜としては、配向性ポリマーからなる配向膜、光配向膜及びグルブ(groove)配向膜、配向方向に延伸してある延伸フィルム等が挙げられ、好ましくは光配向膜である。
【0102】
配向膜の厚さは、通常10~10000nmの範囲であり、好ましくは10~1000nmの範囲であり、より好ましくは50~300nmである。
【0103】
配向性ポリマーとしては、分子内にアミド結合を有するポリアミドやゼラチン類、分子内にイミド結合を有するポリイミド及びその加水分解物であるポリアミック酸、ポリビニルアルコール、アルキル変性ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリオキサゾール、ポリエチレンイミン、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸及びポリアクリル酸エステル類等が挙げられる。中でも、ポリビニルアルコールが好ましい。これらの配向性ポリマーは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0104】
配向性ポリマーからなる配向膜は、通常、配向性ポリマーが溶剤に溶解した組成物(以下、「配向性ポリマー組成物」ともいう。)を基材に塗布し、溶剤を除去する、又は配向性ポリマー組成物を基材に塗布し、溶剤を除去し、ラビングすること(ラビング法)で得られる。
【0105】
前記溶剤としては、水;メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ及びプロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート及び乳酸エチル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン及びメチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;ペンタン、ヘキサン及びヘプタン等の脂肪族炭化水素溶剤;トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素溶剤、アセトニトリル等のニトリル系溶剤;テトラヒドロフラン及びジメトキシエタン等のエーテル溶剤;クロロホルム及びクロロベンゼン等の塩素置換炭化水素溶剤;等が挙げられる。これら溶剤は、単独でもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0106】
配向性ポリマー組成物中の配向性ポリマーの濃度は、配向性ポリマーが溶剤に完溶できる範囲であればよいが、溶液に対して固形分換算で0.1~20質量%が好ましく、0.1~10質量%がより好ましい。
【0107】
配向性ポリマー組成物として、市販の配向膜材料をそのまま使用してもよい。市販の配向膜材料としては、サンエバー(登録商標)(日産化学工業株式会社製)又はオプトマー(登録商標)(JSR株式会社製)等が挙げられる。
【0108】
配向性ポリマー組成物を基材に塗布する方法としては、スピンコーティング法、エクストルージョン法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、バーコーティング法及びアプリケータ法等の塗布方法や、フレキソ法等の印刷法等の公知の方法が挙げられる。本発明の配向膜を、Roll-to-Roll形式の連続的製造方法により製造する場合、当該塗布方法には通常、グラビアコーティング法、ダイコーティング法又はフレキソ法等の印刷法が採用される。
【0109】
配向性ポリマー組成物に含まれる溶剤を除去することにより、配向性ポリマーの乾燥塗膜が形成される。溶剤の除去方法としては、自然乾燥法、通風乾燥法、加熱乾燥法及び減圧乾燥法等が挙げられる。
【0110】
ラビングする方法としては、ラビング布が巻きつけられ、回転しているラビングロールに、配向性ポリマー組成物を基材に塗布しアニールすることで基材表面に形成された配向性ポリマーの膜を、接触させる方法が挙げられる。
【0111】
光配向膜は、通常、光反応性基を有するポリマーやオリゴマー又はモノマーからなる。重合性液晶を連続形成する場合には、耐溶剤性等の観点から分子量5000以上のポリマーが好ましく、親和性の観点から重合性液晶が(メタ)アクリロイル基の場合には、アクリルポリマーが好ましい。光配向膜は、光反応性基を有するポリマーやオリゴマー又はモノマー及び溶剤を含む組成物(以下、「光配向膜形成用組成物」ともいう)を基材に塗布し、溶剤を乾燥除去した後に偏光(好ましくは、偏光UV)を照射することで得られる。光配向膜は、照射する偏光の偏光方向を選択することにより、配向規制力の方向を任意に制御できる点でより好ましい。
【0112】
光反応性基とは、光を照射することにより液晶配向能を生じる基をいう。具体的には、光を照射することで生じる分子の配向誘起又は異性化反応、二量化反応、光架橋反応、又は光分解反応のような、液晶配向能の起源となる光反応を生じるものである。当該光反応性基の中でも、二量化反応又は光架橋反応を起こすものが、配向性に優れる点で好ましい。以上のような反応を生じ得る光反応性基としては、不飽和結合、特に二重結合を有するものが好ましく、炭素-炭素二重結合(C=C結合)、炭素-窒素二重結合(C=N結合)、窒素-窒素二重結合(N=N結合)、及び炭素-酸素二重結合(C=O結合)からなる群より選ばれる少なくとも一つを有する基がより好ましい。
【0113】
C=C結合を有する光反応性基としては例えば、ビニル基、ポリエン基、スチルベン基、スチルバゾ-ル基、スチルバゾリウム基、カルコン基及びシンナモイル基等が挙げられる。C=N結合を有する光反応性基としては、芳香族シッフ塩基及び芳香族ヒドラゾン等の構造を有する基が挙げられる。N=N結合を有する光反応性基としては、アゾベンゼン基、アゾナフタレン基、芳香族複素環アゾ基、ビスアゾ基及びホルマザン基等や、アゾキシベンゼンを基本構造とするものが挙げられる。C=O結合を有する光反応性基としては、ベンゾフェノン基、クマリン基、アントラキノン基及びマレイミド基等が挙げられる。これらの基は、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリルオキシ基、シアノ基、アルコキシカルボニル基、ヒドロキシル基、スルホン酸基及びハロゲン化アルキル基等の置換基を有していてもよい。
【0114】
光配向膜形成用組成物の溶剤としては、光反応性基を有するポリマー及びモノマーを溶解するものが好ましく、該溶剤としては、例えば前記の配向性ポリマー組成物の溶剤として挙げられた溶剤等が挙げられる。
【0115】
光配向膜形成用組成物に対する、光反応性基を有するポリマー又はモノマーの含有量は、当該光反応性基を有するポリマー又はモノマーの種類や製造しようとする光配向膜の厚さによって適宜調節できるが、0.2質量%以上とすることが好ましく、0.3~10質量%の範囲が特に好ましい。また、光配向膜の特性が著しく損なわれない範囲で、ポリビニルアルコールやポリイミド等の高分子材料や光増感剤が含まれていてもよい。
【0116】
光配向膜形成用組成物を拡散防止層に塗布する方法としては、配向性ポリマー組成物を拡散防止層に塗布する方法と同様の方法が挙げられる。塗布された光配向膜形成用組成物から、溶剤を除去する方法としては、例えば、配向性ポリマー組成物から溶剤を除去する方法と同じ方法が挙げられる。
【0117】
偏光を照射するには、基材の上に塗布された光配向膜形成用組成物から、溶剤を除去したものに直接、偏光を照射する形式でも、基材から偏光を照射し、偏光を透過させて照射する形式でもよい。また、当該偏光は、実質的に平行光であることが特に好ましい。照射する偏光の波長は、光反応性基を有するポリマー又はモノマーの光反応性基が、光エネルギーを吸収し得る波長領域のものがよい。具体的には、波長250~400nmの範囲のUV(紫外光)が特に好ましい。当該偏光照射に用いる光源としては、キセノンランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、KrF、ArF等の紫外光レーザー等が挙げられ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ及びメタルハライドランプがより好ましい。これらのランプは、波長313nmの紫外光の発光強度が大きいため好ましい。前記光源からの光を、適当な偏光子を通過して照射することにより、偏光を照射することができる。かかる偏光子としては、偏光フィルターやグラントムソン、グランテーラー等の偏光プリズムやワイヤーグリッドタイプの偏光子を用いることができる。
【0118】
なお、ラビング又は偏光照射を行う時に、マスキングを行えば、液晶配向の方向が異なる複数の領域(パターン)を形成することもできる。
【0119】
グルブ(groove)配向膜は、膜表面に凹凸パターン又は複数のグルブ(溝)を有する膜である。等間隔に並んだ複数の直線状のグルブを有する膜に液晶分子を置いた場合、その溝に沿った方向に液晶分子が配向する。
【0120】
グルブ配向膜を得る方法としては、感光性ポリイミド膜表面にパターン形状のスリットを有する露光用マスクを介して露光後、現像及びリンス処理を行って凹凸パターンを形成する方法、表面に溝を有する板状の原盤に、硬化前のUV硬化性樹脂の層を形成し、樹脂層を基材へ移してから硬化する方法、及び基材上に形成した硬化前のUV硬化性樹脂の膜に、複数の溝を有するロール状の原盤を押し当てて凹凸を形成し、その後硬化する方法等が挙げられる。具体的には、特開平6-34976号公報及び、特開2011-242743号公報記載の方法等が挙げられる。
【0121】
配向乱れの小さな配向を得るためには、グルブ配向膜の凸部の幅は0.05~5μmであることが好ましく、凹部の幅は0.1~5μmであることが好ましく、凹凸の段差の深さは2μm以下であることが好ましく、0.01~1μm以下であることが好ましい。
【0122】
〔液晶硬化膜〕
<重合性液晶組成物の塗布>
上記基材又は配向膜上に上記混合後の重合性液晶組成物を塗布することで液晶硬化膜を形成することができる。重合性液晶組成物を基材上に塗布する方法としては、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、CAPコーティング法、スリットコーティング法、マイクログラビア法、ダイコーティング法、インクジェット法等が挙げられる。また、ディップコーター、バーコーター、スピンコーター等のコーターを用いて塗布する方法等も挙げられる。中でも、Roll to Roll形式で連続的に塗布する場合には、マイクログラビア法、インクジェット法、スリットコーティング法、ダイコーティング法による塗布方法が好ましく、ガラス等の枚葉基材に塗布する場合には、均一性の高いスピンコーティング法が好ましい。Roll to Roll形式で塗布する場合、基材に光配向膜形成用組成物等を塗布して配向膜を形成し、さらに得られた配向膜上に重合性液晶組成物を連続的に塗布することもできる。
【0123】
<重合性液晶組成物の乾燥>
重合性液晶組成物に含まれる溶剤を除去する乾燥方法としては、例えば、自然乾燥、通風乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥及びこれらを組み合わせた方法が挙げられる。中でも、自然乾燥又は加熱乾燥が好ましい。乾燥温度は、0~200℃の範囲が好ましく、20~150℃の範囲がより好ましく、50~130℃の範囲がさらに好ましい。乾燥時間は、10秒間~20分間が好ましく、より好ましくは30秒間~10分間である。光配向膜形成用組成物及び配向性ポリマー組成物も同様に乾燥することができる。
【0124】
<重合性液晶化合物の重合>
重合性液晶化合物を重合させる方法としては、光重合が好ましい。光重合は、基材上又は配向膜上に重合性液晶化合物を含む重合性液晶組成物が塗布された積層体に活性エネルギー線を照射することにより実施される。照射する活性エネルギー線としては、乾燥被膜に含まれる重合性液晶化合物の種類(特に、重合性液晶化合物が有する光重合性官能基の種類)、光重合開始剤を含む場合には光重合開始剤の種類、及びそれらの量に応じて適宜選択される。具体的には、可視光、紫外光、赤外光、X線、α線、β線、及びγ線からなる群より選択される一種以上の光が挙げられる。中でも、重合反応の進行を制御し易い点、及び光重合装置として当分野で広範に用いられているものが使用できるという点で、紫外光が好ましく、紫外光によって光重合可能なように、重合性液晶化合物の種類を選択することが好ましい。
【0125】
前記活性エネルギー線の光源としては、例えば、低圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、カーボンアーク灯、タングステンランプ、ガリウムランプ、エキシマレーザー、波長範囲380~440nmを発光するLED光源、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ等が挙げられる。
【0126】
紫外線照射強度は、通常、10mW/cm2~3,000mW/cm2である。紫外線照射強度は、好ましくはカチオン重合開始剤又はラジカル重合開始剤の活性化に有効な波長領域における強度である。光を照射する時間は、通常0.1秒~10分であり、好ましくは0.1秒~5分であり、より好ましくは0.1秒~3分であり、さらに好ましくは0.1秒~1分である。このような紫外線照射強度で1回又は複数回照射すると、その積算光量は、10mJ/cm2~3,000mJ/cm2、好ましくは50mJ/cm2~2,000mJ/cm2、より好ましくは100mJ/cm2~1,000mJ/cm2である。積算光量がこの範囲以下である場合には、重合性液晶化合物の硬化が不十分となり、良好な転写性が得られない場合がある。逆に、積算光量がこの範囲以上である場合には、光学異方層を含む光学フィルムが着色する場合がある。
【実施例】
【0127】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。尚、例中の「%」及び「部」は、特記ない限り、それぞれ質量%及び質量部を意味する。また、水のδD(W)は15.5、δP(W)は16.0、δH(W)は42.3である。
【0128】
<実施例1>
〔光配向膜形成用組成物の調製〕
特開2013-033249号公報記載の下記成分を混合し、得られた混合物を80℃で1時間撹拌することにより、光配向膜形成用組成物を得た。
【0129】
〔A剤の調製〕
下記の成分を混合し、25℃で1時間撹拌することで、A剤(1)を得た。なお、シクロペンタノンのδ
D(S)は17.9、δ
P(S)は11.9、δ
H(S)は5.2である。
調製したA剤(1)をSUS製缶に入れ、気相部を乾燥窒素で置換して封止した。
【0130】
〔B剤の調製〕
下記の成分を混合し、80℃で1時間撹拌することで、B剤(1)を得た。N-メチルピロリドン(NMP)のδ
D(S)は18.0、δ
P(S)は12.3、δ
H(S)は7.2である。
調製したB剤(1)をSUS製缶に入れ、気相部を乾燥窒素にて置換して封止した。
【0131】
<液晶硬化膜の作成方法>
(1)光配向膜の形成
基材としてシクロオレフィンポリマー(COP)フィルム(日本ゼオン株式会社製のゼオノアフィルム(ZeonorFilm)(登録商標)「ZF-14」、膜厚23μm)を用い、膜表面にコロナ処理を施した後に、上記光配向膜形成用組成物を塗布して、80℃で乾燥して乾燥塗膜を得た。この乾燥塗膜上に偏光UVを照射して光配向膜を形成し、光配向膜付きフィルムを得た。偏光UV処理は、UV照射装置(SPOT CURE SP-7;ウシオ電機株式会社製)を用いて、波長365nmで測定した強度が100mJ/cm2の条件で行った。このようにして、光配向膜付きフィルムを得た。
【0132】
(2)液晶硬化膜の形成
A剤(1)とB剤(1)を調製してから25℃で3か月間保管後又は6か月保管後に、A剤(1)とB剤(1)とを混合し、25℃で1時間撹拌することで、重合性液晶組成物(1)を得た。前記重合性液晶組成物(1)を得た直後に、上記で得た光配向膜付きフィルム上に、前記重合性液晶組成物(1)をバーコート法により塗布した後に、120℃の乾燥オーブンにて1分間加熱乾燥することにより十分に溶剤を除去した。次いで、高圧水銀ランプ(ユニキュアVB-15201BY-A;ウシオ電機株式会社製)を用いて、露光量1000mJ/cm2(365nm基準)の紫外線を、重合性液晶組成物(1)から形成された層に照射することにより、液晶硬化膜(1)を形成した。
【0133】
<配向性の評価>
得られた液晶硬化膜を、偏光顕微鏡(BX51、オリンパス株式会社製)を用いて400倍の倍率で観察した。配向性が良好であったものを○、わずかに配向不良が見られるものを△、表面に配向不良が見られるなど、配向性が不十分であったものを×とした。
【0134】
<密着性の評価>
得られた液晶硬化膜(1)の表面と裏面にそれぞれ25mm幅のセロテープ(ニチバン製)を貼付し、表面及び裏面それぞれについて90°ピール試験を行った。剥離が生じなかったものを〇、試験箇所の一部のみ剥離が生じたものを△、試験箇所全体に剥離が生じたものを×とした。
【0135】
<外観の評価>
得られた液晶硬化膜(1)を目視で確認し、異物の有無を確認した。異物が目視で確認されないものを〇、異物がやや確認されるものを△、異物が多数確認されるものを×とした。
【0136】
<実施例2及び3>
A剤の保管容器を表に記載の通りとした以外は、実施例1と同様にして、重合性液晶組成物(2)・(3)及び液晶硬化膜(2)・(3)を得た。得られた液晶硬化膜の配向性、密着性、外観を実施例1と同様にして評価した。
【0137】
<実施例4>
A剤を保管する容器の気相部を空気とした以外は、実施例1と同様にして、重合性液晶組成物(4)及び液晶硬化膜(4)を得た。得られた液晶硬化膜の配向性、密着性、外観を実施例1と同様にして評価した。
【0138】
<実施例5>
反応性添加剤として以下の化合物を用いた以外は、実施例1と同様にして、重合性液晶組成物(5)及び液晶硬化膜(5)を得た。得られた液晶硬化膜(5)の配向性、密着性、外観を実施例1と同様にして評価した。
反応性添加剤: カレンズAOI(昭和電工(株)製) 5.0部
【0139】
<実施例6>
反応性添加剤として以下の化合物を用いた以外は、実施例1と同様にして、重合性液晶組成物(6)及び液晶硬化膜(6)を得た。得られた液晶硬化膜の配向性、密着性、外観を実施例1と同様にして評価した。
反応性添加剤: KBM-5103(信越化学工業(株)製) 2.0部
【0140】
<実施例7>
A剤の溶剤をクロロホルム70質量部、(B)剤の溶剤をNMP644質量部とした以外は、実施例1と同様にして、重合性液晶組成物(7)及び液晶硬化膜(7)を得た。なお、クロロホルムのδD(S)は17.8、δP(S)は3.1、δH(S)は5.7であり、Raは39.1である。得られた液晶硬化膜の配向性、密着性、外観を実施例1と同様にして評価した。
【0141】
<実施例8>
A剤の溶剤をアニソール70質量部、(B)剤の溶剤をNMP644質量部とした以外は、実施例1と同様にして、重合性液晶組成物(8)及び液晶硬化膜(8)を得た。なお、アニソールのδD(S)は17.8、δP(S)は4.4、δH(S)は6.9であり、Raは37.5である。得られた液晶硬化膜の配向性、密着性、外観を実施例1と同様にして評価した。
【0142】
<実施例9>
重合性液晶化合物をLC242(BASFジャパン(株)製)、B剤の溶剤をNMP644質量部とした以外は実施例1と同様にして、重合性液晶組成物(9)及び液晶硬化膜(9)を得た。得られた液晶硬化膜の配向性、密着性、外観を実施例1と同様にして評価した。
【0143】
<実施例10>
重合性液晶化合物をLC242(BASFジャパン(株)製)、B剤の溶剤をシクロペンタノン370質量部とプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)274質量部の混合溶媒とした以外は実施例1と同様にして、重合性液晶組成物(10)及び液晶硬化膜(10)を得た。なお、PGMEAのδD(S)は15.6、δP(S)は5.6、δH(S)は9.8であり、B剤中の溶剤全体のRaは35.9である。得られた液晶硬化膜の配向性、密着性、外観を実施例1と同様にして評価した。
【0144】
<比較例1>
実施例1と同様にして(A)剤と(B)剤を調製した後、SUS製缶で二液を25℃で1時間撹拌して混合した。二液を混合した後、乾燥窒素下で封止し、25℃で3か月間又は6か月間保管後に塗工を行い、得られた液晶硬化膜の配向性、密着性、外観を実施例1と同様にして評価した。
【0145】
<比較例2>
反応性添加剤を使用しない以外は比較例1と同様にして(B)剤を調製し、乾燥窒素下で封止し、25℃で3か月間又は6か月間保管後に塗工を行い、得られた液晶硬化膜の配向性、密着性、外観を実施例1と同様にして評価した。
【0146】
<比較例3及び4>
反応性添加剤を表に記載の通りに変更した以外は比較例1と同様にして(A)剤と(B)剤を調製した後、SUS製缶で二液を25℃で1時間撹拌して混合した。二液を混合した後、乾燥窒素下で封止し、25℃で3か月間又は6か月間保管後に塗工を行い、得られた液晶硬化膜の配向性、密着性、外観を実施例1と同様にして評価した。
【0147】
<比較例5>
実施例10と同様にして(A)剤と(B)剤とを調製した後、SUS製缶で二液を25℃で1時間撹拌して混合した。二液を混合した後、乾燥窒素下で封止し、25℃で3か月又は6か月間保管後に塗工を行い、得られた液晶硬化膜の配向性、密着性、外観を実施例1と同様にして評価した。
【0148】
【0149】
実施例1~10の組成物からは、調製してから3か月保管後又は6か月保管後に混合して塗工を行っても、良好な光学特性、高い密着性及び優れた外観を有する液晶硬化膜を得ることができる。一方、二液を混合後保管した比較例1及び3~5からは配向性や外観に劣る液晶硬化膜が得られ、反応性添加剤を含まない比較例2からは密着性に劣る液晶硬化膜が得られることが分かる。