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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】熱伝導性シリコーン組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20241218BHJP
   C08L 83/06 20060101ALI20241218BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20241218BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20241218BHJP
   H01L 23/36 20060101ALN20241218BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/06
C08L83/05
C08K3/22
H01L23/36 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021171220
(22)【出願日】2021-10-19
(65)【公開番号】P2023061304
(43)【公開日】2023-05-01
【審査請求日】2023-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 亘
(72)【発明者】
【氏名】岩田 充弘
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴大
(72)【発明者】
【氏名】北沢 啓太
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/235293(WO,A1)
【文献】特開2000-109373(JP,A)
【文献】国際公開第2016/140020(WO,A1)
【文献】特開平10-212414(JP,A)
【文献】特開2020-063365(JP,A)
【文献】特開2020-180190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00-83/16
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)25℃での動粘度が10~100,000mm/sであり、下記式(2)で表される1分子中にケイ素原子に結合した脂肪族不飽和炭化水素基を1個以上有する直鎖状オルガノポリシロキサン、
【化1】
(式中、R はお互い独立な炭素原子数1~18の、飽和又は不飽和の、非置換又は置換の一価炭化水素基である。mは、前記直鎖状オルガノポリシロキサンの25℃での動粘度が上記数値範囲となる数である。)
(B)アルコキシシリル基を含有する加水分解性オルガノポリシロキサン、
(C)平均粒子径が4μm以上30μm以下であり、かつレーザー回折型粒度分布測定法による粒子径45μm以上の粗粒の含有量が(C)成分全体の0.5質量%以下である熱伝導性充填材
D)平均粒子径0.01μm以上2μm以下の不定形酸化亜鉛粒子
(E)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(F)白金金属触媒
及び
(G)反応制御剤
を含む熱伝導性シリコーン組成物であって、
前記(C)成分が、不定形酸化亜鉛粒子を含み、該不定形酸化亜鉛粒子の量が、組成物全体の40~90質量%であり、
前記(D)成分の量が、組成物全体の1~50質量%であり、
前記(E)成分の量が、(A)成分中のケイ素原子と結合した脂肪族不飽和炭化水素基1個あたりの(E)成分中のケイ素原子と結合した水素原子の数が0.1~1.5個となる量であり、
前記熱伝導性シリコーン組成物のISO 22007-2準拠のホットディスク法による熱伝導率が2.0W/m・K以上7.0W/m・K未満であり、かつ、
スパイラル粘度計による25℃、回転数10rpmにおける粘度が5~800Pa・sであることを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項2】
前記(A)成分が、前記式(2)において、少なくとも1つのR がビニル基である直鎖状オルガノポリシロキサンであり、
前記(B)成分を、(A)成分:(B)成分=5:95~20:80の範囲で含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項3】
JIS C 2134準拠の耐トラッキング試験によって350V以上の耐トラッキング性を有するものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項4】
2.0mm厚さ、120℃、角速度1rad/sの条件における、10%歪のときの複素弾性率Gが10,000Pa・s以下であり、損失弾性率G”/貯蔵弾性率G’の値が8.0以下のものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物であって、厚み100μmの前記熱伝導性シリコーン組成物を25℃、0.1MPaで60分間加圧したときのシリコーン組成物の厚みが5μm以上45μm以下のものであることを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性シリコーン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子は、使用中の発熱及びそれによる性能の低下が広く知られており、これを解決するための手段として、様々な放熱技術が用いられている。一般的に、発熱部の付近に冷却部材(ヒートシンク等)を配置し、両者を密接させたうえで冷却部材から効率的に除熱することにより放熱を行っている。その際、発熱部材と冷却部材との間に隙間があると、熱伝導性の低い空気が介在することにより熱伝導率が低下し、発熱部材の温度が十分に下がらなくなってしまう。このような現象を防ぐため、熱伝導率がよく、部材の表面に追随性のある放熱材料、例えば放熱グリースや放熱シートが用いられている。
【0003】
近年サーバー向けCPUや車両駆動用のIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)など高品位機種の半導体に関して、ますます動作時の発熱量が増大している。発熱量の増大に伴って放熱グリースや放熱シートに要求される放熱性能も向上しており、熱伝導性充填材としてアルミナ(酸化アルミニウム)、窒化アルミニウム等を用いた放熱材料が提案されている(特許文献1、2)。
【0004】
一方、近年シリコンチップの薄膜化が進行し、熱伝導性充填材にモース硬度の高いアルミナや窒化アルミニウムが用いられているとチップの摩耗、または、割れてしまう不具合があるため、モース硬度が低い充填材を用いた熱伝導性シリコーン組成物が提案されている(特許文献3)。しかしながら、50μm以下の薄膜に適用した場合、性能的に不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-210518号公報
【文献】特開2020-169231号公報
【文献】特開2020-111655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、高い熱伝導率と50μm以下への圧縮性とを有し、シリコンチップを損傷しない熱伝導性シリコーン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、
(A)25℃での動粘度が10~100,000mm/sであるオルガノポリシロキサン、
(B)アルコキシシリル基を含有する加水分解性オルガノポリシロキサン、
(C)平均粒子径が4μm以上30μm以下であり、かつレーザー回折型粒度分布測定法による粒子径45μm以上の粗粒の含有量が(C)成分全体の0.5質量%以下である熱伝導性充填材、
及び、
(D)平均粒子径0.01μm以上2μm以下の不定形酸化亜鉛粒子
を含む熱伝導性シリコーン組成物であって、
前記(C)成分が、不定形酸化亜鉛粒子を含み、該不定形酸化亜鉛粒子の量が、組成物全体の40~90質量%であり、
前記(D)成分の量が、組成物全体の1~50質量%であり、
前記熱伝導性シリコーン組成物のISO 22007-2準拠のホットディスク法による熱伝導率が2.0W/m・K以上7.0W/m・K未満であり、かつ、
スパイラル粘度計による25℃、回転数10rpmにおける粘度が5~800Pa・sであることを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物を提供する。
【0008】
この熱伝導性シリコーン組成物は、高い熱伝導率と50μm以下への圧縮性とを有し、シリコンチップの損傷を抑制することができるものである。
【0009】
また、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、前記(A)成分が、1分子中にケイ素原子に結合した脂肪族不飽和炭化水素基を1個以上有するオルガノポリシロキサンであり、さらに、
(E)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(F)白金金属触媒、及び
(G)反応制御剤
を含有する組成物とすることができる。
【0010】
このような組成物であると、より高い熱伝導率と50μm以下への圧縮性とを有し、シリコンチップの損傷を抑制することができるものとなる。
【0011】
上記熱伝導性シリコーン組成物は、JIS C 2134準拠の耐トラッキング試験によって350V以上の耐トラッキング性を有することが好ましい。
【0012】
前記耐トラッキング性が350V以上であると、熱伝導性シリコーン組成物の電気絶縁性能がさらに良好となる。
【0013】
上記熱伝導性シリコーン組成物は、2.0mm厚さ、120℃、角速度1rad/sの条件における、10%歪のときの複素弾性率Gが10,000Pa・s以下であり、損失弾性率G”/貯蔵弾性率G’の値が8.0以下であることが好ましい。
【0014】
粘弾性特性がこの範囲にあることで実装後に基材が膨張、振動した際のシリコーン組成物のポンピングアウトを抑えることができる。
【0015】
また上記熱伝導性シリコーン組成物は、厚み100μmの前記熱伝導性シリコーン組成物を25℃、0.1MPaで60分間加圧したときのシリコーン組成物の厚みが5μm以上45μm以下のものであることが好ましい。
【0016】
加圧後にこのような厚みとなるものであれば、基材が熱で膨張した際に互いにこすれるおそれがなく、熱抵抗が大きくなりすぎないため、熱伝導性シリコーン組成物として最適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、実使用時に適切な厚みと熱伝導率を有するため高い放熱性能を有し、更にシリコンチップの破損を起こしにくいシリコーン組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上述のように、高い熱伝導率と50μm以下への圧縮性とを有し、かつ、シリコンチップを破損することのない熱伝導性シリコーン組成物の開発が求められていた。
【0019】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、特定の動粘度のオルガノポリシロキサン、アルコキシシリル基を有する加水分解性オルガノポリシロキサン、及び、特定の粒径の不定形酸化亜鉛粒子を含むシリコーン組成物が、高い熱伝導率と50μm以下への圧縮性とを有し、シリコンチップの破損を抑制することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0020】
即ち、本発明は、(A)25℃での動粘度が10~100,000mm/sであるオルガノポリシロキサン、(B)アルコキシシリル基を含有する加水分解性オルガノポリシロキサン、(C)平均粒子径が4μm以上30μm以下であり、かつレーザー回折型粒度分布測定法による粒子径45μm以上の粗粒の含有量が(C)成分全体の0.5質量%以下である熱伝導性充填材、及び、(D)平均粒子径0.01μm以上2μm以下の不定形酸化亜鉛粒子を含む熱伝導性シリコーン組成物であって、
前記(C)成分が、不定形酸化亜鉛粒子を含み、該不定形酸化亜鉛粒子の量が、組成物全体の40~90質量%であり、前記(D)成分の量が、組成物全体の1~50質量%であり、前記熱伝導性シリコーン組成物のISO 22007-2準拠のホットディスク法による熱伝導率が2.0W/m・K以上7.0W/m・K未満であり、かつ、スパイラル粘度計による25℃、回転数10rpmにおける粘度が5~800Pa・sであることを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物である。
【0021】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
本発明は、優れた絶縁性と低摩耗性にすぐれた熱伝導性シリコーン組成物に関する。
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、(A)成分としての特定動粘度を有するオルガノポリシロキサン、(B)成分としてのアルコキシシリル基を含有する加水分解性オルガノポリシロキサン、(C)成分としての特定の粒子径から構成される熱伝導性充填材、及び(D)成分としての平均粒子径0.01μm以上2μm以下の不定形酸化亜鉛粒子を含むことを特徴とする。また、後述するように、必要に応じて更にこれら以外の成分を含むこともできる。以下、各成分について説明する。
【0023】
[(A)成分]
(A)成分は、25℃での動粘度10~100,000mm/s、好ましくは30~10,000mm/s、更に好ましくは100~8,000mm/sを有するオルガノポリシロキサンである。オルガノポリシロキサンの動粘度が上記下限値より低いとシリコーン組成物にした時にオイルブリードが出やすくなる。また、上記上限値より大きいと、シリコーン組成物の伸展性が乏しくなるおそれがある。なお、本発明において、オルガノポリシロキサンの動粘度はオストワルド粘度計で測定した25℃の値である。
【0024】
本発明においてオルガノポリシロキサンは上記動粘度を有するものであればよく、従来公知のオルガノポリシロキサンを使用することができる。オルガノポリシロキサンの分子構造は特に限定されず、直鎖状、分岐鎖状、環状等のいずれであってもよい。特には、主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状構造を有するのがよい。該オルガノポリシロキサンは、1種単独でも、2種以上の組合せであってもよい。
【0025】
該オルガノポリシロキサンは、例えば下記平均組成式(1)で表すことができる。
SiO(4-a)/2 (1)
上記平均組成式(1)において、Rは、互いに独立に、炭素原子数1~18、好ましくは1~14の、飽和又は不飽和の、非置換又は置換の一価炭化水素基である。該一価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、及びオクタデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、及びアリル基等のアルケニル基、フェニル基、及びトリル基等のアリール基、2-フェニルエチル基、及び2-メチル-2-フェニルエチル基等のアラルキル基、又は、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えば、3,3,3-トリフロロプロピル基、2-(パーフロロブチル)エチル基、2-(パーフロロオクチル)エチル基、p-クロロフェニル基等が挙げられ、メチル基、フェニル基、ビニル基が好ましい。
【0026】
上記平均組成式(1)において、aは1.8~2.2の範囲、特には1.9~2.1の範囲にある数である。aが上記範囲内にあることにより、得られるシリコーン組成物は良好な粘度を有することができる。
【0027】
上記平均組成式(1)で表されるオルガノポリシロキサンとしては、下記式(2)で表される直鎖状オルガノポリシロキサンが好ましい。
【化1】
【0028】
上記式においてRはお互い独立な炭素原子数1~18、好ましくは1~14の、飽和又は不飽和の、非置換又は置換の一価炭化水素基である。該一価炭化水素基としては、Rについて上述した基が挙げられる。さらに、少なくとも一つのRがビニル基であることが好ましい。mは、該オルガノポリシロキサンの25℃での動粘度が10~100,000mm/s、好ましくは30~10,000mm/s、更に好ましくは100~8,000mm/sとなる数である。
【0029】
(A)成分の配合量は、(A)成分と後述する(B)成分との合計で熱伝導性シリコーン組成物中の1~50質量%が好ましく、さらに好ましくは3~10質量%である。この範囲の(A)成分および(B)成分を含有することで良好な圧縮性を保ちつつ、オイル分離やポンプアウトに起因する熱抵抗の悪化を防ぐことができる。また、(A)成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて配合してよい。なお、2種以上を組み合わせて配合する場合は、オルガノポリシロキサンのそれぞれが25℃での動粘度が10~100,000mm/sであればよく、(A)成分全体が上記動粘度を有していてもよい。
【0030】
[(B)成分]
(B)成分は、アルコキシシリル基を有する加水分解性オルガノポリシロキサンである。(B)成分は、後述する(C)成分の熱伝導性充填材及び(D)成分の表面処理剤として作用する。そのため、(B)成分を添加することで(A)成分と(C)成分及び(D)成分との相互作用が強くなる。その結果、(C)成分の熱伝導性充填材及び(D)成分を組成物に多量に充填しても、熱伝導性シリコーン組成物が流動性を保つことができる。同時に、経時でのオイル分離やポンプアウトに起因する放熱性能の低下も抑えることができる。(B)成分としては、例えば下記一般式(3)で表されるオルガノポリシロキサンが挙げられる。中でも、3官能の加水分解性オルガノポリシロキサンを含有することが好ましい。
【0031】
【化2】
(式中、Rは独立に非置換又は置換の1価炭化水素基である。X、X、XはR又は-(R-SiR (OR3-dで示される基であり、それぞれ異なってもよいが、少なくとも1つは-(R-SiR (OR3-dである。Rは酸素原子又は炭素数1~4のアルキレン基、Rは独立に脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、Rは独立に炭素数1~4のアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基又はアシル基であり、nは0又は1、dは0~2の整数である。b及びcはそれぞれ1≦b≦1,000、0≦c≦1,000である。)
【0032】
上記式(3)中、Rは独立に非置換又は置換の、好ましくは炭素数1~10、より好ましくは1~6、さらに好ましくは1~3の1価炭化水素基であり、その例としては、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン化アルキル基等が挙げられる。直鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基が挙げられる。分岐鎖状アルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基、2-エチルヘキシル基が挙げられる。環状アルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基が挙げられる。アラルキル基としては、例えば、2-フェニルエチル基、2-メチル-2-フェニルエチル基が挙げられる。ハロゲン化アルキル基としては、例えば、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2-(ノナフルオロブチル)エチル基、2-(ヘプタデカフルオロオクチル)エチル基が挙げられる。Rとして、メチル基、フェニル基、ビニル基が好ましい。
【0033】
の炭素数1~4のアルキレン基としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられる。Rは独立に脂肪族不飽和結合を含有しない、好ましくは炭素数1~10、より好ましくは1~6、さらに好ましくは1~3の非置換又は置換の1価炭化水素基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基、ならびにこれらの基の炭素原子が結合している水素原子の一部又は全部が、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換された基等が挙げられる。
【0034】
上記Rは独立に炭素数1~4のアルキル基、アルコキシアルキル基もしくはアルケニル基、又はアシル基である。上記Rのアルキル基としては、例えば、Rについて例示したものと同様の、炭素数1~4のアルキル基等が挙げられる。アルコキシアルキル基としては、例えば、メトキシエチル基、メトキシプロピル基等が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基が挙げられる。上記Rのアシル基としては、例えば、炭素数2~8のものが好ましく、アセチル基、オクタノイル基等が挙げられる。Rはアルキル基であることが好ましく、特にはメチル基、エチル基であることが好ましい。
【0035】
b、cは上記の通りであるが、好ましくはb+cが10~1,000であり、より好ましくは10~300である。nは0又は1であり、dは0~2の整数であり、好ましくは0である。なお、分子中にOR基は1~6個、特に3又は6個有することが好ましい。なお、括弧内に示される各シロキサン単位の結合順序は、特に制限されるものではない。
【0036】
(B)成分の好適な具体例としては、下記のものを挙げることができるが、下記に制限されない。
【化3】
【0037】
(B)成分の配合量は、上記(A)成分に対し、(A)成分:(B)成分=1:99~50:50(質量比)が好ましく、5:95~20:80の範囲がより好ましい。また、(B)成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて配合してよい。
【0038】
[(C)成分]
(C)成分は、平均粒子径4μm以上30μm以下、好ましくは5μm以上25μm以下の熱伝導性充填材である。(C)成分の平均粒子径が4μmよりも小さいと熱伝導性シリコーンの熱伝導率が低下する。また、30μmよりも大きいと(C)成分中に含まれる粒子径45μm以上の粗粒を少なくすることが技術的に難しく、その結果、熱伝導性シリコーン組成物を薄膜化できず十分な放熱性能を発揮できない。
【0039】
前記平均粒子径はレーザー回折散乱法による体積基準の粒度分布における累積平均径D50(メディアン径)であり、例えば、日機装(株)製マイクロトラックMT330OEXにより測定できる。
【0040】
(C)成分中の粒子径45μm以上の粗粒の含有量は、(C)成分全体の0.5質量%以下であり、好ましくは0~0.3質量%である。当該粗粒の含有量が0.5質量%を超えると、熱伝導性シリコーン組成物を圧縮したときの厚みを50μm以下とすることができず十分な放熱性能を発揮できない。なお、前記粒子径はレーザー回折散乱法による体積基準の値である。
【0041】
当該粗粒の含有量は、例えば、上記日機装(株)製マイクロトラックMT330OEXにより測定できる。
【0042】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、熱伝導性充填材として不定形酸化亜鉛粒子を含む。酸化亜鉛はモース硬度が4であり、一般に半導体に使用されるシリコン(モース硬度7)より柔かいため、チップを磨耗させない。なお、ここでいうモース硬度とは、旧モース硬度と表記されることがあるが、最も硬いダイヤモンドの硬さを10として、10段階で硬さを表す指標である。
【0043】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、(C)成分の熱伝導性充填材のうち不定形酸化亜鉛粒子を組成物全体に対して40~90質量%含むものである。(C)成分中の不定形酸化亜鉛粒子の含有量が40質量%未満だと熱伝導性シリコーン組成物の熱伝導率が低下し、90質量%を超えると、熱伝導性シリコーン組成物が均一にならない。
【0044】
不定形酸化亜鉛粒子以外の熱伝導性充填材としては、特に限定されないが、例えば、シリコン(7)より柔かい六方晶窒化ホウ素(2)、水酸化マグネシウム(2.5)、無水炭酸マグネシウム(3.5)、酸化マグネシウム(6)、溶融シリカ(6)などを挙げることができる。窒化アルミニウム(7)、窒化ケイ素(8)、酸化アルミニウム(9)などはシリコンと同程度若しくはより硬いが、シリコンチップを損傷しない範囲で含まれていてもよい。また、これらの形状も特に限定されない。なお、上記において括弧内の数値はモース硬度である。
【0045】
なお、熱伝導性充填材を2種以上組み合わせて配合する場合は、熱伝導性充填材のそれぞれが、平均粒子径が4μm以上30μm以下であり、かつレーザー回折型粒度分布測定法による粒子径45μm以上の粗粒の含有量が(C)成分全体の0.5質量%以下であればよく、(C)成分全体として上記条件を満足していてもよい。
【0046】
[(D)成分]
(D)成分は、平均粒子径0.01μm以上2μm以下、好ましくは0.05μm以上1.5μm以下の不定形酸化亜鉛粒子である。(D)成分は、平均粒子径がより大きい上記熱伝導性充填材((C)成分)と組み合わせることにより、充填性を向上させることができる。(D)成分それ自体も熱伝導性を有するので、充填性の向上と相俟って熱伝導性も向上させることができる。(D)成分の平均粒子径が0.01μm未満であると熱伝導性シリコーン組成物の粘度が著しく上昇し、2μmより大きいと熱伝導性シリコーン組成物が均一にならない。
【0047】
前記平均粒子径はレーザー回折散乱法による体積基準の粒度分布における累積平均径D50(メディアン径)であり、例えば、日機装(株)製マイクロトラックMT330OEXにより測定できる。
【0048】
(D)成分の配合量は、本発明の熱伝導性シリコーン組成物全体の1~50質量%であり、好ましくは20~40質量%である。(D)成分が1質量%未満であると熱伝導性シリコーン組成物が均一にならず、50質量%を超えると熱伝導性シリコーン組成物の粘度が著しく上昇する。
【0049】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、上記(A)成分が、1分子中に1個以上の脂肪族不飽和炭化水素基を含有するオルガノシロキサンである場合、さらに、下記(E)~(G)成分を添加することにより、付加反応型の熱伝導性シリコーン組成物とすることができる。
【0050】
[(E)成分]
(E)成分は、1分子中に2個以上、好ましくは3個以上40個未満のケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、分子中のケイ素原子結合水素原子が、組成物中の脂肪族不飽和炭化水素基と後述する白金族金属触媒の存在下において付加反応し、架橋構造を形成する。
【0051】
(E)成分の分子構造は特に限定されず、例えば、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、下記平均組成式で示すものを用いることができる。
SiO(4-e-f)/2
【0052】
式中、Rは、独立に、脂肪族不飽和炭化水素基を除く、炭素原子数1~18、好ましくは1~14の、非置換又は置換の一価炭化水素基である。該一価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、及びオクタデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、及びアリル基等のアルケニル基、フェニル基、及びトリル基等のアリール基、2-フェニルエチル基、及び2-メチル-2-フェニルエチル基等のアラルキル基、又は、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えば、3,3,3-トリフロロプロピル基、2-(パーフロロブチル)エチル基、2-(パーフロロオクチル)エチル基、p-クロロフェニル基等が挙げられる。Rとして、特にメチル基、フェニル基が好ましい。
eは1.0~3.0、好ましくは0.5~2.5、fは0.005~2.0、好ましくは0.01~1.0であり、かつe+fは0.5~3.0、好ましくは0.8~2.5を満たす正数である。
【0053】
(E)成分の配合量は、(A)成分中のケイ素原子と結合した脂肪族不飽和炭化水素基1個あたりの(E)成分中のケイ素原子と結合した水素原子の数が0.1~5.0個となる量が好ましく、より好ましくは0.1~1.0個となる量である。このような範囲であれば、架橋が十分なものとなり組成物の取り扱い性も良好である。また、(E)成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて配合してよい。
【0054】
[(F)成分]
(F)成分は、白金族金属触媒であり、(A)成分中のアルケニル基等の脂肪族不飽和炭化水素基と(E)成分中のSiH基とのヒドロシリル化反応を促進するための触媒である。白金族金属触媒は、付加反応に用いられる従来公知のものを使用することができる。例えば白金系、パラジウム系、ロジウム系の触媒が挙げられるが、中でも比較的入手しやすい白金または白金化合物が好ましい。例えば、白金の単体、白金黒、塩化白金酸、白金-オレフィン錯体、白金-アルコール錯体、白金配位化合物等が挙げられる。
【0055】
(F)成分の添加量は、(A)成分のオルガノポリシロキサンに対し白金族金属原子の質量換算で1~2,000ppm、好ましくは2~1,000ppmの範囲とすることが好ましい。この範囲であれば、付加反応の反応速度が適切なものとなる。
(F)成分は、1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0056】
[(G)成分]
(G)成分は、室温でのヒドロシリル化反応の進行を抑える反応制御剤であり、シェルフライフ、ポットライフを延長させる為に機能する。該制御剤は、付加硬化型シリコーン組成物に使用される従来公知の制御剤を使用することができる。例えば、アセチレンアルコール類(例えば、エチニルメチルデシルカルビノール、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール)等のアセチレン化合物、トリブチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾール、オキシム化合物等の各種窒素化合物、トリフェニルホスフィン等の有機リン化合物、有機クロロ化合物等が挙げられる。
【0057】
[その他の成分]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、弾性率や粘度を調整する目的でメチルポリシロキサン等の反応性を有しないオルガノ(ポリ)シロキサンを含有してもよい。また、シリコーン組成物の劣化を防ぐために、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール等の公知の酸化防止剤を必要に応じて含有してもよい。さらに、染料、顔料、難燃剤、沈降防止剤、又はチクソ性向上剤等を、必要に応じて配合することができる。
【0058】
[熱伝導性シリコーン組成物]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物のISO 22007-2準拠のホットディスク法による熱伝導率は2.0W/m・K以上7.0W/m・K未満である。なお、熱伝導率の測定方法は後述するように、熱伝導性シリコーン組成物をキッチンラップに包み、巾着状にした試験片を京都電子工業(株)製TPA-501で25℃の条件で測定すればよい。
【0059】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物のスパイラル粘度計による25℃、回転数10rpmにおける粘度は5~800Pa・s、好ましくは10~500Pa・sである。粘度が5Pa・s未満では、形状保持が困難となる等、作業性が悪くなるおそれがある。また粘度が800Pa・sを超える場合にも吐出が困難となる等、作業性が悪くなるおそれがある。粘度は、上述した各成分の配合により調整できる。本発明において、粘度(絶対粘度)は、スパイラル粘度計を用いて回転数10rpm、25℃で測定した値である。
【0060】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、JIS C 2134準拠の耐トラッキング試験によって350V以上の耐トラッキング性を有することが好ましい。
【0061】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物の粘弾性特性は、2.0mm厚さ、120℃、角速度1rad/sの条件における、10%歪のときの複素弾性率Gが10,000Pa・s以下であり、損失弾性率G”/貯蔵弾性率G’の値が8.0以下であることが好ましい。粘弾性特性がこの範囲にあることで実装後に基材が膨張、振動した際のシリコーン組成物のポンピングアウトを抑えることができる。なお、粘弾性特性の測定方法は後述するように、粘弾性測定装置を用いて、所定の2枚のパラレルプレートの間に、熱伝導性シリコーン組成物を厚み2.0mmで塗布し、これを25℃から5℃/分にて昇温後、120℃において10分間温度を維持した後、角速度1rad/sにてせん断させながらひずみを増加させて貯蔵弾性率G’、損失弾性率G”、複素弾性率Gを測定すればよい。
【0062】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、良好な圧縮性を有するものである。厚み100μmの前記熱伝導性シリコーン組成物を25℃、0.1MPaの加圧を60分間行ったときの熱伝導性シリコーン組成物の厚みは5μm以上45μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは10μm以上32μm以下である。このような厚みであれば、基材が熱で膨張した際に互いにこすれるおそれがなく、熱抵抗が大きくなりすぎないため、熱伝導性材料として最適である。なお、加圧を行った時の厚みの測定方法は後述するように、所定の円形アルミニウム板2枚で厚み100μmの熱伝導性シリコーン組成物を挟み、25℃、0.1MPaで60分間加圧を行って得られる試験片の厚みをマイクロメータで測定し、アルミニウム板の厚みを差し引いて加圧後の組成物の厚みを測定すればよい。
【0063】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物はモース硬度の低い酸化亜鉛を充填材としているため、熱伝導性シリコーン組成物として最適である。シリコンチップにこすり付けたときに磨耗させない。なお、磨耗試験の試験方法は後述するシリコンチップの傷つけ試験のように、所定のシリコンウェハー2枚で熱伝導性シリコーン組成物を挟み、25℃、0.1MPaで60分間加圧を行うことで得られる試験片を用いて、熱伝導性シリコーン組成物を介して対面する2枚のシリコンウェハーを手動で1回/秒で100回擦った後、トルエン溶液でウェハーを洗浄した後の表面を光学顕微鏡で観察することにより行えばよい。
【0064】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、LSI等の電子部品その他の発熱部材と冷却部材との間に介在させて発熱部材からの熱を冷却部材に伝熱して放熱するために好適に用いることができ、従来の熱伝導性シリコーングリースと同様の方法で使用することができる。
【0065】
[熱伝導性シリコーン組成物の製造方法]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物の製造方法について説明するが、これらに限定されるものではない。
【0066】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物を製造する方法は、従来の熱伝導性シリコーン組成物の製造方法に従えばよく、特に制限されるものでない。例えば、上記(A)~(D)成分、並びに、必要に応じて(E)、(F)、(G)及びその他の任意成分を混合することにより得ることができる。混合装置としては特に限定されず、トリミックス、ツウィンミックス、プラネタリーミキサー(いずれも井上製作所(株)製混合機の登録商標)、ウルトラミキサー(みずほ工業(株)製混合機の登録商標)、ハイビスディスパーミックス(特殊機化工業(株)製混合機の登録商標)等の混合機を用いることができる。また、熱伝導性充填材である(C)成分及び(D)成分の不定形酸化亜鉛粒子の凝集を解砕するために3本ロール仕上げ処理などを施してもよい。
【0067】
(A)成分が、1分子中にケイ素原子に結合した脂肪族不飽和炭化水素基を1個以上有するオルガノポリシロキサンであり、上記(E)、(F)、及び(G)成分を使用する場合、100℃以上の温度で30分以上混合することが好ましく、これにより、(A)成分と(E)成分とが十分にヒドロシリル化反応によって架橋し、熱伝導性シリコーン組成物をより適切な粘度とすることができる。
【実施例
【0068】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。下記において動粘度はオストワルド粘度計(柴田科学社製)により25℃で測定した値である。
【0069】
使用した成分は以下のとおりである。
[(A)成分]
A-1:両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖され、25℃における動粘度が600mm/sのジメチルポリシロキサン
【0070】
[(B)成分]
B-1:下記式で示される加水分解性オルガノポリシロキサン
【化4】
【0071】
[(C)成分]
C-1:D50が5.0μmである不定形の酸化亜鉛粉末(モース硬度:4、45μm以上の粗粒:0.1質量%未満)
C-2:D50が11.0μmである不定形の酸化亜鉛粉末(モース硬度:4、45μm以上の粗粒:0.1質量%未満)
C-3:D50が21.0μmである不定形の酸化亜鉛粉末(モース硬度:4、45μm以上の粗粒:0.4質量%)
C-4:D50が20.0μmである球状酸化亜鉛粉末(モース硬度:4、45μm以上の粗粒:1.9質量%)
C-5:D50が3.5μmである多面体状のアルミナ粉末(モース硬度:9、45μm以上の粗粒:0.1質量%未満)
【0072】
[(D)成分]
D-1:D50が1.3μmである不定形の酸化亜鉛粉末(モース硬度:4)
D-2:D50が0.4μmである不定形の酸化亜鉛粉末(モース硬度:4)
D-3:D50が0.7μmである不定形窒化アルミニウム:(モース硬度:8)
D-4:D50が1.4μmである不定形のアルミナ:(モース硬度:9)
【0073】
[(E)成分]
E-1:両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、25℃での動粘度が100mm/sでSiH基含有量が0.0055mol/gのオルガノハイドロジェンシロキサン
【0074】
[(F)成分]
F-1:白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体を上記A-1と同じジメチルポリシロキサンに溶解した溶液(白金原子含有量:1質量%)
【0075】
[(G)成分]
G-1:エチニルシクロヘキサノール
【0076】
[実施例1~6、比較例1~6]
〈熱伝導性シリコーン組成物の調製〉
上記(A)~(G)成分を、下記表1及び2に示す配合量に従い、下記調製例に示す方法で配合してシリコーン組成物を調製した。
【0077】
(調製例)
5リットルのプラネタリーミキサー(井上製作所(株)製)に(A)~(G)成分を加え、150℃で3時間混合した。その後25℃になるまで冷却しシリコーン組成物を調製した。
【0078】
上記方法で得られた各組成物について、下記の方法に従い、粘度、熱伝導率、厚み、粘弾性、シリコンチップの傷つけ、耐トラッキング性の評価を行った。結果を表1及び2に示す。
【0079】
<評価>
[粘度]
熱伝導性シリコーン組成物の絶対粘度を(株)マルコム製スパイラル粘度計(タイプPC-1T、ロータA)を用いて25℃、回転数10rpm、ズリ速度6[1/s]の条件で測定した。
【0080】
[熱伝導率]
熱伝導性シリコーン組成物をキッチンラップに包み、巾着状にした試験片の熱伝導率を京都電子工業(株)製TPA-501で25℃の条件で測定した。
【0081】
[厚み]
直径12.6mm,厚み1mmの円形アルミニウム板2枚で厚み100μmの熱伝導性シリコーン組成物を挟み、25℃、0.1MPaで60分間加圧を行い試験片を作製した。試験片の厚みをマイクロメータ(株式会社ミツトヨ製)で測定し、アルミニウム板の厚みを差し引いて加圧後の組成物の厚みを測定した。
【0082】
[粘弾性]
直径2.5cmの2枚のパラレルプレートの間に、熱伝導性シリコーン組成物を厚み2.0mmで塗布した。塗布したプレートを25℃から5℃/分にて昇温後、120℃において10分間温度を維持した後、角速度1.0rad/sにてせん断させながらひずみを増加させて貯蔵弾性率G’、損失弾性率G”、複素弾性率Gを測定した。測定は粘弾性測定装置(ティーエーインスツルメント社製、タイプARES-G2)を用いて行った。なお表中の複素弾性率G、損失弾性率G”/貯蔵弾性率G’の値は、10%歪のときの値である。
【0083】
[シリコンチップの傷つけ試験]
10mm角のシリコンウェハー2枚で厚み100μmの熱伝導性シリコーン組成物を挟み、25℃、0.1MPaで60分間加圧を行い試験片を作製した。熱伝導性シリコーン組成物を介して対面する2枚のシリコンウェハーを手動で1回/秒で100回擦った後、トルエン溶液でウェハーを洗浄し、ウェハー表面を光学顕微鏡で観察した。傷が無ければ〇、観察されれば×とした。
【0084】
[耐トラッキング試験]
25℃、50RH%で3mmの厚さで1.3cmの正方形になるように組成物を塗布し試験片を作製した。ヤマヨ試験器製YST-112形を用いて、電極で両端部を挟み、350Vの電圧をかけた状態で0.1%の塩化アンモニウム水溶液を滴下した。50滴滴下して試験片が破壊されなかった場合は〇、破壊された場合は×とした。以上は、JIS C 2134に準拠して行った。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
上記表1,2中、「(C)不定形酸化亜鉛の質量分率」は、(C)成分の熱伝導性充填材に含まれる不定形酸化亜鉛粒子の組成物全体に対する質量分率である。
【0087】
表1及び2の結果より、本発明の要件を満たす実施例1~6の熱伝導性シリコーン組成物では高い熱伝導率を有し、良好な圧縮性を有するとともに、シリコンチップの損傷を抑制していることがわかる。
【0088】
一方、本発明の(C)成分を含まない比較例1では熱伝導率が不十分であり、さらにシリコンチップが損傷した。また、(C)成分中の45μm以上の粗粒の含有量が本発明の範囲を超える組成物を用いた比較例2は、厚みが80μmとなり放熱性能が不十分となった。また、本発明の(C)成分に代えてモース硬度の高いアルミナを用いた比較例3、並びに、本発明の(D)成分に代えてモース硬度の高いアルミナや窒化アルミニウムを用いた比較例4及び5では、シリコンチップが損傷した。粘度が800Pa・sを超える組成物を使用した比較例6では、傷つけ試験の際のチップの変位に追随できず組成物が脱落し、結果的にシリコンチップが損傷した。
【0089】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。