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特許7606455酸化ルテニウムガスの吸収液、酸化ルテニウムの分析方法およびトラップ装置、定量分析装置
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  • 特許-酸化ルテニウムガスの吸収液、酸化ルテニウムの分析方法およびトラップ装置、定量分析装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】酸化ルテニウムガスの吸収液、酸化ルテニウムの分析方法およびトラップ装置、定量分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/22 20060101AFI20241218BHJP
   G01N 21/73 20060101ALI20241218BHJP
   G01N 21/59 20060101ALI20241218BHJP
   G21F 9/02 20060101ALI20241218BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20241218BHJP
   B01D 53/18 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
G01N1/22 S
G01N21/73
G01N21/59 Z
G21F9/02 511S
B01D53/14 210
B01D53/18 110
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021526834
(86)(22)【出願日】2020-06-17
(86)【国際出願番号】 JP2020023732
(87)【国際公開番号】W WO2020256007
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2019115740
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伴光
(72)【発明者】
【氏名】吉川 由樹
(72)【発明者】
【氏名】下田 享史
(72)【発明者】
【氏名】根岸 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】前田 繁則
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-072833(JP,A)
【文献】特開平02-069658(JP,A)
【文献】特開2000-034563(JP,A)
【文献】特公平07-052234(JP,B2)
【文献】特表2015-514563(JP,A)
【文献】特開2014-048084(JP,A)
【文献】特表2006-520680(JP,A)
【文献】特開平07-287096(JP,A)
【文献】特開2020-087945(JP,A)
【文献】国際公開第2020/166677(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/22
G01N 21/73
G01N 21/59
G21F 9/02
B01D 53/14
B01D 53/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オニウムイオンとしてアンモニウムイオンと、少なくとも一部が水酸化物イオンであるアニオンとからなるオニウム塩を含む有機アルカリ溶液を含有し、水酸化物イオン濃度が、1×10-7mol/Lより大きく、6mol/L以下の濃度範囲にあることを特徴とする、酸化ルテニウムガス吸収液。
【請求項2】
前記アンモニウムイオンが、テトラアルキルアンモニウムイオンであることを特徴とする、請求項に記載の酸化ルテニウムガス吸収液。
【請求項3】
前記テトラアルキルアンモニウムイオンが、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、又はテトラブチルアンモニウムイオンから選ばれる少なくとも1種のテトラアルキルアンモニウムイオンであることを特徴とする、請求項に記載の酸化ルテニウムガス吸収液。
【請求項4】
さらに、酸化ルテニウムガス発生抑制剤として、オニウムイオンと水酸化物以外のアニオンから構成されるオニウム塩を含むことを特徴とする請求項1に記載の酸化ルテニウムガス吸収液。
【請求項5】
前記オニウムイオンが、式(1)で示される第四級オニウムイオン又は式(2)で示される第三級オニウムイオンであることを特徴とする、請求項に記載の酸化ルテニウムガス吸収液。
【化1】
【化2】
(式(1)中、A+はアンモニウムイオン、ホスホニウムイオンであり、R1、R2、R3、R4は炭素数1~25のアルキル基、アリル基、炭素数1~25のアルキル基を有するアラルキル基、またはアリール基である。ただし、R1、R2、R3、R4がアルキル基又はアリル基である場合、R1、R2、R3、R4のうち少なくとも1つの水素は水酸基、カルボキシル基、シアノ基、アミノ基、チオール基、ハロゲン基、スルホン酸基で置き換えられてもよい。また、アラルキル基中のアリール基およびアリール基の環において少なくとも1つの水素は、フッ素、塩素、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数1~9のアルコキシ基、または炭素数2~9のアルケニルオキシ基で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素は、フッ素又は塩素で置き換えられてもよい。式(2)中、A+はスルホニウムイオンであり、R1、R2、R3は炭素数1~25のアルキル基、アリル基、炭素数1~25のアルキル基を有するアラルキル基、またはアリール基である。また、アラルキル基中のアリール基およびアリール基の環において少なくとも1つの水素は、フッ素、塩素、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数1~9のアルコキシ基、または炭素数2~9のアルケニルオキシ基で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素は、フッ素又は塩素で置き換えられてもよい。)
【請求項6】
前記オニウムイオンが式(1)で示され、かつR1、R2、R3、R4は炭素数1~4のアルキル基である第四級オニウムイオンであることを特徴とする、請求項に記載の酸化ルテニウムガス吸収液。
【請求項7】
前記アニオンが、フッ化物イオン、塩化物イオン、ヨウ化物イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、硫酸水素イオン、メタン硫酸イオン、過塩素酸イオン、塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、オルト過ヨウ素酸イオン、メタ過ヨウ素酸イオン、ヨウ素酸イオン、亜ヨウ素酸イオン、次亜ヨウ素酸イオン、酢酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、フルオロホウ酸イオン、又はトリフルオロ酢酸イオンから選ばれる少なくとも1種である、請求項に記載の酸化ルテニウムガス吸収液。
【請求項8】
さらに、酸化ルテニウムガス発生抑制剤として、ルテニウムと配位する配位子を含むことを特徴とする請求項1~に記載の酸化ルテニウムガス吸収液。
【請求項9】
前記ルテニウムと配位する配位子が、シュウ酸、シュウ酸ジメチル、1,2,3,4,5,6-シクロヘキサンヘキサカルボン酸、コハク酸、酢酸、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、ジメチルマロン酸、グルタル酸、ジ-グリコール酸、クエン酸、マロン酸、1,3-アダマンタンジカルボン酸、または2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸である、請求項に記載の酸化ルテニウムガス吸収液。
【請求項10】
前記オニウムイオンの濃度が、1×10-7mol/L~8mol/Lであることを特徴とする、請求項に記載の酸化ルテニウムガス吸収液。
【請求項11】
さらに、水または有機溶媒を含む、請求項に記載の酸化ルテニウムガス吸収液。
【請求項12】
前記有機溶媒の比誘電率が45以下である事を特徴とする、請求項11に記載の酸化ルテニウムガス吸収液。
【請求項13】
前記有機溶媒が、スルホラン類、アルキルニトリル類、ハロゲン化アルカン類、エーテル類、エステル類、アルデヒド類、ケトン類、およびアルコール類の群から選ばれる少なくとも1種である事を特徴とする、請求項11または12に記載の酸化ルテニウムガス吸収液。
【請求項14】
前記有機溶媒の処理液における濃度が0.1質量%以上であることを特徴とする、請求項11に記載の酸化ルテニウムガス吸収液。
【請求項15】
酸化ルテニウムガスを含有する被処理ガスと、請求項に記載の酸化ルテニウムガス吸収液とを接触させて、被処理ガスから酸化ルテニウムガスを回収したのち、酸化ルテニウムガス吸収液中の酸化ルテニウム量を分析する、被処理ガス中の酸化ルテニウムの分析方法。
【請求項16】
前記被処理ガスが、ルテニウム金属を含む半導体材料の加工に使用された半導体用薬液に由来するものであることを特徴とする請求項15に記載の分析方法。
【請求項17】
ルテニウム金属を含む半導体装置の加工工程の排気経路に配置され、排ガス中の酸化ルテニウム成分を回収するトラップ部を備え、前記トラップ部に、前記排ガスに含まれる酸化ルテニウムの捕捉手段として、請求項に記載の酸化ルテニウムガス吸収液の装入容器、供給手段及び吸収後の酸化ルテニウムガス吸収液を排出する排液管とを具備することを特徴とする、トラップ装置。
【請求項18】
ルテニウム金属を含む半導体装置の加工工程の排気経路に配置され、排ガス中の酸化ルテニウム成分を回収するトラップ部を備え、前記トラップ部に、前記排ガスに含まれる酸化ルテニウムの捕捉手段として、請求項に記載の酸化ルテニウムガス吸収液の装入容器、供給手段及び吸収後の酸化ルテニウムガス吸収液を排出する排液管とを具備するトラップ装置および、
トラップ装置から排液された吸収液中の酸化ルテニウム成分を定量分析する分析手段を設けてなる、酸化ルテニウムガスの定量分析装置。
【請求項19】
分析手段が、ICP発光分光分析法、ICP質量分析法、または紫外可視分光法(UV-VIS)による分析手段であることを特徴とする請求項18に記載の定量分析装置。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の製造工程において、ルテニウムを含む半導体ウェハを加工する際に、発生するルテニウム含有ガスの分析精度を高めることが可能な、新規な酸化ルテニウムガス吸収液および該吸収液を用いた分析方法およびトラップ装置、定量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体素子のデザインルールの微細化が進んでおり、配線抵抗が増大する傾向にある。配線抵抗が増大した結果、半導体素子の高速動作が阻害されることが顕著になっており、対策が必要となっている。そこで、配線材料としては、従来の配線材料よりも、エレクトロマイグレーション耐性や抵抗値の低減された配線材料が所望されている。
【0003】
従来の配線材料であるアルミニウム、銅と比較して、ルテニウムは、エレクトロマイグレーション耐性が高く、配線の抵抗値を低減可能という理由で、特に、半導体素子のデザインルールが10nm以下の配線材料として、注目されている。その他、配線材料だけでなく、ルテニウムは、配線材料に銅を使用した場合でも、エレクトロマイグレーションを防止することが可能なため、銅配線用のバリアメタルとして、ルテニウムを使用することも検討されている。
【0004】
ところで、半導体素子の配線形成工程において、ルテニウムを配線材料として選択した場合でも、従来の配線材料と同様に、ドライ又はウェットのエッチングによって配線が形成される。
【0005】
しかしながら、いずれの方法で加工する場合にも、ルテニウムは、揮発性の高いRuO4(Ruは+8価。以下、酸化ルテニウムと記載)へと変化し、その一部がガス化して気相へ放出される。
【0006】
RuO4は強酸化性であるため人体に有害であり、健康被害が懸念されるだけでなく、酸化力が極めて強く、有機物や容器の表面、空気中の水蒸気等と反応して容易にRuO2(Ruは+4価)に変化してRuO2パーティクルを生じる。RuO2パーティクルは、エッチングやMP処理により半導体製造装置内、たとえばチャンバー内部やウェハ固定冶具、排気設備内などに蓄積していくため定期的に洗浄作業や交換作業が必要となり、製品歩留まりを低下させる原因となる。
【0007】
したがって、酸化ルテニウム発生量は、より少ないことが好ましく、ゼロであることが最も好ましいとされ、エッチング剤やCMPスラリーは、酸化ルテニウムガス発生が生じにくいものが開発されるようになっている。
【0008】
これに伴い、安全性を高め、製品歩留まりを高めるために、酸化ルテニウムガス発生量を定量する分析方法も望まれている。
たとえば、非特許文献1には、酸化ルテニウムガス中に含まれるRu放射性同位体を利用した酸化ルテニウム定量法が知られている。
【0009】
また、特許文献1には、半導体製造装置(ドライエッチング装置)と酸化ルテニウムガス濃度測定器を組み合わせた例が挙げられ、発色剤としてN,N-ジエチル-p-フェニレンジアミンを酸化防止剤、防湿剤と組合せて用いたガス検知方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】日本原子力学会誌、1986年, Vol.28, No.6, p493-500
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2002-267606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、先行技術文献に記載された従来の分析方法では、以下の点で改善の余地があることが分かった。
例えば、非特許文献1の方法は高感度であるが、放射化されたルテニウムを評価するため、実施は容易ではない。また特許文献1では、色素が酸化ルテニウムにより酸化されて発色することを利用しているが、発色で確認するだけなので、酸化ルテニウム以外の酸化剤による発色であっても酸化ルテニウムとして検出されてしまうという問題があった。さらに、雰囲気中に水蒸気が含まれる場合には誤差が大きくなるため、特に、ウェットエッチング又はCMPスラリーから発生する酸化ルテニウムの定量には不向きである。その上、検出の下限が高いという問題点があった。
【0013】
したがって、簡便な方法で、いかなる加工条件にも適用可能な定量下限の低い酸化ルテニウム定量法が必要とされていた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、放射化が不要で、定量性がある方法として、ガストラップ液を用いたRuO4分析法を用いて、上記課題を解決することを本発明者らは検討した。
一般に知られているガストラップ液は、酸性(塩酸)、アルカリ性(水酸化ナトリウム水溶液)、低極性溶媒(四塩化炭素)の3種類であり、ガストラップ液の性質(pH,極性)により、溶解した酸化ルテニウムの溶存状態が変化する。塩酸中では [RuCl6]2-又は[RuCl5]2- 、NaOH中ではRuO4 2-, RuO4 -、四塩化炭素中ではRuO4で存在するとされている。
【0015】
そして、本発明者らの検討で、ガストラップ液中のルテニウムの溶存状態は、(1) 酸化ルテニウムガスの捕集効率、(2)ICP(誘導結合プラズマ)による励起効率に影響することが分かった。
【0016】
さらに検討を行った結果、水酸化ナトリウムで酸化ルテニウムをトラップしたのち、塩酸酸性条件下で塩化ルテニウム錯イオンに変換してからICPで励起し測定することで、安定した捕集・定量が可能となると考えた。
【0017】
しかしながら、NaOHをガストラップ液に用いると、ガストラップ液中にナトリウムが多量に存在する。
このNaに妨害されるため高感度なICP-MSを使えないという問題点が新たに生じる。これに対しては、Naに妨害されないICP-OESを使用せざるを得ず、感度が悪い、すなわち定量下限が高いという課題が残る。
【0018】
そこで、NaOHの代わりに、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)等の有機アルカリを用いると、ICP-MSを使用でき、高感度化が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
[1]オニウムイオンと少なくとも一部が水酸化物イオンであるアニオンとからなるオニウム塩を含む有機アルカリ溶液を含有し、水酸化物イオン濃度が、1×10-7mol/Lより大きく、6mol/L以下の濃度範囲にあることを特徴とする、酸化ルテニウムガス吸収液。
[2]前記オニウムイオンが、式(1)で示される第四級オニウムイオン又は式(2)で示される第三級オニウムイオンである[1]の酸化ルテニウムガス吸収液。
【0020】
【化1】
【0021】
【化2】
(式(1)中、A+はアンモニウムイオン、ホスホニウムイオンであり、R1、R2、R3、R4は炭素数1~25のアルキル基、アリル基、炭素数1~25のアルキル基を有するアラルキル基、またはアリール基である。ただし、R1、R2、R3、R4がアルキル基又はアリル基である場合、R1、R2、R3、R4のうち少なくとも1つの水素は水酸基、カルボキシル基、シアノ基、アミノ基、チオール基、ハロゲン基、スルホン酸基で置き換えられてもよい。また、アラルキル基中のアリール基およびアリール基の環において少なくとも1つの水素は、フッ素、塩素、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数1~9のアルコキシ基、または炭素数2~9のアルケニルオキシ基で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素は、フッ素又は塩素で置き換えられてもよい。式(2)中、A+はスルホニウムイオンであり、R1、R2、R3は炭素数1~25のアルキル基、アリル基、炭素数1~25のアルキル基を有するアラルキル基、またはアリール基である。また、アラルキル基中のアリール基およびアリール基の環において少なくとも1つの水素は、フッ素、塩素、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数1~9のアルコキシ基、または炭素数2~9のアルケニルオキシ基で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素は、フッ素又は塩素で置き換えられてもよい。)
[3]前記オニウムイオンが式(1)で示され、かつR1、R2、R3、R4は炭素数1~4のアルキル基である第四級オニウムイオンである、[2]の酸化ルテニウムガス吸収液。
[4]前記第四級オニウムイオンが、アンモニウムイオンである、[2]または[3]の酸化ルテニウムガス吸収液。
[5]前記アンモニウムイオンが、テトラアルキルアンモニウムイオンであることを特徴とする、[4]の、酸化ルテニウムガス吸収液。
[6]前記テトラアルキルアンモニウムイオンが、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、又はテトラブチルアンモニウムから選ばれる少なくとも1種のテトラアルキルアンモニウムイオンであることを特徴とする、[5]の酸化ルテニウムガス吸収液。
[7]さらに、酸化ルテニウムガス発生抑制剤として、オニウムイオンと水酸化物以外のアニオンから構成されるオニウム塩を含む[1]の酸化ルテニウムガス吸収液。
[8]前記アニオンが、フッ化物イオン、塩化物イオン、ヨウ化物イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、硫酸水素イオン、メタン硫酸イオン、過塩素酸イオン、塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、オルト過ヨウ素酸イオン、メタ過ヨウ素酸イオン、ヨウ素酸イオン、亜ヨウ素酸イオン、次亜ヨウ素酸イオン、酢酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、フルオロホウ酸イオン、又はトリフルオロ酢酸イオンから選ばれる少なくとも1種である、[7]の酸化ルテニウムガス吸収液。
[9]さらに、酸化ルテニウムガス発生抑制剤として、ルテニウムと配位する配位子を含むことを特徴とする請求項1に記載の酸化ルテニウムガス吸収液。
[10] 前記ルテニウムと配位する配位子が、シュウ酸、シュウ酸ジメチル、1,2,3,4,5,6-シクロヘキサンヘキサカルボン酸、コハク酸、酢酸、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、ジメチルマロン酸、グルタル酸、ジ-グリコール酸、クエン酸、マロン酸、1,3-アダマンタンジカルボン酸、または2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸である、[9]に記載の酸化ルテニウムガス吸収液。
[11]前記オニウムイオンの濃度が、1×10-3mol/L~8mol/Lであることを特徴とする、[1]~[10]の酸化ルテニウムガス吸収液。[12]さらに、水または有機溶媒を含む、[1]~[11]の酸化ルテニウムガス吸収液。[13]前記有機溶媒の比誘電率が45以下である事を特徴とする、[12]に記載の酸化ルテニウムガス吸収液。
[14]前記有機溶媒が、スルホラン類、アルキルニトリル類、ハロゲン化アルカン類、エーテル類、エステル類、アルデヒド類、ケトン類、およびアルコール類の群から選ばれる少なくとも1種である[12]または[13]の酸化ルテニウムガス吸収液。
[15] 前記有機溶媒の処理液における濃度が0.1質量%以上であることを特徴とする、[12]~[14]のいずれか1項に記載の酸化ルテニウムガス吸収液。
[16]酸化ルテニウムガスを含有する被処理ガスと、前記[1]~[15]の酸化ルテニウムガス吸収液とを接触させて、被処理ガスから酸化ルテニウムガスを回収したのち、酸化ルテニウムガス吸収液中の酸化ルテニウム量を分析する、被処理ガス中の酸化ルテニウムの分析方法。
[17]前記被処理ガスが、ルテニウム金属を含む半導体材料の加工に使用された半導体用薬液に由来するものであることを特徴とする[16]に記載の分析方法。
[18]ルテニウム金属を含む半導体装置の加工工程の排気経路に配置され、排ガス中の酸化ルテニウム成分を回収するトラップ部を備え、前記トラップ部に、前記排ガスに含まれる酸化ルテニウムの捕捉手段として、[1]~[17]のいずれか1項に記載の酸化ルテニウムガス吸収液の装入容器、供給手段及び吸収後の酸化ルテニウムガス吸収液を排出する排液管とを具備することを特徴とする、トラップ装置。
[19]ルテニウム金属を含む半導体装置の加工工程の排気経路に配置され、排ガス中の酸化ルテニウム成分を回収するトラップ部を備え、前記トラップ部に、前記排ガスに含まれる酸化ルテニウムの捕捉手段として、[1]~[17]のいずれか1項に記載の酸化ルテニウムガス吸収液の装入容器、供給手段及び吸収後の酸化ルテニウムガス吸収液を排出する排液管とを具備するトラップ装置および、
トラップ装置から排液された吸収液中の酸化ルテニウム成分を定量分析する分析手段を設けてなる、酸化ルテニウムガスの定量分析装置。
[20]分析手段が、ICP発光分光分析法、ICP質量分析法、または紫外可視分光法(UV-VIS)による分析手段であることを特徴とする[19]に記載の定量分析装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、酸化ルテニウムガス吸収液として、金属フリーな有機アルカリを含む溶液を用いる事で、ICP-MSによる酸化ルテニウムの高感度な定量が可能となる。
また、酸化ルテニウムガス吸収液に所定の酸化ルテニウムガス発生抑制剤を含むため、酸化ルテニウム捕集効率が高まり、酸化ルテニウムガス吸収液の液量を減らせることが可能となり、吸収液濃縮などの操作をしなくても、定量の高感度化が可能になる。これは、感度の高いICP-MSはもとより、ICP-OESであっても有効である。
【0023】
さらに、酸化ルテニウムガス吸収液に酸化ルテニウムガス発生抑制剤が含まれていると、該抑制剤に含まれるカチオンが、吸収液中のRuO4 2-、RuO4 -とイオン対を形成するため、効率よく酸化ルテニウムを捕集することが可能となる。
【0024】
また、本発明によれば、この酸化ルテニウムガス吸収液を使用して、半導体処理工程で発生する被処理ガス中の酸化ルテニウムを、効率的かつ簡便に高感度で、分析可能な分析方法、トラップ装置、分析装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例および比較例で評価する、装置の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施態様を説明するが、本発明はこれらの記載に何ら限定的に解釈されるものではない。
(酸化ルテニウムガス吸収液)
本発明の酸化ルテニウムガス吸収液は、オニウムイオンと、少なくとも一部が水酸化物イオンであるアニオンとからなるオニウム塩を含む有機アルカリを含有する。有機アルカリを用いる事で、ICP-MSによるルテニウムの高感度分析が可能となる。ICP-MSはルテニウムの高感度分析が可能なポテンシャルを有しているが、ガス吸収液としてNaOHやKOHなどの無機アルカリを含む液を用いた場合、NaおよびKによる妨害を受けるため、ルテニウムの微量分析は困難である。そこで、無機アルカリの代わりに、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)等の有機アルカリを用いる事で、Na等による妨害を排除できるため、ICP-MSによるルテニウムの高感度分析が可能となる。
【0027】
オニウムイオンは、第四級オニウムイオン、第三級オニウムイオン、第二級オニウムイオン、及び水素で置換されたオニウムイオンである。たとえば、オニウムイオンは、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、フルオロニウムイオン、クロロニウムイオン、ブロモニウムイオン、ヨードニウムイオン、オキソニウムイオン、スルホニウムイオン、セレノニウムイオン、テルロニウムイオン、アルソニムイオン、スチボニウムイオン、ビスムトニウムイオン等の陽イオンである。
【0028】
本発明では、前記オニウムイオンが、式(1)で示される第四級オニウムイオン又は式(2)で示される第三級オニウムイオンであることが好ましい。
【0029】
【化3】
【0030】
【化4】
式(1)中、A+はアンモニウムイオン、ホスホニウムイオンである。
【0031】
1、R2、R3、R4は炭素数1~25のアルキル基、アリル基、炭素数1~25のアルキル基を有するアラルキル基、またはアリール基である。ただし、R1、R2、R3、R4がアルキル基又はアリル基である場合、R1、R2、R3、R4のうち少なくとも1つの水素は水酸基、カルボキシル基、シアノ基、アミノ基、チオール基、ハロゲン基、スルホン酸基で置き換えられてもよい。また、R1、R2、R3、R4がアルキル基又はアリル基である場合、R1、R2、R3、R4中にカルボニル基が含まれていてもよい。さらに、アラルキル基中のアリール基およびアリール基の環において少なくとも1つの水素は、フッ素、塩素、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数1~9のアルコキシ基、または炭素数2~9のアルケニルオキシ基で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素は、フッ素又は塩素で置き換えられてもよい。
【0032】
式(2)中、A+はスルホニウムイオンであり、R1、R2、R3は炭素数1~25のアルキル基、アリル基、炭素数1~25のアルキル基を有するアラルキル基、またはアリール基である。また、アラルキル基中のアリール基およびアリール基の環において少なくとも1つの水素は、フッ素、塩素、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数1~9のアルコキシ基、または炭素数2~9のアルケニルオキシ基で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素は、フッ素又は塩素で置き換えられてもよい。
【0033】
本発明の酸化ルテニウムガス吸収液はアルカリ性であるため、吸収された酸化ルテニウムは、RuO4 -やRuO4 2-のようなアニオン(以下、RuO4 -等と記すこともある)として存在する。RuO4 -等は酸化ルテニウムガス吸収液中のオニウムイオンと静電的に相互作用することでイオン対を形成し、該酸化ルテニウムガス吸収液内に安定して存在し得る。このため、オニウムイオンを含む酸化ルテニウムガス吸収液は、酸化ルテニウムガスを効率よく吸収すると考えられる。
【0034】
上記式(1)又は(2)におけるR1、R2、R3、R4のアルキル基は、炭素数が1~25であれば特に制限されずに使用することができる。炭素数が大きいほどオニウムイオンがRuO4 -等とより強く相互作用するため、効率よくRuO4を捕集できる。一方、炭素数が大きいほどオニウムイオンが嵩高くなるため、RuO4 -等とのイオン対の酸化ルテニウムガス吸収液への溶解度が低下し、沈殿物が生じる。この沈殿物はICPによる励起に影響を与えるため、該沈殿物は生じないことが好ましい。逆に、炭素数が小さいと、オニウムイオンとRuO4 -等との相互作用が弱くなり、RuO4ガス捕集効果は弱くなるが、酸化ルテニウムガス吸収液の発泡を抑えられるため取扱いが容易である。
【0035】
よって、有機アルカリのオニウム塩において、式(1)又は(2)におけるアルキル基の炭素数は、1~25であることが好ましく、1~10であることがより好ましく、1~4であることが最も好ましい。このような炭素数のアルキル基を有するオニウム塩であれば、RuO4 -等との相互作用によりRuO4ガスを吸収液内に捕集でき、かつ沈殿物を生成しにくいため、吸収液として好適に使用できる。
【0036】
上記式(1)又は(2)におけるR1、R2、R3、R4のアリール基は、芳香族炭化水素だけでなくヘテロ原子を含むヘテロアリールも含み、特に制限はないが、フェニル基、ナフチル基が好ましい。
【0037】
上記第四級オニウムイオンは、処理液中で安定に存在し得るアンモニウムイオン又はホスホニウムイオンが好ましい。一般に、アンモニウムイオン又はホスホニウムイオンのアルキル鎖長は容易に制御でき、さらに、アリル基やアリール基を導入することも容易である。これにより、アンモニウムイオン又はホスホニウムイオンの大きさ、対称性、親水性、疎水性、安定性、溶解性、電荷密度、界面活性能等を制御することが可能となる。このようなアンモニウムイオン又はホスホニウムイオンは、酸化ルテニウムガス吸収液中でRuO4 -等とイオン対を形成しやすくなるため、該オニウム塩を含む酸化ルテニウムガス吸収液は、酸化ルテニウムガスを効率よく捕集する事ができる。
【0038】
上記第三級オニウムイオンは、処理液中で安定に存在し得るスルホニウムイオンが好ましい。一般に、スルホニウムイオンのアルキル鎖長は容易に制御でき、さらに、アリル基やアリール基を導入することも容易である。これにより、スルホニウムイオンの大きさ、対称性、親水性、疎水性、安定性、溶解性、電荷密度、界面活性能等を制御することが可能となる。このようなスルホニウムイオンは、酸化ルテニウムガス吸収液中でRuO4 -等とイオン対を形成しやすくなるため、該オニウム塩を含む酸化ルテニウムガス吸収液は、酸化ルテニウムガスを効率よく捕集する事ができる。
【0039】
上記式(1)又は(2)におけるR1、R2、R3、R4は同一の基であっても異なる基であってもいずれでもよいが、工業的な入手しやすさや安定性などの点で、同一の基であることが望ましい。
【0040】
本発明では、安定性が高く、高純度品が工業的に入手しやすく、安価であるといった理由から、前記オニウムイオンが式(1)で示され、かつR1、R2、R3、R4は炭素数1~4のアルキル基である第四級オニウムイオンが好ましく、アンモニウムイオンであることがより好ましい。アンモニウムイオンは、テトラアルキルアンモニウムイオンが好ましく、テトラアルキルアンモニウムイオンは、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、又はテトラブチルアンモニウムイオンから選ばれる少なくとも1種のアンモニウムイオンが好ましい。
【0041】
ガス吸収液中にRuO4 -等を捕集するために添加するオニウムイオンとしては、上述の通り、RuO4 -等と静電的相互作用を引き起こすものであればよい。そのため、オニウムイオンの構造は、上述の式(1)で示される第四級オニウムイオン又は式(2)で示される第三級オニウムイオンに限定されない。具体的には、式(1)および(2)で示されるオニウムイオンを含む有機アルカリと異なるオニウム塩として、例えば、イミダゾリウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、オキサゾリウムイオン等の環状構造を有するオニウムイオンや、ヘキサメトニウムイオンに代表されるジカチオンであってもよい。
【0042】
これらのオニウムイオンはアニオンと組み合わせて、すなわちオニウム塩として酸化ルテニウムガス吸収液に添加され、ルテニウムの溶解により生成されたルテニウム原子を含むイオン(RuO4 -等)をトラップすることで、酸化ルテニウムの捕集効率向上に寄与する。
【0043】
上記オニウムイオンと水酸化物イオンから構成される有機アルカリは、水酸化物イオンが、吸収液中に、1×10-7mol/Lより大きく、6mol/L以下の濃度となるように含有される。好適には、濃度の上限は5mol/Lであり、好ましくは4mol/Lであり、この濃度であれば吸収液の粘性が低く、ハンドリングしやすくなる。より好適には、濃度の上限は2.8mol/Lであり、この濃度であれば、安定性が高く、高純度の有機アルカリを工業的に安価に入手できる。濃度の下限は、好適には1×10-4mol/Lであり、より好適には1×10-3mol/Lであり、この範囲にあると、酸化ルテニウムは吸収液中においてRuO4 -、RuO4 2-として安定に存在するため、吸収液でのトラップ効率が向上する。
【0044】
前記オニウムイオンの濃度は、1×10-7mol/L~8mol/Lであり、好ましくは、1×10-3mol/L~8mol/Lである。酸化ルテニウムガスを効率よくトラップするにはある程度の量のオニウムイオンが必要となるが、高濃度になりすぎると、オニウム塩が溶解せず、また、オニウムイオンとRuO4 -等とのイオン対が沈殿することがある。
【0045】
吸収液中のオニウムイオン濃度は、有機アルカリ由来のオニウムイオンおよび有機アルカリ以外のオニウム塩由来のオニウムイオンの合計濃度となる。
(酸化ルテニウムガス発生抑制剤)
オニウムイオン濃度が上記範囲となるように調整する目的で、水酸化物以外のオニウム塩が酸化ルテニウムガス吸収液に添加されていてもよい。このような水酸化物以外のオニウム塩を酸化ルテニウムガス発生抑制剤という。前記オニウムイオン濃度および水酸化物イオン濃度を鑑み、水酸化物以外のオニウム塩の濃度は、0.0001~3mol/Lの範囲で含まれることが望ましい。
【0046】
酸化ルテニウムガス発生抑制剤として添加されるオニウム塩は、オニウムイオンとアニオンから構成され、かつ、前記有機アルカリを構成する水酸化オニウム塩とはアニオンが異なる。オニウムイオンとしては、前記したものと同様のものが挙げられる。なお、酸化ルテニウムガス発生抑制剤であるオニウム塩を構成するオニウムイオンは、前記有機アルカリを構成するオニウムイオンと同じものであっても、異なるものであってもよい。
【0047】
ここで、酸化ルテニウムガス発生抑制剤のオニウム塩において、式(1)又は(2)におけるアルキル基の炭素数は、1~25であることが好ましく、2~10であることがより好ましく、3~6であることが最も好ましい。
【0048】
前記アニオンは、水酸化物イオン以外のものであれば特に制限されないが、具体的には、フッ化物イオン、塩化物イオン、ヨウ化物イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、硫酸水素イオン、メタン硫酸イオン、過塩素酸イオン、塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、オルト過ヨウ素酸イオン、メタ過ヨウ素酸イオン、ヨウ素酸イオン、亜ヨウ素酸イオン、次亜ヨウ素酸イオン、酢酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、フルオロホウ酸イオン、又はトリフルオロ酢酸イオンから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0049】
また、酸化ルテニウムガス発生抑制剤として、ルテニウムと配位する能力を有する配位子が添加されていてもよい。
(ルテニウムと配位する能力を有する配位子)
また、酸化ルテニウムガス吸収液に、ルテニウムと配位する能力を有する配位子(以下、「配位子」と記すこともある)を添加することで、酸化ルテニウムの捕集効率を向上することもできる。このような配位子としては、例えば、アミノ基、ホスフィノ基、カルボキシル基、カルボニル基、チオール基などの窒素、リン、酸素、または硫黄などの原子を有する化合物が挙げられるが、当然のことながらこれらに限定されるものではない。酸化ルテニウムにおける、ルテニウム/酸素間の電気陰性度の差から、ルテニウムは電荷がプラスに偏った状態で存在する。このルテニウムに対し配位子に含まれる孤立電子対が配位すると、酸化ルテニウムは酸化ルテニウムガス吸収液内でより安定に存在できるようになるため、酸化ルテニウムの捕集効率が向上すると考えられる。
【0050】
また、C=Oの結合を有する配位子、例えばカルボニル基またはカルボキシル基では、以下のガス抑制機構も生じるため、酸化ルテニウムの捕集効率が高くなる。酸化ルテニウムは、それを構成するルテニウムの電気陰性度が金属の中では高い事から一般的に親電子性の強い金属酸化物として知られている。親電子性の強い金属酸化物は不飽和結合炭素に配位しやすいため、不飽和結合を有するカルボニル基を含む化合物へルテニウムが配位する。このようなカルボニル基を含む化合物と酸化ルテニウムが相互作用した化学種は、酸化ルテニウムガス吸収液内で安定に存在するため、酸化ルテニウム捕集効率が向上すると考えられる。カルボニル基を含む化合物としては、中でも、酸化剤に対する安定性の高い、ケトン、カルボン酸、エステル、アミド、エノン、酸塩化物、酸無水物などが好ましい。
【0051】
前述の通り、配位子がルテニウムに配位する場合と、配位子がルテニウムに逆配位される場合が考えられるが、本出願ではいずれの場合も、ルテニウムと配位する能力を有する配位子に該当する。該ルテニウムに配位する能力を有する配位子は、単独で酸化ルテニウムガス吸収液に添加されてもよいし、前記した酸化ルテニウムガス発生抑制剤であるオニウム塩と組み合わせて用いてもよい。
【0052】
配位子が炭化水素基を含む場合、効果的に捕集するために必要な溶解度を保つためには、炭化水素基中の炭素数は10以下である事が好ましい。炭化水素基を複数個含む場合、各炭化水素基中の炭素数が10以下である事が好ましい。炭素数が大きいと分子量が増えるため、該配位子の吸収液に対する溶解度は低下する。溶解度が低下すると吸収液中に存在する配位子の濃度が低下するため、酸化ルテニウムガスの捕集効果も低下する。
【0053】
上記、配位子による酸化ルテニウムガスの捕集機構で述べたとおり、酸化ルテニウム中のルテニウムへ孤立電子対を有するOが配位する事から、配位子は水酸基又は/およびエーテル結合を含む事が好ましい。
【0054】
上述したような理由から、本発明において、好適に使用できる配位子としては、
好ましくは、トリエタノールアミン、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、グリシン、フタル酸などのアミン類、システイン、メチオニンなどのチオール類、トリブチルホスフィン、テトラメチレンビス(ジフェニルホスフィン)などのホスフィン類、酢酸、ギ酸、乳酸、グリコール酸、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、グルコン酸、α―グルコへプトン酸、へプチン酸、フェニル酢酸、フェニルグリコール酸、ベンジル酸、没食子酸、ケイ皮酸、ナフトエ酸、アニス酸、サリチル酸、クレソチン酸、アクリル酸、安息香酸などのモノカルボン酸、リンゴ酸、アジピン酸、コハク酸、マレイン酸、酒石酸、シュウ酸、シュウ酸ジメチル、グルタル酸、マロン酸、1,3-アダマンタンジカルボン酸、ジグリコール酸などのジカルボン酸、クエン酸に代表されるトリカルボン酸、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸に代表されるテトラカルボン酸、1,2,3,4,5,6-シクロヘキサンヘキサカルボン酸に代表されるヘキサカルボン酸、アセト酢酸エチル、ジメチルマロン酸などのカルボニル化合物等を挙げることができ、
より好ましくは、酢酸、ギ酸、乳酸、グリコール酸、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、グルコン酸、α―グルコへプトン酸、へプチン酸、フェニル酢酸、フェニルグリコール酸、ベンジル酸、没食子酸、ケイ皮酸、ナフトエ酸、アニス酸、サリチル酸、クレソチン酸、アクリル酸、安息香酸などのモノカルボン酸、リンゴ酸、アジピン酸、コハク酸、マレイン酸、酒石酸、シュウ酸、シュウ酸ジメチル、グルタル酸、マロン酸、1,3-アダマンタンジカルボン酸、ジグリコール酸などのジカルボン酸、クエン酸に代表されるトリカルボン酸、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸に代表されるテトラカルボン酸、1,2,3,4,5,6-シクロヘキサンヘキサカルボン酸に代表されるヘキサカルボン酸、アセト酢酸エチル、ジメチルマロン酸などのカルボニル化合物、
さらに好ましくは、シュウ酸、シュウ酸ジメチル、1,2,3,4,5,6-シクロヘキサンヘキサカルボン酸、コハク酸、酢酸、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、ジメチルマロン酸、グルタル酸、ジグリコール酸、クエン酸、マロン酸、1,3-アダマンタンジカルボン酸、または2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、等を挙げることができる。
【0055】
酸化ルテニウムガス吸収液中の配位子の濃度は0.0001~60質量%である事が好ましい。配位子の添加量が少なすぎると、酸化ルテニウムとの相互作用が弱まり酸化ルテニウムガスの捕集効果が低減するだけでなく、吸収液中に溶解可能な酸化ルテニウムの量が少なくなるため、分析感度が低下する。一方、添加量が多すぎると、配位子と酸化ルテニウムから成る沈殿物が生成しやすくなるし、ICP-MSに干渉を引き起こすため定量が難しくなる。したがって、本発明の吸収液は、配位子を0.0001~60質量%含むことが好ましく、0.01~35質量%含むことがより好ましく、0.1~20質量%含むことがさらに好ましい。なお、配位子を添加するに場合には、1種のみを添加してもよいし、2種以上を組み合わせて添加してもよい。2種類以上の配位子を含む場合であっても、配位子の濃度の合計が上記の濃度範囲であれば、酸化ルテニウムガスを効果的に捕集する事ができる。
【0056】
吸収液中に、これらの配位子が含まれる事により、吸収液量を減らす事ができる。または、配位子に加えて水酸化物以外のオニウム塩を吸収液中に添加する事で、さらに吸収液量を減らす事が可能となる。したがって酸化ルテニウムガス発生抑制剤を含むことにより、酸化ルテニウムの定量下限を下げる事が可能となる。
【0057】
また、上記のオニウム水酸化物の他の有機アルカリ化合物及び/またはアンモニアを含んでいてもよい。有機アルカリ化合物は、炭素原子を有しアルカリ性を呈する化合物であり、(a)炭素数3以上の炭化水素アミン化合物、(b)酸素原子もしくは硫黄原子を含有するアミン化合物であることが好ましい。ここで、アミン化合物とは第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、またはその塩を含む化合物である。そこには、カルバモイル基やその塩も含まれることとする。
【0058】
炭化水素アミン化合物(a)の炭化水素基はアルカン残基(典型的にはアルキル基であるが、2 価以上の基であってもよい)、アルケン残基、アリール残基、またはそれらの組合せが挙げられる。具体的には、シクロヘキシルアミン、ペンチルアミン、ベンジルアミン、n-ヘキシルアミン、2-エチルヘキシルアミン、オクチルアミンなどが挙げられる。
【0059】
酸素原子または硫黄原子を有するアミン化合物(b)は上記で定義される炭化水素基と酸素原子または硫黄原子を含む置換基とを有する化合物であることが好ましい。具体的には、ヒドロキシ基(OH)、カルボキシル基(COOH)、メルカプト基〔スルファニル基(SH)〕、エーテル基(O)、チオエーテル基(S)、カルボニル基(CO)が挙げられる。アミン化合物(b)は炭素数1 以上である。
【0060】
酸素原子または硫黄原子を有するアミン化合物(b)としては、具体的には、カルバジン酸メチル、O-メチルヒドロキシルアミン、N-メチルヒドロキシルアミン、モノエタノールアミン、3-エトキシプロピルアミン、ジグリコールアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N,N-ジエチルモノエタノールアミン、ジエチルヒドロキシルアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、2-(メチルアミノ) エタノールなどが挙げられる。
【0061】
酸化ルテニウムガス吸収液の溶媒は通常、水である。本発明の処理液に含まれる水は、蒸留、イオン交換処理、フィルター処理、各種吸着処理などによって、金属イオンや有機不純物、パーティクル粒子などが除去された水が好ましく、特に純水、超純水が好ましい。このような水は、半導体製造に広く利用されている公知の方法で得ることができる。
(有機溶媒)
上記のように、本発明では、酸化ルテニウムガス吸収液中に存在するオニウムイオンが、RuO4 -等と静電的に相互作用し、イオン対としてRuO4 -等を該吸収液中に保持することで、RuO4ガスの捕集効率を高めている。この場合、RuO4 -等とオニウムイオンはイオン対の状態で溶液中に溶けているが、溶解度を超えた場合は沈殿物となり、RuO4ガス定量分析において誤差を生じる原因となる。そのため、該沈殿物を生じさせないことが重要であり、それにはイオン対の溶解度を上げることが好ましい。この方法として有機溶媒の添加が有効である。また、酸化ルテニウムと、酸化ルテニウムと配位する能力を有する配位子からなる化学種が沈殿物となる場合も、前述のオニウムイオンとRuO4 -等とからなるイオン対の場合と同様に、酸化ルテニウムガス吸収液に有機溶媒を添加することで該化学種の溶解度を上げ、RuO4ガス定量分析における誤差を小さくすることが可能である。以下、酸化ルテニウムガス吸収液中に存在するオニウムイオンがRuO4 -等とイオン対を形成した場合を例に有機溶媒の効果を説明するが、酸化ルテニウムと配位子からなる化学種が形成される場合は、以下の説明におけるイオン対の部分を、酸化ルテニウムと配位子からなる化学種と読み替えればよい。
【0062】
一般に、溶媒の比誘電率が低いほど、電気的に中性である化学種を溶解しやすくなる。電気的に中性であるイオン対も溶媒の比誘電率が低い方が溶解しやすい。したがって、イオン対の溶解度を上昇させるためには、本発明の酸化ルテニウムガス吸収液に添加する有機溶媒として、水(比誘電率78)よりも低い比誘電率をもつ有機溶媒を添加することが望ましい。このようにすることで、酸化ルテニウムガス吸収液の比誘電率を水のみの場合に比べて低下させることができ、オニウムイオンとRuO4 -等とのイオン対の溶解度を上げ、イオン対の沈殿を抑制できる。添加する有機溶媒としては、水よりも低い有機溶媒であればどのような有機溶媒を用いてもよいが、比誘電率は45以下が好ましく、より好ましくは20以下、さらに好ましくは10以下である。なお、これらの比誘電率は、25℃における値である。
【0063】
このような有機溶媒としては、アルキルニトリル類、アルデヒド類、エーテル類、エステル類、ケトン類、スルホラン類、ハロゲン化アルカン類、アルコール類等を挙げることができる。
【0064】
さらに具体的には、
1,4-ジオキサン(比誘電率2.2)、四塩化炭素(比誘電率2.2)、ベンゼン(比誘電率2.3)、トルエン(比誘電率2.4)、プロピオン酸(比誘電率3.4)、トリクロロエチレン(比誘電率3.4)、ジエチルエーテル(比誘電率4.3)、クロロホルム(比誘電率4.9)、酢酸(比誘電率6.2)、安息香酸メチル(比誘電率6.6)、ギ酸メチル(比誘電率8.5)、フェノール(比誘電率9.8)、p-クレゾール(比誘電率9.9)、イソブチルアルコール(比誘電率17.9)、アセトン(比誘電率20.7)、ニトロエタン(比誘電率28.1)、アセトニトリル(比誘電率37)、エチレングリコール(比誘電率37.7)、スルホラン(比誘電率43)、等であるが、当然のことながら、有機溶媒はこれらに限定されるものではない。
【0065】
比誘電率の低い有機溶媒を添加する場合、水と混和しにくい場合もあり得る。しかし、そのような場合であっても、水に僅かに溶解した有機溶媒によりイオン対の溶解度を高めることが可能であり、有機溶媒の添加は沈殿物生成の抑制に有効である。
【0066】
有機溶媒は、沈殿物生成を抑制するのに必要な量を添加すればよい。このため、酸化ルテニウムガス吸収液中の有機溶媒の濃度は0.1質量%以上であればよいが、イオン対の溶解量を増やし、RuO4 -等をイオン対として安定に酸化ルテニウムガス吸収液中に保持するため、有機溶媒の濃度は1質量%以上であることが好ましい。また、酸化ルテニウムガス、RuO4 -等、オニウム塩の溶解性や酸化ルテニウムガス吸収液の安定性を損なわない範囲であれば、有機溶媒の添加量が多いほど酸化ルテニウムガス吸収液中に溶解し得るイオン対の量が増えるため、沈殿物生成を抑制できるだけでなく、有機溶媒が少量蒸発した場合でもRuO4ガス捕集効率の低下を防ぐことが可能となる。添加する有機溶媒は1種類であっても、複数を組み合わせて添加してもよい。
【0067】
有機溶媒として揮発性の高い溶媒を用いると、酸化ルテニウムガス吸収液中の有機溶媒が蒸発するため、有機溶媒の濃度が変化して酸化ルテニウムガス吸収液の比誘電率が変化し、イオン対の溶解度が変化する。そのため、測定安定性の観点から有機溶媒は揮発性の低いものが好ましい。具体的には、20℃における蒸気圧が50mmHg以下である有機溶媒が好ましく、20mmHg以下である有機溶媒がより好ましい。
【0068】
(その他の添加剤)
本発明の酸化ルテニウムガス吸収液には、所望により本発明の目的を損なわない範囲で、その他の添加剤を配合してもよい。例えば、その他の添加剤として、酸、金属防食剤、水溶性有機溶媒、フッ素化合物、酸化剤、還元剤、錯化剤、キレート剤、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、安定化剤などを加えることができる。これらの添加剤は単独で添加してもよいし、複数を組み合わせて添加してもよい。
【0069】
これらの添加剤に由来して、また、処理液の製造上の都合などにより、本発明の処理液には、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオン、カルシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン等が含まれていてもよい。そのため、例えばpH調整剤としては、水酸化ナトリウム等の水酸化アルカリ金属や水酸化アルカリ土類金属なども含まれていてもよい。しかし、これらアルカリ金属イオン、およびアルカリ土類金属イオン等は、定量分析に影響を及ぼすことがあるため、その量は少ない方が好ましく、実際には限りなく含まれない方がよい。
【0070】
具体的には、アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンはその合計量が、1質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以下であることがさらに好ましく、10ppm以下であることが特に好ましく、500ppb以下であることが最も好ましい。
(酸化ルテニウムの分析方法)
本発明の実施態様による、被処理ガス中の酸化ルテニウムの分析方法は、酸化ルテニウムガスを含有する被処理ガスと、前記記載の酸化ルテニウムガス吸収液とを接触させて、被処理ガスから酸化ルテニウムガスを回収したのち、酸化ルテニウムガス吸収液中の酸化ルテニウム量を分析する。
【0071】
被処理ガスは、酸化ルテニウムを含むガスであり、ルテニウム金属を含む半導体材料の加工に使用された半導体用薬液に由来するものが好ましく使用される。たとえば、ルテニウム配線が形成された半導体(例えばSi)からなる基体などを加工する際に発生する酸化ルテニウムガスである。また、半導体製造工程におけるエッチング工程、残渣除去工程、洗浄工程、CMP工程等で発生する酸化ルテニウムガスを含むガスも好適に使用される。
【0072】
本発明の酸化ルテニウムガス吸収液が適用されるルテニウム源は、いかなる方法により形成されていてもよい。ルテニウムの成膜には、半導体製造工程で広く公知の方法、例えば、CVD、ALD、スパッタ、めっき等を利用できる。これらのルテニウムは、金属ルテニウムであってもよいし、ルテニウム酸化物や、他の金属との合金、金属間化合物、イオン性化合物、錯体であってもよい。また、ルテニウムはウェハの表面に露出していてもよいし、他の金属や金属酸化膜、絶縁膜、レジスト等に覆われていてもよい。他の材料に覆われている場合であっても、ルテニウムが加工工程でルテニウムの溶解が起こる際、酸化ルテニウムガスが発生する。
【0073】
酸化ルテニウムガスを回収した酸化ルテニウムガス吸収液は、公知の分析方法により、ガス吸収液中の酸化ルテニウム量を分析する。分析方法としては、特に制限されないが、たとえば、放射性ルテニウムの分析方法として、ルテニウムを水酸化マグネシウム共沈-蒸留または四塩化炭素抽出により分離した後、還元してルテニウムを沈殿させ,定量する方法を採用することも可能である。また、紫外可視分光法(UV-VIS)により酸化ルテニウムガス吸収液中の酸化ルテニウム量を定量することもできる。さらに、分析手段として、原子吸光法や誘導結合プラズマ発光分光法を用いることも可能であり、特に簡便さや精度などの点で、ICP発光分光分析法(ICP-OES)やICP質量分析法(ICP-MS)による分析手段が好ましい。本発明は酸化ルテニウムの捕集効率が高いので、吸収液の濃縮操作をする必要なく、また、有機アルカリを用いるため、ICP-MSで高感度分析を行うことも可能である。
【0074】
本発明の酸化ルテニウムガス吸収液では、有機アルカリおよび酸化ルテニウムガス発生抑制剤を構成する、カチオン、アニオンの種類、及び炭化水素鎖長、濃度を調整することで、酸化ルテニウム捕捉効率と検出効率のバランスを調整できる。また、有機アルカリを用いることで、酸化ルテニウムガスの定量下限は、無機アルカリ(例えばNaOHやKOHなど)を用いた場合に比べて1/500~1/1000程度に下げることが可能であり、さらに吸収液中に酸化ルテニウムガス発生抑制剤を添加することで、分析時の液量を1/2~1/5程度に減らすことが可能となる。これにより、2~5倍程度の高感度化が可能になる。
【0075】
そして、有機アルカリおよび酸化ルテニウムガス発生抑制剤を組み合わせることで、最大1/5000程度まで検出下限を下げることが可能になる。
また、本発明で使用されるオニウム塩を含む有機アルカリを含む吸収液は、アルカリとして酸化ルテニウムガスを吸収する効果と、酸化ルテニウムガス発生抑制剤の効果を併せ持つので、酸化ルテニウムガスの吸収液として好適となる。
【0076】
このような吸収液を採用したトラップ装置の一態様としては、
ルテニウム金属を含む半導体装置の加工工程の排気経路に配置され、排ガス中の酸化ルテニウム成分を回収するトラップ部を備え、前記トラップ部に、前記排ガスに含まれる酸化ルテニウムの捕捉手段として、前記の酸化ルテニウムガス吸収液の装入容器、供給手段及び吸収後の酸化ルテニウムガス吸収液を排出する排液管とを具備するトラップ装置を挙げることができる。
【0077】
また、トラップ装置を用いた分析装置の一態様としては、ルテニウム金属を含む半導体装置の加工工程の排気経路に配置され、排ガス中の酸化ルテニウム成分を回収するトラップ部を備え、前記トラップ部に、前記排ガスに含まれる酸化ルテニウムの捕捉手段として、前記の酸化ルテニウムガス吸収液の装入容器、供給手段及び吸収後の酸化ルテニウムガス吸収液を排出する排液管とを具備するトラップ装置および、トラップ装置から排液された吸収液中の酸化ルテニウム成分を定量分析する分析手段を設けてなる、酸化ルテニウムガスの定量分析装置を挙げることができる。
【0078】
分析手段としては、前記したものが使用でき、とくに、ICP-OES、ICP-MSまたはUV-VISによる分析手段が、簡便かつ精度が高いので好ましい。
[実施例]
以下、本発明について、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
吸収液の調製
以下の酸化ルテニウムガス吸収液1~10を調製した。
(1)酸化ルテニウムガス吸収液1(実施例1)
有機アルカリとして、1mol/Lの濃度の水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液を準備した。
(2)酸化ルテニウムガス吸収液2(実施例2)
有機アルカリとして、1.0×10-3mol/Lの濃度の水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液を準備した。
(3)酸化ルテニウムガス吸収液3(実施例3)
有機アルカリとして、2mol/Lの濃度の水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液を準備した。
(4)酸化ルテニウムガス吸収液4(実施例4)
有機アルカリとして、1mol/Lの濃度の水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液を準備した。
(5)酸化ルテニウムガス吸収液5(実施例5)
有機アルカリとして、1mol/Lの濃度の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を準備し、5質量%となるように塩化テトラプロピルアンモニウム(TPACl)を添加して、酸化ルテニウムガス吸収液5を調製した。
(6)酸化ルテニウムガス吸収液6(実施例6)
有機アルカリとして、1mol/Lの濃度の水酸化テトラプロピルアンモニウム(TPAH)水溶液を準備した。
(7)酸化ルテニウムガス吸収液7(実施例7)
5質量%のマロン酸を含む、1mol/Lの濃度の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を準備した。
(8)酸化ルテニウムガス吸収液8(実施例8)
5質量%のクエン酸を含む、1mol/Lの濃度の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を準備した。
(9)酸化ルテニウムガス吸収液9(実施例9)
5質量%のクエン酸および5質量%の塩化テトラプロピルアンモニウムを含む、1mol/Lの濃度の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を準備した。
(10)酸化ルテニウムガス吸収液10(比較例1)
アルカリ水溶液として、1mol/Lの濃度の水酸化ナトリウム水溶液を準備した。
<実施例1~9および比較例1>
実験方法:
(1)容積85mlのガラス製密閉容器に2質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液10mlを入れ、水酸化ナトリウムでpHを12に調整したのち、スパッタ成膜したルテニウム付シリコンウェハ(5×5mm、Ru膜厚20nm; Ru量として5.4×10-8mol)を、23℃で15分間浸漬させた。なお、実施例4~9では、Ruの膜厚は5nm(Ru量として1.35×10-8mol)とした。
【0079】
ウェハ上のRuが全て溶解していることを、XRFによるRu膜厚測定で確認した。
(2)その後、密閉容器に300ml/minで窒素ガスを15分間フローし、ルテニウム付シリコンウェハの浸漬中に発生した酸化ルテニウムガスを、図1の模式図にしたがい、ガストラップ液1及びガストラップ液2に順次吸収させた。
【0080】
ガストラップ液1と2には同じ酸化ルテニウムガス吸収液を使用し、表1の吸収液量として上記した酸化ルテニウムガス吸収液1~10をそれぞれ用いて評価した。
(3)ガストラップ液1及びガストラップ液2をそれぞれ10ml分取し、塩酸20ml及び超純水を加えて総量を100mlとしたのち、24時間静置した。これらを測定液とした。
(4)測定液をICP-OES(サーモフィッシャー製 iCAP6500Duo, 測定波長240.2nm)で測定し、Ruを定量した。
(5)測定液をICP-MS(アジレントテクノロジー製 ICP-MS7900, Ru検出m/z=101)で測定し、Ruを定量した。
(6)ICP-OES、ICP-MSのいずれの測定法においても、ガストラップ液2ではRuが検出されなかったため、ガストラップ液1に吸収されたRu量を、酸化ルテニウム定量値とした。
【0081】
なお、実施例1~9及び比較例1において、ガストラップ液2を用いて、同一の条件で測定を10回実施し、測定値の標準偏差(σ)を求めた。定量下限は、分析値として定量し得る最低量であり、σの10倍量とした。結果を合わせて表1に示す。
【0082】
【表1】
比較例1は、ナトリウムを多量に含むため、ICP-MSで評価できなかった。ICP-OESの定量下限は、1.4×10-8モルであった。
【0083】
実施例1~3に示すように、吸収液中に含まれる水酸化物イオン濃度を変えた場合においても、吸収液中に含まれる酸化ルテニウムを高感度に定量できる事が分かった。
実施例4では、実施例1に比べてルテニウム膜厚が半分になっている事で、吸収液中に含まれるルテニウム濃度が低下しており、ICP-MSによるルテニウムの測定値が定量下限以下となった。実施例5および6では、吸収液中にルテニウム捕集効果のあるテトラプロピルアンモニウムイオンが含まれる事により、吸収液量を減らす事ができた。また、実施例7および8では、配位子として、吸収液中にルテニウム捕集効果のあるマロン酸およびクエン酸が含まれる事により、吸収液量を減らす事ができた。実施例9では、配位子に加えて水酸化物以外のオニウム塩を吸収液中に添加する事で、実施例7および8と比べて、さらに吸収液量を減らす事ができた。これにより、実施例5~9では、実施例4と比べて酸化ルテニウムの定量下限を下げる事ができたため、ICP-MSにより酸化ルテニウムを高感度に定量できた。
【0084】
以上の結果から、本発明により、酸化ルテニウムの定量について、1000倍の高感度化を達成できた。また、吸収液の液量を減らせるため、濃縮などの操作をしなくとも高感度化が可能であり、これは、ICP-MSおよびICP-OESいずれの場合も有効であった。
図1