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特許7606459多結晶シリコンロッドおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】多結晶シリコンロッドおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/035 20060101AFI20241218BHJP
   C01B 33/02 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
C01B33/035
C01B33/02 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021542803
(86)(22)【出願日】2020-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2020031410
(87)【国際公開番号】W WO2021039569
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2019152508
(32)【優先日】2019-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】紙川 敬充
(72)【発明者】
【氏名】惠本 美樹
(72)【発明者】
【氏名】浅野 卓也
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-062243(JP,A)
【文献】国際公開第2017/221952(WO,A1)
【文献】特開2018-021852(JP,A)
【文献】特開2011-063471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンの棒状体からなる芯線を有する多結晶シリコンロッドであって、上記芯線と該芯線の表面に析出した多結晶シリコンとの界面から2mmの領域における、鉄及びニッケルの総金属濃度が元素換算で40pptw以下であることを特徴とする、多結晶シリコンロッド。
【請求項2】
前記領域における鉄の濃度が元素換算で20pptw以下、ニッケルの濃度が元素換算で5pptw以下である、請求項1に記載の多結晶シリコンロッド。
【請求項3】
前記領域におけるクロムの濃度が元素換算で10pptw以下、である、請求項1又は2に記載の多結晶シリコンロッド。
【請求項4】
シリコンの棒状体からなる芯線に通電するための電極を設けた底板と、該底板を覆うドーム型のカバーとを有する反応器を使用し、前記電極に前記芯線を接続して通電しながら、前記反応器内に多結晶シリコン析出用原料ガスを供給し、前記芯線の表面に多結晶シリコンを気相成長させる多結晶シリコンロッドの製造方法であって、
前記芯線の表面を清浄化してから、該芯線を電極に接続し、可動式のクリーンブースを用いて、該芯線の上部より前記カバーで底板を覆うまでの間、前記シリコン芯線をISO14644-1により定義されるClass4~6の清浄度に調整された雰囲気下に置くことを特徴とする多結晶シリコンロッドの製造方法。
【請求項5】
前記クリーンブースが、水平気流対向方式で清浄化された空気を反応器に供給する構造を有し、前記反応器を、前記クリーンブース内に収納して、前記シリコン芯線が置かれる雰囲気の清浄度を達成することを特徴とする請求項4に記載の多結晶シリコンロッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な多結晶シリコンロッドおよびその製造方法に関する。詳しくは、多結晶シリコン内部に含まれる重金属の濃度が効果的に低減された多結晶シリコンロッドおよびその製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体あるいは太陽光発電用ウェハーの原料として使用する多結晶シリコンは、通常、ジーメンス法を用いて製造される。ジーメンス法における多結晶シリコン製造では、図1に示すように、シリコンの棒状体からなる芯線4(以下、シリコン芯線とも言う)を、底板2に設けられた電極1に接続し、上記シリコン芯線をドーム型のカバー3で覆い、形成された空間にトリクロロシラン等のシラン化合物のガス及び水素等の還元性ガスを含む多結晶シリコン析出用原料ガスを供給し、上記シリコン芯線4を通電により加熱し、その表面に多結晶シリコン5を気相成長させ、多結晶シリコンロッドを得ている。
【0003】
前記多結晶シリコン製造に用いるシリコン芯線は、通常、金属製のブレードを用いて多結晶シリコンロッドなどの一部を細棒に切り出すことにより得るため、切り出した直後は、上記ブレードの摩擦等により金属微粉が付着しその表面が汚染されている。そのため、一般に、フッ化水素酸と硝酸との混合溶液からなる洗浄液を収容した洗浄槽に上記シリコン芯線を浸漬し、その表面に洗浄液を接触させて洗浄を行い、その後、水洗リンス、乾燥して、十分清浄化したシリコン芯線を多結晶シリコンの製造に使用する。
【0004】
ところで、近年、多結晶シリコン内部に対する清浄度への要求が高まっている。こうした状況の中、本発明者らは、多結晶シリコン内部の重金属の由来を調査した。その結果、前記洗浄直後のシリコン芯線の表面について、前記洗浄を十分に行っているにも関わらず意外にも重金属濃度が高いことが分かり、そこでさらなる調査を行った結果、上記シリコン芯線が重金属を含む外気と接触すると、それがたとえ極めて短い時間の接触であっても、上記シリコン芯線表面はすぐに汚染されるという知見を得た。そして、上記汚染されたシリコン芯線を使用すると、芯線表面の重金属が多結晶シリコン成長とともにその多結晶シリコン中に拡散してしまい、その結果、多結晶シリコンロッド全体としての純度が低下することを本発明者らは確認した。
【0005】
一方、シリコン芯線表面汚染について、ハンドリング時に使用する手袋等からの汚染を回避する方法として、洗浄直後のシリコン芯線を袋詰めする方法が提案されている(例えば、特許文献1)。こうすることによって、シリコン芯線に直接手袋等が触れることがないため、シリコン芯線への汚染を最小限にすることができるとされている。しかしながら、前記方法のようにシリコン芯線を袋詰めして保管、搬送しても、シリコン芯線を電極に接続後、底板をカバーで覆う前にシリコン芯線から袋を取り外さなければならない。その際、シリコン芯線が、清浄度が制御されていない外気と接触することを避けることができず、上記シリコン芯線表面の重金属汚染が発生する虞があった。しかも、かかる方法は、袋を取り外す際に袋とシリコン芯線との摩擦により静電気が発生し、シリコン芯線表面に外気中の重金属がより吸着し易くなり、前記問題がさらに顕在化することが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-030628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、シリコン芯線表面に多結晶シリコンを気相成長させて得る多結晶シリコンロッドであって、上記多結晶シリコン内部の重金属濃度が十分に低減された多結晶シリコンロッド及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するために検討を重ねた結果、シリコン芯線の表面を清浄化してから、上記シリコン芯線を電極に接続し、上記シリコン芯線の上部より前記カバーで底板を覆うまでの間、上記シリコン芯線近傍の雰囲気を特定の条件に調整し、それを維持することにより、シリコン芯線の汚染に起因する重金属濃度が十分に低減され、清浄度の高い多結晶シリコンロッドを得ることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、シリコンの棒状体からなる芯線を有する多結晶シリコンロッドであって、上記芯線と該芯線の表面に析出した多結晶シリコンとの界面(以下、シリコン界面ともいう。)から2mmの領域(以下、シリコン界面領域ともいう。)における、鉄及びニッケルの総金属濃度が元素換算で40pptw以下であることを特徴とする、多結晶シリコンロッドである。
【0010】
また、本発明の多結晶シリコンロッドは、前記シリコン界面領域における鉄の濃度が元素換算で20pptw以下、ニッケルの濃度が元素換算で5pptw以下であることが好ましい。
【0011】
上記本発明の多結晶シリコンロッドは、シリコンの棒状体からなる芯線に通電するための電極を設けた底板と、該底板を覆うドーム型のカバーとを有する反応器を使用し、前記電極に前記芯線を接続して通電しながら、前記反応器内に多結晶シリコン析出用原料ガスを供給し、前記芯線の表面に多結晶シリコンを気相成長させる多結晶シリコンロッドの製造方法において、前記芯線の表面を清浄化してから、該芯線を電極に接続し、該芯線の上部より前記カバーで底板を覆うまでの間、前記芯線をISO14644-1により定義されるClass4~6の清浄度に調整された雰囲気下に置くことにより得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の多結晶シリコンロッドは、前記シリコン界面領域における重金属による汚染量が極めて低く抑えられたものであり、かかるシリコン界面領域における鉄及びニッケルの濃度を元素換算で40pptw以下という驚異的なレベルにまで低減したものである。そして、これにより、従来の多結晶シリコンロッドに比べて、ロッド全体としての純度をも高くすることが可能となり、より高品質なシリコン結晶が求められる用途への使用に対して有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ジーメンス法による多結晶シリコン析出用反応器の概略図
図2】本発明の代表的な多結晶シリコンロッドを示す概略図及びその断面図
図3】本発明において、金属濃度を測定するための試料を多結晶シリコンロッドより切り出す手順を示す概略図
図4】本発明の多結晶シリコンロッドを製造するための方法の一状態を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0014】
<多結晶シリコンロッド>
本発明の多結晶シリコンロッドは、図2(a)の概略図に示すように、ジーメンス法で製造した長尺の多結晶シリコンロッドであって、図2(b)に示されるX-X’断面のように、シリコン芯線4を中心に多結晶シリコン5が析出してなるものである。多結晶シリコンは、ポリシリコンとも呼ばれ、微細なシリコン結晶の集合体である。
【0015】
多結晶シリコンロッドの直径は、特に限定されないが、好ましくは、75~180mm、より好ましくは100~160mm、さらに好ましくは110~150mmである。直径が大きい程、一度の製造工程で多量の多結晶シリコンロッドを得ることができる。
【0016】
上記多結晶シリコンロッドにおいて、シリコン芯線4と該シリコン芯線の表面に析出した多結晶シリコン5とが互いに接している境界面であるシリコン界面6が存在する。すなわち、シリコン界面6を挟んで、シリコン芯線4と多結晶シリコン5とが接触している。本発明では、シリコン界面6を挟んで全厚4mmの領域を、シリコン界面領域と呼ぶ。シリコン界面領域は、シリコン界面6から、シリコン芯線4の方向に深さ2mmの領域と、析出した多結晶シリコン5の方向に深さ2mmの領域との合計を意味する。
【0017】
本発明の多結晶シリコンロッドにおける最大の特徴は、上記シリコン界面領域における鉄及びニッケル総金属濃度が元素換算で40pptw以下、特に、30pptw以下、更には、15pptw以下であることが好ましい。また、各元素別には、鉄濃度が20pptw以下、特に、10pptw以下、ニッケル濃度が10pptw以下、特に5pptw以下であることが好ましい。
【0018】
上記鉄、ニッケルは、外気との接触時によるシリコン芯線の汚染物質として代表的なものであり、また、シリコンの析出温度において拡散し易い重金属であることからシリコンロッド全体にわたって汚染を拡大する虞のある重金属であり、本発明においては、これらの金属濃度により、シリコン芯線に起因する多結晶シリコンロッドの清浄度を特定するものである。
【0019】
また、上記シリコン界面領域で測定される他の重金属の濃度、具体的にはクロム濃度は、10pptw以下、特に5pptw以下、銅濃度は5pptw以下、亜鉛濃度は、5pptw以下であることが更に好ましい。
【0020】
尚、上記鉄及びニッケルについて、前記シリコン界面における濃度を正確に測定することは困難である。しかし、本発明者らの確認によれば、上記重金属は拡散によってシリコン芯線から遠くなるに連れて濃度が低くなるものの、シリコン芯線界面から2mmの領域(全厚4mm)における重金属濃度を測定すれば、多結晶シリコンロッドのバルク汚染(重金属汚染)に対するシリコン芯線表面の重金属汚染の影響を的確に評価できることを見出している。それ故、本発明においては、シリコン界面領域をサンプリングし、その重金属濃度をシリコン芯線の表面汚染に起因する多結晶シリコンロッドの汚染を示す数値として使用する。
【0021】
以下、図3により上記シリコン界面領域の重金属濃度を測定するための試料の作成方法について説明する。
【0022】
先ず、図3(a)に示すように、多結晶シリコンロッドの側面より、シリコン芯線4の軸方向に対して、垂直に、且つ、シリコン芯線を中心にしながら該シリコン芯線を含む大きさの円で上記シリコンロッドを打ち抜き、円筒状のコアリングロッド7を得る。かかる打ち抜きは、コアドリルを用いて行うことができる。その際、上記の打ち抜きはシリコン芯線を貫通する直径4mmのコアリングロッド7が得られるように行う。続いて、図3(b)に示すように、上記コアリングロッド7を軸線に対して垂直な面でシリコン界面6を挟んで厚さD1、D2が2mmとなるように切断して、試料8を得る。図3(c)に示すように、D1は試料8における多結晶シリコン5の厚みであり、D2はシリコン芯線4の厚みである。
【0023】
尚、D1、D2は、切断時には2mm以上であってもよく、切断後に試料8のエッチング処理等により上記D1、D2を2mmに調整すればよい。
【0024】
上記のようにして切り出された試料8は、フッ化水素酸と硝酸の混酸溶液にてエッチングを行い、切断時の金属汚染を取除き、質量測定を行った後、弗素樹脂の密閉容器中でフッ化水素酸と硝酸の気相分解反応によりシリコンを全溶解・除去せしめ、容器に残った残渣を硫酸で回収する。次いで、上記回収された上記残渣中の金属量を誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)により測定し、その測定値と前記試料の質量より金属濃度を算出する。
【0025】
本発明の多結晶シリコンロッドは、シリコン界面領域における重金属の含有量が極めて低く抑えられているため、成長した多結晶シリコンのバルク汚染(重金属含量)の低減に寄与することができる。
【0026】
<多結晶シリコンロッドの製造方法>
本発明の多結晶シリコンロッドの製造方法は特に限定されないが、代表的な製造方法を例示すれば、シリコン芯線に通電するための電極を設けた底板と、該底板を覆うドーム型のカバーとを有する反応器を使用し、前記電極に前記芯線を接続して通電しながら、前記反応器内に多結晶シリコン析出用原料ガスを供給し、前記芯線の表面に多結晶シリコンを気相成長させる方法であって、前記シリコン芯線の表面を清浄化してから、該シリコン芯線を電極に接続し、該芯線の上部より前記カバーで底板を覆うまでの間、前記シリコン芯線をISO14644-1により定義されるClass4~6の清浄度に調整された雰囲気下に置くことを特徴とする方法が挙げられる。
【0027】
本発明において、シリコン芯線は、例えば、別途製造された多結晶シリコン、単結晶シリコン、溶融凝固シリコンなどを細棒に切り出したものなどが制限なく使用されるが、シリコン芯線内部の金属濃度は、シリコン芯線表面の重金属濃度に影響を及ぼし、さらには得られる多結晶シリコンロッド全体としての純度にも影響するため、低いほど好ましい。具体的には、鉄濃度が20pptw以下、好ましくは10pptw以下、更に好ましくは、5pptw以下であり、ニッケル濃度が10pptw以下、好ましくは2pptw以下であり、また、クロム濃度が10pptw以下、好ましくは5pptw以下、銅濃度は5pptw以下、亜鉛濃度は、5pptw以下であることが更に好ましい。
【0028】
また、シリコン芯線の断面形状は、円状、楕円状、略方形あるいは多角形のいずれの形状であってもよい。例えば、略方形の場合、一辺の長さは、6~15mm程度が一般的であり、より好ましくは6~12mm、さらに好ましくは7~10mmである。円状の場合も同様に、その直径は、6~15mm程度が一般的であり、より好ましくは6~12mm、さらに好ましくは7~10mmである。
【0029】
本発明の方法において、シリコン芯線の表面は、公知の方法によって浄化される。具体的には、フッ化水素酸と硝酸の混酸溶液によりエッチング処理する方法が好適である。上記浄化後のシリコン芯線表面に存在する金属濃度は低いほどよく、鉄濃度が30pptw以下、好ましくは10pptw以下、更に好ましくは、5pptw以下であり、ニッケル濃度が10pptw以下、好ましくは2pptw以下であり、また、クロム濃度が10pptw以下、好ましくは5pptw以下、銅濃度は10pptw以下、好ましくは5pptw以下、亜鉛濃度は、5pptw以下であることが更に好ましい。
【0030】
本発明の製造方法における最大の特徴は、前記シリコン芯線の表面を清浄化してから、該芯線を電極に接続し、該芯線の上部より前記カバーで底板を覆うまでの間、前記シリコン芯線をISO14644-1により定義されるClass4~6の清浄度に調整された雰囲気下に置くことである。こうすることによって、シリコン芯線表面の重金属濃度を清浄化処理直後の低い状態で維持したまま、そのシリコン芯線表面に多結晶シリコンを析出させることができ、得られる多結晶シリコンロッドの純度をより向上させることができる。
【0031】
尚、前記ISO14644-1とは、クリーンルームの空気清浄度を規定するための国際規格である。なお、清浄度をClass4~6とした意味は、清浄度が不十分であると、シリコン芯線4の表面が汚染され、得られる多結晶シリコンロッドのバルク汚染を十分に低減できず、一方、清浄度が高すぎると、高い清浄度を達成するためのコストが膨大になるためである。上記雰囲気の清浄度の確認には、パーティクルカウンターや、遠隔レーザーレーダー微粒子計数装置などが使用できる。
【0032】
本発明の製造方法において、前記シリコン芯線を加工後の表面を清浄化してから、該シリコン芯線を電極に接続し、該シリコン芯線の上部よりカバーで底板を覆うまでの間とは、前記シリコン芯線の清浄化処理において洗浄槽内から取り出した直後から、前記カバーで底板を覆い、シリコン芯線が外気と接触し得ない状態になるまでの間を指す。
【0033】
本発明の製造方法において、前記シリコン芯線を前記清浄度に調整された雰囲気下に置く方法は、目的とする清浄度を達成し得る程度に清浄化されたガス、作業性を考慮すると空気によって形成される雰囲気下にシリコン芯線が常に置かれている状態を維持できる態様であれば特に制限されない。例えば、前記シリコン芯線の表面を清浄化してから、該芯線を電極に接続し、該芯線の上部より前記カバーで底板を覆うまでの全ての工程を一つのクリーンルーム内で行うことも考えられるが、多大な設備を必要とする。
【0034】
そこで、図4に示すように、支柱10間に樹脂製シートやパネル等の遮蔽材11を設けて形成され、反応器の底板2を囲むことができる程度に大きく、シリコン芯線を上記底板にセットした際の高さより十分高い高さを有する筒状のクリーンブース9を準備し、シリコン芯線を扱う前記各工程において、常にシリコン芯線がクリーンブース9内に存在するようにすることが好ましく、また、工程間のシリコン芯線の搬送においては、クリーンブースを芯線と共に移動させる態様が好ましい。上記移動を簡易化するために、図4に示すように、クリーンブースの支柱の下部にキャスター13を設けることは好ましい態様である。
【0035】
図4は、最終工程である反応器の底板2をカバー3で覆っている状態を示すものであるが、この状態に置いてもシリコン芯線4はクリーンブース内において高い清浄度を維持し続けることが可能である。
【0036】
また、他の態様として、前記各工程毎にクリーンブースを独立して準備し、各クリーンブース間のシリコン芯線の移動を、クリーンブース内でシリコン芯線を密閉容器に収納し、次工程のクリーンブース内に移動して、作業を行う態様が挙げられる。この場合、後述のクリーンブース内を前記清浄度に調整する方法は、各クリーンブースを同一の方法に統一しても良いし、クリーンブース毎に異なる方法を採用してもよい。
【0037】
本発明において、クリーンブース内を前記清浄度に調整する方法は、従来から知られている方法が特に制限なく採用されるが、図4に示すように、清浄な空気をヘッダー12(ヘッダーへの清浄化された空気を供給する装置は図において省略してある)よりクリーンブース内に平行流として噴出させ、上下の開口部より排出するようにした水平気流対向方式、乱流方式(コンベンショナルフロー)、垂直層流(ダウンフロー)方式等が存在し、これらの給気方式が特に制限なく採用される。
【0038】
特に、前記水平気流対向方式は、清浄化された空気が反応器中央付近で衝突し、該空気が上下の開口より押し出されるため、底板にシリコン芯線をセット完了後、反応器のカバーを降下させる際、カバー内の空気が、上昇する清浄化された空気に置換され易い。その結果カバー内の清浄度を保ちながら底板を覆うことができる。また、上記上昇流により、クレーン等の吊下用冶具から落下する金属微粉がカバー内に混入することを効果的に回避することもできる。
【0039】
本発明において、反応器の底板にカバーを取り付けた後の工程、例えば、シリコン芯線が存在する反応器内のガス置換、原料ガスであるトリクロロシラン、水素等の精製、原料ガスの供給、シリコン芯線の加熱、シリコン析出時の通電量の調整、シリコン析出後の電源の切断、得られた多結晶シリコンロッドの取り出し等は、高純度のシリコンロッドを製造するための公知の工程が特に制限なく採用される。
【0040】
具体的には、析出に用いる水素は、特開2013-212974記載のように食塩水の電気分解で発生した水素を精製して使用することが好ましい。また、トリクロロシランは、金属シリコンと塩化水素、もしくは金属シリコンと四塩化珪素、水素の反応により得られた粗トリクロロシランの蒸留精製を繰返し得られた高純度トリクロロシランを使用することが好ましい。
【0041】
尚、得られたトリクロロシランの純度は、石英製フラスコにサンプリングし、評量後、ヘリウムやアルゴン等の不活性ガス気流下で蒸発乾固を行った後に、フラスコ内に希硝酸を入れ回収し、ICP-MSにて確認することが可能である。例えば、トリクロロシランの純度は、Fe濃度が1ppbw以下、好ましくは0.5ppbw以下が望ましい。NiおよびCr濃度はそれぞれ0.5ppbw以下、好ましくは0.2ppbw以下が望ましい。
【0042】
本発明の製造方法によれば、外気に含まれる重金属によるシリコン芯線表面の汚染を効果的に回避することができ、その結果、かかる汚染による影響を受けない高純度の多結晶シリコンロッドを安定して得ることができる。
【実施例
【0043】
以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0044】
なお、実施例および比較例で得られた多結晶シリコンロッドの評価項目及び評価方法を以下に示す。
【0045】
1)シリコン界面領域の重金属濃度
先ず、以下の方法により試料8を調整した。
【0046】
多結晶シリコンロッドの側面より、シリコン芯線4の軸方向に対して、垂直に、且つ、シリコン芯線を貫通する直径4mmの円で上記シリコンロッドをコアドリルを使用して打ち抜き、円筒状のコアリングロッド7を得た。続いて、コアリングロッド7の軸線に対して垂直な面でシリコン界面6を挟んで多結晶シリコン5部分の厚さD1、およびシリコン芯線4部分の厚さD2がそれぞれ約3mmとなるようにクリスタルカッター(ODソー(商品名:マルトー社製))にて切断し、次いで、上記サンプル取得時の金属汚染を取除くために、フッ硝酸にて表面から約1mmをエッチングし、D1、D2の各厚みをそれぞれ2mmとした試料8を得た。コアリングロッド7における上下2つのシリコン界面6において、同様の操作を行い、2つの試料8を得た。
【0047】
上記試料8をPTFE製気相分解容器内にセットし、ホットプレート上で容器の加熱を行い、フッ硝酸蒸気での気相分解を行った。容器を冷却後、硫酸1mlで残渣分を回収して、ICP-MS(Agilent8800)にて、各金属濃度の定量を行った。得られた実測値から、下式にてシリコン界面領域の金属濃度を算出し、平均値を求めた。
【0048】
【数1】
【0049】
Q:シリコン界面領域の金属濃度[pptw]
C:実測値[ng/L]
:操作ブランク値[ng/L]
W:試料8の重量[g]
L:回収に使用した硫酸量[L]。
【0050】
2)クリーンブース内の清浄度測定
パーティクルカウンター(リオン株式会社KC-51)を用いて、0.3μmと0.5μmの粒子数計測を行った。測定点数については、ISO14644-1もしくはJIS B 9920-1に従い、クリーンブース面積に応じて適宜選定されれば良い。
【0051】
実施例1
鉄が5pptw、ニッケルが2pptw、クロムが1pptw、銅が1pptw以下、亜鉛が1pptw以下の多結晶シリコンロッドを、ブレードを用いて8mm□の細棒に切り出すことによりシリコン芯線を得た。上記シリコン芯線をフッ化水素酸と硝酸との混合溶液からなる洗浄液を収容した洗浄槽に浸漬し洗浄を行った。その後、ダウンフロー方式のクリーンブース内で水洗リンス、風乾による乾燥、及び、シリコン芯線の溶接を行い、コの字型のシリコン芯線を得た。尚、上記クリーンブース内がISO14644-1により定義されるClass6の清浄度に調整されていたことを確認した。
【0052】
また、溶接後、運搬中の汚染を防ぐために、シリコン芯線は、前述シリコン洗浄工程内のクリーンブース内で密閉容器に詰めた上で、反応器への運搬を行った。
【0053】
また、反応器においては、前記図4に示すクリーンブース(水平気流対向方式)を、底板2を囲むようにセットし、クリーンブース9内でシリコン芯線4を密閉容器より取り出し、高純度化処理した黒鉛電極1にセットした。
【0054】
上記クリーンブース内がISO14644-1により定義されるClass6の清浄度に調整されていたことを確認した。
【0055】
その後、クリーンブース上部より反応器のカバー3を降下させ、底板2に取り付け、その後、クリーンブース9を撤去した。
【0056】
次いで、反応器内をガス置換した後、原料ガスであるトリクロロシラン及び水素を供給して950℃にてシリコンの析出を実施し、直径約120mmの多結晶シリコンロッドを得た。
【0057】
尚、上記析出に使用したトリクロロシランの純度を前述の分析方法にて定量した結果、Fe濃度が0.5ppbw未満、Ni、Cr濃度がそれぞれ0.2ppbw未満であった。
【0058】
上記方法により得られた多結晶シリコンロッドについて、シリコン界面領域の重金属濃度を測定し、結果を表1に示した。尚、上記重金属の測定は、1ロッドについて、3カ所で試料を作成し、その平均値で示した。
【0059】
実施例2
実施例1において、クリーンブースを図4に示す移動式クリーンブース(水平気流対向方式)とし、クリーンブースを移動させながら各工程を実施した以外は同様にして、多結晶シリコンロッドを得た。その間、クリーンブース内は、ISO14644-1により定義されるClass6の清浄度に調整されていたことを確認した。
【0060】
上記方法により得られた多結晶シリコンロッドについて、実施例1と同様にしてシリコン界面領域の重金属濃度を測定し、結果を表1に示した。
【0061】
比較例1
実施例1において、反応器にシリコン芯線をセットする際、クリーンブースを使用しなかった以外は、同様にして芯線をセットし、多結晶シリコンを製造した。
【0062】
上記方法により得られた多結晶シリコンロッドについて、実施例1と同様にしてシリコン界面領域の重金属濃度を測定し、結果を表1に示した。
【0063】
【表1】
【符号の説明】
【0064】
1 電極
2 底板
3 カバー
4 シリコン芯線
5 多結晶シリコン
6 シリコン芯線界面
7 コアリングロッド
8 試料
9 クリーンブース
10 支柱
11 遮蔽材
12 ヘッダー
13 キャスター
図1
図2
図3
図4