(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】固体材料容器、固体材料供給装置、及び固体材料供給方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/448 20060101AFI20241218BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20241218BHJP
B01J 7/00 20060101ALI20241218BHJP
B01J 4/00 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
C23C16/448
H01L21/205
B01J7/00 A
B01J4/00 102
(21)【出願番号】P 2022109893
(22)【出願日】2022-07-07
【審査請求日】2024-01-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】向 庸佑
(72)【発明者】
【氏名】亀岡 崇史
(72)【発明者】
【氏名】渡部 僚馬
(72)【発明者】
【氏名】鹿川 聡太
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-538158(JP,A)
【文献】国際公開第2017/187866(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/010230(WO,A1)
【文献】特開2001-247969(JP,A)
【文献】国際公開第2016/075892(WO,A1)
【文献】特開2020-186432(JP,A)
【文献】特開2022-136704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/448
B01J 7/00
B01J 4/00
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温・常圧(25℃、1気圧)で固体の材料が充填され、前記材料が蒸気圧に応じて揮発又は昇華した気体を供給する固体材料容器であって、
中心軸が鉛直方向上下に延在する胴部を有する、有底筒状の容器本体と、
前記容器本体の開口部である上面を閉塞する蓋と、
複数の熱電対と、を備え、
前記熱電対が、前記胴部の周方向外側から内側に向かって、水平方向に挿通され、当該熱電対の先端が前記胴部の中央に位置し、
複数の前記熱電対が、前記胴部の鉛直方向上下に間隔をあけて、2以上の異なる高さにそれぞれ配置される、固体材料容器。
【請求項2】
複数の前記熱電対が、前記胴部の鉛直方向上下に延在する同一線上に配置される、請求項1に記載の固体材料容器。
【請求項3】
前記容器本体を加熱するヒータをさらに備え、
前記ヒータが、鉛直方向上下に分割された2以上の領域をそれぞれ加熱可能である、請求項1に記載の固体材料容器。
【請求項4】
前記ヒータが、前記容器本体の周囲に位置する、請求項3に記載の固体材料容器。
【請求項5】
常温・常圧(25℃、1気圧)で固体の材料が蒸気圧に応じて揮発又は昇華した気体を供給する固体材料供給装置であって、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の、1以上の
前記固体材料容器と、
前記固体材料容器と連通する、1以上の連結配管と、を備える、固体材料供給装置。
【請求項6】
請求項5に記載の固体材料供給装置を用い、常温・常圧(25℃、1気圧)で固体の材料が蒸気圧に応じて揮発又は昇華した気体を供給する固体材料供給方法であって、
前記
揮発又は昇華した気体を供給する前記固体材料容器において、鉛直方向上下に配設された複数の熱電対を用いて前記固体材料容器内の前記材料の温度を測定し、前記固体材料容器内の前記材料の残量を検知する、固体材料供給方法。
【請求項7】
検知した前記固体材料容器内の前記材料の残量に応じて、前記固体材料容器の加熱領域を変更する、請求項6に記載の固体材料供給方法。
【請求項8】
前記固体材料容器の底面に最も近い前記材料の温度と、当該材料の昇華点との温度差が20℃以上になったとき、前記材料の残量が少ないと判定する、請求項6に記載の固体材料供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体材料容器、固体材料供給装置、及び固体材料供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの微細化や高集積化に起因する課題を解決するため、従来使用されてこなかった前駆体を用いた新しい成膜技術が求められている。従来、前駆体材料としては、比較的ハンドリングの容易な気体材料や液体材料が広く用いられてきた。一方で、最先端のデバイスで使用されるアルミニウム、ハフニウム、インジウム、モリブデン、タンタル、チタン、タングステン、イットリウム、ジルコニウム等の無機金属化合物及び有機金属化合物の一部は、標準温度および標準圧力において固体である。標準温度および標準圧力で固体の前駆体材料(以下、「固体材料」という)は、成膜プロセス用チャンバへと直接輸送することはできない。これらの固体材料は、一般に、高い融点および低い蒸気圧を有するため、成膜チャンバへの導入に先立って、固体材料を昇華する必要がある。
【0003】
ところで、固体材料は気密な容器(固体材料容器)に収容されており、固体材料供給装置では、固体材料容器内で固体材料を昇華させて成膜プロセス用チャンバへ供給する。したがって、固体材料供給装置では、使用量を把握し、容器交換のタイミングを知る必要がある。そのため、固体材料容器内の固体材料の残量をある程度正確に把握する必要がある。
【0004】
固体材料容器内の固体材料の残量を把握する方法として、重量測定法や、固体材料の温度を直接測定する方法が知られている。しかしながら、重量測定法では、固体材料容器内の固体材料の残量高さを把握することができない。
【0005】
固体材料の温度を直接測定する方法として、特許文献1には、固体材料容器内の固体材料の温度を直接測定する技術が開示されている。具体的には、特許文献1の
図11には、固体材料容器の天板に、鉛直方向上下に延在する熱電対を挿通するとともに、固体材料容器内の熱電対に、複数のセンサを鉛直方向上下方向に所要の間隔で設けた、固体材料容器の構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、熱電対自身が発熱して熱電対近傍の固体材料が先に昇華し、熱電対近傍に材料がなくなってしまうため、固体材料ではなく気相の温度を測定することとなり、適切な残量監視ができないという課題があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、標準状態で固体の材料について、容器内における残量の把握が可能な、固体材料容器、固体材料供給装置、及び固体材料供給方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は以下の態様を有する。
[1] 常温・常圧(25℃、1気圧)で固体の材料が充填され、前記材料が蒸気圧に応じて揮発又は昇華した気体を供給する固体材料容器であって、
中心軸が鉛直方向上下に延在する胴部を有する、有底筒状の容器本体と、
前記容器本体の開口部である上面を閉塞する蓋と、
複数の熱電対と、を備え、
前記熱電対が、前記胴部の周方向外側から内側に向かって、水平方向に挿通され、当該熱電対の先端が前記胴部の中央に位置し、
複数の前記熱電対が、前記胴部の鉛直方向上下に間隔をあけて、2以上の異なる高さにそれぞれ配置される、固体材料容器。
[2] 複数の前記熱電対が、前記胴部の鉛直方向上下に延在する同一線上に配置される、[1]に記載の固体材料容器。
[3] 前記容器本体を加熱するヒータをさらに備え、
前記ヒータが、鉛直方向上下に分割された2以上の領域をそれぞれ加熱可能である、[1]又は[2]に記載の固体材料容器。
[4] 前記ヒータが、前記容器本体の周囲に位置する、[3]に記載の固体材料容器。
[5] 常温・常圧(25℃、1気圧)で固体の材料が蒸気圧に応じて揮発又は昇華した気体を供給する固体材料供給装置であって、
[1]乃至[4]のいずれかに記載の、1以上の固体材料容器と、
前記固体材料容器と連通する、1以上の連結配管と、を備える、固体材料供給装置。
[6] [5]に記載の固体材料供給装置を用い、常温・常圧(25℃、1気圧)で固体の材料が蒸気圧に応じて揮発又は昇華した気体を供給する固体材料供給方法であって、
前記ガスを供給する前記固体材料容器において、鉛直方向上下に配設された複数の熱電対を用いて前記固体材料容器内の前記材料の温度を測定し、前記固体材料容器内の前記材料の残量を検知する、固体材料供給方法。
[7] 検知した前記固体材料容器内の前記材料の残量に応じて、前記固体材料容器の加熱領域を変更する、[6]に記載の固体材料供給方法。
[8] 前記固体材料容器の底面に最も近い前記材料の温度と、当該材料の昇華点との温度差が20℃以上になったとき、前記材料の残量が少ないと判定する、[6]又は[7]に記載の固体材料供給方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の固体材料容器は、標準状態で固体の材料について、容器内における残量の把握が可能である。
本発明の固体材料供給装置、及び固体材料供給方法は、標準状態で固体の材料について、固体材料容器内における残量の把握が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態である固体材料供給装置を模式的に示す系統図である。
【
図2】本発明の一実施形態である固体材料容器を模式的に示す断面図である。
【
図3】本実施形態の固体材料容器が備えるマントルヒータを示す図であり、(A)が平面図、(B)が正面図、(C)が側面図をそれぞれ示す。
【
図4】本発明の実施例に用いる固体材料容器を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面においては、各構成要素を見やすくするため、構成要素によって寸法の縮尺を異ならせて示すことがあり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0013】
<固体材料供給装置>
先ず、本発明の一実施形態として、
図1に示す固体材料供給装置50について説明する。
なお、
図1は、本発明の一実施形態である固体材料供給装置50の構成を模式的に示す系統図である。
【0014】
図1に示すように、本実施形態の固体材料供給装置50は、常温・常圧(25℃、1気圧)で固体の材料(以下、単に「固体材料」という場合がある)Sが蒸気圧に応じて揮発又は昇華したガス(気体、以下、単に「固体材料蒸気」という場合がある)を、反応炉に供給する装置である。
【0015】
本実施形態の固体材料供給装置50は、集合容器1,2と、集合容器1,2とそれぞれ連通される渡り配管100と、渡り配管100を加熱する第1ヒータH100と、を備えて概略構成されている。
【0016】
渡り配管100は、各集合容器1,2と反応炉とを接続する配管である。
本実施形態の固体材料供給装置50は、2つの集合容器1,2を備える態様を一例として説明するが、これに限定されない。集合容器の数は、1つでもよいし、3つ以上であってもよい。なお、制御性や、不具合発生時の影響の観点から、集合容器の数は3個以下が好ましい。
【0017】
集合容器1は、内部に固体材料Sが充填された3つの固体材料容器11,12,13と、各固体材料容器と連通される連結配管11a,12a,13aと、各連結配管を介して固体材料容器11,12,13と連通される集合配管10とを有する。
【0018】
集合配管10には、集合配管10の全体を加熱するヒータH10と、パージ用のポートE,Fとが、設けられている。
【0019】
本実施形態の固体材料供給装置50では、集合容器1が3つの固体材料容器を有する態様を一例として説明するが、これに限定されない。固体材料容器の数は、1つでもよいし、3つ以上であってもよい。制御性や、不具合発生時の影響の観点から、固体材料容器の数は、9個以下が好ましい。
【0020】
固体材料Sは、常温・常圧(25℃、1気圧)で固体の状態である材料であれば、特に限定されない。固体材料Sは、結晶状、粉末状でもよく、支持体等に担持した状態でもよい。また、固体材料Sは、充填時に固体状態であってもよく、運搬時に固体状態であってもよく、充填時もしくは加温時には液体状態であってもよい。
【0021】
固体材料Sとしては、有機化合物、有機金属化合物、金属ハロゲン化物、金属オキシハロゲン化物、およびこれらの化合物が挙げられる。より具体的には、ゲルマニウム、ガリウム、アルミニウム、ハフニウム、インジウム、モリブデン、タンタル、チタン、タングステン、イットリウム、ジルコニウム等の無機金属化合物及び有機金属化合物が挙げられる。
固体材料Sとしては、これらの化合物からなる群のうち、いずれか1つを用いてもよいし、2つ以上を含んでいてもよい。
【0022】
<固体材料容器>
次に、本発明を適用した一実施形態である固体材料容器の構成について、固体材料容器11を一例として説明する。
図2は、本実施形態の固体材料容器11の構成を説明するための断面模式図である。
図2に示すように、固体材料容器11は、有底筒状の容器本体11Aと、蓋11Bと、固体材料容器11の内部温度を監視する複数の熱電対15、15…15と、を備える。
【0023】
固体材料容器11は、内側に固体材料Sを充填可能な容器であれば、特に限定されない。具体的には、固体材料容器11は、内側に充填された固体材料Sを気体状態で供給した後、再び内側に固体材料Sを充填することで、繰り返して使用することが可能である。
【0024】
容器本体11Aは、特に限定されないが、内側に固体材料Sを充填する観点から、有底筒状の容器であることが好ましい。具体的には、容器本体11Aは、中心軸Cが鉛直方向上下に延在する胴部14を有する。
【0025】
胴部14には、周方向外側から内側に向かって、複数の熱電対15が水平方向にそれぞれ挿通されている。また、熱電対15の先端15aが、温度測定部となる。
ここで、熱電対15の先端15aは、胴部14の内側であって、胴部14の中央に位置する。ここで、本願では、胴部14の中央とは、胴部14の中心軸Cを含み、中心軸Cから所要の範囲内を含む領域を意味する。熱電対15の先端15aである温度測定部が胴部14(すなわち、容器本体11A)の中央に位置するため、容器本体11Aの外周からの熱の影響を受けにくく、固体材料Sの温度を正確に測定することができる。
【0026】
なお、容器本体11Aの胴部14の内側に挿入される熱電対15の長さは、容器本体11Aの内径の半径を「r」mmとした場合、例えば、「r±10」mmとすることができる。
【0027】
また、胴部14に挿通される複数の熱電対15は、胴部14の鉛直方向上下に所要の間隔をあけて、2以上の異なる高さにそれぞれ配置される。
ここで、胴部14に挿通する熱電対15の本数は、2以上配置することが好ましく、容器本体11A(すなわち、固体材料容器11)内の固体材料Sの残量を監視する観点から、高さ方向に3本以上配置することがより好ましい。
【0028】
また、鉛直方向上下に複数の熱電対を設置する際の間隔は、特に限定されるものではない。また、鉛直方向上下に複数の熱電対を設置する際の間隔は、等間隔であってもよいし、等間隔でなくてもよい。なお、鉛直方向上下に複数の熱電対を設置する際の間隔を等間隔とすることで、残量監視を適切に行えるために好ましい(例えば、残50%、残30%、等)。
【0029】
なお、容器本体11Aの胴部14の内側に挿入される熱電対15の高さは、胴部14の軸方向の高さを「h」mmとした場合、上面及び底面からそれぞれ10mm程度離れた位置に設置することが好ましい。これにより、容器本体11Aの外周(上面及び底面)からの熱の影響を受けにくく、固体材料Sの温度を正確に測定することができる。
【0030】
蓋11Bは、容器本体11Aの開口部である上面を閉塞する。蓋11Bは、容器本体11Aから取り外し可能となっている。固体材料容器11内の固体材料の残量が少なくなった際、容器本体11Aから蓋11Bを取り外すことで、上面の開口部から容器本体11A内に固体材料を補充することができる。
【0031】
図1に示すように、固体材料容器11の蓋11Bには、連結配管11aが設けられている。また、連結配管11aには、全開(開度100%)から全閉(開度0%)まで任意の開度に調整が可能であり、遠隔操作が可能な開閉弁V11aが配設されている。
連結配管11aには、連結配管11aを加熱するヒータH11aと、パージ用のポートA,Bが設けられている。
【0032】
固体材料容器11の材質は、特に限定されるものではないが、固体材料Sへの伝熱効率を向上するため、熱伝導率の高い材質が好ましい。このような材質としては、ステンレス、アルミニウム、炭化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、及び窒化珪素が挙げられる。
【0033】
また、固体材料容器11には、伝熱効率以外にも、材料に対する耐腐食性や強度が必要とされる場合がある。固体材料容器11として、複数の特性が要求される場合には、複数の材質を積層する構成としてもよい。
【0034】
熱電対15の材質は、材料に対する耐腐食性や強度を有するものであれば、特に限定されるものではない。このような材質としては、SUS316L、SUS316、SUS304等が挙げられる。
【0035】
固体材料容器11は、固体材料容器11の内側に充填された固体材料Sを加熱するヒータH11と、固体材料容器11の重量を監視する重量測定器W11と、をさらに備える。
【0036】
ヒータH11としては、固体材料容器11内の固体材料Sを加熱できるものであれば、特に限定されないが、固体材料容器11の外側から加熱するタイプ(例えば、マントルヒータ、恒温槽、高周波加熱装置等)、固体材料容器11の内側から加熱するタイプ(例えば、ロッド・ヒータ等)から適宜選択して用いることができる。また、これらを併用して用いてもよい。これらのうち、固体材料容器11の外側から加熱するタイプが好ましく、固体材料容器11の周囲に位置し、固体材料容器11を覆って加熱するマントルヒータがより好ましい。
【0037】
図3は、本実施形態の固体材料容器11が備えるマントルヒータH11を示す図であり、(A)が平面図、(B)が正面図、(C)が側面図をそれぞれ示す。
図3(B)、(C)に示すように、マントルヒータH11は、固体材料容器11の周囲を覆うように配置されており、容器本体11Aを加熱するヒータH11A,H11Bと、蓋11Bを加熱するヒータH11Cとを有する。
【0038】
ヒータH11A,H11Bは、さらに鉛直方向上下に分割されている。これにより、ヒータH11A,H11Bは、容器本体11Aの上下方向に分割された2つの領域をそれぞれ独立して加熱可能とされている。
【0039】
本実施形態の固体材料容器11によれば、熱電対15による固体材料Sの残量の監視と連動して、ヒータH11A,H11Bの加熱状態(すなわち、容器本体11Aの加熱する領域)を独立して選択できる。例えば、固体材料容器11内に固体材料Sが十分に充填されている場合、ヒータH11A,H11Bによって、容器本体11Aの上下方向に分割された2つの領域をそれぞれ加熱する。そして、固体材料Sの供給が進み、固体材料容器11内に固体材料Sが半分以下と判断される場合、ヒータH11Aは休止し、H11Bによって、容器本体11Aの上下方向に分割された可能の領域のみを加熱できる。
【0040】
このように、鉛直方向上下に分割されたヒータH11A,H11Bにより、固体材料容器11(容器本体11A)の鉛直方向上下に分割された2つの領域をそれぞれ独立して加熱できるため、固体材料Sの残量が少ない場合に固体材料容器11の上方部分の空焚きを防ぐことができる。
【0041】
また、
図3(A)、(C)に示すように、容器本体11Aの周囲をマントルヒータH11で覆う際、ヒータH11A,H11Bの両端の重ね合わせの位置を、容器本体11Aの胴部14の鉛直方向上下に延在する線14aと同一線上とすることが好ましい。そして、複数の熱電対15の胴部14の挿通位置を、上述した線14aと同一線上に配置することで、複数の熱電対15と、ヒータH11A,H11Bとが互いに干渉することなく、それぞれ配置することができる。
なお、固体材料容器12,13についても同様である。
【0042】
<固体材料供給方法>
次に、本実施形態の固体材料供給装置50を用いた固体材料供給方法について、説明する。
【0043】
(通常運転)
先ず、固体材料供給装置50の渡り配管100をユースポイントとなる反応炉へと接続する。
次に、固体材料Sの気化を行うために、固体材料蒸気を供給する集合容器1のヒータH11,H12,H13の運転を開始し、固体材料容器11,12,13の加温を開始する。
【0044】
次に、選択された集合容器1の固体材料容器11,12,13内の温度及び圧力が設定値に到達し、所定の安定時間が経過した後、遠隔操作によって各配管に設けられている開閉弁をそれぞれ開くことで、固体材料蒸気をユースポイントへ供給できる。
【0045】
次に、固体材料Sの供給が完了した後、全ての集合容器1の配管中に残存する固体材料蒸気の排出およびパージ作業を実施する。最後に、遠隔操作によって各配管に設けられている開閉弁を閉止して、固体材料の供給を終了する。
【0046】
本実施形態の固体材料供給方法は、上述した通常運転の制御する際、個々の固体材料容器11,12,13のそれぞれについて、容器内の固体材料Sの残量を監視する。
【0047】
(容器内の固体材料の残量監視)
本実施形態の固体材料供給方法では、個々の固体材料容器11,12,13のそれぞれについて、鉛直方向上下に配設された複数の熱電対15を用いて容器内の固体材料Sの温度をそれぞれ測定し、容器内の固体材料Sの残量を検知する。これにより、固体材料容器内の固体材料の過昇温を抑制でき、固体材料供給容器の交換を適切なタイミングで実施できる。
【0048】
以下、固体材料容器11の場合を一例として説明する。
具体的には、固体材料容器11の胴部14の鉛直方向上下に間隔をあけて設けられた複数の熱電対15について、それぞれの温度を測定する。そして、固体材料容器11のそれぞれの高さの温度について、当該固体材料Sの昇華点との温度差を算出し、温度差が20℃未満の熱電対15が位置する高さには固体材料Sが残存するものと判定する。これに対して、温度差が20℃以上の熱電対15が位置する高さには、固体材料Sが残存しないと判定する。これにより、固体材料容器11内の固体材料Sの残量を監視できる。
なお、固体材料12、固体材料13についても同様の監視を行う。
【0049】
また、本実施形態の固体材料供給方法では、固体材料容器11から固体材料Sのガスを供給する際、マントルヒータH11の運転を開始する。ここで、固体材料容器11内の固体材料Sの残量を監視し、容器内の固体材料Sの高さが減少して、ヒータH11Aで覆われた領域の下方となった際、ヒータH11Aの加熱を停止することができる。このように、検知した容器内の固体材料Sの残量に応じて、固体材料容器11の加熱領域を変更することで、固体材料容器11の空焚きを防止するとともに、消費エネルギーを低減できる。
【0050】
さらに、本実施形態の固体材料供給方法では、固体材料容器11の底面に最も近い位置に配置された熱電対15によって測定される固体材料Sの温度と、当該材料の昇華点との温度差が20℃以上になったとき、容器内の固体材料Sの残量が少ないと判定する。これにより、容器内の固体材料Sの残量が低下した固体材料供給容器の交換を適切なタイミングで実施できるため、固体材料Sのガスを安定して供給することができる。
【0051】
以上説明したように、本実施形態の固体材料容器11によれば、容器本体11Aの胴部14に挿通される複数の熱電対15が、胴部14の鉛直方向上下に所要の間隔をあけて、2以上の異なる高さにそれぞれ配置される。これにより、容器本体11Aの鉛直方向上下に、複数の位置で温度を測定して、固体材料Sが残存する位置と、固体材料Sが残存しない位置とを温度の違いで把握することができるため、固体材料容器11内の固体材料Sの残量を監視することが可能となる。
【0052】
また、本実施形態の固体材料容器11によれば、複数の熱電対15は、容器本体11Aの側面である胴部14から水平方向に挿通する構成となっている。これにより、熱電対15の加熱によって固体材料Sが昇華して熱電対15の周囲に空隙ができたとしても、固体材料Sの自重でその空隙が埋められるため、熱電対15と同じ高さに固体材料Sがある限り、固体材料Sの温度を正確に測定することができる。その結果、固体材料容器11内の固体材料Sの残量を監視することが可能となる。
【0053】
本実施形態の固体材料供給装置50及び固体材料供給方法によれば、固体材料容器11,12,13と、固体材料容器11,12,13とそれぞれ連通する連結配管11a、12a、13aと、を備える構成となっている。これにより、固体材料容器11,12,13のそれぞれについて、容器内の固体材料Sの残量を監視できるため、容器内の固体材料Sの残量が低下した固体材料供給容器の交換を適切なタイミングで実施できる。
【0054】
また、本実施形態の固体材料供給装置50及び固体材料供給方法によれば、ゲルマニウム、ガリウム、アルミニウム、ハフニウム、インジウム、モリブデン、タンタル、チタン、タングステン、イットリウム、ジルコニウム等の無機金属化合物及び有機金属化合物を代表とする、標準温度、標準圧力で固体材料を、ガス状態で長時間安定的に反応炉へ供給できる。
【0055】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【実施例】
【0056】
以下に実施例及び比較例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0057】
<実施例>
図1に示す固体材料供給装置を用いて、固体材料のガスの供給を行った際の、固体材料容器内の固体材料の残量を監視した。
なお、固体材料容器は、
図4に示す構成のものを用いた。
【0058】
(固体材料容器)
・容器本体の直径:139.8mm
・熱電対の挿通位置:(周壁より)69.9mm
・熱電対の本数:鉛直方向上下に50mmの間隔をあけて7本設置(
図4中の符号1~7)
・固体材料:オキシ塩化モリブデン(昇華点:130℃)、熱電対の上から3番目と4番目の間の高さまで充填
・加熱温度:150℃
・ガス供給時間:固体材料容器内の温度が130℃となった際にガス供給を開始し、その時間をガス供給開始時間0(sec)とした。
【0059】
図5は、実施例の結果を示す図である。また、
図5中、X軸は、ガス供給開始からの時間を示し、Y軸は、固体材料容器の各高さに位置する熱電対の温度を示す。なお、
図5中の各系列の数値は、
図4中の熱電対の符号と同じである。
図5に示すように、容器内の上から1番目~3番目の熱電対では、ガス供給開始時間0secから直ぐに温度が150℃を超えており、固体材料の昇華点から20℃を超えているため、容器内に固体材料がなく、気相を測定していると判定した。
【0060】
また、容器内の上から4番目の熱電対では、ガス供給開始時間0secから3000secまで温度が130℃未満であり、固体材料の昇華点から20℃を超えていないため、容器内の固体材料を測定していると判定した。
その後、材料ガスの供給が進み、ガス供給開始時間から40000~50000secを超えると熱電対の温度が上昇し、固体材料の昇華点から20℃を超えたため、4番目の熱電対の高さに容器内に固体材料がなく、気相を測定していると判定した。
【0061】
また、容器内の上から5番目~6番目の熱電対では、ガス供給開始時間0secから温度が130℃未満であり、固体材料の昇華点から20℃を超えていないため、容器内の固体材料を測定していると判定した。
【0062】
本発明の実施例によれば、固体材料容器内の固体材料の残量を監視できることを確認できた。
【0063】
<比較例>
実施例の固体材料供給装置及び固体材料容器を用い、1本の熱電対を固体材料容器の上面から鉛直方向に挿通し、熱電対の先端が固体材料容器の底部付近に位置するように配設した。
【0064】
図6は、比較例の結果を示す図である。また、
図6中、X軸は、ガス供給開始からの時間を示し、Y軸は、熱電対の温度を示す。
図6に示すように、ガス供給開始時間0secから700secまでは、熱電対の温度が一定であり、固体材料の温度を測定していると判定した。
ガス供給開始から700secを超えると、熱電対の温度が上昇したため、熱電対の周囲に固体材料がなく、気相を測定していると判定した。
【0065】
図7は、比較例の結果を示す図である。具体的には、ガス供給開始から700secを超えると、熱電対の温度が上昇した後、固体材料容器の加熱を停止し、常温(25℃)まで温度が低下した後に固体材料容器の蓋を外した際の固体材料の様子を示す。
図7に示すように、熱電対を固体材料容器の上面から鉛直方向に挿通した場合、熱電対の近傍から固体材料の昇華が起き、熱電対の周囲に空隙が生じてしまうため、容器内の固体材料の残量を監視できないことがわかった。
【符号の説明】
【0066】
1,2・・・集合容器
10・・・集合配管
11,12,13・・・固体材料供給容器
11a,12a,13a・・・連結配管
11A・・・容器本体
11B・・・蓋
14・・・胴部
14a・・・直線
15・・・熱電対
15a・・・先端(温度測定部)
100・・・渡り配管
50・・・固体材料供給装置
C・・・中心軸
H10・・・ヒータ
H11,H12,H13・・・マントルヒータ
H11a,H12a,H13a・・・ヒータ
H100・・・ヒータ
S・・・固体材料
V11a,V12a,V13a・・・開閉弁
W11,W12,W13・・・重量測定器