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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】着色樹脂シート及び皮革様シート
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20241218BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20241218BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20241218BHJP
   D06N 3/00 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
C08J5/18
B32B27/12
B32B27/20 A
D06N3/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022512687
(86)(22)【出願日】2021-04-01
(86)【国際出願番号】 JP2021014123
(87)【国際公開番号】W WO2021201204
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2020066451
(32)【優先日】2020-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100133798
【弁理士】
【氏名又は名称】江川 勝
(72)【発明者】
【氏名】松田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】割田 真人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 武裕
(72)【発明者】
【氏名】赤木 祐太
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-087167(JP,A)
【文献】特開2007-106022(JP,A)
【文献】特開平07-042084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、前記樹脂に分散された着色剤とを含む、着色樹脂シートであり
前記着色剤は、発色団にポリオールを結合させた反応性特殊顔料を含み、
前記着色樹脂シートが、
長680~780nmの赤色領域の可視光透過率の平均値が50%以上であり、
明度L値が15以下であり、且つ、波長380~780nmの全可視光領域の光透過率の平均値が15%以上、
明度L値が15超で35以下であり、且つ、前記全可視光領域の光透過率の平均値が25%以上、または、
明度L値が35超で60以下であり、且つ、前記全可視光領域の光透過率の平均値が40%以上、のいずれかを満たすことを特徴とする着色樹脂シート。
【請求項2】
前記着色剤の平均分散粒子径が400nm以下である請求項1に記載の着色樹脂シート。
【請求項3】
前記着色剤は分子レベルで前記樹脂と混和している請求項1または2に記載の着色樹脂シート。
【請求項4】
前記明度L値が5以上で15以下であり、且つ、前記全可視光領域の光透過率の平均値が15~26%、である請求項1~3の何れか1項に記載の着色樹脂シート。
【請求項5】
前記明度L値が15超で35以下であり、且つ、前記全可視光領域の光透過率の平均値が25~35%、である請求項1~3の何れか1項に記載の着色樹脂シート。
【請求項6】
前記明度L値が35超で60以下であり、且つ、前記全可視光領域の光透過率の平均値が40~50%、である請求項1~3の何れか1項に記載の着色樹脂シート。
【請求項7】
繊維基材と、前記繊維基材に積層された着色樹脂層とを備える皮革様シートであって、
前記着色樹脂層は、樹脂と、前記樹脂に分散された着色剤とを含み、前記着色剤は、発色団にポリオールを結合させた反応性特殊顔料を含み、
記皮革様シートは、明度L値が40以下の表面を有し、
前記皮革様シートは、波長680~780nmの赤色領域の可視光透過率の平均値が5%以上である皮革様シート。
【請求項8】
前記皮革様シートは、波長380~780nmの全可視光線領域の光透過率の平均値が2%以上である請求項7に記載の皮革様シート。
【請求項9】
前記皮革様シートは、前記明度L値が5以上15以下の前記表面を有する請求項8に記載の皮革様シート。
【請求項10】
前記皮革様シートは、前記明度L値が15超で25以下の前記表面を有し、且つ、波長380~780nmの全可視光領域の光透過率の平均値が3%以上である、請求項7に記載の皮革様シート。
【請求項11】
前記皮革様シートは、前記明度L値が25超で40以下の前記表面を有し、且つ、波長380~780nmの全可視光領域の光透過率の平均値が4%以上である、請求項7に記載の皮革様シート。
【請求項12】
前記着色樹脂層は、波長680~780nmの赤色領域の可視光透過率の平均値が50%以上である着色樹脂シートを含む請求項7~11の何れか1項に記載の皮革様シート。
【請求項13】
前記着色剤の平均分散粒子径が400nm以下である請求項7~12の何れか1項に記載の皮革様シート。
【請求項14】
前記繊維基材は、その空隙に前記繊維基材との合計に対する割合で10~50質量%の高分子弾性体を含み、空隙率が70体積%以下である請求項7~13の何れか1項に記載の皮革様シート。
【請求項15】
前記繊維基材は、白色繊維からなる繊維構造体である請求項7~14の何れか1項に記載の皮革様シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過性を有する着色樹脂シート及び皮革様シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の嗜好の多様化に伴い、物品の表面を加飾するための素材として、新規な意匠を備える素材が求められている。このような背景から、着色されたシートの背面にバックライトや、バックライトを備えた液晶パネル等の照明装置、を配置して発光させて光を透過させることにより、シートの表面に文字や図形等を浮かび上がらせる技術が提案されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1は、生布に、ポリウレタン樹脂からなる表皮層が積層されてなり、380~780nmの波長域における可視光線透過率が0.10~11.90%である合成皮革を開示する。また、黒色のポリエステルニットである生布に黒顔料(DIC(株)製 商品名“ダイラックL-1770”)によって黒色に着色された表皮層を積層して得られた黒色の合成皮革において、380~780nmの波長域における可視光線透過率が0.17~0.20%である合成皮革が得られたことを開示する。さらには、白色のポリエステルニットである生布に白顔料(DIC(株)製 商品名“ダイラックL-1781”)によって白色に着色された表皮層を積層して得られた白色の合成皮革において、380~780nmの波長域における可視光線透過率が10.87~11.90%である合成皮革が得られたことを開示する。
【0004】
また、下記特許文献2は、透明または半透明のエラストマーシートを使用した光透過性の人工皮革シートであって、当該エラストマーシートの裏面又は表面にはスモーク印刷層を備え、当該エラストマーシートの裏面であって、最外層には、文字、図形、又は模様、又はこれらの組み合わせの意匠が浮かびあがるようにするためのマスク印刷層を備え、当該エラストマーシートの表面には皮革模様の凹凸が設けられていることを特徴とする光透過性の人工皮革シートを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-177714号公報
【文献】特開2014-173203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
黒のような濃色に着色されている着色樹脂シートに高い光透過性を保持させることは困難であった。また、光透過性を高めるために着色樹脂シート中の着色剤の含有割合を低下させた場合には、濃色度が低下する。また、濃色度を高めるために、着色樹脂シート中の着色剤の含有割合を高めた場合には、光透過性が低下する。
【0007】
このように、濃色に着色された着色樹脂シートにおいては、光透過性を高めれば外観の濃色度が低下し、外観の濃色度を高めれば光透過性が低下しやすくなる。このように、濃色に着色された着色樹脂シートにおいては、濃色と光透過性とはトレードオフの関係にあった。
【0008】
また、着色樹脂シートが中程度の濃色や低い濃色の場合、着色樹脂シートに覆われる下の層が充分に隠ぺいされず、着色樹脂シートの意匠性が低下したり、着色樹脂シートの表面に浮かび上がる文字や図形等が不鮮明になったりすることがあった。
【0009】
本発明は、着色性と光透過性とのバランスに優れた着色樹脂シートを得ることを目的とする。また、着色層を備える皮革様シートにおいて、透過する光が鮮明になる光透過性と繊維基材の隠ぺい性とのバランスに優れる皮革様シートを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一局面は、樹脂と、樹脂に分散された着色剤とを含む、着色樹脂シートであり、着色剤は、発色団にポリオールを結合させた反応性特殊顔料を含み、着色樹脂シートが、波長680~780nmの赤色領域の可視光透過率の平均値が50%以上であり、明度L値が15以下であり、且つ、波長380~780nmの全可視光領域の光透過率の平均値が15%以上、明度L値が15超で35以下であり、且つ、全可視光領域の光透過率の平均値が25%以上、または、明度L値が35超で60以下であり、且つ、全可視光領域の光透過率の平均値が40%以上、のいずれかを満たす着色樹脂シートである。なお、光透過率の平均値は、何れも相加平均値である。このような着色樹脂シートにおいては、発光色を淡色化させにくい波長680~780nmの赤色領域の光を平均値が50%以上になるように多く透過させることにより、着色性と高い光透過性とのバランスに優れた着色樹脂シートを得ることができる。
【0011】
また、着色剤の平均分散粒子径は400nm以下であること、さらには、着色剤が分子レベルで樹脂と混和していることが、濃色に着色しても高い光透過性を維持させることができる着色樹脂シートが得られやすい点から好ましい。
【0012】
また、明度L値が5以上で15以下であり、且つ、全可視光領域の光透過率の平均値が15~26%であることが、濃色と光透過性とのバランスに優れる点から好ましい。明度L値が5未満の深暗色(deep-dark color)の場合、暗くなりすぎて暗色と光透過性とのバランスが困難になる傾向がある。
【0013】
また、明度L値が15超で35以下であり、且つ、全可視光領域の光透過率の平均値が25~35%であることが、中程度の濃色と光透過性とのバランスに優れる点から好ましい。
【0014】
また、明度L値が35超で60以下であり、且つ、全可視光領域の光透過率の平均値が40~50%であることが、低い濃色と光透過性とのバランスに優れる点から好ましい。明度L値が60超の場合、明るくなりすぎて着色と光透過性とのバランスが劣る傾向がある。
【0015】
また、本発明の他の一局面は、繊維基材と、繊維基材に積層された着色樹脂層とを備える皮革様シートである。着色樹脂層は、樹脂と、樹脂に分散させた着色剤と、を含み、着色剤は、発色団にポリオールを結合させた反応性特殊顔料を含む。そして、皮革様シートは、着色樹脂層の表面に明度L値が60以下の表面を有する。また、皮革様シートは、波長680~780nmの赤色領域の可視光線透過率の平均値が5%以上である。また、好ましくは、波長380~780nmの全可視光線領域の光透過率の平均値が2%以上である。このような皮革様シートにおいては、着色樹脂層が繊維基材に対する優れた隠ぺい性を示す。また、このような皮革様シートは、明度L値が40以下の濃色から低い濃色の範囲の表面を有していても、透過する光が鮮明になる光透過性を保持することができる。
【0016】
また、表面の明度L値が25以下のような濃色から中程度の濃色の範囲であっても、波長380~780nmの全可視光領域の光透過率の平均値が2%以上になるような光透過性を保持しやすい点から好ましい。このような皮革様シートは、波長680~780nmの赤色領域の可視光透過率の平均値が50%以上である着色樹脂シートを着色樹脂層として採用することにより得られやすい。
【0017】
とくには、皮革様シートの表面が、明度L値が15以下であり、好ましくは明度L値がL値が15以下で5以上であり、且つ、皮革様シートの波長380~780nmの全可視光領域の光透過率の平均値が2%以上であることが好ましい。このような皮革様シートの場合には、濃色において、透過する光が鮮明になる光透過性と繊維基材の隠ぺい性とのバランスにとくに優れる点から好ましい。
【0018】
また、皮革様シートの表面が、明度L値が15超で25以下であり、且つ、皮革様シートの全可視光領域の光透過率の平均値が3%以上であることが好ましい。このような皮革様シートの場合には、中程度の濃色から低い濃色の範囲において、透過する光が鮮明になる光透過性と繊維基材の隠ぺい性とのバランスにとくに優れる点から好ましい。
【0019】
また、皮革様シートの表面が、明度L値が25超で40以下であり、且つ、皮革様シートの全可視光領域の光透過率の平均値が4%以上であることが好ましい。このような皮革様シートの場合には、低い濃色において、透過する光が鮮明になる光透過性と繊維基材の隠ぺい性とのバランスにとくに優れる点から好ましい。
【0020】
また、繊維基材は、その空隙に繊維基材との合計に対する割合で10~50質量%の高分子弾性体を含み、空隙率が70体積%以下であることが、光透過性により優れる点から好ましい。
【0021】
また、繊維基材は、白色繊維からなる繊維構造体であることが、波長380~780nmの全可視光領域の光透過率の平均値が2%以上になるような高い光透過性を保持させやすい点から好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、着色された着色樹脂シートにおいて、高い光透過性を保持させることができる。また、着色層を備える皮革様シートにおいて、透過する光が鮮明になる光透過性と繊維基材の隠ぺい性とのバランスに優れた皮革様シートが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、実施形態の皮革様シート10の模式断面図である。
図2図2は、実施例5及び比較例6で得られた着色樹脂シート(着色樹脂層)の波長380~780nmの可視光線領域の光透過率を示すスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る着色樹脂シート及び皮革様シートの一実施形態について、詳しく説明する。
【0025】
本実施形態の着色樹脂シートは、樹脂シートに着色剤を分散させた着色樹脂シートであり、着色剤は、発色団にポリオールを結合させた反応性特殊顔料を含み、着色樹脂シートが、波長680~780nmの赤色領域の可視光透過率の平均値が50%以上であり、明度L値が15以下であり、且つ、波長380~780nmの全可視光領域の光透過率の平均値が15%以上、明度L値が15超で35以下であり、且つ、全可視光領域の透過率の平均値が25%以上、または、明度L値が35超で60以下であり、且つ、全可視光領域の光透過率の平均値が40%以上、のいずれかを満たす着色樹脂シートである。このような着色樹脂シートにおいては、発光色を淡色化させにくい波長680~780nmの赤色領域の光を平均値が50%以上になるように多く透過させることにより、全可視光領域の光透過率の平均値を高く維持することができる。
【0026】
樹脂シートを形成するための樹脂は光透過性、好ましくは、波長380~780nmの全可視光領域の光透過率の平均値が60%以上、さらには、70%以上、である各種透明樹脂が好ましく用いられる。このような透明樹脂としては、例えば、ポリカーボネート系樹脂等を含む硬質透明樹脂や、ポリウレタン系弾性体,アクリル系弾性体,ポリアミド系弾性体,ポリエステル系弾性体,ポリスチレン系弾性体,ポリオレフィン系弾性体等を含む透明高分子弾性体が挙げられる。透明高分子弾性体は、後述する皮革様シートの表面層である着色樹脂層として着色樹脂シートが用いられた場合に、皮革様の柔軟な風合いを保持させることができる点から特に好ましい。
【0027】
また、樹脂シートに分散される着色顔料としては、発色団にポリオールを結合させた反応性特殊顔料を含む、680~780nmの範囲の可視光の透過性を高くする顔料や染料が挙げられる。発色団にポリオールを結合させた反応性特殊顔料の具体例としては、Milliken社製のVivitintやReactintなど、が挙げられる。分散タイプのペリレンブラック;Pigment Yellow 73,Pigment Red 5などの有機顔料;反応性重合基が導入された重合性染料;分散染料;塩基性染料などを含んでもよい。これらの中では、VivitintやReactintがとくに好ましい。
【0028】
着色剤の平均分散粒子径は400nm以下、さらには、300nm以下であることが好ましく、とくには、粒子の輪郭の形状が明確に特定できないように、分子レベルで着色樹脂シートに混和していることが好ましい。着色剤の平均分散粒子径が大きすぎる場合には、着色剤の粒子によって波長の長い光が散乱または反射しやすくなって、後述するような波長680~780nmの赤色領域の可視光透過率の平均値を50%以上に維持しにくくなる。
【0029】
着色樹脂シートは、波長680~780nmの赤色領域の可視光透過率の平均値が50%以上であり、好ましくは55~65%である。着色樹脂シートの、波長680~780nmの赤色領域の可視光透過率の平均値が50%以上であることにより、発光色を著しく淡色化させることなく、全可視光領域の光透過率の平均値を高くすることができる。
【0030】
そして、上述のような着色樹脂シートは、下記に示すような光透過率を有する、明度Lが15以下である黒色等の濃色や、明度Lが15超で35以下である中程度の濃色や、明度Lが35超で60以下である低い濃色に着色されたものである。
【0031】
明度L値が15以下である濃色、好ましくは明度L値が5以上で15以下である濃色の場合、波長380~780nmの全可視光領域の光透過率の平均値が15%以上であり、好ましくは15~26%である。例えば、図2に示したVIVITINT BLACK856を15質量%配合した後述する実施例5で得られた着色樹脂シートは、明度L値が5.7であり、波長380~780nmの可視光線領域の光透過率の平均値が16.6%である黒色の濃色の着色樹脂シートである。一方、図2に示したカーボンブラックを3.0質量%配合した後述する比較例6で得られた着色樹脂シートは、明度L値が4.2であり、波長380~780nmの可視光線領域の光透過率の平均値が1.1%の深暗色の着色樹脂シートである。
【0032】
また、明度L値が15超で35以下である中程度の濃色の場合、波長380~780nmの全可視光領域の光透過率の平均値が25%以上であり、好ましくは25~35%、さらに好ましくは30~35%である。例えば、VIVITINT BLACK856を5質量%配合した後述する実施例2で得られた着色樹脂シートは、明度L値が28.1であり、波長380~780nmの可視光線領域の光透過率の平均値が32.7%である中程度の濃色の着色樹脂シートである。また、例えば、分散タイプのペリレンブラックを5質量%配合した後述する実施例6で得られた着色樹脂シートは、明度L値が23.7であり、波長380~780nmの可視光線領域の光透過率の平均値が25.2%である中程度の濃色の着色樹脂シートである。
【0033】
さらに、明度L値が35超で60以下である、低い濃色の場合、波長380~780nmの全可視光領域の光透過率の平均値が40%以上であり、好ましくは40~50%、さらに好ましくは45~50%である。例えば、VIVITINT BLACK856を2.5質量%配合した後述する実施例1で得られた着色樹脂シートは、明度L値が52.3であり、波長380~780nmの可視光線領域の光透過率の平均値が45.8%である低い濃色の着色樹脂シートである。
【0034】
着色樹脂シートの厚さ及び着色剤の含有割合は、目的とする着色樹脂シートの、表面の明度に応じて、波長380~780nmの全可視光領域の光透過率の平均値が所定の範囲になるように調整される。着色樹脂シートの厚さ及び着色剤の含有割合の一例としては、着色樹脂シートの厚さが30~90μmであって、着色剤の含有割合が1~20質量%である組み合わせが挙げられる。
【0035】
また、着色樹脂シートは均一な配合組成の樹脂組成物からなる単層構造であっても、互いに異なる配合組成を有する樹脂組成物からなる積層構造を有するものであってもよい。
【0036】
本実施形態の皮革様シートは、繊維基材と、繊維基材に積層された着色樹脂層とを備える皮革様シートである。また、着色樹脂層は、樹脂に着色剤を分散させた着色樹脂層を備える。皮革様シートは、表面の明度L値が40以下である。そして、皮革様シートは、波長680~780nmの赤色領域の可視光透過率の平均値が5%以上である。
【0037】
繊維基材としては、不織布,織物,編物,または、それらを組み合わせたものが挙げられる。これらの中では、不織布、とくには繊度1dtex以下の極細繊維の不織布であることが、しなやかな皮革様シートが得られる点からとくに好ましい。本実施形態においては、繊維基材が不織布である場合について代表例として詳しく説明する。
【0038】
繊維基材を形成する繊維を形成する樹脂としては、光透過性を有する熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。このような熱可塑性樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂またはこれらに微量モノマー単位を共重合させて変性した変性PET等の変性ポリエステル樹脂;ポリアミド66等のポリアミド樹脂;各種アクリル樹脂;ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン樹脂等の繊維形成能を有する熱可塑性樹脂が挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
繊維基材を形成する繊維の繊度、断面形状、繊維長等の繊維形態は適宜選択される。繊維の繊度としては、通常の繊度の繊維や繊度1dtex以下のような極細繊維等が挙げられる。これらの中では、繊度0.8dtex以下の極細繊維からなる不織布が、しなやかさに優れ、また、不織布を緻密化して空隙率を低くすることにより、光透過性を向上させることができる点から好ましい。なお、繊度は、皮革様シートの断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を3000倍で撮影し、繊維の断面をランダムに10個選んで断面積を測定し、その断面積の平均値を算出し、各樹脂の密度から換算して算出される。
【0040】
繊維基材の製造に用いられる樹脂には、本発明の目的及び効果を損なわない範囲で、各種添加剤、具体的には、例えば、着色防止剤,耐熱剤,難燃剤,滑剤,防汚剤,蛍光増白剤,艶消剤,光沢改良剤,制電剤,芳香剤,消臭剤,触媒,抗菌剤,防ダニ剤,無機微粒子等を必要に応じて配合してもよい。なお、不織布の製造に用いられる樹脂は、繊維を着色させる着色剤を実質的に含有しない無色繊維または白色繊維であることが、高い光透過性を有する皮革様シートが得られやすい点から好ましい。なお、白色繊維とは、紡糸前の原料に着色顔料や染料などの着色剤が混合されていない原糸を意味する。
【0041】
また、繊維基材は、高分子弾性体、好ましくは光透過性の着色されていない高分子弾性体をその内部の空隙に含有することが好ましい。このような高分子弾性体の具体的としては、例えば、ポリウレタン系弾性体,アクリル系弾性体,ポリアミド系弾性体,ポリエステル系弾性体,ポリスチレン系弾性体,ポリオレフィン系弾性体等が挙げられる。これらの中では、ポリウレタン系弾性体及びアクリル系弾性体が、とくには、ポリウレタン系弾性体とアクリル系弾性体との組み合わせが、光透過性と機械的特性とのバランスに優れる点から好ましい。また、高分子弾性体は、高い光透過性を保持させるためには、非発泡体であることが好ましい。
【0042】
なお、繊維基材が、海島型複合繊維の絡合シートから海成分を除去して得られる島成分からなる極細繊維の絡合不織布である場合、海成分を除去して形成された繊維束中の空隙にも高分子弾性体を付与することが、極細繊維と空気との界面を極細繊維と高分子弾性体との界面に置き換えることにより、屈折率差が小さくなって光透過性をより向上させることができる点から好ましい。
【0043】
繊維基材が高分子弾性体を含む場合、繊維基材中の高分子弾性体の含有割合は、1~50質量%、さらには5~30質量%であることが好ましい。
【0044】
また、繊維基材が高分子弾性体を含む場合、繊維基材中の空隙率は70体積%以下、さらには60体積%以下、とくには50体積%以下であり、好ましくは30体積%以上であることが、高い透光性を発揮する点から好ましい。
【0045】
繊維基材の厚さは、0.1~1.0mm、さらには0.2~0.6mmであることが高い光透過性を保持した皮革様シートが得られやすい点から好ましい。
【0046】
図1を参照すれば、皮革様シート10を形成する繊維基材1の一面には、中間層2が被着されており、中間層2に着色樹脂層3として着色樹脂シートが被着されている。
【0047】
皮革様シート10は、離型紙などの支持基材上に着色樹脂シートを形成した後、着色樹脂シートの表面に接着性を有する中間層を形成し中間層を繊維基材1の一面に貼り合せて、必要によりプレスして接着し、離型紙を剥離することにより形成される。
【0048】
中間層の厚さは、特に限定されないが、例えば、10~300μmであることが好ましい。
【0049】
中間層は、皮革様シートに弾性を付与させるための充分な厚さを確保したり、着色樹脂シートを繊維基材に接着したりするために形成される単層又は複層の弾性層である。中間層を形成するための高分子弾性体は、従来から、皮革様シートの表面を形成する樹脂層の製造に用いられてきたポリウレタン系弾性体,アクリル系弾性体,ポリアミド系弾性体,ポリエステル系弾性体,ポリスチレン系弾性体,ポリオレフィン系弾性体等が挙げられる。
【0050】
このようにして得られる本実施形態の皮革様シートの厚さは特に限定されないが、例えば0.02~10mm、さらには0.05~5mm程度であることが光透過性を充分に維持できる点から好ましい。
【0051】
また、皮革様シートの見かけ密度は0.03~1.5g/cm3、さらには0.06~1.2g/cm3であることが好ましい。このように皮革様シートが緻密である場合には、補強効果がより高くなる点から好ましい。
【0052】
本実施形態の皮革様シートは着色樹脂層を有し、着色樹脂層は、例えば、上述したような着色樹脂シートを含む。そして、皮革様シートは、明度L値が40以下の表面を有し、波長680~780nmの赤色領域の可視光透過率の平均値が5%以上である。
【0053】
また、本実施形態の皮革様シートは、波長380~780nmの全可視光線領域の光透過率の平均値が、2%以上、さらには、2~20%、とくには2~10%であることが好ましい。波長380~780nmの可視光線領域の光透過率の平均値が2%未満である場合には、光透過性が低いために着色樹脂層の表面に光による文字や図形が明瞭に表示されにくくなる傾向がある。また、波長380~780nmの可視光線領域の光透過率の平均値が高すぎる場合には、表面の明度L*値が40以下である皮革様シートが得られにくくなる。
【0054】
皮革様シートの表面の、L***表色系における明度L*値は、40以下であり、好ましくは25以下であることが好ましい。
【0055】
また、本実施形態の皮革様シートは、波長680~780nmの赤色領域の光透過率の平均値が5%以上であり、好ましくは7~15%である。皮革様シートの波長680~780nmの赤色領域の光透過率の平均値が5%以上であることにより、発光色を淡色化させにくい赤色領域の光を多く透過させて、表面の明度L値が15以下であっても、波長380~780nmの可視光線領域の光透過率の平均値が、例えば2%以上になるような光透過性を保持させやすくなる。
【0056】
本実施形態の皮革様シートによれば、明度L値が15以下、好ましくは明度L値が5以上で15以下の場合には、波長380~780nmの全可視光領域の光透過率の平均値が2%以上、明度L値が15超で25以下の場合には、全可視光領域の光透過率の平均値が3%以上、または、明度L値が25超で40以下である場合には、全可視光領域の光透過率の平均値が4%以上、のような着色性と光透過性に優れた皮革様シートが得られる。
【0057】
以上説明した、皮革様シートは、例えば、背面にバックライトや、バックライトを備えた液晶パネル等の発光装置を配置して発光させて光を透過させることにより、皮革様シートの表面に文字や図形等を浮かび上がらせるような発光構成体の表皮材として好ましく用いられる。
【実施例
【0058】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0059】
はじめに、本実施例で用いた評価方法を以下にまとめて説明する。
【0060】
(明度L*値)
着色樹脂シートの表面または皮革様シートの着色樹脂層の表面の色度を、分光測色計(CM-3610d、コニカミノルタ製、D65光源)を用いて測色した。具体的には、着色樹脂シートまたは皮革様シートの表面の反対側の面に標準白板(酸化アルミニウム板)を配して分光測色計にセットし、測色した。測色値からL***表色系における明度L*値を求めた。
【0061】
(着色樹脂シートの光透過率の測定)
離型紙上に厚さ60μmの着色樹脂シートの皮膜を形成した。そして、得られた着色樹脂シートを離型紙から剥離した。そして、着色樹脂シートの皮膜の波長域380~780nmの光透過率を分光光度計(HITACHI製 U-3010 Spectrophotometer)で測定した。そして、波長域380~780nmの全可視光領域の光透過率の相加平均値、及び680~780nmの赤色領域の光透過率の相加平均値を求めた。一例として、図2に、実施例5及び比較例6で得られた着色シートの波長380~780nmの可視光線領域の光透過率を示すスペクトルを示す。
【0062】
(皮革様シートの光透過率の測定)
皮革様シートの波長域380~780nmの光透過率を分光光度計(HITACHI製 U-3010 Spectrophotometer)で測定した。そして、波長域380~780nmの全可視光領域の光透過率の相加平均値、及び680~780nmの赤色領域の光透過率の相加平均値を求めた。
【0063】
(着色剤の平均分散粒子径及び分散性)
着色樹脂シートの厚さ方向の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で3000倍の倍率で測定し、10μm四方の視野にある着色剤の粒子の平均粒子径を特定した。なお、平均粒子径は、粒子の最も長い部分の距離を粒子径とした。そして、特定された各粒子の粒子径を算術平均して平均分散粒子径とした。また、着色剤が溶解して輪郭を特定できない場合をA、平均粒子径が0.4μm以下の場合をB、平均粒子が0.4μm以上の粒子が存在していた場合をCと判定した。
【0064】
(皮革様シートの見掛け密度)
JIS L 1913に準じて、厚さ(mm)および目付け(g/cm)を測定し、これらの値から見掛け密度(g/cm)を算出した。
【0065】
(皮革様シートの繊維基材を形成する繊維の繊度)
繊度は、皮革様シートの厚さ方向の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を3000倍で撮影し、繊維の断面をランダムに10個選んで断面積を測定し、その断面積の平均値を算出し、各樹脂の密度から換算して算出した。
【0066】
(皮革様シートの繊維基材の空隙率)
皮革様シートの厚さ方向の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を300倍で撮影し、真の厚さ方向の厚さを測定し、繊維基材の目付および基材に使用した原料の密度より、以下の式により繊維基材の空隙率を算出した。
・繊維基材の空隙率(体積%)=(1-(目付/原料密度)/(厚み/真の厚み))×100
【0067】
(繊維基材の隠ぺい性)
白色または黒色の繊維基材の上に着色樹脂シートを重ね、真上から目視確認した場合の透け具合を目視評価した。繊維基材が全く見えない場合をA、繊維基材が微かに見える場合をB、繊維基材がはっきり見える場合をCと判定した。
【0068】
(透過光の鮮明さ)
皮革様シートの着色樹脂層を形成していない側から白色LEDライト(150ルーメン)で照射した際、透過する透過光の色の鮮明さを目視評価した。透過光が黄味を帯びず明るい白色であった場合をA、やや黄味を帯びた白色である場合をB、黄味を強く帯びて淡色化したややぼんやりとした印象の白色であった場合をCと判定した。
【0069】
[実施例1]
無黄変ポリカーボネート系ポリウレタンを含有する30質量%ポリウレタンDMF溶液に黒色顔料(VIVITINT BLACK856、ミリケン社製)を分散させることにより、着色樹脂シートを形成するための樹脂液を調製した。なお、樹脂液には無黄変ポリカーボネート系ポリウレタンの固形分に対して、黒色顔料2.5質量%が配合されていた。そして、調製された樹脂液を離型紙上に塗布した後、120℃で2分間乾燥することにより、厚さ60μmの黒色の着色樹脂シートを形成した。そして、得られた着色樹脂シートを剥離シートから剥離した。そして、上述した方法により各特性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
[実施例2~5]
着色樹脂シート中の着色剤の配合割合を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同様にして着色樹脂シートを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0072】
[実施例6(参考例)]
VIVITINT BLACK856を分散タイプのペリレンブラックに変更した以外は、実施例2と同様にして着色樹脂シートを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0073】
[比較例1]
無黄変ポリカーボネート系ポリウレタンを含有する30質量%ポリウレタンDMF溶液に、黒色顔料(カーボンブラック、ダイラックL-1770、DIC(株)製)を分散させた着色樹脂シートを形成するための樹脂液を調製した。なお、樹脂液には無黄変ポリカーボネート系ポリウレタンの固形分に対して、カーボンブラック0.5質量%が配合されていた。以下、実施例1と同様にして、厚さ60μmの着色樹脂シートを形成し、評価した。結果を表1に示す。
【0074】
[比較例2~6]
着色樹脂シート中の着色剤の配合割合を表1に示すように変更した以外は、比較例1と同様にして着色樹脂シートを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0075】
表1を参照すれば、赤色領域の可視光透過率の平均値が69.4%である実施例1で得られた着色樹脂シートは、L*値が52.3の低い濃色であり、比較例1で得られた赤色領域の可視光透過率の平均値が43.6%である比較例1で得られた着色樹脂シートもL*値が57.7の低い濃色であった。そして、実施例1で得られた着色樹脂シートは、比較例1で得られた着色樹脂シートよりもL*値が低く、より深い濃色であるにも関わらず、全可視光領域の光透過率の平均値が高かった。また、L*値がそれぞれ、28.1、23.7である中程度の濃色であった実施例2及び実施例6で得られた着色樹脂シートも、L*値がそれぞれ45.6,41.4である中程度の濃色の比較例2及び比較例3で得られた着色樹脂シートよりも、より深い濃色であるにもかかわらず、全可視光領域の光透過率の平均値が高いか同等であった。また、L*値が7.9,5.7である深い濃色の実施例4及び実施例5でそれぞれ得られた着色樹脂シートも、L*値が26.8,22.0である中程度の濃色の比較例4及び比較例5で得られた着色樹脂シートよりも、より深い濃色であるにもかかわらず、全可視光領域の光透過率の平均値が高い又は同等であった。
【0076】
また、分散タイプのペリレンブラックを用いたL*値が23.7である中程度の濃色の実施例6で得られた着色樹脂シートも、L*値が22.0である中程度の濃色の比較例5で得られた着色樹脂シートよりも、全可視光領域の光透過率の平均値が高かった。
【0077】
また、実施例1~5で得られた着色樹脂シートには、何れも着色剤の凝集が認められず、着色剤が分子レベルで混和していた。
【0078】
[実施例7]
水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール樹脂を海成分とし、イソフタル酸変性度6モル%のPETを島成分とし、繊維1本あたりの島数が25島で、海成分/島成分が25/75(質量比)となるような溶融複合紡糸用口金を用い、海島型のフィラメントを260℃の口金より吐出した。そして、紡糸速度が3700m/minとなるようにエジェクター圧力を調整し、平均繊度2.1dtexの海島型複合長繊維をネット上に捕集した。そしてネット上に捕集された海島型複合長繊維を表面温度42℃の金属ロールで軽く押さえることにより表面の毛羽立ちを抑えてネットから剥離し、さらに、表面温度75℃の格子柄の金属ロールとバックロールとの間を通過させて熱プレスすることにより、表面の極細繊維が仮融着した目付31g/m2の長繊維ウェブを得た。
【0079】
そして、得られた長繊維ウェブをクロスラッピングすることにより8枚重ね、これに、針折れ防止油剤をスプレーした。そして、針先端からバーブまでの距離が3.2mmの6バーブ針を用い、針深度8.3mmで両面から交互に3300パンチ/cm2のパンチ密度でニードルパンチングすることにより、目付320g/m2の絡合された長繊維ウェブを得た。
【0080】
そして、長繊維ウェブを巻き取りライン速度10m/分で70℃の熱水中に14秒間浸漬することにより熱収縮させて緻密化された絡合ウェブを得た。
【0081】
次に、緻密化された絡合ウェブにポリウレタンを以下のようにして含浸させた。ポリカーボネート/エーテル系ポリウレタンを主体とするポリウレタンエマルジョン(固形分濃度30%)を緻密化された絡合ウェブに含浸させた。そして、150℃の乾燥炉で乾燥した。そして、このようにして得られた、ポリウレタン含浸絡合ウェブを95℃の熱水中でディップニップ処理を繰り返すことにより変性PVAを溶解除去することにより、平均繊度0.1dtexの極細長繊維を25本含む繊維束が3次元的に交絡した極細繊維の不織布が得られた。そして、不織布は、スライス及びバフィング処理することにより見かけ密度が0.50g/cm3で、厚さ0.35mmの極細繊維の不織布基体に調整された。
【0082】
そして、不織布基体を、アクリル弾性体エマルジョン(DIC(株)製RYUDYE-W BINDER 11KS-EN、樹脂分30質量%)にピックアップ率100%で含浸付与した。そして、100℃の乾燥機で10分間乾燥することにより、繊維基材を得た。ピックアップ率から計算された繊維基材中の各成分の有効成分割合は、極細繊維/ポリウレタン/アクリル弾性体=90/10/20(質量比)の割合であった。また、繊維基材の空隙率は44%であった。
【0083】
そして、以下に説明するような乾式造面法により繊維基材に着色樹脂層を積層形成した。
【0084】
実施例1と同様にして、無黄変ポリカーボネート系ポリウレタンを含有する30質量%ポリウレタンDMF溶液に、黒色顔料(VIVITINT BLACK856、ミリケン社製)を分散させた着色樹脂層を形成するための樹脂液を調製した。そして、調製された樹脂液を離型紙上に塗布した後、120℃で2分間乾燥することにより、厚さ60μmの着色樹脂シートを形成した。
【0085】
次に、離型紙上に形成された着色樹脂シートの表面に接着層を形成するための樹脂液を塗布した後、120℃で2分間乾燥することにより、厚さ50μmの接着層を形成した。なお、接着層を形成するための樹脂液は、ポリカーボネート系ポリウレタンの30質量%DMF溶液であった。
【0086】
このようにして形成された、離型紙上の接着層を繊維基材の一面に接触させて載置し、表面温度75℃に設定された加熱ロールで圧着した。そして、50℃で3日間熟成した後、離型紙を剥離することにより、黒色の着色樹脂層を備える皮革様シートが得られた。このようにして得られた皮革様シートは厚さ0.31mm、見掛け密度1.07g/cm3、目付333g/m2であった。そして、上述した方法により各特性を評価した。結果を表2に示す。
【0087】
【表2】
【0088】
[実施例8~実施例11]
実施例2~5と同様にして、着色樹脂シート中の着色剤の配合割合を表2に示したように変更した以外は、実施例1と同様にして皮革様シートを製造し、評価した。結果を下記表2に示す。
【0089】
[実施例12~実施例14]
繊維基材をPET不織布からPET編物に変更した以外は、実施例8,実施例10,又は実施例14と同様にして皮革様シートを製造し、評価した。結果を表2に示す。
【0090】
[比較例7~11]
着色樹脂層中の着色剤の配合割合を表2に示すように変更した以外は、実施例7と同様にして皮革様シートを製造し、評価した。結果を表2に示す。
【0091】
[比較例12~比較例14]
繊維基材をPET不織布からPET編物に変更した以外は、比較例6,比較例8等と同様にして皮革様シートを製造し、評価した。結果を表2に示す。
【0092】
[比較例15]
実施例7の長繊維ウェブの製造において、イソフタル酸変性度6モル%のPETにカーボンブラックを0.5質量%配合して、繊維を黒色に着色して繊維基材を製造した。それ以外は比較例9と同様にして皮革様シートを製造し、評価した。結果を表2に示す。
【0093】
[比較例16]
繊維基材の空隙率を72体積%に変更した以外は実施例10と同様にして、着色樹脂シートを製造し、評価した。結果を表2に記す。
【0094】
表2を参照すれば、赤色領域の可視光透過率の平均値が50%以上であり、且つ、表面の明度L値が60以下である、着色剤を分散させた着色樹脂層を備えた、実施例7~14で得られた皮革様シートは、波長380~780nmの全可視光線領域の光透過率の平均値が2%以上である何れも高い全可視光透過率を示した。例えば、L*値が20.4である実施例8で得られた皮革様シートの全可視光透過率が4.7であるのに対し、L*値が同等の20.8である比較例10で得られた皮革様シートの全可視光透過率は2.0であった。その他の実施例と比較例を対比しても同様の結果が得られたことがわかる
【符号の説明】
【0095】
1 繊維基材
2 接着層
3 着色樹脂層
10 皮革様シート
図1
図2