(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】分注装置及び分注方法
(51)【国際特許分類】
G01N 35/10 20060101AFI20241218BHJP
【FI】
G01N35/10 D
(21)【出願番号】P 2023547981
(86)(22)【出願日】2021-09-14
(86)【国際出願番号】 JP2021033808
(87)【国際公開番号】W WO2023042276
(87)【国際公開日】2023-03-23
【審査請求日】2024-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 大輔
(72)【発明者】
【氏名】柴原 匡
(72)【発明者】
【氏名】隈崎 修孝
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-372862(JP,A)
【文献】特開2001-324509(JP,A)
【文献】特開2006-126009(JP,A)
【文献】特開2000-258437(JP,A)
【文献】特開2005-201833(JP,A)
【文献】特開2011-59008(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/10667(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を分注可能に構成された分注装置であって、
ピストンと、
前記ピストンを駆動する第1の駆動装置と、
分注用のチップを取り付けるための弾性部材を有するチップ装着部を有し、前記ピストンを受け入れるシリンジと、
前記シリンジ内の圧力を測定する圧力センサと、
前記圧力センサが測定した前記圧力の検出信号を処理する処理装置と、
前記チップ装着部に嵌合可能な第1の穴及び第2の穴を有するブロックと、
前記第1の穴及び前記第2の穴に接続されるポンプと、
前記シリンジと前記ブロックとの相対位置を変化させる第2の駆動装置と、を備え、
前記処理装置は、
前記第2の駆動装置を駆動して前記チップ装着部と前記第1の穴とを嵌合させ、前記シリンジ内を密閉状態にし、前記ポンプを駆動して前記シリンジ内に正圧又は負圧を印加し、
その後、前記第2の駆動装置を駆動して前記チップ装着部と前記第2の穴とを嵌合させ、前記シリンジ内を密閉状態にし、前記ポンプを駆動して前記シリンジ内に正圧又は負圧を印加し、
前記チップ装着部と前記第1の穴との嵌合時における前記正圧又は負圧の印加後の前記シリンジ内の第1の圧力と、前記チップ装着部と前記第2の穴との嵌合時における前記正圧又は負圧の印加後の前記シリンジ内の第2の圧力と、に基づいて、前記分注装置の劣化部位を特定することを特徴とする分注装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記弾性部材は、前記チップ装着部と前記第1の穴との嵌合時に前記第1の穴を通過し、前記チップ装着部と前記第2の穴との嵌合時に前記第2の穴と密着することを特徴とする分注装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記処理装置は、
前記第2の圧力に基づいて、前記第1の駆動装置の駆動量に関連する分注指令値の補正値を計算することを特徴とする分注装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記処理装置は、
前記第2の圧力と、所望の分注量を得られる分注指令値との関係を示す分注指令値マップとを用いて、前記補正値を計算することを特徴とする分注装置。
【請求項5】
請求項3において、
前記処理装置は、
前記第1の圧力及び前記第2の圧力に基づいて、前記分注装置の使用可否を判定し、
使用可である場合、前記補正値を計算し、使用不可である場合、出力装置にエラーを出力することを特徴とする分注装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記処理装置は、
前記第1の圧力及び前記第2の圧力がいずれも前記ポンプの印加圧力と等しい場合、前記分注装置が使用可であると判定することを特徴とする分注装置。
【請求項7】
請求項5において、
前記処理装置は、
前記第1の圧力及び前記第2の圧力が等しく、かつ前記ポンプの印加圧力よりも大気圧に近い場合、前記第1の圧力及び前記第2の圧力が所定の閾値より大気圧に近い値のとき、前記分注装置が使用不可であると判定することを特徴とする分注装置。
【請求項8】
請求項5において、
前記処理装置は、
前記第1の圧力が前記ポンプの印加圧力と等しく、前記第2の圧力が前記ポンプの印加圧力と異なる場合、前記第2の圧力が所定の閾値より大気圧に近い値のとき、前記分注装置が使用不可であると判定することを特徴とする分注装置。
【請求項9】
請求項5において、
前記処理装置は、
前記第1の圧力及び前記第2の圧力が異なり、かつ前記第1の圧力及び前記第2の圧力のいずれもが前記ポンプの印加圧力と異なる場合、前記第1の圧力及び前記第2の圧力が所定の閾値より大気圧に近い値のとき、前記分注装置が使用不可であると判定することを特徴とする分注装置。
【請求項10】
分注装置の処理装置により実行される分注方法であって、
前記分注装置は、
ピストンを駆動する第1の駆動装置と、
前記ピストンを受け入れるシリンジと、前記シリンジの、弾性部材を有するチップ装着部に嵌合可能な第1の穴及び第2の穴を有するブロックとの相対位置を変化させる第2の駆動装置と、を備え、
前記方法は、
前記処理装置により、
前記第2の駆動装置を駆動して前記チップ装着部と前記第1の穴とを嵌合させ、前記シリンジ内を密閉状態にし、前記第1の穴及び前記第2の穴に接続されたポンプを駆動して前記シリンジ内に正圧又は負圧を印加することと、
その後、前記第2の駆動装置を駆動して前記チップ装着部と前記第2の穴とを嵌合させ、前記シリンジ内を密閉状態にし、前記ポンプを駆動して前記シリンジ内に正圧又は負圧を印加することと、
前記分注装置の圧力センサにより測定される、前記チップ装着部と前記第1の穴との嵌合時における前記正圧又は負圧の印加後の前記シリンジ内の第1の圧力と、前記チップ装着部と前記第2の穴との嵌合時における前記正圧又は負圧の印加後の前記シリンジ内の第2の圧力と、に基づいて、前記分注装置の劣化部位を特定することと、を含む分注方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、分注装置及び分注方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野及びバイオ分野の検査装置において、検体及び試薬等の液体を別の容器へ分配する分注装置が用いられている。分注装置は液体を吸引及び吐出するためのピペット部、液体を内部に吸引するチップ、これらを搬送する搬送装置などから構成される。
【0003】
医療分野及びバイオ分野の検査において、微量の液体試料を取り扱う場合がある。この場合、意図した分注量で分注しないと検査結果に悪影響を与えることがあるため、指定量に対して再現よく正確に分注することが求められる。
【0004】
しかし、使用環境、装置特性、経年使用による劣化、又は、試料の特性若しくは状態などの外乱の影響によって、設計通りの動作を圧力発生手段に作用させても、意図した分注量とならないことがある。そのため、分注指令値の補正を行うことが必要となる。
【0005】
特許文献1には、「分注プローブ12cによる液体吸引時における配管内の圧力を測定する圧力センサと、圧力センサが測定した液体吸引時の圧力平均値を算出する算出部34と、所望する吐出量毎の液体吸引時の圧力平均値と吐出動作量との相関関係を記憶する記憶部37と、算出部34が算出した吸引時の圧力平均値と記憶部37に記憶された相関関係に基づき吐出動作量を補正する補正部38と、補正部38が補正した吐出動作量に基づき、シリンジポンプを制御して所望する吐出量を吐出させる制御部31と、を備える。」という構成の分注装置が開示されている(特許文献1の要約参照)。
【0006】
特許文献2には、「密封液体保持容器内外の圧力を分注プローブに接続された圧力センサによって測定し、測定した圧力量に応じてポンプの動作量を補正する。ポンプの動作量を補正は圧力変化による分注流路の変形量を算出することによって行う。」という構成の分注装置が開示されている(特許文献2の要約参照)。
【0007】
特許文献3には、「液体を分注する複数のノズル3と、複数のノズル3を上下方向に移動させるノズル移動手段4と、複数のノズル3の先端に装着した分注チップ5内に液体を吸入採取するとともに、吸入採取した液体を分注チップ5から吐出する吸入吐出手段3aと、を備える分注装置1において、複数のノズル3に対応する複数の開口部7aを上面に有するとともに、複数の開口部7aに複数のノズル3が装着した複数の分注チップ5が嵌入した際に、内部に閉塞空間が形成される分注チップ嵌入部7と、分注チップ嵌入部7内の圧力変化を検出する内圧検出部8と、を備える構成にした。」という技術が開示されている(特許文献3の要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-080964号公報
【文献】特開2015-169623号公報
【文献】特開2005-337977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
分注装置では微量の液体を再現よく、正確に吸引及び吐出することが求められている。液体を再現よく正確に吸引及び吐出するためには、分注装置の気密性が重要である。しかしながら、分注装置内部と外気を遮断するシール部品は、ピストンと摺動運動をするため、これらの接触部に摩耗又は劣化が生じ、分注の正確性が低下する。シール部品の摩耗又は劣化が進行すると、吸引及び吐出時に意図した圧力を発生させることができないため、吸引量の不足、及び吐出時の液残りの原因となる。また、分注用のディスポーザブルチップを使用し、チップ装着部に弾性部材を用いる場合においても、繰返しチップの脱着をおこなうため、弾性部材の摩耗及び劣化により気密性が低下する。しかしながら、単純な分注装置内部の圧力測定だけでは、どの部品が要メンテナンス状態なのか判別できない。
【0010】
特許文献1のように、液体吸引中の圧力変化を用いる方法では、微量の分注において測定される圧力平均値の変化量と、記憶手段に記憶された値との差がごく小さい、若しくは差がみられないため、相関関係に基づく補正を行うことが困難である。
【0011】
特許文献2の分注装置は、分注プローブを密封容器の内部に穿孔し、内部の圧力値に対応して吐出指令値の補正を行う。しかしながら、吸引量が低下するため、吐出量の補正のみではなく液体吸引時の指令値についても補正を行う必要がある。予め十分な量を吸引することで吸引時の液量不足を補填することが可能ではあるが、試薬等の消耗品を必要以上に消費してしまい、ランニングコスト増加の要因になりうる。
【0012】
特許文献3では、ディスポーザブルチップの装着の不具合を検知することで、分注時の失敗を未然に防ぐことを目的としている。分注動作において、チップが問題なく装着されていることは重要な要素の一つであるが、正確な分注のための補正を行うためには、分注装置内部のシール部品の性能及び状態を測定することが必要になる。
【0013】
そこで、本開示は、分注装置の劣化した部品を特定可能にする技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本開示の分注装置は、液体を分注可能に構成された分注装置であって、ピストンと、前記ピストンを駆動する第1の駆動装置と、分注用のチップを取り付けるための弾性部材を有するチップ装着部を有し、前記ピストンを受け入れるシリンジと、前記シリンジ内の圧力を測定する圧力センサと、前記圧力センサが測定した前記圧力の検出信号を処理する処理装置と、前記チップ装着部に嵌合可能な第1の穴及び第2の穴を有するブロックと、前記第1の穴及び前記第2の穴に接続されるポンプと、前記シリンジと前記ブロックとの相対位置を変化させる第2の駆動装置と、を備え、前記処理装置は、前記第2の駆動装置を駆動して前記チップ装着部と前記第1の穴とを嵌合させ、前記シリンジ内を密閉状態にし、前記ポンプを駆動して前記シリンジ内に正圧又は負圧を印加し、その後、前記第2の駆動装置を駆動して前記チップ装着部と前記第2の穴とを嵌合させ、前記シリンジ内を密閉状態にし、前記ポンプを駆動して前記シリンジ内に正圧又は負圧を印加し、前記チップ装着部と前記第1の穴との嵌合時における前記正圧又は負圧の発生後の前記シリンジ内の第1の圧力と、前記チップ装着部と前記第2の穴との嵌合時における前記正圧又は負圧の発生後の前記シリンジ内の第2の圧力と、に基づいて、前記分注装置の劣化部位を特定することを特徴とする。
【0015】
本開示に関連する更なる特徴は、本明細書の記述、添付図面から明らかになるものである。また、本開示の態様は、要素及び多様な要素の組み合わせ及び以降の詳細な記述と添付される特許請求の範囲の様態により達成され実現される。本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味に於いても限定するものではない。
【発明の効果】
【0016】
本開示の技術によれば、分注装置の劣化した部品を特定することができる。上記以外の課題、構成及び効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】第1の実施形態に係る自動分析装置の分注装置の構成を示す概略図である。
【
図1B】チップ装着部を検査用ブロックの穴に嵌合させた状態を示す概略図である。
【
図2】分注装置の使用可否の判定方法及び分注指令値の補正方法を示すフローチャートである。
【
図3A】分注指令値を決定するための分注指令値マップの一例である。
【
図3B】分注指令値を決定するための分注指令値マップの一例である。
【
図4】管内に負圧を印加した際の圧力値の推移波形を示すグラフである。
【
図5】管内に正圧を印加した際の圧力値の推移波形を示すグラフである。
【
図6】第2の実施形態に係る自動分析装置の構成を示す概略図である。
【
図7A】第2の実施形態に係る検査用ブロックの斜視図である。
【
図7B】第2の実施形態に係る検査用ブロックの断面図である。
【
図7C】第2の実施形態に係る検査用ブロックの断面図である。
【
図8】第2の実施形態に係る検査用ブロックの使用時の空気回路図である。
【
図9A】チップ装着部を検査用ブロックの第2の測定孔に嵌合させた状態を示す概略図である。
【
図9B】チップ装着部を検査用ブロックの第1の測定孔に嵌合させた状態を示す概略図である。
【
図10】第2の実施形態に係る分注装置の使用可否の判定方法を示すフローチャートである。
【
図11】第2の実施形態に係る分注装置の使用可否の判定方法及び分注指令値の補正方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。なお、以下に示す図面は本開示に則り具体的な実施形態を示しているが、これらは本開示の理解のためのものであり、決して本開示を限定的に解釈するためのものではない。
【0019】
[第1の実施形態]
<自動分析装置の構成例>
図1Aは、第1の実施形態に係る自動分析装置の分注装置100の構成を示す概略図である。自動分析装置は、血液、尿等の生体試料の成分を自動的に分析する装置である。
図1において、分注装置100の一部の構成要素は、断面が示されている。分注装置100は、自動分析装置に搭載された試料容器及び試薬容器(不図示)から液体を採取して、反応容器(不図示)に分注する。分注装置100は、水平方向(XY方向)及び上下方向(Z方向)に駆動可能に構成された不図示の自動ステージ(駆動装置)上に設置される。
【0020】
分注装置100は、ベース101、モータ102、カップリング103、ネジ軸104、ナット105、スライダ106、リニアガイド107、ピストン108、シリンジ固定ベース109、シリンジ110、チップ取り外し部111、ばね材112、解析部113、圧力センサ114、チップ装着部115、シール部品116、検査用ブロック117及びコンピュータ118を備える。
【0021】
ベース101は、YZ平面における断面形状がL字型をなしている。ベース101の上部にはモータ102(駆動装置)が設けられている。ベース101には、モータ102の回転軸にカップリング103を介して接続されたネジ軸104が回転自在に設けられている。ネジ軸104としては、例えば台形ネジ又はボールネジ等を用いることができる。
【0022】
ネジ軸104には、ネジ軸104を通すスライダ106と、ネジ軸104に対して螺合されたナット105とが設けられている。スライダ106のY方向一端部は、ベース101にZ方向に沿って設けられたリニアガイド107と接続されており、ナット105及びスライダ106のそれぞれは、
図1に示す矢印Zの方向(Z方向)に沿って上下動可能である。また、スライダ106のY方向の他端部は、下方に突出するピストン108と接合され、回転することなく上下動するように構成される。
【0023】
シリンジ固定ベース109は、ベース101の下端部に固定されている。シリンジ固定ベース109には、シリンジ110が接続されている。シリンジ110は、ピストン108をその内部に受け入れる。シリンジ110の先端には、チップ装着部115が設けられている。チップ装着部115は、下方に向かって先細る形状を有する。例えば自動分析装置の分析動作の開始時に、分注装置100を移動させる自動ステージが駆動して、チップ装着部115に液体分注用のチップ(不図示)が装着される。
【0024】
チップ装着部115の上方には、チップ取り外し部111が設けられている。チップ取り外し部111は、U字状の切欠きであってもよいし、チップの開口部の径よりも小さい径の通し穴が設けられていてもよい。チップ取り外し部111の上端とベース101とに接続されたばね材112により、チップ取り外し部111は常時上方へ付勢されていると共に、Z方向に沿って上下動自在に構成されている。ばね材112としては、例えばスプリング等を用いることができる。
【0025】
ピストン108とシリンジ110とはピペット機構を構成し、上述した上下動する機構によって、ポンプの役割を果たす。ポンプとして機能させるため、上下動するピストン108と、シリンジ110との間にシール部品116が組み込まれている。ピストン108がシール部品116を貫く形状となっており、ピストン108を滑らかに摺動させることが可能であり、動作の際に分注装置100の内部に空気が流入若しくは流出しないよう密閉している。
【0026】
モータ102を駆動すると、スライダ106が動作するとともに、ピストン108が動作する。ピストン108を動作させると、分注装置の管内の圧力が変化する。圧力センサ114は、チップ装着部115の上部に接続されており、管内の圧力変化を測定する。なお、「管内」とは、ピストン108とシリンジ110との間の空間、チップ装着部115の内部空間、チップ装着部115と圧力センサ114との接続管内を意味する。圧力センサ114は、A/D変換器を有していてもよい。圧力センサ114は、測定した圧力値をアナログ信号又はデジタル信号の形式で解析部113に出力する。
【0027】
解析部113(処理装置)は、プロセッサ及び記憶装置を有する。解析部113は、メモリに格納されたプログラムを実行することにより、圧力センサ114によって測定された圧力値を記憶及び解析し、モータ102へ補正指令値をフィードバックする。
【0028】
検査用ブロック117は、分注装置100の内部のシール部品の性能及び状態を評価する際に用いられる。検査用ブロック117は、自動分析装置に対し着脱可能であってもよいし、固定されていてもよい。検査用ブロック117は、チップ装着部115と嵌合する穴1171を有する。検査用ブロック117は、チップ装着部115の嵌合による塑性変形が起こらない機械的強度を有する。
図1において穴1171の入り口から先端部直前までの内径は一定であるが、下方に向かって内径が小さくなってもよい。穴1171の先端部の内径は下方に向かって小さくなり、穴1171の先端は閉塞している。
【0029】
コンピュータ118(処理装置)は、図示は省略しているが、プロセッサ、メモリ、記憶装置、表示装置、入出力装置を有する任意のコンピュータ端末である。コンピュータ118のプロセッサは、メモリに格納されたプログラムを実行することにより、自動分析装置全体の動作を制御し、特にモータ102及び自動ステージの駆動を制御する。なお、解析部113とコンピュータ118とを1つのコンピュータ端末で構成してもよく、解析部113の機能をコンピュータ118が実現できるように構成してもよい。
【0030】
図1Bは、チップ装着部115を検査用ブロック117の穴1171に嵌合させた状態を示す概略図である。
図1Bに示すように、チップ装着部115の先端部より上方の外径が、穴1171の入り口の内径と略等しく、チップ装着部115と穴1171との嵌合状態において穴1171の内部が密閉される。
【0031】
なお、分注装置100を自動ステージに取り付ける代わりに、ベース101に駆動装置を接続して、水平方向及び上下方向に移動させるようにしてもよい。あるいは、分注装置100を移動させる代わりに、検査用ブロック117を移動させるようにしてもよい。すなわち、チップ装着部115と検査用ブロック117との相対位置を変更可能であれば、駆動装置の構成に限定はない。
【0032】
<分注装置の使用可否の判定方法>
図2は、分注装置100の使用可否の判定方法及び分注指令値の補正方法を示すフローチャートである。
【0033】
(ステップS200)
分注装置100は
図1Aに示した初期位置で停止した状態である。例えばユーザが、分注装置100の使用可否の判定を開始するための指示をコンピュータ118の入力装置を介して入力すると、自動分析装置のコンピュータ118は、分注装置100の使用可否の判定のための動作を開始する。
【0034】
(ステップS201)
コンピュータ118は、自動ステージを駆動し、検査用ブロック117の上方に分注装置100を移動させた後、下降させることにより、分注装置100のチップ装着部115を検査用ブロック117の穴1171に嵌合させる。嵌合により、管内は密閉状態となる。
【0035】
(ステップS202)
解析部113は、圧力センサ114により測定される管内の圧力値の記録を開始する。
【0036】
(ステップS203)
コンピュータ118は、モータ102を駆動し、ピストン108を圧縮方向(下方向)又は吸引方向(上方向)に移動させる。これにより、管内は正圧状態又は負圧状態へ変化する。
【0037】
(ステップS204)
コンピュータ118は、任意の移動量だけピストン108を移動させた後、モータ102の駆動を停止してピストン108を停止させる。
【0038】
(ステップS205)
解析部113は、管内の圧力値の記録の開始から所定時間経過後、管内の圧力値の記録を停止する。本ステップの代わりに、解析部113は、チップ装着部115を検査用ブロック117に嵌合した直後から所定時間経過後の圧力値と、ピストン108を任意の移動量だけ移動させた直後から所定時間経過後の圧力値とを測定してもよい。
【0039】
(ステップS206)
解析部113は、記録した管内の圧力値に基づいて、分注装置100のシール部品116に異常があるか否かを判定し、分注装置100の使用可否を判定する。圧力値に基づいた分注装置100の使用可否の判定の詳細については、後述する。分注装置100が使用不可であると判定された場合(NG)、処理はステップS207に移行する。分注装置100が使用可であると判定された場合(OK)、処理はステップS208に移行する。
【0040】
(ステップS207)
解析部113は、コンピュータ118に、分注装置100が使用不可であることを示す信号を送信する。コンピュータ118は、エラー通知画面を生成し、表示装置に表示させる。エラー通知画面には、ユーザに分注装置100のメンテナンスを促すメッセージが含まれていてもよい。
【0041】
(ステップS208)
解析部113は、記録された圧力値に基づいて、分注指令値の補正値を算出し、分注指令値を補正する。分注指令値とは、所望の液体の分注量に対するピストン108の移動量(モータ102の駆動量)である。解析部113は、補正後の分注指令値をコンピュータ118へ送信する。本ステップにおいて取得された補正後の分注指令値は、自動分析装置の分析動作における分注動作時に用いられる。
【0042】
(ステップS209)
コンピュータ118は、自動ステージを駆動し、分注装置100を上方に移動させ、検査用ブロック117から分注装置100を取り外す。
【0043】
(ステップS210)
コンピュータ118は、分注装置100の使用可否の判定及び分注指令値の補正のフローを終了し、自動分析装置の分析動作に移行する。自動分析装置の分析動作は、公知の方法を採用することができる。
【0044】
<分注指令値の補正方法>
図3Aは、分注指令値を決定するための分注指令値マップ300aの一例である。分注指令値マップ300aの横軸は、圧力値の記録開始から所定時間経過後の管内の圧力値Ptを示す。分注指令値マップ300aの縦軸は、後述する分注量試験で算出される適切な分注指令値を示す。
【0045】
分注装置100の内部に正圧を付与し、圧力値の記録開始から所定時間経過後の管内の圧力値Pt(ステップS205)がP1(P1>0)であった場合、適切な分注指令値はV1となる。圧力値PtがP2(P2>0、P1>P2)であった場合、適切な分注指令値はV2(V1<V2)となる。分注装置100の内部に負圧を付与し、圧力値PtがP3(P3<0)であった場合、適切な分注指令値はV1となる。圧力値PtがP4(P4<0、|P3|>|P4|)であった場合、適切な分注指令値はV2となる。
【0046】
以上のように、圧力値Ptの絶対値が大きい場合、シール部品116の摩耗又は劣化が少なく、分注指令値と実際の吸引量及び吐出量との差が小さくなるため、分注指令値は小さくてよい。一方、圧力値Ptの絶対値が小さい場合、シール部品116の摩耗又は劣化が進んでおり、分注指令値と実際の吸引量及び吐出量との差が大きくなってしまうため、分注指令値を大きくする必要がある。
【0047】
図3Bは、分注指令値を決定するための分注指令値マップ300bの一例である。
図3Aに示した分注指令値マップ300aの代わりに、
図3Bに示す分注指令値マップ300bを用いて分注指令値を決定してもよい。分注指令値マップ300bの横軸は、圧力値の記録開始から所定時間内に変化した管内の圧力値の変化量ΔPを示す。
【0048】
分注装置100内部に負圧を付与し、圧力値の記録開始から所定時間内の管内の圧力値の変化量ΔPがP5(P5>0)であった場合、適切な分注指令値はV3となる。圧力値の変化量ΔPがP6(P6>0、P5<P6)であった場合、適切な分注指令値はV4(V3<V4)となる。このように、付与圧力が負圧の場合、ΔPは大気圧側へ推移するため、ΔP>0である。分注装置100内部に正圧を付与し、圧力値の変化量ΔPがP7(P7<0)であった場合、適切な分注指令値はV3となる。圧力値の変化量ΔPがP8(P8<0、|P7|<|P8|)であった場合、適切な分注指令値はV4となる。付与圧力が正圧の場合、ΔPは大気圧側へ推移するためΔP<0である。
【0049】
以上のように、圧力値の変化量ΔPの絶対値が大きい場合、シール部品116の摩耗又は劣化が進んでおり、分注指令値と実際の吸引量及び吐出量との差が大きくなってしまうため、分注指令値を大きくする必要がある。一方、圧力値の変化量ΔPの絶対値が小さい場合、シール部品116の摩耗又は劣化が小さく、分注指令値と実際の吸引量及び吐出量との差が小さくなるため、分注指令値をは小さくてよい。
【0050】
分注指令値マップ300a及び300bは、解析部113の記憶装置に格納されていてもよいし、コンピュータ118の記憶装置に格納されており解析部113がコンピュータ118と通信して読み出すようにしてもよい。
【0051】
分注指令値マップ300a及び300bは、予め設定した様々な条件で測定した圧力値の推移と、分注試験による結果を組み合わせて作成することができる。より具体的には、分注指令値マップ300a及び300bは、以下のようにして作成することができる。まず、分注装置100のチップ装着部115を検査用ブロック117の穴1171に嵌合し、ピストン108を駆動してシール部品116の耐圧評価を行う。耐圧評価は、正圧の印加(ピストン108の圧縮)又は負圧の印加(ピストン108の吸引)のいずれによっても行うことができる。
【0052】
図4は、耐圧評価において管内に負圧を印加した際の圧力値の推移波形400を示すグラフである。チップ装着部115と検査用ブロック117との嵌合時の圧力値P11は、正圧である。ピストン108を任意の移動量だけ上昇動作させた後(膨張)、圧力値はP12(P12<0)まで低下する。シール部品116の摩耗又は劣化が進行していない場合、圧力値の測定開始から所定時間が経過した時点T1で、圧力値はわずかに上昇し圧力値P13となることがあるが、圧力値P12のまま推移することもある。
【0053】
一方、シール部品116の摩耗又は劣化が進行している場合、2点鎖線で示した圧力プロファイル401となる場合がある。圧力プロファイル401において、時点T1で圧力値P14(P14<0、P14>P13)となり、大気圧側へ変化している。
【0054】
シール部品116の摩耗又は劣化がさらに進行している場合、1点鎖線で示した圧力プロファイル402となる場合がある。圧力プロファイル402において、時点T1で圧力値はP15(P15<0、P15>P14)となり、大気圧側へ変化している。このように、摩耗及び劣化の進行状態が異なるシール部品116に対し、ピストン108によって任意の同じ動作(膨張)を付与するとき、測定される圧力プロファイルに違いが出ることを利用することができる。
【0055】
シール部品116が摩耗又は劣化により分注装置100の内部を十分に密閉できていない場合、圧力プロファイル402のように、ピストン108を任意の移動量だけ上昇動作させた際、本来得られるはずの圧力値P12ではなく、初動故障判定値Th1(Th1>P12)より高い圧力値P16(P16<0、P16>P12)までの低下にとどまる。また、時点T1では、予め設定した故障判定値Th2(Th2>Th1)より高い圧力値P15(P15<0)となる。この場合、液体を再現よく吸引できなくなるため、分注再現性を得られず分注指令値の補正による解決は困難となる。
【0056】
一方、シール部品116の摩耗又は劣化がわずかである場合、圧力プロファイル401のように、ピストン108を任意の移動量だけ上昇動作させた際の圧力値(P12)が初動故障判定値Th1より低く、時点T1の圧力値(P14)が故障判定値Th2より低くなる。この場合、分注指令値の補正により対処可能である。液体吸引時の液量が規定値よりも減少し、液体吐出時も吐出液量の減少及びチップ内への液残りが発生するため、吸引指令値及び吐出指令値ともに補正する必要がある。
【0057】
このように、ピストン108を任意の移動量だけ上昇動作させた際の圧力値と初動故障判定値Th1とを比較するか、所定時間経過後の時点T1における圧力値と故障判定値Th2とを比較することにより、シール部品116が故障(摩耗又は劣化)しているか否かを判定することができる。
【0058】
図5は、耐圧評価において管内に正圧を印加した際の圧力値の推移波形500を示すグラフである。チップ装着部115と検査用ブロック117との嵌合時の圧力値P21は、正圧である。ピストン108を任意の移動量だけ下降動作させた後(圧縮)、圧力値は圧力値P22(P22>0)まで上昇する。シール部品116の摩耗又は劣化が進行していない場合、圧力値の測定開始から所定時間が経過した時点T1で、圧力値はわずかに減少し圧力値P23となることがあるが、圧力値P22のまま推移する場合もある。
【0059】
一方、シール部品116の摩耗又は劣化が進行している場合、2点鎖線で示した圧力プロファイル501となる場合がある。圧力プロファイル501において、時点T1で圧力値P24(P24>0、P24<P23)となり、大気圧側へ変化している。
【0060】
シール部品116の摩耗又は劣化がさらに進行している場合、1点鎖線で示した圧力プロファイル502となる場合がある。圧力プロファイル502において、時点T1で圧力値はP25(P25>0、P25<P24)となり、大気圧側へ変化している。このように、負圧付与時と同様に、摩耗又は劣化の進行状態が異なるシール部品116に対し、ピストン108によって任意の同じ動作(圧縮)を付与するとき、測定される圧力プロファイルに違いが出ることを利用することができる。
【0061】
シール部品116が摩耗又は劣化により分注装置100の内部を十分に密閉できていない場合、圧力プロファイル502のように、ピストン108を任意の移動量だけ下降動作させた際、本来得られるはずの圧力値P22ではなく、初動故障判定値Th3(Th3<P22)より低い圧力値P26までの上昇にとどまる。また、時点T1では、予め設定した故障判定値Th4(Th4<Th3)より低い圧力値P25(P25>0)となる。この場合、液体を再現よく吐出できなくなるため、分注再現性を得られず分注指令値の補正による解決は困難となる。
【0062】
一方、シール部品116の摩耗又は劣化がわずかである場合、圧力プロファイル501のように、ピストン108を任意の移動量だけ下降動作させた際の圧力値(P22)が初動故障判定値Th3より高く、時点T1の圧力値(P24)が故障判定値Th4より高くなる。この場合、分注指令値の補正により対処可能である。液体吸引時の液量が規定値よりも減少し、液体吐出時も吐出液量の減少及びチップ内への液残りが発生するするため、吸引指令値及び吐出指令値ともに指令値を補正する必要がある。
【0063】
このように、ピストン108を任意の移動量だけ下降動作させた際の圧力値と初動故障判定値Th3とを比較するか、所定時間経過後の時点T1における圧力値と故障判定値Th4とを比較することにより、シール部品116が故障(摩耗又は劣化)しているか否かを判定することができる。
【0064】
耐圧試験の次に、摩耗条件又は劣化条件のシール部品116を搭載した分注装置100に対して、分注量試験を行い、分注指令値に対する実際の分注量を試験する。分注量試験の手法としては、例えば重量法及び蛍光量分析法などを選択することができる。重量法は、分注前後の液体の重量を分析天秤で秤量する手法である。蛍光量分析法は、分注した液体の液量を、光度計を用いて光の強度を測定することにより評価する手法である。
【0065】
以下、分注量試験の結果から補正値を算出する方法について、
図4に示した耐圧評価を例に説明する。所定時間経過後の時点T1において圧力値がP14となった分注装置100の分注液量は、分注指令値に対して不足した状態となる。分注量試験から算出された分注液量の分注指令値に対する不足量に基づいて、必要な補正値を算出することができる。分注量試験から算出された分注液量と補正値との和が、適切な分注指令値となる。上記の試験を様々な摩耗状態、劣化状態の分注装置100に対して行い、これらの蓄積データから近似曲線を作成することで、分注指令値マップが得られる。
【0066】
<第1の実施形態のまとめ>
以上のように、第1の実施形態に係る分注装置100は、第1の実施形態に係る分注装置100は、ピストン108と、ピストン108を駆動するモータ102(第1の駆動装置)と、分注用のチップが取り付けられるチップ装着部115を有し、ピストン108を受け入れるシリンジ110と、シリンジ110内の圧力を測定する圧力センサ114と、圧力センサ114が測定した圧力の検出信号を処理する解析部113及びコンピュータ118(処理装置)と、チップ装着部115に嵌合可能な穴1171を有する検査用ブロック117と、シリンジ110と検査用ブロック117との相対位置を変化させる自動ステージ(第2の駆動装置)と、を備える。
【0067】
このように、検査用ブロック117を用いて管内を密閉して圧力を印加し、圧力の印加後の圧力を測定することで、分注装置100の内部のシール部品に異常があるということを特定することができる。
【0068】
[第2の実施形態]
図6は、第2の実施形態に係る分注装置1000の構成を示す概略図である。分注装置1000は、チップ装着部115に溝(不図示)があり、溝部分に耐摩耗性を有する弾性部材1001が設けられている点で、第1の実施形態と異なる。弾性部材1001は、チップと嵌合し、チップとチップ装着部115とを密閉する。
【0069】
図7Aは、第2の実施形態に係る検査用ブロック1101の斜視図である。検査用ブロック1101は、第1の測定孔1102、流路1103、第2の測定孔1104、流路1107、弾性部材1109及び押さえ板1110を有する。第1の測定孔1102は、流路1103に連通する。第2の測定孔1104は、流路1107に連通する。弾性部材1109は、耐摩耗性を有し、第2の測定孔1104の入り口付近に装着されている。押さえ板1110は、弾性部材1109を上方から押さえるように検査用ブロック1101に固定されている。押さえ板1110は、第2の測定孔1104と連通する貫通孔を有する。
【0070】
図7Bは、第1の測定孔1102及び流路1103を通る平面における検査用ブロック1101の断面図である。
図7Bに示すように、第1の測定孔1102及び流路1103は、検査用ブロック1101の内部をL字状に貫通する1つの穴を構成する。なお、第1の測定孔1102及び流路1103を接続してL字状の穴を構成する代わりに、検査用ブロック1101の内部を直線状に貫通する第1の測定孔1102のみを設けてもよい。
【0071】
図7Cは、第2の測定孔1104及び流路1107を通る平面における検査用ブロック1101の断面図である。
図7Cに示すように、第2の測定孔1104は、第2の測定孔1104よりも径が大きい封止側孔1105に接続される。流路1107は、封止側孔1105から略垂直に分岐している。封止側孔1105の第2の測定孔1104と反対側の開口部は、封止部材1106によって封止されている。第2の測定孔1104の入り口付近には溝1108が設けられており、当該溝1108に弾性部材1109が装着されている。なお、流路1107を設ける代わりに、封止部材1106を設けずに封止側孔1105を開放させてもよい。
【0072】
図8は、検査用ブロック1101の使用時の空気回路図である。
図8に示すように、検査用ブロック1101は、バルブ1201及びレギュレータ1202を介してポンプ1203に接続される。バルブ1201は2つの出口配管を有し、それぞれ流路1103(第1の測定孔1102)及び流路1107(第2の測定孔1104)に接続されている。バルブ1201は、第1の測定孔1102の方向及び第2の測定孔1104の方向への空気回路を切り替えたり、流路を遮断したりする。バルブ1201の入口側にレギュレータ1202及びポンプ1203が接続されている。
【0073】
バルブ1201は検査用ブロック1101とレギュレータ1202の間の空気回路を連通又は遮断することが可能である。ポンプ1203は、正圧又は負圧を発生させ管内に印加することが可能である。ポンプ1203とエジェクタシステム等を併用することで、正圧又は負圧を選択的に付与することも可能である。ポンプ1203で発生圧力をコントロールできる場合、レギュレータ1202はなくてもよい。
【0074】
バルブ1201、レギュレータ1202及びポンプ1203の動作は、コンピュータ118により制御される。
【0075】
<分注装置の使用可否の判定方法>
分注装置による液体の分注時には、チップ装着部115にチップが装着され、チップ内に液体が吸引され、吐出される。チップは分注試料が変わるたびに交換したり、又は、分注量を変更した場合に適した容量のチップに交換したりすることがあり、一般的には使い捨てで使用される。そのため、頻繁にチップの脱着作業が行われ、チップ装着部115に装着された弾性部材1001は、チップとの摩擦による摩耗が発生する。摩耗が進行することで、装着したチップと弾性部材1001との間の密閉性が低下していき、分注の正確性が低下する。さらに摩耗が進行すると、分注再現性が得られなくなり、最終的には液体の吸引が困難になる。そこで、本実施形態においては、第1の測定孔1102及び第2の測定孔1104のそれぞれにチップ装着部115を嵌合した際の圧力の測定結果に基づいて、弾性部材1001の摩耗状態の評価を行い、分注装置1000の使用可否を判定する。使用可能である場合、分注指令値を補正し、分注動作に反映する。
【0076】
初めに、第2の測定孔1104を用いて分注装置1000のシール部品116の摩耗状態及び劣化状態を評価し、その後、第1の測定孔1102を用いて弾性部材1001の摩耗状態を評価することができる。シール部品116及び弾性部材1001の評価の順番に特に限定はないが、以下では、シール部品116の状態を先に評価する場合について説明する。
【0077】
図9Aは、チップ装着部115を第2の測定孔1104に嵌合した状態を示す図である。
図9Aに示すように、チップ装着部115と第2の測定孔1104との嵌合状態において、チップ装着部115に装着された弾性部材1001は、封止側孔1105の内部に位置する。すなわち、弾性部材1001の外径は、第2の測定孔1104の内径及び弾性部材1109の内径より小さく、嵌合時に弾性部材1001は第2の測定孔1104及び弾性部材1109と接触せずに第2の測定孔1104を通過する。弾性部材1109の内径は、チップ装着部115の弾性部材1109より上方の部分の外径と略等しく、この部分において密着することにより、管内を密封する。
【0078】
図9Bは、チップ装着部115を第1の測定孔1102に嵌合した状態を示す図である。
図9Bに示すように、第1の測定孔1102の内径は、弾性部材1109の外径と略等しく、チップ装着部115と第1の測定孔1102とを嵌合すると、弾性部材1109によって第1の測定孔1102の開口部が密封される。
【0079】
図10は、分注装置1000のシール部品116の使用可否の判定方法を示すフローチャートである。
【0080】
(ステップS1400)
分注装置1000は
図8に示した初期位置で停止した状態である。例えばユーザが、分注装置1000の使用可否の判定を開始するための指示をコンピュータ118の入力装置を介して入力すると、自動分析装置のコンピュータ118は、分注装置1000の使用可否の判定のための動作を開始する。
【0081】
(ステップS1401)
コンピュータ118は、自動ステージを駆動し、検査用ブロック1101の第2の測定孔1104の上方にチップ装着部115が位置するように分注装置1000を移動させた後、下降させることにより、チップ装着部115を第2の測定孔1104に嵌合させる。嵌合により、管内は密閉状態となる。このとき、第2の測定孔1104、バルブ1201、レギュレータ1202及びポンプ1203が連通している。第1の測定孔1102側の流路1103はバルブ1201によって大気開放状態となっている。レギュレータ1202は任意の圧力値に設定されており、管内に付与する圧力値は予め設定されている。
【0082】
(ステップS1402)
ステップS1402は、第1の実施形態で
図2を参照して説明したステップS202と同様であるので、説明を省略する。
【0083】
(ステップS1403)
コンピュータ118は、ポンプ1203を駆動して、管内に正圧又は負圧のいずれかを印加する。
【0084】
(ステップS1404)
レギュレータ1202にて設定した圧力値に到達した後、コンピュータ118は、バルブ1201を駆動して、第2の測定孔1104とポンプ1203とを接続する流路を遮断する。
【0085】
(ステップS1405~S1406)
ステップS1405~S1406は、第1の実施形態で
図2を参照して説明したステップS205~S206と同様であるので、説明を省略する。ここで、ステップS1405における所定時間経過時点の圧力値をP
Aとする。
【0086】
(ステップS1407)
ステップS1406において、分注装置1000が使用不可であると判定された場合、解析部113は、コンピュータ118に、分注装置100が使用不可であることを示す信号を送信する。コンピュータ118は、シール部品116が摩耗又は劣化していることを示すエラー通知画面を生成し、表示装置に表示させる。エラー通知画面には、ユーザに分注装置100のシール部品116のメンテナンスを促すメッセージが含まれていてもよい。
【0087】
(ステップS1408)
ステップS1406において、分注装置1000が使用可であると判定された場合、コンピュータ118は、自動ステージを駆動し、分注装置1000を上方に移動させ、検査用ブロック1101から分注装置1000を取り外す。
【0088】
(ステップS1409)
コンピュータ118は、分注装置100のシール部品116の使用可否の判定を終了し、弾性部材1001の使用可否の判定及び分注指令値の補正に移行する。
【0089】
図11は、分注装置100の弾性部材1001の使用可否の判定方法及び分注指令値の補正方法を示すフローチャートである。
【0090】
(ステップS1500)
分注装置1000は、検査用ブロック1101の第2の測定孔1104の上方にチップ装着部115が位置する状態である。
【0091】
(ステップS1501)
コンピュータ118は、自動ステージを駆動し、検査用ブロック1101の第1の測定孔1102の上方にチップ装着部115が位置するように分注装置1000を移動させた後、下降させることにより、チップ装着部115を第1の測定孔1102に嵌合させる。嵌合により、管内は密閉状態となる。このとき、第1の測定孔1102、バルブ1201、レギュレータ1202及びポンプ1203が連通している。第2の測定孔1104側の流路1107はバルブ1201によって大気開放状態である。レギュレータ1202は任意の圧力値に設定されており、管内に付与する圧力値は予め設定されている。
【0092】
(ステップS1502~S1503)
ステップS1502~S1503は、
図10を参照して説明したステップS1402~S1403と同様であるので、説明を省略する。なお、ステップS1403において正圧を印加した場合は、ステップS1503でも正圧を印加し、ステップS1403において負圧を印加した場合は、ステップS1503でも負圧を印加する。
【0093】
(ステップS1504)
レギュレータ1202にて設定した圧力値に到達した後、コンピュータ118は、バルブ1201を駆動して、第1の測定孔1102とポンプ1203とを接続する流路を遮断する。
【0094】
(ステップS1505)
ステップS1505は、第1の実施形態で
図2を参照して説明したステップS205と同様であるので、説明を省略する。ここで、ステップS1505における所定時間経過時点の圧力値をP
Bとする。
【0095】
(ステップS1506)
解析部113は、記録した管内の圧力値PA及びPBに基づいて、分注装置100のシール部品116に異常があるか否かを判定し、分注装置1000の使用可否を判定する。圧力値PA及びPBに基づいた分注装置1000の使用可否の判定の詳細については、後述する。分注装置1000が使用不可であると判定された場合(NG)、処理はステップS1507に移行する。分注装置1000が使用可であると判定された場合(OK)、処理はステップS1508に移行する。
【0096】
(ステップS1507)
解析部113は、コンピュータ118に、分注装置100が使用不可であることを示す信号を送信する。コンピュータ118は、弾性部材1001が摩耗又は劣化していることを示すエラー通知画面を生成し、表示装置に表示させる。エラー通知画面には、ユーザに分注装置100の弾性部材1001のメンテナンスを促すメッセージが含まれていてもよい。
【0097】
(ステップS1508)
解析部113は、記録された圧力値P
B及び
図3A又は
図3Bの分注指令値マップに基づいて、分注指令値の補正値を算出し、分注指令値を補正する。
【0098】
(ステップS1509~S1510)
ステップS1509~S1510は、
図2を参照して説明したステップS209~S210と同様であるので、説明を省略する。
【0099】
<分注装置の使用可否の判定方法の詳細>
上述のステップS1506における圧力値PA及びPBに基づいた分注装置1000の使用可否の判定方法について、負圧印加時及び正圧印加時とで場合分けして説明する。
【0100】
(負圧印加時)
(i)シール部品116に異常がなく、弾性部材1001にも異常がない場合、圧力値はP
A=P
B=ポンプ1203の印加圧力となる。この場合、分注装置1000が使用可であると判定できる。
(ii)シール部品116が摩耗しており、弾性部材1001にも異常がない場合、圧力値はP
A=P
Bとなる。ただし、圧力値P
A及びP
Bは、ポンプ1203の印加圧力よりも大気圧に近い値となる。例えば、ポンプ1203の印加圧力が-20kPaに設定されていた場合、圧力値P
A及びP
Bは-19kPaになる。この場合、圧力値P
A及びP
Bが故障判定値(
図4の故障判定値Th2)を超えていないとき、分注装置1000が使用可であると判定できる。
(iii)シール部品116に異常がなく、弾性部材1001が摩耗している場合、圧力値はP
A<P
Bとなる。例えば、ポンプ1203の印加圧力が-20kPaに設定されていた場合、圧力値P
Aは印加圧力と同じ-20kPaになり、圧力値P
Bは-19kPaになる。この場合、圧力値P
Bが故障判定値(故障判定値Th2)を超えていないとき、分注装置1000が使用可であると判定できる。
(iv)シール部品116が摩耗しており、弾性部材1001も摩耗している場合、圧力値はP
A<P
Bとなる。さらに、圧力値P
A及びP
Bは、ポンプ1203の印加圧力と異なる値となる。例えば、ポンプ1203の印加圧力が-20kPaに設定されていた場合、圧力値P
Aは-19.5kPaになり、圧力値P
Bは-19.0kPaになる。この場合、圧力値P
A及びP
Bが故障判定値(故障判定値Th2)を超えていないとき、分注装置1000が使用可であると判定できる。なお、圧力値P
Aのみが故障判定値に達していた場合でも、分注装置1000が使用不可と判定される。
【0101】
(正圧印加時)
(i)シール部品116に異常がなく、弾性部材1001にも異常がない場合、圧力値はP
A=P
B=ポンプ1203の印加圧力となる。この場合、分注装置1000が使用可であると判定できる。
(ii)シール部品116が摩耗しており、弾性部材1001にも異常がない場合、圧力値はP
A=P
Bとなる。ただし、圧力値P
A及びP
Bは、ポンプ1203の印加圧力よりも大気圧に近い値となる。例えば、ポンプ1203の印加圧力が30kPaに設定されていた場合、圧力値P
A及びP
Bは29kPaになる。この場合、圧力値P
A及びP
Bが故障判定値(
図5の故障判定値Th4)を超えていないとき、分注装置1000が使用可であると判定できる。
(iii)シール部品116に異常がなく、弾性部材1001が摩耗している場合、圧力値はP
A>P
Bとなる。例えば、ポンプ1203の印加圧力が30kPaに設定されていた場合、圧力値P
Aは印加圧力と同じ30kPaになり、圧力値P
Bは29kPaになる。この場合、圧力値P
Bが故障判定値(故障判定値Th4)を超えていないとき、分注装置1000が使用可であると判定できる。
(iv)シール部品116が摩耗しており、弾性部材1001も摩耗している場合、圧力値はP
A>P
Bとなる。さらに、圧力値P
A及びP
Bは、ポンプ1203の印加圧力と異なる値となる。例えば、ポンプ1203の印加圧力が30kPaに設定されていた場合、圧力値P
Aは29.5kPaになり、圧力値P
Bは29.0kPaになる。この場合、圧力値P
A及びP
Bが故障判定値(故障判定値Th4)を超えていないとき、分注装置1000が使用可であると判定できる。なお、圧力値P
Aのみが故障判定値に達していた場合でも、分注装置1000が使用不可と判定される。
【0102】
以上のように、本実施形態においては、シール部品116の状態を先に評価し、その後弾性部材1001の状態を評価することを説明した。先に弾性部材1001の評価を行うと、分注装置1000内部のシール部品116の評価も必ず行わなければ、分注装置1000の使用可否を判定することができないのに対し、シール部品116を先に評価することで、シール部品116に異常があった場合はエラーとなり弾性部材1001の評価を行うことがないため、評価時間を短縮することができる。
【0103】
<第2の実施形態のまとめ>
以上のように、第2の実施形態に係る分注装置1000は、チップ装着部115と第2の測定孔1104(第1の穴)とを嵌合させ、管内を密閉状態にし、ポンプ1203を駆動して管内に正圧又は負圧を印加し、その後、チップ装着部115と第1の測定孔1102(第2の穴)とを嵌合させ、管内を密閉状態にし、ポンプ1203を駆動して管内に正圧又は負圧を印加し、チップ装着部と第1の穴との嵌合時における圧力印加後の管内の圧力値PA(第1の圧力)と、チップ装着部と第2の穴との嵌合時における圧力印加後の管内の圧力値PB(第2の圧力)と、に基づいて、メンテナンスが必要な異常箇所を特定する。
【0104】
このように、2段階の圧力印加による検査手順を実行することにより、そもそも分注装置1000が使用可能であるかということ(シール部品116に異常がないかということ)、及び、メンテナンスが必要な部品がシール部品116であるか、弾性部材1001であるのかを判定することができる。
【0105】
[変形例]
本開示は、上述した実施形態に限定されるものでなく、様々な変形例を含んでいる。例えば、上述した実施形態は、本開示を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備える必要はない。また、ある実施形態の一部を他の実施形態の構成に置き換えることができる。また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることもできる。また、各実施形態の構成の一部について、他の実施形態の構成の一部を追加、削除又は置換することもできる。
【符号の説明】
【0106】
100、1000:分注装置
101:ベース
102:モータ
103:カップリング
104:ネジ軸
105:ナット
106:スライダ
107:リニアガイド
108:ピストン
109:シリンジ固定ベース
110:シリンジ
111:チップ取り外し部
112:ばね材
113:解析部
114:圧力センサ
115:チップ装着部
116:シール部品
117、1101:検査用ブロック
118:コンピュータ
1001:弾性部材
1102:第1の測定孔
1103、1107:流路
1104:第2の測定孔
1105:封止側孔
1106:封止部材
1108:溝
1109:弾性部材
1110:押さえ板
1201:バルブ
1202:レギュレータ
1203:ポンプ