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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】アンモニア合成触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/63 20060101AFI20241219BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20241219BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20241219BHJP
   B01J 37/18 20060101ALI20241219BHJP
   C01C 1/04 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B01J23/63 M
B01J37/02 101A
B01J37/02 101D
B01J37/02 101E
B01J37/08
B01J37/18
C01C1/04 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023116306
(22)【出願日】2023-07-14
(62)【分割の表示】P 2020001558の分割
【原出願日】2020-01-08
(65)【公開番号】P2023126492
(43)【公開日】2023-09-07
【審査請求日】2023-07-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「アンモニア合成触媒の開発・評価」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】難波 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】小林 慶祐
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-162604(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110252295(CN,A)
【文献】特開2001-089101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 23/63
B01J 37/02
B01J 37/08
B01J 37/18
C01C 1/04
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素と水素からアンモニアを合成する反応用のCeO担持Ru触媒であって、
前記CeOが、結晶質のCeOと非晶質のCeOを備え、
前記結晶質のCeOに対する前記非晶質のCeOのモル比が0.02以上1以下である触媒。
【請求項2】
請求項1において、
前記結晶質のCeOに対する前記非晶質のCeOのモル比が0.1以上1以下である触媒。
【請求項3】
窒素と水素からアンモニアを合成する反応用のCeO担持Ru触媒の製造方法であって、
結晶質のCeOに硝酸セリウム水溶液を含浸させた後に、Hを含む気体雰囲気中で、硝酸セリウムから非晶質のCeO が生成する温度、かつ硝酸セリウムから結晶質のCeO が生成しない温度で焼成して、結晶質のCeOと非晶質のCeOを備え、前記結晶質のCeOに対する前記非晶質のCeOのモル比が0.02以上1以下であるCeO担体を得て、
前記CeO担体にRuを担持してCeO担持Ru触媒を得る触媒の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記結晶質のCeOに対する前記非晶質のCeOのモル比が、0.1以上1以下である触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項3または4において、
前記CeO担体にRu(NO)(NOを含浸させた後に、Hを含む気体雰囲気中で焼成することによって前記CeO担体にRuを担持する触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はNとHからNHを合成するアンモニア合成触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
とHからNHを合成する方法として、Fe-Al-KOなどのFe系触媒を用い、23-35MPa、約500℃程度の高温高圧で反応を行うハーバー・ボッシュ法が知られている。
その後、Ru-CeO触媒を用いて、より低温低圧の温和な条件で反応を行う方法が開発された(特許文献1、2)。この方法で用いる触媒は、硝酸セリウムを、アンモニア水溶液を用いてアルカリ性条件下で沈殿させ、600℃程度で焼成して得たCeOに、Ruカルボニルの溶液を含浸し、水素還元することで作製され、これにより、200~600℃程度の温度、1~20気圧程度の低圧でのNH合成を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-79177
【文献】特開2013-111562
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Ru-CeOは、特許文献1、2に示されるように、アンモニア合成触媒として特許が出願されているが、CeOの物理的・化学的状態が異なることによってRu-CeOの触媒性能は全く異なり、高いアンモニア合成活性を再現性よく引き出す調製法を示した特許等の文献はない。
また、Ru-CeOはRuおよびCeOともに高コストな素材であり、どちらの元素の使用量も低減することが望まれる。
本発明は、高いアンモニア合成活性を得ることができるRu-CeO触媒の調製法を提供すること、およびRu-CeO触媒におけるCeO使用量削減に対して効果的な触媒調製法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、硝酸セリウムを水酸化カリウムもしくはアンモニアの水溶液を用いて沈殿・焼成して作製したCeOに強酸性のニトロシル硝酸ルテニウム(Ru(NO)(NO)の溶液を含浸することにより作製したRu-CeO触媒が、従来のRuカルボニルを用いて作製した触媒と比べて、高いアンモニア合成活性を有することを見出した。これに対し、硝酸セリウムを水酸化ナトリウムやクエン酸により沈殿・焼成して作製したCeOを用いた場合は、アンモニア合成活性は、従来のRuカルボニルを用いて作製した触媒よりも低かった。
また、アンモニア合成活性は、CeOの焼成温度によっても変化し、水酸化カリウムにより沈殿させたCeOを用いた触媒では、600℃で焼成したものが最も活性が高かった。
【0006】
CeOは塩基性の担体であり、強酸性の溶液で処理するとその表面が一部溶解する。このことが、強酸性のニトロシル硝酸ルテニウムの溶液をCeOに含浸することにより作製した本発明の触媒が高いアンモニア合成活性を有することと関連しているのではないかとの想定の下に、本発明者らは、CeOを強酸性の溶液で処理したときに生じるCeO担体の表面の状態を模するものとして、結晶性のCeOに硝酸セリウム水溶液を含浸させ、焼成することで、結晶性CeOの表面に非晶質のCeOを、種々のAmo(非晶質)/Cry(結晶質)の比率で担持した担体を作製し、これにRuを担持した触媒を用いてアンモニア合成反応を行った。
その結果、Amoの比率を高めるにつれて担体の表面積及び細孔容積は大きくなるが、触媒のアンモニア合成活性も同様に一律に高まるわけではなく、Amo/Cry比が1である場合をピークに、それ以上Amoの比率を高めるとアンモニア合成活性がかえって低くなることを見出した。
硝酸セリウムを水酸化カリウムもしくはアンモニアの水溶液を用いて沈殿・焼成して作製したCeOに強酸性のニトロシル硝酸ルテニウムの溶液を含浸することにより作製したRu-CeO触媒においては、CeO担体の表面が、上述のAmo/Cry比が1である場合と類似する構造を有しているものと推察される。
【0007】
Ru-CeO触媒に用いられるRuもCeOも高価な材料である。本発明者らは、Ru-CeO触媒にMgOを混合することで、MgOの混合量に応じてRu-CeO触媒に含まれるCeOの量を減らすことができ、CeOの量を減らさない場合と匹敵し、あるいはそれを上回るアンモニア合成活性が得られることを見出した。これにより、高価な材料であるCeOの、同一のRuの量に対する使用量を抑えることができる。
同様の量のRu、CeOおよびMgOを用いても、共沈や物理的混合により得られたCeOおよびMgOの混合物にRuを担持した場合や、MgO外表面にCeOを担持した後、これにRuを担持した場合には、このような効果は見られないことから、このような効果を得るためには、RuはCeOに集約されて担持されている必要があるものと考えられる。
【0008】
本発明者らは、さらに、Ru-CeO触媒において、モル比Ru/Fe=5~200の範囲でFeを添加することにより、Feを添加しない場合を上回るアンモニア合成活性が得られることを見出した。
具体的には、Fe(NO水溶液を用いてCeOにFeを含浸担持させ、焼成した後、得られたFe/CeOにニトロシル硝酸ルテニウムの溶液を用いてRuを含浸担持し、水素還元する。
第二成分の添加により触媒活性が向上することは、他の触媒系においても観察されることがあるが、モル比Ru/Fe=100~200などの少ない量のFeの共存によっても上記効果が得られることは、本発明の際立った効果であるといえる。
【0009】
本発明は、本発明者らが得た、これらの知見に基づいてなされたものであり、本出願は、具体的には、以下の発明を提供するものである。
〈1〉担体として酸化セリウム(CeO)を有し、触媒成分としてルテニウム(Ru)を有する、窒素と水素からアンモニアを合成する反応用の触媒の製造方法であって、硝酸セリウム水溶液へKOH水溶液またはアンモニア水溶液を沈殿剤として添加して得た沈殿を焼成することでCeOを調製し、これをRu(NO)(NO水溶液に含浸させてRuを担持した後、水素処理して、CeO担持Ru触媒を調製することを特徴とする、触媒の製造方法。
〈2〉上記沈殿の焼成温度が500-700℃であることを特徴とする、〈1〉に記載の触媒の製造方法。
〈3〉上記水素処理を300℃で行うことを特徴とする、〈1〉または〈2〉に記載の触媒の製造方法。
〈4〉窒素と水素からアンモニアを合成する反応用のCeO担持Ru触媒であって、CeO担体のBET比表面積が17~100m/gの範囲であり、細孔容積が0.09~0.25mL/gの範囲であることを特徴とする、触媒。
〈5〉CeO担持Ru触媒とMgOが混合されてなる、窒素と水素からアンモニアを合成する反応用のRu-CeOとMgOの混合体触媒。
〈6〉混合体におけるCeとMgのモル比がMg/Ce=1~9である、〈5〉に記載の触媒。
〈7〉窒素と水素からアンモニアを合成する反応用のCeO担持Ru触媒であって、CeO担体の表面にモル比Ru/Fe=5~200の範囲でFeが更に担持されていることを特徴とする、触媒。
【発明の効果】
【0010】
アンモニア合成においてRu-CeO触媒は、比較的低温・低圧で作用する触媒であるとともに、条件変化に対して応答性がよいため、変動性である再生可能エネルギーにより製造されたCOフリー水素を原料にするCOフリーアンモニア合成プロセスに適した触媒であり、よって、再生可能エネルギーの大量導入にむけた再生可能エネルギー貯蔵の面で社会実装されることが期待される触媒である。
本発明により、より高いアンモニア合成活性を有するRu-CeO触媒を提供することができ、また、CeOの使用量を減らすことで、より安価でRu-CeO触媒を提供することができる。これにより、上記再生可能エネルギーの利用の分野にも資することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1における、CeO担体の調製法及び/又はRuの担持法の相異する各種RuCeO触媒のNH合成活性を対比するグラフ。図中、横軸にCeOの調製方法を示し、Ruの担持については、Ru(CO)12含浸と表示されているもの以外は、Ru(NO)(NO水溶液を含浸させることで行った。
図2】実施例1における、CeO担体の焼成温度の、RuCeO触媒のNH合成活性に与える影響を示すグラフ。CeOはKOH沈殿法で調製し、RuはRu(NO)(NO水溶液で含浸させた。
図3】実施例2における、CeO担体におけるAmo(非晶質)/Cry(結晶質)比の、CeO担体の比表面積及び細孔容積に与える影響を示すグラフ。黒バーが比表面積を、白抜き丸が細孔容積を示す。
図4】実施例2における、CeO担体におけるAmo(非晶質)/Cry(結晶質)比の、RuCeO触媒のNH合成活性に与える影響を示すグラフ。
図5】実施例3における、CeOに対するMgOの混合の態様の、RuCeO触媒のNH合成活性に与える影響を示すグラフ。
図6】実施例3における、RuCeO触媒に対するMgOの混合量(Mg/Ce比)の、RuCeO触媒のNH合成活性に与える影響を示すグラフ。
図7】実施例4における、RuCeO触媒に対するFeの配合量の、RuCeO触媒のNH合成活性に与える影響を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0012】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0013】
[実施例1]各種のCeO担体を用いたRu-CeO触媒の調製とそのNH合成活性
(1)以下の要領で、Ru-CeO触媒の担体として用いる各種のCeOを準備した。
(アルカリ水溶液による沈殿法によるもの)
硝酸セリウム重量の約10倍数の体積のイオン交換蒸留水で硝酸セリウム水溶液を調製し、27%NH水もしくは0.05-0.1mol/LのKOH、NaOHを徐々に加えて、pHを10以上にして得られる沈殿を600℃で空気中焼成して、CeOを調製した。
(クエン酸水溶液による沈殿法によるもの)
上述の硝酸セリウム水溶液にセリウムの2倍mol量を含むクエン酸水溶液を加え、蒸発乾固させて得た沈殿を600℃で空気中焼成して、CeOを調製した。
(市販品)
市販されている、比表面積の異なるCeOを2種(高表面積および中程度の表面積)、準備した。これらはそれぞれ第一稀元素化学工業製CeO Type-AおよびType-Bであり、比表面積はそれぞれ150m/gおよび100m/gであった。
(低表面積CeO
市販のCeO Type-Aを900℃、6時間、空気中で焼成して、比表面積9m/gのCeOを調製した。
(2)これらのCeOに、Ru(NO)(NO水溶液を含浸させて、各種のRu-CeO触媒を調製した。CeOは、メスシリンダーによる見かけの密度および真密度計による真密度を測定し、それらの差分によって得られる見かけの空隙容積を算出した。CeOの重量に応じて、見かけの空隙容積の1.5倍の水に必要量のRu(NO)(NOを溶解し、そのRu(NO)(NO水溶液中にCeOを室温で1時間浸漬した後、100℃で12時間乾燥させてRu担持CeOを得た。Ru担持CeOは、管状炉中で10%H/N気流中300℃、1時間焼成して目的の触媒を調製した。
また、これに加えて、市販の高表面積CeOにRu(CO)12溶液を含浸させて、Ru-CeO触媒を調製した。上記と同様に測定したCeOの見かけの空隙容積の50倍のテトラヒドロフラン(THF)にRu(CO)12を溶解し、上記と同様の手順で目的の触媒を得た。
得られた各Ru-CeO触媒のRu担持量は、それぞれ1Wt%である。
【0014】
これらのRu-CeO触媒を用いて、アンモニアの合成試験を行った。試験は常圧固定床流通反応装置を用いて行った。反応温度400℃で得られたその結果を、図1に示す。
図1に示されるように、硝酸セリウムを水酸化カリウムもしくはアンモニアの水溶液を用いて沈殿・焼成して作製したCeOに強酸性のRu(NO)(NO(ニトロシル硝酸ルテニウム)の溶液を含浸することにより作製したRu-CeO触媒は、従来のRu(CO)12(Ruカルボニル)を用いて作製した触媒と比べて、高いアンモニア合成活性を有する。これに対し、硝酸セリウムを水酸化ナトリウムやクエン酸により沈殿・焼成して作製したCeOを用いた場合のアンモニア合成活性は、従来のRuカルボニルを用いて作製した触媒よりも低い。
【0015】
また、アンモニア合成活性は、CeOの焼成温度によっても変化し、水酸化カリウムにより沈殿させたCeOを用いた上記触媒では、600℃で焼成したものが最も活性が高かった(図2)。
【0016】
[実施例2]CeO担体の表面構造と触媒活性の関連性
CeOは塩基性の担体であり、強酸性の溶液で処理するとその表面が一部溶解する。このことが、強酸性のニトロシル硝酸ルテニウムの溶液をCeOに含浸することにより作製した本発明の触媒が高いアンモニア合成活性を有することと関連しているのではないかとの想定の下に、CeOを強酸性の溶液で処理したときに生じるCeO担体の表面の状態を模するものとして、結晶性のCeOに硝酸セリウム水溶液を含浸させ、焼成することで、結晶性CeOの表面に非晶質のCeOを、種々のAmo(非晶質)/Cry(結晶質)の比率で担持した担体を作製し、これにRuを担持した触媒を用いてアンモニア合成反応を行った。
【0017】
上記担体および触媒の調製、および、これを用いたアンモニア合成試験は、具体的には、以下のとおりに行った:
実施例1でも用いた市販の高表面積CeOを空気中900℃で6時間焼成することで、結晶性のCeO(以下、CeO(Cry)という)を調製した。
所定量のCeO(Cry)を各種濃度のCe(NO水溶液に含浸し、100℃で12時間乾燥させた後、10%H/N雰囲気中300℃で1時間焼成することで、CeO(Amo)/CeO(cry)のモル比が、それぞれ0.01、0.02、0.1、0.2、0.5、1、2、10であるCeO(Amo)/CeO(cry)を調製した。また、硝酸セリウムを300℃で4時間焼成することで、CeO(Amo)のみからなるCeOを調製した。これらのCeOについて測定されたBET法による比表面積および細孔容積を図3に示す。黒バーが比表面積を、また白抜き丸が細孔容積を示す。
このようにして調製した各種のCeOを、Ru担持量が1Wt%となるように濃度調節したRu(NO)(NO水溶液中に含浸し、100℃で8時間乾燥させた後、10%H/N雰囲気中300℃で1時間焼成することで、各種のRu-CeO触媒を調製した。
これらのRu-CeO触媒を用いて、アンモニアの合成試験を行った。アンモニア合成反応の反応条件は、実施例1と同様である。その結果を、図4に示す。
【0018】
これらの実験の結果、Amoの比率を高めるにつれて担体の比表面積及び細孔容積は大きくなる(図3)が、触媒のアンモニア合成活性も同様に一律に高まるわけではなく、Amo/Cry比が1である場合をピークに、それ以上Amoの比率を高めるとアンモニア合成活性がかえって低くなる(図4)ことを見出した。図3と4とから、担体の比表面積17~100m/g、細孔容積0.09~0.25mL/gの範囲、より好ましくは、20~60m/g、0.09~0.2mL/gの範囲で高いアンモニア合成活性が得られたことが分かる。
硝酸セリウムを水酸化カリウムもしくはアンモニアの水溶液を用いて沈殿・焼成して作製したCeOに強酸性のニトロシル硝酸ルテニウムの溶液を含浸することにより作製したRu-CeO触媒においては、CeO担体の表面が、上述のAmo/Cry比が1である場合と類似する構造を有しているものと推察される。
【0019】
[実施例3]Ru-CeO2触媒へのMgOの混合効果
Ru-CeO触媒に用いられるRuもCeOも高価な材料である。本発明者らは、Ru-CeO触媒におけるCeOの一部をMgOで置き換えることで、Ru-CeO触媒に含まれるCeOの量を減らすことを試みた。
【0020】
具体的には、以下に示す4種類の触媒を調製し、そのアンモニア合成活性を調べた:
(共沈)
硝酸マグネシウム+硝酸セリウム重量の約10倍数の体積のイオン交換蒸留水で硝酸マグネシウムと硝酸セリウムの共水溶液(モル比Mg/Ce=5)を調製し、これに27%NH水溶液を徐々に添加することによりpHを10以上にして得られる沈殿を600℃、4時間、空気中で焼成し、これにRu(NO水溶液をRu含有量が1Wt%となるように含浸担持した後、H/N雰囲気中300℃で焼成する。
(物理混合)
MgOとCeOを上述の共沈法と同様の方法でそれぞれ沈殿から調製し、モル比Mg/Ce=5で乳鉢によって混合し、得られたものに、Ru(NO水溶液をRu含有量が1Wt%となるように含浸担持した後、H/N雰囲気中300℃で焼成する。
(表面担持)
所定量を秤量した硝酸セリウム水溶液中に上述の沈殿法によって調製したMgO粉体を浸漬し、蒸発乾固させることで、MgO外表面にCeを析出させ、続いて、空気中600℃で4時間焼成し、CeOが表面に担持したMgO(モル比Mg/Ce=5)を得、これにRu(NO水溶液をRu含有量が1Wt%となるように含浸担持した後、H/N雰囲気中300℃で焼成する。
(Ru-CeO2+MgO混合)
実施例1においてNHを用いた沈殿法により得られたCeOにRu(NO水溶液をRu含有量が2.2Wt%となるように含浸担持し、H/N雰囲気中300℃で焼成した後、モル比Mg/Ce=5となるようにMgOをRu-CeOに加えて、乳鉢で混合し、Ru含有量が混合物全体で1Wt%となるRu-CeO+MgO混合触媒を得た。
これらの触媒、及び比較対象として、実施例1においてNHを用いた沈殿法により得られたCeOにRu(NO)(NO水溶液をRu含有量が1Wt%となるように含浸担持した後、H/N雰囲気中300℃で焼成した触媒について、アンモニアの合成試験を行った。アンモニア合成反応の反応条件は、実施例1と同様である。その結果を、図5に示す。
【0021】
図5に示されるように、Ru-CeO触媒にMgOを混合することで、MgOの混合量に応じてRu-CeO触媒に含まれるCeOの量を減らすことができ、CeOの量を減らさない場合と匹敵するアンモニア合成活性が得られることを見出した。これにより、高価な材料であるCeOの、同一のRuの量に対する使用量を抑えることができる。
一方、同様の量のRu、CeOおよびMgOを用いても、共沈や物理的混合により得られたCeOおよびMgOの混合物にRuを担持した場合や、MgO外表面にCeOを担持した後、これにRuを担持した場合には、このような効果は見られないことから、このような効果を得るためには、RuはCeOに集約されて担持されている必要があるものと考えられる。
【0022】
図6に、上述のRu-CeO+MgO混合触媒において、モル比Mg/Ceが1、3または9の混合触媒を更に調製し、これらと、モル比Mg/Ceが5の触媒、及び、上述の(物理混合)に記載した調製法で調製したMgOを含まない触媒、並びに、CeOを含まない触媒のアンモニア合成活性を調べた結果を示す。
図6から、上述のRu-CeO触媒にMgOを混合することの効果は、少なくともMg/Ce比が1~9の範囲で得られ、この範囲で、同じRu担持法による、MgOを含まない触媒のアンモニア合成活性を上回ることが分かる。
【0023】
[実施例4]Ru-CeO触媒へのFe配合の効果
多くの触媒において、第二成分を添加することにより活性が向上する現象が観察されることがある。そこで、本発明者らは、Ru-CeO触媒において、さらにFeを添加することが触媒のアンモニア合成活性に与える影響について検討した。
【0024】
具体的には、実施例1で用いた市販の高表面積CeOの見かけの密度および真密度測定から見かけの空隙容積を算出し、その1.5倍体積のイオン交換蒸留水にFe(NOを溶解した水溶液中にCeOを浸漬させ、600℃、4時間、空気中で焼成し、Fe/CeOを調製した。これにRu(NO)(NO水溶液を用いてRuを1Wt%含浸担持した後、H/N雰囲気中300℃で焼成することで、Ru/Fe/CeO触媒を得た。Ru/Feモル比が0.2~200の範囲の10種類の触媒を、Fe仕込み量を調整しながら調製し、これらの触媒、およびFeを担持させない触媒(Ru/Feが無限大)ならびにRuを担持させない5Wt%Fe担持触媒について、アンモニア合成活性を調べた。得られた結果を図7に示す。
【0025】
図7から、上述の触媒において、モル比Ru/Fe=5~200の範囲でFeを添加することにより、Feを添加しない場合を上回るアンモニア合成活性が得られることが分かる。特に、モル比Ru/Fe=100~200などの極めて少ない量のFeの共存によっても上記効果が得られることは、本発明の際立った効果であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
アンモニアは、各種化合物の合成反応において原料化合物の1つとして用いられる等、化学工業において広く使用されている化合物であり、本発明は、これらの化学工業の分野で広く利用し得るものである。
また、アンモニアは、再生可能エネルギーの貯蔵の形態の一つとして期待されており、本発明は、この分野での利用も期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7