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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】負極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/48 20100101AFI20241219BHJP
   C01B 33/32 20060101ALI20241219BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241219BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20241219BHJP
【FI】
H01M4/48
C01B33/32
H01M4/36 A
H01M4/36 B
H01M4/36 C
H01M4/58
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019169865
(22)【出願日】2019-09-18
(65)【公開番号】P2021048049
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-02-21
【審判番号】
【審判請求日】2023-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 貴一
(72)【発明者】
【氏名】酒井 玲子
(72)【発明者】
【氏名】大沢 祐介
(72)【発明者】
【氏名】松野 拓史
(72)【発明者】
【氏名】高橋 広太
(72)【発明者】
【氏名】西浦 克典
(72)【発明者】
【氏名】房 楠
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】▲高▼橋 徳浩
【審判官】山本 章裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-147055(JP,A)
【文献】特開2015-156328(JP,A)
【文献】特開2016-9550(JP,A)
【文献】特開2018-67555(JP,A)
【文献】特開2018-6190(JP,A)
【文献】特開2018-206560(JP,A)
【文献】特開2013-8696(JP,A)
【文献】特開2011-192453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/32
H01M 4/04- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質粒子を含む負極の製造方法であって、
ケイ素化合物を含むケイ素化合物粒子を作製する工程と、
前記ケイ素化合物粒子の少なくとも一部を炭素層で被覆する工程と、
該炭素層で被覆したケイ素化合物粒子を含む負極を形成する工程と、
該形成した負極に含まれる前記ケイ素化合物粒子にLiを挿入し、該ケイ素化合物粒子にLiSiOを含有させる工程と、
前記負極に含まれる前記炭素層を被覆したケイ素化合物粒子を含有する負極活物質粒子の表面改質を行うことによって、前記負極活物質粒子の表層に、カルボン酸構造を有する物質を含ませる工程とを含むことを特徴とする負極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質、負極及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル端末などに代表される小型の電子機器が広く普及しており、さらなる小型化、軽量化及び長寿命化が強く求められている。このような市場要求に対し、特に小型かつ軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。この二次電池は、小型の電子機器に限らず、自動車などに代表される大型の電子機器、家屋などに代表される電力貯蔵システムへの適用も検討されている。
【0003】
その中でも、リチウムイオン二次電池は小型かつ高容量化が行いやすく、また、鉛電池、ニッケルカドミウム電池よりも高いエネルギー密度が得られるため、大いに期待されている。
【0004】
上記のリチウムイオン二次電池は、正極及び負極、セパレータと共に電解液を備えており、負極は充放電反応に関わる負極活物質を含んでいる。
【0005】
この負極活物質としては、炭素系活物質が広く使用されている一方で、最近の市場要求から電池容量のさらなる向上が求められている。電池容量向上のために、負極活物質材としてケイ素を用いることが検討されている。なぜならば、ケイ素の理論容量(4199mAh/g)は黒鉛の理論容量(372mAh/g)よりも10倍以上大きいため、電池容量の大幅な向上を期待できるからである。負極活物質材としてのケイ素材の開発はケイ素単体だけではなく、合金、酸化物に代表される化合物などについても検討されている。また、活物質形状は、炭素系活物質では標準的な塗布型から、集電体に直接堆積する一体型まで検討されている。
【0006】
しかしながら、負極活物質としてケイ素を主原料として用いると、充放電時に負極活物質が膨張収縮するため、主に負極活物質表層近傍で割れやすくなる。また、活物質内部にイオン性物質が生成し、負極活物質が割れやすい物質となる。負極活物質表層が割れると、それによって新表面が生じ、活物質の反応面積が増加する。この時、新表面において電解液の分解反応が生じるとともに、新表面に電解液の分解物である被膜が形成されるため電解液が消費される。このためサイクル特性が低下しやすくなる。
【0007】
これまでに、電池初期効率やサイクル特性を向上させるために、ケイ素材を主材としたリチウムイオン二次電池用負極材料、電極構成についてさまざまな検討がなされている。
【0008】
具体的には、良好なサイクル特性や高い安全性を得る目的で、気相法を用いケイ素及びアモルファス二酸化ケイ素を同時に堆積させている(例えば特許文献1参照)。また、高い電池容量や安全性を得るために、ケイ素酸化物粒子の表層に炭素材(電子伝導材)を設けている(例えば特許文献2参照)。さらに、サイクル特性を改善するとともに高入出力特性を得るために、ケイ素及び酸素を含有する活物質を作製し、かつ、集電体近傍での酸素比率が高い活物質層を形成している(例えば特許文献3参照)。また、サイクル特性を向上させるために、ケイ素活物質中に酸素を含有させ、平均酸素含有量が40at%以下であり、かつ集電体に近い場所で酸素含有量が多くなるように形成している(例えば特許文献4参照)。
【0009】
また、初回充放電効率を改善するためにSi相、SiO、MO金属酸化物を含有するナノ複合体を用いている(例えば特許文献5参照)。また、サイクル特性改善のため、SiOx(0.8≦x≦1.5、粒径範囲=1μm~50μm)と炭素材を混合して高温焼成している(例えば特許文献6参照)。また、サイクル特性改善のために、負極活物質中におけるケイ素に対する酸素のモル比を0.1~1.2とし、活物質、集電体界面近傍におけるモル比の最大値、最小値との差が0.4以下となる範囲で活物質の制御を行っている(例えば特許文献7参照)。また、電池負荷特性を向上させるため、リチウムを含有した金属酸化物を用いている(例えば特許文献8参照)。また、サイクル特性を改善させるために、ケイ素材表層にシラン化合物などの疎水層を形成している(例えば特許文献9参照)。また、サイクル特性改善のため、酸化ケイ素を用い、その表層に黒鉛被膜を形成することで導電性を付与している(例えば特許文献10参照)。特許文献10において、黒鉛被膜に関するRAMANスペクトルから得られるシフト値に関して、1330cm-1及び1580cm-1にブロードなピークが現れるとともに、それらの強度比I1330/I1580が1.5<I1330/I1580<3となっている。また、高い電池容量、サイクル特性の改善のため、二酸化ケイ素中に分散されたケイ素微結晶相を有する粒子を用いている(例えば、特許文献11参照)。また、過充電、過放電特性を向上させるために、ケイ素と酸素の原子数比を1:y(0<y<2)に制御したケイ素酸化物を用いている(例えば特許文献12参照)。
【0010】
また、ケイ素酸化物を用いたリチウムイオン二次電池は、日立マクセルが2010年6月にナノシリコン複合体を採用したスマートフォン用の角形の二次電池の出荷を開始した(例えば非特許文献1参照)。Hohlより提案されたケイ素酸化物はSi0+~Si4+の複合材であり様々な酸化状態を有する(非特許文献2)。またKaoaklisはケイ素酸化物に熱負荷を与えることでSiとSiOにわかれる、不均化構造を提案している(非特許文献3)。
【0011】
Miyachiらは不均化構造を有するケイ素酸化物のうち充放電に寄与するSiとSiOに注目しており(非特許文献4)、Yamadaらはケイ素酸化物とLiの反応式を次のように提案している(非特許文献5)。
2SiO(Si+SiO) + 6.85Li + 6.85e
→ 1.4Li3.75Si + 0.4LiSiO + 0.2SiO
反応式ではケイ素酸化物を構成するSiとSiOがLiと反応し、LiシリサイドとLiシリケート、一部未反応であるSiOにわかれる。
【0012】
ここで生成したLiシリケートは不可逆で、1度形成した後はLiを放出せず安定した物質であると一般に言われている。この反応式から計算される質量当たりの容量は、実験値とも近い値を有しており、ケイ素酸化物の反応メカニズムとして認知されている。Kimらはケイ素酸化物の充放電に伴う不可逆成分、LiシリケートをLiSiOとして、Li-MAS-NMRや29Si-MAS-NMRを用いて同定している(非特許文献6)。
【0013】
この不可逆容量はケイ素酸化物の最も不得意とするところであり、改善が求められている。そこでKimらは予めLiシリケートを形成させるLiプレドープ法を用いて、電池として初回効率を大幅に改善し、実使用に耐えうる負極電極を作成している(非特許文献7)。
【0014】
また電極にLiドープを行う手法ではなく、粉末に処理を行う方法も提案し、不可逆容量の改善を実現している(特許文献13)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2001-185127号公報
【文献】特開2002-042806号公報
【文献】特開2006-164954号公報
【文献】特開2006-114454号公報
【文献】特開2009-070825号公報
【文献】特開2008-282819号公報
【文献】特開2008-251369号公報
【文献】特開2008-177346号公報
【文献】特開2007-234255号公報
【文献】特開2009-212074号公報
【文献】特開2009-205950号公報
【文献】特開平06-325765号公報
【文献】特開2015-156355号公報
【非特許文献】
【0016】
【文献】社団法人電池工業会機関紙「でんち」平成22年5月1日号、第10頁
【文献】A. Hohl, T. Wieder, P. A. van Aken, T. E. Weirich, G. Denninger, M. Vidal, S. Oswald, C. Deneke, J. Mayer, and H. Fuess : J. Non-Cryst. Solids, 320, (2003 ), 255.
【文献】V. Kaoaklis, J. Non-Crystalline Solids, 354 (2008) 612
【文献】Mariko Miyachi, Hironori Yamamoto, and Hidemasa Kawai, J. Electrochem. Soc. 2007 volume 154, issue 4, A376-A380
【文献】M. Yamada et al, M. Inaba, A. Ueda, K. Matsuumoto, T. Iwasaki, T. Ohzuku, J.Electrochem. Soc., 159, A1 (2012)
【文献】Taeahn Kim, Sangjin Park, and Seung M. Oh, J. Electrochem. Soc. volume 154,(2007), A1112-A1117.
【文献】Hye Jin Kim, Sunghun Choi, Seung Jong Lee, Myung Won Seo, Jae Goo Lee, Erhan Deniz, Yong Ju Lee, Eun Kyung Kim, and Jang Wook Choi,. Nano Lett. 2016, 16, 282-288.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述したように、近年、モバイル端末などに代表される小型の電子機器は高性能化、多機能化がすすめられており、その主電源であるリチウムイオン二次電池は電池容量の増加が求められている。この問題を解決する1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極からなるリチウムイオン二次電池の開発が望まれている。また、ケイ素材を用いたリチウムイオン二次電池は、炭素系活物質を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近い初期充放電特性及びサイクル特性が望まれている。そこで、Liの挿入、一部脱離により改質されたケイ素酸化物を負極活物質として使用することで、サイクル特性、及び初期充放電特性を改善してきた。しかしながら、充放電に伴い、生成したLiシリケートが分解生成を繰り返すことを発見した。その結果、充放電サイクル初期に容量低下が生じると共に、表面層における電解液の分解も促進されるため、電池特性が十分でなかった。
【0018】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、初期効率改善に伴う電池容量の増加、十分な電池サイクル特性を実現可能な負極活物質を提供することを目的とする。また、そのような負極活物質を含む非水電解質二次電池用負極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を解決するために、本発明では、負極活物質粒子を含む負極活物質であって、
前記負極活物質粒子は、ケイ素化合物を含むケイ素化合物粒子を含有し、
前記ケイ素化合物粒子はLiSiOを含有し、
前記ケイ素化合物粒子は、その表面の少なくとも一部が炭素層で被覆され、
前記負極活物質粒子の表層に、カルボン酸構造を有する物質を含むものであることを特徴とする負極活物質を提供する。
【0020】
本発明の負極活物質(以下、ケイ素系負極活物質とも呼称する)は、ケイ素化合物粒子を含む負極活物質粒子(以下、ケイ素系負極活物質粒子とも呼称する)を含むため、電池容量を向上できる。また、ケイ素化合物粒子が充放電に対して安定なLi化合物を含むことで、二次電池の負極活物質として用いた際に、初回効率(初期効率とも呼称する)を向上させることができる。また、炭素導電層を被覆することで、導電性を付与し、さらに負極活物質粒子の表層には、電解液との反応を抑制するため、カルボン酸構造を有する物質が含まれている。これにより、十分なサイクル特性(電池サイクル特性とも呼称する)が実現できる。
【0021】
このとき、前記負極活物質粒子は、TOF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析)による測定でカルボン酸構造由来のネガティブフラグメントが検出されるものであることが好ましい。
【0022】
このようなものであれば、カルボン酸構造を有する物質が、負極活物質粒子の表層に十分な量含まれるものとすることができる。
【0023】
また、前記負極活物質は、該負極活物質を含む負極を有する二次電池の充電を行った後、前記充電後の二次電池から取り出した充電後の負極、及び、前記充電後の二次電池の完全放電を行った後、前記完全放電後の二次電池から取り出した放電後の負極のXAFS測定を行ったとき、前記充電後及び放電後の負極のXAFS測定から得られるSiのK吸収端XANESスペクトルにおいて、前記充電後の負極のSix+(0<x<4)のスペクトル強度が、前記放電後の負極よりも高く、
前記充電後の負極のXANESスペクトルにおいて、Six+(2≦x<4)のスペクトル強度がSix+(0<x<2)のスペクトル強度よりも高いものであることが好ましい。
【0024】
このようなものであれば、主な活物質として、Si2+、Si3+の高価数Si化合物が充放電に寄与するものとなり、安定した電池特性を実現できる。
【0025】
この場合、前記負極活物質は、前記充電後及び前記放電後の負極のSiのK吸収端XANESスペクトルにおいて、それらスペクトルのいずれもが、LiSiOに帰属されるピークを有し、該ピークの位置が変化しないものであることが好ましい。
【0026】
このようなものであれば、LiSiOを、より確実に、十分に形成させておくことができる。LiSiO成分は、充放電時に安定であるため、初回効率をより確実に向上させることができる。
【0027】
また、前記ケイ素化合物粒子は、粒子内部にサイズ10nm以下の金属粒子を含有するものであることが好ましい。
【0028】
ケイ素化合物粒子が、粒子内部に金属成分として金属粒子を含有することで、バルク内のLiイオン拡散を促進することができる。
【0029】
また、前記金属粒子は、前記ケイ素化合物よりも蒸気圧が低いものであることが好ましい。
【0030】
このようなものであれば、ケイ素化合物粒子の内部に金属粒子をより確実に含有するものとなる。
【0031】
また、前記負極活物質粒子のメジアン径は4.0μm以上12μm以下であることが好ましい。
【0032】
負極活物質粒子のメジアン径が4.0μm以上であれば、電解液との反応を抑制でき、電池特性の低下を抑制できる。また、12μm以下であれば、充放電に伴う活物質の膨張を緩和することができ、電極変形等による電子コンタクトの欠落を抑制できる。
【0033】
また、前記炭素層の平均厚さは5nm以上500nm以下であることが好ましい。
【0034】
炭素層の平均厚さが5nm以上であれば、導電性を十分に得ることができ、電池材として取り扱い易い。また、500nm以下であれば、安定性が良好であり、かつ、電池容量を向上させるケイ素酸化物のメリットの低減を抑制することができる。
【0035】
また、本発明は上記記載の負極活物質を含むものであることを特徴とする負極を提供する。
【0036】
このような負極であれば、この負極をリチウムイオン二次電池の負極として用いた際に、電池容量、初回効率を向上させることができるとともに、十分なサイクル特性が得られる。
【0037】
また、本発明は、負極活物質粒子を含む負極活物質の製造方法であって、
ケイ素化合物を含むケイ素化合物粒子を作製する工程と、
前記ケイ素化合物粒子の少なくとも一部を炭素層で被覆する工程と、
前記ケイ素化合物粒子にLiを挿入し、該ケイ素化合物粒子にLiSiOを含有させる工程と、
前記炭素層を被覆したケイ素化合物粒子を含有する負極活物質粒子の表面改質を行うことによって、前記負極活物質粒子の表層に、カルボン酸構造を有する物質を含ませる工程とを含むことを特徴とする負極活物質の製造方法を提供する。
【0038】
このような負極活物質の製造方法であれば、製造した負極活物質を二次電池の負極活物質として使用した際に、電池容量を増加させることができ、サイクル特性及び初回充放電特性を向上させることができる。
【0039】
また、本発明は、負極活物質粒子を含む負極の製造方法であって、
ケイ素化合物を含むケイ素化合物粒子を作製する工程と、
前記ケイ素化合物粒子の少なくとも一部を炭素層で被覆する工程と、
該炭素層で被覆したケイ素化合物粒子を含む負極を形成する工程と、
該形成した負極に含まれる前記ケイ素化合物粒子にLiを挿入し、該ケイ素化合物粒子にLiSiOを含有させる工程と、
前記負極に含まれる前記炭素層を被覆したケイ素化合物粒子を含有する負極活物質粒子の表面改質を行うことによって、前記負極活物質粒子の表層に、カルボン酸構造を有する物質を含ませる工程とを含むことを特徴とする負極の製造方法を提供する。
【0040】
このような負極の製造方法であれば、製造した負極をリチウムイオン二次電池の負極として用いた際に、電池容量を増加させることができ、サイクル特性及び初回充放電特性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明の負極活物質は、二次電池の負極活物質として用いた際に、初回効率が高く、高容量で、高サイクル特性を得ることができる。また、本発明の負極活物質を含む二次電池は、工業的に優位に生産可能であり、電池容量及び初回充放電特性が良好なものとなる。また、この二次電池を用いた電子機器、電動工具、電気自動車及び電力貯蔵システム等でも同様の効果を得ることができる。
【0042】
また、本発明の負極活物質の製造方法であれば、良好なサイクル特性を得つつ、二次電池の負極活物質として用いた際に、高容量で良好な初期充放電特性を有する負極活物質を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】実施例1-1、1-2、及び、比較例2の負極活物質粒子の表層部のTOF-SIMS解析の結果を示す図である。
図2】実施例1-1、1-2、3-3、及び、比較例1、2の電池サイクル特性を示す図である。
図3】実施例1-1、比較例2における、充放電に伴うLiシリケートの変化をXAFS法で解析した結果を示す図である。
図4】実施例1-3の負極活物質から得られた29Si-MAS-NMRスペクトルを示す図である。
図5】実施例1-1の負極活物質粒子の内部に点在する金属の状態の透過型電子顕微鏡測定の結果を示す図である。
図6】本発明の負極の構成の一例を示す断面図である。
図7】本発明のリチウムイオン二次電池(ラミネートフィルム型)の構成の一例を示す分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0045】
前述のように、リチウムイオン二次電池の電池容量を増加させる1つの手法として、ケイ素酸化物を主材として用いた負極をリチウムイオン二次電池の負極として用いることが検討されている。このケイ素酸化物を用いたリチウムイオン二次電池は、炭素系活物質を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近い初期充放電特性が望まれている。また初期充放電特性を改善可能なLiドープSiOにおいて、炭素系活物質と同等に近いサイクル特性が望まれている。しかしながら、リチウムイオン二次電池の負極活物質として使用した際に、炭素系活物質と同等の初期充放電特性を与え、また炭素系活物質と同等のサイクル特性を示す負極活物質を提案するには至っていなかった。
【0046】
そこで、本発明者らは、二次電池の負極活物質として用いた際に、高いサイクル特性を得つつ、初期充放電特性を向上させ、結果、電池容量を増加させることが可能な負極活物質を得るために鋭意検討を重ね、本発明に至った。
【0047】
[本発明の負極活物質]
本発明の負極活物質は、負極活物質粒子を含む。そして、負極活物質粒子は、ケイ素化合物を含むケイ素化合物粒子を含有し、このケイ素化合物粒子はLiSiOを含有する。また、このケイ素化合物粒子は、その表面の少なくとも一部が炭素層で被覆されると共に、負極活物質粒子は、その最表層にカルボン酸構造を有する物質が含まれる(例えば、被覆され、または、付着している。)。
【0048】
本発明の負極活物質は、ケイ素化合物粒子を含む負極活物質粒子を含むため、電池容量を向上できる。また、ケイ素化合物粒子が充放電に対して安定なLi化合物(LiSiO)を含むことで、二次電池の負極活物質として用いた際に、初回効率を向上させることができる。
【0049】
また、炭素導電層を被覆することで、導電性を付与し、さらに負極活物質粒子の表層には、電解液との反応を抑制するため、カルボン酸構造を有する物質が含まれている。これにより、十分なサイクル特性が実現できる。カルボン酸構造を有する物質は、バインダとの結着性に優れるため、スラリーの段階で積極的にバインダにバインディングする。その結果、バインダが材料を被覆し、負極活物質と電解液との反応面積を低減させることとなり、負極活物質と電解液との反応を抑制することができる。
【0050】
カルボン酸構造を有する物質としては、カルボキシル基を有するものであれば特に限定されないが、例えば、酢酸、ギ酸等があげられる。
【0051】
また、本発明の負極活物質粒子は、TOF-SIMSによる測定でカルボン酸構造由来のネガティブフラグメントが検出されるものであることが好ましい。このようなものであれば、カルボン酸構造を有する物質が、負極活物質粒子の表層に十分な量含まれるものとすることができる。
【0052】
また、前記負極活物質は、該負極活物質を含む負極を有する二次電池の充電を行った後、前記充電後の二次電池から取り出した充電後の負極、及び、前記充電後の二次電池の完全放電を行った後、前記完全放電後の二次電池から取り出した放電後の負極のXAFS測定を行ったとき、前記充電後及び放電後の負極のXAFS測定から得られるSiのK吸収端XANESスペクトルにおいて、前記充電後の負極のSix+(0<x<4)のスペクトル強度が、前記放電後の負極よりも高く、
前記充電後の負極のXANESスペクトルにおいて、Six+(2≦x<4)のスペクトル強度がSix+(0<x<2)のスペクトル強度よりも高いものであることが好ましい。
【0053】
XAFS測定(X線吸収微細構造)から得られるSiのK吸収端XANES(X線吸収端近傍構造)スペクトルにおいて、充放電に伴って、Six+(0<x<4)の量が変化し、充電後、特に高エネルギー側の、1845.5eV近傍に存在する、Si4+に近い(Six+(2≦x<4))Liシリケートのピークが強く生成されるものであれば、主な活物質として、Si2+、Si3+の高価数Si化合物が充放電に寄与するものとなる。これらのSix+(2≦x<4)のSi化合物は安定した酸化物であり、これらが充放電を行うことで、電池特性を飛躍的に向上させることができる。
【0054】
また上記負極活物質において、予めLiSiO成分を十分に生成させておくことが好ましい。この成分は、充放電時に安定であるため、最初から十分に形成させておくことが重要である。LiSiO成分は、XRD(X線回折)、及び29Si-MAS-NMRによってその存在が確認できるが、より好ましくは、29Si-MAS-NMRで確認することが好ましい。本発明では、特に、このLiSiOに帰属されるピークの位置、強度が変化しないことが好ましい。
【0055】
また、本発明の負極活物質は、上記充電後及び上記放電後の負極のSiのK吸収端XANESスペクトルにおいて、それらスペクトルのいずれもが、LiSiOに帰属されるピークを有し、該ピークの位置が変化しないものであることが好ましい。
【0056】
このようなものであれば、LiSiOを、より確実に、十分に形成させておくことができる。LiSiO成分は、充放電時に安定であるため、初回効率をより確実に向上させることができる。
【0057】
さらに、本発明の負極活物質において、ケイ素化合物粒子のSiの微結晶部は、結晶子サイズが大きくならないことが好ましい。具体的には、結晶子サイズが3nm以下を保ちつつ、LiSiO成分を肥大化させることが電池サイクル特性改善、サイクル初期の容量低下に効果的であるため好ましい。
【0058】
また、本発明のケイ素化合物粒子は、粒子内部にサイズ10nm以下の金属粒子を含有するものであることが好ましい。これにより、バルク内のLiイオン拡散を促進することができる。この金属粒子成分は、SiOガスに対して、蒸気圧が低いものであることが好ましく、例えば、MnやCu、Crなどが好ましい。この金属粒子は、透過型電子顕微鏡(TEM)の測定を行い、EDX(Energy Dispersive X-ray spectroscopy)を用いて元素分析を行うことで確認することができるが、確認方法は、上記以外の方法でも構わない。
【0059】
また、前記負極活物質粒子のメジアン径は4.0μm以上12μm以下であることが望ましい。負極活物質粒子のメジアン径が4.0μm以上であれば、電解液との反応を抑制でき、電池特性の低下を抑制できる。また、12μm以下であれば、充放電に伴う活物質の膨張を緩和することができ、電子コンタクトの欠落を抑制できる。より望ましくは5.0μm以上、10μm以下である。
【0060】
前記負極活物質の表層に被覆される炭素層の厚さは5nm以上500nm以下であることが望ましい。炭素層の平均厚さが5nm以上であれば、導電性を十分に得ることができ、電池材として取り扱い易い。また、500nm以下であれば、安定性が良好であり、かつ、電池容量を向上させるケイ素酸化物のメリットの低減を抑制することができる。さらに望ましい範囲としては、7~100nm程度、さらには10~80nm程度が特に望ましい。
【0061】
<非水電解質二次電池用負極>
まず、負極(非水電解質二次電池用負極)について説明する。図6は本発明の負極の構成の一例を示す断面図である。
【0062】
[負極の構成]
図6に示すように、負極10は、負極集電体11の上に負極活物質層12を有する構成になっている。この負極活物質層12は負極集電体11の両面、又は、片面だけに設けられていてもよい。さらに、本発明の負極活物質が用いられたものであれば、負極集電体11はなくてもよい。
【0063】
[負極集電体]
負極集電体11は、優れた導電性材料であり、かつ、機械的な強度に長けた物で構成される。負極集電体11に用いることができる導電性材料として、例えば銅(Cu)やニッケル(Ni)が挙げられる。この導電性材料は、リチウム(Li)と金属間化合物を形成しない材料であることが好ましい。
【0064】
負極集電体11は、主元素以外に炭素(C)や硫黄(S)を含んでいることが好ましい。負極集電体の物理的強度が向上するためである。特に、充電時に膨張する活物質層を有する場合、集電体が上記の元素を含んでいれば、集電体を含む電極変形を抑制する効果があるからである。上記の含有元素の含有量は、特に限定されないが、中でも、それぞれ100質量ppm以下であることが好ましい。より高い変形抑制効果が得られるからである。このような変形抑制効果によりサイクル特性をより向上できる。
【0065】
また、負極集電体11の表面は粗化されていてもよいし、粗化されていなくてもよい。粗化されている負極集電体は、例えば、電解処理、エンボス処理、又は、化学エッチング処理された金属箔などである。粗化されていない負極集電体は、例えば、圧延金属箔などである。
【0066】
[負極活物質層]
負極活物質層12は、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な本発明の負極活物質を含んでおり、電池設計上の観点から、さらに、負極結着剤(バインダ)や導電助剤など他の材料を含んでいてもよい。負極活物質は負極活物質粒子を含み、負極活物質粒子は酸素が含まれるケイ素化合物を含有するケイ素化合物粒子を含む。
【0067】
また、負極活物質層12は、本発明の負極活物質(ケイ素系負極活物質)と炭素系活物質とを含む混合負極活物質材料を含んでいてもよい。これにより、負極活物質層の電気抵抗が低下するとともに、充電に伴う膨張応力を緩和することが可能となる。炭素系活物質としては、例えば、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、カーボンブラック類などを使用できる。
【0068】
また、上記のように本発明の負極活物質は、ケイ素化合物粒子を含み、ケイ素化合物粒子は酸素が含まれるケイ素化合物を含有する酸化ケイ素材である。このケイ素化合物を構成するケイ素と酸素の比は、SiOx:0.5≦x≦1.6の範囲であることが好ましい。xが0.5以上であれば、ケイ素単体よりも酸素比が高められたものであるためサイクル特性が良好となる。xが1.6以下であれば、ケイ素酸化物の抵抗が高くなりすぎないため好ましい。中でも、SiOxの組成はxが1に近い方が好ましい。なぜならば、高いサイクル特性が得られるからである。なお、本発明におけるケイ素化合物の組成は必ずしも純度100%を意味しているわけではなく、微量の不純物元素を含んでいてもよい。
【0069】
また、本発明の負極活物質において、ケイ素化合物粒子は、Li化合物を含有している。より具体的には、ケイ素化合物粒子は、LiSiOを含有している。このようなものは、ケイ素化合物中の、電池の充放電時のリチウムの挿入、脱離時に不安定化するSiO成分部を予め別のリチウムシリケートに改質させたものであるので、充電時に発生する不可逆容量を低減することができる。また、Siの結晶成長を抑制した範囲でLiシリケートの肥大化を行うことが好ましく、これにより、より効果的に、充放電に伴う不可逆容量を低減することができる。また、負極活物質粒子の表層部にカルボン酸構造の物質を付着させることで、充放電に伴う電解液の分解を抑制し、高い充放電サイクルを得ることができる。また、本発明の負極活物質を含む負極の製造方法においては、炭素層で被覆したケイ素化合物粒子を含む負極を形成する工程後に、負極に含まれるケイ素化合物粒子にLiを挿入し、該ケイ素化合物粒子にLiSiOを含有させる工程と、上記炭素層を被覆したケイ素化合物粒子を含有する負極活物質粒子の表面改質を行うことによって、上記負極活物質粒子の表層に、カルボン酸構造を有する物質を付着させることで、充放電に伴う電解液の分解を抑制し、高い充放電サイクルを得ることができる。
【0070】
また、ケイ素化合物粒子のバルク内部のLiSiOはNMR(Nuclear Magnetic Resonance:核磁気共鳴)で定量可能である。NMRの測定は、例えば、以下の条件により行うことができる。
29Si-MAS-NMR(マジック角回転核磁気共鳴)
・装置 : Bruker社製700NMR分光器、
・プローブ : 4mmHR-MASローター 50μL、
・試料回転速度: 10kHz、
・測定環境温度: 25℃。
【0071】
また、ケイ素化合物粒子内における、Si成分の価数、及び、バルク内部のLiSiOは、XAFS(X線吸収微細構造)測定のXANES(X線吸収端近傍構造)領域のスペクトルで確認することができる。
例えば、以下の条件により行うことができる。
・XAFS測定
・Si K-edge(K吸収端)
・測定施設 :あいちシンクロトロン光センターのBL6N1で行った。
加速エネルギー:1.2GeV、
蓄積電流値:300mA、
単色化条件:ベンディングマグネットからの白色X線を二結晶分光器により単色化し、測定に利用
・集光条件 :Niコートしたベンドシリンドリカルミラーによる縦横方向の集光
・上流スリット開口:水平方向7.0mm×垂直方向3.0mm
・ビームサイズ :水平方向2.0mm×垂直方向1.0mm
・試料への入射角 :直入射 入射角0度)
・エネルギー校正 :KSOのS-K端でのピーク位置を2481.70eVに校正
・測定方法 :試料電流を計測することによる全電子収量法
・I0測定方法 :XANES測定時 Au-mesh
・測定槽の真空度 :5×10-7Pa
・試料環境 :トランスファーベッセルは大気非暴露でセットした。
【0072】
カルボン酸構造を有する物質は、TOF-SIMSで確認する事ができる。
装置 :TOF.SIMS 5(ION-TOF 社製)
1次イオン :Bi3++
2次イオン極性 :正および負
質量範囲(m/z ):0~1500
ラスターサイズ :300μm
スキャン数 :30scan
測定真空度 :5×10-7Pa以下(試料導入前)
1次イオン加速電圧 :30kV
帯電中和 :なし
パルス幅 :1.6ns
後段加速 :10kV
【0073】
また、負極活物質層に含まれる負極結着剤としては、例えば、高分子材料、合成ゴムなどのいずれか1種類以上を用いることができる。高分子材料は、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリアミドイミド、アラミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸リチウム、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースなどである。合成ゴムは、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴム、エチレンプロピレンジエンなどである。
【0074】
負極導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、ケチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のいずれか1種以上を用いることができる。
【0075】
負極活物質層は、例えば、塗布法で形成される。塗布法とは、ケイ素系負極活物質と上記の結着剤など、また、必要に応じて導電助剤、炭素系活物質を混合した後に、有機溶剤や水などに分散させ塗布する方法である。
【0076】
[負極の製造方法]
続いて、本発明の負極活物質を製造する方法を説明する。
【0077】
まず、酸素が含まれるケイ素化合物を含むケイ素化合物粒子を作製する。次に、このケイ素化合物粒子の少なくとも一部を炭素層で被覆する。さらに、このケイ素化合物粒子にLiを挿入し、該ケイ素化合物粒子にLiSiOを含有させる。そして、炭素層を被覆したケイ素化合物粒子を含有する負極活物質粒子の表面改質を行うことによって、負極活物質粒子の表層に、カルボン酸構造を有する物質を含ませる。このように作製した負極活物質粒子を用いて、負極活物質を製造する。
【0078】
以下では、酸素が含まれるケイ素化合物として、SiOx(0.5≦x≦1.6)で表される酸化珪素を使用した場合を例に、より具体的に説明する。
【0079】
まず、酸化珪素ガスを発生する原料を不活性ガスの存在下、減圧下で900℃~1600℃の温度範囲で加熱し、酸化珪素ガスを発生させる。このとき、原料は金属珪素粉末と二酸化珪素粉末の混合物を用いることができる。金属珪素粉末の表面酸素及び反応炉中の微量酸素の存在を考慮すると、混合モル比が、0.8<金属珪素粉末/二酸化珪素粉末<1.3の範囲であることが望ましい。
【0080】
発生した酸化珪素ガスは吸着板上で固体化され堆積される。次に、反応炉内温度を100℃以下に下げた状態で酸化珪素の堆積物を取出し、ボールミル、ジェットミルなどを用いて粉砕し、粉末化を行う。以上のようにして、ケイ素化合物粒子を作製することができる。なお、ケイ素化合物粒子中のSi結晶子は、酸化珪素ガスを発生する原料の気化温度の変更、又は、ケイ素化合物粒子生成後の熱処理で制御できる。
【0081】
このとき、酸化珪素ガスを発生する原料に金属粒子を混合させることが好ましい。酸化珪素ガスを発生させる際に熱をかけることで、蒸気圧のバランスにより金属粒子が少量気化し、気化した金属粒子をケイ素化合物粒子に取り込むことができる。またこのとき、ケイ素化合物よりも蒸気圧が低い金属を選定することで、ケイ素化合物粒子の内部に金属粒子をより確実に含有させることができる。
【0082】
ここで、ケイ素化合物粒子の表層の少なくとも一部に炭素材の層(炭素層)を生成する。炭素材の層を生成する方法としては、熱分解CVD法が望ましい。熱分解CVD法で炭素材の層を生成する方法の一例について以下に説明する。
【0083】
まず、ケイ素化合物粒子を炉内にセットする。次に、炉内に炭化水素ガスを導入し、炉内温度を昇温させる。分解温度は特に限定しないが、1200℃以下が望ましく、より望ましいのは900℃以下である。分解温度を1200℃以下にすることで、活物質粒子の意図しない不均化を抑制することができる。所定の温度まで炉内温度を昇温させた後に、ケイ素化合物粒子の表面に炭素層を生成する。また、炭素材の原料となる炭化水素ガスは、特に限定しないが、CnHm組成においてn≦3であることが望ましい。n≦3であれば、製造コストを低くでき、また、分解生成物の物性を良好にすることができる。
【0084】
次に、上記のように作製したケイ素化合物粒子に、Liを挿入する。これにより、リチウムが挿入されたケイ素化合物粒子を含む負極活物質粒子を作製する。すなわち、これにより、ケイ素化合物粒子が改質され、ケイ素化合物粒子内部にLi化合物(LiSiO)が生成する。Liの挿入は、酸化還元法により行うことが好ましい。
【0085】
酸化還元法による改質では、例えば、まず、エーテル系溶媒にリチウムを溶解した溶液Aにケイ素活物質粒子を浸漬することで、リチウムを挿入できる。この溶液Aに更に多環芳香族化合物又は直鎖ポリフェニレン化合物を含ませても良い。リチウムの挿入後、多環芳香族化合物やその誘導体を含む溶液Bにケイ素活物質粒子を浸漬することで、ケイ素活物質粒子から活性なリチウムを脱離できる。この溶液Bの溶媒は例えば、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、アミン系溶媒、又はこれらの混合溶媒を使用できる。または溶液Aに浸漬させた後、得られたケイ素活物質粒子を不活性ガス下で熱処理しても良い。熱処理することにLi化合物を安定化することができる。その後、アルコール、炭酸リチウムを溶解したアルカリ水、弱酸、又は純水などで洗浄する方法などで洗浄しても良い。
【0086】
溶液Aに用いるエーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、又はこれらの混合溶媒等を用いることができる。この中でも特にテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタンを用いることが好ましい。これらの溶媒は、脱水されていることが好ましく、脱酸素されていることが好ましい。
【0087】
また、溶液Aに含まれる多環芳香族化合物としては、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、ペンタセン、ピレン、ピセン、トリフェニレン、コロネン、クリセン及びこれらの誘導体のうち1種類以上を用いることができ、直鎖ポリフェニレン化合物としては、ビフェニル、ターフェニル、及びこれらの誘導体のうち1種類以上を用いることができる。
【0088】
溶液Bに含まれる多環芳香族化合物としては、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、ペンタセン、ピレン、ピセン、トリフェニレン、コロネン、クリセン及びこれらの誘導体のうち1種類以上を用いることができる。
【0089】
また、溶液Bのエーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、及びテトラエチレングリコールジメチルエーテル等のうち1種類以上並びにこれらの混合溶媒を用いることができる。
【0090】
ケトン系溶媒としては、アセトン、アセトフェノン等を用いることができる。
【0091】
エステル系溶媒としては、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、及び酢酸イソプロピル等を用いることができる。
【0092】
アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、及びイソプロピルアルコール等を用いることができる。
【0093】
アミン系溶媒としては、メチルアミン、エチルアミン、及びエチレンジアミン等を用いることができる。
【0094】
酸化還元法によりLiドープ処理を行った材料は、ろ過(又はろ過及び真空乾燥)を行った後、500℃以上650℃以下の熱処理を行うことでLiシリケートの種類や量(存在割合)等を制御することができる。この時、真空状態、または不活性ガス下で熱処理を行うことが好ましい。また熱処理装置、ここでは装置に限定はしないが、ロータリーキルンのような均一熱処理を用いることが望ましい。この時、真空状態、不活性ガス流量(内圧)、レトルト厚み、回転数をファクターとし、様々なLiシリケート状態を作り出すことができる。どのような条件でどのようなLiシリケート状態とするかは、当業者であれば実験的に容易に求めることができる。同様に、シリコンの肥大化、またはシリコンの非晶質化の制御を行うことができる。これらの制御をどのような条件で行うかについても、当業者であれば実験的に容易に求めることができる。また、SiOはLiとの反応時、Liの集中が起こるとSiOが一部不均化しSiが生成する。即ち、高速に反応させると、Liとの均一反応が起こらず、Si-O結合が切れ、Siが生成する。この時、Liドープ時の挿入レートを制御する事で、Si化を抑制が可能となる。挿入レートは、多環芳香族濃度や、温度で制御でき、Liドープ前の放電容量(0V-1.2V)に対し、0.2C以下でドープすることが望ましい。このようにすれば、Siの肥大化や、熱処理工程のLiシリケート生成に影響を与えることがない。Liドープ時の挿入レートの制御をどのような条件で行うかについても、当業者であれば実験的に容易に求めることができる。
【0095】
また、上記ろ過後の材料表面に溶媒や、多環芳香族を付着させ、その後、熱処理を行うことで、カルボン酸構造を有する物質を生成することができる。この生成物質は、上記溶液A、B中の多環芳香族濃度や、上記ろ過時の真空乾燥条件等で制御することが可能である。またこのとき、カルボン酸構造を有する物質の生成をLiシリケート生成と同時に行うことができる。
【0096】
材料表面に付着させる溶媒や、多環芳香族としては、上記溶液A、B中に含まれるジグリム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)やビフェニル、ターフェニル等があげられる。これらの物質をLiドープ処理後、熱処理分解することで、負極活物質粒子の表面にカルボン酸構造を有する物質を含有させることができる。例えば、熱処理する前の段階で、材料を直鎖ポリフェニレン化合物(ビフェニル、ターフェニル)やジグリムが、例えば5質量%以下の濃度の溶液に含浸することで、それらの物質を材料表面に付着させ、温度上昇で制御、または表面付着量を制御して生成することができる。温度の制御条件、表面付着量の制御条件は当業者であれば実験的に容易に求めることができる。
【0097】
以上のようにして作製した負極活物質を、負極結着剤、導電助剤などの他の材料と混合して、負極合剤とした後に、有機溶剤又は水などを加えてスラリーとする。次に、負極集電体の表面に、上記のスラリーを塗布し、乾燥させて、負極活物質層を形成する。この時、必要に応じて加熱プレスなどを行ってもよい。以上のようにして、負極を作製できる。
【0098】
以上、本発明の負極の製造方法の一例として、ケイ素化合物粒子にLiSiOを含有させ、負極活物質粒子の表層に、カルボン酸構造を有する物質を含ませ負極活物質粒子を用いて負極を製造する方法を説明したが、本発明の負極の製造方法はこれに限定されない。更に、本発明では、下記に示す負極の製造方法を提供する。
【0099】
本発明の負極の製造方法では、まず、ケイ素化合物を含むケイ素化合物粒子を作製し、該作製したケイ素化合物粒子の少なくとも一部を炭素層で被覆する。このようにして作製した炭素層で被覆したケイ素化合物粒子を用いて負極を形成する。ここで、炭素層を生成する方法は上記と同様とすればよい。また、負極の形成方法としては、炭素層で被覆したケイ素化合物粒子を負極結着剤、導電助剤などの他の材料と混合して、負極合剤とした後に、有機溶剤又は水などを加えて、スラリーを作製し、作製したスラリーを、負極集電体の表面に塗布し、乾燥させて、負極活物質層を形成し、必要に応じて加熱プレスなどを行えばよい。
【0100】
次に、上記のように形成した負極に含まれるケイ素化合物粒子にLiを挿入し、該ケイ素化合物粒子にLiSiOを含有させる。Liの挿入は、酸化還元法により行うことが好ましく、負極に含まれるケイ素化合物粒子を、リチウムを含み、溶媒がエーテル系溶媒である溶液Aに接触させることにより、リチウム含有ケイ素化合物粒子を含む負極を得ることができる。溶液Aの詳細(組成、接触時間等)については、上述の本発明の負極活物質の製造方法で説明した通りである。このように、本発明の負極の製造方法においては、Liを挿入する工程は、上記のケイ素化合物粒子を含む負極の形成工程後にLiを挿入することで行うこともできる。
【0101】
また、本発明の負極の製造方法では、負極に含まれる前記炭素層を被覆したケイ素化合物粒子を含有する負極活物質粒子の表面改質を行うことによって、前記負極活物質粒子の表層に、カルボン酸構造を有する物質を含ませる工程を含む。この工程についても、上記負極活物質粒子の表層にカルボン酸構造を有する物質を含ませる方法と同様に、行うことができ、負極活物質粒子の代わりに、上記の形成した負極を用いることで、形成した負極に含まれる負極活物質粒子の表層に、カルボン酸構造を有する物質を含ませることができる。
【0102】
<リチウムイオン二次電池>
次に、上記した本発明の非水電解質二次電池の具体例として、ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池について説明する。
【0103】
[ラミネートフィルム型二次電池の構成]
図7に示すラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池30は、主にシート状の外装部材35の内部に巻回電極体31が収納されたものである。この巻回電極体31は正極、負極間にセパレータを有し、巻回されたものである。また、巻回をせず、正極、負極間にセパレータを有した積層体を収納した場合も存在する。どちらの電極体においても、正極に正極リード32が取り付けられ、負極に負極リード33が取り付けられている。電極体の最外周部は保護テープにより保護されている。
【0104】
正負極リード32、33は、例えば、外装部材35の内部から外部に向かって一方向で導出されている。正極リード32は、例えば、アルミニウムなどの導電性材料により形成され、負極リード33は、例えば、ニッケル、銅などの導電性材料により形成される。
【0105】
外装部材35は、例えば、融着層、金属層、表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムであり、このラミネートフィルムは融着層が電極体31と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外周縁部同士が融着、又は、接着剤などで張り合わされている。融着部は、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどのフィルムであり、金属部はアルミ箔などである。保護層は例えば、ナイロンなどである。
【0106】
外装部材35と正負極リードとの間には、外気侵入防止のため密着フィルム34が挿入されている。この材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン樹脂である。
【0107】
正極は、例えば、図6の負極10と同様に、正極集電体の両面又は片面に正極活物質層を有している。
【0108】
正極集電体は、例えば、アルミニウムなどの導電性材により形成されている。
【0109】
正極活物質層は、リチウムイオンの吸蔵放出可能な正極材のいずれか1種又は2種以上を含んでおり、設計に応じて正極結着剤、正極導電助剤、分散剤などの他の材料を含んでいても良い。この場合、正極結着剤、正極導電助剤に関する詳細は、例えば既に記述した負極結着剤、負極導電助剤と同様である。
【0110】
正極材料としては、リチウム含有化合物が望ましい。このリチウム含有化合物は、例えばリチウムと遷移金属元素からなる複合酸化物、又はリチウムと遷移金属元素を有するリン酸化合物があげられる。これらの正極材の中でもニッケル、鉄、マンガン、コバルトの少なくとも1種以上を有する化合物が好ましい。これらの化学式として、例えば、LiM1OあるいはLiM2POで表される。式中、M1、M2は少なくとも1種以上の遷移金属元素を示す。x、yの値は電池充放電状態によって異なる値を示すが、一般的に0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10で示される。
【0111】
リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物などが挙げられる。リチウムニッケルコバルト複合酸化物としては、例えばリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物(NCA)やリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(NCM)などが挙げられる。
【0112】
リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4)あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-uMnPO(0<u<1))などが挙げられる。これらの正極材を用いれば、高い電池容量を得ることができるとともに、優れたサイクル特性も得ることができる。
【0113】
[負極]
負極は、上記した図6のリチウムイオン二次電池用負極10と同様の構成を有し、例えば、集電体の両面に負極活物質層を有している。この負極は、正極活物質剤から得られる電気容量(電池としての充電容量)に対して、負極充電容量が大きくなることが好ましい。これにより、負極上でのリチウム金属の析出を抑制することができる。
【0114】
正極活物質層は、正極集電体の両面の一部に設けられており、同様に負極活物質層も負極集電体の両面の一部に設けられている。この場合、例えば、負極集電体上に設けられた負極活物質層は対向する正極活物質層が存在しない領域が設けられている。これは、安定した電池設計を行うためである。
【0115】
上記の負極活物質層と正極活物質層とが対向しない領域では、充放電の影響をほとんど受けることが無い。そのため、負極活物質層の状態が形成直後のまま維持され、これによって負極活物質の組成などを、充放電の有無に依存せずに再現性良く正確に調べることができる。
【0116】
[セパレータ]
セパレータはリチウムメタル等の正極と負極を隔離し、両極接触に伴う電流短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータは、例えば合成樹脂、あるいはセラミックからなる多孔質膜により形成されており、2種以上の多孔質膜が積層された積層構造を有しても良い。合成樹脂として例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0117】
[電解液]
活物質層の少なくとも一部、又は、セパレータには、液状の電解質(電解液)が含浸されている。この電解液は、溶媒中に電解質塩が溶解されており、添加剤など他の材料を含んでいても良い。
【0118】
溶媒は、例えば、非水溶媒を用いることができる。非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、1,2-ジメトキシエタン又はテトラヒドロフランなどが挙げられる。この中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種以上を用いることが望ましい。より良い特性が得られるからである。またこの場合、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどの高粘度溶媒と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒を組み合わせることにより、より優位な特性を得ることができる。電解質塩の解離性やイオン移動度が向上するためである。
【0119】
合金系負極を用いる場合、特に溶媒として、ハロゲン化鎖状炭酸エステル、又は、ハロゲン化環状炭酸エステルのうち少なくとも1種を含んでいることが望ましい。これにより、充放電時、特に充電時において、負極活物質表面に安定な被膜が形成される。ここで、ハロゲン化鎖状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として有する(少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)鎖状炭酸エステルである。また、ハロゲン化環状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として有する(すなわち、少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)環状炭酸エステルである。
【0120】
ハロゲンの種類は特に限定されないが、フッ素が好ましい。これは、他のハロゲンよりも良質な被膜を形成するからである。また、ハロゲン数は多いほど望ましい。これは、得られる被膜がより安定的であり、電解液の分解反応が低減されるからである。
【0121】
ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ジフルオロメチルメチルなどが挙げられる。ハロゲン化環状炭酸エステルとしては、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンなどが挙げられる。
【0122】
溶媒添加物として、不飽和炭素結合環状炭酸エステルを含んでいることが好ましい。充放電時に負極表面に安定な被膜が形成され、電解液の分解反応が抑制できるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルとして、例えば炭酸ビニレン又は炭酸ビニルエチレンなどが挙げられる。
【0123】
また溶媒添加物として、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることが好ましい。電池の化学的安定性が向上するからである。スルトンとしては、例えばプロパンスルトン、プロペンスルトンが挙げられる。
【0124】
さらに、溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。酸無水物としては、例えば、プロパンジスルホン酸無水物が挙げられる。
【0125】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類以上含むことができる。リチウム塩として、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)などが挙げられる。
【0126】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.5mol/kg以上2.5mol/kg以下であることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0127】
[ラミネートフィルム型二次電池の製造方法]
最初に上記した正極材を用い正極電極を作製する。まず、正極活物質と、必要に応じて正極結着剤、正極導電助剤などを混合し正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させ正極合剤スラリーとする。続いて、ナイフロール又はダイヘッドを有するダイコーターなどのコーティング装置で正極集電体に合剤スラリーを塗布し、熱風乾燥させて正極活物質層を得る。最後に、ロールプレス機などで正極活物質層を圧縮成型する。この時、加熱しても良く、また圧縮を複数回繰り返しても良い。
【0128】
次に、上記したリチウムイオン二次電池用負極10の作製と同様の作業手順を用い、負極集電体に負極活物質層を形成し負極を作製する。
【0129】
正極及び負極を作製する際に、正極及び負極集電体の両面にそれぞれの活物質層を形成する。この時、どちらの電極においても両面部の活物質塗布長がずれていても良い(図6を参照)。
【0130】
続いて、電解液を調整する。続いて、超音波溶接などにより、正極集電体に正極リード32を取り付けると共に、負極集電体に負極リード33を取り付ける。続いて、正極と負極とをセパレータを介して積層、又は巻回させて巻回電極体31を作製し、その最外周部に保護テープを接着させる。次に、扁平な形状となるように巻回体を成型する。続いて、折りたたんだフィルム状の外装部材35の間に巻回電極体を挟み込んだ後、熱融着法により外装部材の絶縁部同士を接着させ、一方向のみ解放状態にて、巻回電極体を封入する。続いて、正極リード、及び負極リードと外装部材の間に密着フィルムを挿入する。続いて、解放部から上記調整した電解液を所定量投入し、真空含浸を行う。含浸後、解放部を真空熱融着法により接着させる。以上のようにして、ラミネートフィルム型二次電池30を製造することができる。
【実施例
【0131】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0132】
(実施例1-1)
まず、負極活物質を以下のようにして作製した。金属ケイ素と二酸化ケイ素に加えて金属成分としてMnを混合した原料を反応炉に導入し、10Paの真空度の雰囲気中で気化させたものを吸着板上に堆積させ、十分に冷却した後、堆積物を取出しボールミルで粉砕した。このようにして得たケイ素化合物粒子のSiOのxの値は1.0であった。続いて、ケイ素化合物粒子の粒径を分級により調整した。その後、熱分解CVDを行うことで、ケイ素化合物粒子の表面に炭素材を被覆した。
【0133】
続いて、酸化還元法によりケイ素化合物粒子にリチウムを挿入し改質した。その後、450℃~750℃の範囲で加熱し改質を行った。このとき、ゆるやかにLiドープを行い、昇温スピードやロータリーキルンの回転数を制御することで、Liシリケートを安定化させた。また、リチウム挿入時、加熱による改質前に、上記溶液Bとしてビフェニルを3質量%含んだ直鎖ポリフェニレン5質量%の溶液を用いて、ケイ素化合物粒子の表面に付着させた。そして、加熱による改質とともに、ケイ素化合物粒子の表層にカルボン酸構造を有する物質を生成させた。
【0134】
このようにして得られた負極活物質粒子の粒径、及び、炭素被膜の厚さを測定した。また、得られた負極活物質粒子のTOF-SIMSによる測定を行いカルボン酸構造の有無、及びピーク強度を確認した。また、29Si-MAS-NMRにてLiSiOの存在の有無を確認した。また、TEM測定を行い、EDXを用いて元素分析を行った。
【0135】
次に、作製した負極活物質、グラファイト(Graphite)、導電助剤1(カーボンナノチューブ、CNT)、導電助剤2(メジアン径が約50nmの炭素微粒子)、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCと称する)18.6:74.4:1:1:4:1の乾燥質量比で混合した後、純水で希釈し負極合剤スラリーとした。
【0136】
また、負極集電体としては、厚さ15μmの電解銅箔を用いた。この電解銅箔には、炭素及び硫黄がそれぞれ70質量ppmの濃度で含まれていた。最後に、負極合剤スラリーを負極集電体に塗布し真空雰囲気中で100℃×1時間の乾燥を行った。乾燥後の、負極の片面における単位面積あたりの負極活物質層の堆積量(面積密度とも称する)は7.0mg/cmであった。
【0137】
次に、溶媒エチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC))を混合した後、電解質塩(六フッ化リン酸リチウム:LiPF)を溶解させて電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成を体積比でEC:DMC=30:70とし、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。添加剤として、ビニレンカーボネート(VC)とフルオロエチレンカーボネート(FEC)をそれぞれ、1.0質量%、2.0質量%添加した。
【0138】
次に、以下のようにしてコイン電池を組み立てた。最初に厚さ1mmのLi箔を直径16mmに打ち抜き、アルミクラッドに張り付けた。得られた負極電極を直径15mmに打ち抜き、セパレータを介してLi箔と向い合せ電解液注液後、2032コイン電池を作製した。
【0139】
初回効率は以下の条件で測定した。
まず充電レートを0.03C相当で充電を行った。このとき、CCCVモードで充電を行った。CVは0Vで終止電流は0.04mAとした。
放電レートは同様に0.03C、放電電圧は1.2Vとして、CC放電を行った。
【0140】
初期充放電特性を調べる場合には、初回効率(以下では初期効率と呼ぶ場合もある)を算出した。初回効率は、初回効率(%)=(初回放電容量/初回充電容量)×100で表される式から算出した。
【0141】
また、上記得られた初期データから、ラミネートフィルム型二次電池の対正極を設計し、電池評価(サイクル特性の評価)を行った。
【0142】
ラミネートフィルム型二次電池の対正極の設計は以下のようにして行った。まず、正極を、対極をLiとして充放電し、正極容量を求めた。充電電位をサイクル特性の評価をする際に用いるセルの充電電位(4.3V)に対して50mV高い4.35Vとし、放電電圧を2.5Vとした。そして、上記初期充放電特性を調べたときの負極のデータ及び正極の充放電時の初期データを用いて、100×((正極容量)-(負極の不可逆容量))/(負極の可逆容量)で表される式の値を算出し、その数値が90%~95%の範囲となる正極面積密度(乾燥後の、正極の単位面積あたりの正極活物質層の堆積量)に設計した。
【0143】
また、正極活物質はリチウムコバルト複合酸化物であるLiCoOを95質量部と、正極導電助剤(アセチレンブラック)2.5質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン:Pvdf)2.5質量部とを混合し正極合剤とした。続いて正極合剤を有機溶剤(N-メチル-2-ピロリドン:NMP)に分散させてペースト状のスラリーとした。続いてダイヘッドを有するコーティング装置で正極集電体の両面にスラリーを塗布し、熱風式乾燥装置で乾燥した。最後にロールプレスで圧縮成型を行った。
【0144】
負極としては、上記の試験セルのケイ素系活物質を含む電極と同様の手順で作製したものを使用した。
【0145】
電解液としては、上記の試験セルの電解液と同様の手順で作製したものを使用した。
【0146】
次に、以下のようにしてラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体の一端にアルミリードを超音波溶接し、負極集電体にはニッケルリードを溶接した。続いて、正極、セパレータ、負極、セパレータをこの順に積層し、長手方向に巻回させ巻回電極体を得た。その捲き終わり部分をPET保護テープで固定した。セパレータは多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムにより多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムが挟まれた積層フィルム12μmを用いた。続いて、外装部材間に電極体を挟んだのち、一辺を除く外周縁部同士を熱融着し、内部に電極体を収納した。外装部材はナイロンフィルム、アルミ箔及び、ポリプロピレンフィルムが積層されたアルミラミネートフィルムを用いた。続いて、開口部から調製した電解液を注入し、真空雰囲気下で含浸した後、熱融着し封止した。
【0147】
このようにして作製したラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池のサイクル特性(維持率%)を調べた。
【0148】
サイクル特性については、以下のようにして調べた。最初に、電池安定化のため25℃の雰囲気下、0.2Cで2サイクル充放電を行い、2サイクル目の放電容量を測定した。電池サイクル特性は3サイクル目の放電容量から計算し、容量維持率が80%以下となるサイクル数で電池試験をとめた。ここで、測定した放電容量を2サイクル目の放電容量で割り、各サイクルの容量維持率(以下、単に維持率ともいう)を算出した。また、通常サイクル、すなわち3サイクル目からは、充電0.7C、放電0.5Cで充放電を行った。充電電圧は4.3V、放電終止電圧は2.5V、充電終止レートは0.07Cとした。ケイ素酸化物はサイクル初期に大幅な容量低下が伴う。そこで、100サイクル目の維持率を算出した。
【0149】
また、Liシリケートの安定化は、初期充放電特性を調べたときと同様に、負極とリチウムメタルを組み合わせたコインセルで充放電を行いXAFS測定によるXANESスペクトルを確認することで行った。充放電は、フルチャージに相当する、CVが0VでCCCVモードでの充電と、完全放電に相当する、終止電圧が2.5VでCC放電を行った。ここで、XAFS測定は、充電後の二次電池から取り出した負極、及び、充電後の二次電池を完全放電した後の二次電池から取り出した負極に対して行った。XAFS測定の測定条件は上記と同様である。
【0150】
(実施例1-2)
リチウム挿入時に用いた溶液B中のビフェニルの濃度を5質量%とし、溶液中のビフェニルの濃度をあげると共に、ろ過時の残液分を増やすことで、熱処理後のカルボン酸構造を有する物質の被覆量を変化させた。そのほかは実施例1-1と同様に行った。カルボン酸構造を有する物質の被覆量の定量化は難しいため、TOF-SIMSによるピーク強度に基づいて増減を表現することとした。
【0151】
(実施例1-3)
リチウムドープ量を実施例1-1よりも増やした以外は実施例1-1と同様に行った。
【0152】
(実施例1-4)
ケイ素化合物粒子を作製する際の原料として、金属成分を混合させなかった以外は実施例1-1と同様に行った。
【0153】
(実施例2-1~2-5)
炭素層の厚さを変化させたことを除き、実施例1-1と同様に、負極活物質の製造を行った。
【0154】
(実施例3-1~3-6)
負極活物質粒子の粒径を変化させたことを除き、実施例1-1と同様に、負極活物質の製造を行った。
【0155】
(比較例1)
ケイ素化合物粒子を作製する際の原料にMn粒子を混合せず、Liドープも行わなかった。また、ケイ素化合物粒子の表層にカルボン酸構造を有する物質を生成させなかった。それら以外は実施例1-1と同様に行った。
【0156】
(比較例2)
ケイ素化合物粒子に炭素材を被覆した後、酸化還元法によりケイ素化合物粒子にリチウムを挿入し改質した。その後、450℃~750℃の範囲で加熱し改質を行った以外は、比較例1と同様に行った。このとき、実施例1-1よりも、Liドープ速度を早く、熱処理時の昇温スピードをあげ、より短時間でLiシリケートの生成を行った。
【0157】
(比較例3)
炭素被覆を行わなかったことを除き、実施例1-4と同様に行った。
【0158】
(比較例4)
カルボン酸構造を有する物質を負極活物質粒子の表層に含ませなかった以外は、実施例1-1と同様に行った。
【0159】
実施例1-1~1-4、2-1~2-5、3-1~3-6、及び、比較例1~4の評価結果を表1に示す。また、実施例1-1、1-2、及び、比較例2のTOF-SIMSによる測定結果を表2に示す。また、実施例1-3の負極活物質から得られた29Si-MAS-NMRスペクトルを図4に示した。なお、表1中のLiSiOの有無は、図4に示すように-75ppm近傍に現れるピークの有無により確認した。
【0160】
【表1】
【0161】
【表2】
【0162】
図2に、実施例1-1、1-2、3-3、及び、比較例1、2の電池サイクル特性を示す。また、図3に、実施例1-1、比較例2における、充放電に伴うLiシリケートの変化をXAFS法で解析した結果を示す。表1及び図2から、Li未ドープ品である比較例1は、初期効率は68%と低く、またサイクル初期の容量低下が大きいことがわかる。比較例2は、比較例1と比べて、初期効率は改善され、粒子内部にLiシリケートが生成しているが、図3に示すように、充電後、放電後で1845.5eV付近に存在するXANESスペクトルのピークの位置が大きく変化しており、充放電に伴うLiシリケートの分解が確認された。この結果、100サイクルまでの容量低下率が改善されたが、十分ではないことが確認された。一方、実施例1-1では、図3に示すように、充電後、放電後で1845.3eV付近に存在するLiSiOのピークの位置は変化しておらず、粒子内部に安定なLiシリケートが生成している。このような安定なLiシリケートを有する実施例1-1は、比較例1、2よりも良好なサイクル特性を示した。
【0163】
また、実施例1-1と実施例1-3とを比較すると、実施例1-3の方がより良好な維持率及び初期効率を示し、Liシリケートの量がより多い方が良好な電池特性を示すことがわかった。
【0164】
また、図3に示すように、実施例1-1では、充電後の負極のXANESスペクトルにおけるSix+(0<x<4)のスペクトル強度が、放電後の負極よりも高く、また、充電後の負極のXANESスペクトルにおいて、Six+(2≦x<4)のスペクトル強度(1844~1846eV付近)がSix+(0<x<2)のスペクトル強度(1842~1844eV付近)よりも高かった。このことは、主な活物質として、Si2+及びSi3+の高価数Si化合物が充放電に寄与していることを示しており、このような負極活物質は、より安定な電池特性を示した。一方で、比較例2では、Liシリケートの分解によるスペクトル変化を考慮すると、充電後、及び、放電後で、Six+(0<x<4)スペクトル強度の実質的な変化はなく、表1、図2に示すように、電池特性は良好ではなかった。
【0165】
図1に実施例1-1、1-2、及び、比較例2の負極活物質粒子の表層部のTOF-SIMS解析の結果を示す。図1及び表2に示すように、比較例2では、カルボン酸構造を有する物質に由来するフラグメント(CHO 、C 等)はほとんど検出されていないが、実施例1-1、1-2では、それらが十分に検出されており、負極活物質粒子の表層にカルボン酸構造を有する物質が含まれていることが分かった。また、TOF-SIMSによるフラグメントを確認すると、実施例1-1よりも実施例1-2の方がカルボン酸構造を有する物質に由来するフラグメントが多く、Liドープ時の溶液中の多環芳香族の濃度、ろ過時の残液量等によりカルボン酸に帰属する、CHO などのピーク制御が可能であることがわかった。ここでは、実施例1-1に対して実施例1-2のカルボン酸構造を有する物質含有量を増やしたが、減らす場合は、真空乾燥や、多環芳香族濃度の低減、熱処理時に多環芳香族の沸点以上で気化させる工程を経るなどで調整可能である。また、カルボン酸を有する物質に由来するフラグメントが増えると共に、炭素層に帰属する、C系フラグメント(C 、C、C 、C等)が減少していることからも負極活物質粒子の表層の一部にカルボン酸を有する物質が被覆されていることを確認した。
【0166】
また、表1から、カルボン酸構造を有する物質を負極活物質粒子の表層に含んでいる実施例1-1~1-4の方が、それらを含まない比較例1、2、4よりも容量維持率、初回効率が向上しており、特に、カルボン酸構造を有する物質の量が多い方が、より初回効率が向上することが分かった(実施例1-1、1-2参照)。
【0167】
また、表1に示す、比較例3、及び、実施例2-1~2-5の結果から、炭素層があった方が維持率、初回効率が共に良好となることがわかった。炭素層は、導電性を得るために必要であり、炭素層が存在しないと、充放電に伴う電子パスが切れやすく、結果、サイクル初期の容量低下が、活物質層構造が起因で生じる。また、実施例2-1~2-5の結果から、炭素層を増加させると、より改善するわけではなく、特に大きな差がない。しかしながら、炭素層をあまり多くしすぎると、充放電に寄与しない炭素成分が増えるため、活物質の理論容量が減少する。これらの結果から、炭素層の平均厚さは5nm以上500nm以下であることが好ましい。
【0168】
また、実施例3-1~3-5の結果から、負極活物質粒子の粒径を大きくすることで、長期サイクル特性を改善することができることがわかった。これは単位体積当たりの表面積を低減することで、電解液との反応を抑制することが可能だからである。ただし、実施例3-6のように、粒径を12μmより大きくすると充放電で粒子が破壊し、結果特性が低下することを確認した。これらの結果から、負極活物質粒子の粒径は4.0μm以上12μm以下であることが好ましい。
【0169】
図5に実施例1-1の負極活物質粒子の内部に点在する金属の状態のTEM測定の結果を示す。図5から分かるように、炭素成分の多い炭素層の部分に、Mn粒子が含有されていることがわかる。
【0170】
また、実施例1-1、1-4の結果から、ケイ素化合物粒子の内部に金属成分を有している実施例1-1の方が、より維持率が良好であった。このように、粒子内部に金属成分を点在させることで導電性を付与することができ、電池特性の改善につながることがわかった。
【0171】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0172】
10…負極、 11…負極集電体、 12…負極活物質層、
30…ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池、 31…巻回電極体、
32…正極リード、 33…負極リード、 34…密着フィルム、
35…外装部材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7