(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】ルテニウム含有層を洗浄又はエッチングするために用いられる薬液、及びルテニウム配線の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/308 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
H01L21/308 F
(21)【出願番号】P 2021015480
(22)【出願日】2021-02-03
【審査請求日】2023-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】和田 幸久
(72)【発明者】
【氏名】古賀 信哉
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 和裕
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/005980(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/123126(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/074601(WO,A1)
【文献】特開2020-087945(JP,A)
【文献】特開2006-199987(JP,A)
【文献】国際公開第2020/166676(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/308
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルト過ヨウ素酸(A)と、
塩基成分(B)(但し、当該塩基成分(B)は化合物(C)、pH緩衝成分(D)及び有機アミンオキシド(E)のいずれにも該当しない。)と、
含窒素複素環化合物、有機ホスホン酸、及び有機カルボン酸からなる群より選ばれる化合物(C)と、
pH緩衝成分(D)とを含
み、
前記pH緩衝成分(D)が、クエン酸塩、酢酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、及び硫酸塩からなる群より選ばれる1種以上である、ルテニウム含有層を洗浄又はエッチングするために用いられる薬液。
【請求項2】
前記薬液のpHが8以上10以下である、請求項1に記載の薬液。
【請求項3】
さらに有機アミンオキシド(E)を含む、請求項1
又は2に記載の薬液。
【請求項4】
前記化合物(C)が含窒素複素環化合物である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の薬液。
【請求項5】
前記含窒素複素環化合物が、その構造中にトリアゾール環を有する化合物である、請求項
4に記載の薬液。
【請求項6】
前記含窒素複素環化合物が、その構造中にピリジン環を含む化合物である、請求項
4に記載の薬液。
【請求項7】
前記化合物(C)が有機ホスホン酸である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の薬液。
【請求項8】
前記化合物(C)が有機カルボン酸である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の薬液。
【請求項9】
基板上にトレンチを有する絶縁膜を形成する工程と、
前記トレンチを埋め込むように、ルテニウムを含む導電材料を用いて、ルテニウム含有層を形成する工程と、
前記ルテニウム含有層及び前記絶縁膜の各表面を平坦化する工程と、
請求項1~
8のいずれか1項に記載の薬液を用いて、前記平坦化された前記ルテニウム含有層の表面をエッチングすることで、リセスを形成する工程と、
を含む、ルテニウム配線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルテニウム含有層を洗浄又はエッチングするために用いられる薬液、及びルテニウム配線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の前工程の製造工程において、ウエハ表面に金属配線を形成する工程には、MOL(Middle of the Line)とBEOL(Back End of the Line)とがある。MOLではプラグを形成し、BEOLでは、金属配線及びビア等を形成する。近年、半導体素子や液晶表示素子の製造においては、リソグラフィー技術の進歩により、急速にパターンの微細化が進んでいる。配線パターンの微細化に伴い、アライメントマージンを十分に取ることが難しくなり、抵抗変動及び信頼性の悪化等の課題が生じている。
アライメントマージンを確保する対策として、化学機械研磨(CMP(Chemical Mechanical Polishing))後に、金属配線を選択的にエッチング(リセス)して後退させる手法が開発されており、FSAV(Fully Self Aligned Via)と呼ばれている(例えば、特許文献1)。
配線材料としては、銅、タングステン及びコバルト等が使用されてきたが、パターンの微細化に伴い、より抵抗が小さいルテニウムの使用が検討されている。FSAVを適用してルテニウム配線を形成する場合、リセス形成に適した薬液が求められている。
【0003】
また、BEOLでは、銅を金属配線材料に使用した従来のデュアルダマシン(Dual Damascene)構造には、パターニングのばらつきや、抵抗上昇が限界に近い問題がある。このため、低抵抗金属であるルテニウムを使用したセミダマシン(Semi-Damascene)構造が提案されている。
上記セミダマシン構造を形成する際には、基板の表層に形成されたルテニウム層に対して、ドライエッチングが行われる。ドライエッチングを行うと、ルテニウム層の表面やその他の表面露出膜上に、ルテニウムとエッチングガスとの反応生成物(以下、単に「ルテニウム残渣」という場合がある。)が形成されたりする。このため、ドライエッチングにより形成された上記ルテニウム残渣を洗浄除去できる薬液も求められている。
【0004】
ルテニウムをエッチングする方法としては、例えば、酸化剤としてオルト過ヨウ素酸を含み、pHが8以上であるエッチング液を用いたエッチング方法が提案されている(特許文献2)。しかし、特許文献2に記載されたエッチング液でルテニウムのエッチングを行うと、粒界腐食が発生し、ラフネスの制御が困難な場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-220690号公報
【文献】特開2020-087945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、ルテニウムに対する良好なエッチングレートを維持しつつ、表面ラフネスが低減されたルテニウム含有層を得ることができる、ルテニウム含有層を洗浄又はエッチングするために用いられる薬液、及び当該薬液を用いたルテニウム配線の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、オルト過ヨウ素酸と塩基成分を含む薬液において、さらに含窒素複素環化合物、有機ホスホン酸、及び有機カルボン酸からなる群より選ばれる化合物(C)を配合することにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明の第1の態様は、オルト過ヨウ素酸(A)と、
塩基成分(B)(但し、当該塩基成分(B)は化合物(C)、pH緩衝成分(D)及び有機アミンオキシド(E)のいずれにも該当しない。)と、
含窒素複素環化合物、有機ホスホン酸、及び有機カルボン酸からなる群より選ばれる化合物(C)と、
を含む、ルテニウム含有層を洗浄又はエッチングするために用いられる薬液である。
【0009】
本発明の第2の態様は、基板上にトレンチを有する絶縁膜を形成する工程と、
上記トレンチを埋め込むように、ルテニウムを含む導電材料を用いて、ルテニウム含有層を形成する工程と、
上記ルテニウム含有層及び上記絶縁膜の各表面を平坦化する工程と、
第1の態様に係る薬液を用いて、上記平坦化された上記ルテニウム含有層の表面をエッチングすることで、リセスを形成する工程と、
を含む、ルテニウム配線の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ルテニウムに対する良好なエッチングレートを維持しつつ、表面ラフネスが低減されたルテニウム含有層を得ることができる、ルテニウム含有層を洗浄又はエッチングするために用いられる薬液、及び当該薬液を用いたルテニウム配線の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<薬液>
薬液は、オルト過ヨウ素酸(A)と、塩基成分(B)と、含窒素複素環化合物、有機ホスホン酸、及び有機カルボン酸からなる群より選ばれる化合物(C)と、を含む。
薬液は、ルテニウム含有層を洗浄又はエッチングするために用いられる。
かかる薬液を用いることで、ルテニウムに対する良好なエッチングレートを維持しつつ、表面ラフネスが低減されたルテニウム含有層を得ることができる。
【0012】
(オルト過ヨウ素酸(A))
ルテニウムは、4つの酸素原子と結合することで、四酸化ルテニウム(RuO4)に変化する。オルト過ヨウ素酸(A)(H5IO6)は、ルテニウムを酸化するための酸素原子を放出する酸化剤である。オルト過ヨウ素酸(A)の酸化還元電位は、ルテニウムを酸化するために十分に高い。このため、オルト過ヨウ素酸(A)は、ルテニウムを効率良く酸化溶解させ、エッチングできる。
【0013】
オルト過ヨウ素酸(A)の含有量は、薬液の全質量に対し、0.01~8質量%が例示され、0.02~7質量%が好ましく、0.03~5質量%がより好ましい。オルト過ヨウ素酸の含有量が上記範囲内であると、ルテニウムに対するエッチングレートがより向上する。
【0014】
(塩基成分(B))
塩基成分(B)は、薬液のpHを所望の範囲に調整する成分である。塩基成分(B)としては、有機塩基成分、及び無機塩基成分のいずれも用いることができる。
有機塩基成分としては、有機第四級アンモニウム水酸化物等の四級アンモニウム塩;アルカノールアミン;第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン等のアルカノールアミン以外のその他の有機アミン類;が好適な例として挙げられる。
なお、本塩基成分(B)は、後述する化合物(C)、pH緩衝成分(D)及び有機アミンオキシド(E)のいずれにも該当しない成分である。
【0015】
有機第四級アンモニウム水酸化物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、ビス(2-ヒドロキシエチル)ジメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチル(ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド、トリエチル(ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシドが挙げられる。
【0016】
アルカノールアミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、メチルエタノールアミン、Nメチルエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミンが挙げられる。
【0017】
その他の有機アミン類としては、例えば、ジアザビシクロウンデセンが挙げられる。
【0018】
無機塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属を含む無機化合物及びその塩が挙げられる。アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属を含む無機化合物及びその塩の具体例としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム及び水酸化セシウムが挙げられる。
【0019】
塩基成分(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種を併用してもよい。
塩基成分(B)の含有量は、薬液の全質量に対し、0.01質量%以上20質量%以下が好ましく、0.1質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0020】
(化合物(C))
化合物(C)は、含窒素複素環化合物、有機ホスホン酸、及び有機カルボン酸からなる群より選ばれる。これらの中では、ラフネス増加量が大きく低減される観点から、含窒素複素環化合物がより好ましい。
【0021】
含窒素複素環化合物とは、含窒素複素環を含む化合物である。含窒素複素環としては、例えば、トリアゾール環、イミダゾール環、ピリジン環、フェナントロリン環、テトラゾール環、ピラゾール環、ピリミジン環等が挙げられる。また、含窒素複素環化合物は、これらのいずれかの含窒素複素環からなる化合物、及びこれらのいずれかの含窒素複素環と1以上の他の環とが結合した化合物のいずれも用いることができる。
【0022】
トリアゾール環を含む化合物としては、トリアゾール類、及びベンゾトリアゾール類が挙げられる。トリアゾール類としては、例えば、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、3-アミノ-1H-1,2,4-トリアゾール、1-アセチル-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジン、1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジン、1,2,4-トリアゾロ[4,3-a]ピリジン-3(2H)-オン、3H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジン-3-オールが挙げられる。
ベンゾトリアゾール類としては、例えば、1,2,3-ベンゾトリアゾール、5-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、1-ジヒドロキシプロピルベンゾトリアゾール、2,3-ジカルボキシプロピルベンゾトリアゾール、4-ヒドロキシベンゾトリアゾール、4-カルボキシル-1H-ベンゾトリアゾール、4-カルボキシル-1H-ベンゾトリアゾールメチルエステル、4-カルボキシル-1H-ベンゾトリアゾールブチルエステル、4-カルボキシル-1H-ベンゾトリアゾールオクチルエステル、5-ヘキシルベンゾトリアゾール、[1,2,3-ベンゾトリアゾリル-1-メチル][1,2,4-トリアゾリル-1-メチル][2-エチルヘキシル]アミン、トリルトリアゾール、ナフトトリアゾール、ビス[(1-ベンゾトリアゾリル)メチル]ホスホン酸、3-アミノトリアゾールが挙げられる。
これらの中でも、1,2,3-ベンゾトリアゾール、及び5-メチル-1H-ベンゾトリアゾールが好ましい。
【0023】
イミダゾール環を含む化合物としては、イミダゾール類、及びビイミダゾール類が挙げられる。
イミダゾール類としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-イソプロピルイミダゾール、2-プロピルイミダゾール、2-ブチルイミダゾール、4-メチルイミダゾール、2、4-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-アミノイミダゾールが挙げられる。
ビイミダゾール類としては、2,2’-ビイミダゾールが挙げられる。
【0024】
ピリジン環を含む化合物としては、ピリジン類、及びビピリジル類が挙げられる。
ピリジン類としては、例えば、1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジン、1-アセチル-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジン、3-アミノピリジン、4-アミノピリジン、3-ヒドロキシピリジン、4-ヒドロキシピリジン、2-アセトアミドピリジン、4-ピロリジノピリジン、2-シアノピリジンが挙げられる。
ビピリジル類としては、例えば、2,2’-ビピリジル、2,2’-ビピリジン-4,4’-ジカルボン酸、4,4’-ジメチル-2,2’-ビピリジル、4,4’-ジ-tert-ブチル-2,2’-ビピリジル、4,4-ジノニル-2,2-ビピリジルが挙げられる。
これらの中でも、薬液の保存安定性を向上させやすい観点から、ビピリジル類が好ましく、2,2’-ビピリジル、2,2’-ビピリジン-4,4’-ジカルボン酸がより好ましい。
【0025】
フェナントロリン環を含む化合物としては、例えば、1,10-フェナントロリンが挙げられる。
【0026】
テトラゾール環を含む化合物としては、例えば、1H-テトラゾール、5-アミノ-1H-テトラゾール、5-メチル-1H-テトラゾール、5-フェニル-1H-テトラゾール、1-(2-ジアミノエチル)-5-メルカプトテトラゾールが挙げられる。
【0027】
ピラゾール環を含む化合物としては、例えば、3,5-ジメチルピラゾール、3-アミノ-5-メチルピラゾール、4-メチルピラゾール、3-アミノ-5-ヒドロキシピラゾールが挙げられる。
【0028】
ピリミジン環を含む化合物としては、例えば、ピリミジン、1,2,4-トリアゾロ[1,5-a]ピリミジン、1,3,4,6,7,8-ヘキサハイドロ-2H-ピリミド[1,2-a]ピリミジン、1,3-ジフェニル-ピリミジン-2,4,6-トリオン、1,4,5,6-テトラハイドロピリミジン、2,4,5,6-テトラアミノピリミジンサルフェイト、2,4,5-トリハイドロキシピリミジン、2,4,6-トリアミノピリミジン、2,4,6-トリクロロピリミジン、2,4,6-トリメトキシピリミジン、2,4,6-トリフェニルピリミジン、2,4-ジアミノ-6-ヒドロキシルピリミジン、2,4-ジアミノピリミジン、2-アセトアミドピリミジン、2-アミノピリミジン、2-メチル-5,7-ジフェニル-(1,2,4)トリアゾロ(1,5-a)ピリミジン、2-メチルサルファニル-5,7-ジフェニル-(1,2,4)トリアゾロ(1,5-a)ピリミジン、2-メチルサルファニル-5,7-ジフェニル-4,7-ジヒドロ-(1,2,4)トリアゾロ(1,5-a)ピリミジン、4-アミノピラゾロ[3,4-d]ピリミジン等が挙げられる。
【0029】
有機ホスホン酸は、下記式(a1)で表される化合物である。
R1-P(=O)(OH)2 ・・・(a1)
(式(a1)中、R1は脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基である。)
【0030】
式(a1)で表される有機ホスホン酸において、R1の脂肪族炭化水素基としては、炭素原子数1以上18以下の脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基としては、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。式(a1)で表される有機ホスホン酸において、R1の芳香族炭化水素基としては、炭素原子数6以上12以下の芳香族炭化水素基が好ましい。
【0031】
R1としての炭素原子数1以上18以下の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素基の好適な例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、シクロヘプチル基、n-オクチル基、シクロオクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-オクタデシル基が挙げられる。
【0032】
R1としての炭素原子数6以上12以下の芳香族炭化水素基の好適な例としては、フェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2-エチルフェニル基、3-エチルフェニル基、4-エチルフェニル基、α-ナフチル基、β-ナフチル基、ビフェニリル基が挙げられる。
【0033】
以上説明した脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基の中では、n-ブチル基、n-へキシル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、フェニル基が好ましい。
【0034】
式(a1)で表されるホスホン酸の具体例としては、n-ブチルホスホン酸、n-へキシルホスホン酸、n-オクチルホスホン酸、n-デシルホスホン酸、n-オクタデシルホスホン酸が挙げられる。
【0035】
有機カルボン酸は、飽和又は不飽和の脂肪族基を有するカルボン酸である。有機カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、n-ヘプタン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アクリル酸、オレイン酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、コハク酸、アジピン酸、クエン酸、酒石酸が挙げられる。
【0036】
化合物(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種を併用してもよい。
化合物(C)の含有量は、薬液の全質量に対し、0.001質量%以上10質量%以下が好ましく、0.001質量%以上1質量%以下がより好ましい。
【0037】
(他の成分)
薬液は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分に加えて他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、水、pH緩衝成分(D)、有機アミンオキシド(E)、界面活性剤が挙げられる。
【0038】
薬液は、溶媒として水を含むことが好ましい。水としては、蒸留水、イオン交換水、及び超純水等の浄化処理を施された水が好ましく、半導体製造に一般的に使用される超純水がより好ましい。
水の含有量は特に限定されないが、薬液の全質量に対し、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。また、上限値は、特に限定はないが、99.95質量%未満が好ましく、99.9質量%以下がより好ましい。
【0039】
pH緩衝成分(D)は、薬液のpHの急激な変化を抑制する作用を有する成分である。薬液がpH緩衝成分(D)を含むことにより、薬液を長時間攪拌した場合でも、薬液のpHが酸性側にシフトすることを抑制し、ルテニウムに対するエッチングレートの変動を抑制することができる。
【0040】
pH緩衝成分(D)としては、例えば、クエン酸塩、酢酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、硫酸塩が挙げられる。
【0041】
pH緩衝成分(D)の具体例としては、例えば、クエン酸トリアンモニウム、リン酸アンモニアウム、酢酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムが挙げられる。
【0042】
pH緩衝成分(D)は、1種を単独で用いてもよく、2種を併用してもよい。
pH緩衝成分(D)の含有量は、薬液の全質量に対し、0.001質量%以上1質量%以下が好ましく、0.01質量%以上0.8質量%以下がより好ましい。
【0043】
薬液が有機アミンオキシド(E)を含むことにより、ルテニウム含有層への薬液の濡れ性の向上が期待できる。
有機アミンオキシド(E)としては、例えば、脂肪族アミンのオキシド、環状アミンのオキシドが挙げられる。脂肪族アミンのオキシドとしては、例えば、トリメチルアミンN-オキシド、トリエチルアミンN-オキシドが挙げられる。環状アミンのオキシドとしては、例えば、N-メチルモルホリンN-オキシド、ピリジンN-オキシド、2,6-ジメチルピリジンN-オキシド、4-(ジメチルアミノ)ピリジンN-オキシドが挙げられる。
【0044】
有機アミンオキシド(E)は、1種を単独で用いてもよく、2種を併用してもよい。
有機アミンオキシド(E)の含有量は、薬液の全質量に対し、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上20質量%以下がより好ましい。
【0045】
薬液のpHは特に限定されないが、良好なエッチングレートを維持する観点から、例えば、20℃で、8以上12以下であることが好ましく、8以上11以下であることがより好ましい。
【0046】
(薬液の製造方法)
薬液は、前述したオルト過ヨウ素酸(A)、塩基成分(B)、化合物(C)、必要に応じて他の成分を公知の方法で混合して得られる。
【0047】
(用途)
薬液は、ルテニウム含有層を洗浄又はエッチングするために用いられる。より具体的には、薬液は、半導体素子の製造において、被処理体として、基板上のルテニウム含有層を洗浄又はエッチングするために用いられる。
【0048】
(被処理体)
洗浄処理又はエッチング処理の対象となる被処理体としては、例えば、基板の最表層に位置するルテニウム含有層にドライエッチング又は化学機械研磨を行った後の基板が挙げられる。
【0049】
上記ドライエッチング又は化学機械研磨が行われる基板は、ルテニウム含有層を最表層に有する。基板上にルテニウム含有層を形成する方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができ、例えば、スパッタリング等の物理気相成長(PVD:Physical Vapor Deposition)法、化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)法、及び原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition)等が挙げられる。
上記基板にドライエッチング又は化学機械研磨を行う工程としては、特に限定されないが、好ましくは、金属配線材料にルテニウムを使用し、基板上に、セミダマシン法(Semi-Damascene法)又はFSAV法により金属配線パターンを形成する工程、更にMOLのコンタクト配線を形成する工程、埋め込み電源線(Buried Power rail)を形成する工程が挙げられる。
【0050】
(洗浄処理、エッチング処理)
薬液で洗浄処理又はエッチング処理を行うには、上記被処理体のルテニウム含有層を薬液に接触させる。上記被処理体のルテニウム含有層を薬液に接触させる方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。かかる方法としては、例えば、スプレー法、浸漬法、液盛り法等が例示されるが、これらに限定されない。
スプレー法では、例えば、被処理体を所定の方向に搬送もしくは回転させ、搬送又は回転される被処理体に向けて上記薬液を噴射して、被処理体に上記薬液を接触させる。
浸漬法では、上記薬液に被処理体を浸漬して、被処理体に上記薬液を接触させる。
液盛り法では、被処理体に上記薬液を盛って、被処理体と上記薬液とを接触させる。
これらの処理方法は、被処理体の構造や材料等に応じて適宜選択することができる。スプレー法、又は液盛り法の場合、被処理体への上記薬液の供給量は、被処理体における被処理面が、上記薬液で十分に濡れる量であればよい。
【0051】
洗浄処理の具体例としては、例えば、セミダマシン法によりルテニウム含有配線を形成する際に、ルテニウム層のドライエッチング後に、ルテニウム層の表面に形成されたルテニウム残渣の洗浄処理が挙げられる。
エッチング処理の具体例としては、例えば、FSAV法によりルテニウム含有配線を形成する際に、基板上に配置されたルテニウム含有配線のリセスエッチング処理が挙げられる。「リセスエッチング処理」とは、基板上に配置されたルテニウム含有配線のエッチング処理により、基板上のルテニウム含有配線配置部分に凹部(リセス)を形成する処理(凹部を有するルテニウム含有配線を製造すること)を意味する。
【0052】
処理温度は特に限定されないが、例えば、15℃以上85℃以下が好ましく、20℃以上70℃以下がより好ましい。また、洗浄処理時間は特に限定されないが、例えば、30秒以上30分以下が好ましく、1分以上10分以下がより好ましい。
【0053】
<ルテニウム配線の製造方法>
ルテニウム配線の製造方法は、基板上にトレンチを有する絶縁膜を形成する工程と、
上記トレンチを埋め込むように、ルテニウムを含む導電材料を用いて、ルテニウム含有層を形成する工程と、
上記ルテニウム含有層及び上記絶縁膜の各表面を平坦化する工程と、
前述した薬液を用いて、上記平坦化された上記ルテニウム含有層の表面をエッチングすることで、リセスを形成する工程と、を含む。
ルテニウム配線の製造方法は、前述したFSAVを適用したルテニウム配線の製造方法である。
【0054】
(基板上にトレンチを有する絶縁膜を形成する工程)
基板としては、例えば、1つまたは複数の半導体処理層がその上に形成された半導体基板が挙げられる。絶縁膜としては、例えば、酸化膜、Low-k層が挙げられる。絶縁膜は、例えば、SiOCH、ドープ二酸化ケイ素、スピンオンポリマー(有機及びケイ素系のポリマーを含む)、多孔質酸化物等により形成することができる。トレンチは、公知のエッチング方法等により形成することができる。
【0055】
(ルテニウム含有層を形成する工程)
上記トレンチを埋め込むように、ルテニウムを含む導電材料を用いて、ルテニウム含有層が形成される。なお、上記絶縁膜及び上記トレンチの表面に、バリア層又はライナー層設けた後、ルテニウム含有層を形成することが好ましい。ルテニウム含有層の形成方法は、特に限定されず、CVD法等の公知の成膜方法を用いることができる。バリア層又はライナー層は、例えば、窒化チタン(TiN)等により形成することができる。
【0056】
(平坦化工程)
化学機械研磨等により、絶縁膜の表面が露出するまでルテニウム含有層及び上記絶縁膜を研磨して、各表面を平坦化する。
【0057】
(リセスの形成工程)
前述した薬液を用いて、上記平坦化された上記ルテニウム含有層の表面をエッチングし、所望の深さのリセスを形成する。リセスの深さは、特に限定されないが、例えば、1~20nmとすることができる。これにより、ルテニウム含有層により、ルテニウム配線を形成することができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0059】
[実施例1~23及び比較例1]
(薬液の調製)
水に、オルト過ヨウ素酸(A)、下記化合物(C)、下記pH緩衝成分(D)、及び下記有機アミンオキシド(E)を下記表1に記載の含有量で均一に混合して、さらに下記塩基成分(B)を添加して、pHを9~9.5に調整した実施例1~23及び比較例1の薬液を調製した。
塩基成分(B)として、下記B1を用いた。
B1:アンモニア
化合物(C)として、下記C1~C8を用いた。
C1:1,2,3-ベンゾトリアゾール
C2:5-メチル-1H-ベンゾトリアゾール
C3:2,2’-ビピリジル
C4:2,2’-ビピリジン-4,4’-ジカルボン酸
C5:1,2,4-トリアゾール
C6:n-ブチルホスホン酸
C7:n-オクチルホスホン酸
C8:n-ヘプタン酸
pH緩衝成分(D)として、下記D1~D3を用いた。
D1:クエン酸トリアンモニウム
D2:酢酸アンモニウム
D3:硫酸アンモニウム
有機アミンオキシド(E)として、下記E1を用いた。
E1:N-メチルモルホリンN-オキシド
【0060】
(試験基板の作製)
CVD法により成膜したCVD-Ru基板(Ruの膜厚:30nm)を2cm×2cm角に切断し、試験基板を作製した。
【0061】
(エッチングレートの測定)
実施例1~23及び比較例1の薬液をビーカーに入れ、各試験基板を各薬液に浸漬させ、各薬液を300rpmで攪拌しながら、23℃で、5分間薬液処理を行った。上記薬液処理後の各基板を水洗し、窒素気流により乾燥した。
上記薬液処理後の試験基板について、蛍光X線分析によりRuの膜厚を測定した。上記薬液処理前の試験基板についても、Ruの膜厚を求めた。薬液処理前後のRuの膜厚から、Ruのエッチングレート(Å/min)を算出した。結果を、「ER」として表1に示す。
【0062】
(ラフネス増加量の測定)
実施例1~23及び比較例1の薬液をビーカーに入れ、各試験基板を各薬液に浸漬させ、各薬液を300rpmで攪拌しながら、23℃で薬液処理を行った。処理時間については、上記エッチングレートの測定で得られた各薬液のエッチングレートから、Ru膜のエッチング量が10nmになるように、各薬液の処理時間を設定した。上記薬液処理後の各基板を水洗し、窒素気流により乾燥した。
上記薬液処理前後の試験基板の表面を、AFM(原子間力顕微鏡:Bruker社製 Dimension Icon)により観察し(測定面積:2μm×2μm)、1μm角あたりの二乗平均平方根粗さ(表面ラフネス)Rq(nm)を求めた。下記式により、試験基板の薬液処理によるラフネス増加量を算出し、以下の基準で評価した。これを、「ラフネス増加量」として、表1に示す。
ラフネス増加量(X)=薬液処理後のRq(nm)-薬液処理前のRq(nm)
評価基準
A:X≦0.5nm
B:0.5nm<X≦1.0nm
C:1.0nm<X
【0063】
(攪拌によるレート変動の測定)
実施例1~23及び比較例1の薬液をビーカーに入れ、各薬液を23℃で3時間、300rpmで攪拌した。攪拌前後の薬液のpHを測定した。
各試験基板を上記攪拌後の各薬液に浸漬させ、各薬液を300rpmで攪拌しながら、23℃で、5分間薬液処理を行った。上記薬液処理後の各基板を水洗し、窒素気流により乾燥した。上記薬液処理後の試験基板について、蛍光X線分析によりRuの膜厚を測定した。上記薬液処理前の試験基板についても、Ruの膜厚を求めた。薬液処理前後のRuの膜厚から、Ruのエッチングレート(Å/min)を算出した。
各薬液の安定性を、以下の基準で評価した。これを「攪拌レート変動」として、表1に示す。
A:エッチングレートの変動が10%未満である。
B:エッチングレートの変動が10%以上20%未満である。
C:エッチングレートの変動が20%以上である。
【0064】
(Shelf life(貯蔵寿命)の測定)
実施例1~23及び比較例1の薬液を100mlのPFA製のボトルに入れ、30日間室温で放置した後に、該薬液をビーカーに入れ、各試験基板を各薬液に浸漬させ、各薬液を300rpmで攪拌しながら、23℃で、5分間薬液処理を行った。上記薬液処理後の各基板を水洗し、窒素気流により乾燥した。
上記薬液処理後の試験基板について、蛍光X線分析によりRuの膜厚を測定した。上記薬液処理前の試験基板についても、Ruの膜厚を求めた。薬液処理前後のRuの膜厚から、Ruのエッチングレート(Å/min)を算出した。
各薬液の安定性を、以下の基準で評価した。これを「Shelf life」として、表1に示す。
A:エッチングレートの変動が10%未満である。
B:エッチングレートの変動が10%以上20%未満である。
C:エッチングレートの変動が20%以上である。
【0065】
【0066】
表1から、化合物(C)を配合した実施例1~8の薬液では、化合物(C)を配合しない比較例1の薬液と比較して、ラフネス増加量が抑制されることが分かる。また、実施例1~8の薬液では、エッチングレートも良好であった。
さらにpH緩衝成分(D)を配合すると、実施例9~18に示されるように、攪拌時におけるレート変動が抑制されることが分かる。