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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】漏洩判定装置及びそのプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04B 17/29 20150101AFI20241219BHJP
   H04B 17/354 20150101ALI20241219BHJP
   H04B 1/18 20060101ALI20241219BHJP
   G01R 29/08 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
H04B17/29 300
H04B17/354
H04B1/18 G
G01R29/08 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021040107
(22)【出願日】2021-03-12
(65)【公開番号】P2022139630
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2024-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅内 哲也
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 充志
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-095825(JP,A)
【文献】特開2015-103910(JP,A)
【文献】特開2020-101475(JP,A)
【文献】特開2017-195431(JP,A)
【文献】特開2019-39843(JP,A)
【文献】特開2014-64139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 17/29
H04B 17/354
H04B 1/18
G01R 29/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
右旋IF信号の測定電力が入力され、入力された前記測定電力に基づいて、左旋IF信号が受信設備から漏洩しているかを判定する漏洩判定装置であって、
複数のチャンネルにおいて、前記測定電力が予め設定された第1閾値以下、かつ、前記第1閾値より小さな値で予め設定された第2閾値以上であるか否かを判定する測定電力判定手段と、
前記複数のチャンネルでキャリア対雑音比が予め設定された第3閾値以上であるか否かを判定するキャリア対雑音比判定手段と、
前記測定電力判定手段において、前記複数のチャンネルで前記測定電力が前記第1閾値以下で前記第2閾値以上と判定され、かつ、前記キャリア対雑音比判定手段において、前記キャリア対雑音比が前記第3閾値以上と判定された場合、前記左旋IF信号が漏洩していると判定する漏洩判定手段と、
を備えることを特徴とする漏洩判定装置。
【請求項2】
前記右旋IF信号の測定位置を示す位置情報が入力され、入力された前記位置情報と前記漏洩判定手段の判定結果とを対応付けて出力する漏洩位置出力手段、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の漏洩判定装置。
【請求項3】
前記第1閾値は、前記受信設備から前記漏洩判定装置までの距離における前記測定電力の最大値に基づいて予め設定され、
前記第2閾値は、前記受信設備から前記漏洩判定装置までの距離における雑音レベルに基づいて予め設定されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の漏洩判定装置。
【請求項4】
移動手段に搭載されることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の漏洩判定装置。
【請求項5】
コンピュータを、請求項1から請求項4の何れか一項に記載の漏洩判定装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左旋IF信号の漏洩を判定する漏洩判定装置及びそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
4K/8Kスーパーハイビジョンの衛星放送の開始に伴い、従来の右旋円偏波の帯域に加え、新たに左旋円偏波の帯域が追加された。衛星放送には12GHz帯の電波が割り当てられており、パラボラアンテナで受信された電波は、IF(Intermediate Frequency:中間周波数)信号に変換される。従来の右旋円偏波の帯域は、1.0~2.1GHzのIF信号(右旋IF信号)に周波数変換され、受信機へと入力される。また、新たに追加された左旋円偏波の帯域は、2.2~3.3GHzのIF信号(左旋IF信号)に周波数変換され、受信機へと入力される。
【0003】
周波数変換された左旋IF信号における2.2~3.3GHzの帯域は、以前より通信事業者等に割り当てられている。このことから、ブースタ等の受信設備の不備により左旋IF信号が漏洩することで、通信事業者等のサービスに妨害を与えることが懸念される。このため、左旋IF信号の漏洩防止については、無線設備規則第24条第30項に基準が設けられている。
【0004】
受信設備から漏洩した左旋IF信号は微弱であり、衛星放送の変調波は広帯域である。従来の測定器を用いて広帯域の信号の電力を測定しても、内部雑音等の影響を受けることから、微弱な信号の測定性能には限界がある。このため、従来の測定器を用いても、受信設備が左旋IF信号の漏洩基準を満たしているか否かを簡易に判断することは困難である。
【0005】
そこで、漏洩した微弱な左旋IF信号を測定するため、衛星放送の受信設備から取得した基準IF信号と、受信設備から漏洩したIF信号(漏洩IF信号)とを混合し、広帯域の信号を狭帯域の信号に変換する手法が提案されている(特許文献1,2)。この手法によれば、従来の測定器を用いて、受信設備が左旋IF信号の漏洩基準を満たしているか否かを判断できる。
この他、従来の放送信号において、電界強度を自動測定する手法も提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-39843号公報
【文献】特開2020-101475号公報
【文献】特開2006-33173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
左旋IF信号の漏洩は、発生場所と発生時期を事前に把握することが不可能であり、漏洩を把握するために広範囲な調査が必要となる。広範囲な調査を実現するためには車載等による自動測定が望ましいが、特許文献1,2に記載の従来技術では実現が難しいという問題がある。具体的には、前記した従来技術では、微弱な左旋IF信号を測定可能とするため、基準IF信号と漏洩IF信号の位相を調整し、広帯域の信号から狭帯域の信号に変換している。車載走行による自動測定の場合、前記した従来技術では、位相情報が時々刻々と変化するため、位相調整が追従できず、自動測定が困難である。
【0008】
また、屋外における自動測定では、漏洩発生場所から測定アンテナまでの距離が数メートルから数十メートルになることが想定される。この場合、特許文献1,2に記載の従来技術では、漏洩した左旋IF信号が微弱になるため、この左旋IF信号を直接測定することが困難であると考えられる。
【0009】
また、特許文献3に記載の従来技術では、右旋IF信号及び左旋IF信号の帯域に他の無線信号や雑音が存在するため、電界強度の測定結果だけで左旋IF信号の漏洩かどうかを判別できず、正確性に欠ける。
【0010】
そこで、本発明は、様々な場所で左旋IF信号の漏洩を正確に判定できる漏洩判定装置及びそのプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明に係る漏洩判定装置は、右旋IF信号の測定電力が入力され、入力された測定電力に基づいて、左旋IF信号が受信設備から漏洩しているかを判定する漏洩判定装置であって、測定電力判定手段と、キャリア対雑音比判定手段と、漏洩判定手段と、を備える構成とした。
【0012】
かかる構成によれば、測定電力判定手段は、複数のチャンネルにおいて、測定電力が予め設定された第1閾値以下、かつ、第1閾値より小さな値で予め設定された第2閾値以上であるか否かを判定する。
キャリア対雑音比判定手段は、隣接するチャンネルのガードバンド帯域を雑音とみなし、複数のチャンネルでキャリア対雑音比が予め設定された第3閾値以上であるか否かを判定する。
漏洩判定手段は、測定電力判定手段において、複数のチャンネルで測定電力が第1閾値以下で第2閾値以上と判定され、かつ、キャリア対雑音比判定手段において、キャリア対雑音比が第3閾値以上と判定された場合、左旋IF信号が漏洩していると判定する。
【0013】
すなわち、測定電力判定手段は、微弱な左旋IF信号の漏洩を直接測定するのではなく、漏洩IF信号が備えている幾つかの特徴を利用した閾値判定により、様々な場所で左旋IF信号の漏洩を正確に判定できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、様々な場所で左旋IF信号の漏洩を正確に判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態において、左旋IF信号及び右旋IF信号の漏洩電力を説明する説明図である。
図2】実施形態において、受信設備からの漏洩電力を説明する説明図である。
図3】実施形態において、漏洩IF信号と雑音との関係を説明する説明図である。
図4】実施形態において、漏洩IF信号と他の無線信号との関係を説明する説明図である。
図5】実施形態において、C/Nの測定を説明する説明図である。
図6】実施形態に係る漏洩判定システムの概略図である。
図7】実施形態に係る漏洩判定装置の構成を示すブロック図である。
図8】実施形態において、漏洩箇所の地図表示を説明する説明図である。
図9】実施形態に係る漏洩判定装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施形態について図面を参照して説明する。但し、以下に説明する実施形態は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本発明を以下のものに限定しない。また、同一の手段には同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0017】
[漏洩IF信号の特徴]
本願発明者らは、漏洩IF信号が備えている幾つかの特徴に着目し、微弱な左旋IF信号の漏洩を正確に判定できることを見出した。そこで、漏洩判定システム1(図2)を説明する前に、これらの特徴について説明する。
【0018】
漏洩IF信号が備えている1つ目の特徴は、左旋IF信号より右旋IF信号の方が、漏洩電力が大きい点である(以下、「特徴1」)。漏洩が懸念される受信設備の1つに、主にデジタル放送開始前に販売されていた直付けタイプのブースタがある。この直付けタイプのブースタは、1330MHzまでに対応し、接栓を用いずに同軸ケーブルを剥離してネジ等で機器に接続するものである。
【0019】
この直付けタイプのブースタから漏洩される電力について、測定結果の一例を図1に図示した(参考文献1)。図1では、実線がブースタからの漏洩電力、破線が基準値、一点鎖線がノイズを表す。図1に示すように、左旋IF信号の2.2~3.3GHzでは、漏洩電力が基準値をわずかに超える程度である。その一方、右旋IF信号の1.0~2.1GHzでは、漏洩電力が基準値よりも20dBほど大きくなる。よって、微弱な左旋IF信号の漏洩電力を測定するのではなく、微弱でない右旋IF信号の漏洩電力を測定することで、左旋IF信号が漏洩しているか否かを判定する。
【0020】
参考文献1:情報通信審議会 情報通信技術分科会 放送システム委員会 報告(案) 資料59-2、[online],[令和3年2月24日検索],インターネット<URL:https://www.soumu.go.jp/main_content/000488640.pdf>
【0021】
2つ目の特徴は、受信設備から漏洩する電力に上限がある点である(以下、「特徴2」)。図2に示すように、基準値を超える漏洩を発生させる受信設備としては、主に直付けタイプのブースタ90が考えられる。図2では、受診設備としてのブースタ90及びアンテナ91と、後記する漏洩判定システム1とを図示した。
【0022】
ブースタ90の入出力レベルには限界があり、漏洩する電力にも限界がある。参考文献1では、ブースタ90が定格の出力レベルとなるように設定しており、その電界強度Eは以下の式(1)で表される。なお、式(1)では、Pが漏洩電力、dがブースタ90からアンテナ2までの距離、Vが端子電圧、Gが受信アンテナ利得、Gがブースタ利得、Lが自由空間伝搬損失、Lがケーブル伝搬損失である。また、Pが測定電力であり、P=V-108.8となる。
【0023】
【数1】
【0024】
ここで、右旋IF信号の漏洩電力が基準値を20dB上回る場合、左旋IF信号の漏洩電力が基準値を超えたと推定できる(図1参照)。また、右旋IF信号の漏洩電力が基準値を20dB上回る状態から大きく低下した場合、左旋IF信号の漏洩電力が基準値を超えていないと推定できる。
【0025】
右旋IF信号の漏洩において、基準値を20dB上回る漏洩電力が、さらに極端に大きくなることは考えにくい。極端に大きな漏洩電力が測定された場合、その原因は、漏洩IF信号ではなく、雑音(図3)や他の無線信号(図4)であると考えられる。図3の例では、一点鎖線で図示したフィールドノイズのレベルが、実線で図示した漏洩IF信号のレベルを超えている。ここで、破線は、漏洩判定システム1のノイズを示す。また、図4の例では、他の無線信号αが混入し、そのレベルが漏洩IF信号(実線)のレベルを超えている。
【0026】
3つ目の特徴は、漏洩IF信号は、複数のチャンネル(例えば、BS-5ch、BS-7ch、BS-9ch…)で確認できる点である(以下、「特徴3」)。1つのチャンネルだけで漏洩IF信号と思われる電力が測定されたとしても、漏洩IF信号の帯域に他の無線信号や雑音が存在するため、漏洩IF信号と断定することが難しい。しかし、図5に示すように、漏洩IF信号が複数のチャンネルで発生するため、各チャンネルで漏洩電力を測定することで(符号β参照)、他の無線信号や雑音と漏洩IF信号とを切り分けることができる。
【0027】
4つ目の特徴は、チャンネル間にガードバンド帯域があり、キャリア対雑音比(C/N)の測定が可能な点である。複数のチャンネルで漏洩IF信号を測定しても、広帯域にわたってフィールドノイズが高い場合、漏洩IF信号とフィールドノイズとの区別が困難である。そこで、図5に示すように、C/Nを測定することで(符号γ参照)、漏洩IF信号であるか否かを判定できる。
【0028】
第1実施形態に係る漏洩判定システム1は、以上4つの特徴を踏まえた閾値判定により、様々な場所で左旋IF信号の漏洩を正確に判定できる。
【0029】
[漏洩判定システムの構成]
図6を参照し、漏洩判定システム1の構成について説明する。
漏洩判定システム1は、左旋IF信号がブースタ90(図2)から漏洩しているかを判定するものである。図6に示すように、漏洩判定システム1は、アンテナ2と、ブースタ3と、電源4と、測定器5と、漏洩判定装置6と、GPS(Global Positioning System)アンテナ7とを備える。
【0030】
本実施形態では、漏洩判定システム1が自動車Cに搭載されていることとして説明するが、これに限定されない。例えば、漏洩判定システム1を搭載可能な移動手段としては、自動車Cの他、オートバイやドローンがあげられる。
【0031】
アンテナ2は、右旋IF信号の漏洩電力を測定するための一般的なものである。例えば、アンテナ2は、1.2GHz帯の右旋IF信号を受信する八木アンテナであり、受信した信号をブースタ3に出力する。
ブースタ3は、アンテナ2から入力された信号を増幅する一般的なものである。このブースタ3は、電源4を介して、増幅した信号を測定器5に出力する。
【0032】
電源4は、ブースタ3に電力を供給する一般的なものである。
測定器5は、ブースタ3より入力された信号から電力を測定する一般的なものである。この測定器5は、測定した電力を漏洩判定装置6に出力する。
【0033】
漏洩判定装置6は、測定器5から右旋IF信号の測定電力が入力され、入力された測定電力に基づいて、左旋IF信号がブースタ90から漏洩しているかを判定するものである。そして、漏洩判定装置6は、左旋IF信号が漏洩している位置を地図上に表示する。
【0034】
GPSアンテナ7は、GPS信号を受信する一般的なものである。このGPSアンテナ7は、受信したGPS信号を漏洩判定装置6に出力する。
本実施形態では、漏洩判定システム1がGPS信号を用いることとして説明するが、これに限定されない。例えば、漏洩判定システム1では、GLONASS、Galileo又は準天頂衛星等のGNSS(Global Navigation Satellite System)を利用してもよい。
【0035】
[漏洩判定装置の構成]
図7を参照し、漏洩判定装置6の構成について説明する。
図7に示すように、漏洩判定装置6は、測定電力判定手段60と、C/N判定手段(キャリア対雑音比判定手段)61と、漏洩判定手段62と、位置計測手段63と、漏洩位置出力手段64と、ディスプレイ65とを備える。
【0036】
測定電力判定手段60は、複数のチャンネルにおいて、測定器5から入力された測定電力が予め設定された第1閾値以下、かつ、第1閾値より小さな値で予め設定された第2閾値以上であるか否かを判定するものである。そして、測定電力判定手段60は、その判定結果を漏洩判定手段62に出力する。なお、第1閾値及び第2閾値の設定については、その詳細を後記する。
【0037】
C/N判定手段61は、隣接するチャンネルのガードバンド帯域を雑音とみなし、複数のチャンネルでC/Nが予め設定された第3閾値以上であるか否かを判定するものである。本実施形態では、C/N判定手段61は、測定器5から入力された測定電力を用いて、C/Nを判定する。また、この第3閾値は、経験則により手動で設定すればよい(例えば、9dB)。そして、C/N判定手段61は、その判定結果を漏洩判定手段62に出力する。
【0038】
漏洩判定手段62は、測定電力判定手段60において、複数のチャンネルで測定電力が第1閾値以下で第2閾値以上と判定され、かつ、C/N判定手段61において、C/Nが第3閾値以上と判定された場合、左旋IF信号が漏洩していると判定するものである。つまり、漏洩判定手段62は、測定電力判定手段60及びC/N判定手段61の両方から入力された判定結果に基づいて、左旋IF信号が漏洩しているか否かを判定する。そして、漏洩判定手段62は、その判定結果を漏洩位置出力手段64に出力する。
【0039】
位置計測手段63は、GPSアンテナ7から入力されたGPS信号を用いて、右旋IF信号の測定位置を計測するものである。つまり、位置計測手段63は、一般的なGPSレシーバと同様、GPSアンテナ7からのGPS信号を漏洩判定装置6の位置情報に変換する。そして、位置計測手段63は、右旋IF信号の測定位置を示す位置情報を漏洩位置出力手段64に出力する。
【0040】
漏洩位置出力手段64は、位置計測手段63から位置情報が入力され、入力された位置情報と漏洩判定手段の判定結果とを対応付けて出力するものである。本実施形態では、漏洩位置出力手段64は、図8に示すように、漏洩判定手段62で左旋IF信号が漏洩していると判定された位置をディスプレイ65に表示する。図8の例では、漏洩位置出力手段64は、左旋IF信号が漏洩している位置のマーカMを地図上にプロットしている。
【0041】
なお、左旋IF信号が漏洩している位置の出力方法は、特に制限されない。例えば、漏洩位置出力手段64は、左旋IF信号が漏洩している位置をファイルやプリンタで出力してもよく、その位置をデータ送信してもよい。
【0042】
以上より、漏洩判定装置6は、例えば、約30メートルの範囲内において、ブースタ90からの左旋IF信号の漏洩を正確に判定できる。
【0043】
<第1閾値及び第2閾値の設定>
以下、第1閾値及び第2閾値の設定について説明する。
第1閾値は、雑音や他の無線信号でないことを判定するための閾値である。左旋IF信号を漏洩させる屋内のブースタ90と車載された漏洩判定装置6との距離は、最低でも5メートル以上と想定される。この場合、漏洩した右旋IF信号の電力は、基準値よりも最大で+20dB程度である(参考文献1)。従って、漏洩した右旋IF信号の電力は、最大で-29.1dBmである。この最大電力を5メートル離れた場所で受信する場合、その地点の電界強度Eは、式(7)より、61.7dBμV/mとなる。つまり、漏洩した右旋IF信号の電界強度Eはこの最大値以上とならず、この最大値以上の電界強度Eが測定された場合、漏洩IF信号でないと考えらえれる。
【0044】
前記した式(7)に示すように、電界強度Eを測定電力Pに変換する際、アンテナ利得G、ブースタ利得G及びケーブル伝搬損失Lの影響を受けるため、測定電力Pの最大値は一意に定まらない。例えば、電界強度Eの最大値が61.7dBμV/mの場合、測定電力Pの最大値は-29.3dBm(79.5dBμV)となる。従って、第1閾値は、ブースタ90から漏洩判定装置6までの距離における測定電力Pの最大値に基づいて設定すればよく、例えば、79.5dBμVとなる。
【0045】
第2閾値は、雑音レベル以上であることを判定するための閾値であり、第1閾値より小さな値となる。ブースタ90と車載された漏洩判定装置6との距離が遠くなる程、測定電力も低くなる。例えば、40メートルの距離で受信する場合、その地点の測定電力は、-47.4dBm(61.4dBμV)のように雑音とほぼ変わらないレベルとなり、測定された電力がブースタ90からの漏洩なのか雑音なのかを判定できないことを示す。つまり、この値未満を雑音と判定し、この値以上を右旋IF信号の漏洩と考えることで正確な判定ができる。従って、第2閾値は、ブースタ90から漏洩判定装置6までの距離における雑音レベルに基づいて設定すればよく、例えば、61.4dBμVとなる。
【0046】
[漏洩判定装置の動作]
図9を参照し、漏洩判定装置6の動作について説明する。
図9に示すように、ステップS1において、漏洩判定装置6は、測定器5から右旋IF信号の測定電力が入力される。
【0047】
ステップS2において、測定電力判定手段60は、測定対象の各チャンネル(例えば、BS-5ch、BS-7ch、BS-9ch…)について、測定電力が第1閾値以下であるか否かを判定する。つまり、測定電力判定手段60は、右旋IF信号の漏洩か、又は、雑音や他の無線信号であるかを判定する。
【0048】
測定電力が第1閾値以下の場合(ステップS2でYes)、測定電力判定手段60は、右旋IF信号の漏洩と判定し、ステップS3の処理に進む。
測定電力が第1閾値を超える場合(ステップS2でNo)、測定電力判定手段60は、雑音や他の無線信号と判定し、ステップS8の処理に進む。
【0049】
ステップS3において、測定電力判定手段60は、測定対象の各チャンネルについて、測定電力が第2閾値以上であるか否かを判定する。つまり、測定電力判定手段60は、測定電力が雑音でないかを判定する。なお、ステップS2及びステップS3の処理は、前記した特徴1,2に対応したものである。
【0050】
測定電力が第2閾値以上の場合(ステップS3でYes)、測定電力判定手段60は、雑音でないと判定し、ステップS4の処理に進む。
測定電力が第2閾値未満の場合(ステップS3でNo)、測定電力判定手段60は、雑音と判定し、ステップS8の処理に進む。
【0051】
ステップS4において、測定電力判定手段60は、判定対象となる複数のチャンネルにおいて、ステップS2及びステップS3の両方がYesであるか否かを判定する。なお、ステップS4の処理は、前記した特徴3に対応したものである。
【0052】
ここで、ステップS4における判定対象のチャンネルは、複数であれば特に制限されない。例えば、全てのチャンネルを判定対象としてもよく、隣接するチャンネル同士を判定対象としてもよい。また、2以上の任意のチャンネルを判定対象としてもよい。
【0053】
複数のチャンネルにおいて、ステップS2及びステップS3の両方がYesの場合(ステップS4でYes)、測定電力判定手段60は、ステップS5の処理に進む。
複数のチャンネルにおいて、ステップS2及びステップS3の少なくとも一方がNoの場合(ステップS4でNo)、測定電力判定手段60は、ステップS8の処理に進む。
【0054】
ステップS5において、C/N判定手段61は、隣接するチャンネルのガードバンド帯域を雑音とみなし、複数のチャンネルでC/Nが第3閾値以上であるか否かを判定する。例えば、C/N判定手段61は、隣接するBS-5ch及びBS-7chの境界となる周波数を雑音とみなし、隣接するBS-5ch及びBS-7chをキャリアとみなすことで各チャンネルのC/Nを求め、このC/Nが第3閾値以上であるか否かを判定する。なお、ステップS5の処理は、前記した特徴4に対応したものである。
【0055】
判定対象のチャンネルの全てにおいて、C/Nが第3閾値以上の場合(ステップS5でYes)、C/N判定手段61は、フィールドノイズでないと判定し、ステップS6の処理に進む。
判定対象のチャンネルの何れ一つにおいて、C/Nが第3閾値未満の場合(ステップS5でYes)、C/N判定手段61は、フィールドノイズと判定し、ステップS8の処理に進む。
【0056】
ここで、ステップS6の処理に到達した場合、測定電力判定手段60において、複数のチャンネルで測定電力が第1閾値以下で第2閾値以上と判定され、かつ、C/N判定手段61において、C/Nが第3閾値以上と判定されたといえる。つまり、ステップS6の処理に到達した場合、ステップS2~S5の全ての判定結果がYesであったといえる。このため、ステップS6において、漏洩判定手段62は、左旋IF信号が漏洩していると判定し、ステップS7の処理に進む。
【0057】
ステップS7において、位置計測手段63は、GPSアンテナ7から入力されたGPS信号を用いて、右旋IF信号の測定位置を計測する。そして、漏洩位置出力手段64は、ステップS6で左旋IF信号が漏洩していると判定された位置をディスプレイ65に表示し、処理を終了する。
【0058】
ここで、ステップS8の処理に到達した場合、測定電力判定手段60において、何れかのチャンネルで測定電力が第1閾値以下で第2閾値以上と判定されなかったか、又は、C/N判定手段61において、C/Nが第3閾値以上と判定されなかったかといえる。つまり、ステップS8の処理に到達した場合、ステップS2~S5の何れかの判定結果がNoであったといえる。このため、ステップS8において、漏洩判定手段62は、左旋IF信号が漏洩していないと判定し、処理を終了する。
【0059】
[作用・効果]
以上のように、実施形態に係る漏洩判定装置6は、微弱な左旋IF信号の漏洩を直接測定するのではなく、漏洩IF信号が備えている特徴1~4を利用した閾値処理により、右旋IF信号の測定電力から様々な場所で左旋IF信号の漏洩を判定できる。
【0060】
つまり、受信設備が左旋IF帯域に未対応の場合(例えば、受信設備が古い場合)、衛星放送の左旋電波を受信していないため、漏洩した右旋IF信号の測定電力が左旋IF信号の基準値を超えることがない。例えば、衛星放送を受信するためのパラボラアンテナが経年劣化等により故障し、パラボラアンテナのみを左旋IF信号に対応させた場合、左旋IF信号の基準値を超える可能性が高くなる。なお、現在市販されているパラボラアンテナは、ほぼ左旋IF信号に対応している。従って、漏洩判定装置6は、将来的に発生する可能性がある「左旋IF信号の基準値超え」の受信設備を正確に判定できる。その結果、このような受信設備に対し、事前に機器交換等の漏洩防止対策を実施できるので、左旋IF信号の漏洩を未然に防ぐことができる。
【0061】
(変形例)
以上、本発明の実施形態を詳述してきたが、本発明は前記した各実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
前記した実施形態では、ブースタから左旋IF信号が漏洩することとして説明したが、漏洩IF信号の測定対象となる受信設備はこれに限定されない。
【0062】
前記した実施形態では、漏洩判定装置を独立したハードウェアとして説明したが、本発明は、これに限定されない。例えば、本発明は、コンピュータが備えるCPU、メモリ、ハードディスク等のハードウェア資源を、前記した漏洩判定装置として動作させる動体追尾プログラムで実現することもできる。これらのプログラムは、通信回線を介して配布してもよく、CD-ROMやフラッシュメモリ等の記録媒体に書き込んで配布してもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 漏洩判定システム
2 アンテナ
3 ブースタ
4 電源
5 測定器
6 漏洩判定装置
7 GPSアンテナ
60 測定電力判定手段
61 C/N判定手段(キャリア対雑音比判定手段)
62 漏洩判定手段
63 位置計測手段
64 漏洩位置出力手段
65 ディスプレイ
図1
図2
図3
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図5
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図7
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図9