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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】複合体の製造方法、複合体及び金属部材
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/68 20060101AFI20241219BHJP
   B29C 43/20 20060101ALI20241219BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20241219BHJP
   B29C 65/20 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B29C70/68
B29C43/20
B29C43/34
B29C65/20
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021554943
(86)(22)【出願日】2020-11-04
(86)【国際出願番号】 JP2020041144
(87)【国際公開番号】W WO2021090820
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2023-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2019200762
(32)【優先日】2019-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 敬裕
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/132042(WO,A1)
【文献】特開2019-150990(JP,A)
【文献】国際公開第2018/124215(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/116879(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/68
B29C 43/20
B29C 43/34
B29C 65/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化熱可塑性プラスチック成形体と金属部材とを貼り合わせて複合化した複合体の製造方法であって、
次の(1)~(3)の工程;
(1)マトリックス樹脂としてフェノキシ樹脂を含む繊維強化熱可塑性プラスチック成形体(A)を準備する工程;
(2)表面に150℃における溶融粘度が50000Pa・s以下である熱可塑性樹脂の皮膜(B)を有する金属部材(C)を準備する工程;
(3)前記繊維強化熱可塑性プラスチック成形体(A)を前記金属部材(C)に積層し、プレス成形を行う工程;
を含み、
前記皮膜(B)を構成する熱可塑性樹脂が、融点が180℃以下のポリエステル系エラストマーを含む熱可塑性樹脂であり、前記工程(3)におけるプレス成形温度が70~140℃の範囲内であることを特徴とする複合体の製造方法。
【請求項2】
前記皮膜(B)を構成する熱可塑性樹脂が、ガラス転移点が120℃以下のフェノキシ樹脂を含む熱可塑性樹脂であり、前記工程(3)におけるプレス成形温度が100~150℃の範囲内である請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項3】
前記金属部材(C)が鉄鋼部材である請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項4】
前記繊維強化熱可塑性プラスチック成形体(A)が、炭素繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイド繊維、ガラス繊維及びアラミド繊維の中の1つもしくは2つ以上の強化繊維基材を含む請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項5】
繊維強化熱可塑性プラスチック成形体(A)と金属部材(C)とが熱可塑性樹脂層(b)を介して複合化されている複合体であって、
前記熱可塑性樹脂層(b)を構成する熱可塑性樹脂が、150℃における溶融粘度が50000Pa・s以下であるとともに、融点が180℃以下のポリエステル系エラストマーを含む熱可塑性樹脂であることを特徴とする複合体。
【請求項6】
前記繊維強化熱可塑性プラスチック成形体(A)による繊維強化熱可塑性プラスチック層(a)の少なくとも片面に、前記熱可塑性樹脂層(b)が隣接し、
前記熱可塑性樹脂層(b)の前記繊維強化熱可塑性プラスチック層(a)に接していない面に前記金属部材(C)による金属層(c)が隣接している請求項5に記載の複合体。
【請求項7】
繊維強化熱可塑性プラスチック成形体とプレス成形により貼り合わせて複合化するために用いられる金属部材であって、
表面に150℃における溶融粘度が50000Pa・s以下である熱可塑性樹脂の皮膜を有するとともに、前記皮膜を構成する熱可塑性樹脂が、150℃における溶融粘度が50000Pa・s以下であるとともに、融点が180℃以下のポリエステル系エラストマーを含む熱可塑性樹脂であることを特徴とする金属部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化熱可塑性プラスチック(FRTP)成形体と金属部材とを貼り合わせて複合化した複合体の製造方法、複合体、及び、それに用いる金属部材に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチック材料(FRP)は軽量で高強度な材料として釣竿やテニスラケット、スポーツサイクルや自動車、風力発電機のブレード、航空機にまで幅広く使用されている材料である。特に自動車産業においては、繊維強化プラスチック材料の採用により、車体の軽量化を図り、燃費や走行性能を向上させる積極的な検討が進められている。
【0003】
しかし、FRP単体でこのような分野に利用されることは稀である。少なくとも、FRP部材と金属部材を接合して組み立てていく必要があり、更には両者を一体化して双方の特徴を生かす部材設計が検討されている。
【0004】
常温で両者を接合する方法としては、従来から広く検討されている方法としてリベットやボルトを使用する機械締結がある。しかし、本方法に必須である貫通孔は、部材に荷重が加わった際の応力集中点となるため、FRPの脆さが強調されてしまうことから好ましくない。
【0005】
常温で接合する別の方法として、構造用接着剤を使用する方法も広く検討されている。特許文献1では、金属側を粗化することにより接合強度を高める方法が提案されている。本方法によって、接合強度のバラつきなどが低減された接合体を作成することが出来るが、粗化工程の操作が煩雑であるため好ましくない。特許文献1の方法では化学薬品により粗面を形成したが、特許文献2では、レーザーを用いて金属側を粗化し、FRPを熱圧着する方法が提案されている。特許文献2の方法は、熱可塑性樹脂を熱変形温度(ISO75、荷重1.8MPa)より50℃高い温度まで加熱する必要があり、接着温度が高くなってしまう。
【0006】
金属粗化面に対してFRPを接合する方法として、射出成形を利用する方法も特許文献3などに提案されている。特許文献3の方法は、射出成形によって簡便にFRPを接合することが可能であるが、自動車産業のような大きな部材を組み立てることを考慮すると好ましい方法ではない。また、特許文献3の方法で利用できるFRPは短繊維で強化されたものに限定される。短繊維で強化したFRPは長繊維で強化したものと比較して機械物性が劣り、複合化の効果が最大限に発揮できないため好ましくない。
【0007】
金属同士を接合する方法として溶接があるが、FRPと金属を溶接で接合する方法も検討されている。例えば、押圧部を回転させながら押し当て、発生した摩擦熱で部材を接合する方法が特許文献4などに提案されている。特許文献4の方法では、溶接のように簡便に両者を接合することが可能であるが、金属同士のように接合面が一体化するわけではないので接合強度に不安が残る。
【0008】
FRPと金属部材の直接接合の例として特許文献5が挙げられる。特許文献5によれば、適切な接着樹脂層として、フェノキシ樹脂及びその組成物を用いることでFRPと金属を接着できるとある。しかし、接着時の加工温度に対する記載はなく、一部は実質的に熱硬化樹脂であるため硬化のために長時間の熱処理が必要となる。
【0009】
金属の表面に樹脂層を設ける処理例として、特許文献6では、現場重合型フェノキシ樹脂を含む樹脂層で表面処理することを提唱している。本方法によれば、様々な金属、特にアルミニウムに対して接着性が向上していることがわかるが、複数の熱硬化樹脂層による表面処理を行うため製造工程が長くなる。
【0010】
以上のように、FRPと金属部材を接合する方法は様々なものが提案されているが、その多くは接合プロセスが複雑であり、また、加工条件に言及がないか、低温加工性について考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許5295741号公報
【文献】特許6158866号公報
【文献】特許5501026号公報
【文献】特許6314935号公報
【文献】WO2018/124215号
【文献】WO2019/116879号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、繊維強化熱可塑性プラスチック成形体と金属部材とのプレス成形において、低いプレス温度での貼り合せを可能とする複合体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の複合体の製造方法は、繊維強化熱可塑性プラスチック成形体と金属部材とを貼り合わせて複合化した複合体を製造する方法である。そして、本発明の複合体の製造方法は、次の(1)~(3)の工程;
(1)マトリックス樹脂としてフェノキシ樹脂を含む繊維強化熱可塑性プラスチック成形体(A)を準備する工程;
(2)表面に150℃における溶融粘度が50000Pa・s以下である熱可塑性樹脂の皮膜(B)を有する金属部材(C)を準備する工程;
(3)前記繊維強化熱可塑性プラスチック成形体(A)を前記金属部材(C)に積層し、プレス成形を行う工程;
を含む。
【0014】
本発明の複合体の製造方法は、前記皮膜(B)を構成する熱可塑性樹脂が、ガラス転移点が120℃以下のフェノキシ樹脂を含む熱可塑性樹脂であってもよく、前記工程(3)におけるプレス成形温度が100~150℃の範囲内であってもよい。
【0015】
本発明の複合体の製造方法は、前記皮膜(B)を構成する熱可塑性樹脂が、融点が180℃以下のポリエステル系エラストマーを含む熱可塑性樹脂であってもよく、前記工程(3)におけるプレス成形温度が70~140℃の範囲内であってもよい。
【0016】
本発明の複合体の製造方法は、前記金属部材(C)が鉄鋼部材であってもよい。
【0017】
本発明の複合体の製造方法は、前記繊維強化熱可塑性プラスチック成形体(A)が、炭素繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイド繊維、ガラス繊維及びアラミド繊維よりなる群から選ばれる1つもしくは2つ以上の強化繊維基材を含むものであってよい。
【0018】
本発明の複合体は、上記いずれかの方法により、前記繊維強化熱可塑性プラスチック成形体(A)と前記金属部材(C)を貼り合せてなるものである。
【0019】
本発明の複合体は、前記繊維強化熱可塑性プラスチック成形体(A)による繊維強化熱可塑性プラスチック層(a)の少なくとも片面に、前記皮膜(B)に由来する熱可塑性樹脂層(b)が隣接していてもよく、
前記熱可塑性樹脂層(b)の前記繊維強化熱可塑性プラスチック層(a)に接していない面に前記金属部材(C)による金属層(c)が隣接していてもよい。
【0020】
本発明の金属部材は、繊維強化熱可塑性プラスチック成形体とプレス成形により貼り合わせて複合化するために用いられる金属部材であって、
表面に150℃における溶融粘度が50000Pa・s以下である熱可塑性樹脂の皮膜を有する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、繊維強化熱可塑性プラスチック成形体と金属部材とを低温プレスでも接着できるため、貼り合せ工程の省エネルギー化および成形タクトタイムの短縮が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施の形態に係る複合体の模式的断面図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る別の複合体の模式的断面図である。
図3】本発明の一実施の形態に係るさらに別の複合体の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態である複合体の製造方法、及び、この方法により得られる複合体について、詳細に説明する。
【0024】
[複合体の製造方法]
まず、繊維強化熱可塑性プラスチック(以下、「FRTP」と省略することがある)成形体と金属部材とを貼り合せて複合体を製造する方法について説明する。本実施の形態の複合体の製造方法は、次の3つの工程を含むことができる。
(1)マトリックス樹脂としてフェノキシ樹脂を含むFRTP成形体(A)を準備する工程。
(2)表面に150℃における溶融粘度が50000Pa・s以下である熱可塑性樹脂の皮膜(B)を有する金属部材(C)を準備する工程。
(3)FRTP成形体(A)を金属部材(C)に積層し、プレス成形を行う工程。
【0025】
工程(1):
工程(1)は、マトリックス樹脂としてフェノキシ樹脂を含むFRTP成形体(A)を準備する工程である。FRTP(繊維強化熱可塑性プラスチック)とは強化繊維基材に熱可塑性樹脂が含浸された複合体を指し、熱可塑性樹脂単体と比較して機械物性に優れる特徴を有している。FRTPのマトリックス樹脂としてフェノキシ樹脂を含有することで、金属部材(C)と貼り合せる温度が低くても十分に接着性を担保出来る。
【0026】
FRTP成形体(A)に使用される強化繊維基材としては、例えば、炭素繊維やガラス繊維、ボロンやアルミナ、シリコンカーバイドなどのセラミックス繊維、ステンレスなどの金属繊維、アラミドなどの有機繊維等、様々なものが利用可能である。強化繊維基材としては、炭素繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイド繊維、ガラス繊維及びアラミド繊維の中の1つもしくは2つ以上の強化繊維基材が好ましい。それらの中でも、炭素繊維、ガラス繊維がより好ましく使用され、強度が高く、熱伝導性の良い炭素繊維を使用することが最も好ましい。炭素繊維はピッチ系、PAN系のいずれも使用可能であるが、ピッチ系の炭素繊維は、高強度であるだけでなく高熱伝導性でもあり、それ故に発生した熱を素早く拡散することができるので熱を逃がす必要のある用途ではPAN系よりも好ましい。強化繊維基材の形態は、特に制限されるものでは無く、例えば一方向材、平織りや綾織などのクロス、三次元クロス、チョップドストランドマット、数千本以上のフィラメントよりなるトウ、あるいは不織布等を使用することができる。
【0027】
本発明おいて、強化繊維基材に含浸させるマトリックス樹脂は、フェノキシ樹脂を必須成分として含有する。フェノキシ樹脂とは、2価フェノール化合物とエピハロヒドリンとの縮合反応、あるいは2価フェノール化合物と2官能エポキシ樹脂との重付加反応から得られる熱可塑性樹脂であり、溶液中あるいは無溶媒下に従来公知の方法で得ることができる。なお、ポリヒドロキシポリエーテル樹脂、熱可塑性エポキシ樹脂と呼ばれる樹脂は、フェノキシ樹脂の別の呼び名であって、本発明のフェノキシ樹脂と同じものを指している。また、現場重合型フェノキシ樹脂と呼ばれる樹脂は、2価フェノール化合物と2官能エポキシ樹脂を主成分とする反応性樹脂組成物に分類されるものであるが、重合後に得られる樹脂は熱可塑性を有し、その分子構造もフェノキシ樹脂と同等なことから、本発明におけるフェノキシ樹脂として使用することが出来る。
【0028】
フェノキシ樹脂の平均分子量は、質量平均分子量(Mw)として、通常10,000~200,000であるが、好ましくは20,000~100,000であり、より好ましくは30,000~80,000である。Mwが低すぎるとFRTP成形体(A)の強度が劣り、高すぎると作業性や加工性に劣るものとなり易い。なお、Mwはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した値である。
【0029】
フェノキシ樹脂の水酸基当量(g/eq)は、通常50~1000であるが、好ましくは50~750であり、特に好ましくは50~500である。水酸基当量は低すぎると水酸基が増えることで吸水率が上がるため、機械物性が低下する懸念がある。水酸基当量が高すぎると水酸基が少ないので、強化繊維基材、特に炭素繊維との濡れ性が低下する。
【0030】
フェノキシ樹脂のガラス転移点(Tg)は、65℃~160℃のものが適するが、好ましくは70℃~150℃、より好ましくは70~120℃である。ガラス転移点が65℃よりも低いと成形性は良くなるが、ブロッキングによる粉体もしくはペレットの貯蔵安定性の悪化やプリフォーム時のべたつき(タック性が悪い)などの問題が生じる。160℃よりも高いと溶融粘度も高くなり成形性や強化繊維基材への充填性が劣り、結果として、より高温のプレス成形が必要とされる。なお、フェノキシ樹脂のガラス転移点は、示差走査熱量測定装置を用い、10℃/分の昇温条件で、20~280℃の範囲で測定し、セカンドスキャンのピーク値より求められる数値である。
【0031】
フェノキシ樹脂としては、上記の物性を満たしたものであれば特に限定されないが、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル社製の商品名フェノトートYP-50、YP-50S、YP-55U)、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル社製の商品名フェノトートFX-316)、ビスフェノールAとビスフェノールFの共重合型フェノキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル社製の商品名YP-70)、あるいは特殊フェノキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル社製の商品名フェノトートYPB-43C、FX293)等が挙げられ、これらを単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0032】
マトリックス樹脂は、上記フェノキシ樹脂以外の成分を含有しても良い。その他の熱可塑性樹脂として、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ナイロン6やナイロン610などのポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリフェニルスルホン、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドイミド、ポリイミドなどが挙げられる。更に、目的に応じて難燃剤、無機フィラー、着色剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、可塑剤、架橋剤などを含んでも良い。
【0033】
フェノキシ樹脂はマトリックス樹脂全体に対して30重量%以上含まれることが好ましく、より好ましくは50重量%以上である。フェノキシ樹脂の含有量が30重量%を下回ると、金属部材(C)との接着不良の原因となる。
【0034】
マトリックス樹脂にフェノキシ樹脂以外の成分を含有させる場合、それらの成分を混合する必要がある。混合方法に特に制限はなく、一般公知の方法を用いることが出来る。例えば、各成分を微粉砕して粉状とし、それをヘンシェルミキサーやロッキングミキサーなどでブレンドする方法や、ニーダーや押出機などを用いて各成分を溶融混練する方法が挙げられる。各成分を均一に混合できる溶融混練する方法が好ましい。
【0035】
FRTP成形体(A)は、上記強化繊維基材に上記マトリックス樹脂を含有する組成物を付着させたプリプレグを作成し、これをプレス成形することで作成することが出来る。
【0036】
強化繊維基材にマトリックス樹脂を付着させてプリプレグを作成する方法に特に制限はなく、一般公知の方法を用いることが出来る。例えば、マトリックス樹脂を含有する組成物をフィルム化し、強化繊維基材に加熱しながら貼り合せて加圧含浸する方法でも良いし、マトリックス樹脂を含有する組成物を微粉末化して強化繊維基材に吹き付けもしくは堆積させた後、加熱することで溶着する方法でも良い。マトリックス樹脂の付着量は、例えば全重量の20~70重量%程度、好ましくは25~60重量%、より好ましくは30~50重量%である。
【0037】
プリプレグをプレス成形する方法に特に制限はなく、一般公知の方法を用いることが出来る。例えば、オートクレーブ装置を用いて成形する方法や、金型を用いた熱プレス成形などを適宜選択して実施することが出来る。
成形温度は、例えば180~350℃、好ましくは200℃~340℃、より好ましくは220℃~340℃である。成形温度が上限温度を超えると、昇温に時間がかかり、成形時間(タクトタイム)が長くなり生産性が悪くなるほか、必要以上の過剰な熱を加えることによってマトリックス樹脂が熱劣化する恐れがある。一方、成形温度が下限温度を下回るとマトリックス樹脂の溶融粘度が高くなるため、強化繊維基材へのマトリックス樹脂の含浸が乏しく、引張強度や曲げ強度などの機械物性が低下する。成形時間については、通常30~60分で行うことができる。
【0038】
工程(2):
工程(2)は、表面に熱可塑性樹脂の皮膜(B)を有する金属部材(C)を準備する工程である。本工程で用いる熱可塑性樹脂は、150℃における溶融粘度が50000Pa・s以下であるものが適している。好ましくは1000Pa・s~40000Pa・sの範囲である。溶融粘度が1000Pa・s未満の場合、熱圧着時に皮膜(B)が流れ出し、良好な接着面を形成できない。溶融粘度が50000Pa・sを超える場合、熱圧着時にFRTP成形体(A)との接着界面の融着不足により接着不良となる。
【0039】
皮膜(B)を構成する熱可塑性樹脂としては、ガラス転移点が120℃以下のフェノキシ樹脂もしくは融点が180℃以下のポリエステル系エラストマーを含む熱可塑性樹脂であることが好ましい。
皮膜(B)としてこれらの熱可塑性樹脂を含有することで、FRTP成形体(A)を貼り合せる温度が低くても十分な接着性を担保出来る。
【0040】
皮膜(B)を構成する熱可塑性樹脂として好ましいフェノキシ樹脂としては、工程(1)で準備したFRTP成形体(A)の必須成分として説明したフェノキシ樹脂を挙げることができる。ただし、皮膜(B)においては、ガラス転移点(Tg)が120℃以下のフェノキシ樹脂であることが好ましい。FRTP成形体(A)のフェノキシ樹脂と皮膜(B)のフェノキシ樹脂は、異なるものを用いてもかまわないが、同じものであるほうが好ましい。FRTP成形体(A)と皮膜(B)に同じフェノキシ樹脂を用いることで、FRTP成形体(A)と金属部材(C)の接着性が向上する。
【0041】
皮膜(B)を構成する熱可塑性樹脂として好ましいポリエステル系エラストマーとは、ポリエステル単位を含むハードセグメントと、ポリエーテル及び/又はポリエステル単位を含むソフトセグメントとを構成単位として含むポリエステルブロック共重合体を意味する。ポリエステルブロック共重合体は、公知の方法で製造することができる。例えば、ハードセグメント成分として芳香族ジカルボン酸及び/又は芳香族ジカルボン酸低級アルキルジエステルなどのエステル形成性誘導体、過剰量のジオール(低分子量グリコール)、及び、ソフトセグメント成分として脂肪族ポリエーテル及び/又は脂肪族ポリエステルを触媒の存在下エステル交換反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法が挙げられる。
【0042】
上記ポリエステル系エラストマーは、融点が180℃以下であることが好ましい。本発明において、ポリエステルブロック共重合体の融点は、示差走査熱量計(DSC)により測定される。
【0043】
ポリエステル系エラストマーとしては、上記の物性を満たしたものであれば特に限定されないが、例えば、ペルプレン(商品名、東洋紡社製)、ハイトレル(商品名、東レ・デュポン社製)、テファブロック(商品名、三菱ケミカル社製)、エステラール(商品名、アロン化成社製)等が挙げられ、これらを単独または2種以上を混合して使用することができる。
ポリエステル系エラストマーはフェノキシ樹脂との相溶性が良く、両成分を含む樹脂層は熱圧着において良好な接着性を示す。したがって、フェノキシ樹脂を必須成分とするFRTP成形体(A)とポリエステル系エラストマーを含む皮膜(B)を有する金属部材(C)は、熱圧着時において良好な接着性を示す。
【0044】
皮膜(B)を構成する成分としては、上記フェノキシ樹脂と上記ポリエステル系エラストマー以外の成分を含んでいても良い。その他の成分としては、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ナイロン6やナイロン610などのポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリフェニルスルホン、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドイミド、ポリイミドなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。更に、目的に応じて難燃剤、無機フィラー、着色剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、可塑剤、架橋剤などを含んでも良い。
【0045】
皮膜(B)は、その全体に対して、上記フェノキシ樹脂及び/又は上記ポリエステル系エラストマーを、合計で40重量%以上含むことが好ましく、50重量%以上含むことがより好ましい。フェノキシ樹脂及び/又はポリエステル系エラストマーの含有量が40重量%を下回ると、FRTP成形体(A)と金属部材(C)との接着不良の原因となる。
【0046】
複数の成分からなる皮膜(B)を作成する場合、これらの成分を混合する必要がある。混合方法に特に制限はなく、一般公知の方法を用いることが出来る。例えば、各成分を微粉砕して粉状とし、それをヘンシェルミキサーやロッキングミキサーなどでブレンドする方法や、ニーダーや押出機などを用いて各成分を溶融混練する方法が挙げられる。各成分を均一に混合できる溶融混練する方法が好ましい。
【0047】
また、皮膜(B)は、単独の層でも複数の層を有しても良い。複数の層を有する場合、FRTP成形体(A)および金属部材(C)に接する層は、上記フェノキシ樹脂もしくはポリエステル系エラストマーを必須成分として含有することが好ましい。FRTP成形体(A)および金属部材(C)に接する層に上記フェノキシ樹脂もしくはポリエステル系エラストマーを含有することで、低温接着性を付与することが出来る。
【0048】
金属部材(C)に皮膜(B)を形成する方法に特に制限はなく、一般公知の方法を用いることが出来る。例えば、微粉末化した皮膜(B)成分を金属部材(C)に吹き付けた後、加熱溶着させる方法や、皮膜(B)成分を溶剤に溶解・分散させた後、金属部材(C)上に塗工・乾燥させる方法、皮膜(B)成分をフィルム化し、金属部材(C)上に熱ラミネートする方法が挙げられる。
【0049】
皮膜(B)の厚み(複数の層から形成される場合は、皮膜(B)の総厚み)は、例えば0.005~1.000mmの範囲内である。好ましくは、0.005~0.500mmの範囲内、より好ましくは0.010~0.250mmの範囲内である。皮膜(B)の厚みが0.005mm未満の場合、接着性が低下する。皮膜(B)の厚みが1.000mmを超える場合、本発明の複合体の機械物性が低下する。また、接着不良を起こす場合もある。
【0050】
母材となる金属部材(C)は、鉄鋼部材であることが好ましい。鉄鋼部材とは、鉄鋼材料を主成分とする部材である。ここで、鉄鋼材料としては、純鉄、鉄(Fe)を主成分として炭素(C)、ケイ素(Si)、リン(P)、硫黄(S)などの非金属元素を含有するもの、または、鉄(Fe)とニッケル(Ni)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)などの金属元素との合金、さらに、鉄(Fe)やその合金にめっき(電気亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき、電気亜鉛合金めっき、合金化溶融亜鉛めっき、Zn-Al合金めっき、Zn-Al-Mg合金めっきなど)を施したものなどを例示することができる。従って、鉄鋼部材としては、例えば、冷間圧延鋼、熱間圧延鋼、高張力鋼、工具鋼、合金工具鋼、球状化黒鉛鋳鉄、ねずみ鋳鉄、機械構造用炭素鋼、クロム鋼、クロムモリブデン鋼、ニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、マンガン鋼、ステンレス鋼およびこれらの亜鉛めっき鋼などを所定形状に加工した部材が挙げられる。鉄鋼部材に代表される金属部材(C)の形状は、特に限定されないが、例えば厚板、薄板、H鋼などFRTP成型体(A)を貼り合せる平面を有する形状が好ましい。
【0051】
工程(3):
工程(3)は、FRTP成形体(A)を金属部材(C)に積層し、プレス成形を行う工程である。
本実施の形態では、フェノキシ樹脂を含むマトリックス樹脂から成るFRTP成形体(A)と皮膜(B)を有する金属部材(C)を使用することで、貼り合せ温度を低温化でき、プレス成形のための加熱時間と冷却時間を短縮できるので、タクトタイムの短縮が可能となる。また、低温でのプレス成形が可能であるため、熱履歴を低減することが可能となり、反りも抑制できる。
【0052】
具体的には、フェノキシ樹脂を含む皮膜(B)を有する金属部材(C)とFRTP成形体(A)とを貼り合せる場合、プレス温度は150℃以下、好ましくは100~150℃とすることができる。プレス温度が100℃より低い場合は接着が不十分となり、150℃より高い場合、必要以上に加熱することになるので、その分のエネルギーが無駄になり、相応のタクトタイムも必要になることから、プロセス効率の改善効果が得られない。
また、ポリエステル系エラストマーを含む皮膜(B)を含有する金属部材(C)とFRTP成形体(A)とを貼り合せる場合、プレス温度は140℃以下、好ましくは、70~140℃とすることができる。プレス温度が70℃より低い場合は接着が不十分となり、140℃より高い場合、必要以上に加熱することになるので、その分のエネルギーが無駄になり、相応のタクトタイムも必要になることから、プロセス効率の改善効果が得られない。
【0053】
貼り合せるFRTP成形体(A)は、そのままでも良いが予備加熱により事前に加熱しても良い。特に、厚み1.0mmを超えるFRTP成形体(A)を貼り合せる場合は予備加熱を行うことで十分な接着力を担保出来る。
予備加熱の条件は皮膜(B)の溶融粘度が50000Pa・s以下となる温度であれば特に限定されるものではないが、150℃以下で50000Pa・s以下の溶融粘度とならない皮膜(B)を高温で予備加熱することによって溶融粘度を調整しても、接着はするものの高温処理に伴う処理時間の長期化や、金属部材(C)と皮膜(B)、FRTP成形体(A)の熱膨張係数の差に起因する複合体の反り量の増大、高温部材の安全な取扱いといった問題があるため、好ましくない。
【0054】
予備加熱する方法としては特に制限はなく、一般公知の方法を用いることが出来る。例えば、熱風循環式オーブンによる加熱、ホットプレートによる加熱、ハロゲンヒーターによる加熱、赤外線ヒーターによる加熱などが挙げられる。特に、赤外線ヒーターは短時間で効率よく加熱できるため好ましい。
【0055】
FRTP成形体(A)と金属部材(C)の積層方法については、FRTP成形体(A)と金属部材(C)の間に皮膜(B)が配置される構成にすることが好ましい。また、FRTP成形体(A)と金属部材(C)とを繰り返し重ねて多層に積層する場合は、金属部材(C)における、FRTP成形体(A)に当接する領域に皮膜(B)を設けておくことが好ましい。例えば、金属部材(C)が薄板状である場合は、その裏表両面に皮膜(B)を設けておくことが好ましい。
【0056】
貼り合せる手段は、加熱加圧成形(プレス成形)である限り特に制限はなく、目的とする複合体の大きさや形状に合わせて、例えば、オートクレーブ成型や金型を使用した熱プレス成形等の各種成形法を適宜選択して実施することができる。
また、このときに金型を使用することによって、任意の3次元形状に賦形された複合体を得ることも可能である。
【0057】
[複合体]
以上の製造方法によって得られる複合体は、例えば図1に例示するような構成となっている。具体的には、FRTP成形体(A)によるFRTP層(a)の少なくとも片面に、皮膜(B)に由来する熱可塑性樹脂層(b)が隣接しており、熱可塑性樹脂層(b)の他方の面(FRTP層(a)に接していない面)に、金属部材(C)による金属層(c)が隣接した構造を有している。なお、本発明における複合体は、図1のFRTP層(a)もしくは金属層(c)の熱可塑性樹脂層(b)に接していない面に塗装やめっき層などを有しても良い。更に、FRTP層(a)および金属層(c)の熱可塑性樹脂層(b)に接していない面に対して、ボルトやリベットなどを用いて直接的にもしくは接着剤などを用いて間接的にほかの部材を積層した構成となっても良い。
【0058】
また、本発明の複合体は、熱可塑性樹脂層(b)を介してFRTP層(a)と金属層(c)が接合されていればよい。例えば図2に示すように金属層(c)が熱可塑性樹脂層(b)を介してFRTP層(a)にサンドイッチされている構成でもよく、あるいは、図3に示すように、FRTP層(a)が熱可塑性樹脂層(b)を介して金属層(c)にサンドイッチされている構成となっていてもよい。
【0059】
このようにして得られた複合体は、後工程として、塗装や他の部材とのボルトやリベット留めなどによる機械的な接合のための穴あけ加工を行うことができる。
【0060】
以上説明したように、本発明方法によれば、フェノキシ樹脂をマトリックス樹脂として含むFRTP成形体(A)と皮膜(B)を有する金属部材(C)とを低温で貼り合せることが出来るため、エネルギー効率がよく、タクトタイムを短縮できる。このように、本発明方法で作成される複合体は、高生産性かつ低コスト製造することが可能であることから、電気・電子機器などの筐体のみならず、自動車部材、航空機部材などの用途における構造部材としても好適に使用することができるものである。
【実施例
【0061】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における各種物性の試験及び測定方法は以下の通りである。
【0062】
<得られた複合体の評価>
(初期接着性)
貼り合せ直後、FRTP成形体と金属部材が接着している場合は○(良)、剥がれがある場合は×(不良)とした。
(そり量)
水平な台の上に複合体を乗せ、台表面から複合体までのそり量(mm)をデジタルノギス(品名;TDN100、トラスコ中山社製)で計測した。
(曲げ試験における最大曲げ荷重)
複合体を凸面が上となるように三点曲げ治具を備えた万能試験機(品名;テンシロンRTG-1210、エー・アンド・デイ社製)(上部R5、下部R2、支点間距離40mm)の中央に乗せ、試験速度2mm/分で4分間曲げた際の最大荷重値(N)を最大曲げ荷重とした。
(曲げ後接着)
曲げ試験を行った後の試験片を逆方向に2mm曲げ戻した後、FRTP成形体と金属部材が接着している場合は○(良)、剥がれがある場合は×(不良)とした。
【0063】
作成例1(FRTP成形体A-1の作成)
フェノキシ樹脂(商品名;フェノトートYP-50S、日鉄ケミカル&マテリアル社製)を凍結粉砕、分級して平均粒子径D50が80μmである粉体を準備した。開繊炭素繊維織物(品名;SA-3203、サカイオーベックス社製)に対して、前記粉体を静電塗装装置(品名;GX8500、日本パーカライジング社製)にて粉体塗装を行った。その後、オーブンで240℃、1分間加熱溶着させることでプリプレグ(A-0)を作成した。なお、樹脂付着量は30重量%となるように調整した。得られたプリプレグを所定の枚数積層し、240℃、3MPaで5分間熱プレスし、加圧状態を維持したまま50℃まで冷却することで厚み約1.0mmのFRTP成形体(A-1)を作成した。なお、端部はカットして25×100mmのサイズとした。
【0064】
作成例2(FRTP成形体A-2の作成)
フェノキシ樹脂(商品名;フェノトートYP50S、日鉄ケミカル&マテリアル社製)とナイロン6(商品名;CM1017、東レ社製)を50/50の重量割合でドライブレンドした後、スクリュー径26mmの同方向回転の二軸押出機(設定温度:230℃)で溶融混練を行い、ペレットを得た。得られたペレットを凍結粉砕、分級して平均粒子径D50が80μmである粉体を準備した。開繊炭素繊維織物(品名;SA-3203、サカイオーベックス社製)に対して、前記粉体を静電塗装装置(品名;GX8500、日本パーカライジング社製)にて粉体塗装を行った。その後、オーブンで240℃、1分間加熱溶着させることでプリプレグを作成した。なお、樹脂付着量は30重量%となるように調整した。得られたプリプレグを所定の枚数積層し、240℃、3MPaで5分間熱プレスし、加圧状態を維持したまま50℃まで冷却することで厚み約1.0mmのFRTP成形体(A-2)を作成した。なお、端部はカットして25×100mmのサイズとした。
【0065】
【表1】
【0066】
作成例3(皮膜付き金属部材C-1の作成)
厚み0.4mmの亜鉛メッキ鋼板(商品名;SGCC、スタンダードテストピース社製)をアセトン(関東化学社製)で脱脂した後、フェノキシ樹脂フィルム(商品名;YP50S、150℃における溶融粘度32000Pa・s、Tg84℃、厚み0.020mm)2枚を積層し、プレス機で240℃、1MPaで1分間熱プレスし、加圧状態を維持したまま50℃まで冷却することで皮膜付き金属部材(C-1)を作成した。なお、端部はカットして25×100mmのサイズとした。
【0067】
作成例4(皮膜付き金属部材C-2の作成)
フェノキシ樹脂フィルム(YP50S)を5枚積層したこと以外は、作成例3と同様にして皮膜付き金属部材(C-2)を作成した。
【0068】
作成例5(皮膜付き金属部材C-3の作成)
フェノキシ樹脂フィルム(YP50S)を10枚積層したこと以外は、作成例3と同様にして皮膜付き金属部材(C-3)を作成した。
【0069】
作成例6(皮膜付き金属部材C-4の作成)
フェノキシ樹脂フィルムの代わりにポリエステル系エラストマーフィルム(商品名;BD406、150℃における溶融粘度1500Pa・s、融点142℃、東レ・デュポン社製、厚み0.025mm)2枚を積層し、プレス温度を200℃としたこと以外は、作成例3と同様にして皮膜付き金属部材(C-4)を作成した。
【0070】
作成例7(皮膜付き金属部材C-5の作成)
亜鉛メッキ鋼板の代わりにSUS304(厚み0.4mm、スタンダードテストピース社製)を用いたこと以外は、作成例3と同様にして皮膜付き金属部材(C-5)を作成した。
【0071】
作成例8(皮膜付き金属部材C-6の作成)
亜鉛メッキ鋼板の代わりにSUS304(厚み0.4mm、スタンダードテストピース社製)を用いたこと以外は、作成例6と同様にして皮膜付き金属部材(C-6)を作成した。
【0072】
作成例9(金属部材C-7の作成)
厚み0.4mmの亜鉛メッキ鋼板(商品名;SGCC、スタンダードテストピース社製)をアセトン(関東化学社製)で脱脂したものを金属部材(C-7)とした。なお、端部はカットして25×100mmのサイズとした。
【0073】
作成例10(皮膜付き金属部材C-8の作成)
フェノキシ樹脂フィルムの代わりに作成例2で作成したペレットから作製したフェノキシ樹脂/ポリアミドフィルム(150℃における溶融粘度28500Pa・s、Tg92℃、融点220℃、厚み0.050mm)1枚を積層し、プレス温度を250℃としたこと以外は、作成例3と同様にして皮膜付き金属部材(C-8)を作成した。
【0074】
作成例11(皮膜付き金属部材C-9の作成)
フェノキシ樹脂フィルムとしてFX-280S(商品名;150℃における溶融粘度172000Pa・s、Tg153℃、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、厚み0.050mm)1枚を積層したこと以外は、作成例3と同様にして皮膜付き金属部材(C-9)を作成した。
【0075】
作成例12(皮膜付き金属部材C-10の作成)
フェノキシ樹脂フィルムの代わりにポリエステル系エラストマーフィルム(商品名;ハイトレル5557、150℃における溶融粘度678000Pa・s、融点208℃、東レ・デュポン社製、厚み0.050mm)1枚を積層したこと以外は、作成例3と同様にして皮膜付き金属部材(C-10)を作成した。
【0076】
【表2】
【0077】
[実施例1]
作成例1で作成したFRTP成形体(A-1)と作成例3で作成した皮膜付き金属部材(C-1)を積層し、プレス機にてプレス温度120℃で3分間熱圧着し複合体を得た。得られた複合体は、初期接着性○(良)、そり量は1.30mm、曲げ試験における最大曲げ荷重は541N、曲げ試験後の剥離は見られず、曲げ後接着も○(良)であった。
【0078】
[実施例2]
プレス温度を150℃とした以外は実施例1と同様にして複合体を得た。得られた複合体は、初期接着性○(良)、そり量は1.50mm、曲げ試験における最大曲げ荷重は520N、曲げ試験後の剥離は見られず、曲げ後接着も○(良)であった。
【0079】
[実施例3]
作成例1で作成したFRTP成形体(A-1)を200℃に熱したホットプレートに乗せた離形フィルム(商品名;No.9700UL、日東電工社製)上に置き10分間加熱することで予備加熱を行った。予備加熱後のFRTP成形体(A-1)と作成例3で作成した皮膜付き金属部材(C-1)を積層し、プレス機にてプレス温度120℃で3分間熱圧着し複合体を得た。得られた複合体は、初期接着性○(良)、そり量は1.30mm、曲げ試験における最大曲げ荷重は551N、曲げ試験後の剥離は見られず、曲げ後接着も○(良)であった。
【0080】
[実施例4]
予備加熱温度を280℃にした以外は実施例3と同様にして複合体を得た。得られた複合体は、初期接着性○(良)、そり量は1.36mm、曲げ試験における最大曲げ荷重は481N、曲げ試験後の剥離は見られず、曲げ後接着も○(良)であった。
【0081】
[実施例5]
作成例3で作成した皮膜付き金属部材(C-1)の代わりに作成例4で作成した皮膜付き金属部材(C-2)を使用した以外は実施例1と同様にして複合体を得た。得られた複合体は、初期接着性○(良)、そり量は1.25mm、曲げ試験における最大曲げ荷重は390N、曲げ試験後の剥離は見られず、曲げ後接着も○(良)であった。
【0082】
[実施例6]
作成例3で作成した皮膜付き金属部材(C-1)の代わりに作成例5で作成した皮膜付き金属部材(C-3)を使用した以外は実施例1と同様にして複合体を得た。得られた複合体は、初期接着性○(良)、そり量は0.90mm、曲げ試験における最大曲げ荷重は417N、曲げ試験後の剥離は見られず、曲げ後接着も○(良)であった。
【0083】
[実施例7]
作成例3で作成した皮膜付き金属部材(C-1)の代わりに作成例6で作成した皮膜付き金属部材(C-4)を使用した以外は実施例1と同様にして複合体を得た。得られた複合体は、初期接着性○(良)、そり量は0.61mm、曲げ試験における最大曲げ荷重は425N、曲げ試験後の剥離は見られず、曲げ後接着も○(良)であった。
【0084】
[実施例8]
作成例3で作成した皮膜付き金属部材(C-1)の代わりに作成例6で作成した皮膜付き金属部材(C-4)を使用し、プレス温度を90℃にした以外は実施例4と同様にして複合体を得た。得られた複合体は、初期接着性○(良)、そり量は0.69mm、曲げ試験における最大曲げ荷重は418N、曲げ試験後の剥離は見られず、曲げ後接着も○(良)であった。
【0085】
[実施例9]
プレス温度を120℃にした以外は実施例8と同様にして複合体を得た。得られた複合体は、初期接着性○(良)、そり量は0.65mm、曲げ試験における最大曲げ荷重は450N、曲げ試験後の剥離は見られず、曲げ後接着も○(良)であった。
【0086】
[実施例10]
作成例6で作成した皮膜付き金属部材(C-4)の代わりに作成例7で作成した皮膜付き金属部材(C-5)を使用した以外は実施例9と同様にして複合体を得た。得られた複合体は、初期接着性○(良)、そり量は1.94mm、曲げ試験における最大曲げ荷重は468N、曲げ試験後の剥離は見られず、曲げ後接着も○(良)であった。
【0087】
[実施例11]
作成例6で作成した皮膜付き金属部材(C-4)の代わりに作成例8で作成した皮膜付き金属部材(C-6)を使用した以外は実施例8と同様にして複合体を得た。得られた複合体は、初期接着性○(良)、そり量は1.22mm、曲げ試験における最大曲げ荷重は379N、曲げ試験後の剥離は見られず、曲げ後接着も○(良)であった。
【0088】
[実施例12]
作成例3で作成した皮膜付き金属部材(C-1)の代わりに作成例10で作成した皮膜付き金属部材(C-8)を使用した以外は実施例1と同様にして複合体を得た。得られた複合体は、初期接着性○(良)、そり量は1.09mm、曲げ試験における最大曲げ荷重は397N、曲げ試験後の剥離は見られず、曲げ後接着も○(良)であった。
【0089】
[実施例13]
作成例1で作成したFRTP成形体(A-1)の代わりに作成例2で作成したFRTP成形体(A-2)を使用した以外は実施例1と同様にして複合体を得た。得られた複合体は、初期接着性○(良)、そり量は1.45mm、曲げ試験における最大曲げ荷重は382N、曲げ試験後の剥離は見られず、曲げ後接着も○(良)であった。
【0090】
[実施例14]
作成例1で作成したFRTP成形体(A-1)の代わりに作成例2で作成したFRTP成形体(A-2)を使用し、予備加熱温度を260℃にした以外は実施例3と同様にして複合体を得た。得られた複合体は、初期接着性○(良)、そり量は1.52mm、曲げ試験における最大曲げ荷重は304N、曲げ試験後の剥離は見られず、曲げ後接着も○(良)であった。
【0091】
[実施例15]
作成例3で作成した皮膜付き金属部材(C-1)の代わりに作成例6で作成した皮膜付き金属部材(C-4)を使用し、プレス温度を90℃にした以外は実施例14と同様にして複合体を得た。得られた複合体は、初期接着性○(良)、そり量は0.89mm、曲げ試験における最大曲げ荷重は232N、曲げ試験後の剥離は見られず、曲げ後接着も○(良)であった。
【0092】
[実施例16]
作成例3で作成した皮膜付き金属部材(C-1)の代わりに作成例7で作成した皮膜付き金属部材(C-5)を使用した以外は実施例14と同様にして複合体を得た。得られた複合体は、初期接着性○(良)、そり量は2.22mm、曲げ試験における最大曲げ荷重は254N、曲げ試験後の剥離は見られず、曲げ後接着も○(良)であった。
【0093】
[比較例1]
作成例1で作成したFRTP成形体(A-1)と作成例9で作成した金属部材(C-7)を積層し、プレス機にてプレス温度240℃で3分間熱圧着した後、加圧状態を維持したまま50℃まで冷却した。冷却に必要な時間は7分であった(すなわち、プレス機占有時間は3+7=10分であった)。得られた複合体は、初期接着性○(良)、そり量は1.29mmであった。本複合体の曲げ試験における最大曲げ荷重は491Nで、曲げ試験後の剥離は見られず、曲げ後接着も○(良)であった。
本比較例は、FRTP成形体(A-1)が単独でも鉄鋼材料に対して十分な接着性を持っていることを示している。ただし、プレス温度が240℃と高く、加圧状態を維持したまま冷却を行う必要があるためプレス機占有時間が長く、タクトタイムが長くなるという課題がある。
【0094】
[比較例2]
作成例1で作成したプリプレグ(A-0)(プレス成形することでFRTP成形体(A-1)となるもの)13枚と作成例9で作成した金属部材(C-7)を積層し、プレス機にてプレス温度240℃で10分間熱圧着した後、加圧状態を維持したまま50℃まで冷却した。冷却に必要な時間は7分であった(すなわち、プレス機占有時間は10+7=17分であった)。得られた複合体は、初期接着性○(良)、そり量は1.52mmであった。本複合体の曲げ試験における最大荷重は289Nで、曲げ試験後の剥離は見られず、曲げ後接着も○(良)であった。
本比較例は、FRTP成形体を準備せず、その前駆体であるプリプレグをそのまま皮膜を設けていない金属部材(C-7)に積層し、貼り合せたものである。本比較例の場合、FRTPの成形を貼り合せ時に行うことになるため、比較例1よりもプレス機占有時間が長くなった。
【0095】
[比較例3]
作成例1で作成したプリプレグ(A-0)(プレス成形することでFRTP成形体(A-1)となるもの)13枚と作成例3で作成した皮膜付き金属部材(C-1)を積層し、プレス機にてプレス温度120℃で3分間熱圧着し複合体を得た。得られた複合体は、初期接着性○(良)、そり量は0.77mmであった。本複合体の曲げ試験における最大曲げ荷重は90Nで、曲げ試験後の剥離は見られず、曲げ後接着も○(良)であった。
本比較例3は、FRTP成形体を準備せず、その前駆体であるプリプレグと皮膜付き金属部材(C-1)をそのまま積層し、貼り合せた例である。その結果、貼り合せ自体は短時間で実施できるものの、得られた複合体の曲げ物性が極端に劣るものとなった。
【0096】
[比較例4]
作成例3で作成した皮膜付き金属部材(C-1)の代わりに作成例11で作成した皮膜付き金属部材(C-9)を使用した以外は実施例1と同様にして複合体を得た。得られた複合体は、初期接着性○(良)、そり量は0.63mm、曲げ試験における最大曲げ荷重は275Nであり、曲げ試験後に金属部材の剥離が確認され、曲げ後接着も×(不良)であった。
【0097】
[比較例5]
作成例3で作成した皮膜付き金属部材(C-1)の代わりに作成例11で作成した皮膜付き金属部材(C-9)を使用し、プレス温度を170℃とした以外は実施例1と同様にして複合体を得た。得られた複合体は、初期接着性○(良)、曲げ試験における最大曲げ荷重は471Nであり、曲げ試験後の剥離は見られず、曲げ後接着も○(良)ではあったが、反り量は1.91mmと実施例1及び2よりも大きく増加した。
【0098】
[比較例6]
作成例6で作成した皮膜付き金属部材(C-4)の代わりに作成例12で作成した皮膜付き金属部材(C-10)を使用した以外は実施例7と同様にして複合体を得た。得られた複合体は、初期接着性○(良)、そり量は0.18mm、曲げ試験における最大曲げ荷重は279Nであり、曲げ試験後に金属部材の剥離が確認され、曲げ後接着も×(不良)であった。
【0099】
[比較例7]
作成例6で作成した皮膜付き金属部材(C-4)の代わりに作成例12で作成した皮膜付き金属部材(C-10)を使用し、プレス温度を170℃とした以外は実施例7と同様にして複合体を得た。得られた複合体は、初期接着性○(良)、曲げ試験における最大曲げ荷重は371Nであり、曲げ試験後の剥離は見られず、曲げ後接着も○(良)ではあったが、反り量は1.94mmと実施例7よりも大きく増加した。
【0100】
実施例1~16および比較例1~7の貼り合せ条件と評価結果を表3~表6に示した。
【0101】
【表3】
【0102】
実施例1~4より、鉄鋼部材表面にフェノキシ樹脂による皮膜(B)を形成することで、低温での貼り合せが可能であるにもかかわらず、最大曲げ荷重や曲げ試験後の剥離も比較例1と比較してそん色ないことがわかる。さらに、加圧状態を維持したまま冷却を行う必要が無いため、プレス機占有時間が大幅に短縮される。また、予備加熱温度は接着に対する影響が少ないことがわかる。また、実施例1および比較例3より、事前に成形したFRTP成形体(A-1)を使用することで、得られる複合体の曲げ強度が向上することがわかる。さらに、実施例5~6より、接着に対する皮膜厚みの影響は少ないことがわかる。
【0103】
【表4】
【0104】
【表5】
【0105】
実施例7~9より、ポリエステル系エラストマー皮膜を設けた金属部材(C-4)は、ポリエステル系エラストマーの融点がフェノキシ樹脂のTgよりも高いにもかかわらず、フェノキシ樹脂皮膜を設けた金属部材(C-1)よりも同等かそれ以下での低温の加工条件にて貼り合せることが可能であった。特に実施例1、4と実施例7、9の比較から、ポリエステル系エラストマーは、フェノキシ樹脂よりも柔軟なため複合体のそりを緩和することが出来る。なお、比較例5、7のように、150℃における溶融粘度が50000Pa・sを超える熱可塑性樹脂の皮膜を用いて高温処理を行うことによっても接着強度や金属部材の接着性を確保することは可能であるが、実施例1および2、実施例9と比べると複合体の反り量が約2倍程度大きくなる結果となっており、寸法精度を確保するうえで問題があることも判明した。
また、実施例10~11より、皮膜(B)を設けることによって、FRTP成形体(A)をSGCC以外の鉄鋼部材であるSUS304に対しても、低温で貼り合せることが出来るほか、実施例12~16より、FRTP成形体(A)のマトリックス樹脂や皮膜(B)の一部がポリアミド樹脂となった場合も同様に低温での貼り合せが可能であった。
なお、比較例4および5はガラス転移温度が153℃のフェノキシ樹脂を皮膜(B)に用いた例であり、比較例6および7は融点が208℃のポリエステル系エラストマーを皮膜(B)に用いた例である。皮膜(B)のガラス転移温度もしくは融点が高いと、150℃を超える高い温度では貼り合わせること可能だが、低温での貼り合せはできない。
【0106】
【表6】
【0107】
上記実施例及び比較例により、本発明の貼り合せ方法によれば、皮膜(B)を設けることによってFRTP成形体(A)と金属部材(C)を低温で貼り合せることが可能であり、曲げ荷重に対しても剥離しない十分な接着力を有する複合体を高い寸法精度で作成することが出来ることがわかる。
【0108】
本出願は、2019年11月5日に日本国で出願された特願2019-200762号に基づく優先権を主張するものであり、当該出願の全内容をここに援用する。
【符号の説明】
【0109】
(a)…FRTP層、(b)…熱可塑性樹脂層、(c)…金属層

図1
図2
図3