(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置、プラズマ処理装置の内部部材、および、プラズマ処理装置の内部部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
H01L21/302 101G
H01L21/302 101C
(21)【出願番号】P 2023544620
(86)(22)【出願日】2022-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2022032583
(87)【国際公開番号】W WO2024047746
(87)【国際公開日】2024-03-07
【審査請求日】2023-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】上田 和浩
(72)【発明者】
【氏名】池永 和幸
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-511388(JP,A)
【文献】特開2019-192701(JP,A)
【文献】国際公開第2021/124996(WO,A1)
【文献】特開2018-190985(JP,A)
【文献】特開2016-089241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内部に配置され、内側でプラズマが形成される処理室と、
前記処理室内に配置され、表面が前記プラズマに面する部材と、を備え、
前記部材は、
前記表面に、酸化イットリウム、フッ化イットリウム、オキシフッ化イットリウムの少なくとも1つと、+3価のイットリウムイオンよりもイオン半径が小さい+4価または+6価のイオンとなる元素とイットリウム、酸素、フッ素を含むセラミックス結晶材料から構成された皮膜であって、平均として酸素をイットリウムの1.5倍以上のモル比で、フッ素
をイットリウムの1倍以上、好ましくは1.4倍以上のモル比で含む前記
セラミックス結晶材料から構成された皮膜を備
え、
前記酸化イットリウム、フッ化イットリウム、オキシフッ化イットリウムが、Y
2
O
3
、YF
3
、YOF、Y
5
O
4
F
7
の少なくとも1つを含んだものであって、前記イットリウム、酸素、フッ素を含むセラミックス結晶材料が、YFCO
3
、YFSeO
3
、YFSO
4
、YFMoO
4
の何れか1つを含む、プラズマ処理装置。
【請求項2】
前記+4価または+6価のイオンとなる元素が、C、Si、Ge、Zr、Hf、S、Cr、Se、Mo、Te、Wの少なくとも何れか1つである、請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記酸化イットリウム、フッ化イットリウム、オキシフッ化イットリウムの少なくとも1つと、前記+4価または+6価のイオンとなる元素のオキシフッ化イットリウム物との材料
が溶射されて、またはエアロゾルデポジッション、あるいは物理蒸着により形成された前記皮膜を
備えた、請求項
1または2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記酸化イットリウム、フッ化イットリウム、オキシフッ化イットリウムが、Y
2O
3、YF
3、YOF、Y
5O
4F
7の少なくとも1つを含んだものであって、前記+4価または+6価のイオンとなる元素のオキシフッ化イットリウム物が、YFCO
3、YFSeO
3、YFSO
4、YFMoO
4の何れか1つを含む、請求
項3に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
真空容器内部に配置され
、内側でプラズマが形成される処理室を有し、
前記処理室の
前記内側に配置され
、表面が前記プラズマに面する内部部材であって、
前記内部部材の
前記表面に、酸化イットリウム、フッ化イットリウム、オキシフッ化イットリウムの少なくとも1つと、+3価のイットリウムイオンよりもイオン半径が小さい+4価または+6価のイオンとなる元素とイットリウム、酸素、フッ素を含むセラミックス結晶材料から構成された皮膜であって、平均として酸素をイットリウムの1.5倍以上のモル比で、フッ素
をイットリウムの1倍以上、好ましくは1.4倍以上のモル比で含む前記
セラミックス結晶材料から構成された皮膜を備
え、
前記酸化イットリウム、フッ化イットリウム、オキシフッ化イットリウムが、Y
2
O
3
、YF
3
、YOF、Y
5
O
4
F
7
の少なくとも1つを含んだものであって、前記イットリウム、酸素、フッ素を含むセラミックス結晶材料が、YFCO
3
、YFSeO
3
、YFSO
4
、YFMoO
4
の何れか1つを含む、プラズマ処理装置の内部部材。
【請求項6】
前記+4価または+6価のイオンとなる元素が、C、Si、Ge、Zr、Hf、S、Cr、Se、Mo、Te、Wの少なくとも何れか1つである、請求
項5に記載のプラズマ処理装置の内部部材。
【請求項7】
前記酸化イットリウム、フッ化イットリウム、オキシフッ化イットリウムの少なくとも1つと、前記+4価または+6価のイオンとなる元素のオキシフッ化イットリウム物との材料
が溶射されて、またはエアロゾルデポジッション、あるいは物理蒸着により形成された前記皮膜を
備えた、請求項
5または6に記載のプラズマ処理装置の内部部材。
【請求項8】
前記酸化イットリウム、フッ化イットリウム、オキシフッ化イットリウムが、Y
2O
3、YF
3、YOF、Y
5O
4F
7の少なくとも1つを含んだものであって、前記+4価または+6価のイオンとなる元素のオキシフッ化イットリウム物が、YFCO
3、YFSeO
3、YFSO
4、YFMoO
4の何れか1つを含む、請求
項7に記載のプラズマ処理装置の内部部材。
【請求項9】
真空容器内部に配置され、内側でプラズマが形成される処理室内に配置され
、表面が前記プラズマに面する内部部材であって、
前記内部部材の
前記表面に、酸化イットリウム、フッ化イットリウム、オキシフッ化イットリウムの少なくとも1つと、+3価のイットリウムイオンよりもイオン半径が小さい+4価または+6価のイオンとなる元素とイットリウム、酸素、フッ素を含むセラミックス結晶材料
を、平均として酸素をイットリウムの1.5倍以上のモル比で、フッ素を前記イットリウムの1倍以上、好ましくは1.4倍以上のモル比で含む前記
セラミックス結晶材料から構成された皮膜
であって、前記酸化イットリウム、フッ化イットリウム、オキシフッ化イットリウムが、Y
2
O
3
、YF
3
、YOF、Y
5
O
4
F
7
の少なくとも1つを含んだものであって、前記イットリウム、酸素、フッ素を含むセラミックス結晶材料が、YFCO
3
、YFSeO
3
、YFSO
4
、YFMoO
4
の何れか1つを含む皮膜を溶射またはエアロゾルデポジッションあるいは物理蒸着により形成する、プラズマ処理装置の内部部材の製造方法。
【請求項10】
前記+4価または+6価のイオンとなる元素が、C、Si、Ge、Zr、Hf、S、Cr、Se、Mo、Te、Wの少なくとも何れか1つである、請求
項9に記載のプラズマ処理装置の内部部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、真空容器内部の処理室内にプラズマを形成し当該処理室内に配置された半導体ウエハ等の処理対象の試料を処理するプラズマ処理装置、プラズマ処理装置の内部部材、および、プラズマ処理装置の内部部材の製造方法に係り、特に、処理室内のプラズマに面する表面に保護被膜を備えたプラズマ処理装置またはプラズマ処理装置用部材または、保護被膜およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハを加工して電子デバイスや磁気メモリ等の半導体デバイスを製造する工程において、当該半導体ウエハの表面に回路構造を形成するための微細な加工には、プラズマを用いたエッチング(プラズマエッチングという)が適用されている。このようなプラズマエッチングによる加工は、半導体デバイスの高集積化に伴って、益々高い加工精度や高い歩留まりが要求されている。
【0003】
電子デバイスや磁気メモリ等の半導体デバイスの製造において、微細加工には、プラズマエッチングが適用されている。プラズマエッチングを行うプラズマ処理装置の処理室内壁はエッチングプロセス時に高周波プラズマとエッチングガスに曝されるため、内壁表面は耐プラズマ性に優れた皮膜を形成し保護している。このような耐プラズマ性を有した皮膜の材料に関する従来の技術としては、次のようなものが知られている。
【0004】
特開2004-197181号公報(特許文献1)には、プラズマエッチング装置の内部に配置されるアース部の表面を覆う皮膜を構成する材料が、IIIA族元素(Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Y,Tm,Yb,Luから選ばれる少なくとも1種を主成分とする)とフッ素元素を含むものであって、IIIA族フッ化物相を含有しており、かつこのフッ化物相が斜方晶系で、空間群Pnmaに属する結晶相を50%以上含むものにすることが記載されている。
【0005】
特開2009-176787号公報(特許文献2)には、プラズマエッチング装置の内部に配置されるアース部の表面の皮膜を、Al2O3,YAG,Y2O3,Gd2O3,Yb2O3またはYF3のいずれか一種類、もしくは2種類以上を含む材料から構成することが記載されている。
【0006】
特開2014-141390号公報(特許文献3)、特開2016-27624号公報(特許文献4)、特開2018-82154号公報(特許文献5)には、プラズマエッチング装置の内部に配置されるアース部の皮膜材料として、平均結晶子サイズが100nm未満の酸化イットリウム、フッ化イットリウム、オキシフッ化イットリウムを、エアロゾルデポジション法により成膜することが記載されている。
【0007】
特表2016-539250号公報(特許文献6)には、プラズマエッチング装置のアース部の表面の皮膜の材料が、Y3Al5O12,Y4Al2O9,Er2O3,Gd2O3,Y2O3,Er3Al5O12,Gd3Al5O12,YF3又はNd2O3,Y4Al2O9とY2O3-ZrO2固溶体を含むことが記載されている。当該Y2O3-ZrO2固溶体は、イットリアを添加して高温相を安定化したジルコニアで、イットリア安定化ジルコニアとして良く知られている材料である。
【0008】
特開2017-190475号公報(特許文献7)には、Y,Sm,Eu,Gd,Er,Tm,Yb,Luの希土類フッ化物の結晶構造は高温型(六方晶系)と低温型(斜方晶系)があり、焼結温度からの冷却時に相変化しクラックが発生すること、イットリウム系フッ化物に例えばY2O3を微量添加すると、結晶が部分安定化されクラックの形態が変わり表面のクラックを減らすことが記載されている。
【0009】
国際公開第2017/043117号(特許文献8)には、オキシフッ化イットリウムをCaF2で安定化させることが記載されている。
【0010】
高温相を減らす一般的な方法としては、再加熱して徐冷し、残存している高温相を低温相に相変化させることが知られている。しかし、この方法では結晶成長が進み結晶子が粗大化してしまう。例えば、特許文献1の実施例には、直方晶が100%の被膜が示されているが、結晶サイズは1μm以上である。
【0011】
一方、「上田 和浩、池永 和幸、田村 智行、角屋 誠浩、「プラズマエッチング装置用イットリウム系材料の結晶構造と異物発生メカニズムの検討」、日本分析化学会X線分析研究懇談会(編集)、X線分析の進歩50、アグネ技術センター、発行日:2019年4月1日、p. 197-205」(非特許文献1)には、平均結晶子サイズを大きくすると異物発生が多くなることが開示されている。さらに、特開2019-192701号公報(特許文献9)は、プラズマ処理装置内部に配置されるアース部の皮膜の結晶子サイズを50nm以下にすることで内部で処理される半導体ウエハの異物の生起が低減されることが示され、皮膜を形成する際のアース部の基材の温度を所定の範囲内にすることで、低温相比率を60%以上に、結晶子サイズを50nm以下にできることが開示されている。
【0012】
また、「高島 正之、加納 源太郎、川瀬 政彦、「フッ化イットリウム安定化ジルコニアの生成と電気伝導性」、電気化学および工業物理化学、1985年53巻2号、発行日:1985年2月5日、p. 119-124」(非特許文献2)には、フッ化イットリウム安定化ジルコニア(YF3-ZrO2)に関する学術研究が載っている。
【0013】
高温相を室温安定化させると、プラズマ放電時に高温相が低温相に相変化しないため、相変化を原因とする異物発生を防ぐことが期待できる。
【0014】
「桑原 彰秀、幾原 雄一、佐久間 健人、「第一原理分子軌道計算法による安定化ジルコニアの相安定性評価」、材料、2001年50巻6号、発行日: 2001年6月15日、p.619-624」(非特許文献3)には、ジルコニア(ZrO2)の安定化は、Zr4+より価数の小さいY3+イオンを導入した、酸素イオン空孔効果によるZrの配位数の減少と、Zr4+のイオン半径(80pm)より大きなイオンを導入した格子歪が要因としていることを第一原理計算から導出している。
【0015】
特許文献8には、酸化イットリウムとフッ化イットリウムにCaF2を添加して焼結し、オキシフッ化イットリウムの高温相を安定化、部分安定化する技術が記載されている。この方法はY3+よりも価数の小さいCa2+イオンを導入し、フッ素イオンまたは酸素イオンの空孔効果を利用することで、高温相の安定化が可能であることを示唆している。
【0016】
特許文献7は、イットリウム系フッ化物にY2O3を微量添加すると、高温相が部分安定化されクラックの形態が変わり表面のクラックを減らせると記載されている。Y,O,Fの元素構成では、ジルコニアの安定化で計算された空孔効果や格子歪による高温相の安定化はできない。したがって特許文献7のY2O3-YF3は高温相の安定化、部分安定化とは異なる要因でクラックを減らしていると考えられる。
【0017】
「佐藤 正雄、福田 俊平、「YF3-PbF2熔融塩浴によるイットリウム鉄ガーネット単結晶の製造」、窯業協會誌、1963年71巻805号、発行日: 963年、p.101-104」(非特許文献4)には、1260℃のフッ化イットリウム融液に酸化イットリウムが15mol%溶けることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】特開2004-197181号公報
【文献】特開2009-176787号公報
【文献】特開2014-141390号公報
【文献】特開2016-27624号公報
【文献】特開2018-82154号公報
【文献】特表2016-539250号公報
【文献】特開2017-190475号公報
【文献】国際公開第2017/043117号
【文献】特開2019―192701号公報
【非特許文献】
【0019】
【文献】上田 和浩、池永 和幸、田村 智行、角屋 誠浩、「プラズマエッチング装置用イットリウム系材料の結晶構造と異物発生メカニズムの検討」、日本分析化学会X線分析研究懇談会(編集)、X線分析の進歩50、アグネ技術センター、発行日:2019年4月1日、p.197-205
【文献】高島 正之、加納 源太郎、川瀬 政彦、「フッ化イットリウム安定化ジルコニアの生成と電気伝導性」、電気化学および工業物理化学、1985年53巻2号、発行日:1985年2月5日、p.119-124
【文献】桑原 彰秀、幾原 雄一、佐久間 健人、「第一原理分子軌道計算法による安定化ジルコニアの相安定性評価」、材料、2001年50巻6号、発行日:2001年6月15日、p.619-624
【文献】佐藤 正雄、福田 俊平、「YF3-PbF2熔融塩浴によるイットリウム鉄ガーネット単結晶の製造」、窯業協會誌、1963年71巻805号、発行日: 1963年、p.101-104
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、上記の従来技術では、以下の点について考慮が不十分であったため問題が生じていた。
【0021】
すなわち、プラズマエッチングに用いるプラズマ処理装置に求められる加工の精度が高まるに伴って、プラズマ処理装置の真空容器内部に配置された処理室内において、プラズマエッチング処理中に生成される異物のサイズ(例えば、直径の長さ)も小さくなっている。このように径がより小さい微粒子(異物)に対してもその発生を抑制することが求められている。また、長期間、プラズマ処理装置を連続稼働させた場合でも、異物の発生を抑制し続けることが求められている。
【0022】
皮膜として希土類酸化物を用いた上記従来技術では、被膜がプラズマ処理ガスによりフッ化されるため、上記の腐食や微小なパーティクル(異物とも称す)の発生を十分に抑制できる溶射被膜を生成する条件について十分に考慮されていなかった。また、希土類フッ化物を用いた上記従来技術では、被膜がプラズマ処理ガスにより酸化されるため、上記の腐食や微小なパーティクルの発生を十分に抑制できる溶射被膜を生成する条件について十分に考慮されていなかった。さらに希土類オキシフッ化物においても、上記従来技術では、被膜がプラズマ処理ガスにより酸化される際に相変化するため、上記の腐食や微小なパーティクルの発生を十分に抑制できる溶射被膜を生成する条件について十分に考慮されていなかった。
【0023】
すなわち、特許文献8に記載の従来技術は、酸化イットリウムとフッ化イットリウムにCaF2を添加して焼結し、オキシフッ化イットリウムの高温相を安定化、部分安定化するものである。本従来技術は、Y3+よりも価数の小さいCa2+イオンを導入し、フッ素イオンまたは酸素イオンの空孔効果を利用することで、高温相の安定化が可能であることを示唆している。
【0024】
特許文献7は、イットリウム系フッ化物にY2O3を微量添加すると、高温相が部分安定化されクラックの形態が変わり表面のクラックを減らせると記載されている。Y,O,Fの元素構成では、ジルコニアの安定化で計算された空孔効果や格子歪による高温相の安定化はできない。したがって特許文献7のY2O3-YF3は高温相の安定化、部分安定化とは異なる要因でクラックを減らしていると考えられる。
【0025】
このように、特許文献7,8においてY2O3,CaF2を添加することでYF3,YOFを(部分)安定化し、成膜時のクラック発生を抑制していると考えられるが、プラズマ処理ガスによりフッ化、酸化されるため、上記の腐食や微小なパーティクルの発生を十分に抑制できる溶射被膜を生成する条件について十分に考慮されていなかった。
【0026】
また、特許文献8に記載された高温相を減らす一般的な方法は、再加熱して徐冷し、残存している高温相を低温相に相変化させる方法である。しかし、この方法は結晶成長が進み結晶子が粗大化する。特許文献1の実施例には、直方晶が100%の被膜が示されているが、結晶サイズは1μm以上である。一方で特許文献9には、低温相比率が60%以上、結晶子サイズ50nm以下とする方法が示されているが、70~80%を超える高い低温相比率を実現することは難しい。
【0027】
非特許文献4には、1260℃のフッ化イットリウム融液に酸化イットリウムが15mol%溶けることが示されている。開示者らの検討では、フッ素リッチなYOF膜はYOF粒子の粒界にYF3が偏析することが分かっている。このため、Y2O3-YF3は、最終的には、YF3とYOFとが分離し、YF3:YOFのモル比は3:2となる。このことから、特許文献7のY2O3-YF3はYF3中のYOFがピニング・サイトとなりクラックの進展を止めていると考えられる。
【0028】
以上の通り、従来の技術では、発生したパーティクル(異物)により、処理対象の試料の汚染が生起して、処理の歩留まりが損なわれていた。
【0029】
本開示の目的は、異物の発生を低減して、処理の歩留まりを向上させたプラズマ処理装置またはその内部部材、あるいは、その内部部材の製造方法を提供することにある。
【0030】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本開示のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば下記の通りである。
【0032】
真空容器内部に配置され、内側でプラズマが形成される処理室と、
前記処理室内に配置され、表面が前記プラズマに面する部材と、を備え、
前記部材は、前記表面に、酸化イットリウム、フッ化イットリウム、オキシフッ化イットリウムの少なくとも1つと、+3価のイットリウムイオンよりもイオン半径が小さい+4価または+6価のイオンとなる元素とイットリウム、酸素、フッ素を含むセラミックス結晶材料から構成された皮膜であって、平均として酸素をイットリウムの1.5倍以上のモル比で、フッ素を前記イットリウムの1倍以上、好ましくは1.4倍以上のモル比で含む前記セラミックス結晶材料から構成された皮膜を備え、前記酸化イットリウム、フッ化イットリウム、オキシフッ化イットリウムが、Y
2
O
3
、YF
3
、YOF、Y
5
O
4
F
7
の少なくとも1つを含んだものであって、前記イットリウム、酸素、フッ素を含むセラミックス結晶材料が、YFCO
3
、YFSeO
3
、YFSO
4
、YFMoO
4
の何れか1つを含む、プラズマ処理装置またはプラズマ処理装置用の部材により達成される。
【発明の効果】
【0033】
本開示に係るプラズマ処理装置またはその部材によれば、処理室内に配置された前記部材の表面の被膜からの異物の発生を低減することか可能となる。これにより、異物に起因する処理対象の試料の汚染が低減されるので、処理対象の試料の処理の歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、実施例に係るプラズマ処理装置の構成の概略を模式的に示す縦断面図である。
【
図2】
図2は、結晶子の大きさの平均値、異物発生量のプラズマ放電時間依存性を示す図である。
【
図3】
図3は、結晶子の大きさの平均値、高温相の比率、異物発生量のプラズマ放電時間で依存性を示す図である。
【
図4】
図4は、高温相の比率と一定時間のプラズマ放電で発生した異物量の相関関係図である。
【
図5】
図5は、
図1の実施例に示すアース電極表面の皮膜を形成する製造方法を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、オキシフッ化イットリウム、フッ化イットリウム、酸化イットリウムの組成の関係を示した図である。
【
図7】
図7は、従来技術により形成された皮膜と本実施例の皮膜との特性を比較した表を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本開示の実施例について、図を用いて説明する。ただし、以下の説明において、同一構成要素には同一符号を付し繰り返しの説明を省略することがある。なお、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本開示の解釈を限定するものではない。
【実施例】
【0036】
図1は、実施例に係るプラズマ処理装置の構成の概略を模式的に示す縦断面図である。
【0037】
本実施例のプラズマ処理装置100は、プラズマエッチング装置であり、円筒形部分を有した真空容器と、円筒形部分上方または側方周囲にこれを囲んで配置されたプラズマ形成部と、真空容器の下方に配置され真空容器内部を排気する真空ポンプを含む真空排気部と、を備えている。真空容器の内部にはプラズマが形成される空間である処理室5が配置され真空排気部と連通可能に構成されている。
【0038】
処理室5の上部は、周囲を、円筒形を有した内壁に囲まれた空間であって、プラズマ13が形成される放電室を構成する。プラズマ13が生成される放電室の下方の処理室5内部には、ステージ4が配置されている。ステージ4は、被処理基板であるウエハ3がその上面の上に乗せられて保持される試料台である。プラズマ処理装置100は、例えば、ステージ4に載置された被処理基板であるウエハ3に対して、エッチング処理(以下、単に、処理とも言う)を行うことができる。
【0039】
ステージ4は、上方から見て放電室と同心またはこれと見なせる適度に近似した位置に、ステージ4の上下方向の中心軸が配置された円筒形状を有した部材で構成されている。真空排気部と連通される開口が配置された処理室5の底面とステージ4の下面の間には空間が開けられており、処理室5の上下方向について上端面と下端面との間の中間の位置にステージ4が保持されている。ステージ4の下方の処理室5の内部の空間は、ステージ4の側壁とステージ4の周囲を囲む処理室5の円筒形を有した内壁面との間のすき間を介して放電室に連通されており、ステージ4の上面の上方のウエハ3の処理中に、ウエハ3の上面及び放電室に生じた生成物や放電室内のプラズマ、ガスの粒子が通って真空排気部により処理室5の外部に排出される排気の経路を構成する。
【0040】
ステージ4は、円筒形を有した金属製の部材である基材を有する。ステージ4の基材には、その基材の上面を覆って配置された誘電体製の膜の内部に配置されたヒータ(図示せず)と、その基材の内部に上記中心軸周りに同心または螺旋状に多重に配置された冷媒流路(図示せず)と、が配置されている。さらに、ステージ4の上記誘電体製の膜の上面の上にウエハ3が載せられた状態で、ウエハ3下面と誘電体膜上面とのの間のすき間にHe等の伝熱性を有したガスが供給される。このため、基材および誘電体製の膜の内部には伝熱性を有したガスが通流する配管(図示せず)が配置されている。
【0041】
さらに、ステージ4の基材は、プラズマによるウエハ3の処理中に、ウエハ3お上面の上方にプラズマ中の荷電粒子を誘引するための電界を形成するための高周波電力が供給される高周波電源12がインピーダンス整合器11を介して同軸ケーブルにより接続されている。また、ステージ4の基材の上方の誘電体膜内のヒータの上方には、ウエハ3を誘電体膜上面に吸着して保持するための静電気力を誘電体膜及びウエハ3の内部に生起するための直流電力が供給される膜状の電極(図示せず)が設けられている。この電極は、ウエハ3またはステージ4の略円形の上面の上下方向の中心軸から径方向に複数の領域毎に中心軸周りに対称に配置され、この複数の領域の各々に異なる極性が付与可能に構成されている。
【0042】
処理室5のステージ4の上面の上方には、窓部材2が備えられている。窓部材2は、ステージ4の上面と対向して配置され、真空容器の上部を構成する。窓部材2は、処理室5の内外を気密に封止する石英やセラミクス等の誘電体製の円板形状を有している。窓部材2の下方であって、処理室5の天井面を構成する位置には、窓部材2の下面と間隙6をあけて配置されたシャワープレート1が備えられている。シャワープレート1は、その中央部に複数の貫通穴7を備えた石英等誘電体製の円板形状を有している。
【0043】
間隙6は、処理ガス供給配管25と連通するように真空容器に連結される。処理ガス供給配管25の所定の箇所には、処理ガス供給配管25の内部を開放または閉塞するバルブ26が配置されている。処理室5の内部に供給される処理用のガス(処理ガス)は、処理ガス供給配管25の一端側に連結されたガス流量制御手段(図示せず)によりその流量または速度が調節され、バルブ26が開放した処理ガス供給配管25を通して間隙6の内部に流入される。間隙6の内部に流入された処理ガスは、その後、間隙6の内部で拡散し、シャワープレート1の貫通穴7から処理室5の内に、処理室5の上方側から供給される。
【0044】
真空容器の下方には、処理室5内部のガスや粒子を排出する真空排気部が配置されている。真空排気部は、処理室7の底面のステージ4の直下方であって、上下方向の中心軸をほぼ同一にされて配置された排気用の開口である排気口を介して、処理室5内部のガスや粒子を排出する。真空排気部は、圧力調整板14と、真空ポンプであるターボ分子ポンプ10とを備えている。圧力調整板14は、排気口の上方で上下に移動して排気口へガスが流入する流路の面積を増減する円板状のバルブである。真空排気部は、さらに、粗引きポンプであるドライポンプ9とバルブ16とを有する。ターボ分子ポンプ10の出口は、排気配管を介してドライポンプ9に連結されて連通される。排気配管上には、バルブ16が配置されている。
【0045】
圧力調整板14は、排気口を開閉するバルブの役目も兼用している。真空容器には処理室5内部の圧力を検知するためのセンサである圧力検出器27が備えられている。圧力検知器27から出力された信号は、図示しない制御部に送信されて圧力の値が検出される。その圧力の値に応じて制御部から出力された指令信号に基づいて圧力調整板14が駆動される。これにより、圧力調整板14の上下方向の位置が変化して、上記排気の流路の面積が増減される。
【0046】
排気配管8に接続されているバルブ15とバルブ17のうち、バルブ15は、処理室5を大気圧から真空にドライポンプ9でゆっくり排気するためのスロー排気用のバルブである。一方、バルブ17は、ドライポンプ9で高速に排気するためのメイン排気用のバルブである。
【0047】
処理室5を構成する真空容器の上部の円筒形部分の上方及び側壁を囲む周囲には、導波管19とマグネトロン発振器18が配置されている。導波管19とマグネトロン発振器18とは、プラズマを形成するために処理室5に供給される電界または磁界を形成するための構成である。すなわち、窓部材2の上方には、処理室5内部に供給されるマイクロ波の電界が内側を伝播する管路である導波管19が配置され、その一端部にはマイクロ波の電界を発振して出力するマグネトロン発振器18が配置されている。
【0048】
導波管19は、方形導波管部と円形導波管部と、を備えている。方形導波管部は、縦断面が矩形状を有して水平方向にその軸が延在し、一端部にマグネトロン発振器18が配置されている。円形導波管部は、方形導波管部の他端部に接続されて上下方向に中心軸が延在し横断面が円形を有している。円形導波管部の下端部は、その径が大きくされた円筒形を有する空洞部が配置されている。空洞部は、その内部で特定のモードの電界が強化されるように構成されている。磁場発生手段である複数段のソレノイドコイル20とソレノイドコイル21とが空洞部の上方及びその周囲、さらには処理室5の側周囲を囲んで備えられている。
【0049】
図1に示すプラズマ処理装置100において、未処理のウエハ3は、真空容器の側壁と接続された別の真空容器(図示せず)である真空搬送容器内部の搬送室内を当該搬送室内に配置されたロボットアーム等の真空搬送装置(図示せず)のアームの先端部に載せられて処理室5内に搬送される。そして、アームの先端部の未処理のウエハ3は、ステージ4の上面の上に載置される。真空搬送装置のアームが処理室5から退室すると、処理室5の内部が密封される。そして、未処理のウエハ3は、ステージ4の誘電体膜内の静電吸着用の電極に直流の電圧が印加されて生起された静電気力により、誘電体膜の上に保持される。この状態で、ウエハ3の下面とステージ4の上面を構成する誘電体膜の上面との間のすき間には、He等の熱伝達性を有したガスが、ステージ4の内部に配置された配管を通して供給される。さらに、ステージ4の内部の冷媒流路に、図示しない冷媒温度調節器で温度が所定の範囲に調節された冷媒が供給される。これにより、温度が調節されたステージ4の基材とウエハ3との間での熱の伝達が促進され、ウエハ3の温度が処理の開始に適切な範囲内の温度の値に調整される。
【0050】
ガス流量制御手段により流量又は速度が調節された処理ガスが処理ガス供給配管25を通り間隙6から貫通穴7を通して処理室5内に供給されると共に、ターボ分子ポンプ10の動作により排気口から処理室5の内部が排気されて、両者(処理室5の内部への処理ガスの供給と、処理室5の内部の排気)のバランスにより、処理室5内部の圧力が処理に適した範囲内の圧力の値に調節される。この状態で、マグネトロン発振器18から発振されたマイクロ波の電界が導波管19内部を伝播して窓部材2及びシャワープレート1を透過して処理室5の内部に放射される。さらに、ソレノイドコイル20,21で生成された磁界が処理室5に供給され、磁界とマイクロ波の電界との相互作用によって電子サイクロトロン共鳴(ECR:Electron Cyclotron Resonance)が生起され、処理ガスの原子又は分子が励起され、電離、解離することにより処理室5内部にプラズマ13が生成される。
【0051】
プラズマ13が形成されると、ステージ4の基材に高周波電源12からの高周波電力が供給されて、ウエハ3の上面の上方にバイアス電位が形成され、プラズマ13中のイオン等の荷電粒子がウエハ3の上面に誘引されて、ウエハ3の上面の上に予め形成された処理対象の膜層及びマスク層とを含む複数の膜層を有した膜構造の当該処理対象の膜層のエッチング処理が、マスク層のパターン形状に沿って進行する。図示しない検出器により、処理対象の膜層の処理がその終点に到達したことが検出されると、高周波電源12からの高周波電力の供給が停止され、プラズマ13が消失されて当該処理が停止される。
【0052】
ウエハ3のエッチング処理を更に進行させる必要が無いことが制御部により判定されると、高真空排気が行われる。さらに、静電気が除かれてウエハ3の吸着が解除された後、真空搬送装置のアームが処理室5に進入して、処理済みのウエハ3がアームに受け渡される。その後、アームの収縮に伴って、ウエハ3が処理室5の外部の真空搬送室に搬出される。
【0053】
このような処理室5の内側壁面はプラズマ13に面してその粒子に曝される面である。一方、誘電体であるプラズマ13の電位を安定させる上では、処理室5内にプラズマと面してこれに接するアース用の電極として機能する部材が配置される必要がある。
【0054】
プラズマ処理装置100では、アース電極22が、アース用の電極として機能を有することを目的として、放電室を囲む処理室5の内部の側壁(内側壁)の下部の表面を覆うように配置されている。アース電極22は、放電室を囲む処理室5の内側壁の下部の表面を覆って、ステージ4の上面の上方でその周囲を囲んで配置されたリング状の部材で構成される。アース電極22は、導電性を有した材料から構成された母材と、この表面を被覆する被膜とを備える。アース電極の母材は、この例では、基材がステンレス合金やアルミニウム合金等の金属から構成されている。
【0055】
アース電極22は、母材の表面に被膜が無い場合、当該箇所(被膜が無い部分)においてプラズマ13に曝されるので、ウエハ3の汚染を生起する腐食や異物の発生源となる可能性がある。そのため、汚染を抑制するために、アース電極22の表面は耐プラズマ性の高い材料からなる被膜24がアース電極22の基材を覆って配置されている。被膜24によって、処理室5の内壁を覆うアース電極22のプラズマを介した電極として機能を維持しつつ、アース電極22においてプラズマによるダメージを抑制することができる。アース電極22の基材と、その基材覆って配置される被膜24とが、その表面がプラズマに面する内部部材と見なすことができる。被膜24は、皮膜24とも言うことがある。
【0056】
なお、被膜24は積層された膜であっても良い。本実施例では、被膜24として、例えば、酸化イットリウム(Y2O3)、フッ化イットリウム(YF3)、オキシフッ化イットリウム(YOF)、または、これらを1つ以上含むセラミックス結晶材料を、大気プラズマ溶射、懸濁プラズマ溶射、爆発溶射、減圧プラズマ溶射、エアロゾルデポジション(AD:Aerosol Deposition)、または、物理蒸着(PVD:physical vapor deposition)を用いて、所定の範囲内の表面粗さにされたアース電極22の母材の表面に、多数の酸化イットリウム結晶、フッ化イットリウム結晶、オキシフッ化イットリウム結晶が一体に堆積、形成された皮膜を用いた。
【0057】
一方、アース電極22としての機能を有さない処理室5の内壁の基材23においても、ステンレス合金やアルミニウム合金等の金属製の部材が用いられている。基材23の表面にも、プラズマ13に曝されることによって生じる腐食や金属汚染、異物の発生を抑制するため、不動態化処理、各種溶射、PVD,化学蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)等のプラズマに対する耐蝕性を向上させ、基材23の消耗を低減する処理が施されている。
【0058】
なお、基材23がプラズマ13からの上記相互作用を低減するため、円筒形状を有した基材23の内壁面の内側であって放電室との間に、酸化イットリウムや石英等のセラミック製の円筒形のカバー(図示せず)が配置されても良い。このようなカバーが基材23とプラズマ13の間に配置されることによって、プラズマ13内の反応性の高い粒子との接触や荷電粒子の衝突が遮断あるいは低減され、基材23の消耗を抑制することができる。
【0059】
本実施例の被膜24は、以下の知見に基づいて作製されている。
【0060】
特許文献9(特開2019-192701号公報)の
図4やX線分析の進歩50,pp.197(2019)(非特許文献1)のFig.5に示されるように、平均結晶子サイズを大きくすると、プラズマ処理装置内の半導体ウエハに対する異物の発生が多くなる。このことから、特許文献9では被膜の結晶子サイズを50nm以下にすることで異物の発生を抑制する技術が開示されている。
【0061】
一方で、
図2に示したように、プラズマの放電に曝される時間が増加するに伴って、皮膜の平均の結晶子サイズが小さくなり、このことで単位時間あたりの異物の発生量は減少する。しかし、結晶子サイズは40nmを下回るとそのサイズの減少速度は小さくなることが判っている。さらに、特許文献9の
図4や非特許文献1のFig.5が示すように、平均結晶子サイズを小さくしても異物の発生量は0にならない。
【0062】
図2は、プラズマ放電時間と異物発生量、結晶子サイズの相関を示した図である。
【0063】
図2において、棒グラフは、皮膜24を棒の左端の時間(t1)から右端の時間(t2)までプラズマに照射した場合に発生した異物の数を示している。さらに、単位時間当たりに検出した異物数を左側の縦軸として、プラズマに照射した時間(照射時間の中央)を横軸として白四角(□)で示し、プラズマに照射した内壁材の平均の結晶子サイズを右側縦軸として黒丸(●)で示している。
【0064】
図2に示すように、プラズマの放電に曝された時間が増加するに伴って単位時間当たりの異物の発生数は減少し、皮膜24の表面の結晶子の平均サイズが小さくなることが判る。しかし、40nmを下回ると結晶子の平均サイズが減少する割合は小さくなることが判る。
【0065】
平均の結晶子サイズが40nm以下である範囲での異物発生の要因を検討した結果を
図3に示す。プラズマに曝される時間(横軸)を長くしても、黒丸(●)で示された平均の結晶子サイズ(右側縦軸の下側)は約30nmを中心に大きな変化は示されていない。一方で、白四角(□)で示した単位時間当たりの異物の発生量(異物数:左側縦軸)はプラズマに曝される時間(横軸)の増大に伴って減少している。このとき、黒ひし形(◆)で示した結晶子の全体に対する低温相である直方晶または斜方晶の比率(低温相比率:右側縦軸の上側)が増加している。この低温相の比率は、皮膜24を構成する材料の低温相である直方晶または斜方晶である結晶の量M1(個数または質量あるいは体積)と高温相である六方晶の結晶の量M2(個数または質量あるいは体積)との合計(M1+M2)を分母として、これに対する低温相である直方晶または斜方晶の結晶の量を分子(M1)とした比率である(低温相の比率=M1/(M1+M2))。
【0066】
図2、
図3に示す結果から、プラズマに対して暴露された時間の変化に対して、皮膜24の平均の結晶子サイズが40nm以下であって、六方晶の比率が変化しない場合(低温相の比率が、0.6から0.7の間の値)には、異物が発生していないと考えられる。このことから、本実施例の皮膜24を用いた場合は、処理室5内で複数枚のウエハ3をプラズマを用いて処理した時間の累積で数個の異物が発生することが分かる。つまり、皮膜24の結晶の大きさの平均値が50nm以下であるのが良い。
【0067】
この結果を元にした、異物発生量と高温温相の相関を
図4に示す。
図4は、高温相の比率と一定時間のプラズマ放電で発生した異物量の相関関係図である。
図4では、横軸に本実施例に係るプラズマ処理装置100で処理されたウエハ3のアース電極22の表面の皮膜24を構成するイットリウムを含む材料の低温相または高温相の全体に対する比率を、縦軸にウエハ3の表面から検出される異物の個数を採っている。
【0068】
図4に示すように、低温相の割合が増大する(高温相の比率を低減する)に伴って、黒四角(■)で示される異物の量が低減することが判る。このことから、皮膜24を構成するイットリウムを含む材料の高温相の比率を相対的に低くすることで、異物の生起を抑制できることが想定される。
【0069】
このような高温相を減らす一般的な手段として、再加熱して徐冷することで残存している高温相を低温相に相変化させることが考えられる。しかし、この手段では、イットリウムを含む材料の結晶の成長が進み結晶子が大きくなってしまう。特許文献1の実施例には、直方晶が100%である皮膜の例が示されているが、当該皮膜を構成する材料の結晶サイズは1μm以上になっている。
【0070】
一方、特許文献9は、フッ化イットリウムを含む材料を用いた大気圧条件下でプラズマ溶射法により皮膜を形成する際の皮膜の表面の温度を、特許文献9の実施例、図面に記載されるように、280℃以上または350℃以下の範囲内の値に維持することで、皮膜の結晶のうちで低温相である直方晶(斜方晶)の比率が60%以上に、結晶子のサイズが50nm以下にできることが示されている。しかしながら、実際には、イットリウムを含む皮膜の材料について、70%を超えるような高い低温相(斜方晶)の比率を実現することは困難である。
【0071】
特許文献6に示されたY2O3-ZrO2固溶体は、イットリアが添加されて高温相を安定化したジルコニアで、イットリア安定化ジルコニアとして良く知られている材料である。また、非特許文献2にはフッ化イットリウム安定化ジルコニア(YF3-ZrO2)に関する学術研究が載っている。
【0072】
開示者らは、皮膜24を構成する材料の高温相である六方晶が特定の範囲の温度(例えば、25℃近傍の室温)において低温相である直方晶または斜方晶に相変化してしまい、この際の結晶の相変化により微粒子等が生起すると想定し、このような相変化を抑制して高温相の結晶を安定化することで異物の発生が抑制できると考えた。すなわち、高温相を安定化して、プラズマの放電時に高温相が低温相に相変化し難くすることで、相変化を原因とする異物の発生を防ぐことが期待できる。
【0073】
非特許文献3は、ジルコニア(ZrO2)の安定化は、Zr4+イオンより価数の小さいY3+イオンを導入した、酸素イオン空孔効果によるZrの配位数の減少と、Zr4+のイオン半径(80pm)より大きなイオンを導入した格子歪が要因としていることを第一原理計算から導出している。
【0074】
また、特許文献8には、酸化イットリウムとフッ化イットリウムにCaF2を添加して焼結し、オキシフッ化イットリウムの高温相を安定化、部分安定化する技術が記載されている。このことから、Y3+よりも価数の小さいCa2+イオンを導入し、フッ素イオンまたは酸素イオンの空孔効果を利用することで、高温相の安定化が可能であることが示唆される。さらに、特許文献7は、イットリウム系フッ化物にY2O3を添加すると、高温相が部分安定化され、クラックの形態が変わり、表面のクラックを減らせることが記載されている。
【0075】
しかしながら、開示者らの検討によれば、Y,O,Fの元素の構成では、ジルコニアを安定化することで、計算された空孔効果や格子歪による高温相の安定化はできない。このことから、特許文献7のY2O3-YF3は、高温相の安定化、部分安定化とは異なる要因でクラックを減らしていると考えられる。
【0076】
一方で、非特許文献4のFig.1には、1260℃のフッ化イットリウム融液に酸化イットリウムが15mol%溶けることが示されている。開示者らの検討では、フッ素リッチなYOF膜はYOF粒子の粒界にYF3が偏析することが判っている。このことは、Y2O3-YF3は最終的にはYF3とYOFが分離し、YF3:YOFのモル比は3:2となることを示している。このことから、特許文献7のY2O3-YF3はYF3中のYOFがピニング・サイトとなりクラックの進展を止めていると考えられる。
【0077】
開示者らの検討によれば、イットリウム系フッ化物に酸化イットリウム(Y2O3)を微量添加した皮膜24をXRD(X線回折:X-ray Diffraction)によりその結晶の構造を解析した結果、皮膜24では主層がY5O4F7で、低温相のフッ化イットリウム(YF3)と高温相(オキシフッ化イットリウム(YOF)とフッ化イットリウム(YF3))が40%含まれていた。Y5O4F7の結晶子サイズは35nmであった。また、皮膜24の元素濃度は蛍光X線を用いて測定した結果、Y:32at%、O:9.4at%、F:58at%であった。
【0078】
プラズマ放電に長時間暴露したこのような皮膜24について結晶の構造の解析及び濃度の検出した結果、高温相のYOFと低温相のYF3が減少し、Y5O4F7が増加し、元素濃度がY:35at%、O:14at%、F:51at%と酸素濃度が増加したことが判った。これは、皮膜24表面が相変化するとともに酸化されたことを示している。酸素濃度を増やすためにY2O3の添加量を増やした皮膜24は、立方晶Y2O3がXRDで検出され、結晶子サイズが70nmと大きかった。
【0079】
そこで、開示者らは、さらに、このようなYOFおよびY2O3を材料とする皮膜24の表面の酸化、フッ化による腐食ついて検討した。皮膜24の表面のY2O3は、ウエハ3のエッチング処理中にプラズマ放電に曝されることでエッチングされると共にフッ化される。また、皮膜24のYF3は、同様に酸化される。
【0080】
つまり、プラズマに曝された皮膜24は、Y2O3とYF3のモル比1:1に当たるYOF、その付近の安定相であるY5O4F7の混合膜となっている。ここで、YOFもウエハ3の処理中に形成されるプラズマの放電に長期間曝されると表面が酸化される。このことから、溶射により形成される皮膜24を構成する材料のY:Oのモル比が1:1.5以上であれば、プラズマに長期間さらされた場合でも酸化され難いと考えられる。さらに、Fに関しても、皮膜24の材料のY:Fのモル比が1:1以上、できれば1:1.4以上である場合に、プラズマに曝された場合のフッ化が抑制されると考えられる。
【0081】
一方、特許文献8では、オキシフッ化イットリウムの高温相を(少なくとも部分的に)安定化するために、CaF2を添加してYOF結晶にY3+イオンより価数の小さいCa2+イオンが導入される。このため、酸素またはフッ素イオン空孔効果により高温相が安定化すると想定される。しかし、酸素イオンまたはフッ素イオンの空孔が発生することで、酸素プラズマやフッ素プラズマに対する耐性が低下してしまうことになる。
【0082】
また、元素の濃度も、フッ素が増加するものの酸素が増加しないため、Y:Fのモル比が1:1以上となってもY:Oのモル比が1:1.5以上にならない。このため、YOFにCaF2を添加した材料が用いられた皮膜24が長時間のプラズマにさらされた場合には、皮膜24の表面では酸化が進行してしまい、異物が生起する虞がある。
【0083】
そこで、開示者らは、YOF結晶に、Y3+のイオン半径(93pm)より大きなイオンを導入し、格子歪効果により皮膜24を安定化することを検討した。2価以上のイオンでイオン半径が93pmより大きなイオン半径の元素としては、101pmのCe3+と99pmのCa2+、113pmのSr2+に限られる。
【0084】
CeO2、CaO2、SrOを添加することで、結晶が(部分)安定化したYOFを材料とする皮膜24を形成することができる。皮膜24は、大気プラズマによる溶射(大気プラズマ溶射、APS)法を用いて形成することができる。大気プラズマ溶射法を用いて形成する皮膜24は、CeO2-YOF固溶体を材料として、大気圧またはこれに近似した気圧の下で、被覆される母材に向けて、ガスを用いてプラズマを形成しつつ、皮膜24の材料の粒子をプラズマ中に供給して溶融させ、母材表面に吹き付けて積層させることで、形成することができる。
【0085】
皮膜24の形成に用いる大気プラズマ溶射を、
図5を用いて説明する。
図5は、
図1の実施例に示すアース電極表面の皮膜を形成する製造方法を模式的に示す図である。
【0086】
図5に示すように、母材である基材23表面から距離を開けて溶射用のガンGNを配置し、ガンGNから基材23上面に向けて吹き出すガスを用いて、形成したプラズマ内に、ガンGNの先端からプラズマに向けて、皮膜24の材料の微粒子を投入することで、当該微粒子を溶融または半溶融状態にし、微粒子をプラズマの流れる方向に沿って基材23上面に吹き付けるものである。
【0087】
溶射用のガンGNは、電源203と、ノズル201と、材料供給管205と、から構成される。ノズル201は、電源203に電気的に接続され、電源203から所定の電圧が印加される。また、ノズル201は、先端の開口OP1からプラズマ形成用のアルゴン(Ar)ガス(GA)を吹き出すように構成されている。材料供給管205は、ノズル201先端の開口OP1から所定の距離を開けて配置される。材料供給管205は、その先端の開口OP2から材料の微粒子がアルゴンガスGAの流れる方向202を横切る方向に吹き出すように構成されている。
【0088】
なお、ノズル201は、中心部の棒状の端子T1と、端子T1の外周を隙間を開けて囲む外周の円筒状の端子T2との各々が電源203の各々の極性の端子に電気的に接続される。中心部の端子T1の外周の隙間は、ノズル201の先端のガス吹き出し口の開口OP1と連通されて、アルゴンガスGAのガス供給路を構成する。アルゴンガスGAのガス供給路からガス吹き出し口の開口OP1を通る軸の向きは、ノズル201先端からのアルゴンガスGAの吹き出し、または、ノズル201先端のその先に形成されるプラズマの放射の方向に沿っている。
【0089】
電源203からノズル201の各端子T1,T2に印加された高電圧により、吹き出し口(OP1)の先の空間にアーク放電が発生するように構成されている。ノズル201に接続された図示しないガス源からガス供給路に供給されたArガスGAは、ガス吹き出し口(OP1)からガス流れ202として基材23上面に向けて放出された状態で、ノズル201の各端子T1,T2に電源203から高電圧を印加して吹き出し口(OP1)の先の空間にアーク放電を発生される。発生したアーク放電により、Arガスが励起されて、ノズル201と基材23との間で溶射フレーム204が形成される。この状態で、材料供給管205において、溶射材料206が、輸送ガスの流れ207と共に、材料供給管205の内部の流路を通り、材料供給管205の先端の開口OP2から溶射フレーム204に向けて導入(供給)される。溶射材料206は、この実施例では、オキシフッ化イットリウムにCeO2が35モル%またはこれとみなせる程度に近似した値となるように比率が調整された皮膜24の材料の微粒子である。
【0090】
溶射材料206を構成する各粒子は、溶融または半溶融の状態となり、溶射フレーム204のプラズマおよびArガスGAの流れ202に沿って、アルミニウムまたはアルミニウム合金を含む材料で構成された基材23の表面に衝突し付着する。そして、付着した溶射材料206を構成する各粒子は、冷却するに伴って基材23の表面において固化される。固化して相互に溶着した各粒子が基材23の表面の所定の領域上を覆うと共に、所望の厚さとなるまで上方に積み重ねられて、被膜208(24)が形成される。この実施例では、これを繰り返し、約100μmの厚さの皮膜24を成膜した。また、被膜208(24)が所望の厚さまで形成された状態で、半溶融状態の粒子が皮膜24の内部に残らないように、ノズル201と基材23との間の距離が設定される。
【0091】
以下に説明する実施例に係る皮膜24は、何れも、
図5に示す大気プラズマ溶射を用いて形成される。ただし、上記の例において、プラズマ中の酸素、フッ素に対する耐性を向上するため酸素のモル比(濃度)をY(イットリウム)の1.5倍以上にするには、CeO
2,CaO
2,SrOの量を多くする必要がある。しかし、Ca,Srは2価のプラスイオンとなるため、半導体ウエハを汚染してしまう虞があり、添加する量を大きくし過ぎることは適切ではない。
【0092】
このように形成された皮膜24の各元素の濃度を蛍光X線を用いて測定した。その結果、皮膜24表面では、Y:20at%、O:45at%、F:22at%、Ce:13at%であった。また、Y:Oが1:2.2,Y:Fが1:1.1であることが検出された。
【0093】
XRDによる結晶の構造の解析の結果からは、主層がYOF(CeO2-YOF固溶体)であること、微量のYF3とCeO2結晶が存在していることが判明した。また、YOFの結晶子サイズは40nm、CeO2-YOF固溶体の六方晶比率は約90%であった。一方、プラズマに長時間暴露した皮膜24について結晶の構造を解析した結果、六方晶の相比率は暴露していないものに比べて殆ど変化が認められなかった。
【0094】
オキシフッ化イットリウムは、高温相は六方晶、低温相が直方晶だが、安定化した場合、六方晶を高温相として良いか明らかでないため、高温相、低温相ではなく六方晶、直方晶と記載する。
【0095】
上記のオキシフッ化イットリウムは、Y3+とO2-とF-で構成されている。プラスイオンはY3+だけなので、皮膜24中の酸素の濃度(モル比)を高くする上で、2F-とO2-を交換した、Y5O6F3等も考えられるが、Yに対してO、F両方の濃度を高くすることはできない。そこで、開示者らは、Yとは異なる元素のプラスイオンを追加して酸素濃度を高くする方法を検討した。
【0096】
YOFに追加元素がある安定構造として、YFSeO3,YFCO3,YFSO4,YFMoO4,YF(OH)2等を検討した。これらの材料に追加されている元素のイオン半径は、Se6+:42pm、C4+:15pm、S6+:29pm、Mo6+:62pmとY3+のイオン半径(93pm)より小さい。
【0097】
オキシフッ化イットリウムに、Y3+のイオン半径より小さく且つ価数の大きなプラスイオンを添加すると電子が余ることになる。そこに、酸素が付くことで配位数の整合を得ている。追加する元素のイオン半径はY3+より小さいが、2~3個の酸素(イオン半径14pm)が追加元素に結合することで格子歪が発生し、安定化することができると考えられる。
【0098】
また、YF(OH)2は水素イオンと酸素イオンが結合し(OH)-となり、イオン半径14pm(陽子1個のサイズは無視)の酸素が2個あることで格子歪を発生させて安定化している。これはY3+のイオン半径以下のプラスイオンになる元素Mを含むY、O、Fからなる化合物を添加することにより、酸素の多い2価の陰イオンを酸素サイトに導入し、格子歪効果で安定化を図ることができることを示唆している。
【0099】
そこで、開示者らは、Y3+のイオン半径以下のプラスイオンになる元素MをYOF材に添加することで、酸素濃度をYの1.5倍以上、フッ素濃度を1倍以上とし、プラズマ中のフッ素、酸素に対する高い耐性を得られるかを検討した。
【0100】
元素Mは+4価、+6価のイオンで、Y3+のイオン半径より小さい必要がある。この場合、C4+、Si4+、Ge4+、Zr4+、Hf4+、S6+、Cr6+、Se6+、Mo6+、Te6+、W6+が候補となる。SnとPbは2価のイオン半径がY3+より大きいため除いた。また1~2価になる元素Mは、半導体汚染の原因元素となる可能性が高いため除いた。つまり、+4価または+6価のイオンとなる元素Mは、C、Si、Ge、Zr、Hf、S、Cr、Se、Mo、Te、Wの少なくとも何れか1つである。
【0101】
本実施例の皮膜24は、オキシフッ化イットリウムとこのような元素MとYとFとの酸化物を材料として、上記の検討と同様に、大気プラズマを用いて材料を溶射して形成された。すなわち、本例において、ノズルに高電圧をかけ、アルゴンガスをプラズマガスとして流しつつ、放電させて形成した溶射フレームに、オキシフッ化イットリウムおよび元素MがC(炭素)であるYFCO3の粒子を含む材料の粒子を輸送ガスとともに溶射フレームに導入し、溶融状態の粒子をアース電極22の基材の表面に放射して皮膜24を形成した。
【0102】
このような皮膜24の元素の濃度を蛍光X線を用いて検出した結果、Y:22at%、O:45at%、F:22at%、C:11at%であり、Y:Oが1:2、Y:Fが1:1であった。さらに、XRDにより結晶の構造を解析した結果、皮膜24の表面ではYOFとY(CO3)Fの結晶が混在していた。YOFの結晶子サイズは28nmで、六方晶が約ほぼ100%存在していた。
【0103】
さらに、プラズマに長時間暴露した皮膜24についても結晶の構造を解析して暴露前のものと比較すると、当該曝露後でも六方晶の相比率に有意な変化は認められなかった。さらに、皮膜24内の酸素のモル比(濃度)も同様に有意な変化が認められなかった。本例では、追加した元素Mは炭素であるので、当該追加による半導体デバイスを製造プロセスへの影響は十分に小さいと想定される。
【0104】
次に、オキシフッ化イットリウムに添加する材料として元素MがSであるYFSO4を用いた皮膜24を形成し、同様に元素の濃度を蛍光X線測定により検出した結果、Y:25at%、O:42at%、F:25at%、S:7.5at%であること、Y:Oが1:1.7、Y:Fが1:1であることが検出された。同様に、XRDによる結晶構造の解析の結果、主層がYOFで、YFSO4が微量に存在し、YOFの結晶子サイズは40nmで、六方晶の全体に対する比率は約90%であることが判った。さらに、プラズマに長時間暴露しても暴露前のものから六方晶の相比率についても酸素の濃度についても有意な変化は認められなかった。
【0105】
上記したYFCO3、YFSO4以外にも、元素MとしてSe,Moを用いたYFSeO3、YFMoO4を用いても、同様に皮膜24を形成することができる。このような皮膜24の別の実施例として、皮膜24を懸濁プラズマ溶射法を用いて形成しても良い。
【0106】
当該溶射方法では、
図5に示した例と同様に、大気圧の条件の下でノズル201の中央部および外周部の端子に高い電圧をかけてアーク放電を生起して供給されるArガスをプラズマ化して発生させた溶射フレーム204中に、オキシフッ化イットリウムおよびYFMoO
4の粒子を含む材料の粒子を溶媒中で懸濁させた材料を溶媒と共に導入して、アース電極22の基材23の表面に放射して付着させて覆うことで皮膜24を形成する。本例では、溶射フレーム204で溶媒を加熱により揮発させ、溶射材料206の粒子が半溶融状態で皮膜24内に残らないように、溶射の温度の設定は高くし、ノズル203と基材23上面との距離を所定の範囲内の値に設定した。皮膜24を形成する材料として、オキシフッ化イットリウムとYFCO
3,YFSO
4,YFSeO
3を用いても良い。
【0107】
上記と同様に検出した、皮膜24の元素の濃度は、Y:20at%、O:50at%、F:20at%、Mo:10at%であり、Y:Oが1:2.5、Y:Fが1:1であった。結晶の構造としては、主層がYOFであること、YOFの結晶子サイズは33nmで、六方晶が約70%であること、プラズマに長時間暴露した場合でも、六方晶の相比率に有意な変化は認められないことが判った。
【0108】
懸濁プラズマ溶射法を用いて皮膜24を形成する場合に、他にも溶射材料として、オキシフッ化イットリウム、フッ化イットリウムの粒子および二酸化ケイ素の粉末を溶媒中で懸濁したものを用いることができる。このように形成した皮膜24の元素の濃度は、Y:20at%、O:40at%、F:28at%、Si:12at%であり、Y:Oが1:2、Y:Fが1:1.4であることが確認できた。また、同様にして結晶の構造を解析した結果、皮膜24は主層がY5O4F7でYOFも含まれていることが分かった(SiO2-Y5O4F7、SiO2-YOFと考えられる)。
【0109】
また、Y5O4F7の結晶子サイズは30nmで、六方晶の割合が約80%であり、プラズマに長時間暴露しても六方晶の相比率に有意な変化は認められなかった。酸化ケイ素以外にも、酸化ゲルマニウム、酸化ハフニウム、硫化酸化物、セレン酸化物、酸化クロム、酸化モリブデン、酸化テルル、酸化タングステンを用いることができる。
【0110】
さらに別の実施例として、皮膜24をPVDを用いて形成した。PVDのターゲットにはオキシフッ化イットリウムの焼結材とし、その上にイットリア安定化ジルコニアのチップを載せて成膜した。
【0111】
この例において、皮膜24の元素の濃度は、Y:25at%、O:42at%、F:28at%、Zr:5at%であり、Y:Oが1:1.7、Y:Fが1:1.1であることが判った。XRDによる結晶の構造の解析の結果、皮膜24の主層がY5O4F7であり、Y2O3,ZrO2は検出されなかった。Y5O4F7の結晶子サイズは40nmで、六方晶の比率が約25%あった。プラズマに長時間暴露した場合の六方晶、直方晶(正方晶)の相比率は、暴露前のものから有意な変化は検出されなかった。
【0112】
同様に、PVDのターゲットとしてオキシフッ化イットリウムの焼結材を粉砕した微粉と、YFCO3を粉砕した微粉を混合して圧縮成形したものを用いて、皮膜24を形成した。YFCO3に代えて、YFSeO3、YFSO4、YFMoO4を用いることができる。
【0113】
この場合の皮膜24の元素の濃度は、Y:25at%、O:50at%、F:25at%、C:25at%であり、Y:Oが1:2、Y:Fが1:1であることが検出された。また、XRDによる結晶の構造の解析の結果、皮膜24はYOFとY(CO3)Fの結晶が混在したものであること、YOFの結晶子サイズは38nmで、六方晶に比率は約100%であることが判った。また、プラズマに長時間暴露した場合でも、六方晶の相率は暴露前のものから有意な変化は認められなかった。
【0114】
図6にオキシフッ化イットリウム、フッ化イットリウム、酸化イットリウムの組成の関係を示した。Y-O-Fの三元素系は、Y:O=1:1.5からY:F=1:3の線上にだけ存在する。イットリウムがプラス3価の元素、酸素原子がマイナス2価のイオンの元素、フッ素がマイナス1価の元素のため、イットリウム以外のプラス価数の元素Mなしにこの線上から外れない。本実施例の範囲は網掛けの部分60にあたり、従来技術であるオキシフッ化イットリウム、フッ化イットリウム、酸化イットリウムだけでは実現できない。
【0115】
Y
2O
3の結晶は酸素プラズマ処理をしても酸化されない。これは化学的にイットリウムの1.5倍を超える酸素は結合できないからである。イットリウムの1.5倍を超える酸素を結合させるには、プラス価数の元素Mの存在が必要不可欠である。また、Y
2O
3の結晶にフッ素プラズマ処理をするとY:F比が1:1~1:1.4の範囲にあるYOF~Y
5O
4F
7になる。この時のY:O比は1:1~1:0.8となる。HFガスプラズマ処理のように水素還元処理を伴うと酸素が除去されYF
3となる場合があるが、
図6で分かるように、Fが増加するとOは減少するため、モル比Y:O≧1:1.5,Y:F≧1:1は両立しない。
【0116】
一般にYOF膜と呼ばれている内壁材は、Y
2O
3,YF
3,Y
5O
4F
7,Y
6O
5F
8,Y
6O
6F
9または、これらの混合された材料である。これらは、全て
図6に示した線分61の上に存在する材料であるから、これらの材料がどのような比率で混合された場合でも、得られる材料であるYOF全体の平均としてのモル比は、
図6の線分61の上から外れることはない。そのため、処理室5内で酸素を含むガスを用いたプラズマあるいはフッ素を含むガスを用いたプラズマによりウエハ3の処理が行われた場合の何れでも、アース電極22表面の皮膜24を構成する材料のYOFの組成は、
図6の線分61の上に在ることになる。
【0117】
開示者らの複数の条件で行った皮膜24の組成の検討によれば、見かけ上、線分61の上から僅かに外れる場合が検出されたが、プラズマを用いた処理の副生成物(例えば、Cl
2ガスを用いたプラズマによる処理で残ったClにFやOが結合して形成されたもの等)の影響によるものと判断され、処理前に皮膜24を構成していたYOFの組成は
図6の線分61の上のものであると判断された。つまり、皮膜24のY-O-Fの3つの元素の材料自体は、プラズマに曝されたことによる変化に伴う組成の変化は
図6の線分61の上に沿ったものであるものの、ウエハ3の処理に伴う反応生成物等の影響により、皮膜24の材料は
図6の線分61に沿ったものにならない場合があると考えられる。
【0118】
本実施例は元素Mを内壁材に追加することで、内壁材内の酸素とフッ素の濃度比を
図6の線上61から網掛け部分60に移し、YOF内壁材よりも酸素濃度、フッ素濃度を高くし、酸素プラズマ、フッ素プラズマで内壁材にラジカル酸素やラジカルフッ素との反応を抑制し、プラズマ耐性を向上させている。
【0119】
図7は、従来技術により形成された皮膜と本実施例の皮膜24との特性を比較した表を示す図である。
図7に示す表TABには、従来技術により形成された皮膜と本実施例の皮膜24について、特性の定性的な優劣が4段階(◎、〇、△、×)で示されている。
図7に示す本実施例の皮膜24では、内壁材の材料が、代表例として、オキシフッ化イットリウム(YOF)と、+4価または+6価のイオンとなる元素M(C、Si、Ge、Zr、Hf、S、Cr、Se、Mo、Te、Wの少なくとも何れか1つ)の酸化物、フッ化物、または、フッ化オキシ物(CeO
2、YFCO
3、YFSO
4、YFSeO
3、YFMoO
4、または、SiO
2)とを含む
セラミックス結晶材料の場合を示している。
【0120】
従来技術の皮膜は、元素Mが無、無、無、Caの部分であり、内壁材がY
2O
3、YF
3、YOF、YF
3+CaF
3の部分である。また、本実施例の皮膜24は、元素MがCe、C、S、Se、Mo、Siの部分であり、内壁材がYOF+CeO
2、YOF+YFCO
3、YOF+YFSO
4、YOF+YFSeO
3、YOF+YFMoO
4、YOF+SiO
2の部分である。
図7に示すように、本実施例の皮膜24は、酸化特性、フッ化耐性、異物発生の各特性において、◎または〇とされており、従来技術の皮膜の各特性と比較して、優秀な特性を有すると見なすことができる。
【0121】
言い換えると、皮膜24は、酸化イットリウム、フッ化イットリウム、オキシフッ化イットリウムの少なくとも1つと、+3価のイットリウムイオンよりもイオン半径が小さい+4価または+6価のイオンとなる元素とを含み、平均として酸素をイットリウムの1.5倍以上のモル比で、フッ素をイットリウムの1倍以上、好ましくは1.4倍以上のモル比で含むセラミックス結晶材料から構成された皮膜である。
【0122】
また、皮膜24を構成する内壁材の材料は、酸化イットリウム、フッ化イットリウム、オキシフッ化イットリウムの少なくとも1つと、+4価または+6価のイオンとなる元素Mの酸化物、または、フッ化物、または、フッ化オキシ物とを含むセラミックス結晶材料である。酸化イットリウム、フッ化イットリウム、オキシフッ化イットリウムは、Y2O3、YF3、YOF、Y5O4F7の少なくとも1つである。また、+4価または+6価のイオンとなる元素Mの酸化物、または、フッ化物、または、フッ化オキシ物はYFCO3、YFSeO3、YFSO4、YFMoO4の何れか1つである。そして、皮膜24の結晶子サイズ(結晶の大きさ)の平均値を50nm以下にすることで、異物の発生を抑制する。
【0123】
以上、本開示者によってなされた開示を実施例に基づき具体的に説明したが、本開示は、上記実施例に限定されるものではなく、種々変更可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本開示は、半導体ウエハ等の処理対象の試料を処理するプラズマ処理装置、プラズマ処理装置の内部部材、および、プラズマ処理装置の内部部材の製造方法に適用可能である。
【符号の説明】
【0125】
1:シャワープレート、2:窓部材、3:ウエハ、4:ステージ、5:処理室、6:間隙、7:貫通穴、8:排気配管、9:ドライポンプ、10:ターボ分子ポンプ、11:インピーダンス整合器、12:高周波電源、13:プラズマ、14:圧力調整板、15:バルブ、16:バルブ、17:バルブ、18:マグネトロン発振器、19:導波管、20:ソレノイドコイル、21:ソレノイドコイル、22:アース電極、23:基材、24:被膜、25:処理ガス供給配管、26:バルブ、27:高真空圧力検出器、201:ノズル、202:ガス流れ、203:電源、204:溶射フレーム、205:材料供給管、206:溶射材料、207:輸送ガス流れ