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  • 特許-光反応性組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】光反応性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 4/32 20060101AFI20241220BHJP
   C08F 2/50 20060101ALI20241220BHJP
   C08F 20/10 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
C08F4/32
C08F2/50
C08F20/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020552579
(86)(22)【出願日】2019-10-24
(86)【国際出願番号】 JP2019041626
(87)【国際公開番号】W WO2020085413
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2018200517
(32)【優先日】2018-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福井 弘司
(72)【発明者】
【氏名】末松 幹敏
(72)【発明者】
【氏名】中壽賀 章
(72)【発明者】
【氏名】木村 元美
(72)【発明者】
【氏名】岩井 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】有光 晃二
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-181263(JP,A)
【文献】特開平05-208971(JP,A)
【文献】国際公開第2006/129697(WO,A1)
【文献】特開2006-152161(JP,A)
【文献】特許第6393384(JP,B2)
【文献】特開2018-104662(JP,A)
【文献】特開2018-076447(JP,A)
【文献】特開2014-189696(JP,A)
【文献】特表平10-510578(JP,A)
【文献】特開2010-188610(JP,A)
【文献】特開2003-286301(JP,A)
【文献】特開2019-044030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00 - 2/60
C08F 4/00 - 4/58
C08F 4/72 - 4/82
C08F 20/00 - 20/70
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性官能基を有する化合物と、光増感剤と、熱ラジカル発生剤とを含む、光反応性組成物であって、
前記ラジカル重合性官能基を有する化合物が、窒素原子を含有するビニルモノマーであり、
前記窒素原子を含有するビニルモノマーが、(メタ)アクリロイルモルフォリン、N-ビニル-2-ピロリドン、ビニルピリジン、N-ビニルカルバゾール、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、及びヒドロキシエチルアクリルアミドからなる群から選択される少なくとも1種であり、かつSP値が10~18を満たすビニルモノマーであり、
前記ラジカル重合性官能基を有する化合物の含有量が、前記光反応性組成物の全量100重量部に対して、50重量部以上であり、
前記光増感剤が、2-アルキルチオキサントン、2,4-ジアルキルチオキサントン、及び2-クロロチオキサントンからなる群から選択される少なくとも1種であり、
外径4.932mm~4.970mm、肉厚0.38mm、長さ17.78cmのホウ珪酸ガラスにより構成されるガラスチューブにおける長さ15cmの部分を占めるように前記光反応性組成物を注入し、注入した前記光反応性組成物の上端から1cmの部分に、365nmの中心波長を有するLEDランプを用いて光強度2000mW/cmで60秒間光照射し、25℃で1時間静置したときの前記光反応性組成物の上端から10cmの位置における転化率が、20%以上である、光反応性組成物(但し、ラジカル重合性官能基を有する化合物100質量部に対し、水10~20質量部を含有する場合を除く)。
【請求項2】
ラジカル重合性官能基を有する化合物と、光増感剤と、熱ラジカル発生剤とを含む、光反応性組成物であって、
前記ラジカル重合性官能基を有する化合物が、酸素原子を含有するビニルモノマーであり、
前記酸素原子を含有するビニルモノマーが、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、アクリル酸、カルボキシエチルアクリレート、及びテトラヒドロフルフリルアクリレートからなる群から選択される少なくとも1種であり、かつSP値が10~18を満たすビニルモノマーであり、
前記ラジカル重合性官能基を有する化合物の含有量が、前記光反応性組成物の全量100重量部に対して、50重量部以上であり、
前記光増感剤が、2-アルキルチオキサントン、2,4-ジアルキルチオキサントン、及び2-クロロチオキサントンからなる群から選択される少なくとも1種であり、
外径4.932mm~4.970mm、肉厚0.38mm、長さ17.78cmのホウ珪酸ガラスにより構成されるガラスチューブにおける長さ15cmの部分を占めるように前記光反応性組成物を注入し、注入した前記光反応性組成物の上端から1cmの部分に、365nmの中心波長を有するLEDランプを用いて光強度2000mW/cmで60秒間光照射し、25℃で1時間静置したときの前記光反応性組成物の上端から10cmの位置における転化率が、20%以上である、光反応性組成物(但し、ラジカル重合性官能基を有する化合物100質量部に対し、水10~20質量部を含有する場合を除く)。
【請求項3】
外径4.932mm~4.970mm、肉厚0.38mm、長さ17.78cmのホウ珪酸ガラスにより構成されるガラスチューブにおける長さ15cmの部分を占めるように前記光反応性組成物を注入し、注入した前記光反応性組成物の上端から1cmの部分に、365nmの中心波長を有するLEDランプを用いて光強度20mW/cmで25秒間光照射し、25℃で1時間静置したときの前記光反応性組成物の上端から10cmの位置における転化率が、20%以上である、請求項1又は2に記載の光反応性組成物。
【請求項4】
前記窒素原子を含有するビニルモノマーが、(メタ)アクリロイルモルフォリンである、請求項1に記載の光反応性組成物。
【請求項5】
前記熱ラジカル発生剤が、有機過酸化物である、請求項1~4のいずれか1項に記載の光反応性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射により硬化する光反応性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光照射により短時間で硬化することができ、フォトマスク、レーザー照射装置等を利用することによってパターン形成することが可能な光反応性組成物が知られている。光反応性組成物は、例えば、フィルムや成型品のハードコート、レジスト材料等として広く用いられている。
【0003】
光反応性組成物を硬化させる方法としては、フロンタル光反応やドミノフリーラジカル光重合法(DFRP)が知られている。
【0004】
フロンタル光反応では、光照射によって光ラジカル発生剤から生成されたラジカルが、モノマーの重合反応を引き起こし、その反応熱によって熱ラジカル発生剤を活性化することにより、光励起が不可能な深部の硬化ができるとされている。しかしながら、フロンタル光反応は、熱発生によって硬化するシステムであるために、反応系が高温化し、例えば、非耐熱性の被着体と接触した成形体を製造する場合には、被着体を変形させてしまうという問題がある。
【0005】
一方、DFRPシステムでは、例えば、非特許文献1に記載されているように、光の照射により、光塩基発生剤から塩基が発生し、その塩基を触媒として塩基増殖剤が反応し、塩基成分の濃度が増加する。その塩基成分の還元性によって熱ラジカル発生剤が低温で分解し、ビニルモノマーのフリーラジカル重合が起きる。非特許文献1では、光塩基発生剤と熱ラジカル発生剤とを触媒とするシステムと比較して、さらに塩基増殖剤を有するDFRPシステムが、インダクションタイムを短縮し、反応速度が向上することが示されている。DFRPシステムは、熱発生によって硬化するシステムではないため、熱上昇が期待できない場合であっても、光励起が不可能な深部での硬化が進行し、高転化率を得ることができるとされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Minghui He, et al., Journal of Polymer Science, PART A:POLYMER CHEMISTRY 2014, 52,1560-1569
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、DFRPシステムにおいても、光透過し難い成形体や、厚膜の成形体、複雑な形状の成形体等を製造する場合には、モノマーの種類によって、表面しか硬化せず、深部まで硬化し難いことを見出した。
【0008】
本発明の目的は、深部まで効率よく硬化させることができる、光反応性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る光反応性組成物は、ラジカル重合性官能基を有する化合物と、光増感剤と、熱ラジカル発生剤とを含む、光反応性組成物であって、外径4.932mm~4.970mm、肉厚0.38mm、長さ17.78cmのホウ珪酸ガラスにより構成されるガラスチューブにおける長さ15cmの部分を占めるように前記光反応性組成物を注入し、注入した前記光反応性組成物の上端から1cmの部分に、365nmの中心波長を有するLEDランプを用いて光強度2000mW/cmで60秒間光照射し、25℃で1時間静置したときの前記光反応性組成物の上端から10cmの位置における転化率が、20%以上である。
【0010】
本発明に係る光反応性組成物のある特定の局面では、外径4.932mm~4.970mm、肉厚0.38mm、長さ17.78cmのホウ珪酸ガラスにより構成されるガラスチューブにおける長さ15cmの部分を占めるように前記光反応性組成物を注入し、注入した前記光反応性組成物の上端から1cmの部分に、365nmの中心波長を有するLEDランプを用いて光強度20mW/cmで25秒間光照射し、25℃で1時間静置したときの前記光反応性組成物の上端から10cmの位置における転化率が、20%以上である。
【0011】
本発明に係る光反応性組成物のある特定の局面では、前記ラジカル重合性官能基を有する化合物のSP値が10~18である。
【0012】
本発明に係る光反応性組成物の他の特定の局面では、前記ラジカル重合性官能基を有する化合物が、窒素原子を含有するビニルモノマーである。
【0013】
本発明に係る光反応性組成物のさらに他の特定の局面では、前記窒素原子を含有するビニルモノマーが、(メタ)アクリロイルモルフォリン、N-ビニル-2-ピロリドン、ビニルピリジン、N-ビニルカルバゾール、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、及びジメチルアミノプロピルアミドからなる群から選択される少なくとも1種である。好ましくは、前記窒素原子を含有するビニルモノマーが、(メタ)アクリロイルモルフォリンである。
【0014】
本発明に係る光反応性組成物のさらに他の特定の局面では、前記ラジカル重合性官能基を有する化合物が、複数のラジカル重合性官能基を有する化合物である。
【0015】
本発明に係る光反応性組成物のさらに他の特定の局面では、前記複数のラジカル重合性官能基を有する化合物が、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0016】
本発明に係る光反応性組成物のさらに他の特定の局面では、前記ラジカル重合性官能基を有する化合物が、酸素原子を含有するビニルモノマーである。
【0017】
本発明に係る光反応性組成物のさらに他の特定の局面では、前記酸素原子を含有するビニルモノマーが、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、アクリル酸、カルボキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレートからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0018】
本発明に係る光反応性組成物のさらに他の特定の局面では、前記光増感剤が、ベンゾフェノン誘導体、チオキサントン誘導体及びアントラキノン誘導体からなる群から選択される少なくとも1種である。好ましくは、前記光増感剤が、チオキサントン誘導体である。
【0019】
本発明に係る光反応性組成物のさらに他の特定の局面では、前記熱ラジカル発生剤が、有機過酸化物である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、深部まで効率よく硬化させることができる、光反応性組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、光反応性組成物における転化率の測定に用いるガラスチューブを示す模式的正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0023】
本発明の光反応性組成物は、ラジカル重合性官能基を有する化合物と、光増感剤と、熱ラジカル発生剤とを含む。
【0024】
本発明においては、図1に示すガラスチューブ1内に注入された光反応性組成物2の上端2aから1cmの部分に光を照射したときに、ガラスチューブ1内の光反応性組成物2の上端2aから10cmの位置における転化率が、20%以上である。
【0025】
より具体的に、転化率の測定に際しては、まず、ガラスチューブ1を用意する。ガラスチューブ1としては、外径Dが4.932mm~4.970mmであり、肉厚0.38mm、ガラスチューブ1の一端1aから他端1bまでの長さが17.78cm(7インチ)のものを用いることができる。また、ガラスチューブ1は、ホウ珪酸ガラスからなるガラスチューブである。このようなガラスチューブ1としては、例えば、市販のNMRチューブ(富士フィルム和光純薬社製、品番「291-47851 NMR Test Tube S-Type」)を用いることができる。なお、ガラスチューブ1は、上記寸法のガラスチューブ1を用いることが望ましいが、ガラスチューブ1の外径Dは、±2.0mmの誤差があってもよい。ガラスチューブ1の肉厚は、±0.3mmの誤差があってもよい。また、ガラスチューブ1の長さは15cm以上であればよい。
【0026】
次に、用意したガラスチューブ1のうち長さ15cmの部分を占めるように光反応性組成物2を注入する。なお、ガラスチューブ1内における光反応性組成物2の長さは、光反応性組成物2の上端2aから下端2bまでの長さであるものとする。
【0027】
次に、ガラスチューブ1内における光反応性組成物2の上端2aから長さ1cmの部分に、365nmの中心波長を有するLEDランプを用いて光強度2000mW/cmで60秒間光照射する。このとき、ガラスチューブ1内における光反応性組成物2の上端2aから長さ1cmの部分にのみ光照射するものとし、光反応性組成物2の下端2bには光照射しないものとする。すなわち、光照射部以外の部分には、光が当たらないようにカバーした状態で光照射することが好ましい。光照射後、25℃で1時間静置する。なお、これらの操作は、図1に示すようにガラスチューブ1を立てた状態で行うものとする。静置後、ガラスチューブ1内における光反応性組成物2の上端2aから下端2bに向かって10cmの位置における転化率を測定する。
【0028】
なお、転化率は、ガラスチューブ1内における光反応性組成物2の上端2aから下端2bに向かって10cmの位置における光照射前後のラマンスペクトルを測定し、基準ピークの強度と、ビニル基のC=C伸縮振動に帰属される1600~1680cm-1付近の光照射前後におけるピーク強度の変化から下記式により算出する。
【0029】
転化率(%)=(1-照射後ピーク強度比/照射前ピーク強度比)×100
照射前ピーク強度比=(光照射前C=Cピーク強度/光照射前基準ピーク強度)
照射後ピーク強度比=(光照射後C=Cピーク強度/光照射後基準ピーク強度)
【0030】
なお、光照射前のピークとは、光反応性組成物2を注入した後光照射前に測定したピークのことをいう。また、光照射後のピークとは、光照射後、25℃で1時間静置した後に測定したピークのことをいう。
【0031】
また、基準ピークは上記365nmの中心波長を有する光を照射する前後で結合に変化が生じない官能基や結合に帰属されるピークのことをいう。上記基準ピークとしては例えば、エステル基に帰属されるピーク、アミド基の(C-N)に帰属されるピーク、環状エーテル(C-O-C)に帰属されるピーク等が挙げられる。
【0032】
本発明においては、このようにして測定された光反応性組成物の転化率が、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、特に好ましくは60%以上である。なお、光反応性組成物の転化率の上限値は、特に限定されないが、例えば、100%以下とすることができる。
【0033】
また、本発明においては、光照射の条件のみ光強度20mW/cmで25秒間に変更して光照射したときのガラスチューブ1内の光反応性組成物2の上端2aから10cmの位置における転化率が、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、特に好ましくは60%以上である。この場合、光照射により得られた成形体の深部まで、より一層効率よく硬化させることができる。なお、光反応性組成物の転化率の上限値は、特に限定されないが、例えば、100%以下とすることができる。
【0034】
本発明の光反応性組成物においては、光の照射により光増感剤が励起され、励起された光増感剤の光増感作用により、熱ラジカル発生剤の低温での分解が誘発されてラジカルが発生し、それによってラジカル重合性官能基を有する化合物のフリーラジカル重合を行うことができる。そのため、本発明においては、光塩基発生剤により塩基を発生させなくとも、ラジカル重合性官能基を有する化合物のフリーラジカル重合を低温で行うことができる。
【0035】
本発明において、光反応性組成物の上記転化率は、ラジカル重合性官能基を有する化合物の種類や、光増感剤の量、あるいは熱ラジカル発生剤の量により調整することができる。
【0036】
なお、光塩基発生剤を用いた光反応性組成物の場合、反応中に炭酸ガスが発生し、得られた成形体の内部にボイドが発生することがある。従って、本発明の光反応性組成物は、光塩基発生剤や塩基増殖剤を実質的に含まないことが好ましい。なお、本明細書において、「実質的に含まない」とは、光反応性組成物100重量部に対して、1重量部未満であることをいう。もっとも、本発明においては、光塩基発生剤や塩基増殖剤を含んでいてもよい。
【0037】
本発明の光反応性組成物においては、上記のようにラジカル重合性官能基を有する化合物を含む光反応性組成物2の上端2aから1cmの部分に光照射したときに、上端2aから10cm離れた位置における転化率が、上記下限値以上である。そのため、ラジカル重合性官能基を有する広範なモノマーに適用することができ、しかも光反応性組成物の深部まで効率よく硬化させることができる。
【0038】
本発明の光反応性組成物の反応時の到達温度は、特に限定されないが、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下である。なお、本発明の光反応性組成物の反応時の到達温度は、サーモグラフィーにより測定することができる。
【0039】
本発明の光反応性組成物は、光の影部となる部分を有する複雑な形状の型(例えば、ボイドを有する型)を用い、その型に光反応性組成物を注入して反応させるような注型重合においても、低温で影部まで硬化することができる。
【0040】
また、本発明の光反応性組成物は、フィラーを含み、深部まで光が到達しないような場合であっても、表面部分に光照射することによって、低温で深部まで硬化させることができる。従って、本発明の光反応性組成物は、光透過し難い成形体を製造する場合においても、深部まで効率よく硬化させることができる。ここで低温とは、光反応性組成物を光照射後に加熱による反応促進せずとも進むように環境温度を調整することなく進むことである。
【0041】
以下、本発明の光反応性組成物を構成する各材料の詳細について説明する。
【0042】
(ラジカル重合性官能基を有する化合物)
本発明の光反応性組成物は、ラジカル重合性官能基を有する化合物を含んでいる。ラジカル重合性官能基としては、特に限定されないが、ラジカル発生剤の分解により発生するラジカルにより、連鎖反応的に付加反応が進行する官能基である。ラジカル重合性官能基としては、例えば、エチニル基、アリル基、プロペニル基、アセチル基、アクリロイル基、メタアクリロイル基、スチリル基、ビニロキシ基、ビニルエステル基等を挙げることができる。なかでも、反応性がより一層高いという観点から、(メタ)アクリロイル基であることが好ましい。ラジカル重合性官能基は、1分子中に少なくとも1個含まれていればよく、複数個含まれていることが好ましい。ラジカル重合性官能基が、1分子中に複数個含まれている場合、転化率が小さくても架橋により硬化させることができる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリロイル」とは、「アクリロイル」又は「メタクリロイル」のことをいう。
【0043】
ラジカル重合性官能基を有する化合物のSP値は、10~18の範囲内にあることが好ましい。この場合、ベンゾフェノン誘導体、チオキサントン誘導体及びアントラキノン誘導体等の光増感剤や、熱ラジカル発生剤との相溶性をより一層高めることができる。なお、SP値は、溶媒-溶質間に作用する分子間力を表す尺度であり、物質間の親和性の尺度である。SP値は、Hidebrandの正則溶液の理論に基づき求めることができる。また、SP値は、文献情報から得ることができるほか、HansenやHoyの計算方法、Fedorsの推算法等により得ることができる。本明細書では、Fedorsの式δ=ΣE/ΣV(δはSP値、Eは蒸発エネルギー、Vはモル体積を意味する。)により算出される計算値を意味する。なお、SP値の単位は(cal/cm0.5である。Fedorsの方法については、日本接着協会誌、1986年22巻566ページに記載されている。
【0044】
1分子中に複数のラジカル重合性官能基を有する化合物:
1分子中に複数のラジカル重合性官能基を有する化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。なかでも、光照射により得られた成形体の深部まで、より一層効率よく硬化させる観点から、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートであることが好ましい。
【0045】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」又は「メタクリレート」のことをいう。
【0046】
また、ラジカル重合性官能基を有する化合物としては、特に限定されないが、窒素原子を含有するビニルモノマーであることが好ましい。
【0047】
窒素原子を含有するビニルモノマー;
窒素原子を含有するビニルモノマーとしては、特に限定されず、例えば、(メタ)アクリロイルモルフォリン、N-ビニル-2-ピロリドン、ビニルピリジン、N-ビニルカルバゾール、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、又はジメチルアミノプロピルアクリルアミドなどが挙げられる。これらのビニルモノマーは、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。なかでも、光照射により得られた成形体の深部まで、より一層効率よく硬化させる観点から、窒素原子を含有するビニルモノマーは、含窒素環を含有するビニルモノマーであることが好ましく、(メタ)アクリロイルモルフォリンであることが好ましい。
【0048】
酸素原子を含有するビニルモノマー;
酸素原子を含有するビニルモノマーとしては、特に限定されず、例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、アクリル酸、カルボキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレートなどが挙げられる。これらのビニルモノマーは、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。なかでも、光照射により得られた成形体の深部まで、より一層効率よく硬化させる観点から、酸素原子を含有するビニルモノマーは、テトラヒドロフルフリルアクリレートであることが好ましい。
【0049】
他のビニルモノマー;
本発明の光反応性組成物は、窒素原子及び酸素原子のうちの少なくとも一方を側鎖置換基に含有するビニルモノマーとは異なる他のビニルモノマーをさらに含んでいてもよい。他のビニルモノマーとしては、例えば、窒素原子及び酸素原子を側鎖置換基に含有しないビニルモノマーが挙げられる。
【0050】
他のビニルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸及びそのエステルが挙げられる。他のビニルモノマーとして、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、メチルビニルエーテル、スチレン、ジビニルベンゼン等のビニルモノマー、イソプレン等の不飽和二重結合を有する化合物等を用いてもよい。また、他のビニルモノマーとして、(メタ)アクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド誘導体、(メタ)アクリロニトリル等を用いてもよい。
【0051】
これらの他のビニルモノマーは、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0052】
ラジカル重合性官能基を有する化合物の含有量としては、特に限定されないが、光反応性組成物の全量100重量部に対して、好ましくは20重量部以上、より好ましくは50重量部以上、好ましくは99.9重量部以下、より好ましくは98重量部以下である。ラジカル重合性官能基を有する化合物の含有量が上記上限範囲内にある場合、光照射により得られた成形体の深部までより一層効率よく硬化させることができる。
【0053】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」又は「メタクリル」のことをいう。
【0054】
(光増感剤)
本発明の光反応性組成物は、光増感剤を含んでいる。光増感剤は、光の照射により励起され、励起された光増感剤の光増感作用により、熱ラジカル発生剤の10時間半減期温度以下での分解を誘発する物質をいう。なお、照射する光としては、例えば、赤外線、可視光線、紫外線等が挙げられる。
【0055】
光増感剤としては、特に限定されないが、例えば、ベンゾフェノン誘導体、チオキサントン誘導体、アントラキノン誘導体、アントラセン誘導体、ベンゾイン誘導体等が挙げられる。なかでも、光増感剤としては、可視光域の光照射により増感できる観点から、ベンゾフェノン誘導体、チオキサントン誘導体、アントラキノン誘導体であることが好ましい。なかでも、可視光域の光照射により増感でき、ラジカル重合性官能基を有する化合物への溶解性の観点から、チオキサントン誘導体であることがより好ましい。光増感剤は、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0056】
ベンゾフェノン誘導体としては、例えば、ベンゾフェノン、p,p’-アミノベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-アルコキシベンゾフェノン、p,p’-テトラメチルジアミノベンゾフェノン、p,p’-テトラエチルアミノベンゾフェノン等が挙げられる。
【0057】
チオキサントン誘導体としては、例えば、2-アルキルチオキサントン、2,4-ジアルキルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン等が挙げられる。
【0058】
アントラキノン誘導体としては、例えば、アントラキノン、2-アルキルアントラキノン、2,4-ジアルキルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-tert-ブチルアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン等が挙げられる。
【0059】
アントラセン誘導体としては、例えば、アントラセン、9,10-ジアルコキシアントラセン、9,10-ジフェニルアントラセン、9-エトキシアントラセン等が挙げられる。
【0060】
ベンゾイン誘導体としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインエ-テルベンゾインエチルエーテル、ベンゾイン-i-ブチルエーテル等が挙げられる。
【0061】
光増感剤の含有量としては、特に限定されないが、光反応性組成物の全量100重量部に対して、好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは0.05重量部以上、さらに好ましくは0.1重量部以上、更により好ましくは0.2重量部以上である。上記光増感剤の含有量は好ましくは5重量部以下、より好ましくは2重量部以下、さらに好ましくは1重量部以下、さらにより好ましくは0.9重量部以下である。光増感剤の含有量が上記下限値以上である場合、光照射により得られた成形体の深部までより一層効率よく硬化させることができる。光増感剤の含有量が上記上限値以下である場合、光増感剤自身による光吸収量が低減され、光照射により得られた成形体の深部までより一層効率よく硬化させることができる。
【0062】
(熱ラジカル発生剤)
本発明の光反応性組成物は、熱ラジカル発生剤を含んでいる。熱ラジカル発生剤としては、例えば、有機過酸化物、多硫化物が挙げられる。
【0063】
有機過酸化物としては、特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジオクチルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシラウレート、ラウロイルパーオキサイド、ジオクタノイルパーオキサイド、過酸化水素、過酸化アセチル、過酸化クミル、過酸化t-ブチル、過酸化プロピオニル、過酸化ベンゾイル、過酸化クロロベンゾイル、過酸化ジクロロベンゾイル、過酸化ブロモメチルベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、ペルオキシ炭酸ジイソプロピル、テトラリンヒドロペルオキシド、1-フェニル-2-メチルプロピル-1-ヒドロペルオキシド、過トリフェニル酢酸t-ブチルヒドロペルオキシド、過蟻酸t-ブチル、過酢酸t-ブチル、過安息香酸t-ブチル、過フェニル酢酸t-ブチル、過メトキシ酢酸t-ブチル、過N-(3-トルイル)カルバミン酸t-ブチル、重硫酸アンモニウム、又は重硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0064】
多硫化物としては、特に限定されず、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾ-ル、ジベンゾチアジルジスルフィド、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)等の硫黄化合物が挙げられる。
【0065】
これらの熱ラジカル発生剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0066】
熱ラジカル発生剤の含有量は、特に限定されないが、光反応性組成物の全量100重量部に対して、好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは0.1重量部以上、好ましくは10重量部以下、より好ましくは2重量部以下である。熱ラジカル発生剤の含有量が上記下限値以上であると、ラジカル重合性官能基を有する化合物のラジカル重合がより進行しやすくなる。熱ラジカル発生剤の含有量が上記上限値以下であると、貯蔵安定性により一層優れる。また、熱ラジカル発生剤の含有量が上記下限値以上及び上記上限値以下である場合、光照射により得られた成形体の深部までより一層効率よく硬化させることができる。
【0067】
(フィラー)
本発明の光反応性組成物は、さらにフィラーを含んでいてもよい。光反応性組成物は、フィラーを含有することにより、得られる成形体の機械的強度や、導電性、熱伝導性などをより一層高めることができる。あるいは、得られる成形体を着色させたり、遮光性や遮熱性を付与したりすることもできる。
【0068】
本発明の光反応性組成物は、フィラーを含有するような深部まで光が到達しにくい場合でも、成形体の深部までより一層効率よく硬化させつつ、導電性や熱伝導性をより一層高めることができる。そのため、この場合、導電テープや熱伝導接着剤等の用途に好適に用いることができる。
【0069】
フィラーとしては、特に限定されず、無機フィラーであってもよく、有機フィラーであってもよい。なかでも、無機フィラーであることが好ましい。なお、無機フィラーと有機フィラーは併用してもよい。
【0070】
有機フィラーとしては、ポリエチレン微粒子、ポリプロピレン微粒子、ポリビニルアルコール微粒子、ポリビニルブチラール微粒子、ポリ塩化ビニル微粒子、ポリ塩化ビニリデン微粒子、ポリフッ化ビニリデン微粒子、アクリロニトリル微粒子、アクリルゴム微粒子、ポリスチレン微粒子、ジビニルベンゼン微粒子、ポリエチレンテレフタレート微粒子、ポリイミド微粒子、ポリアミド微粒子、セルロース微粒子等を用いることができる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0071】
無機フィラーとしては、例えば、金属酸化物、金属炭酸塩、天然鉱物、金属水酸化物や、炭素材料、金属材料、中空無機フィラー等を用いることができる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0072】
金属酸化物としては、シリカ、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉛、酸化スズインジウム等が挙げられる。
【0073】
金属炭酸塩としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム等が挙げられる。
【0074】
天然鉱物としては、タルク、マイカ、クレイ等が挙げられる。
【0075】
金属水酸化物としては、アエロジル、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0076】
炭素材料としては、黒鉛、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0077】
金属材料としては、銅、金、銀、鉄、アルミ、ステンレス、白金、パラジウム等が挙げられる。
【0078】
中空無機フィラーとしては、ガラスバルーン、シラスバルーン等が挙げられる。
【0079】
また、無機フィラーは、シランカップリング剤等の表面処理剤により表面処理されたものであってもよい。
【0080】
シランカップリング剤としては、例えば、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシジルプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアン酸プロピルメチルジメトキシシラン、3-イソシアン酸プロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0081】
フィラーの含有量としては、特に限定されないが、光反応性組成物の全量100重量部に対して、好ましくは1重量部以上、より好ましくは10重量部以上、好ましくは100重量部以下、より好ましくは80重量部以下である。フィラーの含有量が上記下限以上である場合、製造する成形体の機械的強度や、導電性、熱伝導性をより一層高めることができる。また、フィラーの含有量が上記上限以下である場合、光照射により得られた成形体の深部までより一層効率よく硬化させることができる。
【0082】
本発明の光反応性組成物は、このようなフィラーを大量に含有し、深部まで光が到達しないような場合であっても、表面部分に光照射することによって、低温で深部まで硬化することができる。
【0083】
(その他の添加剤)
本発明の光反応性組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、その他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤としては、例えば、光塩基発生剤や、塩基増殖剤が挙げられる。
【0084】
光塩基発生剤とは、光照射により塩基を発生する物質をいう。光塩基発生剤としては、特に限定されず、例えば、オキシムエステル系化合物、アンモニウム系化合物、ベンゾイン系化合物、ジメトキシベンジルウレタン系化合物、又はオルトニトロベンジルウレタン系化合物等が挙げられる。
【0085】
塩基増殖剤とは、光塩基発生剤から発生した塩基を触媒として分解し新たに塩基を発生する物質をいう。発生した塩基は新たな触媒として機能し、自己触媒的に多数の塩基を発生し、塩基成分の濃度が増加する。塩基増殖剤は、低分子化合物であってもよいし、高分子化合物であってもよい。このような塩基増殖剤の一例としては、例えば、1-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)ピペリジンが挙げられる。
【0086】
また、その他の添加剤として、フェノール系、リン系、アミン系又はイオウ系等の酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系又はヒドロキシフェニルトリアジン系等の紫外線吸収剤を含んでいてもよい。あるいは、その他の添加剤として、ヘキサブロモビフェニルエーテル又はデカブロモジフェニルエーテル等のハロゲン化難燃剤、ポリリン酸アンモニウム又はトリメチルフォスフェート等の難燃剤、帯電防止剤を含んでいてもよい。また、安定剤、顔料、染料、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、可塑剤、増粘剤、減粘剤、チキソ付与材等の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0087】
さらに、その他の添加剤として、ポリスチレン、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール樹脂、ポリ酢酸ビニル等の樹脂を併用してもよい。また、その他の添加剤として、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、シリコーン樹脂等の樹脂を併用してもよい。
【0088】
次に、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
(実施例1)
まず、ラジカル重合性官能基を有する化合物として、N-アクリロイルモルフォリン(ACMO、東京化成工業社製)を用意した。光増感剤として、2-イソプロピルチオキサントン(東京化成工業社製)を用意した。熱ラジカル発生剤として、ベンゾイルパーオキサイド(BPO、東京化成工業社製)を用意した。
【0090】
次に、N-アクリロイルモルフォリン8gと、2-イソプロピルチオキサントン0.02gと、ベンゾイルパーオキサイド0.04gとを、容積20mLの褐色のガラス容器中に投入し、室温にて固形成分が均一に溶解するまで適宜シェークし、光反応性組成物を調製した。
【0091】
(実施例2)
ラジカル重合性官能基を有する化合物として、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学工業社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして光反応性組成物を調製した。
【0092】
(実施例3~4)
実施例3では光増感剤としての2-イソプロピルチオキサントンの添加量を下記の表1のように変更したこと、実施例4では光増感剤と熱ラジカル発生剤としてのベンゾイルパーオキサイドの添加量を下記の表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして光反応性組成物を調製した。
【0093】
(実施例5~9)
ラジカル重合性官能基を有する化合物として下記の表1に示す化合物を用いたこと、及び光増感剤としての2-イソプロピルチオキサントンの添加量を下記の表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして光反応性組成物を調製した。なお、ラジカル重合性官能基を有する化合物として、実施例5ではジメチルアクリルアミド(富士フィルム和光純薬社製)、実施例6ではペンタエリスリトールトリアクリレート(新中村化学工業社製)を用いた。また、実施例7ではヒドロキシエチルアクリレート(富士フィルム和光純薬社製)、実施例8ではカルボキシエチルアクリレート(ダイセル・オルネクス社製)、実施例9ではテトラヒドロフルフリルアクリレート(大阪有機化学工業社製)を用いた。
【0094】
(比較例1)
熱ラジカル発生剤としてのベンゾイルパーオキサイドの代わりに、光塩基発生剤としての2-(9-オキソキサンテン-2-イル)プロピオン酸1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(東京化成工業社製)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして光反応性組成物を調製した。
【0095】
(比較例2)
ラジカル重合性官能基を有する化合物としてのN-アクリロイルモルフォリンの代わりに、アルキル基含有モノマーとしてのn-ブチルアクリレート(日本触媒社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして光反応性組成物を調製した。
【0096】
(比較例3)
N-アクリロイルモルフォリンの代わりに、アルキル基含有モノマーとしての2エチルヘキシルアクリレート(日本触媒社製)を用いたこと、及び光増感剤としての2-イソプロピルチオキサントンの添加量を下記の表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして光反応性組成物を調製した。
【0097】
[評価]
外径4.932~4.970mm、肉厚0.38mm、長さ17.78cmのホウ珪酸ガラス製チューブ(富士フィルム和光純薬社製、品番「291-47851 NMR Test Tube S-Type」)内に、該チューブのうち長さ15cmの部分を占めるように光反応性組成物を注入した。
【0098】
続いて、チューブ内における光反応性組成物の上端から長さ1cmの部分に、365nmの中心波長を有するLEDランプを用いて、紫外線を照射し重合を行なった。このとき、光強度が2000mW/cmとなるようにLEDランプの高さを調整し、60秒間紫外線を照射した(120000mJ/cm)。なお、光照射部以外の部分には、光が当たらないようにカバーした状態で光照射した。光照射後、チューブを立てた状態において25℃で1時間静置した。なお、サーモグラフィーにより、光反応性組成物の反応時の到達温度を測定した。
【0099】
静置後、チューブ内における光反応性組成物の上端から長さ10cmの位置における転化率を測定した。なお、転化率は、チューブ内における光反応性組成物の上端から長さ10cmの位置におけるラマンスペクトルを測定し、算出した。N-アクリロイルモルフォリンを用いた場合、環状エーテル(C-O-C)に帰属される850cm-1を基準ピークとして、ビニル基のC=C伸縮振動に帰属される1615cm-1の光照射前後におけるピーク強度比から算出した。N,N-ジメチルアクリルアミドを用いた場合、アミド基の(C-N)に帰属される1430cm-1を基準ピークとして、ビニル基のC=C伸縮振動に帰属される1630cm-1の光照射前後におけるピーク強度比から算出した。一方、トリメチロールプロパントリアクリレートを用いた場合、エステル基に帰属される1750cm-1を基準ピークとして、ビニル基のC=C伸縮振動に帰属される1620cm-1の光照射前後におけるピーク強度比から算出した。他のアクリレートについても、同様にして測定した。なお、光照射前とは重合前の状態であり、光照射後とは光照射した後25℃で1時間静置した後の状態である。ラマンスペクトルは、装置「FT/IR6600」(日本分光社製)を用いて、測定波長4000~400cm-1、スキャン回数16回で測定を行った。
【0100】
転化率は下記式により算出した。
転化率(%)=(1-照射後ピーク強度比/照射前ピーク強度比)×100
照射前ピーク強度比=(光照射前C=Cピーク強度/光照射前基準ピーク強度)
照射後ピーク強度比=(光照射後C=Cピーク強度/光照射後基準ピーク強度)
【0101】
また、25℃で1時間静置した後、チューブ内における光反応性組成物の他端を目視で観察し、深部硬化性を評価した。深部硬化性の評価では、チューブを傾けても、光反応性組成物が流動しない場合を○、チューブを傾けると、光反応性組成物が流動する場合を×とした。
【0102】
なお、光照射の条件を光強度20mW/cmで25秒間(500mJ/cm)に変更して光照射したときの転化率についても同様にして測定した。
【0103】
結果を下記の表1に示す。
【0104】
【表1】
【符号の説明】
【0105】
1…ガラスチューブ
1a…一端
1b…他端
2…光反応性組成物
2a…上端
2b…下端
図1