(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】スラリー組成物、該スラリー組成物の硬化物、該硬化物を用いた基板、フィルム、及びプリプレグ
(51)【国際特許分類】
C08F 122/40 20060101AFI20241220BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20241220BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20241220BHJP
C08K 5/54 20060101ALI20241220BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20241220BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
C08F122/40
C08K3/22
C08K3/36
C08K5/54
C08L79/08
H05K1/03 610H
(21)【出願番号】P 2019072411
(22)【出願日】2019-04-05
【審査請求日】2021-04-21
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堤 吉弘
(72)【発明者】
【氏名】井口 洋之
(72)【発明者】
【氏名】工藤 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】津浦 篤司
【合議体】
【審判長】▲吉▼澤 英一
【審判官】北澤 健一
【審判官】松本 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/114286(WO,A1)
【文献】特開2016-131243(JP,A)
【文献】特開2013-110422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F6/00-246/00,301/00
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
C08G73/00-73/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(D)成分を含有し、JIS K 7117-2:1999に記載のコーンプレート型回転粘度計(E型粘度計)を用いて、25℃/5rpm及び50rpmで粘度を測定し、該測定値から、チキソ比=(5rpmでの粘度測定値[Pa・s])/(50rpmでの粘度測定値[Pa・s])で算出されるチキソ比が3.0以下であることを特徴とするスラリー組成物。
(A)分子中に少なくとも1つのダイマー酸骨格、少なくとも1つの炭素数6以上の直鎖アルキレン基、及び少なくとも2つの環状イミド基を含有する環状イミド化合物であって、下記式(1)で表される環状イミド化合物:スラリー組成物中、15~85質量%
【化1】
(式(1)中、Aは独立して芳香族環または脂肪族環を含む
、下記構造式
【化2】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
で示される4価の有機基
のいずれかであり、B
は下記構造式
【化3】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成する窒素原子と結合するものである。)
で示される脂肪族環を有する炭素数6から18のアルキレン
基のいずれかであり、Qは独立して炭素数6~20の直鎖アルキレン基を示す。Rは独立して炭素数6~12の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。nは1~10の数を表す。mは0~10の数を表す。)
(B)レーザー回折法で測定した平均粒径が0.05~20μmである球状のシリカ微粒子及び/又はアルミナ微粒子:スラリー組成物全体の35質量%以上90質量%以下となる量
(C)(A)成分及び(B)成分と反応し得る
、(メタ)アクリル基及び/又はアミノ基を有するシランカップリング剤
:(A)成分に対して、0.3~6.0質量%
(D)芳香族炭化水素系有機溶剤
:(A)成分及び(B)成分の総和100質量部に対して20~200質量部
【請求項2】
請求項
1に記載のスラリー組成物の硬化物。
【請求項3】
基板である請求項
2に記載の硬化物。
【請求項4】
フィルムである請求項
2に記載の硬化物。
【請求項5】
プリプレグである請求項
2に記載の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラリー組成物、該スラリー組成物の硬化物、該硬化物を用いた基板、フィルム、及びプリプレグに関する。
【背景技術】
【0002】
有機溶剤に溶解した樹脂を塗工することによりシートやフィルム等の樹脂成形物を作製する方法は、一般的に実施されている。また、その樹脂成形物の機械強度、耐熱性、非吸収性等の特性を向上させるために、マトリックス樹脂中に、酸化物粒子のフィラーを分散させ、高充填させることもよく行われている。
【0003】
前記フィラーをマトリックス樹脂に分散させ、高充填させる場合、従来は有機溶剤に溶解したマトリックス樹脂に直接フィラーを投入し、これをゲートミキサーや三本ロールなどの混練機、分散機によって混練、分散するといった方法が主流であった。しかし、この方法ではフィラー粒子が小さい場合に、フィラーをマトリックス樹脂に分散させることが困難で、フィラー粒子の凝集塊がマトリックス樹脂中に形成されたり、フィラーを分散したマトリックス樹脂の品質にばらつきが生じやすかったりするという問題があった。
【0004】
一方、携帯電話に代表される移動体通信機器、その基地局装置、サーバー、及びルーター等のネットワークインフラ機器や、大型コンピューターなどの電子機器では、使用する信号の高速化及び大容量化が年々進んでいる。これに伴い、これらの電子機器に搭載されるプリント配線板には20GHz領域といった高周波への対応が必要となり、伝送損失の低減を可能とする低比誘電率及び低誘電正接の基板材料が求められている。近年、このような高周波信号を扱うアプリケーションとして、上述した電子機器のほかに、高度道路交通システム分野及び室内の近距離通信分野でも高周波信号を扱う新規システムの実用化及び実用計画が進んでおり、今後、これらの機器に搭載するプリント配線板に対しても、低伝送損失基板材料が更に要求されると予想される。
【0005】
従来、低伝送損失が要求されるプリント配線板には、高周波領域においても低比誘電率及び低誘電正接を示す耐熱性熱可塑性ポリマーとしてポリフェニレンエーテル(PPE)系樹脂が使用されている。ポリフェニレンエーテル系樹脂の使用方法としては、ポリフェニレンエーテルと熱硬化性樹脂とを併用する方法が提案されている(特許文献1及び2)。また、フッ素化樹脂も低比誘電率、低誘電正接を示す材料として知られており、使用されているが、加工性に劣るといった欠点を有する。
【0006】
更に、プリント配線板用材料として、マレイミド化合物を用いることも検討されている。例えば、少なくとも2つのマレイミド骨格を有するマレイミド化合物と、少なくとも2つのアミノ基を有するとともに芳香族環構造を有する芳香族ジアミン化合物と、前記マレイミド化合物と前記芳香族ジアミン化合物との反応を促す、塩基性基およびフェノール性水酸基を有する触媒と、シリカと、を有することを特徴とする樹脂組成物が知られている(特許文献3)。また、炭素数10以上のアルキレン鎖を含む主鎖と、前記アルキレン鎖に結合したアルキル基を含む側鎖とを有する長鎖アルキルビスマレイミド樹脂、及び、前記長鎖アルキルビスマレイミド樹脂と反応する官能基を2以上有する硬化剤、を含有する樹脂組成物に関しても知られている(特許文献4)。
【0007】
これらの背景をもとに、ミリ波レーダー用印刷配線板製造用樹脂フィルムの製造方法として、マレイミド基を有する化合物と無機充填材スラリーとを混合する方法が知られている(特許文献5)。しかし、この方法では、マレイミド基を有する化合物と無機充填材スラリーとの混合物のチキソ性が高くなるなど、該混合物のハンドリング性に劣りやすい。例えば、適切な材料や表面処理等を選択しないと、チキソ性が高くなり、薄膜フィルムなどを作製する際、ブレードと剥離フィルムの狭い隙間に高い剪断応力がかかるので、薄膜塗工が困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-059363号公報
【文献】特開2010-275342号公報
【文献】特開2012-255059号公報
【文献】再表2016-114287号公報
【文献】特開2017-125128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、チキソ性が低く、ハンドリング性に優れるスラリー組成物、該スラリー組成物の硬化物、該硬化物を用いた、機械特性に優れ、比誘電率や誘電正接が低い基板、フィルム、及びプリプレグを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、下記スラリー組成物が、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
<1>
下記(A)~(D)成分を含有し、チキソ比が3.0以下であることを特徴とするスラリー組成物。
(A)分子中に少なくとも1つのダイマー酸骨格、少なくとも1つの炭素数6以上の直鎖アルキレン基、及び少なくとも2つの環状イミド基を含有する環状イミド化合物
(B)レーザー回折法で測定した平均粒径が0.05~20μmである球状のシリカ微粒子及び/又はアルミナ微粒子
(C)(A)成分及び(B)成分と反応し得るシランカップリング剤
(D)有機溶剤
<2>
前記(A)成分の環状イミド化合物が下記式(1)で表されるものである<1>に記載のスラリー組成物。
【化1】
(式(1)中、Aは独立して芳香族環または脂肪族環を含む4価の有機基を示す。Bは2価のヘテロ原子を含んでもよい脂肪族環を有する炭素数6から18のアルキレン鎖である。Qは独立して炭素数6以上の直鎖アルキレン基を示す。Rは独立して炭素数6以上の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。nは1~10の数を表す。mは0~10の数を表す。)
<3>
前記式(1)のAが下記構造で表されるもののいずれかである<2>に記載のスラリー組成物。
【化2】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
<4>
前記(B)成分の微粒子の割合が、スラリー組成物全体の30質量%以上95質量%以下である<1>から<3>のいずれかに記載のスラリー組成物。
<5>
前記(C)成分であるシランカップリング剤が(メタ)アクリル基及び/又はアミノ基を有するものである<1>から<4>のいずれかに記載のスラリー組成物。
<6>
請求項1から5のいずれか1項に記載のスラリー組成物の硬化物。
<7>
基板である<6>に記載の硬化物。
<8>
フィルムである<6>に記載の硬化物。
<9>
プリプレグである<6>に記載の硬化物。
<10>
下記(A)~(D)成分
(A)分子中に少なくとも1つのダイマー酸骨格、少なくとも1つの炭素数6以上の直鎖アルキレン基、及び少なくとも2つの環状イミド基を含有する環状イミド化合物
(B)レーザー回折法で測定した平均粒径が0.05~20μmである球状のシリカ微粒子及び/又はアルミナ微粒子
(C)(A)成分及び(B)成分と反応し得るシランカップリング剤、及び、
(D)有機溶剤
を混合する工程を含むスラリー組成物の製造方法であって、前記(B)成分の製造方法が、VMC(Vapenrized Metal Combution)法であることを特徴とするスラリー組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のスラリー組成物は、チキソ性が低く、フィルム化する際などにハンドリング性に優れる。また、この組成物を硬化物にした際に、該硬化物は物理的強度や誘電特性に優れるため、該硬化物を有する基板、フィルム、及びプリプレグ等は高周波機器用材料として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
【0014】
(A)環状イミド化合物
(A)成分は熱硬化性樹脂成分の環状イミド化合物であって、分子中に少なくとも1つのダイマー酸骨格、少なくとも1つの炭素数6以上の直鎖アルキレン基、及び少なくとも2つの環状イミド基を有する。(A)成分の環状イミド化合物が炭素数6以上の直鎖アルキレン基を有することで、これを含む組成物の硬化物は優れた誘電特性を有するだけでなく、フェニル基の含有比率が低下し、耐トラッキング性が向上する。また、(A)成分の環状イミド化合物が直鎖アルキレン基を有することで、これを含む組成物の硬化物を低弾性化することができる。
【0015】
(A)成分の環状イミド化合物としてはマレイミド化合物であることが好ましく、下記式(1)で表されるマレイミド化合物を使用することがより好ましい。
【化3】
式(1)中、Aは独立して芳香族環または脂肪族環を含む4価の有機基を示す。Bは2価のヘテロ原子を含んでもよい脂肪族環を有する炭素数6から18のアルキレン基である。Qは独立して炭素数6以上の直鎖アルキレン基を示す。Rは独立して炭素数6以上の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。nは1~10の数を表す。mは0~10の数を表す。
【0016】
式(1)中のQは直鎖のアルキレン基であり、これらの炭素数は6以上であるが、好ましくは6以上20以下であり、より好ましくは7以上15以下である。
【0017】
また、式(1)中のRはアルキル基であり、直鎖のアルキル基でも分岐のアルキル基でもよく、これらの炭素数は6以上であるが、好ましくは6以上12以下である。
【0018】
式(1)中のAは芳香族環または脂肪族環を含む4価の有機基を示し、特に、下記構造式で示される4価の有機基のいずれかであることが好ましい。
【化4】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
【0019】
また、式(1)中のBは2価のヘテロ原子を含んでもよい脂肪族環を有する炭素数6から18のアルキレン基であり、該アルキレン基の炭素数は好ましくは炭素数8以上15以下である。式(1)中のBは下記構造式で示される脂肪族環を有するアルキレン基のいずれかであることが好ましい。
【化5】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成する窒素原子と結合するものである。)
【0020】
式(1)中のnは1~10の数であり、好ましくは2~7の数である。式(1)中のmは0~10の数であり、好ましくは0~7の数である。
【0021】
(A)成分の環状イミド化合物の重量平均分子量(Mw)は、室温での性状を含めて特に制限はないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によるポリスチレン標準で換算した重量平均分子量が500~50,000であることがより好ましく、特に好ましくは800~40,000である。該分子量が500以上であれば、得られる環状イミド化合物を含む組成物はフィルム化しやすく、該分子量が50,000以下であれば、得られる組成物は粘度が高くなりすぎて流動性が低下するおそれがなく、ラミネート成形などの成形性が良好となる。
【0022】
(A)成分の環状イミド化合物としては、BMI-689、BMI-1500、BMI-2500、BMI-2560、BMI-3000、BMI-5000(以上、Designer Molecules Inc.製)等の市販品を用いることができる。また、環状イミド化合物は1種単独で使用しても複数種のものを併用しても構わない。
【0023】
本発明の組成物中、(A)成分は、10~90質量%含有することが好ましく、15~85質量%含有することがより好ましく、20~80質量%含有することがさらに好ましい。
【0024】
(B)レーザー回折法で測定した平均粒径が0.05~20μmである球状のシリカ微粒子及び/又はアルミナ微粒子
本発明のスラリー組成物には(B)成分としてシリカ微粒子及び/又はアルミナ微粒子を含有する。シリカ微粒子及び/又はアルミナ微粒子としては、レーザー回折法で測定した平均粒径が0.05~20μmである球状のものであり、単独で用いても複数混合して用いても構わない。なお、本発明において「球状」とは真球度が0.8~1.0の範囲にあるものを指すこととする。該真球度は、無作為に100個の微粒子を抽出したときの、各微粒子の最小径/最大径の比の平均値である。形状に関しては、特に限定しないが、充填性などの観点から真球状であることが好ましい。
【0025】
本発明で用いられるシリカ微粒子及び/又はアルミナ微粒子は、レーザー回折法によって測定された平均粒径が、0.05~20μmであることが必要であり、好ましくは0.05~15μmであり、さらに好ましくは0.1~10μmである。平均粒径が0.05μm未満であると、粘度上昇により成形性が低下するため好ましくなく、平均粒径が20μmを超えるとフィルムなどの成形物の平坦性が低下するため好ましくない。なお、平均粒径はレーザー回折法によって測定したメジアン径(D50)の値である。
【0026】
上記シリカ微粒子及びアルミナ微粒子の製造は、その方法を特に限定するものではないが、VMC(Vaperized Metal Combution)法によって製造されたものが好ましい。VMC法とは、酸素を含む雰囲気内においてバーナーにより化学炎を形成し、この化学炎中に目的とする酸化物微粒子の一部を構成する金属粉末を粉塵雲が形成される程度の量を投入し、爆燃を起こさせて酸化物微粒子を製造する方法である。
【0027】
VMC法の作用について説明すれば以下のようになる。まず容器中に反応ガスである酸素を含有するガスを充満させ、この反応ガス中で化学炎を形成する。次いでこの化学炎に金属粉末を投入し高濃度(500g/m3以上)の粉塵雲を形成する。すると、化学炎により金属粉末の表面に熱エネルギーが与えられ、金属粉末の表面温度が上昇し、金属粉末表面から蒸気が周囲に広がる。この蒸気が酸素ガスと反応して発火し火炎を生じる。この火炎により生じた熱は、さらに金属粉末の気化を促進し、生じた蒸気と反応ガスが混合され、連鎖的に発火伝播する。このとき金属粉末自体も破壊して飛散し、火炎伝播を促す。燃焼後に生成ガスが自然冷却されることにより、酸化物微粒子の雲ができる。得られた酸化物微粒子は、電気集塵器等により帯電させて捕獲することができる。
【0028】
VMC法は粉塵爆発の原理を利用するものであり、瞬時に大量の酸化物微粒子が得られ、その微粒子は、非常に高い真球度になる。例えば、シリカ微粒子を得る場合にはケイ素粉末を投入すればよく、アルミナ微粒子を得る場合にはアルミニウム粉末を投入すればよい。投入する粉末の粒子径、投入量、火炎温度等を調整することにより、微粒子の粒径を調整することが可能でありサブミクロンオーダーの粒径を持つ超微粒子も容易に製造可能となる。
【0029】
(B)成分の微粒子の割合は、スラリー組成物全体の30質量%以上95質量%以下であり、好ましくは35質量%以上、90質量%以下である。30質量%より低い値であると、微粒子が沈降しやすいだけでなく、塗工時にはじきが発生しやすい傾向にある。95質量%より高い数値であると、粘度が高すぎる傾向があり、ハンドリング性が低下する傾向になる。
【0030】
(C)(A)成分及び(B)成分と反応し得るシランカップリング剤
本発明のスラリー組成物には(C)成分として、(A)成分である環状イミド化合物及び(B)成分であるシリカ微粒子及び/又はアルミナ微粒子と反応し得るシランカップリング剤を使用する。このようなカップリング剤としては、エポキシ基含有アルコキシシラン、アミノ基含有アルコキシシラン、(メタ)アクリル基含有アルコキシシラン、及び不飽和アルキル基含有アルコキシシランが挙げられる。
【0031】
中でも、スラリー組成物の粘度やチキソ性を低下させたり、硬化物の機械強度や誘電特性を向上させたりする観点、さらには銅などの金属への接着性向上の観点から(メタ)アクリル基及び/又はアミノ基含有アルコキシシランが好適に用いられる。(C)成分の具体例としては、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン及びN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0032】
(C)成分の含有量は、(A)成分を始めとする熱硬化性樹脂成分の総和に対して、0.1~8.0質量%とすることが好ましく、特に0.3~6.0質量%とすることが好ましい。該含有量が0.1質量%未満であると、基材への接着効果やシリカ微粒子及び/又はアルミナ微粒子への濡れ性が十分でなく、また8.0質量%を超えると、後述する(D)成分の有機溶剤を除去した後においても粘度が極端に低下して、ボイドの原因となるおそれや樹脂表面からにじみが生じるおそれがある。
【0033】
(D)有機溶剤
本発明のスラリー組成物は(D)成分として有機溶剤を含有する。有機溶剤は、その種類を限定するものではないが、(A)成分である環状イミド化合物に対する良溶媒であるものが好ましい。(D)成分としては、例えば、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;キシレン、トルエンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノンなどのケトン化合物;イソプロパノール(IPA)、n-ブタノールなどのアルコール化合物;ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)などのエーテル化合物;ジメチルスルホキシド(DMSO)などのスルホキシド化合物;ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド化合物;酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)などのエステル化合物といった一般的な有機溶媒を使用することができるが、(A)成分の溶解性の観点からキシレンやトルエンといった芳香族炭化水素系有機溶剤が使用されることが好ましい。
【0034】
(D)成分の配合量は、(A)成分及び(B)成分の総和100質量部に対して10~500質量部とすることが好ましく、特に20~200質量部とすることが好ましい。
【0035】
その他の添加剤
本発明のスラリー組成物には、更に必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。該添加剤として本発明の効果を損なわない範囲で、樹脂特性を改善するために、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂、オルガノポリシロキサン、シリコーンオイル、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、有機合成ゴム、光安定剤、重合禁止剤、難燃剤、顔料、染料、硬化促進剤、触媒、シリカ微粒子及びアルミナ微粒子以外の無機充填材等を配合してもよいし、電気特性を改善するためにイオントラップ剤等を配合してもよい。さらには誘電特性を改善するために含フッ素材料等を配合してもよい。
【0036】
スラリー組成物の製造
本発明のスラリー組成物を製造する場合、各成分の投入順や分散方法は特に限定されない。例えば、(A)成分である環状イミド化合物や(B)成分である無機充填材であるシリカやアルミナの微粒子粉末及び(C)成分であるシランカップリング剤を、(D)成分である有機溶媒に分散してもよいし、あらかじめ(D)成分に(A)成分を溶解してワニスを用意し、そこに(B)成分及び(C)成分を加えてから分散を行ってもよい。分散は、三本ロール、ボールミル、超音波分散機、各種ミキサー、ニーダー等の機器を使用して行えばよい。なお、スラリー組成物の変性を防ぐため、窒素雰囲気下等の非酸化性雰囲気下での製造を行うことが好ましい。
【0037】
得られる本発明のスラリー組成物のチキソ比は3.0以下である。チキソ比が3.0より大きいと組成物のハンドリング性に劣りやすい。例えば、適切な材料や表面処理等を選択しないと、チキソ性が高くなり、薄膜フィルムなどを作製する際、ブレードと剥離フィルムの狭い隙間に高い剪断応力がかかるので、薄膜塗工が困難となる。
【0038】
この際のチキソ比は、JIS K 7117-2:1999に記載のコーンプレート型回転粘度計(E型粘度計)を用いて、25℃/5rpm及び50rpmで行った測定に得られた粘度の値を利用することで算出したものである。
チキソ比=(5rpmでの粘度測定値[Pa・s])/(50rpmでの粘度測定値[Pa・s])
また、この際、25℃/5rpmの粘度は0.01~10Pa.sの範囲にあることが好ましい。また、25℃/50rpmの粘度は0.01~7.5Pa.sの範囲にあることが好ましい。
【0039】
(B)成分である無機充填材は、(C)成分と反応、すなわち(C)成分によって表面処理されてもよい。表面処理の方法としては特に限定されるものではなく、通常一般的に行われる方法に従って行えばよい。例えば、(B)成分をあらかじめ乾式処理を行ってから有機溶剤に投入してもよいし、湿式処理として有機溶剤中で処理を行ってもよい。また、(B)成分は(A)成分の添加と同時に添加してもよく、各成分の添加の順番は任意である。
【0040】
本発明のスラリー組成物は、例えば、過酸化物などの硬化促進剤(ラジカル開始剤)の添加後、スプレー、ロールコーター、スピンコーター、キャスティング、ディッピング等の方法によりコーティングし、溶媒を蒸散させた後、硬化させ、成形物(基板、フィルム、プリプレグ等)とすることができる。この際、この成形物は、電子部品、接着剤、耐熱膜、保護膜等の種々の用途に用いることができ、高周波機器用材料として好適である。ここで、前記溶媒を蒸散させる工程の好ましい条件は、温度80~150℃の範囲で0.5~4時間であり、前記本発明のスラリー組成物を硬化させる工程の好ましい条件は、温度150~200℃の範囲で1~16時間である。
【0041】
本発明のスラリー組成物の実施形態について、上記実施形態は例示に過ぎず、本発明のスラリー組成物は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明のスラリー組成物は、上記実施形態を始めとして、当業者が行い得る種々の改良、変更を施した態様で実施することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0043】
(A)環状イミド化合物
(A-1):下記式で示される直鎖アルキレン基含有マレイミド化合物(BMI-3000、Designer Molecules Inc.製)
【化6】
(A-2):下記式で示される直鎖アルキレン基含有マレイミド化合物(BMI-2500、Designer Molecules Inc.製)
【化7】
(A-3)4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド(BMI-1000:大和化成(株)製、比較例用)
【0044】
(B)レーザー回折法で測定した平均粒径が0.05~20μmである球状のシリカ微粒子及び/又はアルミナ微粒子
(B-1)球状シリカ(アドマファインSO-C5、アドマテックス製、VMC法で製造、平均粒径1.5μm)
(B-2)球状アルミナ(アドマファインAO-502、アドマテックス製、VMC法で製造、平均粒径0.7μm)
(B-3)溶融球状シリカ(ES-105、東海ミネラル製、平均粒径35μm、比較例用)
【0045】
(C)(A)成分及び(B)成分と反応し得るシランカップリング剤
(C-1)3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-503、信越化学工業製)
(C-2)3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-5103、信越化学工業製)
(C-3)N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM-573、信越化学工業製)
(C-4)n-へキシルトリメトキシシラン(KBM-3063、信越化学工業製、比較例用)
【0046】
(D)有機溶剤
(D-1)トルエン
【0047】
スラリー組成物の製造
表1に示す配合量(質量部)で、各種スラリー組成物を製造した。(A)成分である環状イミド化合物、(B)成分であるシリカ微粒子及び/又はアルミナ微粒子、及び(C)成分であるシランカップリング剤(ただし比較例1及び2を除く)を、(D)成分である有機溶剤に入れ、攪拌機で予備混合して粗スラリー溶液を調製し、この粗スラリー溶液を分散機にて分散させ、フィラーが均一に分散したスラリー組成物を得た。該スラリー組成物について、以下の諸特性を測定した。結果を表1に示す。
【0048】
凝集試験
得られたスラリー組成物を、ベーカー式アプリケーターを用いて、支持基材の、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルム(G2-38、帝人製)上に30μm厚、A4サイズに塗工し、120℃で乾燥させた。乾燥後、目視で、1つも凝集体が確認されなかったものを○、1つでも凝集体が確認されたものを×とした。
【0049】
粘度測定、チキソ比算出
得られたスラリー組成物について、JIS K 7117-2:1999に記載のコーンプレート型回転粘度計を用いて、25℃で、5rpm及び50rpmでの測定時の粘度を測定した。この測定値から下記式によってチキソ比を計算した。
チキソ比=(5rpmでの粘度測定値[Pa・s])/(50rpmでの粘度測定値[Pa・s])
【0050】
成形物の作製
続いて、実施例1、2、3及び5、比較例1及び3の各スラリー組成物100質量部にジクミルパーオキシド(商品名:パークミルD、日油製)を2質量部加え、溶解させた。その後、各スラリー組成物をテフロンコーティングした試験片作製用金型に流し込み、100℃、1時間で有機溶剤を揮発させてから175℃、2時間かけて硬化させ、JIS K 7161-2:2014に記載の1A型試験片を得た。この試験片を用いて以下の諸特性を測定した。結果を表2に示す。
【0051】
引張強さ、引張応力、引張強さひずみの測定
JIS K 7161-1:2014の方法に基づき、25℃で引張強さ、引張応力、及び引張強さひずみを測定した。
【0052】
比誘電率、誘電正接の測定
上述の成形物の作製と同様に、各スラリー組成物を硬化させて、厚さ200μmのフィルムを得た。その後、ネットワークアナライザ(キーサイト社製 E5063-2D5)とストリップライン(キーコム株式会社製)を接続し、前記フィルムの周波数10GHzにおける比誘電率と誘電正接を測定した。
【0053】
【0054】
【0055】
以上の結果から、本発明のスラリー組成物は、チキソ性が低く、ハンドリング性に優れていることが明らかとなった。また、該スラリー組成物より形成されたフィルムは、機械特性に優れ、比誘電率や誘電正接が低く、該スラリー組成物より形成された成形物は、高周波機器用材料に好適であることが分かった。