(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】硬化性組成物、及び接合構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 163/00 20060101AFI20241220BHJP
C08G 59/32 20060101ALI20241220BHJP
B32B 7/12 20060101ALI20241220BHJP
B32B 27/38 20060101ALI20241220BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20241220BHJP
【FI】
C09J163/00
C08G59/32
B32B7/12
B32B27/38
H10K50/10
(21)【出願番号】P 2020214982
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2023-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 剛志
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-197425(JP,A)
【文献】特開2018-056269(JP,A)
【文献】国際公開第2016/170893(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 1/00- 43/00
C08G 59/00- 59/72
H10K 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の被接着物を接着する接着層であって、80℃以上100℃以下での加熱と、露光とにより、水の接触角が40°以上50°以下である硬化物を含む前記接着層を形成するために使用するための硬化性組成物であって、2以上の前記被接着物の少なくとも1つが低耐熱性材料を含み、
前記硬化性組成物が質量平均分子量1000以上50000以下であるエポキシ樹脂を含み、
前記エポキシ樹脂が、下記式(g1-1):
【化1】
(式(g1-1)中、R
61、及びR
62は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい2価の炭化水素基であり、R
63、及びR
64は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基である。)
で表される構成単位(g1)の繰り返し構造を有する、前記硬化性組成物。
【請求項2】
2以上の被接着物を接着する接着層を形成するために用いられ、2以上の前記被接着物の少なくとも1つが低耐熱性材料を含む、硬化性組成物であって、質量平均分子量1000以上50000以下であるエポキシ樹脂を含み、
前記低耐熱性材料を含む前記被接着物が、有機EL素子用の電子輸送層、正孔輸送層、及び有機発光層の少なくとも1つであり、
前記エポキシ樹脂が、下記式(g1-1):
【化2】
(式(g1-1)中、R
61、及びR
62は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい2価の炭化水素基であり、R
63、及びR
64は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基である。)
で表される構成単位(g1)の繰り返し構造を有し、
80℃以上100℃以下での加熱と、露光とにより、水の接触角が40°以上50°以下である硬化物を与える、硬化性組成物。
【請求項3】
前記硬化性組成物の質量に対する、前記エポキシ樹脂の質量の比率が0.010質量%以上0.040質量%以下である、請求項1又は2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂を構成する全構成単位に対する、前記構成単位(g1)のモル数の比率が10モル%以上である、請求項1又は2に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
前記低耐熱性材料を含む前記被接着物が、有機EL素子用の電子輸送層、正孔輸送層、及び有機発光層の少なくとも1つである、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
膜厚450nmの試料を用いて測定される値として、全光線透過率が98%以上の硬化物を与える、請求項1~5のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項7】
2以上の被接着物が接着層を介して接着されており、2以上の前記被接着物の少なくとも1つが、低耐熱性材料を含む、接合構造体の製造方法であって、
2以上の前記被接着物の少なくとも1つにおける被接着面に、請求項1~5のいずれか1項に記載の硬化性組成物を塗布して塗布膜を形成することと、
前記塗布膜に対して、80℃以上100℃以下の加熱を行った後に、露光を行って、前記塗布膜を硬化させて前記接着層を形成することと、
前記接着層を備える前記被接着物と、他の前記被接着物とを接着させることとを含む、製造方法。
【請求項8】
前記接着層の膜厚が、30nm以下である、請求項7に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項9】
前記低耐熱性材料を含む前記被接着物が、有機EL素子用の発光物質を含む発光層、発光物質を含む発光層を含む有機層、電子輸送層、正孔輸送層、及び有機発光層の少なくとも1つである、請求項7又は8に記載の接合構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物、及び当該硬化性組成物を用いる接合構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、積層構造を有する種々の素子等の形成において、層間の接着を行うために、種々の熱硬化性の接着材料が使用されている。例えば、特許文献1には、フォトダイオードを含む受光素子の製造において、200℃以上で硬化することが知られているベンゾシクロブテンを熱硬化性の接着層として用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、有機EL素子(有機電界発光素子)等に代表されるように、種々の機能性素子において、高温において熱変形したり、熱分解したりする耐熱性に劣る材料が含まれることも多い。このため、被接着物の接着に用いられる硬化性組成物について、高温で加熱を行わずとも良好な接着性を発現する硬化性組成物が望まれている。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、高温で加熱を行わずとも良好な接着性を発現する硬化性組成物と、当該硬化性組成物を用いる接合構造体の製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、2以上の被接着物を接着する接着層を形成するために用いられ、2以上の被接着物の少なくとも1つが、低耐熱性材料を含む硬化性組成物として、エポキシ基を含む特定の構造の構成単位を含むエポキシ樹脂を含有し、80℃以上100℃以下での加熱と、露光とにより、水の接触角が40°以上50°以下である硬化物を与える硬化性組成物を用いることにより上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0007】
本発明の第1の態様は、2以上の被接着物を接着する接着層形成用硬化性組成物であって、
質量平均分子量1000以上50000以下であるエポキシ樹脂を含み、
エポキシ樹脂が、下記式(g1-1):
【化1】
(式(g1-1)中、R
61、及びR
62は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい2価の炭化水素基であり、R
63、及びR
64は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基である。)
で表される構成単位(g1)の繰り返し構造を有し、
2以上の被接着物を接着する接着層の少なくとも1つが、低耐熱性材料を含み、
80℃以上100℃以下での加熱と、露光とにより、水の接触角が40°以上50°以下である硬化物を与える、硬化性組成物である。
【0008】
本発明の第2の態様は、2以上の被接着物が接着層を介して接着されており、2以上の被接着物の少なくとも1つが、低耐熱性材料を含む、接合構造体の製造方法であって、
2以上の被接着物の少なくとも1つにおける被接着面に、第1の態様にかかる硬化性組成物を塗布して塗布膜を形成することと、
塗布膜に対して、80℃以上100℃以下の加熱を行った後に、露光を行って、塗布膜を硬化させて接着層を形成することと、
接着層を備える被接着物と、他の被接着物とを接着させることとを含む、製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高温で加熱を行わずとも良好な接着性を発現する硬化性組成物と、当該硬化性組成物を用いる接合構造体の製造方法とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪硬化性組成物≫
硬化性組成物は、2以上の被接着物を接着する接着層を形成するために用いられる。2以上の被接着物の少なくとも1つが、低耐熱性材料を含む硬化性組成物である。
硬化性組成物は、質量平均分子量1000以上50000以下であるエポキシ樹脂を含む。エポキシ樹脂は、下記式(g1-1):
【化2】
(式(g1-1)中、R
61、及びR
62は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい2価の炭化水素基であり、R
63、及びR
64は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基である。)
で表される構成単位(g1)の繰り返し構造を有する。
上記のエポキシ樹脂を含む硬化組成物は、80℃以上100℃以下での加熱と、露光とにより、水の接触角が40°以上50°以下である硬化物を与える。
【0011】
上記の通り、硬化性組成物は、80℃以上100℃以下での加熱と、露光とにより、水の接触角が40°以上50°以下である硬化物を与える。
上記の範囲内の水の接触角を有する硬化物は、種々の材質からなる被接着物と良好に接着する。
【0012】
以下、硬化性組成物が有する、必須、又は任意の成分について説明する。
【0013】
<エポキシ樹脂>
前述の通り、硬化性組成物は、質量平均分子量1000以上50000以下であるエポキシ樹脂を含む。エポキシ樹脂は、下記式(g1-1):
【化3】
(式(g1-1)中、R
61、及びR
62は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい2価の炭化水素基であり、R
63、及びR
64は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基である。)
で表される構成単位(g1)の繰り返し構造を有する。
【0014】
本出願の明細書、及び特許請求の範囲において、「エポキシ樹脂」は、1分子中にエポキシ基を2個以上有する樹脂である。
エポキシ樹脂の質量平均分子量は、1000以上50000以下であり、2000以上40000以下が好ましく、3000以上30000以下がより好ましく、3000以上20000以下が最も好ましい。
エポキシ樹脂の質量平均分子量が上記の範囲内であることにより、硬化性組成物の硬化物が、種々の材料からなる被接着物と良好な接着性を示すとともに、塗布性の良好な硬化性組成物を得やすい。
本出願の明細書、及び特許請求の範囲において「質量平均分子量」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算値である。以下、質量平均分子量をMwと表すことがある。
【0015】
〔構成単位(g1)〕
エポキシ樹脂は、上記式(g1-1)で表される構成単位(g1)の繰り返し構造を有する。
式(g1-1)中、R61、及びR62は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい2価の炭化水素基である。R63、及びR64は、それぞれ独立に、水素原子、又はアルキル基である。
【0016】
式(g1-1)中、R61、及びR62は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい2価の炭化水素基である。
2価の炭化水素基が「置換基を有する」とは、2価の炭化水素基における水素原子の一部又は全部が、水素原子以外の基又は原子で置換されていることを意味する。
【0017】
R61、及びR62としての2価の炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であってもよく、芳香族炭化水素基であってもよく、脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基との組み合わせであってもよい。
「脂肪族炭化水素基」は、芳香族性を持たない炭化水素基を意味する。また、脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基でもよく、不飽和脂肪族炭化水素基でもよく、飽和脂肪族炭化水素基であるのが好ましい。
【0018】
R61、及びR62としての2価の脂肪族炭化水素基としては、直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素基、その構造中に環を含む脂肪族炭化水素基等が挙げられる。
直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素基の炭素原子数は、1以上10以下が好ましく、1以上8以下がより好ましく、1以上5以下がさらに好ましく、1又は2が最も好ましい。
【0019】
直鎖状の脂肪族炭化水素基としては、直鎖状のアルキレン基が好ましい。直鎖状のアルキレン基の具体例としては、メチレン基、エチレン基(エタン-1,2-ジイル基)、トリメチレン基、テトラメチレン基、及びペンタメチレン基が挙げられる。
分岐鎖状の脂肪族炭化水素基としては、分岐鎖状のアルキレン基が好ましい。分岐鎖状のアルキレン基の具体例としては、エタン-1,1-ジイル基(-CH(CH3)-)、プロパン-1,1-ジイル基(-CH(CH2CH3)-)、プロパン-2,2-ジイル基(-C(CH3)2-)、ブタン-2,2-ジイル基(-C(CH3)(CH2CH3)-)、ペンタン-2,2-ジイル基(-C(CH3)(CH2CH2CH3)-)、及びペンタン-3,3-ジイル基(-C(CH2CH3)2-)等のアルキルメチレン基;プロパン-1,2-ジイル基(-CH(CH3)CH2-)、ブタン-2,3-ジイル基(-CH(CH3)CH(CH3)-)、2-メチルプロパン-1,1-ジイル基(-C(CH3)2CH2-、ブタン-1,2-ジイル基(-CH(CH2CH3)CH2-)、及び2-エチルブタン-1,2-ジイル基(-C(CH2CH3)2-CH2-)等のアルキルエチレン基;ブタン-1,3-ジイル基(-CH(CH3)CH2CH2-)、及び2-メチルプロパン-1,3-ジイル基(-CH2CH(CH3)CH2-)等のアルキルトリメチレン基;ペンタン-1,4-ジイル基(-CH(CH3)CH2CH2CH2-)、2-メチルブタン-1,4-ジイル基(-CH2CH(CH3)CH2CH2-)等のアルキルテトラメチレン基等のアルキルアルキレン基等が挙げられる。アルキルアルキレン基におけるアルキル基としては、炭素原資数1以上5以下の直鎖状のアルキル基が好ましい。
【0020】
直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素基(以下「鎖状の脂肪族炭化水素基」とも記す。)は、置換基を有していてもよく、有していなくてもよい。置換基としては、フッ素原子、炭素原子数1以上5以下のフッ素化アルキル基、及び酸素原子(=O)等が挙げられる。
【0021】
その構造中に環を含む脂肪族炭化水素基としては、環状の脂肪族炭化水素基(脂肪族炭化水素環から水素原子2個以上を除いた基)、該環状の脂肪族炭化水素基が前述した鎖状の脂肪族炭化水素基の末端に結合するか又は鎖状の脂肪族炭化水素基の途中に介在する基等が挙げられる。
環状の脂肪族炭化水素基の炭素原子数は、3以上20以下が好ましく、3以上12以下がより好ましい。
【0022】
環状の脂肪族炭化水素基は、多環式基であってもよく、単環式基であってもよい。単環式基としては、炭素原子数3以上6以下のモノシクロアルカンから2個以上の水素原子を除いた基が好ましい。モノシクロアルカンとしては、シクロペンタン、及びシクロヘキサン等が挙げられる。多環式基としては、炭素原子数7以上12以下のポリシクロアルカンから2個以上の水素原子を除いた基が好ましい。ポリシクロアルカンとしては、アダマンタン、ノルボルナン、イソボルナン、トリシクロデカン、及びテトラシクロドデカン等が挙げられる。
環状の脂肪族炭化水素基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、炭素原子数1以上5以下のアルキル基、フッ素原子、炭素原子数1以上5以下のフッ素化アルキル基、及び酸素原子(=O)等が挙げられる。
【0023】
R61、及びR62としての芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ビフェニル基、フルオレニル基、ナフチル基、アントリル基、及びフェナントリル基等の1価の芳香族炭化水素基の芳香族炭化水素の核から水素原子をさらに1つ除いた2価の芳香族炭化水素基が挙げられる。
芳香族炭化水素基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、炭素原子数1以上5以下のアルキル基、フッ素原子、フッ素原子で置換された炭素原子数1以上5以下のフッ素化アルキル基、酸素原子(=O)等が挙げられる。
【0024】
R61、及びR62としての2価の炭化水素基が、脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基との組み合わせである場合、2価の炭化水素基の例としては、ベンジル基、フェネチル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基、1-ナフチルエチル基、及び2-ナフチルエチル基等のアラルキル基において、芳香族炭化水素の核から水素原子をさらに1つ除いた基等が挙げられる。
脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基との組み合わせからなる2価の炭化水素基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、炭素原子数1以上5以下のアルキル基、フッ素原子、フッ素原子で置換された炭素原子数1以上5以下のフッ素化アルキル基、酸素原子(=O)等が挙げられる。
【0025】
R61、及びR62としては、直鎖状の脂肪族炭化水素基が好ましく、直鎖状のアルキレン基がより好ましく、炭素原子数1以上5以下の直鎖状のアルキレン基がさらに好ましく、メチレン基が最も好ましい。
【0026】
式(g1-1)中、R63、及びR64は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基である。R63、及びR64としてのアルキル基としては、炭素原子数1以上5以下のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
R63、及びR64としては、それぞれ、水素原子又はメチル基が好ましい。
【0027】
式(g1-1)で表される構成単位の好ましい具体例としては、下記式(g1-1-1)で表される構成単位が挙げられる。
【化4】
【0028】
エポキシ樹脂における上記式(g1-1)で表される構成単位(g1)の含有量は、硬化性組成物を用いて、80℃以上100℃以下での加熱と、露光とにより、水の接触角が40°以上50°以下である硬化物を形成できる限り特に限定されない。
硬化物の水の接触角は、エポキシ樹脂のエポキシ当量を調整したり、水酸基やポリオキシアルキレン基等のエポキシ基と反応しない親水性基を有する樹脂を硬化性組成物に少量添加したり、フッ素化アルキル基等の疎水性基を有する樹脂を硬化性組組成物に少量添加したりする方法により調整できる。
【0029】
エポキシ樹脂としては、上記式(g1-1)で表される構成単位(g1)を含むホモ/コポリマーが好ましい。エポキシ樹脂としては、下記式(G-1)で表される構成単位(G)を含むホモ/コポリマーがより好ましい。式(G-1)中、g6、及びg7は、それぞれ独立に1以上5以下の整数であり、1以上3以下の整数が好ましく、1がより好ましい。
【化5】
【0030】
エポキシ樹脂における、構成単位(g1)以外の他の構成単位は特に限定されないが、以下に記載の化合物に由来する構成単位が挙げられる。例えば、ブタジエン、イソプレン等のジエン化合物;エポキシブタジエン、エポキシイソプレン等のエポキシジエン化合物;が挙げられる。
【0031】
80℃以上100℃以下での加熱と、露光とにより、所望する範囲内の水の接触角を示す硬化物を形成しやすい点から、エポキシ樹脂における構成単位(g1)の含有量は、エポキシ樹脂の全構成単位の合計に対して、5質量%が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。エポキシ樹脂における構成単位(g1)の含有量の上限は、100質量モル%が好ましく、80モル%であってもよい。
構成単位(g1)を含むエポキシ樹脂は、プリリツェフエポキシ化反応等、公知の手法により得ることができる。また、ポリブタジエン樹脂にエポキシ化剤を反応させてもよい。エポキシ化剤としては、過酢酸、過ギ酸、過安息香酸、m-クロロ過安息香酸、過プロピオン酸等の有機過酸類、過酸化水素、tert-ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド等の有機ヒドロパーオキサイド類等を使用できる。
【0032】
エポキシ樹脂の分散度(Mw/Mn)は1.0以上6.5以下が好ましく、1.5以上6がより好ましく、1.5以上5以下が最も好ましい。なお、「Mn」は数平均分子量である。
【0033】
硬化性組成物におけるエポキシ樹脂の含有量は、硬化性組成物の質量に対して、0.010質量%以上0.050質量%以下が好ましく、0.010質量%以上0.040質量%以下がより好ましく、0.015質量%以上0.035質量%以下がさらに好ましい。上記範囲とすることで薄膜の接着層を形成することができる。また、形成される硬化物を含む構造体の光学特性が良好に維持される。
【0034】
硬化性組成物が、上記の範囲内の量のエポキシ樹脂を含む場合、硬化性組成物の硬化物と被接着物との接着性が良好であり、また硬化性組成物の被接着物への塗布性が良好である。
【0035】
<その他の成分>
硬化性組成物が含んでいてもよい、エポキシ樹脂以外のその他の成分としては、有機溶剤、含硫黄有機化合物、含窒素有機化合物、界面活性剤、有機酸類、光酸発生剤、光塩基発生剤、及び染料や顔料等の着色剤等が挙げられる。
【0036】
なお、硬化性組成物の硬化物に高透明性が要求される場合がある。この場合、硬化性組成物は、染料や顔料等の着色剤を含まないのが好ましい。
【0037】
この場合、硬化性組成物の硬化物は、膜厚450nmの硬化物を試料として全光線透過率を測定した場合に、98%以上の全光線透過率を示すのが好ましい。
なお、被接着物(の低耐熱性材料)が、有機発光素子、発光物質を含む発光層、発光物質を含む発光層を含む有機層、電子輸送層、又は正孔輸送層を含む場合、硬化性組成物の硬化物に薄膜での接着性が要求される場合がある。この場合、硬化性組成物が上記のその他の成分を含まないのが好ましい。また、硬化性組成物中の固形分の質量のうちエポキシ樹脂の質量の割合は、90質量%以上100質量%以下であることが好ましく、99質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましい。
【0038】
塗布性の観点から、硬化性組成物は有機溶剤を含むのが好ましい。有機溶剤としては、エポキシ樹脂を溶解して均一な溶液とすることができる限り特に限定されない。有機溶剤としては、例えば、種々のレジスト組成物に一般的に配合されている有機溶剤を用いることができる。
有機溶剤の具体例としては、例えば、γ-ブチロラクトン等のラクトン類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、及びメチル-n-ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、及び2-ヘプタノン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール類;エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、及びジプロピレングリコールモノアセテート等のエステル結合を有するグリコール誘導体;前述の多価アルコール類、又は前述のエステル結合を有するグリコール誘導体のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、及びモノブチルエーテル等のモノアルキルエーテル;前述の多価アルコール類、又は前述のエステル結合を有するグリコール誘導体のモノフェニルエーテル;ジオキサンのような環式エーテル類;乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、及びエトキシプロピオン酸エチル等のエステル類;アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、トルエン、キシレン、シメン、及びメシチレン等の芳香族系有機溶剤が挙げられる。
有機溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
それぞれ所望する量の上記の成分を均一に混合することにより、硬化性組成物が得られる。
【0040】
≪接合構造体の製造方法≫
接合構造体の製造方法は、2以上の被接着物を接着層を介して接着することを含む方法である。2以上の接着物の少なくとも1つが、低耐熱性材料を含む。
【0041】
上記の接合体の製造方法は、2以上の被接着物の少なくとも1つにおける被接着面に、前述の硬化性組成物を塗布して塗布膜を形成することと、
塗布膜に対して、80℃以上100℃以下の加熱を行った後に、露光を行って、塗布膜を硬化させて接着層を形成することと、
接着層を備える被接着物と、他の被接着物とを接着させることとを含む。
【0042】
前述の硬化性組成物は、80℃以上100℃以下の温度で加熱された後に、露光されることによって、良好な接着性を有する硬化物を与える。
このため、2以上の被接着物の少なくとも1つが、低耐熱性材料を含んでいても、低耐熱性材料の性能劣化や、熱分解や、熱による変形を防ぎつつ接着構造体を製造できる。
【0043】
ここで、低耐熱性材料とは、有機発光素子、発光物質を含む発光層、発光物質を含む発光層を含む有機層、電子輸送層、正孔輸送層、ガラス転移温度が100℃以下の樹脂材料、及び/又は100℃において分解する材料を意味する。
有機発光素子とは、電界型発光素子である有機発光(エレクトロルミネセンス、EL)素子であり、100℃以上の熱により、性能劣化することが知られている(特開2009-117576号公報)。一般的に、基板、光を発光するための発光層又は有機発光層、電極、及び封止層等を有する。
発光物質を含む発光層とは、上記の有機発光素子における発光層である。
発光物質を含む発光層を含む有機層とは、上記の有機発光素子における有機発光層である。
電子輸送層は、上記の有機発光素子における電子輸送層である。
正孔輸送層は、上記の有機発光素子における正孔輸送層である。
ガラス転移温度が100℃以下の樹脂材料とは、示差走査熱量測定(DSC測定)測定により求められるガラス転移温度が100℃以下である樹脂材料である。
また、100℃において分解する材料とは、示差熱-熱重量測定(TG-DTA測定)により求められる、分解開始温度が100℃以下である材料である。分解開始温度は、熱分解をともなう重量減少開始温度である。
【0044】
ガラス転移温度が100℃以下の樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ナイロン6、ナイロン6,6、ポリアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ乳酸、EVA樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、PEDOT(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン))、及びPFO(ポリジオクチルフルオレン)等が挙げられる。また、特開2010-204199号公報記載のアクリル系樹脂を用いることができる。
【0045】
上記の低耐熱性材料が多く使われることから、被接着物は、有機EL素子の一部であるのが好ましい。例えば、被接着物としての有機ELの一部は、有機EL素子用の、発光物質を含む発光層、発光物質を含む発光層を含む有機層、電子輸送層、正孔輸送層、及び有機発光層の少なくとも1つを含む。
【0046】
2以上の被接着物の少なくとも1つにおける接着面に、硬化性組成物を塗布する方法は特に限定されない。例えば、接着面が平面である場合、ロールコーター、スプレーコーター、スリットコーター等を用いて、接着面に硬化性組成物を塗布できる。また、被接着物の形状がシート状やプレート状であり、シート状又はプレート状の被接着物の主面に硬化性組成物を塗布する場合、スピンナーを用いることができる。
被接着面が、曲面であったり、不定形の面であったりする場合、スプレーコーターを用いて硬化性組成物を塗布するのが好ましい。
なお、ロールコーター、スプレーコーター、スリットコーター、スピンナー等による塗布が可能である限りにおいて、接着面は、凹凸を有してもよい。
【0047】
硬化性組成物は、被接着物を接着する際に対向する2つの接着面のうち、一方の接着面に塗布されてもよく、両方の接着面に塗布されてもよい。
【0048】
塗布膜の厚さは特に限定されないが、塗布膜を硬化させて形成する接着層の厚さに応じて適宜決定される。
【0049】
塗布膜を形成した後に、まず、塗布膜に対して80℃以上100℃以下の加熱を行う。かかる範囲内の温度で加熱することにより、被接着物が含む低耐熱性材料の熱分解や熱変形を防止しつつ、塗布膜の硬化を部分的に進行させることができる。また、上記の範囲内の温度で塗布膜を加熱することにより、続いて行われる露光により、水の接触角が40°以上50°以下である硬化物からなる接着層を形成しやすい。
【0050】
加熱温度は、80℃以上95℃以下が好ましく、85℃以上95℃以下がより好ましい。加熱時間をは特に限定されないが、5秒以上1時間以下が好ましく、10秒以上30分以下がより好ましく、20秒以上10分以下がさらに好ましく、30秒以上5分以下が特に好ましい。
【0051】
次いで、加熱された塗布膜に対して露光を行う。露光は、紫外線、エキシマレーザー光等の活性エネルギー線を照射することにより行う。活性エネルギー線の光源としては、例えば低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、エキシマレーザー発生装置等が挙げられる。照射するエネルギー線量は、ポジ型感光性樹脂組成物の組成によっても異なるが、例えば500mJ/cm2以上5000mJ/cm2以下程度であればよい。
【0052】
以上説明した加熱及び露光によって、水の接触角が40°以上50°以下である硬化物かなる接着層が形成される。かかる硬化物は、エポキシ基の関与する反応により生じた水酸基をある程度の多数有し、水酸基と被接着物との相互作用によって被接着物が硬化物からなる接着層を介して良好に結合されると考えられる。
形成された硬化物かなる接着層の膜厚は、例えば、2Å以上1000nm以下であり、2Å以上30nm以下が好ましい。低耐熱性材料が、有機発光素子、発光物質を含む発光層、発光物質を含む発光層を含む有機層、電子輸送層、又は正孔輸送層を含む場合、光学特性の点で好ましい膜厚は、30nm以下であり、2Å以上5nm以下であり、より好ましくは、3Å以上1nm以下である。
【0053】
次いで、接着層を備える被接着物と、他の被接着物とを接着させる。典型的には、上記の塗布膜を備える被接着物において、塗布膜に対して、加熱及び露光を行って接着層を形成した後に、接着層に対して、被接着物を接着させる。
また、被接着物が透光性を有する場合、上記の塗布膜を介して2以上の被接着物を接合した状態で、塗布膜に対して加熱、及び露光を行い、被接着物間に、接着性が発現した接着層を形成してもよい。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0055】
〔実施例1〕
上記式(g1-1-1)で表される構成単位のエポキシホモポリマー(Mw10000)を、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解することにより、エポキシポリマー溶液(エポキシポリマー濃度0.020質量%)として調製した硬化性組成物を用いた。この硬化性組成物を、ガラス基板上にスピンコートして塗布膜を形成した。形成された塗布膜に対して、90℃、60秒間の加熱を施した。次いで、加熱された塗布膜に対して、下記の条件で露光を行い、膜厚450nmの接着層を形成した。接着層の膜厚は、レジスト膜厚測定装置ナノスペック(Nanometrics社製)を用いて測定した。
Dropmaster700(協和界面科学株式会社製)を用い、基板表面に純水液滴(1.8μL)を滴下して、滴下10秒後における接着層表面の水の接触角を測定した。その結果、水の接触角は41.5°であった。
また、MCPD-3000(大塚電子株式会社製)を用いて、測定波長範囲0~2000nmでの接着層の全光線透過率を測定したところ、全光線透過率は98%以上であった。
<露光条件>
露光装置:HMW-615N(株式会社オーク製低圧水銀ランプ)
露光波長:g線(436nm)、h線(405nm)、i線(365nm)混在波長
露光量:3000mJ/cm2
【0056】
〔実施例2〕
露光量を1000mJ/cm2に変えることの他は、実施例1と同様にして膜厚450nmの接着層を形成した。実施例1と同様にして接着層の水の接触角を測定したところ、水の接触角は45.6°であった。また、実施例1と同様にして接着層の全光線透過率を測定したところ、全光線透過率は98%以上であった。
【0057】
〔実施例3〕
露光量を2000mJ/cm2に変えることの他は、実施例1と同様にして膜厚450nmの接着層を形成した。実施例1と同様にして接着層の水の接触角を測定したところ、水の接触角は43.4°であった。また、実施例1と同様にして接着層の全光線透過率を測定したところ、全光線透過率は98%以上であった。
【0058】
〔実施例4〕
シリコン基板上に、実施例1で用いた硬化性組成物をスピンコートして、塗布膜を形成した。形成された塗布膜に対して、90℃、60秒間の加熱を施した。次いで、加熱された塗布膜に対して、下記の条件で露光を行い、膜厚5Åの接着層を形成した。接着層の膜厚は、レジスト膜厚測定装置ナノスペック(Nanometrics社製)を用いて測定した。
<露光条件>
露光装置:HMW-615N(株式会社オーク製低圧水銀ランプ)
露光波長:g線(436nm)、h線(405nm)、i線(365nm)混在波長
露光量:3000mJ/cm2
【0059】
次いで、4-ヒドロキシフェニルメタクリレートとグリシジルメタクリレートと3,4―エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレートとをモル比40:50:10となるように共重合させたアクリル系樹脂(Mw;9000)の樹脂溶液(濃度:30質量%、溶媒:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)を接着層上にスピンコートして塗布膜を形成した後、塗布膜を90℃で90秒間加熱して、膜厚500nmの樹脂膜を形成した。形成された樹脂膜に対して、10マス×10マスの正方形のマス目ができるように切れ込み(クロスハッチ)を入れるクロスハッチ試験を行った。正方形のマス目の一辺の長さは1mmである。クロスハッチ試験後に、樹脂膜を観察したが、マス目部分において樹脂膜の剥離は認められなかった。
クロスハッチ試験後、樹脂膜のマス目の部分に、ASTM D3359-09e2.に従ってテープテストを行い、テープテスト後の樹脂膜を観察したが、マス目部分において樹脂膜の剥離は認められなかった。
さらに、テープテスト後、シリコン基板をアルカリ現像液(濃度2.38質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液)に室温で60秒間浸漬した後、純水リンスとエアードライを行う、アルカリ現像試験を行った。アルカリ現像試験後に、樹脂膜を観察したが、マス目部分において樹脂膜の剥離と、マス目部分の切れ目からの現像液の染み込みは観察されなかった。
〔実施例5〕
露光量を1000mJ/cm2に変えることの他は、実施例4と同様の試験を行った。
その結果、クロスハッチ試験後、テープテスト後、アルカリ現像試験後のいずれにおいても、樹脂膜の剥離は見られず、アルカリ現像試験後に、ごくわずかなアルカリ現像液の染み込みが見られただけだった。
【0060】
〔比較例1〕
露光を行わないことの他は、実施例4と同様の試験を行った。
その結果、クロスハッチ試験後、テープテスト後、アルカリ現像試験後のいずれにおいても、樹脂膜の剥離は見られなかったが、アルカリ現像試験後に、アルカリ現像液の著しい染み込みが見られた。
【0061】
〔比較例2〕
接着層を形成せず、シリコン基板上に直接樹脂膜を形成することの他は、実施例4と同様の試験を行った。
その結果、クロスハッチ試験後、テープテスト後において樹脂膜の剥離は見られなかったが。しかし、アルカリ現像試験後に、樹脂膜の著しい剥離が見られた。