(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】分泌物産生細胞のスクリーニング方法、及び分泌物産生細胞のスクリーニングキット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/04 20060101AFI20241220BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20241220BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20241220BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20241220BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20241220BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
C12Q1/04
C12M1/34 Z
G01N33/53 N
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
G01N33/543 541Z
(21)【出願番号】P 2021551221
(86)(22)【出願日】2020-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2020036534
(87)【国際公開番号】W WO2021065766
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2019178577
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【氏名又は名称】服部 映美
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【氏名又は名称】白石 卓也
(72)【発明者】
【氏名】大坂 享史
【審査官】阪▲崎▼ 裕美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/057234(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/109134(WO,A1)
【文献】特表2019-508059(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0039005(KR,A)
【文献】特開2009-034047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/02
C12M 1/00
C12M 3/00
G01N 33/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPINDEX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の細胞から目的の分泌物を産生する細胞をスクリーニングする分泌物産生細胞のスクリーニング方法であって、
前記細胞が通過しない大きさの貫通孔を底部に有する複数のウェルに、前記細胞と、前記目的の分泌物を捕捉可能な検出粒子であって、前記貫通孔を通過しない大きさを有する検出粒子と、を捕捉させる工程Aと、
前記複数のウェルに捕捉された細胞に分泌物を産生させる工程Bと、
前記検出粒子に捕捉された前記目的の分泌物を検出する工程Cと、
前記検出結果を指標として、前記複数のウェルから前記目的の分泌物を産生する細胞が捕捉されたウェルを特定する工程Dと、を含み、
前記ウェルは、1個以上の前記検出粒子を捕捉した状態で、前記細胞を1細胞単位で捕捉可能な大きさを有する、
分泌物産生細胞のスクリーニング方法。
【請求項2】
前記目的の分泌物が抗体である、請求項1に記載の分泌物産生細胞のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記検出粒子が、前記目的の分泌物に結合性を有する物質が固定化された担体粒子である、請求項1又は2に記載の分泌物産生細胞のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記検出粒子が、前記目的の分泌物に結合性を有する細胞膜タンパク質を含む細胞である、請求項1又は2に記載の分泌物産生細胞のスクリーニング方法。
【請求項5】
複数の細胞から目的の分泌物を産生する細胞をスクリーニングする分泌物産生細胞のスクリーニングキットであって、
複数のウェルを含むデバイスと、担体粒子と、を備え、
前記ウェルは、1個以上の前記担体粒子を捕捉した状態で、前記細胞を1細胞単位で捕捉可能な大きさを有し、且つ前記細胞が通過しない大きさの貫通孔を底部に有し、
前記担体粒子は、前記貫通孔を通過しない大きさを有
し、前記目的の分泌物に結合性を有する物質が固定化された担体粒子である、
分泌物産生細胞のスクリーニングキット。
【請求項6】
前記デバイスが、
前記貫通孔に接続し、前記貫通孔の下方に配置される流路をさらに含む、請求項5に記載の分泌物産生細胞のスクリーニングキット。
【請求項7】
前記デバイスが、前記流路に連通する吸引孔をさらに含む、請求項6に記載の分泌物産生細胞のスクリーニングキット。
【請求項8】
前記分泌物が抗体である、請求項5~7のいずれか一項に記載の分泌物産生細胞のスクリーニングキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分泌物産生細胞のスクリーニング方法、及び分泌物産生細胞のスクリーニングキットに関する。
本願は、2019年9月30日に、日本に出願された特願2019-178577号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に創薬分野において、細胞解析のターゲットが細胞群レベルから単一細胞レベルへと細分化されている。細胞を1つ1つのレベルで捕捉し、特定し、選別し、回収し、培養し、遺伝子解析を行い、選別された細胞を用いる試みがなされている。細胞を特定・選別する方法としては、細胞から分泌される分泌物を分離し、目的の分泌物を検出後、目的の分泌物を分泌した細胞をスクリーニングする方法が採用されている。このような単一細胞解析においては、複数の細胞を一括して解析する技術が有用である。
【0003】
細胞を一括して解析する技術としては、例えば、抗体産生細胞、抗原結合ビーズ及び蛍光標識抗抗体-抗体の混合物をスライドガラス上にスポットしてインキュベートし、抗体産生細胞を取り囲む蛍光の局在的増加により、目的抗体を産生するB細胞を特定する方法が報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、抗体産生細胞が固定されていないため、培養操作、蛍光検出操作、及び細胞採取操作等において、抗体産生細胞が移動するおそれがある。そのため、正確なスクリーニングが行えない場合がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、目的の分泌物を産生する細胞を正確に取得することが可能な、分泌物産生細胞のスクリーニング方法、及び前記分泌物産生細胞のスクリーニングキットを提供すること、を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用した。
【0008】
本発明の第1の態様は、複数の細胞から目的の分泌物を産生する細胞をスクリーニングする分泌物産生細胞のスクリーニング方法であって、前記細胞が通過しない大きさの貫通孔を底部に有する複数のウェルに、前記細胞と、前記目的の分泌物を捕捉可能な検出粒子であって、前記貫通孔を通過しない大きさを有する検出粒子と、を捕捉させる工程Aと、前記複数のウェルに捕捉された細胞に分泌物を産生させる工程Bと、前記検出粒子に捕捉された前記目的の分泌物を検出する工程Cと、前記検出結果を指標として、前記複数のウェルから前記目的の分泌物を産生する細胞が捕捉されたウェルを特定する工程Dと、を含み、前記ウェルは、1個以上の前記検出粒子を捕捉した状態で、前記細胞を1細胞単位で捕捉可能な大きさを有する、分泌物産生細胞のスクリーニング方法である。
【0009】
本発明の第2の態様は、複数の細胞から目的の分泌物を産生する細胞をスクリーニングする分泌物産生細胞のスクリーニングキットであって、複数のウェルを含むデバイスと、担体粒子と、を備え、前記ウェルは、1個以上の前記担体粒子を捕捉した状態で、前記細胞を1細胞単位で捕捉可能な大きさを有し、且つ前記細胞が通過しない大きさの貫通孔を底部に有し、前記担体粒子は、前記貫通孔を通過しない大きさを有する、分泌物産生細胞のスクリーニングキットである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、目的の分泌物を産生する細胞を正確に取得することが可能な、分泌物産生細胞のスクリーニング方法、及び前記分泌物産生細胞のスクリーニングキットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】分泌物産生細胞のスクリーニング方法の工程Aの一例を説明する図である。
【
図2】分泌物産生細胞のスクリーニング方法の工程Bの一例を説明する図である。
【
図3】分泌物産生細胞のスクリーニング方法の工程Cの一例を説明する図である。
【
図4】分泌物産生細胞のスクリーニング方法の工程Dの一例を説明する図である。
【
図5】分泌物産生細胞のスクリーニング方法の工程Aの変形例を説明する図である。
【
図6】検出粒子が細胞である場合の分泌物産生細胞のスクリーニング方法の一例を説明する図である。
【
図7A】分泌物産生細胞のスクリーニング方法の洗浄工程の一例を説明する図である。
【
図7B】分泌物産生細胞のスクリーニング方法の洗浄工程の一例を説明する図である。
【
図8】スクリーニングキットが備えるデバイスの一実施形態を示す平面図である。
【
図10】同実施形態のデバイスの正断面を示す斜視図である。
【
図11】同実施形態のデバイスの中央部の正断面図である。
【
図13】同実施形態のデバイスの同実施形態の組立方法を示す斜視図である。
【
図14】一実施形態に係るスクリーニング方法を適用した実施例のウェルの蛍光顕微鏡写真である。(A)は、洗浄工程を行っていないウェルの蛍光顕微鏡写真である。(B)は、洗浄工程を行ったウェルの蛍光顕顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の実施形態について詳細に説明する。図面中、同一又は相当部分には同一又は対応する符号を付し、重複する説明は省略する。各図における寸法比は、説明のため誇張している部分があり、必ずしも実際の寸法比とは一致しない。
【0013】
(分泌物産生細胞のスクリーニング方法)
本発明の第1の態様は、複数の細胞から目的の分泌物を産生する細胞をスクリーニングする分泌物産生細胞のスクリーニング方法である。前記スクリーニング方法は、前記細胞が通過しない大きさの貫通孔を底部に有する複数のウェルに、前記細胞と、前記目的の分泌物を捕捉可能な検出粒子であって、前記貫通孔を通過しない大きさを有する検出粒子と、を捕捉させる工程Aと、前記複数のウェルに捕捉された細胞に分泌物を産生させる工程Bと、前記検出粒子に捕捉された前記目的の分泌物を検出する工程Cと、前記検出結果を指標として、前記複数のウェルから前記目的の分泌物を産生する細胞が捕捉されたウェルを特定する工程Dと、を含む。前記ウェルは、1個以上の前記検出粒子を捕捉した状態で、前記細胞を1細胞単位で捕捉可能な大きさを有する。
【0014】
本実施形態に係るスクリーニング方法では、まず、スクリーニングに供する細胞Cが通過しない大きさの貫通孔52を底部に有する複数のウェル50に、細胞Cと、目的の分泌物を捕捉可能な検出粒子Bと、を捕捉させる(工程A;
図1)。検出粒子Bは、貫通孔52を通過しない大きさを有する。また、ウェル50は、1個以上の検出粒子Bを捕捉した状態で、細胞Cを1細胞単位で捕捉可能な大きさを有する。
次に、ウェル50に捕捉された細胞Cをインキュベートし、細胞Cに分泌物Aを産生させる(工程B;
図2)。
次に、検出試薬D等を用いて、検出粒子Bに捕捉された目的の分泌物Aを検出する(工程C;
図3)。
最後に、工程Cで得られた検出結果を指標として、複数のウェル50(ウェル50-1,50-2,50-3)から、目的の分泌物A(分泌物A-1)を産生する細胞が捕捉されたウェル50(ウェル50-1)を特定する(工程D;
図4)。
【0015】
<スクリーニング細胞>
本実施形態に係るスクリーニング方法に供される複数の細胞(以下、「スクリーニング細胞」ともいう)は、目的の分泌物産生細胞を含むと予測される細胞集団である。複数の細胞は、分泌物を産生する細胞の集団であることが好ましい。細胞としては、例えば、哺乳類(ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ウマ、ラクダ、サル等)細胞、鳥類(ニワトリ等)細胞、昆虫(カイ等)細胞などの動物細胞;植物細胞;酵母等の真菌;大腸菌等の細菌等が挙げられる。スクリーニング細胞は、これらの細胞に、分泌性タンパク質又は分泌性ペプチドをコードする遺伝子を導入した遺伝子組換え細胞であってもよい。前記分泌性タンパク質及び分泌性ペプチドは、非分泌性タンパク質若しくは非分泌性ペプチドに、分泌性シグナルペプチドを連結したキメラタンパク質であってもよい。
【0016】
目的とする分泌物(以下、「目的分泌物」ともいう)は、天然由来であってもよいし、遺伝子工学を利用した非天然のものであってもよい。目的分泌物は、限定はされないが、単一の分泌物であることが好ましい。目的分泌物としては、例えば、免疫グロブリン(免疫グロブリンG(IgG)、免疫グロブリンM(IgM)等);インターロイキン(IL-2、IL-7、IL-12、IL-15等)、ケモカイン、インターフェロン(IFN-γ等)、造血因子(コロニー刺激因子、顆粒球コロニー刺激因子、エリスロポエチン等)、細胞増殖因子(上皮成長因子、線維芽細胞成長因子、血小板由来成長因子、肝細胞成長因子、トランスフォーミング成長因子等)、細胞傷害因子(腫瘍壊死因子、リンフォトキシン)、アディポカイン(脂肪組織から分泌されるレプチン、腫瘍壊死因子等)、神経栄養因子(神経成長因子等)等のサイトカイン;抗生物質;色素等微生物の代謝産物;ホルモン(ペプチドホルモン、ステロイドホルモン、微生物ホルモン等);分泌シグナルペプチドと非分泌性タンパク質とのキメラタンパク質等が挙げられるが、これらに限定されない。目的分泌物は、天然タンパク質又は天然ペプチドに限定されず、これらを遺伝子工学的に改変したものであってもよい。
【0017】
一実施態様において、分泌物は、抗体であることが好ましい。天然抗体としては、免疫グロブリンG(IgG)、免疫グロブリンM(IgM)等が挙げられえる。非天然抗体としては、例えば、Fab、scFv、Diabody等の抗体断片;単ドメイン抗体(Single Domain Antibodies、Methods in Molecular Biology Volume、911、2012);抗体様の性質を有する人工蛋白質分子(Skrlec K, Strukelj B, Berlec A. Non―immunoglobulin scaffolds: a focuson their targets., Trends Biotechnol. 、2015、Apr 27)等が挙げられる。
【0018】
目的分泌物を産生する分泌物産生細胞としては、抗体産生細胞、サイトカイン産生細胞、ホルモン分泌細胞等が挙げられる。
【0019】
抗体分子産生細胞としては、限定はされないが、B細胞、B細胞とミエローマ細胞とを融合したハイブリドーマ、抗体分子をコードするポリヌクレオチドを細胞に導入した遺伝子組換え細胞等が挙げられる。抗体遺伝子を導入する細胞としては、例えば、動物細胞、酵母等の真菌、大腸菌等の細菌等が挙げられる。抗体遺伝子を導入する細胞として、具体的には、例えば、NSO細胞、CHO細胞、COS細胞、293FT細胞等を用いることができる。
【0020】
サイトカイン産生細胞としては、限定はされないが、マクロファージ、B細胞、T細胞、NK細胞、NKT細胞、樹状細胞、肝クッパー細胞、ストローマ細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞等が挙げられる。
ホルモン分泌細胞としては、限定はされないが、脳下垂体前葉細胞、ソマトトロピン産生細胞、ラクトトロピン産生細胞、甲状腺刺激ホルモン産生細胞、性腺刺激ホルモン産生細胞、コルチコトロピン産生細胞、中間下垂体細胞、メラニン細胞刺激ホルモンを分泌する細胞、オキシトシン分泌細胞、バソプレッシン分泌細胞、セロトニン分泌細胞、エンドルフィン分泌細胞、ソマトスタチン分泌細胞、ガストリン分泌細胞、セクレチン分泌細胞、コレシストキニン分泌細胞、インスリン分泌細胞、グルカゴン分泌細胞、ボンベシン分泌細胞、甲状腺細胞、甲状腺上皮細胞、傍濾胞細胞、副甲状腺細胞、副甲状腺主細胞、好酸素性細胞、副腎腺細胞、クロム親和性細胞、ステロイドホルモン(鉱質コルチコイド又は糖質コルチコイド)産生細胞、テストステロン分泌細胞、エストロゲン分泌細胞、プロゲステロン分泌細胞、腎臓の傍糸球体装置の細胞、腎臓の緻密斑細胞、腎臓の周血管極細胞、腎臓のメサンギウム細胞等が挙げられる。
【0021】
中でも、目的分泌物は抗体であることが好ましく、分泌物産生細胞は抗体産生細胞であることが好ましい。
【0022】
<工程A>
工程Aでは、細胞が通過しない大きさの貫通孔を底部に有する複数のウェルに、前記細胞と、目的の分泌物を捕捉可能な検出粒子であって、前記貫通孔を通過しない大きさを有する検出粒子と、を捕捉させる。
【0023】
図1は、工程Aの一例を説明する図である。デバイス100は、複数のウェル50を備えている。ウェル50は、底部50aに貫通孔52を有している。デバイス100は、例えば、第1の面と第2の面とを有する基板又はメンブラン等で構成されていてもよい。複数のウェル50は、例えば、基板又はメンブランの第1の面に開口部を有する凹部であってもよい。貫通孔52は、基板又はメンブランの第1の面から第2の面へと貫通する貫通孔であってもよい。デバイス100の材質は、細胞に有害な材質でないことが好ましい。デバイス100の材質としては、例えば、ガラス;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、シクロオレフィンポリマー(COP)、エポキシ等の一般的な樹脂等が挙げられる。
【0024】
ウェル50の開口部の平面形状は、スクリーニング細胞Cを1細胞単位で捕捉可能な形状であればよく、特に限定されない。ウェル50の平面形状としては、例えば、円形、楕円形、多角形(正方形などの四角形、六角形、八角形等)等が挙げられる。配置密度を高める観点からは、正六角形が好ましい。ウェル50の底部50aは、平底であってもよく、丸底であってもよい。貫通孔52の形成しやすさの観点、及び検出粒子Bの格納量を多くし得る観点から、平底であることが好ましい。
ウェル50は、後述の検出粒子Bを1個以上捕捉した状態で、スクリーニング細胞Cを1細胞単位で捕捉可能な大きさを有する。1細胞単位とは、例えば、シングルセルを意味する。ウェル50の大きさは、スクリーニング細胞Cの大きさに応じて適宜選択可能である。ウェル50の大きさは、限定されないが、一般的にはウェル開口部に入る円の最大径が1~100μm程度、深さが1~100μm程度とすることができる。ウェル開口部に入る円の最大径は、2~50μmがより好ましく、3~25μmがさらに好ましい。ウェル50の深さは、2~70μmがより好ましく、3~50μmがさらに好ましく、4~30μmが特に好ましい。
スクリーニング細胞Cの大きさとの関係では、ウェル50を平面視してその中に入る円の最大径は、スクリーニング細胞Cの最大径の0.5~2倍程度の大きさとすることができ、好ましくは0.8~1.9倍である。ウェル50の深さは、スクリーニング細胞Cの最大径の0.5~4倍程度の大きさとすることができ、より好ましくは0.8~1.9倍である。
【0025】
貫通孔52は、ウェル50の底部50aに設けられ、ウェル50の内部空間と、外部空間とを連通している。貫通孔52は、底部50aを形成する部材を貫通する貫通孔である。貫通孔52の位置、形状、大きさ等は、スクリーニング細胞Cが通過せず、且つスクリーニング細胞Cが分泌する分泌物を含む液体が通過可能であれば、特に限定されない。貫通孔52の平面形状としては、例えば、円形、楕円形、多角形(正方形などの四角形、六角形、八角形等)等が挙げられる。形成しやすさの観点から、円形が好ましい。
貫通孔52の大きさは、限定されないが、一般的には貫通孔52の最小内径を10nm~20μmとすることができる。貫通孔52の最小内径は、50nm~15μmが好ましく、100nm~10μmがより好ましい。
スクリーニング細胞Cの大きさとの関係では、貫通孔52の最小内径は、スクリーニング細胞Cの最大径の0.5倍以下であることが好ましく、0.1倍以下であることがより好ましく、0.05倍以下であることがさらに好ましい。
【0026】
検出粒子Bは、目的の分泌物を捕捉可能な粒子である。検出粒子Bは、ウェル50に捕捉され、且つ貫通孔52を通過しない大きさを有する。検出粒子Bの大きさは、ウェル50及び貫通孔52の大きさに応じて、適宜選択可能である。検出粒子Bの大きさは、例えば、粒径50nm~80μmとすることができる。検出粒子Bの粒径は、例えば、100nm~50μmが好ましく、500nm~30μmがより好ましく、1~20μmがさらに好ましい。
貫通孔52の大きさとの関係では、検出粒子Bの粒径は、貫通孔52の最小内径の1.5倍以上であることが好ましく、2倍以上であることがより好ましく、3倍以上であることがさらに好ましい。
【0027】
貫通孔52の数は、特に限定されず、ウェル50及び貫通孔52の大きさに応じて、適宜設定可能である。貫通孔52は、1個以上であればよく、例えば、1~100個の範囲とすることができる。貫通孔52の数は、ウェル50内の液体の流出効率の観点から、2個以上であることが好ましい。貫通孔52の数の具体例としては、例えば、2~10個、2~5個、2個又は3個等が挙げられる。
貫通孔52の位置は、ウェル50の底部50aであれば、特に限定されない。ウェル50へのスクリーニング細胞Cの格納が容易となる点、及びウェル50内の液体の流出効率の観点から、貫通孔52は、底部50aの中央付近に1個以上配置されることが好ましい。貫通孔52が複数である場合、複数の貫通孔52の配置は、特に限定さない。例えば、底部50aの中央付近に複数の貫通孔52をまとめて配置してもよく、底部50aにランダム又は格子状に複数の貫通孔52を配置してもよい。
【0028】
検出粒子Bは、目的分泌物を捕捉可能なものであれば、特に限定されない。検出粒子Bとしては、例えば、目的分泌物に結合性を有する物質が固定化された担体粒子、目的分泌物に結合性を有する細胞膜タンパク質を含む細胞等が挙げられる。
図1の例では、検出粒子Bは、目的分泌物に結合性を有する物質(以下、「結合物質」ともいう)B2が固定化された担体粒子B1から構成されている。
検出粒子Bが、担体粒子B1及び結合物質B2から構成される場合、担体粒子B1の材質は特に限定されず、抗体等の検出用に通常用いられるものを用いることができる。担体粒子B1としては、例えば、ビーズ(磁気ビーズ、樹脂ビーズ等)、ハイドロゲル粒子(アルギン酸ナトリウムゲル、アガロースゲルなど)、金属粒子(金ナノ粒子)等が挙げられるが、これらに限定されない。
結合物質B2は、目的分泌物に特異的に結合する物質である。目的分泌物が抗体である場合、目的分泌物としては当該抗体の抗原(抗原ペプチド、抗原タンパク質等)を用いることができる。目的分泌物が、サイトカイン又はホルモンである場合、結合物質B2としては、例えば、当該サイトカイン又はホルモンに結合する抗体を用いることができる。
担体粒子B1への結合物質B2の固定化は、公知の方法で行うことができる。固定化方法としては、例えば、ビオチン-アビジン結合等の結合対を用いる方法、受動吸着法等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
工程Aでは、複数のウェル50に、スクリーニング細胞C及び検出粒子Bを捕捉させる。このとき、1個のウェル50に、1個のスクリーニング細胞Cが格納されることが好ましい。ウェル50に、スクリーニング細胞Cを捕捉させる操作(以下、「細胞捕捉操作」ともいう)と、検出粒子Bを捕捉させる操作(以下、「検出粒子捕捉操作」ともいう)とは、別々に行ってもよく、同時に行ってもよい。各捕捉操作を別々に行う場合、細胞捕捉操作及び検出粒子捕捉操作の順番は特に限定されない。検出粒子Bがウェル50内に均等に配置されやすくなる観点から、検出粒子捕捉操作を先に行うことが好ましい。
【0030】
細胞捕捉操作と検出粒子捕捉操作とを別々に行う場合、検出粒子捕捉操作は、緩衝液(PBS、生理食塩水等)若しくは培地等の適切な液体に検出粒子Bを懸濁し、前記懸濁液を複数のウェル50に供給することにより、行うことができる。ウェル50毎に懸濁液の投入操作を行う必要はなく、複数のウェル50の開口部面に懸濁液を供給すればよい。ウェル50に供給された懸濁液中の検出粒子Bは、自重により各ウェル50内に格納される。検出粒子Bのウェル50への格納は、ウェル50内の液体を貫通孔52に連通する吸引孔等から吸引しながら行ってもよい。この場合、検出粒子Bのウェル50への格納をより迅速に行うことができる。検出粒子Bの各ウェル50への格納量は、前記懸濁液中の検出粒子Bの密度により調整することができる。懸濁液中の検出粒子Bの密度は、懸濁液が流動性を損なわない程度であれば、特に限定されず、検出粒子Bの大きさに応じて、適宜選択することができる。懸濁液中の検出粒子Bの密度は、一般的に、例えば、105~1012個/mL程度とすることができる。
懸濁粒子を懸濁する液体として培地を用いる場合、培地は、スクリーニング細胞Cの種類に応じて、当該細胞の培養用培地を適宜選択することができる。スクリーニング細胞Cが、哺乳類細胞である場合、培地としては、例えば、MEM培地、MEMα培地、RPMI培地が挙げられる。
本明細書において、「適切な液体」とは、スクリーニング細胞Cが当該液体中で生存可能な液体を意味する。適切な液体は、スクリーニング細胞Cが分泌物産生細胞である場合に、分泌物を産生可能な液体であることが好ましい。適切な液体の例としては、上記のような緩衝液及び培地等が挙げられる。
【0031】
細胞捕捉操作は、適切な液体にスクリーニング細胞Cを懸濁し、前記細胞懸濁液を複数のウェル50に供給することにより、行うことができる。ウェル50毎にスクリーニング細胞Cの投入操作を行う必要はなく、複数のウェル50を備える部材(プレート、メンブレン等)において、複数のウェル50の開口部が設けられた面に細胞懸濁液を供給すればよい。ウェル50に供給された細胞懸濁液中のスクリーニング細胞Cは、自重により、1細胞単位で各ウェル50内に格納される。スクリーニング細胞Cのウェル50への格納は、ウェル50内の液体を貫通孔52に連通する吸引孔等から吸引しながら行ってもよい。この場合、スクリーニング細胞Cのウェル50への格納をより迅速に行うことができる。細胞懸濁液中のスクリーニング細胞Cの密度は、細胞懸濁液が流動性を損なわない程度であれば、特に限定されず、スクリーニング細胞Cの大きさに応じて、適宜選択することができる。細胞懸濁液中のスクリーニング細胞Cの密度は、一般的に、例えば、105~109個/mL程度とすることができる。
細胞を懸濁する液体として培地を用いる場合、培地としては、上記と同様のものが挙げられる。
【0032】
検出粒子捕捉操作を行った後に細胞捕捉操作を行う場合には、検出粒子捕捉操作を行った後、ウェル50内の液体を貫通孔52から排出させ、その後、スクリーニング細胞Cを含む細胞懸濁液をウェル50に供給してもよい。これにより、ウェル50内の余分な媒体が除去されることから、スクリーニング細胞Cのウェル50への捕捉効率を高めることができる。ウェル50内の液体の排出は、貫通孔52に連通する吸引孔等から吸引しながら行ってもよい。この場合、貫通孔52からの液体の排出を効率よく行うことができる。
【0033】
細胞捕捉操作と検出粒子捕捉操作とを同時に行う場合、適切な液体に、検出粒子B及びスクリーニング細胞Cを懸濁し、前記懸濁液を複数のウェル50に供給すればよい。ウェル50に供給された懸濁液中の検出粒子B及びスクリーニング細胞Cは、自重により各ウェル50内に格納される。検出粒子B及びスクリーニング細胞Cのウェル50への格納は、ウェル50内の液体を貫通孔52に連通する吸引孔等から吸引しながら行ってもよい。この場合、検出粒子B及びスクリーニング細胞Cのウェル50への格納をより迅速に行うことができる。検出粒子Bの各ウェル50への格納量は、前記懸濁液中の検出粒子Bの密度により調整することができる。懸濁液中の検出粒子Bの密度は、上記と同様とすることができる。スクリーニング細胞Cは、1細胞単位で各ウェル50内に格納される。細胞懸濁液中のスクリーニング細胞Cの密度は、上記と同様とすることができる。
【0034】
<工程B>
工程Bでは、複数のウェルに捕捉されたスクリーニング細胞に分泌物を産生させる。
【0035】
図2は、工程Bの一例を説明する図である。ウェル50に捕捉されたスクリーニング細胞Cが分泌物産生細胞である場合、ウェル50内でスクリーニング細胞Cをインキュベートすることにより、スクリーニング細胞Cに分泌物Aを分泌させることができる。インキュベートの条件は、スクリーニング細胞Cの種類に応じて適宜設定することができる。一般的には、25~38℃、0.03~5%CO
2等のインキュベート条件を用いることができる。インキュベート条件の具体例としては、37℃、5%CO
2が挙げられる。
インキュベートは、ウェル50に捕捉されたスクリーニング細胞Cが、緩衝液又は培地等の液体中に存在する状態で行う。好ましくは、ウェル50の内部は、緩衝液又は培地等の液体で満たされている。
【0036】
スクリーニング細胞Cから分泌された分泌物Aが、目的分泌物である場合、分泌物Aは、結合物質B2に結合し、検出粒子Bに捕捉される。また、分泌物Aの一部は、ウェル50内の液体(緩衝液、培地等)と共に、貫通孔52からウェル50の外部に移動する。
インキュベート時間は、分泌物Aが検出粒子Bに捕捉されるのに十分な時間とすることができる。インキュベート時間は、スクリーニング細胞Cの種類に応じて適宜設定すればよく、例えば、0.5~24時間程度とすることができる。
【0037】
<工程C>
工程Cでは、検出粒子に捕捉された目的分泌物を検出する。
【0038】
図3は、工程Cの一例を説明する図である。目的分泌物の検出は、例えば、検出試薬Dを用いて行うことができる。検出試薬Dは、例えば、目的分泌物に特異的に結合する物質(結合物質)D1及び標識物質D2から構成される。
結合物質D1としては、例えば、目的分泌物に特異的に結合する抗体を用いることができる。結合物質D1としての抗体は、天然抗体であってもよく、非天然抗体(例えば、Fab、scFv等の抗体断片)であってもよい。結合物質D1が結合する目的物分泌物の部位は、結合物質B2が結合する部位とは異なることが好ましい。例えば、目的分泌物が抗体である場合、結合物質D1は、目的分泌物である抗体の定常領域に特異的に結合する抗体であってもよい。
標識物質D2は、任意の検出機器等により検出可能なシグナルを発生する物質である。標識物質D2は、特に限定されず、生化学分野で一般的に用いられる標識物質を用いることができる。標識物質D2としては、例えば、酵素標識、蛍光標識、放射性物質等が挙げられる。酵素標識としては、HRP(Horse Radish Peroxidase;西洋ワサビペルオキシダーゼ)、AP(Alkaline Phosphatase;アルカリフォスファターゼ)等が挙げられる。蛍光標識としては、(FAM(カルボキシフルオレセイン)、JOE(6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ2’,7’-ジメトキシフルオレセイン)、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)、TET(テトラクロロフルオレセイン)、HEX(5'-ヘキサクロロ-フルオレセイン-CEホスホロアミダイト)等のフルオレセイン;Cy3、Cy5等のCy色素標識カルボン酸;Alexa568、Alexa488等のAlexa Fluor等が挙げられる。標識物質D2は、シグナル検出が容易なことから、蛍光標識が好ましい。
【0039】
検出試薬Dは、適切な液体(緩衝液、培地等)に溶解し、前記検出試薬溶液をウェル50に供給することにより、ウェル50内の目的分泌物Aと接触させることができる。検出液試薬溶液をウェル50に供給する前に、貫通孔52からウェル50内の液体を排出させてもよい。液体の排出は、例えば、貫通孔52の下方に配置される流路から液体を除去することにより行うことができる。前記流路からの液体の除去は、前記流路に連通する吸引孔等からの吸引により行ってもよい。検出試薬Dの供給前にウェル50内の液体を除去することにより、ウェル50内への検出試薬Dの供給を効率よく行うことができる。
【0040】
ウェル50内に供給された検出試薬Dは、ウェル50内の分泌物Aと接触する。分泌物Aが、目的分泌物である場合、検出試薬Dは、結合物質D1を介して分泌物Aに結合する。分泌物Aが、目的分泌物である場合、ウェル50内の分泌物Aの多くは、検出粒子Bに捕捉されている。この場合、検出試薬Dは、検出粒子Bに捕捉された分泌物Aの量に応じて、分泌物Aを介して検出粒子Bに捕捉される。そのため、標識物質D2のシグナルを検出することにより、検出粒子Bに捕捉された分泌物Aを検出することができる。
【0041】
標識物質D2のシグナルの検出は、標識物質D2の種類に応じた方法で行えばよい。例えば、標識物質D2が酵素標識である場合には、当該酵素の発色基質を用いて発色させて、光学顕微鏡を用いて発色シグナルを検出することができる。標識物質D2が蛍光標識である場合には、蛍光顕微鏡を用いて蛍光シグナルを検出することができる。標識物質D2が放射性物質である場合には、X線顕微鏡を用いて放射性シグナルを検出することができる。
【0042】
<工程D>
工程Dでは、工程Cでの検出結果を指標として、複数のウェルから目的分泌物を産生する細胞が捕捉されたウェルを特定する。
【0043】
図4は、工程Dの一例を説明する図である。工程Cを終了した時点で、複数のウェル50内には、スクリーニング細胞C、検出粒子B、スクリーニング細胞Cから分泌された分泌物A、及び検出試薬Dがそれぞれ存在している。しかしながら、ウェル50内の検出試薬Dの存在量は、分泌物Aの種類により異なっている。
【0044】
ウェル50-1には、分泌物A-1を分泌するスクリーニング細胞C-1が格納されている。分泌物A-1は、目的分泌物であり、検出粒子Bに捕捉されている。そのため、検出試薬Dは、目的分泌物である分泌物A-1を介して、検出粒子Bに捕捉されている。これにより、検出試薬Dは、検出粒子Bに捕捉された分泌物A-1の量に応じて、ウェル50-1内に蓄積される。
ウェル50-2には、分泌物A-2を分泌するスクリーニング細胞C-2が格納されている。分泌物A-2は、目的分泌物ではなく、検出粒子Bに捕捉されていない。そのため、検出試薬Dは、検出粒子Bに捕捉されることなく、ウェル50-2内の液体と共に、貫通孔52から流出する。
ウェル50-3には、分泌物A-3を分泌するスクリーニング細胞C-3が格納されている。分泌物A-3は、目的分泌物ではなく、検出粒子Bに捕捉されていない。そのため、検出試薬Dは、検出粒子Bに捕捉されることなく、ウェル50-3内の液体と共に、貫通孔52から流出する。
【0045】
上記のとおり、ウェル50-1では、検出試薬Dが検出粒子Bに捕捉されているため、ウェル50-2及びウェル50-3と比較して、ウェル内の検出試薬Dの存在量が多くなる。そのため、標識物質D2のシグナルを検出したとき、ウェル50-1では、ウェル50-2及びウェル50-3と比較して、検出されるシグナル強度が強くなる。逆に言えば、他のウェルと比較して、標識物質D2のシグナル強度が高いウェルに、目的分泌物を産生するスクリーニング細胞Cが格納されているといえる。したがって、他のウェルと比較して、標識物質D2のシグナル強度が高いウェルを、目的分泌物を産生する分泌物産生細胞が捕捉されたウェルとして特定することができる。
【0046】
例えば、
図14(A)は、実施例において工程A~Cを行ったウェルの蛍光顕微鏡写真を示している。
図14(A)では、標識物質D2としてAlexa488が用いられており、矢印で示すウェルの蛍光シグナルが他のウェルよりも強くなっていることが確認できる(
図14(A)Alexa)。したがって、矢印で示すウェルを、目的分泌物を産生する分泌物産生細胞が捕捉されたウェルとして特定することができる。
【0047】
<変形例1>
検出試薬Dは、スクリーニング細胞C及び/又は検出粒子Bと同時に、ウェル50に供給してもよい。
図5は、検出試薬Dを、スクリーニング細胞C及び検出粒子Bと同時に、ウェル50に供給する場合の工程Aを説明する図である。
【0048】
検出試薬Dを、スクリーニング細胞C及び検出粒子Bと同時に、ウェル50に供給する場合、スクリーニング細胞C及び検出粒子Bを懸濁した懸濁液に、検出試薬Dを添加することができる。あるいは、検出試薬Dを添加した液体(緩衝液、培地等)に、スクリーニング細胞C及び検出粒子Bを懸濁してもよい。そして、検出試薬D、スクリーニング細胞C、及び検出粒子Bを含む懸濁液を、ウェル50に供給すればよい。
【0049】
検出試薬Dのウェル50への供給は、検出粒子捕捉操作又は細胞捕捉操作のいずれか一方と同時に行うこともできる。例えば、検出試薬Dを、検出粒子Bと共にウェル50に供給する場合、検出粒子Bを懸濁した適切な液体(緩衝液、培地等)に、検出試薬Dを添加することができる。あるいは、検出試薬Dを添加した適切な液体(緩衝液、培地等)に、検出粒子Bを懸濁してもよい。そして、検出試薬D及び検出粒子Bを含む懸濁液を、ウェル50に供給すればよい。
検出試薬Dを、スクリーニング細胞Cと共にウェル50に供給する場合、スクリーニング細胞Cを懸濁した適切な液体(緩衝液、培地等)に、検出試薬Dを添加することができる。あるいは、検出試薬Dを添加した適切な液体(緩衝液、培地等)に、スクリーニング細胞Cを懸濁してもよい。そして、検出試薬D及びスクリーニング細胞Cを含む懸濁液を、ウェル50に供給すればよい。
検出粒子捕捉操作及び細胞捕捉操作の間に、ウェル50内の液体を貫通孔52から排出する操作を行う場合には、検出試薬Dは、当該排出操作の後に行う捕捉操作の懸濁液に添加することが好ましい。
【0050】
工程Aで、細胞捕捉操作及び/又は検出粒子捕捉操作と同時に、検出試薬Dをウェル50に供給した後、工程Bを、上記と同様に行うことができる。スクリーニング細胞Cから分泌された分泌物Aが目的分泌物である場合、分泌物Aは、結合物質B2を介して検出粒子Bに捕捉される。また、分泌物Aには、結合物質D1を介して検出試薬Dが結合する。そのため、分泌物Aが目的分泌物である場合、分泌物Aを介して、検出粒子Bに検出試薬Dが捕捉される。
【0051】
検出試薬Dは既にウェル50内に存在し、分泌物Aと反応しているため、工程Cで検出試薬Dをウェル50に供給する必要はない。そのため、工程Cでは、標識物質D2のシグナルの検出を行えばよい。標識物質D2のシグナルの検出は、上記と同様に行うことができる。
工程Dは、工程Cでの検出結果に基づいて、上記と同様に行うことができる。
【0052】
<変形例2>
検出粒子Bは、目的分泌物に結合性を有する細胞膜タンパク質を含む細胞であってもよい。
図6は、検出粒子Bが、目的分泌物に結合性を有する細胞膜タンパク質B2’を含む細胞(以下、「標的細胞」ともいう)である場合の工程Cの状態を示す。
【0053】
「膜タンパク質」とは、細胞膜に局在しているタンパク質を意味する。膜タンパク質は、膜内在性タンパク質であってもよく、表在性膜タンパク質であってもよいが、膜内在性タンパク質であることが好ましい。膜内在性タンパク質は、細胞膜を複数回貫通する複数回貫通型であってもよいし、細胞膜を1回貫通する1回貫通型であってもよい。膜タンパク質としては、GPCR(Gタンパク質共役受容体)、リガンド依存性イオンチャネル、電位依存性イオンチャネル、トランスポーター等が挙げられる。
【0054】
標的細胞は、天然細胞であってもよく、膜タンパク質遺伝子を導入した遺伝子組換え細胞であってもよい。目的分泌物は、膜タンパク質B2’が細胞膜表面に露出した領域に結合する。目的分泌物が、疾患細胞(例えば、がん細胞)に特異的な膜タンパク質に対する抗体である場合、標的細胞として当該疾患細胞を用いることができる。
【0055】
標的細胞は、ウェル50に捕捉され、且つ貫通孔52を通過しない大きさを有する。標的細胞の大きさは、例えば、1μm~80μm程度である。検出粒子Bとして、標的細胞を用いる場合には、スクリーニング細胞C及び標的細胞の合計の大きさに基づいて、ウェル50の大きさを設定することができる。
標的細胞がスクリーニング細胞Cよりも大きい場合には、ウェル50の開口部に入る円の最大径を、例えば、標的細胞の最大径よりも大きく、スクリーニング細胞Cの最大径の2倍よりも小さい大きさとすることができる。また、ウェル50の深さを、標的細胞の最大径とスクリーニング細胞Cの最大径の合計値の0.5~2倍程度の大きさとすることができ、0.8~1.9倍がより好ましく、0.9~1.5倍がさらに好ましい。
標的細胞がスクリーニング細胞Cよりも小さい場合には、上述の検出粒子Bにおける説明と同様にウェル50の大きさを設定することができる。
【0056】
工程Aにおいて、標的細胞をウェル50に捕捉させる操作(以下、「標的細胞捕捉操作」ともいう)は、細胞捕捉操作と同時に行ってもよく、別々に行ってもよいが、別々に多なうことが好ましい。標的細胞がスクリーニング細胞Cよりも大きい場合、標的細胞捕捉操作は、細胞捕捉操作の前に行うことが好ましい。
標的細胞捕捉操作は、適切な液体(緩衝液、培地等)に標的細胞を懸濁し、前記標的細胞懸濁液を複数のウェル50に供給することにより、行うことができる。ウェル50に供給された標的細胞懸濁液中の標的細胞Cは、自重により、各ウェル50内に格納される。標的細胞懸濁液中の標的細胞の密度は、標的細胞懸濁液が流動性を損なわない程度であれば、特に限定されず、標的細胞の大きさに応じて、適宜選択することができる。標的細胞懸濁液中の標的細胞の密度は、一般的に、例えば、105~109個/mL程度とすることができる。
【0057】
工程B~Dは、上記と同様に行うことができる。スクリーニング細胞Cから分泌された分泌物Aが、目的分泌物である場合、分泌物Aは、検出粒子Bとしての標的細胞の細胞膜タンパク質B2’に結合する。また、検出試薬Dは、分泌物Aに結合する。そのため、検出試薬Dは、分泌物Aを介して、標的細胞の細胞膜タンパク質B2’に捕捉される。したがって、標識物質D2のシグナルの検出結果に基づき、シグナル強度の高いウェルを、目的分泌物を産生する分泌物産生細胞が捕捉されたウェルとして特定することができる。
【0058】
以上説明した本実施形態に係るスクリーニング方法によれば、ウェルに1細胞単位でスクリーニング細胞を格納して、分泌アッセイを行うため、アッセイ操作中に細胞が移動することがない。また、目的分泌物の検出を、検出粒子を用いて各ウェル内で行うため、スクリーニング細胞から分泌された目的分泌物が、検出粒子に捕捉されるまでの距離及び時間が短縮される。そのため、ウェルの外部で目的分泌物の検出を行う場合と比較して、目的分泌物の拡散が抑制され、目的分泌物を検出粒子に確実に捕捉させることができる。したがって、目的分泌物を産生する細胞を正確に識別して取得することが可能となる。
また、ウェル50が貫通孔52を有するため、検出粒子に捕捉されていない検出試薬は、ウェル50内の液体と共に貫通孔52から流出する。そのため、標識物質D2のシグナル強度の差に基づいて、目的分泌物を産生する分泌物産生細胞を特定することができる。
【0059】
<他の工程>
本実施形態のスクリーニング方法は、上記工程A~Dに加えて、他の工程を含んでいてもよい。他の工程としては、例えば、洗浄工程(工程E)、分泌物産生細胞回収工程(工程F)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
≪洗浄工程(工程E)≫
洗浄工程では、ウェル50内の液体を貫通孔52から排出した後、適切な液体(緩衝液、培地等)をウェル50に供給して、ウェル50内の液体を置換する。
【0061】
図7A及び7Bは、洗浄工程の一例を説明する図である。
図7Aは、工程Cの後に洗浄工程を行う例を示す。
図7Bは、洗浄工程後の状態を示す。
工程Cの後、スクリーニング細胞Cから分泌された分泌物Aが目的分泌物である場合は、分泌物Aの多くは検出粒子Bに捕捉され、検出試薬Dは分泌物Aを介して検出粒子Bに捕捉される。しかし、検出試薬Dの一部は、フリーのまま(その一部は分泌物Aに結合した状態で)ウェル50内に存在していると考えられる。また、分泌物Aが目的分泌物でない場合には、ウェル50内の全ての検出試薬Dがフリーのままウェル50内に存在している。この状態で、ウェル50内の液体を貫通孔52から排出させると、液体と共にフリーの検出試薬Dもウェル50外に排出される。これにより、ウェル50内にフリーで存在する検出試薬Dを除去することができる。
その後、適切な液体(緩衝液、培地等)をウェル50に供給し、スクリーニング細胞Cの乾燥を防止する。
【0062】
工程Cの後に洗浄工程を行うことにより、
図7Bに示すように、ウェル50内にはフリーの検出試薬D(検出粒子Bに捕捉されていない検出試薬D)がほとんど存在しない状態となる。スクリーニング細胞Cから分泌された分泌物Aが目的分泌物ではないウェル50(例えば、
図4のウェル50-2、50-3)では、ウェル50内に検出試薬Dはほとんど存在しなくなる。そのため、分泌物Aが目的分泌物であるウェルと、他のウェルとの標識物質D2のシグナル強度の差がより明瞭となる。
【0063】
例えば、
図14(B)は、実施例において工程A~Cの後に洗浄工程を行ったウェルの蛍光顕微鏡写真を示している。
図14(B)では、矢印で示すウェル以外のウェルでの蛍光シグナルがほぼ消失していることが確認できる。その結果、
図14(A)よりも明瞭に、目的分泌物を産生する分泌物産生細胞が捕捉されたウェルを識別することができる。
【0064】
洗浄工程において、ウェル50内の液体の排出、及びウェル50内への液体の供給は、複数回行ってもよい。液体の排出及び供給を複数回行うことにより、ウェル50内に残存するフリーの検出試薬Dをほぼ完全に除去することも可能となる。
【0065】
洗浄工程は、工程Bの後に行ってもよい。工程Bの後に洗浄工程を行うことにより、検出粒子Bに捕捉されていないフリーの分泌物Aを、ウェル50内から除去することができる。これにより、検出試薬Dをウェル50に供給したときに、フリーの分泌物Aと反応する検出試薬Dが少なくなるため、検出試薬Dの使用量を低減することができる。
【0066】
貫通孔52からの液体の排出は、例えば、貫通孔52の下に配置される流路から、液体を除去することにより行うことができる。例えば、前記流路に液体が満たされた状態であると、ウェル50内も液体で満たされた状態が維持される。ここで、前記流路から液体を除去すると、重力により、ウェル50内の液体が貫通孔52から流出し、最終的にウェル50内の液体のほとんどを除去することができる。前記流路からの液体の除去は、前記流路に連通する吸引孔から液体を吸引することにより行ってもよい。
【0067】
≪分泌物産生細胞回収工程(工程F)≫
分泌物産生細胞回収工程では、工程Dにより特定されたウェルから、目的分泌物を産生する分泌物産生細胞として、スクリーニング細胞Cを回収する。スクリーニング細胞Cの回収は、公知のシングルセル回収手段を用いて行うことができる。シングルセル回収手段としては、例えば、マニュピレーター、マイクロキャピラリー、又はマイクロピペット等を用いて、細胞を回収する方法が挙げられる。
【0068】
(分泌物産生細胞のスクリーニングキット)
本発明の第2の態様は、複数の細胞から目的の分泌物を産生する細胞をスクリーニングする分泌物産生細胞のスクリーニングキットである。前記スクリーニングキットは、複数のウェルを含むデバイスと、担体粒子と、を備える。前記ウェルは、1個以上の前記担体粒子を捕捉した状態で、前記細胞を1細胞単位で捕捉可能な大きさを有し、且つ前記細胞が通過しない大きさの貫通孔を底部に有する。前記担体粒子は、前記貫通孔を通過しない大きさを有する。
本実施形態に係るスクリーニングキットは、上記第1の態様に係るスクリーニング方法に用いることができる。
【0069】
<デバイス>
デバイスは、底部に貫通孔を有する複数のウェルを含む。複数のウェル及び貫通孔としては、上記(分泌物産生細胞のスクリーニング方法)の項で挙げたものと同様のものが挙げられる。複数のウェルを含むデバイスとしては、例えば、
図1のデバイス100のような構成を有するものが挙げられる。
【0070】
デバイスは、貫通孔に接続し、貫通孔の下方に配置される流路を有することが好ましい。貫通孔の下方に配置される流路は、複数のウェルの外底面に沿って設けられた流路であることが好ましい。貫通孔の下方に流路を有することにより、当該流路及び貫通孔を介して、ウェル内の液体を排出させることができる。また、当該流路に連通する吸引孔を設けることにより、前記吸引孔からの吸引により、ウェル内の液体をよりスムーズに排出させることができる。
【0071】
≪デバイスの具体例≫
図8~
図13は、上記のような構成を有するデバイスの一例を示す。デバイス1は、底板部2と、底板部2上に設けられ、細胞載置面4を構成する細胞載置膜(細胞載置部)6と、底板部2上に細胞載置膜6とは区画して設けられた一対の液体流出入部8と、底板部2と細胞載置膜6との間に設けられ、液体流出入部8まで流路端部12が延びている流路10とを有している。細胞載置膜6の細胞載置面4には、複数のウェル50と、ウェル50の内底面から流路10に通じる貫通孔52が形成されている。さらに、各蓋部14の裏側、すなわち、流路端部12の天井面には、吸引孔16Aへ近づくにつれ傾斜面状に上昇する泡排出面17が形成されている。
【0072】
底板部2は、肉厚が一定の細長い矩形板状をなし、四隅は丸く面取りされている。底板部2には底面の外周縁に沿って一定高さの突条2Bが全周に亘って形成されている。底板部2の形状は図示のものに限定されず、円板状や楕円形状、正方形状などいかなる形状であってもよいし、水平な流路10を形成できれば、底板部2の肉厚は一定でなくてもよい。第1の態様に係るスクリーニング方法の工程C及び工程Dを顕微鏡下で行う場合には、底板部2は、顕微鏡のステージに載置可能な形状(例えば、スライドガラスに類似の形状)をしていることが好ましい。底板部2は、一般的には、細胞に無害な各種のプラスチックで形成されることが成型精度やコストの上で望ましいが、必要に応じては、セラミック、ガラス、金属などいかなる材質で形成されていてもよい。底板部2の表面に細胞に対する影響を和らげるための何らかのコーティングが施されていてもよい。
【0073】
図10に示すように、底板部2の上面には、中央部を囲むように、平面視して両端が半円形とされた長方形をなす係合壁18が、底板部2から垂直に起立した状態で一体的に形成されている。係合壁18は図示の形状に限定されず、単純な長方形状や円形、楕円形などであってもよい。この例の係合壁18の高さは全周に亘って等しくされている。係合壁18には、係合壁18を全周に亘って上から覆うように、外枠体20が着脱可能に取り付けられている。
【0074】
外枠体20は、平面視して両端が半円形をなす長方形の周壁部22と、周壁部22の内周側に一対、互いに平行に設けられた仕切り部28とを有し、全体が一体的に形成されている。外枠体20の材質は限定されず、一般的には細胞に無害な各種のプラスチックで形成されることが成型精度やコストの上で望ましいが、必要に応じては、セラミック、ガラス、金属などいかなる材質で形成されていてもよい。仕切り部28と仕切り部28の間には、直方体状の空間が開けられており、この中に細胞載置膜6が配置されている。
【0075】
外枠体20の周壁部22の上端は、全周に亘って外側へ折り返した断面形状をなし、この折り返し部分の内側に、下に向けて開く幅の細い係合溝24が全周に亘って一定の深さで形成されている。この係合溝24に、係合壁18の上端部が全周に亘って挿入され、周壁部22の折り返し部分で弾性的に締め付けられることにより、外枠体20が係合壁18に着脱可能に固定されている。外枠体20の長手方向の両先端には、水平に突き出す突起26がそれぞれ形成され、これら突起26を指先で持ち上げることにより、係合溝24から係合壁18が抜けて、底板部2と外枠体20が分離できるようになっている。
【0076】
外枠体20の周壁部22と、各仕切り部28とで囲まれる半円形の領域は、それぞれ液体流出入部8とされている。これら液体流出入部8において、周壁部22の下端と各仕切り部28の下端をつなぐように、平面視で半円形状をなして中央が上方へ盛り上がった立体形状をなす蓋部14が形成されている。
【0077】
蓋部14と底板部2との間には、流路10の両端となる流路端部12が形成され、蓋部14が流路端部12を気密的に塞ぐ構造となっている。このように蓋部14が形成されていることにより、流路10の両端である流路端部12が封止され、デバイス1が傾いたり揺すられたりした場合にも、流路10および流路端部12を通じて液体が左右に過剰に流動することが防止されている。
【0078】
この実施形態では、各蓋部14のほぼ中央に、それぞれ一ケ所ずつ円形の吸引孔16Aが形成され、これら吸引孔16Aに対応して、円筒形状をなす吸引ポート16がそれぞれ蓋部14から直立して形成されている。吸引ポート16の回りの蓋部14の表面が液体貯留部とされ、吸引ポート16から溢れた液体が溜まるようになっている。液体貯留部として、蓋部14の上面の吸引ポート16の周囲に、積極的に凹部を形成してもよい。
【0079】
各蓋部14の裏側、すなわち、流路端部12の天井面には、吸引孔16Aへ近づくにつれ傾斜面状に上昇する泡排出面17が形成され、泡排出面17は吸引孔16Aを頂点とする円錐台状をなしている。これにより、流路端部12に分散液等の液体が満たされて気泡を含む場合には、気泡が泡排出面17に沿って浮力で滑らかに吸引孔16Aへ向けて移動し、吸引孔16Aから排出されるようになっている。
【0080】
この実施形態では、蓋部14の肉厚がほぼ一定であるため、蓋部14の上面、すなわち液体貯留部の上面も円錐台状に傾斜している。このため、液体貯留部も吸引ポート16から離れるにしたがい、下方へ傾斜する面とされており、吸引ポート16からこぼれた液体は、吸引ポート16から離れた蓋部14の周辺部に集まるから、吸引ポート16から再流入してコンタミネーションを生じるおそれも低減できる。ただし、この構成に限定されず、蓋部14の肉厚を吸引ポート16から離れるにしたがって厚くすることにより、蓋部14の上面、すなわち液体貯留部の上面を水平にすることも可能である。
【0081】
吸引ポート16は、この実施形態では蓋部14から起立させているが、その代わりに、起立した吸引ポート16を蓋部14に形成せず、吸引孔16Aをそのまま開口させてもよい。
【0082】
仕切り部28の液体流出入部8側の下端には、下面から一定高さを有する段部34が仕切り部28の全長に亘って形成され、この段部34の上方には、仕切り部28の上端に達する二本のリブ30がそれぞれ上下方向に延びて形成されている。リブ30により仕切り部28の撓み強度が高められている。また、仕切り部28には、段部34の下面に開口する一定深さの係合溝32と、この係合溝32の細胞載置膜6側に隣接する係合突条42がそれぞれ形成されている。
【0083】
周壁部22の直線状に延びる2箇所と、二つの仕切り部28とで囲まれる四角い空間には、平面視して矩形状をなす角筒状の枠体36が着脱可能に収容されている。枠体36の下端には、細胞載置膜6がウェル50を上向きにして全面に亘って張られており、枠体36の下端と細胞載置膜6は全周に亘って隙間無く接合されている。枠体36は可撓性のあるプラスチック等で形成されており、外方へ広げる力がかかると僅かに四方の壁が外方へ広がり、細胞載置膜6に張力が印加され、細胞載置膜6の弛みを防止できるようになっている。
【0084】
細胞載置膜6の厚さは限定されないが、スクリーニング細胞を1細胞単位で捕捉可能なウェル50を形成し、かつ、ウェル50の底から裏面側へ液体を流す微細な貫通孔52を形成する観点から、5~100μm程度であることが好ましく、より好ましくは、10~50μm程度とされる。細胞載置膜6は2層以上の多層膜であってもよい。その場合、上側の層にウェル50になる貫通孔を形成し、下側の層には貫通孔52となる貫通孔を開け、これら二つの層を貼り合わせて、ウェル50と貫通孔52を形成してもよい。
【0085】
細胞載置膜6の材質は限定されず、一般的には細胞に無害な各種のプラスチックで形成されることが成型精度やコストの上で望ましいが、必要に応じては、セラミック、多結晶または単結晶シリコン、ガラスなど無機化合物、金属などいかなる材質で形成されていてもよい。ウェル50および貫通孔52は、エッチング加工や、フォトリソグラフィーなどで形成することも可能である。
【0086】
ウェル50の平面形状及び大きさは、上記(分泌物産生細胞のスクリーニング方法)の項で例示したものが挙げられる。ウェル50の大きさが異なる細胞載置膜6を有する枠体36を複数種用意しておき、共通の底板部2および外枠体20に組み合わせて、デバイス1を構成してもよい。貫通孔52の形状及び大きさは、上記(分泌物産生細胞のスクリーニング方法)の項で例示したものが挙げられる。
【0087】
枠体36の下端部の外周面には、
図11および
図12に示すように、上向きに折り返した形状とすることにより、上へ開く係合溝44と、下へ突き出す係合突条40が全周に亘って形成されている。係合溝44の深さおよび係合突条40の上下幅は、枠体36の全周に亘ってほぼ一定である。係合突条40は、外枠体20の下面に形成された係合溝32に挿入され、外枠体20の係合突条42は、枠体36の係合溝44に挿入される。これらの嵌合により、外枠体20の中央空間内に枠体36が収容された状態で、枠体36が外枠体20に固定される。
【0088】
この時、枠体36の下端面は、底板部2に形成されたスペーサ46の上面に当接して、スペーサ46の厚みにより、底板部2からの細胞載置膜6の離間量、すなわち、流路10の厚さが正確に規定される。この実施形態では、
図13に示すように、係合壁18の内側に一対の平面視してコ字状をなすスペーサ46が、枠体36の下端形状に沿って形成され、スペーサ46同士の間には、切欠47が形成されている。枠体36を底板部2上に固定した状態では、これら切欠47を通じて流路10から各流路端部12へ液体が流れるようになっている。スペーサ46は図示したような形状でなくてもよく、枠体36の下面に数カ所で当接するようになっていればよい。場合によっては、スペーサ46を形成せずに、外枠体20との係合によって、底板部2からの枠体36の高さが正確に規定されるようにしてもよい。
【0089】
枠体36の下端部の内周面には、全周に亘って一定幅を有する傾斜面38が形成され、傾斜面38は下方へ行くほど細胞載置膜6の側へせり出している。このような傾斜面38が形成されていることにより、細胞載置膜6のウェル50から分泌物産生細胞をマニュピレーター、マイクロピペット、マイクロキャピラリー等の器具で回収する際に、分泌物産生細胞が格納されたウェル50が枠体36の内周縁の間際の位置であっても、細胞の回収が容易に行えるようになっている。また、傾斜面38は枠体36への細胞載置膜6の接着面積を増やし、細胞載置膜6の接合強度を高める効果も果たしているし、枠体36の強度を高めるためにも役立っている。
【0090】
上記構成からなる細胞スクリーニングデバイスを製造する場合は、
図13に示すように底板部2、枠体36、および外枠体20をそれぞれ別個に形成したうえ、まず、枠体36を外枠体20の下面にはめ込み、次に、外枠体20を底板部2の係合壁18にはめ込むことにより、
図8~
図12に示すような完成状態となる。
【0091】
枠体36を外枠体20の下面にはめ込む過程では、
図11および
図12に示すように、外枠体20の係合突条42が、枠体36の係合溝44にはまり込み、かつ、枠体36の係合突条40が、外枠体20の係合溝32にはまり込むことにより、各係合部の弾力性によって両者が強固に固定される。同時に、係合突条40の内周面と、係合突条42の外周面は、少なくとも一方が上方へ行くほど僅かに外側へ傾く形状とされている。これにより、係合が進行すると、枠体36の四辺の係合突条40が、外枠体20の係合突条42によって外側へ引かれ、枠体36の下端部が四方へ僅かに広げられ、細胞載置膜6の四辺を引っ張る張力を生じ、細胞載置膜6に均一な張力が印加される。
【0092】
したがって、枠体36が自由状態にある時には細胞載置膜6にわずかな弛みがあったとしても、外枠体20へ枠体36を固定した時には、細胞載置膜6の弛みが解消され、細胞載置膜6の多数のウェル50が形成された細胞載置面4の平面度を高め、細胞を分散した分散液を細胞載置面4上に満たして、細胞スクリーニングデバイスを揺り動かすなどにより、スクリーニング細胞を偏り無く流動させて、ウェル50内に1細胞単位でスクリーニング細胞を捕捉させることが容易になるという利点を有する。
【0093】
この実施形態では、流路10の両端に位置する流路端部12を蓋部14でそれぞれ塞ぎ、これら蓋部14に流路10に連通した吸引孔16Aを有する吸引ポート16を設けたことにより、蓋部14により流路端部12および流路10内の液体の移動が抑制されるとともに、吸引ポート16を通じて液体を流路10へ出し入れすることが可能である。したがって、デバイス1のウェル50にスクリーニング細胞Cを捕捉し流路10に液体を満たした状態で、デバイス1を持ち運んだり、傾けたりした場合にも、流路10および流路端部12に沿って液体が移動しにくくなり、いわゆるスロッシング現象を抑えることができる。よって、液体の一部が貫通孔52を通じてウェル50に流れ込み、ウェル50に格納されているスクリーニング細胞Cや検出粒子Bを離脱させるといった問題も抑制できる。
【0094】
また、この実施形態では、吸引ポート16の吸引孔16Aから液体が溢れ出た場合にも、液体貯留部(蓋部14の上面周辺部)が液体を受け止め、再度、吸引ポート16から流路10内へ入ることが抑制でき、例えば外部からのコンタミネーションなどのおそれを低減できる。また、細胞載置面4と、蓋部14との間に仕切り部28が形成されているから、液体貯留部14に液体が溜まった場合にも液体が細胞載置部6へ流れることを抑制できる。
【0095】
また、この実施形態では、底板部2のスペーサ46に枠体36の下端を当接させることにより、底板部2上の正しい位置に細胞載置膜6が位置決めされるため、ウェル50と流路10との間での液体の流れが所望どおりとなり、精度の高いスクリーニングが可能となる。
【0096】
また、この実施形態では、底板部2と外枠体20が別体として成形され、底板部2に外枠体20を取り付けるだけで、蓋部14と周壁部22を底板部2に対して正確な位置に配置できるから、デバイス1の組み立てが容易である。また、使用後に底板部2から外枠体20を取り外すこともでき、メンテナンスが容易である。
【0097】
また、この実施形態では、底板部2と外枠体20と枠体36をそれぞれ別体として成形し、底板部2に枠体36と外枠体20とを取り付けるだけで、細胞載置膜6、蓋部14、周壁部22の正確な位置決めが可能となり、組み立てしやすさが向上できる。また、使用後に底板部2から枠体36と外枠体20とを取り外すこともでき、メンテナンスが容易である。
【0098】
また、この実施形態では、底板部2と外枠体20とをそれぞれ別体として成形し、底板部2に外枠体20とを取り付けるだけで、細胞載置部6、蓋部14、周壁部22、および二つの吸引ポート16の正確な位置決めが可能となるから、組み立てやすい。
【0099】
デバイス1では、スクリーニング細胞C、検出粒子B、及び検出試薬Dのウェル50への供給は、細胞載置膜6における細胞載置面4の上方から行われる。ウェル50内の液体は、貫通孔52から排出することができる。吸引孔16Aからの吸引により、より効率的に排出を行うことができる。吸引孔16Aからの吸引は、マイクロピペット等を用いて、吸引孔16Aから液体を吸引することにより行ってもよい。あるいは、吸引ポート16に吸引ポンプを接続し、当該吸引ポンプを用いて吸引孔16Aからの吸引を行ってもよい。
【0100】
<担体粒子>
担体粒子は、上記(分泌物産生細胞のスクリーニング方法)の項で説明した担体粒子B1と同様である。担体粒子は、目的分泌物に結合性を有する物質(結合物質)が固定化された担体粒子(上記第1の態様における検出粒子B)であってもよい。目的分泌物に結合性を有する物質は、上記(分泌物産生細胞のスクリーニング方法)の項で説明した結合物質B2と同様である。
【0101】
担体粒子は、結合物質が固定化されていないものであってもよい。この場合、担体粒子は、結合物質を固定化可能なようになっている。担体粒子は、結合物質を固定化可能なように表面修飾されていてもよく、結合物質を固定化可能な材質で形成されていてもよい。
例えば、ビオチン-アビジン結合等の結合対を用いて、結合物質を固定化する場合、担体粒子の表面は、結合対の一方で修飾されたものであってもよい。具体例としては、ストレプトアビジンでコーティングした担体粒子が挙げられる。
また、受動吸着法を用いて、結合物質を固定化する場合、結合物質を吸着する特性を有する材質で担体粒子を構成してもよい。結合物質がペプチド又はタンパク質である場合、担体粒子は、ポリスチレン粒子、又は金ナノ粒子等とすることができる。
担体粒子に結合物質が固定化されていない場合、使用者が、任意の結合物質を担体粒子に固定化することができる。
【0102】
<他の構成>
本実施形態のスクリーニングキットは、上記デバイス及び担体粒子に加えて、他の構成を備えていてもよい。他の構成としては、目的分泌物の検出試薬、培地若しくは緩衝液、結合物質の標識化試薬、使用説明書等が挙げられる。
【0103】
目的分泌物の検出試薬は、上記(分泌物産生細胞のスクリーニング方法)の項で説明した検出試薬Dと同様である。培地若しくは緩衝液は、上記(分泌物産生細胞のスクリーニング方法)の項で例示したものと同様のものが例示される。結合物質の標識化試薬は、結合物質を、担体粒子に固定化可能なように修飾するために用いられる。例えば、担体粒子がストレプトアビジンコーティングされている場合、標識化試薬としては、ビオチン標識化試薬が挙げられる。
【0104】
<使用方法>
本実施形態のスクリーニングキットは、第1の態様に係るスクリーニング方法を行うために用いることができ、上記(分泌物産生細胞のスクリーニング方法)の項で説明したように使用することができる。
【実施例】
【0105】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0106】
<細胞の調製>
293FT細胞に、マウス抗マウスRANKLモノクローナル抗体(以下、「マウスモノクローナル抗体」という)をコードする遺伝子を導入した。遺伝子導入細胞を、ウシ胎児血清(FBS)添加MEMα培地で48時間培養し、分泌アッセイ用の細胞として用いた。
【0107】
<検出粒子の調製>
リン酸バッファー(PBS)で洗浄したPolybead Polystyrene Microspheres(粒径6.0μm;07312、ポリサイエンス社;以下、「ビーズ」という)500μLに、ヤギ抗マウス抗体(Jackson ImmunoResearch Inc.Code:115-005-003)を5μL添加し、4℃で一晩反応させて、ビーズにヤギ抗マウス抗体を結合させた。PBSでビーズを洗浄し、未反応の抗体を除去した。次いで、1%BSA/PBSをビーズに添加し、4℃で1時間反応させた後、PBSでビーズを洗浄した。これを、検出粒子として用いた。
【0108】
<分泌アッセイ>
[工程A]
孔径2μmの貫通孔を底部に有する複数のウェルを備えたデバイスを用いて、分泌アッセイを行った。リン酸バッファー(PBS)でプレウェットしたウェルに、前記<検出粒子の調製>で調製した検出粒子を添加し、ウェル内に検出粒子を敷き詰めた。
続いて、前記<細胞の調製>で調製した細胞の培養液をウェルに播種し、細胞をウェル内に捕捉させた。
【0109】
[工程B]
続いて、Hoechst 33342(H342、同仁化学研究所)及びAlexa488標識ヤギ抗マウスIgG抗体(型式「#A11001」、ライフテクノロジーズ社)を、ウシ胎児血清(FBS)添加MEMα培地で500倍希釈してウェルに添加した。
検出粒子、細胞、並びにHoechst 33342及びAlexa488標識ヤギ抗マウスIgG抗体がウェル内に入った状態で、デバイスをCO2濃度5%、37℃のCO2インキュベーター中で3時間静置した。これにより、細胞に、マウスモノクローナル抗体を分泌させた。分泌されたマウスモノクローナル抗体は、検出粒子のヤギ抗マウス抗体に捕捉され、さらにAlexa488標識ヤギ抗マウスIgG抗体が結合した。これにより、ヤギ抗マウス抗体-マウスモノクローナル抗体-Alexa488標識ヤギ抗マウスIgG抗体からなる抗原抗体複合体が形成された。
【0110】
[工程C(1)]
CO
2インキュベーターで3時間静置後のデバイスを、蛍光顕微鏡(型式「BZ-9000」、キーエンス社製)で観察した。
図14(A)は、ウェルの底部側から撮影した代表的な蛍光顕微鏡写真である。その結果、細胞の核がHoechst 33342の青色蛍光により検出された(Hoechst;矢印)。また、検出粒子に結合したマウスモノクローナル抗体がAlexa488の緑色蛍光により検出された(Alexa;矢印)。
【0111】
[工程D(1)]
工程C(1)で検出した蛍光シグナルから、マウスモノクローナル抗体を分泌する分泌物産生細胞が捕捉されたウェルを特定することができた(Merge;矢印)。
【0112】
[工程E(洗浄工程)]
ウェル内の溶液を貫通孔から排出し、ウェルにPBSを添加して検出粒子を洗浄した。これにより、未反応のAlexa488標識ヤギ抗マウスIgG抗体を除去した。
[工程C(2)]
洗浄後のデバイスを、蛍光顕微鏡で観察した。
図14(B)は、ウェルの底部側から撮影した代表的な蛍光顕微鏡写真である。その結果、細胞の核がHoechst 33342の青色蛍光により検出された(Hoechst;矢印)。また、検出粒子に結合したマウスモノクローナル抗体がAlexa488の緑色蛍光により検出された(Alexa;矢印)。また、洗浄工程によって未反応のAlexa488標識ヤギ抗マウスIgG抗体が除去され、バックグラウンドが減少した。その結果、検出粒子に捕捉されたマウスモノクローナル抗体の蛍光シグナルが明瞭になった。
【0113】
[工程D(2)]
工程C(2)で検出した蛍光シグナルから、マウスモノクローナル抗体を分泌する分泌物産生細胞が捕捉されたウェルを特定することができた(Merge;矢印)。
【0114】
以上の結果より、本発明にかかるスクリーニング方法により、目的の分泌物を産生する分泌物産生細胞をスクリーニングできることが確認できた。また、洗浄工程を実施することにより、バックグラウンドが減少し、分泌物産生細胞から分泌された目的の分泌物のシグナルをより明瞭化することができた。
【符号の説明】
【0115】
1 デバイス
2 底板部
4 細胞載置面
6 細胞載置膜(細胞載置部)
8 液体流出入部
10 流路
12 流路端部
14 蓋部(流体貯留部)
16 吸引ポート
16A 吸引孔
17 泡排出面
18 係合壁
20 外枠体
22 周壁部
24 係合溝
26 突起
28 仕切り部
30 リブ
32 係合溝
34 段部
36 枠体
36A 壁部
38 傾斜面
40 係合突条
42 係合突条
44 係合溝
46 スペーサ
47 切欠
50 ウェル
50a 底部
52 貫通孔
A,A-1,A-2,A-3 分泌物
C,C-1,C-2,C-3 スクリーニング細胞
B ビーズ
B1 担体粒子
B2 結合物質
B2’ 細胞膜タンパク質
D 検出試薬
D1 結合物質
D2 標識物質