(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】骨髄液を用いた軟骨損傷治療材
(51)【国際特許分類】
A61L 27/36 20060101AFI20241220BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20241220BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20241220BHJP
A61K 31/734 20060101ALI20241220BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20241220BHJP
A61P 19/04 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
A61L27/36 312
A61L27/20
A61K35/28
A61K31/734
A61P19/02
A61P19/04
(21)【出願番号】P 2021571243
(86)(22)【出願日】2021-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2021001162
(87)【国際公開番号】W WO2021145404
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2023-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2020005679
(32)【優先日】2020-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 <予稿集1> 1. 発行日 令和1年6月7日 2. 刊行物 第137回北海道整形災害外科学会のプログラム冊子 第137回北海道整形災害外科学会 学会事務局(運営準備室:日本コンベンションサービス株式会社 北海道支社内) 3. 公開者 徐亮、瓜田淳、小野寺智洋、菱村亮介、濱崎雅成、梁大偉、宝満健太郎、岩崎倫政 4. 公開された発明の内容 徐亮、瓜田淳、小野寺智洋、菱村亮介、濱崎雅成、梁大偉、宝満健太郎、岩崎倫政が、第137回北海道整形災害外科学会のプログラム冊子にて、岩崎倫政、小野寺智洋、瓜田淳、徐亮が発明した、「骨軟骨欠損に対する骨髄穿刺濃縮細胞と高純度アルギン酸ゲル併用移植の検討」について公開した。 <学会発表1> 1. 開催日 令和1年6月22日および23日(発表日:6月22日) 2. 集会名、開催場所 第137回北海道整形災害外科学会 札幌医科大学 臨床教育研究棟(北海道札幌市中央区南1条西16丁目) 3. 公開者 徐亮、瓜田淳、小野寺智洋、菱村亮介、濱崎雅成、梁大偉、宝満健太郎、岩崎倫政(筆頭発表者:徐亮) 4. 公開された発明の内容 徐亮、瓜田淳、小野寺智洋、菱村亮介、濱崎雅成、梁大偉、宝満健太郎、岩崎倫政(筆頭発表者:徐亮)が、第137回北海道整形災害外科学会にて、岩崎倫政、小野寺智洋、瓜田淳、徐亮が発明した、「骨軟骨欠損に対する骨髄穿刺濃縮細胞と高純度アルギン酸ゲル併用移植の検討」について公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 <予稿集2> 1. ウェブサイトの掲載日 令和1年8月15日 2. ウェブサイトのアドレス https://cslide.ctimeetingtech.com/icrs2019/attendee/eposter/poster/376?q=p083 3. 公開者 徐亮、瓜田淳、小野寺智洋、菱村亮介、濱崎雅成、梁大偉、田園、宝満健太郎、岩崎倫政 4. 公開された発明の内容 徐亮、瓜田淳、小野寺智洋、菱村亮介、濱崎雅成、梁大偉、田園、宝満健太郎、岩崎倫政が、ICRS 2019 ‐ 15th World Congress of the International Cartilage Regeneration & Joint Preservation Societyの上記ウェブサイトにて、岩崎倫政、小野寺智洋、瓜田淳、徐亮が発明した、「Therapeutic EffEffect of Ultra-Purified Alginate gel Containing Bone Marrow Aspirate Concentrate on Osteochondral Defects in a Rabbit Model(ウサギモデルの骨軟骨欠損に対する骨髄穿刺濃縮液を含む高純度アルギン酸ゲルの治療効果)」について公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 <予稿集3> 1. 発行日 令和1年9月9日 2. 刊行物 日本整形外科学会雑誌(2019.8.)93(8) 第34回日本整形外科学会基礎学術集会抄録集 S1665、1-7-23 公益社団法人日本整形外科学会 3. 公開者 徐亮、瓜田淳、小野寺智洋、菱村亮介、濱崎雅成、梁大偉、宝満健太郎、岩崎倫政 4. 公開された発明の内容 徐亮、瓜田淳、小野寺智洋、菱村亮介、濱崎雅成、梁大偉、宝満健太郎、岩崎倫政が、日本整形外科学会雑誌(2019.8.)93(8)、第34回日本整形外科学会基礎学術集会抄録集にて、岩崎倫政、小野寺智洋、瓜田淳、徐亮が発明した、「骨軟骨欠損に対する骨髄穿刺濃縮細胞と高純度アルギン酸ゲル併用移植の検討」について公開した。 <学会発表3> 1. 開催日 令和1年10月17日、18日(発表日:令和1年10月17日) 2. 集会名、開催場所 第34回日本整形外科学会基礎学術集会 パシフィコ横浜(神奈川県横浜市西区みなとみらい1-1-1) 3. 公開者 徐亮、瓜田淳、小野寺智洋、菱村亮介、宮崎拓自、濱崎雅成、梁大偉、宝満健太郎、岩崎倫政(筆頭発表者:徐亮) 4. 公開された発明の内容 徐亮、瓜田淳、小野寺智洋、菱村亮介、宮崎拓自、濱崎雅成、梁大偉、宝満健太郎、岩崎倫政(筆頭発表者:徐亮)が、第34回日本整形外科学会基礎学術集会にて、岩崎倫政、小野寺智洋、瓜田淳、徐亮が発明した、「骨軟骨欠損に対する骨髄穿刺濃縮細胞と高純度アルギン酸ゲル併用移植の検討」について公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 <予稿集4> 1. 発行日 令和1年11月20日 2. 刊行物 第39回整形外科バイオマテリアル研究会のプログラム・抄録集 第39回整形外科バイオマテリアル研究会事務局 北海道大学 3. 公開者 徐亮、瓜田淳、小野寺智洋、菱村亮介、宝満健太郎、岩崎倫政 4. 公開された発明の内容 徐亮、瓜田淳、小野寺智洋、菱村亮介、宝満健太郎、岩崎倫政が、第39回整形外科バイオマテリアル研究会のプログラム・抄録集にて、岩崎倫政、小野寺智洋、瓜田淳、徐亮が発明した、「骨軟骨欠損に対する高純度アルギン酸ゲルと骨髄穿刺濃縮細胞併用移植の検討」について公開した。 <学会発表4> 1. 開催日 令和1年12月7日 2. 集会名、開催場所 第39回整形外科バイオマテリアル研究会 北海道大学医学部学友会館「フラテ」(北海道札幌市北区北15条西7丁目) 3. 公開者 徐亮、瓜田淳、小野寺智洋、菱村亮介、濱崎雅成、梁大偉、宝満健太郎、岩崎倫政(筆頭発表者:徐亮) 4. 公開された発明の内容 徐亮、瓜田淳、小野寺智洋、菱村亮介、濱崎雅成、梁大偉、宝満健太郎、岩崎倫政(筆頭発表者:徐亮)が、第39回整形外科バイオマテリアル研究会にて、岩崎倫政、小野寺智洋、瓜田淳、徐亮が発明した、「骨軟骨欠損に対する高純度アルギン酸ゲルと骨髄穿刺濃縮細胞併用移植の検討」(発表スライドタイトル:「骨軟骨欠損に対する骨髄穿刺濃縮細胞と高純度アルギン酸ゲル併用移植の検討」)について公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000181147
【氏名又は名称】持田製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100149010
【氏名又は名称】星川 亮
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 倫政
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 智洋
(72)【発明者】
【氏名】瓜田 淳
(72)【発明者】
【氏名】徐 亮
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/102855(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0269762(US,A1)
【文献】徐亮 他,骨軟骨欠損に対する高純度アルギン酸ゲルと骨髄穿刺濃縮細胞併用移植の検討,整形外科バイオマテリアル研究会プログラム・抄録集,2019年,39th,38ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/36
A61K 35/28
A61L 27/20
A61K 31/33- 33/44
A61P 1/00- 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の軟骨損傷部に濃縮骨髄液と組み合わせて適用し、軟骨損傷部への適用時に流動性を有する、アルギン酸の1価金属塩を含有する、軟骨損傷治療用組成物。
【請求項2】
前記濃縮骨髄液が対象由来である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記適用が、以下の(1)(2)のいずれかにより行われる、請求項1または2に記載の組成物。
(1)濃縮骨髄液を、アルギン酸の1価金属塩を含有する組成物と混合し、得られた混合物を対象の軟骨損傷部に適用する、
(2)アルギン酸の1価金属塩を含有する組成物と濃縮骨髄液とを、軟骨損傷部への適用前に混合することなく、それぞれを対象の軟骨損傷部に適用する。
【請求項4】
前記濃縮骨髄液中の骨髄間葉系幹細胞数が、1x10
2~1x10
7 cells/mLである、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記軟骨損傷が軟骨下骨の損傷をともなう、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記軟骨損傷部の大きさが、4cm
2以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記軟骨損傷部が関節軟骨のものである、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記流動性を有する組成物の、濃縮骨髄液と組み合わせる前の見かけ粘度が、コーンプレート型粘度計(センサー35/1)を用いた測定により、500mPa・s~10000mPa・sであり、前記測定の測定温度が20℃であり、回転数が0.5rpmであり、読み取り時間は2.5分間測定し、開始0.5分から2.5分までの平均値とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記アルギン酸の1価金属塩は、GPC-MALS法により測定された重量平均分子量(絶対分子量)が8万以上である、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物は、濃縮骨髄液と組み合わせる前におけるアルギン酸の1価金属塩の濃度が0.5w/w%~5w/w%である、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物は、軟骨損傷部への適用後に、該組成物の表面の少なくとも一部に硬化剤を接触させるように用いられる、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物は、前記対象の軟骨損傷部に適用する前に、前記組成物を硬化させる量の硬化剤を含有しない、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記硬化剤が2価以上の金属イオン化合物である、請求項11または12に記載の組成物。
【請求項14】
前記アルギン酸の1価金属塩が、低エンドトキシンのアルギン酸の1価金属塩である、請求項1~13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物が、軟骨関連疾患の治療のために用いられる、請求項1~14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
前記軟骨関連疾患が、変形性関節症、外傷性軟骨欠損症、欠損部周外傷性軟骨欠損症、外傷性軟骨損傷、骨壊死症、離断性骨軟骨炎、軟骨下骨欠損、軟骨及び/又は軟骨下骨の変性、並びに関節におけるアライメント異常からなる群から選択される少なくとも1種の軟骨関連疾患である、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物が、軟骨組織及び/又は軟骨下骨の修復、軟骨組織及び/又は軟骨下骨の再生、軟骨組織及び/又は軟骨下骨の変性進行の抑制、硝子軟骨の再生、疼痛の緩和、術後疼痛の緩和、機能障害の軽減、臨床症状の緩和、軟骨関連疾患の予防または再発抑制からなる群から選択される少なくとも1種のために用いられる、請求項1~16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
請求項1ないし17のいずれか1項に記載の組成物、および硬化剤を少なくとも含む、軟骨損傷治療用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟骨損傷治療のための組成物及び方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
関節の周囲は関節包で包まれており、その内面は滑膜で裏打ちされている。関節をつくる骨同士の間の関節腔は、滑膜から分泌される滑液によって満たされている。骨の関節を作る面は関節軟骨で覆われている。関節軟骨は、表層、中間層、深層、石灰化層の4層構造になっている。最深層の石灰化層の下には軟骨下骨と呼ばれる骨組織があり、石灰化層は軟骨下骨と強固に連結している。
【0003】
関節軟骨は硝子軟骨であり、少数の細胞、コラーゲン性の細胞外マトリックス、多くのプロテオグリカンおよび水からなる。骨の場合、血管や神経ネットワークが存在し、自己修復能を有するため、骨折したときでも、十分に骨折部分が修復されることが多い。しかし、関節軟骨には血管および神経ネットワークが存在しない。このため、自己修復能がほとんどなく、特に大きな軟骨欠損部が形成された場合、軟骨欠損部は十分には修復されない。修復される部分にしても、硝子軟骨と力学的特性の異なる線維軟骨が形成される。このため、軟骨欠損が形成されると、関節痛および関節機能の喪失がもたらされ、しばしば変形性関節症へと発展する。また、加齢や関節の酷使によって関節軟骨の表面の磨耗が始まった変形性関節症の初期段階から、病状が進行した結果として、広範な領域での軟骨欠損に至ることもある。
【0004】
ここで、コラーゲン、キトサン、アガロース、アルギン酸などの天然ポリマーを、関節軟骨の再生医療や関節疾患の治療に利用しようとする試みが進められている。例えば、アルギン酸塩を、関節などの軟骨の再生や関節疾患の治療に利用することが提案されている(例えば、特許文献1~4、非特許文献1)。また、アルギン酸塩を細胞と組み合わせて利用する試みも進められており、例えば、アルギン酸塩に骨髄間葉系幹細胞を包埋し軟骨損傷部に適用することで正常軟骨とほぼ同等の良好な硝子軟骨再生が得られることが報告されている(例えば、特許文献1および非特許文献1)。また、軟骨再生医療において、アルギン酸塩とともに成長因子やサイトカインを利用する試みも進められている(特許文献3)。さらに、アルギン酸塩と骨髄刺激法(BMS)の併用療法については、軟骨修復を促進することは認められたものの、軟骨下骨の修復に関しては有意な促進効果が認められなかったとの報告もある(非特許文献2)。
【0005】
また、関節軟骨欠損に対する治療法として自家の濃縮骨髄液を関節内注射する方法が報告されている(非特許文献3~5)。液状である濃縮骨髄液は流動性があり、軟骨欠損部に直接に移植しても接着せず、関節の運動とともに流れてしまう。また、濃縮骨髄液を移植する治療に関して、欠損部位に良好な付着性及び固定性を求めるために濃縮骨髄液と各種の生体材料を組み合わせてこれらの併用移植を行った報告もある(非特許文献6及び7)。しかし、濃縮骨髄液と併用移植した場合、生体材料は手術中で軟骨欠損の形状に合わせるための形状調整や欠損部への固定などの工夫が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2008/102855号パンフレット
【文献】国際公開第2009/054181号パンフレット
【文献】国際公開第2013/027854号パンフレット
【文献】国際公開第2017/175229号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【文献】Igarashi et al.,J Biomed Mater Res Part A(2012)100A,180-187.
【文献】Baba et al.,Tissue Eng Part C Methods.(2015)21(12),1263-73.
【文献】Kristin et al.,Recent Adv Arthroplast(2018)2(2),75-81.
【文献】Kim et al.,Eur J Orthop Surg Traumatol.(2014)24,1505-1511
【文献】Shapiro et al.,Am J Sports Med(2017)45,82-90.
【文献】Gobbi et al.,Cartilage(2011)2(3),286-299.
【文献】Cavallo et al.,J Biomed Mater Res A.(2013)101(6),1559-70.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記状況において、軟骨組織の損傷の修復及び/又は再生のために使用し得る、新たな軟骨損傷治療用組成物が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、濃縮骨髄液を、アルギン酸の1価金属塩と組み合わせて軟骨損傷部に適用することで、比較的大きな軟骨損傷部においても軟骨組織を修復及び/又は再生し得ることなどを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、ここでは、以下のものが提供される。
【0010】
[1-1] 対象の軟骨損傷部に濃縮骨髄液と組み合わせて適用し、軟骨損傷部への適用時に流動性を有する、アルギン酸の1価金属塩を含有する、軟骨損傷治療用組成物。
[1-2] 前記濃縮骨髄液が対象由来である、上記[1-1]に記載の組成物。
[1-3] 前記適用が、以下の(1)(2)のいずれかにより行われる、上記[1-1]または[1-2]に記載の組成物。
(1)濃縮骨髄液を、アルギン酸の1価金属塩を含有する組成物と混合し、得られた混合物を対象の軟骨損傷部に適用する、
(2)アルギン酸の1価金属塩を含有する組成物と濃縮骨髄液とを、軟骨損傷部への適用前に混合することなく、それぞれを対象の軟骨損傷部に適用する。
[1-4] 前記濃縮骨髄液中の骨髄間葉系幹細胞数が、1x102~1x107 cells/mLである、上記[1-1]~[1-3]のいずれか1項に記載の組成物。
[1-5] 前記軟骨損傷が軟骨下骨の損傷をともなう、上記[1-1]~[1-4]のいずれか1項に記載の組成物。
[1-6] 前記軟骨損傷部の大きさが、4cm2以上である、上記[1-1]~[1-5]のいずれか1項に記載の組成物。
[1-7] 前記軟骨損傷部が関節軟骨のものである、上記[1-1]~[1-6]のいずれか1項に記載の組成物。
[1-8] 前記流動性を有する組成物の、濃縮骨髄液と組み合わせる前の見かけ粘度が、コーンプレート型粘度計(センサー35/1)を用いた測定により、500mPa・s~10000mPa・sであり、前記測定の測定温度が20℃であり、回転数が0.5rpmであり、読み取り時間は2.5分間測定し、開始0.5分から2.5分までの平均値とする、上記[1-1]~[1-7]のいずれか1項に記載の組成物。
[1-9] 前記アルギン酸の1価金属塩は、GPC-MALS法により測定された重量平均分子量(絶対分子量)が8万以上である、上記[1-1]~[1-8]のいずれか1項に記載の組成物。
[1-10] 前記組成物は、濃縮骨髄液と組み合わせる前におけるアルギン酸の1価金属塩の濃度が0.5w/w%~5w/w%である、上記[1-1]~[1-9]のいずれか1項に記載の組成物。
[1-11] 前記組成物は、軟骨損傷部への適用後に、該組成物の表面の少なくとも一部に硬化剤を接触させるように用いられる、上記[1-1]~[1-10]のいずれか1項に記載の組成物。
[1-12] 前記組成物は、前記対象の軟骨損傷部に適用する前に、前記組成物を硬化させる量の硬化剤を含有しない、上記[1-1]~[1-11]のいずれか1項に記載の組成物。
[1-13] 前記硬化剤が2価以上の金属イオン化合物である、上記[1-11]または[1-12]に記載の組成物。
[1-14] 前記アルギン酸の1価金属塩が、低エンドトキシンのアルギン酸の1価金属塩である、上記[1-1]~[1-13]のいずれか1項に記載の組成物。
[1-15] 前記組成物が、軟骨関連疾患の治療のために用いられる、上記[1-1]~[1-14]のいずれか1項に記載の組成物。
[1-16] 前記軟骨関連疾患が、変形性関節症、外傷性軟骨欠損症、欠損部周外傷性軟骨欠損症、外傷性軟骨損傷、骨壊死症、離断性骨軟骨炎、軟骨下骨欠損、軟骨及び/又は軟骨下骨の変性、並びに関節におけるアライメント異常からなる群から選択される少なくとも1種の軟骨関連疾患である、上記[1-15]に記載の組成物。
[1-17] 前記組成物が、軟骨組織及び/又は軟骨下骨の修復、軟骨組織及び/又は軟骨下骨の再生、軟骨組織及び/又は軟骨下骨の変性進行の抑制、硝子軟骨の再生、疼痛の緩和、術後疼痛の緩和、機能障害の軽減、臨床症状の緩和、軟骨関連疾患の予防または再発抑制からなる群から選択される少なくとも1種のために用いられる、上記[1-1]~[1-16]のいずれか1項に記載の組成物。
【0011】
[2-1] 上記[1-1]ないし[1-17]のいずれか1項に記載の組成物、および硬化剤を少なくとも含む、軟骨損傷治療用キット。
[2-1A] 前記キットが、前記組成物を対象の軟骨損傷部に濃縮骨髄液と組み合わせて適用するように用いられる、上記[2-1]に記載のキット。
[2-2] 前記濃縮骨髄液が対象由来である、上記[2-1]または[2-1A]に記載のキット。
[2-3] 前記適用が、以下の(1)(2)のいずれかにより行われる、上記[2-1]~[2-2]のいずれか1項に記載のキット。
(1)濃縮骨髄液を、アルギン酸の1価金属塩を含有する組成物と混合し、得られた混合物を対象の軟骨損傷部に適用する、
(2)アルギン酸の1価金属塩を含有する組成物と濃縮骨髄液とを、軟骨損傷部への適用前に混合することなく、それぞれを対象の軟骨損傷部に適用する。
[2-4] 前記濃縮骨髄液中の骨髄間葉系幹細胞数が、1x102~1x107 cells/mLである、上記[2-1]~[2-3]のいずれか1項に記載のキット。
[2-5] 前記軟骨損傷が軟骨下骨の損傷をともなう、上記[2-1]~[2-4]のいずれか1項に記載のキット。
[2-6] 前記軟骨損傷部の大きさが、4cm2以上である、上記[2-1]~[2-5]のいずれか1項に記載のキット。
[2-7] 前記軟骨損傷部が関節軟骨のものである、上記[2-1]~[2-6]のいずれか1項に記載のキット。
[2-8] 前記流動性を有する組成物の、濃縮骨髄液と組み合わせる前の見かけ粘度が、コーンプレート型粘度計(センサー35/1)を用いた測定により、500mPa・s~10000mPa・sであり、前記測定の測定温度が20℃であり、回転数が0.5rpmであり、読み取り時間は2.5分間測定し、開始0.5分から2.5分までの平均値とする、上記[2-1]~[2-7]のいずれか1項に記載のキット。
[2-9] 前記アルギン酸の1価金属塩は、GPC-MALS法により測定された重量平均分子量(絶対分子量)が8万以上である、上記[2-1]~[2-8]のいずれか1項に記載のキット。
[2-10] 前記組成物は、濃縮骨髄液と組み合わせる前におけるアルギン酸の1価金属塩の濃度が0.5w/w%~5w/w%である、上記[2-1]~[2-9]のいずれか1項に記載のキット。
[2-11] 前記キットが、前記組成物を軟骨損傷部への適用後に、該組成物の表面の少なくとも一部に硬化剤を接触させるように用いられる、上記[2-1]~[2-10]のいずれか1項に記載のキット。
[2-12] 前記組成物は、前記対象の軟骨損傷部に適用する前に、前記組成物を硬化させる量の硬化剤を含有しない、上記[2-1]~[2-11]のいずれか1項に記載のキット。
[2-13] 前記硬化剤が2価以上の金属イオン化合物である、上記[2-11]または[2-12]に記載のキット。
[2-14] 前記アルギン酸の1価金属塩が、低エンドトキシンのアルギン酸の1価金属塩である、上記[2-1]~[2-13]のいずれか1項に記載のキット。
[2-15] 前記キットが、軟骨関連疾患の治療のために用いられる、上記[2-1]~[2-14]のいずれか1項に記載のキット。
[2-16] 前記軟骨関連疾患が、変形性関節症、外傷性軟骨欠損症、欠損部周外傷性軟骨欠損症、外傷性軟骨損傷、骨壊死症、離断性骨軟骨炎、軟骨下骨欠損、軟骨及び/又は軟骨下骨の変性、並びに関節におけるアライメント異常からなる群から選択される少なくとも1種の軟骨関連疾患である、上記[2-15]に記載のキット。
[2-17] 前記キットが、軟骨組織及び/又は軟骨下骨の修復、軟骨組織及び/又は軟骨下骨の再生、軟骨組織及び/又は軟骨下骨の変性進行の抑制、硝子軟骨の再生、疼痛の緩和、術後疼痛の緩和、機能障害の軽減、臨床症状の緩和、軟骨関連疾患の予防または再発抑制からなる群から選択される少なくとも1種のために用いられる、上記[2-1]~[2-16]のいずれか1項に記載のキット。
【0012】
[3-1] アルギン酸の1価金属塩を含有する組成物を、対象の軟骨損傷部に濃縮骨髄液と組み合わせて適用し、前記組成物が、軟骨損傷部への適用時に流動性を有する、対象の軟骨損傷を治療する方法。
[3-2] 前記濃縮骨髄液が対象由来である、上記[3-1]に記載の方法。
[3-3] 前記適用が、以下の(1)(2)のいずれかにより行われる、上記[3-1]または[3-2]に記載の方法。
(1)濃縮骨髄液を、アルギン酸の1価金属塩を含有する組成物と混合し、得られた混合物を対象の軟骨損傷部に適用する、
(2)アルギン酸の1価金属塩を含有する組成物と濃縮骨髄液とを、軟骨損傷部への適用前に混合することなく、それぞれを対象の軟骨損傷部に適用する。
[3-4] 前記濃縮骨髄液中の骨髄間葉系幹細胞数が、1x102~1x107 cells/mLである、上記[3-1]~[3-3]のいずれか1項に記載の方法。
[3-5] 前記軟骨損傷が軟骨下骨の損傷をともなう、上記[3-1]~[3-4]のいずれか1項に記載の方法。
[3-6] 前記軟骨損傷部の大きさが、4cm2以上である、上記[3-1]~[3-5]のいずれか1項に記載の方法。
[3-7] 前記軟骨損傷部が関節軟骨のものである、上記[3-1]~[3-6]のいずれか1項に記載の方法。
[3-8] 前記流動性を有する組成物の、濃縮骨髄液と組み合わせる前の見かけ粘度が、コーンプレート型粘度計(センサー35/1)を用いた測定により、500mPa・s~10000mPa・sであり、前記測定の測定温度が20℃であり、回転数が0.5rpmであり、読み取り時間は2.5分間測定し、開始0.5分から2.5分までの平均値とする、上記[3-1]~[3-7]のいずれか1項に記載の方法。
[3-9] 前記アルギン酸の1価金属塩は、GPC-MALS法により測定された重量平均分子量(絶対分子量)が8万以上である、上記[3-1]~[3-8]のいずれか1項に記載の方法。
[3-10] 前記組成物は、濃縮骨髄液と組み合わせる前におけるアルギン酸の1価金属塩の濃度が0.5w/w%~5w/w%である、上記[3-1]~[3-9]のいずれか1項に記載の方法。
[3-11] 前記組成物の軟骨損傷部への適用後に、該組成物の表面の少なくとも一部に硬化剤を接触させる、上記[3-1]~[3-10]のいずれか1項に記載の方法。
[3-12] 前記組成物は、前記対象の軟骨損傷部に適用する前に、前記組成物を硬化させる量の硬化剤を含有しない、上記[3-1]~[3-11]のいずれか1項に記載の方法。
[3-13] 前記硬化剤が2価以上の金属イオン化合物である、上記[3-11]または[3-12]に記載の方法。
[3-14] 前記アルギン酸の1価金属塩が、低エンドトキシンのアルギン酸の1価金属塩である、上記[3-1]~[3-13]のいずれか1項に記載の方法。
[3-15] 前記軟骨損傷が、軟骨関連疾患である、上記[3-1]~[3-14]のいずれか1項に記載の方法。
[3-16] 前記軟骨関連疾患が、変形性関節症、外傷性軟骨欠損症、欠損部周外傷性軟骨欠損症、外傷性軟骨損傷、骨壊死症、離断性骨軟骨炎、軟骨下骨欠損、軟骨及び/又は軟骨下骨の変性、並びに関節におけるアライメント異常からなる群から選択される少なくとも1種の軟骨関連疾患である、上記[3-15]に記載の方法。
[3-17] 前記軟骨損傷の治療が、軟骨組織及び/又は軟骨下骨の修復、軟骨組織及び/又は軟骨下骨の再生、軟骨組織及び/又は軟骨下骨の変性進行の抑制、硝子軟骨の再生、疼痛の緩和、術後疼痛の緩和、機能障害の軽減、臨床症状の緩和、軟骨関連疾患の予防または再発抑制からなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記[3-1]~[3-16]のいずれか1項に記載の方法。
【0013】
[4-1] 軟骨損傷の治療に用いるためのアルギン酸の1価金属塩であって、
対象の軟骨損傷部に濃縮骨髄液と組み合わせて適用し、軟骨損傷部への適用時に流動性を有する、アルギン酸の1価金属塩。
[4-2] 前記濃縮骨髄液が対象由来である、上記[4-1]に記載のアルギン酸の1価金属塩。
[4-3] 前記適用が、以下の(1)(2)のいずれかにより行われる、上記[4-1]または[4-2]に記載のアルギン酸の1価金属塩。
(1)濃縮骨髄液を、アルギン酸の1価金属塩と混合し、得られた混合物を対象の軟骨損傷部に適用する、
(2)アルギン酸の1価金属塩と濃縮骨髄液とを、軟骨損傷部への適用前に混合することなく、それぞれを対象の軟骨損傷部に適用する。
[4-4] 前記濃縮骨髄液中の骨髄間葉系幹細胞数が、1x102~1x107 cells/mLである、上記[4-1]~[4-3]のいずれか1項に記載のアルギン酸の1価金属塩。
[4-5] 前記軟骨損傷が軟骨下骨の損傷をともなう、上記[4-1]~[4-4]のいずれか1項に記載のアルギン酸の1価金属塩。
[4-6] 前記軟骨損傷部の大きさが、4cm2以上である、上記[4-1]~[4-5]のいずれか1項に記載のアルギン酸の1価金属塩。
[4-7] 前記軟骨損傷部が関節軟骨のものである、上記[4-1]~[4-6]のいずれか1項に記載のアルギン酸の1価金属塩。
[4-8] 前記流動性を有するアルギン酸の1価金属塩の、濃縮骨髄液と組み合わせる前の見かけ粘度が、コーンプレート型粘度計(センサー35/1)を用いた測定により、500mPa・s~10000mPa・sであり、前記測定の測定温度が20℃であり、回転数が0.5rpmであり、読み取り時間は2.5分間測定し、開始0.5分から2.5分までの平均値とする、上記[4-1]~[4-7]のいずれか1項に記載のアルギン酸の1価金属塩。
[4-9] 前記アルギン酸の1価金属塩は、GPC-MALS法により測定された重量平均分子量(絶対分子量)が8万以上である、上記[4-1]~[4-8]のいずれか1項に記載のアルギン酸の1価金属塩。
[4-10] 前記アルギン酸の1価金属塩は、濃縮骨髄液と組み合わせる前におけるアルギン酸の1価金属塩の濃度が0.5w/w%~5w/w%である組成物の形態である、上記[4-1]~[4-9]のいずれか1項に記載のアルギン酸の1価金属塩。
[4-11] 前記アルギン酸の1価金属塩は、軟骨損傷部への適用後に、該アルギン酸の1価金属塩の表面の少なくとも一部に硬化剤を接触させるように用いられる、上記[4-1]~[4-10]のいずれか1項に記載のアルギン酸の1価金属塩。
[4-12] 前記アルギン酸の1価金属塩は、前記対象の軟骨損傷部に適用する前に、前記アルギン酸の1価金属塩を硬化させる量の硬化剤を含有しない、上記[4-1]~[4-11]のいずれか1項に記載のアルギン酸の1価金属塩。
[4-13] 前記硬化剤が2価以上の金属イオン化合物である、上記[4-11]または[4-12]に記載のアルギン酸の1価金属塩。
[4-14] 前記アルギン酸の1価金属塩が、低エンドトキシンのアルギン酸の1価金属塩である、上記[4-1]~[4-13]のいずれか1項に記載のアルギン酸の1価金属塩。
[4-15] 前記アルギン酸の1価金属塩が、軟骨関連疾患の治療のために用いられる、上記[4-1]~[4-14]のいずれか1項に記載のアルギン酸の1価金属塩。
[4-16] 前記軟骨関連疾患が、変形性関節症、外傷性軟骨欠損症、欠損部周外傷性軟骨欠損症、外傷性軟骨損傷、骨壊死症、離断性骨軟骨炎、軟骨下骨欠損、軟骨及び/又は軟骨下骨の変性、並びに関節におけるアライメント異常からなる群から選択される少なくとも1種の軟骨関連疾患である、上記[4-15]に記載のアルギン酸の1価金属塩。
[4-17] 前記アルギン酸の1価金属塩が、軟骨組織及び/又は軟骨下骨の修復、軟骨組織及び/又は軟骨下骨の再生、軟骨組織及び/又は軟骨下骨の変性進行の抑制、硝子軟骨の再生、疼痛の緩和、術後疼痛の緩和、機能障害の軽減、臨床症状の緩和、軟骨関連疾患の予防または再発抑制からなる群から選択される少なくとも1種のために用いられる、上記[4-1]~[4-16]のいずれか1項に記載のアルギン酸の1価金属塩。
【発明の効果】
【0014】
軟骨組織の損傷の修復及び/又は再生のために使用し得る、新たな軟骨損傷治療用組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】骨軟骨欠損手術モデル各群の模式図と肉眼写真である。
【
図2】術後4週(A~D)と16週(F~I)における各群の代表的な肉眼的所見及びICRS scoreの結果(E,J)を示す図である。スコアに対して各群の平均値と標準偏差である。*はP<0.05、**はP<0.01、***はP<0.001を示す。
【
図3】術後4週と16週における組織学的所見とNiederauer score結果を示す図である。術後4週の顕微鏡所見(×20)(A~D)及び拡大像所見(×100)(E~H)が示される。術後16週の顕微鏡所見(×20)(J~M)及び拡大像所見(×100)(N~Q)が示される。術後4週(I)と16週(R)組織学的スコアに対して各群を平均値と標準偏差で示し、*はP<0.05、**はP<0.01、***はP<0.001を示す。Scalebarは1mmを示す。
【
図4】術後16週における修復組織のコラーゲン配向性の評価の結果を示す図である。A~Dは抗II型コラーゲン免疫染色された組織切片である。Scale barは1mmを示す。E~PはHE染色組織切片をPLMで、0度、45度、90度に回転して撮影したものである。Qは修復組織の変性変化に対する各群の平均値と標準偏差である。**はP<0.01を示す。
【
図5】術後16週におけるmicro-CTを用いた軟骨下骨の修復量評価の結果を示す図である。A~Dは術後4週における各群の再構築された2D(Axial)と3D-CT合成像である。G~Jは術後16週における各群の再構築された2D(Axial)と3D-CT合成像である。術後4週(F)と術後16週(K)における各群の修復された軟骨下骨量(BV)の平均値と標準偏差が示される。*はP<0.05、**はP<0.01、***はP<0.001を示す。
【
図6】術後16週における力学特性の評価の結果を示す図である。Aは力学的テストの模式図である。先端は2mmの半球状の形状をしている。Bは押し込み試験機の外観である。Cは各群から算出された修復組織における代表的な圧入-変形曲線である。Dは修復組織のおける各群の標準化された剛性値の平均値と標準偏差である。*はP<0.05を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、詳細に説明する。
1.本組成物
ここでは、軟骨損傷の治療に好ましく用いられる組成物が提供される。
当該組成物は、対象の軟骨損傷部に濃縮骨髄液と組み合わせて適用し、軟骨損傷部への適用時に流動性を有する、アルギン酸の1価金属塩を含有する、軟骨損傷治療用組成物である(本明細書において、「本組成物」という場合がある)。本組成物は、好ましくは、軟骨損傷部への適用後に、表面の少なくとも一部に硬化剤を接触させるように用いられる。
【0017】
「軟骨」は、関節、胸郭壁、椎間板、半月板や、喉頭、気道、耳などの管状構造にみられ、硝子軟骨、弾性軟骨、線維軟骨の3種に分類できる。例えば、関節軟骨は硝子軟骨であり、軟骨細胞、コラーゲン性の細胞外マトリックス、プロテオグリカンおよび水からなり、血管が分布していない。硝子軟骨は、タイプIIコラーゲンに富み、抗タイプIIコラーゲン抗体により染色される、プロテオグリカンを染色するサフラニン-O染色で赤色に染色される、などの特徴を有する。
【0018】
「軟骨損傷」とは、加齢や外傷、その他様々な要因によって、軟骨が障害を受けている状態をいい、例えば、何らかの要因で、軟骨の独特の粘弾性(荷重がかかるとゆっくりと縮んで,荷重がとれるとゆっくりと元に戻る)が低下し、可動性を保ちながら荷重を支えることに支障をきたすなど、軟骨の機能が低下した状態を含む。本明細書において「損傷」の語は、特に断らない限り、「変性」も含む。
【0019】
「軟骨欠損」とは、軟骨層が欠けてなくなっている部分をいい、軟骨組織の空洞部ならびに該空洞部を形成する周りの組織のことをいう。軟骨欠損は軟骨損傷の一態様であり、本組成物は軟骨欠損部の治療に、好ましく用いられる。
【0020】
また、本明細書において「損傷部」は「病変部」と同じ意味で用いられ、「損傷」の語は「病変」の語に置き換えられてもよい。
【0021】
いくつかの態様では、軟骨損傷部または軟骨欠損部は、関節軟骨ものものであり、例えば、膝または肘の関節軟骨でありえる。
【0022】
軟骨損傷または軟骨欠損の大きさは、ヒト成人では、例えば、1cm2以上、2cm2以上、3cm2以上、4cm2以上、5cm2以上、または6cm2以上であり得る。軟骨損傷または軟骨欠損の大きさは、これらの各下限値であることに加えて、例えば、10cm2以下、9cm2以下、8m2以下、7cm2以下、6cm2以下、または5cm2以下であり得る。いくつかの態様では、軟骨損傷または軟骨欠損の大きさは、ヒト成人では、4cm2以上であり得る。
【0023】
また、軟骨損傷または軟骨欠損は、軟骨だけでなく、軟骨下骨の損傷をともなうものでもよい。この場合、本組成物は、軟骨下骨の損傷の治療のために用いられてもよい。
【0024】
「軟骨損傷の治療」とは、軟骨組織の損傷の修復及び/又は再生を促し、疾患や損傷の状態、臨床症状を緩和あるいは治癒させることをいう。また、特に断らない限り、「治療」の語は、軟骨損傷や軟骨関連疾患の改善、緩和、軽減、進行抑制、予防及び/又は再発抑制を含む。すなわち、本組成物は、軟骨関連疾患の改善、緩和、軽減、進行抑制、予防及び/又は再発抑制のために用いることができる。
【0025】
また、本組成物は、軟骨組織及び/又は軟骨下骨の修復、軟骨組織及び/又は軟骨下骨の再生、軟骨組織及び/又は軟骨下骨の変性進行の抑制、硝子軟骨の再生、疼痛の緩和、術後疼痛の緩和、機能障害の軽減、臨床症状の緩和などのためにも用いることができる。
【0026】
「軟骨組織(損傷)の修復」「軟骨組織(損傷)の再生」とは、損傷または欠損した軟骨組織を、正常に近い軟骨組織に近づけることをいう。しかし、必ずしも完全に正常な軟骨に回復させることを必要とせず、本組成物適用前の損傷の状態と比較して、軟骨組織の組成、形状や機能等が、正常な軟骨に近づいていればよい。
【0027】
本発明において「硝子軟骨の再生」とは、線維軟骨に比べ硝子軟骨の比率が高い軟骨が再生されることを目的とするものであり、II型コラーゲンやプロテオグリカンに富む軟骨組織が再生されることを意図するものである。好ましい態様の一つは、本組成物を適用して再生された軟骨の組成が、天然の正常な軟骨の組成に近いことが望ましい。本組成物は、例えば、「軟骨修復用組成物」「硝子軟骨再生用組成物」などであり得る。
【0028】
「軟骨関連疾患」とは、軟骨損傷及び/又は軟骨下骨の損傷に関連する疾患や状態であり、特に限定されないが、例えば、変形性関節症、外傷性軟骨欠損症、欠損部周外傷性軟骨欠損症、外傷性軟骨損傷、骨壊死症、離断性骨軟骨炎、軟骨下骨欠損、軟骨及び/又は軟骨下骨の変性、並びに関節におけるアライメント異常などが挙げられる。
【0029】
「濃縮骨髄液と組み合わせて」とは、併用することであり、アルギン酸の1価金属塩を含む本組成物を軟骨損傷部に適用する際に、アルギン酸の1価金属塩(以下、「(a)成分」という場合がある)と濃縮骨髄液(以下、「(b)成分」という場合がある)の両方が含まれているか、あるいは本組成物を軟骨損傷部に適用した後で、(a)成分と(b)成分の両方が軟骨損傷部に存在していればよいことを意味し、特に限定されないが、例えば、(1)(a)成分と(b)成分を混合した後に損傷部に適用してもよいし、(2)(a)成分と(b)成分を混合することなく、それぞれを損傷部に適用してもよい。この場合、例えば、(2-1)(a)成分と(b)成分を同時に適用してもよいし、(2-2)(b)成分を適用後に(a)成分を適用してもよいし、(2-3)(a)成分を適用後に(b)成分を適用してもよいし、(2-4)(a)成分と(b)成分の少なくとも1つを複数回に分けて適用してもよい。
【0030】
「濃縮骨髄液と組み合わせて」とは、販売を含む流通段階における形態を特に問うものではない。例えば、(a)成分を含む組成物を販売し、(b)成分は、患者の骨髄液を採取して濃縮骨髄液を調製し使用してもよい。
【0031】
「対象」は、ヒト、またはヒト以外の生物、例えば、トリおよび非ヒト哺乳動物(例えば、ウシ、サル、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ブタ、イヌ、ウサギ、ヒツジ、およびウマ)である。
【0032】
「本組成物を軟骨損傷部に適用する」とは、本組成物を軟骨損傷部に接触させることを意味し、好ましくは軟骨損傷部(又は欠損部)を埋めるのに十分な量で軟骨損傷部に充填することを意味する。
「濃縮骨髄液を軟骨損傷部に適用する」とは、濃縮骨髄液を軟骨損傷部に接触させること、あるいは、軟骨損傷部に接触する本組成物に対して濃縮骨髄液を接触させることを意味する。
【0033】
「表面の少なくとも一部分に硬化剤を接触させる」とは、軟骨損傷部に適用した組成物の表面の少なくとも一部分に硬化剤を接触させることをいう。
【0034】
「アルギン酸の1価金属塩を含有する」とは、本組成物が、濃縮骨髄液と組み合わせて適用された軟骨損傷部において、軟骨損傷の治療に有効な量のアルギン酸の1価金属塩を含有することを意味する。
【0035】
本組成物は、溶媒を用いて溶液状態で提供されてもよいし、凍結乾燥体(特には、凍結乾燥粉体)などの乾燥状態で提供されてもよい。乾燥状態として提供される場合、本組成物は、適用時には溶媒を用いて、溶液状などの流動性を有する状態で使用される。溶媒は、生体へ適用可能な溶媒であれば特に限定されないが、例えば、注射用水、精製水、蒸留水、イオン交換水(または脱イオン化水)、ミリQ水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などが挙げられる。好ましくは、ヒトおよび動物の治療に用いることが可能な注射用水、蒸留水、生理食塩水などである。
【0036】
いくつかの態様の本組成物を用いることで、比較的大きな軟骨損傷(例えば、ヒト成人では大きさが4cm2以上)に対しても、アルギン酸の1価金属塩を単独で用いた場合と比較して、より良好な軟骨損傷の治療効果を発揮し得る。また、いくつかの態様の本組成物を用いることで、軟骨下骨の損傷をともなう軟骨損傷においても、軟骨と軟骨下骨の両方を治療し得る。本組成物は、軟骨損傷部への付着性が良く、しかも、シリンジ等で適用できるので、軟骨損傷部に適用し易い。軟骨損傷部が関節軟骨のものである場合、関節鏡視下で投与が可能であり、患部の広範な切開を避けることができる。
【0037】
2.アルギン酸の1価金属塩
「アルギン酸の1価金属塩」は、アルギン酸の6位のカルボン酸の水素原子を、Na+やK+などの1価金属イオンとイオン交換することでつくられる水溶性の塩である。アルギン酸の1価金属塩としては、具体的には、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウムなどを挙げることができるが、特には、市販品により入手可能なアルギン酸ナトリウムが好ましい。アルギン酸の1価金属塩の溶液は、硬化剤と混合したときにゲルを形成する。
【0038】
「アルギン酸」は、生分解性の高分子多糖類であって、D-マンヌロン酸(M)とL-グルロン酸(G)という2種類のウロン酸が直鎖状に重合したポリマーである。本明細書において、「アルギン酸」の語は、アルギン酸の1価金属塩のようなアルギン酸塩も含む場合がある。より具体的には、D-マンヌロン酸のホモポリマー画分(MM画分)、L-グルロン酸のホモポリマー画分(GG画分)、およびD-マンヌロン酸とL-グルロン酸がランダムに配列した画分(MG画分)が任意に結合したブロック共重合体である。アルギン酸のD-マンヌロン酸とL-グルロン酸の構成比(M/G比)は、主に海藻等の由来となる生物の種類によって異なり、また、その生物の生育場所や季節による影響を受け、M/G比が約0.4の高G型からM/G比が約5の高M型まで高範囲にわたる。
【0039】
アルギン酸は、天然由来でも合成物であってもよいが、天然由来であるのが好ましい。天然由来のアルギン酸としては、例えば、褐藻類から抽出されるものを挙げることができる。アルギン酸を含有する褐藻類は世界中の沿岸域に繁茂しているが、実際にアルギン酸原料として使用できる海藻は限られており、南米のレッソニア、北米のマクロシスティス、欧州のラミナリアやアスコフィラム、豪のダービリアなどが代表的なものである。アルギン酸の原料となる褐藻類としては、例えば、レッソニア(Lessonia)属、マクロシスティス(Macrocystis)属、ラミナリア(Laminaria)属(コンブ属)、アスコフィラム(Ascophyllum)属、ダービリア(Durvillea)属、アラメ(Eisenia)属、カジメ(Ecklonia)属などがあげられる。
【0040】
アルギン酸の1価金属塩は高分子多糖類であり、分子量を正確に定めることは困難であるが、分子量が低すぎると粘度が低くなり、適用した部位の周辺組織への密着性が弱くなる恐れがあり、また、分子量が高すぎるものは製造が困難であるとともに、溶解性が低下する、溶液状にした際に粘度が高すぎて取扱いが悪くなる、長期間の保存で物性を維持しにくい等の問題を生じるため、適度な分子量であることが望ましい。
【0041】
一方、天然物由来の高分子物質の分子量測定では、測定方法により値に違いが生じうることが知られている。例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)又はゲルろ過クロマトグラフィー(これらを合わせてサイズ排除クロマトグラフィーともいう)により測定した重量平均分子量は、実施例で示された効果によれば、好ましくは10万以上、より好ましくは50万以上であり、また好ましくは、500万以下、より好ましくは300万以下である。その好ましい範囲は、10万~500万であり、より好ましくは50万~350万である。本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
【0042】
また、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)と多角度光散乱検出器(Multi Angle Light Scattering:MALS)とを組み合わせたGPC-MALS法によれば、絶対重量平均分子量を測定することができる。GPC-MALS法により測定した重量平均分子量(絶対分子量)は、実施例で示された効果によれば、好ましくは1万以上、より好ましくは8万以上、さらに好ましくは9万以上であり、また好ましくは、100万以下、より好ましくは80万以下、さらに好ましくは70万以下、とりわけ好ましくは50万以下である。その好ましい範囲は、1万~100万であり、より好ましくは8万~80万であり、よりさらに好ましくは9万~70万、とりわけ好ましくは9万~50万である。
【0043】
通常、高分子多糖類の分子量を上記のような手法で算出する場合、10~20%以上の測定誤差を生じうる。例えば、40万であれば32~48万、50万であれば40~60万、100万であれば80~120万程度の範囲で値の変動が生じうる。
【0044】
アルギン酸の1価金属塩の分子量の測定は、常法に従い測定することができる。
【0045】
分子量測定にゲル浸透クロマトグラフィーを用いる場合の代表的な条件は、本明細書の実施例に記載のとおりである。カラムは、例えば、GMPW-XL×2+G2500PW-XL(7.8mm I.D.×300mm)を用いることができ、溶離液は、例えば、200mM硝酸ナトリウム水溶液とすることができ、分子量標準としてプルランを用いることができる。
【0046】
分子量測定にGPC-MALSを用いる場合の代表的な条件は、本明細書の実施例に記載のとおりである。検出器として、例えば、RI検出器と光散乱検出器(MALS)を用いることができる。
【0047】
アルギン酸の1価金属塩の見かけ粘度は、好ましくは、アルギン酸の1価金属塩をMilliQ水に溶解して1w/w%濃度の溶液とし、コーンプレート型粘度計を用いて、20℃の条件で、粘度測定を行ったときの見かけ粘度が、40mPa・s~800mPa・sであることが好ましく、より好ましくは、50mPa・s~600mPa・sであることが望ましい。見かけ粘度の測定条件は、後述の条件に従うことが望ましい。なお、本明細書において「見かけ粘度」を単に「粘度」という場合がある。
【0048】
3.低エンドトキシン処理
いくつかの態様では、アルギン酸の1価金属塩は低エンドトキシンのアルギン酸の1価金属塩である。低エンドトキシンとは、実質的に炎症、または発熱を惹起しない程度にまでエンドトキシンレベルが低いことをいう。より好ましくは、低エンドトキシン処理されたアルギン酸の1価金属塩であることが望ましい。
【0049】
低エンドトキシン処理は、公知の方法またはそれに準じる方法によって行うことができる。例えば、ヒアルロン酸ナトリウムを精製する、菅らの方法(例えば、特開平9-324001号公報など参照)、β1,3-グルカンを精製する、吉田らの方法(例えば、特開平8-269102号公報など参照)、アルギネート、ゲランガム等の生体高分子塩を精製する、ウィリアムらの方法(例えば、特表2002-530440号公報など参照)、ポリサッカライドを精製する、ジェームスらの方法(例えば、国際公開第93/13136号パンフレットなど参照)、ルイスらの方法(例えば、米国特許第5589591号明細書など参照)、アルギネートを精製する、ハーマンフランクらの方法(例えば、Appl Microbiol Biotechnol (1994)40:638-643など参照)等またはこれらに準じる方法によって実施することができる。本発明の低エンドトキシン処理は、それらに限らず、洗浄、フィルター(エンドトキシン除去フィルターや帯電したフィルターなど)によるろ過、限外ろ過、カラム(エンドトキシン吸着アフィニティーカラム、ゲルろ過カラム、イオン交換樹脂によるカラムなど)を用いた精製、疎水性物質、樹脂または活性炭などへの吸着、有機溶媒処理(有機溶媒による抽出、有機溶剤添加による析出・沈降など)、界面活性剤処理(例えば、特開2005-036036号公報など参照)など公知の方法によって、あるいはこれらを適宜組合せて実施することができる。これらの処理の工程に、遠心分離など公知の方法を適宜組み合わせてもよい。アルギン酸の種類などに合わせて適宜選択するのが望ましい。
【0050】
エンドトキシンレベルは、公知の方法で確認することができ、例えば、リムルス試薬(LAL)による方法、エントスペシー(登録商標)ES-24Sセット(生化学工業株式会社)を用いる方法などによって測定することができる。
【0051】
アルギン酸の1価金属塩のエンドトキシンの処理方法は特に限定されないが、その結果として、アルギン酸の1価金属塩のエンドトキシン含有量が、リムルス試薬(LAL)によるエンドトキシン測定を行った場合に、500エンドトキシン単位(EU)/g以下であることが好ましく、さらに好ましくは、100EU/g以下、とりわけ好ましくは50EU/g以下、特には30EU/g以下である。低エンドトキシン処理されたアルギン酸ナトリウムは、例えば、Sea Matrix(登録商標)(持田製薬株式会社)、PRONOVATMUP LVG(FMC BioPolymer)など市販品により入手可能である。
【0052】
4.アルギン酸の1価金属塩の溶液の調製
本組成物は、アルギン酸の1価金属塩の溶液を用いて調製してもよい。アルギン酸の1価金属塩の溶液は、公知の方法またはそれに準じる方法により調製することができる。すなわち、本発明で用いられるアルギン酸の1価金属塩は、前述の褐藻類を用いて、酸法、カルシウム法など公知の方法により製造することができる。具体的には、例えば、これらの褐藻類から、炭酸ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液を用いて抽出した後、酸(例えば、塩酸、硫酸など)を添加することによってアルギン酸を得ることができ、アルギン酸のイオン交換によりアルギン酸の塩を得ることができる。いくつかの態様では、前述のとおり、低エンドトキシン処理を行う。アルギン酸の1価金属塩の溶媒は、生体へ適用可能な溶媒であれば特に限定されないが、例えば、精製水、蒸留水、イオン交換水、ミリQ水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などが挙げられる。これらは、滅菌されていることが好ましく、低エンドトキシン処理されたものが好ましい。例えば、ミリQ水をろ過滅菌して用いることができる。
【0053】
本組成物が、凍結乾燥体などの乾燥状態で提供される場合にも、上記の溶媒を用いて流動性のある溶液に調製することができる。
【0054】
また、本組成物を得るための操作は全てエンドトキシンレベル、および、細菌レベルの低い環境下で行うことが望ましい。例えば、操作はクリーンベンチで、滅菌器具を使用して行うことが好ましく、使用する器具を市販のエンドトキシン除去剤で処理してもよい。
【0055】
5.本組成物の見かけ粘度
いくつかの態様の本組成物は、軟骨損傷部への適用時に、流動性のある液体状、すなわち、溶液状である。本組成物と濃縮骨髄液とを混合した後に、軟骨損傷部へ適用する場合には、混合物が流動性を有することが好ましい。濃縮骨髄液や細胞など溶媒に溶解しないものと、本組成物とを混合して損傷部へ適用する場合、本組成物の見かけ粘度は、粘度測定を正確に行うため、濃縮骨髄液等と混合する前のアルギン酸の1価金属塩を含む組成物の粘度とすることが好ましい。損傷部への適用前に、本組成物と濃縮骨髄液を混合しないで、それぞれ損傷部へ適用する場合、本組成物の見かけ粘度は、アルギン酸の1価金属塩を含む組成物の粘度である。この好ましい本組成物の見かけ粘度は、軟骨損傷部へ適用できれば、特に限定されないが、適用した部位の周辺組織への密着性を考慮すると、以下に記載の回転粘度計(コーンプレート型粘度計)を用いた測定条件、及び、20℃における測定において、好ましくは10mPa・s以上、より好ましくは100mPa・s以上、さらに好ましくは200mPa・s以上、とりわけ好ましくは500mPa・s以上である。また、取扱性を考慮すると、本組成物の見かけ粘度は、好ましくは100,000mPa・s以下、より好ましくは50000mPa・s以下、さらに好ましくは20000mPa・s以下であり、さらに好ましくは10000mPa・s以下、とりわけ好ましくは7000Pa・s以下である。見かけ粘度が20000mPa・s以下のときシリンジ等での適用がより容易に行える。しかし、見かけ粘度が20000mPa・s以上であっても加圧型や電動型の充填器具やその他の手段を用いて適用可能である。本組成物の好ましい範囲は、10mPa・s~50000mPa・s、より好ましくは、100mPa・s~30000mPa・s、さらに好ましくは200mPa・s~20000mPa・s、またさらに好ましくは500mPa・s~20000mPa・s、とりわけ好ましくは700mPa・s~20000mPa・sである。別の好ましい態様では、500mPa・s~10000mPa・s、あるいは2000mPa・s~10000mPa・sであってもよい。いくつかの態様の本組成物は、シリンジ等で対象に適用することもできる粘度である。
【0056】
本組成物の見かけ粘度の測定は、特に、コーンプレート型粘度計、センサー35/1(コーンの径35mm、1°)を用いて測定することがより望ましい。好ましくは、日本薬局方(第16版)の粘度測定法に従うことが望ましい。例えば、以下のような測定条件で測定することが望ましい。粘度測定のために溶媒が必要な場合には、試料溶液の調製は、MilliQ水を用いて行うことが望ましい。測定温度は20℃とする。コーンプレート型粘度計の回転数は、アルギン酸1価金属塩の1%溶液測定時は1rpm、2%溶液測定時は0.5rpmとし、これを目安にして決定する。読み取り時間は、アルギン酸1価金属塩の1%溶液測定の場合は2分間測定し、開始1分から2分までの平均値とする。2%溶液測定の場合は2.5分間測定し、開始0.5分から2.5分までの平均値とする。試験値は3回の測定の平均値とする。組成物の粘度が10000mPa・s以上となる場合には、センサー20/1(コーンの径20mm、1°)を用いて、回転数0.5rpm、2.5分間測定し、開始0.5分から2.5分までの平均値とすることも望ましい。
【0057】
アルギン酸の1価金属塩の溶液の見かけ粘度は、M/G比によって影響を受けるため、例えば、溶液の粘度等により好ましいM/G比を有するアルギン酸を適宜選択することができる。本発明に用いるアルギン酸のM/G比は、約0.1~5.0であり、好ましくは約0.1~4.0、より好ましくは約0.2~3.5である。
【0058】
前述のように、M/G比が主に海藻の種類によって決まることなどから、原料として用いられる褐藻類の種類はアルギン酸の1価金属塩の溶液の粘度に影響を及ぼす。本発明で用いられるアルギン酸としては、好ましくは、レッソニア属、マクロシスティス属、ラミナリア属、アスコフィラム属、ダービリア属の褐藻由来であり、より好ましくはレッソニア属の褐藻由来であり、特に好ましくはレッソニア・ニグレッセンズ(Lessonia nigrescens)由来である。
【0059】
6.濃縮骨髄液(Concentrated Bone Marrow Aspirate:cBMA)
本組成物は、濃縮骨髄液と組み合わせて用いられる。
濃縮骨髄液(cBMA)は、骨髄穿刺濃縮細胞液(Bone marrow aspirate concentrate:BMAC)とも呼ばれるものであり、骨髄液の遠心分離により骨髄間葉系幹細胞(Bone marrow derived-mesenchymal stem cells:MSCs)と液性成長因子を含有した濃縮細胞液である。cBMAは骨髄液の遠心操作だけで作製することができる。このため生体外の細胞培養を必要としないこととすることもでき、一期的な治療に使用することもできる。また、調製過程で濃縮操作を行うため、十分な数の細胞を含むものとすることができる。いくつかの態様では、濃縮細胞液は、自家の濃縮細胞液、すなわち対象由来である。
【0060】
濃縮骨髄液の調製方法は特に限定されないが、例えば次のように調製することができる。
【0061】
Chahla J et al.,Arthrosc Tech.(2017)6(2),e441-e445.に記載のプロトコルに準じて、濃縮骨髄液を作製することができる。具体的には、シリンジを用いて、対象の腸骨から骨髄液を採取し、そして骨髄液中の凝固血を濾過により除去する。濾過した骨髄液を遠心分離にかけ、その後、中間層の単球細胞層(Buffy coat)を中心にすぐ上方の血漿成分(PRP)も少し含めてできる限り下方のRBC(赤血球)を吸い込まないように十分に注意を払いながら、細胞液を吸い出す。これを、濃縮骨髄液として用いる。
【0062】
あるいは、例えば、Bio-Cue System(Biomet Biologics, Mrtin JR et al.,2013;54:219-24)、CenTrate(R)BMA Deviceなど、骨髄液から濃縮骨髄液を調製するための市販の機器を用いて調製することができる。
【0063】
濃縮骨髄液中の骨髄間葉系幹細胞数は、好ましくは、1×101~1×109cells/mlであり、より好ましくは、1×102~1×107cells/ml、さらに好ましくは、1×103~1×106cells/mlである。いくつかの態様では、濃縮骨髄液中の骨髄間葉系幹細胞数は、1×103~1×105cells/mlである。
【0064】
7.本組成物の調製
本組成物は、アルギン酸の1価金属塩を含有する。本発明者らは、アルギン酸1価金属塩を濃縮骨髄液と組み合わせて生体の軟骨損傷部に適用した場合に軟骨損傷部の大きさが比較的大きい場合でも軟骨組織の再生または治療効果を発揮することを初めて見出した。好ましくは、アルギン酸の1価金属塩は、本組成物中に、アルギン酸の1価金属塩が濃縮骨髄液と組み合わせて患部に適用された際に、軟骨組織の再生または治療効果を発揮できる量で含有されていればよく、少なくとも、濃縮骨髄液と組み合わせる前の組成物全体の0.1w/v%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5w/v%以上、さらに好ましくは、1w/v%以上である。濃縮骨髄液と組み合わせる前の本組成物中の好ましいアルギン酸の1価金属塩濃度は、分子量の影響を受けるので、一概にはいえないが、好ましくは0.5w/v%~5w/v%、より好ましくは1w/v%~5w/v%であり、さらに好ましくは、1w/v%~4w/v%で、とりわけ好ましくは1w/v%~3w/v%である。また、別の態様では、本組成物中のアルギン酸の1価金属塩濃度は、好ましくは、0.5w/w%~5w/w%、より好ましくは1w/w%~5w/w%であり、さらに好ましくは、1w/w%~4w/w%で、とりわけ好ましくは1w/w%~3w/w%であってもよい。本組成物と濃縮骨髄液とを混合した後に軟骨損傷部に適用する場合には、混合物中のアルギン酸の1価金属塩の濃度が上記の範囲となるように調製することも望ましい。
【0065】
好ましいエンドトキシンレベルを示すまで精製したアルギン酸の1価金属塩を用いて、上記のように組成物を作製した場合には、組成物のエンドトキシン含有量は、通常、500EU/g以下であり、より好ましくは300EU/g以下、さらに好ましくは150EU/g以下であり、とりわけ好ましくは100EU/g以下である。
【0066】
尚、1つの態様では、本組成物は、濃縮骨髄液を組み合わせて用いることを除き、アルギン酸の1価金属塩以外に、軟骨損傷部に対し薬理作用を発揮する成分を含まない。この場合でも、十分な軟骨損傷部の再生または治療効果を発揮しうる。
【0067】
いくつかの態様では、必要に応じて、他の医薬活性成分や、慣用の安定化剤、乳化剤、浸透圧調整剤、緩衝剤、等張化剤、保存剤、無痛化剤、着色剤等、通常医薬に用いられる成分を本組成物に含有させることもできる。
【0068】
8.本組成物の適用
本組成物を軟骨損傷部へ適用する前には、切開、関節鏡、または内視鏡などの手段により、軟骨損傷部を見られる状態にすることが望ましい。関節鏡とは、関節の状態を観察するための内視鏡の1種である。
【0069】
本組成物を軟骨損傷部へ適用する前に、必要に応じて、軟骨損傷部およびその辺縁部の不要な組織を除去する工程を含んでもよい。ここでの「軟骨損傷部およびその辺縁部の不要な組織」とは、軟骨損傷部の病変組織、その辺縁部で線維軟骨により修復されている部分や軟骨が不安定になっている部分などである。
【0070】
本組成物を適用する前に、必要ならば患部を洗浄してもよい。「患部を洗浄する」とは、例えば、生理食塩水などを用いて、本組成物を適用しようとする部位の、血液成分、その他不要な組織などを取り除くことをいう。患部は洗浄後、残存する不要の液体成分などをふき取る等により乾燥させた後に、本組成物を適用するのが望ましい。
【0071】
本組成物を軟骨損傷部に適用する前に、必要に応じて、軟骨損傷部に対して、骨髄刺激法の施術を施してもよい。骨髄刺激法は、損傷部にピックやドリリング等の手法により、1ないし複数個の軟骨下骨まで達する欠損(全層欠損)を作成する治療方法であり、骨髄から出血し、骨髄中の軟骨前駆細胞が軟骨損傷部に遊走する効果が期待できる。
【0072】
本明細書において「本組成物を軟骨損傷部に適用する」とは、本組成物を軟骨損傷部に接触させることを意味し、好ましくは、軟骨損傷部(又は欠損部)を埋めるのに十分な量で軟骨損傷部に充填することをいう。あるいは、軟骨損傷部(又は欠損部)に、さらに1以上の比較的小さい穴を形成し、その穴に対して、本組成物を注入し、穴を埋めるように使用してもよい。軟骨損傷部への適用は、患部の空洞容積を十分に満たすように注入されるのが望ましい。また、組成物の液面が、軟骨欠損部の周辺軟骨組織と同程度の高さになるまで埋植することが望ましい。本明細書における、「適用する」の語は、「埋植する」という語を包含する意味で用いられる。
【0073】
本組成物の形態は、軟骨損傷部への適用時、好ましくは流動性のある液体状、すなわち、溶液状である。「流動性を有する」とは、その形態を不定形に変化させる性質を持つことを意味し、例えば溶液のように、常に流れ動く性質を持つことを必要としない。好ましくは、例えば、組成物をシリンジなどに封入し、軟骨損傷部へ注入することができるような流動性を有することが望ましい。本組成物と濃縮骨髄液とを混合した後に、軟骨損傷部へ適用する場合には、混合物が流動性を有することが好ましい。
【0074】
また、いくつかの態様の1つでは、本組成物を20℃で1時間静置した後に、14G~26Gの注射針をつけたシリンジで軟骨損傷部へ注入できるような流動性を有することが望ましく、さらに好ましくは21Gの注射針で注入できることが望ましい。本組成物が凍結乾燥体などの乾燥状態で提供される場合には、適用時に溶媒などを用いて上述のような流動性のある組成物とすることができる。いくつかの態様の本組成物は溶液状であるため、いずれの形状の軟骨損傷部にも適合することができ、軟骨損傷部の全体を充填することもできる。
【0075】
溶液状である本組成物は、シリンジ、ゲル用ピペット、専用注射器、専用注入器、充填器具などで軟骨損傷部に容易に適用することができる。
【0076】
本組成物の粘度が高い場合には、シリンジで適用するのが困難になるため、加圧型や電動型などのシリンジを用いてもよい。シリンジなどを使用しなくても、例えば、へら、棒などで軟骨損傷部へ適用してもよい。シリンジで注入する場合、例えば、14G~27Gまたは14G~26Gの針を使用するのが好ましい。
【0077】
本組成物の適用量は、適用する対象の軟骨損傷部の適用部位の容積に応じて決めればよく、特に限定されないが、例えば、0.1ml~10ml、より好ましくは、0.2ml~8mlであり、さらに好ましくは0.2ml~5mlである。本組成物を軟骨損傷部に適用する場合は、軟骨損傷部の欠損部容積を十分に満たすように注入されるのが望ましい。
【0078】
適用する濃縮骨髄液の量は、適用する対象の軟骨損傷部の適用部位の容積に応じて決めればよく、特に限定されないが、例えば、0.1ml~10mlであることが好ましく、より好ましくは0.2ml~8mlであり、さらに好ましくは0.2ml~5mlである。濃縮骨髄液を本組成物と混合することなく別々に適用する場合、濃縮骨髄液はシリンジ等の器具を用いて軟骨損傷部へ適用することができる。
【0079】
濃縮骨髄液と組み合わせるときの、本組成物と濃縮骨髄液の適用量の比は、特に限定されないが、例えば、本組成物(ml):濃縮骨髄液(ml)=1:5~10:1であり、より好ましくは1:2~5:1である。
【0080】
別の態様では、適用する本組成物の量と、濃縮骨髄液の量とを足した総量(ml)における本組成物の量の割合が、好ましくは20%~80%、より好ましくは30%~70%であることも望ましい。
【0081】
また、別の態様では、適用する本組成物の量と、濃縮骨髄液の量とを足した総量(ml)における、アルギン酸の1価金属塩の濃度が、好ましくは、0.5w/w%~5w/w%、より好ましくは1w/w%~5w/w%、さらに好ましくは、1w/w%~4w/w%で、とりわけ好ましくは1w/w%~3w/w%となるように適用することも望ましい。
ここで、「総量」は、本組成物と濃縮骨髄液を混合する場合の混合物における両者の総量でも、両者を別々に適用する場合の両者の総量でも、いずれの総量でもよい。
【0082】
また別の態様では、アルギン酸1価金属塩が凍結乾燥体である場合には、注射用水などの溶媒と濃縮骨髄液とを用いて凍結乾燥体を溶解し、上記の割合や濃度に調製することも望ましい。
【0083】
本組成物は、軟骨損傷部への適用後に、流動性を有する本組成物の表面の少なくとも一部分に硬化剤を接触させるように用いられる。この工程により、アルギン酸1価金属塩を含む組成物の表面がゲル化し、表面が硬化するため、患部からの本組成物の脱落や漏れ出しを防ぐことができる。この効果が得られる限り、硬化剤の使用に制限はないが、好ましくは、硬化剤を組成物の表面全体に接触させる。また、硬化剤を組成物表面に接触させた直後は、組成物の表面全体が硬化し、表面以外はゾル状であることも望ましい。
【0084】
本組成物は、好ましくは、対象の軟骨損傷部に適用する前に、組成物を硬化させる量の硬化剤を含有しない。このため、本組成物には、一定時間経過後も組成物を硬化させない量の硬化剤が含まれていてもよい。ここでの一定時間とは、特に限定されないが、好ましくは30分~12時間程度である。「組成物を硬化させる量の硬化剤を含有しない」ことは、例えば、組成物を20℃で1時間静置した後に、21Gの注射針をつけたシリンジで注入できることで示されてもよい。いくつかの態様の組成物には、硬化剤が含まれていない。
【0085】
硬化剤としては、アルギン酸の1価金属塩の溶液を架橋することにより、その表面を固定化することができるものであれば、特に限定されない。硬化剤として、例えば、Ca2+、Mg2+、Ba2+、Sr2+などの2価以上の金属イオン化合物、分子内に2~4個のアミノ基を有する架橋性試薬などが挙げられる。より具体的には、2価以上の金属イオン化合物として、CaCl2、MgCl2、CaSO4、BaCl2等を、分子内に2~4個のアミノ基を有する架橋性試薬として、窒素原子上にリジル(lysyl)基(-COCH(NH2)-(CH2)4-NH2)を有することもあるジアミノアルカン、すなわちジアミノアルカンおよびそのアミノ基がリジル基で置換されてリジルアミノ基を形成している誘導体が包含され、具体的にはジアミノエタン、ジアミノプロパン、N-(リジル)-ジアミノエタン等を挙げることができるが、入手しやすいこと、ゲルの強度等の理由から、特に、CaCl2溶液とするのが好ましい。
【0086】
いくつかの態様の1つでは、本組成物の表面に硬化剤を接触させるタイミングは、好ましくは、本組成物を軟骨損傷部へ適用した後である。本組成物の一部分に硬化剤(例えば、2価以上の金属イオン)を接触させる方法としては、特に限定されないが、例えば、シリンジ、噴射器(スプレー)などで、2価以上の金属イオンの溶液を組成物表面にかける方法などを挙げることができる。例えば、硬化剤は、ゆっくりと数秒~10数秒、組成物表面にかけ続けてもよい。その後は、必要に応じて、軟骨損傷部付近に残存する硬化剤を除去する処理を加えてもよい。硬化剤の除去は、例えば、生理食塩水等による適用部位の洗浄であってもよい。
【0087】
硬化剤の使用量は、本組成物の適用量、軟骨損傷部の大きさ、形状、部位などを考慮して適宜調節するのが望ましい。軟骨損傷部の周囲組織に硬化剤の影響を強く及ぼさないためには、硬化剤の使用量を過剰にならないよう調節する。2価以上の金属イオンの使用量としては、アルギン酸の1価金属塩を含有する組成物の表面を固めることができる量であれば、特に限定されない。しかし、例えば、100mMのCaCl2溶液を用いる場合には、軟骨損傷部の大きさが4cm2程度である場合には、CaCl2溶液の使用量は0.3ml~10ml程度であることが好ましく、より好ましくは1ml~5ml程度である。適用部位における本組成物の状態を見ながら、適宜増減できる。
【0088】
硬化剤にカルシウムが含まれる場合、カルシウムの濃度が高い方が、ゲル化が早く、また、より硬いゲルを形成することができることが知られている。しかし、カルシウムには細胞毒性があるため、濃度が高すぎると、本組成物の軟骨再生作用に悪影響を及ぼす恐れもある。そこで、アルギン酸の1価金属塩を含有する組成物の表面を固めるのに、例えばCaCl2溶液を用いる場合には、好ましくは、25mM~200mM、より好ましくは、50mM~150mMの濃度とするのが望ましい。
【0089】
好ましくは、組成物に硬化剤を添加後、一定時間静置した後に、添加した部位に残存する硬化剤を洗浄などにより除去することが望ましい。静置する一定時間は特に限定されないが、好ましくは、約1分間以上、より好ましくは約4分間以上静置して組成物の表面をゲル化させることが望ましい。あるいは、約1分~約10分間、より好ましくは約4分~約10分間、約4分間~約7分間、さらに好ましくは約5分間静置することが好ましい。この一定時間の間は、組成物と硬化剤とを接触させた状態にすることが望ましく、組成物の液面が乾かないように、硬化剤を適宜追加してもよい。
【0090】
本組成物は、溶液状であるから、いずれの形状の適用部位へも容易に適用することができるし、適用部位の全体を本組成物で覆うことができ、周囲組織への密着性も良い。本組成物の周囲組織に接触する部分は、カルシウム濃度を低く保つことが可能であり、カルシウムの細胞毒性の問題も少ない。本組成物の周囲組織に接触する部分は、硬化剤の影響が少ないから、本組成物は、容易に適用部位の細胞や組織にコンタクトでき、本組成物の治療効果がより強力に発揮される。好ましくは、本組成物は、軟骨損傷部に適用した後、約4週間も経過すれば、適用した部位において識別できなくなるほど生体の組織と融合し、生体への親和性も高い。
【0091】
必要に応じて、患部を縫合してもよい。
【0092】
本組成物の適用回数・頻度は、症状と効果に応じて増減可能である。例えば、1回のみの適用であってもよいし、1月~1年に1回の適用を継続して行ってもよい。
【0093】
アルギン酸は動物の体内に元来存在しない物質であるため、動物はアルギン酸を特異的に分解する酵素を保有していない。アルギン酸は動物体内においては、通常の加水分解により徐々に分解されるが、ヒアルロン酸等のポリマーに比べ体内の分解が緩やかであり、また軟骨には血管が存在しないため、軟骨損傷部に充填した場合、長期間の効果持続が期待できる。
【0094】
いくつかの態様では、本組成物が軟骨損傷部へ適用される際に、濃縮骨髄液に含まれるものに加えて細胞や成長因子などが併用して用いられてもよく、また、細胞死抑制因子、後述の他の薬剤などが併用して用いられてもよい。また別の態様では、これらの細胞や因子と併用しない態様も好ましい。
【0095】
細胞としては、軟骨損傷の治療のために有用な細胞であれば特に限定されないが、例えば、軟骨細胞、軟骨前駆細胞、幹細胞、間質細胞、間葉系幹細胞、骨髄間質細胞、滑膜細胞、ES細胞、iPS細胞などが挙げられる。由来は特に限定されないが、骨髄、脂肪組織、臍帯血などを挙げることができる。より好ましくは、骨髄間葉系幹細胞及び/又は骨髄間質細胞である。
【0096】
本組成物は、濃縮骨髄液に含まれるものに加えて、細胞の成長を促進する因子を含ませることもできる。そのような因子としては、例えば、BMP、FGF、VEGF、HGF、TGF-β、IGF-1,PDGF,CDMP(cartilage-derived-morphogenetic protein),CSF,EPO、IL、PRP(Platelet Rich Plasma)、SOXおよびIF等が挙げられる。
【0097】
また、軟骨損傷部に本組成物を適用する前に、あるいは同時に、あるいは後で、ストレプトマイシン、ペニシリン、トブラマイシン、アミカシン、ゲンタマイシン、ネオマイシン、およびアンホテリシンB等の抗生物質、アスピリン、非ステロイド性解熱鎮痛剤(NSAIDs)、アセトアミノフェン等の抗炎症薬、タンパク分解酵素、副腎皮質ステロイド薬、シンバスタチン、ロバスタチン等のHMG-CoA還元酵素阻害剤等の併用薬を充填するようにしても良い。これらの薬剤は本組成物に混入して用いてもよい。または、経口あるいは非経口で併用して投与されてもよい。その他、筋弛緩薬、オピオイド鎮痛薬、神経性疼痛緩和薬等が必要に応じて経口あるいは非経口で併用して投与されてもよい。
【0098】
これらの本組成物の好ましい態様、組成物の使用方法等は、前記の記載に従う。
【0099】
9.治療方法
ここでは、本組成物を用いる、軟骨損傷の治療方法も提供され得る。好ましくは、アルギン酸の1価金属塩を含有する組成物を、対象の軟骨損傷部に濃縮骨髄液と組み合わせて適用し、前記組成物が、軟骨損傷部への適用時に流動性を有する、対象の軟骨損傷を治療する方法であり、より好ましくは、前記組成物は、軟骨損傷部への適用後に表面の少なくとも一部に硬化剤を接触させるように用いられる。
【0100】
いくつかの態様では、以下の工程を含むことが望ましい。
(a)切開、関節鏡、または内視鏡により、前記軟骨欠損損傷部を視認可能な状態にする工程、
(b) 必要に応じて、軟骨損傷部およびその辺縁部の不要な組織を除去する工程、
(c) アルギン酸の1価金属塩を含む組成物と骨髄濃縮液とを組み合わせて軟骨損傷部に適用する工程、
(d) 埋植した前記組成物の表面に硬化剤を接触させる工程、
(e) 前記硬化剤を接触させた部位を洗浄する工程、および
(g) 必要に応じて、縫合する工程。
【0101】
本組成物の好ましい態様、具体的な軟骨損傷部への適用方法、組成物の硬化方法、用語の意義等は、前述のとおりである。他の軟骨損傷の治療方法や治療薬を適宜組み合せて本治療方法を行ってもよい。
【0102】
いくつかの態様では、本組成物とともに、前述の細胞、細胞の成長を促進する因子、他の薬剤などを軟骨損傷部に適用してもよい。なお、別のいくつかの態様では、本組成物が前述の追加の細胞、追加の因子、他の薬剤を併用しない態様も望ましい。好ましい態様の本組成物は、これらの追加の細胞や追加の因子、他の薬剤を用いない場合でも、軟骨の再生を促すことができる。
【0103】
本組成物を製造するためのアルギン酸の1価金属塩の使用にも関する。
【0104】
本使用は、軟骨損傷の治療のための組成物を製造するためのアルギン酸の1価金属塩の使用であって、前記組成物が、対象の軟骨損傷部に濃縮骨髄液と組み合わせて適用され、軟骨損傷部への適用時に流動性を有する。
【0105】
ここでは、さらに、アルギン酸の1価金属塩を含有し、流動性を有する組成物を、軟骨損傷の治療を必要とする対象の軟骨損傷部に濃縮骨髄液と組み合わせて適用する、軟骨損傷の治療において使用されるためのアルギン酸の1価の金属塩を提供する。
【0106】
ここでは、さらに、アルギン酸の1価金属塩を含有し、流動性を有する組成物と濃縮骨髄液を含む組み合わせであって、軟骨損傷の治療を必要とする対象の軟骨損傷部に適用し、軟骨損傷の治療において使用されるための、組み合わせを提供する。
【0107】
10.キット
本発明は、軟骨損傷の治療用キットを提供する。
本発明のキットには、本発明の組成物を含めることができる。本発明のキットに含める本発明の組成物は、溶液状態または乾燥状態であることが好ましい。乾燥状態とは、好ましくは凍結乾燥体であり、特に好ましくは、凍結乾燥粉体である。
【0108】
本発明の組成物が乾燥状態のときは溶解用の溶媒(例えば、注射用水)、溶解用のシリンジおよび注射針を含むことが望ましい。
【0109】
本発明のキットは、さらに、硬化剤(例えば、塩化カルシウム溶液など)を含んでいてもよく、硬化剤用のシリンジ、注射針などを含むことが望ましい。
【0110】
本発明のキットは、取り扱い説明書等を含めることができる。
【0111】
本発明におけるキットとして好適な具体例は、(1)低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムの凍結乾燥体を封入したバイアル、(2)溶解液として注射用水などの溶媒を封入したアンプル、(3)硬化剤として塩化カルシウム溶液など2価以上の金属イオン化合物を封入したアンプル、(4)シリンジ、(5)注射針等を一つのパッケージに入れたキットとすることができる。また別の例としては、一体成型され、隔壁により仕切られた二つの部屋からなるシリンジの1室にアルギン酸の1価金属塩を封入し、他方の部屋に溶解液としての溶媒、または硬化剤を含む溶液を封入し、両部屋の隔壁を用時容易に開通できるよう構成し、用時両者を混合・溶解して用いることのできるキットとする。他の例としては、アルギン酸の1価金属塩溶液をプレフィルドシリンジに封入し、使用時に調製操作なくそのまま充填できるキットとする。他の例としては、アルギン酸溶液と硬化剤を別々のシリンジに封入し、一つのパックに同梱したキットとする。あるいは、アルギン酸の1価金属塩溶液を充填したバイアルが用いられてもよい。「本発明の組成物」「硬化剤」などについては、前記で説明したとおりである。
【0112】
なお、本明細書に記載した全ての文献および刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。また、本明細書は、本願の優先権主張の基礎となる日本特許出願No.2020-005679(2020年1月17日出願)の特許請求の範囲、明細書、および図面の開示内容を参照して組み込むものとする。
【実施例】
【0113】
以下の実施例により本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定して理解されるべきではない。
【0114】
実施例1:ウサギ骨軟骨欠損モデルへのアルギン酸ナトリウム溶液及び濃縮骨髄液の適用
1.方法
1.1.ウサギ骨軟骨欠損モデルの作製手順
52羽(104膝)の24週齢の日本白色家兎に対し、全身麻酔下に3.0cmの皮膚切開で、内側傍膝蓋骨アプローチを用いて膝蓋大腿関節及び大腿骨滑車部を露出させた。滑車部の中央に直径5.0mmの電動ドリルで深さが2.0mmになるように専用のスリーブを使いながら、生理食塩水で冷却しながら骨軟骨欠損を作成した。この欠損は、ヒト欠損に外挿すると、4cm2の欠損に相当し、比較的大きい欠損である。
【0115】
1.2.アルギン酸ナトリウム溶液の調製
アルギン酸ナトリウムは、次のものを用いた。エンドトキシン含量は、50EU/g未満の低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムであった。各アルギン酸ナトリウムの見かけ粘度及び重量平均分子量は下記表のとおりである。アルギン酸ナトリウムの見かけ粘度測定は、日本薬局方(第16版)の粘度測定法に従い、回転粘度計法(コーンプレート型回転粘度計)を用いて測定した。具体的な測定条件は以下のとおりである。試料溶液の調製は、MilliQ水を用いて行った。測定機器は、コーンプレート型回転粘度計(粘度粘弾性測定装置レオストレスRS600(Thermo Haake GmbH)センサー:35/1)を用いた。回転数は、1w/w%アルギン酸ナトリウム溶液測定時は1rpm、2w/w%アルギン酸ナトリウム溶液測定時は0.5rpmとした。読み取り時間は、1w/w%溶液測定時は、2分間測定し、開始1分から2分までの平均値とし、2w/w%溶液測定時は、2.5分間測定し、開始0.5分から2.5分までの平均値とした。3回の測定の平均値を測定値とした。測定温度は20℃とした。
また、各アルギン酸ナトリウムの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)と、GPC-MALSの2種類の測定法で測定した。測定条件は以下のとおりである。
【0116】
[前処理方法]
試料に溶離液を加え溶解後、0.45μmメンブランフィルターろ過したものを測定溶液とした。
【0117】
(1)ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定
[測定条件(相対分子量分布測定)]
カラム:TSKgel GMPW-XL×2+G2500PW-XL(7.8mm I.D.×300mm×3本)
溶離液:200mM硝酸ナトリウム水溶液
流量:1.0mL/min
濃度:0.05%
検出器:RI検出器
カラム温度:40℃
注入量:200μL
分子量標準:標準プルラン、グルコース
【0118】
(2)GPC-MALS測定
[屈折率増分(dn/dc)測定(測定条件)]
示唆屈折率計:Optilab T-rEX
測定波長:658nm
測定温度:40℃
溶媒:200mM硝酸ナトリウム水溶液
試料濃度:0.5~2.5mg/mL(5濃度)
【0119】
[測定条件(絶対分子量分布測定)]
カラム:TSKgel GMPW-XL×2+G2500PW-XL(7.8mm I.D.×300mm×3本)
溶離液:200mM硝酸ナトリウム水溶液
流量:1.0mL/min
濃度:0.05%
検出器:RI検出器、光散乱検出器(MALS)
カラム温度:40℃
注入量:200μL
【0120】
【0121】
上記低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムを生理食塩水で溶解して2w/v%溶液と4w/v%溶液を調製した。
【0122】
1.3.移植用細胞(骨髄間葉系幹細胞:MSCs)または骨髄穿刺濃縮細胞液(Bone marrow aspirate concentrate:BMAC)とアルギン酸ナトリウムとの混合移植液の調製
【0123】
BMAC作製Protocol(Chahla J et al.,Arthrosc Tech.(2017)6(2),e441-e445.)に準じて、BMACを作製した。まず。ウサギに麻酔導入後(0.05mg/kgでのpentobarbitalの静脈投与)、0.5mlヘパリン入り(Novo-heparin 5000 units/5mL,Mochida Pharma.Co.Ltd.,Tokyo,Japan)の18G針付きシリンジを用いて、ウサギの両側腸骨から骨髄液を採取し、そして骨髄液中の凝固血を除去するため、孔径200μmのStrainerを通した。濾過した骨髄液から5mlを取り移し、800g、5min、4℃で遠心分離し、ピペットチップを用いて、中間層の単球細胞層(Buffy coat)を中心にすぐ上方の血漿成分(PRP)も少し含めてできる限り下方のRBCを吸い込まないように十分に注意を払いながら、細胞液を吸い出した。これを、BMACとして用いた。
【0124】
移植用他家MSCsは、上記と同方法で精製したBMACをMSC mediumを用いて、平面培養で増殖培養を行うことで調製した。2回継代増殖後の細胞を移植用MSCs(Passage 3)として、使用した。
MSCsを低エンドトキシンアルギン酸ナトリウム溶液(「UPAL」という場合がある)と混ぜて、最終MSCs濃度は2×104cells/ml、最終UPAL濃度は2w/w%となるように調製し、UPAL+MSC群の移植液として、欠損部の移植(他家移植)に用いた。
【0125】
移植用BMACにおいて、精製したBMAC細胞液と同等量の4%のUPALと混ぜて(最終MSCs濃度は2×104cells/ml、最終UPAL濃度は2%にする)、UPAL+BMAC群の移植液として欠損部に移植(自家移植)した。
【0126】
ここで、MSC mediumは、DMEM-High Glucose(044-29765,WAKO)に10% FBS(10828028SP,Gibco)と抗生物質(penicillin G:100U/mlとstreptomycin:0.1mg/ml)を添加し、調製した。
【0127】
各膝を無治療群(Defect群)、UPAL単独移植群(UPAL群)、UPALとMSCs併用移植群(UPAL+MSC群)とUPALとBMAC併用移植群(UPAL+BMAC群)の4群にランダムに振り分けた(
図1)。
【0128】
UPAL群、UPAL+MSC群、UPAL+BMAC群では18G針を用いて、移植液を欠損部に移植部周囲の軟骨と同じ高さになるように注意を払って充填し、100mM塩化カルシウム溶液を表面に30~40秒滴下することで、アルギン酸ナトリウム溶液の表面をゲル化させた。術野を生理食塩水で十分に洗浄し、4-0ナイロン糸で関節包、皮膚を各々縫合し手術終了した。麻酔覚醒後は特に制限なくケージ内を自由に動くことを許容した。術後4週および16週で安楽死させ膝を摘出した。
【0129】
術後4週において各群10膝において肉眼的、組織学的評価を行った。また軟骨下骨の修復量評価のためmicro-CTによる測定を行った。術後16週において、術後4週と同じ評価に加えて、各群10膝に対して免疫組織学的評価とコラーゲン配向性の評価を行った。さらに術後16週において、各群6膝に対して力学特性評価を行った。
【0130】
1.4.肉眼的・組織学的・免疫組織学的評価の方法
術後4週及び16週において安楽死後に、大腿骨滑車部を含める膝関節を切り出し、欠損部をデジタルカメラで撮影し、各群の修復組織は肉眼的にICRSスコアリング(Brittberg M et al.,ICRS Newsletter(1998)1,5-8.)(表2)を用いて評価した(n=10)。
【0131】
【0132】
同じ検体を組織学的評価に用いるため、10%パラホルムアルデヒドでサンプルを固定し、10%EDTAで脱灰処理後に、欠損部の中央を通る矢状断面で厚さ5μmのパラフィン切片を作成した。切片はHematoxylin Eosin(HE)染色及びSafranin-O(Saf-O)染色を施し、各群の修復組織は組織学的にNiederauerスコアリング(Niederauer et al.,Biomaterials(2000)21,2561-2574.)(表3)を用いて評価した(n=10)。
【0133】
【0134】
術後16週において免疫組織学的評価ではII型コラーゲン抗体(FujiPharma Co.,Ltd.,Toyama,Japan)を用いて染色した。
【0135】
1.3.偏光顕微鏡によるコラーゲン配向性の評価方法
術後16週においてHE染色切片を偏光顕微鏡(polarized light microscope:PLM)を用いて観察し、修復組織のコラーゲン配向性を評価した(Roberts et al.,2009;Ross et al.,2013)。コラーゲン配向性は、関節軟骨の力学強度に関連する報告もある(Rieppo et al.,2003)。修復された軟骨組織のコラーゲン配向性を確認するために、設置した組織切片自体を0°、45°、90°と回転させて微細な変化も観察した。デジタルカメラ(DS-5M-L1;Nikon)で撮られた画像に対して、それぞれにPLM定性スコアリングシステム(Changoor et al.,Osteoarthritis Cartilage.(2011)19(1),126-135)(表4)を用いて評価した(n=10)。
【0136】
【0137】
1.5.Micro-CTによる軟骨下骨修復量の評価方法
上記の切り取った膝Sampleを前述したように、肉眼的評価をした後、修復組織の軟骨下骨修復状況を評価するために、術後4週と16週においてmicro-CT(R_mCT2;Rigaku,Tokyo,Japan)により軟骨下骨の骨量に対して定量的に計測した(n=10)、各膝Sampleについて検体のCT撮影を行った。撮影手法や条件は、Baba et al.,Tissue Eng Part C Methods.(2015)21(12),1263-73.;およびHishimura et al.,The American Journal of Sports Medicin(2019)e47(2),468-478に記載のものに準じて行った。得られた画像のうち、実際に作製した欠損部(直径5mm、深さ2mmの円柱状)の骨軟骨欠損をターゲット領域に設定し、その範囲内に石灰化骨の骨量を軟骨下骨の修復量(Bone Volume、以下BV)(mm3)とし、Image J software(National Institutes of Health,Bethesda,MD)を用いて算出した。
【0138】
1.6.力学特性の測定方法
術後16週において各膝Sample欠損部の修復組織の力学特性の測定するため、当研究施設が持つ力学試験器(Autograph AG-X,Shimadzu Co.,Tokyo,Japan)を用いて測定した(Sadia et al.,Macromolecules(2016)49,5630-5636.)。各膝Sampleは測定する圧子(直径2mmの半球状)に対して垂直に面するように歯科用常温重合レジン(PMMA)を土台にして固定(Wada et al.,Acta Biomater.(2016)15,44,125-34.)し、その状態で測定部位に圧子を0.5mm/分のスピードで押し込む方法で測定した(
図6A)。測定部位として修復組織の中央部に加えて、測定値の基準値としての欠損部より近位の正常軟骨部も測定した(
図6B)。上記において荷重-変形曲線をplotし、測定組織表面の微小変形を反映するこの曲線の最初に形成した直線に近似した部分の傾きはStiffness(N/mm)として算出した。各Sampleにおいて、算出したStiffnessは正常軟骨部を基準とした百分率表記に換算し直して標準化Stiffnessとして比較検討した。
【0139】
1.7.統計解析
データは平均値±標準偏差(Standard Deviation、以下SD)として表記した。4群間のデータ比較にはSteel-Dwass検定を、2群間ではMann-Whitney U検定を用いた。解析は統計解析ソフトJMP Pro 14.1(SAS Institute,Cary,NC)を用いて行い、有意水準は0.05未満とした。
【0140】
2.結果
2.1.肉眼的評価の結果
4週、16週においても各群のSampleでは術後感染を示唆する所見は認めなかった。
【0141】
術後4週においてDefect群の欠損部は陥凹しており、表面不整で不透明な線維組織で不完全に覆われていた(
図2A)。UPAL群とUPAL+MSC群の欠損部はやや平坦になったが、表面又は周囲融合部に亀裂や小陥凹が見える半透明な組織で部分的に覆われていた(
図2B,C)。UPAL+BMAC群では欠損部がほぼ平坦であり、表面に軽度な亀裂が見える程度な半透明な硝子軟骨様組織で完全に覆われていた(
図2D)。全体的な肉眼的スコアリング(ICRS score)ではDefect群(mean±SD:1.70±1.06,P<0.01)、UPAL群(5.1±1.45,P<0.05)とUPAL+MSC群(5.5±1.35,P<0.05)に比べて、UPAL+BMAC群(8.00±1.83)で有意に高値であった(
図2E)。
【0142】
術後16 週においてDefect群の欠損部はやや平坦になったが、表面又は周囲融合部に大きな亀裂や陥凹が見える不透明な組織で修復された(
図2F)。UPAL群とUPAL+MSC群の欠損部はほぼ平坦になり、表面に小亀裂や小陥凹が見える半透明な組織で完全に覆われていた(
図2G,H)。UPAL+BMAC群では欠損部がほぼ周囲正常軟骨と同様な形状になり、表面に平滑透明な硝子軟骨様組織で完全に覆われていた(
図2I)。全体的な肉眼的スコアリング(ICRS score)では4週の同じようにUPAL+BMAC群(11.20±0.63)はDefect群(4.30±1.42,p<0.01)、UPAL群(7.90±1.29,p<0.01)とUPAL+MSC群(9.20±1.03,p<0.01)に比べて、有意に高値であった(
図2J)。
【0143】
2.2.組織学的評価の結果
術後4週において、Defect群では欠損部に線維性瘢痕組織がみられていた(
図3A)。UPAL群とUPAL+MSC群では欠損部に部分的にSafranin-Oに染色された硝子様軟骨組織が見られた(
図3B,C)。一方で、UPAL+BMAC群では欠損部に周囲よりやや厚さのあるSafranin-Oの染色性が良好な硝子様軟骨組織が見られた(
図3D)。拡大像(×100)所見において、Defect群では修復組織内に中等度な炎症細胞浸潤を認めたことに比べ、UPAL群、UPAL+MSC群、UPAL+BMAC群では、炎症初見をほぼ認めなかった(
図3E~H)。Niederauer scoreでは、UPAL+BMAC群(16.70±1.83)はDefect群(4.70±1.89,P<0.001),UPAL群(10.0±3.33,P<0.01)とUPAL+MSC群(12.2±2.90,P<0.05)に比べ、有意に高値であった(
図3I)。
【0144】
次に術後16週においては、Defect群では術後4週より修復組織に硝子様軟骨組織は見られたが、半分以上はSafranin-Oに染色されない線維組織であり、欠損部周囲の正常軟骨部のSafranin-O染色も減少しており変性が示唆された(
図3J)。UPAL群とUPAL+MSC群の修復組織では半分~半分以上にSafranin-Oに染色された硝子様軟骨が占めていた(
図3K,L)。それに対して、UPAL+BMAC群では欠損部周囲正常軟骨とほぼ同じ性状と厚さであるSafranin-Oに強く染色された硝子様軟骨組織で覆われていた(
図3M)。また拡大像(×100)所見において、全群では、明らかな炎症所見を認めなかった。Defect群、UPAL群、UPAL+MSC群の修復組織では中等度~軽度的に高密度な紡錘形細胞や細胞クラスターの形成が見られたことに比べ、UPAL+BMAC群では正常密度の類円形細胞で満たされて、細胞クラスターはほぼ見られなかった。そのほか、軟骨下骨の修復において、Defect群ではほぼ見られていなかったが、UPAL群及びUPAL+MSC群では、不十分な軟骨下骨の修復や非常に不規則な軟骨/軟骨下骨の境界面が見られており、UPAL+BMAC群では、広範囲的かつ軟骨/軟骨下骨の境界面が規則的な軟骨下骨の修復が見られていた(
図3N~Q)。Niederauer scoreでは、UPAL+BMAC群(24.40±1.65)はDefect群(9.00±3.65,P<0.001),UPAL群(14.20±3.88,P<0.01)及びUPAL+MSC群(16.30±3.62,P<0.01)に比べ、有意に高値であった(
図3R)。組織学的スコアの項目別結果を示した(表5)。
【0145】
【0146】
2.3.コラーゲン配向性の評価結果
術後16週において、各群の修復組織に対して前述の通りにPLM定性scoreを用いて評価した。Defect群では深層の垂直配列とほかの2層配列はほとんど見られなかった(
図4E,I,M)。UPAL群とUPAL+MSC群では、深層の垂直配列は部分的に見られ、ほかの2層も少しみられたが、各層の厚さは不規則的に見られた(
図4F,J,Nおよび
図4G,K,O)。その一方で、UPAL+BMAC群では、各層の厚さがやや規則的である垂直配列の深層と移行帯及び水平配列の表層が見られた(
図4H,L,P)。スコアリングでは、UPAL+BMAC群(2.00±0.82)はDefect群(0.20±0.63,P<0.01)とUPAL群(0.70±0.67,P<0.01)に比べて、有意に高値であった。UPAL+MSC群(1.40±1.07,P=0.73)と有意差がなかった(
図4Q)。
【0147】
2.4.軟骨下骨修復量の結果
術後4週において、軟骨下骨の修復はDefect群ではほぼ見られず、UPAL群とUPAL+MSC群では僅かまたは部分的しか見られなかった。UPAL+BMAC群では少し亀裂が残る程度に大部分に修復されていた(
図5A~D)。Micro-CTを用いて、定量的に測定した軟骨下骨の修復量では、UPAL+BMAC群(6.28±1.98mm
3)はDefect群(2.68±0.89mm
3,P<0.01)とUPAL群(3.59±0.88mm
3,P<0.05)に比べ有意に高かった。UPAL+MSC群(4.59±1.56mm
3,P=0.387)間において明らかな差は認めなかった。全群の軟骨下骨の修復量は正常群(
図5E)と比べ、明らかな差を認めた(正常群:18.17±0.17mm
3,全群P<0.01)(
図5F)。
【0148】
術後16週において、軟骨下骨の修復はDefect群とUPAL群では大欠損または中等欠損が残る部分的な修復は認めた。UPAL+MSC群では軟骨下骨は小亀裂が残る程度の修復は認めた。それらに対して、UPAL+BMAC群の軟骨下骨はほとんど修復され、周囲の軟骨下骨との連続も良好な再生骨構造を認めており骨癒合していると考えられた。全ての検体において、骨の過剰形成は認めなかった(
図5G~J)。軟骨下骨の修復量の定量測定では、4週時点と同様にUPAL+BMAC群(17.28±0.77mm
3)はDefect群(11.37±1.20mm
3,P<0.01)とUPAL群(12.92±1.50mm
3,P<0.01)に比べ有意に高かった。UPAL+MSC群(15.24±2.67mm
3,P=0.579)より、平均骨量の増強傾向が認めたが、両群間において明らかな有意差は認めなかった。また、正常群(18.17±0.17mm
3)と比べ、Defect群(P<0.01)、UPAL群(P<0.01)、UPAL+MSC群(P<0.05)では4週結果と同様に有意に低かったが、UPAL+BMAC group(17.28±0.77mm
3,P=0.12)と正常群の群間有意差が消失した(
図5K)。
【0149】
2.5.力学特性の評価結果
術後16週において、修復組織の力学特性を評価するため、押し込み試験機を用いて、力学試験を行った。各群の修復組織における代表的な圧入-変形曲線を示した(
図6C)。各々の剛性値(stiffness:N/mm)はこの曲線においてその傾きが最初に一定になった領域(0-0.08mm)から算出し、前述のように標準化した(Defect群 R
2=0.986±0.018、UPAL群 R
2=0.995±0.004、UPAL+MSC群 R
2=0.996±0.001、UPAL+BMAC群 R
2=0.987±0.018)。標準化された剛性値(stiffness%)ではDefect群(20.70%±3.71%,P<0.05)、UPAL群(34.19%±4.63%,P<0.05)、UPAL+MSC群(42.89%±7.43%,P<0.05)に比べてUPAL+BMAC群(70.69%±5.75%)で有意に高値であった(
図6D)。
【0150】
3.考察
肉眼的、組織学的、力学的な観点では、UPAL単独群、UPALゲルとMSCs併用群に比べ、UPALゲルとBMACの併用群の修復組織は有意に改善されていた。これらの結果からUPALゲルとBMACの相乗効果により、併用移植した場合はより良好な硝子様軟骨及び軟骨下骨による修復が促進されることが示唆された。特にUPALゲルとBMACの併用群における術後16週の軟骨下骨量は、正常群と差がみられない程度まで修復した。軟骨下骨は一般的に治療効果が得られにくいと言われているが、このような効果が得られたことは予想外であった。
【0151】
この結果は、UPALゲルとBMACの併用移植治療法では、大サイズの骨軟骨欠損に対して良好な治療効果がある可能性を示している。
【0152】
局所に注入が可能な生物材料であるUPALゲルと濃縮骨髄液とを併用することにより、大きな関節軟骨または骨軟骨損傷に対して有効な、一期的治療となり得る。また、本治療法は、本邦では重度の軟骨あるいは骨軟骨欠損に対する主な治療法である自家骨軟骨細胞移植術(ACI)または自家骨軟骨柱移植術(AOT)の代わりとして、関節鏡視下に一期的手術が可能な新たな治療法となりうる。