(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】探索装置および探索方法並びに半導体装置製造システム
(51)【国際特許分類】
G06N 20/00 20190101AFI20241220BHJP
G06N 3/096 20230101ALI20241220BHJP
G06N 3/045 20230101ALI20241220BHJP
【FI】
G06N20/00
G06N3/096
G06N3/045
(21)【出願番号】P 2023530599
(86)(22)【出願日】2022-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2022020930
(87)【国際公開番号】W WO2023223535
(87)【国際公開日】2023-11-23
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中山 丈嗣
(72)【発明者】
【氏名】中田 百科
(72)【発明者】
【氏名】大森 健史
【審査官】大倉 崚吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-182182(JP,A)
【文献】特開2021-182329(JP,A)
【文献】特開2021-135812(JP,A)
【文献】特開2016-191966(JP,A)
【文献】特表2019-508789(JP,A)
【文献】吉田康久 ほか,"分野に依存しない単語極性を考慮した評判分析のための転移学習モデル",言語処理学会 第17回年次大会 発表論文集,言語処理学会,2011年,p. 127-130
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 3/00-99/00
H01L 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体製造装置の所望の処理結果に対応する製造条件が学習モデルを用いて予測されることにより前記所望の処理結果に対応する製造条件が探索される探索装置において、
第一のデータと第二のデータを用いた転移学習により学習モデルが生成され、
前記生成された学習モデルにより所定の判定基準が満たされない場合、前記第一のデータと、追加された前記第二のデータを用いた転移学習により学習モデルが再生成され
、
前記学習モデルは、参照モデルを内包し、
前記参照モデルは、前記第二のデータの説明変数および前記第二のデータの目的変数を基に生成されたモデルであることを特徴とする探索装置。
【請求項2】
請求項1に記載の探索装置において、
前記第一のデータは、前記半導体製造装置の製造条件と、前記半導体製造装置の製造条件による処理結果の組合せデータを含み、
前記第二のデータは、シミュレーションにより得られたデータを含むことを特徴とする探索装置。
【請求項3】
請求項1に記載の探索装置において、
前記学習モデルの転移学習が行われる時、前記参照モデルの重みが固定される、または前記参照モデルの重みが初期値として再学習されることを特徴とする探索装置。
【請求項4】
請求項
1に記載の探索装置において、
PFIまたはSHAPを含む機械学習モデル解釈手法による前記参照モデルの解釈結果がユーザーインターフェースに表示されることを特徴とする探索装置。
【請求項5】
請求項1に記載の探索装置において、
前記第一のデータと前記第二のデータは、説明変数の種類もしくは説明変数の個数について異なる、または包含関係にあることを特徴とする探索装置。
【請求項6】
請求項1に記載の探索装置において、
前記第二のデータにおける、前記転移学習に用いられるデータ群のデータ空間の位置および分散がユーザーインターフェースに表示されることを特徴とする探索装置。
【請求項7】
半導体製造装置がネットワークを介して接続され、半導体製造装置の所望の処理結果に対応する製造条件を学習モデルを用いて予測するためのアプリケーションが実装されたプラットホームを備える半導体装置製造システムにおいて、
第一のデータと第二のデータを用いた転移学習により学習モデルが生成されるステップと、
前記生成された学習モデルにより所定の判定基準が満たされない場合、前記第一のデータと、追加された前記第二のデータを用いた転移学習により学習モデルが再生成されるステップとが前記アプリケーションにより実行され
、
前記学習モデルは、参照モデルを内包し、
前記参照モデルは、前記第二のデータの説明変数および前記第二のデータの目的変数を基に生成されたモデルであることを特徴とする半導体装置製造システム。
【請求項8】
半導体製造装置の所望の処理結果に対応する製造条件を学習モデルを用いて予測することにより前記所望の処理結果に対応する製造条件を探索する探索方法において、
第一のデータと第二のデータを用いた転移学習により学習モデルを生成する工程と、
前記生成された学習モデルにより所定の判定基準が満たされない場合、前記第一のデータと、追加された前記第二のデータを用いた転移学習により学習モデルを再生成する工程とを有
し、
前記学習モデルは、参照モデルを内包し、
前記参照モデルは、前記第二のデータの説明変数および前記第二のデータの目的変数を基に生成されたモデルであることを特徴とする探索方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望の処理結果を実現する製造条件を探索する探索装置および探索方法並びに半導体装置製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造では所望の処理結果を得るため適切な処理条件が設定される必要がある。継続的な半導体デバイスの微細化・処理制御パラメータ増加に伴い、今後所望(機差抑制or高精度)の処理結果を得るための処理条件は機械学習により導出されると考えられる。ここで処理条件は、処理装置の少なくとも1つ以上の制御パラメータの項目からなる。
【0003】
近年、新材料の導入やデバイス構造の複雑化に伴う処理装置の制御範囲の拡大によって、処理条件に新たな項目が多数追加されている。処理装置の性能を十分に引き出すためには処理条件の最適化が不可欠である。このため、プロセス開発者が求める良好な処理結果を実現する処理条件を機械学習により導出する手法が注目されている。ここで処理結果は、処理が実施された試料の形状や性質などを示す、少なくとも1つ以上の項目からなる。以下、この良好な処理結果を「目標処理結果」と呼ぶ。
【0004】
目標処理結果について、シリコン(Si)ウェハ11上の被エッチ材に対するエッチングプロセスの例を用いて説明する。
図1にウェハ全体およびエッチングプロセス後におけるSiウェハ11表面の中央付近12およびエッジ付近13における二カ所の断面図を示す。Siウェハ11の表面に形成された被エッチ材14をエッチングによって取り除き、破線で示したエッチング前表面16の高さとの差分を計測することで、その部位に於けるエッチング量15を見積もることが出来る。
【0005】
エッチング量15の面内分布データやエッチングに要した時間から、エッチング速度やエッチング速度の面内均一性などを算出できる。今、エッチング速度が処理結果の項目であるとすると、目標処理結果は、「50nm/minのエッチング速度」、「面内ばらつき5%以内で20nmのエッチング量」というように所定の値または所定の値の範囲として定義される。このような目標処理結果を実現する処理条件を「目標処理条件」と呼ぶ。
【0006】
目標処理条件を機械学習により導出する手法は、一般的には以下の手順で実施される。まず、目標処理結果を設定する。一方、複数の基礎処理条件を決定して試料に対して基礎処理条件に基づく処理を実行し、基礎処理条件とその処理結果からなる処理データを取得して、初期処理データベースを構築する。初期処理データベースに基づく機械学習により、基礎処理条件とその処理結果との間の相関関係を記述するモデルを推定する。以下、このようなモデルについて、処理条件を入力x、その処理結果を出力yと見立てると、入出力関係y=f(x)を記述するモデルであるので、入出力モデルと呼ぶ。推定した入出力モデルに基づき、目標処理結果を満たす処理条件(「予測処理条件」と呼ぶ)を予測する。
【0007】
続いて、得られた予測処理条件を使用して検証実験を実施する。すなわち、予測処理条件に基づく処理を実行し、得られた処理結果が目標処理結果であるか否かを判別する。目標処理結果が得られた場合は予測処理条件を目標処理条件として、検証実験を終える。これに対して、目標処理結果が得られなかった場合は、検証実験で得られた処理データをデータベースに追加して入出力モデルを更新し、目標処理結果が得られるまで処理条件の予測と検証実験とを繰り返す。
【0008】
このような目標処理条件の導出法では、目標処理条件の予測に使用する入出力モデルの精度が重要になる。
図2は、処理条件と処理結果の相関関係(入出力関係)を示すグラフである。ここで、破線21が真の入出力関係であるのに対し、実線22、一点鎖線23はそれぞれ入出力モデルA、入出力モデルBの表す入出力関係であるとする。入出力モデルの精度は、破線で示した真の入出力関係との類似度として評価できる。この場合、入出力モデルA(実線22)の入出力関係は真の入出力関係(破線21)と類似しており、入出力モデルAの精度は高い。一方、入出力モデルB(一点鎖線23)の入出力関係は真の入出力関係(破線21)と乖離しており、入出力モデルBの精度は低い。
【0009】
精度の低い入出力モデルに基づいて得られる予測処理条件による処理結果は、目標処理結果と乖離した結果となる可能性が高い。したがって目標処理条件が得られるまでの検証実験の回数が増加する。これによりプロセス開発期間、及び実験費や人件費などのプロセス開発コストが増大する。このような事態を避けるためには、入出力モデルの精度を向上させる必要がある。
【0010】
入出力モデルの精度を向上させるため、あらかじめ大規模な初期処理データベースを構築しておく方法が考えられる。しかし、この方法では、初期処理データベースの構築のために多数回処理を繰り返すことが必要になり、プロセス開発期間及びプロセス開発コストを削減する根本的な解決とはならない。
【0011】
初期処理データベースを構築するための処理データの取得数を抑えつつ、入出力モデルの精度を向上させる手法として、処理条件を導出しようとするプロセス(「対象プロセス」と呼ぶ)とは異なるプロセスで取得した処理データを活用する手法がある。具体的には、対象プロセスとは異なるプロセス(「参照プロセス」と呼ぶ)で取得した処理データ(「参照処理データ」と呼ぶ)のデータベース(「参照処理データベース」と呼ぶ)に基づき、参照プロセスにおける入出力関係を記述する入出力モデル(「参照入出力モデル」と呼ぶ)を推定し、推定された参照入出力モデルを対象プロセスでの予測のために参照する。
【0012】
特許文献1には、「試料に対して行われる処理の制御パラメータを決定する計算機であって、処理が行われた、製造に用いられる第1試料を計測することによって得られる第1処理出力と、処理が行われた、第1試料より計測が容易な第2試料を計測することによって得られる第2処理出力との間の相関関係を示す第1モデル、及び第2試料に対して行われた処理の制御パラメータと、第2処理出力との間の相関関係を示す第2モデルを格納する記憶部と、目標となる前記第1処理出力である目標処理出力、第1モデル、及び第2モデルに基づいて、第1試料に対して行われる処理の目標制御パラメータを算出する解析部と、を備える」ことで、「プロセス開発にかかるコストを抑えて、最適な制御パラメータを算出できる」ことが記載されている。また特許文献1では、第2試料である代用試料の処理出力の変数をAとし、第1試料である実試料の処理出力の変数をBとしたとき、「Bが大きいほどAも大きいという定性的な実試料-代用試料関係モデル」を第1モデルとして使用することが実施例として記載されている。
【0013】
特許文献2には、「対象プロセスの処理条件を探索する処理条件探索装置であって、前記対象プロセスにおける目標処理結果を設定する目標処理結果設定部と、前記対象プロセスにおける処理条件と処理結果との組み合わせである対象処理データを格納する処理データベースと、参照プロセスにおける処理条件と処理結果との組み合わせである参照処理データを格納する参照処理データベースとを含む学習データベースと、前記対象処理データを用いて、前記対象処理データの処理条件を対象説明変数、処理結果を対象目的変数とし、前記対象説明変数と前記対象目的変数との間の入出力モデルである前記対象プロセスの入出力モデルを推定する教師あり学習実行部と、前記参照処理データの処理条件を参照説明変数、処理結果を参照目的変数とし、前記参照説明変数と前記参照目的変数との間の参照入出力モデル及び前記対象処理データを用いて前記対象プロセスの入出力モデルを推定する転移学習実行部と、前記教師あり学習実行部と前記転移学習実行部のいずれによって前記対象プロセスの入出力モデルを推定するかを判断する転移可否判断部と、前記対象プロセスの入出力モデルを用いて、前記目標処理結果を実現する処理条件を予測する処理条件予測部とを有する」ことで、「プロセス開発期間やプロセス開発コストを抑えつつ、目標処理条件を探索する」ことが記載されている。
【0014】
また特許文献2では、参照処理データとして処理装置で実際に処理して得られたデータではなく、対象プロセスについてのシミュレーションによって取得したシミュレーション結果とシミュレーション条件の組み合わせを参照処理データベースとして使用することが実施例として記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2019-47100号公報
【文献】特開2021-182182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特許文献1に記載されている処理の制御パラメータの決定方法においては、第2試料の処理データを参照処理データとして活用し、参照入出力モデルを推定する。参照入出力モデルを参照することで、第1試料の処理条件を決定する。このように参照入出力モデルを参照して、対象プロセスでの処理を予測する手法が効果的であるには、いくつかの条件が満たされる必要があると考えられる。
【0017】
図3Aは、対象プロセスについて複数の基礎処理条件を設定して取得した処理結果からなる処理データに基づき、推定した入出力モデルの入出力関係(実線30)と対象プロセスの真の入出力関係(破線20)とを示したグラフである。この例では、設定した基礎処理条件が少なく(黒点が処理データを表す、以下
図3B,Cも同様である)、入出力モデルの精度は低い。
【0018】
図3Bは、参照プロセスについて参照処理データベースに格納された参照処理データに基づき、推定した参照入出力モデルの入出力関係(実線31)と参照プロセスの真の入出力関係(破線21)とを示したグラフである。この例では、参照処理データベースが大規模であるため、参照入出力モデルの精度は高い。
【0019】
図3Cは、
図3Bに示した参照入出力モデルを参照する転移学習を行って推定した入出力モデルの入出力関係(実線32)と対象プロセスの真の入出力関係(破線20)とを示したグラフである。転移学習に用いた対象プロセスの処理データは
図3Aと同じであるが、対象プロセスの真の入出力関係(破線20)と参照プロセスの真の入出力関係(破線21)とが類似しているため、転移学習を行って推定した入出力モデルの精度は、
図3Aに示した入出力モデルの精度よりも向上している。
【0020】
ここで真の入出力関係fとgとが類似しているとは、それらが概ね一致する場合だけでなく、入出力関係が定数や係数の差を除いて概ね一致する場合も包含する。すなわち、f≒gや、f≒ag+bが成り立っている場合である。例えば、対象プロセスと参照プロセスとがともに同じ試料に対するエッチング処理であって、処理時間だけがそれぞれ10秒、100秒と異なっているような場合、処理結果にほぼ10倍の違いがあるとしても、基本的な関数特性は共通である。すなわち、真の入出力関係についてf≒10gが成立し、転移学習の適用効果が期待される。
【0021】
このように、参照プロセスの参照処理データを活用する手法(転移学習)は、例えば、対象プロセスと参照プロセスの真の入出力関係が類似している、あるいは対象処理データのみから推定される入出力モデルに比べ、参照入出力モデルが高精度である、といった場合に効果的である一方、これらの条件が満たされない場合には必ずしも効果的ではないと考えられる。
【0022】
半導体プロセスでは試料、処理装置、処理プロセスの種類が多岐に亘るため、一般に参照処理データの候補は数多く存在する。しかしながら、参照処理データの選択によっては、期待する程、入出力モデルの精度向上が得られない場合がある。
【0023】
例えば、対象プロセスと参照プロセスとが同じエッチングプロセスで、かついずれのプロセスでも処理結果の項目はエッチング量であったとしても、加工対象とする試料の被エッチ膜の材料が異なる場合は、処理条件に対するエッチングレートの特性が著しく異なる。このため真の入出力関係がそもそも類似していないおそれがあろう。
【0024】
さらに、参照入出力モデルを推定するために真の入出力関係が類似している参照処理データを選択していたとしても、参照処理データが著しく少なく、十分精度の高い参照入出力モデルを得ることができないものであれば、参照入出力モデルを参照することによる精度向上が得られないこともありうる。
【0025】
このような不適切な参照処理データを活用してしまうと予測対象の入出力モデルの精度の向上は見込めず、プロセス開発期間及びプロセス開発コストの増大につながってしまう可能性がある。
【0026】
また、一般に機械学習では既知の入力データと出力データをもとにモデルが学習を行うため、一度学習を終えたモデルを転移学習などによって再利用する際、モデルに入力する入力データの説明変数は学習時に入力したものと値は異なっても同等の説明変数が入力される必要がある。例えば、「温度」「圧力」「処理時間」の3つの入力条件によって「エッチング量」を予測する学習済みモデルがあった場合、このモデルに「電力」を入力して「エッチング量」を予測することは出来ない。また「温度」の抜けたデータを与えることも出来ず、何かしらの値を入力しなければならない。
【0027】
特許文献2では転移学習実行部が、参照入出力モデル及び対象処理データを用いて学習を行うとしている。この場合、基本的には参照入出力モデルの入力と対象処理データの説明変数は対応している場合が多いと考えられるが、前記「参照処理データとして処理装置で実際に処理して得られたデータではなく、対象プロセスについてのシミュレーションによって取得したシミュレーション結果とシミュレーション条件の組み合わせを参照処理データベースとして使用する場合」の転移学習では、常に参照入出力モデルの入力と対象処理データの説明変数を揃えることが出来るとは限らない。
【0028】
例えば、実際の処理条件では「温度」「圧力」「処理時間」を実験条件として入力しているが、それを物理シミュレータ―で模擬した時に温度の項はシミュレーションモデルの都合で取り扱うことが出来ない場合等が挙げられる。他にも、マイクロ秒以下での時間スケールでの時間発展を取り扱うシミュレーションに周期数ミリ秒以上のパルスに対する応答の物理を組み込む場合や、処理日時等のメタデータを取り扱いたい場合などシミュレーターで扱うのが容易でない場合は多数考えられる。更に、逆にシミュレーションに用いた計算条件など、参照処理データに影響を及ぼすが対象処理データの説明変数には含まれないパラメータが存在する場合があることも想定される。
【0029】
上記入力データ形式の違いは、前記の様に対象処理データが実処理結果、参照処理データがシミュレーション結果の場合だけでなく、逆に対象処理データがシミュレーション結果で参照処理データが実処理結果である場合にも同様であり、更にいえば、どちらも実処理結果であったとしても、処理装置の僅かなシステム状態変更などにより、片方で扱えたパラメータがもう片方の装置では扱えない場合などでも起こり得る。
【0030】
この様に説明変数が異なる2つのデータを用いて転移学習を行いたい場合、片方に無い説明変数を削除したり代わりに何かの一定値・予測値を入れる等データの前処理を行って対応するか、ニューラルネットワークモデルにおけるモデルのネットワーク構造を変更して対応することが出来る。
【0031】
前者の説明変数を削除したり一定値・予測値を入れる方法では、データの処理が必要であり、削除・一定値を入力された説明変数は考慮出来ないモデルとなってしまい精度が低下する。後者のネットワーク構造の変更は、その方法自体に自由度があると同時に、過学習や負の転移といった問題を避ける必要があり、機械学習に不慣れなユーザーが自力で行うのは困難である。また過学習や負の転移といった問題を避けるため、多量の参照処理データベースの中から目標処理条件を探索するために適切なデータを選定するということも困難である。
【0032】
本発明は、上記した従来技術の課題を解決して、参照処理データを継続的に自動蓄積すると同時に、ユーザーは機械学習の専門的な知識を必要とすることなく、蓄積された多くの参照処理データの中から目標処理条件を探索するために最適な参照処理データを活用するための製造条件を探索する探索装置および探索方法並びに半導体装置製造システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0033】
上記した課題を解決するために、本発明では、半導体製造装置の所望の処理結果に対応する製造条件が学習モデルを用いて予測されることにより所望の処理結果に対応する製造条件が探索される探索装置において、第一のデータと第二のデータを用いた転移学習により学習モデルが生成され、生成された学習モデルにより所定の判定基準が満たされない場合、第一のデータと、追加された第二のデータを用いた転移学習により学習モデルが再生成され、学習モデルは、参照モデルを内包し、参照モデルは、第二のデータの説明変数および第二のデータの目的変数を基に生成されたモデルであるように構成した。
【0034】
また、上記した課題を解決するために、本発明では、半導体製造装置の所望の処理結果に対応する製造条件を学習モデルを用いて予測することにより前記所望の処理結果に対応する製造条件を探索する探索方法において、第一のデータと第二のデータを用いた転移学習により学習モデルを生成する工程と、生成された学習モデルにより所定の判定基準が満たされない場合、第一のデータと、追加された第二のデータを用いた転移学習により学習モデルを再生成する工程とを有し、学習モデルは、参照モデルを内包し、参照モデルは、第二のデータの説明変数および第二のデータの目的変数を基に生成されたモデルであるようにした。
【0035】
また、上記した課題を解決するために、本発明では、半導体製造装置がネットワークを介して接続され、半導体製造装置の所望の処理結果に対応する製造条件を学習モデルを用いて予測するためのアプリケーションが実装されたプラットホームを備える半導体装置製造システムにおいて、第一のデータと第二のデータを用いた転移学習により学習モデルが生成されるステップと、生成された学習モデルにより所定の判定基準が満たされない場合、第一のデータと、追加された第二のデータを用いた転移学習により学習モデルが再生成されるステップとがアプリケーションにより実行され、学習モデルは、参照モデルを内包し、参照モデルは、第二のデータの説明変数および第二のデータの目的変数を基に生成されたモデルであるように構成した。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、プロセス開発期間やプロセス開発コストを抑えつつ、目標処理条件を探索することができる。また、対象プロセスの実処理を行っていない期間においても、参照処理データ取得自動実行部により継続的な予測精度向上を自動で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】ウェハの斜視図とウェハ中心付近および端付近における表面の断面の拡大図である。
【
図2】本発明の背景を説明する図であり、処理条件と処理結果の相関関係(入出力関係)を示すグラフである。
【
図3A】本発明の課題を説明するための処理条件(入力)と処理結果(出力)の関係を示すグラフであり、設定した基礎処理条件が少なく入出力モデルの精度が低い場合の推定した入出力モデルの入出力関係と、対象プロセスの真の入出力関係を示す。
【
図3B】本発明の課題を説明するための処理条件(入力)と処理結果(出力)の関係を示すグラフであり、参照処理データに基づいて推定した参照入出力モデルの入出力関係と参照プロセスの真の入出力関係を示す。
【
図3C】本発明の課題を説明するための処理条件(入力)と処理結果(出力)の関係を示すグラフであり、参照入力モデルを参照する転移学習を行って推定した入出力モデルの入出力関係と対象プロセスの真の入出力関係を示す。
【
図4】本発明の実施例1に係る処理条件探索システムの概略の構成を示すブロック図である。
【
図5】本発明の実施例1に係るニューラルネットワークを用いた転移学習モデルの概念を示すブロック図である。
【
図6】本発明の実施例1に係るモデル説明部がユーザーに提供するGUI(ROIデータ選択マネージャ)の一例を示す画面の正面図である。
【
図7】本発明の実施例1に係る転移学習モデル評価部45がユーザーに提供するGUI(モデル最適化終了判定基準設定)の一例示す画面の正面図である。
【
図8】本発明の実施例1に係る操作開始から目標処理条件の予測までを示すフローチャートである。
【
図9】本発明の実施例2に係る処理条件探索の操作が無い期間に計算機が自動で参照プロセスデータベースを拡張する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、半導体製造装置の所望の製造条件を機械学習により探索する探索システムにおいて、物理シミュレータによるデータの転移学習により構築されたモデルを用いて半導体製造装置の所望の製造条件を予測するようにしたものである。
【0039】
一般に物理シミュレーションでは実処理条件に於ける全てのパラメータを考慮し切れず、ニューラルネットを用いた従来の機械学習では特徴量やラベルの異なるタスクのデータを単一のモデルで学習出来なかったものを、本発明では、転移学習を用いたネットワーク構造によって解決するようにした。
【0040】
すなわち、本発明では、負の転移を起こさないように予めモデルの特徴を"モデル説明部"によって設定し、転移学習の結果得られたモデルを"転移学習モデル評価部"によって評価し、モデル評価の結果、評価値が閾値を超えていなければ、転移学習モデルの精度を高めるために必要な条件のシミュレーションデータが付属の計算機("参照プロセスデータ取得自動実行部")から自動生成され、再び転移学習が行われるようにした。
【0041】
この結果、ユーザーが設定した目標処理結果を予測するために最適な転移学習モデルが常に自動で構築・更新され、実処理よりも低コストなシミュレーションによる多量な教師データを活かした、機差/部品差低減のためのレシピ最適化期間の短縮・削減を図ることを可能にしたものである。
【0042】
以下、本発明の実施例を、図面を用いて説明する。ただし、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。また、本明細書における図面等において示す各構成の位置、大きさ、及び形状等は、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、及び形状等を表していない場合がある。したがって、本発明は、図面等に開示された位置、大きさ、及び形状等に限定されない。
【実施例1】
【0043】
本実施例では、プロセス開発期間やプロセス開発コストを抑えつつ、目標処理条件を探索できるようにするために、対象プロセスの処理条件を探索する処理条件探索装置を、対象プロセスにおける目標処理結果を設定する目標処理結果設定部と、対象プロセスにおける処理条件と処理結果との組み合わせである対象処理データを格納する対象処理データベースと、参照プロセスにおける処理条件と処理結果との組み合わせである参照処理データを格納する参照処理データベースとを含む学習データベースと、参照処理データを用いて、処理条件を参照説明変数、処理結果を参照目的変数とし、参照説明変数と参照目的変数との間の参照入出力モデルの特徴を説明するモデル説明部と、対象処理データを用いて、対象処理データの処理条件を対象説明変数、処理結果を対象目的変数とし、対象説明変数と対象目的変数及び参照入出力モデルを用いて、対象プロセスの入出力モデルを推定する転移学習実行部と、この転移学習実行部により推定された対象プロセス入出力のモデルである転移学習モデルを評価する転移学習モデル評価部と、転移学習モデル評価部の評価に基づき、新たな参照処理データを前記参照処理データベースに追加する参照処理データ取得自動実行部と、転移学習モデルを用いて目標処理結果を実現する処理条件を予測する処理条件予測部とを備えて構成した例について説明する。
【0044】
図4は実施例1の処理条件探索システム40の構成例を示すブロック図である。
処理条件探索システム40は、対象プロセスのデータや参照プロセスのデータを保存するデータベース部410と、データベース部410に保存されたデータを用いて転移学習を行い作成した学習モデルを評価する転移学習実行・評価部420と、転移学習実行・評価部420で評価した転移学習モデルが目標をクリアしていない場合に参照プロセスデータを取得する参照プロセスデータ取得自動実行部46、処理条件予測部47、目標処理結果設定部48,出力部49を備えている。
【0045】
データベース部410は、対象プロセスデータベース41と参照プロセスデータベース42とを備えて構成され、転移学習実行・評価部420は、モデル説明部43、転移学習実行部44、転移学習モデル評価部45とを備えている。それぞれ構成要素は直接またはネットワークを介して互いに接続される。
【0046】
対象プロセスデータベース41には対象処理装置における過去の処理条件Xpと処理結果Ypの組み合わせである、対象処理結果データが保存されている。ここでの処理装置が実施する処理の種別及び内容は限定されない。処理装置には、例えばリソグラフィ装置、製膜装置、パターン加工装置、イオン注入装置、加熱装置、洗浄装置などが含まれる。
【0047】
リソグラフィ装置には、露光装置、電子線描画装置、及びX線描画装置などが含まれる。製膜装置には、CVD、PVD、蒸着装置、スパッタリング装置、熱酸化装置などが含まれる。パターン加工装置には、ウェットエッチング装置、ドライエッチング装置、電子ビーム加工装置、レーザ加工装置などが含まれる。イオン注入装置には、プラズマドーピング装置、イオンビームドーピング装置などが含まれる。加熱装置には、抵抗加熱装置、ランプ加熱装置、レーザ加熱装置などが含まれる。洗浄装置には、液体洗浄装置、超音波洗浄装置などが含まれる。
【0048】
実施例1では処理装置として「ドライエッチング装置」、処理条件として「温度」「圧力」「ガスAの流量」「ガスBの流量」「電力」「処理時間」の項目と対応する実際に実施した値、処理結果として「エッチング量」を仮定して説明する。処理条件Xpの項目である「温度」「圧力」「ガスAの流量」「ガスBの流量」「投入電力」「処理時間」は説明変数と呼ばれ、処理結果Ypの項目である「エッチング量」は目的変数と呼ばれる。
【0049】
参照プロセスデータベース42には、対象プロセスを模擬したシミュレーションにおける、シミュレーション条件Xsとシミュレーション結果Ysの組み合わせである、参照処理結果データが保存されている。ここでシミュレーションの種類や内容は限定されない。実施例1ではシミュレーション内容としては「有限要素法を用いたプラズマ中の電磁界計算」、シミュレーション条件として「圧力」「ガスAの流量」「ガスBの流量」「電力」の項目と対応する実際に実施した値、シミュレーション結果として「Aイオン量」「Bイオン量」を仮定して説明するが、参照プロセスデータベースにはより多くの説明変数や目的変数が入っている。
【0050】
この様に対象プロセスデータベース41の処理条件Xpと参照プロセスデータベース42のシミュレーション条件Xsの説明変数とその数は一致している必要はなく、また処理結果Ypとシミュレーション結果Ysの目的変数とその数も一致している必要はない。実施例1ではXsの説明変数の項目はXpの説明変数の部分集合となっている。この様な場合の典型的なニューラルネットワークを用いた転移学習モデル50を
図5に示した。
【0051】
図5に示した例においては、転移学習モデル50に破線で囲まれたような参照モデル51が内包されており、転移学習モデル50の学習においてはこの参照モデル51の部分の重みを固定する、もしくは初期値として再学習(ファインチューニング)することが出来る。
【0052】
図5において参照モデル51の出力部はAイオン量(A
+)511とBイオン量(B
+)512としてあるが、これはユーザーが最終的に予測精度を上げたい対象プロセスの目的変数(ここでは「エッチング量」)52に合わせ、処理装置を取り扱うユーザーの知見に基づき種類や数を自由に変更することが出来る。
【0053】
例えば、この対象プロセスにおいては、「電力を使ってガスAとガスBからAイオンとBイオンが生成され、これらイオンがウェハをエッチングする」という現象をユーザーが想定しているため、出力に「Aイオン量」「Bイオン量」を設定することで「エッチング量」を精度良く予測することが出来ると考える。
【0054】
実施例1では参照プロセスデータがシミュレーションに拠るものであるため、安全上の装置の制約・インターロック、コスト条件等を気にせず比較的自由に説明変数の値を振ることが可能である(例えば装置の耐圧性能を超えた高電圧条件や、コストを無視した冷却機能による低温条件など)。このため、参照プロセスデータベース42には様々なパラメータを網羅的に振った多くのデータが含まれ得る。
【0055】
参照プロセスデータベース42に蓄積された全ての参照プロセスデータを用いて転移学習モデルを構築することも可能であるが、ここではユーザーが求める対象プロセスにより特化した、より精度の高いモデルを利用することを考える。転移学習に用いるデータ群は、参照プロセスデータベース42に蓄積された参照プロセスデータ群の中から適切な判断に基づいて取捨選択することで、より高い予測精度の転移学習モデルを構築することができる。
【0056】
図6はモデル説明部43がユーザーに提供するGUI(ROIデータ選択マネージャ)430の例である。このGUI430は、出力部49の画面上に表示される。モデル説明部43は、参照プロセスデータベース42に蓄積された参照プロセスデータから作られる参照モデルについて、XAI設定ボタン437で選択されて設定されるXAI(Explainable AI:説明可能なAI)手法によってモデルの特徴をGUI430に表示することができる。XAIとしては様々な手法が存在するが、ここではPFI(Permutation Feature Importance)手法による参照モデルのPFI値を算出し、GUI430にその値を棒グラフ433,434によってランキング表示している。実施例1では参照プロセスデータベース42のシミュレーション条件Xs4330に「圧力」4331、「ガスAの流量」4332,「ガスBの流量」4333、「電力」4334の4つのパラメータが存在するため、4つの要素のPFIランキング表示となっている。
【0057】
PFI値とは、モデルの予測精度にそれぞれの説明変数がその単体でどれだけ寄与しているかの比率で表される。このPFI値はモデルのネットワーク構造、また特に学習に用いるデータ群に大きく影響を受ける。
【0058】
図6の「ROIデータ選択マネージャ モデル説明部」ウィンドウ431の左側のグラフ432でデータ空間におけるデータ点4321の位置と分散を見ながら、「新しい参照データを作成」ボタン435をクリックして新しい参照データを作成したり、「モデル詳細設定」ボタン436をクリックしてモデル選択の詳細条件を設定するなどにより任意の方法で、転移学習に用いる参照モデルの学習に用いるデータセットの取捨選択を行う。
【0059】
図6のグラフ432は「電力」4324と「圧力」4323に関する2次元データ分布において、ROI矩形選択により121個の参照モデル用学習データセット4322が選択されている様子である。ここで出したPFI値はデータ量等によってその計算に多少時間が掛かるが、計算を待っている間に次に行う2番目のROI選択を行うなどして、ユーザーは作業を継続できる。
【0060】
図6の様なGUI430によってユーザーは「どの様なデータを選択すると、どの様なモデルが転移学習によって得られるか」を確認しながら転移学習実行部44でおいて転移学習に用いる参照モデルの最適化を行うことが出来るが、この様に必ずしもGUI430を表示してユーザー判断させるのではなく、参照プロセスデータベース42に蓄積された全データを用いて自動で転移学習を行っても一定の精度は出せるためGUI430は必須ではない。
【0061】
また、事前に、例えばPFIの値などで判断基準を設定しておけば、モデル説明部43でユーザー操作を伴わずに自動で転移学習に用いる参照モデルの最適化を行うことも可能である。
【0062】
但し、実施例1におけるこのモデル説明部43が説明するPFI値はあくまでも単純に「Aイオン量・Bイオン量を予測する参照モデルの予測精度にそれぞれの説明変数がその単体でどれだけ寄与しているか」であり、「Aイオン量・Bイオン量の決定にはそれぞれの説明変数がどれだけ寄与しているか」という本質ではないことに注意が必要である。また、「参照モデル出力の「Aイオン量」「Bイオン量」が「エッチング量」を予測するのに有用である」(
図5)と判断するのもユーザーが任意に設定でき、言い換えると、「参照モデルの予測精度が高ければ、対象モデルの予測精度が高い」と確実に言える訳では無い事にも注意する必要がある。ただ、これらを注意した上でモデル説明部43を利用することが出来れば、短時間で精度の高い転移学習に用いる参照モデルの最適化を行うことが可能である。
【0063】
最終的にユーザーが
図6右下の「転移実行」ボタン438を押下することで転移学習実行部44による転移学習が実行される。
【0064】
転移学習モデル評価部45では転移学習実行部44によって作られたモデルを評価し、評価結果が一定の基準に満たなければその原因をモデルのネットワーク構造および参照プロセスデータにあると判断し、参照プロセスデータの自動取得・追加を参照プロセスデータ取得自動実行部46に命令する。
【0065】
参照プロセスデータ取得自動実行部46で参照プロセスデータの自動取得・追加が実行されて、新たな参照プロセスデータが参照プロセスデータベース42に追加されたら、再度、モデル説明部43、転移学習実行部44を経て転移学習モデル評価部45による判定となり、以後、転移学習モデル評価部45の判定基準が満たされるまでこれをループする。
【0066】
基本的に参照プロセスデータは多いほど予測精度向上が期待できるため、参照プロセスデータ取得自動実行部46は転移学習モデル評価部45にデータの自動取得を命令されていない時でも実験計画法(DoE)に応じたシミュレーション条件にて計算をし続け、データを蓄積し続けるのが良い。
【0067】
図7は転移学習モデル評価部45がユーザーに提供するGUI(モデル最適化終了判定基準設定)450の例である。ユーザーはまず、GUI450の参照プロセスデータ取得自動実行領域451にて、参照プロセスデータ取得自動実行に関する設定を行う。有効ボタン4511、手動設定ボタン4512、無効ボタン4513の何れかを選択することで、参照プロセスデータ取得自動実行部46を利用して参照プロセスデータを追加することで転移学習モデルを改善するループを回すのかどうかを指定する。この際、参照プロセスデータ取得自動実行部46の提案する実験計画法(DoE)に応じたシミュレーション条件に自動で任せるのではなく、ユーザーが自分で条件の手動指定することも可能である。
【0068】
有効ボタン4511をクリックして参照プロセスデータ取得自動実行を有効にした場合、GUI450の終了判定基準設定領域452で、終了判定基準の設定を行う。終了時刻設定領域4531に終了時刻を入力し「終了時刻設定あり」のボタン4521をクリックして終了時刻設定をすれば、設定した基準が満たされない場合でも、終了時刻までは参照プロセスデータ取得自動実行を繰り返し最も検証結果が良かった転移学習モデルが処理条件予測部47に送られる。設定した基準が満たされれば終了時刻を迎えずに転移学習モデルを処理条件予測部47に送る。
【0069】
図7における終了判定基準設定領域452で設定する終了判定基準について説明する。
(1)「テストデータ検証」とは、ユーザーが事前に用意しておいた、いくつかの対象プロセスにおける処理条件Xpと処理結果Ypの組み合わせである、テスト用データを用いてモデルの評価を行う検証方法である。このテストデータは、モデルが学習に用いた対象プロセスデータベースに含まれているデータであってはならず、別途用意する必要があるが、最も妥当なモデル評価方法である。例えば、「エッチング量」を予測するモデルにおいて「テストデータで検証した、実エッチング量と予測エッチング量の相対誤差<5%」を判定条件とする。検証データセット名入力領域4532に検証データセット名を入力して「テスト検証データ」のボタン4522をクリックすることで、指定したテストデータが選択される。
【0070】
(2)「XAI」とは、XAI手法によってモデルを評価した結果得られた値を用いて判断する検証方法である。例えば、前記PFI手法を転移学習モデルに対して用い、得られたPFI値が一定の値以上/以下などの条件を満たすかどうかで判断する。これはユーザーが、例えば対象プロセスについての化学・物理学的知見を持っており、「このプロセスの場合、「エッチング量」を決めるのは「圧力」よりも「電力」の影響が大きいはずだ」と考えるならば、「電力のPFI値>圧力のPFI値」を判定条件とする。詳細設定領域4533に検証条件(判定条件)を設定して「XAI」のボタン4523をクリックすることで、設定した検証条件(判定条件)が適用されて評価結果が判定される。
【0071】
(3)「交差検証」とは、ここではK―分割交差検証を指す。学習に用いた学習データ全体をK個に分割し、その中の1つをテストデータとして取り出しておき残りを学習用データとして(1)と同様の評価を行う。同様にK個に分割された学習データ群のそれぞれが1回ずつテストデータとなるよう、計K回評価を行い、K回の平均値を取ったもので(1)と同じ形式の判定基準を設ける。評価手法の精度としては(1)と比べると学習データが減った分多少劣り、計算量が増大し評価時間が延長するが、ユーザーは事前にテスト用データを準備する必要がない。検証条件設定領域4534に条件を設定し「交差検証」のボタン4524をクリックすることで、交差検証の条件が設定される。
【0072】
(4)「都度詳細表示」とは、より転移学習手法に知見のあるユーザーが、上記転移学習モデルのXAI評価結果や交差検証結果だけでなく、さらに学習曲線やパラメータチューニング結果などを細かく確認し、都度ユーザー判断する選択肢である。ボタン4525をクリックすると図示していない設定画面に切り替り、ユーザーが詳細を設定する。
【0073】
「終了時刻設定なし(1回のみ)」のボタン4526をクリックした場合は、終了時刻が設定されずに、転移学習モデル評価部45の判定基準が満たされるまでモデル最適化の処理が実行される。
【0074】
最後に「決定」ボタン454をクリックすると、GUI450の画面上で設定された各条件が処理条件探索システム40に送られ、新たな条件として処理条件探索システム40にセットされる。
【0075】
ユーザーは本実施例に係る処理条件探索システム40を利用するにあたり、先ずはじめに、目標処理結果設定部48にて、対象プロセスにおいてどの様な処理結果を得たいかを入力指定する。例えば、「エッチング量」として「40nm」などと指定する。この項目は複数でも動作に問題はないが、少ない方が高い精度が期待できる。また得たい処理結果は「30nmから50nm」などと範囲指定でも良い。
【0076】
ユーザーが指定した目標処理結果は、転移学習モデル評価部45の基準を満たした転移学習モデルが処理条件予測部47に送られた後、処理条件予測部47によって取り込まれる。処理条件予測部47では、例えばニュートン法などの求根アルゴリズムによって、目標処理結果設定部48で設定された目標処理結果に最も近い予測処理結果を出す処理条件を最適化する。最適化された処理条件は出力部49の画面にGUI表示若しくはcsvファイル保存などの手段によってユーザーに提供される。
【0077】
図8は、実施例1において、ユーザーによる操作開始から、目標処理条件の予測までS1~S11を説明するフローチャートである。
【0078】
S1:目標処理条件を予測したい対象装置における既に取得済みの対象プロセスデータベース41に記憶されている学習用データを設定する。転移学習モデル評価部45において、終了判定基準に「テストデータ検証」を行いたい場合はこのタイミングで別途テストデータも設定する。
【0079】
S2:対象装置で達成したい、目標処理結果を目標処理結果設定部48から設定する。
【0080】
S3:参照プロセスデータベースをもとに学習して作られている最新の参照モデルの特徴をモデル説明部43でいくつかのXAI手法によって確認する。S2からS3に進んだ時点で確認出来るモデルは、(1)全参照処理データ、(2)事前に選択された参照処理データ、(3)前回使用時に選択した参照処理データ、のいずれかをもとに学習した参照モデルである。S4からS3に戻った時点では、参照モデルを学習するために使用する学習用参照処理データを、例えば
図6の様なGUI430の「新しい参照データを作成」ボタン435をクリックすることで図示していない新しい参照データを作成する画面上で取捨選択できる。この時点でモデル・学習データの特徴を確認できるXAI手法としては例えばPFI(Permutation Feature Importance)や、SHAP(Shapley Additive exPlanation)や、PD(Partial Dependence)や、ICE(Individual Conditional Expectation)等が挙げられるがこれらに限定するものではない。
【0081】
S4:S3において求めたPFIランキングはS2で設定した値に対して妥当か否かを判定する。Yesの場合はS5に進み、Noの場合にはS3に戻る。
【0082】
S5:転移学習を実行し、転移学習モデルを出力する。
【0083】
S6:
図7に示したGUI、転移学習モデル評価部のモデル最適化終了判定基準設定において、「終了時刻設定あり」を設定したかをチェックする。
【0084】
S7:「終了時刻設定あり」を設定した場合(S6でYesの場合)、終了時刻に達しているかどうかを判定する。
【0085】
S8:終了時刻に達している場合(S7でYesの場合)、処理条件予測部47によって、目標処理結果に最も近い予測処理結果を出すと期待できる処理条件を出力する。ここで一連のユーザー操作は終了する。
【0086】
S9:終了時刻に達していない場合(S7でNoの場合)、転移学習モデル評価部45でモデルの精度の評価を行う。本実施例においては、
図7に示したGUI450の、転移学習モデル評価部45の終了判定基準設定領域452において、「交差検証」4525を設定したため、モデルの交差検証結果が目標処理結果設定部48でユーザーの設定した閾値を超えているかそうでないかで判定する。ユーザーの設定した閾値以上の精度が出ていれば(S9でYesの場合)S8へ、出ていなければ(S9でNoの場合)S10へ進む。
【0087】
S10:参照プロセスデータ取得自動実行部46において、DoEもしくはユーザー定義により新たな参照プロセスデータを計算し参照プロセスデータベース42に追加する。またここでは、後述する
図9における処理フローとは異なり、GUI450の、転移学習モデル評価部の終了判定基準設定領域452において「XAI」4523を選択することで、XAI手法によって拡張するデータ空間の示唆を得ることも出来る。例えば、ユーザーが「「エッチング量」には「ガスA」の影響が大きい」、という知見を持つにもかかわらず、PFI手法によって算出したガスAのPFI値が小さい場合、ガスAのパラメータを重点的に振ったデータ空間における参照処理データを得ようとすることは有用である。
【0088】
S11:新たな参照処理データを加えた新しい学習用データセットを用い、あらためて参照モデルの再学習から行う。得られたモデルをもとに再度S3へ進める。
【0089】
以上に説明したように、本実施例では、負の転移を起こさないように予めモデルの特徴を"モデル説明部"によって評価し、転移学習の結果得られたモデルを転移学習モデル評価部で評価し、モデル評価の結果、評価値が閾値を超えていなければ、転移学習モデルの精度を高めるために必要な条件のシミュレーションデータを参照プロセスデータ取得自動実行部で自動生成され、再び転移学習が行われるようにした。
【0090】
これにより、ユーザーが設定した目標処理結果を予測するために最適な転移学習モデルが常に自動で構築・更新され、実処理よりも低コストなシミュレーションによる多量な教師データを活かした、機差/部品差低減のためのレシピ最適化期間の短縮・削減を図ることを可能にした。
【0091】
本発明によれば、半導体製造装置の所望の製造条件を機械学習により探索する探索システムにおいて、一般に物理シミュレーションでは実処理条件に於ける全てのパラメータを考慮し切れないためにニューラルネットを用いた従来の機械学習では特徴量やラベルの異なるタスクのデータを単一のモデルで学習出来なかったものを、物理シミュレータによるデータの転移学習を用いたネットワーク構造により構築されたモデルを用いて半導体製造装置の所望の製造条件を予測することができるようになった。
【実施例2】
【0092】
本発明の第2の実施例を、
図9を用いて説明する。
本実施例は、実施例1で説明した処理に加えて、実施例1において
図8を用いて説明したS1乃至S3のようなユーザーによる装置・手法の操作が無い期間において、処理条件探索システム40が自動で
図9に示したフローチャートのように参照プロセスデータベースを拡張する処理を行うようにしたものである。
【0093】
本実施例に係る参照プロセスデータベースを拡張する処理の手順を、
図9に示したフローチャートに沿って説明する。
【0094】
S91:常にユーザーによる操作を優先するため、ユーザー操作が無いか確認する。すなわち、
図6に示した「移転実行」ボタン438,または
図7に示した「決定」ボタン454が押されていないかをチェックし、Yesの場合(ユーザー操作がある/見込まれる場合)には、実施例1において
図8を用いて説明したユーザー操作処理へ進んで、S1~S11のステップを実行する。Noの場合には、S92へ進む。
【0095】
S92:DoEもしくはユーザー定義により新たな参照処理データを計算し参照プロセスデータベースに追加する。
【0096】
S93:参照処理データがデータベースに追加されるたびに、新しく追加した参照処理データを含む学習データを用いて参照モデルの学習、すなわち、参照処理データ全体を使ったモデル学習を行う。
【0097】
S94:学習した参照モデルの各種XAI手法による評価(モデル解釈計算)を行う。尚、ここで評価した結果と学習モデルはシステムに保存され、ユーザーが
図8で説明したS3における処理のタイミングでロードすることも出来る。
【0098】
本実施例によれば、実施例1で説明した効果に加えて、ユーザーによる装置・手法の操作が無い期間において計算機が自動で参照プロセスデータベースの拡張を行うことができるので、転移学習モデルの精度をより高めることができ、シミュレーションによる多量な教師データを活かした、機差/部品差低減のためのレシピ最適化期間をより短縮することを可能にした。
また、実施例1及び2に係る発明は、プラットフォームに実装されたアプリケーションとして実施することもできる。プラットフォームは、クラウド上に構築されており、OS,ミドルウェア上で処理を実行するアプリケーションが稼働する。ユーザーは、端末からネットワークを介してプラットフォームにアクセスして、プラットフォームに構築されたアプリケーションの機能を利用することができる。プラットフォームは、データベースを備え、アプリケーションの実行に必要なデータが格納される。さらに半導体製造装置もプラットフォームとネットワークによりデータのやり取りが可能に接続されている。
【0099】
以上、本発明者によってなされた発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。すなわち、上記実施例で説明した構成(ステップ)の一部をそれと等価な機能を有するステップ又は手段で置き換えたものも、または、実質的でない機能の一部を省略したものも本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0100】
40…処理条件探索システム、41…対象プロセスデータベース、42…参照プロセスデータベース、43…モデル説明部、44…転移学習実行部、45…転移学習モデル評価部、46…参照プロセスデータ取得自動実行部、47…処理条件予測部、48…目標処理結果設定部、49…出力部、51…参照モデル、430,450…GUI、451…参照プロセスデータ取得自動実行領域、452…終了判定基準設定領域。