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特許7607852精製イソプロピルアルコール水溶液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】精製イソプロピルアルコール水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/82 20060101AFI20241220BHJP
   C07C 31/10 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
C07C29/82
C07C31/10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024563709
(86)(22)【出願日】2024-08-09
(86)【国際出願番号】 JP2024028751
【審査請求日】2024-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2023145199
(32)【優先日】2023-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【弁理士】
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(74)【代理人】
【識別番号】100087893
【弁理士】
【氏名又は名称】中馬 典嗣
(72)【発明者】
【氏名】保坂 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】山下 義晶
(72)【発明者】
【氏名】徳永 貴史
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-111220(JP,A)
【文献】特開平10-109948(JP,A)
【文献】国際公開第2017/217279(WO,A1)
【文献】特開昭48-047157(JP,A)
【文献】特開昭58-134041(JP,A)
【文献】特開昭61-239628(JP,A)
【文献】国際公開第2014/038892(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/176192(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 29/82
C07C 31/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物としてトルエンを含むイソプロピルアルコール低含水廃液から精製イソプロピルアルコール水溶液を製造する方法であって、
前記イソプロピルアルコール低含水廃液を蒸留塔の原料供給段に供給し、前記蒸留塔の塔頂からトルエンを含む留出液を抜き出すとともに、前記蒸留塔の塔底からイソプロピルアルコールおよび水を含む缶出液を抜き出す低沸蒸留工程を含み、
前記蒸留塔の原料供給段における液相中の水の含有量が70質量%以上95質量%以下になるように調整する、精製イソプロピルアルコール水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記イソプロピルアルコール低含水廃液は、半導体基板のリンス部を備える半導体製造装置から回収された廃液である、請求項1に記載の精製イソプロピルアルコール水溶液の製造方法。
【請求項3】
前記蒸留塔の原料供給段における液相中の水の含有量が80質量%以上93質量%以下になるように調整する、請求項1または2に記載の精製イソプロピルアルコール水溶液の製造方法。
【請求項4】
前記イソプロピルアルコール低含水廃液は、トルエンの含有量が、イソプロピルアルコールに対する質量比で、1ppm以上2000ppm以下である、請求項1または2に記載の精製イソプロピルアルコール水溶液の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の精製イソプロピルアルコール水溶液の製造方法により得られる精製イソプロピルアルコール水溶液から精製イソプロピルアルコールを製造する方法であって、
前記精製イソプロピルアルコール水溶液を脱水する脱水工程を含む、精製イソプロピルアルコールの製造方法。
【請求項6】
前記精製イソプロピルアルコール水溶液を蒸留し、イソプロピルアルコールと水との共沸混合物を、留出液として抜き出す共沸混合物生成工程と、
前記イソプロピルアルコールと水との共沸混合物に共沸剤を加えて蒸留し、イソプロピルアルコールを含む缶出液を抜き出すことにより脱水する脱水工程とを含む、請求項5に記載の精製イソプロピルアルコールの製造方法。
【請求項7】
前記精製イソプロピルアルコールは、半導体薬液である、請求項5に記載の精製イソプロピルアルコールの製造方法。
【請求項8】
前記半導体薬液は、半導体基板のリンス液である、請求項7に記載の精製イソプロピルアルコールの製造方法。
【請求項9】
前記脱水された共沸混合物を低沸蒸留し、イソプロピルアルコールを含む缶出液を抜き出す第2低沸蒸留工程と、
前記イソプロピルアルコールを含む缶出液を高沸蒸留し、イソプロピルアルコールを含む留出液を抜き出す高沸蒸留工程とをさらに含む、請求項6に記載の精製イソプロピルアルコールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製イソプロピルアルコール水溶液の製造方法および精製イソプロピルアルコールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イソプロピルアルコール(以下、「IPA」とも略する)は、水と有機溶媒との両方を溶解する性質を有しており、塗料やインキ用の溶剤や、各種合成原料等として広く普及している。さらに、純度が高いIPAは、半導体製造装置が備える半導体基板のリンス部でも多量に使用されており、今後も使用量の増加が見込まれている。
【0003】
純度が高いIPAの製造原価は高く、多量に使用される半導体基板のリンス部ではコスト上昇の一因となる場合があった。また、使用後のIPA廃液は、通常、燃焼処理されるが、この際に地球温暖化の原因とされる二酸化炭素を放出するため、環境保全の観点からもその廃棄量を低減させることが望まれていた。このため、こうした工業設備から排出されたIPA廃液を回収して精製し、再使用することへの要求が高まっている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで、半導体基板のリンス部は、半導体基板の洗浄部の後段に隣接して設けられることが一般的である。洗浄部に使用される洗浄液は、通常、超純水や高含水液が用いられるため、リンス部では、洗浄部で半導体基板の表面に付着した水分を流落させることになる。従って、リンス部から回収される、IPA廃液は、水が少量含まれた低含水組成物になり易い。また、IPAは、現像部、プリウェット部でも多々使用されており、さらに、水も半導体製造装置における種々の部分で使用されることが多い。従って、リンス部を備える半導体製造装置からは、IPA低含水廃液が排出されることが通常であり、例えば、特許文献2では、IPA低含水廃液中の水の含有量として5質量%程度が想定されている。
【0005】
他方で、半導体製造装置では、洗浄部やリンス部で、トルエンが使用されることもあり、また、トルエンは固形物の溶剤、例えば、現像部で使用するフォトレジスト材料の溶剤成分や、各種部分で使用される接着剤の溶剤成分としても汎用されている。さらには、基板処理剤では、トルエンスルホニル基を含有する化合物が使われることが多いが、この化合物が分解すると、トルエンが生成することがある。これらのことから、回収されるIPA廃液には、トルエンも微量混入することがある。
【0006】
したがって、リンス部を備える半導体製造装置等の工業設備からは、不純物としてトルエンを含むIPA低含水廃液(以下、単に「IPA低含水廃液」とも略する)が回収されることがあり、IPA低含水廃液の精製処理が施される。一般に、有機溶媒の常套的な精製手法には蒸留があり、例えば、特許文献3では、水の含有量が5~15%のトルエン等を不純物として含み得るIPA低含水廃液に対して、蒸留を適用した精製プロセスにより浄化することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-144410号公報
【文献】特開2014-55120号公報
【文献】中国特許出願公開第112999679号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、IPA低含水廃液に、トルエンが含有される場合、これまでの蒸留手法では、トルエンを高度に除去することが困難であった。例えば、特許文献3では、精製プロセスにおいて、IPA廃液を精留塔に供給して精留し、塔頂からIPAを含む留分を得ている。そして、IPAを含む留分を、冷却して液化させた後に相分離装置に供給し水相を除去した後、さらに収集タンクに供給して加熱し、低沸タンクに供給される低沸物留分と、製品タンクに回収される精製IPA留分とに分留している。しかし、この精製プロセスを、トルエンを含むIPA低含水廃液の精製に適用した場合、満足のいく結果は得られなかった。トルエンの沸点(110.6℃)はIPAの沸点(82.4℃)や水の沸点より高いものの、蒸留時には、トルエンとIPAは共沸し、さらにIPAと水は共沸するため、一定量が精留塔の塔頂からのIPAを含む留分に帯同することになるからである。IPAを含む留分に帯同したトルエンを、その後の水相の相分離や分留操作で高度に除去することは困難であるため、純度が高いIPAが得られなかった。
【0009】
したがって、不純物としてトルエンを含むイソプロピルアルコール低含水廃液からトルエンを高度に除去して、純度が高い精製イソプロピルアルコール水溶液および精製イソプロピルアルコールを製造する方法は知られておらず、この方法を開発することが大きな課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意研究を続けてきた。その結果、不純物としてトルエンを含むイソプロピルアルコール低含水廃液に対して、水の含有量が特定の範囲になるように調整して蒸留することで、蒸留塔の塔底から、トルエンが高度に除去された缶出液が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の一態様は、不純物としてトルエンを含むイソプロピルアルコール低含水廃液から精製イソプロピルアルコール水溶液を製造する方法であって、前記イソプロピルアルコール低含水廃液を蒸留塔の原料供給段に供給し、前記蒸留塔の塔頂からトルエンを含む留出液を抜き出すとともに、前記蒸留塔の塔底からイソプロピルアルコールおよび水を含む缶出液を抜き出す低沸蒸留工程を含み、前記蒸留塔の原料供給段における液相中の水の含有量が70質量%以上95質量%以下になるように調整する、精製イソプロピルアルコール水溶液の製造方法である。
【0012】
係る精製イソプロピルアルコール水溶液の製造方法において、前記イソプロピルアルコール低含水廃液は、半導体基板のリンス部を備える半導体製造装置から回収された廃液であることが好ましい態様である。
【0013】
また、前記蒸留塔の原料供給段における液相中の水の含有量が80質量%以上93質量%以下になるように調整することが好ましい態様である。
【0014】
また、前記イソプロピルアルコール低含水廃液は、トルエンの含有量が、イソプロピルアルコールに対する質量比で、1ppm以上2000ppm以下であることが好ましい態様である。
【0015】
さらに、本発明の他の一態様は、係る精製イソプロピルアルコール水溶液の製造方法により得られる精製イソプロピルアルコール水溶液から精製イソプロピルアルコールを製造する方法であって、前記精製イソプロピルアルコール水溶液を脱水する脱水工程を含む、精製イソプロピルアルコールの製造方法である。
【0016】
係る精製イソプロピルアルコールの製造方法において、前記精製イソプロピルアルコール水溶液を蒸留し、イソプロピルアルコールと水との共沸混合物を、留出液として抜き出す共沸混合物生成工程と、前記イソプロピルアルコールと水との共沸混合物に共沸剤を加えて蒸留し、イソプロピルアルコールを含む缶出液を抜き出すことにより脱水する脱水工程とを含むことが好ましい態様である。
【0017】
また、前記精製イソプロピルアルコールは、半導体薬液であることが好ましい態様である。特に、前記半導体薬液は、半導体基板のリンス液であることが好ましい態様である。
【0018】
また、前記脱水された共沸混合物を低沸蒸留し、イソプロピルアルコールを含む缶出液を抜き出す第2低沸蒸留工程と、前記イソプロピルアルコールを含む缶出液を高沸蒸留し、イソプロピルアルコールを含む留出液を抜き出す高沸蒸留工程とをさらに含むことが好ましい態様である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、不純物としてトルエンを含むIPA低含水廃液から、トルエンを高度に除去することができる。従って、IPA低含水廃液を、純度が高いIPAに簡便に再生することができ、純度が高いIPAは、半導体薬液、特に、半導体基板のリンス液として良好に再使用でき、産業上の価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】低沸蒸留工程の代表的態様を示す概略図である。
図2】IPAに対するトルエンの相対揮発度αに与える水分濃度の影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
[精製IPA水溶液の製造方法]
(IPA低含水廃液)
本実施形態において、蒸留の対象液は、不純物としてトルエンを含むIPA低含水廃液になる。IPA低含水廃液は、塗料、インキの製造やこれを使用する各種工業設備から排されることが多々あり、回収される廃液が制限なく適用できるが、最も精製に適するのは、半導体基板のリンス部を備える半導体製造装置から回収された廃液になる。特に、リンス部からの回収された廃液は、低含水組成物になり易く、好適に適用できる。この他、半導体製造装置から排出される、現像液、プリウェット液、エッチング液、洗浄液、剥離液、乾燥液がIPA低含水廃液に含有されていても良い。
【0023】
IPA低含水廃液中のIPAの含有量は、好ましくは50質量%を超える量、より好ましくは60質量%以上、特に好ましくは70質量%以上である。IPA低含水廃液中のIPAの含有量は、好ましくは95質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。
【0024】
本明細書および請求の範囲において、“低含水”とは、水の含有量が50質量%未満であることを意味する。IPA低含水廃液中の水の含有量は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。IPA低含水廃液中の水の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。IPA低含水廃液中の水の含有量が多い場合、IPA低含水廃液を回収する設備が巨大となり、IPA低含水廃液を輸送する費用が増大する。
【0025】
ここで、IPA低含水廃液中の水の含有量は、カールフィッシャー法により測定された値である。また、IPA低含水廃液中のIPAの含有量は、ガスクロマトグラフィーにより測定された値である。
【0026】
IPA低含水廃液中のトルエンの含有量は、イソプロピルアルコールに対する質量比で、好ましくは1ppm以上2000ppm以下、より好ましくは50ppm以上1000ppm以下である。IPA低含水廃液中のトルエンの含有量が下限値以上であると、トルエンの除去効果が顕著に発揮される。他方で、IPA低含水廃液中のトルエンの含有量が上限値以下であると、トルエンとIPAとが共沸しにくくなり、精製IPA水溶液中のトルエンの含有量が低減されやすくなる。
【0027】
IPA低含水廃液は、トルエン以外の不純物として、IPAよりも沸点が低い低沸不純物をさらに含有していても良い。低沸不純物としては、例えば、ブテン類、ペンテン類、ヘキセン類等のオレフィン類、ブタン、ペンタン、ヘキサン等のアルカン類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピレンアルデヒド、ブチルアルデヒド等のアルデヒド類、アセトン、ブタノン等のケトン類、メタノール、エタノール、2-メチル-2-プロパノール等のアルコール類、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、塩化ビニル等のクロロアルカン類が挙げられる。IPA低含水廃液中の低沸不純物の合計の含有量は、IPAに対する質量比で、好ましくは0.1ppm以上10000ppm以下、より好ましくは1ppm以上100ppm以下である。低沸不純物は、後述するように、蒸留塔の塔頂からトルエンと共に高度に留去される。
【0028】
さらに、IPA低含水廃液は、トルエン以外の不純物として、IPAよりも沸点が高い高沸不純物をさらに含有していても良い。具体的には、IPA低含水廃液が半導体用薬液の廃液、特に、洗浄液や乾燥液である場合、高沸不純物としては、例えば、鉄、クロム、ニッケル、銅、亜鉛、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等の金属類、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸類、硝酸イオン、亜硝酸イオン、硫酸イオン、塩化物イオン、フッ化物イオン等をアニオンとする塩類、クロトンアルデヒド、2-ペンタノン等のアルデヒド・ケトン類、1-プロパノール、1-ブタノール等のアルコール類、1-メトキシ-2-プロパノール、1-(2-メトキシプロポキシ)プロパン-2-オール、1-(2-メトキシ-2-メチルエトキシ)-2-プロパノール等のエーテル類、トルエン、キシレン(オルト、メタ、パラ)等の芳香族類、オクタン、デカン、ヘキサデカン等のアルカン類、酢酸イソプロピル、プロピオン酸イソプロピル、ギ酸ブチル等のカルボン酸エステル類、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等のフタル酸エステル類、アジピン酸ジオクチル等のアジピン酸エステル類が挙げられる。高沸不純物は、後述するように、蒸留塔の塔底から抜き出された缶出液に対して、後述する精製工程を施すことにより、高度に除去することが可能である。
【0029】
(蒸留塔の原料供給段における液相中の水の含有量の調整)
本実施形態において、例えば、半導体製造装置から回収されたIPA低含水廃液を蒸留するに際して、蒸留塔の原料供給段における液相中の水の含有量が70質量%以上95質量%以下、より好ましくは80質量%以上93質量%以下になるように調整する。これにより、蒸留塔の塔頂から、低沸不純物と共に、トルエンも良好に留去することが可能になる。換言すれば、蒸留塔の塔底から、トルエンが高度に低減された缶出液を抜き出すことが可能になる。
【0030】
トルエンは、IPAよりも沸点が高いため、蒸留時には、沸点差だけを考慮すれば、塔頂からは留出せず、塔底から缶出すると考えられる。しかしながら、トルエンは、IPAおよび水と共沸する性状を呈しており、このような共沸系では、気相に濃縮されていく。そして、IPA低含水廃液では、トルエンは、水と共沸して気相への濃縮が支配的になる。その結果、図2に示すように、水分濃度、すなわち、液相中の水の含有量が高まるにつれ、トルエンの気相への濃縮効率が顕著に高まる。
【0031】
ところが、IPA低含水廃液の場合、水の含有量が少ないため、水との共沸によるトルエンの気相部への濃縮効率が十分でなく、蒸留塔の塔頂からのトルエンの留去量も低くなると考えられる。本実施形態では、蒸留塔の原料供給段における液相中の水の含有量を増加させることで、蒸留時に水との共沸を活性化させ、蒸留塔の塔頂からのトルエンの留去量が高くなり、その結果、缶出液中のトルエンの含有量が低くなる。
【0032】
なお、トルエンと同様に、IPAよりも沸点が高く、且つIPAおよび水と共沸する性状を有しており、さらに半導体製造装置から回収される廃液にも含有される可能性もある有機溶媒としては、例えば、キシレン(オルト、メタ、パラ)、酢酸イソプロピル等が挙げられる。本実施形態の精製IPA水溶液の製造方法を適用することで、このような有機溶媒に対して、同様の効果が発揮される。
【0033】
蒸留塔の原料供給段における液相中の水の含有量の調整方法としては、回収されたIPA低含水廃液が収容される廃液受入タンクにおいて、水の含有量を測定した後に、水を混合する方法が一般的である。この場合、例えば、廃液受入タンクを少なくとも2基設置し、一方を水の含有量を調整した液の蒸留塔への供給に使用し、他方を水の含有量の調整に使用する。このとき、蒸留塔への供給に使用したタンクの収容量が空に近くなった際に、2基のタンクの役割を切り替えることが効率的である。
【0034】
IPA低含水廃液に対する水の含有量の測定および水の混合は、IPA低含水廃液を蒸留塔に供給する配管内で実施しても良いし、IPA低含水廃液を遠隔の廃液受入タンクに輸送する場合であれば、輸送容器(例えば、ローリー、コンテナ、ドラム缶)内で実施しても良い。
【0035】
なお、蒸留塔の原料供給段における液相中の水の含有量の調整は、蒸留塔内で実施しても良い。即ち、IPA低含水廃液を、そのまま、或いは、水の含有量が70質量%未満の加水状態で、蒸留塔の原料供給段に供給する一方で、蒸留塔に外部から水を供給しても良い。この場合、蒸留塔の原料供給段に水を供給しても良いし、蒸留塔の原料供給段と塔頂との間の段に水を供給しても良い。
【0036】
蒸留塔の原料供給段と塔頂との間の段に水を供給する場合、原料供給段における液相中の水の含有量は、例えば、AspenPlus(アスペンテクノロジー製)、PROII(AVEVA製)等のプロセスシミュレーションソフトウェアを用いて求めることができる。後述するように、蒸留塔の塔頂からの留出液を、コンデンサーで凝縮させて、凝縮した留出液の一部を蒸留塔に還流させる場合には、還流する留出液に含有されている水の量も加味して、蒸留塔の原料供給段における液相中の水の含有量を算出すれば良い。また、蒸留塔の塔頂から抜き出された留出液を第2蒸留塔に供給し、外部から水を加えた上で再度蒸留し、缶出液を蒸留塔に供給する場合には、缶出液に含有されている水の量も加味して、蒸留塔の原料供給段における液相中の水の含有量を算出すれば良い。
【0037】
蒸留塔の原料供給段における液相中の水の含有量は、70質量%以上95質量%以下の範囲内であれば制限されないが、1時間当たりの変動が、液相の全含有量(100質量%)に対して、好ましくは3質量%以内、さらに好ましくは1質量%以内である。1時間当たりの変動が小さくなると、トルエンの沸点が大きく変化せず、フラッティングが起こりにくくなる。
【0038】
(低沸蒸留工程)
本実施形態の精製IPA水溶液の製造方法は、IPA低含水廃液を蒸留し、蒸留塔の塔頂から、トルエンを含む留出液を抜き出すとともに、蒸留塔の塔底から、IPAおよび水を含む缶出液を抜き出す低沸蒸留工程を含む。
【0039】
図1に、低沸蒸留工程の代表的態様を示す。即ち、図1は、廃液受入タンク1が2基設置され、一方は、水の含有量が調整されたIPA低含水廃液の低沸蒸留塔2への供給に使用され、他方は、IPA低含水廃液の水の含有量の調整に使用され、両者は、水の含有量が調整されたIPA低含水廃液が空になった際に、その役割が切り替えられる。廃液受入タンク1には、廃液供給管3より、IPA低含水廃液が供給される。そして、廃液受入タンク1中で、低沸蒸留塔2の原料供給段における液相中の水の含有量が70質量%以上95質量%以下になるように、水供給管8より、水が供給される。
【0040】
このように水の含有量が調整されたIPA低含水廃液は、被蒸留液供給管4を介して、低沸蒸留塔2の原料供給段に供給され、蒸留される。低沸蒸留塔2の塔頂には、コンデンサー5が設置されており、コンデンサー5で凝縮した凝縮液は、一部が還流し、残部が低沸物留出液として、留出液排出管6から排出される。IPA低含水廃液に含まれるトルエンは、低沸物留出液に帯同して排出される。その結果、低沸蒸留塔2の塔底から、トルエンが高度に除去された缶出液が缶出液排出管7から排出される。
【0041】
低沸蒸留塔2は、棚段塔および充填塔のいずれであってもよいが、棚段塔であることが好ましい。低沸蒸留塔2の理論段数は、特に限定されないが、好ましくは10~200段であり、より好ましくは20~50段である。棚段塔における棚段としては、例えば、十字流トレイ、シャワートレイが挙げられる。充填塔における充填物としては、例えば、ラシヒリング、レッシングリングが挙げられる。棚段塔、充填塔および充填物の材質としては、例えば、鉄、ステンレス鋼、ハステロイ、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス、フッ素樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン)が挙げられる。
【0042】
低沸蒸留塔2において、原料供給段の塔底までの段数は、理論段数として、好ましくは5段以上、より好ましくは10段以上、さらに好ましくは20段以上である。原料供給段の塔底までの段数が多いと、トルエンが除去されやすくなる。このとき、塔頂までの間に原料供給段を設置すれば良いが、IPAの廃棄量が削減されることから、塔頂に原料供給段を設置することが好ましい。なお、原料供給段の算定において、塔底および塔頂を理論段に含めない。低沸蒸留塔2を実際に運転して、蒸留物の組成を分析することで、低沸蒸留塔2の理論段数を確認することが好ましい。
【0043】
低沸蒸留塔2における塔頂の気相の物質量は、低沸蒸留塔2に供給される液相全体の物質量に対して、好ましくは0.1~10である。
【0044】
さらに、低沸蒸留塔2における塔頂の圧力(ゲージ圧)は、特に限定されないが、例えば、0.0MPaG以上0.1MPaG以下である。このとき、低沸蒸留塔2の塔頂および塔底の温度は、圧力に応じて、適宜設定される。
【0045】
塔頂から留去された低沸物留出液をコンデンサー5により凝縮させるが、凝縮した低沸物留出液の一部を還流させる。このとき、還流比は、好ましくは10以上10000以下、より好ましくは100以上2000以下、さらに好ましくは300以上1500以下である。還流比を大きくすることで、留出液が少なくなるため、留去されるIPAを減らしつつ、トルエンを分離することが可能となる。
【0046】
このように塔頂から抜き出された低沸物留出液を系外に排出しても良いが、低沸物留出液を第2蒸留塔に供給して、外部から水を加えた上で再度蒸留し、缶出液を低沸蒸留塔2の上流部に供給して、トルエンや低沸不純物の除去性をより高めても良い。系外に排出された低沸物留出液は、例えば、燃料として再利用してもよい。
【0047】
(精製IPA水溶液の精製度)
本実施形態の精製IPA水溶液の製造方法によれば、低沸蒸留工程において、不純物として含有されていたトルエンの含有量を、IPAに対する質量比で、好ましくは10ppb以下、より好ましくは0.001ppb以上1ppb以下に低減させることも可能である。また、低沸不純物も高度に低減させることができ、例えば、IPA低含水廃液に、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等の低アルデヒド・ケトン類が含有されている場合、それぞれの含有量を、IPAに対する質量比で、好ましくは10ppb以下、より好ましくは0.001ppb以上1ppb以下に低減させることも可能である。
【0048】
[精製IPAの製造方法]
低沸蒸留工程において、低沸蒸留塔2の塔底から抜き出された缶出液としての、精製IPA水溶液を脱水して精製IPAを製造することができる。より純度が高い精製IPAを得るためには、以下の追加精製工程を施すことが好ましい。即ち、追加精製工程は、精製IPA水溶液を蒸留し、IPAと水との共沸混合物を、留出液として抜き出す共沸混合物生成工程と、IPAと水との共沸混合物を脱水する脱水工程とを含む。
【0049】
追加精製工程は、脱水された共沸混合物を高沸蒸留し、イソプロピルアルコールを含む留出液を抜き出す高沸蒸留工程をさらに含むことが好ましい。また、脱水工程と高沸蒸留工程との間には、低沸不純物をより高度に除去するために、脱水された共沸混合物を低沸蒸留し、イソプロピルアルコールを含む缶出液を抜き出す第2低沸蒸留工程を介在させても良い。以下、夫々の追加精製工程を説明する。
【0050】
(共沸混合物生成工程)
共沸混合物生成工程では、精製IPA水溶液を蒸留塔の原料供給段に供給して蒸留し、蒸留塔の塔頂から、IPAと水との共沸混合物を留出液として抜き出すとともに、蒸留塔の塔底から、IPAよりも沸点が高い高沸不純物を含む缶出液を抜き出す。
【0051】
具体的には、IPAと水との共沸温度は、80.1℃であるため、精製IPA水溶液を80.1℃で蒸留することにより、塔頂から、IPAと水との共沸混合物が抜き出される。一方、塔底から、高沸不純物および水を含む缶出液が抜き出される。缶出液中の水の一部を、低沸蒸留工程の原料供給段における液相中の水の含有量を調整する水として用いることもできる。これにより、水の使用量低減および排水処理費用低減になることに加え、缶出液を冷却せずに用いることでエネルギーの低減にもなる。
【0052】
その他、共沸混合物生成工程は、低沸蒸留工程で説明した諸条件に準じて実施すればよい。
【0053】
(脱水工程)
脱水工程では、共沸混合物生成工程で得られたIPAと水との共沸混合物を脱水する。
【0054】
脱水方法としては、特に限定されないが、例えば、共沸蒸留、吸着、膜透過が挙げられる。なお、IPAと水との共沸混合物を共沸蒸留する場合は、共沸剤を加えて蒸留することで、水を除去することができる。共沸剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ベンゼン、トルエン、トリクロロエチレン、ジクロロメタン、ヘキセン類が挙げられる。
【0055】
(第2低沸蒸留工程)
第2低沸蒸留工程では、脱水工程で脱水された共沸混合物を再度低沸蒸留する。即ち、第2低沸蒸留工程は、低沸蒸留塔の塔頂から低沸不純物を含む留出液を抜き出すとともに、低沸蒸留塔の塔底から、低沸不純物がより低減された、IPAを含む缶出液を抜き出す工程であり、所望されるIPAの純度に応じて、施せばよい。
【0056】
(高沸蒸留工程)
高沸蒸留工程では、脱水工程で脱水された共沸混合物を高沸蒸留し、高沸蒸留塔の塔底から、高沸不純物を含む缶出液を抜き出すとともに、高沸蒸留塔の塔頂から、高沸不純物がより低減された、IPAを含む留出液を抜き出す。
【0057】
(その他の工程)
高沸蒸留工程で得られた留出液は、必要に応じて、吸着等の方法により、さらなる精製処理を施してもよい。また、フィルター濾過により、粒子(例えば、金属粒子、無機粒子、有機粒子)を除去してもよいし、イオン交換樹脂により、イオン(例えば、金属イオン)を除去してもよい。
【0058】
(精製IPAの精製度)
以上説明した、精製IPA水溶液を脱水し、必要に応じて、追加精製する精製IPAの製造方法によれば、脱水工程を施すことにより、水の含有量を、好ましくは100質量ppm以下、より好ましくは1~50質量ppmとすることが可能である。さらに、高沸蒸留工程を施せば、トルエン以外の高沸不純物も高度に低減させることができる。このため、好ましくは99.9質量%以上、より好ましくは99.99~99.999999質量%の純度(ただし、水の含有量を除く。)を有する精製IPAを得ることが可能である。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨の範囲内で、上記実施形態を適宜変更してもよい。
【実施例
【0060】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。なお、本実施例中、%およびppmは、特に記載が無い場合、質量基準である。
【0061】
<分析例1>
(水含有量の測定方法)
機器:カールフィッシャー水分計 CA-200(三菱ケミカルアナリティック製)
水含有量が1%を超えると思われるサンプルはIPAで希釈した後、測定した。希釈に用いるIPA中の水含有量は事前に測定し、30ppmであることを確認した。水含有量が1%以下と思われるサンプルは希釈せずに分析した。想定したより水分が多い場合、測定に時間がかかるだけで測定値には影響はない。希釈に用いるIPA中の水含有量を、露点-60℃以下のグローボックス中で測定サンプル5g以上をテルモシリンジで採取して測定し、本分析法は1ppm以上の水含有量であれば定量可能である。
【0062】
<分析例2>
(1-メトキシ-2-プロパノール含有量の測定方法)
エバポレーター(水浴80℃、10kPa(絶対圧))でIPA1Lを1mlに濃縮した後、GC/MSで分析を行った。標準物質を用い、定量下限を算出した結果、1-メトキシ-2-プロパノールの定量下限は0.01ppbであった。
-測定条件-
装置:7890A/5975C(アジレント・テクノロジー製)
分析カラム:SUPELCO WAX-10(60m×0.25mm、0.25μm)
カラム温度:35℃(2分間保持)→5℃/分で昇温→100℃→10℃/分で昇温→240℃(6分間保持)
キャリアガス:ヘリウム
キャリアガス流量:2mL/分
注入口温度:240℃
注入量:5μl
試料注入法:パルスドスプリットレス法
注入時パルス圧:90psi(2分)
スプリットベント流量:50mL/分(2分)
ガスセーバー使用:20mL/分(5分)
トランスファーライン温度:240℃
イオン源、四重極温度:230℃、150℃
スキャンイオン:m/Z=25~250
SIM(選択イオン検出):75(1-メトキシ-2-プロパノール)
【0063】
<分析例3>
(トルエン及び酢酸イソプロピルの各含有量の測定方法)
A:IPA中の水含有量が1%以上の場合
IPA中の水含有量を95%とした後、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー質量分析法(HS/GC/MS)で、トルエン及び酢酸イソプロピルの各含有量を分析した。本方法における、水含有量5%(IPA95%)のIPA中の検出下限は、トルエン0.1ppb、酢酸イソプロピル0.1ppbであった。なお、SIMの数値は定量したい化合物毎に任意に設定することが可能である。
【0064】
-測定条件-
装置:ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)8890、5977B(アジレント・テクノロジー製)、ヘッドスペースサンプラー8697(アジレント・テクノロジー製)
注入モード:スプリットレス
キャリア:ヘリウム
カラム:J&W Scientifuic製 DB-1(長さ60m、内径0.32mm、厚み5μm)
カラム温度:30℃で15min維持後、20℃/分で250℃まで昇温、さらに250℃で10分維持
カラム流量:1.4ml/分
注入口圧力:8.4psi
注入口温度:200℃
注入量:1mL(ヘッドスペース法におけるバイアル気相部)
イオン源温度:230℃
四重極温度:150℃
SIM(選択イオン検出):61(酢酸イソプロピル)91(トルエン)
溶媒加熱温度(ヘッドスペース):60℃
溶媒加熱時間(ヘッドスペース):15分
【0065】
B:IPA中の水含有量が1%未満の場合
ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)にて、トルエン及び酢酸イソプロピルの各含有量を分析した。本方法での検出下限は、トルエン1ppb、酢酸イソプロピル1質量ppbであった。
【0066】
なお、SIMの数値は定量したい化合物毎に任意に設定することが可能である。トルエン、及び酢酸イソプロピルは、IPAと共沸するため、常圧の濃縮法によって検出下限を下げることが難しい。活性炭など低極性の物質を吸着しやすい吸着剤を用いることで、検出下限を1ppt以下にすることが可能である。
【0067】
-測定条件-
装置:ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)8890、5977B(アジレント・テクノロジー製)
注入モード:スプリットレス
キャリア:ヘリウム
カラム:J&W Scientifuic製 DB-1(長さ60m、内径0.32mm、厚み5μm)
カラム温度:30℃で15min維持後、20℃/分で250℃まで昇温、さらに250℃で10分維持
カラム流量:1.4ml/分
注入口圧力:8.4psi
注入口温度:200℃
注入量:5μL
イオン源温度:230℃
四重極温度:150℃
SIM(選択イオン検出):59(2-メチル-2-プロパノール)、61(酢酸イソプロピル)、91(トルエン)
【0068】
<実施例1>
(低沸蒸留工程)
半導体基板のリンス部を備える半導体製造装置から回収され、その3日分が廃液受入タンク1にまとめられたIPA低含水廃液を、図1に示す低沸蒸留工程により精製した。IPA低含水廃液は、水の含有量が質量基準で20%(IPAの含有量が80%)であり、トルエンの含有量が、IPAに対する質量比で、100ppmであった。IPA低含水廃液に対して、水の含有量が90%(IPAの含有量が10%)になるように、廃液受入タンク1に水を供給し、低沸蒸留工程に供する水含有量調整液を得た。
【0069】
水含有量調整液を蒸留する低沸蒸留塔2として、15段の棚段を備えるオルダーショウ型低沸蒸留塔を設置し、低沸蒸留塔2の理論段数が10段であることを実験により確認した。ここで、低沸蒸留塔2は、塔底が2Lの容器であり、塔頂にコンデンサー5が設置されており、コンデンサー5で凝縮した留出液の一部が低沸蒸留塔2の塔頂に還流する。低沸蒸留塔2の塔頂に、水含有量調整液を10L/hで供給して蒸留した。このとき、塔頂の温度を75~85℃とし、塔頂の圧力(ゲージ圧)を0~10kPaGとした。また、還流量を10L/hとし、還流比を約1000とし、留出液を10ml/hで留出液排出管6から抜き出した。さらに、塔底の液量が約1.5Lを維持するように、缶出液(精製IPA水溶液)を約10L/hで缶出液排出管7から抜き出した。
【0070】
精製IPA水溶液中のトルエンの含有量を測定したところ、IPAに対する質量比で、0.2ppb以下と検出下限以下であり、低沸蒸留工程により、トルエンの含有量が大きく低減されたことが確認できた。また、精製IPA水溶液中の酢酸イソプロピルの含有量が、IPAに対する質量比で、1ppb以下であった。
【0071】
(追加精製工程)
低沸蒸留工程により得られた精製IPA水溶液を蒸留塔の原料供給段に供給して共沸混合物生成工程に供した。即ち、缶出液排出管7から抜き出された缶出液(精製IPA水溶液)を蒸留塔の原料供給段に供給して蒸留し、塔頂よりIPAと水との共沸混合物(質量比87.5:12.5)を抜き出した。
【0072】
次いで、IPAと水との共沸混合物を脱水工程に供し、共沸剤(エントレーナー)として、ベンゼンを用い、塔底より水含有量が100ppm以下に低減された、IPAを含む缶出液を抜き出した。その後、IPAを含む缶出液を第2低沸蒸留工程に供し、低沸不純物がより低減されたIPAを含む缶出液を抜き出した後、IPAを含む缶出液を高沸蒸留工程に供し、高沸不純物もより低減された、IPAを含む留出液を抜き出し、冷却した。IPAを含む留出液をイオン交換樹脂に通液した後、3種類のフィルター(孔径50nm、10nm、2nmのフッ素樹脂製フィルター)に通液し、精製IPAを得た。
【0073】
精製IPA中のトルエンの含有量は、IPAに対する質量比で、0.1ppb以下と検出下限以下だった。その他、酢酸イソプロピル、1-メトキシ-2-プロパノールの含有量と併せて、表1に記載した。
【0074】
<比較例1>
(低沸蒸留工程)
廃液受入タンク1に収容されたIPA低含水廃液に対して、水の含有量が50%(IPAの含有量が50%)になるように、廃液受入タンク1に水を供給し、水含有量調整液を得た以外は、実施例1と同様にして、低沸蒸留工程を実施した。缶出液排出管7から抜き出された精製IPA水溶液中のトルエンの含有量を測定したところ、IPAに対する質量比で、8ppbであった。また、精製IPA水溶液中の酢酸イソプロピルの含有量は、IPAに対する質量比で、175ppbであった。
【0075】
(追加精製工程)
低沸蒸留工程により得られた精製IPA水溶液を使用した以外は、実施例1と同様にして、追加精製工程を実施した。これにより得られた精製IPA中のトルエンの含有量は、IPAに対する質量比で、6ppbだった。その他、酢酸イソプロピル、1-メトキシ-2-プロパノールの含有量と併せて、表1に記載した。
【0076】
<比較例2>
(低沸蒸留工程)
廃液受入タンク1に収容されたIPA低含水廃液に対して、水を供給せず、水含有量調整液の代わりに、IPA低含水廃液を使用した以外は、実施例1と同様にして、低沸蒸留工程を実施した。缶出液排出管7から抜き出された精製IPA水溶液中のトルエンの含有量を測定したところ、IPAに対する質量比で、12400ppbであった。また、精製IPA水溶液中の酢酸イソプロピルの含有量は、IPAに対する質量比で、6950ppbであった。
【0077】
(追加精製工程)
低沸蒸留工程により得られた精製IPA水溶液を使用した以外は、実施例1と同様にして、追加精製工程を実施した。これにより得られた精製IPA中のトルエンの含有量は、IPAに対する質量比で、100ppbであった。その他、酢酸イソプロピル、1-メトキシ-2-プロパノールの含有量と併せて、表1に記載した。
【0078】
<実施例2>
(低沸蒸留工程)
廃液受入タンク1に収容されたIPA低含水廃液に対して、水の含有量が70%(IPAの含有量が30%)になるように、廃液受入タンク1に水を供給し、水含有量調整液を得た以外は、実施例1と同様にして、低沸蒸留工程を実施した。缶出液排出管7から抜き出された精製IPA水溶液中のトルエンの含有量を測定したところ、IPAに対する質量比で、0.2ppb以下と検出下限以下であり、低沸蒸留工程により、トルエンの含有量が大きく低減されたことが確認できた。また、精製IPA水溶液中の酢酸イソプロピルの含有量は、IPAに対する質量比で、1.2ppbであった。
【0079】
(追加精製工程)
低沸蒸留工程により得られた精製IPA水溶液を使用した以外は、実施例1と同様にして、追加精製工程を実施した。これにより得られた精製IPA中のトルエンの含有量は、IPAに対する質量比で、0.1ppb以下と検出下限以下であった。その他、1-メトキシ-2-プロパノールの含有量と併せて、表1に記載した。
【0080】
<実施例3>
(低沸蒸留工程)
廃液受入タンク1に収容されたIPA低含水廃液に対して、水の含有量が80%(IPAの含有量が20%)になるように、廃液受入タンク1に水を供給し、水含有量調整液を得た以外は、実施例1と同様にして、低沸蒸留工程を実施した。缶出液排出管7から抜き出された精製IPA水溶液中のトルエンの含有量を測定したところ、IPAに対する質量比で、0.2ppb以下と検出下限以下であり、低沸蒸留工程により、トルエンの含有量が大きく低減されたことが確認できた。また、精製IPA水溶液中の酢酸イソプロピルの含有量は、IPAに対する質量比で、1ppb以下であった。
【0081】
(追加精製工程)
低沸蒸留工程により得られた精製IPA水溶液を使用した以外は、実施例1と同様にして、追加精製工程を実施した。これにより得られた精製IPA中のトルエンの含有量は、IPAに対する質量比で、0.1ppb以下と検出下限以下であった。その他、酢酸イソプロピル、1-メトキシ-2-プロパノールの含有量と併せて、表1に記載した。
【0082】
<実施例4>
(低沸蒸留工程)
低沸蒸留塔2として、60段の棚段を備えるオルダーショウ型低沸蒸留塔を設置した以外は、実施例1と同様にして、低沸蒸留工程を実施した。低沸蒸留塔2の理論段数が40段であることを実験により確認した。缶出液排出管7から抜き出された精製IPA水溶液中のトルエンの含有量を測定したところ、IPAに対する質量比で、0.2ppb以下と検出下限以下であり、低沸蒸留工程により、トルエンの含有量が大きく低減されたことが確認できた。また、精製IPA水溶液中の酢酸イソプロピルの含有量は、IPAに対する質量比で、1ppb以下であった。
【0083】
(追加精製工程)
低沸蒸留工程により得られた精製IPA水溶液を使用した以外は、実施例1と同様にして、追加精製工程を実施した。これにより得られた精製IPA中のトルエンの含有量は、IPAに対する質量比で、0.1ppb以下と検出下限以下であった。その他、酢酸イソプロピル、1-メトキシ-2-プロパノールの含有量と併せて、表1に記載した。
【0084】
<実施例5>
(低沸蒸留工程)
水の含有量が質量基準で20%(IPAの含有量が80%)であり、トルエンの含有量が、IPAに対する質量比で、500ppmであるIPA低含水廃液を使用した以外は、実施例4と同様にして、低沸蒸留工程を実施した。缶出液排出管7から抜き出された精製IPA水溶液中のトルエンの含有量を測定したところ、IPAに対する質量比で、0.2ppb以下と検出下限以下であり、低沸蒸留工程により、トルエンの含有量が大きく低減されたことが確認できた。また、精製IPA水溶液中の酢酸イソプロピルの含有量は、IPAに対する質量比で、1ppb以下であった。
【0085】
(追加精製工程)
低沸蒸留工程により得られた精製IPA水溶液を使用した以外は、実施例1と同様にして、追加精製工程を実施した。これにより得られた精製IPA中のトルエンの含有量は0.1ppb以下と検出下限以下だった。その他、酢酸イソプロピル、1-メトキシ-2-プロパノールの含有量と併せて、表1に記載した。
【0086】
【表1】
なお、表1中、トルエン、酢酸イソプロピルおよび1-メトキシ-2-プロパノールの含有量は、IPAに対する質量比である。
【0087】
表1から、実施例1~5では、IPA低含水廃液からトルエンが高度に除去され、精製IPA水溶液および精製IPAの純度が高いことがわかる。これに対して、比較例1では、水含有量調整液中の水の含有量が50質量%であるため、IPA低含水廃液からトルエンが高度に除去されず、精製IPA水溶液および精製IPAの純度が低い。また、比較例2では、IPA低含水廃液に対して、水を供給せず、水の含有量を調整しなかったため、IPA低含水廃液からトルエンが高度に除去されず、精製IPA水溶液および精製IPAの純度が低い。
【符号の説明】
【0088】
1;廃液受入タンク
2;低沸蒸留塔
3;廃液供給管
4;被蒸留液供給管
5;コンデンサー
6;留出液排出管
7;缶出液排出管
8;水供給管

【要約】
不純物としてトルエンを含むイソプロピルアルコール低含水廃液から精製イソプロピルアルコール水溶液を製造する方法であって、前記イソプロピルアルコール低含水廃液を蒸留塔の原料供給段に供給し、前記蒸留塔の塔頂からトルエンを含む留出液を抜き出すとともに、前記蒸留塔の塔底からイソプロピルアルコールおよび水を含む缶出液を抜き出す低沸蒸留工程を含み、前記蒸留塔の原料供給段における液相中の水の含有量が70質量%以上95質量%以下になるように調整する、精製イソプロピルアルコール水溶液の製造方法を提供する。

図1
図2