(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】外装タイルの劣化性状診断方法及び劣化性状診断装置
(51)【国際特許分類】
G01N 29/04 20060101AFI20241223BHJP
G01N 29/12 20060101ALI20241223BHJP
G01N 29/46 20060101ALI20241223BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20241223BHJP
【FI】
G01N29/04
G01N29/12
G01N29/46
G01H17/00 Z
(21)【出願番号】P 2021025620
(22)【出願日】2021-02-19
【審査請求日】2024-02-19
(31)【優先権主張番号】P 2020026424
(32)【優先日】2020-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501241645
【氏名又は名称】学校法人 工学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】三條場 信幸
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-146409(JP,A)
【文献】特開平11-304773(JP,A)
【文献】特開2019-124691(JP,A)
【文献】特開2019-132658(JP,A)
【文献】特開2007-240395(JP,A)
【文献】乙幡 祐平,外壁タイル剥離診断における機械学習評価に向けた標準化仕上げ材料の打診時反発音の周波数特性分析,WARP(国立国会図書館インターネット資料収集保存事業)のウェブページ[online],2020年06月18日,[2024年11月21日検索], インターネット<URL:https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/13741229/www.ns.kogakuin.ac.jp/~dt40009/tamura/member/obog2018/otohata/2020%98_%95%B6%81i%89%B3%94%A6%81@%8FC%8Em%8Aw%93%E0%8D%5B%8AT0217.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
G01H 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイル外壁に用いられた診断対象の外装タイルに対応する複数の試験体について、打診音の周波数解析を行うことで、前記試験体の打診音に影響する該試験体の材質、縦横の寸法及び厚さ寸法を含む属性情報、並びに前記試験体について下地層への拘束状態を示す拘束情報を含む基礎情報に対応する打診音の固有の特徴周波数を取得し、前記試験体の基礎情報に対する前記特徴周波数の関係を示す関係式を求め、
前記外装タイルについて計測手段を用いて打診音を計測して周波数解析を行うことで、前記外装タイルの打診音の特徴周波数を取得し、
前記外装タイルの材質、縦横の寸法及び厚さ寸法を含む属性情報、並びに前記外装タイルについて下地層への拘束状態を示す拘束情報を含む該外装タイルの基礎情報に対応する前記試験体の基礎情報に対する前記関係式から得られる特徴周波数と、前記外装タイルの特徴周波数とを対比することで、前記外装タイルの劣化性状を診断する外装タイルの劣化性状診断方法。
【請求項2】
前記試験体の基礎情報は、前記試験体の前記下地層への張り付きの劣化状態を示す劣化情報を含み、
前記関係式は、前記試験体の属性情報、前記試験体の拘束情報及び前記試験体の劣化情報に対して求められている請求項1に記載の外装タイルの劣化性状診断方法。
【請求項3】
前記関係式は、前記試験体の特徴周波数をy、前記試験体の属性情報により定まる係数をa、前記試験体の拘束情報により定まる係数をb、及び劣化性状を含む該拘束情報により定まるパラメータをxとする累乗近似式y=ax
bにて示され、
前記外装タイルの劣化性状の診断には、該外装タイルの属性情報及び拘束情報に対応する関係式が用いられる請求項2に記載の外装タイルの劣化性状診断方法。
【請求項4】
下地層へ予め定まった拘束状態とされた外装タイルについて、該外装タイルの打診音に影響する該外装タイルの材質、縦横の寸法及び厚さ寸法を含む属性情報と、該外装タイルの前記下地層への拘束状態を示す拘束情報と、前記外装タイルの前記下地層への張り付きの劣化状態を示す劣化情報と、該外装タイルの打診音の周波数解析により得られる特徴周波数とを学習用データとして、前記属性情報、前記拘束情報、及び前記特徴周波数の組み合わせに対応された前記劣化情報を得るための学習済みモデルを生成し、
タイル外壁に下地層を介して張り付けられている診断対象の外装タイルについて、計測手段を用いて計測された打診音を周波数解析することで得られる特徴周波数、該外装タイルの前記打診音に影響する材質、縦横の寸法及び厚さ寸法を含む属性情報、該外装タイルの前記下地層への拘束状態を示す拘束情報から前記学習済みモデルを用いて該外装タイルについての劣化性状を診断する外装タイルの劣化性状診断方法。
【請求項5】
タイル外壁に用いられた診断対象の外装タイルに対応する複数の試験体について、前記試験体の打診音に影響する該試験体の材質、縦横の寸法及び厚さ寸法を含む属性情報、並びに前記試験体について下地層への拘束状態を示す拘束情報を含む基礎情報と共に、該試験体の打診音の周波数解析を行うことで取得された該試験体の基礎情報に対する固有の特徴周波数の関係を示す関係式が記憶された記憶手段と、
前記外装タイルについて打診音を計測する計測手段と、
前記計測手段により計測された前記外装タイルの打診音を周波数解析することで該外装タイルの固有の特徴周波数を取得し、前記外装タイルの材質、縦横の寸法及び厚さ寸法を含む属性情報、並びに前記外装タイルについて下地層への拘束状態を示す拘束情報を含む該外装タイルの基礎情報に対応する前記試験体の基礎情報に対する前記関係式から得られる特徴周波数と、前記外装タイルの特徴周波数とを対比することで、前記外装タイルの劣化性状を診断する診断手段と、
を含む外装タイルの劣化性状診断装置。
【請求項6】
前記試験体の基礎情報は、前記試験体の前記下地層への張り付きの劣化状態を示す劣化情報を含み、
前記関係式は、前記試験体の属性情報、前記試験体の拘束情報及び前記試験体の劣化情報に対して求められている請求項5に記載の外装タイルの劣化性状診断装置。
【請求項7】
前記関係式は、前記試験体の特徴周波数をy、前記試験体の属性情報により定まる係数をa、前記試験体の拘束情報により定まる係数をb、及び劣化性状を含む該拘束情報により定まるパラメータをxとする累乗近似式y=ax
bにて示され、前記診断手段は、前記外装タイルの属性情報及び拘束情報に対応する関係式を用いる請求項6に記載の劣化性状診断装置。
【請求項8】
タイル外壁に下地層を介して拘束された診断対象の外装タイルについて、打診音を計測する計測手段と、
前記診断対象の外装タイルについて、該外装タイルの前記打診音に影響する材質、縦横寸法及び厚さ寸法を含む属性情報、並びに該外装タイルの前記下地層への拘束状態を示す拘束情報を含む基礎情報と共に、前記打診音を周波数解析することで得られる該外装タイルの特徴周波数を取得する取得部と、
下地層へ予め定まった拘束状態とされた外装タイルについて、該外装タイルの打診音に影響する該外装タイルの材質、縦横の寸法及び厚さ寸法を含む属性情報と、該外装タイルの前記下地層への拘束状態を示す拘束情報と、該外装タイルの前記下地層への張り付きの劣化状態を示す劣化情報と、該外装タイルの打診音の周波数解析により得られる特徴周波数とが関連付けられて学習用データとして記憶された記憶手段と、
前記学習用データから予め学習された学習済みモデルと、前記診断対象の前記外装タイルの基礎情報及び該外装タイルの特徴周波数から該外装タイルについての劣化性状を出力する出力部と、
を含む外装タイルの劣化性状診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイル外壁における外装タイルの劣化性状診断方法及び劣化性状診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の外壁には、建物の躯体保護、耐候性、意匠性などに有効なタイル張りされた外壁(以下、タイル外壁という)がある。タイル外壁に対しては、外壁に張り付けられた各タイル(外装タイル)の劣化や浮きなどの状態(劣化性状)の調査が必要とされている。外装タイルの劣化性状の診断方法には、目視法、打診法及び赤外線画像法などがあるが、精度や診断容易性等の観点から打診法が一般的に用いられている。
【0003】
特許文献1には、打音として擦過音を用いるタイルの劣化診断方法が開示されている。特許文献1では、擦過部材をタイル面に押し付けて移動することでタイルから発せられる擦過音を記録し、記録した擦過音からタイルの劣化を表す異常音が抽出されると、抽出された異常音の周波数解析を行う。
【0004】
タイルの打音に関しては、陶片浮きでは高音域、下地浮きでは低音域の打音となる。ここから、特許文献1では、異常音の周波数成分が所定の閾値以上の場合、タイルの劣化を陶片浮きと判定し、異常音の周波数成分が所定の閾値未満の場合、タイルの劣化を下地浮きと判定している。また、タイルの材質や厚みの違いにより音が変わることから、特許文献1では、タイルの種別ごとに周波数の閾値を定めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、外装タイルから発せられる打音(反発音)は、外装タイルの浮き部分の面積などの劣化性状に影響するのみでなく、外装タイルの材質、サイズ(面積)や厚みなどによっても異なる。このため、タイルの劣化性状の診断には、さらなる改善の余地がある。
【0007】
本発明は、上記事実を鑑みて成されたものであり、外装タイルの劣化性状を精度よく診断できる外装タイルの劣化性状診断方法及び劣化性状診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を含む。
本発明の第1の態様の外装タイルの劣化性状診断方法は、タイル外壁に用いられた診断対象の外装タイルに対応する複数の試験体について、打診音の周波数解析を行うことで、前記試験体の打診音に影響する該試験体の材質、縦横の寸法及び厚さ寸法を含む属性情報、並びに前記試験体について下地層への拘束状態を示す拘束情報を含む基礎情報に対応する打診音の固有の特徴周波数を取得し、前記試験体の基礎情報に対する前記特徴周波数の関係を示す関係式を求め、前記外装タイルについて計測手段を用いて打診音を計測して周波数解析を行うことで、前記外装タイルの打診音の特徴周波数を取得し、前記外装タイルの材質、縦横の寸法及び厚さ寸法を含む属性情報、並びに前記外装タイルについて下地層への拘束状態を示す拘束情報を含む該外装タイルの基礎情報に対応する前記試験体の基礎情報に対する前記関係式から得られる特徴周波数と、前記外装タイルの特徴周波数とを対比することで、前記外装タイルの劣化性状を診断する。
【0009】
第2の態様の外装タイルの劣化性状診断方法は、第1の態様において、前記試験体の基礎情報は、前記試験体の前記下地層への張り付きの劣化状態を示す劣化情報を含み、前記関係式は、前記試験体の属性情報、前記試験体の拘束情報及び前記試験体の劣化情報に対して求められている。
【0010】
第3の態様の外装タイルの劣化性状診断方法は、第2の態様において、前記関係式は、前記試験体の特徴周波数をy、前記試験体の属性情報により定まる係数をa、前記試験体の拘束情報により定まる係数をb、及び劣化性状を含む該拘束情報により定まるパラメータをxとする累乗近似式y=axbにて示され、前記外装タイルの劣化性状の診断には、該外装タイルの属性情報及び拘束情報に対応する関係式が用いられる。
【0011】
第4の態様の劣化性状診断方法は、下地層へ予め定まった拘束状態とされた外装タイルについて、該外装タイルの打診音に影響する該外装タイルの材質、縦横の寸法及び厚さ寸法を含む属性情報と、該外装タイルの前記下地層への拘束状態を示す拘束情報と、前記外装タイルの前記下地層への張り付きの劣化状態を示す劣化情報と、該外装タイルの打診音の周波数解析により得られる特徴周波数とを学習用データとして、前記属性情報、前記拘束情報、及び前記特徴周波数の組み合わせに対応された前記劣化情報を得るための学習済みモデルを生成し、タイル外壁に下地層を介して張り付けられている診断対象の外装タイルについて、計測手段を用いて計測された打診音を周波数解析することで得られる特徴周波数、該外装タイルの前記打診音に影響する材質、縦横の寸法及び厚さ寸法を含む属性情報、該外装タイルの前記下地層への拘束状態を示す拘束情報から前記学習済みモデルを用いて該外装タイルについての劣化性状を診断する。
【0012】
第5の態様の外装タイルの劣化性状診断装置は、タイル外壁に用いられた診断対象の外装タイルに対応する複数の試験体について、前記試験体の打診音に影響する該試験体の材質、縦横の寸法及び厚さ寸法を含む属性情報、並びに前記試験体について下地層への拘束状態を示す拘束情報を含む基礎情報と共に、該試験体の打診音の周波数解析を行うことで取得された該試験体の基礎情報に対する固有の特徴周波数の関係を示す関係式が記憶された記憶手段と、前記外装タイルについて打診音を計測する計測手段と、前記計測手段により計測された前記外装タイルの打診音を周波数解析することで該外装タイルの固有の特徴周波数を取得し、前記外装タイルの材質、縦横の寸法及び厚さ寸法を含む属性情報、並びに前記外装タイルについて下地層への拘束状態を示す拘束情報を含む該外装タイルの基礎情報に対応する前記試験体の基礎情報に対する前記関係式から得られる特徴周波数と、前記外装タイルの特徴周波数とを対比することで、前記外装タイルの劣化性状を診断する診断手段と、を含む。
【0013】
第6の態様の外装タイルの劣化性状診断装置は、第5の態様において、前記試験体の基礎情報は、前記試験体の前記下地層への張り付きの劣化状態を示す劣化情報を含み、前記関係式は、前記試験体の属性情報、前記試験体の拘束情報及び前記試験体の劣化情報に対して求められている。
【0014】
第7の態様の外装タイルの劣化性状診断装置は、第6の態様において、前記関係式は、前記試験体の特徴周波数をy、前記試験体の属性情報により定まる係数をa、前記試験体の拘束情報により定まる係数をb、及び劣化性状を含む該拘束情報により定まるパラメータをxとする累乗近似式y=axbにて示され、前記診断手段は、前記外装タイルの属性情報及び拘束情報に対応する関係式を用いる。
【0015】
第8の態様の外装タイルの劣化性状診断装置は、タイル外壁に下地層を介して拘束された診断対象の外装タイルについて、打診音を計測する計測手段と、前記診断対象の外装タイルについて、該外装タイルの前記打診音に影響する材質、縦横寸法及び厚さ寸法を含む属性情報、並びに該外装タイルの前記下地層への拘束状態を示す拘束情報を含む基礎情報と共に、前記打診音を周波数解析することで得られる該外装タイルの特徴周波数を取得する取得手段と、下地層へ予め定まった拘束状態とされた外装タイルについて、該外装タイルの打診音に影響する該外装タイルの材質、縦横の寸法及び厚さ寸法を含む属性情報と、該外装タイルの前記下地層への拘束状態を示す拘束情報と、該外装タイルの前記下地層への張り付きの劣化状態を示す劣化情報と、該外装タイルの打診音の周波数解析により得られる特徴周波数とが関連付けられて学習用データとして記憶された記憶手段と、前記学習用データから予め学習された学習済みモデルと、前記診断対象の前記外装タイルの基礎情報及び該外装タイルの特徴周波数から該外装タイルについての劣化性状を出力する出力部と、を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明の態様では、外装タイル及び試験体の各々において打診音に影響する材質、縦横寸法、及び厚さ寸法を含む属性情報、拘束情報、及び打診音を周波数解析することで得られる特徴周波数を用い、診断対象の外装タイルの属性情報、拘束情報、及び打診音の特徴周波数から劣化性状を判断する。このため、本発明の態様によれば、タイル外壁における外装タイルの打診音からその外装タイルの劣化性状を精度よく診断できる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態に係る診断装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】(A)は、タイル外壁を示す主要部の断面図、(B)は、打診音に係るタイル外壁の分解構造を示す概略図である。
【
図4】(A)は、診断情報設定処理の概略を示す流れ図、(B)は、診断処理の概略を示す流れ図である。
【
図5】(A)は、試験体を示す概略図、(B)は、試験体の打診音計測を示す概略図である。
【
図6】(A)~(D)は、各々試験体の測定点の打診により得られる打診音波形の概略を示す線図、(E)は、(A)~(D)を重ね合わせた線図である。
【
図7】(A)~(C)は、各々モルタル板、MDF板及びセメント板を試験体とし、サイズ及び厚さごとの打診音波形の概略を示す線図である。
【
図8】(A)~(C)は、各々モルタル板、MDF板及びセメント板におけるアスペクト比W/tに対する特徴周波数Fpの関係式の概略を示す線図、(D)~(F)は、各々モルタル板、MDF板及びセメント板における面積アスペクト比S/tに対する特徴周波数Fpの関係式の概略を示す線図である。
【
図9】面積アスペクト比S/tに対する特徴周波数Fpの関係式の概略を示す線図である。
【
図10】(A)は、面積アスペクト比S/tに対する特徴周波数の関係を示す線図、(B)は、目地深さt1に対する振動係数aの概略を示す線図、(C)は、目地深さt1に対する振幅係数bの概略を示す線図である。
【
図11】変形例に係る診断装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態では、建物のタイル外壁に張り付けられている外装タイルを診断対象として、外装タイルの剥離に影響する浮きの有無、浮き面積などの劣化性状を診断する。本実施形態では、JIS A 5209において規定される陶磁器質タイルやセラミックタイル、JIS A 5905に規定されるMDF板(Medium Density Fiber board)などの繊維板、及びJIS A 5430に規定される繊維強化セメント板などの各種の素材のタイル(外装タイル)が診断対象とされる。また、診断対象の外装タイルは、これらに限らず、所定の平面形状とされた略板状であり、建物などの外壁に張り付けられるものであれば、樹脂などの任意の素材(材質)を適用できる。
【0019】
本実施形態における外装タイルの劣化性状診断には、診断対象の外装タイルについて、材質、縦横寸法及び厚さ寸法を含む属性情報と、外装タイルの下地層への拘束状態を示す拘束情報と、外装タイルを打診することにより得られる反発音としての打診音を示す電気信号(打診音波形)と、を用いる。
【0020】
また、本実施形態における外装タイルの劣化性状の診断には、診断対象の外装タイルそのものではなく、所定の属性情報の複数の外装タイル又は外装タイル状の部材の各々を試験体として用いる。また、本実施形態では、試験体の各々について打診した際の反発音波形(打診音波形)を取得する。本実施形態では、基礎情報として複数の試験体の各々の属性情報、拘束情報及び打診音波形が用いられる。また、試験体の基礎情報には、前記試験体の下地層への張り付きの劣化状態を示す劣化情報を含むことができる。本実施形態では、試験体として、打診音を計測して劣化性状が診断された外装タイルを適用できる。
【0021】
試験体としての外装タイルの属性情報には、試験体の打診音に影響を与える情報として材質及び厚さ寸法(以下、厚さとする)のみならず、サイズ(縦寸法と横寸法)が含まれる。また、診断対象の外装タイルの属性情報には、外装タイルの打診音に影響を与える情報として材質、サイズ(縦寸法と横寸法)及び厚さ寸法(以下、厚さとする)が含まれる。なお、サイズは、目地込み寸法を除いた寸法であることが好ましい。また、材質は、素材及び密度の組み合わせであってもよく、材質は、素材と硬さなどの組み合わせであってもよい。また、材質には、気硬性材料、水硬性材料、焼結材料などタイル又はタイルと同様に用いられる材質が含まれる。
【0022】
本実施形態では、例えば、材質、縦横の寸法、及び厚さ寸法の何れか少なくとも一つの相違が、外装タイル及び試験体の種別にできる。また、本実施形態では、試験体及び外装タイルの下地層への拘束状態を示す拘束情報を用いる。試験体については、種別ごとに拘束情報に応じて定まるパラメータを設定し、設定したパラメータに対する固有の特徴周波数の関係を示す関係式を取得する。さらに、試験体の拘束情報には、劣化性状に関する情報を含むことができる。
【0023】
診断対象の外装タイルについては、属性情報、拘束情報、及び打診音(打診音波形)が用いられる。この際、診断対象の外装タイルの基礎情報には、劣化性状に関する情報が含まれない点で、試験体の基礎情報と異なる。本実施形態では、属性情報、拘束情報及び打診音用い、外装タイルの打診音波形の特徴周波数を属性情報及び拘束情報に対応する関係式を用いて対比(評価)することで、診断対象の外装タイルの劣化性状を評価(診断)する。本実施形態における劣化性状の診断(評価でもよい)には、劣化が生じていない健全状態か否かを含む。
【0024】
外装タイルの打診音に影響を与える情報には、外装タイルの拘束状態を示す目地幅(目地幅寸法、目地込み寸法)、目地深さ寸法、及び下地層(接着層)となるモルタル層の厚さ寸法(外装タイルの裏面のモルタル層の厚さ)などの情報がある。ここから、本実施形態において劣化性状の診断には、診断対象の外装タイルの拘束状態を示す情報としての拘束情報が含まれる。この場合、基礎情報には、各試験体について異なる拘束情報の各々における打診音波形が含まれればよく、基礎情報には、属性情報、拘束情報及び属性情報と拘束情報との組み合わせごとの打診音波形が含まれる。
【0025】
図1には、本実施形態に係る外装タイルの劣化性状診断装置としての診断装置10の概略構成(機能構成)がブロック図にて示され、
図2には、診断装置10のハードウェア構成が概略図にて示されている。また、
図3(A)には、タイル外壁12の主要部が幅方向の一側から見た断面図にて示され、
図3(B)には、タイル外壁12の分割状態が概略図にて示されている。
【0026】
図3(A)に示すように、建物におけるタイル外壁12は、構造材としてのコンクリート層12Aに接着剤やポリマーセメントモルタルなどの下地層により外装タイル(外壁用タイル)16が張り付けられている。本実施形態では、下地層としてモルタル層14が適用された外装タイル16を例に説明する。タイル外壁12の診断には、計測手段を構成する打診手段としてのパルハンマー18等が用いられ、パルハンマー18により外装タイル16を打診することにより、外装タイル16から反発音としての打診音が発せられる。
【0027】
図3(B)に示すように、タイル外壁12は、外装タイル16、モルタル層14及びコンクリート層12Aの三層構造とみなせる。また、外装タイル16の打診時の振動は、モルタル層14による拘束状態が影響し、外装タイル16から発せられる打診音は、少なくともモルタル層14の拘束状態により変化する。
【0028】
外装タイル16は、厚さtのモルタル層14に張り付けられてコンクリート層12Aに張り付けられる。この際、外装タイル16の拘束状態は、外装タイル16のモルタル層14への埋め込み深さである目地深さ(目地深さ寸法)t1、外装タイル16の裏面に接触するモルタル層14の下地厚さ(下地厚さ寸法)t2、及び目地幅(目地幅寸法)jw等により表される。拘束情報には、目地深さt1、下地厚さt2(モルタル層14の厚さtでもよい)、及び目地幅jwが含まれる。
【0029】
目地幅jwに対して目地込み寸法は、jw/2となる。また、拘束情報には、外装タイル16を拘束するモルタル層14のコンクリート層12Aへの接地(接触)面積である拘束面積Sが含まれる。拘束面積Sは、外装タイル16の縦横寸法の各々に外装タイル16の周囲の目地幅jw(目地込み寸法)が含まれる面積となる。また、モルタル層14の厚さtは、目地深さt1及び下地厚さt2の和となる(t=t1+t2)。
【0030】
また、モルタル層14による外装タイル16の拘束状態は、外装タイル16のモルタル層14への張り付け状態の劣化(劣化状態、劣化性状)の影響を受ける。劣化性状には、外装タイル16の裏面とモルタル層14との界面に生じる剥離(界面破壊)やモルタル層14内部に生じる空洞部に起因する浮き(凝集破壊)やモルタル層14のコンクリート層12Aへの接合状態などが含まれる。
【0031】
外装タイル16に対する試験体については、試験体の劣化状態を示す劣化情報を用いることができる。劣化性状(劣化状態)は、例えば、健全(剥離又は剥落を生じさせる浮きが確認されない状態)、モルタル層14の浮き(下地モルタル部浮き)、タイル陶片浮き、モルタル層14内部の空洞による浮き(モルタル内部浮き)、などに分けられる。また、モルタル層14の浮きにおけるモルタル層14のコンクリート層12Aへの接地面積(拘束面積S)に対する浮き面積の割合が小さい(例えば10%以下)場合や、タイル陶片浮きにおける外装タイル16のモルタル層14への接地面積に対する浮き面積の割合が小さい(例えば、10%以下)場合、劣化性状の判断は、剥離や剥落の発現性が低い(健全状態に近い)と判断し得る。試験体の劣化情報には、このような劣化状態を示す情報が用いられる。
【0032】
図2に示すように、診断装置10には、CPU20A、ROM20B及びRAM20Cを備え、これらがアドレスバス、データバス及び制御バス等のバス20Dによって相互に接続された一般的構成のパーソナルコンピュータ(PC)が適用されている。診断装置10には、記憶手段としてのストレージ22が設けられおり、ストレージ22には、HDDや半導体メモリ等の不揮発性の記憶媒体を適用できる。診断装置10では、ストレージ22がバス20Dに接続されている。さらに、診断装置10は、通信インターフェイスを含む入出力インターフェイス24を備え、入出力インターフェイス24がバス20Dに接続されている。
【0033】
入出力インターフェイス24には、表示デバイスとしてのディスプレイ(モニタ)26A、入力デバイスとしてのキーボード26Bやマウス26C、及び出力デバイスとしてのプリンタ(印刷出力装置)28等が接続されている。なお、入出力インターフェイス24には、メモリカードやUSBメモリなどの半導体記憶媒体(記憶デバイス)、CD、DVD等の光記憶媒体等の記録デバイスに対してデータの書き込み及び読み出しが可能な入出力機器が接続されていてもよい(図示省略)。また、診断装置10は、入出力インターフェイス24が、LAN(Local Area Network)等のネットワーク(図示省略)に接続されてもよい(インターネット等の公衆通信回線網に接続されてもよい)。診断装置10は、ネットワークを介してデータサーバや各種の携帯型端末(タブレット端末やノート型PC、何れも図示省略)など等に接続可能にされている。
【0034】
診断装置10では、CPU20AがROM20B及びストレージ22に記憶されたプログラムを読み出し、RAM20Cを作業メモリとしてプログラムを実行することで、各種の機能が実現される。なお、プログラムは、半導体記録媒体や光記録媒体に記録されて診断装置10に提供されることでストレージ22に格納されてもよく、プログラムは、ネットワークを介して提供されてストレージ22に格納されてもよい。
【0035】
診断装置10には、計測手段としての計測器30が用いられており、計測器30が入出力インターフェイス24に接続されている。計測器30には、測音手段及び集音手段としてのマイクロフォン(マイク32)が接続されており、計測器30は、マイク32によって検知される音(打診音)を計測する。また、計測器30は、計測した打診音に応じた波形信号(打診音波形)を診断装置10に出力する。
【0036】
計測器30は、人の可聴域(0Hz~約20,000Hz)の音を検知(計測)できることが好ましいが、少なくとも所定周波数域(本実施形態では、一例として0Hz~10,000Hz)の音(打診音)を計測できればよい。なお、計測器30としては、診断装置10に直接接続されるものに限らず、計測した打診音波形をUSBメモリなどの半導体記録媒体に格納し、この半導体記録媒体が診断装置10に接続(装着)される構成であってもよい。また、計測器30は、無線方式などによってネットワークを介して診断装置10に接続される構成であってもよい。
【0037】
図1に示すように、診断装置10では、ストレージ22にプログラムとして外装タイルの劣化性状を診断するための診断プログラムが記憶されている。診断装置10は、CPU20Aが診断プログラムを実行することで、受付部34、取得部36、周波数解析部38、記憶部40、診断設定部42、性状診断部44及び出力部46の各機能が形成される。
【0038】
受付部34は、ディスプレイ26A、キーボード26B及びマウス26Cによって実現され、ディスプレイ26Aに表示したUI(ユーザインターフェイス)に応じてキーボード26B及びマウス26Cが操作されて入力される情報を受け付ける。また、受付部34は、計測器30によって実現され、計測器30から入力される打診音波形を受け付ける。なお、受付部34は、入出力インターフェイス24がネットワークに接続されることで、ネットワークを介して接続されるデータサーバによっても実現される。
【0039】
受付部34は、基礎情報として、複数の試験体の各々について属性情報、拘束情報、劣化情報、及び打診音(打診音波形)を受け付ける。また、受付部34は、診断対象の外装タイル16について、属性情報及び拘束情報(劣化性状を含まない拘束情報)を受け付けると共に、診断対象の外装タイル16について計測器30等によって計測された打診音波形を受け付ける。なお、受付部34は、試験体の打診音として計測器30等によって計測された打診音(打診音波形)を受け付けてもよい。
【0040】
取得部36は、受付部34において受け付けた各種の情報を取得する。取得部36は、基礎情報として試験体ごとの属性情報、拘束情報、劣化情報、及び打診音波形を取得すると、周波数解析部38が、基礎情報に含まれる打診音波形について周波数解析(FFT:高速フーリエ変換)を行うことで各周波数成分における信号レベル(音圧レベル)を取得し、特徴周波数を設定(抽出)する。本実施形態では、音圧レベルがピークとなる周波数(ピーク周波数)を特徴周波数Fpとして設定する。このような周波数解析部38は、一般的な周波数解析プログラム(高速フーリエ変換プログラム)によって実現される。なお、試験体50の打診音に換えて、試験体50の打診音を周波数解析することにより得られた特徴周波数Fpを受付部34が受け付けてもよく、これにより、試験体50に対する周波数解析部38の処理を省略できる。
【0041】
記憶部40は、ストレージ22によって実現され、記憶部40には、基礎情報が格納される基礎情報記憶部40A、及び基礎情報から得られる関係式が診断情報として格納される診断情報記憶部40Bが設けられている。基礎情報記憶部40Aには、試験体(外装タイル)ごとの基礎情報として、属性情報、拘束情報、及び劣化情報が格納されると共に、診断音波形を周波数解析することにより得られた特徴周波数Fpが属性情報、拘束情報及び劣化情報に関連付けられて格納される。
【0042】
診断設定部42は、基礎情報記憶部40Aに格納された試験体の属性情報、拘束情報、劣化情報及び特徴周波数Fpに基づき、属性情報及び拘束情報によって定まるパラメータに対する特徴周波数Fpの関係を示す関係式を演算して取得する。診断設定部42において演算されることで取得された関係式(又はパラメータ)は、属性情報、拘束情報及び劣化情報に関連付けられて診断情報記憶部40Bに格納される。
【0043】
一方、診断装置10の取得部36は、診断対象の外装タイル16の属性情報、拘束情報及び打診音波形を取得すると、取得した打診音波形を周波数解析部38へ出力する。周波数解析部38では、外装タイル16の打診音波形を周波数解析することで、外装タイル16の特徴周波数(特徴周波数Fps)を取得し、外装タイル16について取得した特徴周波数Fps、属性情報及び拘束情報を性状診断部44へ出力する。
【0044】
性状診断部44は、外装タイル16の属性情報及び拘束情報に対応する関係式を診断情報記憶部40Bから読み出し、関係式及び外装タイル16の特徴周波数Fpsを用い、外装タイル16について劣化性状の判定を行い、判定結果を出力部46から出力する。出力部46は、ディスプレイ26Aやプリンタ28などによって実現される。これにより、診断装置10は、診断対象の外装タイル16について属性情報及び拘束情報が入力されて、外装タイル16の打診音波形が入力されることで、診断対象の外装タイル16についての劣化性状が出力される。
【0045】
次に、本実施の形態の作用として、試験体の基礎情報の取得及び診断装置10における診断対象の外装タイル16についての劣化性状診断を説明する。
外装タイル16や試験体などは、製造時に属性情報が定まり、製造時の属性情報は、外装タイル16(試験体としての外装タイルも同様)のカタログ等によって得られる。試験体の属性情報には、製造時に定まる属性情報を用いることができる。また、基礎情報における拘束情報は、目地深さt1、モルタル層14の下地厚さt2、目地幅jw、及び劣化性状が含まれる。さらに、試験体の基礎情報における打診音波形は、試験体について打診して打診音を計測することで得られる。また、劣化情報は、モルタル層14を予め所望の劣化状態となるようにして試験体を張り付けることで得られる。
【0046】
なお、試験体は、診断対象の外装タイル16と同様の種別で、属性情報の異なる複数を用いることができるが、種別を含む属性情報が互いに異なる複数を適用してもよい。これにより、診断装置10では、種別の異なる各種の外装タイル16の劣化性状の診断が可能になる。
【0047】
診断装置10では、試験体50について基礎情報が入力されると、基礎情報に基づき、各打診音波形について周波数解析が行われ、周波数解析により得られた特徴周波数Fpが属性情報、拘束情報及び劣化情報に関連付けられて基礎情報記憶部40Aに格納される。診断装置10では、基礎情報記憶部40Aに格納された基礎情報を用い、診断対象の外装タイル16について、属性情報、拘束情報及び打診音波形から劣化性状を診断するための診断情報としての関係式を設定するための診断設定が行われる。
図4(A)には、診断設定処理の概略がフローチャートにて示されている。
【0048】
このフローチャートでは、最初のステップ100において基礎情報記憶部40Aに基礎情報として格納されている属性情報及び属性情報ごとの特徴周波数Fpを読み出す。次のステップ102では、属性情報、拘束情報及び特徴周波数Fpに基づいて、診断条件としての関係式を設定する。設定された関係式は、ステップ104において診断情報記憶部40Bに格納される。
【0049】
ここで、試験体50を用いた性状判定のための関係式の設定(抽出)を説明する。
図5(A)には、試験体50(外装タイル16)の一例が表面の平面図、側面図及び裏面の平面図にて示され、
図5(B)には、試験体50に対する打診音の測定の概略が平面視の概略図にて示されている。
【0050】
図5(A)に示すように、試験体50は、縦寸法L、横寸法W及び厚さ(厚さ寸法)dとされており、試験体50には、一例として縦寸法Lと横寸法Wとが同様(L=W)の正方形状(角タイル)が適用されている。なお、拘束情報に目地幅jwが含まれる場合、試験体50の縦寸法L及び横寸法Wは各々目地込み寸法が除かれる。
【0051】
この試験体50では、裏面に凹凸を形成するための複数の脚部(裏足)52が設けられており、脚部52は、長手方向が横方向(縦方向でもよい)に沿い、縦方向(横方向でもよい)に所定間隔で配列されている。ここから、本実施形態では、試験体50に対して縦横の各々を三分割(全体を9分割)した各領域のうち中央部、中央部の横側部分、中央部の縦側部分及び角部を各々測定点50A、50B、50C、50Dとして打診する。
【0052】
図5(B)に示すように、試験体50の打診音の計測は、干渉防止材として試験体50のサイズに比して十分に大きいサイズ(例えば、400mm×400mm)のタイルカーペット54を複数枚(例えば、2枚)重ね、タイルカーペット54の中心部分に試験体50を配置して行う。また、マイク32は、試験体50の表面から所定距離(例えば、100mm)だけ離れた位置に配置している。
【0053】
打診音の計測及び周波数解析には、打音チェッカーPDC-100(コンクリートの浮き・剥離診断機の商品名)を用いている。これにより、試験体50の非拘束状態において、試験体50の属性情報に応じて定まる固有の打診音波形が得られる。なお、打診計測においては、打撃強さが異なることによる量子化誤差を抑制するために、音量ゲージが60%~80%の範囲で測定された音を測定対象(収集対象)としている。
【0054】
図6(A)~
図6(D)には、試験体50として50角タイルを用いた測定結果として横軸が周波数(kHz)、縦軸が音圧レベル(dB)とされ、周波数に対する音圧レベルの変化が線図にて示されている。なお、試験体50には、一例として厚さd=5mm、縦横が50mm×50mm(45mm×45mm、50角タイル)のタイル(JIS A 5209に規定される陶磁器タイルの一つ)を適用している。また、打診音の測定は、各測定点50A~50Dについて5回ずつ行い、打診音には平均値を用いている。さらに、
図6(A)~
図6(D)は、各々測定点50A~50Dの打診音に対応しており、
図6(E)は、各測定点50A~50Dの測定結果を重ね合わせている。
【0055】
ここで、
図6(B)~
図6(E)に示すように、この試験体50(50角タイル)では、特定の周波数において振幅(音圧レベル)のピーク(一次ピーク)が生じており、ピーク周波数を試験体50の特徴周波数Fpとみなすことができる。なお、特徴周波数Fpより低い周波数域における音圧レベル(振幅)の上昇は、試験体50のヤング率に起因して生じるものと考えられる。
【0056】
また、
図6(A)に示すように、試験体50の中央部の測定点50Aにおいては、ピーク周波数における音圧レベルが低いことから、外装タイル16の打診による劣化性状診断には、中央部を除く領域、すなわち、試験体50の中央部よりも周縁部に偏寄した位置(測定点50B~50D)のほうが測定点(打点部)に対する周辺部の拘束が少なく、特徴的な周波数が生じ易い(特徴的な周波数が得易い)ことがわかる。これは、試験体50の硬さなどに起因していると考えられる。
【0057】
次に、属性情報(試験体50としての基礎情報)の異なる複数の試験体50について、打診音の周波数解析を行った。なお、以下の説明では、属性情報及び拘束情報により定まるパラメータと特徴周波数Fpの関係を説明するものであり、実際の診断対象の外装タイル16の劣化性状診断には、基礎情報として診断対象の外装タイル16と同様の属性情報及び拘束情報の試験体50を含む複数の試験体50の属性情報及び打診音波形が用いられる。
【0058】
試験体50には、一例として属性情報のうちで材質の異なる外装タイル状のものとして、モルタル板、MDF板及びセメント板を用いている。
図7(A)には、モルタル板の周波数解析の結果が示され、
図7(B)には、MDF板の周波数解析の結果が示され、
図7(C)には、セメント板の周波数解析の結果が示されている。なお、
図7(A)~
図7(C)の各図では、横軸(x軸)が周波数(kHz)、及び縦軸(y軸)が音圧レベル(dB)とされている。また、モルタル板には、ポルトランドセメント、水及び細骨材が混練りされた水硬性材料(密度が1.8~2.0g/cm
3程度)が用いられている。MDF板には、主に木材などの植物繊維を、ユリア樹脂、フェノール樹脂、ユリア・メラミン共重合樹脂系と同等以上の接着剤により接着し、高圧縮した材料(密度が0.35~0.8g/cm
3程度)が用いられている。セメント板には、ポルトランドセメント、水、ケイ酸質原料及び繊維質主原料を原料に板状にして、オートクレーブ養生したもの(密度が2.5g/cm
3程度)が用いられている。
【0059】
図7(A)では、サイズ(縦寸法L×横寸法W)が100mm×100mmのモルタル板の周波数解析結果が紙面左側に示され、サイズが55mm×55mmのモルタル板の周波数解析結果が紙面右側に示され、紙面左側及び紙面右側の各々において、モルタル板の厚さdが上から順にd=3mm、d=6mm、d=9mmとされている。また、
図7(B)では、サイズ(縦寸法L×横寸法W)が95mm×95mmのMDF板の周波数解析結果が紙面左側に示され、サイズが45mm×45mmのMDF板の周波数解析結果が紙面右側に示され、紙面左側及び紙面右側の各々において、MDF板の厚さdが上から順にd=2.5mm、d=5.5mm、d=9mmとされている。さらに、
図7(C)では、サイズ(縦寸法L×横寸法W)が95mm×95mmのセメント板の周波数解析結果が紙面左側に示され、サイズが45mm×45mmのセメント板の周波数解析結果が紙面右側に示され、紙面左側及び紙面右側の各々において、セメント板の厚さdが上から順にd=3mm、d=6mm、d=10mmとされている。
【0060】
ここで、
図7(A)に示すように、100mm×100mmのモルタル板では、厚さdに対する特徴周波数(ピーク周波数)Fpが、d=3mmにおいてFp=1.39kHz、d=6mmにおいてFp=1.61kHz、d=9mmにおいてFp=2.48kHzとなっている。また、55mm×55mmのモルタル板では、厚さdに対する特徴周波数Fpが、d=3mmにおいてFp=3.14kHz、d=6mmにおいてFp=4.90kHz、d=9mmにおいてFp=6.96kHzとなっている。
【0061】
図7(B)に示すように、95mm×95mmのMDF板では、厚さdに対する特徴周波数Fpが、d=2.5mmにおいてFp=1.36kHz、d=5.5mmにおいてFp=1.78kHz、d=9mmにおいてFp=2.51kHzとなっている。また、45mm×45mmのMDF板では、厚さdに対する特徴周波数Fpが、d=2.5mmにおいてFp=4.00kHz、d=5.5mmにおいてFp=6.98kHz、d=9mmにおいてFp=8.98kHzとなっている。
【0062】
図7(C)に示すように、95mm×95mmのセメント板では、厚さdに対する特徴周波数Fpが、d=3mmにおいてFp=1.77kHz、d=6mmにおいてFp=2.17kHz、d=9mmにおいてFp=3.36kHzとなっている。また、45mm×45mmのセメント板では、厚さdに対する特徴周波数Fpが、d=3mmにおいてFp=5.51kHz、d=6mmにおいてFp=9.15kHz、d=9mmにおいてFp=10.00kHz以上(図示省略)となっている。
【0063】
このように、試験体50では、厚さdが厚くなったりサイズ(L×W)が小さくなったりすることで、打診時の振動(振動周期)が短くなって、打診音が高く感じ、特徴周波数Fpも高くなる。また、試験体50では、厚さdが薄くなったりサイズが大きくなったりすることで、打診時に大きくゆらぐように振動し、打診音が低く感じ、特徴周波数Fpも低くなる。
【0064】
したがって、試験体50では、サイズが小さい場合、サイズが大きい場合に比して特徴周波数Fpが高くなり、タイルの厚さdが厚い場合、タイルの厚さdが薄い場合に比して特徴周波数Fpが高くなるという関係が現れており、これらの関係は、一般的な外装タイルにも現れる。また、試験体0の打診音は、試験体50の劣化性状に応じて変化し、打診音から得られる特徴周波数Fpには、試験体50の劣化性状が現れる。
【0065】
前記したように外装タイル(外装タイル16及び試験体50)の劣化性状には、浮き無し(健全)に加え、外装タイルの下側においてモルタル層14が抜けて外装タイルからコンクリート層12Aに達する空洞部が生じた貫通浮き、モルタル層14のコンクリート層12A側に空洞部が生じた下地モルタル部浮き、モルタル層14の外装タイル側に空洞部が生じたタイル陶片浮き、及びモルタル層14の内部に空洞部(外装タイル及びコンクリート層12Aの何れにも接しない空洞部)が生じたモルタル内部浮きがある。
【0066】
試験体50について、モルタル層14内に発泡スチロールを埋め込むことでモルタル層14内に疑似的な空洞部を形成すると共に、各空洞部の浮き部分の厚さ寸法、及び拘束面積Sに対する割合(面積割合)の各々を複数に変化させ、反発硬度測定器を用いて弾性波速度比を測定した。この試験結果から空洞部の厚さが厚くなるほど、又は面積割合が大きくなるほど欠損量と弾性波速度比との相関が高くなると評価できるとの知見が得られている。なお、測定結果の図示は省略している。
【0067】
また、モルタル層14の上記空洞部の各々が形成された試験体50に対して、引張破壊試験により付着強度を測定した(測定結果は省略)。この際、付着強度は、引張破壊時の最大荷重を試験体50の面積で除した単位面積当たりの付着強度(N/mm2)とした。
【0068】
この結果、空洞部が形成されることで、健全な状態に比して付着強度に低下が生じるが、貫通浮き、下地モルタル部浮き、及びタイル陶片浮きにおいては、面積割合が比較的小さい(例えば10%程度)と判断し得る場合、付着強度の低下が小さく、剥離や剥落などの発現性へ及ぼす影響は小さいという結果が得られる。また、モルタル内部浮きは、空洞部の面積割合が大きくなることで付着強度に低下は見られるが、空隙(空洞部)高さの付着強度への影響は低いと評価できる。
【0069】
また、上記空洞部の各々の面積割合の弾性波速度比と付着強度との関係においては、空洞部がモルタル層14による試験体50(外装タイル)の拘束度を低下させる。このため、空洞部の面積割合が大きくなるほど、外装タイルに衝撃を加えた際に、外装タイル全体が大きい振幅で反射振動を起こし、弾性波速度比(の値)と共に付着強度が低下する。
【0070】
さらに、引張破壊試験における外装タイル(試験体50)の破断状況は、外装タイルとモルタル層14との界面又はモルタル層14のコンクリート層12Aとの界面で剥がれる界面破壊よりも、外装タイル又はモルタル層14の内部(又はコンクリート層12A内部)で破壊が生じる凝集破壊である方が接着状態において良好と評価できる。
【0071】
なお、外装タイルの剥離や剥落が生じた場合、貫通浮きでは、界面破壊の発生率が高く、下地モルタル部浮きでは、モルタル層14とコンクリート層12Aとの間で界面破壊が生じる可能性が高く、タイル陶片浮きでは、空洞部の面積割合が大きくなることで外装タイルとモルタル層14との間での界面破壊が生じる可能性が高い。これに対して、外観での検知が難しいモルタル内部浮きでは、界面破壊に比してモルタル層14の凝集破壊の発生率が高くなる。
【0072】
ここで、本実施形態では、拘束情報に基づいたパラメータとして、モルタル層14の厚さtに対する最長辺の長さ(例えば横寸法W)の比とする厚さ対長さ比(以下、アスペクト比という)W/t、及び厚さtに対する拘束面積Sの比とする厚さ対面積比(以下、面積アスペクト比という)S/tを想定する。なお、厚さt(mm)は、モルタル層14の厚さであり、厚さtは、目地深さt1と下地厚さt2との和としている(t=t1+t2)。また、面積アスペクト比S/tには、拘束面積S(mm2)に対し、厚さtとしてt=t(mm)×100を適用して、数値を簡略に表記できるようにしている。
【0073】
図8(A)~
図8(C)には、パラメータとするアスペクト比W/tに対する特徴周波数Fpの計測結果が示され、計測結果(アスペクト比W/tに対する特徴周波数Fpの変化)から得られる関係式として累乗近似式y=ax
bが破線にて示されている。なお、
図8(A)、
図8(B)及び
図8(C)には、各々モルタル板、MDF板及びセメント板が示されている。また、
図8(A)~
図8(C)では、表記を省略しているが、
図8(A)~
図8(C)では、y軸が特徴周波数Fp(kHz)、x軸がアスペクト比W/tとなっている。
【0074】
図8(A)に示すように、モルタル板では、累乗近似式がy=30.333x
-0.912となり、相関係数R
2=0.8011となっている。また、
図8(B)に示すように、MDF板では、累乗近似式がy=36.574x
-0.923、相関係数R
2=0.7524となり、
図8(C)に示すように、セメント板では、累乗近似式がy=44.937x
-0.951、相関係数R
2=0.6118となっている。
【0075】
また、
図8(D)~
図8(F)には、面積アスペクト比S/tに対する特徴周波数Fpの計測結果、及び計測結果から得られる累乗近似式y(面積アスペクト比S/tに対する特徴周波数Fpの変化)が破線にて示されている。なお、
図8(D)、
図8(E)及び
図8(F)には、各々モルタル板、MDF板及びセメント板が示されている。また、
図8(D)~
図8(F)では、y軸が特徴周波数Fp(kHz)、x軸が面積アスペクト比S/t(但し、(S/t)/100)としている。
【0076】
図8(D)に示すように、モルタル板では、累乗近似式がy=16.67x
-0.758となり、相関係数R
2=0.9688となっている。また、
図8(E)に示すように、MDF板では、累乗近似式がy=16.771x
-0.742、相関係数R
2=0.9614となり、
図8(F)に示すように、セメント板では、累乗近似式がy=22.602x
-0.796、相関係数R
2=0.9425となっている。
【0077】
ここで、アスペクト比W/tでは、モルタル板、MDF板及びセメント板の相関係数R2が約0.61~0.81の範囲(0.61<R2<0.81)となっている。これに対して、面積アスペクト比S/tでは、モルタル板、MDF板及びセメント板の各々の相関係数R2が0.9より大きく(0.9<R2)なっており、面積アスペクト比S/tの相関係数R2がアスペクト比W/tの相関係数R2に比して1に極めて近くなっている。ここから、本実施形態では、外装タイルの属性情報に基づいたパラメータとして、面積アスペクト比S/tを用い、面積アスペクト比S/tの累乗近似式y=axbを関係式として適用する。
【0078】
図9には、外装タイル(外装タイル16及び試験体50)の目地深さt1に対する特徴周波数Fp(特徴周波数Fps)の概略が線図にて示されている。また、
図10(A)には、回帰曲線の概略が線図にて示され、
図10(B)には、目地深さtに対する振動係数aの概略が線図にて示され、
図10(C)には、目地深さtに対する振幅係数bの概略が線図にて示されている。なお、
図10(A)、
図10(B)及び
図10(C)は、
図9に回帰曲線に基づいている。
【0079】
外装タイル(外装タイル16及び試験体50)の劣化性状は、外装タイルの拘束度(外装タイルが拘束される度合い、拘束状態)に影響し、外装タイルの拘束度は、目地深さt1、目路幅jw、及び外装タイルの裏面におけるモルタル層14の下地厚さt2の影響を受ける。また、外装タイル16の拘束度は、拘束面積Sの影響を受ける。外装タイルの厚さdに比して目地深さt1が浅いと剥離防止への安全性が確保できなくなることから、略垂直に立設されたタイル外壁12への外装タイルの張り付け(施工時)には、目地深さt1を外装タイルの厚さdの50%以上とされている。これに対して、例えば、外装タイルの張り付け面が略上方に向けように傾斜されたタイル外壁12への外装タイルの張り付けにおいては、目地深さt1が略ゼロ(t1=0)とすることも可能となっている。
【0080】
ここから、
図9では、厚さd=8(mm)の外装タイルに対して、目地深さt1が、t1=0(mm)、t1=4(mm)、t1=7(mm)を適用し、各目地深さt1について下地厚さt2を複数に設定した計測結果としている。また、下地厚さt2は、t2=2(mm)、3(mm)、4(mm)、5(mm)、6(mm)、8(mm)としている。
【0081】
目地深さt1=0(mm)の回帰曲線は、y=27.427x-1.272、R2=0.9158となっており、目地深さt1=4(mm)の回帰曲線は、y=31.291x-1.125、R2=0.9737となっている。また、目地深さt1=7(mm)の回帰曲線は、y=24.441x-0.93、R2=0.9716となっている。このため、目地深さt1=0(mm)、4(mm)、7(mm)の何れにおいても、相関係数R2が0.91以上と1に極めて近い値が得られる、
【0082】
外装タイルでは、十分な厚さdがある場合(例えば、外装タイル自体に不良がない場合)などおける打診時の振動が材料固有の弾性波となる。
図10(A)には、
図9において、目地厚さt1=4(mm)、7(mm)の回帰曲線を模式的に示している。
【0083】
図10(A)に示すように、回帰曲線は、累乗近似式のxの値である面積アスペクト比S/tがゼロに向かうほど(xの値が限りなく小さくなるほど特徴周波数Fp(Fps)の増加度合い(増加率)が大きくなる。また、外装タイルの打診時の弾性波は、外装タイルの材料固有となり、例えば、外装タイルが硬い素材の材料であれば、軟性の素材の材料に比して係数aは大きくなる。ここから、回帰曲線の累乗近似式y=ax
bにおいて、係数aを(材料固有の)振動係数とし、振動係数aは、外装タイルの素材、縦横の寸法(L、W)、及び厚さdに含む属性情報によって定まる。
【0084】
また、回帰曲線は、面積アスペクト比S/tの増加に比して、累乗近似式のyの値である特徴周波数Fpが低くなる程度が累乗近似式におけるxの累乗に影響し、面積アスペクト比S/tが増加するにしたがって、特徴周波数Fpが低くなる。この際、外装タイルにおいては、振動周波数が高くなって振動の振幅が小さくなり、外装タイルの付着強度が低い(付着力が弱い)と、付着強度が高い(付着力が強い)場合に比して、特徴周波数は低下する。ここから、回帰曲線の累乗近似式y=axbにおいて、係数bを振幅係数とし、振幅係数bは、外装タイルの拘束度が変化することで変化し、振動係数bは、外装タイルの拘束情報及び劣化情報に応じて定まるといえる。
【0085】
一方、相関係数R
2が1に極めて近い値となることで、
図10(B)及び
図10(C)に示すように、振動係数a及び振幅係数bは、各々目地深さt1の一次関数に近似できる。すなわち、目地深さt1の変化に対して、振動係数a及び振幅係数bの各々の変化率を一定とみなすことができる。これにより、振動係数a(
図10(B)参照)は、a=-2.28(t1)+40.4となり、振幅係数b(
図10(C)参照)は、b=0.065(t1)-1.385となる。
【0086】
したがって、回帰曲線を示す累乗近似式y=axbは、属性情報及び拘束情報に対する特徴周波数Fp(Fp=y)を示す関係式に適用できる。また、外装タイル16の劣化性状に応じて拘束状態が変化することで特徴周波数Fpが変化するので、関係式y=axbから得られる特徴周波数Fpと外装タイル16の打診音から得られる特徴周波数を対比することで、外装タイル16の劣化性状を判定できる。
【0087】
診断装置10の診断設定部42では、拘束度を示す面積アスペクト比S/tをパラメータとして、試験体50(外装タイル16)の種別ごとに関係式(累乗近似式)y=axbを取得し、取得した関係式y=axbを診断情報記憶部40Bに格納する。
【0088】
診断装置10では、診断対象の外装タイル16について属性情報及び拘束情報が入力されると共に、打診音が計測されて打診音波形が入力されると、各外装タイル16について、劣化性状診断を行う。
図4(B)には、劣化性状診断処理の概略がフローチャートにて示されている。
【0089】
このフローチャートの最初のステップ110では、診断対象の外装タイル16について入力された属性情報、拘束情報及び打診音波形を取得する。次のステップ112では、打診音波形に対して周波数解析を行うことで、外装タイル16の打診音波形の特徴周波数Fpsを取得する。
【0090】
この後、ステップ114では、外装タイル16の属性情報及び拘束情報に基づき、診断情報としての外装タイル16の種別に対応する(同様の種別の)試験体50から得られた関係式(累乗近似式y=axbの振動係数a及び振幅係数b)を診断情報記憶部40Bから読み出し、ステップ116では、関係式を用いて外装タイル16の特徴周波数Fpsを評価することで、外装タイル16の劣化性状診断を行う。この後、ステップ118において診断結果を出力する。
【0091】
ここで、外装タイル16と試験体50との間では、属性情報、拘束情報及び劣化情報の各々が略同様であることで、外装タイル16の打診音から得られる特徴周波数Fpsと試験体50の打診音から得られる特徴周波数Fpとが略同様となる。すなわち、外装タイル6と試験体50との間では、属性情報、拘束情報と共に、特徴周波数Fpsと特徴周波数Fpとが同様であることで、劣化性状も同様となる。また、試験体50から得られる関係式y=axbは、振動係数aが属性情報により定まり、振幅係数bが拘束情報(又は拘束情報と劣化情報)により定まり、パラメータxが拘束度を示し、パラメータxが面積アスペクト比S/t(アスペクト比L/tでもよい)に応じて変化する。
【0092】
すなわち、診断対象の外装タイル16では、剥離や浮きなどの劣化性状が生じている場合、外装タイル16の面積(サイズ)に対する剥離部分の面積や浮き部分の面積に応じて特徴周波数Fpsが変化する。この際、剥離部分の面積や浮き部分の面積が広くなるにしたがって外装タイル16に対する拘束性が低下し、拘束度に対応する面積アスペクト比S/tが変化する。
【0093】
例えば、外装タイル16を打診した際の打診音は、外装タイル16の拘束状態に応じて変化する。
図3(A)に示すように、外装タイル16の拘束状態は、互いに隣接する外装タイル16の間の間隔である目地幅jw、目地深さt1、下地厚さt2などによって変化する。これにより、例えば、目地深さt1が大きい(厚い)と、目地深さt1が小さい(薄い)場合に比して、拘束度が高くなって外装タイル16の打診音が低く感じ、特徴周波数Fpsも低くなる。ここから、関係式y=ax
bから得られる周波数(特徴周波数)と外装タイル16から得られた特徴周波数Fpsとの対比から外装タイル16の劣化性状を精度よく判定できる。
【0094】
また、関係式y=axbが試験体50の属性情報、拘束情報、劣化情報及び打診音から得られることで、属性情報及び拘束情報が外装タイル16と同様であり、かつ特徴周波数Fpが同様となる関係式y=axbを特定できれば、特定した関係式y=axbに対する劣化情報(劣化性状)が診断対象の外装タイル16の劣化性状と判定できる。
【0095】
診断装置10では、劣化性状について診断結果が得られた外装タイル16に対して、判定結果を確認し、属性情報、拘束情報、劣化情報及び特徴周波数が関連づけられて基礎情報記憶部40Aに格納されることで、新たな外装タイル16の劣化性状の診断に用いることができる。これにより、診断装置10では、属性情報、拘束情報、劣化情報及び特徴周波数が関連づけられて基礎情報記憶部40Aに格納されて蓄積されることで、外装タイル6の劣化性状の診断精度を向上される。
【0096】
なお、以上説明した本実施形態では、関係式として累乗近似関数を適用し、劣化性状に応じて変化するパラメータとして面積アスペクト比S/tを適用した。しかしながら、関係式は、外装タイルの属性情報、拘束情報、劣化情報及び特徴周波数を反映できる形式であればよく、パラメータは、関係式に応じて定められればよい。
【0097】
〔変形例〕
外装タイルでは、属性情報、拘束情報、劣化情報及び特徴周波数の間で互いに相関を有することが明らかとなっている。ここから、診断装置10では、外装タイルの属性情報、拘束情報、劣化情報及び打診音から得られる特徴周波数を用い、診断対象の外装タイル16の属性情報、拘束情報及び特徴周波数から劣化性状を判定した。また、診断装置10では、劣化性状について診断結果が得られた外装タイル16に対して、判定結果を確認し、属性情報、拘束情報、劣化情報及び特徴周波数が関連づけられて基礎情報記憶部40Aに格納されることで、新たな外装タイル16の劣化性状の診断に用いることができる。
【0098】
変形例に係る外装タイルの劣化性状診断装置としての診断装置70は、外装タイルにいて属性情報、拘束情報、劣化情報及び特徴周波数の間で互いに相関を有することを利用する。診断装置70は、各々の劣化情報が予め取得された複数の外装タイル16を用い、外装タイル16の属性情報と、拘束情報と、劣化情報と、打診音を周波数解析することにより得られた特徴周蓮とを学習用データとして蓄積する。この際、診断装置70は、蓄積した学習用データを用いて機械学習することで、属性情報、拘束情報、及び特徴周波数から劣化性状を得るための学習済モデルを生成し、生成した学習済モデルと、診断対象の外装タイル16の属性情報、拘束情報及び特徴周波数から、診断対象の外装タイル16の劣化性状を出力できる構成としてもよい。
【0099】
図11には、診断装置70の概略構成がブック図にて示されている。なお、診断装置70の基本的構成は、診断装置10と同様であり、変形例では、診断装置70について診断装置10と同様お機能部品に診断装置10と同様の符号を付与してその説明を省略する。
【0100】
診断装置70には、記憶部40に学習用データが記憶される学習用データ記憶部40C、及び学習済モデルが記憶される学習済モデル記憶部40Dが形成されている。診断装置70では、予め確認された劣化性状に応じて劣化情報が設定されて受け付けられた外装タイル16について、属性情報、拘束情報、劣化情報及び打診音波形を取得部36が取得する。また、診断装置70では、周波数解析部38が打診音波形を周波数解析することで、特徴周波数Fpを取得し、属性情報、拘束情報、劣化情報及び特徴周波数Fpを関連付けて学習用データとして学習用データ記憶部40Cに格納する。
【0101】
診断装置70の学習部72は、学習用データ記憶部40Cから学習用データを読み出し、属性情報、拘束情報、劣化情報及び特徴周波数Fpの各々の特徴量を解析し、属性情報、拘束情報及び特徴周波数Fpから劣化情報に応じた劣化情報を得るための学習済モデルを生成する。生成された学習済モデルは、学習済モデル記憶部40Dに格納される。
【0102】
一方、診断装置70では、診断対象の外装タイル16について、属性情報、拘束情報及び打診音波形が受け付けられると、取得部36が診断対象の外装タイル16の属性情報、拘束情報及び打診音波形を取得する。周波数解析部38は、取得された打診音波形について周波数解析を行うことで、特徴周波数Fpsを取得する。
【0103】
性状診断部74は、学習済モデル記憶部40Dから学習済モデルを読み出し、診断対象の外装タイル16の属性情報、拘束情報及び特徴周波数Fpsと、学習済モデルとから診断対象の外装タイル16の劣化情報を生成して、診断対象の外装タイル16の劣化性状を評価する。すなわち、診断装置70では、性状診断部74が診断手段として機能して、学習済モデルと、診断対象の外装タイル16の属性情報、拘束情報及び特徴周波数Fpsとから診断対象の劣化性状を評価する。
【0104】
これにより、診断装置70では、診断対象の外装タイル16の劣化状態が、健全、モルタル層14の浮き(下地モルタル部浮き)、タイル陶片浮き、又はモルタル層14内部の空洞による浮き(モルタル内部浮き)の何れであるかを判定できる。また、診断装置70では、予め劣化性状が評価された外装タイル16において、モルタル内部浮きにおけるモルタル層14の浮き面積、タイル陶片浮きにおける外装タイル16の浮き面積などの劣化性状の程度が取得されていることで、診断対象の外装タイル16について、劣化のて度を含めて判定できる。
【0105】
また、診断装置70では、診断対象の外装タイル16について診断結果を評価して劣化情報を設定することで、診断対象だった外装タイル16の属性情報、拘束情報、劣化情報及び特徴周波数Fpsを学習用データとして用いることができる。これにより、診断装置70では、外装タイル16に対する劣化性状の診断を行うことで、学習用データを蓄積できて、診断精度を向上させることができる。
【0106】
このように、診断装置70では、予め劣化性状が把握されて劣化情報が設定された外装タイル16について、属性情報、拘束情報、劣化情報及び特徴周波数Fpが関連付けられて学習用データとして記憶されることで、学習用データから劣化性状を判定するための学習済モデルを生成できる。また、診断装置70では、学習済モデルを用いることで、属性情報、拘束情報及び特徴周波数Fpから診断対象の外装タイル16の劣化性状を適正に診断できる。
【0107】
なお、本実施形態及び変形例では、診断装置10、70に計測器30を接続するようにしている。しかしながら、外装タイルの劣化性状診断装置は、計測手段が一体にされていてもよく、例えば、劣化性状診断装置は、集音手段が一体に設けられ、集音手段によって計測した診断音波形を周波数解析して、劣化性状の診断結果を出力する構成であってもよい。
【0108】
また、本実施形態及び変形例では、診断装置10、70に記憶部40を設けた。しかしながら、記憶手段は、劣化性状診断装置にネットワークを介して接続された記憶用のサーバが用いられ、劣化性状診断装置等の入力装置を介して外装タイル(及び試験体)の属性情報、拘束情報、劣化情報、及び打診音波形(周波数解析されて取得された特徴周波数でもよい)が入力されることで、これらの情報を蓄積されてもよい。これにより、外装タイルの属性情報、拘束情報、劣化情報及び打診音波形について複数の情報を蓄積できて、蓄積された情報に基づいた劣化性状の診断精度を向上できる。
【符号の説明】
【0109】
10、70 診断装置(劣化性状診断装置)
12 タイル外壁
16 外装タイル
30 計測器(計測手段)
32 マイク(計測手段)
38 周波数解析部
40A 基礎情報記憶部(記憶手段)
40B 診断情報記憶部(記憶手段)
40C 学習用データ記憶部(記憶手段)
40D 学習済モデル記憶部(記憶手段)
42 診断設定部
44、74 性状診断部(診断手段、出力部)
46 出力部(診断手段、出力部)
50 試験体
72 学習部
Fp、Fps 特徴周波数
S/t 面積アスペクト比(パラメータ)