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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】加工装置および加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23P 17/00 20060101AFI20241223BHJP
   B24B 23/08 20060101ALI20241223BHJP
   B24B 35/00 20060101ALI20241223BHJP
   B24B 1/04 20060101ALI20241223BHJP
【FI】
B23P17/00 Z
B24B23/08
B24B35/00
B24B1/04 D
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021045965
(22)【出願日】2021-03-19
(65)【公開番号】P2022144800
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2023-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 恵友
(72)【発明者】
【氏名】中崎 達哉
(72)【発明者】
【氏名】小田部 荘司
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-094442(JP,A)
【文献】特開2007-020387(JP,A)
【文献】特表2004-534374(JP,A)
【文献】特開平04-018928(JP,A)
【文献】特開平03-284106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 17/00
B24B 23/08
B24B 35/00
B24B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転および/または振動する加工磁石により被加工物を加工する加工装置であり、
容器内に収容固定された超伝導体と、超伝導体の一方の側に配置される磁束発生手段と、を有する駆動部と、
前記超伝導体の他方の側の空中に保持された状態で前記被加工物の加工位置まで移動し、加工位置において前記被加工物を加工する加工磁石と、を備え、
前記磁束発生手段が、前記加工磁石の動きを制御する手段であ
前記磁束発生手段によって、前記加工磁石を、前記超伝導体に近づく方向および/または前記超伝導体から離れる方向に動かし、前記超伝導体と前記加工磁石との距離を変化させることができる、加工装置。
【請求項2】
回転および/または振動する加工磁石により被加工物を加工する加工装置であり、
容器内に収容固定された超伝導体と、超伝導体の一方の側に配置される磁束発生手段と、を有する駆動部と、
前記駆動部の前記超伝導体の他方の側に配置され、容器内に収容固定された第2超伝導体を有する第2駆動部と、
加工磁石と、を備え、
前記磁束発生手段が、前記加工磁石の動きを制御する手段であり、
前記駆動部と前記第2駆動部とは間隔をあけて互いの超伝導体が対向するように配置され、
前記加工磁石が、前記駆動部と前記第2駆動部との間の空間に保持された状態で前記被加工物の加工位置まで移動し、前記被加工物を加工する、加工装置。
【請求項3】
前記第2駆動部が、前記第2超伝導体を挟んで前記加工磁石と対向する側に第2磁束発生手段を有する、請求項に記載の加工装置。
【請求項4】
前記磁束発生手段が、前記加工磁石と前記超伝導体を挟んで対向に配置される駆動磁石を有し、
前記加工磁石と前記駆動磁石は、互いに対向する面の磁性が異なるように配置され、
前記駆動磁石の動きに連動して前記加工磁石が動かされる、請求項1から3のいずれかに記載の加工装置。
【請求項5】
前記磁束発生手段が、前記駆動磁石を振動運動および/または回転運動させる駆動磁石制御手段を備える、請求項に記載の加工装置。
【請求項6】
前記駆動磁石制御手段が、コイルおよび/または電磁石を有する、請求項に記載の加工装置。
【請求項7】
前記磁束発生手段が、電磁石を有し、
前記電磁石の磁場勾配を用いて前記加工磁石を動かす、請求項1から3のいずれかに記載の加工装置。
【請求項8】
前記加工磁石が、同一面上に2極以上の磁極を有する、請求項1からのいずれかに記載の加工装置。
【請求項9】
前記加工磁石の大きさが、前記駆動磁石より小さい、請求項からのいずれかに記載の加工装置。
【請求項10】
回転駆動される回転台の上に前記駆動部が配置された、請求項1からのいずれかに記載の加工装置。
【請求項11】
前記被加工物の加工は、切削加工、研削加工または表面研磨である、請求項1から10のいずれかに記載の加工装置。
【請求項12】
前記超伝導体は、イットリウムバリウム銅酸化物(YBCO)を含む超伝導バルクである、請求項1から11のいずれかに記載の加工装置。
【請求項13】
容器内に収容固定された超伝導体と、超伝導体の一方の側に配置される磁束発生手段とを有する駆動部、および加工磁石を備え、前記磁束発生手段が、前記加工磁石の動きを制御する手段である加工装置を用いて、被加工物を加工する加工方法であり、
前記容器に冷却材を入れて前記超伝導体を冷却し、前記超伝導体の他方の側の空中に前記加工磁石を捕捉させる工程と、
前記加工磁石を前記超伝導体の他方の側の空中に捕捉させた状態で、前記被加工物の加工位置まで移動させる工程と、
回転および/または振動する前記加工磁石により前記被加工物を加工する工程と、を有し、
前記被加工物を加工する工程が、前記磁束発生手段によって、前記加工磁石を、前記超伝導体に近づく方向および/または前記超伝導体から離れる方向に動かし、前記超伝導体と前記加工磁石との距離を変化させることを含む、加工方法。
【請求項14】
前記磁束発生手段が、前記加工磁石と前記超伝導体を挟んで対向に配置される駆動磁石を有し、
前記加工磁石と前記駆動磁石は、互いに対向する面の磁性が異なるように配置されており、
前記駆動磁石の動きに連動して前記加工磁石が動かされ前記被加工物を加工する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記磁束発生手段が、電磁石を有し、
前記電磁石の磁場勾配を用いて前記加工磁石を動かし前記被加工物を加工する、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導体を利用した加工装置および加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の加工技術として、切削加工、研削加工、ラッピング、ポリシングなどが実用化されている。これらの除去加工を行なうための工作機械として全ての加工法に共通することは、被加工物外部から棒状や円板上の工具を押しつけ表面から加工を進行させることであり、このため、中空加工などは物理的に困難である。
【0003】
一方、特殊加工としては、電気化学加工や粒子ビーム加工、レーザ加工などが実用化されている。これらの加工法に関しても、多種多様な材料の加工は可能であるが、中空加工を行なうことは困難である。
【0004】
中空加工技術に関しては、超伝導援用加工が知られている。これまで、本発明者らは、特許文献1において、保持手段に保持した被加工物に対して回転又は振動する工具を押しつけて被加工物を加工する加工装置において、回転駆動される回転台又は振動駆動される振動台上に設置された断熱容器内に冷却した超伝導体を収容固定し、該超伝導体に隣接して前記工具として機能する磁石を配置し、加工運転中には、前記超伝導体が有するピン留め効果を利用することで、前記磁石を該超伝導体から一定の高さ位置に留まらせて浮上させつつ、回転駆動又は振動駆動される前記超伝導体に追随して前記磁石を駆動し、前記被加工物及び前記超伝導体の少なくとも一方を、超伝導体表面と平行な水平面内方向及び該水平面と直交する垂直方向の少なくともいずれか一方向に移動可能に構成した送り手段を備え、前記被加工物及び前記超伝導体の少なくとも一方の送りを制御することで前記被加工物を加工する加工装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6536953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の装置において、工具として機能する磁石を動かすためには、超伝導体が収容固定された断熱容器全体を動かす必要があり、より高速に振動移動させるためには、さらなる改良が必要であった。また、回転台や振動台が必要なため小型化が困難であった。
【0007】
また、超伝導援用加工では、超伝導を利用し空中に浮上させた工具により加工を行うため、浮上量よりも厚い部材の中空加工が困難になるなど、工具の浮上量により加工(特に、中空加工)が制限される場合があった。また、微細加工のために工具微小化が求められるが、微小磁石を工具として用いた場合に十分な浮上量を得ることが困難になるという問題があった。浮上量など上下方向の動きを制御することで、より自由度の高い加工が可能となる。
【0008】
かかる状況下、本発明の目的は、工具として用いられる加工磁石の浮上量や動きを効率的に制御することができ、より多様な加工をすることができる加工装置および加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 回転および/または振動する加工磁石により被加工物を加工する加工装置であり、容器内に収容固定された超伝導体と、超伝導体の一方の側に配置される磁束発生手段と、を有する駆動部と、前記超伝導体の他方の側の空中に保持された状態で前記被加工物の加工位置まで移動し、加工位置において前記被加工物を加工する加工磁石と、を備え前記磁束発生手段が、前記加工磁石の動きを制御する手段である、加工装置。
<2> 前記磁束発生手段が、前記加工磁石と前記超伝導体を挟んで対向に配置される駆動磁石を有し、前記加工磁石と前記駆動磁石は、互いに対向する面の磁性が異なるように配置され、前記駆動磁石の動きに連動して前記加工磁石が動かされる、前記<1>に記載の加工装置。
<3> 前記磁束発生手段が、前記駆動磁石を振動運動および/または回転運動させる駆動磁石制御手段を備える、前記<2>に記載の加工装置。
<4> 前記駆動磁石制御手段が、コイルおよび/または電磁石を有する、前記<3>に記載の加工装置。
<5> 前記磁束発生手段が、電磁石を有し、前記電磁石の磁場勾配を用いて前記加工磁石を動かす、前記<1>に記載の加工装置。
<6> 前記加工磁石が、同一面上に2極以上の磁極を有する、前記<1>から<5>のいずれかに記載の加工装置。
<7> 前記加工磁石の大きさが、前記駆動磁石より小さい、前記<2>から<4>のいずれかに記載の加工装置。
<8> 回転駆動される回転台の上に前記駆動部が配置された、前記<1>から<7>のいずれかに記載の加工装置。
<9> 前記被加工物の加工は、切削加工、研削加工または表面研磨である、前記<1>から<8>のいずれかに記載の加工装置。
<10> 前記超伝導体は、イットリウムバリウム銅酸化物(YBCO)を含む超伝導バルクである、前記<1>から<9>のいずれかに記載の加工装置。
<11> 前記駆動部の前記超伝導体の他方の側に、容器内に収容固定された第2超伝導体を有する第2駆動部を備え、前記駆動部と前記第2駆動部とは間隔をあけて互いの超伝導体が対向するように配置され、前記加工磁石が、前記駆動部と前記第2駆動部との間の空間に保持された状態で前記被加工物の加工位置まで移動し、前記被加工物を加工する、前記<1>から<10>のいずれかに記載の加工装置。
<12> 前記第2駆動部が、前記第2超伝導体を挟んで前記加工磁石と対向する側に磁束発生手段を有する、前記<11>に記載の加工装置。
【0011】
<13> 容器内に収容固定された超伝導体と、超伝導体の一方の側に配置される磁束発生手段とを有する駆動部、および加工磁石を備え、前記磁束発生手段が、前記加工磁石の動きを制御する手段である加工装置を用いて、被加工物を加工する加工方法であり、前記容器に冷却材を入れて前記超伝導体を冷却し、前記超伝導体の他方の側の空中に前記加工磁石を捕捉させる工程と、前記加工磁石を前記超伝導体の他方の側の空中に捕捉させた状態で、前記被加工物の加工位置まで移動させる工程と、回転および/または振動する前記加工磁石により前記被加工物を加工する工程と、を有する加工方法。
<14> 前記磁束発生手段が、前記加工磁石と前記超伝導体を挟んで対向に配置される駆動磁石を有し、前記加工磁石と前記駆動磁石は、互いに対向する面の磁性が異なるように配置されており、前記駆動磁石の動きに連動して前記加工磁石が動かされ前記被加工物を加工する、前記<13>に記載の方法。
<15> 前記磁束発生手段が、電磁石を有し、前記電磁石の磁場勾配を用いて前記加工磁石を動かし前記被加工物を加工する、前記<13>に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、工具として用いられる加工磁石の浮上量や動きなどを効率的に制御することができ、より多様な加工をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の加工装置の模式的な斜視図である。
図2図1の加工装置における加工磁石および駆動部周辺の縦断面(XZ平面)の模式図である。
図3】本発明の加工装置の別の態様を説明するための模式図である。
図4図3の加工装置における磁束発生手段の一例を示す模式図である。(a)は加工磁石および駆動部周辺の縦断面(XZ平面)の模式図であり、(b)はAA線における断面の模式図である。
図5図3の加工装置における磁束発生手段の一例を示す模式図である。(a)は加工磁石および駆動部周辺の縦断面(XZ平面)の模式図であり、(b)はBB線における断面の模式図である。
図6図3の加工装置における磁束発生手段の一例を示す模式図である。(a)は加工磁石および駆動部周辺の縦断面(XZ平面)の模式図であり、(b)はCC線における断面の模式図である。
図7】本発明の加工装置の別の態様を説明するための模式図である。
図8】本発明の加工装置の別の態様を説明するための模式図である。
図9】本発明の加工方法の一例を示すフロー図である。
図10】磁束発生手段による加工磁石の制御を説明するための模式図である。
図11】磁束発生手段による加工磁石の制御を説明するための模式図である。
図12】本発明の加工装置を用いて研磨したSUS板の写真である。
図13】(a)は研磨前のSUS板の共焦点レーザ顕微鏡写真であり、(b)は研磨後のSUS板の共焦点レーザ顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。また、以下の説明において、同一要素については同符号を付して詳細な説明を省略する場合がある。
【0015】
<加工装置>
本発明は、回転および/または振動する加工磁石により被加工物を加工する加工装置であり、容器内に固定された超伝導体と、超伝導体の一方の側に配置される磁束発生手段と、を有する駆動部と、前記超伝導体の他方の側の空中に保持された状態で前記被加工物の加工位置まで移動し、加工位置において前記被加工物を加工する加工磁石と、を備え、前記磁束発生手段が、前記加工磁石の動きを制御する手段である加工装置(以下、「本発明の加工装置」と記載する場合がある。)に関するものである。
【0016】
本発明の加工装置は、加工磁石を駆動する駆動部に磁束発生手段を設けた構成とすることで、磁束発生手段により加工磁石の浮上量や動きを制御することができる。例えば、超伝導体と磁束発生手段との距離を離した状態では加工磁石の上方に浮上させられる距離(浮上量)または下方に吊り下げられる距離(吊り下げ量)は大きくなる。この状態で加工位置まで移動を行い、加工位置にて磁束発生手段を超伝導体に近づけることで、加工磁石も超伝導体側に近づけることができる。
【0017】
<加工方法>
また、本発明は、容器内に収容固定された超伝導体と、超伝導体の一方の側に配置される磁束発生手段とを有する駆動部、および加工磁石を備えた加工装置を用いて、被加工物を加工する加工方法に関するものであり、本発明の加工装置にて行うことができる。本発明の加工方法は、前記容器に冷却材を入れて前記超伝導体を冷却し、前記超伝導体の他方の側の空中に前記加工磁石を捕捉させる工程と、前記加工磁石を前記超伝導体の他方の側の空中に捕捉させた状態で、前記被加工物の加工位置まで移動させる工程と、回転および/または振動する前記加工磁石により前記被加工物を加工する工程と、を有する。
【0018】
本発明の加工装置およびこれを用いる本発明の加工方法は、空中に浮遊させる、工具として機能する加工磁石を多様に制御できるため、工具の干渉による加工形状の制約を克服でき、中空でかつ選択加工が可能である。したがって、中空加工の技術分野に有効である。さらに、本発明の加工装置および加工方法では、中空加工の微細化や細かい部分での加工を実現することができる。従来の超伝導援用加工では、通常、直径50mm程度のドーナツ型の片面4極の磁石が用いられていた。本発明の加工装置では2極の磁石を用いるなどすることで、サイズのより微小な磁石の選択も可能であり、細かい部分まで加工できる。本発明の加工装置では、磁束発生手段により浮上量の増加が期待できるので、加工磁石として微小磁石を選択することもできる。これにより、例えば、インゴットからの削りだしや飛行機の翼や新幹線の先端など従来では困難な薄型の被加工物に対しても中空加工を実現することができる。
【0019】
なお、本発明の加工装置および加工方法は、加工磁石を外部から押し付け被加工物の表面から加工を進行させる切削加工や、研削加工、ラッピング、ポリシングなどを行うことも可能である。
【0020】
また、直方体形状の加工磁石を振動させれば、角やエッジ部分まで加工が可能となる。回転運動の動作だけでは、角やエッジ部分を加工することができないため、加工磁石に振動運動をさせる必要がある。本発明の加工装置および加工方法では、駆動部全体を動かさなくても磁束発生手段により加工磁石の動きを制御することができる。特に、駆動磁石の動きに連動して加工磁石を動かすことができる。これにより、加工磁石をより効率的に振動させることができ、特に上下方向に加工磁石を効率的に振動させて、角やエッジ部分の加工が可能である。
【0021】
この加工磁石の振動を利用して加工することにより、例えば、3次元プリンターや、アセンブリ後加工形状の多様化が可能である。例えば、アセンブリ後での追加工や、3次元造形の最終仕上げ、中空物の加工など様々な加工形態が可能である。加工ロボットに適用し、必要部分の材料除去なども考えらえる。
【0022】
また、回転駆動される回転台の上に駆動部を配置すれば、加工磁石は振動で加工しながら、ゆっくり回転もできるため均一性の向上が期待できる。
【0023】
また、本発明の加工装置は、回転手段がない構成とすることもできる。この場合、回転台や回転台を回転させるためのモータ等が不要となり、より少ない部材で装置を構成することができるため小型化しやすい。
【0024】
(被加工物)
本発明における被加工物としては、強磁性体以外の全ての材料に適用可能である。例えば、ステンレス(強磁性体のものを除く)やアルミ、銅、真鍮、樹脂類などを対象とすることができる。ここでは切削加工の他、研磨材を用いることにより表面研磨なども可能である。中でも、中空を有する被加工物は好適な加工対象である。上記の通り、中空を有する被加工物の中空(内面)を加工する場合には、中空内の加工位置まで加工磁石を移動させるために、加工磁石は被加工物の厚み以上の浮上量または吊り下げ量が必要となる。本発明の加工装置は、磁束発生手段により加工磁石の浮上量または吊り下げ量を制御できる。加工磁石の浮上量または吊り下げ量が大きくなるように制御することで、厚みのある部材で形成された中空を有する被加工物であっても加工ができる。
【0025】
(実施の態様1)
図1図2に示す加工装置1は、被加工物に対して回転または振動する加工磁石10により被加工物を加工する加工装置である。加工装置1は、工具として機能する加工磁石10と、駆動部120とを備える。
【0026】
[加工磁石10]
加工磁石10は、回転または振動した状態で被加工物に押し付け、被加工物を切削加工や研削加工したり表面研磨する工具として機能するものである。加工磁石10は、超伝導体30の上方に浮いた状態(超伝導体30を挟んで磁束発生手段40と対向する側の空中に保持された状態)で被加工物の加工位置まで移動する。
【0027】
加工磁石10の浮上量L(超伝導体30の表面から加工磁石10までのZ方向の距離)は、超伝導現象によって加工磁石10が空中に保持される力(保持力)と加工磁石10と磁束発生手段40との間に働く引力とのバランスで制御することができる。
【0028】
加工磁石10は、ネオジウム磁石、サマリウムコバルト磁石、異方性フェライト磁石などが好ましい。また、加工磁石10として、磁石表面に加工用の砥粒が固定されたものや、磁石表面に工具形状を有した金属板が貼付けられたもの、磁石表面を刃物形状に加工したものを用いてもよい。
【0029】
加工磁石10の形状は、特に限定されず、ドーナツ形状や、円板状、直方体形状、円柱状などとすることができる。また、2極、4極、或いはそれ以上のS極やN極の磁極を、同一面上に配列したものであってもよい。磁石を複数個同一面上に配置して、この複数個の磁石が相互に働く力を利用することができる。また、周方向にN極とS極が交互に着磁されたドーナツ形状または円板状の多極磁石を用いてもよい。また、片面のみが着磁された片面着磁磁石であってもよいし、両面が着磁された両面着磁磁石であってもよい。
【0030】
加工磁石10の大きさは、被加工物の形状などに応じて適宜選択できる。加工磁石10の大きさは、駆動磁石42よりも小さくしてもよい。一方、加工磁石10が大きすぎると十分な浮上量Lを得ることが困難となる傾向にある。そのため、例えば、加工磁石10の大きさ(XY平面における加工磁石10の最大の長さ)は、駆動磁石42の大きさの1.1倍以下や1倍以下とすることができる。また、本発明の加工装置1では、従来よりも小さい加工磁石を用いることができる。例えば、大きさが3.5mm~25mmや5mm~10mmなどの微小磁石を加工磁石10として用いることができる。
【0031】
[駆動部120]
駆動部120は、超伝導体30と、磁束発生手段である駆動磁石42および電磁石43とが収容された容器20を備える。駆動部120は、超伝導体30および駆動磁石42により加工磁石10の浮上量や動きを制御するものである。また、駆動部120(容器20)は回転手段の回転台52の上に配置されており回転台52をモータ(図示せず)により回転させることで、駆動部120(容器20)も回転する。これにより、超伝導体30および駆動磁石42が回転に連動して、加工磁石10も回転する。回転台52は、超伝導体30の表面と直交する垂直方向(Z方向)に移動可能な垂直移動手段であるZステージ60上に配置されており、Zステージ60は、超伝導体30の表面と平行な水平面内方向(X方向、Y方向)に移動させることのできる車輪70を備える支持台71上に設けられている。そのため、駆動部120とこれに連動して動かされる加工磁石10は垂直方向や水平方向にも移動可能である。なお、回転台52やZステージ60については、加工装置2において説明する。
【0032】
[容器20]
容器20は、円筒型の内部空間22を有する、円筒型の断熱容器である。容器20は、耐冷性のある材質(アルミニウムなど)で形成された内層部23と、この外側を覆う、断熱部材で形成された外層部24を有する。断熱部材は、超伝導体30の冷却状態を維持することができるものであればよく、例えば、発泡スチロールなどを用いることができる。超伝導体30は容器20の上面25(蓋)に接するように保持板26により下から固定されている。駆動磁石42は、容器20の底面28側に配置された電磁石43の上に配置されている。加工中は、容器20の内部空間22に冷却材が満たされており、容器20の内部に収容された超伝導体30は超伝導が発現する温度に冷却され、冷却状態が維持される。冷却材は、超伝導体30を超伝導が発現する温度に冷却できるものであればよい。例えば、液体窒素やコールドガス等が使用できる。
【0033】
なお、超伝導体30の固定方法は特に限定されないので、容器20の内部空間22の上面25(蓋)を形成する部材の下方に超伝導体30を直接固定するなどしてもよい。また、超伝導体30を固定するときは、超伝導体30は容器20の上面25に接するように固定することが好ましい。超伝導体30を容器20の上面25に接するように固定することで、加工磁石10を浮かせたときに超伝導体30が収容される容器20の表面から加工磁石10までのZ方向の距離を大きくでき、より厚い被加工物を加工できる。
【0034】
また、容器20は、円筒型の断熱容器であるが、形状はこれに限定されず任意である。駆動部120は、超伝導体30が収容される空間が冷却温度を維持できる空間(保温空間)であればよいので、駆動磁石42および電磁石43が配置される空間は断熱部材により囲まれた構造としなくてもよい。例えば、超伝導体30が収容される空間のみを断熱部材で覆った容器を用いたり、超伝導体30が収容固定された断熱容器の下方に駆動磁石42および電磁石43を配置する構成(超伝導体30と、駆動磁石42および電磁石43とをそれぞれ別の部材に収容する構成)としたりしてもよい。
【0035】
[超伝導体30]
超伝導体30は第二種超伝導体である。超伝導体には、磁場の反応の違いから第一種超伝導体と第二種超伝導体の二種類がある。第二種超伝導体は、超伝導体内部に磁束が進入している状態のときにピン止め効果が起きる特徴がある。ピン止め(ピニング)効果とは、磁束が第二種超伝導体の内部にあるひずみや不純物などの常伝導部分に捕らえられ、ピンで止めたように動かなくなる現象である。ピン止め効果を利用するため、バルクの超伝導体に重粒子線を照射したり、不純物を導入したりすることでわざと欠陥をつくり、この欠陥に磁束をトラップする手法とか、超伝導薄膜においてはリソグラフィとエッチングによって三角格子状の穴(Anti-dots)を無数に開ける手法などが従来知られている。
【0036】
超伝導体30として好適なものは、イットリウムバリウム銅酸化物(YBCO)を含む超伝導バルクである。YBCOを含む超伝導バルクは、イットリウム系超伝導体YBa2Cu37原料を混ぜ合わせて焼き固めて作製することができ、YBCOからなるものであっても、樹脂などを含浸させたものであってもよい。YBCOを含む超伝導バルクは、コストの安い液体窒素で超伝導化することができるために好ましい。なお、合金や化合物からなる超伝導体、銅酸化物高温超伝導体、ニオブ(Nb)やバナジウム(V)等の第二種超伝導体を用いてもよい。また、超伝導体30は複数の超伝導体バルクを並べて用いてもよい。
【0037】
[磁束発生手段40]
磁束発生手段40は、超伝導体30の下方に配置される、加工磁石10の浮上に影響を与える磁束を発生する機能を有する手段である。磁束発生手段40は、電磁石43と、電磁石43の上に配置された駆動磁石42とを有する。電磁石43は、駆動磁石42と超伝導体30との変位を変化させる手段であり、電磁石43によって、超伝導体30と駆動磁石42との距離を変更可能である。駆動磁石42と超伝導体30との変位の変化により、加工磁石10の変位を変化させ、加工磁石を動かす(例えば、上下方向に移動させる)ことができる。
【0038】
駆動磁石42は、加工磁石10と超伝導体30を挟んで対向に配置され、駆動磁石42と加工磁石10とは互いに対向する面の磁極が異なるように配置される。このような配置とすることで、加工磁石10との間に引力が働く。駆動磁石42は、加工磁石10と同様に、ネオジウム磁石、サマリウムコバルト磁石、異方性フェライト磁石などが好ましい。また、駆動磁石42と加工磁石10とが互いに対向する面は、N極またはS極の1つの磁極からなる面であってもよいし、2極以上の磁極を有する面であってもよい。駆動磁石42と加工磁石10の互いに対向する面が2極以上の磁極を有する場合には、互いに対向する領域の磁極が異なるように配置される。駆動磁石42は、駆動磁石42の加工磁石10と対向する面の磁極が、加工磁石10の駆動磁石42と対向する面の磁極と異なるように配置できればよいので、加工磁石10とは異なる形状であってもよい。例えば、加工磁石10として両面8極の磁石を用いる場合、駆動磁石42は両面8極の磁石を用いてもよいし、片面4極の磁石を用いてもよい。
【0039】
(実施の形態2)
図3に示す加工装置2は、本発明の加工装置の別の態様である。加工装置2は、工具として機能する加工磁石10と、駆動部12と、駆動部12を回転駆動する回転手段50と、Z方向に駆動部12を移動可能とする垂直移動手段60と、X方向および/またはY方向に駆動部12を移動可能とする平面移動手段72とを備える。加工磁石は、加工装置1と同様の磁石を使用可能である。
【0040】
[駆動部12]
駆動部12は、超伝導体30と、磁束発生手段41とが収容された容器20を備える。駆動部12は、磁束発生手段が異なる点以外は加工装置1の駆動部120と同様である。なお、駆動部12では、超伝導体30は、容器20の上面25を形成する部材の下方に直接固定されている。
【0041】
[磁束発生手段41]
磁束発生手段41は、超伝導体30の下方に配置される、加工磁石10の浮上に影響を与える磁束を発生する機能を有する手段である。磁束発生手段41は、加工磁石10と超伝導体30を挟んで対向に配置される駆動磁石42と、駆動磁石42に振動運動および/または回転運動をさせる駆動磁石制御手段44を備えたものとできる。このとき、駆動磁石42と加工磁石10とは、互いに対向する面の磁極が異なるように配置される。このような構成とすることで、駆動磁石42と加工磁石10との間に引力が働き、駆動磁石42の動きに連動して加工磁石10が動き、被加工物を加工することができる。駆動磁石42は、加工装置1と同様である。
【0042】
具体的には、駆動磁石制御手段44は、コイルおよび/または電磁石を備えるものとできる。コイルや電磁石を構成するコイルの線材は特に限定されず、金属材料であってもよいし、超伝導体材料で形成されたコイルを用いてもよい。コイルや電磁石に流す電流の大きさや周波数、電流の向きをアクチュエータ駆動制御部48により制御して、駆動磁石42を上下(Z方向)や左右(X方向)、前後(Y方向)などに振動させたり、回転させたりすることで、駆動磁石42の動きに連動した動きを加工磁石10に与えることができる。
【0043】
コイルや電磁石の配置は駆動磁石42の形状や磁極の配置などによって適宜調整することができる。コイルや電磁石の数は1以上であってもよいし、コイルと電磁石を併用してもよい。例えば、駆動磁石制御手段44は、駆動磁石42の外方に配置されるコイルおよび/または電磁石を備えるものとできる。このとき、各磁極の外方や下方にコイルや電磁石を配置してもよい。また、駆動磁石42を挟んで超伝導体30と対向するようにコイルおよび/または電磁石を配置してもよいし、コイルの径方向の内側に駆動磁石42が位置するようにコイルを配置してもよい。
【0044】
また、磁束発生手段41は、駆動磁石42を用いない方式を採用してもよく、単に電磁石を有する構成としてもよく、電磁石の磁場勾配を用いて加工磁石10を動かしてもよい。この場合は、アクチュエータ駆動制御部48により、電磁石に流す電流の大きさや周波数を制御することで、加工磁石10の浮上に影響を与える磁束を変化させて、加工磁石10の動きを制御する。
【0045】
ここで、磁束発生手段41について、図4図6を参照して詳しく説明するが、コイルや電磁石の配置はこれに限定されない。
【0046】
図4に示す磁束発生手段410は、駆動磁石421が、片面に4極の磁極を有するドーナツ型の両面で8極の磁石であり、駆動磁石制御手段としてZ方向に軸心を有する4つのコイル(コイル441、442、443、444)を備える。駆動磁石421は、中心の空間にガイド46が設けられるが、固定はされておらず、駆動磁石421は上下や左右に移動可能である。各コイルは駆動磁石421の各磁極の外方に配置されている。加工磁石101は駆動磁石421と同じ磁石であり、加工磁石101のN極に対向する部分に駆動磁石421のS極が、加工磁石101のS極に対向する部分に駆動磁石421のN極がくるように配置されている。
【0047】
図5に示す磁束発生手段411は、駆動磁石422が、1つのN極と1つのS極を有するドーナツ型の2極磁石であり、駆動磁石制御手段としてZ方向に軸心を有する1つのコイル445を備える。駆動磁石422はコイル445の径方向の内側に間隔をあけて配置されている。駆動磁石422は、中心の空間にガイド46が設けられるが、固定はされておらず、駆動磁石422は上下や左右に移動可能である。加工磁石102は、駆動磁石422より小さいこと以外は駆動磁石422と同じであり、加工磁石101のS極と駆動磁石422のN極が対向するように配置されている。
【0048】
図6に示す磁束発生手段412は、駆動磁石423が、1つのN極と1つのS極を有するドーナツ型の2極磁石であり、駆動磁石制御手段としてZ方向に軸心を有する1つのコイル446を備える。駆動磁石423は、中心の空間にガイド46が設けられるが、固定はされておらず、駆動磁石423は上下や左右に移動可能である。コイル446は駆動磁石423を挟んで超伝導体30と対向する位置に配置されている。
【0049】
[回転手段50]
図3に示す加工装置2の回転手段50は、容器20を回転駆動する回転台52と、回転台52を回転させるモータ54と、容器20の回転数などを計測するセンサ56とを備える。容器20は、回転台52の上に配置されており、回転制御部58によりモータ54を駆動し、回転台52を回転させることで、容器20も回転する。これにより、超伝導体30および磁束発生手段41が回転に連動して、加工磁石10も回転する。
【0050】
[垂直移動手段60]
図3に示す加工装置2の垂直移動手段60は、Zステージ62と、モータ64と、Z方向(鉛直方向)の移動距離などを計測するセンサ66とを備える。垂直移動制御部68によりモータ64を駆動させ、容器20および回転手段50をZ方向に移動させる。これにより、超伝導体30および磁束発生手段41に連動して、加工磁石10もZ方向に移動する。
【0051】
[平面移動手段72]
図3に示す加工装置2の平面移動手段72は、X-Yステージ73と、モータ74と、平面方向の移動距離などを計測するセンサ76とを備える。平面移動制御部78によりモータ74を駆動させ、容器20、回転手段50および垂直移動手段60をX方向および/またはY方向に移動させる。これにより、超伝導体30および磁束発生手段41に連動して、加工磁石10も移動する。
【0052】
また、回転手段や、水平面内方向(X方向、Y方向)や垂直方向(Z方向)に被加工物を移動することが可能な手段などは、本発明の加工装置の駆動部側ではなく被加工物側に設けてもよい。駆動部とは独立して、被加工物側に設けることのできる移動手段としては、フレームとX-YステージおよびZステージを組み合わせて実現される。加工磁石に対して、X-YステージおよびZステージで送りを制御することで被加工物を加工位置まで移動させたり、加工したりしてもよい。
【0053】
(実施の態様3)
図7に示す加工装置3は、加工磁石10と、駆動部122と、駆動部122の超伝導体30の上方に間隔をあけて配置された第2駆動部14を有する。駆動部122は、容器20の上面(Z軸上側の面)を形成する部材の下方に固定された超伝導体30と、容器20の下方(Z軸下側)に配置された磁束発生手段400とを有する。磁束発生手段400は、上記実施の形態1の磁束発生手段40(図2参照)や上記実施の形態2の磁束発生手段41(図3参照)の構成とすることができる。また、第2駆動部14は、容器21内に固定された超伝導体32を有する。容器21は、容器20と同様に円筒状の中空を有する円筒型の断熱容器であり、加工時には冷却材が充填され、超伝導体32を冷却する。超伝導体32は、容器21の底面27(配置したときにZ軸下側となる面)側に接するように固定されていることが好ましい。超伝導体32は、超伝導体30と同様に第二種超伝導体であればよく、超伝導体30と同じものでも、異なるものであってもよい。また、駆動部120の超伝導体30と第2駆動部14の超伝導体32は加工磁石10を挟んで対向するように配置される。加工磁石10は、駆動部122と第2駆動部14との間に配置される。
この加工装置3を用いて被加工物90の内面を加工する場合には、加工磁石10は、駆動部122と第2駆動部14との間に保持された状態で被加工物90の中空91の内部を進み加工位置まで移動し、被加工物90を加工する。
【0054】
なお、駆動部122の上下を逆向きにして上方に配置し、第2駆動部14の上下を逆さまにして下方に配置した構成としてもよい。
【0055】
(実施の態様4)
図8に示す加工装置4は、加工磁石10と、駆動部122と、駆動部122の超伝導体30の上方に間隔をあけて配置された第2駆動部140を有する。また、駆動部122の超伝導体30と駆動部140の超伝導体30は加工磁石10を挟んで対向するように配置される。第2駆動部140は、駆動部122の上下を逆向きにしたものである。すなわち、加工装置4は、駆動部122が加工磁石10を挟んで鏡面対象となるように配置された装置である。駆動部122と第2駆動部140は、磁束発生手段400が同一の構成であってもよいし、異なる構成であってもよい。第2駆動部140にも磁束発生手段400を設けることで、被加工物90の中空91を加工する場合も加工磁石10を上下から駆動することができ、複雑な加工磁石10の移動ができ、被加工物90に対し加工磁石10の押圧力も強くできる。
【0056】
(加工方法)
次に、加工装置2を用いた加工方法を例として本発明の加工方法について説明する。図9は、本発明の加工方法の一例を示すフロー図である。
【0057】
[S1:加工磁石10を空中で捕捉]
まず、超伝導体30の上方に加工磁石10を浮上させ、上方の空間に加工磁石10を捕捉する。具体的には、保持具を用いて、加工磁石10を超伝導体30(容器20)から離れた所定の高さに保持した状態で、液体窒素などの冷却材を容器20に充填し、超伝導体30を冷却する。その後、加工磁石10から保持具を外して、超伝導体30から離れた位置に加工磁石10を浮かせる。
【0058】
[S2:駆動部12(容器20)の回転]
次に、超伝導体30および磁束発生手段41を回転させる。まず、入力部82に超伝導体30および磁束発生手段41の回転数を入力する。入力されたデータに基づいて主制御部80は回転制御部58に信号を送り、回転制御部58は、回転手段50のモータ54を回転させる。モータ54の回転数などはセンサ56にて計測され一定回転を行うように回転制御部58がモータ54に電流を流す。これにより、回転台52と、超伝導体30および磁束発生手段41が収容された容器20とが入力された回転数で一定回転する。また、加工磁石10は、超伝導体30および磁束発生手段41の回転数に応じた回転を始める。
【0059】
[S3:加工位置への移動]
次いで、被加工物の所望の位置で加工を行うため、浮上させた加工磁石10を被加工物の加工位置まで移動させる。まず、入力部82にて中空を有する被加工物の内部空間の情報を入力する。この情報は、加工磁石10が移動する経路に相当する。なお、被加工物の内部空間の情報は、入力部82からの情報入力ではなく、他のネットワークサービスからの情報を用いてもよい。入力された経路情報に基づいて、主制御部80は平面移動制御部78および垂直移動制御部68に入力された経路情報に基づいた信号を出力する。平面移動制御部78および垂直移動制御部68は、信号に基づきモータ74やモータ64を駆動し、超伝導体30および磁束発生手段41が収容された容器20を移動させ、加工磁石10を被加工物の内部の所望の位置に自動的に移動させることができる。
【0060】
[S4:加工]
所定の位置に加工磁石10が移動したら、浮上させた加工磁石10を回転または振動させながら被加工物に押し付けて加工する。まず、目測等を参考にして、所定の位置に加工磁石10が移動したら入力部82にて駆動磁石42を振動させたりする情報を入力すると、主制御部80はその入力データに基づいて、アクチュエータ駆動制御部48に信号を出し、アクチュエータ駆動制御部48は、その信号に基づいて、駆動磁石制御手段44(コイルや電磁石)に供給する電流の大きさや、電流の周期などを決定し、駆動磁石制御手段44に電流を流す。駆動磁石制御手段44に電流を流すことで駆動磁石42が振動し加工磁石10がそれに伴い振動し、被加工物の内壁の所定部分を切削し加工する。
【0061】
ここで、図10図11を参照して、磁束発生手段410による加工磁石10の制御について説明する。図10に示すように、コイル441、443がN極、コイル442、444がS極となるように各コイルにアクチュエータ駆動制御部48が電流を流すことで、駆動磁石42は全体が、超伝導体30に近づく方向に変位する。この駆動磁石42の変位に連動して、加工磁石10が超伝導体30側に変位する。さらに、図11に示すように、コイル441、443がS極、コイル442、444がN極となるように各コイルにアクチュエータ駆動制御部48が電流を流すことで、駆動磁石42は全体が、超伝導体30から離れる方向に変位させることができる。このとき、駆動磁石42の変位に連動して、加工磁石10が超伝導体30と反対側に変位する。
【0062】
また、コイル441、444がN極、コイル442、443がS極となるように、または、コイル441、444がS極、コイル442、443がN極となるように各コイルに電流を流すことで、駆動磁石42が部分的に超伝導体30に近づくため、駆動磁石42を傾けることも可能である。駆動磁石42が傾くことで、加工磁石10と駆動磁石42が超伝導体30を挟んで鏡面対象となるように加工磁石10が傾けられる。
【0063】
[S5:加工の終了]
所定時間加工した後、あるいは目測や加工音などで切削の完了を確認した場合には、入力部82から、加工停止の信号を入力する。入力部82で入力された停止信号を主制御部80が受け取ると、加工磁石10が被加工物から浮上した状態で停止するように、アクチュエータ駆動制御部48に停止信号を送信し、駆動磁石制御手段44(コイルや電磁石)への電流の供給を停止させる。なお、この状態でも、超伝導体30は、モータ54で回転しているので、加工磁石10は回転している。
【0064】
[S6:加工磁石10の取出し]
次いで、入力部82にて加工終了の情報を入力し、その入力された情報に基づき、主制御部80は、平面移動制御部78および垂直移動制御部68に信号を出力し、入力された経路情報に基づいて、モータ74やモータ64を駆動し、超伝導体30および磁束発生手段41が収容された容器20を移動させ、自動的に、加工磁石10を被加工物の外部に移動させる。さらに、主制御部80は、回転制御部58に信号を出力し、加工磁石10の回転を停止させる。
【0065】
上記の通り、主制御部80は、入力部82に入力された情報に基づいて、アクチュエータ駆動制御部48や、回転制御部58、垂直移動制御部68、平面移動制御部78などの各制御部を制御する。また、入力部82はキーボードが用いられるが、液晶パネルなどを用いてもよい。入力部82では、被加工物の内部の座標、超伝導体30などの回転数を入力可能である。加工磁石10の移動経路などの情報入力されたデータや、超伝導体30の回転数、回転手段50や垂直方向移動手段60、水平方向移動手段72の各種モータの回転状況などは、表示部84に表示される。また、冷却材の状態や、その他加工に有用な情報も表示部84に表示することができる。表示部84は液晶パネルなどが好適に用いられる。
【0066】
また、加工中は、容器20の内部空間22の温度を管理することが好ましい。加工中、冷却制御部86は、冷却材の温度や量を監視しており、各数値が異常値を示した場合には、冷却制御部86は、主制御部80に信号を出す。また、各数値が異常値を示した場合には、主制御部80は、表示部84に冷却機構の不具合が生じた表示を行わせたり、あるいは、アクチュエータ駆動制御部48や回転制御部58に動作の停止信号や、あるいは動作の抑制を行わせる信号送出する。
【0067】
なお、図9に示す加工方法では、S2において回転台52を回転させた後、加工磁石10を加工位置まで移動させるが、加工磁石10を加工位置まで移動させた後、回転台52を回転させてもよい。また、S6において加工磁石10を取り出した後、回転台52の回転を停止させるが、加工磁石10を取り出す前に回転台52の回転を停止させてもよい。また、本発明の加工方法においては、回転台52を回転させることは必須ではないので、S1において加工磁石10を空中に捕捉させた後、S2を行わず、S3の加工位置への移動を行うものとしてもよい。
【0068】
また、垂直移動手段や平面移動手段は、垂直移動手段60や平面移動手段72のような自動制御できるものに限定されないので、手動で垂直方向や水平面内方向に移動させるものとしてもよい。この場合、手動にて駆動部を移動させ、加工位置まで加工磁石を移動させる。また、加工後は、手動にて、加工磁石を被加工物から取り出す。
【0069】
上記の加工方法の説明では、加工磁石10を振動させ加工を行っているが、加工磁石10を回転させ加工を行ってもよい。各加工位置(例えば、コーナー部とコーナー部以外など)で加工磁石10の動きを変えて加工したり、移動時の加工磁石10の浮上量(上下の動き)の制御を磁束発生手段41で行い、回転台52の回転に連動した加工磁石10の回転運動により加工を行うものとしたりするなど、加工形状に応じて適宜調整可能である。また、加工装置2の上下を逆向きにして、加工磁石10を駆動部12の下方(Z軸した側)に吊り下げた状態で加工を行ってもよい。
【0070】
図12は、本発明の加工装置を用いて研磨したSUS板の写真であり、図13(a)は研磨前のSUS板の研磨部分のレーザ顕微鏡写真(測定装置:キーエンス製共焦点レーザ顕微鏡)であり、図13(b)は研磨後のSUS板の研磨部分のレーザ顕微鏡写真(測定装置:キーエンス製共焦点レーザ顕微鏡)である。SUS板の研磨は次のようにして行った。まず、発泡スチロール製の断熱容器の中に液体窒素容器を配置し、液体窒素容器の中にスペーサー(電磁石)を配置する。スペーサーの上に駆動磁石を配置し、駆動磁石の上に超伝導バルク(YBCO)を固定する。駆動磁石はドーナツ形状のネオジウムマグネット(直径48mm)を用いた。超伝導バルクは、15mm角、厚さ10mm程度の直方体形状のものをX方向に2つ、Y方向に2つ並べて配置し用いた。次に、加工磁石を空中に保持した状態で液体窒素容器に液体窒素を注入した。加工磁石としては、表面に紙やすりが貼り付けられた円板形のネオジウムマグネット(直径48mm)を用いた。加工磁石が空中にトラップされた後、スペーサーを調整し、SUS板の表面に、加工磁石の紙やすりの面を押し付けて、SUS板を回転させて、SUS板を研磨した。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の加工装置および加工方法は、生産加工や半導体部材の加工などに用いることができる。特に生産加工分野において、3次元積層造形の後処置やアセンブリ後の中空工程など幅広い分野で適用可能である。
【符号の説明】
【0072】
1、2、3、4 加工装置
10、101、102、103 加工磁石
12、120、122 駆動部
14、140 第2駆動部
20、21 容器
22 内部空間
23 内層部
24 外層部
25 上面
26 保持板
27、28 底面
30、32 超伝導体
40、41、400、410、411、412 磁束発生手段
42、421、422、423 駆動磁石
43 電磁石
44 駆動磁石制御手段
46 ガイド
48 アクチュエータ駆動制御部
50 回転手段
54、64、74 モータ
56、66、76 センサ
58 回転制御部
60 垂直移動手段
62 Zステージ
68 垂直移動制御部
70 車輪
71 支持台
72 平面移動手段
73 X-Yステージ
78 平面移動制御部
80 主制御部
82 入力部
84 表示部
86 冷却制御部
90 被加工物
91 中空
441、442、443、444、445、446 コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13