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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】銅合金線材及び銅合金線材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20241223BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20241223BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20241223BHJP
【FI】
C22C9/00
C22F1/08 C
C22F1/00 625
C22F1/00 630A
C22F1/00 630G
C22F1/00 661A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019529676
(86)(22)【出願日】2019-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2019005812
(87)【国際公開番号】W WO2019181320
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-01-20
【審判番号】
【審判請求日】2023-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2018052554
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】松尾 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】関谷 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】水戸瀬 賢悟
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】粟野 正明
【審判官】池渕 立
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-246802(JP,A)
【文献】特開2017-2337(JP,A)
【文献】国際公開第2007/046378(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C9/00-9/10
C22F1/00-3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.5~6.0質量%のAg、0~1.0質量%のMg、0~1.0質量%のCr及び0~1.0質量%のZrを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる合金組成を有する銅合金線材であって、
前記銅合金線材の長手方向に対し平行な断面を観察した場合に、240nm×360nmの長方形の観察域における、母相のCuに整合して析出している析出物の面積割合(A)が、
下記式(I)
(0.393×x-0.589)%≦A≦(3.88×x-5.81)% (I)
(式(I)中、xはAgの質量%を表す。)
の範囲内であり、
前記母相のCuに整合して析出している前記析出物が、前記銅合金線材の長手方向に沿って繊維状に存在する銅合金線材。
【請求項2】
Mg、Cr及びZrからなる群から選択される少なくとも1成分の含有量の合計が、0.01~3.0質量%である請求項1に記載の銅合金線材。
【請求項3】
前記銅合金線材の長手方向に対し平行な断面を観察した場合に、240nm×360nmの長方形の観察域における、前記母相のCuに整合して析出している前記析出物の平均幅(W)が、
下記式(II)
(8.3×d)nm≦W≦(24.9×d)nm (II)
(式(II)中、dは銅合金線材の線径(mm)を表す。)
の範囲内である請求項1または2に記載の銅合金線材。
【請求項4】
前記銅合金線材の長手方向に対し平行な断面を観察した場合に、240nm×360nmの長方形の観察域における、前記母相のCuに整合して析出している前記析出物の平均長さ(L)が、
下記式(III)
(11.3/d)nm≦L≦(33.8/d)nm (III)
(式(III)中、dは銅合金線材の線径(mm)を表す。)
の範囲内である請求項1乃至のいずれか1項に記載の銅合金線材。
【請求項5】
前記銅合金線材の長手方向に対し平行な断面を観察した場合に、240nm×360nmの長方形の観察域における、前記母相のCuに整合して析出している前記析出物の平均間隔(S)が、
下記式(IV)
(760×x^-2.25)×dnm≦S≦(2300×x^-2.25)×dnm (IV)
(式(IV)中、dは銅合金線材の線径(mm)、xはAgの質量%を表す。)
の範囲内である請求項乃至のいずれか1項に記載の銅合金線材。
【請求項6】
前記母相のCuに対し、前記析出物が同結晶軸方向に整合している請求項1乃至のいずれか1項に記載の銅合金線材。
【請求項7】
原料を溶解する工程と、溶解した前記原料を鋳造して鋳塊を得る工程と、前記鋳塊から得られた銅合金材を第1熱処理する工程と、さらに第2熱処理する工程と、前記第2熱処理をした銅合金材を最終伸線加工して銅合金線材を得る工程とを含む、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の銅合金線材の製造方法であって、
前記第1熱処理工程が、700℃以上の温度で施され、
前記第2熱処理工程が、350~600℃の温度で施され、
前記最終伸線加工工程の加工度loge(A0/A1)(式中、A0は最終伸線加工直前の銅合金材の長手方向に対し直交方向の断面積、A1は最終伸線加工直後の銅合金材の長手方向に対し直交方向の断面積)が2.5以上で施され、
記第1熱処理工程と前記第2熱処理工程との間に、中間伸線加工が施され、
前記中間伸線加工の加工度loge(B0/B1)(式中、B0は中間伸線加工直前の銅合金材の長手方向に対し直交方向の断面積、B1は中間伸線加工直後の銅合金材の長手方向に対し直交方向の断面積)が01.0以下である銅合金線材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、錦糸線等に用いることができる、高い引張強度を有する銅合金線材及び該銅合金線材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、スピーカーには、コイルと振動板が搭載されており、コイルに電流が流れることでコイルが振動し、コイルの振動に連動して振動板が振動することで音が出る仕組みとなっている。前記コイルと基材端子間をつなぐ線材には、錦糸線が用いられている。従って、錦糸線には、音による振動に耐久できる高い振動耐久性が求められる。振動耐久性は寸法効果により一般的に線材を細く加工することにより向上する。その一方で、線材を細径化すると引張耐久力が低下するので、線材製造時の取り扱いが難しくなり、断線やもつれ等が起きて、歩留まりが悪くなるという問題があった。
【0003】
そこで、例えば、引張強度を向上させた合金材として、Ag:8.0~20.0重量%、Cr:0.1~1.0重量%を含有し、残りがCuおよび不可避不純物からなる組成、並びに初晶および共晶が繊維状に配向した素地中にCrの微細な析出物が分散している組織を有する銅合金が提案されている(特許文献1)。
【0004】
しかし、特許文献1では、初晶および共晶が繊維状に配向した素地中にCrの微細な析出物が分散しているにすぎず、Crからなる微細な析出物の析出状態が制御された組織ではない。
【0005】
従って、特許文献1の銅合金では、線材を細径化した場合に、引張強度に改善の余地があり、ひいては、線材製造時の取り扱い性を向上させ、断線やもつれ等を防止して歩留まりを向上させることに改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特願平5-90832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、優れた導電率を損なうことなく、線材を細径化した場合でも、引張強度に優れた銅合金線材及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]1.5~6.0質量%のAg、0~1.0質量%のMg、0~1.0質量%のCr及び0~1.0質量%のZrを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる合金組成を有する銅合金線材であって、
前記銅合金線材の長手方向に対し平行な断面を観察した場合に、240nm×360nmの長方形の観察域における、母相のCuに整合して析出している析出物の面積割合(A)が、
下記式(I)
(0.393×x-0.589)%≦A≦(3.88×x-5.81)% (I)
(式(I)中、xはAgの質量%を表す。)
の範囲内である銅合金線材。
[2]Mg、Cr及びZrからなる群から選択される少なくとも1成分の含有量の合計が、0.01~3.0質量%である[1]に記載の銅合金線材。
[3]前記母相のCuに整合して析出している前記析出物が、前記銅合金線材の長手方向に沿って繊維状に存在する[1]または[2]に記載の銅合金線材。
[4]前記銅合金線材の長手方向に対し平行な断面を観察した場合に、240nm×360nmの長方形の観察域における、前記母相のCuに整合して析出している前記析出物の平均幅(W)が、
下記式(II)
(8.3×d)nm≦W≦(24.9×d)nm (II)
(式(II)中、dは銅合金線材の線径(mm)を表す。)
の範囲内である[3]に記載の銅合金線材。
[5]前記銅合金線材の長手方向に対し平行な断面を観察した場合に、240nm×360nmの長方形の観察域における、前記母相のCuに整合して析出している前記析出物の平均長さ(L)が、
下記式(III)
(11.3/d)nm≦L≦(33.8/d)nm (III)
(式(III)中、dは銅合金線材の線径(mm)を表す。)
の範囲内である[3]または[4]に記載の銅合金線材。
[6]前記銅合金線材の長手方向に対し平行な断面を観察した場合に、240nm×360nmの長方形の観察域における、前記母相のCuに整合して析出している前記析出物の平均間隔(S)が、
下記式(IV)
(760×x^-2.25)×dnm≦S≦(2300×x^-2.25)×dnm (IV)
(式(IV)中、dは銅合金線材の線径(mm)、xはAgの質量%を表す。)
の範囲内である[3]乃至[5]のいずれか1つに記載の銅合金線材。
[7]前記母相のCuに対し、前記析出物が同結晶軸方向に整合している[1]乃至[6]のいずれか1つに記載の銅合金線材。
[8]原料を溶解する工程と、溶解した前記原料を鋳造して鋳塊を得る工程と、前記鋳塊から得られた銅合金材を第1熱処理する工程と、さらに第2熱処理する工程と、前記第2熱処理をした銅合金材を最終伸線加工して銅合金線材を得る工程とを含む、[1]乃至[7]のいずれか1つに記載の銅合金線材の製造方法であって、
前記第1熱処理工程が、700℃以上の温度で施され、
前記第2熱処理工程が、350~600℃の温度で施され、
前記最終伸線加工工程の加工度loge(A0/A1)(式中、A0は最終伸線加工直前の銅合金材の長手方向に対し直交方向の断面積、A1は最終伸線加工直後の銅合金材の長手方向に対し直交方向の断面積)が2.5以上で施される銅合金線材の製造方法。
[9]前記鋳塊を得る工程と前記第1熱処理工程との間、及び/または前記第1熱処理工程と前記第2熱処理工程との間に、伸線加工が施される[8]に記載の銅合金線材の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の態様によれば、1.5~6.0質量%のAg、0~1.0質量%のMg、0~1.0質量%のCr及び0~1.0質量%のZrを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる合金組成を有する銅合金線材について、長手方向に対し平行な断面における240nm×360nmの観察域でのCuに整合して析出している析出物の面積割合(A)が、上記範囲内であることにより、優れた導電率を損なうことなく、線材を細径化した場合でも、引張強度に優れた銅合金線材を得ることができる。
【0010】
このように、線材を細径化した場合でも、引張強度に優れた銅合金線材を得ることができるので、高い振動耐久性が得られつつ、線材製造時の取り扱い性が向上し、また、線材の断線やもつれ等が防止されて歩留まりが向上する。
【0011】
本発明の態様によれば、Mg、Cr及びZrからなる群から選択される少なくとも1成分の含有量の合計が、0.01~3.0質量%であることにより、振動耐久性のさらなる向上と、線材を細径化した場合でも引張強度のさらなる向上に寄与する。
【0012】
本発明の態様によれば、前記母相のCuに整合して析出している析出物が銅合金線材の長手方向に沿って繊維状に存在し、繊維状に存在する前記析出物の平均幅(W)、前記析出物の平均長さ(L)及び/または前記析出物の平均間隔(S)が、上記範囲内であることにより、振動耐久性のさらなる向上と、線材を細径化した場合でも引張強度のさらなる向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】Cuの結晶に対して[010]方向に電子線を入射した際に生じる回折スポットの電子顕微鏡写真である。
図2】銅合金線材の暗視野像を示す電子顕微鏡写真である。
図3】暗視野像のコントラストを二値化したものについて、行毎の白コントラスト部分のピクセル数を算出した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の銅合金線材の詳細について説明する。本発明の銅合金線材は、1.5~6.0質量%のAg、0~1.0質量%のMg、0~1.0質量%のCr及び0~1.0質量%のZrを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる合金組成を有する銅合金線材であり、前記銅合金線材の長手方向に対し平行な断面を観察した場合に、240nm×360nmの長方形の観察域における、母相のCuに整合して析出している析出物の面積割合(A)が、下記式(I)
(0.393×x-0.589)%≦A≦(3.88×x-5.81)% (I)
(式(I)中、xはAgの質量%を表す。)の範囲内である。
【0015】
[銅合金線材の合金組成]
本発明の銅合金線材では、1.5~6.0質量%のAg(銀)を含有している。従って、Agは必須の添加成分である。Agは、母相であるCu(銅)中に固溶した状態、または銅合金材の鋳造の際に第二相粒子として晶析出若しくは銅合金材の鋳造後における熱処理にて第二相粒子として析出した状態(本明細書では、これらを総称して、以下「析出物」ということがある。)で存在し、固溶強化または分散強化の効果を発揮する元素である。なお、第二相とは、Cuの母相(第一相)に対し、異なる結晶構造を有する結晶のことを意味する。
【0016】
Agの含有量が1.5質量%未満になると、固溶強化または分散強化の効果が不十分であり、十分な引張強度及び振動耐久性が得られない。一方で、Agの含有量が6.0質量%超になると、十分な導電率が得られず、また、原料コストも高くなる。上記から、導電率を損なうことなく、線材を細径化した場合でも優れた引張強度を得る点から、Agの含有量は1.5~6.0質量%とする。銅合金線材の用途に応じて引張強度と導電率の要求が異なるが、Ag含有量を1.5~6.0質量%の範囲内で調整することにより、引張強度と導電率のバランスを所望に設定することが可能である。広汎な用途において引張強度と導電率のバランスを得ることができる点から、Ag含有量は1.5~4.5質量%が好ましい。
【0017】
本発明の銅合金線材では、必須の添加成分であるAgに加えて、さらに、任意の添加成分として、Mg(マグネシウム)、Cr(クロム)及びZr(ジルコニウム)からなる群から選択される少なくとも1元素を含有させることができる。
【0018】
Mg、Cr及びZrは、いずれも、主に、母相であるCu中に固溶または第二相の状態として存在し、Agの場合と同様に、固溶強化または分散強化の効果を発揮する元素である。また、Agと共に含有することで、例えば、Cu-Ag-Zr系といった三元系以上の第二相として存在し、さらなる固溶強化または分散強化に寄与することができる。
【0019】
上記から、固溶強化または分散強化の効果を十分に発揮させる点から、Mg、Cr及びZrからなる群から選択される少なくとも1成分の含有量の合計は、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.10質量%以上が特に好ましい。一方で、Mg、Cr及びZrの含有量が、それぞれ、1.0質量%を超えると、用途によっては優れた導電率が得られない場合があるので、Mg、Cr及びZrの含有量は、それぞれ、1.0質量%以下が好ましく、0.7質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が特に好ましい。従って、導電率を損なうことなく、線材を細径化した場合でも優れた引張強度を得る点から、Mg、Cr及びZrからなる群から選択される少なくとも1成分の含有量の合計は、0.01~3.0質量%が好ましく、0.05~2.1質量%がより好ましく、0.10~1.5質量%が特に好ましい。
【0020】
上記した各成分以外の残部は、Cu及び不可避不純物である。Cuは、本発明の銅合金線材の母相である。母相であるCuに、必須の添加成分であるAgが、固溶した状態または析出物として析出した状態で存在している。また、必要に応じて、母相であるCuに、任意の添加成分であるMg、Cr及びZrからなる群から選択される少なくとも1成分が、固溶した状態または析出物として析出した状態で存在している。
【0021】
不可避不純物とは、本発明の銅合金線材の製造工程上、不可避的に含まれうる含有量レベルの不純物を意味する。不可避不純物は、含有量によっては導電率を低下させる要因にもなりうる。従って、導電率の低下を考慮すると、不可避不純物の含有量を抑制することが好ましい。不可避不純物としては、例えば、Ni、Sn、Zn等が挙げられる。
【0022】
[母相のCuに整合して析出している析出物の面積割合(A)]
本発明の銅合金線材では、その長手方向に対し平行な断面を観察した場合に、240nm×360nmの長方形の観察域における、母相のCuに整合して析出している析出物(以下、「整合析出物」ということがある。)の面積割合(A)が、下記式(I)
(0.393×x-0.589)%≦A≦(3.88×x-5.81)% (I)
(式(I)中、xはAgの質量%を表す。)の範囲内である。
【0023】
従って、本発明の銅合金線材では、Agの含有量の変化に応じて整合析出物の面積割合(A)の範囲も変化する。整合析出物の面積割合(A)が、上記範囲内であることにより、優れた導電率を損なうことなく、線材を細径化した場合でも引張強度と振動耐久性に優れた銅合金線材を得ることができる。なお、上記式(I)は、銅合金線材中におけるAg含有量を様々に選択した実験結果から導き出されたものである。
【0024】
整合析出物の面積割合(A)が(0.393×x-0.589)%未満では、整合析出物の析出量が少ないので、整合析出物が銅合金線材の変形に対する妨げとならず、結果として、優れた引張強度と振動耐久性が得られない。一方で、整合析出物の面積割合(A)が(3.88×x-5.81)%超では、整合析出物の長さ、幅等の寸法が大きくなるので、やはり、整合析出物が銅合金線材の変形に対する妨げとならず、結果として、優れた引張強度と振動耐久性が得られない。
【0025】
整合析出物は、主にAgからなるため、整合析出物の前記面積割合(A)はAgの含有量によって変動する。すなわち、Agの含有量が多くなると、面積割合(A)は高くなっていき、Agの含有量が少なくなると、面積割合(A)は低くなっていくと考えられる。整合析出物の面積割合(A)が高くなれば、整合析出物が銅合金線材の変形に対する妨げとなり、結果として、引張強度と振動耐久性が向上する。一方で、整合析出物の面積割合(A)が過剰でも、整合析出物は銅合金線材の変形に対する妨げとはならず、結果として、優れた引張強度と振動耐久性は得られないことが判明した。従って、本発明の銅合金線材では、Agの含有量の範囲だけでなく、整合析出物の面積割合(A)の範囲も調整することで、導電率を損なうことなく、優れた引張強度と振動耐久性を実現した。
【0026】
[母相のCuに整合して析出]
本明細書中、上記「母相のCuに整合して析出」とは、母相であるCuの結晶に対して、析出物が、ある特定の結晶方位を有して析出していることを意味する。析出物が母相であるCuの結晶に対して、ある特定の結晶方位を有して析出しているか否か、すなわち、析出物が整合析出物であるか否かを判断するための手法として、ディフラクションパターンから読み取る方法がある。
【0027】
透過型電子顕微鏡において電子線を試料に照射すると、電子線の回折が生じる。電子線の回折により生じる回折波は、結晶の型、結晶を構成する原子間隔等により強めあったり弱めあったりし、結晶によって特定の回折パターンを作る。例えば、Cuの結晶に対して[010]方向に電子線を入射すると、図1に示すように、正方形の頂点とその中点に回折スポットが生じる。
【0028】
CuとAgは、同じ面心立方格子構造(fcc構造)であるため、回折パターンは同一であるが、格子定数が異なるため、回折スポット間の間隔が異なる。格子定数が大きいほど、回折スポット間の間隔は狭くなるため、Agの回折スポットの方がCuの回折スポットより狭い範囲に現れる。Cu合金中にAg析出物が存在し、Ag析出物の結晶がある特定の向きで整列しているとすると、母相であるCuの回折スポットに対し、やや内側にAg析出物の回折スポットが現れることとなる。Cuの結晶配向とAgの結晶配向が完全に一致している場合、すなわち、Cuの結晶とAgの結晶が共に[100]方向を向いている場合、回折パターンは同一、且つAgの回折パターンがCuの回折パターンのやや内側に現れる。
【0029】
一方で、CuとAgがある特定の向きで整列しているものの、Cuの結晶配向とAgの結晶配向が完全には一致していない場合、例えば、観察軸[100]方向に対して、Cuの結晶は[100]方向を向いているが、Agの結晶は[110]方向を向いている場合、Cuの[100]方向に対応した回折パターンとAgの[110]方向に対応した回折パターンが現れる。
【0030】
上記から、Cuの回折パターンとAgの回折パターンが同一、且つAgの回折パターンがCuの回折パターンのやや内側に現れる場合、またはCuの結晶が所定方向に対応したことを示すCuの回折パターンとAgの結晶が所定方向に対応したことを示すAgの回折パターンとが現れる場合には、Agは、「母相のCuに整合して析出」、すなわち、Ag析出物が母相であるCuと整合していると判断する。
【0031】
しかし、CuとAgが全く整列していない、すなわち、Cuの結晶配向とAgの結晶配向が全く一致していない場合には、Cuに対してAgが様々な結晶方向で配置されていることとなるため、Cuの回折パターンに対し、Agの回折パターンがランダムに形成される。この場合には、Ag析出物が母相であるCuと整合していないと判断する。
【0032】
[母相のCuに整合して析出している析出物の平均幅(W)]
母相のCuに整合して析出している析出物は、銅合金線材の長手方向に沿って繊維状に存在すると、すなわち、銅合金線材の長手方向に対し略平行方向に延在した繊維状物質であると、より効果的である。本発明の銅合金線材では、その長手方向に対し平行な断面を観察した場合に、240nm×360nmの長方形の観察域における、母相のCuに整合して析出した銅合金線材の長手方向に延在した繊維状の整合析出物の平均幅(W)は、特に限定されないが、整合析出物の、銅合金線材の変形に対する妨げ効果がさらに向上する点から、下記式(II)
(8.3×d)nm≦W≦(24.9×d)nm (II)
(式(II)中、dは銅合金線材の線径(mm)を表す。)の範囲内であることが好ましく、(9.0×d)nm≦W≦(24.0×d)nmの範囲内であることが特に好ましい。従って、本発明の銅合金線材の好ましい態様では、線径の変化に応じて整合析出物の好ましい平均幅(W)の範囲も変化する。上記式(II)は、後述する本願実施例における線径と整合析出物の平均幅に基づき特定したものである。
【0033】
整合析出物の平均幅(W)が、(8.3×d)nm未満では、線径に対して整合析出物が細くなり、整合析出物の、銅合金線材の変形に対する妨げ効果が限定される可能性がある。一方で、(24.9×d)nm超では、線径に対して平均幅(W)の寸法が大きくなるので、やはり、整合析出の、銅合金線材の変形に対する妨げ効果が限定される可能性がある。
【0034】
[母相のCuに整合して析出している析出物の平均幅(W)]
本発明の銅合金線材では、その長手方向に対し平行な断面を観察した場合に、240nm×360nmの長方形の観察域における、母相のCuに整合して析出した銅合金線材の長手方向に延在した繊維状の整合析出物の平均長さ(L)は、特に限定されないが、整合析出物の、銅合金線材の変形に対する妨げ効果がさらに向上する点から、下記式(III)
(11.3/d)nm≦L≦(33.8/d)nm (III)
(式(III)中、dは銅合金線材の線径(mm)を表す。)の範囲内であることが好ましく、(14.0/d)nm≦L≦(30.0/d)nmの範囲内であることが特に好ましい。従って、本発明の銅合金線材の好ましい態様では、線径の変化に応じて整合析出物の好ましい平均長さ(L)の範囲も変化する。上記式(III)は、後述する本願実施例における線径と整合析出物の平均長さに基づき特定したものである。
【0035】
整合析出物の平均長さ(L)が、(11.3/d)nm未満では、線径に対して整合析出物が短くなり、整合析出物の、銅合金線材の変形に対する妨げ効果が限定される可能性がある。一方で、(33.8/d)nm超では、線径に対して平均長さ(L)の寸法が大きくなるので、やはり、整合析出の、銅合金線材の変形に対する妨げ効果が限定される可能性がある。
【0036】
[母相のCuに整合して析出している析出物の平均間隔(S)]
本発明の銅合金線材では、その長手方向に対し平行な断面を観察した場合に、240nm×360nmの長方形の観察域における、母相のCuに整合して析出している整合析出物の平均間隔(S)は、特に限定されないが、下記式(IV)
(760×x^-2.25)×dnm≦S≦(2300×x^-2.25)×dnm (IV)
(式(IV)中、dは銅合金線材の線径(mm)、xはAgの質量%を表す。)の範囲内であることが好ましい。従って、本発明の銅合金線材の好ましい態様では、線径とAg含有量の変化に応じて整合析出物の好ましい平均間隔(S)の範囲も変化する。上記式(IV)は、銅合金線材中におけるAg含有量を様々に選択した実験結果から導き出されたものである。
【0037】
整合析出物の平均間隔(S)が、(760×x^-2.25)×dnm未満では、線径及びAg含有量に対して、整合析出物の間隔が狭くなり、整合析出物の、銅合金線材の変形に対する妨げ効果が限定される可能性がある。一方で、(2300×x^-2.25)×dnm超では、線径及びAg含有量に対して、整合析出物の間隔が広くなり、やはり、整合析出物の、銅合金線材の変形に対する妨げ効果が限定される可能性がある。
【0038】
[整合析出物が同結晶軸方向に整合していること]
また、本発明の銅合金線材では、母相のCuに対して、整合析出物が同結晶軸方向に整合していることが好ましい。「同結晶軸方向に整合している」とは、母相であるCuの結晶と主にAgからなる整合析出物の結晶とが同じ結晶軸方向に整列していることを意味する。このような結晶配列を有することにより、母相であるCuの結晶と整合析出物の結晶との間にひずみが生じる。このひずみが、銅合金線材が変形する際の妨げとなるため、銅合金線材にさらに高い引張強度が付与される。
【0039】
母相であるCuに対して整合析出物が同結晶軸方向に整合しているか否かは、以下の方法にて判断することができる。まず、サンプルとなる銅合金線材を集束イオンビーム(FIB)法にて薄膜にし、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、所定の観察域(例えば、240nm×360nmの長方形からなる観察域)を観察する。サンプルは長手方向に対して平行に切り出し、TEM観察の際には長手方向を横に配置して観察する。
【0040】
次に、析出物が整合に析出していることを確認するため、上記の通り、回折パターンを取得する。この時、回折パターンはどの晶帯軸入射でも構わず、例えば、一般的にパターンが分かりやすい[110]晶帯軸入射にて撮像する。母相であるCuの結晶による回折パターンが最も輝度が高く観察されるが、その他にも回折パターンが観察され、回折パターンの型がCuと同一でスポット間隔がやや狭い回折パターンを確認することで、析出物が整合に析出していることを確認する。
【0041】
次に、サンプルの角度を変えて母相であるCuに対して[100]または[111]晶帯軸入射にて回折パターンを取得し、同様に回折パターンの型がCuと同一でスポット間隔がやや狭い回折パターンが存在するか否かを確認する。上記2軸における晶帯軸入射において、いずれもCuと同一である回折パターンであることが確認できた場合に、母相であるCuに対して整合析出物が同結晶軸方向に整合していると評価する。
【0042】
[本発明の銅合金線材の製造方法]
次に、本発明の銅合金線材の製造方法について説明する。本発明の銅合金線材の製造方法は、(a)原料を溶解する工程と、(b)溶解した原料を鋳造して鋳塊を得る工程と、(c)鋳塊から得られた銅合金材を第1熱処理する工程と、(d)第1熱処理する工程後、さらに第2熱処理する工程と、(e)第2熱処理をした銅合金材を、最終伸線加工であって、その加工度loge(A0/A1)(式中、A0は最終伸線加工直前の銅合金材の長手方向に対し直交方向の断面積、A1は最終伸線加工直後の銅合金材の長手方向に対し直交方向の断面積)が2.5以上で施される最終伸線加工を行って、銅合金線材を得る工程と、を含む。
【0043】
(a)原料を溶解する工程と、(b)溶解した原料を鋳造して鋳塊を得る工程は、公知の一般的な方法にて実施することができる。なお、(a)工程にて用いる原料の配合は、Agが1.5~6.0質量%、Mgが0~1.0質量%、Crが0~1.0質量%、Zrが0~1.0質量%、残部がCuとなるように、各成分を所定割合にて配合する。
【0044】
(c)銅合金材を第1熱処理する工程の熱処理温度は700℃以上である。第1熱処理工程の温度が700℃未満では、最終伸線加工中において主にAgからなる析出物の繊維状化が難しくなり、優れた引張強度と振動耐久性が得られないことがある。第1熱処理工程の温度の下限値は、より優れた引張強度を得る点から750℃が好ましく、800℃が特に好ましい。一方で、第1熱処理工程の温度の上限値は、特に限定されないが、900℃が好ましい。
【0045】
また、第1熱処理工程の熱処理時間は、特に限定されないが、後の工程において析出物を多く分散させ、繊維状化させる点から0.1~10時間が好ましく、0.5~5時間が特に好ましい。
【0046】
第1熱処理工程後、銅合金材を冷却して、(d)さらに第2熱処理を実施する。第2熱処理する工程の熱処理温度は、350~600℃である。第2熱処理工程の熱処理温度が350℃未満または600℃超では、主にAgからなる析出物が十分に析出されず、優れた引張強度と振動耐久性が得られないことがある。第2熱処理工程の熱処理時間は、特に限定されないが、0.5~20時間が好ましく、1.0~15時間が特に好ましい。
【0047】
第2熱処理工程後、銅合金材を冷却して、(e)最終伸線加工を実施する。最終伸線加工では、加工度loge(A0/A1)(式中、A0は最終伸線加工直前の銅合金材の長手方向に対し直交方向の断面積、A1は最終伸線加工直後の銅合金材の長手方向に対し直交方向の断面積)が2.5以上で施される。最終伸線加工の上記加工度が、2.5未満では、整合析出物を十分に伸長、繊維化できずに、優れた引張強度と振動耐久性が得られないことがある。
【0048】
最終伸線加工の上記加工度は、整合析出物を十分に伸長、繊維化させる点から2.5以上であればよく、加工度が高いほど引張強度が優れる。従って、最終伸線加工の上記加工度の上限値は、特に限定されない。
【0049】
また、必要に応じて、(b)鋳塊を得る工程と(c)第1熱処理工程との間、及び/または(c)第1熱処理工程と(d)第2熱処理工程との間に、中間伸線加工が施されてもよい。中間伸線加工の加工度は、特に限定されないが、最終伸線加工における加工度を大きくする点から、加工度loge(B0/B1)(式中、B0は中間伸線加工直前の銅合金材の長手方向に対し直交方向の断面積、B1は中間伸線加工直後の銅合金材の長手方向に対し直交方向の断面積)は低い方が好ましいが、整合析出物を十分に析出させ、最終伸線加工において整合析出物を十分に伸長、繊維化させるためには、中間伸線加工の上記加工度は高い方が好ましい。上記から、両者のバランスの点から上記加工度は0~1.0が好ましい。
【0050】
本発明の銅合金線材は、特に、上記した(c)第1熱処理工程と(d)第2熱処理工程を施すことにより、優れた導電率を損なうことなく、線材を細径化した場合でも、引張強度に優れた銅合金線材を製造することができる。
【実施例
【0051】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0052】
実施例1~40
下記表1の合金組成となるように原料(無酸素銅、銀、マグネシウム、クロムおよびジルコニウム)を黒鉛坩堝に投入し、坩堝内の炉内温度を1250℃以上に加熱して原料を溶解した。溶解には、抵抗加熱式の加熱炉を用いた。坩堝内の雰囲気は酸素が溶銅中に混入しないよう、窒素雰囲気とした。さらに、1250℃以上に3時間以上保持した後、冷却速度を500~1000℃/sに設定し、黒鉛製の鋳型で直径(φ)約10mmのサイズの鋳塊を鋳造した。鋳造開始後は、上記原料を適宜投入することにより連続鋳造を行った。なお、原料にクロムを含む場合(実施例23、27、28、31、33及び34)には、坩堝内の温度を1600℃以上に保持して原料を溶解した。
【0053】
次に、上記のようにして得られた鋳塊を、下記表1に示す温度及び時間にて、第1熱処理を実施した。第1熱処理工程後、φ8mmまで試験材に中間伸線加工を施し、さらに、下記表1に示す温度及び時間にて、第2熱処理を実施した。第2熱処理工程後、下記表1に示す線径まで所定の加工度にて最終伸線加工を施し、銅合金線材を得た。なお、第1熱処理及び第2熱処理は、窒素雰囲気中のバッチ炉にて行った。
【0054】
比較例1~7
比較例1、4~7について、いずれもφ約8mmのサイズの鋳塊を鋳造し、中間伸線加工は行わずに、最終伸線加工にてφ0.1mmまで伸線加工を施したこと以外は、上記実施例と同様の工程にて、且つ下記表1に示す製造条件にて銅合金線材を得た。比較例2は、第1熱処理及び第2熱処理を実施しなかったこと以外は、比較例1、4~7と同様の工程にて銅合金線材を得た。また、比較例3は、第2熱処理を実施しなかったこと以外は、上記比較例1、4~7と同様の工程にて銅合金線材を得た。従って、比較例3ではφ8mmにて第1熱処理を施した。
【0055】
[母相のCuに整合して析出している析出物の観察方法]
実施例、比較例における銅合金線材をFIB法にて薄膜にし、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、断面方向(短手方向)の長さ240nm×長手方向の長さ360nmの長方形からなる観察域を観察した。なお、銅合金線材は長手方向に対して平行に切り出し、TEM観察の際には長手方向を横に配置して観察した。次に、析出物が整合に析出していることを確認するため、回折パターンを取得した。この時、回折パターンは、一般的にパターンが分かりやすい[110]晶帯軸入射にて撮像した。母相であるCuの結晶による回折パターンが最も輝度が高く観察されるが、その他にも回折パターンが観察され、回折パターンの型とスポット間隔の計測によりその回折パターンの析出物がAgであることを同定した。
【0056】
次に、上記にて得られた析出物の回折パターンの回折波のみを選択し観察できるように対物絞りを入れて観察すると、その回折パターンを形成する回折波を生じる部分(すなわち、整合析出物)のみが明るく観察される。これを暗視野像といい、実施例、比較例における銅合金線材について、この暗視野像(図2に示す)を撮像した。上記にて得られた暗視野像から母相であるCuに整合に析出している析出物(整合析出物)の面積割合、平均幅、平均長さ、平均間隔を、下記のようにして求めた。
【0057】
まず、暗視野像で得られたコントラストを二値化した。二値化にはp-タイル法を用いた。p-タイル法を用いると、輝度の順位が入れ替わることなく閾値が決定されるため、異なる観察環境で同一範囲を撮影した写真同士はほぼ同様な二値化ができる。ただし、画像上の局所部分において輝度が変わるような環境でないことが前提である。その後、得られた写真の全ピクセル数に対し、白コントラストの部分、すなわち、整合に析出している析出物(整合析出物)のピクセル数を算出し、整合析出物のピクセル数を全ピクセル数で割って面積割合を算出した。
【0058】
また、暗視野像の断面方向を行番号として、長手方向の整合析出物のピクセル数を算出し、図3のように、行毎のピクセル数をグラフ化した。図3において観察された行番0から275が断面方向の長さ240nmに相当する。ピクセル数が25以上の部分を一つのピークと捉え、それぞれのピークの半値幅を整合析出物の幅と定義し、それぞれのピークから整合析出物の幅を求め、平均値を算出して平均幅とした。上記ピークの最大値を整合析出物の長さと定義し、写真の全ピクセル数に対するそれぞれのピークのピクセル数から整合析出物の長さを求め、平均値を算出して平均長さとした。上記ピークの最大値と隣接したピークの最大値の間隔を測定し、それぞれの間隔を整合析出物の間隔と定義し、それぞれのピーク間隔を求め、平均値を算出して析出物の平均間隔とした。
【0059】
なお、整合析出物の上記各態様は、上記薄膜の試料厚さを0.15μmを基準厚さとして算出した。銅合金線材の厚さが基準厚さと異なる場合、銅合金線材の厚さを基準厚さに換算、すなわち、(基準厚さ/銅合金線材厚さ)を撮影された写真を基に算出した分散密度にかけることによって、分散密度を算出できる。実施例及び比較例では、FIB法によりすべての銅合金線材において試料厚さを約0.15μmに設定した。
【0060】
[母相であるCuに対して整合析出物が同結晶軸方向に整合していることの評価方法]
上記したように、析出物が整合に析出していることを確認するために母相であるCuに対して[110]晶帯軸入射にて回折パターンを取得する手法、および母相であるCuに対して整合析出物が同結晶軸方向に整合していることを確認するためにサンプルの角度を変えて母相であるCuに対して[110]または[111]晶帯軸入射にて回折パターンを取得する手法の手順に従い、母相であるCuに対して整合析出物が同結晶軸方向に整合しているか否かを評価し、表1には、母相であるCuに対して整合析出物が同結晶軸方向に整合していれば○、整合していなければ×と表記した。
【0061】
[引張強度の測定方法]
JIS Z2241に準じて、精密万能試験機(株式会社島津製作所製)を用いて、引張試験を行い、引張強度(MPa)を求めた。なお、上記試験は、各銅合金線材3本ずつ行い、その平均値(N=3)を求め、それぞれの銅合金線材の引張強度とした。
【0062】
[導電率の測定方法]
導電率は、20℃(±0.5℃)に保持した恒温漕中で、四端子法を用いて、長さ300mmの試験片3本の比抵抗を測定し、その平均導電率を算出した。端子間距離は200mmとした。
【0063】
【表1】
【0064】
上記表1に示すように、700℃以上の第1熱処理工程及び350~600℃の第2熱処理工程を施し、整合析出物の面積割合が(0.393×x-0.589)%≦A≦(3.88×x-5.81)%(式中、xはAgの質量%を表す。)である実施例1~40では、優れた導電率を損なうことなく、線材を0.02mm~2.6mmに細径化した場合でも、引張強度に優れた銅合金線材を得ることができた。
【0065】
一方で、8.0質量%のAgが添加された比較例1では、導電率が著しく低下してしまった。また、第1熱処理工程及び第2熱処理工程を施さなかった比較例2は、第1熱処理工程及び第2熱処理工程を施した以外は比較例2と同じ製造条件及び比較例2と同じ組成である実施例4と比較して、整合析出物が得られず、良好な引張強度が得られなかった。また、第2熱処理工程を施さなかった比較例3、第2熱処理工程の温度が300℃と低い比較例4、6、第2熱処理工程の温度が700℃と高い比較例5、7では、いずれも、整合析出物が得られず、良好な引張強度が得られなかった。
図1
図2
図3