(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】レーダ装置、物標検出方法及び物標検出プログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 13/58 20060101AFI20241223BHJP
G01S 13/931 20200101ALI20241223BHJP
【FI】
G01S13/58 200
G01S13/931
(21)【出願番号】P 2021061828
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2023-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182545
【氏名又は名称】神谷 雪恵
(72)【発明者】
【氏名】井上 大輔
(72)【発明者】
【氏名】音羽 智司
【審査官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-058291(JP,A)
【文献】特開2019-052952(JP,A)
【文献】特開2019-074404(JP,A)
【文献】特開2019-015625(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0018592(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0393536(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0386883(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
13/00 - 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号を送受信するとともに受信信号を処理することで物標を検出するレーダ装置であって、
処理サイクルを複数回実行し、
各々の前記処理サイクルは、
距離ビン毎信号を取得する距離処理と、
前記処理サイクル内で繰り返し取得した複数の前記距離ビン毎信号に基づき、距離ビン毎第1速度ビン毎信号を取得する第1速度処理と、
所定条件に基づいて前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号のうち少なくとも一部をストア情報としてストアするストア処理と、
当該処理サイクル以前の複数の処理サイクルにおいてストアされた前記ストア情報に基づき、距離ビン毎第2速度ビン毎信号を取得する第2速度処理と、
複数の受信チャネルにおいて取得した、前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号および前記距離ビン毎第2速度ビン毎信号のそれぞれに基づき、距離ビン毎第1速度ビン毎角度信号および距離ビン毎第2速度ビン毎角度信号を取得する角度処理と、
前記角度処理の前後少なくともいずれかにおいて、各信号強度について所定の閾値に基づき判定する閾値処理と、を含むことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記第2速度処理において、前記第1速度処理で取得された全ての前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号のビン数よりも少ないビン数において、前記第2速度処理が実施されることを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記ストア処理において、予め定められたビン成分と、当該レーダ装置が搭載される移動体の情報と、当該処理サイクルよりも前の処理サイクルの処理結果と、のうち少なくとも1つに基づいて、ストアする前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号を選択することを特徴とする請求項1又は2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記ストア処理において、相対速度が0に相当するビン成分を含んだ予め定められたビン成分における前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号を選択し、ストアすることを特徴とする請求項3に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記ストア処理において、当該レーダ装置が搭載される移動体の速度を含むビン成分における前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号を選択し、ストアすることを特徴とする請求項3に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記処理サイクルは、前記ストア処理の前に、前記移動体の情報を取得することで走行モードを判定するモード判定処理を含み、
前記ストア処理において、前記走行モードに基づいてストアする前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号を選択することを特徴とする請求項3に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記ストア処理において、当該処理サイクルよりも前の前記処理サイクルで前記角度処理及び前記閾値処理を行うことで得られた情報に基づいて、ストアする前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号を選択することを特徴とする請求項3に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記閾値処理において、前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号および前記距離ビン毎第2速度ビン毎信号、又は、前記距離ビン毎第1速度ビン毎角度信号および前記距離ビン毎第2速度ビン毎角度信号に対し、スレッシュホルド値において互いに異なる閾値を設定するか、又は、互いに異なる係数を乗じた後に共通の閾値を設定することを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記処理サイクルは、前記角度処理の後に、当該処理サイクルよりも前の処理サイクルにおいて取得した前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号に基づき、前記距離ビン毎第2速度ビン毎角度信号の距離情報を補正する補正処理を含むことを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項10】
前記処理サイクルにおいて、前記閾値処理の後に、前記
距離ビン毎第1速度ビン毎角度信号に由来する信号と前記距離ビン毎第2速度ビン毎角度信号に由来する信号とを混合させ、地上固定物判定処理と、クラスタリング処理と、トラッキング処理と、物標化処理と、のうち少なくとも1つが実施されることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項11】
信号を送受信するとともに受信信号を処理することで物標を検出する物標検出方法であって、
処理サイクルを複数回実行し、
各々の前記処理サイクルは、
距離ビン毎信号を取得する距離処理と、
前記処理サイクル内で繰り返し取得した複数の前記距離ビン毎信号に基づき、距離ビン毎第1速度ビン毎信号を取得する第1速度処理と、
所定条件に基づいて前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号のうち少なくとも一部をストア情報としてストアするストア処理と、
当該処理サイクル以前の複数の処理サイクルにおいてストアされた前記ストア情報に基づき、距離ビン毎第2速度ビン毎信号を取得する第2速度処理と、
複数の受信チャネルにおいて取得した、前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号および前記距離ビン毎第2速度ビン毎信号のそれぞれに基づき、距離ビン毎第1速度ビン毎角度信号および距離ビン毎第2速度ビン毎角度信号を取得する角度処理と、
前記角度処理の前後少なくともいずれかにおいて、各信号強度について所定の閾値に基づき判定する閾値処理と、を含むことを特徴とする物標検出方法。
【請求項12】
信号を送受信するとともに受信信号を処理することで物標を検出する物標検出プログラムであって、
コンピュータに、
処理サイクルを複数回実行させ、
各々の前記処理サイクルとして、
距離ビン毎信号を取得する距離処理と、
前記処理サイクル内で繰り返し取得した複数の前記距離ビン毎信号に基づき、距離ビン毎第1速度ビン毎信号を取得する第1速度処理と、
所定条件に基づいて前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号のうち少なくとも一部をストア情報としてストアするストア処理と、
当該処理サイクル以前の複数の処理サイクルにおいてストアされた前記ストア情報に基づき、距離ビン毎第2速度ビン毎信号を取得する第2速度処理と、
複数の受信チャネルにおいて取得した、前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号および前記距離ビン毎第2速度ビン毎信号のそれぞれに基づき、距離ビン毎第1速度ビン毎角度信号および距離ビン毎第2速度ビン毎角度信号を取得する角度処理と、
前記角度処理の前後少なくともいずれかにおいて、各信号強度について所定の閾値に基づき判定する閾値処理と、を含むものを実行させるための物標検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置、物標検出方法及び物標検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両等の移動体に、周辺監視やADAS(先進運転支援システム)等を目的としたレーダ装置が搭載されることがある。このようなレーダ装置では、計測時間を長くするほど高精細な情報を得やすくなるものの、計算負荷が増大しやすかった。そこで、第1観測時間の観測により第1速度を算出する第1信号処理部と、第1観測時間よりも長い第2観測時間の観測により第2速度を算出する第2信号処理部と、を備えた装置(例えば特許文献1参照)が提案されている。特許文献1に記載されたレーダ装置では、比較的短い観測点の間隔で比較的短い観測時間に観測されたビート信号から第1速度を算出し、比較的長い観測点の間隔で比較的長い観測時間に観測されたビート信号から第2速度を算出することで、計算負荷の増加を抑制しつつ、比較的高い速度分解能の実現を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたレーダ装置では、速度折り返し対策に第1信号処理の結果を活用し、第2信号処理の結果を真の速度とし速度確定をするため、観測時間の長い第2信号処理を完了する必要があり、レイテンシ(遅延時間)が大きくなりやすいという不都合があった。即ち、高精細な情報を得つつレイテンシを抑制することは困難であった。また、第2信号処理は時系列データを間引いた上で速度処理を行うことを前提としており、第1観測時間中に計測したにも関わらず、速度処理に用いない部分があるために、計測した信号を全て速度処理に用いる場合にくらべ、SNが劣るという課題がある。また、第2信号処処理は等間隔のサンプリングを前提とするため、この手法においては各送信信号の間隔、すなわちFCM方式における各チャープ周期においても、処理サイクルを跨ぎ等間隔とすることが必要である。一方、レーダには別の要件として、処理サイクル内で一定期間、送信や受信を休止する期間が必要となる場合がある。上記間引く間隔より休止期間が十分大きい場合や、処理サイクルが各チャープ周期の倍数とならない場合等にはこの方式の適用が困難となる。
【0005】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高精細な情報を得つつレイテンシを抑制することができるレーダ装置、物標検出方法及び物標検出プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係るレーダ装置は、信号を送受信するとともに受信信号を処理することで物標を検出するレーダ装置であって、処理サイクルを複数回実行し、各々の前記処理サイクルは、距離ビン毎信号を取得する距離処理と、前記処理サイクル内で繰り返し取得した複数の前記距離ビン毎信号に基づき、距離ビン毎第1速度ビン毎信号を取得する第1速度処理と、所定条件に基づいて前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号のうち少なくとも一部をストア情報としてストアするストア処理と、当該処理サイクル以前の複数の処理サイクルにおいてストアされた前記ストア情報に基づき、距離ビン毎第2速度ビン毎信号を取得する第2速度処理と、複数の受信チャネルにおいて取得した、前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号および前記距離ビン毎第2速度ビン毎信号のそれぞれに基づき、距離ビン毎第1速度ビン毎角度信号および距離ビン毎第2速度ビン毎角度信号を取得する角度処理と、前記角度処理の前後少なくともいずれかにおいて、各信号強度について所定の閾値に基づき判定する閾値処理と、を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の一態様に係るレーダ装置において、前記第2速度処理において、前記第1速度処理で取得された全ての前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号のビン数よりも少ないビン数において、前記第2速度処理が実施される。
【0008】
本発明の一態様に係るレーダ装置において、前記ストア処理において、予め定められたビン成分と、当該レーダ装置が搭載される移動体の情報と、当該処理サイクルよりも前の処理サイクルの処理結果と、のうち少なくとも1つに基づいて、ストアする前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号を選択する。
【0009】
本発明の一態様に係るレーダ装置において、前記ストア処理において、相対速度が0に相当するビン成分における前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号を選択し、ストアする。
【0010】
本発明の一態様に係るレーダ装置において、前記ストア処理において、当該レーダ装置が搭載される移動体の速度を含むビン成分における前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号を選択し、ストアする。
【0011】
本発明の一態様に係るレーダ装置において、前記処理サイクルは、前記ストア処理の前に、前記移動体の情報を取得することで走行モードを判定するモード判定処理を含み、前記ストア処理において、前記走行モードに基づいてストアする前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号を選択する。
【0012】
本発明の一態様に係るレーダ装置において、前記ストア処理において、当該処理サイクルよりも前の前記処理サイクルで前記角度処理及び前記閾値処理を行うことで得られた情報に基づいて、ストアする前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号を選択する。
【0013】
本発明の一態様に係るレーダ装置において、前記閾値処理において、前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号および前記距離ビン毎第2速度ビン毎信号、又は、前記距離ビン毎第1速度ビン毎角度信号および前記距離ビン毎第2速度ビン毎角度信号に対し、スレッシュホルド値において互いに異なる閾値を設定するか、又は、互いに異なる係数を乗じた後に共通の閾値を設定する。
【0014】
本発明の一態様に係るレーダ装置において、前記処理サイクルは、前記角度処理の後に、当該処理サイクルよりも前の処理サイクルにおいて取得した前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号に基づき、前記距離ビン毎第2速度ビン毎角度信号の距離情報を補正する補正処理を含む。
【0015】
本発明の一態様に係るレーダ装置において、前記処理サイクルにおいて、前記閾値処理の後に、前記第1距離速度毎角度信号に由来する信号と前記距離ビン毎第2速度ビン毎角度信号に由来する信号とを混合させ、地上固定物判定処理と、クラスタリング処理と、トラッキング処理と、物標化処理と、のうち少なくとも1つが実施される。
【0016】
本発明に係る物標検出方法は、信号を送受信するとともに受信信号を処理することで物標を検出する物標検出方法であって、処理サイクルを複数回実行し、各々の前記処理サイクルは、距離ビン毎信号を取得する距離処理と、前記処理サイクル内で繰り返し取得した複数の前記距離ビン毎信号に基づき、距離ビン毎第1速度ビン毎信号を取得する第1速度処理と、所定条件に基づいて前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号のうち少なくとも一部をストア情報としてストアするストア処理と、当該処理サイクル以前の複数の処理サイクルにおいてストアされた前記ストア情報に基づき、距離ビン毎第2速度ビン毎信号を取得する第2速度処理と、複数の受信チャネルにおいて取得した、前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号および前記距離ビン毎第2速度ビン毎信号のそれぞれに基づき、距離ビン毎第1速度ビン毎角度信号および距離ビン毎第2速度ビン毎角度信号を取得する角度処理と、前記角度処理の前後少なくともいずれかにおいて、各信号強度について所定の閾値に基づき判定する閾値処理と、を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明に係る物標検出プログラムは、信号を送受信するとともに受信信号を処理することで物標を検出するための物標検出プログラムであって、コンピュータに、処理サイクルを複数回実行させ、各々の前記処理サイクルとして、距離ビン毎信号を取得する距離処理と、前記処理サイクル内で繰り返し取得した複数の前記距離ビン毎信号に基づき、距離ビン毎第1速度ビン毎信号を取得する第1速度処理と、所定条件に基づいて前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号のうち少なくとも一部をストア情報としてストアするストア処理と、当該処理サイクル以前の複数の処理サイクルにおいてストアされた前記ストア情報に基づき、距離ビン毎第2速度ビン毎信号を取得する第2速度処理と、複数の受信チャネルにおいて取得した、前記距離ビン毎第1速度ビン毎信号および前記距離ビン毎第2速度ビン毎信号のそれぞれに基づき、距離ビン毎第1速度ビン毎角度信号および距離ビン毎第2速度ビン毎角度信号を取得する角度処理と、前記角度処理の前後少なくともいずれかにおいて、各信号強度について所定の閾値に基づき判定する閾値処理と、を含むものを実行させるためのものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るレーダ装置によれば、高精細な情報を得つつレイテンシを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態に係るレーダ装置の一例を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るレーダ装置が実施する処理の一例を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の実施の形態に係るレーダ装置及び比較例のレーダ装置の測定時間を示す模式図である。
【
図4】比較例のレーダ装置により取得される信号の一例を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施の形態に係るレーダ装置において1回の処理サイクルのみで取得される信号の一例を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施の形態に係るレーダ装置において各処理サイクルで取得される信号の一例を示すグラフである。
【
図7】本発明の実施の形態に係るレーダ装置において複数の処理サイクルによって取得される信号の一例を示すグラフである。
【
図8】本発明の実施の形態に係るレーダ装置が取得する情報の一例を示す模式図である。
【
図9】本発明の実施の形態に係るレーダ装置が取得する情報の一例を示すグラフである。
【
図10】本発明の実施の形態に係るレーダ装置が実施する処理の他の例を示すフローチャートである。
【
図11】本発明の実施の形態に係るレーダ装置が実施する上記の処理を示すフローチャートである。
【
図12】本発明の実施の形態に係るレーダ装置が取得する情報の一例を示す模式図である。
【
図13】本発明の変形例に係るレーダ装置が実施する処理の他の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本発明の実施の形態に係るレーダ装置は、信号を送受信するとともに受信信号を処理することで物標を検出するレーダ装置であって、処理サイクルを複数回実行し、各々の処理サイクルは、距離ビン毎信号を取得する距離処理と、前記処理サイクル内で繰り返し取得した複数の距離ビン毎信号に基づき、距離ビン毎第1速度ビン毎信号を取得する第1速度処理と、所定条件に基づいて距離ビン毎第1速度ビン毎信号のうち少なくとも一部をストア情報としてストアするストア処理と、その処理サイクル以前の複数の処理サイクルにおいてストアされたストア情報に基づき、距離ビン毎第2速度ビン毎信号を取得する第2速度処理と、複数の受信チャネルにおいて取得した、距離ビン毎第1速度ビン毎信号および距離ビン毎第2速度ビン毎信号のそれぞれに基づき、距離ビン毎第1速度ビン毎角度信号および距離ビン毎第2速度ビン毎角度信号を取得する角度処理と、角度処理の前後少なくともいずれかにおいて、各信号強度について所定の閾値に基づき判定する閾値処理と、を含む。以下、レーダ装置について具体的に説明する。
【0021】
レーダ装置1の一例を
図1に示す。レーダ装置1は、送信部2と受信部3とを有する。送信部2は、送信アンテナ11と、信号を生成する信号生成部14と、信号生成部13を制御する送信制御部13と、信号生成部14が生成した信号を出力するための発振器15と、を有する。受信部3は、受信アンテナ12と、受信信号を復調する復調部16と、受信信号をデジタル変換するA/Dコンバータ(ADC)17と、変換された信号を処理する信号処理部18と、を有する。尚、レーダ装置1における信号の方式は、FCM方式であってもよいしパルス方式であってもよい。
【0022】
即ち、レーダ装置1は、送信アンテナ11より信号R1を送信し、この信号R1が対象T1によって反射され、反射された信号R1が受信アンテナ12によって受信されるようになっている。このように受信された信号R1は、受信部3において適宜に復調や変換等がなされた後、信号処理部18によって処理される。信号処理部18は、距離処理部181と、第1速度処理部182と、記憶部183と、第2速度処理部183と、角度処理部184と、しきい値処理部186と、を有する。このとき、信号処理部18の各部は、実際には1つの装置であってもよいし、複数の装置によって構成されていてもよい。
【0023】
レーダ装置1は、例えば自動車等の移動体に搭載され、前記不明な対象からの反射された信号を処理することで、周囲に存在する物標や地上固定物との相対的な位置を検出するために用いられる。本実施形態のレーダ装置1が検出する物標とは、例えば周辺の自動車や歩行者等の動的な物体を指し、レーダ装置1が検出する地上固定物とは、ガードレイルや壁面、停止車両、その他構造物等の静的な物体を指すものとし、両者の検出を行う。レーダ装置1は、例えば移動体の各コーナー部分(右前、右後ろ、左前、左後ろ)等に搭載されて周辺監視に用いられる。周辺監視のアプリケーションの例としては、後側方の死角検知や、前側方における出会いがしら衝突検知、前側方の路側形状を把握し検知移動体の走行可能領域を認識するためのフリースペースアプリケーション、駐車の際の衝突等の回避が挙げられる。また、上記以外にも、交差点における衝突防止や、地上固定物と物標の切り分けであってもよい。即ち、各場面においてレーダ装置1によって物標や地上固定物を検出することで、周辺監視のアプリケーションが搭乗者に対する警告や、ブレーキやステアリング等の制御を行うようになっている。
【0024】
上記アプリケーションの成立性において、物標や地上固定物の候補となる生データである点群(本実施形態ではレスポンスと表記することもある)の高精細化が必要となる。角度方向に広がった対象や輪郭に対して、それに応じた点群を検出するには、高い角度分解能が必要となる。一方、レーダ装置においては信号処理により対象のドップラー速度の把握が可能であり、高い角度分解能を直接もたずとも、広がった対象の反射点を異なる速度成分に分離することが可能である。同一の速度成分として混ざった角度情報に比べ、各々の速度成分毎に分離し、各々独立な角度情報とすることで、高精化を図ることが可能となる。そのため、速度分離性能はアプリケーション成立性において重要である。
【0025】
例えばフリースペースアプリケーションのような地上固定物の検出が必要な場合、地上固定物の相対速度の大きさは走行方向に対する対象の見込み角に依存する。その関係はCos関数にて表記されるため線形ではなく、相対速度の変化、すなわち速度分解能が高い領域と低い領域が存在する。特に走行方向に直交する方向では速度分解能が高いものの、走行方向に近い方向の速度分解能は低い。また、例えば死角検知アプリケーションや駐車支援アプリケーションにおいて、シーンによって自車と対象の相度速度は様々である。広がった対象の各々の反射点は、対象の相対速度がある程度大きい場合に比べ、対象の相対速度が0に近いシーンにおいては、速度による反射点の分離が困難である。本実施形態のレーダ装置1によれば、以下に説明するように、これらの状況に対応することが可能となる。
【0026】
尚、レーダ装置1は、通常の乗用車以外にも、建設機械や運管機械、農業機械等に搭載されてもよい。また、後述の説明では、レーダ装置1は水平面内において物標等を検出するものとするが、仰角面において物標や地表の形状等を検出してもよい。また、レーダ装置1は、移動体ではなく固定された構造物に搭載されてもよい。
【0027】
レーダ装置1の信号処理部18は、以下に説明するような情報処理(物標検出方法)を行う。まずは基本方式について説明し、他の方式の説明においては、基本方式と共通する部分について説明を省略する。また、このような物標検出方法をコンピュータに実行させるようなプログラムが、記憶媒体に記憶されていてもよい。
【0028】
[基本方式]
信号処理部18は、
図2に示すように、処理サイクルを複数回実行する。
図3の下段に示すように、1つの処理サイクルにおける計測時間は例えば25.6msecであって、1つの処理サイクルが開始してから次の処理サイクルが開始するまでの時間は例えば50msecに設定されている。各々の処理サイクルは、距離処理(ステップS1)と、第1速度処理(ステップS2、図中では単に「速度処理」)と、ストア処理(ステップS3、図中では単に「ストア」)と、第2速度処理(ステップS4、図中では単に「速度処理」)と、角度処理(ステップS5)と、閾値処理(ステップS6)と、を有する。尚、
図2のN-3サイクルにおいてS1~S6を示しているが、他のサイクルでも同様である。また、他の図面においても、各処理サイクルの工程が同じである場合、1つの処理サイクルのみに符号を付す。
【0029】
ある処理サイクル(例えばN-3)が終了したら、次の処理サイクル(例えばN-2)が実行される。これらの処理サイクルの間に、適宜な工程が行われればよく、例えばクラスタリング処理やトラッキング処理等により、上記処理サイクルによって得られた点群データに基づき、物標や地上固定物を検出すればよい。
【0030】
距離処理では、距離ビン毎信号が取得される。例えば、FCM方式においては、送信信号の一部と受信信号とをミキシングし、これらの差分に基づいてビート信号を生成し、さらにこのビート信号にFFT処理を施すことにより、対象との距離に対応するスペクトラムを距離ビンにわたり取得する(距離ビン毎信号)。そのピークとなるビン情報等に基づき、対象との距離情報を取得することができる。なお、パルス方式においては、パルス状に変調された送信信号を連続的に受信しFFT処理を施すことなく距離ビン毎信号を取得する点でFCM方式と異なるが、以降の処理では同様となる。
【0031】
第1速度処理では、処理サイクル内で繰り返し取得した複数の距離ビン毎信号に基づき、距離ビン毎における第1速度ビン毎信号が取得される。ここで、繰り返し取得した多数の信号に対して、FFT処理を行うことで、信号の時間的な変化、および位相の変化から速度成分を取得し、その結果が速度ビンに格納される。またこの処理を距離ビン毎において行うことで、距離ビン毎の速度ビン毎信号が取得される。距離ビン毎第1速度ビン毎信号は、この段階で各々対象物の距離と速度に応じた信号が2次元である距離ビン速度ビンに格納されることとなり、
図8におけるようないわゆるレンジドップラーマップ情報が取得される。
【0032】
ストア処理では、所定条件に基づいて距離ビン毎第1速度ビン毎信号のうち少なくとも一部がストア情報としてストアされる。この所定条件については、他の方式において説明する。尚、ストア処理の段階において、ストアすべき情報を選別してもよいし、ストア処理では全ての距離ビン毎第1速度ビン毎信号をストアしておき、第2速度処理の段階においてどの情報を使用するか選別してもよい。
図8において、網掛けのマスが、ストアされるビンに対応しており、このように高分解能化が求められているビン成分を以下では「興味ビン」と呼ぶ。
【0033】
第2速度処理では、処理サイクル以前の複数の処理サイクルにおいてストアされたストア情報に基づき、距離ビン毎における第2速度ビン毎信号が取得される。例えば、Nサイクルにおける第2速度処理では、N-3サイクル~N-1サイクルにおけるストア処理によってストアされたストア情報に基づき、距離ビン毎第2速度ビン毎信号を取得すればよい。尚、第2速度処理では、第1速度処理と同様に、FFT処理によって距離速度信号を取得すればよい。また、本実施形態では、第2速度処理において、第1速度処理で取得された全ての距離ビン毎第1速度ビン毎信号よりも少ない数の距離ビン毎第1速度ビン毎信号が処理されるようになっている。
【0034】
角度処理では、距離ビン毎第1速度ビン毎信号および距離ビン毎第2速度ビン毎信号のそれぞれに基づき、複数の受信チャネル(アンテナチャネル)において処理を行うことで、距離ビン情報と速度ビン情報と角度情報とを含む距離ビン毎第1速度ビン毎角度信号および距離ビン毎第2速度ビン毎角度信号が取得される。即ち、各アンテナチャネルにおいて距離ビン及び速度ビンが同じ信号を用い、角度処理(FFT処理)を行うことで、角度ピーク(
図9参照)を取得することができる。
【0035】
閾値処理は、角度処理の後に行われ、閾値による判定が行われる。ここでは、距離ビン毎第1速度ビン毎角度信号および距離ビン毎第2速度ビン毎角度信号に対し、スレッシュホルド値において互いに異なる閾値を設定し、各信号の強度が閾値以上となるか否かを判定する。尚、距離ビン毎第1速度ビン毎角度信号および距離ビン毎第2速度ビン毎角度信号に対し、互いに異なる係数を乗じた後、それぞれが共通の閾値以上となるか否かを判定してもよい。距離ビン毎第1速度ビン毎信号と前記距離ビン毎第2速度ビン毎信号とは、ストアされるサイクル数の違いから、同一の物標から得られる信号であっても、信号強度(振幅)に差が生じる。そこで、上記のように異なる閾値を設定したり異なる係数を乗じたりすることで、距離ビン毎第1速度ビン毎角度信号と距離ビン毎第2速度ビン毎角度信号とをマージする際に適切なウエイトを設定することができる。
【0036】
尚、閾値処理は、角度処理の前のみ行ってもよいし、角度処理の前後両方において行ってもよい。角度処理の前に閾値処理を行う場合、対象となる信号は、距離ビン毎第1速度ビン毎信号および距離ビン毎第2速度ビン毎信号のそれぞれとなる。この場合も上記と同様に、スレッシュホルド値において互いに異なる閾値を設定し、各信号の強度が閾値以上となるか否かを判定してもよいし、互いに異なる係数を乗じた後、それぞれが共通の閾値以上となるか否かを判定してもよい。また、閾値判定の方法は特に限定されず、種々のCFARや、固定値、他のリファレンス点における値、時系列的考察がされた値等が用いられればよい。
【0037】
上記のように距離ビン毎第1速度ビン毎信号角度信号を取得することで、レーダ装置1から見た距離及び角度を把握することができ、二次元平面内における点群として検出することができる。また、この点群は処理の経緯上、合わせて速度ビン情報を属性としてもっている。距離ビン毎第1速度ビン毎信号は処理サイクル内での取得を前提としており、計測から処理結果出力までの時間を短くし、応答性を確保することができる。
【0038】
距離ビン毎第2速度ビン毎信号角度信号によっても、距離ビン毎第1速度ビン毎信号角度信号と同様に、距離及び角度情報から二次元平面内における点群として検出することができるが、第1速度処理より高分解な第2速度処理結果によって、点群の角度の高精細化が図れる。この点について
図3~7、9に基づき、通常の速度処理との差異及び速度分離による角度の高精細化について説明する。まず、
図3は、横軸を時間とするものであり、下段には、本実施形態の一例としての処理サイクルを4回繰り返した様子を示し、上段には、比較例として、計測時間を長くして1回の処理サイクルを行った様子を示し、これらの総時間は互いに略等しくなっている。
【0039】
例えばレーダ装置1が搭載された移動体が走行中に、走行方向に近い方向において、角度方向にひろがった地上固定物として、停止車両による反射信号を受信した場合について考える。このとき、レーダ装置1が送信した信号R1は、例えば停止車両の左端部分、中央部分及び右端部分のそれぞれの箇所において反射された合成信号であるものとし、各々の相対速度は45.17km/h、45.28km/h、45.39km/hであったとする。比較例のように計測時間が比較的長い場合、
図4に示すように、速度処理においてFFT処理を行うことで、速度分離することができる。具体的に破線、一点鎖線及び二点鎖線で示すものは、各々の反射点の信号が仮に単独で存在していた場合の速度FFTの結果であり、それぞれが異なる速度ビンにてピークを持つ信号となっている。実線で示すものは、各々の反射点の合成信号の場合の結果であるが、同様に3つの速度ビンに各々の信号を分離することができ、停止車両の左端部分、中央部分及び右端部分のそれぞれを独立の速度ビンに格納することができる。
【0040】
一方、計測時間が比較的短い1回の処理サイクルのみで速度処理をした場合、速度分解能が低いため、
図5に示すように、反射点の各部に対応したピークが同一の速度ビンに重なってしまい、信号分離が困難となる。そこで、第2速度処理では、過去の第1速度処理後にストアされた速度情報を用いることで、4回分の処理サイクルで取得した情報に基づき、FFT処理を行う。
図6には、上から順に、各処理サイクルによって得られた第1速度処理後のストア情報を示しているが、4つの処理サイクルの経過において、速度信号自体の変化を確認することがきる。なお、信号実部(Iチャンネル)が実線で示され、信号虚部(Qチャンネル)が破線で示されている。ここでは、受信信号をIQ受信(2チャンネル)による複素信号の処理例を示しており、FFT実施時に±成分の区別が可能となっている。尚、受信の方式は複素受信に限定されず、実信号(1チャンネル)処理であってもよく、実信号処理であれば、チャンネル数を減らすことができる。以上のようなストア情報を用いて再度FFT処理を行うことで、
図7に示すように、各々の反射点に応じた信号を分離することができる。なお、
図5、7の線種は
図4と同様であり、
図7の実線にて3つの速度ビンに各々の信号を独立の速度ビンに格納できていることが確認できる。
【0041】
上記の計測時間を長くした比較例において、2048点の時系列データを持ち2048ポイントFFTを実施した場合に比べ、仮に1回の処理サイクルで512点の時系列データを持つ場合、4回の処理サイクルの計測データを全てストアすると、512×4点の時系列データを保持する必要があり、データ総数では同じであるが、本実施形態のように多ポイントFFT処理を分割することで処理負荷が改善される。さらに、興味の速度についてのみ第2速度処理を実施すれば、興味ビンの数N×4点のデータのみをストアし保持すればよく、興味のない不要な速度に関するデータの削除によりメモリ負荷の低減が図れる。また、本実施形態では、1回の処理サイクルでは送信休止期間をもち、送信期間においてのみ約256点の受信時系列データを持ち、256ポイントFFTを実施しているが、1サイクル内で速度処理が閉じるため、このような休止期間を含むレーダにおいても適用可能である。尚、第2速度処理は、4回の処理サイクルによってストアされた情報を用いる方法に限定されない。また、処理負荷を低減する観点から、0パディングがない処理とすることが好ましい。
【0042】
以上のような処理は複数のアンテナチャンネル毎の受信信号に対して、同様の処理を同時ないし等価的に同時に行う。これにより、反射点の各部に応じた情報を独立な速度ビンに格納した、距離ビン毎第2速度ビン信号を、アンテナチャネル分保有することとなる。そのアンテナチャネル毎の信号に対してFFTなどの角度処理を実施することよって角度情報を取得する。通常のレーダ装置では速度処理の繰り返しはなく、単一の距離ビン毎速度ビン信号にて上記角度処理がなされるが、本実施形態では、第1速度処理後の距離ビン毎第1速度ビン信号に加え、第2速度処理後の信号である距離ビン毎第2速度ビン信号を活用する。
【0043】
第2速度処理の結果、独立な速度ビンに格納された各々の反射点の信号は、速度ビン毎に独立に行われる角度処理によって、例えば
図9に一点鎖線、二点鎖線および破線でそれぞれ示すように、各々の反射点に応じた角度情報として取得することができる。一方、計測時間が短い第1速度処理のみの場合、同一の速度ビンに反射点の信号が重なっているため、実線で示すように角度情報として1つのピーク(角度値)しか得られず、地上固定物である停止車両において1つの検出点しか得られない。一方、第2速度処理によって付加的に速度分離した上で角度処理を行うことで、本例では、地上固定物である停止車両の左端部分、中央部分及び右端部分の3つの反射点における3つの検出点が得られるようになり、角度方向に広がった対象形状がより高精細に検出される。なお、第2速度処理は角度処理の前工程における付加的な分離であり、その処理後の速度ビンは便宜的なものとして、速度自体は確定された第1速度処理の情報を活用しても構わない。
【0044】
以上の説明は搭載された移動体が走行中に、走行方向に近い方向の地上固定物の高精細な検出、つまりフリースペースアプリケーションに近い事例であったが、他のアプリケーションにおいても有用である。たとえば死角検知アプリケーションにおいて、搭載された移動体に対し、他の移動体が横に並びつつ走行することがあるが、特に相対速度が0又は0に略等しい場合において、角度方向にひろがった移動体は速度における分離が困難となる。その際においても相対速度0又は0に近い速度ビンの信号に対して第2速度処理を実施することで、付加的に速度成分に分離した上で角度処理の実施が可能となり、角度方向に広がった対象形状がより高精細に検出される。なお、この効果はこれらのアプリケーションだけには限られない。
【0045】
[具体的な方式例]
上記基本方式では、ストア処理において距離ビン毎第1速度ビン毎信号をストアする条件について省略したが、この方式例では、
図10,11に基づき以下に説明するように、予め定められたビン成分と、レーダ装置1が搭載される移動体の情報と、その処理サイクルよりも前の処理サイクルの処理結果と、の全てを用いて、ストアする距離ビン毎第1速度ビン毎信号を決定する。この処理が選択処理(ステップS11)となる。
【0046】
選択処理では、車両情報として、移動体の速度(車速)に基づく判定を行う。即ち、移動体と対象との相対速度が、車速に近い場合、その対象は、移動体の走行方向に位置し、移動体から見た対象の方向と、移動体の走行方向と、の角度が小さい(対象が走行方向に近い見込み角を有する)ほど、移動体とこの対象の各部との相対速度の差が小さく、速度成分での分離が困難であることから、相対速度が車速に近いようなビン成分は、興味ビンとなる。即ち、移動体の走行可能領域を認識するためのフリースペースアプリケーションにおいて、前側方のガードレイルや壁面等の地上固定物や路側形状検知を検出する際に、このような興味ビンを設定することが有効となる。従って、選択処理では、前の処理サイクルにおける車速を取得し(ステップS21)、車速に所定数を加減した範囲のビン成分を興味ビンとして選択し(ステップS22)、各々のビン成分が選択すべきビンに該当するか否かを判定する(ステップS23)。
【0047】
尚、図示の例では、1つ前の処理サイクルにおける車両情報を取得しているが、最新の車両情報を取得すればよく、移動体との通信タイミング等に応じて適宜なタイミングで取得すればよい。例えば、その処理サイクルにおいて車両情報を取得してもよい。
【0048】
また、選択処理では、前の処理サイクルにおけるレスポンス情報に基づく判定も行う。即ち、各処理サイクルでは、閾値処理の結果に基づき、レスポンス(即ち物標の候補や地上固定物の候補が存在していること)が確定する。レスポンスを活用し生成される物標や地上固定物の高精細化のために、レスポンス自体の高精細化が望まれ、このようなビン成分が興味ビンとなる。従って、1つ前の処理サイクルからレスポンス確定情報を取得し(ステップS31)、レスポンス存在ビンを興味ビンとして選択し(ステップS32)、各々のビン成分が選択すべきビンに該当するか否かを判定する(ステップS33)。
【0049】
また、選択処理では、予め定められたビン成分に基づく判定も行う。相対速度が0に近い物標は、速度分離が困難となり、詳細な情報が得られにくく、高精細化が望まれ、このようなビン成分が興味ビンとなる。即ち、移動体の後側方の死角に他の移動体(車両やバイク等)の所定ターゲットを検知し、車線変更動作時にドライバに警告する死角検知アプリケーションにおいて、このような興味ビンを設定することが有効となる。従って、第1速度処理によって取得した距離ビン毎第1速度ビン毎信号に対し、相対速度が所定値以下(例えば5km/h以下)であるか否かに基づき、各々のビン成分が選択すべきビンに該当するか否かを判定する(ステップS41)。
【0050】
上記のステップS21~S23,S31~S33,S41が選択処理(ステップS11)に該当する。選択すべきビンに該当すると判定された場合(ステップS23,S33,S41でYes)、この距離ビン毎第1速度ビン毎信号はストアされる(ステップS12)。さらに、各々の距離ビン毎第1速度ビン毎信号について、所定サイクル数ストアされているか否かが判定され(ステップS13)、所定サイクル数ストアされている場合(ステップS13でYes)、このビン成分の距離ビン毎第1速度ビン毎信号について第2速度処理が行われる。
【0051】
上記のような選択処理を行った場合に、どの速度ビンがストアされ、第2速度処理が行われるかについて、
図12を参照して説明する。
図12では、縦方向が速度ビンを示し、左から右に向かうにしたがって、処理サイクルが進んでいくものとする。黒丸及びこれを結ぶグラフは、移動体の速度を示す。また、星印は、レスポンスが確定した速度ビンを示す。左上から右下に向かう斜線の網掛けマス(以下、実施ビンと呼ぶ)は、ステップS13で判定されるサイクル数の情報がストアされ、実際に第2速度処理が行われる速度ビンを示す。右上から左下に向かう斜線の網掛けマス(以下、実施予定ビンと呼ぶ)は、情報がストアされているもののステップS13で判定されるサイクル数に満たないため、第2速度処理が実施されない(その後実施される可能性がある)速度ビンを示す。
【0052】
下から1番目及び2番目の速度ビンは全て実施ビンとなっている。これは、対象との相対速度が所定値以下であり、ステップS41において該当すると判断される速度ビンのためである。また、左から3番目の処理サイクルにおいてレスポンスが確定しているが、この速度ビンにおいて、4~6番目の処理サイクルでは、ステップS13で判定されるサイクル数に満たないため、第2速度処理が行われず実施予定ビンとなっている。その後、7番目の処理サイクルで当該サイクル数を満たすため、第2速度処理が行われるようになり、実施ビンとなる。
【0053】
また、移動体の速度に該当する速度ビン及びその前後の速度ビンは、ステップS22において興味ビンとして判定される。左から4番目の処理サイクルでは、移動体の速度に該当する速度ビンの1つ下の速度ビンは、ステップS13で判定されるサイクル数に満たないため、第2速度処理が行われないものの、興味ビンとして情報をストアされている。その結果、左から7番目の処理サイクルでは移動体の速度が変化する際にも予めストアされた情報を用い、ただちに第2速度処理が行うことが可能である。またこのように興味ビンをある程度広がりをもって設定することは、適宜可能である。
【0054】
以上のような本発明の実施形態に係るレーダ装置1によれば、角度処理において、ストアされない距離ビン毎第1速度ビン毎信号およびストアされた距離ビン毎第2速度ビン毎信号のそれぞれに基づき、距離ビン毎第1速度ビン毎角度信号および距離ビン毎第2速度ビン毎角度信号を取得することで、距離ビン毎第1速度ビン毎角度信号によりレイテンシを抑制しつつ、距離ビン毎第2速度ビン毎角度信号により高精細な情報を得ることができる。即ち、レイテンシを抑制しつつ高精細な情報を得ることができる。また、単に計測時間を長くして速度処理を行う方法と比較して、メモリ負荷及び処理負荷を低減することができる。
【0055】
また、第1速度処理後のデータを用いて第2速度処理においてFFT処理を行う、即ち、速度処理を2回繰り返すことで、高分解能化することができる。第2速度処理への入力信号は第1速度処理の出力結果であり、第1速度処理の計測時間に関して間引かれることはない。すなわち積分された結果をロスすることなく活用することで、結果として計測した信号を全て速度処理に用いることと等価となり、SNを最大化することが可能となる。
また、1サイクルの送信期間内において閉じて第1速度処理を行った結果を第2速度処理の入力信号としていることで、各処理サイクルの等間隔性さえ担保できれば、第2速度処理に必要な等間隔性は担保される。すなわち
図3のように、処理サイクル内の休止期間が長いレーダ装置や、処理サイクルがチャープ周期や送信信号間隔の倍数と関係なく設定されたレーダ装置のような自由度の高いレーダ装置を構成することができる。
【0056】
また、ストア処理において、距離ビン毎第1速度ビン毎信号のうち一部をストア情報としてストアすることで、メモリ負荷を低減することができる。ここで第1速度処理が完了した情報には距離だけでなく速度情報も含まれるため、興味の距離速度成分に限定してストアし、不要な距離速度成分は、この段階でストア対象としないことで、効率的にメモリ負荷を低減することができる。また、第2速度処理において、第1速度処理で取得された全ての距離ビン毎第1速度ビン毎信号よりも少ない数の距離ビン毎第1速度ビン毎信号が処理されることで、処理負荷をさらに低減することができる。
【0057】
また、ストア処理において、相対速度が所定値以下となるようなビン成分に基づいて距離ビン毎第1速度ビン毎信号をストアすることで、相対速度の小さい対象を高精細に検出し、例えば周辺監視アプリケーションの精度を向上させることができる。
【0058】
また、ストア処理において、レーダ装置1が搭載される移動体と物標との相対速度が、この移動体の速度に近くなるようなビン成分に基づいて距離ビン毎第1速度ビン毎信号をストアすることで、移動体の走行方向正面に位置する対象を高精細に検出し、例えば走行方向遠方の路側形状検出アプリケーションの精度を向上させることができる。
【0059】
また、ストア処理において、前の処理サイクルにおけるレスポンス情報に基づいて距離ビン毎第1速度ビン毎信号をストアする。これにより、距離処理および速度処理を終え角度処理した段階で、積分効果によりもっとも高くSNを確保した信号に対して閾値処理を行い、効率よく興味の物標候補に限ることで、メモリ負荷を低減しつつ高精細に検出することができる。
【0060】
また、閾値処理において、距離ビン毎第1速度ビン毎角度信号および距離ビン毎第2速度ビン毎角度信号に対し、スレッシュホルド値において互いに異なる閾値を設定したり異なる係数を乗じたりすることで、距離ビン毎第1速度ビン毎角度信号と距離ビン毎第2速度ビン毎角度信号とをマージする際に適切なウエイトを設定することができる。
【0061】
尚、本発明は上記の実施の形態に限定されず、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。例えば、上記の本発明の実施形態では、ある処理サイクルにおいて、その処理サイクルの第2速度処理によって取得した距離ビン毎第2速度ビン毎信号を角度処理するものとしたが、例えば
図13に示すように、その処理サイクルの第2速度処理によって取得した距離ビン毎第2速度ビン毎信号は角度処理せず、1つ前の処理サイクルの第2速度処理によって取得した距離ビン毎第2速度ビン毎信号を角度処理してもよい。このような処理方法によれば、第2速度処理を行ってから角度処理をするまでの時間的な余裕を確保することができる。
【0062】
また、上記の本発明の実施形態では、第1速度処理及び第2速度処理の具体的な処理としてFFT処理を例示したが、これに限定されるものではない。即ち、処理負荷低減の観点からFFT処理を採用することが好ましいが、例えば処理の条件や目的等に応じて適宜な処理方法が採用されればよい。
【0063】
また、上記の本発明の実施形態では、第2速度処理において、第1速度処理で取得された全ての距離ビン毎第1速度ビン毎信号よりも少ない数の距離ビン毎第1速度ビン毎信号が処理されるものとしたが、例えばレーダ装置のメモリに余裕がある場合には、全ての距離ビン毎第1速度ビン毎信号に対して第2速度処理を行ってもよい。
【0064】
また、上記の本発明の実施形態では、ストア処理において、予め定められたビン成分と、レーダ装置が搭載される移動体の情報と、前の処理サイクルの処理結果と、の全てに基づいて、ストアする距離ビン毎第1速度ビン毎信号を選択するものとしたが、これらのうち1つのみに基づいてストアする距離ビン毎第1速度ビン毎信号を選択してもよいし、2つに基づいてストアする距離ビン毎第1速度ビン毎信号を選択してもよいし、他の条件に基づいて選択してもよい。
【0065】
また、前の処理サイクルの処理結果に基づいてストアする距離ビン毎第1速度ビン毎信号を選択する場合、ストア処理の前に、移動体の情報を取得することで走行モードを判定するモード判定処理を実行し、ストア処理において、走行モードに基づいてストアする距離ビン毎第1速度ビン毎信号を選択してもよい。例えば、トランスミッションにおいて選択されたギアや、方向指示器、ステアリングの舵角、ブレーキ等の情報に基づいて走行モードを判定し、ストアする距離ビン毎第1速度ビン毎信号を選択してもよい。このように走行モードを判定し、走行モードに基づいてストアする距離ビン毎第1速度ビン毎信号を選択することで、より効率的に処理数を制限することができる。
【0066】
また、上記の本発明の実施形態では、前の処理サイクルの処理結果に基づいてストアする距離ビン毎第1速度ビン毎信号を選択する際に、閾値処理後の情報であるレスポンス確定情報を用いるものとしたが、閾値処理前の情報を用いてもよい。
【0067】
また、上記の本発明の実施形態では、判定処理において、距離ビン毎第1速度ビン毎信号および距離ビン毎第2速度ビン毎信号、又は、距離ビン毎第1速度ビン毎角度信号および距離ビン毎第2速度ビン毎角度信号に対し、スレッシュホルド値において互いに異なる閾値を設定するか、又は、互いに異なる係数を乗ずるものとしたが、例えば距離ビン毎第1速度ビン毎角度信号と距離ビン毎第2速度ビン毎角度信号とをマージせずに独立に使用する場合には、これらの処理を行わなくてもよい。
【0068】
また、上記の本発明の実施形態では、距離ビン毎第2速度ビン毎角度信号の距離情報をそのまま用いるものとしたが、この距離情報を補正する補正処理を行ってもよい。即ち、ある処理サイクルにおいて、角度処理の後に、この処理サイクルよりも前の処理サイクルにおいて取得した距離ビン毎第1速度ビン毎信号に基づき、距離ビン毎第2速度ビン毎角度信号の距離情報を補正してもよい。距離ビン毎第2速度ビン毎信号を処理する際には、既に第1速度処理が完了しており、速度情報を取得していることから、この速度に応じ、時間的なレイテンシ分に応じた適切な補正処理を、レーダ装置からの距離方向、すなわち相対速度発生方向に対して行うことができる。
【0069】
また、上記の本発明の実施形態では、処理サイクル間における他の処理について説明を省略したが、例えば閾値処理およびレスポンス確定後に、距離ビン毎第1速度ビン毎角度信号および距離ビン毎第2速度ビン毎角度信号に基づき、地上固定物判定処理や、クラスタリング処理や、トラッキング処理や、物標化処理等を行ってもよい。これらの後処理は、1つのみが実施されてもよいし、複数が実施されてもよい。このとき、第1距離速度毎角度信号に由来する信号と距離ビン毎第2速度ビン毎角度信号に由来する信号とを混合させ、上記の処理を行ってもよい。このように混合させた信号を同一の処理プロセスにて取り扱うことで、特殊プロセスを追加する必要がなく、簡素な処理とすることができる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記本発明の実施形態に係るレーダ装置に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。例えば、上記実施の形態における、各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。
【符号の説明】
【0071】
1…レーダ装置、18…信号処理部、181…距離処理部、182…第1速度処理部、183…記憶部、184…第2速度処理部、185…角度処理部、186…閾値処理部