(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】熱膨張性耐火組成物、熱膨張性耐火シート及び積層体
(51)【国際特許分類】
C08L 53/02 20060101AFI20241223BHJP
C08K 3/32 20060101ALI20241223BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20241223BHJP
C08K 5/053 20060101ALI20241223BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241223BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20241223BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20241223BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20241223BHJP
【FI】
C08L53/02
C08K3/32
C08K3/013
C08K5/053
C08K3/04
B32B27/30 B
B32B27/18 Z
E04B1/94 T
(21)【出願番号】P 2021149762
(22)【出願日】2021-09-14
【審査請求日】2023-02-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100202898
【氏名又は名称】植松 拓己
(72)【発明者】
【氏名】大長 理子
(72)【発明者】
【氏名】竹村 大輝
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 もと子
(72)【発明者】
【氏名】小久保 陽介
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-294078(JP,A)
【文献】特開2005-206648(JP,A)
【文献】特開2006-249364(JP,A)
【文献】特開2006-045950(JP,A)
【文献】特開2020-019851(JP,A)
【文献】特開2023-042458(JP,A)
【文献】特開2023-042459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 53/00-53/02
C08K 3/00-13/08
C09K 21/00-21/14
E04B 1/62-1/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)~(F)を含有し、
(A)スチレン系エラストマー
(B)含リン化合物
(C)多価アルコール
(D)発泡剤
(E)無機充填剤
(F)無機補強剤
前記成分(B)が赤リン、リン酸エステル、リン酸金属塩、リン酸アンモニウム、リン酸メラミン、リン酸アミド、及びポリリン酸アンモニウム化合物から選ばれ、
前記成分(E)がカーボンブラック及びクレーを含まず、
前記成分(F)がカーボンブラック及びクレーの少なくとも1種であり、下記条件1及び2の少なくとも一方を満たし、
条件1:成分(F)100g当たりのDBP吸油量が0~500mL
条件2:平均粒子径5~2000nm
前記成分(A)の100質量部に対し、前記成分(B)を20~500質量部、前記成分(C)を25~80質量部、前記成分(D)を30~200質量部、前記成分(E)を10~300質量部、前記成分(F)を5~100質量部含有する、熱膨張性耐火組成物。
(但し、分散相の表面間距離が0.1μm以上である熱膨張性耐火組成物
、及び熱膨張性黒鉛を含む熱膨張性耐火組成物を除く。)
【請求項2】
前記成分(E)が酸化チタン及びシリカの少なくとも1種である、請求項1に記載の熱膨張性耐火組成物。
【請求項3】
前記成分(F)がカーボンブラックを含む、請求項1又は2に記載の熱膨張性耐火組成物。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の熱膨張性耐火組成物で構成した、熱膨張性耐火シート。
【請求項5】
請求項
4に記載の熱膨張性耐火シートからなる層と、補強材、接着剤及び離型紙から選ばれる少なくとも1つの層とを含む積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱膨張性耐火組成物、熱膨張性耐火シート及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物の梁や柱等を被覆して耐火(防火)性能を高めるために熱可塑性ポリマーを含有する耐火(防火)組成物ないしシートが用いられている。例えば、特許文献1には、(A)熱可塑性樹脂、(B)リン化合物、(C)多官能アルコール、(D)無機系繊維材料、及び(E)無機充填剤を含有してなる発泡型防火性組成物が記載されている。特許文献1記載の技術によれば、上記発泡型防火性組成物は、加熱及び/又は火炎により膨張、発泡した耐火・断熱性の高い炭化(灰化)層を形成し、特に高温域での耐火性に優れ、伸縮性及び強度の高い大面積のシート成形も容易となるものであり、更に耐湿及び耐水性に優れているため長期にわたる使用が可能であるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らの検討により、上記特許文献1記載の発泡型防火性組成物で構成したシートにより被覆された梁や柱等が火災等により加熱されると、シートの一部が落下(欠落)してしまい、耐火性(断熱性)を十分に発揮できないおそれがあることが分かってきた。更に、本発明者らの検討により、上記発泡型防火性組成物は、耐火性及び発泡性(熱膨張性)といった組成物それ自体の防火特性についてもさらなる改善が必要であることが分かってきた。
【0005】
本発明は、火災時における熱膨張性に優れ、耐火性(断熱性)にも優れ、火災の熱に晒されても梁や柱等から欠落しにくい熱膨張性耐火シート(加熱された際に、自重により部分的又は全体的な落下を生じにくい発泡断熱構造)を実現することのできる熱膨張性耐火組成物、及び当該熱膨張性耐火組成物を用いて形成(構成)した熱膨張性耐火シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者の上記課題は下記手段により解決される。
<1>
下記成分(A)~(F)を含有し、
(A)スチレン系エラストマー
(B)含リン化合物
(C)多価アルコール
(D)発泡剤
(E)無機充填剤
(F)無機補強剤
前記成分(F)がカーボンブラック及びクレーの少なくとも1種である、熱膨張性耐火組成物。
<2>
前記成分(E)が酸化チタン及びシリカの少なくとも1種である、<1>に記載の熱膨張性耐火組成物。
<3>
前記熱膨張性耐火組成物が、前記成分(A)100質量部に対して、前記成分(E)10~300質量部を含有する、<1>又は<2>に記載の熱膨張性耐火組成物。
<4>
前記成分(F)がカーボンブラックを含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の熱膨張性耐火組成物。
<5>
前記成分(F)が下記条件1及び2の少なくとも一方を満たす、<1>~<4>のいずれか1つに記載の熱膨張耐火組成物。
条件1:成分(F)100g当たりのDBP吸油量が0~500mL
条件2:平均粒子径5~2000nm
<6>
前記熱膨張性耐火組成物が、前記成分(A)100質量部に対して、前記成分(F)0.01~200質量部を含有する、<1>~<5>のいずれか1つに記載の熱膨張性耐火組成物。
<7>
<1>~<6>のいずれか1つに記載の熱膨張性耐火組成物で構成した、熱膨張性耐火シート。
<8>
<7>に記載の熱膨張性耐火シートからなる層と、補強材、接着剤及び離型紙から選ばれる少なくとも1つの層とを含む積層体。
【0007】
本発明において「組成物」というときには、2種以上の成分が均一に混合された混合物を意味する。ただし、実質的に均一性が維持されていればよく、所望の効果を奏する範囲で、一部において凝集や偏在が生じていてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱膨張性耐火組成物及び熱膨張性耐火シートは、火災時における熱膨張性に優れ、耐火性(断熱性)にも優れ、かつ、梁や柱等に適用した状態で火災の熱に晒されても梁や柱等から欠落しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施例及び比較例で作製した試験体に用いたH鋼の断面図である。
【
図2】本発明の実施例及び比較例で作製した試験体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<熱膨張性耐火組成物>
本発明の熱膨張性耐火組成物は、スチレン系エラストマー(成分(A))、含リン化合物(成分(B))、多価アルコール(成分(C))、発泡剤(成分(D))、無機充填剤(成分(E))及び無機補強剤(成分(F))を含有し、前記成分(F)がカーボンブラック及びクレーの少なくとも1種である。
以下、本発明の熱膨張性耐火組成物を、単に「本発明の組成物」と称することもある。
本発明の組成物が含有する成分及び含有し得る成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0011】
(スチレン系エラストマー)
スチレン系エラストマー(成分(A))は、ソフトセグメントと、スチレン化合物(置換又は無置換のビニル基1つと、置換又は無置換の芳香族炭化水素環(例えば、ベンゼン環、ナフタレン環及びアントラセン環)1つとが直接結合した構造を有する化合物)から導かれるハードセグメントを有する熱可塑性エラストマーである。
スチレン化合物の具体例としては、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン及びビニルアントラセンが挙げられる。
ソフトセグメントを導くモノマーとしては、例えば、共役ジエン化合物が挙げられ、共役ジエン化合物の具体例としては、ブタジエン(1,2-ブタジエン、1,4-ブタジエン)、イソプレン及び1,3-ペンタジエンが挙げられる。
成分(A)の具体例としては、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SBR)、水素添加スチレン-ブタジエンブロック共重合体(スチレン-エチレン/ブチレンブロック共重合体、SEB)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、水素添加スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体、SEBS)、スチレン-イソプレンブロック共重合体(SIR)、水素添加スチレン-イソプレンブロック共重合体(スチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体、SEP)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、水素添加スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体、SEPS)、スチレン-エチレン-イソプレンブロック共重合体、水素添加スチレン-エチレン-イソプレンブロック共重合体(スチレン-エチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体)、スチレン-エチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、水素添加スチレン-エチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(スチレン-エチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体)、(α-メチルスチレン)-ブタジエンブロック共重合体、水素添加(α-メチルスチレン)-ブタジエンブロック共重合体((α-メチルスチレン)-エチレン/ブチレンブロック共重合体)、(α-メチルスチレン)-ブタジエン-(α-メチルスチレン)ブロック共重合体、水素添加(α-メチルスチレン)-ブタジエン-(α-メチルスチレン)ブロック共重合体((α-メチルスチレン)-エチレン/ブチレン-(α-メチルスチレン)ブロック共重合体)、スチレン-イソブチレンブロック共重合体、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体が挙げられる。
本発明に含有される各成分の混練しやすさや、熱膨張性の観点から、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SBR)、水素添加スチレン-ブタジエンブロック共重合体(スチレン-エチレン/ブチレンブロック共重合体、SEB)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、水素添加スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体、SEBS)、スチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体の少なくとも1種以上から選択することが好ましく、水素添加スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体、SEBS)が最も好ましい。
【0012】
成分(A)の物性としては、混練性や成形のしやすさの観点から、ASTM D 1238による測定方法により、150℃、荷重21.2Nの条件にて求められる。上記条件にて得られたMFR(メルトマスフローレイト)値は、80g/10min以下が好ましく、60g/10min以下がより好ましく、40g/10min以下が最も好ましい。一方、前記MFRは、通常、1.0/10min以上であることが実際的である。
なお、上記条件で得られたMFRが、1g/10min未満の場合は、温度を150℃から200℃にして上記と同様の測定を行い、100g/10min以上の場合は、温度を150℃から125℃にして上記同様の測定を行い得られた値を採用する。
【0013】
なお、本発明の組成物は、成分(A)以外のポリマーを含有してもよい。本発明の組成物が含有するポリマーに占める成分(A)の含有量の割合は、例えば、80質量%以上であり、90質量%以上としてもよく、100質量%であってもよい。本発明の組成物に含まれるポリマーは成分(A)からなることが好ましい。
上記成分(A)以外のポリマーとしては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、EVA(エチレン―酢酸ビニル共重合体)、フッ素樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー及びポリエステル系熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0014】
(含リン化合物)
本発明の組成物に用いられる含リン化合物(成分(B))は、特に制限されず、熱膨張性耐火組成物に一般的に用いられるものを広く用いることができる。
成分(B)としての具体例としては、赤リン、リン酸エステル(例えば、トリフェニルホスフェート及びトリクレジルホスフェート)、リン酸金属塩(例えば、リン酸ナトリウム及びリン酸マグネシウム)、リン酸アンモニウム、リン酸メラミン、リン酸アミド及びポリリン酸アンモニウム化合物(例えば、ポリリン酸アンモニウム、及びメラミン変性ポリリン酸アンモニウム)が挙げられる。
これらのうち、本発明の組成物が加熱されて生成する発泡断熱構造中(発泡断熱層中)に十分な量の炭化物を存在させる観点、及び、本発明の組成物で構成された熱膨張性耐火シート(以下、「本発明の組成物で構成された熱膨張性耐火シート」を、単に「本発明のシート」と称することもある。)が加熱されて形成される発泡断熱構造の形成性、形状保持性及び長期耐久性の観点から、成分(B)は、ポリリン酸アンモニウム化合物を含むことが好ましい。
本発明の組成物が火災等の高熱に晒されて、ポリリン酸アンモニウム化合物の分解温度に達すると、ポリリン酸アンモニウム化合物から、アンモニアガスが発生し、リン酸及び縮合リン酸が生成する。リン酸及び縮合リン酸が、本発明の組成物に含有される多価アルコール等の有機物に対して脱水触媒として作用して、有機物が炭化されることで、発泡断熱構造中に炭化物が生成する。
本発明の組成物中、成分(B)の含有量は、特に制限されないが、発泡断熱構造中の炭化物の生成量、並びに、発泡断熱構造中に粗大な気泡が発生することを抑制する観点から、成分(A)100質量部に対して、10~1000質量部が好ましく、20~500質量部がより好ましく、70~250質量部が更に好ましい。
【0015】
(多価アルコール)
本発明の組成物に用いられる多価アルコール(成分(C))は、特に制限されず、熱膨張性耐火組成物に一般的に用いられるものを広く用いることができる。
上述のように本発明の組成物が火災等の高熱に晒されると、成分(C)は炭化される。
成分(C)の分解温度は、150℃以上が好ましく、180℃以上がより好ましい。一方、成分(C)の分解温度の上限に特に制限はないが、300℃以下が実際的である。
成分(C)としては例えば、モノペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びトリペンタエリスリトール、でんぷん及びセルロース等の多糖類、並びにグルコース及びフルクトース等の少糖類が挙げられ、これらの少なくとも1種を用いることができる。これらの中でも、本発明の組成物の熱膨張性の観点から、モノペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びトリペンタエリスルトールから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
本発明の組成物中、成分(C)の含有量は、特に制限されないが、発泡断熱構造の骨格形成、並びに、発泡断熱構造の形状保持性の観点から、成分(A)100質量部に対して、5質量部以上200質量部以下が好ましく、10~100質量部がより好まく、25~80質量部が更に好ましい。
【0016】
(発泡剤)
本発明の組成物に用いられる発泡剤(成分(D))としては、熱膨張性耐火組成物に用いられる通常の発泡剤が使用できる。成分(D)の具体例としては、メラミン及びその誘導体、ジシアンジアミド及びその誘導体、アゾジカーボンアミド、尿素、並びに、チオ尿素等が挙げられる。
これらの中でも、メラミン、ジシアンジアミド、アゾジカーボンアミド等が不燃性ガスの発生効率に優れていることから好ましく、メラミン、ジシアンジアミドがより好ましく、ジシアンジアミドが最も好ましい。
本発明の組成物中、成分(D)の含有量は、組成物の熱膨張性及び発泡断熱構造の耐火性の観点から、成分(A)100質量部に対して、5~500質量部が好ましく、30~200質量部がより好ましく、35~100質量部が更に好ましい。
【0017】
(無機充填剤)
本発明の組成物に用いられる無機充填剤(成分(E))としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、珪藻土、雲母、カオリン、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム及びベントナイトが挙げられ、これらの少なくとも1種を用いることができる。なかでもシリカ、酸化チタンが好ましく、酸化チタンが最も好ましい。酸化チタンは、ルチル型とアナターゼ型のどちらでも構わないが、ルチル型の方がより好ましい。
成分(E)は、熱による分解温度が高いため、発泡断熱構造中で炭化物の耐熱性効果を補助する。
本発明の組成物中、成分(E)の含有量は、当該組成物の熱膨張性、発泡断熱構造中での粗大気泡の発生抑制及び発泡断熱構造の欠落抑制の観点から、成分(A)100質量部に対して、5~1000質量部が好ましく、10~300質量部がより好ましく、50~200質量部が更に好ましく、70~150質量部が特に好ましい。
【0018】
(無機補強剤)
本発明の組成物に用いられる無機補強剤(成分(F))は、カーボンブラック及びクレーの少なくとも1種であり、カーボンブラックを含むことが好ましい。カーボンブラックの具体例としては、活性炭素等の多孔質炭素粉末、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、グラファイト及びグラファイト繊維が挙げられる。クレーの具体例としては、ベントナイト、マイカ、カオリン及び焼成カオリンが挙げられる。
本発明の組成物は、成分(F)に含まれるカーボンブラック及びクレーの少なくとも1種が、成分(A)と相互作用して、バウンドラバーを形成する。バウンドラバーは結着性を有しながらも結合力が緩やかであるため、本発明の組成物は、熱膨張性に優れ、高熱下で生成する発泡断熱構造は耐火性(断熱性)にも優れ、かつ、発泡断熱構造の欠落についてはこれを効果的に抑制することができると推定される。
【0019】
発泡断熱構造における気泡径の均一性の観点から、成分(F)のDBP吸油量は、100g当たり0~1000mLの範囲が好ましく、0~500mLの範囲が更に好ましい。
DBP吸油量(成分(F)間の空隙を満たすに要するDBP(Dibutyl phthalate)の量)は以下のようにして決定される。
DBP吸油量は、JIS K 6217-4(2008)に従って測定した値であり、カーボンブラック100g当たりに吸収されるジブチルフタレートの量(mL)を意味する。
発泡断熱構造の欠落抑制の観点から、成分(F)の平均粒子径(体積基準のメジアン径)は、平均粒子径が1~10000nmの範囲が好ましく、5~2000nmが更に好ましい。
【0020】
本発明の組成物中、成分(F)の含有量(合計)は、当該組成物の膨張性、発泡断熱構造中での粗大気泡の発生抑制及び発泡断熱構造の欠落抑制の観点から、成分(A)100質量部に対して、0.01~1000質量部が好ましく、0.01~200質量部が更に好ましく、1~100質量部が更に好ましく、5~50質量部が特に好ましい。
また、本発明の組成物が後記成分(G)を含む場合には、成分(F)の含有量は、成分(G)100質量部に対して、15~300質量部が好ましく、30~200質量部がより好ましく、50~150質量部が最も好ましい。
【0021】
(可塑剤)
本発明の組成物は、本発明の作用効果を損なわない範囲で、可塑剤(成分(G))を含有してもよい。
成分(G)として、熱膨張性耐火組成物に用いられる通常の可塑剤を用いることができる。成分(G)の具体例としては、ジ-2-エチルヘキシルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジブチルフタレート等のフタル酸エステル化合物;トリ-n-トリオクチルトリメリテート、ジペンタエリスリトールエステル、混合アルコールトリメリテート等のトリメリット酸エステル化合物;ブチルオレエート等の脂肪酸エステル化合物;エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化脂肪酸アルキルエステル等のエポキシ化合物;イソブチルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルアジペート等のアジピン酸エステル化合物;トリクレジルホスフェート、トリ-2-エチルヘキシルホスフェート、トリフェニルホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート等のリン酸エステル化合物;アロマプロセスオイル、ナフテンプロセスオイル等の鉱油;パラフィンプロセスオイル、塩素化パラフィン、塩素化脂肪族エステル等の塩素化物;ポリブテン、ポリブタジエン等のポリマー油;及びアルキッド樹脂、キシレン樹脂等の樹脂が挙げられ、これらの少なくとも1種を用いることができる。これらのなかでも、フタル酸エステル化合物を用いることが好ましい。
本発明の組成物中、成分(G)の含有量は、発泡断熱構造の欠落を抑制する観点から、成分(A)100質量部に対して、200質量部以下が好ましく、120質量部以下がより好ましく、40質量部以下が更に好ましく、20質量部以下が特に好ましい。また、本発明の組成物が成分(G)を含む場合、成分(G)の含有量は、成分(A)100質量部に対して10質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。
【0022】
(分散剤)
本発明の組成物は、本発明の作用効果を損なわない範囲で、分散剤(成分(H))を含有してもよい。
成分(H)として、熱膨張性耐火組成物に用いられる通常の分散剤を用いることができる。成分(H)として脂肪酸エステルを用いることができる。脂肪酸エステルの具体例として、ベヘニルベヘネート、オクチルドデシルベヘネート、ステアリルステアレート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレート、ポリグリセリンステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられ、これらの少なくとも1種を用いることができる。これらのなかでも、グリセリンモノステアレートが好ましい。
本発明の組成物中、成分(H)の含有量は、エラストマーと添加剤の分散性を向上させ、均一な発泡断熱構造を構築する観点から、成分(A)100質量部に対して、1~50質量部が好ましく、3~40質量部がより好ましく、5~30質量部が更に好ましい。
【0023】
(その他の成分)
本発明の組成物は、本発明の作用効果を損なわない範囲で、上記成分(A)~(H)以外の成分を含有してもよい。上記成分(A)~(H)以外の成分の具体例として、顔料、繊維、湿潤剤、滑剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、増粘剤、レベリング剤、消泡剤、架橋剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤及び触媒等が挙げられ、これらの少なくとも1種を用いることができる。
本発明の組成物中、上記成分(A)~(H)以外の成分の含有量は合計で、例えば、成分(A)100質量部に対して、10質量部以下とすることができ、8質量部以下とすることも好ましく、5質量部以下とすることも好ましい。
【0024】
<熱膨張性耐火組成物の調製方法>
本発明の組成物は、少なくとも成分(A)~(F)を混練することにより調製できる。混練は、各種の混練機(例えば、ニーダー、バンバリーミキサー、ミキシングロール)を用いて上記成分を混合することにより行うことができる。混練は、必要に応じて各成分の混合物を加熱しながら行ってもよい。例えば、ビーズ状又はペレット状等の成分(A)を使用する場合は、成分(A)の軟化(溶融)温度以上まで加熱装置によって加熱しながら、成分(A)以外の成分を添加し、混錬することができる。
【0025】
<熱膨張性耐火シート>
本発明のシートは、本発明の組成物をシート状に成形したものである。本発明のシートの厚みは使用目的に応じて適宜に設定すればよく、例えば、0.01~100mmとすることができる。本発明のシートの厚みは、0.1~30mmとすることも好ましく、0.5~20mmとすることも好ましい。
【0026】
<熱膨張性耐火シートの製造方法>
本発明のシートは、本発明の組成物を用いること以外は常法によって成形して製造することができる。
成形方法としては、例えば、本発明の組成物を型枠内に流し込み、乾燥後に脱型する方法、本発明の組成物を加温塗工機によって離型紙に塗付した後に巻き取る方法、本発明の組成物を押し出し成型機によってシート状に加工する方法、本発明の組成物を対ロールの間に供給してシート状に加工する方法、本発明の組成物をペレット状にした後に押し出し成型機によってシート状に加工する方法、本発明の組成物を複数の熱ロールからなるカレンダによって圧延してシート状に加工する方法等が挙げられる。成形温度は、成分(A)の軟化温度以上とすることが好ましく、通常は80~120℃で成形する。
【0027】
本発明のシートは、本発明の作用効果を損なわない範囲で、補強材、接着剤(粘着剤を含む)、離型紙等との積層構造とすることができる。
補強材としては、例えば、織布、不織布、メッシュ、金属メッシュ、アルミシート、ガラス繊維シート、アルミガラス繊維シート等が使用できる。補強材は、1種又は2種以上の補強材の積層構造とすることもできる。また、熱膨張性耐火シートの間に補強材を組み込むこともできる。
接着剤としては、熱膨張性耐火シートに用いる通常の接着剤及び粘着剤等が使用できる。
離型紙は、通常は接着剤に重ねて積層され、接着剤を保護するために用いられる。
【0028】
本発明のシートは、建築物等の各種基材を被覆する材料として使用することができる。基材が用いられる部位としては、例えば、壁、柱、床、梁、屋根、階段等が挙げられる。基材を構成する材料としては、例えば、金属、コンクリート、木質部材及び樹脂部材等が挙げられる。これらの基材は、下地処理、防錆処理等が適宜施されたものであってもよい。
また、本発明のシートは、建築物以外にも適用でき、車の構成部品、電子部品、電気製品、管路等、耐火性(防火性)が要求される製品及び部品が挙げられる。
【0029】
本発明のシートを基材に貼着する際には、基材に予め接着剤を塗付して貼着する方法、接着剤層を設けた被覆材を基材に貼着する方法、被覆材を釘、鋲等により基材に固定する方法等の種々の方法が可能である。
【0030】
本発明のシートを基材に貼着する際には、対象となる基材が全て覆われるように処理することが好ましい。本発明では、単層でも可能だが、基材に本発明のシートを2枚以上積層して貼着することもできる。
【0031】
本発明のシート同士の突き合わせ部分の処理については、本発明のシート同士を重ね合わせる方法、細幅のシートやテープを重ね合わせる方法、パテ材を充填する方法等を採用することができる。
【実施例】
【0032】
実施例に基づき本発明についてさらに詳細に説明する。下記実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。したがって、本発明は、本発明で規定すること以外は、以下に示す実施例に限定して解釈されるものではない。
【0033】
(実施例1)
後記表1に記載の成分を、後記表1の量で用いて、以下の手順で熱膨張性耐火組成物を調製し、当該熱膨張性耐火組成物を成形して熱膨張性耐火シートを得た。
スチレン系エラストマーをニーダーにて100℃で5分間混練してスチレン系エラストマーを溶融した。溶融したスチレン系エラストマーに、ペンタエリスリトール、ジシアンジアミド、ポリリン酸アンモニウム、グリセリンモノステアレート、酸化チタン及びカーボンブラックを添加した。これらの成分をニーダーにて100℃で15分間混練して熱膨張性耐火組成物を得た。混練直後の熱膨張性耐火組成物を複数の熱ロールからなるカレンダーロールによって圧延してシート状に加工することにより、縦670mm、横300mm、厚さ2mmの熱膨張性耐火シートを作製した。得られた熱膨張耐火シートと、縦670mm、横300mm、厚さ0.138mmのアルミガラスクロスを積層することにより、実施例1の熱膨張性耐火積層シートを得た。
【0034】
(実施例2~16及び比較例1~13)
実施例1の熱膨張性耐火組成物の調製及び熱膨張性耐火積層シートの作製において、実施例1の熱膨張性耐火組成物の組成に変えて、後記表1記載の実施例2~16及び比較例1~13の組成を採用したこと以外は、実施例1の熱膨張性耐火組成物の調製及び熱膨張性耐火積層シートの作製と同様にして、実施例2~16及び比較例1~13の熱膨張性耐火組成物及び熱膨張性耐火積層シートを得た。
【0035】
(耐火性)
図1に示すH鋼(10)を用いて
図2に示す断面を有する試験体を作製した。なお、図面それ自体はいずれも模式的な説明図であり、実際のサイズや位置関係をそのまま表すものではない。
H鋼(10)の材質はSS400(JIS G 3101(2015))に準拠しており、H鋼のサイズは、t1=250mm、t2=125mm、t3=6mm、t4=9mmであり、JIS G 3192(2014)に準拠している。
試験体では、ALC(高温高圧蒸気養生された軽量気泡コンクリート)板(1)と組み合わせられたH鋼(10)が、実施例及び比較例の熱膨張性耐火積層シート(アルミガラスクロス(2)及び組成物で構成した熱膨張性耐火シート(3))で覆われている(密閉されている)。
この試験体を、試験装置(東和耐火工業社製小型耐火試験装置)の加熱炉内にセットした。試験体の熱電対(4)、(福電社製K-CCBF 1P*1/1.0 4,000L 温接点/M4Y端子(商品名))側から、ISO834の標準加熱曲線に準じて1時間加熱し加熱炉内の温度を約945℃まで上昇させて、熱電対により測定された温度を、下記評価基準に当てはめて評価した。「〇」及び「△」が本試験の合格である。結果を後記表1に示す。
-評価基準-
○:550℃以下
△:550越え700℃以下
×:700℃越え
【0036】
(熱膨張性)
上記で加熱した試験体を室温(50℃)になるまで試験装置中で静置した後、H鋼に残った発泡断熱積層構造の厚みを測定し、下記式1)により算出して得られる値を下記評価基準に当てはめて評価した。「〇」及び「△」が本試験の合格である。結果を後記表1に示す。
式1) 加熱により生じた発泡断熱積層構造の厚み/加熱前の熱膨張性耐火積層シートの厚み
「加熱により生じた発泡断熱構造の厚み」は「加熱後の熱膨張性耐火積層シートの厚み」を意味する。「加熱により生じた発泡断熱構造の厚み」は以下のようにして求めた。
試験後にH鋼のt2で示される面(
図1)に残った発泡断熱積層構造において、発泡断熱構造とガラスクロスとの厚みの合計の最大値(1点)と最小値(1点)を2で割って算出する。
-評価基準-
○:15以上
△:5を越え15未満
×:5未満
【0037】
(発泡断熱構造の欠落の有無)
上記で熱膨張性を評価した後、試験体及び試験装置を観察し、H鋼からの発泡断熱構造の落下(欠落)の有無を確認して、下記評価基準に当てはめて評価した。「〇」及び「△」が本試験の合格である。結果を後記表1に示す。
-評価基準-
○:発泡断熱構造が全く落下しなかった(全く欠落がなかった)。
△:発泡断熱構造が部分的に落下した(一部欠落があったが半分以上は落下せずに残っていた)。
×:発泡断熱構造の大半(半分を越える)が落下した。
【0038】
【0039】
【0040】
<表の注>
実:実施例
比:比較例
【0041】
(熱可塑性エラストマー)
スチレン系エラストマー(アロン化成社製:AR-710N(商品名)、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体、MFR5g/min(ASDM D 1238、150℃、21.2N)(成分(A))
ポリアミド系エラストマー(Arkema社製:PEBAX5533(商品名)、ポリアミド―ポリエーテル共重合体)
塩化ビニル系エラストマー(三菱ケミカル社製:サンプレーン F8807-1(商品名))
非架橋型オレフィン系エラストマー(JSR社製:1601B(商品名))
ポリエステル系エラストマー(アロン化成社製:ES-A50NX(商品名))
【0042】
(熱可塑性樹脂)
EMA(エチレン-アクリル酸エチル コポリマー)(日本ポリエチレン社製:EB050S(商品名))
エチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物(東ソー社製:H-6051K(商品名))
【0043】
(可塑剤(成分(G)))
【0044】
フタル酸エステル(協栄ケミカル社製:DINP(商品名))
【0045】
(多価アルコール(成分(C)))
ペンタエリスリトール(大成化薬社製:ノイライザーP(商品名))
【0046】
(発泡剤(成分(D)))
ジシアンジアミド(三菱ケミカル社製:DICY15(商品名))
【0047】
(含リン化合物(成分(B)))
ポリリン酸アンモニウム(杭州捷尔思阻燃化工有限公司製:AP102(商品名))
【0048】
(分散剤(成分(H)))
グリセリンモノステアレート(リケマールS-100(商品名))
【0049】
(無機充填剤(成分(E)))
酸化チタン(堺化学工業社製:R-11P(商品名))
(平均粒子径200nm)
シリカ(信越化学工業社製:QSG-30(商品名))
(平均粒子径30nm)
炭酸カルシウム(白石カルシウム社製:白艶華CC(商品名)、平均粒子径40nm)
水酸化マグネシウム(神島化学工業社製:マグシーズ X(商品名)、平均粒子径1000nm)
酸化マグネシウム(神島化学工業社製:PSF-150(商品名)、平均粒子径600nm)
タルク(日本タルク社製:ナノエースD-600(商品名)、平均粒子径600nm)
ガラス繊維(日東紡社製:SS 10-420(商品名)、平均カット長0.3mm)
【0050】
(無機補強剤(成分(F)))
カーボンブラック(旭カーボン社製:#70(商品名))
(DBP吸油量101mL/100g、平均粒子径28nm)
クレー(山陽クレー工業社製:TPクレー(商品系)、平均粒子径4000nm)
【0051】
表1から以下のことが分かる。
本発明で規定する成分(A)以外の熱可塑性エラストマー又は熱可塑性樹脂を用いて作製した比較例1~6の積層体は、耐火性が不合格であった。比較例1~5の積層体は熱膨張性も不合格であり、比較例3~6の積層体は発泡断熱構造の大半が欠落した。
本発明で規定する成分(F)を用いずに作製した比較例7~9、12及び13の積層体は、発泡断熱構造の大半が欠落した。比較例9、12及び13の積層体は耐火性及び熱膨張性も不合格であった。
本発明で規定する成分(F)を用いずに作製した比較例10及び11の積層体は、耐火性が不合格であり、比較例10の積層体は熱膨張性も不合格であった。
これに対して、実施例1~16の本発明の積層体は、耐火性及び熱膨張性に優れ、発泡断熱構造の欠落があったとしても部分的であったことが分かる。
【符号の説明】
【0052】
1 ALC(高温高圧蒸気養生された軽量気泡コンクリート)板
2 アルミガラスクロス
3 組成物で構成した熱膨張性耐火シート
4 熱電対
10 H鋼