(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】光ファイバ
(51)【国際特許分類】
G02B 6/44 20060101AFI20241223BHJP
G02B 6/036 20060101ALI20241223BHJP
C03C 25/1065 20180101ALI20241223BHJP
C03C 25/285 20180101ALI20241223BHJP
C03C 25/36 20060101ALI20241223BHJP
C03C 25/50 20060101ALI20241223BHJP
C03C 25/6226 20180101ALI20241223BHJP
【FI】
G02B6/44 331
G02B6/036
C03C25/1065
C03C25/285
C03C25/36
C03C25/50
C03C25/6226
(21)【出願番号】P 2021543008
(86)(22)【出願日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2020032396
(87)【国際公開番号】W WO2021039914
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2019158333
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武笠 和則
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャルフィ タマーシュ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァーラヤイ ゾルターン
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-125064(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159146(WO,A1)
【文献】特開2006-133496(JP,A)
【文献】特開2018-106199(JP,A)
【文献】特開2018-189914(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0343751(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0285257(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02-6/10, 6/44
C03C 25/1065, 25/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英系ガラスからなるコア部と、
前記コア部の外周を覆い、前記コア部の最大屈折率よりも低い屈折率を有する石英系ガラスからなるクラッド部と、
前記クラッド部の外周を覆い、前記クラッド部側に位置するプライマリコーティング層と、前記プライマリコーティング層の外周側に位置するセカンダリコーティング層とを有するコーティング部と、
を備え、
前記クラッド部の外径は
75μm以上100μm未満であり、
前記プライマリコーティング層の厚さが15μm以上
30μm以下であり、
波長1310nmにおけるモードフィールド径が8.6μm以上9.2μm以下であり、
実効カットオフ波長が1260nm以下であり、
直径60mmで曲げた場合の波長1550nmにおける曲げ損失が0.1dB/100turn以下であり、
前記クラッド部に対する前記コア部の比屈折率差Δ1が、0.33%以上0.40%以下であり、
前記コア部は、中心コア部と、前記中心コア部の外周に形成されたディプレスト層とを有し、
W型の屈折率プロファイルを有し、
前記クラッド部に対する前記ディプレスト層の比屈折率差Δ2が、-0.20%以上0%未満であり、
前記中心コア部のコア径を2a、前記ディプレスト層の外径を2bとしたときに、b/aが5以下であ
り、
前記コーティング部を含めた光ファイバの外径は、125μm以上155μm以下である
ことを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
前記コア部は、ゲルマニウムが添加された石英ガラスからなる
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
零分散波長が1300nm以上1324nm以下
であり、前記零分散波長での分散スロープが0.092ps/nm
2/km以下である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバ。
【請求項4】
波長1550nmにおけるマイクロベンド損失が、ITU-T G.652で定義される規格に準拠する特性を有しかつクラッド部の外周に厚さが62.5μmの樹脂コーティング部を有する標準光ファイバの波長1550nmにおけるマイクロベンド損失の20倍以下である
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の光ファイバ。
【請求項5】
前記マイクロベンド損失は、研磨紙法またはワイヤメッシュ法にて測定した値である
ことを特徴とする請求項4に記載の光ファイバ。
【請求項6】
前記コア部は、実効カットオフ波長が1000nm以上1260nm以下になるように設定されている
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載の光ファイバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
データコムやテレコムの分野において、高密度光ファイバケーブルを実現する光ファイバとして、細径の光ファイバが注目されている。ここで、細径光ファイバとは、主に光ファイバのガラスからなる部分を細径化したものであり、クラッド径が細径のものである。ただし、クラッド径が細径化されたことによって、クラッド部の外周を覆うように形成されたコーティング部を含む外径が細径化されたものも細径光ファイバに含まれる。
【0003】
従来、細径の光ファイバとして、クラッド部に対するコア部の比屈折率差を高くした構成が開示されている(非特許文献1)。非特許文献1の光ファイバは、比屈折率差を高くしているので、その特性が、ITU-T(国際電気通信連合)G.652で定義される標準的なシングルモード光ファイバの規格(以下、G.652規格)に準拠するものではない。また、細径の光ファイバとして、比屈折率差が-0.08%以上のトレンチ層を設けた構成が開示されている(特許文献1)。特許文献1の光ファイバは、G.652規格に準拠するものであり、そのクラッド径は100μm~125μm程度である。また、細径の光ファイバとして、プライマリコーティング層とセカンダリコーティング層とをコーティング部として有し、セカンダリコーティング層を25μm以下にした構成が開示されている(特許文献2)。特許文献2の光ファイバは、クラッド径は125μmであるが、コーティング厚を小さくすることによって細径化を実現している。
【0004】
また、特許文献3には、有効コア断面積(Aeff)が130μm2以上と比較的大きい光ファイバにて、マイクロベンド損失を抑制する構成が開示されている。特許文献3の光ファイバは、プライマリコーティング層の外径が185μm以上220μm以下であり、セカンダリコーティング層の外径が225μm以上260μm以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/190297号
【文献】特開平5-19144号公報
【文献】特開2015-219271号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】村瀬 他、「細径クラッドファイバの開発」、昭和電線レビュー、vol.53、N0.1(2003)、pp.32-36
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
G.652規格に準拠する光ファイバは、たとえば、陸上に敷設される用途などに広く用いられている。そこで、G.652規格への適合性が高く、かつより細径である光ファイバが求められている。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、G.652規格への適合性が高く、かつより細径である光ファイバを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る光ファイバは、石英系ガラスからなるコア部と、前記コア部の外周を覆い、前記コア部の最大屈折率よりも低い屈折率を有する石英系ガラスからなるクラッド部と、前記クラッド部の外周を覆い、前記クラッド部側に位置するプライマリコーティング層と、前記プライマリコーティング層の外周側に位置するセカンダリコーティング層とを有するコーティング部と、を備え、前記クラッド部の外径は100μm未満であり、前記プライマリコーティング層の厚さが15μm以上であり、波長1310nmにおけるモードフィールド径が8.6μm以上9.2μm以下であり、実効カットオフ波長が1260μm以下であり、直径60mmで曲げた場合の波長1550nmにおける曲げ損失が0.1dB/100turn以下であることを特徴とする。
【0010】
前記コア部の比屈折率差Δ1が0.33%以上0.40%以下であってもよい。
【0011】
零分散波長が1300nm以上1324nm以下あり、前記零分散波長での分散スロープが0.092ps/nm2/km以下であってもよい。
【0012】
波長1550nmにおけるマイクロベンド損失が、ITU-T G.652で定義される規格に準拠する特性を有しかつクラッド部の外周に厚さが62.5μmの樹脂コーティング部を有する標準光ファイバの波長1550nmにおけるマイクロベンド損失の20倍以下であってもよい。
【0013】
前記マイクロベンド損失は、研磨紙法またはワイヤメッシュ法にて測定した値であってもよい。
【0014】
前記コア部は、実効カットオフ波長が1000nm以上1260nm以下になるように設定されていてもよい。
【0015】
前記コア部は、中心コア部と、前記中心コア部の外周に形成されたディプレスト層とを有しており、W型の屈折率プロファイルを有してもよい。
【0016】
前記クラッド部に対する前記ディプレスト層の比屈折率差をΔ2とすると、Δ2が-0.20%以上0%未満であり、前記中心コア部のコア径を2a、前記ディプレスト層の外径を2bとしたときに、b/aが5以下であってもよい。
【0017】
ステップ型の屈折率プロファイルを有してもよい。
【0018】
前記クラッド部の外径が75μm以下であり、前記プライマリコーティング層の厚さが30μm以下であってもよい。
【0019】
前記コーティング部を含む当該光ファイバの外径が210μm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれは、G.652規格への適合性が高く、かつより細径である光ファイバを実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、実施形態に係る光ファイバの模式的な断面図である。
【
図2A】
図2Aは、実施形態に係る光ファイバにおいて用いることができるステップ型の屈折率プロファイルの模式図である。
【
図2B】
図2Bは、実施形態に係る光ファイバにおいて用いることができるW型の屈折率プロファイルの模式図である。
【
図3】
図3は、ガラス径と、規格化マイクロベンド損失との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する構成要素には適宜同一の符号を付している。また、本明細書においては、カットオフ波長または実効カットオフ波長とは、ITU-T G.650.1で定義するケーブルカットオフ波長をいう。また、その他、本明細書で特に定義しない用語についてはG.650.1およびG.650.2における定義、測定方法に従うものとする。
【0023】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る光ファイバの模式的な断面図である。光ファイバ1は、略中心に位置するコア部1aと、コア部1aの外周を覆うクラッド部1bと、クラッド部1bの外周を覆うコーティング部1cとを備えている。
【0024】
コア部1aとクラッド部1bとは、いずれも石英系ガラスからなる。たとえば、コア部1aは、ゲルマニウム(Ge)やフッ素(F)などの屈折率調整用のドーパントが添加された石英系ガラスからなる。クラッド部1bは、コア部1aの最大屈折率よりも低い屈折率を有する。クラッド部1bは、たとえば屈折率調整用のドーパントを含まない純石英ガラスからなる。コア部1aとクラッド部1bからなる部分をガラス光ファイバと記載する場合がある。
【0025】
クラッド部1bの外径(以下、クラッド径またはガラス径と記載する場合がある)は、100μm未満であり、G.652規格に準拠するシングルモード光ファイバのクラッド径である約125μmよりも細径化されている。なお、クラッド径は85μm以下であることが細径化の観点からはより好ましく、82μm以下がさらに好ましい。以下、G.652規格に準拠するシングルモード光ファイバを標準光ファイバとして標準SMFと記載する場合がある。このような標準SMFは、通常はクラッド部の外周に厚さが約62.5μmの樹脂コーティング部を有している。樹脂コーティング部は、たとえば2層構造の場合は、厚さが約37.5μmのプライマリコーティング層と、プライマリコーティング層の外周側に位置し厚さが約25μmのセカンダリコーティング層とからなる。したがって、樹脂コーティング部の外径は約250μmとなる。
【0026】
光ファイバ1は、たとえば
図2Aおよび
図2Bに示すような屈折率プロファイルを有する。
図2A、
図2Bは、いずれも、光ファイバ1のコア部1aの中心軸から半径方向における屈折率プロファイルを示している。
【0027】
図2Aは、ステップ型の屈折率プロファイルを示している。
図2Aにおいて、プロファイルP11がコア部1aの屈折率プロファイルを示し、プロファイルP12がクラッド部1bの屈折率プロファイルを示す。なお、屈折率プロファイルは、クラッド部1bに対する比屈折率差で示している。ステップ型の屈折率プロファイルでは、コア部1aの直径(コア径)は2aであり、クラッド部1bに対するコア部1aの比屈折率差はΔ1である。Δ1はたとえば0.33%以上0.40%以下が好ましい。
【0028】
図2Bは、いわゆるW型の屈折率プロファイルを示している。
図2Bにおいて、プロファイルP21がコア部1aの屈折率プロファイルを示し、プロファイルP22がクラッド部1bの屈折率プロファイルを示す。W型の屈折率プロファイルでは、コア部1aは、直径が2aの中心コア部と、中心コア部の外周を囲むように形成されており、屈折率がクラッド部の屈折率よりも小さく内径が2aで外径が2bのディプレスト層とで構成されている。クラッド部1bに対する中心コア部の比屈折率差はΔ1である。クラッド部1bに対するディプレスト層の比屈折率差はΔ2である。Δ1はたとえば0.33%以上0.40%以下が好ましい。Δ2はたとえば-0.20%以上0%未満が好ましい。b/aはたとえば5以下が好ましい。
【0029】
図1に戻って、コーティング部1cは、たとえば樹脂からなり、光ファイバ1のガラス部分を保護する機能を有する。コーティング部1cは、たとえばUV硬化樹脂等からなる。コーティング部1cに用いられるUV硬化樹脂としては、たとえばウレタンアクリレート系、ポリブタジエンアクリレート系、エポキシアクリレート系、シリコーンアクリレート系、ポリエステルアクリレート系などがあるが、光ファイバのコーティングに使用されるものであれば特に限定されない。
【0030】
コーティング部1cは、クラッド部1b側に位置するプライマリコーティング層1caと、プライマリコーティング層1caの外周側に位置するセカンダリコーティング層1cbとを有する。プライマリコーティング層1caのヤング率は0.2~1.5MPaの程度であり、本実施形態では0.5MPaである。セカンダリコーティング層1cbのヤング率は500~2000MPaの程度であり、本実施形態では1000MPaである。
【0031】
コーティング部1cを含む光ファイバ1の外径は、たとえば210μm以下である。プライマリコーティング層1caの厚さは、たとえば15μm以上である。
【0032】
本実施形態に係る光ファイバ1は、コア径が7μm以上10μm以下(コア半径aは、3.5μm以上5.0μm以下)であり、波長1310nmにおけるモードフィールド径(MFD)が8.6μm以上9.2μm以下であり、実効カットオフ波長(λcc)が1260nm以下であり、直径60mmで曲げた場合の波長1550nmにおける曲げ損失(以下、適宜マクロベンド損失と記載する)が0.1dB/100turn以下、好適には、直径60mmで曲げた場合の波長1625nmにおけるマクロベンド損失が0.1dB/100turn以下であるという特性を有する。これにより、光ファイバ1は、MFD、λcc、マクロベンド損失について、G.652規格に準拠し、G.652規格への適合性が高い光ファイバである。
【0033】
また、光ファイバ1は、零分散波長が1300nm以上1324nm以下あり、零分散波長での分散スロープが0.092ps/nm2/km以下という特性を満たすのが好ましく、分散スロープが0.073ps/nm2/km以上という特性を満たすのがより好ましい。
【0034】
さらに、光ファイバ1は、クラッド径が100μm未満と、標準SMFのクラッド径である約125μmよりも一桁細い細径化がされている。これにより、光ファイバ1は、ガラス径が顕著に細くなっており、光ファイバ1の断面積が顕著に縮小されているので、高密度光ファイバケーブルを実現するのに適する。
【0035】
また、上記実効カットオフを実現するために、実効カットオフ波長が1260nm以下になるようにコア部1aが設定されていることが好ましいが、特に実効カットオフ波長が1260nm以下になるように直径2aが設定されていることが好ましい。また、実効カットオフ波長が1000nm以上になるようにコア部1a、特に直径2aが設定されていれば、マクロベンド損失を低減できるので好ましい。
【0036】
また、コーティング部1cを含む光ファイバ1の外径が210μm以下であれば、標準SMFの樹脂コーティング部を含む外径である約250μmよりも細径とでき、光ファイバ1の断面積が顕著に縮小される。
【0037】
ここで、光ファイバにおいて、ガラス径すなわちクラッド径を縮小すると、マイクロベンド損失(側圧損失とも呼ばれる)が増大する。通常、光ファイバの伝送損失は、光ファイバケーブルとされた状態では増加する。このときの伝送損失の増加量は、マイクロベンド損失と密接な関係があり、マイクロベンド損失が大きいと増加量も大きい。
【0038】
本実施形態に係る光ファイバ1において、標準SMFの波長1550nmにおけるマイクロベンド損失の20倍以下のマイクロベンド損失とすれば、実用的な程度のマイクロベンド損失とできる。なお、マイクロベンド損失を標準SMFにおけるマイクロベンド損失で規格化した値を規格化マイクロベンド損失と規定すると、本実施形態に係る光ファイバ1の規格化マイクロベンド損失は20以下が好ましく、さらに10以下が好ましい。マイクロベンド損失の抑制のためには、2層構造のコーティング部1cにおいて、プライマリコーティング層1caの厚さが15μm以上であることが好ましい。ここで、規格化マイクロベンド損失が20以下であるとした場合の20の値は、ケーブル化後においても、実用的な程度のマイクロベンド損失に抑えることができる値である。
【0039】
なお、マイクロベンド損失は、JIS C6823:2010_10で規定された固定径ドラム法(研磨紙法の一種)で測定された値や、研磨紙法の一種である伸長ドラム法で測定された値を用いることができる。また、マイクロベンド損失は、ワイヤメッシュ法や、さらにその他の測定方法(たとえば斜め巻付け法)で測定された値でもよい。
【0040】
以下、実施形態に係る光ファイバについて、シミュレーション計算の結果を参照して説明する。
【0041】
まず、
図2に示すステップ型、W型の屈折率プロファイルを有する光ファイバについて、Δ1、Δ2、2a、2bなどの構造パラメータを様々な値に網羅的に変化させて組み合わせて光学特性の計算を行った。このとき、光学特性のうちMFD、λcc、およびマクロベンド損失が、G.652規格を満たすように組み合わせを最適化した。以下、MFD、λcc、およびマクロベンド損失を主要特性と記載する場合がある。
【0042】
計算の結果、ステップ型、W型のいずれにおいても、比屈折率差Δ1が0.33%以上0.40%以下の場合に、主要特性が、G.652規格を満たす構造パラメータの組み合わせが存在することを確認した。さらに、W型の場合、Δ2が-0.20%以上0%未満であり、b/aが5以下の場合に、主要特性が、G.652規格をより良好に満たす構造パラメータの組み合わせが存在することを確認した。
【0043】
つづいて、主要特性がG.652規格を満たすような構造パラメータの組み合わせに対して、ガラス径、プライマリコーティング層の外径(プライマリ径)、セカンダリコーティング層の外径(セカンダリ径)を様々な値に変化させて検証し、体系的な検討を行った。検討の結果、ステップ型、W型のいずれにおいても、ガラス径とプライマリ径(またはプライマリコーティング層の厚さであるプライマリ厚)が、光ファイバのマイクロベンド損失特性の支配的要因であることを確認した。
【0044】
図3は、プライマリ厚が10μm、15μm、20μm、25μm、30μmの場合の、ガラス径と、規格化マイクロベンド損失との関係の一例を示す図である。なお、ガラス径については、80μm、90μm、100μm、110μm、120μmのそれぞれを中心に値を変化させたので、値の変化の範囲を横軸方向に延びるバーで示している。また、規格化マイクロベンド損失については、計算に用いた、主要特性がG.652規格を満たす構造パラメータの組み合わせおよびセカンダリ径によって、値に幅があるので、幅の範囲を縦軸方向に延びるバーで示している。
【0045】
なお、
図3において、ガラス径が100μm、プライマリ厚が15μmの縦軸方向のエラーバーの下限が20以下まで延びていることに留意すべきである。
【0046】
図3に示すような体系的な検討の結果、ガラス径を100μm未満にする場合、プライマリ厚を15μmまたはそれ以上にすることによって、規格化マイクロベンド損失を20以下にできる場合があることが確認された。また、プライマリ厚を20μm以上にすることによって、規格化マイクロベンド損失をより小さくでき、かつ規格化マイクロベンド損失を20以下にできる範囲が広くなることが確認された。
【0047】
また、本実施形態に係る光ファイバは、公知の線引き装置を用いて、光ファイバ母材からガラス光ファイバを線引きし、ガラス光ファイバにコーティングを形成することによって製造可能である。セカンダリコーティング層を形成する工程の操作性を考慮すると、セカンダリ厚は10μm以上であることが望ましい。
【0048】
以上の検討結果から、本実施形態に係る光ファイバ1によれば、主要特性がG.652規格を満たし、ガラス径が100μ未満であり、プライマリ厚が15μmまたはそれ以上であって好適には20μm以上であり、セカンダリ厚が10μm以上であり、かつ規格化マイクロベンド損失が20以下とすることができる。この場合、コーティング部1cを含めた光ファイバ1の外径(ファイバ径)はガラス径に対して50μm以上増加した値、または好適には60μm以上増加した値となる。したがって、ガラス径が75μm、80μm、85μm、90μm、および95μmのそれぞれにおける最小ファイバ径および好適なファイバ径は表1に示す値となる。表1に示すように、本実施形態に係る光ファイバ1によれば、ファイバ径を125μmから155μmの範囲とすることができる。なお、ガラス径を75μm以上にすれば、取り扱い性もよく、マイクロベンド損失も比較的小さいので好ましい。
【0049】
【0050】
(実施例)
本発明の実施例として、W型の屈折率プロファイルを有する光ファイバを公知の方法にて作製した。構造パラメータは、Δ1を0.37%、Δ2を-0.03%、b/aを2、2aを8μmに設定した。また、ガラス径を90μm、プライマリ径を135μm、セカンダリ径を170μmとした。コーティング部の材料やヤング率は実施形態と同じにした。
【0051】
実施例の光ファイバの光学特性を表2に示す。なお、規格化マイクロベンド損失は研磨紙法で測定したものである。表2に示すように、実施例の光ファイバは、波長1550nmでの伝送損失が0.19dB/kmと低く、λcc、マクロベンド損失、MFD、ゼロ分散波長(λ0)、および分散スロープがG.652規格を満たし、G.652規格への適合性が高かった。また、実施例の光ファイバは、直径60mmで曲げた場合の波長1625nmにおける曲げ損失も、G.652規格を十分に満たす値であった。また、実施例の光ファイバは、規格化マイクロベンド損失が11.9と小さく、かつガラス径が90μm、ファイバ径が170μmと細径であった。
【0052】
【0053】
なお、実施例の光ファイバを直径30mmで曲げた場合の波長1550nmにおける曲げ損失を測定したところ、0.25dB/10turnより大きかった。したがって、実施例の光ファイバは、G.657規格の曲げ損失の規定を満足しないものであった。
【0054】
また、比較例として、実施例と同じW型の屈折率プロファイルを有し、ガラス径が90μmのガラス光ファイバに、プライマリ径を110μmすなわちプライマリ厚を10μm、セカンダリ径を145μmとした光ファイバを作製した。すると、規格化マイクロベンド損失は73.1であり、実施例と比較して大幅に増大した。このことは、プライマリ厚を15μm以上の適切な値にすることが、マイクベンド損失の抑制に効果的であることを意味すると考えられる。
【0055】
なお、上記実施形態では、屈折率プロファイルとしてステップ型およびW型を例示している。ステップ型およびW型は、シンプルな屈折率プロファイルであり、製造性も高いので好ましい。ただし、本発明はこれに限られず、トレンチ型やセグメントコア型やW+サイドコア型などのその他の屈折率プロファイルについても適用できる。
【0056】
また、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る光ファイバは、データコムやテレコムなどの光通信の分野に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0058】
1 光ファイバ
1a コア部
1b クラッド部
1c コーティング部
1ca プライマリコーティング層
1cb セカンダリコーティング層
P11、P12、P21、P22 プロファイル