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特許7608386空気液化分離装置、空気液化分離装置の運転停止方法及び起動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】空気液化分離装置、空気液化分離装置の運転停止方法及び起動方法
(51)【国際特許分類】
   F25J 3/04 20060101AFI20241223BHJP
【FI】
F25J3/04 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022044178
(22)【出願日】2022-03-18
(65)【公開番号】P2023137800
(43)【公開日】2023-09-29
【審査請求日】2023-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】對馬 臣輔
(72)【発明者】
【氏名】荒川 萌美
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-178816(JP,A)
【文献】特開平03-191287(JP,A)
【文献】特開2004-218871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25J 1/00 - 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮、精製した原料空気を冷却する熱交換器と、原料空気を液化精留分離する高圧塔と低圧塔とを組み合わせた複式精留塔とを備えた空気液化分離装置において、
流体を系外に放出する第1圧力調整経路が、前記低圧塔と前記熱交換器とを接続する経路から分岐されて設けられ、前記第1圧力調整経路は、前記低圧塔の圧力があらかじめ設定された圧力を超えないように制御される第1ガス放出弁を備えるとともに、
流体を系外に放出する第2圧力調整経路が、前記高圧塔と前記熱交換器とを接続する経路から分岐されて設けられ、前記第2圧力調整経路は、前記高圧塔の圧力があらかじめ設定された圧力を超えないように制御される第2ガス放出弁を備え、
前記第1圧力調整経路の前記第1ガス放出弁の上流側と、前記第2圧力調整経路の前記第2ガス放出弁の上流側とを接続するバイパス経路が設けられ
前記低圧塔と前記熱交換器とを接続する経路は、前記低圧塔から排ガスを抜き出す排ガス導出経路である
ことを特徴とする空気液化分離装置。
【請求項2】
前記高圧塔と前記熱交換器とを接続する経路は、原料空気を導入する経路であることを特徴とする請求項記載の空気液化分離装置。
【請求項3】
前記熱交換器に原料空気を導入する経路、及び、前記低圧塔からの出口系統の経路において、各経路を閉塞する弁を設けていることを特徴とする請求項1又は2記載の空気液化分離装置。
【請求項4】
圧縮、精製した原料空気を冷却する熱交換器と、原料空気を液化精留分離する精留塔と凝縮器とを組み合わせた単式精留塔とを備えた空気液化分離装置において、
流体を系外に放出する第1圧力調整経路が、前記凝縮器と前記熱交換器とを接続する経路から分岐されて設けられ、前記第1圧力調整経路は、前記第1圧力調整経路の圧力があらかじめ設定された圧力を超えないように制御される第1ガス放出弁を備えるとともに、
流体を系外に放出する第2圧力調整経路が、前記精留塔と前記熱交換器とを接続する経路から分岐されて設けられ、前記第2圧力調整経路は、前記精留塔の圧力があらかじめ設定された圧力を超えないように制御される第2ガス放出弁を備え、
前記第1圧力調整経路の前記第1ガス放出弁の上流側と、前記第2圧力調整経路の前記第2ガス放出弁の上流側とを接続するバイパス経路が設けられ
前記凝縮器と前記熱交換器とを接続する経路は、前記凝縮器から排ガスを抜き出す排ガス導出経路であり、
前記精留塔と前記熱交換器とを接続する経路は、原料空気を導入する経路である
ことを特徴とする空気液化分離装置。
【請求項5】
前記熱交換器に原料空気を導入する経路、及び、前記精留塔からの出口系統の経路において、各経路を閉塞する弁を設けていることを特徴とする請求項記載の空気液化分離装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の空気液化分離装置の運転を一時的に停止する方法において、運転停止時に、前記第1圧力調整経路から流体を系外に放出するとともに、前記第2圧力調整経路から流体を系外に放出することを特徴とする空気液化分離装置の運転停止方法。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の空気液化分離装置を起動する方法において、起動前の全加温運転時に、加温された原料空気の一部を、前記第2圧力調整経路から前記バイパス経路を介して前記第1圧力調整経路に導入することを特徴とする空気液化分離装置の起動方法。
【請求項8】
請求項4又は5記載の空気液化分離装置を起動する方法において、原料空気の一部を、前記第2圧力調整経路から前記バイパス経路及び前記第1圧力調整経路を介して、膨張タービンに導入することを特徴とする空気液化分離装置の起動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気液化分離装置、空気液化分離装置の運転停止方法及び起動方法に関し、詳しくは、圧縮機の点検などで空気液化分離装置の運転を一時的に停止した際の系内の圧力上昇を防止するための構成や、起動時間を短縮するための構成を備えた空気液化分離装置、空気液化分離装置の運転停止方法及び起動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気液化分離装置は低温蒸留により、空気を酸素、窒素等に分離する装置である。そのため、通常の運転状態の空気液化分離装置の内部には、液化空気、液化酸素ガス、液化窒素ガス等が存在する。一方、空気液化分離装置は、構成機器のメンテナンス、トラブル等により、一時的に短期間停止し、再度起動する場合がある。空気液化分離装置内部に、液化空気、液化酸素ガス、液化窒素ガス等が存在したまま、一時的に空気分離装置の運転を停止することを、低温待機と称される。
【0003】
この低温待機の状態では、空気液化分離装置内に留まっている低温液化ガスが侵入熱によって蒸発し系内の圧力が設計圧力以上に上昇してしまうため、系内から低温ガスの一部を外部に放出することが行われている。しかし、常温のガス系統からガスを放出すると、熱交換器に入る温流体がない状態で冷流体のみを流すこととなるため、例えば、熱交換器の温端が冷却されてしまい、通常の常温が流れることを想定している炭素鋼等で形成されたガス配管は、低温脆性を起こして破損してしまう可能性がある。よって、空気液化分離装置の低温待機は熱交換器の温端温度が、炭素鋼配管の許容温度である-10℃を下回る前に中止して、液化ガスを系外に放出することが好ましいとされている。
【0004】
そこで、空気液化分離装置の運転停止時に放出する低温ガスが製品ガス採取用などの配管に流れ込むことを防止し、長時間の運転停止にも対応できる構成を備えた空気液化分離装置及び空気液化分離装置の運転停止方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
その一方、空気液化分離装置は、回転機械等で構成されており、それらの機器をメンテナンスする必要がある。そのために、空気液化分離装置は定期的に運転が中止され、装置内部が常温に戻される。その後、メンテナンスが終了すると、装置内の機器配管内の水分や二酸化炭素を除去する運転(全加温運転)を実施した後に、常温状態から冷却して起動する運転がなされる。起動運転には莫大なエネルギーと時間を要するので運転時間が短縮されることが好ましい。
【0006】
つまり、大型の空気液化分離装置を低温待機し、起動する場合には、(1)常温の流体(低温ではない流体)が流れることを前提に設計された配管・機器に低温の流体が流れることを防止する、(2)空気液化分離装置から外部に放出する寒冷エネルギーを最小限とする。(外部に放出する低温ガス・液化ガスを最小限とする)、(3)起動時の時間を短縮する、ことが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-178816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、特許文献1に記載された複式精留塔を用いた空気液化分離装置を図3に示す。この複精留塔装置16が低温状態で停止した場合、高圧塔14、低圧塔15の下部にも、液化ガス(液化酸素ガス、液化窒素ガス、液化空気等)が残留している。この状態で、空気液化分離装置を停止後、コールドボックス外からの熱侵入等によって、高圧塔14、低圧塔15内の液化ガスが気化して、塔内の圧力が上昇する。高圧塔14内の圧力の上昇を抑えるためには、液化ガスの一部を液化空気導出経路53、液化空気導入経路54、減圧弁54aによって低圧塔15に導入し、さらに、低圧塔15から気化ガスを圧力調整経路24を介して大気に放出する必要があった。また、高圧塔14内の圧力上昇を抑える際、高圧塔14下部に貯液されている液化ガスの損失を抑えるために、高圧塔14内の低温の高圧ガスを液体窒素経路57、減圧弁57aを通じて低圧塔15に導入する方法も開示されている。しかし、液体窒素経路57、減圧弁57aは通常運転では液体窒素が流れることを前提として配管口径、弁のCV値等が設計されており、気体を流すには配管口径、弁のCV値等が十分でなく、十分なガス流量を確保することは困難な場合もあり得る。
【0009】
一方、メンテナンス等によって常温となったこの空気液化分離装置を起動する場合、起動前の全加温運転時において、水分や二酸化炭素が除去され、加温された原料空気は原料空気経路51、低温原料空気経路52によって高圧塔14に導入され、高圧塔14が加温される。その後、当該原料空気を液体窒素経路57、減圧弁57a又は液化空気導入経路54、減圧弁54a等によって低圧塔15に導入され、低圧塔15が加温される。しかし、液体窒素経路57、減圧弁57a又は液化空気導入経路54、減圧弁54aは低温の液化ガスが流れることを前提として配管口径、弁のCV値等が設計されており、加温用の原料空気を流すには配管口径、弁のCV値等が十分でなく、十分な流量を確保することは困難である。なお、低圧塔15の加温のために、例えば、低温原料空気経路52に流れる原料空気の一部を直接低圧塔15に導入する起動用配管を設置する事も考えられるが、やはり装置コストの要因となってしまう。
【0010】
図4に示す特許文献1に記載された単式精留塔を用いた空気液化分離装置であっても、空気液化分離装置の運転を停止すると、コールドボックス外からの熱侵入等によって、精留塔31内の下部に残留している液化ガスが気化して、塔内の圧力が上昇する。この圧力上昇を抑えるには、精留塔31内の液化ガスを液化空気導出経路72、減圧弁34、凝縮器32、排ガス導出経路76、圧力調整経路37、ガス放出弁36によって放出する必要があった。この方法では、塔内の圧力上昇を押さえるために、塔内に残留した液化ガスの一部を気化させて系外に放出する必要があり、装置内の寒冷をより保持する点からは改善の余地がある。
【0011】
また、運転停止後の起動時において、全加温運転後、装置を常温状態から冷却する必要があり、排ガス導出経路76を流れる排ガスを膨張タービン35に導入し、膨張タービン35で発生した寒冷エネルギーによって精留塔が徐々に冷却される。起動運転時は、通常の運転時に比較して精留塔の運転温度が高いので、排ガス導出経路76を流れる排ガス流量を十分に確保することができない(流体密度が小さく/流体の体積が大きく、口径が小さい配管内を排ガスが流れにくい)ため、起動時間に比較的時間を要する一因であった。
【0012】
そこで本発明は、炭素鋼製の常温ガス用の配管を低温脆性で破損させることなく、空気液化分離装置の低温待機時間を大幅に伸ばし、さらに全加温時間、起動時間を短縮できる空気液化分離装置、空気液化分離装置の運転停止方法及び起動方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の空気液化分離装置は、第1の構成として、圧縮、精製した原料空気を冷却する熱交換器と、原料空気を液化精留分離する高圧塔と低圧塔とを組み合わせた複式精留塔とを備えた空気液化分離装置において、流体を系外に放出する第1圧力調整経路が、前記低圧塔と前記熱交換器とを接続する経路から分岐されて設けられ、前記第1圧力調整経路は、前記低圧塔の圧力があらかじめ設定された圧力を超えないように制御される第1ガス放出弁を備えるとともに、流体を系外に放出する第2圧力調整経路が、前記高圧塔と前記熱交換器とを接続する経路から分岐されて設けられ、前記第2圧力調整経路は、前記高圧塔の圧力があらかじめ設定された圧力を超えないように制御される第2ガス放出弁を備え、前記第1圧力調整経路の前記第1ガス放出弁の上流側と、前記第2圧力調整経路の前記第2ガス放出弁の上流側とを接続するバイパス経路が設けられ、前記低圧塔と前記熱交換器とを接続する経路は前記低圧塔から排ガスを抜き出す排ガス導出経路であることを特徴としている。
【0014】
さらに、前記第1の構成の空気液化分離装置において、前記低圧塔と前記熱交換器とを接続する経路は原料空気を導入する経路であること、前記熱交換器に原料空気を導入する経路、及び、前記低圧塔からの出口系統の経路において、各経路を閉塞する弁を設けていることを特徴としている。
【0015】
本発明の空気液化分離装置の第2の構成は、圧縮、精製した原料空気を冷却する熱交換器と、原料空気を液化精留分離する精留塔と凝縮器とを組み合わせた単式精留塔とを備えた空気液化分離装置において、流体を系外に放出する第1圧力調整経路が、前記凝縮器と前記熱交換器とを接続する経路から分岐されて設けられ、前記第1圧力調整経路は、前記第1圧力調整経路内の圧力があらかじめ設定された圧力を超えないように制御される第1ガス放出弁を備えるとともに、流体を系外に放出する第2圧力調整経路が、前記精留塔と前記熱交換器とを接続する経路から分岐されて設けられ、前記第2圧力調整経路は、前記精留塔の圧力があらかじめ設定された圧力を超えないように制御される第2ガス放出弁を備え、前記第1圧力調整経路の前記第1ガス放出弁の上流側と、前記第2圧力調整経路の前記第2ガス放出弁の上流側とを接続するバイパス経路が設けられ、前記凝縮器と前記熱交換器とを接続する経路は前記凝縮器から排ガスを抜き出す排ガス導出経路であり、前記精留塔と前記熱交換器とを接続する経路は原料空気を導入する経路であることを特徴としている。
【0016】
さらに、前記第2の構成の空気液化分離装置において、前記熱交換器に原料空気を導入する経路、及び、前記精留塔からの出口系統の経路において、各経路を閉塞する弁を設けていることを特徴としている。

【0017】
また、本発明の第1の構成及び第2の構成における空気液化分離装置の運転を一時的に停止する方法は、運転停止時に、前記第1圧力調整経路から流体を系外に放出するとともに、前記第2圧力調整経路から流体を系外に放出することを特徴としている。
【0018】
また、本発明の第1の構成及び第2の構成における空気液化分離装置の運転を起動する方法は、起動前の全加温運転時に、加温された原料空気の一部を、前記第2圧力調整経路から前記バイパス経路を介して前記第1圧力調整経路に導入することを特徴としている。
【0019】
さらに、本発明の第2の構成における空気液化分離装置の運転を起動する方法は、原料空気の一部を、前記第2圧力調整経路から前記バイパス経路及び前記第1圧力調整経路を介して、膨張タービンに導入することを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高圧塔(精留塔)と熱交換器とを接続する経路にも圧力調整経路を設けることにより、減圧弁や熱交換器を介さずにガスを放出できるため、液化ガスの外部への放出量を抑えることができ、塔内部の液化ガスをより長く保持できるため低温待機時間を延長することが可能となる。
【0021】
また、全加温運転時に、加温された原料空気の一部を、第2圧力調整経路からバイパス経路を介して第1圧力調整経路に導入することができるので、全加温運転時間を短縮することができる。
【0022】
さらに、起動時に原料空気の一部を、第2圧力調整経路からバイパス経路及び第1圧力調整経路を介して、膨張タービンに導入することができるので、起動時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の運転停止方法・起動方法を適用可能な空気液化分離装置の第1形態例を示す系統図である。
図2】本発明の運転停止方法・起動方法を適用可能な空気液化分離装置の第2形態例の要部を示す系統図である。
図3】従来の複式精留塔を用いた空気液化分離装置の系統図である。
図4】従来の単式精留塔を用いた空気液化分離装置の系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明の空気液化分離装置の第1形態例を示す系統図であって、本発明を複式精留塔を使用した空気液化分離装置に適用した一形態例を示している。なお、以下の説明における高圧、中圧、低圧は、各形態例それぞれにおける相対的な圧力の相違を示すものであって、圧力範囲を特定するものではない。
【0025】
本形態例に示す空気液化分離装置は、主要な機器として、原料空気を圧縮する圧縮機11と、原料空気中の不純物を除去する精製器12と、精製された原料空気を低温ガスとの熱交換によって冷却する熱交換器13と、冷却された原料空気を液化精留分離する高圧塔14と低圧塔15とを組み合わせた複式精留塔16と、高圧塔14の上部に分離した高圧の窒素ガスを低圧塔15の底部に分離した低圧の液体酸素との熱交換によって液化し、液体窒素を生成する凝縮器17と、高圧塔14の底部から導出した液化ガス(酸素富化液化空気)と低圧塔15の上部から導出したガス(製品窒素ガス、排ガス)とを熱交換させる過冷器18とを備えている。
【0026】
また、低圧塔15には、アルゴン凝縮器19を備えた粗アルゴン塔20が付設されている。さらに、低温の各ガスが流れる各機器や経路は、外部からの熱侵入を抑制するためのコールドボックス21内に収納されている。
【0027】
このような構成を有する空気液化分離装置において、本形態例では、低圧塔15の上部から排ガスを導出する排ガス導出経路22に、前記熱交換器13の導入前の位置から分岐し、排ガスを外部に排出するための第1ガス放出弁23を備えた第1圧力調整経路24を設けている。第1ガス放出弁23は、低圧塔15内の圧力があらかじめ設定された圧力を超えないように弁開度を調整可能に制御されており、第1ガス放出弁23と低圧塔15の上部との間には、第1圧力伝達経路25が設けられている。
【0028】
また、熱交換器13から高圧塔14に原料空気を導入するガス配管(後述する低温原料空気経路52)から分岐し、高圧塔14内のガスを外部に排出するための第2ガス放出弁81を備えた第2圧力調整経路80を設けている。第2ガス放出弁81は、高圧塔14内の圧力があらかじめ設定された圧力を超えないように弁開度を調整可能に制御されており、第2ガス放出弁81と高圧塔14との間には、第2圧力伝達経路90が設けられている。
【0029】
第1圧力調整経路24と第2圧力調整経路80とは、出口側で合流しても良い。さらに、第1圧力調整経路24の第1ガス放出弁23の上流側と、第2圧力調整経路80の第2ガス放出弁81の上流側とを接続するバイパス経路84が設けられている。バイパス経路84は弁85を備えている。
【0030】
まず、通常運転時の空気液化分離装置では、圧縮機11で設定圧力に圧縮した原料空気を、精製工程と再生工程とに切り替え使用される一対の精製器の一方に導入し、原料空気中の水分や二酸化炭素などの不純物を吸着剤により吸着除去して精製した後、原料空気導入弁51aを備えた原料空気経路51を介してコールドボックス21内の熱交換器13に導入する。熱交換器13では、製品酸素ガス、製品窒素ガス、排ガスなどの低温流体からなる原料空気冷却用流体と熱交換することによって原料空気が所定の低温状態に冷却される。
【0031】
低温の原料空気は、低温原料空気経路52から高圧塔14の下部に導入されて塔内を上昇し、塔内での精留操作によって塔上部に高圧窒素ガスが分離するとともに、塔底部に酸素が濃縮した高圧の液化空気が分離する。高圧塔底部の液化空気は、液化空気導出経路53に抜き出され、過冷器18で過冷却状態に冷却された後、液化空気導入経路54を通り、減圧弁54aにて低圧塔圧力に対応した低圧状態に減圧されてから低圧塔15の中段部に下降液として導入される。
【0032】
また、液化空気の一部は、液化空気導出経路53から分岐したアルゴン冷却経路55を通り、減圧弁55aにて減圧されてからアルゴン凝縮器19に導入され、気化してから気化空気経路56を通って低圧塔15の中段上部に上昇ガスとして導入される。一方、高圧塔14の上部の高圧窒素ガスは、凝縮器17で液化した後、一部が高圧塔14の上部に下降液として導入され、残部が液体窒素経路57から過冷器18を通り、減圧弁57aで減圧された後、低圧塔15の上部に下降液として導入される。
【0033】
前記低圧塔15では、塔内での精留操作によって塔上部に低圧窒素ガスが分離するとともに、塔底部に低圧の液体酸素が分離する。塔上部の低圧窒素ガスは、低圧窒素導出経路58に抜き出され、過冷器18を通り、更に熱交換器13で原料空気と熱交換を行うことによって昇温した後、製品窒素採取弁59aを備えた製品窒素採取経路59から製品窒素ガスとして採取される。
【0034】
一方、塔底部の液体酸素は、前記凝縮器17で高圧窒素ガスと熱交換して気化した後、酸素導出経路60に抜き出され、熱交換器13で原料空気と熱交換を行うことによって昇温した後、製品酸素採取弁61aを備えた製品酸素採取経路61から製品酸素ガスとして採取される。
【0035】
さらに、低圧塔15の中段上部からは、低純度窒素が原料空気冷却用流体である排ガスとして前記排ガス導出経路22に抜き出され、過冷器18を通り、熱交換器13を通って昇温した後、外部排ガス導出経路22aを通って前記精製器12の再生ガスとして用いられる。
【0036】
また、低圧塔15の中段では、上昇ガスの一部がアルゴン原料経路62に抜き出されて粗アルゴン塔20に上昇ガスとして導入され、粗アルゴン塔20の底部からは液化ガスが液化ガス戻り経路63を通り、低圧塔15の下降液として導入されている。
【0037】
粗アルゴン塔20では、塔内の精留操作によって塔上部にアルゴンが濃縮した粗アルゴンガスが分離し、この粗アルゴンガスがアルゴン凝縮器19で前記液化空気の一部と熱交換することにより液化して液体粗アルゴンとなる。この液体粗アルゴンは、一部がアルゴン導出弁(図示せず)を経てアルゴン導出経路64に抜き出され、残部は下降液経路65を通り、粗アルゴン塔20の上部に下降液として導入される。
【0038】
このような複式精留塔において、圧縮機11の点検などで運転を一時的に停止する際には、原料空気導入弁51aを閉じるとともに、コールドボックス21内から低温ガスを導出する経路に設けられている製品窒素採取弁59a、製品酸素採取弁61a、アルゴン導出弁及び精製器12に設けられている各弁を閉じることにより、コールドボックス21の内外のガスの流れを遮断した状態にする。これにより、系内の低温の流体が外部に流出することがなくなり、コールドボックス21内を所定の低温待機状態に保つことが可能となる。
【0039】
空気液化分離装置の運転停止時間が長くなり、外部からの僅かな熱侵入によってコールドボックス21内の温度が上昇すると、高圧塔14及び低圧塔15の内部に保持されている各種液化ガスが蒸発し、系内の圧力が次第に上昇してくる。
【0040】
そして、液化ガスの蒸発によって系内の圧力、本形態例では、低圧塔15の上部の圧力が、設計圧力より低いあらかじめ設定された圧力に達すると、第1圧力伝達経路25から伝達される圧力信号によって第1ガス放出弁23の弁開度を調整し、低圧塔15内部の低温ガスや排ガス導出経路22内の排ガスを第1圧力調整経路24から外部に放出する。また、高圧塔14の内部の圧力が、設計圧力より低いあらかじめ設定された圧力に達すると、第2圧力伝達経路90から伝達される圧力信号によって第2ガス放出弁81の弁開度を調整し、高圧塔14内の低温ガスを第2圧力調整経路80から外部に放出する。これにより、コールドボックス21内の系内の圧力を、機器の設計圧力以下に保持することができ、圧力の過度な上昇によって精留塔を含む各種機器が破損することを防止できる。
【0041】
また、熱交換器13に導入する前の排ガスを放出しているので、低温の排ガスが昇温せずに低温のまま外部排ガス導出経路22aに流れ込むことがない。したがって、外部排ガス導出経路22aや精製器12の出口部が低温の排ガスによって冷却されることがなく、これらを低温対応の材料で形成する必要がなくなるので、コストの削減を図れる。
【0042】
一方、第1圧力調整経路24は、製品窒素採取経路59などに比べて小口径で短い長さの配管で形成できるので、製品窒素採取経路59などを低温対応するのに比べてコスト上昇は僅かである。また、低圧窒素導出経路58や酸素導出経路60から圧力調整経路を分岐させることも可能であるが、製品系統からガスを放出すると、運転再開後の製品純度に悪影響を及ぼすおそれがあるため、第1圧力調整経路24は、排ガス導出経路22から分岐させることが好ましい。また、第2圧力調整経路80は、原料空気が流れる低温原料空気経路52から分岐しているので、運転再開後の製品純度に悪影響を及ぼすおそれはない。
【0043】
このように、低圧塔15の上部の圧力に応じて排ガスを外部に放出することにより、コールドボックス21内を従来よりも長時間にわたって低温状態に保持することができ、各精留塔内に液化ガスを保有した状態にできるので、運転再開時の起動時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0044】
一方、空気液化分離装置を完全に停止させた場合には、空気液化分離装置を起動する際に、まず、空気液化分離装置の全加温運転を行う必要がある。この全加温運転とは、原料空気を圧縮・精製後、ヒータやスチームを用いて加温し、この加温された精製空気を精留塔などの各種機器、配管へ流すことにより、内部の水分や二酸化炭素を除去する操作である。
【0045】
本形態例では、第2圧力調整経路80と第1圧力調整経路24とがバイパス経路84で接続されているので、弁85を開くことにより、全加温運転時に原料空気の一部を第2圧力調整経路80から第1圧力調整経路24に導入できる。したがって、通常液化ガスが流れることを前提としている液化空気導出経路53や液体窒素経路57等を経由することなく、全加温運転の開始直後から排ガス導出経路22に加温された原料空気の一部を導入することができる。よって、各機器の中でも特に熱容量が大きい熱交換器13を効率よく加温することが可能となる。これにより、全加温時間を低減可能となり、全加温運転にかかる動力を低減することができる。
【0046】
また、熱交換器13に導入される原料空気経路51に原料空気導入弁51aが設けられているので、高圧塔14内の流体が原料空気経路51に逆流することを防止することができる。また、低圧塔15から気体を系外に放出する出口系統である製品窒素採取経路59、製品酸素採取経路61にそれぞれ製品窒素採取弁59a、製品酸素採取弁61aが設けられていることで、低圧塔15の最頂部からの低圧窒素導出経路58の系統を運転状態と同じ圧力に保持するとともに、製品窒素採取経路59、製品酸素採取経路61を製品窒素採取弁59a、製品酸素採取弁61aにより閉塞することで高圧塔14及び低圧塔15内を運転状態と同じ圧力分布に保持し、液体と気体の組成分布が保持された状態で起動できるため、空気分離装置を短時間で起動することが可能となる。
【0047】
図2は、本発明の空気液化分離装置の第2形態例を示すもので、本発明を単式精留塔を使用した空気液化分離装置に適用した一形態例を示している。なお、以下の説明では、コールドボックス内に収納された要部の系統を図示して説明する。
【0048】
本形態例に示す空気液化分離装置は、高圧で運転される精留塔31と中圧で運転される凝縮器32とを組み合わせた単式精留塔によって製品窒素ガスを採取するものであって、圧縮機(図示せず)で圧縮され、精製器(図示せず)で精製された原料空気は、コールドボックス内に収納した熱交換器33で、原料空気冷却用流体である製品窒素ガス及び排ガスと熱交換を行って所定温度に冷却され、低温原料空気経路71から精留塔31の下部に導入される。
【0049】
精留塔31では、原料空気を精留することによって塔上部に窒素ガスが分離するとともに、塔底部に酸素が濃縮した液化空気が分離する。塔底部の液化空気は、液化空気導出経路72に導出され、減圧弁34で中圧状態に減圧された後に凝縮器32に導入される。また、塔上部の窒素ガスは、一部が製品窒素採取経路73に抜き出され、熱交換器33で昇温後に高圧の製品窒素として採取され、残部の窒素ガスは凝縮経路74を通って凝縮器32に導入される。
【0050】
凝縮器32では、液化空気と窒素ガスとが熱交換を行い、窒素ガスは液化して液体窒素となり、下降液経路75を通って精留塔31の上部に下降液として導入される。また、液化空気は気化して中圧の排ガスとなり、原料空気冷却用流体として排ガス導出経路76に導出され、通常運転時には、一部の排ガスは、タービン経路77を通り、熱交換器33で中間温度に昇温してから膨張タービン35に導入されて低圧状態に膨張することにより寒冷を発生し、減圧経路78の減圧弁78aで、前記膨張後の排ガスと同じ圧力に減圧された残部の排ガスと合流した後、合流経路79を通り、原料空気冷却用流体として熱交換器33に導入され、昇温後に外部に導出されて精製器の再生ガスなどに用いられる。
【0051】
このように形成された単式精留塔を備えた空気液化分離装置において、前記排ガス導出経路76における熱交換器33への導入前の位置から第1ガス放出弁36を備えた第1圧力調整経路37を分岐させている。第1ガス放出弁36は、該第1ガス放出弁36の一次側の第1圧力調整経路37内の圧力、排ガス導出経路76内の圧力あるいは凝縮器32内の気相の圧力があらかじめ設定された圧力を超えないように弁開度を調整可能に制御されており、第1ガス放出弁36と排ガス導出経路76との間には、第1圧力伝達経路38が設けられている。
【0052】
また、熱交換器33から精留塔31に原料空気を導入する低温原料空気経路71から分岐し、精留塔31内のガスを外部に排出するための第2ガス放出弁83を備えた第2圧力調整経路82を設けている。第2ガス放出弁83は、精留塔31内の圧力があらかじめ設定された圧力を超えないように弁開度を調整可能に制御され制御されており、第2ガス放出弁83と精留塔31との間には、第2圧力伝達経路91が設けられている。
【0053】
第1圧力調整経路37と第2圧力調整経路82とは、出口側で合流しても良い。さらに、第1圧力調整経路37の第1ガス放出弁36の上流側と、第2圧力調整経路82の第2ガス放出弁83の上流側とを接続するバイパス経路86が設けられている。バイパス経路86は弁87を備えている。
【0054】
これにより、空気液化分離装置の運転停止時に、原料空気導入弁、製品窒素採取弁、排ガス導出弁を閉じてコールドボックス内外のガスの流れを遮断した状態で、外部からの熱侵入によって精留塔31や凝縮器32に保持されている液化ガスが蒸発し、精留塔31や凝縮器32の圧力が上昇したときに、第1圧力伝達経路38及び第2圧力伝達経路91から伝達される圧力信号によって第1ガス放出弁36及び第2ガス放出弁83がそれぞれ開弁し、第1圧力調整経路37及び第2圧力調整経路82から排ガスを放出するので、精留塔31や凝縮器32の圧力を設計圧力以下に保持することができ、圧力の過度な上昇によって精留塔などが破損することを防止できる。さらに、前記第1形態例と同様に、熱交換器33で昇温しない低温のガスが外部の配管に流れ込むことがないので、外部の常温配管などの機器を低温対応の材料で形成する必要がなくなる。
【0055】
また、本形態例における空気液化分離装置の完全停止後の全加温運転時においては、第2圧力調整経路82と第1圧力調整経路37とがバイパス経路86で接続されているので、弁87を開くことにより、全加温運転の開始直後から加温された原料空気の一部を第2圧力調整経路82から第1圧力調整経路37を通じて、減圧経路78、合流経路79に導入できる。したがって、特に熱容量が大きい熱交換器を効率よく加温することが可能となる。これにより、全加温時間を低減可能となり、全加温運転にかかる動力を低減することができる。
【0056】
さらに、全加温運転後の装置起動時、低温原料空気経路71の原料空気の一部を第2圧力調整経路82から第1圧力調整経路37にバイパスさせることにより、タービン経路77を通して膨張タービン35に原料空気を導入することができ、常温起動時間を短縮することが可能となる。つまり、原料空気の一部を、液化空気導出経路72、減圧弁34等の低温の液化ガスが流れることを前提とした配管、弁を経由することなく、従来装置よりも、多くの原料空気を膨張タービン35に導入することが可能となり、又、排ガス導出経路76を流れる排ガスよりも圧力の高い原料空気を膨張タービン35に導入する事により、より多くの寒冷発生が可能となるからである。
【0057】
装置起動時、製品ガス配管内の不純物が低下し難いといった問題が生じない様に、第2圧力調整経路82は、製品系統の製品窒素採取経路73から分岐させるより、本形態例の様に、低温原料空気経路71から分岐する方が望ましい。
【0058】
なお、本発明は上述の形態例における複式精留塔及び単式精留塔に限定されるものではなく、例えば、粗アルゴン塔20を持たない複式精留塔にも適用可能であり、他の機能を有する経路などを付加した各種構成の精留塔にも適用可能である。
【符号の説明】
【0059】
11…圧縮機、12…精製器、13…熱交換器、14…高圧塔、15…低圧塔、16…複式精留塔、17…凝縮器、18…過冷器、19…アルゴン凝縮器、20…粗アルゴン塔、21…コールドボックス、22…排ガス導出経路、22a…外部排ガス導出経路、23…第1ガス放出弁、24…第1圧力調整経路、25…第1圧力伝達経路、31…精留塔、32…凝縮器、33…熱交換器、34…減圧弁、35…膨張タービン、36…第1ガス放出弁、37…第1圧力調整経路、38…第1圧力伝達経路、51…原料空気経路、51a…原料空気導入弁、52…低温原料空気経路、53…液化空気導出経路、54…液化空気導入経路、54a…減圧弁、55…アルゴン冷却経路、55a…減圧弁、56…気化空気経路、57…液体窒素経路、57a…減圧弁、58…低圧窒素導出経路、59…製品窒素採取経路、59a…製品窒素採取弁、60…酸素導出経路、61…製品酸素採取経路、61a…製品酸素採取弁、62…アルゴン原料経路、63…液化ガス戻り経路、64…アルゴン導出経路、65…下降液経路、71…低温原料空気経路、72…液化空気導出経路、73…製品窒素採取経路、74…凝縮経路、75…下降液経路、76…排ガス導出経路、77…タービン経路、78…減圧経路、78a…減圧弁、79…合流経路、80…第2圧力調整経路、81…第2ガス放出弁、82…第2圧力調整経路、83…第2ガス放出弁、84…バイパス経路、85…弁、86…バイパス経路、87…弁、90…第2圧力伝達経路、91…第2圧力伝達経路
図1
図2
図3
図4