(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】自動分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 35/02 20060101AFI20241223BHJP
G01N 35/00 20060101ALI20241223BHJP
【FI】
G01N35/02 G
G01N35/00 F
(21)【出願番号】P 2023508456
(86)(22)【出願日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 JP2021043111
(87)【国際公開番号】W WO2022201637
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2021049452
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】辻川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 佳幸
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-281988(JP,A)
【文献】特開2007-240223(JP,A)
【文献】特開2006-053164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/02
G01N 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体や精度管理試料が収容される容器が投入される投入部と、
前記容器に付与されるIDを読み取るIDリーダと、
前記IDに測定項目を割り当てるとともに各部を制御する制御部と、
前記測定項目に基づいて、前記検体や前記精度管理試料を前記容器から分注して分析を実施する分析部を備える自動分析装置であって、
前記制御部は、前記精度管理試料が収容される第1容器の中の液量が十分でないときに、前記第1容器のIDに対して割り当てられた測定項目のうちの未実施の測定項目を、前記精度管理試料が収容される第2容器のIDに割り当てて、前記分析部に実施させることを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動分析装置であって、
前記第1容器と前記第2容器とは同一のラックに保持され、
前記制御部は、前記第1容器の中の液量が十分でないときに、前記ラックを前記IDリーダに搬送させて、前記第1容器のIDに対して割り当てられた測定項目のうちの未実施の測定項目を前記第2容器のIDに割り当てることを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の自動分析装置であって、
前記制御部は、前記ラックが前記IDリーダに搬送される間、前記精度管理試料の測定項目以外の測定項目を前記分析部に実施させることを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項1に記載の自動分析装置であって、
前記第1容器と前記第2容器とは個別のラックに保持され、
前記制御部は、前記第1容器の中の液量が十分でないときに、前記第2容器が保持されるラックを前記IDリーダに搬送させて、前記第1容器のIDに対して割り当てられた測定項目のうちの未実施の測定項目を前記第2容器のIDに割り当てることを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
請求項4に記載の自動分析装置であって、
前記第2容器を保持するラックは前記精度管理試料を保冷する保冷庫に保管されることを特徴とする自動分析装置。
【請求項6】
請求項1に記載の自動分析装置であって、
前記分析部は、前記検体や前記精度管理試料を分注する分注プローブを有し、
前記分注プローブには、液面検知機構が設けられることを特徴とする自動分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動分析装置は、血液や尿等の検体に含まれる特定成分を自動的に定性あるいは定量分析する装置である。自動分析装置では分析精度を維持するために、既知の濃度を有する試料である精度管理試料を複数回測定し、測定値の平均値や標準偏差が許容範囲の中にあることが確認される。精度管理試料の測定は定期的に行われるので、精度管理試料の残量管理は重要である。
【0003】
特許文献1には、精度管理試料の残量管理を自動的に行うために、精度管理試料の測定可能回数を記憶し、記憶される測定可能回数と依頼された測定回数とを比較して、その差を表示する自動分析装置が開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1では自動分析装置ごとに精度管理試料の残量管理を行うため、複数の自動分析装置で精度管理試料を共用するとき、自動分析装置ごとに記憶される測定可能回数と実際に測定可能な回数との間に誤差が生じ、精度管理試料を測定できない場合がある。
【0006】
そこで本発明は、精度管理試料の残量管理を不要とする自動分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、検体や精度管理試料が収容される容器が投入される投入部と、前記容器に付与されるIDを読み取るIDリーダと、前記IDに測定項目を割り当てるとともに各部を制御する制御部と、前記測定項目に基づいて、前記検体や前記精度管理試料を前記容器から分注して分析を実施する分析部を備える自動分析装置であって、前記制御部は、前記精度管理試料が収容される第1容器の中の液量が十分でないときに、前記第1容器のIDに対して割り当てられた測定項目のうちの未実施の測定項目を、前記精度管理試料が収容される第2容器のIDに割り当てて、前記分析部に実施させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、精度管理試料の残量管理を不要とする自動分析装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面に従って本発明に係る自動分析装置の実施例について説明する。
【実施例1】
【0011】
図1を用いて、自動分析装置の構成例について説明する。自動分析装置は、投入部101、IDリーダ102、搬送ライン103、待機部104、分析部105、回収部109、制御部106を備える。なお分析部105は複数備えられる。以下、各部について説明する。
【0012】
投入部101には、検体や精度管理試料が収容される容器が投入される。なお検体や精度管理試料が収容される容器は、単一の容器を保持するホルダや複数の容器を保持するラックに載置されて投入部101に投入される。投入部101に投入されたラックやホルダは、搬送ライン103によってIDリーダ102や待機部104、分析部105、回収部109へ搬送される。
【0013】
IDリーダ102は、容器またはラックに付与される識別子であるIDを読み取る機器であり、例えばバーコードリーダやRFIDリーダである。IDリーダ102によって読み取られたIDには、検体や精度管理試料に対して設定された測定項目が割り当てられる。
【0014】
待機部104では、測定項目が割り当てられる前のIDを有する容器や、割り当てられた測定項目が完了していないIDを有する容器が待機する。また待機部104は、保冷を要する検体や精度管理試料を収容する容器が保管される保冷庫107を備える。なお待機部104で待機する容器はラックやホルダに保持される。
【0015】
分析部105では、測定項目に基づいて検体や精度管理試料の分析が実施される。分析部105のそれぞれには、搬送ライン103によって搬送されたラックやホルダに保持される容器から検体や精度管理試料を分注する分注プローブ108が備えられる。分注プローブ108には、液面検知機構が設けられても良い。
【0016】
検体や精度管理試料が分注された容器を保持するラックやホルダは、待機部104あるいは回収部109へ搬送ライン103によって搬送される。割り当てられた測定項目が完了していないIDを有する容器を保持するラックやホルダは待機部104へ、割り当てられた測定項目が完了したIDを有する容器だけを保持するラックやホルダは回収部109へそれぞれ搬送される。回収部109では、搬送されたラックやホルダが保持する容器が回収される。
【0017】
制御部106は、自動分析装置が備える各部を制御するとともに分析に係る処理を実行する装置であり、例えばコンピュータである。制御部106では、検体や精度管理試料に対する測定項目が操作者によって設定される。設定された測定項目は、IDリーダ102によって読み取られたIDに対して割り当てられる。また設定された測定項目に基づいて、読み取られたIDを有する容器の搬送先が選択される。
【0018】
自動分析装置の分析精度を維持するための測定項目を実施する際、容器に収容される精度管理試料の液量が十分でないと当該測定項目を実施できず、場合によっては自動分析装置の動作が停止する。実施例1では、分析精度を維持するための測定項目を実施できずに自動分析装置の動作が停止することを回避するために、
図2に例示される処理の流れが実行される。
【0019】
図2を用いて、実施例1で実行される処理の流れについてステップ毎に説明する。
【0020】
(S201)
投入部101に、精度管理試料が収容される第1容器と第2容器が同一のラックに保持された状態で投入される。なお第1容器と第2容器のそれぞれにはIDが付与される。投入部101に投入されたラックは、搬送ライン103によってIDリーダ102へ搬送される。
【0021】
(S202)
IDリーダ102は、ラックに保持される第1容器のIDを読み取る。読み取られたIDは制御部106に送信され、精度管理試料に設定された測定項目が割り当てられる。また制御部106は、割り当てられた測定項目に基づいて第1容器を保持するラックの搬送先を、複数の分析部105の中から選択する。
【0022】
(S203)
制御部106は、第1容器と第2容器が保持されるラックをS202で選択された搬送先である分析部105へ搬送させる。
【0023】
(S204)
分析部105では、第1容器に収容される精度管理試料の液量が、十分か否かが判定される。液量の判定には、例えば分注プローブ108に設けられる液面検知機構が用いられ、液面検知機構によって計測される液量が予め定められる閾値と比較される。分注プローブ108に液面検知機構が設けられると、分注プローブ108による分注動作にともなって液量が計測されるので、分注に要する時間を短縮できる。なお第1容器に収容される精度管理試料の液量は、分注プローブ108に設けられる液面検知機構に限定されず他の計測機器によって計測されても良い。液量が閾値以上、すなわち十分であればS205へ、液量が不十分であればS206へ処理が進められる。
【0024】
(S205)
分析部105では、第1容器に収容される精度管理試料が分注プローブ108によって分注され、第1容器のIDに割り当てられた測定項目が実施される。割り当てられた測定項目が実施されるとS210へ処理が進められる。
【0025】
(S206)
制御部106は、第1容器のIDに割り当てられた測定項目を実施させずに、第1容器と第2容器が保持されるラックをIDリーダ102へ搬送させる。
【0026】
(S207)
IDリーダ102は、ラックに保持される第2容器のIDを読み取る。読み取られたIDは制御部106に送信され、第1容器において未実施の測定項目が割り当てられる。また制御部106は、S202で選択された搬送先を第2容器のIDに対して設定する。
【0027】
(S208)
制御部106は、第1容器と第2容器が保持されるラックをS207で設定された搬送先である分析部105へ搬送させる。なおS206からS208までの処理が実行される間、分析部105では精度管理試料以外の検体の測定項目が実施される。
【0028】
(S209)
分析部105では、第2容器に収容される精度管理試料が分注プローブ108によって分注され、第2容器のIDに割り当てられた測定項目が実施される。
【0029】
(S210)
制御部106は、第1容器と第2容器が保持されるラックを待機部104へ搬送させる。
【0030】
以上説明した処理の流れにより、精度管理試料の残量管理を不要とすることができる。すなわち第1容器に収容される精度管理試料の液量が十分であれば第1容器を用いて分析精度を維持するための測定項目が実施され、液量が十分でなくても精度管理試料を収容する第2容器を用いて当該測定項目が実施される。その結果、精度管理試料の液量が十分でないために分析精度を維持するための測定項目を実施できないことや自動分析装置の動作が停止することを回避することができる。
【0031】
なお、S204において精度管理試料の液量が不十分と判定されてからS209で第2容器を用いて分析精度を維持するための測定項目が実施されるまでの間、精度管理試料以外の検体が分析される。従って自動分析装置の処理能力、すなわち自動分析装置が単位時間当たりに分析する検体数は維持される。
【0032】
またS204において第1容器に収容される精度管理試料の液量が十分でないと判定されたとき、精度管理試料が収容される新たな容器の投入を促すメッセージが報知されても良い。当該メッセージに従って操作者が新たな容器を投入することにより、第2容器に収容される精度管理試料の液量が十分でない場合にも、分析精度を維持するための測定項目を実施できないことや自動分析装置の動作が停止することを回避することができる。
【実施例2】
【0033】
実施例1では、精度管理試料が収容される第1容器と第2容器が同一のラックに保持される場合について説明した。実施例2では第1容器と第2容器が個別のラックに保持される場合について説明する。なお実施例2の自動分析装置の構成は実施例1と同じであるので説明を省略する。
【0034】
図3を用いて、実施例2で実行される処理の流れについてステップ毎に説明する。なお実施例1と共通する処理は説明を簡略化する。
【0035】
(S301)
投入部101に、精度管理試料が収容される第1容器と第2容器が、それぞれ個別のラックに保持された状態で投入される。第1容器と第2容器のそれぞれにはIDが付与される。投入部101に投入されたラックは搬送ライン103へ移動し、第1容器のラックはIDリーダ102へ搬送され、第2容器のラックは待機部104の保冷庫107へ搬送される。第2容器は保冷庫107に保管されるので、精度管理試料の濃度変化を抑制できる。
【0036】
(S302)
S202と同様に、IDリーダ102によって第1容器のIDが読み取られ、読み取られたIDに精度管理試料に設定された測定項目が割り当てられるとともに、第1容器を保持するラックの搬送先が複数の分析部105の中から選択される。
【0037】
(S303)
S203と同様に、第1容器を保持するラックがS302で選択された搬送先である分析部105へ搬送される。
【0038】
(S304)
S204と同様に、第1容器に収容される精度管理試料の液量が、十分か否かが判定され、十分であればS305へ、液量が不十分であればS306へ処理が進められる。
【0039】
(S305)
S205と同様に、第1容器に収容される精度管理試料が分注プローブ108によって分注され、第1容器のIDに割り当てられた測定項目が実施される。
【0040】
(S306)
制御部106は、第1容器のIDに割り当てられた測定項目を実施させずに、第1容器が保持されるラックを待機部104へ搬送させるとともに、精度管理試料を収容する第2容器が保持されるラックを保冷庫107からIDリーダ102へ搬送させる。
【0041】
(S307)
S207と同様に、IDリーダ102によって第2容器のIDが読み取られ、第1容器において未実施の測定項目が第2容器のIDに割り当てられるとともに、S302で選択された搬送先が第2容器のIDに対して設定される。
【0042】
(S308)
制御部106は、第2容器が保持されるラックをS307で設定された搬送先である分析部105へ搬送させる。なおS306からS308までの処理が実行される間、分析部105では精度管理試料以外の検体の測定項目が実施される。
【0043】
(S309)
S209と同様に、第2容器に収容される精度管理試料が分注プローブ108によって分注され、第2容器のIDに割り当てられた測定項目が実施される。
【0044】
(S310)
制御部106は、第1容器が保持されるラックまたは第2容器が保持されるラックを待機部104へ搬送させる。
【0045】
以上説明した処理の流れにより、精度管理試料の残量管理を不要とすることができる。すなわち第1容器に収容される精度管理試料の液量が十分であれば第1容器を用いて分析精度を維持するための測定項目が実施され、液量が十分でなくても精度管理試料を収容する第2容器を用いて当該測定項目が実施される。その結果、精度管理試料の液量が十分でないために分析精度を維持するための測定項目を実施できないことや自動分析装置の動作が停止することを回避することができる。
【0046】
また実施例2では、第1容器に収容される精度管理試料の液量が十分でないと判定された直後に第2容器が保持されるラックが分析部105へ向けて搬送されるので、分析精度を維持するための測定項目を実施する時間を実施例1よりも短縮できる。すなわち、第2容器を保持するラックが分析部105からIDリーダ102を経由して再び分析部105へ搬送される実施例1よりも、保冷庫107からIDリーダ102を経由して分析部105へ搬送される実施例2の方が、搬送距離が短いので時間を短縮できる。なお実施例1では保冷庫107を動作させずに済むので、実施例2よりも制御が簡略化できる。
【0047】
以上、本発明の実施例について説明した。本発明は上記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形しても良い。また、上記実施例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせても良い。さらに、上記実施例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。
【符号の説明】
【0048】
101:投入部、102:IDリーダ、103:搬送ライン、104:待機部、105:分析部、106:制御部、107:保冷庫、108:分注プローブ、109:回収部