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特許7608696電子エネルギー損失分光(EELS)スペクトルを取得する、サンプルを荷電粒子顕微鏡を使用して検査する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】電子エネルギー損失分光(EELS)スペクトルを取得する、サンプルを荷電粒子顕微鏡を使用して検査する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/04 20180101AFI20241224BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
G01N23/04
H01J37/28 C
【請求項の数】 10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020103400
(22)【出願日】2020-06-15
(65)【公開番号】P2020204613
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】19180167.9
(32)【優先日】2019-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501233536
【氏名又は名称】エフ イー アイ カンパニ
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ショエンメーカーズ レムコ
(72)【発明者】
【氏名】ベラクア ジェイディープ サンジェイ
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-019900(JP,A)
【文献】特開2017-026478(JP,A)
【文献】特開2000-046768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/61
H01J 37/00-37/36
H01J 40/00-49/48
G06T 7/00- 7/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルを、荷電粒子顕微鏡を使用して検査する方法であって、
-荷電粒子ビームおよびサンプルを提供するステップと、
-前記荷電粒子ビームを、前記サンプルにわたって複数のサンプル位置で走査するステップと、
-EELSスペクトルを前記複数のサンプル位置のサンプル位置ごとに取得して、位置情報およびスペクトル情報を含むスペクトルキューブを取得するステップと、を含み、
-前記荷電粒子ビームを、前記サンプルにわたって前記複数のサンプル位置で走査するさらなるステップと、
-さらなるEELSスペクトルを前記複数のサンプル位置のサンプル位置ごとに取得して、位置情報およびスペクトル情報を含むさらなるスペクトルキューブを取得するさらなるステップと、
-前記複数のサンプル位置のサンプル位置ごとに、前記スペクトルキューブを前記さらなるスペクトルキューブと組み合わせるさらなるステップと、
前記EELSスペクトルおよび/または前記さらなるEELSスペクトルを分析するステップを含み、前記分析は、多変量解析を使用する、ステップと、
を特徴とする、方法。
【請求項2】
制御ユニットにより、前記サンプルの画像表現を提供するステップを含み、前記画像表現は、組み合わせた前記スペクトルキューブを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記EELSスペクトルを使用して、前記サンプルの1つ以上の第1の特徴を抽出するステップを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記さらなるEELSスペクトルを使用して、前記サンプルの1つ以上の第2の特徴を抽出するステップを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
制御ユニットにより、前記サンプルの画像表現を提供するステップであって、前記画像表現は、組み合わせた前記スペクトルキューブを含む、ステップと、
前記EELSスペクトルを使用して、前記サンプルの1つ以上の第1の特徴を抽出するステップと、
前記さらなるEELSスペクトルを使用して、前記サンプルの1つ以上の第2の特徴を抽出するステップと、
HSV色空間を基準として、対応する複数の異なる色相を前記第1の特徴および前記第2の特徴に関連付けるステップであって、前記画像表現は、前記異なる色相を含む、ステップと、を含む請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記EELSスペクトルおよび/または前記さらなるEELSスペクトルをノイズ除去するステップを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
組み合わせた前記スペクトルキューブをノイズ除去するステップを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
20e-/Å 未満、または5e-/Å 未満の電子線量が使用される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ドリフト補正を前記EELSスペクトルおよび/または前記さらなるEELSスペクトルに適用するステップを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法を使用してサンプルを検査するための荷電粒子顕微鏡であって、
-荷電粒子源、最終プローブ形成レンズ、およびスキャナを含む、前記荷電粒子源から放出される荷電粒子ビームをサンプルに収束させるための光学カラムと、
-前記最終プローブ形成レンズの下流に位置決めされ、かつ前記サンプルを保持するように設けられたサンプルステージと、
-前記荷電粒子源から放出される荷電粒子の入射に応答して、前記サンプルから発せられる第1のタイプの放出物を検出する第1の検出器と、
-前記第1の検出器に接続されている制御ユニットおよび処理デバイスと、を含み、
前記荷電粒子顕微鏡は、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法を実行するように設けられている、荷電粒子顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプルを、荷電粒子顕微鏡を使用して検査する方法に関するものであり、方法は、荷電粒子ビームならびにサンプルを提供するステップと、当該荷電粒子ビームを、当該サンプルにわたって複数のサンプル位置で走査するステップと、電子エネルギー損失分光(EELS)スペクトルを当該複数のサンプル位置のサンプル位置ごとに取得するステップと、を含む。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子顕微鏡法は、特に電子顕微鏡の形態で顕微鏡物体を撮像するための周知の、かつますます重要な技術である。これまで、基本的な種類の電子顕微鏡は、透過電子顕微鏡(TEM)、走査電子顕微鏡(SEM)、および走査透過電子顕微鏡(STEM)のような、いくつかの周知の装置類に進化してきており、さらには、例えばイオンビームミリングまたはイオンビーム誘導蒸着(IBID)のような支援作用を可能にする「機械加工」集束イオンビーム(FIB)をさらに採用した、いわゆる「デュアルビーム」装置(例えば、FIB-SEM)のような様々な補助装置類に進化してきている。当業者は、異種の荷電粒子顕微鏡に精通しているであろう。
【0003】
走査電子ビームによるサンプルへの照射は、サンプルから2次電子、後方散乱電子、X線、および陰極線発光(赤外線、可視光、および/または紫外線の光子)の形態の「補助(auxiliary)」放射線の放出を促進する。この放出放射線の1つ以上の成分は、サンプル分析のために検出および使用されることができる。
【0004】
サンプルを分析する1つの方法は、電子エネルギー損失分光(EELS)モジュールを利用することである。電子エネルギー損失分光法(EELS)では、材料を、既知の狭い範囲の運動エネルギーを持つ電子ビームに曝す。電子の一部の電子は、非弾性散乱を受けるが、これは、これらの電子がエネルギーを失って、これらの電子の進路がわずかにランダムに偏向されることを意味している。エネルギー損失の量は、電子分光計により測定することができ、エネルギー損失の量から、エネルギー損失の原因が何であったかを解明することができる。非弾性相互作用は、フォノン励起、バンド間遷移およびバンド内遷移、プラズモン励起、内殻電離、およびチェレンコフ放射を含む。内殻電離は、材料の元素成分を検出するのに特に有用である。例えば、予想よりも多い数の電子が、材料に入ったときに持っていたエネルギーよりも285eV少ないエネルギーで材料内に入ることに気付く可能性がある。これはほぼ、内殻電子を炭素原子から取り出すために必要なエネルギー量であり、これは、かなりの量の炭素がサンプルに入り込んでいる証拠とみなすことができる。かなりの注意を払って、広範囲のエネルギー損失について考えると、ビームが衝突する原子のタイプ、および各タイプの原子の数を決定することができる。散乱角(すなわち、電子の進路が偏向される大きさ)を測定することもでき、非弾性散乱を引き起こした材料励起を問わないあらゆる分散関係に関する情報を与える。
【0005】
EELSでは、サンプルの特定の位置をビームで照射し、当該箇所で検出される発光のスペクトル情報を収集して、当該特定のサンプル箇所のEELSスペクトルを形成する。EELSスペクトルは、調査対象のサンプル箇所の化学組成、相、電子材料特性のような貴重な情報を含んでいる可能性がある。EELSを実施している間、荷電粒子ビームを第1サンプル箇所に移動させて、当該第1サンプル箇所のEELSスペクトルを取得する。所定の滞留時間を使用して、当該第1の位置のEELSスペクトルの良好な統計を取得する。次に、ビームを隣のサンプル箇所に移動させて、当該隣のサンプル箇所のEELSスペクトルを取得する。複数のサンプル箇所について取得されるEELSスペクトルを組み合わせて、位置情報(x、y)およびスペクトル(エネルギー)情報を含む所謂スペクトルキューブ(または、Scube)にすることができる。後処理ステップとして、例えば何千ものスペクトルにわたる広範な複数の線形最小二乗(MLLS)フィッティングを含むデータ分析を行って入手困難な情報を抽出する。これは多くの場合、ユーザのスキルおよび導出される所望の情報に依存する非常に遅くて面倒なプロセスであり、普通オフラインで、後の段階で行われる。
【発明の概要】
【0006】
上記を念頭に置いて、EELSを荷電粒子顕微鏡で実施する方法を向上させることを目的とする。具体的には、EELSスペクトルデータをより迅速に、より正確に、および/またはより向上させた態様で取得することを目的とする。
【0007】
この目的のために、サンプルを、荷電粒子顕微鏡を使用して検査する方法が請求項1に定義される通りに提供される。この方法では、サンプルおよび荷電粒子ビームを提供する。荷電粒子ビームを、サンプルにわたって複数のサンプル位置で走査する。これらの位置の位置ごとに、EELSスペクトルを取得する。これにより、Scube(位置情報および関連付けられるEELSスペクトルを含む)が取得される。Scubeは、当該複数のサンプル位置におけるサンプルの1つ以上の第1特徴の抽出を可能にする。本明細書において定義される方法によれば、当該方法は、当該荷電粒子ビームを、当該サンプルにわたって当該複数のサンプル位置で走査するさらなるステップを含む。このように、言い換えると、同じサンプル位置が少なくとも、もう一度、走査される。当該複数のサンプル位置のサンプル位置ごとに、さらなるEELSスペクトルが取得される。このように、さらなるScube(位置情報および関連付けられるさらなるEELSスペクトルを含む)が取得される。さらなるScubeは、当該複数のサンプル位置におけるサンプルの1つ以上の第2特徴の抽出を可能にする。複数の位置の位置ごとに、このさらなるEELSスペクトルを、既に取得されているEELSスペクトルと組み合わせる。組み合わせるステップは、取得したEELSスペクトルを追加するステップ、すなわちさらなるScubeをScubeに単に追加することにより追加するステップを含むことができる。しかしながら、組み合わせるステップは、例えば補正または平均化のような代替ステップまたはさらなるステップも含むことができる。組み合わせる当該ステップは、1つの実施形態では、制御ユニットにより行うことができる。
【0008】
実際、本明細書において定義される方法は、サンプルの選択位置の全EELSスペクトルを、サンプルを複数回走査することにより、徐々に集積することを可能にする。走査ごとに、サンプルに関する情報を取得することができ、この情報を、例えば分析してユーザに向けて表示することができる。このように、多くの貴重なツール時間を1箇所に費やすのではなく、利用可能なツール時間を使用して複数の箇所を、箇所ごとの滞留時間がより短くなるように走査する。このより短い滞留時間は、サンプル箇所当たり、より少ない情報を与える(1つのサンプル箇所のより長い滞留時間と比較して)が、サンプルに関する貴重な情報を取得することを可能にし、ユーザにサンプルに関するフィードバックを与えることを可能にする。これは、サンプルが顕微鏡で調査され続けている間、サンプルに関する迅速な洞察を与える、すなわち取得後のフィードバックではなく、データ取得中のリアルタイムなフィードバックを与える。サンプルの調査中に取得される情報を次に、ユーザが使用して、取得に関する詳細を変更することができる。例えば、比較的大きなサイズまたは領域を数回迅速に走査した後、特定の材料界面が明確になってくる場合、ユーザは、これらの領域だけに向かう視野を切り取って、例えば半導体計測および材料科学におけるような高スループット用途にとって興味深い、ずっと迅速な、より情報に基づいた取得を可能にする。したがって、ユーザは取得を継続する、取得を停止する、または取得をサンプルの別の部分に移動させて、EELSを荷電粒子顕微鏡で実行するより効果的な方法を可能にする。
【0009】
追加の利点として、滞留時間が比較的短いことから、ドリフト補正を取得中に適用することが可能になり、これにより方法の品質を向上させることもできる。
【0010】
したがって、本明細書で定義されるような目的が達成される。
【0011】
有利な実施形態について以下に説明する。
【0012】
1つの実施形態では、方法は、制御ユニットにより、当該サンプルの画像表現を提供するステップを含み、当該画像表現は、当該EELSスペクトル、当該さらなるEELSスペクトル、および/または当該組み合わせたEELSスペクトルに関する少なくとも1つの情報を含む。特に、当該画像表現は、当該EELSスペクトル、当該さらなるEELSスペクトル、および/または当該組み合わせたEELSスペクトルから抽出される特徴を含むことができる。
【0013】
1つの実施形態では、方法は、当該EELSスペクトルを使用して、当該サンプルの1つ以上の第1特徴を抽出するステップを含む。1つの実施形態では、方法は、当該さらなるEELSスペクトルを使用して、当該サンプルの1つ以上の第2の特徴を抽出するステップを含む。
【0014】
1つの実施形態では、第1のScubeが取得され、当該第1のScubeは、第1の走査中に取得される当該複数のサンプル箇所の当該EELSスペクトルを含む。方法は、第2のScubeを、当該複数のサンプル箇所のさらなるEELSスペクトルを、第2の走査を実行することにより取得することにより取得するステップを含むことができる。当該第1および第2のScubeを組み合わせることができ、分析して当該サンプルの1つ以上の特徴を抽出することができる。当該抽出した特徴は、当該サンプルの画像表現で表示することができる。
【0015】
1つの実施形態では、方法は、HSV色空間を基準として、対応する複数の異なる色相を、当該第1および第2の特徴および/または当該抽出した特徴に関連付けるステップを含み、当該画像表現は、当該異なる色相を含む。HSV色空間は、色相(多くの場合、「色」、例えば赤、緑、青と表記される)、彩度(多くの場合、色の強度または純度と表記される)、および色値(多くの場合、色の明度または暗度と表記される)を使用して特定の色の属性を記述する色空間である。HSV色空間は、色相と、0°で赤の原色から始まり、120°で緑原色および240°で青原色を通過した後、360°で赤に折り返されるその角度次元とを有する円筒形状で表すことができる。中央の縦軸線は、下部の値0の黒から上部の値1の白までの範囲の中間色、無彩色、または灰色を含む。半径が大きくなると、色の彩度が高くなる。
【0016】
原則として、使用される実際の色空間に関係なく、任意の色がHSV色空間において記述されることができる。したがって、本明細書に記載の方法は、特定の色空間の使用に限定されず、同様にRGB色空間(全てのRGB色は、同様にHSV色空間を参照して記述されることができるため)、またはその状況によっては任意の他の色空間に適用されることができる。
【0017】
サンプルの画像表現を、当該画像表現が、取得したEELSデータに基づく特徴に関連付けられる色相情報を含むように提供することにより、ユーザ(特に、人間のオペレータ)にリアルタイムな半定量的構造/化学マッピングツールを与えることが可能になる。色相情報を含む画像表現は、新規走査ごとに、すなわちさらなるScubeの取得後に更新することができる。
【0018】
1つの実施形態では、方法は、当該EELSスペクトルおよび/または当該さらなるEELSスペクトルをノイズ除去するステップを含む。方法が、当該組み合わせたEELSスペクトルをノイズ除去するステップを含むことが考えられる。これにより、既に取得されているスペクトルのノイズ除去が可能になって、後処理に送られる、結果として得られるスペクトルのノイズ特性がより良好になり、この後処理は、例えば上に説明した画像表現の後処理、および/または以下に説明するデータ分析の後処理を含むことができる。方法は、ドリフト補正のステップも含むことができる。
【0019】
本明細書において説明される方法は、線量に対する感度が高い試料の有益なEELSスペクトルを取得するために非常に有用である。したがって、1つの実施形態では、20e/Åを超えない電子線量、特に5e/Åを超えない電子線量の使用が行われる。これにより、サンプルの損傷を防止することができる。これらの極めて低い線量で走査する用途は、特に生命科学において、例えば薄いサンプルおよび/または原子解像度による使用事例に有用である。
【0020】
1つの実施形態では、方法は、当該EELSスペクトルおよび/または当該さらなるEELSスペクトルを分析するステップを含む。特に、方法は、多変量解析を使用するステップ、特に、多変量解析を、取得したScubeの1つ以上のScubeに使用するステップを含むことができる。多変量解析(MVA)技術をScube(または、組み合わせた1つ以上のScube)に適用して、個々のスペクトルを全く分析またはモデル化することなく、潜在的な特徴をScube内に探し出すことができる。したがって、MVA技術は比較的迅速に行われる。MVAの使用により、ノイズの多いデータからでもリアルタイムな特徴の抽出が可能になる。これにより、リアルタイムなEELS由来のツールで、定性的特徴-構造マップ、相マップ、または化学マップ-を視覚化することが可能になる。特に、特徴の色分けと組み合わせると、これは、ユーザに対する有用な情報となる。
【0021】
MVA技術の使用は原則として知られているが、後処理技術としてのみ知られていることに留意されたい。MVAを、取得したScubeに使用することにより、入力データを迅速に分析することが可能になり、リアルタイムなデータ分析を行うことが可能になる。
【0022】
また、MVAを上に定義される低線量用途と組み合わせて使用することは、線量に対する感度が高い試料に関するデータを取得する方法となる。
【0023】
本明細書において定義される方法は、1つの実施形態では、主成分分析(PCA)、独立成分分析(ICA)、非負値行列因数分解(NMF)および/またはクラスタリング(例えば、k-平均法)のような、教師なし多変量解析技術のコンセプトを統合して一体化して、Scube(または、Scube)を全体として処理し(バックグラウンドを差し引いて個々のスペクトルごとにモデル化する必要を伴うことなく)、スペクトル特徴を抽出することができる。これにより、構造、相、または組成のような固有の特性に結び付けられる迅速で正確な定性的表現が得られる。これらの特徴は実際の個々の原子元素表現とはならない可能性があるが、これらの特徴は、全く簡単に推測可能であることから専門家ユーザが関心対象の領域をリアルタイムに操作または評価するのを支援することに役立つ。
【0024】
1つの態様によれば、サンプルを、本明細書において開示される方法を使用して検査する荷電粒子顕微鏡が提供される。荷電粒子顕微鏡は、
-荷電粒子源、最終プローブ形成レンズ、およびスキャナを含み、当該荷電粒子源から放出される荷電粒子ビームをサンプルに収束させる光学カラムと、
-当該最終プローブ形成レンズの下流に位置決めされ、かつ当該サンプルを保持するように設けられたサンプルステージと、
-当該荷電粒子源から放出される荷電粒子の入射に応答して、当該サンプルから発せられる第1のタイプの放出物を検出する第1の検出器と、
-当該第1の検出器に接続される制御ユニットおよび処理デバイスと、を含み、
当該荷電粒子顕微鏡は、本明細書において開示される方法を実行するように設けられている。
【0025】
本明細書において開示される顕微鏡は、複数回の走査を試料に対して行い、EELSスペクトルデータキューブを走査ごとに取得するように設けられている。
【0026】
制御ユニットおよび/または処理デバイスは、特徴を、取得したScubeから抽出するように設けられている。1つの実施形態では、これは、取得したScubeの前処理、および標準化された再構成行列へのScubeの変換を含むことができる。特徴は、この標準化された再構成行列から、制御ユニットおよび/または処理デバイスにより実行することができる多変量解析技術を使用することにより抽出することができる。色分け情報を画像表現に含むことができる結果は、スクリーンデバイスに表示することができる。
【0027】
上に説明した方法およびデバイスは、1つの実施形態では、概略、以下のブロックa~cにより定義することができる3つの主要ステップおよび/またはユニット:
a)EELS Scubeを複数回の走査で取得することと、
b)取得したScubeを処理して特徴を抽出することと、
c)取得した特徴を視覚化する(リアルタイムに)ことと、を含むことができる。
【0028】
ブロック(a)は、EELS検出器および走査モジュール、ならびに可能な画像位置合わせ技術(ドリフト補正)を制御する。行った複数回の短時間走査は、新規Scubeを継続的に提供してEELS表現を精密化する。
【0029】
ブロック(b)はScube前処理モジュールである。Scube前処理モジュールは、結果を歪める可能性のある不所望なスパイキーイベントを全て、Scubeから削除する。Scubeを行列としてフラット化し、各行はスペクトルを含む。Scubeは平均中心(各列)であり、行列が再構成されるようになる。
【0030】
ブロック(b)は、再構成されたより高次元の行列を主成分により表わされるより低次元の空間に変換することもできる。このデータに対して、さらなるMVA技術(ICA/成分回転のような)を適用して、主成分を回転させて特徴を最適に抽出する。
【0031】
ブロック(d)は、取得した特徴を特定の方法で組み合わせる。これらの特徴を画像として逆変換し、視覚化してcolorEELS表現を取得する。この次に、各スペクトルは、より低次元の表現から再構成することができ、次に、スペクトル品質が向上していることを示すことになり、このスペクトル品質は、細部定量化に従来の方法でさらに利用することができる。
【0032】
ここで、本明細書において開示される方法およびデバイスが、例示的な実施形態および添付の概略図面に基づいてより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】荷電粒子顕微鏡の縦断面図を示している。
図2】分光装置の拡大縦断面図を示している。
図3】EELSスペクトルの例を示している。
図4】本明細書において開示される方法の1つの実施形態を概略的に示している。
図5a】本明細書において説明される方法で取得可能な画像の例を示している。
図5b】本明細書において説明される方法で取得可能な画像の例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図面において、適切な場合、対応する部分は、対応する参照符号を使用して示される。一般に、図は縮尺通りではないことに留意されたい。
【0035】
図1は、透過型荷電粒子顕微鏡Mの実施形態の非常に概略的な図であり、透過型荷電粒子顕微鏡Mは、この場合、TEM/STEMである(しかしながら、本開示の状況では、透過型荷電粒子顕微鏡は、例えばイオン源顕微鏡またはプロトン顕微鏡と全く同じように有効であるとすることができる)。図において、真空筐体E内では、電子ソース4(例えば、ショットキーエミッタのような)が、電子投光照明器6内を通過する電子ビーム(B)を放出して、電子ビームをサンプルSの選択部分に誘導/収束するように機能する(サンプルSは、例えば(局所的に)薄くする/平坦化することができる)。この照明器6は、電子投光軸線B’を有し、多種多様な静電/磁気レンズ、(走査)偏向器(複数可)D、補正装置(非点収差補正装置のような)などを広く含み、通常、照明器6は、集光レンズを含むこともできる(部品6の全体は、「集光レンズ系」と表記される場合がある)。
【0036】
サンプルSは、サンプルホルダーHに保持される。ここに示すように、このホルダーHの一部(筐体Eの内部の)は、クレードルA’に取り付けられ、クレードルA’は、位置決めデバイス(ステージ)Aにより多自由度で位置決めする/移動させることができ、例えばクレードルA’は(とりわけ)X、Y、およびZ方向に変位可能であり(図示のデカルト座標系を参照)、Xに平行な縦軸線の回りに回転することができる。このような移動は、サンプルSの異なる部分を、電子ビームが軸線B’に沿って移動することにより照射/撮像/検査することを可能にする(および/またはビーム走査[偏向器(複数可)Dを使用する]の替わりに行われる走査運動を可能にする、および/またはサンプルSの選択部分を、例えば(図示されていない)収束イオンビームにより加工することを可能にする)。
【0037】
軸線B’に沿って移動する(収束)電子ビームBは、サンプルSと相互作用して、(例えば)2次電子、後方散乱電子、X線、および光照射線(陰極線発光)を含む様々なタイプの「誘導(stimulated)」放射線をサンプルSから放出するようにする。必要に応じて、これらの放射線タイプのうち1つ以上の放射線タイプは、検出器22を援用して検出することができ、検出器22は、例えば複合型シンチレータ/光電子増倍管、またはEDX(エネルギー分散型X線分光)モジュールとすることができ、このような場合では、画像は、SEMにおけるのと基本的に同じ原理を使用して構成することができる。しかしながら、代替的に、または補足的に、サンプルSを通過(サンプルS内を通過)し、サンプルから出射(放出)され、軸線B’に沿って伝搬し続ける(実質的には、普通、かなりの偏向/散乱を受けるが)電子を調査することができる。このような透過電子束は、多種多様な静電レンズ/磁気レンズ、偏向器、補正装置(非点収差補正装置のような)などを広く含む撮像系(複合型対物レンズ/投影レンズ)24に入射する。通常の(非走査)TEMモードでは、この画像化システム24は、透過電子束を蛍光スクリーン26に集束させることができ、蛍光スクリーン26は、必要に応じて、軸線B’から離れるように格納/回収することができる(矢印26’によって概略的に示される)。サンプルSの(一部の)画像(または、ディフラクトグラム)は、撮像系24によりスクリーン26上に形成され、この画像は、筐体Eの壁の適切な部分に位置付けられるビューイングポート28を介してビューすることができる。スクリーン26の後退機構は、例えば、本質的に機械的および/または電気的であり得るが、図面には描写されていない。
【0038】
スクリーン26上の画像をビューイングすることの代替として、撮像系24から出射する電子束の収束深さが普通、極めて大きい(例えば、約1メートル)という事実を代わりに利用することができる。その結果、TEMカメラ30およびSTEMレコーダ32のような様々なタイプの検出素子/分析装置をスクリーン26の下流で使用することができる:
-TEMカメラ30。カメラ30の位置では、電子束が静止画像(または、ディフラクトグラム)を形成することができ、静止画像をコントローラCが処理することができ、例えばフラットパネルディスプレイのような表示デバイス(図示せず)に表示することができる。必要ではない場合、カメラ30は、後退/回収(矢印30’で概略に示すように)されて、カメラを軸線B’から外れるようにすることができる。
-STEMレコーダ32。レコーダ32からの出力は、サンプルS上のビームBの走査位置(X、Y)の関数として記録することができ、レコーダ32からの出力の「マップ(map)」である画像をX、Yの関数として構成することができる。レコーダ32は、カメラ30に含まれることを特徴とする画素行列とは異なり、例えば直径が20mmの単一画素を含むことができる。さらに、レコーダ32は普通、カメラ30(例えば、10画像/秒)よりもはるかに高い取得レート(例えば、10箇所/秒)を有する。この場合も同じく、必要でない場合、レコーダ32は、後退させる/引っ込めることができ(矢印32’で概略的に示すように)、レコーダを軸線B’から離れるようにすることができる(このような後退は、ドーナツ状の環状暗視野レコーダ32の場合には必要とされないが、例えばこのようなレコーダでは、中心孔によりビームを、レコーダが使用中ではなかった場合に通過させることができる)。
カメラ30またはレコーダ32を使用して撮像を行うことの代替として、例えばEELSモジュールとすることができる分光装置34を駆動することもできる。
【0039】
部品30、32、および34の順序/位置は厳密ではなく、多くの可能な変形が考えられることに留意されたい。例えば、分光装置34は、撮像システム24と一体化することもできる。
【0040】
コントローラ(コントローラは、複合型コントローラおよびプロセッサとすることができる)Cは、図示の様々な構成要素に制御線(バス)C’を介して接続されることに留意されたい。コントローラは、ユーザインターフェース(UI)を備えることができるコンピュータスクリーン51に接続することができる。このコントローラCは、処理を同期させること、設定値を提供すること、信号を処理すること、計算を実行すること、およびメッセージ/情報を表示デバイス(図示せず)に表示することのような多種多様な機能を実現することができる。(概略的に図示される)コントローラCは、筐体Eの内部または外部に(部分的に)あるようにすることができ、単体構造または複合構造を必要に応じて有することができることを理解されたい。当業者であれば、筐体Eの内部が気密な真空状態に保持される必要がなく、例えば所謂「TEM/STEM環境(Environmental TEM/STEM)」では、所定のガスの周囲雰囲気が、筐体E内に意図的に導入される/維持されることを理解できるであろう。当業者であればまた、実際には、筐体Eの容積を閉じ込めて、可能であれば、筐体Eが、軸線B’をほぼ囲んで小径管内を、採用した電子ビームが通過するような小径管(例えば、直径約1cmの)の形態を採るが、外側に広がってソース4、サンプルホルダーH、スクリーン26、カメラ30、レコーダ32、分光装置34などのような構造を収容すると有利となり得ることを理解できるであろう。
【0041】
ここで図2を参照すると、これは、図1の分光装置34の実施形態のさらに詳細な拡大図を示している。図では、電子束1(サンプルS内および撮像系24内を通過してきた)が、電子-光軸線B’に沿って伝搬しているのが示されている。この束1は、分散素子3(「電子プリズム(electron prism)」)に入射し、当該束が分散方向Xに沿って分布するスペクトルの補助ビーム(破線を使用して図2に概略的に示される)の高エネルギー分解能(エネルギー差分撮像)アレイ5に分散(ファンアウト)され、例示目的で、これらの補助ビームのうち3つの補助ビームが当該図に5a、5b、および5cでラベル付けされている。これに関して、従来、伝搬がZ方向に沿って行われると考えられており、このようなことから、図示のデカルト座標系は、分散素子3内で束1と「共偏向」されることに留意されたい。
【0042】
分散素子3の下流では、補助ビームアレイ5は、調整可能/後退可能スリット(レターボックス)7に遭遇し、スリット7は、例えばアレイ5の所定部分を選択/許可して、アレイの他の部分を廃棄/遮蔽するEFTEMモードで使用することができ、この目的のために、スリット7は作動デバイス7aに接続され、作動デバイス7aを駆動して、スリット7(スリットの開口部)を必要に応じて、開く/閉じる/移動させることができる。EELSモードでは、このスリット7は、通常(完全に)、開放/撤回している。当業者は、スリット7は、分光装置34の分散平面またはその近くの場所に有利に設けられ、同様に、検出器11もまた、有利には、かかる平面またはその近くに位置することを理解するであろう。必要に応じて、スリット7に当たるスペクトルの補助ビームアレイ5を、例えば分散素子3(への電気信号)および/または、例えば分散素子3とスリット7との間に設けられるドリフトチューブ/偏向器(図示せず)を適切に調整することにより向ける/シフトさせることが可能である。
【0043】
スリット7を通過した後、アレイ5(アレイの選択部分)は、分散素子の後段の電子光学系9内を通過し、当該アレイは、例えば拡大/収束され、最終的に検出器11に誘導/投影される。検出器11は、分散方向Xに沿って並べられる補助検出器アセンブリを含むことができ、異なる補助検出器は、異なる検出感度を有するように調整可能である。例示目的で、これらの補助検出器のうち3つの補助検出器が、当該図に11p、11q、および11rでラベル付けされる。これらの補助検出器(例えば、11p、11q、11r)の各補助検出器は、例えば:
-アバランシェフォトダイオード、またはYに沿って延びるこのようなアバランシェフォトダイオードの直線アレイ、
-CMOSまたはCCDセンサの画素(例えば、3T画素)、またはYに沿って延びるこのような画素の直線アレイとすることができる。
【0044】
所定の補助検出器(例えば、11p、11q、11r)の感度は、補助検出器に衝突するアレイ5の構成部分の強度に適合するように整合させることができる。
【0045】
EELSスペクトルを測定する他の検出器構成は当業者に既知であり、本明細書に開示される方法にも同様に適用可能であることに留意されたい。この方法は、原則として、特定の検出器の使用に限定されない。
【0046】
図3は、EELSスペクトルの一例を示す。この図は、強度I(任意の単位、a.u.)を、炭素およびチタンを含有するサンプルを通過した電子のエネルギー損失E(eV単位)の関数として表わしている。左から右に、スペクトルの主な特徴は、以下のとおりである:
-ゼロ損失ピークZLPは、サンプルをピーク中の非弾性散乱を受けることなく通過する電子を表わしている。
-プラズモン共鳴ピーク(Plasmon Resonance Peak)成分/セクションPRP(価電子帯間吸収損失(Valence Loss)成分と表記されることもある)、試料中のプラズモンの電子の1回または複数回の散乱に関連付けられる比較的広い一連のピーク部分/肩部分。これは通常、約0~50eVの範囲で延びているが、その上限の厳密な定義はない。これは、ピーク31のようなサンプル中の外殻の散乱事象から生じるピーク部分/肩部分により特徴付けられる。PRP成分は普通、ZLPよりも大幅に低い強度を有することに留意されたい。
-コア損失ピーク成分/セクションCLP。これは通常、約50eV(PRP成分の後ろ)から始まるが、その下限の厳密な定義はない。これは通常、ZLP成分/PRP成分に対してこのように低い強度であることから、図3に表わされるように、これが倍率(例えば、100)で拡大されて、この細部の視認性を向上させている。見ることができるように、それは、実質的なバックグラウンド寄与33の最上部にある、一定の化学元素(本例では、CおよびTi等)と関連付けられ得るピーク/ショルダ(のクラスタ)を含有する。
【0047】
図3に示すEELSスペクトルは、当業者に知られている方法で測定することができる。特定の実施形態では、図2の分光装置34の使用が行われ、
-補助ビーム5aは、ZLPスペクトル成分(の構成部分)を含み、比較的低い検出感度を有するように調整される補助検出器11rに衝突する。
-補助ビーム5bは、PRPスペクトル成分(の構成部分)を含み、中間値検出感度を有するように調整される補助検出器11qに衝突する。
-補助ビーム5cは、CLPスペクトル成分(の構成部分)を含み、比較的高い検出感度を有するように調整される補助検出器11pに衝突する。
【0048】
サンプル全体に関するEELSスペクトルの取得には長時間を要するので、本明細書において開示される方法は、EELSをサンプルに対して実行する代替方法となる。この方法は、図4に概略的に示され:
-荷電粒子ビームならびにサンプルを提供するステップ(101)と、
-当該荷電粒子ビームを、当該サンプルにわたって複数のサンプル位置で走査するステップ(102)と、
-EELSスペクトルを当該複数のサンプル位置のサンプル位置ごとに取得するステップ(103)と、
-もう一度、当該荷電粒子ビームを、サンプルにわたって複数のサンプル位置で走査するステップ(104)と、
-さらなるEELSスペクトルを複数のサンプル位置のサンプル位置ごとに取得するステップ(105)と、
-当該複数のサンプル位置のサンプル位置ごとに、当該EELSスペクトルを当該さらなるEELSスペクトルと組み合わせるステップ(106)と、を含む。
【0049】
1回の走査中に複数のサンプル箇所について取得されるEELSスペクトルを組み合わせて、位置情報(x、y)およびスペクトル(エネルギー)情報を含む所謂スペクトルキューブ(または、Scube)にすることができる。ある意味では、第1回目に走査してEELSスペクトルを取得することに関して上に定義されるステップ103および104により、第1のScubeが取得される。第2回目に走査してEELSスペクトルを取得することに関するステップ104および105により、第2のScubeが取得される。この方法は、1つ以上のさらなるScubeを、当該複数のサンプル位置のサンプル位置ごとに少なくとも、もう一度走査する当該ステップ104およびさらなるEELSスペクトルを、当該複数のサンプル位置のサンプル位置ごとに少なくとも、もう一度取得する当該ステップ105を実行することにより取得するステップを含むことができることに留意されたい。データ分析は、1個のScubesまたはScubesの組み合わせのような、取得した1つ以上のScubesに対して行うことができる。
【0050】
実際、この方法は、比較的疎なEELSスペクトルを複数のサンプル箇所について取得し、次にさらなる(比較的疎な)EELSスペクトルを複数のサンプル箇所について取得することを可能にする。データ分析は、各個々の走査中に、または個々の走査ごとに取得されるEELSスペクトルのうち1つ以上のEELSスペクトルに対して行うことができる。取得した情報を組み合わせて、特に全EELSスペクトルを複数のサンプル位置について取得することができる。このように、全走査ごとに、サンプルに関する情報を、取得したEELSスペクトルから、または当該スペクトルに対して行ったデータ分析から取得することができる。情報を組み合わせてユーザに向けて表示することができる。これにより、ユーザ、特に人間オペレータは、取得した情報を評価し、データ取得をどのようにして継続するかを決定することができる。
【0051】
1つの実施形態では、本明細書において説明される方法は、当該サンプルの画像表現を与えることを可能にする。当該画像表現は、当該組み合わせたEELSスペクトルを含むことができる、または当該組み合わせたEELSスペクトルの少なくとも1つの情報を含むことができる。
【0052】
図5aおよび図5bは、このような画像表現の実施形態の例を示している。画像表現は、当該取得した複数のScubesに基づいており、各Scubeは、サンプルに対する1回の走査中に取得される。取得したScubesは、標準化行列に変換および再構成され、主成分分析の形態の多変量解析技術(MVA)が標準化行列に対して行われる。さらなるMVA法をMVA法の結果に対して行って、調査対象のサンプルの1つ以上の特徴を抽出することができる。図5aに示す実施形態では、合計3つの異なる特徴が取得され、個々に画像化される。
【0053】
取得した特徴から、構造、相、または組成のような固有の特性に結び付けられる定性的表現が得られる。これらの特徴は、実際の個々の原子元素表現とはならない可能性があるが、これらの特徴は、全く簡単に推測可能であることから専門家ユーザが関心対象の領域をリアルタイムに操作または評価するのを支援することに役立つ。個々の特徴を組み合わせて画像として逆変換し(図5aに示すように)、1個の画像に視覚化して、最終的な画像表現(図5b)を取得することができる。この最終的な画像表現をコンピュータスクリーン51に表示することができる。その次に、各スペクトルは、より低次元の表現から再構成することができ、次に向上したスペクトル品質を示すことになり、このスペクトル品質は、細部定量化に従来の方法でさらに利用することができる。
【0054】
図5bの最終的な画像表現は白黒で表示されているが、色分け情報を含むことができることに留意されたい。特に、個々の特徴は、HSV色空間(HSV=色相、彩度、色値)を基準として特定の色相を含むことができる。1つの例として、図5aは、(左から右に)赤の色相、緑の色相、および青の色相を含むことができる。図5bに示す最終的な画像表現は、これらの色相の組み合わせを含むことができ、例えば紫および青の最終画像が得られる。画像は、特定の色相の異なる彩度が含むことができ、画像が色値の情報も含んでいることが分かる。HSVを最終画像に、データ取得で取得した特徴情報に基づいてこのように関連付けることにより、より関連性の高い情報をユーザに向けて、特にリアルタイムで表示することが可能になる。
【0055】
画像は、1つ以上の画像処理技術を使用することにより向上させることができる。特に、ノイズ除去技術および/またはドリフト補正は、画像または生データに適用することができる。
【0056】
所望の保護は、添付の特許請求の範囲によって付与される。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b