(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】組換えタンパク質の抽出試薬
(51)【国際特許分類】
C07K 1/14 20060101AFI20241224BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20241224BHJP
C12N 1/21 20060101ALN20241224BHJP
C07K 14/31 20060101ALN20241224BHJP
C12N 9/24 20060101ALN20241224BHJP
C12N 9/16 20060101ALN20241224BHJP
【FI】
C07K1/14
C12P21/02 C
C12N1/21 ZNA
C07K14/31
C12N9/24
C12N9/16 Z
(21)【出願番号】P 2020183441
(22)【出願日】2020-11-02
【審査請求日】2023-10-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】湯本 達弥
(72)【発明者】
【氏名】半澤 敏
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 陽介
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/125811(WO,A1)
【文献】特開2016-145172(JP,A)
【文献】国際公開第2017/077367(WO,A1)
【文献】特開2013-252099(JP,A)
【文献】特表2010-505389(JP,A)
【文献】特表2016-512266(JP,A)
【文献】日医大医会誌,2011年,Vol.7, No.4,p.169-174
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/14
C12P 21/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子組換えタンパク質を発現可能な大腸菌の菌体内に発現した前記タンパク質を抽出する試薬であって、
前記遺伝子組換えタンパク質がブドウ球菌属由来Protein Aであり、
終濃度0.5(w/v)%のTriton X-100(商品名)を含み、
さらに、終濃度1mol/Lから2mol/Lの尿素または
終濃度1(w/v)%のドデシル硫酸ナトリウムを少なくとも含む、前記試薬。
【請求項2】
糖質分解酵素をさらに含む、請求項
1に記載の試薬。
【請求項3】
核酸分解酵素をさらに含む、請求項1
または2に記載の試薬。
【請求項4】
ブドウ球菌属由来Protein Aを発現可能な大腸菌を培養する工程と、
前記培養した大腸菌の菌体内から、
終濃度0.5(w/v)%のTriton X-100(商品名)を含み、
さらに、終濃度1mol/Lから2mol/Lの尿素または
終濃度1(w/v)%のドデシル硫酸ナトリウムを少なくとも含む抽出試薬を用いて、前記Protein Aを抽出する工程とを含む、
前記Protein Aの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブドウ球菌属由来Protein Aを発現可能な大腸菌から、前記Protein Aを効率的に抽出可能な試薬、および前記試薬を用いた前記Protein Aの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを用いて大腸菌を形質転換して得られる形質転換体を培養し、当該培養した形質転換体内から前記タンパク質を抽出する方法として、従来より超音波破砕処理やフレンチプレス処理等の物理的破砕による方法や、市販の抽出試薬を用いた化学的処理による方法が知られている。しかしながら、これらの方法を用いて、前記タンパク質を工業的に抽出しようとすると、物理的破砕による方法では超音波破砕装置やフレンチプレス等の破砕装置の設置に莫大な費用がかかる問題があり、化学的処理による方法では高価な抽出試薬を大量に用いる問題がある。
【0003】
前記タンパク質を抽出する方法としては、前述した方法以外にも、種々の界面活性剤を用いた方法が知られており、例えば非イオン界面活性剤と陰イオン界面活性剤とを含んだ試薬で抽出する方法(特許文献1)や、陽イオン界面活性剤を含む試薬で抽出する方法(特許文献2)や、非イオン界面活性剤と陽イオン界面活性剤とを含む試薬で抽出する方法(特許文献3)が知られている。しかしながら、前記タンパク質がブドウ球菌属(Staphylococcus属)由来Protein Aの様な疎水性の高いタンパク質である場合、効率的な抽出ができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-145172号公報
【文献】特開2006-320313号公報
【文献】特開2013-252099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ブドウ球菌属由来Protein Aをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを用いて大腸菌を形質転換して得られる形質転換体を培養し、当該培養した形質転換体内から前記Protein Aを抽出する際、前記Protein Aを短時間で効率的に抽出可能な試薬、および前記試薬を用いた前記Protein Aの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、抽出試薬に非イオン界面活性剤および尿素または陰イオン界面活性剤を少なくとも添加することで、形質転換体内からブドウ球菌属(Staphylococcus属)由来Protein A(以下、SpAとも表記)を短時間で効率的に抽出できることを見出した。
【0007】
すなわち本発明は以下<1>から<6>に記載の態様を包含する:
<1>遺伝子組換えタンパク質を発現可能な大腸菌の菌体内に発現した前記タンパク質を抽出する試薬であって、
前記遺伝子組換えタンパク質がブドウ球菌属由来Protein Aであり、
非イオン界面活性剤と、添加剤として尿素または陰イオン界面活性剤とを少なくとも含む、前記試薬。
<2>添加剤が終濃度0.5mol/Lから3mol/Lの尿素である、<1>に記載の試薬。
<3>添加剤が終濃度0.3(w/v)%から2(w/v)%のドデシル硫酸ナトリウムである、<1>に記載の試薬。
<4>糖質分解酵素をさらに含む、<1>から<3>のいずれか一項に記載の試薬。
<5>核酸分解酵素をさらに含む、<1>から<4>のいずれか一項に記載の試薬。
<6>ブドウ球菌属由来Protein Aを発現可能な大腸菌を培養する工程と、
前記培養した大腸菌の菌体内から、非イオン界面活性剤と尿素または陰イオン界面活性剤とを少なくとも含む抽出試薬を用いて、前記Protein Aを抽出する工程とを含む、
前記Protein Aの製造方法。
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明の抽出試薬は、タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを用いて大腸菌を形質転換して得られた形質転換体の細胞壁を溶かすことで、当該形質転換体内に発現した前記タンパク質を機械的な破砕処理をせずに抽出可能な試薬であり、少なくとも非イオン界面活性剤と尿素または陰イオン界面活性剤を少なくとも含むことを特徴としている。
【0010】
本発明の抽出試薬に含まれる非イオン界面活性剤は、膜タンパク質可溶化剤として通常用いられる中から適宜選択することができ、Triton X-100(商品名)、Triton X-114(商品名)、Brij 58(商品名)、Brij 35(商品名)、Tween 20(商品名)、Tween 80(商品名)、1-O-n-オクチル-β-D-グルコピラノシド、n-オクチル-β-D-チオグルコピラノシド、n-ドデシル-β-D-マルトピラノシド、n-ドデシル-α-D-マルトピラノシド、n-ドデシル-N,N-ジメチルアミン-N-オキシド、イソプロピル-β-D-チオガラクトシド、スクロースモノドデカン酸、n-オクチル-β-D-グルコピラノシド、n-ドデシル-β-D-マルトピラノシド、n-トリデシル-β-D-マルトピラノシド等があげられる。本発明の抽出試薬に含まれる非イオン界面活性剤の濃度は、使用する界面活性剤の臨界ミセル濃度、細胞破砕物などの培養液中の夾雑物の性質や濃度などを考慮し、適宜設定すればよい。一例として、非イオン界面活性剤としてTriton X-100を用いる場合は、終濃度0.2(w/v)%から2(w/v)%の範囲に設定すると好ましい。
【0011】
本発明の抽出試薬に含まれる添加剤として、尿素を用いてもよい。尿素は、タンパク質工学の分野では一般的に変性剤として用いられ、タンパク質の高次構造を壊す作用を有する。なお尿素濃度を終濃度0.5mol/Lから3mol/Lの範囲に設定すると、大腸菌内に発現した遺伝子組換えタンパク質を失活させず、かつ大腸菌の膜構造のみ破壊できるため好ましい。また尿素濃度を終濃度0.7mol/Lから2.5mol/Lの範囲に設定するとより好ましく、終濃度1mol/Lから2mol/Lの範囲に設定するとさらにより好ましい。
【0012】
本発明の抽出試薬に含まれる添加剤として、陰イオン界面活性剤を用いる場合、膜タンパク質可溶化剤として通常用いられる中から適宜選択すればよい。一例として、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ドデシル硫酸リチウム、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウムがあげられる。陰イオン界面活性剤の濃度は、非イオン界面活性剤と同様、使用する界面活性剤の臨界ミセル濃度、細胞破砕物などの培養液中の夾雑物の性質や濃度などを考慮し、適宜設定すればよい。一例として、陰イオン界面活性剤としてSDSを用いる場合は、終濃度0.3(w/v)%から2(w/v)%の範囲に設定すると好ましく、終濃度0.5(w/v)%から1.5(w/v)%の範囲に設定するとより好ましい。
【0013】
本発明の抽出試薬に糖質分解酵素をさらに含むと、形質転換体(大腸菌)の溶菌が促進されるため好ましい。本発明の抽出試薬に含んでもよい糖質分解酵素としては、膜タンパク質可溶化剤として通常用いられる中から適宜選択することができ、リゾチーム、セルラーゼ、ペクチナーゼおよびそれらの塩等があげられる。糖質分解酵素の濃度については、細胞破砕物などの培養液中の夾雑物の性質や濃度などを考慮し、適宜設定すればよい。一例として、糖質分解酵素としてヒト由来リゾチームを用いる場合は、終濃度0.0001%(w/v)から0.01%(w/v)の範囲に設定するとよい。
【0014】
本発明の抽出試薬には、前述した成分以外の成分を含んでもよい。特にBenzonase(メルク社製)等のエンドヌクレアーゼ(核酸分解酵素)をさらに含むと、形質転換体内から、前述した抽出試薬によりタンパク質とともに抽出される、核酸による粘度上昇が抑制できるため好ましい。なお、本発明の抽出試薬に核酸分解酵素をさらに含ませる場合、助剤として終濃度2mmol/L程度の硫酸マグネシウムを含むとよい。
【0015】
核酸分解酵素以外で、本発明の抽出試薬にさらに含んでもよい成分としては、緩衝液成分、塩類があげられる。緩衝液成分としては、濃度10mmol/Lから100mmol/L程度の酢酸緩衝液、クエン酸-リン酸緩衝液、リン酸緩衝液、Tris(Tris(hydroxymethyl)aminomethane)-HCl緩衝液、グリシン-NaOH緩衝液、MES(2-Morpholinoethanesulfonic acid)緩衝液、ADA(N-(2-Acetamido)iminodiacetic acid)緩衝液、PIPES(Piperazine-1,4-bis(2-ethanesulfonic acid))緩衝液、ACES(N-(2-Acetamido)-2-aminoethanesulfonic acid)緩衝液、コラミン-HCl緩衝液、BES(N,N-Bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoethanesulfonic acid)緩衝液、TES(N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2-aminoethanesulfonic acid)緩衝液、HEPES(2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid)緩衝液、アセトアミドグリシン緩衝液、Tricine(N-[Tris(hydroxymethyl)methyl]glycine)緩衝液、グリシンアミド緩衝液、Bicine(N,N-Bis(2-hydroxyethyl)glycine)緩衝液等があげられる。好ましい緩衝液の一例として、濃度20mmol/Lから50mmol/L、pH6.0から8.0のリン酸緩衝液またはTris-HCl緩衝液があげられる。塩類としては、終濃度10mmol/Lから1000mmol/Lの硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、炭酸塩、塩化物等があげられる。
【0016】
遺伝子組換えタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを用いて大腸菌を形質転換して得られた形質転換体から、本発明の抽出試薬を用いて前記形質転換体内から前記タンパク質を抽出する際、前記タンパク質が失活せず、さらに追加で添加する酵素(糖質分解酵素や核酸分解酵素)が活性を示すpH(具体的には、pH5.0から9.0)条件下で抽出操作を行なうと、タンパク質抽出の効率が向上するため好ましい。特にpH5.5からpH6.5の範囲に設定するとより好ましい。
【0017】
本発明の抽出試薬を用いて形質転換体内のタンパク質を抽出した後は、当該技術分野における公知の方法を用いて抽出残渣(細胞破砕物など)を除去する精製操作を行なうことで、前記タンパク質を純度高く得られる。前記精製操作の一例として、液体クロマトグラフィーを用いた分離・精製があげられる。液体クロマトグラフィーとしては、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどがあげられる。これらのクロマトグラフィーを組み合わせて精製操作を行なうことによって、純度の高い前記タンパク質を製造できる。
【0018】
なお液体クロマトグラフィーを用いた精製操作を行なう際、抽出工程で得られたタンパク質溶液の濁度が高い(すなわち清澄度が低い)と、クロマトグラフィーにおけるタンパク質の分離能の悪化や、カラム性能の再現性が低下するなどの問題が生じるため、抽出工程で得られたタンパク質溶液の清澄度は高いほど好ましい。そのため、あらかじめ遠心やろ過によりタンパク質溶液の清澄度を高めた上でクロマトグラフィーを用いた精製操作を行なうとよい。遠心によりタンパク質溶液の清澄度を高める方法としては、専用ボトルを用いたバッチ式の遠心や、円筒式型、分離版式型などの連続式の遠心がある。ろ過によりタンパク質溶液の清澄度を高める方法としては、MF膜(精密ろ過膜)やUF膜(限外ろ過膜)を用いた方法や、ろ過助剤を併用した加圧ろ過による方法があげられる。ろ過に用いる膜の種類(材質、細孔径、分画分子量など)は、不溶物を効率よく除去できるものであれば特に限定はない。
【0019】
本発明の製造方法で得られたタンパク質の分析方法は、培養液、抽出液等から安定的にかつ効率的に定量できる方法であれば特に限定はなく、ELISA法(酵素結合免疫吸着法)やウェスタンブロット法などがあげられる。
【0020】
本発明の抽出試薬を用いて抽出するSpAは、当該SpAをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを用いて大腸菌を形質転換して得られた形質転換体の菌体内に発現可能なSpAであれば特に限定されない。一例として、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来Protein Aの全長、当該Protein Aを構成する免疫グロブリン結合ドメイン(ドメインC、ドメインE、ドメインD、ドメインA、ドメインB/Z)や、前記全長または前記ドメインのアミノ酸配列において、特定位置におけるアミノ酸置換を有するタンパク質(以下、改変型SpAとも表記)があげられる。黄色ブドウ球菌由来Protein AのドメインCとしては、GenBank No.AAA26676の270番目から327番目までのアミノ酸残基(配列番号1)があげられる。
【0021】
また前記SpAは、前記全長、前記ドメインまたは改変型SpAを一つのみ含んでいてもよく、複数含んでいてもよい。前記SpAは、例えば、前記全長、前記ドメインまたは改変型SpAを二つ以上、三つ以上、四つ以上、または五つ以上含んでいてもよく、十個以下、七つ以下、五つ以下、四つ以下、三つ以下、または二つ以下含んでいてもよく、それらの矛盾しない組み合わせの個数含んでいてもよい。前記SpAが複数個のドメインおよび/または改変型SpAを含む場合、それら複数個のドメインおよび/または改変型SpAのアミノ酸配列は同一であってもよく、そうでなくてもよい。それら複数個のドメインおよび/または改変型SpAは、例えば、適切なリンカーを介して互いに連結されていてよい。
【0022】
前記SpAの好ましい態様として、配列番号2に記載のアミノ酸配列を一つまたは複数含むポリペプチドがあげられる。なお配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなり、ただし当該アミノ酸配列において、以下の(1)から(14)に示すアミノ酸置換を有するポリペプチドである:
(1)配列番号1の3番目のアスパラギンがヒスチジンに置換
(2)配列番号1の4番目のリジンがアルギニンに置換
(3)配列番号1の7番目のリジンがバリンに置換
(4)配列番号1の11番目のアスパラギンがアルギニンに置換
(5)配列番号1の15番目のグルタミン酸がアラニンに置換
(6)配列番号1の21番目のアスパラギンがチロシンに置換
(7)配列番号1の29番目のグリシンがアラニンに置換
(8)配列番号1の35番目のリジンがアルギニンに置換
(9)配列番号1の39番目のセリンがグリシンに置換
(10)配列番号1の40番目のバリンがアラニンに置換
(11)配列番号1の42番目のリジンがロイシンに置換
(12)配列番号1の49番目のリジンがメチオニンに置換
(13)配列番号1の50番目のリジンがトリプトファンに置換
(14)配列番号1の58番目のリジンがアスパラギン酸に置換。
【発明の効果】
【0023】
本発明の抽出試薬は、非イオン界面活性剤と尿素または陰イオン界面活性剤とを少なくとも含むことを特徴としている。本発明の抽出試薬により、ブドウ球菌属由来Protein Aをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを用いて大腸菌を形質転換して得られる形質転換体内に発現した前記Protein Aを短時間で効率的に抽出できる。
【0024】
本発明の抽出試薬は、ブドウ球菌属由来Protein Aの様な、疎水性の高いタンパク質を抽出する際に特に有効である。
【0025】
また本発明の抽出試薬を用いた前記Protein Aの抽出方法は、物理的破砕による方法や市販の抽出試薬を用いた方法と比較し、安価かつ効率的に前記Protein Aを抽出可能であることから、ブドウ球菌属由来Protein Aの工業的な製造において有用といえる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】抽出試薬に含まれる尿素濃度を検討した結果を示す図である。
【実施例】
【0027】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら例に限定されるものではない。
【0028】
実施例1 添加剤の検討
(1)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(配列番号4)を含む発現ベクターを用いて大腸菌W3110株を形質転換して組換え大腸菌を得た。当該組換え大腸菌を特開2013-085531号公報に記載の方法を参考にして培養し、得られた培養液から遠心分離により大腸菌菌体(湿潤菌体)を得た。なお配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドは、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるブドウ球菌属由来Protein A(以下、SpAとも表記)を直接六つ連結した態様である。
【0029】
(2)(1)で得られた湿潤菌体を、当該湿潤菌体重量の3倍量の1mmol/L EDTAを含む20mmol/L リン酸緩衝液(pH6.0)に懸濁させ、均一になるまで室温(20℃から25℃)にて撹拌した。
【0030】
(3)(2)で得られた菌体懸濁液を96穴マイクロウェルプレートに500μLずつ分注した後、それぞれに核酸分解酵素であるBenzonase(メルク社製)を終濃度250unit/Lとなるよう添加し、助剤として硫酸マグネシウムを終濃度2mmol/Lとなるよう添加後、室温で撹拌した。
【0031】
(4)以下の(a)から(n)のいずれかに示す添加剤(濃度はいずれも終濃度)を添加後、糖質分解酵素であるリゾチームを終濃度0.005(w/v)%となるように添加し、さらに室温で撹拌した。
【0032】
(a)β-メルカプトエタノール 1(v/v)%
(b)β-メルカプトエタノール 5(v/v)%
(c)尿素 1mol/L
(d)尿素 2mol/L
(e)Tween 20(商品名) 0.1(v/v)%
(f)Tween 20(商品名) 0.25(v/v)%
(g)Tween 20(商品名) 1(v/v)%
(h)ドデシル硫酸ナトリウム 0.1(w/v)%
(i)ドデシル硫酸ナトリウム 1(w/v)%
(j)塩化ナトリウム 0.3mol/L
(k)塩化ナトリウム 1mol/L
(l)硫酸ナトリウム 0.1mol/L
(m)アルギニン塩酸塩 1mol/L
(n)グアニジン塩酸塩 1mol/L
(5)非イオン界面活性剤であるTriton X-100(商品名)水溶液を終濃度0.5(w/v)%となるよう添加し、室温で撹拌することで、SpAを抽出した。
【0033】
(6)一晩抽出操作を行なった後、(5)の抽出液を遠心分離し(3000rpm、20分、2回)、上清(無細胞抽出液)を得た。
【0034】
(7)(6)で得られた無細胞抽出液中のSpA抽出量を以下に示したELISA法にて測定した。
(7-1)ヒト抗体であるガンマグロブリン製剤(化学及血清療法研究所製)を、96穴マイクロプレートのウェルに10μg/wellの濃度で固定した(4℃で18時間以上)。
(7-2)固定化終了後、洗浄緩衝液(0.05(w/v)%のTween 20(商品名)と150mmol/LのNaClを含む20mmol/LのTris-HCl緩衝液(pH7.5))で洗浄し、2(w/v)%スキムミルク溶液(Becton Dickinson and Company社製)によりブロッキングした(4℃で一晩)。
(7-3)洗浄緩衝液にて洗浄後、調製した無細胞抽出液を50mmol/LのTris-HCl緩衝液(pH 7.4)で適宜希釈し、固定化ガンマグロブリンと反応させた(30℃で1時間)。
(7-4)反応終了後、洗浄緩衝液で再度洗浄し、Horse radish Peroxidase(HRP)標識のAnti-ProteinA抗体試薬(abcam社製)を添加した。
(7-5)30℃で1時間反応後、洗浄緩衝液で洗浄し、TMB Peroxidase Substrate(KPL社製)を添加し、任意の時間反応後、1mol/Lのリン酸水溶液を添加して反応を停止後、450nmの吸光度を測定した。
【0035】
比較例1
実施例1(4)において添加剤を添加しない他は、実施例2と同様な操作を行なった。
【0036】
比較例2
(1)実施例1(2)で得られた菌体懸濁液を、市販の抽出試薬(BugBuster、メルク社製)を用いて、試薬に添付の標準プロトコルに従い、SpAを抽出した。
【0037】
(2)抽出液を遠心分離操作し、上清(無細胞抽出液)を得た。
【0038】
(3)実施例1(7)に記載の方法により、SpA抽出量を測定した。
【0039】
結果を表1に示す。抽出量の評価は、市販の抽出試薬(比較例2)よりも抽出量が多い場合を「〇」、抽出量が市販の抽出試薬(比較例2)よりは少ないが添加剤無し(比較例1)よりは多い場合を「△」、添加剤無し(比較例1)よりも抽出量が少ない場合を「×」とした。分離性の評価は、遠心分離により上澄み液と沈殿物の界面がはっきり分かれ、沈殿物の混ざり込み無く、上澄み液のみを容易に回収できた場合を「〇」、それ以外の場合を「×」とした。
【0040】
【0041】
表1より、尿素を終濃度1mol/L(表1(c))または2mol/L(表1(d))、および陰イオン界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を終濃度1(w/v)%(表1(i))で添加したときは、市販の抽出試薬よりも抽出量に優れ、抽出液の分離性も高いことが分かる。このことから非イオン界面活性剤に、添加剤として尿素または陰イオン界面活性剤を添加した抽出試薬により、大腸菌内で発現したSpAを短時間かつ効率よく抽出できることがわかる。
【0042】
実施例2 尿素濃度の検討
(1)実施例1(1)から(2)と同様の操作を行ない、菌体懸濁液を得た。
【0043】
(2)(1)で得られた菌体懸濁液に、核酸分解酵素であるBenzonase(メルク社製)を終濃度250unit/Lとなるよう添加し、助剤として硫酸マグネシウムを終濃度2mmol/Lとなるよう添加後、室温(20℃から25℃)にて撹拌した。
【0044】
(3)(2)で得られた菌体懸濁液を5個のビーカーに20mLずつ分注後、尿素水溶液を終濃度0.1、0.5、1.0、2.0または3.0mol/Lとなるようそれぞれ添加した。さらにリゾチームを終濃度0.005(w/v)%となるように添加し、室温(20℃から25℃)にて撹拌した。
【0045】
(4)非イオン界面活性剤であるTriton X-100(商品名)水溶液を終濃度0.5(w/v)%となるよう添加し、室温(20℃から25℃)にて撹拌することで、SpAを抽出した。
【0046】
(5)3時間抽出操作を行なった後、抽出液を遠心分離し(9000rpm、20分)、上清(無細胞抽出液)を得た。
【0047】
(6)実施例1(7)に記載の方法により、SpA抽出量を測定した。
【0048】
結果を
図1に示す。終濃度0.5mol/Lから3mol/Lの尿素を添加することで、尿素を添加しない場合と比較し、SpA抽出量が向上した。特に終濃度1mol/Lおよび2mol/Lの尿素を添加したときは、市販の抽出試薬(比較例2)よりも抽出量が大幅に向上した。このことから終濃度0.5mol/Lから3mol/L、好ましくは終濃度0.7mol/Lから3mol/L、より好ましくは終濃度1mol/Lから2mol/Lの尿素を添加することで、大腸菌内で発現したSpAを短時間かつ効率よく抽出できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明により、大腸菌の菌体内に発現したブドウ球菌属由来組み換えProtein Aの抽出を短時間で効率よく行なえる。したがって、前記Protein Aをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを用いて大腸菌を形質転換して得られる形質転換体を培養する工程と、当該培養した形質転換体内から前記Protein Aを抽出する工程とを含む、前記Protein Aの製造を効率的に行なえる。
【配列表】