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特許7608791封止用接合材及び光学素子パッケージ用リッド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】封止用接合材及び光学素子パッケージ用リッド
(51)【国際特許分類】
   H10H 20/854 20250101AFI20241224BHJP
   H01L 23/10 20060101ALI20241224BHJP
   H01L 23/02 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
H01L33/56
H01L23/10 B
H01L23/02 J
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020188426
(22)【出願日】2020-11-12
(65)【公開番号】P2022077578
(43)【公開日】2022-05-24
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 晴信
(72)【発明者】
【氏名】原田 大実
(72)【発明者】
【氏名】竹内 正樹
【審査官】東松 修太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-047817(JP,A)
【文献】特開2011-236453(JP,A)
【文献】特開2011-080147(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102848097(CN,A)
【文献】特許第6047254(JP,B1)
【文献】特開2013-202632(JP,A)
【文献】特開2015-177183(JP,A)
【文献】特開2019-019198(JP,A)
【文献】特開2015-048402(JP,A)
【文献】特開2021-017620(JP,A)
【文献】特開平08-252687(JP,A)
【文献】特開昭60-234793(JP,A)
【文献】特開平01-309795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンダ粉末、被覆材によって被覆された銀ナノ粒子、金属セレン、及び溶媒を含有し、かつ前記金属セレンの含有量0.5~5質量%であることを特徴とする封止用接合材。
【請求項2】
前記ハンダ粉末が、スズを含むことを特徴とする請求項1に記載の封止用接合材。
【請求項3】
記金属セレンの融点よりも前記ハンダ粉末の融点が低いことを特徴とする請求項1又は2に記載の封止用接合材。
【請求項4】
前記ハンダ粉末がスズを含み、さらにビスマスを含むことを特徴とする請求項2又は3に記載の封止用接合材。
【請求項5】
前記ハンダ粉末が、亜鉛、インジウム、銀からなる群より選ばれる1種類以上の元素をさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の封止用接合材。
【請求項6】
前記被覆材が、脂肪族カルボン酸、高級アルコール、アミン類からなる群から選ばれたものであることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の封止用接合材。
【請求項7】
下記測定法による、前記銀ナノ粒子の銀核部分の平均一次粒子径が、20~90nmであることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の封止用接合材。
測定法:走査型電子顕微鏡(SEM)観察による任意の20個の銀核粒子の算術平均値として平均一次粒子径を算出。
【請求項8】
前記溶媒が、テルペン類、モノテルペンアルコール類、アルキルアルコール、ナフテン系炭化水素からなる群から選ばれる1つ以上の化合物を含むことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の封止用接合材。
【請求項9】
前記金属セレンとして、動的光散乱法によるメジアン径D50(体積基準)が5~20μmである金属セレンを含有することを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の封止用接合材。
【請求項10】
脂肪族カルボン酸、ポリカルボン酸からなる群から選ばれる1種以上の酸化膜除去剤を含有することを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の封止用接合材。
【請求項11】
ヒンダードフェノール類、ヒンダードアミノ類、ハイドロキノン類、フェノチアジンからなる群より選ばれる1種以上の酸化膜防止剤を含有する請求項1~10のいずれか1項に記載の封止用接合材。
【請求項12】
光学素子が内部に収容された収容部材の前記光学素子の発光方向前方に設けられる窓材と、該窓材が前記収容部材と接する部分に形成された金属系接合層とを具備した光学素子パッケージ用リッドであって、請求項1~11のいずれか1項に記載の封止用接合材を前記窓材に対して枠状に塗布して、前記金属系接合層を形成したことを特徴とする光学素子パッケージ用リッド。
【請求項13】
前記窓材が、合成石英ガラスであることを特徴とする請求項12に記載の光学素子パッケージ用リッド。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか1項に記載の封止用接合材で形成された前記金属系接合層が、半硬化状態(B-Stage)であることを特徴とする請求項12又は13に記載の光学素子パッケージ用リッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気密封止を必須とする、例えばUV-LEDや短波長で出力の強いレーザー光源などの光学素子を封止するために使用される封止用接合材、および当該接合材からなる接合層が窓材に予め形成された光学素子パッケージ用リッドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コロナウィルスの不活性化、水の殺菌用途などに、深紫外領域の光を発光することのできる素子が注目されている。その中でも、紫外線発光ダイオード(Ultra-Violet Light Emitting Diode: UV-LED)が、環境負荷の小さいデバイスとして注目されている。深紫外線を発光する素子は、使用環境によっては湿度の高いところなど過酷な環境下で使用されることが想定され、その際の問題として例えば水分などがLEDの素子が配された電気回路部分に触れると、回路のショートや短絡といった不具合を誘発することが考えられる。そのため、パッケージに求められる性能の一つとして、気密封止されていることがあげられる。
【0003】
現状、UV-LEDは、通常の樹脂モールドで素子を封止した場合、素子が発する短波長の光によって樹脂が劣化するため、例えば、合成石英を窓材としたリッドを用いた表面実装型パッケージ(以下、SMD PKG)が光学素子のパッケージとして最もよく選択される。
【0004】
SMD PKGを気密封止する場合、金属系接着剤がリッドと容器部材との間を封止する封止材として用いられ、その封止材としてSAWデバイスなどで実績のある金錫ハンダを用いた方法が提案されている(特許文献1:国際公開第2016-103547号)。また、ハンダなどの金属系成分を持つ接着剤を使用する場合、金属が形成する酸化被膜が濡れ性の低下を招くため、ギ酸でリフローして酸化膜を除去しながら、ハンダ材の金属による金属接着層を形成する方法が提案されている(特許文献2:特開2016-078095号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/103547号
【文献】特開2016-078095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の金錫ハンダは、熱をかけて溶解させて接着部を形成した後、冷却工程において大きな応力を発生するため、接着部のシール性が崩れやすいこと、また金の価格の乱高下に伴う材料の安定供給性にもリスクが伴う。一方、特許文献2に記載のギ酸を用いる方法は、作業環境が限られ、取り扱いが難しいことから、一般的な手法とは言い難い。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、気密封止を構築することのできる金属系材料を主成分としており、昨今のUV-LEDや短波長で出力の強いレーザー光源などの素子を封止するにあたり、熱や短波長の光によって影響を受けることなく安定して長期間使用でき、かつ穏やかな接合条件で接合を行うことができる、簡便で安全性の高い封止用接合材、および当該接合材からなる接合層が形成された光学素子パッケージ用リッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、気密封止ができるパッケージ封止用接合材として、ハンダ粉末、被覆材によって被覆された銀ナノ粒子、溶媒を必須とし、さらに、金属セレンまたは酸化膜の防止剤や除去剤を含有する組成が、長期間安定して使用でき、かつ穏やかな接合条件で接合層を形成できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
従って、本発明は、下記の封止用接合材及び光学素子パッケージ用リッドを提供するものである。
1. ハンダ粉末、被覆材によって被覆された銀ナノ粒子、金属セレン、及び溶媒を含有し、かつ前記金属セレンの含有量0.5~5質量%であることを特徴とする封止用接合材。
2. 前記ハンダ粉末が、スズを含むことを特徴とする1に記載の封止用接合材。
3. 前記金属セレンの融点よりも前記ハンダ粉末の融点が低いことを特徴とする1又は2に記載の封止用接合材。
4. 前記ハンダ粉末がスズを含み、さらにビスマスを含むことを特徴とする2又は3に記載の封止用接合材。
5. 前記ハンダ粉末が、亜鉛、インジウム、銀からなる群より選ばれる1種類以上の元素をさらに含むことを特徴とする4に記載の封止用接合材。
6. 前記被覆材が、脂肪族カルボン酸、高級アルコール、アミン類からなる群から選ばれたものであることを特徴とする1~5のいずれかに記載の封止用接合材。
7. 下記測定法による、前記銀ナノ粒子の銀核部分の平均一次粒子径が、20~90nmであることを特徴とする1~6のいずれかに記載の封止用接合材。
測定法:走査型電子顕微鏡(SEM)観察による任意の20個の銀核粒子の算術平均値として平均一次粒子径を算出。
8. 前記溶媒が、テルペン類、モノテルペンアルコール類、アルキルアルコール、ナフテン系炭化水素からなる群から選ばれる1つ以上の化合物を含むことを特徴とする1~7のいずれかに記載の封止用接合材。
9. 前記金属セレンとして、動的光散乱法によるメジアン径D50(体積基準)が5~20μmである金属セレンを含有することを特徴とする1~8のいずれかに記載の封止用接合材。
10. 脂肪族カルボン酸、ポリカルボン酸からなる群から選ばれる1種以上の酸化膜除去剤を含有することを特徴とする1~9のいずれかに記載の封止用接合材。
11. ヒンダードフェノール類、ヒンダードアミノ類、ハイドロキノン類、フェノチアジンからなる群より選ばれる1種以上の酸化膜防止剤を含有する1~10のいずれかに記載の封止用接合材。
12. 光学素子が内部に収容された収容部材の前記光学素子の発光方向前方に設けられる窓材と、該窓材が前記収容部材と接する部分に形成された金属系接合層とを具備した光学素子パッケージ用リッドであって、1~11のいずれかに記載の封止用接合材を前記窓材に対して枠状に塗布して、前記金属系接合層を形成したことを特徴とする光学素子パッケージ用リッド。
13. 前記窓材が、合成石英ガラスであることを特徴とする12に記載の光学素子パッケージ用リッド。
14. 1~11のいずれかに記載の封止用接合材で形成された前記金属系接合層が、半硬化状態(B-Stage)であることを特徴とする12又は13に記載の光学素子パッケージ用リッド。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、UV-LEDのような短波長の光を出す素子を封止する際に求められる、良好な気密封止性及び耐UV性を有する金属接合層を穏やかな条件で簡便に形成でき、長期間安定して使用できる封止用接合材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の光学素子パッケージ用リッドの一例を示し、(A)は平面図、(B)は(A)図のB-B線に沿った断面図、(C)は該リッドで収容部材を閉塞した光学素子パッケージの一例を示す概略断面図である。
図2】実施例1の封止用接合材について、TG-DTA測定を行った結果を示すグラフである。
図3】実施例2の封止用接合材について、TG-DTA測定を行った結果を示すグラフである。
図4】実施例3の封止用接合材について、TG-DTA測定を行った結果を示すグラフである。
図5】実施例4の封止用接合材について、TG-DTA測定を行った結果を示すグラフである。
図6】比較例1の封止用接合材について、TG-DTA測定を行った結果を示すグラフである。
図7】実施例1、2、および比較例1の封止用接合材のTG-DTA測定より得られたTG曲線を示すグラフであり、縦軸が重量変化量(%)、横軸が温度(℃)である。
図8】実施例2の封止用接合材からなる膜の断面を示す走査型電子顕微鏡(SEM)による反射電子像写真である。
図9】比較例の封止用接合材からなる膜の断面を示す走査型電子顕微鏡(SEM)による反射電子像写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の封止用接合材は、ハンダ粉末、被覆材によって被覆された銀ナノ粒子、溶媒を必須とし、さらに、金属セレンまたは酸化膜防止剤、酸化膜除去剤から選ばれる1種以上を含有する。また、当該封止用接合材は、例えば図1に示したように、光を透過させることのできる透明な基板からなる窓材1に対して、枠状に塗布して接合層2を形成することにより、光学素子パッケージ用リッドを構成することができ、例えばUV-LEDのような気密性を求められる光学素子パッケージの封止材として好適に用いることができるものである。
【0013】
[ハンダ粉末]
金属系材料を用いた封止材においては、例えば図1(B)のような光学素子パッケージにおいて、光学素子4が内部に収容された収容部材3に光を透過させることのできる透明な基板からなる窓材1を接合する際、気密性を得るため、その接合層2を緻密化することが必須となる。また、光学素子4は耐熱性が弱いため、本発明に用いられるハンダ材は、低温で融解して接合層4を形成することが求められる。
【0014】
上記観点から、封止用接合材によって結合される窓材1と光学素子4が配された収容部材3を接合する過程において、低温(例えば、150~250℃)において接合を完了させる観点から、ハンダ粉末の融点は低温であることが好ましく、また、本発明封止用接合材に上記金属セレンを含む場合、ハンダ粉末の融点は、この金属セレンの融点(221℃)より低いことが好ましい。具体的には、融点が200℃以下であることが好ましく、より好ましくは180℃以下、さらに好ましくは160℃以下である。なお、ハンダ粉末の融点の下限は、通常100℃以上とされる。当該温度域を達成するためには、特に制限されるものではないが、Snをハンダの成分に含むことが好ましい。
【0015】
また、紫外領域のような短い波長は、窓材が初期状態で透明かつ高透過率の特性を示していても、窓材の構成成分に金属分や樹脂分を含んでいると、その部分から劣化が起こり、長期信頼性が得られないため、一般的には上記窓材1としては、合成石英が好ましく選択される。窓材1として合成石英を用いる場合、これとの確実な密着性を得るため、合成石英に対してアンカー効果により固定化することのできるBiをハンダの成分に含むことがより好ましい。
【0016】
このようなハンダ粉末としては、特に制限されるものではないが、Sn-Biハンダ、Sn-Zn-Biハンダ及びSn-In-Ag-Biハンダからなる群から選ばれる1つ以上を含むものが好ましい。より具体的には、Sn42.0-Bi58.0、Sn88.0-In8.0-Ag3.5-Bi0.5(三井金属鉱業株式会社製)、Sn89.0-Zn8.0-Bi3.0(佐々木半田工業株式会社製)などが例示される。
【0017】
ハンダ粒子の一次粒子のD50(体積平均メジアン50%径)は、接合材をスクリーン印刷で塗布することを考慮すると、スクリーンマスクのメッシュを通過させる観点から、1~30μmであることが好ましくは、より好ましくは1~20μmである。なお、粒子径が小さすぎると、ハンダ成分の中の金属が形成する酸化膜の比表面積が大きくなってしまい、酸化防止剤を入れても十分な効果が得られない不具合が起こる可能性がある。なお、メジアン径は動的光散乱法によって測定される。
【0018】
ハンダ粉末の含有量は、特に制限されるものではないが、封止用接合材の好ましくは30質量%以上、より好ましくは45質量%以上で、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
【0019】
[被覆材により被覆された銀ナノ粒子]
本発明封止用接合材に含まれる金属ナノ粒子は、非常に細かい粒子であるため、一次粒子が相互作用することによる自然焼結を防ぐため、適切な物質で被覆しておく必要がある。上記観点から、金属ナノ粒子は、接合層を形成する前は被覆材で表面が被覆された状態(例えば、表面上に液状物質又は固体状物質が薄層状に付着した状態)で用いられる。
【0020】
本発明では、金属ナノ粒子を構成する金属が、銀、銀を含有する合金、又は銀と他の金属との混合物である銀ナノ粒子が用いられるが、好ましくは実質的に銀のみからなるものが用いられる。なお、この銀ナノ粒子が合金又は混合物である場合、銀ナノ粒子によって形成される焼結体の安定性の観点から、銀が、金属ナノ粒子全体の80質量%以上であることが好ましい。
【0021】
上記銀ナノ粒子の核粒子(以下、「銀核粒子」という)を被覆する被覆材は、一般的な金属ナノ粒子に付着可能な公知の有機材料を用いることができる。当該有機材料としては、脂肪族カルボン酸、高級アルコール、アミン類のような有機高分子、有機分子などが例示される。
【0022】
被覆材は、温度応答性をもって銀核粒子から分離するものが好ましい。被覆材が昇温によって銀核粒子から脱離することにより、接合強度の高い焼結体を得ることができる。被覆材が銀核粒子から分離する温度(分離温度)は、被覆材が銀核粒子から脱離した際に、ナノ粒子である銀核粒子がすみやかに焼結できるように、好ましくは被覆銀粒子の焼結温度以上の温度、より好ましくは被覆銀粒子の焼結温度より10℃以上高い温度である。一方、被覆材の分離温度は、被覆銀粒子の焼結温度より50℃高い温度以下[(被覆銀粒子の焼結温度+50℃)以下]であることが望ましい。ここで、被覆材が被覆銀粒子から分離する温度(分離温度)とは、被覆銀粒子同士がネッキングし始める温度とすることができる。ネッキングとは、被覆材が銀核粒子表面から分離することにより、銀核粒子同士が結合することを指す。なお、ネッキングが始まる温度の確認は、ネッキング時に被覆材が銀核粒子表面からの被覆材消失に伴う重量変化をTG-DTA測定(熱重量測定・示差熱分析)において求め、TG-DTA測定より得られたTG曲線において重量変化する温度を分離温度とすることができる。
【0023】
銀核粒子を被覆する被覆材としては、上記のように脂肪族カルボン酸、高級アルコール、アミン類のような有機高分子、有機分子などを用いることができるが、特に脂肪族カルボン酸が好適に用いられる。脂肪族カルボン酸は、脂肪族化合物に1個または2個以上のカルボキシル基を有する化合物であり、カルボキシル基は通常、銀核粒子表面に吸着・配置される。上記観点より、脂肪族化合物に1個のカルボキシル基が置換された構造、すなわち、脂肪族炭化水素基と、1個のカルボキシル基を有する化合物が好ましい。
【0024】
脂肪族カルボン酸を構成する脂肪族炭化水素基は、銀核粒子表面に一定の密度で単分子膜、例えばLB膜(Langmuir-Blodgett膜)の状態にしておくことで、温度応答性に伴う被覆材のスムーズな脱離を促すことができる観点から、直鎖脂肪族炭化水素基であることが好ましい。
【0025】
当該脂肪族カルボン酸において、脂肪族基の炭素原子数は、被覆材分子の疎水性相互作用、分散性、耐酸化性を考慮すると、炭素数5以上、好ましくは炭素数7以上のものが好適である。一方、被覆材分子の銀核粒子への吸着時における立体障害を考慮すると、炭素数は16以下、好ましくは炭素数13以下のものが好適である。具体例としては、オクタン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸などが挙げられる。なお、脂肪族カルボン酸は、単独で使用しても良いし、2種類以上の物質を組み合わせて使用することもできる。
【0026】
被覆された銀ナノ粒子の平均一次粒子径は、1~500nmであることが好ましく、より好ましくは10~400nm、さらに好ましくは20~300nmである。平均一次粒子径が、このような範囲であれば、粒子に付着している被覆材分子の絶対数が多くなることによる被覆材分子の疎水性相互作用が大きくなり、スムーズな脱離が起きにくくなる不具合の発生する可能性を低減できる。なお、被覆された銀ナノ粒子の平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察による任意の20個の被覆された銀ナノ粒子の算術平均値として算出される。また、できるだけ粒子径がそろっていた方が、被覆材が脱離する温度を制御しやすい観点より、被覆された銀ナノ粒子の粒度分布の多分散度は1.00~1.10の範囲であることが好ましい。
【0027】
被覆された銀ナノ粒子の含有量は、特に制限されるものではないが、封止用接合材の好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上で、好ましくは70質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。
【0028】
[銀核粒子]
被覆材がない銀核粒子の平均一次粒子径は、特に制限されることはなく、焼結温度などの観点から適宜選択することができる。具体的には、銀核粒子の平均一次粒子径を90nm以下の範囲で適宜選択することができ、低温焼結させる観点から、80nm以下であればより好ましい。また、銀核粒子の平均一次粒子径は、通常、1nm以上であるが、銀ナノ粒子製造のコストの観点から20nm以上であればより好ましい。当該銀核粒子の平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察による任意の20個の銀核粒子の算術平均値として算出される。
【0029】
銀核粒子の形状は特に限定されないが、被覆材が離脱しやすい立体構造である真球状であることが好ましい。
【0030】
[溶媒]
本発明の封止用接合材における溶媒は、前記ハンダ粉末及び前記被覆された銀ナノ粒子、および後述する金属セレン、酸化膜防止剤、酸化膜除去剤を分散可能な溶媒の中から適宜選択して用いることができる。例えば、テルペン類、モノテルペンアルコール類、アルキルアルコール、ナフテン系炭化水素などから選ばれる1種以上の化合物を含む溶媒を用いることができる。中でも、特に限定されるものではないが、封止用接合材に含まれる物質の化学的安定性及び分散性の観点から、脂肪族アミン系溶媒、脂肪族アルコール系溶媒、テルピンアセテート系溶媒、脂肪族アルカン系溶媒、及びカルビトール系溶媒からなる群から選ばれる1種類以上を含むものが好ましい。溶媒は、1種類単独で用いても良いし、2種類以上を組み合わせて混合溶媒としてもよい。
【0031】
上記脂肪族アミン系溶媒として具体的には、オクチルアミン、ドデシルアミン、オレイルアミンなどが例示される。上記脂肪族アルコール系溶媒として具体的には、ヘキサノール、オクタノール、デカノール、ドデカノールなどが例示される。上記テルピンアセテート系溶媒として具体的には、1,8-テルピン-1-アセテート、1,8-テルピン-8-アセテート、1,8-テルピン-1,8-ジアセテートなどが例示される。上記脂肪族アルカン系溶媒として具体的には、オクタン、デカン、ドデカンなどが例示される。上記カルビトール系溶媒として具体的には、ブチルカルビトール、ヘキシルカルビトールなどが例示される。
【0032】
封止用接合材をスクリーン印刷で塗布する場合、スクリーンマスクの乳剤との相性、パターンの精密性を考慮すると、溶媒はテルピンアセテート系溶媒を含むことが好ましい。テルピンアセテート系溶媒としては、例えば、日本テルペン化学(株)のテルソルブ THA-90、テルソルブ THA-70などを用いることができる。
【0033】
溶媒の含有量は、本発明封止用接合材に含まれる組成物全量に対し、1~30質量%であることが好ましく、5~20質量%であることがより好ましい。溶媒の含有量がこのような範囲であれば、スクリーン印刷を実施する際の適正粘度から外れ、印刷されるパターンの正確性が得られにくい不具合が起こる可能性を低減できる。
【0034】
[金属セレン]
金属系材料を用いた封止材は、大気下において加熱・加圧接合するときに、熱エネルギーによって大気中の酸素が構成成分である金属種と発熱反応して酸化物となり表面に酸化被膜を形成する。この酸化被膜が、接合材成分の濡れ性を阻害し、接合層の緻密化を妨げる一因となると考えられる。そこで、本発明の封止用接合材は、酸素が封止用接合材を構成している金属と反応することを阻害する物質を配合して、酸化被膜の形成を抑制する。
【0035】
セレンは、16族の元素であり、原子の電子殻、および電子軌道を考えると酸素と似た性質を持っている。そのため、例えば銀に対して酸素が結合して酸化銀になるかわりに、銀に対してセレンが結合することでセレン化銀のような化合物を作ることができると考えられ、セレンは、金属と酸素が結合することを阻害する、すなわち抗酸化作用があるといえる。
【0036】
本発明の封止用接合材では、穏やかな接合条件で接合を行う観点から、例えば、最終的に250℃以下の比較的低い温度条件で良好に接合し得ることが好ましいが、バルクの融点が221℃であるセレンは、接合過程において融解し、他の金属種と合金化することも期待される。また、合金化することにより、再融点温度は高くなることが予想され、耐熱性に関しても問題はなくなると考えられる。
【0037】
本発明の封止用接合材に、酸化防止剤として金属セレンを添加する場合、必要十分な抗酸化作用を得る観点及び他の金属種がセレンと反応して合金化するときにすべてのセレンを吸収しきれない不具合を抑制する観点から、添加量は、特に制限されるものではないが、0.5~5質量%であることが好ましく、1~3質量%であることがより好ましい。また、動的光散乱法によって測定される、添加される金属セレンのメジアン径D50(体積基準)は、スクリーン印刷を使用する場合のスクリーンマスクのメッシュの開口径を考慮すると、5~20μmであることが好ましく、5~10μmであることがより好ましい。金属セレンは、例えば、SEE01PB((株)高純度化学研究所)などを用いることができる。
【0038】
[酸化膜防止剤]
本発明の封止用接合材の構成成分である金属種の酸化を防ぐ方法として、有機物を使用して酸化膜の形成を防止する方法も有効である。このとき、酸化膜防止剤としては、ヒンダードフェノール類、ヒンダードアミン類、ハイドロキノン類、フェノチアジンからなる群から選ばれる1種類以上の酸化膜防止剤を好ましく含有することができる。なお、この酸化膜防止剤を含めて本発明封止用接合材に用いられる添加剤は、上記溶媒に対して可溶、もしくは分散できるものを適宜選択することができる。ただし、構造中に硫黄を含むものは、銀の硫化を誘発するため積極的には選択されない。
【0039】
上記ヒンダードフェノール類としては、Irganox 1010、Irganox 1076、Irganox 1135(BASF株式会社)、アデカスタブ AOシリーズ(ADEKA株式会社)などが例示される。上記ヒンダードアミン類としては、HALS系のものを用いることができ、TMPS-E(信越化学工業株式会社)、アデカスタブ LAシリーズ(ADEKA株式会社)などが例示される。上記ハイドロキノン類としては、ハイドロキノン、4-メトキシフェノール(MEHQ)などが例示される。
【0040】
本発明の封止用接合材に、酸化膜防止剤を添加する場合、十分な酸化防止効果を得る観点及び接合後に有機物が接合層に残留しUV光照射された場合の劣化の原因となることを防ぐ観点から、添加量は0.5~10質量%であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましい。
【0041】
[酸化膜除去剤]
本発明の封止用接合材は、大気下の環境において接合に使用されることを想定している。つまり、酸素が無限量供給される環境で使用される。すなわち、封止用接合材の構成成分である金属種の酸化は避けられない可能性が示唆される。これより、気密封止性を持つ接合材であるために必要な、接合時における構成成分の濡れ性を向上させるために、濡れ性の阻害要因となる酸化膜を除去する酸化膜除去剤を含有することが好ましい。
【0042】
本発明の封止用接合材の構成成分である金属種の酸化膜を除去するための、酸化膜除去剤としては、酸性物質である脂肪族カルボン酸、またはポリカルボン酸などカルボキシル基を構造内に有するものが好ましい。また、酸化膜除去の化学反応をスムーズに起こすためには、カルボキシル基は主鎖の末端にあることが好ましい。
【0043】
酸化膜除去剤として具体的には、酢酸、プロピオン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、ラウロイルサルコシン、ココイルサルコシン、オレオイルサルコシンなどが例示される。
【0044】
本発明の封止用接合材に、酸化膜防止剤を添加する場合、十分な酸化膜除去効果を得る観点及び接合後の金属の濡れ性が向上することによる接合強度の低下を防ぐ観点から、添加量は0.5~10質量%であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましい。
【0045】
[光学素子パッケージ用リッド]
本発明の封止用接合材は、窓材となる光を透過することのできる透明な基板上において、収容部材と接する部分に塗布することで光学素子パッケージ用リッドとすることができる。
【0046】
光学素子パッケージ用リッドは、例えば、図1(A)~(C)に、断面図及び平面図として示されるように、窓材1の表面上、例えば、この窓材1が光学素子4の収容部材3と接する部分である窓材1の主表面の外周縁部に、接合層2が形成されたものである。この接合層2は、窓材1の主表面以外に側面に形成されていてもよいが、主表面のみ、特に、光学素子4が収容されている収容部材3と接する一方の主表面のみに形成されていることが好ましい。また、接合層2は、図1(A)及び(B)に示されるように、窓材1の中央部から光を取り出せるように、窓材1の主表面の外周縁部に形成することが好ましいが、必ずしも窓材1の外周縁まで形成されている必要はない。また、接合層2は、窓材1の中央部に、光を取り出すことができる相応の範囲が確保される位置に、気密封止するのに十分な形状及び面積で形成されていればよい。
【0047】
本発明の光学素子パッケージ用リッドは、例えば上記窓材1の収容部材3と接する部分に、上記本発明の封止用接合材を塗布して上記接合層2を形成したものである。その際、該接合層2を形成する封止用接合材を半硬化状態(B-Stage)とする場合は、該接合層2を、100~180℃で5~60分加熱することにより、半硬化状態(B-Stage)とすることができる。
【0048】
上記窓材1は、光を通過させることのできる透明体であればよく、特に指定されるものはない。しかし、収容部材3に配される発光素子4の波長は特に規定されないが、UV光を発する素子を封入するUV-LEDなどの場合は、窓材1は短波長を高い透過率で透過する合成石英であることが好ましい。合成石英は、広波長域において高透過率を示すため、可視光領域、近赤外、赤外領域などの発光素子に対しても適用可能である。
【0049】
このような、本発明封止用接合材からなる接合層2を形成した光学素子パッケージ用リッドを用いれば、例えば図1(C)のように、光学素子4と、該光学素子4を内部に収容した収容部材5を備え、光学素子パッケージ用リッドに塗布された、本発明の封止用接合材により窓材1と収容部材3とが接着されて、光学素子5が収容部材3の内部に気密封止された光学素子パッケージを構成することができる。なお、図1(C)中の参照符号5は、反射板である。
【0050】
上記窓材1と収容部材3との接合は、例えば次のように行うことができる。まず、光学素子4が収容された収容部材3と上記接合層2とを接触させ、接合位置を決めた後、光学素子パッケージ用リッドと収容部材3とを、加熱処理することにより、両者を接合することができる。この加熱処理の温度(硬化温度)は、光学素子パッケージ内に封止される光学素子の耐熱性の観点から、好ましくは150℃以上、より好ましくは170℃以上で、好ましくは250℃以下、より好ましくは220℃以下、更に好ましくは200℃以下であり、加熱処理の時間は、好ましくは10秒~60分である。この際、加圧も同時に行うことが好ましく、この処理における雰囲気は、大気雰囲気、不活性ガス雰囲気、窒素ガス雰囲気等が適用される。また、上述のように接合層2を形成する封止用接合材を半硬化状態(B-Stage)とした場合、該接合層2が加熱によって押しつぶされ、封止用接合材に含まれている銀ナノ粒子が密に結合することにより、より気密性の高いシールを構築することが可能となる。
【0051】
また、本発明光学素子パッケージ用リッドにおいて、特に制限されるものではないが、窓材1と、光学素子4を内部に収容した収容部材3とを、上記接合層2により接合して一体化した後に、更に熱処理を行う熱アニール工程も好ましく採用される。この熱アニール工程により、本発明封止用接合材で形成された接合層2中の銀ナノ粒子間、及び銀ナノ粒子とメッキ粉末との間の結合がより強固となり、接合強度を増大させることができる。熱アニールの温度は、硬化温度(上記加熱処理の温度)より20℃以上高い温度が好ましく、硬化温度より100℃高い温度以下[(硬化温度+100℃)以下]であることがより好ましい。なお、熱アニールの温度の上限は特に制限はないが、光学素子パッケージ内に封止された光学素子4の熱耐性の観点から、250℃以下が好ましい。熱アニールの時間は、光学素子4への熱の蓄積や、生産性の観点から、好ましくは10~180分間である。
【実施例
【0052】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0053】
[実施例1]
平均一次粒子径が61nmの銀核粒子の表面をウンデカン酸で被覆した銀ナノ粒子を23質量%、動的光散乱法によるメジアン径D50(体積基準)が5.7μmのSn42-Bi58ハンダ粉末(ST-5 三井金属鉱業(株))を65質量%、溶媒としてテルソルブTHA-70(日本テルペン化学(株))を10質量%、動的光散乱法によるメジアン径D50(体積基準)が8.3μmの金属セレン2質量%を混合して、封止用接合材を得た。なお、銀核粒子の平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察による任意の20個の銀核粒子の算術平均値として算出した。以下の例においても同じ。
【0054】
[実施例2]
平均一次粒子径が61nmの銀核粒子の表面をウンデカン酸で被覆した銀ナノ粒子を24質量%、動的光散乱法によるメジアン径D50(体積基準)が5.7μmのSn42-Bi58ハンダ粉末(ST-5 三井金属鉱業(株))を65質量%、溶媒としてテルソルブTHA-70(日本テルペン化学(株))を10質量%、オレオイルサルコシン1質量%を混合して、封止用接合材を得た。
【0055】
[実施例3]
平均一次粒子径が58nmの銀核粒子の表面をオクタン酸で被覆した銀ナノ粒子を21質量%、動的光散乱法によるメジアン径D50(体積基準)が3.4μmのSn42-Bi58ハンダ粉末(ST-3 三井金属鉱業(株))を64質量%、溶媒としてデカノールを12質量%、動的光散乱法によるメジアン径D50(体積基準)が8.3μmの金属セレン3質量%を混合して、封止用接合材を得た。
【0056】
[実施例4]
平均一次粒子径が58nmの銀核粒子の表面をウンデカン酸で被覆した銀ナノ粒子を26質量%、動的光散乱法によるメジアン径D50(体積基準)が5.8μmのSn88.0-In8.0-Ag3.5-Bi0.5ハンダ粉末(ST-5 三井金属鉱業(株))を60質量%、溶媒としてヘキサノール:デカノール=1:1の混合溶媒を12質量%、Irganox 1010(BASF株式会社)2質量%を混合して、封止用接合材を得た。
【0057】
[比較例1]
平均一次粒子径が61nmの銀核粒子の表面をウンデカン酸で被覆した銀ナノ粒子を24質量%、動的光散乱法によるメジアン径D50(体積基準)が5.7μmのSn42-Bi58ハンダ粉末(ST-5 三井金属鉱業(株))を65質量%、溶媒としてテルソルブTHA-70(日本テルペン化学(株))11質量%を混合して、封止用接合材を得た。
【0058】
<酸化膜防止・除去の効果の検証>
得られた各封止用接合材について、大気条件下において5℃/minの昇温速度でTG-DTA測定を実施した。実施例1~4、および比較例1の封止用組成物を測定した結果を図2~6に示す。酸化防止剤及び除去剤の入っていない、比較例1の封止用接合材(図6)を対照とすると、金属セレン、酸化防止剤または除去剤を添加した場合(実施例1~4の封止用接合材、図2~5)、TG-DTA曲線に変化が起こることがわかる。
【0059】
また、実施例1、2、および比較例1の封止用接合材について、縦軸を重量変化量、横軸を温度にしたTG曲線を図7に示す。図7のとおり、金属セレン又は酸化膜除去剤を添加した実施例1、2の組成物は、比較例1と比較して重量変化が少なく、本発明の封止用接合材に使用されている金属物質の酸化を効果的に防いでいることが示されている。
【0060】
<光学素子パッケージ用リッド>
実施例1~4、および比較例1で調製した封止用接合材をスクリーン印刷により、合成石英ガラス基板の一方の面上に、3.4mm角の窓枠状に線幅250μm、厚さ30μmで塗布し、接合層を形成した。次に、130℃で20分間、接合層が形成された合成石英ガラス基板を加熱することにより、接合層を半硬化状態(B-Stage)とした。その後、合成石英ガラス基板を、3.4mm角の窓枠状の上記接合層の外周に沿ってダイシングカットすることにより、図1(A),(B)と同様に、合成石英ガラスの窓材1と、接合層2を備える光学素子パッケージ用リッド(合成石英ガラスリッド)を得た。
【0061】
<接合時における接合層の評価>
図1(C)と同様に、収容部としてキャビティ構造を有し、接合面に金メッキが施された窒化アルミニウムからなるSMDパッケージキャリアを収容部材3として用い、そのキャビティ構造部分に、光学素子4として285nmの光を発するUVC-LED又は受光素子のフォトダイオードを収容した。この収容部材3上に、光学素子4が収容されたキャビティ構造部分を覆うようにして、窓材1に実施例1~、及び比較例1の封止用接合材からなる接合層2を形成した上記合成石英ガラスリッドを載置し、150℃、200g/パッケージの条件で3分間加熱・加圧し、窓材1と収容部材2とを接合した。その後、250℃の電気炉の中で60分熱アニールを実施し、光学素子パッケージを得た。得られた光学素子パッケージについて、以下の試験により接合層の評価を実施した。なお、当該試験は、各50個ずつ試験用サンプルを作製して評価を実施した。
【0062】
[レッドチェック]
光学素子パッケージを、ミクロチェック浸透液JIP143((株)イチネンケミカルズ製)に24時間浸漬し、その後、アセトンで洗浄し、顕微鏡で観察した。このレッドチェックは、後述する紫外線に対する耐性評価の前後に実施した。パッケージ内部への液の侵入が認められないものを合格とした。
【0063】
[グロスリークテスト]
米国軍事規格MIL-STD-883 Method 1014に従い、浸透性の高いフッ素系溶媒を用いたグロスリークテストを実施した。光学素子パッケージを、120℃に温めたフッ素系溶媒FC-43(住友3M(株)製)に2分間浸漬させ、光学素子パッケージ内部への溶媒の侵入の有無を顕微鏡で観察した。パッケージ内部への液の侵入が認められないものを合格とした。
【0064】
[ファインリークテスト]
米国軍事規格MIL-STD-883 Method 1014に従い、ヘリウムを用いたファインリークテストを実施した。まず、光学素子パッケージを真空下に1時間静置し、次いで、0.3MPaのヘリウムガス雰囲気下に6時間静置した後、ヘリウムリーク試験機にて、ヘリウムのリーク率を測定した。ただし、合成石英ガラス自体がヘリウムを吸収する性質があるため、合格の閾値は通常より緩和して、5×10-8 atm cc/sec以下のものを合格とした。
【0065】
[紫外線に対する耐性評価]
光学素子がUVC-LEDである場合は、光学素子パッケージ内のUVC-LEDを5000時間点灯させた後、接合状態を観察し、レッドチェックおよびグロスリークテストを実施した。一方、光学素子が受光素子のフォトダイオードである場合は、光学素子パッケージの窓材の上方から、285nmの光を発するUVC-LEDから紫外線を5000時間照射した後、接合状態を観察し、レッドチェックおよびグロスリークテストを実施した。
【0066】
[評価結果]
各実施例について作製したサンプルにおける合格率を下記に示す。
【表1】
【0067】
また、実施例2および比較例1の封止用接合材を、大気下において、150℃で3分間無荷重の状態で加熱し、形成された膜の断面を観察した。膜断面のSEM写真を図8及び図9に示す。
【0068】
図8,9に示されているように、実施例1の封止用接合材で形成されたサンプル膜(図8)は、封止用接合材が十分に溶解して混合緻密な膜を形成していることがわかる。一方、比較例1の封止用接合材で形成されたサンプル膜は、封止用接合材を構成する金属成分が酸化被膜を形成しているため、金属の粒子形状が残存しており、膜が十分に密な状態になっていないことがわかる。
【符号の説明】
【0069】
1 窓材
2 接合層
3 収容部材
4 光学素子
5 反射板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9