IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東ソー株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20241224BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20241224BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20241224BHJP
   C08K 5/5435 20060101ALI20241224BHJP
   C08K 5/544 20060101ALI20241224BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20241224BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
C08L81/02
C08K3/013
C08K3/26
C08K5/5435
C08K5/544
C08K7/14
C08L23/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021019863
(22)【出願日】2021-02-10
(65)【公開番号】P2022122551
(43)【公開日】2022-08-23
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井上 博貴
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 想
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/022023(WO,A1)
【文献】特開2011-173946(JP,A)
【文献】国際公開第2018/105437(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/171164(WO,A1)
【文献】特開2020-083943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 81/02
C08K 3/013
C08K 3/26
C08K 5/5435
C08K 5/544
C08K 7/14
C08L 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アリーレンスルフィド単位当たり0.05~3モル%のアミノ基を有し、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で測定した溶融粘度が200~1000ポイズであるアミノ基変性ポリアリーレンスルフィド(A)35~50重量%、エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸ブチルエステル共重合体(B)2~9重量%、繊維状充填剤(C)35~60重量%及び粉粒状充填剤(D)1~20重量%を含み、繊維状充填剤(C)と粉粒状充填剤(D)の合計割合が45重量%以上であり、さらに、グリシジル基を有するトリアルコキシシランカップリング剤、アミノ基を有するトリアルコキシシランカップリング剤、グリシジル基を有するジアルコキシシランカップリング剤、アミノ基を有するジアルコキシシランカップリング剤からなる群より選択される少なくとも1種以上のシランカップリング剤(E)0.01~0.5重量%を含み、ASTM D638の試験片(Type-1)に準拠したダンベル試験片により評価したウエルド破断エネルギーが0.34J以上、幅方向の収縮率が0.2%以下、であることを特徴とするポリアリーレンスルフィド組成物。
【請求項2】
アミノ基変性ポリアリーレンスルフィド(A)が、高圧熱水洗浄アミノ基変性ポリアリーレンスルフィドであることを特徴とする請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド組成物。
【請求項3】
繊維状充填剤(C)が平均繊維径8~15μm、断面形状が丸形のガラス繊維であり、粉粒状充填剤(D)が、平均粒子径1~10μmの炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリアリーレンスルフィド組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物と金属製部材とのインサート成形物であることを特徴とするインサート成形複合部材
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐ヒートサイクル性、寸法精度に優れるポリアリーレンスルフィド組成物に関するものであり、特に特定のウエルド破断エネルギーを示すことにより、電気・電子部品又は自動車電装部品などの電気部品用途に特に有用な耐ヒートサイクル性、寸法精度を有する充填剤を高充填としたポリアリーレンスルフィド組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィドは、耐熱性、耐薬品性、寸法安定性などに優れた特性を示す樹脂であり、その優れた特性を生かし、電気・電子機器部材、自動車機器部材およびOA機器部材等に幅広く使用されている。近年では、自動車の高性能化に伴い自動車機器部材においてより高い寸法精度が要求されている。さらに、より過酷なヒートサイクル条件での使用が進んでおり、耐ヒートサイクル性(靭性)などに優れることも求められている。
【0003】
ポリアリーレンスルフィドの寸法精度を向上する試みについては、例えば(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(b)ポリフェニレンエーテル樹脂、(c)ガラス繊維、(d)炭酸カルシウムからなる樹脂組成物(例えば特許文献1参照。)、(a)ポリフェニレンサルファイド樹脂、(b)ポリフェニレンエーテル樹脂、(c)ガラス繊維、(d)カオリンからなる樹脂組成物(例えば特許文献2参照。)等が提案されており、いずれも充填剤を高充填していることを特徴としている。
【0004】
ポリアリーレンスルフィドの靭性を改良する試みについては、例えば(a)ポリアリーレンスルフィド、(e)エチレン-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体からなる樹脂組成物(例えば特許文献3参照。)、(a)ポリフェニレンスルフィドと非ブロック型多官能イソシアネート化合物とを溶融混練してなる組成物と、(e)エチレン-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体とを配合する樹脂組成物(例えば特許文献4参照。)、さらに、(a)ポリアリーレンスルフィド、(e)エチレン-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体、及び(f)特定の種類のアルコキシシラン化合物からなる樹脂組成物(例えば特許文献5参照。)、(a)ポリアリーレンスルフィド、(e)ポリオレフィン系樹脂、(f)アルコキシシラン基を含有する高分子からなる樹脂組成物(例えば特許文献6参照。)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-007758号公報
【文献】特開平09-157525号公報
【文献】特開昭62-151460号公報
【文献】特開平02-255862号公報
【文献】特開平05-202245号公報
【文献】特開平04-164962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に提案の樹脂組成物は耐ヒートサイクル性、靭性に課題を有し、特許文献3~6に提案の樹脂組成物は、寸法精度という点で課題を有するものであり、高い寸法精度と耐ヒートサイクル性の両立という点では課題を有するものであった。
【0007】
そこで、本発明は、高い寸法精度と耐ヒートサイクル性とを両立し充填剤を高充填するポリアリーレンンスルフィド組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、少なくとも特定のポリアリーレンスルフィド、特定のカルボン酸ブチルエステル基含有ポリエチレン、繊維状充填剤、粉粒状充填剤を特定の量で配合し、特定のウエルド破断エネルギー量を発現させることにより、高寸法精度と耐ヒートサイクル性の両立を可能とするポリアリーレンスルフィド組成物となりうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は、アリーレンスルフィド単位当たり0.05~3モル%のアミノ基を有し、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で測定した溶融粘度が200~1000ポイズであるアミノ基変性ポリアリーレンスルフィド(A)35~50重量%、エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸ブチルエステル共重合体(B)2~9重量%、繊維状充填剤(C)35~60重量%及び粉粒状充填剤(D)1~20重量%を含み、繊維状充填剤(C)と粉粒状充填剤(D)の合計割合が45重量%以上であり、ASTM D638の試験片(Type-1)に準拠したダンベル試験片により評価したウエルド破断エネルギーが0.34J以上であることを特徴とするポリアリーレンスルフィド組成物に関するものである。
【0010】
以下、本発明に関し詳細に説明する。
【0011】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物を構成するアミノ基変性ポリアリーレンスルフィド(A)としては、一般にポリアリーレンスルフィドと称される範疇に属し、ポリアリーレンスルフィドの端末単位又は鎖中単位にアミノ基を有する単位を含有したものを挙げることができる。そして、該アミノ基変性ポリアリーレンスルフィドを構成するポリアリーレンスルフィドの単位としては、例えばp-フェニレンスルフィド単位、m-フェニレンスルフィド単位、o-フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルフォン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ビフェニレンスルフィド単位等を挙げることができ、ポリアリーレンスルフィドはこれら単位の単独重合体又は共重合体である。該アミノ基変性ポリアリーレンスルフィドの具体的例示としては、例えばアミノ基変性ポリフェニレンスルフィド、アミノ基変性ポリフェニレンスルフィドスルフォン、アミノ基変性ポリフェニレンスルフィドケトン、アミノ基変性ポリフェニレンスルフィドエーテル等が挙げられ、その中でも、特に耐熱性、強度特性にも優れるポリアリーレンスルフィド組成物となることから、アミノ基変性ポリ(p-フェニレンスルフィド)であることが好ましい。
【0012】
本発明を構成するアミノ基変性ポリアリーレンスルフィド(A)は、アリーレンスルフィド単位当たり0.05~3mol%のアミノ基を有するものであり、特に耐ヒートサイクル性に優れるポリアリーレンスルフィド組成物となることから0.1~2mol%であることが好ましく、後述するアミノ基変性ポリアリーレンスルフィドの調製例の際にアミノ基含有ジハロゲン芳香族化合物をポリハロゲン化芳香族化合物とアミノ基含有ジハロゲン芳香族化合物の総量に対して0.05~3mol%添加、好ましく0.1~2mol%添加し製造することができる。
【0013】
本発明を構成するアミノ基変性ポリアリーレンスルフィド(A)は、不純物等が少なく、高品質のポリアリーレンスルフィド組成物となることから、アミノ基変性ポリアリーレンスルフィドを製造する際に、重合後に高圧熱水処理を行い、洗浄を行ったものであることが好ましい。その際の高圧熱水処理条件としては、温度150℃以上240℃以下の水系にて洗浄を行うことを挙げることができる。
【0014】
該アミノ基変性ポリアリーレンスルフィド(A)の製造方法としては、特に制限はなく、一般的にアミノ基含有ポリハロゲン芳香族化合物を用いたポリアリーレンスルフィドの製造方法として知られている方法により製造すればよく、例えば重合溶媒中で、アルカリ金属硫化物とポリハロゲン芳香族化合物、アミノ基含有ポリハロゲン芳香族化合物とを反応する方法により製造することが可能である。
【0015】
この際の重合溶媒としては、極性溶媒が好ましく、特に非プロトン性で高温のアルカリに対して安定な有機アミド溶媒が好ましい。該有機アミド溶媒としては、有機アミド溶媒の範疇に属するものであれば如何なるものも用いることが可能であり、例えばN,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチル-ε-カプロラクタム、N-エチル-2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、テトラメチル尿素及びその混合物、等を挙げることができる。ポリハロゲン化芳香族化合物としては、ポリハロゲン化芳香族化合物の範疇に属するものであれば如何なる化合物を用いることも可能であり、例えばp-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、p-ジブロモベンゼン、m-ジブロモベンゼン、o-ジブロモベンゼン、p,p’-ジクロロジフェニル、p,p’-ジブロモジフェニル、2,6-ジクロロナフタレン、2,6-ジブロモナフタレン、1,3,5-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン等を挙げることができ、その中でも特に高分子量で機械的特性に優れるポリアリーレンスルフィドがより容易に得られることからp-ジクロロベンゼンが好ましく、アミノ基含有ポリハロゲン芳香族化合物としては、例えば、2,5-ジクロロアニリン、2,6-ジクロロアニリン、3,5-ジクロロアニリン、3,5-ジアミノクロロベンゼン、2-アミノ-4-クロロトルエン、2-アミノ-6-クロロトルエン、4-アミノ-2-クロロトルエン、3-クロロ-m-フェニレンジアミン、2,5-ジブロモアニリン、2,6-ジブロモアニリン、3,5-ジブロモアニリン、及びそれらの混合物等が挙げられ、特に3,5-ジクロロアニリン、3,5-ジアミノクロロベンゼンが好ましく、アルカリ金属硫化物としては、アルカリ金属硫化物の範疇に属するものであれば如何なるものを用いることも可能であり、例えば無水硫化ナトリウム,2.8水塩硫化ナトリウム,5水塩硫化ナトリウム等の硫化ナトリウム、硫化リチウム、硫化ルビジュウム、硫化水素ナトリウム、硫化水素リチウム等を挙げることができる。
【0016】
本発明を構成するアミノ基変性ポリアリーレンスルフィド(A)は、不活性ガス雰囲気下150℃以上260℃以下の条件で熱処理を行ったものであることが好ましく、特に170℃以上250℃以下で行う事が好ましい。該不活性ガスとしては、例えば窒素、アルゴン等があげられる。
【0017】
そして、本発明を構成するアミノ基変性ポリアリーレンスルフィド(A)は、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で測定した溶融粘度が200~1000ポイズのものである。ここで、200ポイズ未満のものである場合、得られる組成物は耐ヒートサイクル性に劣るものとなる。一方、1000ポイズを越えるものである場合、得られる組成物は溶融流動性に劣り、成形加工性に劣るものとなる。
【0018】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物を構成するアミノ基変性ポリアリーレンスルフィド(A)の配合量は35~50重量%である。ここで、アミノ基変性ポリアリーレンスルフィド(A)の配合量が35重量%未満の場合、得られる組成物は、成形流動性に劣るものとなる。一方、50重量%を越える場合、得られる組成物は、寸法精度に劣るものとなる。
【0019】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物を構成するエチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸ブチルエステル共重合体(B)としては、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、中でも得られるポリアリーレンスルフィド組成物が、靭性にも優れることから、エチレン残基単位:α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル残基単位:α、β-不飽和カルボン酸ブチルエステル残基単位(重量比)=60~93:2~10:5~30の範囲からなるものであることが好ましい。該エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸ブチルエステル共重合体の具体的例示としては、例えば(商品名)LOTADER AX8700(アルケマ(株)製)、(商品名)LOTADER AX8750(アルケマ(株)製)、等を挙げることができる。そして、本発明は、アミノ基変性ポリアリーレンスルフィドと該エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジル-α、β-不飽和カルボン酸ブチルエステル共重合体とを組わせることにより、従来より提案されている例えばポリアリーレンスルフィドとエチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体,エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-ビニルエステル共重合体,エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸メチルエステル共重合体,エチレン-α,β-不飽和カルボン酸エステル-無水マレイン酸共重合体,エチレン-α-オレフィン-無水マレイン酸共重合体,等との組成物より卓越した耐ヒートサイクル性を示す組成物となることを見出したものである。
【0020】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸ブチルエステル共重合体(B)2~9重量%を含むものであり、エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸ブチルエステル共重合体(B)の配合量が2重量%未満の場合、得られる組成物は耐ヒートサイクル性に劣るものとなる。また、9重量%を超える場合、得られる組成物は、成形流動性に劣るものとなる。
【0021】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物を構成する繊維状充填材(C)としては、例えば平均繊維径が8~15μmのチョップドストランド、ミルドファイバー、ロービング等のガラス繊維;PAN系炭素繊維やピッチ系炭素繊維等の炭素繊維;グラファイト化繊維、窒化珪素ウイスカー、塩基性硫酸マグネシウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、チタン酸カリウムウイスカー、炭化珪素ウイスカー、ボロンウイスカー、酸化亜鉛ウイスカー等のウイスカー;ステンレス繊維等の金属繊維;ロックウール、ジルコニア、アルミナシリカ、チタン酸バリウム、炭化珪素、アルミナ、シリカ、高炉スラグ等の無機系繊維;全芳香族ポリアミド繊維、フェノール樹脂繊維、全芳香族ポリエステル繊維等の有機系繊維;ワラステナイト、マグネシウムオキシサルフェート等の鉱物系繊維等が挙げられ、とりわけ平均繊維径が8~15μm、断面形状が丸形のガラス繊維が耐ヒートサイクル性に優れるポリアリーレンスルフィド組成物となることから好ましい。また、これら2種以上を併用することも可能であり、必要によりエポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物又はポリマーで、予め表面処理したものでもよい。
【0022】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、繊維状充填剤(C)35~60重量%を含有するものであり、繊維状充填剤(C)の配合量が35重量%未満の場合、得られる組成物は耐ヒートサイクル性、及び寸法精度に劣るものとなる。また、60重量%を超える場合、得られる組成物は、耐ヒートサイクル性に劣るばかりか成形流動性に劣るものとなる。
【0023】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物を構成する粉粒状充填剤(D)としては、例えば炭酸カルシウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、マイカ、シリカ、タルク、クレイ、硫酸カルシウム、カオリン、ワラステナイト、ゼオライト、ガラスパウダー、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化スズ、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、黒鉛、カーボンブラック、ガラスパウダー、ガラスバルーン、ガラスフレーク、ハイドロタルサイト、金属箔等の粉粒状物が挙げられ、その中でも特に機械的強度等のバランスに優れ、耐ヒートサイクル性に優れるポリアリーレンスルフィド組成物となることから平均粒子径1~7μmの炭酸カルシウムが好ましい。また、これら2種以上を併用することも可能であり、必要によりエポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物又はポリマーで、予め表面処理したものでもよい。
【0024】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、粉粒状充填剤(D)1~20重量%を含有するものであり、粉粒状充填剤(D)の配合量が20重量%を超える場合、得られる組成物は、耐ヒートサイクル性に劣るものとなる。また、1重量%未満である場合、寸法精度、特にその異方性に劣るものとなる。
【0025】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、該繊維状充填剤(C)と該粉粒状充填剤(D)とを合計配合割合として45重量%以上含有するものである。ここで、繊維状充填剤(C)と粉粒状充填剤(D)の配合量の合計が45重量%未満である場合、得られる組成物は、寸法精度に劣るものとなる。
【0026】
そして、本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、ASTM D638の試験片(Type-1)に準拠したダンベル試験片により評価したウエルド破断エネルギーが0.34J以上を有するものである。ここで、ウエルド破断エネルギーが0.34J未満の組成物である場合、金属部材との複合体とした場合、耐ヒートサイクル性に劣るものとなり、割れ、破壊などの課題が生じやすい。なお、ウエルド破断エネルギーは、ウエルド強度試験を行い、得られた応力-歪曲線より囲まれた部分の面積として算出することができる。
【0027】
さらに、本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、特に耐ヒートサイクル性に優れるものとなることからグリシジル基を有するトリアルコキシシランカップリング剤及び/又はアミノ基を有するトリアルコキシシランカップリング剤、ジアルコキシシランカップリング剤及び/又はアミノ基を有するジアルコキシシランカップリング剤からなるシランカップリング剤(E)を含むものであってもよい。その際のシランカプリリング剤(E)としては、グリシジル基あるいはアミノ基を有するトリアルコキシシランカップリングであれば特に制限されるものではなく、この範疇に属するものの具体的な例として、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等があげられる。また、該シランカップリング剤(E)の配合量としては、0.01~0.5重量%であることが好ましい。
【0028】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、成形品とする際の金型離型性や外観を改良するための離型剤を配合していてもよく、離型剤としては、例えばポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、脂肪酸アマイド系ワックスが好適に用いられる。該ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスとしては、一般的な市販品を用いることができる。また、該脂肪酸アマイド系ワックスとは、高級脂肪族モノカルボン酸、多塩基酸及びジアミンからなる重縮合物でありこの範疇に属するものであれば如何なるものを用いることも可能であり、例えばステアリン酸、セバシン酸、エチレンジアミンからなる重縮合物である、(商品名)ライトアマイドWH-255(共栄社化学(株)製)等を挙げることができる。
【0029】
さらに、本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、各種熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、例えばエポキシ樹脂、シアン酸エステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、シリコーン樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等の1種以上を混合して使用することができる。
【0030】
また、本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、従来公知の熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、発泡剤、金型腐食防止剤、難燃剤、難燃助剤、染料、顔料等の着色剤、帯電防止剤等の添加剤を1種以上併用しても良い。
【0031】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物の製造方法としては、従来使用されている加熱溶融混練方法を用いることができる。例えば単軸または二軸押出機、ニーダー、ミル、ブラベンダー等による加熱溶融混練方法が挙げられ、特に混練能力に優れた二軸押出機による溶融混練方法が好ましい。また、この際の混練温度は特に限定されるものではなく、通常280~400℃の中から任意に選ぶことが出来る。また、本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、射出成形機、押出成形機、トランスファー成形機、圧縮成形機等を用いて任意の形状に成形することができる。
【0032】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、高い寸法精度と優れた耐ヒートサイクル性をあわせもつことを特徴とする。さらに、本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、他部材、特に金属部材等にインサート成形を行いインサート成形複合部材として使用することができる。
【0033】
該インサート成形複合部材に使用するインサート金属部材は、金属の範疇に属するものであればいかなる金属製であってもよく、その中でも得られるインサート成形複合部材が各種用途に適応可能となることから、鋼材製、銅製、ステンレス製、アルミニウム製、マグネシウム製、真鍮製、ニッケル製が好ましく、特に鋼材製、銅製が好ましい。該インサート金属部材は圧延したものを使用しても良いし鋳造したものを使用しても良い。
【0034】
該インサート金属部材の形状はインサート成形可能な形状であれば特に制限はない。また、1個又は複数個のインサート金属部材を用いても良い。
【0035】
インサート成形では、インサート金属部材を金型に装着し290~340℃で加熱溶融したポリアリーレンスルフィド組成物を射出成形機、押出成形機、圧縮成形機などを用いて通常の成形条件で成形することができ、特に射出成形機を用いた射出インサート成形が生産効率の観点から好ましく使用される。
【0036】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物、それよりなるインサート成形複合部材は、高い寸法精度、耐ヒートサイクル性を有するものであり、センサ、コネクタ、リレーケース、コイルボビン、コンデンサ、各種端子板、小型モータ、モーターブラッシュホルダ、コンピュータ関連部品などに代表される電気・電子部品;バルブオルタネータターミナル、オルタネータコネクタ,ICレギュレータ、排気ガスセンサ、冷却水センサ、油温センサ、スロットルポジションセンサ、クランクシャフトポジションセンサ、ブレーキパッド摩耗センサ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラ、ウォーターポンプインレット、スターターリレー、ワイヤーハーネス、ヒューズ用コネクタ、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ソレノイドボビン、点火装置ケース、車速センサ、コンデンサケース、ECUケース、パワーモジュールケース、パワーコントロールユニット、コイルボビン、モータ端子台、リアクトル、バッテリー、バスバー、インバータ、インシュレーター等の自動車部品、等への適用が可能である。
【発明の効果】
【0037】
本発明は、充填剤を高充填することにより高い寸法精度を実現し、かつ耐ヒートサイクル性に優れるポリアリーレンンスルフィド組成物に関するものであり、電気・電子部品又は自動車電装部品などの電気部品用途に特に有用なポリアリーレンスルフィド組成物に関するものである。
【実施例
【0038】
次に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの例になんら制限されものではない。
【0039】
実施例及び比較例において用いたポリアリーレンスルフィド、繊維状充填剤、粉粒状充填剤、エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸ブチルエステル共重合体、シランカップリング剤の詳細を以下に示す。
【0040】
<ポリアリーレンスルフィド(A)>
アミノ基変性ポリ(p-フェニレンスルフィド)(A1-2)(以下、単にPPS(A1-2)と記す。):溶融粘度480ポイズ。アミノ基含有量0.15重量%。
ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、単にPPS(A2-2)と記す。):溶融粘度560ポイズ。
【0041】
<エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸ブチルエステル共重合体(B)>
エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸ブチルエステル共重合体(B-1)(以下、単にポリエチレン系共重合体(B-1)と記す。):アルケマ(株)製、(商品名)LOTADER AX8700、エチレン残基単位:メタクリル酸グリシジルエステル残基単位:アクリル酸ブチルエステル残基単位(重量比)=67:8:25。
エチレン-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル-無水マレイン酸共重合体(B-2)(以下、単にエチレン系共重合体(B-2)と記す。):アルケマ(株)製、(商品名)ボンダインAX8390、エチレン残基単位:無水マレイン酸残基単位:アクリル酸エステル残基単位(重量比)=68:1.5:30.5。
エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸ビニルエステル共重合体(B-3)(以下、単にポリエチレン系共重合体(B-3)と記す。):住友化学(株)製、(商品名)ボンドファースト2B 、エチレン残基単位:メタクリル酸グリシジルエステル残基単位:酢酸ビニルエステル残基単位(重量比)=83:12:5
<繊維状充填剤(C)>
ガラス繊維(C-1);日本電気硝子(株)製、(商品名)ECS03T-760H(繊維長10.5μm、丸形断面形状)
<粉粒状充填材(D)>
炭酸カルシウム(D-1);白石工業(株)製、(商品名)ホワイトンP-30;平均粒子径4μm。
炭酸カルシウム(D-2);白石工業(株)製、(商品名)ホワイトンP-10;平均粒子径2μm。
【0042】
<シランカップリング剤(E)>
グリシジル基を有するトリアルコキシシランカップリング剤(E-1);信越化学工業(株)製、(商品名)KBM-403;3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン。
アミノ基を有するトリアルコキシシランカップリング剤(E-2);信越化学工業(株)製、(商品名)KBM-603;N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン。
【0043】
合成例1
攪拌機を装備する50リットルオートクレーブに、NaS・2.9HO、6214g及びN-メチル-2-ピロリドン、17000gを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に205℃まで昇温して、1355gの水を留去した。この系を140℃まで冷却した後、p-ジクロロベンゼン7120g、3,5-ジクロロアニリン12g(p-ジクロロベンゼンと3,5-ジクロロアニリンの総量に対して約0.15モル%)、N-メチル-2-ピロリドン5000gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を2時間かけて225℃に昇温し、225℃にて2時間重合させた後、30分かけて250℃に昇温し、さらに250℃にて3時間重合を行った。重合終了後、室温まで冷却し、遠心分離器により固形分単離した。該固形分を225℃の熱水で洗浄し100℃で一昼夜乾燥することにより、アミノ基変性ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A1-1)と記す。)を得た。
【0044】
このPPS(A1-1)を、窒素雰囲気下250℃で4時間硬化を行い、アミノ基変性ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A1-2)と記す。)を得た。PPS(A1-2)の溶融粘度は480poise、アミノ基含有量0.15重量%であった。
【0045】
得られたポリアリーレンスルフィドの評価・測定方法を以下に示す。
【0046】
~溶融粘度測定~
直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスター((株)島津製作所製、(商品名)CFT-500)にて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で溶融粘度の測定を行った。
【0047】
~ウエルド破断エネルギーの測定~
射出成形機(住友重機械工業(株)製、(商品名)SE-75S)によって試験片を作製し、引張試験機((株)島津製作所製、(商品名)オートグラフAG-5000B)を用いて、ASTM D638に準拠し測定を行った。
【0048】
~耐ヒートサイクル性~
射出成形機(住友重機械工業(株)製、(商品名)SE-75S)によって、30mm×20mm×10mmの直方体の鋼材(炭素鋼)をインサートするインサート成形を行い、肉厚1mmのポリアリーレンスルフィド組成物で被覆する耐ヒートサイクル用テストピースを作製した。得られたテストピースを150℃で30分保持した後、-40℃で30分保持を行うことを1サイクルとするヒートサイクルに供し、目視によりクラックが発生するまで該サイクルを継続し、クラックの発生が認められたヒートサイクル処理数を耐ヒートサイクル性として評価した。該ヒートサイクル処理数が100サイクル以上のものを耐ヒートサイクル性に優れると判断した。
【0049】
~寸法精度~
射出成形機(住友重機械工業(株)製、(商品名)SE-75S)によっての試験片(Type-1)に準拠したダンベル試験片を作製し、幅方向の寸法測定を行った。収縮率が0.2%以下のものを、寸法精度に優れているとした。
【0050】
実施例1
PPS(A1-2)84.3重量%、ポリエチレン系共重合体(B-1)9.4重量%、炭酸カルシウム(D-1)5.7重量%、シランカップリング剤(E-1)0.6重量%の割合で配合して、シリンダー温度310℃に加熱した二軸押出機(東芝機械製、(商品名)TEM-35-102B)のホッパーに投入した。一方、ガラス繊維(C-1)を該二軸押出機のサイドフィーダーのホッパーに投入し、スクリュー回転数180rpmにて溶融混練し、ダイより流出する溶融組成物を冷却後裁断し、ペレット状のポリアリーレンスルフィド組成物を作製した。その際のポリアリーレンスルフィド組成物の構成割合は,PPS(A1-2)44.7重量%、ポリエチレン系共重合体(B-1)5重量%、ガラス繊維(C-1)47重量%、炭酸カルシウム(D-1)3重量%、シランカップリング剤(E-1)0.3重量%であった。
【0051】
該ポリアリーレンスルフィド組成物を、シリンダー温度310℃に加熱した射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75)のホッパーに投入し、ウエルド破断エネルギーを測定するための試験片、耐ヒートサイクル性を測定するための試験片を、それぞれ成形し、それぞれの評価を行った。これらの結果を表1に示した。
【0052】
得られたポリアリーレンスルフィド組成物は、寸法精度、ウエルド破断エネルギー、耐ヒートサイクル性に優れていた。
【0053】
実施例2~7
PPS(A1-2)、ポリエチレン系共重合体(B-1)、ガラス繊維(C-1)、炭酸カルシウム(D-1)、シランカップリング剤(E-1、E-2)を表1に示す配合割合とした以外は、実施例1と同様の方法によりポリアリーレンスルフィド組成物を作製し、実施例1と同様の方法により評価した。評価結果を表1に示した。
【0054】
得られた全てのポリアリーレンスルフィド組成物は、高い寸法精度を有し、ウエルド破断エネルギーが0.34J以上であり、耐ヒートサイクル性にも優れていた。
【0055】
【表1】

比較例1~8
PPS(A1-2、A2-2)、ポリエチレン系共重合体(B-1、B-2、B-3)、ガラス繊維(C-1)、炭酸カルシウム(D-1、D-2)、シランカップリング剤(E-1)を表2に示す配合割合とした以外は、実施例1と同様の方法によりポリアリーレンスルフィド組成物を作製し、実施例1と同様の方法により評価した。評価結果を表2に示した。
【0056】
比較例より得られた組成物は、耐ヒートサイクル性及び/または寸法精度に劣るものであった。
【0057】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、充填剤を高充填することにより高い寸法精度を実現し、かつ耐ヒートサイクル性に優れるポリアリーレンンスルフィド組成物に関するものであり、電気・電子部品又は自動車電装部品などの電気部品用途に特に有用なものである。