(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】多核金属化合物
(51)【国際特許分類】
C01G 45/00 20250101AFI20241224BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20241224BHJP
C07C 211/63 20060101ALI20241224BHJP
B01J 31/24 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
C01G45/00
B01J37/08
C07C211/63
B01J31/24 Z
(21)【出願番号】P 2020138125
(22)【出願日】2020-08-18
【審査請求日】2023-08-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、個人型研究(さきがけ)、「研究領域:電子やイオン等の能動的制御と反応」、「研究題目:金属酸化物クラスターによる多電子・プロトン移動触媒の創製」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康介
(72)【発明者】
【氏名】山口 和也
(72)【発明者】
【氏名】米里 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】谷口 健人
(72)【発明者】
【氏名】米原 宏司
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-002027(JP,A)
【文献】国際公開第2011/158918(WO,A1)
【文献】特開2014-217802(JP,A)
【文献】特開2013-105669(JP,A)
【文献】国際公開第2020/009166(WO,A1)
【文献】PICHON, Celine et al.,Characterization and Electrochemical Properties of Molecular Icosanuclear and Bidimensional Hexanuclear Cu(II) Azido Polyoxometalates,Inorganic Chemistry,2007年,Vol. 46, No. 13,5292-5301
【文献】IBRAHIM, Masooma et al.,Synthesis, structure and electrochemical characterization of an isopolytungstate (W4O16) held by MnII anchors within a superlacunary crown heteropolyanion {P8W48},Dalton Transactions,2019年,48,15545-15552
【文献】ZHAN, Cai-Hong et al.,Controlling the Reactivity of the [P8W48O184]40- Inorganic Ring and Its Assembly into POMZite Inorganic Frameworks with Silver Ions,Angewandte Chemie,2019年,131,17442-17446
【文献】BAO, Ya-Yan Bao et al.,One-step synthesis and stabilization of gold nanoparticles and multilayer film assembly,Journal of Solid State Chemistry,2011年,184,546-556
【文献】MULLER, Achim et al.,Metal-Oxide-Based Nucleation Process under Confined Conditions: Two Mixed-Valence V6-Type Aggregates Closing the W48 Wheel-Type Cluster Cavities,Angewandte Chemie,2007年,46,4477-4480
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00 -47/00
49/10 -99/00
B01J 20/00 -20/28
20/30 -20/34
C07C 211/63
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状ポリオキソメタレート化合物の欠損構造部位にポリ原子とは異なる金属原子が10個以上導入された構造を有する多核金属化合物であって、
該環状ポリオキソメタレート化合物は、
ヘテロ原子に対してポリ原子が酸素原子を介して配位した構造を有するポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を構成単位とし、該構成単位が他の2つの構成単位と直接結合し、当該他の2つの構成単位が更に直接又は他の構成単位を介して結合して形成される、ポリ原子-酸素原子の結合からなる環を含
み、
該へテロ原子は、P、Si、Ge、及び、Asからなる群より選択される少なくとも1種であり、
該ポリ原子は、Mo、W、V、Nb、及び、Taからなる群より選択される少なくとも1種であり、
該ポリ原子とは異なる金属原子は、3d遷移金属原子、Ru、Re、Ir、Pd、Pt、Ag、及び、Auからなる群より選択される少なくとも1種であり、
ポリ原子とは異なる金属原子同士の結合を有する
ことを特徴とする多核金属化合物。
【請求項2】
環状ポリオキソメタレート化合物の欠損構造部位にポリ原子とは異なる金属原子が10個以上導入された構造を有する多核金属化合物であって、
該環状ポリオキソメタレート化合物は、
ヘテロ原子に対してポリ原子が酸素原子を介して配位した構造を有するポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を構成単位とし、内径が0.4nm以上の、ポリ原子-酸素原子の結合からなる環を含
み、
該へテロ原子は、P、Si、Ge、及び、Asからなる群より選択される少なくとも1種であり、
該ポリ原子は、Mo、W、V、Nb、及び、Taからなる群より選択される少なくとも1種であり、
該ポリ原子とは異なる金属原子は、3d遷移金属原子、Ru、Re、Ir、Pd、Pt、Ag、及び、Auからなる群より選択される少なくとも1種であり、
ポリ原子とは異なる金属原子同士の結合を有する
ことを特徴とする多核金属化合物。
【請求項3】
環状ポリオキソメタレート化合物の欠損構造部位にポリ原子とは異なる金属原子が10個以上導入された構造を有する多核金属化合物の製造方法であって、
該製造方法は、
ヘテロ原子に対してポリ原子が酸素原子を介して配位した構造を有するポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を環状ポリオキソメタレート化合物の構成単位とし、該構成単位が他の2つの構成単位と直接結合し、当該他の2つの構成単位が更に直接又は他の構成単位を介して結合して形成される、ポリ原子-酸素原子の結合からなる環を含む環状ポリオキソメタレート化合物(A1)と、ポリ原子とは異なる金属原子を含む化合物(B)とを反応させる工程を含
み、
該へテロ原子は、P、Si、Ge、及び、Asからなる群より選択される少なくとも1種であり、
該ポリ原子は、Mo、W、V、Nb、及び、Taからなる群より選択される少なくとも1種であり、
該ポリ原子とは異なる金属原子は、3d遷移金属原子、Ru、Re、Ir、Pd、Pt、Ag、及び、Auからなる群より選択される少なくとも1種であり、
該製造方法は、該反応させる工程で得られた多核金属化合物に対して更に還元剤を反応させる工程を含むか、又は、該反応させる工程は、還元剤の存在下で反応させる
ことを特徴とする多核金属化合物の製造方法。
【請求項4】
環状ポリオキソメタレート化合物の欠損構造部位にポリ原子とは異なる金属原子が10個以上導入された構造を有する多核金属化合物の製造方法であって、
該製造方法は、
ヘテロ原子に対してポリ原子が酸素原子を介して配位した構造を有するポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を環状ポリオキソメタレート化合物の構成単位とし、内径が0.4nm以上の、ポリ原子-酸素原子の結合からなる環を含む環状ポリオキソメタレート化合物(A2)と、ポリ原子とは異なる金属原子を含む化合物(B)とを反応させる工程を含
み、
該へテロ原子は、P、Si、Ge、及び、Asからなる群より選択される少なくとも1種であり、
該ポリ原子は、Mo、W、V、Nb、及び、Taからなる群より選択される少なくとも1種であり、
該ポリ原子とは異なる金属原子は、3d遷移金属原子、Ru、Re、Ir、Pd、Pt、Ag、及び、Auからなる群より選択される少なくとも1種であり、
該製造方法は、該反応させる工程で得られた多核金属化合物に対して更に還元剤を反応させる工程を含むか、又は、該反応させる工程は、還元剤の存在下で反応させる
ことを特徴とする多核金属化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多核金属化合物に関する。より詳しくは、触媒・医薬・磁性材料等の機能材料等として好適に使用できる可能性がある多核金属化合物、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオキソメタレートは、高い安定性と容易に調整可能な化学的・物理的性質により、触媒・医薬・機能材料等の様々な分野で魅力的な物質である。このため、更に新たな構造を有するポリオキソメタレートの開発が求められている。
【0003】
これまでポリオキソメタレートを基盤としたクラスター合成においては、得られる構造物(クラスターを有するポリオキソメタレート)が溶液中で不安定であったり、多核クラスターの合成が困難であったりするといった欠点があった。しばらく前まで、例えばAgクラスターでは、高々4核(非特許文献1参照)や6核(非特許文献2参照)が限度であった。
【0004】
最近になり、欠損型ケイタングステン酸SiW9O34を鋳型とし、Agとの自己集合的合成によって精密に構造が制御されたAg27核を有するポリオキソメタレートが得られることが報告された(非特許文献3参照)。
また欠損型リンタングステン酸P2W12O48の自己集合によってリング状ポリオキソメタレートP8W48O184が合成できたことも報告されている(非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】菊川ら、他3名、「アンゲバンテ ケミー インターナショナル エディション(Angewandte Chemie International Edition)」(独国)、2012年、第51巻、pp.2434-2437
【文献】菊川ら、他5名、「ケミカル コミュニケーションズ(Chemical Communications)」(英国)、2013年、第49巻、pp.376-378
【文献】米里ら、他7名、「ジャーナル オブ ジ アメリカン ケミカル ソサイエティ(Journal of The American Chemical Society)」(米国)、2019年、第141巻、pp.19550-19554
【文献】佐々木ら、他4名、「インオーガニック ケミストリー(Inorganic Chemistry)」(米国)、2019年、第58巻、pp.7722-7729
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、新たな構造を有するポリオキソメタレートの更なる開発が求められており、金属原子の種類やその配位状態に応じて発揮される多様な特性をより一層活用することが望まれていた。
本発明は上記現状に鑑みてなされたものであり、触媒、磁性材料等として有望な新規な金属化合物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、触媒、磁性材料等として有望な新規な金属化合物について検討し、新規な多核クラスターの合成に着目した。そして、欠損型ポリオキソメタレートが自己集合した大きな化合物は一般的に不安定となるところ、これをリング状(環状)とすると、安定になり、これを基盤としてクラスターを合成することで、環状ポリオキソメタレート化合物の欠損構造部位にポリ原子とは異なる金属原子が10個以上導入された構造を有する多核金属化合物を好適に得ることができることを見出し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、環状ポリオキソメタレート化合物の欠損構造部位にポリ原子とは異なる金属原子が10個以上導入された構造を有する多核金属化合物であって、該環状ポリオキソメタレート化合物は、ポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を構成単位とし、該構成単位が他の2つの構成単位と直接結合し、当該他の2つの構成単位が更に直接又は他の構成単位を介して結合して形成される、ポリ原子-酸素原子の結合からなる環を含む多核金属化合物である。これを本明細書中、第1の本発明ともいう。
【0009】
本発明はまた、環状ポリオキソメタレート化合物の欠損構造部位にポリ原子とは異なる金属原子が10個以上導入された構造を有する多核金属化合物であって、該環状ポリオキソメタレート化合物は、内径が0.4nm以上の、ポリ原子-酸素原子の結合からなる環を含む多核金属化合物でもある。これを本明細書中、第2の本発明ともいう。
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0010】
<本発明の多核金属化合物>
(第1の本発明の多核金属化合物)
第1の本発明の多核金属化合物は、環状ポリオキソメタレート化合物の欠損構造部位にポリ原子とは異なる金属原子が10個以上導入された構造を有する多核金属化合物であって、該環状ポリオキソメタレート化合物は、ポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を構成単位とし、該構成単位が他の2つの構成単位と直接結合し、当該他の2つの構成単位が更に直接又は他の構成単位を介して結合して形成される、ポリ原子-酸素原子の結合からなる環を含む。
【0011】
第1の本発明の多核金属化合物において、他の2つの構成単位は、更に直接又は「他の構成単位」を介して結合し、各構成単位が全体として環状となるように結合しているが、「他の構成単位」を介して結合する場合、「他の構成単位」は、1つであってもよく、複数であってもよい。
後述するように、「他の構成単位」は1つであることが特に好ましい。
【0012】
第1の本発明の多核金属化合物における環状ポリオキソメタレート化合物は、上記ポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を構成単位とし、該構成単位が少なくとも3つ環状に結合して形成される、ポリ原子-酸素原子の結合からなる環を含むものである。中でも、環状に結合して形成される構成単位において、隣接する構成単位同士が直接結合していることが好ましい。すなわち、各構成単位が、他の2つの構成単位と直接結合していることが好ましい。
また上記環状ポリオキソメタレート化合物は、ヘテロ原子に対してポリ原子が酸素原子を介して配位した構造を有するポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を構成単位とすることが好ましい。
【0013】
ポリ原子-酸素原子の結合からなる環とは、本発明の多核金属化合物において、少なくとも3つの上記構成単位が環状に結合して形成されるものであり、当該少なくとも3つの構成単位それぞれに含まれるポリ原子-酸素原子の結合から構成されるものである。該環におけるポリ原子は、それぞれ、該環を形成する酸素原子2つと結合しているが、更に、上記構成単位が含む、ポリ原子とは異なる金属原子や、後述するヘテロ原子等と結合していてもよい。なお、該環における酸素原子は、それぞれ、該環を形成するポリ原子2つと結合している。
【0014】
第1の本発明の多核金属化合物において、上記構成単位が4つ以上環状に結合していることが好ましい。また、上記構成単位が9つ以下環状に結合していることが好ましく、6つ以下環状に結合していることがより好ましい。
中でも、上記構成単位が4つ環状に結合していることが特に好ましい。すなわち、上記環状ポリオキソメタレート化合物は、ポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を構成単位とし、該構成単位が他の2つの構成単位と直接結合し、当該他の2つの構成単位がそれぞれ、更に他の1つの構成単位と結合(最も好ましくは、直接結合)して形成される、ポリ原子-酸素原子の結合からなる環を含むことが特に好ましい。
【0015】
なお、本明細書中、「環状ポリオキソメタレート化合物」や「環状に結合している」における環状とは、例えば上記構成単位がA、B、C、Dの4つである場合は、AとBが結合し、BとCが結合し、CとDが結合し、DとAが更に結合していることで構成されるものである。
【0016】
なお、上述した第1の本発明の多核金属化合物の好ましい形態は、第2の本発明の多核金属化合物に好ましく適用できるものである。
【0017】
(第2の本発明の多核金属化合物)
第2の本発明の多核金属化合物は、環状ポリオキソメタレート化合物の欠損構造部位にポリ原子とは異なる金属原子が10個以上導入された構造を有する多核金属化合物であって、該環状ポリオキソメタレート化合物は、内径が0.4nm以上の、ポリ原子-酸素原子の結合からなる環を含む。
上記内径は、単結晶X線構造解析により決定した分子構造を基に、環状構造内部に存在する対称的な位置関係(環状構造の中心について互いに向き合う位置関係)にある酸素原子間の距離を計測し、その最短距離を内径とする。
【0018】
上記内径は、0.5nm以上であることが好ましく、0.8nm以上であることがより好ましく、1nm以上であることが更に好ましい。
上記内径は、その上限は特に限定されないが、例えば10nm以下であることが好ましく、8nm以下であることがより好ましく、5nm以下であることが更に好ましく、3nm以下であることが特に好ましい。
なお、上記内径は、第2の本発明の多核金属化合物において、上記ポリ原子-酸素原子の結合からなる等価又は非等価な環が複数ある場合は、複数の環のうち、該内径が最も小さい環1つのみについての上記内径である。
【0019】
第2の本発明の多核金属化合物において、上記環状ポリオキソメタレート化合物における内径を特定する代わりに、第1の本発明において上述した好ましい形態や、上記ポリ原子-酸素原子の結合からなる環を構成するポリ原子及び酸素原子の総原子数、環を構成する各ポリ原子-酸素原子の結合の距離の総和を特定してもよい。
上記ポリ原子-酸素原子の結合からなる環を構成するポリ原子及び酸素原子の総原子数は、6個以上であることが好ましく、8個以上であることがより好ましく、10個以上であることが更に好ましく、12個以上であることが特に好ましい。
上記総原子数は、100個以下であることが好ましく、75個以下であることがより好ましく、60個以下であることが更に好ましく、48個以下であることが特に好ましい。
なお、上記総原子数は、第2の本発明の多核金属化合物において、上記ポリ原子-酸素原子の結合からなる等価又は非等価な環が複数ある場合は、複数の環のうち、該総原子数が最も少ない環1つのみの総原子数である。
【0020】
上記ポリ原子-酸素原子の結合からなる環における、環を構成する各ポリ原子-酸素原子の結合の距離の総和は、1nm以上であることが好ましく、2nm以上であることがより好ましく、3nm以上であることが更に好ましく、5nm以上であることが特に好ましい。
上記各ポリ原子-酸素原子の結合の距離の総和は、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、20nm以下であることが更に好ましく、10nm以下であることが特に好ましい。
なお、上記各ポリ原子-酸素原子の結合の距離の総和は、第2の本発明の多核金属化合物において、上記ポリ原子-酸素原子の結合からなる等価又は非等価な環が複数ある場合は、複数の環のうち、該各ポリ原子-酸素原子の結合の距離の総和が最も短い環1つのみの各ポリ原子-酸素原子の結合の距離の総和である。
なお、上述した第2の本発明の多核金属化合物の好ましい形態は、第1の本発明の多核金属化合物に好ましく適用できるものである。
【0021】
以下では、第1の本発明の多核金属化合物及び第2の本発明の多核金属化合物についての共通事項について説明する。なお、本明細書中、第1の本発明と第2の本発明を含めたものを単に本発明ともいう。
【0022】
本発明の多核金属化合物において、上記ポリ原子とは異なる金属原子は、ポリ原子及びヘテロ原子とは異なる金属原子であることが好ましい。
例えば、上記環状ポリオキソメタレート化合物が、ヘテロ原子に対してポリ原子が酸素原子を介して配位した構造を有する場合、本明細書中、上記ポリ原子とは異なる金属原子は、ヘテロ原子とも異なるものであり、上記ヘテロ原子及びポリ原子とは異なる金属原子と言い換えることができる。
【0023】
本発明の多核金属化合物は、環状ポリオキソメタレート化合物の欠損構造部位にポリ原子とは異なる金属原子が10個以上導入された構造を有する。該ポリ原子とは異なる金属原子の導入数は、12個以上であることが好ましく、14個以上であることがより好ましく、16個以上であることが更に好ましく、24個以上であることが特に好ましい。該ポリ原子とは異なる金属原子の導入数は、その上限は特に限定されないが、1000個以下であることが好ましく、100個以下であることがより好ましく、50個以下であることが更に好ましい。該ポリ原子とは異なる金属原子は、1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。
【0024】
本発明の多核金属化合物における上記ポリ原子は、Mo、W、V、Nb、及び、Taからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、W、Mo、Vが好ましく、Wが更に好ましい。
【0025】
本発明の多核金属化合物における上記へテロ原子は、P、Si、Ge、及び、Asからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、P、Si、Geがより好ましく、Pが更に好ましい。
【0026】
本発明の多核金属化合物において、上記ポリ原子とは異なる金属原子は、3d遷移金属原子、Ru、Re、Ir、Pd、Pt、Ag、及び、Auからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。言い換えれば、上記ポリ原子とは異なる金属原子は、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ru、Pd、Ag、Re、Ir、Pt、及び、Auからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0027】
上記3d遷移金属原子としては、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuが挙げられ、中でもTi、V、Mn、Co、Cuが好ましく、Mnがより好ましい。
その他の金属原子(Ru、Pd、Ag、Re、Ir、Pt、Au)としては、Pd、Ag、Pt、Auが好ましく、Ag、Auがより好ましい。
【0028】
なお、多核金属化合物が含む2種以上の金属原子が、ポリ原子であるか、欠損構造部位に導入されたポリ原子とは異なる金属原子であるかが区別できない場合、いずれか1種をポリ原子とし、その他をポリ原子とは異なる金属原子とすることができる。
【0029】
本発明の多核金属化合物が、環状ポリオキソメタレート化合物の欠損構造部位にポリ原子とは異なる金属原子が10個以上導入された構造を有するとは、通常、欠損構造部位における酸素原子等の原子と、ポリ原子とは異なる金属原子とが、直接又は間接に結合している構造を有することをいう。中でも、欠損構造部位における酸素原子と、ポリ原子とは異なる金属原子とが、直接結合していることが好ましい。上記環状ポリオキソメタレート化合物を構成する上記構成単位における欠損構造部位の数は、通常は二つ以上であり、上記構成単位は、二欠損型、又は、三欠損型であることが好ましい。例えば、上記構成単位は、もともと二欠損型であり、二つの欠損構造部位のそれぞれにポリ原子とは異なる金属原子が導入された構造を有するものでもよく、もともと三欠損型であり、三つの欠損構造部位の少なくとも二つにポリ原子とは異なる金属原子が導入された構造を有するものでもよい。上記構成単位は、少なくとも二つの欠損構造部位にポリ原子とは異なる金属原子が導入された構造を有するものであることが好ましく、すべての欠損構造部位にポリ原子とは異なる金属原子が導入された構造を有することがより好ましい。中でも、上記構成単位のそれぞれが、すべての欠損構造部位にポリ原子とは異なる金属原子が導入された構造を有すること、言い換えれば、上記環状ポリオキソメタレート化合物が、すべての欠損構造部位にポリ原子とは異なる金属原子が導入された構造を有することが特に好ましい。
【0030】
本発明の多核金属化合物は、結晶構造中で、ポリオキソメタレートアニオンを含有する。当該ポリオキソメタレートアニオンにおけるポリ原子は、Mo、W、V、Nb、及び、Taからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、本発明の多核金属化合物が、結晶構造中で、ヘテロポリオキソメタレートアニオンを含有する場合、ヘテロ原子は、P、Si、Ge、及び、Asからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。このようなヘテロポリオキソメタレートアニオンは、例えば、ヘテロ原子に酸素を介してポリ原子が9~11個配位したケギン型と呼ばれる結晶構造を有するものである。
【0031】
本発明の多核金属化合物は、一般に塩を形成しており、該塩を形成するためのカチオン(対カチオン)は、無機カチオンでも有機カチオンでもよい。
無機カチオンとしては、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、遷移金属カチオン、典型金属カチオン、プロトン、アンモニウム等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。
有機カチオンとしては、有機アンモニウム、有機ホスホニウム等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。
中でも、対カチオンは、有機カチオンであることが好ましい。
上記有機カチオンの炭素数は、4~48であることが好ましい。より好ましくは、4~40であり、更に好ましくは、4~30である。
【0032】
上記有機アンモニウムとしては、第四級有機アンモニウムが好ましい。第四級有機アンモニウムとしては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、トリブチルメチルアンモニウム、トリオクチルメチルアンモニウム、トリラウリルメチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ベンジルトリブチルアンモニウム、セチルピリジニウム等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。
【0033】
上記有機ホスホニウムとしては、第四級有機ホスホニウムが好ましい。第四級ホスホニウムとしては、テトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウム、エチルトリフェニルホスホニウム、ベンジルトリフェニルホスホニウム等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。
【0034】
本発明の多核金属化合物は、例えば、種々の酸化反応や酸塩基反応等の有機反応用触媒として適用することができるものである。また、医薬や、磁性材料等の機能材料等の各種分野での利用が期待されるものである。
【0035】
<本発明の多核金属化合物の製造方法>
本発明は、環状ポリオキソメタレート化合物の欠損構造部位にポリ原子とは異なる金属原子が10個以上導入された構造を有する多核金属化合物の製造方法であって、該製造方法は、ポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を環状ポリオキソメタレート化合物の構成単位とし、該構成単位が他の2つの構成単位と直接結合し、当該他の2つの構成単位が更に直接又は他の構成単位を介して結合して形成される、ポリ原子-酸素原子の結合からなる環を含む環状ポリオキソメタレート化合物(A1)と、ポリ原子とは異なる金属原子を含む化合物(B)とを反応させる工程を含む多核金属化合物の製造方法でもある。
また上記環状ポリオキソメタレート化合物(A1)は、ヘテロ原子に対してポリ原子が酸素原子を介して配位した構造を有するポリオキソメタレート化合物由来の構造部位をその構成単位とすることが好ましい。
【0036】
本発明は、環状ポリオキソメタレート化合物の欠損構造部位にポリ原子とは異なる金属原子が10個以上導入された構造を有する多核金属化合物の製造方法であって、該製造方法は、内径が0.4nm以上の、ポリ原子-酸素原子の結合からなる環を含む環状ポリオキソメタレート化合物(A2)と、ポリ原子とは異なる金属原子を含む化合物(B)とを反応させる工程を含む多核金属化合物の製造方法でもある。
本発明の製造方法では、安定な環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)を原料として用いることから、これを上記化合物(B)と反応させることで、化合物(B)由来の、ポリオキソメタレートにおける異種金属として知られている金属原子を適宜導入することができる。
以下では、先ず、反応工程における原料化合物、好ましい反応条件について説明する。
【0037】
上記環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)は、本発明の多核金属化合物を形成するための鋳型となる化合物である。当該環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)、その好ましい形態は、ポリ原子とは異なる金属原子に関する特徴以外は、第1の本発明の多核金属化合物及び第2の本発明の多核金属化合物における、上記環状ポリオキソメタレート化合物の好ましい形態と同様である。
【0038】
上記環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)は、例えば、下記一般式(1);
[QjZkOl]m
n- (1)
(式中、Qはヘテロ原子を表す。Zは、ポリ原子を表す。j、k、l、nは正数であり、mは3以上の正数であり、nはQとZの価数、j、k、l、mによって決まる。)で表される構造を含むことが好ましい。
なお、上記環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)は、上記一般式(1)で表される構造を含むとともに、更なる配位子として、NO基、OH基、水分子、CH3OH基、水素原子、RCO2基(Rは、有機基を表す。)、アルカリ金属原子の1種又は2種以上を含んでいてもよい。
【0039】
ここで、一般式(1)において、より好ましくは、ZがMo、W、V、Nb、及び、Taからなる群より選択される少なくとも1種であることであり、更に好ましくは、ZがWであることである。
また一般式(1)において、より好ましくは、QがP、Si、Ge、及び、Asからなる群より選択される少なくとも1種であることであり、更に好ましくは、QがPであることである。
【0040】
上記環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)としては、例えば、[P8W48O184]40-(本発明に係る内径1.0nm、非特許文献4参照。)、[Mo154(NO)14O420(OH)28(H2O)70](25±5)-(Muller型Mo154、本発明に係る内径2.0nm、Angew.Chem.Int.Ed.Engl.1995,34,2122.参照。)、[(MoO3)176(H2O)63(CH3OH)17Hn](32-n)-(Muller型Mo176、本発明に係る内径2.3nm、J.Chem.Soc.,Chem.Commun.1998,1501.参照。)、[{Mo6O21(H2O)6}12{(Mo2O4)30(RCO2)30}]42-(Keplerate型Mo132、本発明に係る内径2.3nm、Angew.Chem.Int.Ed.1998,37,3359.参照。)、[H12W36O120]12-(W36、本発明に係る内径0.6nm、Dalton Trans.2006,2852参照。)、[NaP5W30O110]14-(Preyssler型P5W30、本発明に係る内径0.5nm、ユニットP2W18とP3W18について:Bull.Soc.Chim.Fr.1970,30.参照。P2W18とP3W18からリング状POM P5W30の合成について:J.Am.Chem.Soc.1985,107,2662.参照。)、又は、[Si3W27O96]18-(Si3W27、本発明に係る内径0.4nm)を含むものが挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。
【0041】
なお、本発明に係る環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)は、塩を形成していてもよい。該塩を形成するためのカチオン(対カチオン)は、本発明の多核金属化合物において上述したものと同様である。
【0042】
上記化合物(B)におけるポリ原子とは異なる金属原子として好適なものは、本発明の多核金属化合物において上述したものと同様である。
【0043】
上記ポリ原子とは異なる金属原子を有する化合物(B)は、カルボキシラート基、トリフルオロメタンスルホナート基、アセチルアセトナート基、及び、メチルイミダゾレート基からなる群より選択される少なくとも1種の基を含むことが好ましい。中でも、アセチルアセトナート基、メチルイミダゾレート基がより好ましい。
【0044】
上記ポリ原子とは異なる金属原子を有する化合物(B)としては、例えば、マンガンアセチルアセトナート、銀アセチルアセトナート、金メチルイミダゾレート等が特に好適なものとして挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。
上記ポリ原子とは異なる金属原子を含む化合物(B)は、ポリ原子及びヘテロ原子とは異なる金属原子を含む化合物(B′)であることが好ましい。
例えば、上記環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)が、ヘテロ原子に対してポリ原子が酸素原子を介して配位した構造を有する場合、本明細書中、上記ポリ原子とは異なる金属原子を含む化合物(B)は、ポリ原子及びヘテロ原子とは異なる金属原子を含む化合物(B′)と言い換えることができる。
なお、上記ポリ原子及びヘテロ原子とは異なる金属原子を含む化合物(B′)の好ましいものは、上記ポリ原子とは異なる金属原子を含む化合物(B)の好ましいものと同様である。
【0045】
上記反応工程における、環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)と上記化合物(B)とのモル比は、化合物(B)が有するポリ原子とは異なる金属原子の数や、1つの環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)に対して導入する当該金属原子の数に応じて適宜設定すればよいが、例えば、1:1~1:100であることが好ましく、1:5~1:90であることがより好ましく、1:10~1:80であることが更に好ましい。
【0046】
また上記反応工程では、環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)が有する欠損構造部位の数と、上記化合物(B)が有するポリ原子とは異なる金属原子の数の比が、例えば、1:10~10:1となるように環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)と化合物(B)とを反応させることもまた好ましい。当該比は、1:5~5:1であることがより好ましく、1:2~2:1であることが更に好ましい。
【0047】
本発明の製造方法は、上述した特定の環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)と、ポリ原子とは異なる金属原子を含む化合物(B)とを反応させる工程を含む限り、特に限定されないが、好適な製造方法としては、還元剤の存在下で反応させることが挙げられる。すなわち、上記反応工程は、還元剤の存在下で反応させることが好ましい。
【0048】
上記還元剤としては、特に限定されないが、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ヒドロキシルアミン、ヒドラジン、塩酸ヒドロキシルアミン、テトラアルキルアンモニウム等のアミン化合物もしくはその塩;亜硫酸水素ナトリウム等のアルカリ金属亜硫酸塩;メタ二亜硫酸塩;次亜燐酸ナトリウム;ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシラート、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム二水和物等の-SH基、-SO2H基、-NHNH2基、-COCH(OH)-基等の基を有する有機系化合物もしくはその塩;チオウレア、二酸化チオウレア等のチオウレア化合物;L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸エステル、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸エステル等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。
上記還元剤は、中でも、アミン化合物もしくはその塩であることが好ましく、第四級アンモニウム塩であることがより好ましい。なお、第四級アンモニウム塩としては、塩酸ヒドロキシルアミン、テトラアルキルアンモニウム塩等が挙げられ、好ましくはテトラアルキルアンモニウム塩であり、より好ましくはテトラブチルアンモニウム塩である。
上記還元剤が塩である場合に、塩を形成するためのアニオン(対アニオン)としては、ヒドロキシド、ハライドアニオン、ボロハイドライド等が挙げられ、中でもボロハイドライドが好ましい。
【0049】
上記還元剤の使用量は、例えば、上記環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)100モル%に対して、70モル%以上であることが好ましく、100モル%以上であることがより好ましく、150モル%以上であることが更に好ましい。
上記還元剤の使用量は、1000モル%以下であることが好ましく、500モル%以下であることがより好ましく、300モル%以下であることが更に好ましい。
【0050】
また本発明の製造方法の好ましい形態として、環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)とポリ原子とは異なる金属原子を含む化合物(B)とを反応させる際に、両化合物を有機溶媒中又は有機溶媒を含む溶媒中で混合することが挙げられる。ここで、上記環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)が分散又は溶解した液に、必要に応じて還元剤を添加し、次いで、ポリ原子とは異なる金属原子を有する化合物(B)を粉体のまま、もしくは溶液として添加して、上記多核金属化合物の製造を行うことができる。また、環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)と、ポリ原子とは異なる金属原子を有する化合物(B)とを同時に上記溶媒に添加してもよい。環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)の添加は、一括添加しても良いし、徐々に添加しても良い。また、多核金属化合物の製造は、一回の工程で行っても良いし、複数回に分けて行っても良い。例えば、環状ポリオキソメタレート化合物(A1)若しくは(A2)又は化合物(B)の所定量のうちの一部を混合していない状態でいったん生成物を取り出し、再度生成物を溶媒に再溶解した後、残りの環状ポリオキソメタレート化合物(A1)若しくは(A2)又は化合物(B)を混合する方法としてもよい。
【0051】
上記反応工程における、環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)と化合物(B)との混合時間は、化合物(B)を環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)の欠損構造部位に充分に導入する観点から、1分以上であることが好ましい。該混合時間は、より好ましくは、1時間以上であり、更に好ましくは、4時間以上である。また、該混合時間は、480時間以下であることが好ましい。より好ましくは、360時間以下であり、更に好ましくは、240時間以下であり、特に好ましくは、180時間以下である。
なお、混合時間とは、主に均一系溶液中で環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)と化合物(B)とが共存、混合される時間を意味し、例えば、化合物(B)を含む溶液中に、環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)を添加し終えた時点から、多核金属化合物を析出させるために、無機塩や有機塩、貧溶媒を添加する時点までの間の時間を指す。混合は、市販の撹拌機等を用いておこなうことができる。なお、混合中に不純物等の沈殿が発生した場合は、必要に応じて濾過等により取り除くことができる。混合する時間の設定は、多核金属化合物の構造を決定する重要な要素の一つであり、化合物(B)により導入する元素の種類によって上記の範囲内で適宜設定すればよい。多核金属化合物は、再結晶等により精製することが可能である。また、単離することなく系中で調製・保存等し、そのまま触媒等として使用することもできる。
【0052】
上記反応工程における、環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)と化合物(B)とを混合する際の温度としては、0℃以上が好ましい。より好ましくは15℃以上であり、更に好ましくは40℃以上である。また、該温度は、150℃以下が好ましい。より好ましくは100℃以下であり、更に好ましくは70℃以下である。
上記反応工程は、加圧下、常圧下、減圧下のいずれでもおこなうことができる。
【0053】
また、環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)と化合物(B)との混合時、又は、混合後に、後述するように酸を添加してもよい。また、環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)と化合物(B)とを混合して、環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)に化合物(B)由来の元素を導入した後、更に環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)又は化合物(B)を添加して多核金属化合物を得る方法も用いることができる。
また、1つの環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)に化合物(B)由来の元素を導入して得られた化合物を溶媒に溶解した溶液に、当該1つの環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)に化合物(B)由来の元素を導入して得られた化合物を更に添加し、そこに貧溶媒を添加することで多核金属化合物とする方法も用いることができる。
【0054】
なお、上記溶媒は、有機溶媒を含むことが好ましい。有機溶媒を含む溶媒は有機溶媒を含んでいる限り、その他の成分を含んでいてもよいが、上記有機溶媒を含む溶媒の好ましい形態の1つとして、有機溶媒と水との混合溶媒の形態が挙げられる。
上記溶媒における、有機溶媒と水との体積比としては、特に制限されないが、100:0~30:70であることが好ましく、より好ましくは、100:0~50:50である。更に好ましくは、100:0~70:30である。
【0055】
上記有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、クロロホルム、ジクロロエタン、ヘキサン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレンカーボネート、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ニトロメタン等の1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、アセトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、メタノール、エタノール、ブタノール、ジクロロエタン、ヘキサン、オクタン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレンカーボネート、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ニトロメタンが好ましく、アセトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、メタノール、エタノール、ブタノール、ジクロロエタン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレンカーボネート、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ニトロメタンがより好ましい。更に好ましくは、アセトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ブタノール、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレンカーボネート、ジクロロエタン、ジエチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ニトロメタンである。
【0056】
上記貧溶媒としては、ヘキサン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレンカーボネート、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジクロロエタン、クロロホルム等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0057】
上記溶媒の体積は、環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)1mmolに対して、1mL以上であることが好ましい。より好ましくは10mL以上であり、更に好ましくは20mL以上である。また、5000mL以下であることが好ましい。より好ましくは2500mL以下であり、更に好ましくは、1000mL以下である。
【0058】
環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)と化合物(B)とを混合する際に、又は、混合した後に、更に上述した還元剤や酸を混合してもよい。酸は、環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)と化合物(B)とを混合した後に混合することが好ましい。
酸としては、硝酸、塩酸、硫酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸の他、p-トルエンスルホン酸、酢酸、安息香酸、マロン酸等の有機酸を用いることができる。
酸の使用量は、上記環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)1モルに対して、0.01モル以上であることが好ましく、0.1モル以上であることがより好ましく、1モル以上であることが更に好ましい。該使用量は、100モル以下であることが好ましく、50モル以下であることがより好ましく、10モル以下であることが更に好ましい。
【0059】
本発明の製造方法は、上述した方法により多核金属化合物を製造した後、当該多核金属化合物に対して更に別の操作を行う、多段階(stepwise)の製造方法により製造されるものであってもよい。例えば、2段階の製造方法とし、後段において還元剤を添加することができる。このような多段階の製造方法により、ポリ原子とは異なる金属原子をより多く含む多核金属化合物や、2種以上含む多核金属化合物、特定の構造を有する多核金属化合物を製造することができる。
【0060】
また得られた多核金属化合物を有機溶媒に溶解させ、対カチオンを加えて攪拌した後、溶媒を除去して得られた固形分を特定の有機溶媒存在下で再結晶する多段階の製造方法も好適である。
【0061】
またポリ原子とは異なる金属原子を1種有する多核金属化合物を製造した後、当該多核金属化合物を有機溶媒に溶解し、得られた溶液に当該多核金属化合物が有する金属原子とは別の金属原子の化合物を添加、攪拌することで、ポリ原子とは異なる金属原子として2種以上の金属原子を有する多核金属化合物を製造する多段階の製造方法も好適である。このような製造方法により、ポリ原子とは異なる金属原子を2種以上有する多核金属化合物を製造することができる。
【0062】
本発明の製造方法は、ポリオキソメタレート化合物を自己集合反応させて、上述した環状ポリオキソメタレート化合物(A1)又は(A2)を得る工程を更に含んでいてもよい。
自己集合反応としては、例えば、非特許文献4に記載の方法等を好適に採用できる。
本発明の製造方法により、本発明の多核金属化合物を好適に得ることができる。
【発明の効果】
【0063】
本発明の多核金属化合物の製造方法は、触媒・医薬・磁性材料等の機能材料等の各種分野での利用が期待される新規な多核金属化合物を得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図1】
図1は、本発明の製造方法の概要を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。「TBA」はテトラ-n-ブチルアンモニウムの略であり、「acac」はアセチルアセトナートの略であり、「py」はピリジンの略である。
【0066】
X線結晶構造解析は、リガク MicroMax-007 Saturn724を使用して回折データを取得し、SHELXL-2014を使用して解析を行った。
質量分析は、JEOL JMS-T100CS及びWaters Xevo G2-XS QTofを用いて行った。
赤外分光法(IR)の測定はJASCO FT/IR-460、JASCO FT/IR-4100を用いて行った。
【0067】
非特許文献4に記載されるのと同様の方法で、TBA
12H
28[P
8W
48O
184]・30H
2O(
図1に示される化合物(1))を合成した。
X線構造解析結果より、化合物(1)におけるポリ原子-酸素原子の結合からなる環の内径は、0.9nmであり、該環の原子数の総和は、32個(W16個+O16個)であり、該環のポリ原子-酸素原子の結合距離の総和は、6.1nmであった。
なお、化合物(1)は、ポリ原子(W)-酸素原子の結合からなる等価な環を2つ含むところ、上記の内径、原子数の総和、ポリ原子-酸素原子の結合距離の総和は、本願明細書の記載に沿って、1つの環のみについて算出したものである。
【0068】
(実施例1)Mn20核構造化合物(
図1に示される化合物(2))の合成
アセトニトリル(2.5mL)にTBA
12H
28[P
8W
48O
184]・30H
2O(1)(387mg,0.025mmol)を溶かし、Mn(OAc)
3・2H
2O(147mg,0.55mmol)を加えて、50℃で7日間撹拌した。その後、この反応溶液をジエチルエーテル(300mL)中に加えて、生成した沈殿をメンブレンフィルタにより濾過して回収した。得られた沈殿をジエチルエーテル(200mL)で洗浄し、目的生成物を褐色粉末として得た(200mg,収率95%)。
【0069】
得られた粉末のIRの測定結果は以下のとおりである。
IR(KBr):3440,2960,2873,1628,1482,1380,1153,1092,954,891,812,735,611,528cm-1.
得られた粉末を溶媒(1,2-ジクロロエタン)に溶かした後、酢酸エチルを加えて再結晶し、単結晶を得た。得られた結晶のX線構造解析結果は、表1のとおりである。
【0070】
【0071】
X線構造解析結果より、目的生成物におけるポリ原子-酸素原子の結合からなる環の内径・原子数の総和・ポリ原子-酸素原子の結合距離の総和は、それぞれ、化合物(1)における該環の内径・原子数の総和・ポリ原子-酸素原子の結合距離の総和と同じものであった。
【0072】
(実施例2)Ag16核構造化合物(
図1に示される化合物(3))の合成
TBA
12H
28[P
8W
48O
184]・30H
2O(1)(0.025mmol)をアセトン(10mL)に分散させ、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(160mg,0.20mmol)を加えた後、酢酸銀(66.7mg,0.40mmol)を加えて室温で9時間撹拌した。反応溶液を濾過した後、酢酸エチルを加えて静置することで、銀16核構造を無色ブロック状結晶(単結晶)として得た(収率60%)。
【0073】
得られた結晶の元素分析の結果は以下のとおりである。
TBA16H8[Ag16P8W48O184]・8H2Oの計算値(%):C,17.30;H,3.40;N,1.26;P,1.39;Ag,9.71;W,49.69.実測値:C,17.11;H,3.62;N,1.24;P,1.37;Ag,9.79;W,48.42.
得られた結晶のX線構造解析結果は、表2のとおりである。
【0074】
【0075】
X線構造解析結果より、目的生成物におけるポリ原子-酸素原子の結合からなる環の内径・原子数の総和・ポリ原子-酸素原子の結合距離の総和は、それぞれ、化合物(1)における該環の内径・原子数の総和・ポリ原子-酸素原子の結合距離の総和と同じものであった。
【0076】
(実施例3)銀ナノクラスター(Ag32核、
図1に示される化合物「Ag nanocluster」)の合成:
銀16核構造化合物(3)(0.020mmol)にN,N-ジメチルホルムアミド(9.0mL)を加え、酢酸銀(53mg,0.32mmol)を加えて室温で24時間撹拌した。テトラブチルアンモニウムボロハイドライド(0.040mmol)を加えて48時間撹拌した後、酢酸エチルを加えて静置することで、銀ナノクラスターを褐色ブロック状結晶として得た(収率40%)。
【0077】
得られた結晶の元素分析の結果は以下のとおりである。
TBA16[Ag32P8W48O184]・2C3H7NO・8H2Oの計算値(%):C,15.91;H,3.17;N,1.27;P,1.25;Ag,17.45;W,44.61.実測値:C,16.02;H,3.11;N,1.28;P,1.26;Ag,17.57;W,44.94.
得られた結晶のX線構造解析結果は、表3のとおりである。
【0078】
【0079】
X線構造解析結果より、目的生成物におけるポリ原子-酸素原子の結合からなる環の内径・原子数の総和・ポリ原子-酸素原子の結合距離の総和は、それぞれ、化合物(1)における該環の内径・原子数の総和・ポリ原子-酸素原子の結合距離の総和と同じものであった。
【0080】
(実施例4)銀-金ナノクラスター(
図1に示される化合物「Ag-Au nanocluster」)の合成:
Tris[μ-1-methylimidazolato-N
3,C
2]tri-gold(I)(4.45mg,0.016mmol)に乾燥したN,N-ジメチルホルムアミド(1.8mL)を加え、この溶液にAg16核構造化合物(3)(0.0020mmol)を加えた。テトラブチルアンモニウムボロハイドライドを加えた後、この溶液を撹拌した。この溶液に酢酸エチルを加えて静置することで、銀-金ナノクラスターを赤褐色ブロック状結晶として得た(収率40%)。
【0081】
得られた結晶の元素分析の結果は以下のとおりである。
実測値:P,1.06;Ag,9.86;Au,6.49;W,39.65.
得られた結晶のX線構造解析結果は、表4のとおりである。
【0082】
【0083】
X線構造解析結果より、目的生成物におけるポリ原子-酸素原子の結合からなる環の内径・原子数の総和・ポリ原子-酸素原子の結合距離の総和は、それぞれ、化合物(1)における該環の内径・原子数の総和・ポリ原子-酸素原子の結合距離の総和と同じものであった。
【0084】
上述した実施例より、新規なMn20核構造化合物、Ag16核構造化合物、銀ナノクラスター、銀-金ナノクラスターの合成を確認した。
上述した実施例は、ヘテロ原子(P)に対して、ポリ原子(W)が酸素原子を介して配位した構造を有するポリオキソメタレート化合物と、酢酸マンガン、酢酸銀、又は、Tris[μ-1-methylimidazolato-N3,C2]tri-gold(I)とを反応させたものであるが、特定のリング状ポリオキソメタレート(ポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を環状ポリオキソメタレート化合物の構成単位とし、該構成単位が他の2つの構成単位と直接結合し、当該他の2つの構成単位が更に直接又は他の構成単位を介して結合して形成される、ポリ原子-酸素原子の結合からなる環を含む環状ポリオキソメタレート化合物、又は、内径が0.4nm以上の、ポリ原子-酸素原子の結合からなる環を含む環状ポリオキソメタレート化合物)であれば、充分に安定であるとともに、多核構造を形成できると考えられるため、これをポリ原子とは異なる金属原子を含む化合物と反応させて、多種多様な新規多核金属化合物を得ることができることは確実である。